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特開2022-182441干渉検知装置、干渉検知方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182441
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】干渉検知装置、干渉検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/391 20150101AFI20221201BHJP
   H04B 17/373 20150101ALI20221201BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20221201BHJP
【FI】
H04B17/391
H04B17/373
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089997
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】西川 由明
(57)【要約】
【課題】通信において対処すべき干渉の優先度をユーザが判断することができる干渉検知装置、干渉検知方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】実施の形態にかかる干渉検知装置10は、通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習部11と、通信信号における検知対象信号を取得する取得部12と、検知対象信号における干渉を検知する干渉検知部13と、検知対象信号、干渉検知部13の干渉検知結果、及び学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算部14を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習部と、
前記通信信号における検知対象信号を取得する取得部と、
前記検知対象信号における干渉を検知する干渉検知部と、
前記検知対象信号、前記干渉検知部の干渉検知結果、及び学習済みの前記信号状態モデルを用いて、前記検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算部と、を備える
干渉検知装置。
【請求項2】
前記干渉検知部が、前記検知対象信号の連続した複数のタイムスロットにおいて干渉を検知した場合に、前記重大度計算部は、学習済みの前記信号状態モデルにおける前記複数のタイムスロットでの信号状態の状態遷移経路に基づいて、前記複数のタイムスロットの各々について干渉の重大度を計算する、
請求項1に記載の干渉検知装置。
【請求項3】
前記重大度計算部は、計算した前記複数のタイムスロットの各々の前記重大度に基づいて、前記検知対象信号における干渉の重大度を計算する、
請求項2に記載の干渉検知装置。
【請求項4】
前記信号状態モデルは、信号状態がオン状態とオフ状態のいずれかを取り得る、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の干渉検知装置。
【請求項5】
前記信号状態モデル学習部は、前記信号状態モデルの状態遷移確率のパラメータとして、前記オン状態が継続するタイムスロット長を設定し、
前記重大度計算部は、前記パラメータと、前記検知対象信号において、前記干渉検知部が干渉を検知したタイムスロットの直前において前記オン状態が継続したタイムスロット長と、を用いて、前記検知対象信号における干渉の重大度を計算する、
請求項4に記載の干渉検知装置。
【請求項6】
前記重大度計算部は、前記干渉検知部が干渉を検知した期間の直前及び直後の前記検知対象信号の信号状態と、学習済みの前記信号状態モデルを用いて、前記期間における信号状態の複数の状態遷移経路のうち最大の遷移確率を有する状態遷移経路を特定し、特定した前記状態遷移経路の全期間又は干渉が検知された前記期間の少なくともいずれかにおける、信号がオン状態となる時間長、信号がオン状態となるタイムスロットの回数、信号がオン状態となる状態が連続する状態の回数、又はこれらいずれかの期待値、の少なくともいずれかを干渉の重大度として計算する、
請求項4に記載の干渉検知装置。
【請求項7】
前記学習信号及び前記検知対象信号は、同一又は近接した周波数帯の無線信号である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の干渉検知装置。
【請求項8】
通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習ステップと、
前記通信信号における検知対象信号を取得する取得ステップと、
前記検知対象信号における干渉を検知する干渉検知ステップと、
前記検知対象信号、干渉の検知結果、及び学習済みの前記信号状態モデルを用いて、前記検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算ステップと、
を干渉検知装置が実行する干渉検知方法。
【請求項9】
通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習ステップと、
前記通信信号における検知対象信号を取得する取得ステップと、
前記検知対象信号における干渉を検知する干渉検知ステップと、
前記検知対象信号、干渉の検知結果、及び学習済みの前記信号状態モデルを用いて、前記検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算ステップと、
を干渉検知方法としてコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は干渉検知装置、干渉検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信において、干渉等による通信品質の低下を発見し、それに対処するための技術が開発されている。例えば、特許文献1には、ある通信区間での通信品質の低下と、その通信区間外での通信品質の低下に関する学習モデルを用いて、通信区間内外での将来の通信品質の低下量または通信品質の低下の発生の有無を予測する通信品質低下予測システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/116417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通信における干渉には、信号に影響を与えるものもあれば、影響をほとんど与えないものもある。通信における干渉として、この両方を検知装置が検知した場合、ユーザは、両方の干渉に対して対処をすることになるため、信号に影響を与える干渉への対処が遅れたり、干渉への対処にかかる時間が増大したりするという問題があった。
【0005】
本開示の目的は、上述した課題を鑑み、通信において対処すべき干渉の優先度をユーザが判断することができる干渉検知装置、干渉検知方法及びプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態にかかる一態様の干渉検知装置は、通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習部と、通信信号における検知対象信号を取得する取得部と、検知対象信号における干渉を検知する干渉検知部と、検知対象信号、干渉検知部の干渉検知結果、及び学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算部を備える。
【0007】
本実施形態にかかる一態様の干渉検知方法は、通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習ステップと、通信信号における検知対象信号を取得する取得ステップと、検知対象信号における干渉を検知する干渉検知ステップと、検知対象信号、干渉の検知結果、及び学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算ステップを干渉検知装置が実行するものである。
【0008】
本実施形態にかかる一態様のプログラムは、通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する信号状態モデル学習ステップと、通信信号における検知対象信号を取得する取得ステップと、検知対象信号における干渉を検知する干渉検知ステップと、検知対象信号、干渉の検知結果、及び学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算する重大度計算ステップを干渉検知方法としてコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、通信において対処すべき干渉の優先度をユーザが判断することができる干渉検知装置、干渉検知方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1にかかる干渉検知装置の一例を示すブロック図である。
図2】実施の形態1にかかる干渉検知装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】実施の形態2にかかる干渉検知システムの一例を示すブロック図である。
図4】実施の形態2にかかる信号状態モデルの例を示す状態遷移図である。
図5】実施の形態2にかかる干渉の深刻度の例を示すグラフである。
図6A】実施の形態2にかかる干渉検知装置の信号状態モデルを学習する処理の一例を示すフローチャートである。
図6B】実施の形態2にかかる干渉の有無を判定する処理の一例を示すフローチャートである。
図6C】実施の形態2にかかる深刻度を計算する処理の一例を示すフローチャートである。
図6D】実施の形態2にかかる深刻度を計算する処理の一例を示すフローチャートである。
図7】各実施の形態にかかる装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1について説明する。
図1は、干渉検知装置の一例を示すブロック図である。干渉検知装置10は、無線通信又は有線通信における受信側に設けられており、通信に係る信号(通信信号)における干渉を検知する。図1の干渉検知装置10は、信号状態モデル学習部11、取得部12、干渉検知部13及び重大度計算部14を備える。干渉検知装置10の各部(各手段)は、不図示の制御部(コントローラ)により制御される。以下、各部について説明する。
【0012】
信号状態モデル学習部11は、通信信号における学習信号を用いて信号状態モデルを学習する。通信信号は、複数の信号状態を取り得る信号であり、例えばデジタル信号の場合は、1(オン状態)又は0(オフ状態)の2値の状態を有することになるが、3値以上の状態を有する信号であっても良い。学習信号は、通信信号のうち、後述の検知対象信号における信号状態を判定するための学習に用いられる信号である。学習信号は、後述の取得部12から干渉検知装置10が取得するものであっても良いし、予め干渉検知装置10が記憶しているものであっても良い。
【0013】
信号状態モデルは、学習信号が取り得る複数の状態について、あるタイムスロット(信号の1単位となる時間帯)において信号がある状態にある場合に、隣接したタイムスロットで信号がその状態と異なる別の状態に遷移する遷移確率が定義された状態遷移モデルである。例えば、信号が第1の状態及び第2の状態の2値の状態を取り得る場合には、信号状態モデルは、第1の状態から第2の状態に遷移する遷移確率と、第2の状態から第1の状態に遷移する遷移確率と、各状態が継続となる遷移確率を定義する。また、信号が3値A、B、Cの状態を取り得る場合には、信号状態モデルは、AからBに遷移する遷移確率、BからAに遷移する遷移確率、AからCに遷移する遷移確率、CからAに遷移する遷移確率、BからCに遷移する遷移確率、CからBに遷移する遷移確率及び各状態が継続となる遷移確率を定義する。
【0014】
取得部12は、通信信号における検知対象信号を取得するインタフェースであり、干渉検知部13及び重大度計算部14に、取得した検知対象信号を出力する。検知対象信号が取り得る複数の信号状態は、学習信号が取り得る複数の信号状態と共通である。また、検知対象信号は、学習信号と同一又は近接した周波数帯の信号であっても良い。例えば、検知対象信号及び学習信号は同じ機器又は近接した機器で受信される無線信号であり、検知対象信号は学習信号とは異なる期間に干渉検知装置10が受信したものであっても良い。あるいは、検知対象信号の送信元からの干渉検知装置10への伝送経路の一部が、学習信号の送信元からの干渉検知装置10への伝送経路の一部と共通又は近接した、有線又は無線の経路であっても良い。例えば、学習信号と、検知対象信号は、干渉検知装置10に接続された共通のLAN(Local Area Network)ケーブルを介して、干渉検知装置10に送信されても良い。ここで「近接」は、検知対象信号と学習信号とで同じ干渉が生ずる条件を示す。例えば、検知対象信号が学習信号と近接した周波数帯の信号であるとは、検知対象信号を受信可能な帯域幅で、学習信号が受信可能であることを意味する。
【0015】
干渉検知部13は、検知対象信号における干渉を検知する。信号の干渉検知対象となる期間は、例えば、学習期間とは重複しない期間であり、干渉検知部13は、干渉が検知対象信号のどのタイムスロットに存在するかを検知することができる。
【0016】
重大度計算部14は、検知対象信号、干渉検知部13の干渉検知結果、及び学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算する。詳細には、重大度計算部14は、検知対象信号において干渉が生じた1又は複数のタイムスロットにおける時系列の前又は後の少なくともいずれかの期間(1又は複数のタイムスロット)における信号状態のデータに、学習済みの信号状態モデルを適用する。これにより、重大度計算部14は、干渉が生じたタイムスロットにおける信号状態がオンとなる確率が高いか、又は、干渉が生じた期間が長いほど、重大度を高く判定する。干渉が生じたタイムスロットにおける信号状態がオンとなる確率が高い場合は、干渉は信号のオン状態と重なり合っている可能性が高いため、干渉が信号に影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。また、干渉が生じた期間が長い場合は、干渉が信号のオン状態と重なり合っている可能性が高いか、又は、干渉が信号のオン状態と重なり合う期間が長いと考えられる。この場合も、干渉が信号に影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。
【0017】
図2は、干渉検知装置10の代表的な処理の一例を示したフローチャートであり、このフローチャートによって、干渉検知装置10の処理が説明される。まず、干渉検知装置10の取得部12は、学習信号を用いて信号状態モデルを学習する(ステップS11;信号状態モデル学習ステップ)。
【0018】
次に、取得部12は、検知対象信号を取得する(ステップS12;取得ステップ)。干渉検知部13は、その検知対象信号における干渉を検知する(ステップS13;干渉検知ステップ)。そして、重大度計算部14は、検知対象信号、干渉検知部13の干渉検知結果、及び学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算する(ステップS14;重大度計算ステップ)。なお、干渉検知装置10は、表示部、音声出力部等によって、計算された重大度をユーザに通知することができる。
【0019】
以上のようにして、干渉検知装置10は、信号状態モデルを用いて、検知対象信号における干渉の重大度を計算することができる。そのため、ユーザは、計算された重大度に基づいて、干渉が重大か否かをすぐに理解することができるため、通信において対処すべき干渉の優先度をユーザが判断することができる。
【0020】
実施の形態2
以下、図面を参照して本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、実施の形態1にて説明した干渉検知装置10の具体例を開示する。
【0021】
図3は、干渉検知システム20の一例を示すブロック図である。干渉検知システム20は、無線信号の干渉検知システムを構成する装置であり、受信部21、信号状態モデル学習部22、信号状態計算部23、干渉検知部24、深刻度計算部25及び深刻度提示部26を備える。以下、各部の詳細について説明する。
【0022】
受信部21は、図示しない送信装置からの無線信号R(実施の形態1における通信信号)を受信するインタフェースである。無線信号Rは、所定の周波数帯で伝送されるものであって、オン状態又はオフ状態の2値を有する信号である。受信部21は、取得した学習期間における無線信号R(学習信号)の信号情報を、信号状態モデル学習部22に出力し、取得した検知期間における無線信号R(検知対象信号)の信号情報を、信号状態計算部23及び干渉検知部24に出力する。なお、学習期間は、検知期間よりも時系列が前の期間である。このように、学習信号と検知対象信号は、それぞれ異なる無線信号Rの信号情報を含む。学習信号では、信号のオン状態・オフ状態が信号状態モデル学習部22によって解析され、既知となる。これに対し、検知対象信号では、信号のオン状態・オフ状態が信号状態計算部23の計算によって導出される。
【0023】
信号状態モデル学習部22は、取得した学習信号を用いて、事前に定義された信号状態モデルに基づき、信号状態モデルを学習する。ここで、信号状態モデルとは、計算対象となる信号の各タイムスロットにおける値が、オン状態かオフ状態かを計算するために用いられるモデルである。信号状態モデルは、信号状態モデル学習部22によって事前に定義される、信号状態、遷移、学習によって決まる遷移確率を有する。信号状態モデル学習部22は、学習信号における信号状態の情報を用いて、遷移確率を学習する。
【0024】
上述の計算対象となる信号とは、音声通信であれば音声、データ通信であればデータ、管理用の通信であれば管理情報などの、干渉検知システムにおいて干渉を受ける側の信号である。信号状態モデル学習部22は、受信した信号を復調すること、または、ある周波数帯において、ある受信レベル以上の強度で受信されていることを検出することで、オン状態の信号(オン信号)が含まれるかどうかを判定することができるが、他の手法で信号を判断しても良い。このようにして、信号状態モデル学習部22は、検知対象信号が伝送される前に、信号状態モデルを学習する。学習済みの信号状態モデルは、信号状態計算部23に出力される。また、学習済みの信号状態モデルは、図示しない記憶部に格納されても良い。
【0025】
図4は、信号状態モデル学習部22が生成する信号状態モデルの例を示す状態遷移図である。図4における信号状態モデルでは、信号のオン状態(S1)とオフ状態(S2)、各状態が継続となる遷移確率、及び各状態がそれぞれ異なる状態へ遷移する遷移確率が設定されている。図4では、解析対象となるタイムスロットにおいて信号がオンであった場合に、時系列で次のタイムスロットになった際に信号がオンとなる確率(状態が継続する確率)をp(S1)、信号がオフとなる確率(状態が遷移する確率)を1-p(S1)と設定している。一方、あるタイムスロットにおいて信号がオフであった場合に、時系列で次のタイムスロットになった際に信号がオフとなる確率をp(S2)、信号がオフとなる確率を1-p(S2)と設定している。信号状態モデル学習部22は、これらの4つの遷移確率を、学習により決定する。
【0026】
なお、信号状態モデル学習部22は、各遷移確率を決定するパラメータとして、遷移元の状態のみを定義しても良いし、更にその他のパラメータを定義しても良い。その他のパラメータは、例えば、現在の信号状態が継続している時間長(タイムスロット数)や、遷移回数といったものである。信号状態モデル学習部22は、学習によってこのようなパラメータを設定することにより、各遷移確率を決定する。また、信号状態モデルの状態、取り得る状態数や遷移の方法は、図4に示したものに限らない。
【0027】
図3に戻り、説明を続ける。信号状態計算部23は、信号状態モデル学習部22が生成した学習済みの信号状態モデルと、受信部21から出力された検知対象信号の信号情報を用いて、検知対象信号の信号状態を計算する。例えば、図4に示す信号状態モデルでは、信号状態がオン信号かオフ信号であるため、干渉がない期間の信号情報において、あるタイムスロットの信号状態がオン信号かオフ信号のどちらであるかを、信号状態モデルを用いて、計算によって導出する。そして、導出した信号状態を深刻度計算部25に出力する。
【0028】
干渉検知部24では、受信した信号情報を用いて干渉判定を行う。この干渉判定には、任意の既存の技術が利用可能であるため、詳細な説明は省略する。既存の技術の例として、干渉判定用の周波数マスクの技術や、何らかの学習によって分類や識別を行う技術を利用しても良い。この周波数マスクを生成する方法として、機械学習のアルゴリズム、例えば、外れ値検知の手法であるOne-Class SVM(Support Vector Machine)を用いることができる。One-Class SVMは一般的な内容であるため省略する。干渉検知部24は、信号の時系列全体に渡って干渉判定を行うことで、信号の各期間又はタイムスロットにおいて、干渉の有無を判断した結果を、深刻度計算部25に出力する。
【0029】
深刻度計算部25は、信号状態計算部23が計算した信号状態と、干渉検知部24が検知した干渉検知結果を用いて、検知対象信号における干渉の深刻度(重大度)を計算する。ここで、深刻度は、オン信号と干渉との重複の有無、及びその重複の程度を意味する、無線通信へ与える影響を考慮したファクターである。言い換えれば、干渉が発生している期間にオン信号が多く、又は干渉が長く発生するほど、その干渉の深刻度が高くなる。以下、深刻度の計算方法についてさらに説明する。
【0030】
図5は、干渉の深刻度の例を示すグラフである。図5には、オン信号O1~O4と、干渉I1~I4が示されている。干渉I1、I2は、オン信号Oと重複していないため、深刻ではない干渉である。一方、干渉I3、I4は、それぞれオン信号O3、O4と重複しているため、深刻な干渉である。また、オン信号O3における干渉I3の時間長よりも、オン信号O4における干渉I4の時間長の方が長いため、干渉I4は、干渉I3よりも深刻度が高い干渉である。
【0031】
干渉される側の無線通信のユーザは意図的に干渉を発生させていないため、一般的に、干渉となる信号の特徴を事前に知ることができない。つまり、図5に示した、オン信号と干渉との重複度合いを知ることができない。このため、信号情報において干渉が発生している期間では、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルを用いて、信号状態を推定する必要がある。
【0032】
(i)例えば、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルで定義された遷移確率と、干渉有りと判定された期間の直前のタイムスロットの信号状態を用いることで、干渉有りと判定された期間におけるオン状態となる確率を計算することができる。1タイムスロット(すなわち、状態遷移判定の1回分の期間)において干渉有りと判定された場合、その干渉有りの期間においてオン状態となる確率Pは、図4に示したモデルでは、以下の通りになる。
(1)干渉有りの期間直前のタイムスロットにおいてオフ状態であった場合、
P=1-p(S2)
(2)干渉有りの期間直前のタイムスロットにおいてオン状態であった場合、
P=p(S1)
深刻度計算部25は、この確率Pに基づいて、深刻度を計算する。ただし、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルで定義された遷移確率と、干渉有りと判定された期間の直後のタイムスロットの信号状態を用いることで、干渉有りと判定された期間におけるオン状態となる確率Pを計算することもできる。
【0033】
(ii)別の例として、干渉有りと判定された期間が複数のタイムスロットに渡る時間長であった場合、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルと、干渉有りと判定された期間の前後の一定期間の信号状態を用いて、干渉有りの期間中の状態遷移経路を推定しても良い。この場合、深刻度計算部25は、推定結果における状態遷移に基づいて、オン状態のタイムスロット数(時間長)、又は信号がオンとなる状態が連続する状態の回数等を、深刻度として計算することができる。また、深刻度計算部25は、遷移確率の高い複数の状態遷移経路の深刻度を合計して、深刻度として計算しても良い。(i)、(ii)に示した以上の例に基づく計算は、後述の計算例として示す。
【0034】
図3に戻り、説明を続ける。深刻度提示部26は、深刻度計算部25で計算された深刻度を干渉検知システム20のユーザに提示するインタフェースである。例えば、深刻度提示部26は、例えば表示部、音声出力部で構成される。
【0035】
図6A~6Dは、干渉検知システム20の代表的な処理の一例を示したフローチャートであり、このフローチャートによって、干渉検知システム20の一連の処理が説明される。なお、各部で実行される処理の詳細は上述の通りであるため、適宜省略する。
【0036】
まず、図6Aに示した、干渉検知システム20の信号状態モデルを学習する処理について説明する。受信部21は、学習期間において無線信号Rを受信することで、学習信号の信号情報を得る(ステップS21)。次に、信号状態モデル学習部22は、ステップS21で得られた信号情報を用いて、信号状態モデルを学習する(ステップS22)。信号状態モデル学習部22は、学習した信号状態モデルを、干渉検知システム20の図示しない記憶部に格納する(ステップS23)。
【0037】
次に、図6Bに示した、干渉検知システム20の検知対象信号の信号状態を学習する処理について説明する。受信部21は、検知期間において無線信号Rを受信することで、検知対象信号の信号情報を得る(ステップS31)。信号状態計算部23は、ステップS31で得られた信号情報と、ステップS22で学習済みの信号状態モデルを用いて、検知対象信号の1タイムスロット毎に信号状態を計算する(ステップS32)。信号状態計算部23は、計算した信号状態を、深刻度計算部25に出力する。なお、信号状態計算部23は、信号状態を、干渉検知システム20の図示しない記憶部に格納しても良い。
【0038】
次に、図6Cに示した、干渉検知システム20の干渉の有無の判定処理について説明する。干渉検知部24は、検知対象信号の1タイムスロット毎に、干渉が存在するか否かを判定する(ステップS41)。なお、干渉検知部24は、タイムスロットの時刻情報と、そのタイムスロットにおける干渉の有無を示す情報を、干渉検知結果として、深刻度計算部25に出力する。
【0039】
検知対象のタイムスロットにおいて干渉が存在する場合(ステップS41のYes)、深刻度計算部25は、ステップS32で計算された、そのタイムスロットでの信号状態と、干渉検知部24が検知した干渉検知結果を用いて、干渉が存在する期間における干渉の深刻度を計算する。この詳細については、後述する。そして、深刻度提示部26は、その深刻度を提示する(ステップS42)。
【0040】
そして、干渉検知部24は、ステップS41の干渉判定結果を、干渉検知システム20の図示しない記憶部に格納する(ステップS43)。なお、ステップS42とS43の処理は、どちらが先になされても良いし、並行してなされても良い。また、検知対象のタイムスロットにおいて干渉が存在しない場合でも(ステップS41のNo)、干渉検知部24は、その干渉判定結果を記憶部に格納するステップS43の処理を実行する。
【0041】
最後に、図6Dに示した、ステップS42の処理の詳細な例について説明する。まず、深刻度計算部25は、干渉有りと判定された期間の直前の信号状態を抽出する(ステップS51)。次に、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルにおいて、ステップS51で抽出された信号状態からオン状態に遷移する遷移確率を判定し、その遷移確率を用いて深刻度を計算する(ステップS52)。深刻度提示部26は、ステップS52で計算された深刻度を、ユーザに提示する(ステップS53)。
【0042】
以上のようにして、干渉検知システム20は、学習済みの信号状態モデルに基づき、干渉有りの期間中に信号がオン状態となる確率を用いて、検知対象信号における干渉の深刻度を計算し、提示することができる。そのため、実施の形態1と同様、ユーザは、通信において対処すべき干渉の優先度を判断することができる。
【0043】
電波を用いた無線通信は、様々な分野で活用されており、その通信における干渉の有無を判定し、干渉に対処する様々な技術がある。通信の中でも、特に重要とされる警察無線や鉄道無線等の通信は重要無線通信と呼ばれる。重要無線通信に対して妨害が生じた場合、人命にもかかわる事態に発展する可能性があるため、これらの通信に用いられる電波の発射状況に対して異常検知(監視)を行うことは非常に重要である。
【0044】
未知の受信信号に対して干渉検知を行う教師なし学習の一種として、干渉を受けていない状態の既知の信号を学習し、未知の信号と学習済みの既知の信号との距離や類似度といったファクターを用いて、干渉検知を行う方法がある。ここで、距離や類似度といったファクターは、実際に利用されている無線通信への干渉の影響が考慮されたものではない。そのため、このような方法を用いて干渉検知システムが自動的に干渉検知を行った場合、干渉検知システムは、無線通信に影響を与えないもの、及び、影響が無視できる程度に少ないものを含めて、大量の干渉を検知してしまう。その結果、干渉検知システムのユーザは、検知された大量の干渉中でどの干渉に対して原因分析や解決等の対処を優先的に行えば良いかが、分からなくなるという問題が発生する。
【0045】
これに対し、干渉検知システム20は、オン状態となっている信号に対して検知された干渉が与える影響(実質的な品質劣化の度合い)を反映した深刻度を、ユーザに提示することができる。そのため、ユーザは、優先的に原因分析や解決などの対処を行うべき干渉を決定することができる。したがって、無線通信における効率的な干渉の対処が可能となる。
【0046】
[計算例]
次に、干渉検知システム20の実施について、具体的な計算例を用いて説明する。以降の例では、干渉検知システム20が、400MHzの周波数帯の電波を、干渉の影響を受ける無線信号Rとして受信する場合を説明する。ここで、400MHzの周波数帯は、400MHzを中心に、1MHzの周波数幅が電波送信に使用されていることを意味する。
【0047】
最初に、ユーザは、干渉検知システム20の受信部21の周波数帯を、上記の通りに設定する。その後、受信部21は、400MHz±0.5MHzの電波を、学習期間である約100秒間、無線信号Rとして受信する。信号状態モデル学習部22は、受信したこの学習信号について、IQ信号の時系列データを得る。ここで、通信がオン状態である場合は受信レベルが高く、オフ状態である場合には受信レベルが低くなる。そのため、信号状態モデル学習部22は、得られた時系列データにおける振幅の時系列データを、振幅の絶対値がある閾値を超える場合をオン状態、その閾値を超えない場合をオフ状態とする状態時系列データへと変換する。なお、オン状態及びオフ状態を判定するための閾値は干渉検知システム20の記憶部に格納されており、信号状態モデル学習部22は学習の際にそれを用いる。この例において、状態時系列データは101サンプル(1サンプル:解析対象となる1タイムスロット)取得できたものとする。
【0048】
[計算例1]
まず、信号状態モデル学習部22が、図4に示した信号状態モデルを計算した例を示す。ここでは、学習信号における時系列データにおいて、オン状態で始まる遷移回数が20回あり、オン状態が継続する遷移回数が18回であると仮定する。このとき、
p(S1)=18/20=0.9 ・・・(1)
となる。ここで、オフ状態で始まる遷移回数が80回あり、オフ状態が継続する遷移回数が78回であると仮定すると、
p(S2)=78/80=0.975 ・・・(2)
となる。信号状態モデル学習部22は、このようにp(S1)及びp(S2)を計算することで、信号状態モデルを学習する。
【0049】
次に、干渉検知システム20の受信部21は、学習信号と同じ周波数帯が設定された状態で電波を受信することにより、検知対象信号であるIQ信号の時系列データを取得する。信号状態計算部23は、この時系列データを、学習信号と同様に、オン状態及びオフ状態が設定された状態時系列データへと変換する。
【0050】
また、干渉検知部24は、受信部21が取得したIQ信号の時系列データを用いて、検知対象信号の干渉判定を行う。ここでは、検知対象信号の状態時系列データで50サンプル目の時間帯に干渉が有ることを、干渉検知部24が判定したと仮定する。
【0051】
深刻度計算部25は、この50サンプル目の干渉についての深刻度を、以下のように計算する。検知対象信号の状態時系列データの49サンプル目の状態がオン状態(S1)であった場合、学習済みの信号状態モデルを参照すると、S1が継続する確率p(S1)は、(1)に示した通り0.9である。そのため、深刻度計算部25は、この干渉についての深刻度を、0.9と計算する。
【0052】
[計算例2]
この計算例2では、干渉検知部24が、検知対象信号における状態時系列データの50サンプル目と51サンプル目の連続した時間帯に干渉が存在することを判定したと仮定する。ここで、学習済みの信号状態モデルは、計算例1に示した通りである。深刻度計算部25は、信号がオン状態(S1)である確率p(S1) が0.9であるため、計算例1と同様にして、50サンプル目の干渉についての深刻度を、0.9と計算する。
【0053】
さらに、干渉検知部24は、50サンプル目に検知対象信号がオン状態(S1)であり、51サンプル目に信号のオン状態が継続する確率p1が、
p1=0.9×0.9 ・・・(3)
であると判定する。また、50サンプル目に検知対象信号がオフ状態(S2)であり、51サンプル目に信号がオン状態に遷移する確率p2は、
p2=0.1×0.025 ・・・(4)
であると判定する。以上から、干渉検知部24は、(3)及び(4)の総和をとることで、51サンプル目の干渉についての深刻度を、0.8125と計算する。
【0054】
[計算例3]
この計算例3では、深刻度計算部25は、計算例2と同様の計算を実行することにより、p1、p2を(3)、(4)に示したように算出する。そして、深刻度計算部25は、50サンプル目と51サンプル目の干渉の総合的な深刻度(すなわち、検知対象信号における深刻度)を、両サンプルにおける深刻度の総和である0.9+0.8125=1.7125と計算する。
【0055】
ただし、深刻度計算部25は、両サンプルにおける深刻度の平均値を、検知対象信号における深刻度として計算しても良い。また、深刻度提示部26は、干渉検知部24が「干渉有り」と判定した干渉の継続長を、深刻度計算部25が算出した深刻度とともに提示しても良い。継続長は、例えばサンプルの数として定義されても良い。この場合、50サンプル目と51サンプル目において干渉があると判定されているので、継続長は2となる。
【0056】
[計算例4]
この計算例4では、信号状態モデルの遷移確率を決定するパラメータとして、対象とするサンプルの信号状態が過去に継続した時間長Lをさらに定義する。時間長Lは、この例では、検知対象信号の状態時系列データ上での、ある状態の継続サンプル数である。例えば、対象とするサンプルの信号状態がオン状態であり、その直前の信号状態がオフ状態であった場合、Lは1となる。一方、対象とするサンプルの信号状態がオフ状態であり、その1個前の信号状態がオフ状態、2個前の信号状態がオン状態であった場合、Lは2となる。
【0057】
また、オン状態(S1)が時間長Lだけ継続した場合に、次のサンプルでもオン状態が継続する確率をp(S1, L)、オフ状態(S2)が時間長Lだけ継続した場合に、次のサンプルでもオフ状態が継続する確率をp(S2, L)と仮定する。信号状態モデル学習部22は、この時間長Lをパラメータとした信号状態モデルを学習する。この学習済みの信号状態モデルにおいて、p(S1,1)、p(S1,4)は次のようになると仮定する。
p(S1,1)=1.0 ・・・(5)
p(S1,4)=0.0 ・・・(6)
【0058】
ここでは、計算例1と同様に、検知対象信号の状態時系列データの50サンプル目の時間帯に干渉が検知され、49サンプル目の状態がオン状態(S1)であり、49サンプル目ではL=1であったと仮定する。深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルを参照することにより、(5)に示したように、オン状態が継続する確率p(S1,1)が1.0であることを判定する。これにより、50サンプル目の干渉の深刻度を1.0と計算する。
【0059】
さらに、検知対象信号の状態時系列データの65サンプル目の時間帯に干渉が検知され、64サンプル目の状態がオン状態(S1)で、64サンプル目ではL=4であったと仮定する。深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルを参照することにより、(6)に示したように、オン状態が継続する確率p(S1,4)が0.0であることを判定する。これにより、64サンプル目の干渉の深刻度を0.0と計算する。
【0060】
以上に示したように、干渉有りと判定された期間までオン状態が継続すると考えられる場合、深刻度は1となり、最大値となる。この場合、ユーザは、その干渉が優先して対処されるべきものであると認識することができる。一方、干渉有りと判定された期間までオン状態が継続すると考えられない場合、深刻度は0となる。この場合、ユーザは、その干渉に対処するための優先度が低い、又は対処の必要がないことを認識することができる。
【0061】
[計算例5]
この計算例5では、計算例4と同様に、信号状態モデル学習部22は、時間長Lをパラメータとして定義し、通信状態モデルを学習する。そして、計算例2と同様、検知対象信号の状態時系列データの50サンプル目と51サンプル目の時間帯に干渉が検出され、49サンプル目の信号状態がオン状態(S1)であると仮定する。さらに、ここでは、52サンプル目の信号状態がオン状態(S1)であったとする。
【0062】
このとき、深刻度計算部25は、通信状態モデルを参照することにより、50サンプル目と51サンプル目について、4種類の状態遷移経路が取り得ることを判定する。この4種類の経路は、経路1[S1,S1,S1,S1]、経路2[S1,S1,S2,S1]、経路3[S1,S2,S1,S1]、経路4[S1,S2,S2,S1]である。なお、各経路における[R1, R2, R3, R4]は、R1が49サンプル目の信号状態、R2が50サンプル目の信号状態、R3が51サンプル目の信号状態、R4が54サンプル目の信号状態である。
【0063】
この計算例5において、通信状態モデルで定義された、計算に関連する遷移確率p(S1,1)、p(S1,2)、p(S1,3)、p(S2,1)、p(S2,2)が、それぞれ
p(S1,1)=0.9 ・・・(7)
p(S1,2)=0.9 ・・・(8)
p(S1,3)=0.7 ・・・(9)
p(S2,1)=1.0 ・・・(10)
p(S2,2)=0.9 ・・・(11)
と仮定する。ここで、深刻度計算部25は、それぞれの経路1~4における遷移確率を、(7)~(11)を用いて、次のように計算する。
(経路1)0.9×0.9×0.7=0.567 ・・・(12)
(経路2)0.9×0.1×0.0=0.0 ・・・(13)
(経路3)0.1×0.0×0.9=0.0 ・・・(14)
(経路4)0.1×1.0×0.1=0.01 ・・・(15)
深刻度計算部25は、(12)~(15)の計算に基づき、経路1が最も遷移確率が高いと判定する。これにより、深刻度計算部25は、干渉を検知した50サンプル目と51サンプル目の期間中の信号状態の遷移経路が経路1であったと推定する。深刻度計算部25は、経路1において干渉が存在する期間中、オン状態(S1)のサンプルが2つ含まれることを判定することにより、この期間の総合的な深刻度を、オン状態であった期間が2サンプル含まれているということを示す、2と計算する。なお、深刻度計算部25は、最も遷移確率が高い経路である経路1の全期間について、オン状態であった期間を判定し、その期間「4」を深刻度として計算しても良い。
【0064】
以上に示した例では、深刻度計算部25は経路の探索を総当たりで行ったが、経路の探索には他の方法を用いても良い。また、深刻度計算部25は、最も遷移確率が高い経路における全期間又は干渉有りの期間でのオン状態であったサンプル数に代えて、オン状態であった時間長を深刻度としても良い。例えば、上述の例において、1サンプルの時間長が1秒であれば、深刻度は2となる。
【0065】
また、別の例として、深刻度計算部25は、各経路中において、1又は複数のサンプル数で連続するオン状態を固有の信号ととらえて、干渉ありと判定された期間における固有の信号数(経路1~3では1、経路4では0)を判定し、最も遷移確率が高い経路の干渉ありと判定された期間における固有の信号数を深刻度として計算しても良い。または、深刻度計算部25は、最も遷移確率が高い経路について、干渉ありと判定された期間ではなく、干渉ありと判定された期間の前後を含む経路の全期間において、その固有の信号数を判定しても良い。例えば、上述の通り、検知対象信号の状態時系列データの50サンプル目と51サンプル目の時間帯に干渉が検出され、49サンプル目と52サンプル目の信号状態がオン状態(S1)であると仮定する。そして、計算に関連する遷移確率Pが(7)~(11)のように設定されている場合、干渉ありと判定された期間の前後を含む経路では、(12)の経路1が最も遷移確率が高いと判定される。このため、深刻度計算部25は、経路1中における固有の信号数が「1」であると判定することで、深刻度を「1」として計算する。
【0066】
深刻度提示部26は、計算例1~5のようにして算出された各サンプルにおける干渉の深刻度、又は全ての干渉を考慮した検知対象信号における深刻度を、ユーザに提示する。なお、深刻度提示部26は、干渉検知部24が検知した干渉が存在する期間を、深刻度と関連付けて提示しても良い。また、計算例2、3、5のように、複数サンプルに渡って干渉が存在すると判定された場合、深刻度提示部26は、干渉が存在する期間の長さ(例えばサンプル長)を、深刻度と共に提示しても良い。さらに、深刻度提示部26は、複数サンプルに渡って干渉が存在すると判定された場合に、各サンプルにおける深刻度を提示しても良い。
【0067】
以上に示したように、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルにおける複数のサンプル(タイムスロット)での信号状態の状態遷移経路に基づいて、複数のサンプルの各々について干渉の深刻度を計算することができる。これにより、ユーザは、複数のサンプルで発生した干渉の中から、優先すべき干渉を判別して対処することができるため、効率的な対処をすることができる。
【0068】
ここで、深刻度計算部25は、計算した複数のサンプルの各々の深刻度に基づいて、検知対象信号における干渉の深刻度を計算することもできる。そのため、ユーザは、複数のサンプル全体において発生した干渉について、優先して対処するか否かを判定することができる。例えば、深刻度が高い場合、ユーザは干渉に優先して対処する必要があると判断するのに対し、深刻度が低い場合、ユーザは干渉に対処する必要が低いと判断することができる。
【0069】
また、信号状態モデルは、信号状態がオン状態とオフ状態のいずれかを取り得る(つまり、信号状態の遷移状態数が2である)。したがって、干渉検知システム20は、通常のデジタル信号に対して、干渉の深刻度を計算することができる。
【0070】
ここで、信号状態モデル学習部22は、信号状態モデルの状態遷移確率のパラメータとして、オン状態が継続するサンプル(タイムスロット)長を設定することができる。深刻度計算部25は、パラメータと、検知対象信号において、干渉検知部24が干渉を検知したサンプルの直前においてオン状態が継続したサンプル数を用いて、検知対象信号における干渉の深刻度を計算する。これにより、干渉検知システム20は、さらに精度の高い深刻度を提示することができる。
【0071】
また、深刻度計算部25は、干渉検知部24が干渉を検知した期間の直前及び直後の検知対象信号の信号状態と、学習済みの信号状態モデルを用いて、その期間における信号状態の複数の状態遷移経路のうち最大の遷移確率を有する状態遷移経路を特定する。そして、特定した状態遷移経路の全期間又は干渉が検知された期間の少なくともいずれかにおける、信号がオン状態となる時間長、信号がオン状態となるタイムスロットの回数、信号がオン状態となる状態が連続する状態の回数、又はこれらいずれかの期待値、の少なくともいずれかを干渉の深刻度として計算することができる。これにより、干渉検知システム20は、信号の性質に応じた適切な指標である深刻度を提示することができる。なお、最大の遷移確率を有する状態遷移経路は、複数存在しても良い。
【0072】
また、学習信号及び検知対象信号は、同一又は近接した周波数帯の無線信号であっても良い。これにより、干渉検知システム20は、ある周波数帯における無線信号の干渉の深刻度を、その信号の内容を事前に把握することなしに検知することができる。
【0073】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施の形態2における計算例1~5では、深刻度提示部26がサンプルの昇順(時系列順)に状態遷移が発生するとして、状態遷移確率を計算したが、サンプルの降順(時系列順の逆)に状態遷移が発生するとして、状態遷移確率を計算しても良い。例えば、計算例1において、検知対象信号の状態時系列データの51サンプル目の状態がオン状態(S1)であった場合、深刻度計算部25は、学習済みの信号状態モデルを参照し、S1が50サンプル目まで継続する確率を特定する。そして、深刻度計算部25はその確率を、50サンプル目の干渉についての深刻度として計算する。
【0074】
計算例5において、深刻度計算部25は、算出したそれぞれの経路における遷移確率を用いて、干渉ありと判定された期間(具体的には50サンプル目と51サンプル目の時間帯)においてオン状態であったサンプル数の期待値を、深刻度として計算しても良い。例えば、上述の計算例5では、サンプル数の期待値は
(2*0.567+1*0.0+1*0.0+0*0.01)≒1.134 ・・・(16)
となるため、深刻度は1.134となる。
【0075】
または、計算例5において、深刻度計算部25は、算出したそれぞれの経路における遷移確率を用いて、干渉ありと判定された期間だけでなく、その前後の期間を含む経路上の全期間(具体的には49~52サンプル目の時間帯)においてオン状態であったサンプル数の期待値を、深刻度として計算しても良い。例えば、上述の計算例5では、サンプル数の期待値は
(4*0.567+3*0.0+3*0.0+2*0.01)≒2.27 ・・・(17)
となるため、深刻度は2.27となる。このように、深刻度計算部25は、サンプル数の期待値を計算する対象となる期間を、干渉ありと判定された期間としても良いし、干渉ありと判定された期間と、その前後の期間を含む経路上の全期間としても良い。
【0076】
図7は、以上に示した各実施の形態の処理が実行される情報処理装置(信号処理装置)のハードウェア構成例を示すブロック図である。図7を参照すると、この情報処理装置90は、信号処理回路91、プロセッサ92及びメモリ93を含む。
【0077】
信号処理回路91は、プロセッサ92の制御に応じて、信号を処理するための回路である。なお、信号処理回路91は、送信装置から信号を受信する通信回路を含んでいても良い。
【0078】
プロセッサ92は、メモリ93からソフトウェア(コンピュータプログラム)を読み出して実行することで、上述の実施形態において説明された装置の処理を行う。プロセッサ92の一例として、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Demand-Side Platform)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のうち一つを用いてもよいし、そのうちの複数を並列で用いてもよい。
【0079】
メモリ93は、揮発性メモリや不揮発性メモリ、またはそれらの組み合わせで構成される。メモリ93は、1個に限られず、複数設けられてもよい。なお、揮発性メモリは、例えば、DRAM (Dynamic Random Access Memory)、SRAM (Static Random Access Memory)等のRAM (Random Access Memory)であってもよい。不揮発性メモリは、例えば、PROM (Programmable Random Only Memory)、EPROM (Erasable Programmable Read Only Memory) 等のROM (Random Only Memory)、フラッシュメモリや、SSD(Solid State Drive)であってもよい。
【0080】
メモリ93は、1以上の命令を格納するために使用される。ここで、1以上の命令は、ソフトウェアモジュール群としてメモリ93に格納される。プロセッサ92は、これらのソフトウェアモジュール群をメモリ93から読み出して実行することで、上述の実施形態において説明された処理を行うことができる。
【0081】
なお、メモリ93は、プロセッサ92の外部に設けられるものに加えて、プロセッサ92に内蔵されているものを含んでもよい。また、メモリ93は、プロセッサ92を構成するプロセッサから離れて配置されたストレージを含んでもよい。この場合、プロセッサ92は、I/O(Input/Output)インタフェースを介してメモリ93にアクセスすることができる。
【0082】
干渉検知装置10又は干渉検知システム20が有する1又は複数のプロセッサは、以上に説明したように、図面を用いて説明されたアルゴリズムをコンピュータに行わせるための命令群を含む1又は複数のプログラムを実行する。この処理により、各実施の形態に記載された信号処理方法が実現できる。
【0083】
プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disk(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0084】
以上、実施の形態を参照してこの開示を説明したが、この開示は上記によって限定されるものではない。この開示の構成や詳細には、開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0085】
10 干渉検知装置
11 信号状態モデル学習部 12 取得部
13 干渉検知部 14 重大度計算部
20 干渉検知システム
21 受信部 22 信号状態モデル学習部
23 信号状態計算部 24 干渉検知部
25 深刻度計算部 26 深刻度提示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7