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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182518
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】複合着色粒子
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/08 20060101AFI20221201BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20221201BHJP
【FI】
C09B67/08 A
C09D11/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090118
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD08
4J039AD09
4J039AE04
4J039BE02
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA47
4J039FA03
4J039GA21
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】筆跡の滲み防止や耐擦過性等に優れ、工業的生産に適した水性インク組成物、これに配合される複合着色粒子、および複合着色粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子2及び粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子1を含み、前記樹脂粒子と前記染料含有粒子とがクーロン力によって複合化された複合着色粒子、及び、前記複合着色粒子が水性媒体中に分散した水性インク組成物及び該水性インク組成物を搭載した筆記具を提供する。さらに、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョン及び粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子を含む着色樹脂分散体を混合する複合化工程を含む複合着色粒子の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子及び粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子を含み、前記樹脂粒子と前記染料含有粒子とがクーロン力によって複合化された複合着色粒子。
【請求項2】
複合着色粒子の少なくとも95%が0.2μm~3.0μmの範囲内の粒子径を有する請求項1に記載の複合着色粒子。
【請求項3】
正の電荷を有する樹脂粒子が、カチオン基で修飾された高分子からなる粒子である請求項2に記載の複合着色粒子。
【請求項4】
カチオン基で修飾された高分子が、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項3に記載の複合着色粒子。
【請求項5】
染料含有粒子が、アニオン性を有する樹脂粒子の内部又は表面に染料が包容された着色粒子である請求項1~4の何れか一つに記載の複合着色粒子。
【請求項6】
正の電荷を有する樹脂粒子が、アクリル系樹脂、ウレア系樹脂、ウレタン系樹脂及びウレア-ウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂から構成される請求項5に記載の複合着色粒子。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一つに記載の複合着色粒子が水性媒体中に分散した水性インク組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の水性インク組成物を搭載した筆記具。
【請求項9】
粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンと、粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子を含む着色樹脂分散体とを混合する複合化工程を有する複合着色粒子の製造方法。
【請求項10】
さらに、凝集体を破砕する解凝集工程を含む請求項9に記載の複合着色粒子の製造方法。
【請求項11】
複合着色粒子の少なくとも95%が0.2μm~3.0μmの範囲内の粒子径を有する請求項9又は10に記載の複合着色粒子の製造方法。
【請求項12】
正の電荷を有する樹脂粒子の少なくとも95%が0.1~1.5μmの範囲内の粒子径を有し、かつ、負の電荷を有する染料含有粒子の少なくとも95%が0.01~0.5μmの範囲内の粒子径を有する請求項9~11の何れか一つに記載の複合着色粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用のインク組成物、及びこれに含有される複合着色粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具用インクには、様々な染料又は顔料が着色材として溶剤に溶解または分散されたインク組成物が使用されている。特に水性インク組成物は、軽い筆圧で筆記できる一方、筆記具としての特性が油性インク組成物と比較すると劣る部分があり、改良が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、筆跡の耐水性に優れ、筆跡乾燥とペン先耐乾燥性の良好なボールペン用インキ組成物として、着色剤としての油溶性染料と該染料を溶解し20℃における水100gへの溶解度が5g以下の有機溶剤とから少なくともなる油性インキ成分と、乳化剤成分と、20℃で固体の糖アルコールと、水とから少なくともなり、前記油性インキ成分が水中に乳化分散されたボールペン用O/W型エマルションインキ組成物が開示されている。筆跡の耐水性に優れ、筆跡乾燥とペン先耐乾燥性の良好なインキ組成物が得られることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、染料などの機能性物質と、無水マレイン酸共重合体と、メチロールメラミンと、炭素数6以上の有機アミン塩とを水性媒体に乳化分散させ、得られた水性乳化分散液を加熱縮重合し、無水マレイン酸共重合体のメチロールメラミン縮合物と、無水マレイン酸共重合体と炭素数6以上の有機アミンとの化合物とを含有する皮膜中に機能性物質が内包されたマイクロカプセルを製造する方法が開示されている。これにより得られるマイクロカプセルは、加えられた圧力によって速やかに染料などの機能性物質を放出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-136742公報
【特許文献2】特開2017-12998公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクを搭載した筆記具を使用して布等の繊維質からなる素材表面に筆記する場合、インクが繊維質に染み込んで、筆跡が滲んで見えてしまう現象がしばしば発生する。また、筆跡を擦ったときに筆跡が消えたり薄くなることがある。そのため、筆記具に使用されるインクには、これらに抵抗する性能を有することが求められ、そのための改良が継続して行われている。
また、筆記具は、生活用品として大量生産される性質の商品であるから、これに使用されるインク及びその成分は工業的に良好に生産されるものでなければならない。
【0007】
本発明は、筆跡の滲みの防止とともに筆跡の耐擦過性等に優れた水性インク組成物、及び、これを搭載した筆記具を提供することを課題とする。特に、水性インク組成物に配合される複合着色粒子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、着色剤と樹脂粒子とをクーロン力を利用して複合化することを着想し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子及び粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子を含み、前記樹脂粒子と前記染料含有粒子とがクーロン力によって複合化された複合着色粒子に関する。
【0009】
また、本発明は、前記複合着色粒子が水性媒体中に分散した水性インク組成物及び該水性インク組成物を搭載した筆記具に関する。
さらに、本発明は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンと粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子を含む着色樹脂分散体とを混合する複合化工程を含む複合着色粒子の製造方法に関する。
【0010】
なお、本発明において、クーロン力とは、電荷の符号が正負である荷電粒子間にはたらく引力(静電気力)をいう。また、「粒子表面において正(又は負)の電荷を有する」とは、粒子が少なくとも表面において正(又は負)の電荷を有することを意味し、粒子表面のみが正(又は負)の電荷を有する場合、及び粒子内部が正(又は負)の電荷を有することによって粒子表面が正(又は負)の電荷を有する場合を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筆記性に優れ、かつ筆跡の滲みの防止及び筆跡の耐擦過性にも優れた水性インク組成物、及び、これを搭載したボールペンやマーキングペンなどの筆記具が提供される。
本発明によれば、前記水性インク組成物に配合される複合着色粒子及びその工業的生産に適した製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の例を説明するための模式図である。粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子と粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子とがクーロン力によって複合化し、大粒径の複合着色粒子を形成することを示す。
図2図2は、実施例1で解凝集を行って得られた複合着色粒子P-1の粒子径頻度分布図である。
【0013】
なお、本発明において、カチオン性樹脂粒子及び複合着色粒子の粒子径分布は、レーザー回折法により測定することができ、アニオン性染料含有粒子は、動的光散乱法により測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について詳しく説明する。但し、本発明には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成要素を追加又は変更することができ、本発明の技術的範囲は、記載された実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ。
【0015】
<カチオン性樹脂粒子>
本発明に用いられる樹脂粒子は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子(以下、カチオン性樹脂粒子ということがある)である。このような樹脂粒子としては、カチオン基で修飾された高分子からなる樹脂粒子が使用でき、具体的には、樹脂粒子に試剤を付着又は反応させて正の電荷を生じせしめたもの、及び、樹脂粒子を調製する際に正の電荷を有する官能基又はその前駆体を含むモノマーを共存させて、生成する高分子をカチオン化せしめたものが挙げられる。
【0016】
本発明に用いられる樹脂粒子は、カチオン基を有する高分子からなる樹脂粒子が好適に使用される。かかる高分子としては、カチオン基で修飾された、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂から選ばれた少なくとも1種の高分子によって主に構成されることが好ましい。
【0017】
酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子
酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子は、酢酸ビニルモノマーの他にカチオン性モノマー又はカチオン性乳化剤等のカチオン性助剤を加えて重合されたものが好ましい。例えば、酢酸ビニルモノマー単独、又は酢酸ビニルモノマーと塩化ビニルや(メタ)アクリル系モノマー等の酢酸ビニルモノマーと共重合可能なコモノマーの混合物を用いて重合する際に、カチオン性乳化剤を用いたり、カチオン基を有するポリマーを保護コロイドとしたり、あるいはカチオン性モノマーを加えて逆相乳化重合を行うことにより作製される。
【0018】
好ましくは、カチオン性乳化剤としてカチオン性界面活性剤を用いた乳化重合により、酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することができる。カチオン性界面活性剤としては、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド等のアルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド等のテトラアルキルアンモニウムクロライド、及び、アルキルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライド等のアルキル基の炭素数が8~18、エチレンオキシド付加数が2~15倍モルのEO付加型アンモニウムクロライドなどが挙げられる。乳化重合に使用されるカチオン性界面活性剤の使用量は、モノマー100質量部に対して1~10質量部が好ましく、2~5重量部がより好ましい。
【0019】
また、ノニオン系の界面活性剤を用いて乳化重合した後、カチオン性物質、例えばカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンなどを添加して酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。
【0020】
さらに、(メタ)アクリル系モノマー、又は、(メタ)アクリル系モノマーとスチレン系コモノマーの混合物に、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルあるいは(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリレート、または(メタ)アクリルアミドジメチルアミノプロピルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリルアミドなどのアミノ基含有モノマーを添加して共重合させた後、アルキル化剤で四級化して酢酸ビニル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。アルキル化剤としては、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化ドデシル、臭化ドデシル、塩化テトラデシル、臭化テトラデシル、塩化へキサデシル、臭化ヘキサデシルなどのハロゲン化アルキルが使用される。
【0021】
アクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子
アクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子は、アクリル系モノマーの他にカチオン性モノマー又はカチオン性乳化剤等のカチオン性助剤を加えて重合されたものが好ましい。例えば、(メタ)アクリルモノマー単独、又は(メタ)アクリルモノマーと(メタ)アクリルモノマーと共重合可能なコモノマーの混合物を用いて重合する際に、カチオン性乳化剤を用いたり、カチオン基を有するポリマーを保護コロイドとしたり、あるいはカチオン性モノマーを加えて逆相乳化重合を行うことにより作製される。
【0022】
好ましくは、カチオン性乳化剤としてカチオン性界面活性剤を用いた乳化重合により、アクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することができる。カチオン性界面活性剤としては、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド等のアルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド等のテトラアルキルアンモニウムクロライド、及び、アルキルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライド等のアルキル基の炭素数が8~18、エチレンオキシド付加数が2~15倍モルのEO付加型アンモニウムクロライドなどが挙げられる。乳化重合に使用されるカチオン性界面活性剤の使用量は、モノマー100質量部に対して1~10質量部が好ましく、2~5重量部がより好ましい。
【0023】
また、ノニオン系の界面活性剤を用いてアクリル系モノマーを乳化重合した後、カチオン性物質、例えばカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレンイミンなどを添加してアクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。
【0024】
さらに、(メタ)アクリルモノマー、又は、(メタ)アクリルモノマーとスチレン系コモノマーの混合物に、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルあるいは(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリレート、または(メタ)アクリルアミドジメチルアミノプロピルなどのN-置換アミノアルキル(メタ)アクリルアミドなどのアミノ基含有モノマーを添加して共重合させた後、アルキル化剤で四級化してアクリル系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することもできる。アルキル化剤としては、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化ドデシル、臭化ドデシル、塩化テトラデシル、臭化テトラデシル、塩化へキサデシル、臭化ヘキサデシルなどのハロゲン化アルキルが使用される。
【0025】
ウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子
ウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子としては、四級化アンモニウム基を有するウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子が好ましい。このカチオン性樹脂粒子は、例えば、溶剤中または無溶剤で、ポリオール、ポリイソシアネート及び三級アミノ基含有ポリオールを反応させてポリウレタンの分散液を作製し、次いで、ポリウレタン中の三級アミノ基を酸でプロトン化、あるいはアルキル化剤で四級化することにより、四級化アンモニウム基を有するウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子を作製することができる。
【0026】
他の作製方法としては、溶剤中または無溶剤で、ポリオール、ポリイソシアネート及び三級アミノ基含有ポリオールを所定比率で反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを作製した後、ポリアミンを用いて該ウレタンプレポリマーを鎖伸長させ、ウレタン樹脂粒子の分散液を作製する。次いで、ウレタン樹脂中の三級アミノ基を酸でプロトン化、あるいはアルキル化剤で四級化する。これにより、四級化アンモニウム基を有するウレタン系樹脂のカチオン性樹脂粒子が作製される。
【0027】
三級アミノ基を四級化するアルキル化剤は、アミノ基にアルキル基を付加して第四級アンモニウムカチオンを生成する試剤であって、塩化オクチル、臭化オクチル、塩化ドデシル、臭化ドデシル、塩化テトラデシル、臭化テトラデシル、塩化へキサデシル、臭化ヘキサデシルなどのハロゲン化アルキルが好ましく使用される。
【0028】
本発明に用いられるカチオン性樹脂粒子は、微粒子の含有量が少なく、粒子径の揃ったものが好ましい。具体的には、粒子径分布において、その少なくとも95%の粒子が0.1μm~3.0μmの範囲内の粒子径を有するものが好ましく、その少なくとも95%の粒子が0.1μm~2.0μmの範囲内の粒子径を有するものがより好ましい。
【0029】
<アニオン性染料含有粒子>
本発明に用いられる染料含有粒子は、粒子表面において負の電荷を有し、染料を含有する樹脂粒子(単に、染料含有粒子ということがある)である。
染料含有粒子には、アニオン性を有する樹脂粒子の内部又は表面に染料が包容された粒子、及び樹脂粒子の内部又は表面にアニオン性の染料が包容された粒子が含まれ、特に、アニオン性を有する樹脂粒子の内部又は表面に染料が包容された微粒子が好ましい。
【0030】
アニオン性を有する樹脂粒子の内部又は表面に染料が包容された粒子の製造に使用される樹脂粒子としては、アニオン性を有する官能基(以下、アニオン性基という)が化学的に結合された樹脂からなる粒子又はアニオン性基が物理的に付着された樹脂からなる粒子が使用できる。
【0031】
アニオン性基を有する樹脂粒子を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が使用でき、好ましくは、アクリル系樹脂、ウレア系樹脂、ウレタン系樹脂及びウレア-ウレタン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種の樹脂を使用することができる。樹脂の構造は、直鎖状であっても分岐状であっても良い。
【0032】
樹脂粒子表面にアニオン性基を化学的に結合させる場合、アニオン性基を有する試剤又はその前駆体を直接的に樹脂に結合しても良く、他の原子団を介して間接的に樹脂に結合しても良い。アニオン性基と樹脂を結合させる他の原子団としては、炭素原子数1から12の直鎖または分岐のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、アゾ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0033】
アニオン性基が直接的に樹脂に結合した樹脂粒子としては、アニオン性基を有するモノマーを含むモノマー混合物、又はアニオン性基を有する乳化剤等の助剤を含むモノマー混合物を、染料とともに溶解又は分散状態で重合させた樹脂からなる粒子が使用できる。さらに、樹脂粒子の化学的処理によって粒子表面にアニオン性基を形成した粒子が使用できる。アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基を挙げることができる。
【0034】
アニオン性基を有するアクリル系樹脂は、例えば、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸又はカルボキシル基やスルホン酸基等のアニオン性基を有する(メタ)アクリル酸エステルをモノマーとして使用して重合させることにより得ることができる。アニオン性基を有するウレア系樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物の組み合わせの少なくとも一方にアニオン性基を有する化合物を使用して重合させることにより得ることができる。アニオン性基を有するウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の組み合わせの少なくとも一方にアニオン性基を有する化合物を使用して重合させることにより得ることができる。アニオン性基を有するウレア-ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物及びポリオール化合物の組み合わせの少なくとも一種にアニオン性基を有する化合物を使用して重合させることにより得ることができる。
【0035】
樹脂表面にアニオン性基を導入する化学処理は、樹脂にジアゾニウム塩によるカップリング反応を行うことによりカルボキシル基、スルホン酸基、又はリン酸基等のアニオン性基を導入する方法を行うことができる。
【0036】
さらに、樹脂を気相法、液相法又はこれ等を組み合わせた酸化処理を行うことによりカルボキシル基等のアニオン性基を導入することもできる。気相法により酸化処理する場合、酸化剤としてオゾンや酸素を用い、樹脂に接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。
【0037】
液相法により酸化処理する場合は、酸化剤として、塩素、過酸化水素水、硝酸、硫酸、塩素酸塩又は過硫酸塩などを用いることができ、例えば、前記酸化剤を含む水溶液中に樹脂を投入することにより、表面にアニオン性基を有する樹脂を得ることができる。
【0038】
樹脂粒子の表面にアニオン性基を物理的に付着させる場合、樹脂粒子の分散液にアニオン性の高分子分散剤を供給してアニオン性の高分子分散剤を樹脂表面に付着させる方法や、樹脂粒子をアニオン性の試剤の溶液に投入後、溶媒を除去して樹脂表面にアニオン性の試剤を被覆する方法が挙げられる。
【0039】
使用される染料は、酸性染料、塩基性染料、直接染料、油溶性染料のいずれも用いることができ、天然由来の染料でも、合成染料でもよい。非アニオン性又はアニオン性の染料を2種以上混合して使用してもよく、非アニオン性の染料とアニオン性の染料を混合して使用してもよい。
【0040】
酸性染料としては、エオシン、フオキシン、アシッドレッド、ウォーターブルー、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンが挙げられる。
【0041】
塩基性染料としては、例えば、メチルバイオレット等のジ又はトリアリールメタン系染料;アジン系(ニグロシンを含む)、オキサジン系、チアジン系等のキノンイミン系染料;ローダミン等のキサンテン系染料;トリアゾールアゾ系染料;チアゾールアゾ系染料;ベンゾチアゾールアゾ系染料;アゾ系染料;ポリメチン系、アゾメチン系、アザメチン系等のメチン系染料;アントラキノン系染料;フタロシアニン系染料が挙げられ、中でも水溶性の塩基性染料が好ましい。
【0042】
直接染料しては、ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルーが挙げられる。
油溶性染料としては、モノアゾ、ジアゾ、金属錯塩型モノアゾ、アントラキノン、フタロシアニン、トリアリールメタンが挙げられる。また、酸塩基性染料の官能基を疎水基で置換した造塩タイプ油溶性染料も使用することができる。
【0043】
油溶性染料として、黄色系は、C.I.ソルベントイエロー114、116;オレンジ系は、C.I.ソルベントオレンジ67;赤色系は、C.I.ソルベントレッド122、146;青色系は、C.I.ソルベントブルー5、36、44、63、70、83、105、111;黒色系は、C.I.ソルベントブラック3、7、27、29;がそれぞれ挙げられる。
【0044】
油溶性染料の市販品としては、青染料SBNブルー701(保土谷化学工業株式会社製)、青染料オイルブルー650(オリエント化学工業株式会社製)、青染料サビニールブルーGLS(クラリアント株式会社製)、赤染料SOC-1-0100(オリエント化学工業株式会社製)、オイルブラック860、オイルピンク314、オイルイエロー3G、バリファストピンク2310N、同レッド3312、同イエローCGHNnew、同イエロー1108、同ブラック3830(オリエント化学工業株式会社製)を挙げることができる。
【0045】
染料含有粒子において、染料は、染料含有粒子に対して、0.2~50質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1.0~10質量%含有させることができる。
【0046】
本発明に用いられるアニオン性染料含有粒子は、粒子径が0.01~1.0μmの微粒子が好ましく、その少なくとも95質量%が0.01~0.5μmの範囲内の粒子径を有する微粒子がより好ましい。この範囲の粒子径を有することが、カチオン性樹脂粒子と複合化して良好な複合着色粒子を形成するので好ましい。アニオン性染料含有粒子の形状は、球状、特に真球状が好ましい。
【0047】
<複合化>
本発明においては、カチオン性の樹脂粒子とアニオン性の染料含有粒子とをクーロン力によって複合化することにより、複合着色粒子を製造することができる。図1に、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子と粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子とがクーロン力によって複合化し、大粒径の複合着色粒子を形成することを模式的に示す。
【0048】
本発明の複合着色粒子は、カチオン性の樹脂粒子とアニオン性の染料含有粒子とがクーロン力によって結合した構造を有する、安定な複合化粒子である。
本発明の複合着色粒子は、カチオン性の樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンとアニオン性の染料含有粒子を含む着色樹脂分散体とを混合する複合化工程により製造することができる。
【0049】
前記複合化工程におけるカチオン性の樹脂粒子とアニオン性の染料含有粒子の配合比は、樹脂粒子/染料含有粒子の質量比(水性媒体等を除く)で、好ましくは1/0.1~1/50、より好ましくは1/0.5~1/10、さらに好ましくは1/1~1/5の範囲から選ばれる。
【0050】
複合化工程においては、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子を含む樹脂エマルジョンと、粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子を含む着色樹脂分散体を用意する。それぞれのエマルジョン及び分散体は、粒子が水性媒体中に分散されていることが好ましい。
【0051】
それぞれの水性エマルジョン及び分散体の媒体は、相互に相溶性を有する水性媒体であり、好ましくは、水、水溶性有機溶剤又はこれらの混合溶液である。樹脂エマルジョン及び着色樹脂分散体中の水性媒体の含有量は、エマルジョン又は分散体全量に対して、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。使用する水性媒体の密度は、粒子の密度に近いことが好ましい。
【0052】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン -2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5トリオール、1,2,3-ヘキサントリオールなどのアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロールなどのグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどのグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノンなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0053】
その他にも、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミドなどのアミド類、アセトンなどのケトン類などの水溶性溶剤を混合することもできる。これらの水溶性有機溶剤の含有量は、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具種により変動するものであり、インク組成物全量に対して、1~40質量%とすることが望ましい。
【0054】
次に、カチオン性樹脂エマルジョンとアニオン性着色樹脂分散体を混合する。各エマルジョン(分散体)の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラーなどの撹拌装置を備えた容器に、それぞれを投入して撹拌する方法が採用できる。その際、インク組成物を構成するために必要な成分を加えてもよい。
【0055】
各エマルジョンに含まれる樹脂粒子と染料含有粒子は、混合されることにより、クーロン力により静電気的に結合して大粒径の複合着色粒子を効果的に形成する。これにより得られる複合着色粒子は、粒子径が0.1μm未満の着色剤微粒子の含有量がきわめて少ないものであり、このことは本発明の効果を奏する上で効果的である。
【0056】
その際、一部の複合着色粒子同士が凝集して粒子径が10μmを超える超大粒径の複合着色粒子凝集体を形成することがある。超大粒径の凝集体は筆記具用途に使用した際においてインクの詰まりや掠れ等の不都合を生じるため、かかる凝集体を破壊して個々の複合着色粒子に分散する解凝集工程を付加することが好ましい。
【0057】
解凝集工程として、ホモミキサー、ディスパー.ミキサー、ウルトラミキサー、ホモジナイザー等の撹拌機を使って撹拌する方法が挙げられる。解凝集工程によって、超大粒径の凝集体は破壊されて個々の複合着色粒子に転化し、複合着色粒子の良好な分散液を生成する。凝集体を破壊する際の撹拌条件を調整することによって、染料含有粒子の粒径を制御することができる。
以上の染料含有粒子の製造方法は、工業的に良好に実施することができる。
【0058】
すなわち、本発明の複合着色粒子の製造方法の好ましい一態様は、粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子と水性媒体を含む樹脂エマルジョン及び粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子と水性媒体を含む着色樹脂分散体を混合する複合化工程、及び、凝集体を破壊する解凝集工程を含む複合着色粒子の製造方法である。
【0059】
本発明の複合着色粒子は、好ましくは、少なくとも95%が0.2μm~3.0μmの範囲内にあり、より好ましくは、少なくとも95%が0.2μm~2.0μmの範囲内にある。複合着色粒子の0.1μm未満の微粒子の含有量は、粒子の頻度として3%未満、好ましくは1%未満である。
【0060】
<水性インク組成物>
本発明の複合着色粒子は、筆記具(ボールペン、マーキングペン等)としての要求特性に応じて添加された他の成分を含有する水性媒体中に分散されて、筆記具用の水性インク組成物が構成される。当該水性媒体を構成する他の成分としては、pH調整剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤、抗菌剤、及び、分散媒としての溶剤などを挙げることができる。
【0061】
水性インク組成物における本発明の複合着色粒子の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1~30質量%、さらに好ましくは3~20質量%とすることが、インクの色相を確保し、また、筆記時の掠れを防止する上で好ましい。
【0062】
インク組成物のpHを調整するためのpH調整剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、モルホリンなどのアミン類、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの四級アンモニウム類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機水酸化物類、炭酸(水素)ナトリウム、炭酸(水素)カリウム、炭酸(水素)リチウムなどの無機塩類が挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることができる。
【0063】
水性インク組成物に配合される増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロース及び多糖類等が使用できる。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩が挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。
【0064】
水性インク組成物に配合される防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが使用できる。水性インク組成物に配合される防腐剤又は抗菌剤としては、フェノール類、安息香酸類、ベンズイミダゾール類、イソチアゾロン類、トリアジン類、ブロノポール類、チアベンダゾール類、ジンクピリチオン類、カルベンダジム類、オマジン類などが使用できる。
【0065】
水性インク組成物に配合される潤滑剤としては、多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、アルキルポリオキシアルキレン燐酸エステルなどのノニオン系潤滑剤、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、ポリエーテル変性シリコーンなどのシリコーン系潤滑剤が挙げられる。
【0066】
<分散媒>
水性インク組成物には、複合着色粒子の分散状態を安定化させ、筆記具用インクとしての使用性を確保するために、分散媒が配合される。分散媒としては、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等の水、水溶性有機溶剤又はその混合溶液からなる親水性の分散媒を使用することができ、好ましくは、水と少なくとも1種の水溶性有機溶剤からなる混合溶液を使用することができる。使用する分散媒の密度は、複合着色粒子の密度に近いことが好ましい。
水性インク組成物における水性媒体の配合量は、複合着色粒子100質量部に対し、3~300質量部が好ましく、5~100質量部がより好ましい。
【0067】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類又はその誘導体が使用できる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ジグリセリンが挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。水100質量部に対して水溶性有機溶剤を5~200質量部の比率で混合した混合溶剤が好ましい。
【0068】
また、分散媒として、親水性のノニオン系ポリマーを使用することができる。水性インク組成物に配合されるノニオン系ポリマーとしては、例えば、ポリエーテルが使用できる。具体的には、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルが挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。これらのノニオン系ポリマーを主溶媒として使用することで、熱変色性マイクロカプセルの経時的な凝集の発生が防止できる。
【0069】
水性インク組成物に配合されるポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルは、各重合度のものが使用できるが、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、ポリプロピレングリコールでは重合度400~700(重量平均)の範囲のポリマーの使用が好ましく、ポリブチレングリコールでは重合度500~700(重量平均)の範囲のポリマーの使用が好ましい。
【0070】
筆記具用の水性インク組成物は、例えば、複合着色粒子及び水性インク組成物に配合される各成分を所定量配合し、ホモミキサーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することによって製造することができる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によって水性インク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0071】
<筆記具>
本発明の水性インク組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップを筆記先端部に備えたサインペン体、マーキングペン体や、ボールペンチップを筆記先端部に備えたボールペン体などに搭載して使用に供され、本発明の水性インク組成物を搭載した筆記具は、これを用いて紙面等に筆記した際、素材への浸透による筆跡の滲みや裏抜けの防止、筆跡の耐洗濯堅牢性等の筆記性能に優れるという利点を有する。
【実施例0072】
実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例等に限定されるものではない。なお、以下において、配合における「部」は質量部を意味する。
【0073】
〈樹脂粒子〉
カチオン性の樹脂粒子のエマルジョンとして、カチオン変性酢酸ビニル系樹脂、カチオン変性アクリル系樹脂又はカチオン変性ウレタン系樹脂のそれぞれの水性エマルジョンを使用した。
(A-1)カチオン変性酢酸ビニル系樹脂としては、カチオン変性酢酸ビニル樹脂エマルジョン(ビニブラン1008;日信化学工業株式会社製)を使用した。
(A-2)カチオン変性アクリル系樹脂としては、カチオン変性ポリビニルアルコール-アクリル樹脂エマルジョン(モビニール6950;ジャパンコーティングレジン株式会社製)を使用した。
(A-3)カチオン変性ウレタン系樹脂としては、カチオン変性ウレタンエマルジョン(スーパーフレックス620;第一工業製薬株式会社製)を使用した。
(A-4)比較として、ノニオン性変性酢酸ビニル系樹脂のエマルジョン(ビニブラン1002;日信化学工業株式会社製)を使用した。
【0074】
〈染料含有粒子〉
アニオン性の染料含有粒子としては、下記製造例1~3の方法により得られた染料含有粒子が水性媒体に分散した着色樹脂分散体を使用した。
【0075】
〔製造例1:粒子B-1〕
ジステアリン酸トリエチレングリコール(商品名エステパール30、融点44~51℃、日光ケミカルズ株式会社製)17部を65℃に加温しながら、金属錯体系油溶性染料(商品名VALIFAST BLACK 3830、オリエント化学工業株式会社製)4部を加えて十分に分散させた。次いで、メチルエチルケトン4部を加え、更にキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン変性体(商品名D-110N、三井化学株式会社製)7部を加えて65℃で撹拌して、油相溶液を作成した。一方、65℃に加温した蒸留水600部に、ポリビニルアルコール(商品名PVA-205、クラレ株式会社製)10部およびスルホン酸塩基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール(商品名ゴーセネックスL-3266 三菱ケミカル株式会社製)20部を溶解して、水相溶液を作成した。得られた水相溶液に前記油相溶液を投入し、更にヘキサメチレンジアミン6部を加え、撹拌混合して、乳化重合を完了し、油溶性染料を内包したアニオン性ウレア-ウレタン系樹脂からなる染料含有粒子B-1のエマルジョンを得た。
【0076】
得られた染料含有樹脂粒子B-1は、表面電位の測定値が-28mVであり、アニオン性を有していた。また、染料含有樹脂粒子B-1の平均粒子径は、0.12μmであった。
【0077】
〔製造例2:粒子B-2〕
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水329.5部、グリセリンモノメタクリレート(商品名ブレンマーGLM、日油株式会社製)5部、スルホン酸塩基を有するメタクリル酸2-スルホエチルナトリウム(商品名アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル株式会社製)5部、アニオン性重合性界面活性剤(商品名アデカリアソープSE-10N、エーテルサルフェート、ADEKA株式会社製)20部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0078】
一方、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー55部とメタクリル酸n-ブチル35部とからなる混合モノマーに、金属錯体系の油溶性染料(商品名サビニールブルーGLS、クラリアント株式会社製)40部、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(商品名タイク(TAIC)、日本化成株式会社製)10部を混合した液を調製した。
得られた調製液を、温度50℃付近に保った前記フラスコ内に前記分液漏斗を通して3時間にわたって撹拌下で添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、油溶性染料を内包したアニオン性アクリル系樹脂からなる染料含有粒子B-2のエマルジョンを得た。
【0079】
得られた染料含有樹脂粒子B-2は、表面電位の測定値が-58mVであり、アニオン性を有していた。また、染料含有樹脂粒子B-2の平均粒子径は、0.04μmであった。
【0080】
〔製造例3:粒子B-3(比較例用)〕
メチルエチルケトン4部、ジステアリン酸トリエチレングリコール(商品名エステパール30、融点44~51℃、日光ケミカルズ株式会社製)17部を65℃に加温しながら油溶性赤色染料(商品名OIL SCARLET #308、オリエント化学工業株式会社製)10.4部を加えて十分に分散させた。更にキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン変性体(商品名D-110N、三井化学株式会社製)7部を加えて65℃で撹拌して、油相溶液を作成した。一方、65℃に加温した蒸留水600部にポリビニルアルコール(商品名PVA-205、株式会社クラレ製)15部を溶解し、水相溶液を作成した。得られた水相溶液に前記油相溶液を投入し、更にヘキサメチレンジアミン6部を加え、撹拌混合して、乳化重合を完了し、油溶性染料を内包したノニオン性ウレア-ウレタン系樹脂からなる染料含有粒子B-3のエマルジョンを得た。
【0081】
実施例1~6、比較例1~2
前記した各種の樹脂粒子エマルジョン及び参考例で作成した各種の染料含有粒子エマルジョンをそれぞれ表1に示す組み合わせ及び質量比(固形物の質量比)で配合し、撹拌機を用いて混合し、R-1~R-8の水性分散体を得た。次いで、ホモミキサーを用いて強く撹拌を行うことにより解凝集を行い、複合着色粒子を実施例としてP-1~P-6を、比較例としてC-1~C-2をいずれも固形分濃度20質量%の水性分散体状態で得た。
【0082】
実施例1で使用した、カチオン変性酢酸ビニル樹脂の粒子径の頻度分布図を図2に、アニオン性の染料含有粒子の粒子径の頻度分布図を図3に示す。実施例1で解凝集を行う前の複合着色粒子の粒子径の頻度分布図を図4に、これに解凝集操作を行った後の複合着色粒子の粒子径の頻度分布図を図5に示す。
【0083】
さらに、実施例1~6及び比較例1~2で作成した複合着色粒子について、粒子径の頻度分布を測定し、特定の粒子径範囲を有する複合着色粒子が該複合着色粒子全体に占める頻度割合(%)を求めた。結果を表2に示す。
これらの図及び表により、本発明の複合着色粒子は大粒径の粒子で構成され、小粒径の染料含有微粒子がほとんど含まれないことが明らかである。
【0084】
なお、カチオン性樹脂粒子及び複合着色粒子の粒子径分布は、粒子径分布解析装置(マイクロトラックHRA9320-X100;日機装株式会社製)を用いて、レーザー回折法により測定した。アニオン性染料含有粒子の粒子径分布は、濃厚系粒径アナライザー(FPAR-1000;大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により測定した。
【0085】
実施例11~19及び比較例11~12
実施例としてP-1~P-6、比較例としてC-1~C-2の複合着色粒子の分散体をそれぞれ使用し、pH調整剤、防腐剤及び分散媒を表3に示す組み合わせ及び重量比で配合、混合し、一部の凝集物を除去し、水性インク組成物の分散体を調製した。
【0086】
実施例11~19のインク組成物は、本発明の水性インク組成物である。比較例11のインク組成物は、カチオン性樹脂粒子を使用しない比較例であり、比較例12のインク組成物は、アニオン性染料含有粒子を使用しない比較例である。
【0087】
<インク組成物の評価>
調製した各水性インク組成物を用いてサインペンを作製した。具体的には、市販のサインペン(商品名:プロッキーPM-120T;三菱鉛筆株式会社製、極細+細字)のインク収容部に前記実施例1~8及び比較例1~5で製造した各インク組成物を充填してサインペンを作製した。作製した各サインペンの細字側丸芯を使用して筆記し、筆記時の描線(筆跡)の濃度、滲み防止性及び耐擦過性等の筆記性を下記の方法で試験し、評価した。結果を表3に示す。
【0088】
1)描線の濃度
1-1)紙への筆記
各サインペンを使用して、ISO規格に準拠した筆記用紙の表面に手書きで螺旋を筆記した後、紙の表面を目視することにより、筆記描線の濃度を下記の基準で評価した。
1-2)布への筆記
各サインペンを使用して、綿布(かなきん3号;JIS染色堅ろう度試験用(JIS L 0803準拠))の表面に手書きで「三菱鉛筆」と筆記した後、紙の表面を目視することにより、筆記描線の濃度を下記の基準で評価した。
【0089】
筆記描線の評価基準:
A:描線の色が顕著に濃い。
B:描線の色が濃い。
C:描線の色が若干薄い。
D:描線の色が顕著に薄い。
【0090】
2)滲み防止性
2-1)紙への滲み
各サインペンを使用して、ISO規格に準拠した筆記用紙の表面に手書きで螺旋を筆記した後、紙の表面を目視することにより、筆記描線の滲み状態を下記の基準で評価した。
2-2)布への滲み
各サインペンを使用して、綿布(かなきん3号;JIS染色堅ろう度試験用(JIS L 0803準拠))の表面に手書きで「三菱鉛筆」と筆記した後、紙の表面を目視することにより、筆記描線の滲み状態を下記の基準で評価した。
【0091】
滲み状態の評価基準:
A:描線の滲みがない。
B:描線の滲みがわずかにある。
C:描線の滲みが相当にある。
D:描線の滲みが顕著にある。
【0092】
3)耐擦過性
各サインペンを使用して、コート紙(株式会社ユポ・コーポレーション製)の表面に手書きで文字「三菱鉛筆」と筆記し、筆跡を乾燥させた。この筆跡の上にウエス紙(キムワイプ;日本製紙クレシア株式会社製)を置き、500gの分銅を載せ、ウエス紙を分銅ごと水平に5回往復させることによって筆跡を擦過し、その後の筆跡の状態を下記の基準で評価した。
【0093】
耐擦過性の評価基準:
A:筆跡に欠損は全く生じなかった
B:筆跡に一、二の細線状の欠損があった
C:筆跡に明らかな欠損があった
D:文字の判読が困難になる程大きな欠損があった
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
以上の実施例から明らかなように、本発明の複合着色粒子を用いたインク組成物は、筆記時の描線(筆跡)の濃度、滲み防止性及び耐擦過性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の複合着色粒子を配合したインク組成物は、サインペン、ボールペン等の筆記具の用途に好適に利用できる。本発明によれば、インク組成物に優れた使用性を付与する複合着色粒子が工業的に有利に生産される。
【符号の説明】
【0099】
1 粒子表面において負の電荷を有する染料含有粒子
2 粒子表面において正の電荷を有する樹脂粒子
図1
図2