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特開2022-182361微小有用物質の分離精製方法と分離精製装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182361
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】微小有用物質の分離精製方法と分離精製装置
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/34 20060101AFI20221201BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221201BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20221201BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20221201BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20221201BHJP
【FI】
C07K1/34
B01D61/14 500
B01D61/58
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/08
C12M1/12
C12N15/10 120Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089878
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4D006
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA27
4B029BB11
4B029BB13
4B029BB15
4B029BB17
4B029BB20
4B029CC01
4B029DG08
4B029HA05
4B029HA06
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065BD18
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4D006GA07
4D006HA01
4D006JA13Z
4D006JA15Z
4D006JA18Z
4D006JA25Z
4D006JA67C
4D006JA67Z
4D006JB04
4D006KA12
4D006KA17
4D006KA33
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA56
4D006KB30
4D006KD30
4D006KE02R
4D006KE07R
4D006KE09R
4D006KE22Q
4D006KE23Q
4D006MA01
4D006MA22
4D006MA33
4D006MB09
4D006MB10
4D006MC11
4D006MC12
4D006MC17
4D006MC18
4D006MC63
4D006PA04
4D006PB20
4D006PB52
4D006PB55
4D006PB59
4D006PC41
4H045AA20
4H045AA40
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA72
4H045GA10
(57)【要約】
【課題】微小有用物質の分離精製方法の提供。
【解決手段】微小有用物質を含む液体を中空糸膜によりろ過する微小有用物質の分離精製方法であって、前記中空糸膜が、内径が0.2~1.4mm、分画分子量が10万~100万のものであり、前記ろ過方法が、微小有用物質を含む液体を中空糸膜の一端側の第1開口部から圧入してろ過し、透過液と第1濃縮液に分離する第1ろ過工程と、第1濃縮液を中空糸膜の他端側の第2開口部から圧入してろ過し、透過液と第2濃縮液に分離する第2ろ過工程を有しており、第1ろ過工程と第2ろ過工程を膜面速度が0.3~2m/secで交互に複数回実施するろ過により前記微小有用物質の濃度が高められた濃縮液を得る方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小有用物質を含む液体を中空糸膜によりろ過する微小有用物質の分離精製方法であって、
前記中空糸膜が、内径が0.2mm~1.4mm、分画分子量が10万~100万のものであり、
前記ろ過方法が、
前記微小有用物質を含む液体を前記中空糸膜の一端側の第1開口部から圧入してろ過し、透過液と第1濃縮液に分離する第1ろ過工程と、
前記第1濃縮液を前記中空糸膜の他端側の第2開口部から圧入してろ過し、透過液と第2濃縮液に分離する第2ろ過工程を有しており、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に複数回実施する交互タンジェンシャルフローろ過により前記微小有用物質の濃度が高められた濃縮液を得る方法であり、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程における膜面速度が0.3m/sec~2m/secである、微小有用物質の分離精製方法。
【請求項2】
前記ろ過方法が、前記微小有用物質を含む液体を孔径0.1μm~0.5μmの精密ろ過膜によりろ過した後、前記精密ろ過膜のろ過液を使用し、前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に複数回実施する工程である、請求項1記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項3】
前記第1ろ過工程を実施するとき、微小有用物質を含む液体または前記第2ろ過工程で得られた第2濃縮液に対して緩衝液を加えて希釈した後、前記第1ろ過工程を実施する、請求項1または2記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項4】
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程が、窒素ガス、不活性ガス、二酸化炭素、HEPAフィルターでろ過された空気から選ばれるガスを導入することで圧入して実施されるものである、請求項1~3のいずれか1項記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項5】
前記微小有用物質が、エクソソーム、抗体、ウィルス、タンパク質、核酸から選ばれるものである、請求項1~3のいずれか1項記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項6】
前記中空糸膜が、複数の液出入口を有するケースハウジング内に複数本の中空糸膜が収容されている中空糸膜モジュールである、請求項1~3のいずれか1項記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項7】
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に実施するとき、前記実施回数が増加するにつれて第1ろ過工程におけるろ過対象の希釈倍数を増加させる、請求項1~6のいずれか1項記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項8】
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に実施するとき、前記実施回数が増加するにつれて2容量倍~15容量倍の範囲で第1ろ過工程におけるろ過対象の希釈倍数を増加させる、請求項1~6のいずれか1項記載の微小有用物質の分離精製方法。
【請求項9】
請求項1記載の微小有用物質の分離精製方法を実施するための分離精製装置であって、
前記微小有用物質を含む液体が入る第1タンクと、
前記第1タンクとは間隔をおいて配置されている第2タンクと、
前記第1タンクの液体出入口と前記第2タンクの液体出入口を接続して配置されている中空糸膜と、
前記第1タンクと送液ラインにより送液可能に接続されている緩衝液タンクと、
前記中空糸膜によりろ過された透過液を貯める透過液タンクと、
前記第1タンク内部の液体と前記第2タンク内部の液体の一方に対して加圧することができる加圧装置を有している、微小有用物質を分離精製するための分離精製装置。
【請求項10】
請求項2記載の微小有用物質の分離精製方法を実施するための分離精製装置であって、
孔径0.1μm~0.5μmの精密ろ過膜と、
前記精密ろ過膜のろ過液出口と送液ラインで接続されている、前記微小有用物質を含む液体が入る第1タンクと、
前記第1タンクとは間隔をおいて配置されている第2タンクと、
前記第1タンクの液体出入口と前記第2タンクの液体出入口を接続して配置されている中空糸膜と、
前記第1タンクと送液ラインにより送液可能に接続されている緩衝液タンクと、
前記中空糸膜によりろ過された透過液を貯める透過液タンクと、
前記第1タンク内部の液体と前記第2タンク内部の液体の一方に対して加圧することができる加圧装置を有している、微小有用物質の分離精製方法を実施するための分離精製装置。
【請求項11】
前記第1タンクと前記第2タンクが、目視で内部の液面が観察できる透明性を有しているものである、請求項9または10記載の微小有用物質の分離精製方法を実施するための分離精製装置。
【請求項12】
前記第1タンクの液体出入口を含む部分の前記中空糸膜との接続部分が、前記第1タンク側から前記中空糸膜側に径が小さくなるような円錐状の傾斜面を有しているものであり、
前記第2タンクの液体出入口を含む部分の前記中空糸膜との接続部分が、前記第2タンク側から前記中空糸膜側に径が小さくなるような円錐状の傾斜面を有しているものである、請求項9または10記載の微小有用物質の分離精製方法を実施するための分離精製装置。
【請求項13】
前記中空糸膜が、少なくとも一端部側が接着剤で封止された、5~50本の中空糸膜からなる中空糸膜束がケースハウジング内に収容された中空糸膜モジュールであって、
前記ケースハウジングが三方の液出入口を有し、前記三方の液出入口の中の一つが透過液口であり、前記透過液口が透過液タンクと接続されており、
前記透過液口を除いた二つの液出入口が、それぞれ前記第1タンクの液体出入口および前記第2タンクの液体出入口に接続されているものである、請求項9~12のいずれか1項記載の微小有用物質の分離精製方法を実施するための分離精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エクソソーム、抗体、ウィルス、タンパク質、核酸などから選ばれるものである微小有用物質を分離精製するための分離精製方法と、前記分離精製方法を実施するための分離精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
培養液から有用物を分離精製する方法として、分離膜を使用した方法が知られている。
特許文献1は、単細胞藻類の培養液を分画分子量10,000~1,000,000の中空糸型限外濾過膜(UF膜)モジュールを用いてクロスフロー濾過することにより濃縮するに際して、定期的な伏流洗浄を行う単細胞藻類培養液の濃縮方法の発明が記載されている。
クロスフロー濾過により培養液を濃縮すると、UF膜の外側に濃縮液が存在し、UF膜の内側に透過液が入る。
伏流洗浄をすると、洗浄水はUF膜の内側に入った後、UF膜の外側に出てくることでUF膜が洗浄される。
【0003】
特許文献2は、細胞の培養槽から培養液を排出し、排出した培養液と同量の新鮮培地を前記培養槽に加えるブリーディング工程と、前記培養槽から抽出した培養液を、実質的に緻密層を有しない多孔膜を用いて濾過する濾過工程とを含み、前記濾過工程における濾過がタンジェンシャルフロー濾過であり、前記濾過工程における透過液の速度が1.0LMH以下である、有用物質を回収する方法の発明が記載されている。
前記有用物質は、タンパク質、ウイルス、エクソソーム、及び核酸からなる群から選択されることが記載されている。
前記タンジェンシャルフロー濾過は、交互タンジェンシャルフロー濾過も実施できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-39084号公報
【特許文献2】特開2018-76291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、エクソソーム、抗体、ウィルス、タンパク質、核酸などから選ばれる微小有用物質を分離精製するための分離精製方法と、前記分離精製方法を実施するための分離精製装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、微小有用物質を含む液体を中空糸膜によりろ過する微小有用物質の分離精製方法であって、
前記中空糸膜が、内径が0.2mm~1.4mm、分画分子量が10万~100万のものであり、
前記ろ過方法が、
前記微小有用物質を含む液体を前記中空糸膜の一端側の第1開口部から圧入してろ過し、透過液と第1濃縮液に分離する第1ろ過工程と、
前記第1濃縮液を前記中空糸膜の他端側の第2開口部から圧入してろ過し、透過液と第2濃縮液に分離する第2ろ過工程を有しており、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程を交互に複数回実施する交互タンジェンシャルフローろ過により前記微小有用物質の濃度が高められた濃縮液を得る方法であり、
前記第1ろ過工程と前記第2ろ過工程における膜面速度が0.3m/sec~2m/secである、微小有用物質の分離精製方法と、前記分離精製方法を実施するための分離精製装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の微小有用物質の分離精製方法と分離精製装置によれば、エクソソーム、抗体、ウィルス、タンパク質、核酸などの微小有用物質を高い濃度まで濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】微小有用物質の分離精製方法を実施できる分離精製装置を使用する分離精製フローを示す図。
図2図1に示す分離精製フローで使用する図1とは異なる実施形態の分離精製装置の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示す分離精製装置1を使用した製造フローによって、微小有用物質の分離精製方法の一実施形態を説明する。
第1工程では、微小有用物質を含む液体を第1タンク10内に入れる。
微小有用物質を含む液体が微小有用物質を含む培養液であるときは、上清液を第1タンク10内に入れることが好ましい。
微小有用物質は、エクソソーム、抗体、ウィルス、タンパク質、核酸などから選ばれるものを挙げることができる。
【0010】
第1タンク10は、図1ではシリンダー形状であるが、これに限定されるものではなく、形状および容積は設置場所の状況や処理量に応じて決定することができる。
第1タンク10は、目視で内部の液面が観察できる透明性を有しているものが好ましく、さらに第1タンク10の内壁面に液体が付着して残留することを防止するため、撥水性を有している材料からなるものが好ましい。
第1タンク10は、一部または全部が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂からなるものが好ましい。
第1タンク10には、第1タンク10内から最終的な濃縮液を取り出すための取り出しラインを設けることができる。
【0011】
図2に示すとおり、第1タンク10の液体出入口10aを含む部分の中空糸膜30との接続部11は、第1タンク10側から中空糸膜30側に径が小さくなるような円錐状の傾斜面11aと筒状の垂直面11bを有している。
図2では、接続部11は円錐状の傾斜面11aと筒状の垂直面11bを有しているが、円錐状の傾斜面11aを有していれば、筒状の垂直面11bはなくてもよい。
図2に示す接続部11を有していると、微小有用物質を含む液体またはその濃縮液が第1タンク10の底部側に滞留することが防止でき、微小有用物質の回収率を高めることができるので好ましい。
【0012】
第1工程の前には、必要に応じて精密ろ過膜(精密ろ過膜モジュール)による前処理工程を実施することができる。
精密ろ過膜(精密ろ過膜モジュール)は、孔径0.1μm~0.5μmのものが好ましい。
前処理工程において、微小有用物質を含む液体を精密ろ過膜(精密ろ過膜モジュール)によりろ過したろ過液(前処理液)は、第1タンク10に送る。
【0013】
第2工程では、開閉バルブ(電磁バルブなど)46を開けた状態で、緩衝液タンク40内の緩衝液を緩衝液送液ライン45から第1タンク10内に供給して微小有用物質を含む液体(または前処理液)を希釈する。
第1タンク10内に微小有用物質を含む液体(または前処理液)の希釈液が入った状態では、第1タンク10の上部には前記希釈液が存在していない空間が残っている。
緩衝液タンク40内の緩衝液は医療用又は生化学用の緩衝液が好ましく、リン酸緩衝液(PBS)、トリス塩酸緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などを使用することができる。
緩衝液タンク40に緩衝液を補充するときは、緩衝液補充ライン41から補充する。
なお、第1工程と第2工程の順序は逆にして、緩衝液タンク40内の緩衝液を緩衝液送液ライン45から第1タンク10内に供給した後、微小有用物質を含む液体を第1タンク10内に入れることもできる。
また、第1工程と第2工程を一つの工程にして、別途設けた混合タンク内に微小有用物質を含む液体と緩衝液を添加混合して、微小有用物質を含む液体の希釈液を調製した後、前記希釈液を第1タンク10内に入れることもできる。
【0014】
第3工程では、図示していないポンプなどを作動させ、図示していないガス供給源からガスを第1タンク10内に供給し、第1タンク10内の微小有用物質を含む液体を加圧することで、微小有用物質を含む液体を中空糸膜30の内側に圧入してろ過する第1ろ過工程を実施する。
なお、本開示では、第1タンク10内の液体を中空糸膜30でろ過して第2タンク20に送る工程を全て第1ろ過工程という。
加圧のためのガスは、三方弁61を切り替えて、圧力計51を備えたガス供給ライン52と第1タンクガス供給ライン53を通して送る。このとき、開閉バルブ46、第1ガス抜きライン55の開閉バルブ62は閉じておき、第2ガス抜きライン56の開閉バルブ63は開けておく。
ガスは、窒素ガス、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス、二酸化炭素、HEPAフィルターなどでろ過された清浄な空気などから選ばれるガスを使用することができる。
ろ過した透過液は透過液タンク35に貯め、微小有用物質を含む濃縮液(第1濃縮液)を第2タンク20に送る。
第2タンク20内に第1濃縮液が入った状態では、第2タンク20の上部には第1濃縮液が存在していない空間が残っている。
【0015】
中空糸膜30は、内径0.2mm~1.4mmが好ましく、内径0.2mm~1.0mmがより好ましく、内径0.4mm~1.0mmがさらに好ましい。
中空糸膜30は、分画分子量が10万~100万の限外濾過膜が好ましく、分画分子量が20万~80万の限外濾過膜がより好ましく、分画分子量が30万~60万の限外濾過膜がさらに好ましい。分画分子量は、リン酸緩衝液中のγグロブリン(SIGMA製 牛血清γグロブリン、分子量15万)100mg/Lの溶液を中空糸膜30にろ過圧力0.1MPaでクロスフロー透過(膜面速度:0.2m/s)させた場合のγブロブリンの透過率%((透過液中のγグロブリン濃度/溶液中のγグロブリン濃度(100mg/L)×100)によって評価される。中空糸膜30は、γグロブリンの透過率が5%~95%、10~80%がより好ましく、30~70%がさらに好ましい。
中空糸膜30は、ポリエーテルスルホン膜などの疎水性膜でもよいし、セルロース系の親水性膜でもよいが、セルロース系の親水性膜が好ましい。セルロース系の親水性膜としては、酢酸セルロース膜、再生セルロース膜、セルロースプロピオネート膜、セルロースブチレート膜、セルロースベンゾエート膜などを挙げることができる。
中空糸膜30は、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)のFUS5082(ポリエーテルスルホン膜;分画分子量50万、γグロブリン透過率70%)、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)のFUC1582(酢酸セルロース膜;分画分子量15万、γグロブリン透過率10%)などを使用することができる。
【0016】
中空糸膜30は、第1タンク10の液体出入口10aと第2タンク20の液体出入口20aを接続して配置されている。
中空糸膜30と第1タンク10の液体出入口10aとの接続は、例えば、第1タンク10の液体出入口10a側に固定された注射針のような細管に中空糸膜30の開口端部を嵌め込むことで接続されている。中空糸膜30と第2タンク20の液体出入口20aとの接続も同様に実施することができる。
透過液タンク35は、中空糸膜30においてろ過して得られた透過液を貯めるためのものである。
図1では、透過液タンク35は小さく示しているが、中空糸膜30の大部分が中に入るような大きなタンクにすることもできる。
【0017】
図1では、中空糸膜30は1本が示されているが、複数本でもよく、例えば2~150本からなる中空糸膜束として使用することができる。
また、複数本の中空糸膜(中空糸膜束)30が、複数の液出入口を有するケースハウジング中に収容された中空糸膜モジュールでもよい。前記中空糸膜束として使用するときは、一端部または両端部を接着剤で一体化することができる。
前記中空糸膜モジュールを使用する場合には、中空糸膜モジュールの複数の液出入口と第1タンク10の液体出入口10aと第2タンク20の液体出入口20aを接続し、さらに中空糸膜モジュールの残部の液出入口(液透過出口)と透過液タンク35を接続する。
【0018】
第3工程のろ過は、膜面速度が0.3m/sec~2m/secの範囲でろ過することが好ましく、膜面速度が0.5m/sec~1.5m/secの範囲でろ過することがより好ましい。膜面速度が0.3m/secを下回ると精製効率が低下し、逆に2m/secを上回ると、膜面速度を上昇させるための圧力レベルが高くなりすぎてしまい、ろ過時において微小有用物質に対して加えられる剪断力も高くなりすぎる結果、微小有用物質を変質させるおそれがある。
前記膜面速度を前記範囲内に維持する方法は、中空糸膜30の入口圧力(第1タンク10の液体出入口10a側)の圧力を0.01MPa~0.2MPaに調整することが好ましく、0.02MPa~0.15MPaに調整することがより好ましく、0.03MPa~0.12MPaに調整することがさらに好ましい。
前記膜面速度を前記範囲内に維持する方法は、中空糸膜30の出口圧力(第2タンク20の液体出入口20a側)の圧力を0.03MPa以下に調整することが好ましく、0.01MPa以下に調整することがより好ましく、0MPaに調整することがさらに好ましい。
【0019】
第4工程では、図示していないポンプなどを作動させ、図示していないガス供給源からガスを第2タンク20内に供給し、第2タンク20内の微小有用物質を含む液体(第1濃縮液)を加圧して、微小有用物質を含む液体を中空糸膜30の内側に通してろ過する第2ろ過工程を実施する。
なお、本開示では、第2タンク20内の液体を中空糸膜30でろ過して第1タンク10に送る工程を全て第2ろ過工程という。
ろ過した透過液 は透過液タンク35に貯め、微小有用物質を含む濃縮液(第2濃縮液)を第1タンク10に送る。
【0020】
第2タンク20は、図1ではシリンダー形状であるが、これに限定されるものではなく、形状および容積は設置場所の状況や処理量に応じて決定することができる。
第2タンク20は、目視で内部の液面が観察できる透明性を有しているものが好ましく、さらに第2タンク20の内壁面に液体が付着して残留することを防止するため、撥水性を有しているものが好ましい。
第2タンク20は、一部または全部が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂からなるものが好ましい。
第1タンク10と第2タンク20は、同一形状で、同一容積であるものが好ましい。
第1タンク10と第2タンク20は、それぞれが間隔をおいて、同じ高さ位置になるように配置されている。
【0021】
加圧のためのガスは、三方弁61を切り替えて、ガス供給ライン52と第2タンクガス供給ライン54を通して送る。このとき、第2ガス抜きライン56の開閉バルブ63、開閉バルブ46は閉じておき、第1ガス抜きライン55の開閉バルブ62は開けておく。
ガスは、窒素ガス、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス、二酸化炭素、HEPAフィルターなどでろ過された清浄な空気などから選ばれるガスを使用することができる。
【0022】
第4工程における膜面速度は第3工程の膜面速度と同じ範囲にすることが好ましい。
第4工程における中空糸膜30の入口圧力(第2タンク20の液体出入口20a側)は、0.01MPa~0.2MPaに調整することが好ましく、0.02MPa~0.15MPaに調整することがより好ましく、0.03MPa~0.12MPaに調整することがさらに好ましい。
第4工程における中空糸膜30の出口圧力(第1タンク10の液体出入口10a側)の圧力は、0.03MPa以下に調整することが好ましく、0.01MPa以下に調整することがより好ましく、0MPaに調整することがさらに好ましい。
第3工程と第4工程は、ガス供給源からガス供給ライン52を通してガスを連続的に供給しながら三方弁61を切り替えることで、連続的に実施することができる。
【0023】
その後、第1ろ過工程(第3工程)および第2ろ過工程(第4工程)を複数回繰り返すことで微小有用物質を含む液体中の微小有用物質を分離精製する。
第1ろ過工程および第2ろ過工程を複数回繰り返すときは、繰り返し回数が増加するにつれて、第1ろ過工程において第1タンク10内のろ過対象の緩衝液による希釈倍数を増加させることが好ましく、例えば、2容量倍~15容量倍の範囲で増加させることができ、好ましくは2容量倍~10容量倍の範囲で増加させることができる。
このように第1ろ過工程と第2ろ過工程を交互に実施する交互タンジェンシャルフローろ過により微小有用物質の濃度が高められた濃縮液を得ることができる。
【0024】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0025】
実施例1
図1に示す分離精製装置1)
・第1タンク10および第2タンク20
材質:ポリアクリロニトリル
サイズ:長さ25cm、内径0.25cm、容量120cm3
・緩衝液タンク40
容量:1.6L
・中空糸膜30
内径0.8mm,外径1.3mm,長さ50cm,膜面積12.6cm2,分画分子量50万のポリエーテルスルホン(PES)製中空糸膜(品名FUS5081,ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製)
【0026】
<エクソソーム用培地の調製>
Ultra ExoM(登録商標)Culture Medium for Extracellular Vesicles(EVs)(株式会社サンテジャ製)のBasal mediumとsupplementを9対1(容量比)の混合比で混ぜ、50mlのエクソソーム用培地を調製した。
本培地に含まれるタンパク質をSDS-PAGE(CBB染色)法により分析したところ、主に分子量が約7万のタンパク質が含まれていた。また、Bradford法による定量分析の結果、培地中のタンパク質総量は107mgであった。
また、本培地に含まれるインシュリンを(ELISA)法により定量したところ、3531μgであった。
【0027】
<エクソソームを含む液体試料の調製>
上記で得たエクソソーム用培地50mlにLonza製エクソソームHansaBioMed(Human plasma of health donors 100μg[number of particles >1×1010)])を添加し、微小有用物質(エクソソーム)を含む液体試料50mlを調製した。
【0028】
<微小有用物質(エクソソーム)を含む液体試料からエクソソームを分離精製する方法の実施>
図1に示す分離精製装置を使用して、微小有用物質(エクソソーム)を含む液体試料からエクソソームを分離精製した。分離精製は、室温(約20℃)で実施した。
(1)前記液体試料を、注射器シリンダーにセットするタイプの孔径0.22μm(Millex-GP材質PES ミリポア社製)のMF膜で全量ろ過して、ろ過液(前処理液)を得た。
(2)図1に示してない混合容器中で、前記ろ過液25mlとリン酸緩衝液(PBS)25mlを混合し、液体試料希釈液50mlを作製した。
(3)前記混合容器中の液体試料希釈液50mlを第1タンク10内に入れた。
(4)第1タンク10の上部空間に窒素ガスを圧力0.1MPaで供給し、中空糸膜30の内側に上記の液体試料希釈液を通過させつつタンジェンシャルフローろ過を行った。
この際、第2タンク20は、開閉バルブ56を開にして大気開放されており、圧力はゼロであった。また、中空糸膜30の内側を流れる膜面線速は1.0m/sであった。膜面線速は、第2タンク20での濃縮液量の増加速度から算出した。
透過液は透過液タンク35に貯め、濃縮液(第1濃縮液)は第2タンク20内に移行させた(第1ろ過工程)。
(5)第1タンク10の液体試料希釈液が中空糸膜30の内側を通過してろ過され、大部分が第2タンク20に移行したとき、三方弁61の切り替えによって、窒素ガスを第2タンク20に供給し、同時に開閉バルブ62の開放によって第1タンク10の圧力を開放した。
(6)この操作によって、第1濃縮液が第2タンク20から第1タンク10に移行させながらろ過を行い、透過液は透過液タンク35に貯め、濃縮液(第2濃縮液)は第1タンク10内に移行させた(第2ろ過工程)。
第2タンク20内の第1濃縮液の大部分が第1タンク10に移行したとき、三方弁61の切り替えによって、再び第1タンク10内の第2濃縮液を中空糸膜30によりろ過して、濃縮液を第2タンク20内に移行させた(第1ろ過工程)。
同様の第1ろ過工程と第2ろ過工程を複数回繰り返す交互タンジェンシャルフローろ過を行った。
【0029】
上記の(4)~(6)の第1ろ過工程と第2ろ過工程(交互タンジェンシャルフローろ過)を繰り返す中で、第1タンク10内の濃縮液の液量が約半分(約25ml)になったとき、緩衝液タンク40のリン酸緩衝液(カルシウム,マグネシウム不含リン酸緩衝食塩水)50ml(株式会社ニッポン・ジーン製10×PBS Buffer)を添加した。
なお、緩衝液タンク40の気相部(緩衝液が入っていない空間部)には、緩衝液が減少した分の窒素ガスを封入した。
【0030】
上記の(4)~(6)の分離精製工程(交互タンジェンシャルフローろ過)は合計9回繰り返し、最終的には当初の液体試料50mlに対して総量で450mlのリン酸緩衝液を加えた。
9回目のリン酸緩衝液を添加した後(濃縮液量75ml)は、希釈することなく、交互タンジェンシャルフローろ過によって、6mlになるまでろ過を行い、エクソソーム濃度が高められた濃縮液を得た。
【0031】
分離精製後の中空糸膜表面を電子顕微鏡(10000倍)で観察したところ、約100nmの大きさのエクソソームが観察された。
分画分子量50万(相当膜孔径20nm)の中空糸膜を用いてろ過することで、エクソソームの膜透過が阻止され、エクソソームは膜によって十分に回収されたと判断できた。
一方、最終的な試料濃縮液6ml中のタンパク質総量は5.7mg、インシュリン量は20μgであり、エクソソームを含む液体試料50ml(タンパク質総量は107mg、インシュリン量3531μg)に対して、タンパク質総量を5.3%に、インシュリン量を0.6%に低減することができた。
【0032】
上記の交互タンジェンシャルフローろ過過程において、経時的にろ過液量をサンプリングしその質量変化からろ過速度を算出した。
1時間、膜面積1m2、圧力0.1MPa当たりの換算ろ過速度は、初期に著しく低下するものの、ろ過開始25分頃からは、200~230(平均210)L/m2hでほぼ一定となり、ろ過開始約88分後に分離精製を終了した。
【0033】
比較例1
実施例1における中空糸膜の長さを50cmから10cmとし、リン酸緩衝液で希釈しないこと以外は、実施例1と同様にして、エクソソームの分離精製を行った。
1時間、膜面積1m2、圧力0.1MPa当たりの換算ろ過速度は、最初の測定値は275L/m2h以上であったが、徐々に減少し、ろ過開始200分を超えると25L/m2h未満となり、分離精製操作を中止した。
【0034】
実施例2
実施例1の中空糸膜に替えて、内径0.8mmおよび外径1.3mm、分画分子量15万の酢酸セルロース(CA)製中空糸膜((品名FUC1582、ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製)を用い、実施例1と同様の装置によって、エクソソームの分離精製を行った。その際、エクソソームを含む液体試料3mlにリン酸緩衝液27mlを加えて液体試料希釈液30mlとした。
1時間、膜面積1m2、圧力0.1MPa当たりの換算ろ過速度は、最初の測定値は500L/m2hから大きくは低下せず、約420L/m2hで安定し、実施例1と比べるとろ過速度は約2倍であり、エクソソームを効率的に回収できた。一方、透過液中の蛋白質含有量は実施例1と比べると小さかったが、最終的な試料濃縮液0.1ml中のタンパク質総量は0.25mgであり、エクソソームを含む液体試料3ml(タンパク質総量は3.8mg)に対して、タンパク質総量を6.6%に低減することができた。
【0035】
比較例2
実施例2の操作において緩衝液を添加しないこと以外は実施例2と同様に実施して、エクソソームの分離精製を行った。
1時間、膜面積1m2、圧力0.1MPa当たりの換算ろ過速度は、初期値550L/m2hから大きく低下し、ろ過開始6分で約200L/m2hと著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示の分離精製方法は、培養液からエクソソーム、抗体、ウィルス、タンパク質、核酸などから選ばれるものを分離精製するときに利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 分離精製装置
10 第1タンク
20 第2タンク
30 中空糸膜
35 透過液タンク
40 緩衝液タンク
図1
図2