(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182510
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】金属材料接合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/323 20140101AFI20221201BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20221201BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20221201BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/21 G
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090107
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000121202
【氏名又は名称】エンシュウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕文
(72)【発明者】
【氏名】高林 真宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利夫
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA31
4E168BA86
4E168BA87
4E168BA89
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168EA17
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】接合対象物の種類の制約を小さくしてより広範な接合対象物、特に、狭小空間での接合作業も行うことができる金属材料接合物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属材料接合物の製造方法は、アルミニウム材からなるベース体101に対してステンレス材からなる接合体104を接合するものであり、主として、レーザ皮膜形成工程およびレーザ接合工程をそれぞれ含んでいる。レーザ皮膜形成工程は、軟鋼で構成されて皮膜103の原料Gをレーザ光L1を用いて溶融した溶融物Yをベース体101の表面に積層して皮膜103を形成する。レーザ接合工程は、皮膜103に宛がわれた接合体104に対してレーザ光L2を照射することで皮膜103および接合体104の各一部を溶融させて固化させた溶接部Bを形成することでベース体101と接合体104とを皮膜103を介して接合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種または異種の2つの金属材料のうちの一方の金属材料からなるベース体に他方の金属材料からなる接合体を接合した金属材料接合物の製造方法であって、
前記ベース体の表面に前記接合体と同種の金属材料をレーザ光を用いて溶融させて皮膜を形成するレーザ皮膜形成工程と、
前記皮膜上に前記接合体を配置してこの接合体側からレーザ光を照射することで前記皮膜と前記接合体とを互いにレーザ溶接するレーザ接合工程とを有することを特徴とする金属材料接合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した金属材料接合物の製造方法において、さらに、
前記ベース体の表面に微細な凹凸部を形成する凹凸部形成工程を含み、
前記レーザ皮膜形成工程は、
前記凹凸部上に前記皮膜を形成することを特徴とする金属材料接合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した金属材料接合物の製造方法において、さらに、
前記ベース体に形成された前記皮膜の表面を前記接合体における接合部分の表面形状に対応する形状に形成する皮膜表面調整工程を含むことを特徴とする金属材料接合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに形成した金属材料接合物の製造方法において、
前記ベース体と前記接合体とは、互いに異種材料であることを特徴とする金属材料接合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに形成した金属材料接合物の製造方法において、
前記ベース体は、軽金属であり、
前記接合体は、重金属であることを特徴とする金属材料接合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに形成した金属材料接合物の製造方法において、
前記レーザ皮膜形成工程および前記レーザ接合工程は、
前記ベース体における前記皮膜を形成する部分の近傍に同部分に面して物体が存在する狭小空間内で行われることを特徴とする金属材料接合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、同種または異種の2つの金属材料のうちの一方の金属材料からなるベース体に他方の金属材料からなる接合体を接合した金属材料接合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、異種の2つの金属材料のうちの一方の金属材料に他方の金属材料を接合した金属材料接合物の製造方法が知られている。例えば、下記特許文献1には、アルミニウム材に対して鋼材を低温溶射(所謂コールドスプレー法)することで皮膜を形成した後、この皮膜に鋼材を接合する異材接合構造体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示された異材接合構造体の製造方法においては、金属粉末を高速で吹き付けるコールドスプレー法を用いているため、金属粉末を飛翔させるために長尺に延びたノズルが必要であり、狭小空間での接合加工が極めて困難で接合対象物の種類が制約されるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、接合対象物の種類の制約を小さくしてより広範な接合対象物、特に、狭小空間での接合作業も行うことができる金属材料接合物の製造方法を提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、同種または異種の2つの金属材料のうちの一方の金属材料からなるベース体に他方の金属材料からなる接合体を接合した金属材料接合物の製造方法であって、ベース体の表面に接合体と同種の金属材料をレーザ光を用いて溶融させて皮膜を形成するレーザ皮膜形成工程と、皮膜上に接合体を配置してこの接合体側からレーザ光を照射することで皮膜と接合体とを互いにレーザ溶接するレーザ接合工程とを有することにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、金属材料接合物の製造方法は、金属材料をレーザ光を用いて溶融させて皮膜を形成するレーザ皮膜形成工程によってベース体に接近して皮膜を形成することができるため、接合対象物の種類の制約を小さくしてより広範な接合対象物、特に、狭小空間での接合作業も行うことができる。
【0008】
ここで、接合体と同種の金属材料とは、比較する2つの金属材料において主成分(最も含有量が多い元素)が同じ材料である。例えば、純鉄と炭素鋼とは鉄(Fe)を主成分としている点で同種の金属材料である。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記金属材料接合物の製造方法において、さらに、ベース体の表面に微細な凹凸部を形成する凹凸部形成工程を含み、レーザ皮膜形成工程は、凹凸部上に皮膜を形成することにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、金属材料接合物の製造方法は、ベース体の表面に形成した微細な凹凸部上に皮膜を形成するため、ベース体上に皮膜を強固に固着させることができる。この場合、微細な凹凸部は、算術平均粗さRaが1.6以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.012以下がよい。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記金属材料接合物の製造方法において、さらに、ベース体に形成された皮膜の表面を接合体における接合部分の表面形状に対応する形状に形成する皮膜表面調整工程を含むことにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、金属材料接合物の製造方法は、ベース体に形成された皮膜の表面を接合体における接合部分の表面形状に対応する形状に形成しているため、皮膜と接合体との密着度を高めてベース体上に皮膜を強固に固着させることができる。この場合、接合体における接合部分の表面形状に対応する形状とは、接合体における接合部分に皮膜の表面が密着するように皮膜の表面を接合体における接合部分の形状に添う形状、換言すれば、接合体における接合部分の形状を反転させた対称の形状である。したがって、皮膜の表面は、例えば、接合体における接合部分の形状が平面であれば平面に形成され、凸状の曲面であればこの凸状の曲面に嵌合する凹状の曲面に形成されるものである。
【0013】
また、皮膜の表面を平面に形成する場合には、この表面の平面度を5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下に形成するとよい。ここで、平面度とは、平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさであり、測定対象となる表面を2つの平行な仮想平面で挟んだときに、これら2つの仮想平面の間隔が最小となる場合の2平面の間隔で表されるものである。この平面度は、ダイヤルゲージ、オプティカルフラット(平面ゲージ)またはレーザ光を用いた測定器などで測定することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記金属材料接合物の製造方法において、ベース体と接合体とは、互いに異種材料であることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、金属材料接合物の製造方法は、ベース体と接合体とが互いに異種材料であるため、接合の適用対象物をより広範に採用することができる。ここで、ベース体と接合体とが異種材料とは、比較する2つの金属材料において主成分が異なっている材料である。例えば、炭素鋼に対してアルミニウム材は鉄(Fe)を主成分としていない点で異種の金属材料である。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記金属材料接合物の製造方法において、ベース体は、軽金属であり、接合体は、重金属であることにある。
【0017】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、金属材料接合物の製造方法は、ベース体が軽金属であり、接合体が重金属であるため、接合の適用対象物をより広範に採用することができる。ここで、軽金属としては、比重が4以下の金属であり、例えば、アルミニウム材、マグネシウム材、チタン材またはこれらの合金がある。また、重金属としては、比重が4以上の金属であり、例えは、鉄材、鉛材、金材またはこれらの合金がある。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、前記金属材料接合物の製造方法において、レーザ皮膜形成工程およびレーザ接合工程は、ベース体における皮膜を形成する部分の近傍に同部分に面して物体が存在する狭小空間内で行われることにある。
【0019】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、金属材料接合物の製造方法は、レーザ皮膜形成工程およびレーザ接合工程がベース体における皮膜を形成する部分の近傍に同部分に面して物体が存在する狭小空間内で行われるため、接合の適用対象物をより広範に採用することができる。ここで、狭小空間とは、ベース体における皮膜を形成する部分の周囲に他の物体が接近して存在していることで接合のための作業スペースが狭い空間であって、例えば、建物または乗り物の内部、機械装置の内部または配管の内部などがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る金属材料接合物の製造方法の主要な工程の流れを示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係る金属材料接合物の製造方法によって製造される金属材料接合物の構成の概略を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明に係る金属材料接合物の製造方法における第1工程および第2工程を説明するために
図2に示す金属材料接合物におけるベース体の状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明に係る金属材料接合物の製造方法における第3工程を説明するために
図2に示す金属材料接合物におけるベース体に皮膜を形成する様子を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明に係る金属材料接合物の製造方法における第4工程を説明するために
図4に示す皮膜の表面を加工する様子を模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明に係る金属材料接合物の製造方法における第5工程および第6工程を説明するために
図5に示す皮膜の表面に接合体を配置してレーザ溶接加工を行う様子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る金属材料接合物の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る金属材料接合物100の製造方法の主要な工程の流れを示すフローチャートである。なお、本明細書において参照する図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0022】
金属材料接合物100は、
図2に示すように、同種または異種の2つの金属材料であるベース体101と接合体104とを皮膜103を介して互いの表面同士で接合した部品である。この金属材料接合物100は、四輪自動車または二輪自動車などの自走式車両、船舶または航空機などの乗り物を構成する部品として使用される。
【0023】
まず、作業者は、
図3に示すように、第1工程として、ベース体101を用意する。ベース体101は、後述する接合体104とともに金属材料接合物100を構成する部品であり、接合体104と同種または異種の金属材料で構成することができる。本実施形態においては、ベース体101は、厚さが3mmのアルミニウム製の板材で構成されている。
【0024】
このベース体101は、後述する皮膜103を形成する部分である皮膜形成部Pの近傍に同皮膜形成部Pに面して周囲物体Wが存在する狭小空間Sを形成するように配置されている。ここで周囲物体Wは、ベース体101における皮膜形成部Pの近傍に狭小空間Sを介して対向される物体であり、ベース体101に対して一体的に構成されている場合のほか、ベース体101とは別体で構成されている場合もある。すなわち、周囲物体Wは、ベース体101が建物または乗り物の内部、機械装置の内部または配管の内部などの狭小空間Sに存在する場合に、このベース体101の周囲に存在する物体である。
【0025】
次に、作業者は、
図3に示すように、第2工程として、ベース体101の表面に凹凸部102を形成する。ここで、凹凸部102は、皮膜103の密着度を向上させるための部分であり、ベース体101の表面に微小な凹凸を複数形成して構成されている。この凹凸部102は、グラインダーなどからなる切削工具T1を用いた切削加工によって形成される。この場合、凹凸部102は、算術平均粗さRaが1.6以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.012以下がよい。なお、この凹凸部102は、グラインダーまたはサンドペーパによる磨き加工またはショットブラストによる微小粒子の吹き付けによる塑性加工などの各種機械加工のほか、短パルスレーザなどのレーザ光を用いたレーザ加工、さらには、薬品による腐食加工などの各種加工方法を用いて形成することができる。
【0026】
この凹凸部102は、ベース体101の表面における皮膜103が形成される位置に皮膜103が形成される範囲で形成される。この場合、凹凸部102は、ベース体101の表面における皮膜103が形成される範囲よりも大きな範囲で皮膜103を形成することができるが、皮膜103が形成される範囲よりも小さい範囲で部分的に皮膜103を形成することもできる。この第2工程における凹凸部102を形成する工程が、本発明に係る微細凹凸形成工程に相当する。なお、凹凸部102は、各図において特に誇張して示している。
【0027】
次に、作業者は、
図4に示すように、第3工程として、ベース体101の表面に皮膜103を形成する。ここで、皮膜103は、ベース体101に対して接合体104を接合するための部分であり、接合体104と同種の金属材料によって形成されている。この場合、接合体104と同種の金属材料とは、接合体104に含まれる元素のうち最も含有量が多い元素である主成分が同じ材料である。本実施形態においては、皮膜103は、軟鋼材によって構成されている。この皮膜103は、皮膜形成装置200によって形成される。なお、皮膜103は、各図において特に誇張して示している。
【0028】
(皮膜形成装置200)
皮膜形成装置200は、金属材料で構成された皮膜103の原料Gをレーザ光L1を用いて溶融するとともにこの溶融による溶融物Yをベース体101に向けて飛翔させることでベース体101の表面に皮膜103を形成する機械装置である。ここで、原料Gは、本実施形態においては、皮膜103を構成する軟鋼材をワイヤ状に形成して構成されている。この皮膜形成装置200は、本体201を備えている。本体201は、溶融物Yをベース体101に向けて飛翔させるための部品であり、金属材料を円筒形に形成して構成されている。
【0029】
本体201は、原料導入部202、ガス導入部204a,204b、溶融部206、噴射部207、光学素子ホルダ208およびレーザ光受け209をそれぞれ備えて構成されている。原料導入部202は、皮膜103の原料となる原料Gを導入するための部分であり、本体201の外表面から内部に貫通する貫通孔によって構成されている。この場合、原料導入部202は、溶融部206に開口するように形成されている。また、原料導入部202には、本体201の外側から原料供給管203が接続されている。
【0030】
原料供給管203は、ワイヤ状の原料Gを本体201に導くための部品であり、金属製の管体で構成されている。この原料供給管203は、一方の端部が本体201の原料導入部202に接続されているとともに、他方の端部が原料供給装置(図示せず)に接続されている。原料供給装置は、ワイヤ状の原料Gを連続的に供給する公知の機械装置である。なお、原料供給管203は、剛体のほか、可撓性を有するチューブで構成することもできる。
【0031】
ガス導入部204a,204bは、本体201内に溶融物Yを噴出させるためのガスを導入するための空洞の部分であり、前記原料導入部202に対して本体201の軸線方向の両側(図示上側および下側)にそれぞれ形成されている。この場合、ガス導入部204a,204b内にそれぞれ導入されるガスは、アルゴンガス、ヘリウムガスまたは窒素ガスなどの不活性ガスを用いることができる。これらのガス導入部204a,204bには、本体201の外側から原料供給管203が接続されている。
【0032】
なお、ガス導入部204aは、溶融物Yが後述する光学素子ホルダ208側に飛来することを防止する役目も持っている。また、ガス導入部204bは、溶融物Yが後述するレーザ光受け209側に飛来することを防止する役目も持っている。また、
図4においては、ガス導入部204a,204bから本体201内に供給されるガスを破線矢印で示している。
【0033】
ガス供給管205は、溶融物Yを噴出させるためのガスを本体201に導くための部品であり、金属製の管体で構成されている。このガス供給管205は、一方の端部が本体201のガス導入部204a,204bにそれぞれ接続されているとともに、他方の端部がガス供給装置(図示せず)に接続されている。ガス料供給装置は、溶融物Yを噴出させるためのガスを連続的に供給する公知の機械装置である。なお、ガス供給管205は、剛体のほか、可撓性を有するチューブで構成することもできる。
【0034】
溶融部206は、原料導入部202から導入された原料Gを溶融させるとともに、この溶融した溶融物Yを噴射部207に導く空洞の部分であり、ガス導入部204aとガス導入部204bとの間に括れた形状に形成されている。噴射部207は、溶融部206内で原料Gが溶融した溶融物Yを本体201の外部に導いて噴射させるための空洞の部分であり、溶融部206から外側に向かって断面形状が拡大する円錐状に形成されている。
【0035】
この本体201の両端部には、光学素子ホルダ208およびレーザ光受け209がそれぞれ設けられている。光学素子ホルダ208は、原料Gを溶融させるためのレーザ光L1を溶融部206内に導入された原料Gに集光するためのレンズなどの光学素子を保持する円筒状の部品である。この光学素子ホルダ208は、一方の端部が本体201に接続されているとともに他方の端部が光伝送ケーブル208a(例えば、光ファイバ)を介してレーザ光源(図示せず)に接続されている。レーザ光源は、原料Gを溶融させるためのレーザ光L1を出射する機械装置であり、半導体レーザ(例えば、レーザダイオードなど)、固体レーザ(例えば、YAGレーザなど)、ガスレーザ(例えば、炭酸ガスレーザやエキシマレーザなど)または液体レーザなどの各種レーザ光源によって構成されている。
【0036】
レーザ光受け209は、溶融部206を通過したレーザ光L1の一部を吸収するとともに他の一部を溶融部206とは異なる方向に反射させる部品であり、金属材または樹脂材を黒色などの濃色に形成された有底円筒状に形成されている。この場合、レーザ光受け209は、ガス導入部204b内に張り出す部分が円錐または角錐などの錐状に形成されている。
【0037】
作業者は、皮膜形成装置200における本体201をベース体101における皮膜形成部Pに対して対向配置した状態で皮膜形成装置200の作動を開始させる。この場合、作業者は、本体201を手作業で位置決めを行ってもよいし、位置決め装置などの機械装置を介して位置決めを行ってもよい。これにより、皮膜形成装置200は、噴射部207から原料Gの溶融物Yの滴が大量に噴射されて皮膜形成部P上に付着する。この場合、作業者は、溶融物Yが流動性を有する液状、ジェル状または半固体状で皮膜形成部P上に付着するように噴射部207とベース体101の表面との距離を調整する。
【0038】
この場合、噴射部207とベース体101の表面との距離は、溶融物Yが流動性を有する液状、ジェル状または半固体状で皮膜形成部P上に付着できれば特に限定されるものではないが、本発明者らによる実験によれば、100mm以上かつ200mm以下が好適である。また、皮膜形成部P上に付着する溶融物Yは、ベース体101への衝突による物理的なダメージを考慮すると、流動性が低い半固体状よりも流動性が高い液状またはジェル状が好ましい。また、皮膜形成部P上に付着する溶融物Yは、流動性が高い液状またはジェル状であることにより皮膜103が一体物として形成されて皮膜103自体の剛性を高めることができる。
【0039】
これにより、ベース体101の表面上には、溶融物Yが堆積して固化することで皮膜103が形成される。作業者は、本体201をベース体101に対して平行移動させることでベース体101の表面に平行な方向に皮膜103の形成領域を広げることができる。すなわち、作業者は、皮膜形成部Pの全領域に対して皮膜103を形成することができる。この場合、作業者は、皮膜103の厚さが少なくとも0.5mm以上に形成するとよい。また、この場合、ベース体101の表面に形成される皮膜103は、中央部分が外縁部よりも凸状に盛り上がって外縁部よりも肉厚に形成される。
【0040】
そして、作業者は、皮膜103を形成し終えた場合には、ベース体101に対向する皮膜形成装置200を退避させて狭小空間S内から撤去する。なお、この皮膜103の形成工程においては、ベース体101の表面が溶融することはない。この第3工程における皮膜103を形成する工程が、本発明に係るレーザ皮膜形成工程に相当する。なお、溶融物Yは、各図において特に誇張して示している。また、皮膜形成装置200は、原料Gをレーザ光を用いて溶融させてベース体101上に飛翔させることで皮膜103を形成させることができればよいため、本実施形態の構成以外の構成であってもよいことは当然である。
【0041】
次に、作業者は、
図5に示すように、第4工程として、皮膜103の表面を調整する皮膜表面調整工程を行う。この皮膜表面調整工程は、皮膜103の表面を接合体104における接合部分の表面が密着するようにこの接合部分の表面形状に対応する形状に成形する加工を行うものである。本実施形態においては、作業者は、接合体104における接合部分の表面が平坦面であるため、皮膜103の表面の形状を平坦面に成形する。具体的には、作業者は、グラインダーなどからなる研磨工具T2を用いた切削加工によって皮膜103の表面を平坦面に形成する。なお、作業者は、サンドペーパによる磨き加工を用いて皮膜103の表面を平坦面に形成することもできる。
【0042】
この場合、皮膜103の表面は、平面度を5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下に形成するとよい。ここで、平面度とは、平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさであり、測定対象となる表面を2つの平行な仮想平面で挟んだときに、これら2つの仮想平面の間隔が最小となる場合の2平面の間隔で表されるものである。この平面度は、ダイヤルゲージ、オプティカルフラット(平面ゲージ)またはレーザ光を用いた測定器などで測定することができる。この第4工程における皮膜103の表面を調整する工程が、本発明に係る皮膜表面調整工程に相当する。
【0043】
次に、作業者は、
図6に示すように、第5工程として、接合体104を用意してベース体101に配置する。ここで、接合体104は、ベース体101とともに金属材料接合物100を構成する部品であり、ベース体101と同種または異種の金属材料で構成することができる。本実施形態においては、接合体104は、厚さが3mmのステンレス製の板材で構成されている。
【0044】
次に、作業者は、ベース体101の表面に形成した皮膜103に対して接合体104を密着させる。この場合、接合体104は、皮膜103の表面が接合体104の接合部分と同じ平面状に形成されているため、安定的に皮膜103の表面に密着することができる。
【0045】
次に、作業者は、
図6に示すように、第6工程として、接合体104と皮膜103とをレーザ光を用いて接合するレーザ接合工程を行う。この第6工程におけるレーザ接合工程は、接合体104にレーザ光L2を照射することで接合体104および皮膜103の各一部をそれぞれ溶融させた後固化させることで両部材を互いに接合する所謂レーザ溶接である。
【0046】
このレーザ溶接作業においては、接合体104および皮膜103の各一部をそれぞれ溶融させることができるレーザ光L2を出射するレーザ光源(図示せず)と、このレーザ光源から出射されたレーザ光L2を接合体104上で集光するレーザ溶接ヘッドYHとを用いて行う。この場合、レーザ光L2を出射するレーザ光源は、半導体レーザ(例えば、レーザダイオードなど)、固体レーザ(例えば、YAGレーザなど)、ガスレーザ(例えば、炭酸ガスレーザやエキシマレーザなど)または液体レーザなどの各種レーザ光源によって構成することができる。
【0047】
作業者は、狭小空間S内においてレーザ溶接ヘッドYHを接合体104に対向配置してレーザ溶接ヘッドYHから接合体104に向けてレーザ光L2を照射する。この場合、作業者は、接合体104を貫通して皮膜103の厚さの半分程度まで溶融させるようにレーザ光L2の強度および焦点深度をそれぞれ調整する。そして、作業者は、レーザ溶接ヘッドYHを接合体104の面方向に平行に移動させながらレーザ光L2を断続的または連続的に照射することで接合体104と皮膜103とを断続的または連続的に接合することができる。
【0048】
すなわち、接合体104と皮膜103とは、互いの溶融部分が混ざり合った後固化した柱状の溶接部Bによって互いに接合される。この場合、接合体104と皮膜103とは、隙間なく互いに面接触で密着しているため、精度良く接合される。これにより、ベース体101と接合体104とは、皮膜103を介して互いに接合される。
【0049】
そして、作業者は、接合体104と皮膜103との接合作業を終えた場合には、ベース体101に対向するレーザ溶接ヘッドYHを退避させて狭小空間S内から撤去する。なお、この接合体104と皮膜103との接合工程においては、ベース体101の表面が溶融することはない。この第6工程におけるレーザ接合工程が、本発明に係るレーザ接合工程に相当する。なお、溶接部Bは、各図において特に誇張して示している。
【0050】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、金属材料接合物の製造方法は、金属材料をレーザ光L1を用いて溶融させて皮膜103を形成するレーザ皮膜形成工程によってベース体101に接近して皮膜103を形成することができるため、接合対象物の種類の制約を小さくしてより広範な接合対象物、特に、狭小空間Sでの接合作業を行うことができる。
【0051】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態においては、金属材料接合物100を構成するベース体101と接合体104を互いに異なる材料で構成した。具体的には、ベース体101を軽金属であるアルミニウム製の板材で構成するとともに接合体104を重金属であるステンレス製の板材で構成した。しかし、ベース体101は、アルミニウム材以外の他の軽金属(比重が4以下の金属)、例えば、マグネシウム材、チタン材またはこれらの合金で構成することができる。また、接合体104は、ステンレス材以外の他の重金属(比重が4以上の金属)、例えは、他の炭素鋼を含む鉄材、鉛材、金材またはこれらの合金で構成することができる。また、金属材料接合物100は、ベース体101を重金属で構成するとともに接合体104を軽金属で構成することもできる。
【0053】
また、金属材料接合物100は、金属材料接合物100を構成するベース体101と接合体104を互いに同じ材料で構成することもできる。また、ベース体101および接合体104は、板材以外のブロック材で構成することもできる。
【0054】
また、上記実施形態においては、金属材料接合物100の製造方法は、第2工程として微細凹凸形成工程を実施した。しかし、金属材料接合物100の製造方法は、ベース体101の表面に凹凸部102に相当する凹凸が形成されている場合、または凹凸部102を形成する必要がない場合には微細凹凸形成工程を省略して構成することもできる。
【0055】
また、上記実施形態においては、金属材料接合物100の製造方法は、第4工程として皮膜表面調整工程を実施した。これにより、金属材料接合物100の製造方法は、皮膜103と接合体104とを密着させることができる。この場合、金属材料接合物100の製造方法は、第6工程におけるレーザ接合工程を容易に高精度に加工を行うこともできる。すなわち、皮膜103の表面が球面のような曲面または凹凸面に形成されており、かつ接合体104の接合部分が平坦面であった場合、皮膜103と接合体104との接触面には必ず隙間が生じる。
【0056】
この場合、第6工程におけるレーザ接合工程において作業者は、皮膜103と接合体104との接触面における隙間が生じていない部分にレーザ光L2を照射することは難しい。また、皮膜103の表面が球面のような曲面に形成されている場合、接合体104を所望する角度に接合することは困難である。しかし、皮膜103の表面が接合体104における接合部分に対応する形状に形成されていることで皮膜103の表面と接合体104の接合部分とが互いに密着するため上記した不都合を回避することができる。しかし、金属材料接合物100の製造方法は、上記不都合が無視できる場合には、皮膜表面調整工程を省略して構成することもできる。
【0057】
また、上記実施形態においては、第4工程の皮膜表面調整工程は、皮膜103の表面を平面に形成した。しかし、皮膜表面調整工程は、皮膜103の表面を接合体104における接合部分の形状に対応する形状に形成すればよい。したがって、皮膜表面調整工程は、接合体104における接合部分の形状が曲面または斜面である場合には、これらの曲面または斜面を反転させた曲面または斜面に皮膜103の表面を形成すればよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、皮膜103の原料Gをワイヤ状に形成した。しかし、原料Gは、接合体104と同種の金属材料であればよい。ここで、接合体104と同種の金属材料とは、接合体104と主成分(最も含有量が多い元素)が同じ材料である。したがって、原料Gは、ワイヤ以外の形態、例えば、可撓性を有さない棒材、粉体または粒体であってもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、金属材料接合物100の製造方法は、狭小空間S内に設けられるベース体101と接合体104とを互いに接合した。しかし、金属材料接合物100の製造方法は、狭小空間S内に限られず、十分な作業スペースが確保できる空間に設けられるベース体101と接合体104とを互いに接合することもできる。
【符号の説明】
【0060】
L1…皮膜形成用のレーザ光、L2…レーザ溶接用のレーザ光、P…皮膜形成部、S…狭小空間、G…皮膜の原料、Y…溶融物、W…周囲物体、YH…レーザ溶接ヘッド、B…溶接部、T1…切削工具、T2…研磨工具、
100…金属材料接合物、
101…ベース体、102…凹凸部、103…皮膜、104…接合体、
200…皮膜形成装置、201…本体、202…原料導入部、203…原料供給管、204a,204b…ガス導入部、205…ガス供給管、206…溶融部、207…噴射部、208…光学素子ホルダ、208a…光伝送ケーブル、209…レーザ光受け。