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特開2022-182534可変容量素子、メモリ、デバイス及び可変容量素子の製造方法
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  • 特開-可変容量素子、メモリ、デバイス及び可変容量素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182534
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】可変容量素子、メモリ、デバイス及び可変容量素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/822 20060101AFI20221201BHJP
   H01L 21/8242 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01L27/04 C
H01L27/108 671Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090140
(22)【出願日】2021-05-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度からの、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「機械学習と計算科学による塗布型電子材料の構造・機能予測」委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 弘之
【テーマコード(参考)】
5F038
5F083
【Fターム(参考)】
5F038AC07
5F038AC15
5F038AC16
5F038DF05
5F083FZ10
5F083GA05
5F083HA02
5F083JA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抵抗変化型メモリは、抵抗を用いているためエネルギーの散逸が生じやすく、消費電力の低減が難しく、動作が不安定であり、再現性が低いという課題を抱えている。ニューロモルフィックデバイスの人工シナプスとしての利用に対しても好適な新規な可変容量素子を提供する。
【解決手段】可変容量素子1及びメモリ構成であって、トンネル電流3が流れる第1絶縁層14と、第1絶縁層よりトンネル電流が流れにくい又はトンネル電流が流れない第2絶縁層15で有機半導体層13を挟む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極と半導体層を備え、
前記第1電極と前記半導体層の間に、トンネル電流が流れる第1絶縁層を有し、
前記第2電極と前記半導体層の間に、前記第1絶縁層よりトンネル電流が流れにくい又はトンネル電流が流れない第2絶縁層を有したことを特徴とする可変容量素子。
【請求項2】
前記第1絶縁層における前記半導体層の側の面が、前記半導体層の成膜基であることを特徴とする請求項1に記載の可変容量素子。
【請求項3】
前記半導体層は、N型又はP型の一方のみとして機能することを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載された可変容量素子を用いたメモリ。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載された可変容量素子を複数備え、
複数の前記可変容量素子における前記第1電極または前記第2電極を接続して延在させ、FETトランジスタのゲート電極としたことを特徴とするデバイス。
【請求項6】
基板に第1電極を設け、
前記第1電極の前記基板とは反対側に、トンネル電流が流れる第1絶縁層を設け、
前記第1絶縁層の前記第1電極とは反対側に、半導体層を設け、
前記半導体層の前記第1絶縁層とは反対側に、前記第1絶縁層よりトンネル電流が流れにくい又はトンネル電流が流れない第2絶縁層を設け、
前記第2絶縁層の前記半導体層とは反対側に第2電極を設けたことを特徴とする可変容量素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタンスを変化させる可変容量素子、可変容量素子を用いたメモリ、可変容量素子を用いたスイッチデバイス及び可変容量素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電源供給がなくてもメモリ状態が保持される不揮発メモリには種々のものがあるが、2端子素子のメモリとしては、特許文献1に記載されるような抵抗変化型メモリ(Resistive Random Access Memory: ReRAM)がある。抵抗変化型メモリ(ReRAM)は、酸化還元反応等によって電気抵抗を変化させる抵抗素子の一種である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-114644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抵抗変化型メモリは、抵抗を用いているためエネルギーの散逸が生じやすく、消費電力の低減が難しい。また、特許文献1に記載されているように抵抗変化型メモリ(ReRAM)は主にフィラメントを利用した動作機構であるため、動作が不安定であり、再現性が低いという課題を抱えている。また、新規な可変容量素子も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
トンネル電流が流れる第1絶縁層と、第1絶縁層よりトンネル電流が流れにくい又はトンネル電流が流れない第2絶縁層で半導体層を挟むことにより、可変容量素子及びメモリを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により新たな素子を提供することができる。本素子は2端子の可変容量素子であり、デバイス作製や回路設計が簡素になる。また、2端子素子のメモリとしては、抵抗変化型メモリ(ReRAM)があるが、抵抗変化型メモリは酸化還元反応等によって電気抵抗を変化させる抵抗素子の一種であるのに対し、本素子(Capasitive Random Access Memory: CaRAM)は静電容量を変化させるコンデンサの一種である。一般に抵抗よりもコンデンサの方がエネルギーの散逸が少なく、消費電力を小さくすることが出来る。さらに、本素子は、ニューロモルフィックデバイスとして利用することができ、人工シナプスとしての適合性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1における可変容量素子の断面図。
図2】実施例1における可変容量素子の有機半導体層に正孔キャリアを注入している状態の断面図。
図3】実施例1における可変容量素子の有機半導体層が正孔キャリアを有した状態の断面図。
図4】実施例1における可変容量素子の有機半導体層から正孔キャリアを流出させている状態の断面図。
図5】実施例2における可変容量素子を用いた神経デバイスの断面図。
図6】実施例2における可変容量素子を用いた神経デバイスの等価回路。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施例1として、P型の有機半導体を用いた可変容量素子1を説明する。しかし、可変容量素子にはP型の無機半導体を用いても良く、N型の有機/無機半導体を用いてもよい。また、可変容量素子は変化した容量を記憶する。そのため、可変容量素子を不揮発性のメモリとして用いることができる。
【実施例0009】
図1(a)の可変容量素子1は、第1電極11、第2電極12とP型の有機半導体層13を備える。そして、第1電極11と有機半導体層13の間に、第1絶縁層14を有し、第2電極12と有機半導体層13の間に、第2絶縁層15を有する。第1電極11は基板16の面に設けられ、第1絶縁層14の基板16と反対側の面上にはバンク17が設けられる。第1電極11には第1配線21が接続し、第2電極12には第2配線22が接続する。有機半導体層13は第1絶縁層14と第2絶縁層15とにより絶縁され電気的に浮遊状態にある浮遊半導体層として設けられる。第1絶縁層14は、トンネル電流3が流れ得る厚さや材質等を有する。一方、第2絶縁層15はトンネル電流が流れない厚さや材質等を有する。一般的に、同じ材質であれば、薄い絶縁層はトンネル電流が流れ、厚い絶縁層はトンネル電流が流れないか流れにくい。
【0010】
<低容量状態>
有機半導体層13は絶縁性があるため、可変容量素子1は、第1電極11と第2電極12の間に第1絶縁層14、有機半導体層13、第2絶縁層15からなる絶縁体を挟んだコンデンサCoffとして機能する。そして、可変容量素子1は、図1(a)の状態では第1コンデンサC1、第2コンデンサC2、第3コンデンサC3の3つのコンデンサが直列に接続された構造となっている。第1コンデンサC1は第1絶縁層14を、第2コンデンサC2は有機半導体層13を、第2コンデンサC3は第2絶縁層15を、それぞれ誘電体としたコンデンサである。可変容量素子1の等価回路を、コンデンサCoffとして図1(b)に示す。
【0011】
<高容量化>
ここで、第2配線22より第1配線21を高電位として、第1電極11と第2電極12の間に電圧を印加する。この電圧は、第1絶縁層14にトンネル電流3を流すことが可能な程度の電位差である。そうすると、図2に矢印で示すように第1絶縁層14にトンネル電流3が流れる。しかし、第2絶縁層15には電流が流れない。
【0012】
<高容量状態>
トンネル電流3が流れた結果、図3(a)に示すように、有機半導体層13に正孔4が生じる。このようにして生じた正孔は、有機半導体層13の浮遊構造によって有機半導体層13内に保持される。正孔4を有する有機半導体層13は導体として機能し、図1における第2コンデンサC2は消滅する。この時の可変容量素子1の等価回路を、コンデンサConとして図3(b)に示す。ConはCoffよりも容量値が高い。このようにして、高容量状態のコンデンサConを実現することができる。
【0013】
近似的なモデルにより合成容量を計算すると以下の通りである。
ε0を真空誘電率、Sをコンデンサの面積とし、第1~第3コンデンサC1~C3の誘電体の比誘電率をε1~ε3、厚さをd1、d2、d3とする。
そうすると、第1~第3コンデンサC1~C3の容量値は以下のようになる。

C1=ε0*ε1*S/d1
C2=ε0*ε2*S/d2
C3=ε0*ε3*S/d3

そうすると、CoffとConの値は、以下のように表される。
Coff=ε0*S/(d1/ε1+d2/ε2+d3/ε3)
Con=ε0*S/(d1/ε1+d3/ε3)

ConはCoffよりも分母が小さいため、
Con>Coff
となる。
このように、第1絶縁層14にトンネル電流3を流して有機半導体層13に正孔4を注入することにより、容量値は高くなる。
なお、上記の計算では、近似的なモデルとして第1~第3コンデンサC1~C3の面積Sを同じとしたが、実際の可変容量素子1では、各コンデンサの面積は異なってもよい。
【0014】
第1絶縁層14と第2絶縁層15が同じ材質であると、第1コンデンサC1と第3コンデンサC3の比誘電率は、
ε1=ε3
となる。
そうすると、
Con=ε0*ε1*S/(d1+d3)
となる。
このように、第1絶縁層14と第2絶縁層15が同じ材質であると、有機半導体層13にキャリアを注入して導体とすることにより、d1+d3の厚さを持つ一つのコンデンサのように振る舞う。
【0015】
<低容量化>
第2配線22より第1配線21を低電位として、第1電極11と第2電極12の間に電圧を印加する。この電圧は、第1絶縁層14にトンネル電流3を流すことが可能な程度の電位差である。そうすると、図4に矢印で示すように第1絶縁層14にトンネル電流3が流れ、保持された正孔が流出する。これにより有機半導体層13は再び絶縁性が優位となり、図1の低容量状態のコンデンサCoffとなる。
【0016】
<パルス駆動>
図2,4の説明で示した可変容量素子1の高容量化や低容量化の際の電圧は、パルス状に印加することができる。そして、パルスを複数回印加することにより、有機半導体層13の導電性を連続的に変化させることができる。発明者は、パルスを印加する回数により、可変容量素子1の容量を連続的に変化させられることを発見した。低容量状態の可変容量素子1に図2に示す方向で電圧パルスを複数回印加すると、印加回数が多くなるほど容量値が高くなる。また、高容量状態の可変容量素子1に図4に示す方向でパルスを印加すると、印加回数が多くなるほど容量値が低くなる。以上の現象を発明者は見いだした。このようにパルス駆動により、可変容量素子1を所望の容量値とすることができる。また、容量値は記憶されるため、可変容量素子1を不揮発性のメモリとして用いることもできる。
【0017】
<製造方法>
可変容量素子1を製造する際には、基板16に第1電極11と第1配線21が積層され、さらに第1絶縁層14で覆う。そして、第1絶縁層14に複数のバンク17を設け、その中に半導体溶液を注入して有機半導体層13を形成する。さらに、第2絶縁層15で覆う。第2絶縁層15には第2電極12を設ける。第2電極12は第2配線22に電気的に接続される。
【0018】
このように、第1絶縁層14の表面に有機半導体層13を設けて第1絶縁層14を有機半導体層13の成膜基とすることにより、第1絶縁層14と有機半導体層13の界面を平坦にし易くなる。この界面はトンネル電流3が通過するため、可変容量素子1の安定的な性能発揮のために、上記の順序で可変容量素子1を製造することが好ましい。しかし、第2絶縁層15に有機半導体層13を形成し、さらに第1絶縁層14を形成してもよい。この場合には、第2絶縁層15はトンネル電流を流さないため、厚く形成することができる。そのため、図1~4に示すような基板16を省略することができる。
【0019】
第1電極11、第2電極12は銀電極など、種々の素材を用いることができる。基板16はガラスやガラスの表面をコーティングしたもの、高分子フィルムなどを用いることができる。また、第1絶縁層14と第2絶縁層15には、パラキシリレン系ポリマー等の絶縁性高分子、第1電極11の表面を酸化するなどして得られる絶縁性酸化膜、自己組織化単分子膜などを用いることができる。第1絶縁層14と第2絶縁層15は、同じ材質であってもよく、異なった誘電率の異なる材質であってもよい。なお、実施例1では第2絶縁層15はトンネル電流が流れないとしたが、第1絶縁層14よりトンネル電流が流れにくい材質や厚さ等を有したものであってもよい。
【0020】
また、有機半導体層13のトンネル電流3の通過面を平坦にするため、非晶性半導体を用いることが好ましい。P型の非晶性半導体としては、Poly-TPDを用いることができる。なお、P型の結晶性半導体としては、P3HTを用いることもできる。
【0021】
実施例1では、P型の有機半導体層13を用いたがN型であってもよい。この場合も絶縁層の一方にトンネル電流を流して用いるが、印加電圧の極性は逆になる。ただし、半導体層は電子移動度または正孔移動度の一方が他方よりも十分に低く、P型又はN型の一方のみとして機能することが好ましい。もし半導体層がP型およびN型の両方として機能する場合、低容量化の操作を行った際に逆符号のキャリアが注入されてしまい、十分に低容量化されない可能性があるためである。また、半導体層は、無機半導体層であってもよい。無機半導体層としては、P型又はN型の一方のみとして機能する酸化物半導体を用いることが好ましい。
【実施例0022】
本発明の可変容量素子は、ニューロモルフィックデバイスと呼ばれる、物理デバイスレベルで神経系の動作を再現するデバイスとしても利用することができる。容量性素子をシナプス素子に利用してニューロンの機能を模擬したデバイスの例を、実施例2として示す。
【0023】
図5に示したデバイスでは、左方に実施例1の可変容量素子1を複数備えている。複数の可変容量素子1は、複数の軸索末端が神経細胞に結合する複数のシナプス結合を模擬している。各可変容量素子1の第2電極12は、第2配線22を介して入力端子7と接続している。
【0024】
図5の右方には有機トランジスタ5等を配した状態を記載している。有機トランジスタ5はFETであり、第1絶縁層14の基板16とは反対側に、ソース電極51、有機半導体層52、ドレイン電極53を備える。また、第1絶縁層14の基板16の側にゲート電極54を備える。ゲート電極54は、複数の可変容量素子1の第1電極11も担う共通電極として、有機トランジスタ5まで延在した延在電極である。
【0025】
有機トランジスタ5のソース電極51は電源端子61に、ドレイン電極53は出力端子62に接続している。また、ドレイン電極53は、抵抗層63を介して接地電極64に接続し、接地電極64は接地端子65に接続している。
【0026】
図6図5のデバイスの等価回路を示す。有機トランジスタ5のドレイン電極53は、出力端子62に接続すると共に抵抗層63を介して接地端子65でアース電位に接続している。これにより、出力端子62にはデバイスの出力電圧が得られる。可変容量素子1は不揮発メモリであり、入力端子7からのパルス信号により、記憶する容量値を変化させる。そして、その容量値は、シナプスの結合の強さを表す重みとなり、容量値が大きい可変容量素子1ほど、入力端子7の電圧をゲート電極54に反映させやすいものとなる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
第2絶縁層15はトンネル電流が流れないとしたが、第1絶縁層14よりトンネル電流が流れにくいものであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 可変容量素子
11 第1電極
12 第2電極
13 有機半導体層
14 第1絶縁層
15 第2絶縁層
16 基板
17 バンク
21 第1配線
22 第2配線
3 トンネル電流
4 正孔
5 有機トランジスタ
51 ソース電極
52 有機半導体層
53 ドレイン電極
54 ゲート電極
61 電源端子
62 出力端子
63 抵抗層
64 接地電極
65 接地端子
7 入力端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6