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特開2022-182434鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造
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  • 特開-鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造 図1
  • 特開-鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182434
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/61 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
E04B1/61 503D
E04B1/61 503G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089988
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】江原 勇介
(72)【発明者】
【氏名】守谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】徳永 将司
(72)【発明者】
【氏名】薮下 直人
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
(72)【発明者】
【氏名】水渡 明
(72)【発明者】
【氏名】上枝 豊
(72)【発明者】
【氏名】枡井 哲也
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA53
2E125AA57
2E125AE04
2E125AE13
2E125AE18
2E125BA02
2E125BB28
(57)【要約】
【課題】上下階の鋼板コンクリート壁とそれらの接合部位に連接されるスラブとを、それらが合理的に接合された状態に施工性良く構築できるようにしながら、上下階の鋼板コンクリート壁間での良好な応力伝達を可能にする。
【解決手段】対向する一対の鋼板5間に壁コンクリート6を打設して構築される上下階の鋼板コンクリート壁1~4と、鋼板コンクリート壁1~4の接合部位に連接されるスラブSとを接合する上において、下階側の鋼板5と上階側の鋼板5とが、スラブコンクリート12の打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた状態で配置され、下階側の一対の鋼板5の間から上方に延びて上階側の一対の鋼板5間に至る応力伝達用の棒状の継手部材15が備えられ、上下階の壁コンクリート6とスラブコンクリート12とが、所定間隔を置いた上下階の鋼板5の隙間を通じて接合されるように打設されている。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の鋼板間に壁コンクリートを打設して構築される上下階の鋼板コンクリート壁と、これらの鋼板コンクリート壁の接合部位に連接されるスラブとを接合する鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造であって、
下階側の前記鋼板と上階側の前記鋼板とが、スラブコンクリートの打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた状態で配置され、
下階側の前記一対の鋼板の間から上方に延びて上階側の前記一対の鋼板間に至る応力伝達用の棒状の継手部材が備えられ、
上下階の前記壁コンクリートと前記スラブコンクリートとが、前記所定間隔を置いた上下階の前記鋼板の隙間を通じて接合されるように打設されている鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造。
【請求項2】
構造物の内部側に配置される前記鋼板コンクリート壁においては、下階側の前記一対の鋼板と上階側の前記一対の鋼板とが前記所定間隔を置いた状態で配置され、
前記スラブコンクリートの打設領域に配筋されるスラブ鉄筋が、前記所定間隔を置いた下階側の前記一対の鋼板と上階側の前記一対の鋼板との隙間を通る状態で配筋されている請求項1に記載の鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造。
【請求項3】
構造物の外部側に配置される前記鋼板コンクリート壁においては、下階側の前記一対の鋼板と上階側の前記一対の鋼板のうち、内部側の内側鋼板のみが前記所定間隔を置いた状態で配置され、
前記スラブコンクリートの打設領域に配筋されるスラブ鉄筋が、前記所定間隔を置いた上下階の前記内側鋼板の隙間を通る状態で配筋されている請求項1又は2に記載の鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向する一対の鋼板間に壁コンクリートを打設して構築される上下階の鋼板コンクリート壁と、これらの鋼板コンクリート壁の接合部位に連接されるスラブとを接合する鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術としては、例えば、接合されるSC鋼板ユニット(鋼板コンクリート壁)相互に跨がる位置に鋼板或いは鋼棒などよりなるH型ないしはI型の継手部材を配置し、SC鋼板ユニットの据え付け後に打設するコンクリートによりSC鋼板ユニットの表面鋼板に生じる応力を伝達するように構成した鋼板コンクリート構造の継手構造がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
又、外殻鋼板の端部どうしを突き合わせるとともに双方の外殻鋼板の端部相互間に跨るように接合ソケットを介装し、双方の外殻鋼板の内部全体にコンクリートを充填することによって、双方の外殻鋼板どうしを接合ソケットおよびコンクリートを介して応力伝達可能な状態で接合する鋼板コンクリート構造がある(例えば特許文献2参照)。
【0004】
又、孔あき鋼板を、隣接配置される鋼板パネルの中空部に、それらに跨る状態で配置し、孔あき鋼板を双方の鋼板パネルの中空部に充填されるコンクリート中に定着することで、孔あき鋼板およびコンクリートを介して双方の鋼板パネルどうしを応力伝達可能に接合する鋼板コンクリート構造がある(例えば特許文献3参照)。
【0005】
又、水平方向に延びて多数の穴を有するフランジを鋼板コンクリート壁の一方の表面鋼板に溶接などで取り付け、このフランジの各穴に鉄筋コンクリート床の多数の水平鉄筋をそれぞれ係止した鋼板コンクリート壁と鉄筋コンクリート床との取合構造が記載されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3899866号公報
【特許文献2】特開2013-104172号公報
【特許文献3】特開2012-132278号公報
【特許文献4】実開平02-009605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、前述した継手部材を使用することにより、SC鋼板ユニット相互の現場溶接を不要にしながら、SC鋼板ユニット相互を応力伝達可能に接合することができる。
しかしながら、継手部材を形成する上において、対向する一対の連結鋼板、一対の連結鋼板にわたる鋼棒又は鋼板、鋼棒又は鋼板の中央部分にSC鋼板と略平行に備えられるずれ止め鋼板、及び、ずれ止め鋼板からSC鋼板に向けて突出する多数のスタッド、などを接合する手間を要することから、継手部材の簡素化を図りながらSC鋼板ユニット相互を応力伝達可能に接合する上において改善の余地がある。
又、特許文献1には、SC鋼板ユニットとスラブとの取り合いについては記載されていない。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、接合ソケットを使用することにより、鋼板コンクリート部材どうしの溶接を不要にしながら、鋼板コンクリート部材どうしを応力伝達可能に接合することができる。
しかしながら、接合ソケットを製作する上において、接合鋼管の外周面に複数の補強リブを溶接する手間を要することから、接合ソケットの簡素化を図りながら鋼板コンクリート部材どうしを応力伝達可能に接合する上において改善の余地がある。
又、特許文献2には、鋼板コンクリートとスラブとの取り合いについては記載されていない。
【0009】
特許文献3に記載の技術では、孔あき鋼板を使用することにより、鋼板パネルどうしの溶接を不要にしながら、鋼板パネルどうしを応力伝達可能に接合することができる。
しかしながら、孔あき鋼板を使用して鋼板パネルどうしを応力伝達可能に接合するためには、上側の鋼板パネルの外殻鋼板どうしを連結するタイバーを、孔あき鋼板の孔内に挿通して、孔あき鋼板をタイバーの軸方向にスライド自在に取り付けておく必要があるとともに、各外殻鋼板の内面に、スライドさせた孔あき鋼板の孔に挿入される複数の長スタッドを溶接しておく必要があることから、接合構造の簡素化や施工の容易化を図りながら鋼板パネルどうしを応力伝達可能に接合する上において改善の余地がある。
又、特許文献3には、鋼板パネルとスラブとの取り合いについては記載されていない。
【0010】
特許文献4に記載の技術では、鋼板コンクリート壁と鉄筋コンクリート床とを接合するためには、一方の表面鋼板にフランジを取り付けるのに加えて、フランジと同一平面で一対の表面鋼板を連結する補強材を溶接などで取り付けておく必要があることから、鋼板コンクリート壁と鉄筋コンクリート床との接合構造の簡素化や施工の容易化を図る上において改善の余地がある。
又、特許文献4には、上下階の鋼板コンクリート壁を応力伝達可能に接合する構造については記載されていない。
【0011】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、上下階の鋼板コンクリート壁とそれらの接合部位に連接されるスラブとを、それらが合理的に接合された状態に施工性良く構築できるようにしながら、上下階の鋼板コンクリート壁間での良好な応力伝達を可能にする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1特徴構成は、対向する一対の鋼板間に壁コンクリートを打設して構築される上下階の鋼板コンクリート壁と、これらの鋼板コンクリート壁の接合部位に連接されるスラブとを接合する鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造であって、
下階側の前記鋼板と上階側の前記鋼板とが、スラブコンクリートの打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた状態で配置され、
下階側の前記一対の鋼板の間から上方に延びて上階側の前記一対の鋼板間に至る応力伝達用の棒状の継手部材が備えられ、
上下階の前記壁コンクリートと前記スラブコンクリートとが、前記所定間隔を置いた上下階の前記鋼板の隙間を通じて接合されるように打設されている点にある。
【0013】
本構成によると、例えば、継手部材が備えられた下階側の一対の鋼板間に壁コンクリートを打設して下階側の鋼板コンクリート壁を構築するとともに、この下階側の鋼板コンクリート壁の上部で囲まれたスラブ構築領域にスラブコンクリートの打設などを行ってスラブを構築する。
次に、下階側の鋼板コンクリート壁に接合される上階側の鋼板コンクリート壁の一対の鋼板を、それらの鋼板間に下階側の鋼板コンクリート壁からの継手部材が位置する状態で、下階側の鋼板とスラブコンクリートの打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた高さ位置に配置し、上階側の鋼板間に壁コンクリートを打設する。
これにより、上下階の鋼板コンクリート壁とスラブとを、それらのコンクリートが一体化された接合状態に合理的に構築することができるとともに、上下階の鋼板と、それらにわたる継手部材と、それらを一体化するコンクリートとから、上下階の鋼板コンクリート壁を応力伝達可能に接合する重ね継手を合理的に構築することができる。
その結果、上下階の鋼板コンクリート壁とそれらの接合部位に連接されるスラブとを、それらが合理的に接合された状態に施工性良く構築することができるとともに、継手部材の簡素化などを図りながら、上下階の鋼板コンクリート壁間での良好な応力伝達を可能にすることができる。
【0014】
本発明の第2特徴構成は、構造物の内部側に配置される前記鋼板コンクリート壁においては、下階側の前記一対の鋼板と上階側の前記一対の鋼板とが前記所定間隔を置いた状態で配置され、
前記スラブコンクリートの打設領域に配筋されるスラブ鉄筋が、前記所定間隔を置いた下階側の前記一対の鋼板と上階側の前記一対の鋼板との隙間を通る状態で配筋されている点にある。
【0015】
本構成によると、内部側の鋼板コンクリート壁に使用する各鋼板にスラブ鉄筋を貫通させるための貫通孔を形成する手間を要することなく、スラブ鉄筋を、継手部材と交差する状態で内部側の鋼板コンクリート壁を貫通させることができ、スラブ鉄筋の貫通部を内部側の鋼板コンクリート壁内に定着させることができる。
その結果、内部側の鋼板コンクリート壁とその両隣のスラブとを、合理的に剛接合状態又は剛接合に相当する状態で接合することができる。
【0016】
本発明の第3特徴構成は、構造物の外部側に配置される前記鋼板コンクリート壁においては、下階側の前記一対の鋼板と上階側の前記一対の鋼板のうち、内部側の内側鋼板のみが前記所定間隔を置いた状態で配置され、
前記スラブコンクリートの打設領域に配筋されるスラブ鉄筋が、前記所定間隔を置いた上下階の前記内側鋼板の隙間を通る状態で配筋されている点にある。
【0017】
本構成によると、外部側の鋼板コンクリート壁に使用する内側鋼板にスラブ鉄筋を貫通させるための貫通孔を形成する手間を要することなく、スラブ鉄筋の端部側を、継手部材と交差する状態で外部側の鋼板コンクリート壁内に配筋して、外部側の鋼板コンクリート壁内に定着させることができる。
その結果、外部側の鋼板コンクリート壁とスラブとを、合理的に、剛接合状態又は剛接合に相当する状態で接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造を示す要部の垂直断面図
図2】スラブの変形例を示す要部の垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態の一例を図面に基づいて説明する。
本実施形態で例示する鋼板コンクリート壁とスラブとの接合構造においては、図1に示すように、鋼板コンクリート壁Wとして、構造物の外部側に配置される上下階の鋼板コンクリート壁1,2と、構造物の内部側に配置される上下階の鋼板コンクリート壁3,4とが備えられ、上階側の鋼板コンクリート壁1,3と下階側の鋼板コンクリート壁2,4との接合部位にスラブSが接合されている。
【0020】
各鋼板コンクリート壁Wは、対向する一対の鋼板5間に壁コンクリート6が打設されることで構築されている。一対の鋼板5は、一定の長さを有して一対の鋼板5にわたる多数のタイバー7などを介して連結されることで、一対の鋼板5間に一定間隔の壁コンクリート打設領域が確保されている。各鋼板5の内面には、鋼板5と壁コンクリート6とを構造的に一体化させるための多数のスタッド8が水平姿勢で溶接されている。下階側となる各鋼板コンクリート壁2,4の上部には、スラブSの外周部を下方から受け止め支持するブラケット9が備えられている。
【0021】
各スラブSは、下階側の各鋼板コンクリート壁2,4の上部で囲まれた各スラブ構築領域に、下端筋に代えてスラブ鋼板10が敷設され、上端筋に相当するスラブ鉄筋11が配筋され、スラブコンクリート12が打設されることで鋼板コンクリートスラブとして構築されている。
尚、スラブ鉄筋11は、鋼板コンクリート壁Wの壁面に対して平行な縦方向と交差する横方向との縦横に並ぶ格子状に配筋されているが、図1では、便宜上、鋼板コンクリート壁Wの壁面に対して平行に並ぶ縦方向のスラブ鉄筋11の図示が省略されている。
【0022】
スラブ鋼板10は、スラブSの底部を形成する状態で、下階側の各鋼板コンクリート壁2,4のブラケット9にて支持されている。
【0023】
スラブ鉄筋11のうち、外部側の鋼板コンクリート壁2と内部側の鋼板コンクリート壁4との間でそれらにわたるように配置されるスラブ鉄筋11Aは、外部側の鋼板コンクリート壁2と内部側の鋼板コンクリート壁4とに向けて真っ直ぐに延びるとともに、外部側の端部が外部側の鋼板コンクリート壁2の上方に位置する状態で配筋されている。スラブ鉄筋11Aにおける外部側の端部には、外部側の鋼板コンクリート壁2における壁コンクリート6との定着をより好適にするために拡径された定着部11aが備えられている。
尚、定着部11aとしては、壁コンクリート6との定着をより好適にするために、例えばフック状に屈曲形成されたものなどであってもよい。
【0024】
スラブ鉄筋11のうち、内部側の鋼板コンクリート壁4間でそれらにわたるように配置されるスラブ鉄筋11Bは、内部側の鋼板コンクリート壁4に向けて真っ直ぐに延びる状態で配筋されている。
【0025】
スラブ鉄筋11には、内部側の鋼板コンクリート壁4を挟んで対向するスラブ鉄筋11の端部にわたる継手用のスラブ鉄筋11Cが含まれている。
【0026】
スラブ鋼板10の上面には、スラブ鋼板10とスラブコンクリート12とを構造的に一体化させるための多数のスタッド13が起立姿勢で溶接されている。スラブ構築領域を形成する下階側の各鋼板コンクリート壁2,4の上部には、それらの鋼板5とスラブコンクリート12とを構造的に一体化させるための多数のスタッド14が水平姿勢で溶接されている。
【0027】
下階側の各鋼板コンクリート壁2,4のうち、外部側の各鋼板コンクリート壁2は、一対の鋼板5のうちの構造物の外部に面する外側鋼板5Aの上端位置がスラブSの上面位置よりも高くなり、構造物の内部に面する内側鋼板5Bの上端位置がスラブSの上面位置よりも低くなるように、一対の鋼板5の上端位置を異ならせた状態で構築されている。内部側の各鋼板コンクリート壁4は、それらの上端位置がスラブSの上面位置よりも低くなるように構築されている。これにより、各スラブ構築領域にスラブコンクリート12を打設する際には、外部側の各鋼板コンクリート壁2における外側鋼板5Aの上部をスラブ型枠として利用することができる。そして、各スラブ構築領域にスラブコンクリート12が所定の打設高さ(スラブ高さ)まで打設された状態では、外部側の各鋼板コンクリート壁2における内側鋼板5Bの上部と、内部側の各鋼板コンクリート壁4の上部とがスラブコンクリート12で覆われた状態になり、各外側鋼板5Aの上部で囲まれたコンクリート打設領域の全域にわたって平坦なスラブ面が形成された状態になる。
【0028】
内部側の各鋼板コンクリート壁3,4のうち、下階側の鋼板コンクリート壁4には、上階側の鋼板コンクリート壁3との応力伝達を可能にする棒状の継手部材15の複数が、一対の鋼板5の間から鋼板コンクリート壁4の上方に延びる状態で備えられている。各継手部材15には鉄筋が採用されており、各継手部材15は、各鋼板5の内面に備えられた多数のスタッド13の間を通る状態で鋼板5と平行に配置されている。
尚、本実施形態においては、継手部材15として鉄筋を例示しているが、これに限らず、アングル材などの棒状の鋼材を採用するようにしてもよい。
【0029】
上階側の鋼板コンクリート壁3は、コンクリート打設領域に打設されたスラブコンクリート12の硬化後に、下階側の鋼板コンクリート壁4から上方に延びる各継手部材15が一対の鋼板5の間に位置するように、一対の鋼板5が硬化後のスラブコンクリート12の上面に載置され、その後、対向する一対の鋼板5間に壁コンクリート6が打設されることで構築されている。
【0030】
このように上階側の鋼板コンクリート壁3が構築されることにより、内部側の上下階の鋼板コンクリート壁3,4においては、それらの下階側の一対の鋼板5と上階側の一対の鋼板5とが、スラブコンクリート12の打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いて配置された状態になっている。そして、スラブコンクリート12の打設領域に配筋されるスラブ鉄筋11のうちの継手用のスラブ鉄筋11Cが、所定間隔を置いた下階側の一対の鋼板5と上階側の一対の鋼板5との隙間を通るように配筋された状態になっている。又、上下階の鋼板コンクリート壁3,4の接合箇所に、下階側の一対の鋼板5の間から上方に延びて上階側の一対の鋼板5間に至る応力伝達用の継手部材15が備えられた状態になっている。更に、上下階の壁コンクリート6とスラブコンクリート12とが、所定間隔を置いた上下階の鋼板5の隙間を通じて接合されるように打設された状態になっている。
【0031】
外部側の各鋼板コンクリート壁1,2のうち、下階側の鋼板コンクリート壁2には、上階側の鋼板コンクリート壁1との応力伝達を可能にする棒状の継手部材15の複数が、一対の鋼板5の間から鋼板コンクリート壁2の上方に延びる状態で備えられている。各継手部材15には鉄筋が採用されており、各継手部材15は、内側鋼板5Bの内面に備えられた多数のスタッド13の間を通る状態で内側鋼板5Bと平行に配置されている。
尚、本実施形態においては、継手部材15として鉄筋を例示しているが、これに限らず、アングル材などの棒状の鋼材を採用するようにしてもよい。
【0032】
上階側の鋼板コンクリート壁1は、コンクリート打設領域に打設されたスラブコンクリート12の硬化後に、下階側の鋼板コンクリート壁2から上方に延びる各継手部材15が一対の鋼板5の間に位置するように、上階側の外側鋼板5Aが下階側の外側鋼板5Aに載置され、上階側の内側鋼板5Bが硬化後のスラブコンクリート12の上面に載置され、その後、上下階の外側鋼板5Aが溶接などで接合され、対向する外側鋼板5Aと内側鋼板5Bとの間に壁コンクリート6が打設されることで構築されている。
【0033】
このように上階側の鋼板コンクリート壁1が構築されることにより、外部側の上下階の鋼板コンクリート壁1,2においては、それらの下階側の内側鋼板5Bと上階側の内側鋼板5Bとが、スラブコンクリート12の打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いて配置された状態になっている。そして、スラブコンクリート12の打設領域に配筋されるスラブ鉄筋11のうちのスラブ鉄筋11Aは、定着部11aを含む外部側の端部が、所定間隔を置いた上下階の内側鋼板5Bの隙間を通って、外側鋼板5Aと内側鋼板5Bとの間に位置するように配筋された状態になっている。又、上下階の鋼板コンクリート壁1,2の接合箇所に、下階側の一対の鋼板5の間から上方に延びて上階側の一対の鋼板5間に至る応力伝達用の継手部材15が備えられた状態になっている。更に、上下階の壁コンクリート6とスラブコンクリート12とが、所定間隔を置いた上下階の内側鋼板5Bの隙間を通じて接合されるように打設された状態になっている。
【0034】
以上の構成により、本実施形態で例示する鋼板コンクリート壁WとスラブSとの接合構造においては、施工手順として、先ず、前述した応力伝達用の継手部材15を備える状態に下階側の各鋼板コンクリート壁2,4を構築して、外部側の各鋼板コンクリート壁2における外側鋼板5Aの上部で囲まれたコンクリート打設領域と、各鋼板コンクリート壁2,4の上部で囲まれた各スラブ構築領域とを形成する。そして、各スラブ構築領域に、スラブ鋼板10を敷設し、スラブ鉄筋11を配筋した後、外部側の各鋼板コンクリート壁2における外側鋼板5Aの上部を型枠に利用した状態で、スラブコンクリート12をコンクリート打設領域に所定の打設高さまで打設する。これにより、外部側の各鋼板コンクリート壁2における内側鋼板5Bの上部と、内部側の各鋼板コンクリート壁4の上部とをスラブコンクリート12で覆う状態で、各スラブ構築領域にスラブSを構築することができる。
【0035】
このように各スラブSを構築した後に、下階側の各鋼板コンクリート壁2,4に接合される上階側の各鋼板コンクリート壁1,3を構築する。
【0036】
そして、上階側の各鋼板コンクリート壁1,3のうち、内部側の鋼板コンクリート壁3を構築する場合は、内部側の鋼板コンクリート壁3における一対の鋼板5を、それらの間に下階側の鋼板コンクリート壁4からの継手部材15が位置する状態でスラブSの上面に載置する。これにより、上階側の一対の鋼板5を、下階側の一対の鋼板5からスラブコンクリート12の打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた高さ位置に配置することができる。その後、その上階側の一対の鋼板5間に壁コンクリート6を打設することにより、上階側の各鋼板コンクリート壁1,3のうちの内部側の鋼板コンクリート壁3を構築することができる。
【0037】
又、外部側の鋼板コンクリート壁1を構築する場合は、外部側の鋼板コンクリート壁1における一対の鋼板5間に、下階側の鋼板コンクリート壁2からの継手部材15が位置するように、上階側の鋼板コンクリート壁1の外側鋼板5Aを下階側の鋼板コンクリート壁2の外側鋼板5Aに載置し、上階側の鋼板コンクリート壁1の内側鋼板5BをスラブSの上面に載置する。これにより、上階側の内側鋼板5Bのみを、下階側の内側鋼板5Bからスラブコンクリート12の打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた高さ位置に配置することができる。その後、上下の外側鋼板5Aを溶接などで接合し、対向する外側鋼板5Aと内側鋼板5Bとの間に壁コンクリート6を打設することにより、上階側の各鋼板コンクリート壁1,3のうちの外部側の鋼板コンクリート壁1を構築することができる。
【0038】
そして、このような施工手順で上下階の各鋼板コンクリート壁1~4と各スラブSとを構築することにより、構造物の内部側に配置される上下階の鋼板コンクリート壁3,4とスラブSとの接合箇所においては、それらのコンクリートが一体化された接合状態を合理的に得ることができるとともに、上下階の鋼板5と、それらにわたる継手部材15と、それらを一体化するコンクリートとから、上下階の鋼板コンクリート壁3,4を応力伝達可能に接合する重ね継手を合理的に構築することができる。又、内部側の鋼板コンクリート壁3,4に使用する各鋼板5にスラブ鉄筋11を貫通させるための貫通孔を形成する手間を要することなく、スラブ鉄筋11を、継手部材15と交差する状態で内部側の鋼板コンクリート壁3,4を貫通させることができ、スラブ鉄筋11の貫通部11bを内部側の鋼板コンクリート壁3,4内に定着させることができる。つまり、内部側の鋼板コンクリート壁3,4とその両隣のスラブSとを、合理的に剛接合状態又は剛接合に相当する状態で接合することができる。
【0039】
一方、構造物の外部側に配置される上下階の鋼板コンクリート壁1,2とスラブSとの接合箇所においては、それらのコンクリートが一体化された接合状態を合理的に得ることができるとともに、上下階の内側鋼板5Bと、それらにわたる継手部材15と、それらを一体化するコンクリートとから、上下階の鋼板コンクリート壁1,2を応力伝達可能に接合する重ね継手を合理的に構築することができる。又、外部側の鋼板コンクリート壁1,2に使用する内側鋼板5Bにスラブ鉄筋11を貫通させるための貫通孔を形成する手間を要することなく、スラブ鉄筋11における外部側の端部を、継手部材15と交差する状態で外部側の鋼板コンクリート壁1,2内に位置させることができ、定着部11aを含む外部側の端部を外部側の鋼板コンクリート壁1,2内に定着させることができる。つまり、外部側の鋼板コンクリート壁1,2とスラブSとを、合理的に剛接合状態又は剛接合に相当する状態で接合することができる。
【0040】
その結果、上下階の各鋼板コンクリート壁1~4とそれらの接合部位に連接されるスラブSとを、それらが合理的に接合された状態に施工性良く構築することができるとともに、外部側の鋼板コンクリート壁1,2と内部側の鋼板コンクリート壁3,4とのいずれにおいても、継手部材15の簡素化などを図りながら、上階側の鋼板コンクリート壁1,3と下階側の鋼板コンクリート壁2,4との間での良好な応力伝達を可能にすることができる。
【0041】
尚、外部側の鋼板コンクリート壁1,2とスラブSとの接合に、例えばピン接合などを採用することで、高い剛性を確保することができず、スラブSの変形が大きくなる場合には、図2に示すように、スラブSに内蔵される複数の小梁16を、外部側の鋼板コンクリート壁1,2と内部側の鋼板コンクリート壁3,4との間に所定間隔を置いて配置することで、スラブSの変形を抑制するようにしてもよい。
【0042】
ちなみに、図2に示すスラブSにおいては、複数の小梁16を備えるのに伴って、複数のスラブ鋼板10が、隣接する外部側の鋼板コンクリート壁(図示せず)と小梁16との間と、隣接する小梁16間と、隣接する内部側の鋼板コンクリート壁3,4と小梁16との間とに、分散して敷設されている。そして、各小梁16のウェブには、各小梁16とスラブコンクリート12とを構造的に一体化させるための多数のスタッド17が水平姿勢で溶接されている。
【0043】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0044】
(1)上記の実施形態においては、上階側の鋼板5を、硬化後のスラブコンクリート12の上面に載置することで、上下階の鋼板5を、スラブコンクリートの打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた状態で配置するようにしたものを例示したが、これに限らず、スラブコンクリート12の打設前に、上階側の鋼板5を、スラブS内に埋め殺しの複数のスペーサを介して下階側の鋼板5に載置した後、スラブコンクリート12を所定の打設高さまで打設することで、上下階の鋼板5を、スラブコンクリートの打設高さ内で上下方向に所定間隔を置いた状態で配置するようにしてもよい。
【0045】
(2)上記の実施形態においては、スラブSとして、その底部がスラブ鋼板10で形成されたものを例示したが、スラブSの底部がハーフプレキャスト床版で形成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 鋼板コンクリート壁(外部側の上部側)
2 鋼板コンクリート壁(外部側の下部側)
3 鋼板コンクリート壁(内部側の上部側)
4 鋼板コンクリート壁(内部側の下部側)
5 鋼板
5B 内側鋼板
6 壁コンクリート
11 スラブ鉄筋
15 継手部材
S スラブ

図1
図2