(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182527
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】集束イオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20221201BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20221201BHJP
H01J 37/153 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01J37/317 D
H01J37/09 A
H01J37/153 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090128
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA32
5C101BB03
5C101DD02
5C101EE04
5C101EE08
5C101EE19
5C101EE43
5C101EE69
5C101EE75
(57)【要約】
【課題】イオンビームの電流値を迅速に精度よく調整できる集束イオンビーム装置を提供すること。
【解決手段】コンデンサレンズは、イオンビームを平行ビーム形状となるように加工し、コンデンサレンズとオブジェクトレンズとの間に、コンデンサレンズで加工されたイオンビームの通過面積を変えてビーム径を制御する電動アパーチャを備え、コンデンサレンズを通過したイオンビームを両側から挟むように対峙してイオンビームの光軸に対して直角をなす方向に沿って移動可能な一対のビーム遮蔽板でなるビーム遮蔽板ユニットを複数備え、複数のビーム遮蔽板ユニットがイオンビームを取り囲んでイオンビームの通過イオンビーム径を設定し、複数のビーム遮蔽板ユニットがイオンビームの光軸方向に沿って互いにオフセットされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体金属イオン源と、当該液体金属イオン源から発生したイオンビームを加工するコンデンサレンズと、当該コンデンサレンズを通過したイオンビームを集束して試料面に照射させるオブジェクトレンズと、を備えた集束イオンビーム装置であって、
前記コンデンサレンズは、イオンビームを平行ビーム形状となるように加工し、
前記コンデンサレンズと前記オブジェクトレンズとの間に、当該コンデンサレンズで加工されたイオンビームの通過面積を変えてビーム径を制御する電動アパーチャを備え、
当該電動アパーチャは、
前記コンデンサレンズを通過したイオンビームを両側から挟むように対峙してイオンビームの光軸に対して直角をなす方向に沿って移動可能な一対のビーム遮蔽板でなるビーム遮蔽板ユニットを複数備え、
前記複数のビーム遮蔽板ユニットを構成する前記ビーム遮蔽板が前記イオンビームを取り囲んでイオンビームの通過面積を設定し、
前記複数のビーム遮蔽板ユニットがイオンビームの光軸方向に沿って互いにオフセットされている、
ことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項2】
前記電動アパーチャの下流側に、イオンビームを取り囲むように配置された、複数の極子レンズを備える非点収差補正用スティグマが配置され、
前記電動アパーチャは、前記極子レンズと同数の前記ビーム遮蔽板を備える、
請求項1に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項3】
前記電動アパーチャは、4つの前記ビーム遮蔽板ユニットで構成され、
前記ビーム遮蔽板ユニットは、イオンビームの光軸方向からの投影において、イオンビームの光軸を中心として、イオンビームの外周方向沿って互いに45度の角度を回転移動した位置に配置されている、
請求項1または請求項2に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項4】
前記ビーム遮蔽板ユニットは、イオンビームの光軸に対して、前記ビーム遮蔽板が互いに同距離となるように同期して移動する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項5】
前記複数のビーム遮蔽板ユニットは、同期して移動する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項6】
前記電動アパーチャは、イオンビームの通過面積を連続的に変化させる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項7】
前記複数のビーム遮蔽板ユニットは、イオンビームの光軸方向からの投影において、イオンビームを通過させる開口が、イオンビームの光軸を中心として、前記非点収差補正用スティグマによる電界制御方向に沿って周縁が規則的に変化する多角形である、
請求項2に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項8】
イオンビームの光軸方向からの投影において、前記電動アパーチャを構成する複数の前記ビーム遮蔽板は、前記極子レンズに、順次対応する位置に配置されている
請求項2に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項9】
イオンビームのビーム径を制御する、開口径の異なる複数の開口が形成された選択アパーチャ基板を備える、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の集束イオンビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の集束イオンビーム装置は、コンデンサレンズと対物レンズの2段の静電レンズ系により試料面にイオンビームを集束するように構成されている。イオンビームは、液体金属である例えばガリウムがフィールドエミッションにてイオン化されて発生する。このイオンビームは、液体金属イオン源の先端から放出された後、加速電圧(一部はイオン過電圧)で加速されて、所定の放射角度で円錐形状に広がりながらコンデンサレンズに入射する。コンデンサレンズに入射したイオンビームは、コンデンサレンズ内の電界分布により軌道が変化することでビームの広がりが緩和されて上記所定の放射角度よりも狭い広がりの放射形状に加工される。
【0003】
従来の集束イオンビーム装置としては、コンデンサレンズの上流側および下流側に絞りを配置した技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。コンデンサレンズの下流側に配置された絞りは、開口の径寸法が異なる複数の穴を設定できるようになっている。この下流側の絞りは、上記のように広がる放射形状を有するイオンビームが通過する開口面積を調整することができる。この集束イオンビーム装置では、下流側の絞りを通過したイオンビームが対物レンズで集束されて試料面に到達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の集束イオンビーム装置では、コンデンサレンズを通過したイオンビームが放射形状のまま下流側の絞りに到達する。放射形状のイオンビームでは、光軸に直角をなす方向の位置おいて、通過イオン量の偏りが存在する。したがって、下流側の絞りにおける穴の径寸法が変化するたびに、この絞りを通過したイオンビームの特性は変わる。したがって、上記の集束イオンビーム装置では、下流側の絞りの開口を異なる径寸法に切り換えるたびに、非点収差補正電圧や軸調整アライナ電圧を個別に調整する必要があった。このため、イオンビームの電流値の調整に時間を要するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、イオンビームの電流値を迅速に精度よく調整できる集束イオンビーム装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の態様は、液体金属イオン源と、当該液体金属イオン源から発生したイオンビームを加工させるコンデンサレンズと、当該コンデンサレンズを通過したイオンビームを集束して試料面に照射させるオブジェクトレンズと、を備えた集束イオンビーム装置であって、前記コンデンサレンズは、イオンビームを平行ビーム形状となるように加工し、前記コンデンサレンズと前記オブジェクトレンズとの間に、前記コンデンサレンズで加工されたイオンビームの通過面積を変えてビーム径を制御する電動アパーチャを備え、当該電動アパーチャは、前記コンデンサレンズを通過したイオンビームを両側から挟むように対峙してイオンビームの光軸に対して直角をなす方向に沿って移動可能な一対のビーム遮蔽板でなるビーム遮蔽板ユニットを複数備え、前記複数のビーム遮蔽板ユニットを構成する前記ビーム遮蔽板が前記イオンビームを取り囲んでイオンビームの通過面積を設定し、前記複数の前記ビーム遮蔽板ユニットがイオンビームの光軸方向に沿って互いにオフセットされていることを特徴とする。
【0008】
上記態様としては、前記電動アパーチャの下流側に、イオンビームを取り囲むように配置された、複数の極子レンズを備える非点収差補正用スティグマが配置され、前記電動アパーチャは、前記極子レンズと同数の前記ビーム遮蔽板を備えることが好ましい。
【0009】
上記態様としては、前記電動アパーチャは、4つのビーム遮蔽板ユニットで構成され、前記ビーム遮蔽板ユニットは、イオンビームの光軸方向からの投影において、イオンビームの光軸を中心として、イオンビームの外周方向沿って互いに45度の角度を回転移動した位置に配置されていることが好ましい。
【0010】
上記態様としては、前記ビーム遮蔽板ユニットは、イオンビームの光軸に対して、前記ビーム遮蔽板が互いに同距離となるように同期して移動することが好ましい。
【0011】
上記態様としては、前記複数のビーム遮蔽板ユニットは、同期して移動することが好ましい。
【0012】
上記態様としては、前記電動アパーチャは、イオンビームの通過面積を連続的に変化させることが好ましい。
【0013】
上記態様としては、前記複数のビーム遮蔽板ユニットは、イオンビームの光軸方向からの投影において、イオンビームを通過させる開口が、イオンビームの光軸を中心として、前記非点収差補正用スティグマによる電界制御方向に沿って周縁が規則的に変化する多角形であることが好ましい。
【0014】
上記態様としては、イオンビームの光軸方向からの投影において、前記電動アパーチャを構成する複数の前記ビーム遮蔽板は、前記極子レンズに、順次対応する位置に配置されていることが好ましい。
【0015】
上記態様としては、イオンビームのビーム径を制御する、開口径の異なる複数の開口が形成された選択アパーチャ基板を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る集束イオンビーム装置によれば、イオンビームの電流値を迅速に精度よく調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の概略を模式的に示す構成説明図である。
【
図2-1】
図2-1は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置におけるイオンビームの光軸方向の投影を示す説明図であり、電動アパーチャのイオンビーム通過面積(開口)を広く設定した状態を示す。
【
図2-2】
図2-2は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置におけるイオンビームの光軸方向の投影を示す説明図であり、電動アパーチャのイオンビーム通過面積(開口)を狭く設定した状態を示す。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置におけるビーム遮蔽板ユニットの動作を示す説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置における非点収差補正用スティグマの平面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る集束イオンビーム装置を用いてイオンビームを発生させた場合のビーム電流とビーム径との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の概略を模式的に示す構成説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置における選択アパーチャ基板を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の詳細を図面に基づいて説明する。但し、図面は模式的なものであり、各部材の数、各部材の寸法、寸法の比率、形状などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状が異なる部分が含まれている。
【0019】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置は、試料としてのフォトマスク、TFT基板などの修正に用いることができる。なお、本発明の集束イオンビーム装置は、試料への直接描画を行う描画装置や、試料の表面状態の観察を可能にする走査電子顕微鏡などにも適用可能である。
【0020】
[第1の実施の形態]
(集束イオンビーム装置の概略構成)
【0021】
図1は、第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の概略構成を示している。集束イオンビーム装置1は、集束イオンビームカラム(以下、FIBカ
ラムという)2と、制御部13と、を備える。FIBカラム2の下方には、試料Sを配置する基板支持台15が設けられ、この基板支持台15をX-Y方向に移動させるX-YステージやZ方向に移動させる昇降手段などを備える。
【0022】
FIBカラム2には、図示しない真空ポンプが接続されており、FIBカラム2内が所定の低い圧力に保たれるようになっている。FIBカラム2内には、順次、液体金属イオン源3と、コンデンサレンズ4と、電動アパーチャ5と、非点収差補正用スティグマ6と、ブランカ7と、ブランキングアパーチャ8と、ディフレクタ9と、オブジェクトレンズ10と、2次荷電粒子検出器11と、堆積用ガス供給パイプ12と、が配置されている。
【0023】
液体金属イオン源3は、液体金属である例えばガリウム(Ga)を備える。液体金属イオン源3では、フィールドエミッションにてイオン化され、液体金属イオン源3の先端から放出される。液体金属イオン源3から放出されたガリウムイオン(Ga+)は、コンデンサレンズ4における最上流側の引出電極により加速電圧(一部はイオン過電圧)で加速されて、所定の放出角度をもつイオンビームIBとなる。
【0024】
コンデンサレンズ4は、静電レンズであり、入射したイオンビームIBを平行ビーム形状のイオンビームIBpに加工するように設定されている。
【0025】
図1および
図2-1に示すように、電動アパーチャ5は、4つのビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54を備える。これらビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54は、イオンビームIBpの光軸方向に沿って互いにオフセットした位置に配置されている。なお、
図1に示す方向A1,A2,A3,A4は、図面では同方向に描いているが、実際は、
図2-1に示すように、光軸IBaを中心として互いに45度ずつ回転移動した向きになるように設定されている。
【0026】
図3は、ビーム遮蔽板ユニット51をイオンビームIBpの光軸IBa方向から見た投影を示す。
図2-1および
図3に示すように、ビーム遮蔽板ユニット51は、一対のビーム遮蔽板5A,5Eでなる。
図2-1に示すように、ビーム遮蔽板ユニット52は、一対のビーム遮蔽板5B,5Fでなる。ビーム遮蔽板ユニット53は、一対のビーム遮蔽板5C,5Gでなる。ビーム遮蔽板ユニット54は、一対のビーム遮蔽板5D,5Hでなる。なお、
図2-1および
図2-2では、投影で重なる部分もあるが、説明の便宜上すべてのビーム遮蔽板5A~5Hを実線で描いている。
【0027】
ビーム遮蔽板ユニット51のビーム遮蔽板5A,5Eは、コンデンサレンズ4を通過して平行ビーム形状となったイオンビームIBpを両側(光軸IBaに直角をなす方向A1の両側)から挟むように対峙して配置されている。これらビーム遮蔽板5A,5Eは、方向A1に沿って互いに近接、離反するように同期して移動するように設定されている。なお、ビーム遮蔽板5A,5Eは、図示しないアクチュエータで方向A1に沿って移動するように駆動される。
【0028】
このビーム遮蔽板ユニット51は、ビーム遮蔽板5A,5Eを互いに近接させたり離反させたりすることにより、イオンビームIBpの通過幅を両方から均等に変更することができる。また、ビーム遮蔽板5A,5Eを互いに離反させることにより、イオンビームIBpに干渉しない位置に後退させることも可能である。
【0029】
ビーム遮蔽板ユニット52,53,54は、ビーム遮蔽板ユニット51と同様の構成を有する。ただし、ビーム遮蔽板ユニット52は、
図2-1に示すように、ビーム遮蔽板5B,5Fが方向A2に沿って移動するように配置されている。方向A2は、上記方向A1に対して、イオンビームIBpの光軸IBaを回転中心として図中時計回り方向に45度だけ回転移動させた方向である。
【0030】
ビーム遮蔽板ユニット53は、
図2-1に示すように、ビーム遮蔽板5C,5Gが方向A3に沿って移動するように配置されている。方向A3は、上記方向A2に対して、イオンビームIBpの光軸IBaを回転中心として時計回り方向に45度だけ回転移動させた方向である。
【0031】
ビーム遮蔽板ユニット54は、
図2-1に示すように、ビーム遮蔽板5D,5Hが方向A4に沿って移動するように配置されている。方向A4は、上記方向A3に対して、イオンビームIBpの光軸IBaを回転中心として時計回り方向に45度だけ回転移動させた方向である。
【0032】
上記構成の電動アパーチャ5は、4つのビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54を構成する8枚のビーム遮蔽板5A~5Hの移動動作を制御することにより、形成する開口APの径を連続的に変化するように制御できる。開口APは、イオンビームIBpの光軸IBaを中心として、非点収差補正用スティグマ6による電界制御方向に沿って周縁が規則的に変化する多角形である。本実施の形態によれば、開口APが円形でなくても、イオンビームIBpの通過面積を精度よく連続的に調整することができる。
【0033】
イオンビームIBpは、電動アパーチャ5を通過してビーム径が調整されてイオンビームIBtとなる。
図2-1は、電動アパーチャ5の開口APの径を大きくなるように制御した状態の開口AP1を示す。本実施の形態では、開口APの径が、イオンビームIBpの径より大きい場合も含む。
図2-2は、電動アパーチャ5の開口APの径が小さくなるように制御した状態の開口AP2を示す。この状態では、イオンビームIBpが電動アパーチャ5により、ビーム径が小さくなるように加工される。
【0034】
図4に示すように、本実施の形態においては、非点収差補正用スティグマ6が、2組の四極子レンズを組み合わせた八つの極子レンズ(八極子レンズ)6A,6B,6C,6D,6E,6F,6G,6Hで構成されている。2組の四極子レンズは、イオンビームIBtの光軸IBaを中心として45度回転させて配置され、それぞれの極子レンズ6A~6Hは、互いに45度回転移動した位置に配置されている。2組の四極子レンズの電流値の大きさと比を変えることで、イオンビームIBtの補正量と補正方向を変えることができる。なお、上記した電動アパーチャ5を構成する8枚のビーム遮蔽板5A~5Hは、上記極子レンズ6A~6Hと対応する位置に配置されている。
【0035】
ブランカ7は、ブランキング電圧が印加されることにより、イオンビームIBtを偏向させてイオンビームIBtが試料Sに向かわないように、ブランキングアパーチャ8の遮光部(開口が形成されていない領域)へ導く機能を有する。
【0036】
ディフレクタ9は、電動アパーチャ5を通過したイオンビームIBtを偏向させてX-Y方向に走査することができる。オブジェクトレンズ10は、イオンビームIBtを試料Sの上面に合焦するように制御に応じて集束させる。
【0037】
図1に示すように、FIBカラム2の下部には、2次荷電粒子検出器11および堆積用ガス供給パイプ12が設けられている。
【0038】
制御部13は、液体金属イオン源3、コンデンサレンズ4、電動アパーチャ5、非点収差補正用スティグマ6、ブランカ7、ディフレクタ9、2次荷電粒子検出器11、堆積用ガス供給パイプ12に堆積用ガスを供給する図示しない堆積用ガス供給部などに接続されている。
【0039】
(作用・動作および効果)
このような構成の集束イオンビーム装置1では、制御部13からの制御信号に基づいて、液体金属イオン源3に引出電圧を印加することにより、液体金属イオン源3からイオンビームIBが所定の放射形状で放出される。
【0040】
コンデンサレンズ4は、制御部13からの制御信号に基づいて、液体金属イオン源3から放出されたイオンビームIBを、平行ビーム形状のイオンビームIBpに加工する。
【0041】
電動アパーチャ5は、制御部13からの制御信号に基づいて、それぞれのビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54が作動して、イオンビームIBpの通過面積を決定する開口APの径寸法が設定される。電動アパーチャ5は、開口APの径寸法を設定することにより、試料Sの上面に到達する所望のビーム電流値およびビーム径の制御が可能である。
【0042】
図2-1および
図2-2は、電動アパーチャ5の開口APの広さを変化させた状態を示す。
図2-1は、試料Sの加工処理に適した強さのビーム電流値とビーム径を確保できる比較的広い通過面積を有する開口AP1に設定した状態を示す。
図2-2は、試料Sの加工予定箇所の検出や表面の観察に適した強さのビーム電流値とビーム径を実現する比較的狭い通過面積を有する開口AP2に設定した状態を示す。
【0043】
図2-1に示すような比較的広い開口AP1に設定した電動アパーチャ5を通過したイオンビームIBt(
図1参照)は、オブジェクトレンズ10で集束されて試料Sの加工予定箇所に照射されるように設定されている。このとき、堆積用ガス供給パイプ12から堆積用ガスを試料Sに向けて供給することにより、試料Sの上面に堆積膜を形成することが可能となる。
【0044】
図2-2に示すような比較的狭い開口AP2に設定した電動アパーチャ5を通過したビーム径の小さいイオンビームIBt(
図1参照)は、オブジェクトレンズ10で集束されて試料Sの観察予定箇所に照射されるように設定されている。このとき、2次荷電粒子検出器11は、イオンビームIBtが照射された位置から発生する2次荷電粒子(2次電子、2次イオンなど)を捕捉する。この2次荷電粒子検出器11で検出した強度情報をもとにイオンビームIBtをスキャンしながら画像としてデータを取得することができる。このため、イオンビームIBtが照射されていた試料Sの表面形状が確認できる。イオンビームIBtのスキャン動作は、ディフレクタ9の作用によって行われる。
【0045】
図5は、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1を用いた場合の試料Sの表面に到達するイオンビームIBtの電流値と、ビーム径との関係を示す。曲線(1)、(2)、(3)は、平行ビーム形状のイオンビームIBpの印加電圧を、順次、15kV、10kV、5kVとした実施例であり、ビーム電流値を小さくするとビーム径も小さくなり、ビーム電流値を大きくするとビーム径も大きくなる関係を示している。
【0046】
曲線(1)の○で示す位置Coは、試料Sの表面観察に適したビーム電流値とビーム径が得られる位置である。具体的には、位置Coでは、ビーム電流値が1pAでビーム径が40nmの条件を実現できる。位置Coの条件では、ビーム電流値が小さいため、試料Sを損傷させることがない。
【0047】
また、曲線(1)の○で示す位置Cpは、試料Sの表面への加工処理に適したビーム電流値とビーム径が得られる位置である。具体的には、位置Cpでのビーム電流値は20nAでビーム径が2.5μmの条件を実現できる。上記の位置Coの条件と、位置Cpの条件と、の間の移動は、電動アパーチャ5の開口を制御することで、連続的にかつ迅速に変化させることが可能である。
【0048】
特に、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1によれば、コンデンサレンズ4により平行ビーム形状のイオンビームIBpが形成されるため、イオンビームIBpの光軸に対して直角方向のビーム強度(通過イオン密度)に偏りが小さい。また、コンデンサレンズ4により平行ビーム形状のイオンビームIBpとしたことにより、ビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54が光軸IBa方向に沿ってオフセットされていても、イオンビームIBpの外周近傍に対して均一にビームを遮蔽するため、イオンビームIBtの集束性能が悪化することを回避できる。
【0049】
また、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1では、電動アパーチャ5を構成するビーム遮蔽板5A~5Hと、非点収差補正用スティグマ6を構成する極子レンズ6A~6Hと、の数が同じであり、ビーム遮蔽板5A~5Hと極子レンズ6A~6Hとの配置位置が整合されている。このため、電動アパーチャ5の開口APの径寸法を連続的に変化させても、イオンビームIBtが受ける非点収差補正用スティグマ6からの電界による補正作用に変化がない状態でビーム電流値の調整ができる。このため、電動アパーチャ5の開口APの径寸法を変化させても、その都度、非点収差補正や軸調整アライナ補正などの調整を行う必要がない。したがって、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1によれば、連続的かつ迅速にビーム電流値を調整することができる。
【0050】
上述したように、本実施の形態では、電動アパーチャ5により連続的にビーム電流値を調整することができるため、
図5に示す位置Coの条件のようにビーム電流値を低く、例えば1pAに設定した状態で、非点収差補正電圧やアライナ電圧と、フォーカス電圧(コンデンサレンズ4やオブジェクトレンズ10の電圧)を調整することができる。このときは、ビーム電流値が低いため、試料Sの表面でスパッタリングが殆ど起こらず、試料Sが損傷されることなく、正確なビーム調整を行うことができる。そして、この状態で電動アパーチャ5により開口APの径を大きく変更しても、フォーカス条件が変化することなくビーム電流値だけを増加させることができる。すなわち、本実施の形態によれば、
図5に示す位置Cpの条件(ビーム電流値が20nA)に変化させてすぐに試料Sを加工することが可能となる。
【0051】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1において、非点収差補正用スティグマ6に加えて、図示しないアライナ、ディフレクタ9などの電極に合わせて8方向(A1,A2,A3,A4)から電動アパーチャ5のビーム遮蔽板5A~5Hが移動してビーム電流値の制限を行う構成とすれば、さらに非点収差補正に影響されないビーム電流値の調整が可能となる。
【0052】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1においては、コンデンサレンズ4でイオンビームIBを平行ビーム形状のイオンビームIBpにしたことにより、光軸IBa方向にビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54がオフセットしていても、イオンビームIBpの外周側から均等にビーム径を絞ることができる。
【0053】
一般に、試料Sの表面の観察を行う場合、非点収差補正用スティグマ6でイオンビームIBpを制御してビーム径を絞ろうとしても、調整に時間がかかるため、試料Sへのダメージが発生する。本実施の形態では、非点収差補正用スティグマ6の条件を変更せずに、電動アパーチャ5だけを動かすだけでよいため、調整がいらず、時間がかからずに迅速に観察を行うことが可能である。
【0054】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aの概略構成を示している。この集束イオンビーム装置1Aの構成は、上記の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の構成と略同様であり、異なる点は、集束イオンビーム装置1Aでは、選択アパーチャ基板14を備えている構成である。
【0055】
図6に示すように、選択アパーチャ基板14は、電動アパーチャ5の下流側に配置されている。
図7に示すように、選択アパーチャ基板14は、ビーム遮蔽性を有する金属板の長手方向に沿って、漸次、開口径寸法の異なる開口部14A,14B,14C,14Dを1列に配置した構成である。本実施の形態では、選択アパーチャ基板14は、列方向が方向A1に一致するように設定されている。
【0056】
本実施の形態では、電動アパーチャ5に加えて、選択アパーチャ基板14を用いてイオンビームIBpのビーム径の調整を行うことができる。本実施の形態において、選択アパーチャ基板14は、液体金属イオン源3から放出されたイオンビームIBがコンデンサレンズ4によって、選択アパーチャ基板14の付近で集束するビームモード時に用いる。このとき、電動アパーチャ5の影響がないように開口APの径を大きくした状態にする。そして、選択アパーチャ基板14の開口部14A,14B,14C,14Dを選択して選択アパーチャ基板14を図示しないアクチュエータで移動させてビーム電流値を調整する。
【0057】
図5において、曲線(4)は、印加電圧が15kVで選択アパーチャ基板14を用いたときの、各開口部14A,14B,14C,14Dを選択したときのビーム電流値とビーム径を連続的に示した図である。イオンビームIBが選択アパーチャ基板14の付近で集束するビームモード時においては、この選択アパーチャ基板14を用いることにより、観察のビーム電流値を小さくしてビーム径をより小さくする選択が可能となる。このため、試料Sの表面の観察を行う場合には、選択アパーチャ基板14を用いて微小なビーム電流値で小さなビーム径とすることが有効となる。
【0058】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態について説明したが、実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0059】
上記の各実施の形態では、電動アパーチャ5を構成するビーム遮蔽板5A~5Hを非点収差補正用スティグマ6の極子レンズ6A~6Hと同数に設定したが、上記したように電動アパーチャ5を構成するビーム遮蔽板の数を、図示しないアライナやディフレクタ9の電極と同数の構成としてもよい。なお、アライナの電極と非点収差補正用スティグマ6の極子レンズの数は同数とすることが好ましい。また、上記の各実施の形態では、ビーム遮蔽板5A~5Hが8つであるが、複数対で構成されるものであれば、これに限定されるものではない。
【0060】
上記の各実施の形態では、FIBカラム2の下部に堆積用ガス供給パイプ12を設けて堆積用ガスを供給する構成としたが、エッチングガスを供給する構成としてもよい。
【0061】
上記の各実施の形態では、イオンビーム電流値を増加して試料Sの表面をスパッタリングして加工することもできる。この現象を利用して、集束イオンビーム装置1,1Aを、フォトマスクなどの修正装置として用いることもできる。
【0062】
上記の各実施の形態では、ビーム遮蔽板ユニット51,52,53,54において、イオンビームIBpの光軸IBaに対して、それぞれを構成する対をなすビーム遮蔽板同士が互いに同距離となるように同期して移動するように設定したが、イオンビームIBtによる加工や観察を行うときに移動が終了していればよく、互いに同期しない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
AP,AP1,AP2 開口
IB イオンビーム
IBa イオンビームの光軸
IBp 平行なイオンビーム
IBt 通過したイオンビーム
1,1A 集束イオンビーム装置
2 集束イオンビームカラム(FIBカラム)
3 液体金属イオン源
4 コンデンサレンズ
5 電動アパーチャ
5A~5H ビーム遮蔽板
6 非点収差補正用スティグマ
6A~6H 極子レンズ
7 ブランカ
8 ブランキングアパーチャ
9 ディフレクタ
10 オブジェクトレンズ
11 2次荷電粒子検出器
12 堆積用ガス供給パイプ
13 制御部
14 選択アパーチャ基板
14A,14B,14C,14D 開口部
15 基板支持台
51,52,53,54 ビーム遮蔽板ユニット