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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182360
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】細胞外小胞の分離精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20221201BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C12N5/07
B01D61/14 500
B01D61/58
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089877
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
(72)【発明者】
【氏名】内村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 祐亮
【テーマコード(参考)】
4B065
4D006
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD18
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA44
4D006GA07
4D006HA01
4D006JA14Z
4D006JA18Z
4D006JA25Z
4D006JA67C
4D006JA67Z
4D006KA12
4D006KA17
4D006KA33
4D006KB30
4D006KD30
4D006KE02R
4D006KE07P
4D006KE07Q
4D006KE07R
4D006KE09R
4D006KE22Q
4D006KE23Q
4D006MA01
4D006MA22
4D006MA33
4D006MB05
4D006MB09
4D006MC11
4D006MC12
4D006MC17
4D006MC18
4D006MC63
4D006PA04
4D006PB09
4D006PB20
4D006PB70
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】細胞外小胞を分離精製するための分離精製方法の提供。
【解決手段】中空糸膜が、内径が0.2mm~1.4mm、分画分子量が10万~100万のものであり、ろ過方法が、間葉系幹細胞の培養上清液を中空糸膜の一端側の第1開口部から圧入してろ過し、透過液と第1濃縮液に分離する第1ろ過工程と、第1濃縮液を中空糸膜の他端側の第2開口部から圧入してろ過し、透過液と第2濃縮液に分離する第2ろ過工程を有しており、第1ろ過工程と第2ろ過工程を交互に複数回実施する交互タンジェンシャルフローろ過により細胞外小胞の濃度が高められた濃縮液を得る方法であり、第1ろ過工程と第2ろ過工程における膜面速度が0.3~2m/secである、細胞外小胞の分離精製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液を中空糸膜によりろ過する細胞外小胞の分離精製方法であって、
前記中空糸膜が、内径が0.2mm~1.4mm、分画分子量が10万~100万のものであり、
前記ろ過方法が、
前記間葉系幹細胞の培養上清液を前記中空糸膜の一端側の第1開口部から圧入してろ過し、透過液と第1濃縮液に分離する第1ろ過工程と、
前記第1濃縮液を前記中空糸膜の他端側の第2開口部から圧入してろ過し、透過液と第2濃縮液に分離する第2ろ過工程を有しており、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に複数回実施する交互タンジェンシャルフローろ過により前記細胞外小胞の濃度が高められた濃縮液を得る方法であり、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程における膜面速度が0.3m/sec~2m/secである、細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項2】
前記ろ過方法が、前記間葉系幹細胞の培養上清液を孔径0.1μm~0.5μmの精密ろ過膜によりろ過した後、前記精密ろ過膜のろ過液を使用し、前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に複数回実施する工程である、請求項1記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項3】
前記第1ろ過工程を実施するとき、間葉系幹細胞の培養上清液または前記第2ろ過工程で得られた第2濃縮液に対して緩衝液を加えて希釈した後、前記第1ろ過工程を実施する、請求項1または2記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項4】
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程が、窒素ガス、不活性ガス、二酸化炭素、HEPAフィルターでろ過された空気から選ばれるガスを導入することで圧入して実施されるものである、請求項1~3のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項5】
出発原料となる細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液に含まれているタンパク質量を1/5以下量に減少させる、請求項1~4のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項6】
分離精製された濃縮液中のインシュリン濃度が5mg/l以下である、請求項1~5のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項7】
前記間葉系幹細胞の培養上清液に含まれている細胞外小胞の量を基準とするとき、前記濃縮液に含まれている細胞外小胞のエクソスクリーン(ExoScreen)法を用いて測定される量が、濃縮倍率が5倍以上かつ回収率が50%以上である、請求項1~6のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項8】
前記中空糸膜が、複数の液出入口を有するケースハウジング内に複数本の中空糸膜が収容されている中空糸膜モジュールである、請求項1~6のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項9】
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に実施するとき、前記実施回数が増加するにつれて、第1ろ過工程のろ過対象の希釈倍数を増加させる、請求項1~7のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【請求項10】
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に実施するとき、前記実施回数が増加するにつれて、第1ろ過工程のろ過対象の希釈倍数を2容量倍~15容量倍の範囲で増加させる、請求項1~8のいずれか1項記載の細胞外小胞の分離精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞外小胞を分離精製するための分離精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養液から有用物を分離精製する方法として、分離膜を使用した方法が知られている。
特許文献1は、単細胞藻類の培養液を分画分子量10,000~1,000,000の中空糸型限外濾過膜(UF膜)モジュールを用いてクロスフロー濾過することにより濃縮するに際して、定期的な伏流洗浄を行う単細胞藻類培養液の濃縮方法の発明が記載されている。
クロスフロー濾過により培養液を濃縮すると、UF膜の外側に濃縮液が存在し、UF膜の内側に透過液が入る。
伏流洗浄をすると、洗浄水はUF膜の内側に入った後、UF膜の外側に出てくることでUF膜が洗浄される。
【0003】
特許文献2は、細胞の培養槽から培養液を排出し、排出した培養液と同量の新鮮培地を前記培養槽に加えるブリーディング工程と、前記培養槽から抽出した培養液を、実質的に緻密層を有しない多孔膜を用いて濾過する濾過工程とを含み、前記濾過工程における濾過がタンジェンシャルフロー濾過であり、前記濾過工程における透過液の速度が1.0LMH以下である、有用物質を回収する方法の発明が記載されている。
前記有用物質は、タンパク質、ウイルス、エクソソーム、及び核酸からなる群から選択されることが記載されている。
前記タンジェンシャルフロー濾過は、交互タンジェンシャルフロー濾過も実施できることが記載されている。
細胞外小胞とは、細胞外に放出される脂質二重層で覆われた核をもたない粒子を総称しており、核酸、タンパク質、脂質、各種代謝産物などを含み、エクソソーム、マイクロベシクルおよびアポトーシス小胞などが該当する。
【0004】
非特許文献1には、エクソソームの新しい検出法として、エクソスクリ-ン(ExoScreen)法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-39084号公報
【特許文献2】特開2018-76291号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cytometry Research 26(1):1~6,2016,「Exosomeによるリキッドバイオプシーの新展開」,吉岡祐亮,落谷孝広
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、細胞外小胞を分離精製するための分離精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液を中空糸膜によりろ過する細胞外小胞の分離精製方法であって、
前記中空糸膜が、内径が0.2mm~1.4mm、分画分子量が10万~100万のものであり、
前記ろ過方法が、
前記間葉系幹細胞の培養上清液を前記中空糸膜の一端側の第1開口部から圧入してろ過し、透過液と第1濃縮液に分離する第1ろ過工程と、
前記第1濃縮液を前記中空糸膜の他端側の第2開口部から圧入してろ過し、透過液と第2濃縮液に分離する第2ろ過工程を有しており、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に複数回実施する交互タンジェンシャルフローろ過により前記細胞外小胞の濃度が高められた濃縮液を得る方法であり、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程における膜面速度が0.3m/sec~2m/secである、細胞外小胞の分離精製方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の細胞外小胞の分離精製方法によれば、細胞外小胞を高い濃度まで濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】細胞外小胞の分離精製方法を実施する分離精製装置を示す図。
図2図1に示す分離精製フローで使用する図1とは異なる実施形態の分離精製装置の部分拡大図。
図3】実施例で使用した培養上清液中の細胞外小胞(エクソソーム)をNanoSight法で測定したときのチャート図。
図4】実施例の最終濃縮液中の細胞外小胞(エクソソーム)をNanoSight法で測定したときのチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す分離精製装置1を使用した製造フローによって、細胞外小胞の分離精製方法の一実施形態を説明する。
第1工程では、細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液を第1タンク10内に入れる。
細胞外小胞を含む間葉系幹細胞は、骨髄、血液、脂肪、臍帯、臍帯血、骨膜、軟骨膜など及び他の体細胞組織等の様々な起源に由来するものを用いることができる。その培養方法については、例えば特開2011-67175号公報、特開2003-52360号公報に記載されている。
【0012】
第1タンク10は、図1ではシリンダー形状であるが、これに限定されるものではなく、形状および容積は設置場所の状況や処理量に応じて決定することができる。
第1タンク10は、目視で内部の液面が観察できる透明性を有しているものが好ましく、さらに第1タンク10の内壁面に液体が付着して残留することを防止するため、撥水性を有している材料からなるものが好ましい。
第1タンク10は、一部または全部が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂からなるものが好ましい。
第1タンク10には、第1タンク10内から最終的な濃縮液を取り出すための取り出しラインを設けることができる。
【0013】
図2に示すとおり、第1タンク10の液体出入口10aを含む部分の中空糸膜30との接続部11は、第1タンク10側から中空糸膜30側に径が小さくなるような円錐状の傾斜面11aと筒状の垂直面11bを有している。
図2では、接続部11は円錐状の傾斜面11aと筒状の垂直面11bを有しているが、円錐状の傾斜面11aを有していれば、筒状の垂直面11bはなくてもよい。
図2に示す接続部11を有していると、細胞外小胞を含む液体またはその濃縮液が第1タンク10の底部側に滞留することが防止でき、細胞外小胞の回収率を高めることができるので好ましい。
【0014】
第1工程の前には、必要に応じて精密ろ過膜(精密ろ過膜モジュール)による前処理工程を実施することができる。
精密ろ過膜(精密ろ過膜モジュール)は、孔径0.1μm~0.5μmのものが好ましい。
前処理工程において、細胞外小胞を含む液体を精密ろ過膜(精密ろ過膜モジュール)によりろ過したろ過液(前処理液)は、第1タンク10に送る。
【0015】
第2工程では、開閉バルブ(電磁バルブなど)46を開けた状態で、緩衝液タンク40内の緩衝液を緩衝液送液ライン45から第1タンク10内に供給して細胞外小胞を含む液体(または前処理液)を希釈する。
第1タンク10内に細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液(または前処理液)の希釈液が入った状態では、第1タンク10の上部には前記希釈液が存在していない空間が残っている。
緩衝液タンク40内の緩衝液は医療用又は生化学用の緩衝液が好ましく、リン酸緩衝液(PBS)、トリス塩酸緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などを使用することができる。
緩衝液タンク40に緩衝液を補充するときは、緩衝液補充ライン41から補充する。
なお、第1工程と第2工程の順序は逆にして、緩衝液タンク40内の緩衝液を緩衝液送液ライン45から第1タンク10内に供給した後、細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液(または前処理液)を第1タンク10内に入れることもできる。
また、第1工程と第2工程を一つの工程にして、別途設けた混合タンク内に細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液(または前処理液)と緩衝液を添加混合して希釈液を調製した後、前記希釈液を第1タンク10内に入れることもできる。
【0016】
第3工程では、図示していないポンプなどを作動させ、図示していないガス供給源からガスを第1タンク10内に供給し、第1タンク10内の細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液(または前処理液)を加圧することで、細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液(または前処理液)を中空糸膜30の内側に圧入してろ過する第1ろ過工程を実施する。
なお、本開示では、第1タンク10内の液体を中空糸膜30でろ過して第2タンク20に送る工程を全て第1ろ過工程という。
加圧のためのガスは、三方弁61を切り替えて、圧力計51を備えたガス供給ライン52と第1タンクガス供給ライン53を通して送る。このとき、開閉バルブ46、第1ガス抜きライン55の開閉バルブ62は閉じておき、第2ガス抜きライン56の開閉バルブ63は開けておく。
ガスは、窒素ガス、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス、二酸化炭素、HEPAフィルターなどでろ過された清浄な空気などから選ばれるガスを使用することができる。
ろ過した透過液は透過液タンク35に貯め、細胞外小胞を含む濃縮液(第1濃縮液)を第2タンク20に送る。
第2タンク20内に第1濃縮液が入った状態では、第2タンク20の上部には第1濃縮液が存在していない空間が残っている。
【0017】
中空糸膜30は、内径0.2mm~1.4mmが好ましく、内径0.2mm~1.0mmがより好ましく、内径0.4mm~1.0mmがさらに好ましい。
中空糸膜30は、分画分子量が10万~100万の限外濾過膜が好ましく、分画分子量が20万~80万の限外濾過膜がより好ましく、分画分子量が30万~60万の限外濾過膜がさらに好ましい。分画分子量は、リン酸緩衝液中のγグロブリン(SIGMA製 牛血清γグロブリン、分子量15万)100mg/Lの溶液を中空糸膜30にろ過圧力0.1MPaでクロスフロー透過(膜面速度:0.2m/s)させた場合のγブロブリンの透過率%((透過液中のγグロブリン濃度/溶液中のγグロブリン濃度(100mg/L)×100)によって評価される。中空糸膜30は、γグロブリンの透過率が5%~95%、10~80%がより好ましく、30~70%がさらに好ましい。
中空糸膜30は、ポリエーテルスルホン膜などの疎水性膜でもよいし、セルロース系の親水性膜でもよいが、セルロース系の親水性膜が好ましい。セルロース系の親水性膜としては、酢酸セルロース膜、再生セルロース膜、セルロースプロピオネート膜、セルロースブチレート膜、セルロースベンゾエート膜などを挙げることができる。
中空糸膜30は、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)のFUS5082(ポリエーテルスルホン膜;分画分子量50万、γグロブリン透過率70%)、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)のFUC1582(酢酸セルロース膜;分画分子量15万、γグロブリン透過率10%)などを使用することができる。
【0018】
中空糸膜30は、第1タンク10の液体出入口10aと第2タンク20の液体出入口20aを接続して配置されている。
中空糸膜30と第1タンク10の液体出入口10aとの接続は、例えば、第1タンク10の液体出入口10a側に固定された注射針のような細管に中空糸膜30の開口端部を嵌め込むことで接続されている。中空糸膜30と第2タンク20の液体出入口20aとの接続も同様に実施することができる。
透過液タンク35は、中空糸膜30においてろ過して得られた透過液を貯めるためのものである。
図1では、透過液タンク35は小さく示しているが、中空糸膜30の大部分が中に入るような大きなタンクにすることもできる。
【0019】
図1では、中空糸膜30は1本が示されているが、複数本でもよく、例えば2~150本からなる中空糸膜束として使用することができる。
また、複数本の中空糸膜(中空糸膜束)30が、複数の液出入口を有するケースハウジング中に収容された中空糸膜モジュールでもよい。前記中空糸膜束として使用するときは、一端部または両端部を接着剤で一体化することができる。
前記中空糸膜モジュールを使用する場合には、中空糸膜モジュールの複数の液出入口と第1タンク10の液体出入口10aと第2タンク20の液体出入口20aを接続し、さらに中空糸膜モジュールの液透過出口と透過液タンク35を接続する。
【0020】
第3工程のろ過は、膜面速度が0.3m/sec~2m/secの範囲でろ過することが好ましく、膜面速度が0.5m/sec~1.5m/secの範囲でろ過することがより好ましい。膜面速度が0.3m/secを下回ると精製効率が低下し、逆に2m/secを上回ると、膜面速度を上昇させるための圧力レベルが高くなりすぎてしまい、ろ過時において細胞外小胞に対して加えられる剪断力も高くなりすぎる結果、細胞外小胞を変質させるおそれがある。
前記膜面速度を前記範囲内に維持する方法は、中空糸膜30の入口圧力(第1タンク10の液体出入口10a側)の圧力を0.01MPa~0.2MPaに調整することが好ましく、0.02MPa~0.15MPaに調整することがより好ましく、0.03MPa~0.12MPaに調整することがさらに好ましい。
前記膜面速度を前記範囲内に維持する方法は、中空糸膜30の出口圧力(第2タンク20の液体出入口20a側)の圧力を0.03MPa以下に調整することが好ましく、0.01MPa以下に調整することがより好ましく、0MPaに調整することがさらに好ましい。
【0021】
第4工程では、図示していないポンプなどを作動させ、図示していないガス供給源からガスを第2タンク20内に供給し、第2タンク20内の細胞外小胞を含む液体(第1濃縮液)を加圧して、細胞外小胞を含む液体を中空糸膜30の内側に通してろ過する第2ろ過工程を実施する。
なお、本開示では、第2タンク20内の液体を中空糸膜30でろ過して第1タンク10に送る工程を全て第2ろ過工程という。
ろ過した透過液 は透過液タンク35に貯め、細胞外小胞を含む濃縮液(第2濃縮液)を第1タンク10に送る。
【0022】
第2タンク20は、図1ではシリンダー形状であるが、これに限定されるものではなく、形状および容積は設置場所の状況や処理量に応じて決定することができる。
第2タンク20は、目視で内部の液面が観察できる透明性を有しているものが好ましく、さらに第2タンク20の内壁面に液体が付着して残留することを防止するため、撥水性を有しているものが好ましい。
第2タンク20は、一部または全部が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂からなるものが好ましい。
第1タンク10と第2タンク20は、同一形状で、同一容積であるものが好ましい。
第1タンク10と第2タンク20は、それぞれが間隔をおいて、同じ高さ位置になるように配置されている。
【0023】
加圧のためのガスは、三方弁61を切り替えて、ガス供給ライン52と第2タンクガス供給ライン54を通して送る。このとき、第2ガス抜きライン56の開閉バルブ63、開閉バルブ46は閉じておき、第1ガス抜きライン55の開閉バルブ62は開けておく。
ガスは、窒素ガス、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス、二酸化炭素、HEPAフィルターなどでろ過された清浄な空気などから選ばれるガスを使用することができる。
【0024】
第4工程における膜面速度は第3工程の膜面速度と同じ範囲にすることが好ましい。
第4工程における中空糸膜30の入口圧力(第2タンク20の液体出入口20a側)は、0.01MPa~0.2MPaに調整することが好ましく、0.02MPa~0.15MPaに調整することがより好ましく、0.03MPa~0.12MPaに調整することがさらに好ましい。
第4工程における中空糸膜30の出口圧力(第1タンク10の液体出入口10a側)の圧力は、0.03MPa以下に調整することが好ましく、0.01MPa以下に調整することがより好ましく、0MPaに調整することがさらに好ましい。
第3工程と第4工程は、ガス供給源からガス供給ライン52を通してガスを連続的に供給しながら三方弁61を切り替えることで、連続的に実施することができる。
【0025】
その後、第1ろ過工程(第3工程)および第2ろ過工程(第4工程)を複数回繰り返すことで細胞外小胞を含む液体中の細胞外小胞を分離精製する。
第1ろ過工程および第2ろ過工程を複数回繰り返すときは、繰り返し回数が増加するにつれて、第1ろ過工程の第1タンク10におけるろ過対象の緩衝液による希釈倍数(即ち、第1ろ過工程のろ過対象の希釈倍数)を増加させることが好ましく、例えば、2容量倍~15容量倍の範囲で増加させることができ、好ましくは2容量倍~10容量倍の範囲で増加させることができる。
このように第1ろ過工程と第2ろ過工程を交互に実施する交互タンジェンシャルフローろ過により細胞外小胞の濃度が高められた濃縮液を得ることができる。
【0026】
本開示の細胞外小胞の分離精製方法は、出発原料となる細胞外小胞を含む間葉系幹細胞の培養上清液に含まれているタンパク質量を1/5以下量、好ましくは1/10以下量に減少させるように実施することが好ましい。また、分離精製された濃縮液中のインシュリン濃度は5mg/l以下、好ましくは2mg/l以下、さらに好ましくは1mg/l以下に減少させることが好ましい。
【0027】
本開示の細胞外小胞の分離精製方法は、出発原料となる間葉系幹細胞の培養上清液に含まれている細胞外小胞の量を基準とするとき、第1ろ過工程と第2ろ過工程を交互に繰り返して実施することで得られる濃縮液に含まれている細胞外小胞の量(非特許文献1に記載のExoScreen法を用いて測定される量)が、濃縮倍率が5倍以上かつ回収率が50%以上になるように実施することが好ましい。
【0028】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0029】
実施例1
図1に示す分離精製装置1)
・第1タンク10および第2タンク20
材質:ポリアクリロニトリル
サイズ:長さ25cm、内径0.25cm、容量120cm3
・緩衝液タンク40
容量:1.6L
・中空糸膜30
内径0.8mm,外径1.3mm,長さ50cm,膜面積12.6cm2,分画分子量50万のポリエーテルスルホン(PES)製中空糸膜(品名FUS5081,ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製)
【0030】
(培養上清液の調製)
間葉系幹細胞はヒト脂肪由来の間葉系幹細胞を用い、培地としてUltra ExoM Culture Medium for Extracellular Vesicles(商品番号FK-K0204024、(株)サンテジャ(Santeja)社製)を用いた。
間葉系幹細胞を培地が入った15cmディッシュで培養を行い、間葉系幹細胞が培養容器の接着面の約80%を覆った状態でフェノールレッド不含のUltra ExoM Culture Mediumに換えて48時間培養を行った。
その後、培養上清液を遠心力2000×gで10分間、4℃で遠心して細胞破片を取り除き、培養上清液を調製した。
【0031】
(培養上清液の定量評価)
前記培養上清液中の細胞外小胞をExoScreen法によって定量評価したところ、そのシグナル強度は30,914であった。
また、前記培養上清液中の細胞外小胞をNanoSight法(製品名ナノサイトNS300、マルバーン(Malvern)社製)によって405nm波長のレーザーモジュールで定量評価したところ、粒子径として50nm~600nmにわたって多数のピークをもつ粒径分布をもっていた(図3)。
また、NanoSight法によって測定された細胞外小胞粒子数は0.3×109個/mlであった。
前記培養上清液に含まれるタンパク質をSDS-PAGE(CBB染色)法により分析したところ、主に分子量が約7万のタンパク質が含まれていた。Bradford法による定量分析の結果、培養上清液25.0ml中のタンパク質総量は29.2mg(タンパク質濃度:1.2mg/ml)であった。
また、前記培養上清液に含まれるインシュリンをELISA法により定量したところ、375μgであった。
【0032】
<細胞外小胞を含む培養上清液から細胞外小胞を分離精製する方法の実施>
図1に示す分離精製装置を使用して、細胞外小胞を含む培養上清液から細胞外小胞を分離精製した。分離精製は、室温(約20℃)で実施した。
(1)前記培養上清液を、注射器シリンダーにセットするタイプの孔径0.22μm(Millex-GP材質PES ミリポア社製)の精密ろ過膜で全量ろ過して、ろ過液(前処理液)を得た。
(2)図1に示してない混合容器中で、前記ろ過液25mlとリン酸緩衝液(PBS)50mlを混合し、培養上清希釈液75mlを作製した。
(3)前記混合容器中の培養上清希釈液75mlを第1タンク10内に入れた。
(4)第1タンク10の上部空間に窒素ガスを圧力0.1MPaで供給し、中空糸膜30の内側に上記の培養上清希釈液を通過させつつタンジェンシャルフローろ過を行った。
この際、第2タンク20は、開閉バルブ56を開にして大気開放されており、圧力はゼロであった。また、中空糸膜30の内側を流れる膜面線速は1.0m/sであった。膜面線速は、第2タンク20での濃縮液量の増加速度から算出した。
透過液は透過液タンク35に貯め、濃縮液(第1濃縮液)は第2タンク20内に移行させた(第1ろ過工程)。
(5)第1タンク10の培養上清希釈液が中空糸膜30の内側を通過してろ過され、大部分が第2タンク20に移行したとき、三方弁61の切り替えによって、窒素ガスを第2タンク20に供給し、同時に開閉バルブ62の開放によって第1タンク10の圧力を開放した。
(6)この操作によって、第1濃縮液が第2タンク20から第1タンク10に移行させながらろ過を行い、透過液は透過液タンク35に貯め、濃縮液(第2濃縮液)は第1タンク10内に移行させた(第2ろ過工程)。
第2タンク20内の第1濃縮液の大部分が第1タンク10に移行したとき、三方弁61の切り替えによって、再び第1タンク10内の第2濃縮液を中空糸膜30によりろ過して、濃縮液を第2タンク20内に移行させた(第1ろ過工程)。
同様の第1ろ過工程と第2ろ過工程を複数回繰り返す交互タンジェンシャルフローろ過を行った。
【0033】
上記の(4)~(6)の第1ろ過工程と第2ろ過工程(交互タンジェンシャルフローろ過)を繰り返す中で、第1タンク10内の濃縮液の液量が約25mlになったとき、緩衝液タンク40のリン酸緩衝液(カルシウム,マグネシウム不含リン酸緩衝食塩水)50ml(株式会社ニッポン・ジーン製10×PBS Buffer)を添加した。
なお、緩衝液タンク40の気相部(緩衝液が入っていない空間部)には、緩衝液が減少した分の窒素ガスを封入した。
【0034】
上記の(4)~(6)の分離精製工程(交互タンジェンシャルフローろ過)は合計4回繰り返し、最終的には当初の培養上清液25mlに対して総量で250mlのリン酸緩衝液を加えた。
4回目のリン酸緩衝液を添加した後(濃縮液量75ml)は、希釈することなく、交互タンジェンシャルフローろ過によって、2.1mlになるまでろ過を行い、エクソソーム濃度が高められた濃縮液(最終濃縮液)を得た。
【0035】
最終濃縮液のエクソソームをExoScreen法によって定量評価したところ、そのシグナル強度は233,323であった。
初期の培養上清液25.0ml中のエクソソームのシグナル強度は30,914であったので、分画分子量50万(相当膜孔径20nm)の中空糸膜を用いて分離精製することで、最終濃縮液2.1ml中のエクソソームの濃縮倍率は約7.5倍であった。
また、そのエクソソームの回収率は約65%((233,323×2.1/30,914×25.0)×100)であった。
また、最終濃縮液中のエクソソームをNanoSight法によって粒径分布を測定したところ、図4のように粒径100nmにピークをもつ分布であった。さらにその粒子数は、4.7×109個/mlであった。
一方、最終濃縮液2.1ml中のタンパク質総量は1.9mg、インシュリン量は1.8μg(インシュリン濃度0.9mg/l)であり、エクソソームを含む初期の培養上清液25ml(タンパク質総量は29.2mg、インシュリン量375μg(インシュリン濃度15mgl))に対して、タンパク質総量を6.5%に、インシュリン量を0.5%に低減することができた。
上記の交互タンジェンシャルフローろ過過程において、経時的にろ過液量をサンプリングしその質量変化からろ過速度を算出した。
1時間、膜面積1m2、圧力0.1MPa当たりの換算ろ過速度は、初期に著しく低下するものの、ろ過開始20分頃からは、270~300(平均280)L/m2hでほぼ一定となり、ろ過開始約65分後に分離精製を終了した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示の分離精製方法は、培養液から細胞外小胞を分離精製するときに利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 分離精製装置
10 第1タンク
20 第2タンク
30 中空糸膜
35 透過液タンク
40 緩衝液タンク
図1
図2
図3
図4