(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182388
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ウォーターポンプ用プラスチックマグネット
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20221201BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20221201BHJP
B29C 45/37 20060101ALI20221201BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C33/42
B29C45/37
B29C45/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089912
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】関 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】天田 貴之
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AB13
4F202AE04
4F202AG13
4F202AH04
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK06
4F202CK12
(57)【要約】
【課題】安価でありながら強度の高いウォーターポンプ用プラスチックマグネットを提供すること。
【解決手段】ウォーターポンプ用プラスチックマグネット(10)は、略円筒状を呈し、樹脂成形時に樹脂を注入した跡である注入跡部(13a)を上面に1つ有する。軸心(C)を中心にして注入跡部(13a)の位相を0度とした場合の、注入跡部(13a)から180度となる位相の下端を最離間部(14a)、注入跡部(13a)から最離間部(14a)までの周方向の長さを最離間長さ(L)、径方向の肉厚が平均となる平均厚さ(t)、とした場合に、最離間長さ(L)を平均厚さ(t)で除した値が5.9以上10.3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状を呈し、樹脂成形時に樹脂を注入した跡である注入跡部を上面に1つ有するウォーターポンプ用プラスチックマグネットであって、
軸心を中心にして前記注入跡部の位相を0度とした場合の、前記注入跡部から180度となる位相の下端を最離間部、前記注入跡部から前記最離間部までの周方向の長さを最離間長さ、径方向の肉厚が最も厚い部位と薄い部位との平均の厚さを平均厚さ、とした場合に、
前記最離間長さを前記平均厚さで除した値が5.9以上10.3以下であることを特徴とするウォーターポンプ用プラスチックマグネット。
【請求項2】
請求項1に記載されたウォーターポンプ用プラスチックマグネットであって、
内周面が六角形に近い形状に形成され、
前記注入跡部は、前記内周面の辺に対応する部位の外周に位置している。
【請求項3】
請求項2に記載されたウォーターポンプ用プラスチックマグネットであって、
前記内周面は、前記辺に対応する部位の中央が軸心に向かって膨出している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーターポンプに用いられる、筒状に形成されたプラスチックマグネットに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に磁粉を混ぜ、成形したプラスチックマグネットが一般に知られている。一部の車両のウォーターポンプには、筒状に形成されたプラスチックマグネットが内蔵されている。ウォーターポンプの用途に限らず、筒状のプラスチックマグネットに関する従来技術として、特許文献1に開示される技術がある。
【0003】
特許文献1に示されるような、筒状のプラスチックマグネットは、熱可塑性樹脂に磁性を有する粉体を混ぜ、筒状のキャビティに射出することで形成される。
【0004】
特許文献1にかかる発明では、樹脂の射出口であるゲートが1つである成形型によって成形されたプラスチックマグネットは、ゲートに対応する位置から最も遠い位置(ゲートから180度の位置)において磁束密度の分布が不均一になる、という点が開示されている。このような課題について、特許文献1にかかる発明では、樹脂を射出するゲートを周方向に亘って形成することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
射出成形では、ゲートに樹脂が残っている状態で所定の圧力をかけながら樹脂を硬化させる。このため、特許文献1の発明のように、周方向に亘ってゲートを構成した場合には、ゲートに残る樹脂が増加するため、多くの樹脂が必要になる。結果、プラスチックマグネットの製造コストが嵩む。
【0007】
さらに、ウォーターポンプに用いられるプラスチックマグネットは、樹脂に鋳込まれると共に水圧のかかる状況下において使用される。つまり、大きな負荷が加わるため、高い強度が求められる。
【0008】
本発明は、安価でありながら強度の高いウォーターポンプ用プラスチックマグネットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、略円筒状を呈し、樹脂成形時に樹脂を注入した跡である注入跡部を上面に1つ有するプラスチックマグネットであって、
軸心を中心にして前記注入跡部の位相を0度とした場合の、前記注入跡部から180度となる位相の下端を最離間部、前記注入跡部から前記最離間部までの周方向の長さを最離間長さ、径方向の肉厚が最も厚い部位と薄い部位との平均の厚さを平均厚さ、とした場合に、
前記最離間長さを前記平均厚さで除した値が5.9以上10.3以下であることを特徴とするウォーターポンプ用プラスチックマグネットが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、安価でありながら強度の高いウォーターポンプ用プラスチックマグネットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例によるウォーターポンプ用プラスチックマグネットの斜視図である。
【
図2】
図1に示されたウォーターポンプ用プラスチックマグネットの平面図である。
【
図3】
図1に示されたウォーターポンプ用プラスチックマグネットの展開図である。
【
図4】4Aは、比較例によるウォーターポンプ用プラスチックマグネットの磁束密度の分布について説明する図、4Bは、実施例によるウォーターポンプ用プラスチックマグネットの磁束密度の分布について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【0013】
<実施例>
例えば、車両の走行中には、エンジンが高温となるため、エンジンを冷却する必要がある。エンジンを冷却するための冷却水を循環させるために、電動ウォーターポンプが搭載されている車両が存在する。
【0014】
図1を参照する。一部の電動ウォーターポンプには、筒状に形成されたウォーターポンプ用プラスチックマグネット10(以下、「マグネット10」と略記する。)が内蔵されている。マグネット10は、熱可塑性樹脂に磁粉を混ぜた上で射出成形することにより、製造される。
【0015】
マグネット10の射出成形時には、キャビティに溶融した樹脂を供給し、20MPa~40MPaの圧力をかけた状態で樹脂が硬化するのを待つ。20MPa~40MPaは、マグネット10の成形において一般的な圧力である。かける圧力を20MPa~40MPaとすることにより、外観が良好であり、製品毎の寸法誤差が小さく、総磁束量が好適であり、所定の強度を満たしたマグネット10を製造することができる。マグネット10の素材や射出成形型には、周知の素材や型を用いることができる。
【0016】
マグネット10は、外周面11が円形状に形成されていると共に、内周面12が六角形に近い形状に形成されている。より詳細には、内周面12は、辺に対応する部分が軸心Cに向かって膨出している。つまり、辺に対応する部分は、円弧面状に形成されている。また、角に対応する部分は、辺と辺を円滑に繋ぐ湾曲面によって形成されている。つまり、六角形に近い形状とは、六角形をベースにして、辺に対応する部位が中心に向かって円弧状に膨出していると共に、角に対応する部位が辺と辺とを湾曲状に繋ぐ形状であることをいう。以上から明らかなとおり、マグネット10の径方向の肉厚は、周方向に連続して変化している。
【0017】
また、マグネット10の上面13には、射出成形時における射出口(ゲート)の跡である注入跡部13aが1つ形成されている。マグネット10は、1つの注入跡部13aに対応する位置からのみ樹脂が注入されたものである。マグネット10全体のうち、注入跡部13aは、上面13の1か所にのみ形成されている。注入跡部13aは、六角形に近い形状の辺の周方向中央に対応する部位の外周側に位置している。
【0018】
図2を参照する。マグネット10は、直径がDである。また、マグネット10は、周方向に変化する径方向の肉厚のうち、最も厚い部位と最も薄い部位との平均(以下、「肉厚の平均」という。)がtである。例えば、直径Dは、27mm、肉厚の平均tは、4mmである。また、肉厚の最も薄い部位は、六角形に近い形状の角に対応する部位であり、3.5mm、肉厚の最も厚い部位は、六角形に近い形状の辺に対応する部位の中央であり、4.5mmである。
【0019】
マグネット10の注入跡部13aから注入跡部13aに対向する部位までの周方向の長さは、d・π/2mmである。ここで、dは、軸心Cから注入跡部13aまでの距離の2倍である。ここでdは、例えば、23mmである。
【0020】
図3を併せて参照する。マグネット10の高さは、Hである。例えば、高さHは、16mmである。注入跡部13aから180度となる位置の下端を最離間部14aとした場合、注入跡部13aから最離間部14aまでの周方向の長さである最離間長さをLとする。Lは、三平方の定理から次式にて表すことができる。
【0021】
【0022】
マグネット10は、最離間長さLを平均厚さtで除した値が5.9以上10.3以下に設定されている。つまり、5.9≦L/t≦10.3である。5.9≦L/t≦10.3に設定する理由については、後述する。
【0023】
以上に説明したマグネット10について、以下に纏める。
【0024】
マグネット10は、最離間長さLを平均厚さtで除した値が5.9以上10.3以下である。つまり、5.9≦L/t≦10.3である。マグネット10のL/tを5.9以上10.3以下とすることにより、ゲート(注入跡部13a)が1つであっても十分な強度及び正確な寸法を有するマグネット10を提供することができることが分かった。また、ゲートが1つである成形型で製造することができるため、マグネット10を安価にすることができる。つまり、安価でありながら強度の高いマグネット10を提供することができる。
【0025】
なお、L/tが5.9未満では樹脂成形時のヒケ量が増加するため、外径寸法の精度が悪化する。またL/tが10.3より大きいと、樹脂成形時に溶融樹脂が流動途中で固化してしまうため、欠肉による不良が発生しやすくなり、好ましくない。
【0026】
また、
図4Aを参照する。
図4Aには、L/tが5.6である比較例によるマグネットの角度と磁束密度との関係が示されている。より詳細には、最離間長さLは、28.0mm、平均厚さtは、5.0mmである。横軸は角度[rad]であり、縦軸は表面磁束の磁束密度[mT]である。横軸の0[rad]は、注入跡部13aに対応する位置である。比較例によるマグネットは、射出成形時の型内部の圧力を25Mpaとして製造した。
【0027】
比較例によるマグネットでは、一部の部位P1、P2において波形にひずみが生じていた。これは、表面磁束の乱れが生じていたことを示し、磁束の配向が均一でなかったということができる。
【0028】
図4Bを参照する。
図4Bには、実施例によるマグネット10(
図1参照)の角度と磁束密度との関係が示されている。最離間長さLは、28.0mm、平均厚さtは、4.0mm、L/tは、7.0である。実施例によるマグネットは、射出成形時の型内部の圧力を25Mpaとして製造した。
【0029】
実施例によるマグネット10では、表面磁束の乱れが生じていなかった。つまり、磁束の配向が均一であったということができる。
【0030】
本発明者らが平均厚さtを変えながら実験を行ったところ、2.7mm~4.8mmの範囲で表面磁束に乱れが生じていないことが分かった。つまり、L/tを5.9~10.3とすることにより、品質の高いマグネット10を提供できることが分かった。
【0031】
マグネット10は、内周面12が六角形に近い形状に形成され、注入跡部13aは、内周面12の辺に対応する部位の外周に位置している。内周面12が六角形に近い形状の辺に対応する位置に注入跡部13aが形成されているため、注入跡部13aに対向する部位も、辺に対応する位置となる。内周面12は、角に対応する部位よりも辺に対応する部位の方が、径方向の肉厚が厚い。一般に、注入跡部13a(ゲート)が1つのマグネット10において、注入跡部13aに対向する位置の強度は、最も低くなる。強度が最も低くなる部位の肉厚を厚くすることにより、特に高い強度を確保することができる。
【0032】
マグネット10の内周面12は、辺に対応する部位の周方向の中央が軸心Cに向かって膨出している。これにより、強度が最も低くなる部位の肉厚をより厚くすることができる。さらに高い強度を確保することができる。
【0033】
なお、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のウォーターポンプ用プラスチックマグネットは、電動ウォーターポンプに好適である。
【符号の説明】
【0035】
10…ウォーターポンプ用プラスチックマグネット
12…内周面
13…上面、13a…注入跡部
14a…最離間部
C…軸心
L…最離間長さ
t…平均厚さ