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特開2022-182539プラント制御装置、プラント制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182539
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】プラント制御装置、プラント制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20221201BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20221201BHJP
   B21B 37/32 20060101ALI20221201BHJP
   B21B 37/38 20060101ALI20221201BHJP
   B21B 37/40 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G05B11/36 T
B21B37/00 261Z
B21B37/32 A
B21B37/38 D
B21B37/38 B
B21B37/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090147
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 哲
(72)【発明者】
【氏名】高田 敬規
(72)【発明者】
【氏名】田内 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大輝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隆
【テーマコード(参考)】
4E124
5H004
【Fターム(参考)】
4E124AA02
4E124BB03
4E124CC01
4E124CC03
4E124DD04
4E124DD05
4E124EE02
4E124EE05
4E124EE16
4E124FF01
5H004GA29
5H004GB03
5H004HA07
5H004HB07
5H004KA43
5H004KB01
5H004KC21
5H004KD31
(57)【要約】
【課題】制御対象プラントにおける操業異常の発生を予測し、操業異常が発生しないように制御操作端を適切に操作することで、制御効果と操業効率の向上を行う。
【解決手段】制御対象プラントに対して、操作に対する応答速度が所定の応答速度の第1操作処理と、第1操作処理よりも操作に対する応答速度が遅い第2操作処理とを行う。第1操作処理は、第1操作端で実行され、第2操作処理は、第2操作端で実行される。ここで、第1操作端の実績に基づいて第1操作端による第1操作処理の安全操作範囲を決定する安全操作範囲決定部を設ける。この安全操作範囲決定部による判断で、第1操作端による第1操作処理が、安全操作範囲でない場合に、第2操作処理の指示を補正又は変更して、第1操作端による第1操作処理の実績位置を、操業異常の発生が推定されない実績位置に移動させることを生産材単位で行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象プラントに対して、操作に対する応答速度が所定の応答速度の第1操作処理と、前記第1操作処理よりも操作に対する応答速度が遅い第2操作処理とを行うプラント制御装置であり、
前記制御対象プラントの目標とする状態量を取得して、前記第1操作処理の指示を行う操作端制御部と、
前記第2操作処理の指示を行う操作端設定部と、
前記操作端制御部による指示で、前記制御対象プラントの前記第1操作処理を実行する第1操作端と、
前記操作端設定部による指示で、前記制御対象プラントの前記第2操作処理を実行する第2操作端と、
前記第1操作端の実績に基づいて前記第1操作端による前記第1操作処理の安全操作範囲を決定する安全操作範囲決定部と、
制御対象プラントにおける操業実績より、生産材単位での制御対象プラントの前記第1操作処理による第1操作端の位置及び目標とする状態量を学習する学習部と、
前記学習部での学習結果を用いて次生産材の生産時における前記第1操作端の位置を予測する操作端位置予測部と、を備え、
前記操作端設定部は、前記操作端位置予測部での次生産材における前記第1操作端の位置の動作範囲予測値と、前記安全操作範囲決定部における判断により、生産材の操業時に前記第1操作端の位置が安全操作範囲から逸脱しないように前記第2操作端の位置を決定する
プラント制御装置。
【請求項2】
前記第1操作端による前記第1操作処理は、制御時間応答が前記第2操作処理よりも高速であると共に、前記制御対象プラントの制御対象状態量に与える影響が限定的であり、
前記第2操作端による前記第2操作処理は、制御時間応答が前記第1操作処理よりも低速であると共に、前記制御対象プラントの制御対象状態量の全域に対して影響を与えるものである
請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項3】
安全操作範囲決定部は、前記制御対象プラントの実績データを用いて、操業異常発生を認識し、操業異常発生時の実績データを教師データとすることで、実績データと操業異常の関係を学習して、安全操作範囲を決定し、
前記操作端位置予測部は、前記制御対象プラントの、生産材単位での前記第1操作端及び前記第2操作端の位置実績と、製品情報を含む製品実績データを教師データとすることで、生産材単位での前記第1操作端及び前記第2操作端の位置変動を予測する
請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項4】
実績データと操業異常の関係は、収集した実績データを基に機械学習して得る
請求項3に記載のプラント制御装置。
【請求項5】
前記制御対象プラントは圧延機であり、
前記第1操作処理は、機械構造で形状を変化させる機械的形状操作処理であり、
前記第2操作処理は、クーラントの板幅方向の噴射量を変更することで形状を変化させるクーラント形状操作処理であり、
安全操作範囲決定部は、前記第1操作端の、操業異常が発生しないような機械的位置の実績値に基づいて、前記第1操作処理の安全操作範囲を決定し、
制御対象プラントである圧延機おける操業実績より、生産材単位での圧延機の前記第1操作端の位置及び前記第2操作端の位置を学習し、その学習結果を用いて次生産材の生産時における前記第1操作端の位置を予測する操作端位置予測部を持ち、
前記操作端設定部は、前記操作端位置予測部での次生産材における前記第1操作端の位置の動作範囲予測値と、前記安全操作範囲決定部における判断により、次生産材の操業時に前記第1操作端の位置が安全操作範囲から逸脱しないように前記第2操作端の位置を決定する
請求項1~4のいずれか1項に記載のプラント制御装置。
【請求項6】
制御対象プラントに対して、第1操作端による操作に対する応答速度が所定の応答速度の第1操作処理と、前記第1操作処理よりも操作に対する応答速度が遅い第2操作端による操作での第2操作処理とを、演算処理部が行うプラント制御方法であり、
前記演算処理部が、前記制御対象プラントの目標とする状態量を取得して、前記第1操作処理の指示を行う制御手順と、
前記第2操作処理の指示を行う操作端設定手順と、
前記制御手順による指示で、前記演算処理部が、前記制御対象プラントの前記第1操作処理を実行する第1操作実行手順と、
前記操作端設定手順による指示で、前記演算処理部が、前記制御対象プラントの前記第2操作処理を実行する第2操作実行手順と、
前記第1操作処理の実績に基づいて、前記演算処理部が、前記第1操作実行手順による前記第1操作処理の安全操作範囲を決定する安全操作範囲決定手順と、
制御対象プラントにおける操業実績より、生産材単位での制御対象プラントの制御操作端1位置及び目標とする状態量を学習する学習手順と、
前記学習手順での学習結果を用いて次生産材の生産時における前記第1操作端の位置を予測する操作端位置予測手順と、を含み、
前記操作端設定手順は、前記操作端位置予測手順での次生産材における前記第1操作端の位置の動作範囲予測値と、前記安全操作範囲決定手順における判断により、次生産材の操業時に前記第1操作端の位置が安全操作範囲から逸脱しないように前記第2操作端の位置を決定する
プラント制御方法。
【請求項7】
制御対象プラントに対して、第1操作端による操作に対する応答速度が所定の応答速度の第1操作処理と、前記第1操作処理よりも操作に対する応答速度が遅い第2操作端による操作での第2操作処理とを、コンピュータに実行させるプログラムであり、
前記制御対象プラントの目標とする状態量を取得して、前記第1操作処理の指示を行う制御手順と、
前記第2操作処理の指示を行う操作端設定手順と、
前記制御手順による指示で、前記制御対象プラントの前記第1操作処理を実行する第1操作実行手順と、
前記操作端設定手順による指示で、前記制御対象プラントの前記第2操作処理を実行する第2操作実行手順と、
前記第1操作処理の実績に基づいて、前記第1操作実行手順による前記第1操作処理の安全操作範囲を決定する安全操作範囲決定手順と、
制御対象プラントにおける操業実績より、生産材単位での制御対象プラントの制御操作端1位置及び目標とする状態量を学習する学習手順と、
前記学習手順での学習結果を用いて次生産材の生産時における前記第1操作端の位置を予測する操作端位置予測手順と、を前記コンピュータに実行させるプログラムであり、
前記操作端設定手順は、前記操作端位置予測手順での次生産材における前記第1操作端の位置の動作範囲予測値と、前記安全操作範囲決定手順における判断により、次生産材の操業時に前記第1操作端の位置が安全操作範囲から逸脱しないように前記第2操作端の位置を決定する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント制御装置、プラント制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント制御の一つである圧延機制御を行う際には、従来から板の波打ち状態を制御する形状制御時に、ファジィ制御やニューロ・ファジィ制御が適用されてきた。ファジィ制御は、クーラントを利用した形状制御に、また、ニューロ・ファジィ制御は、センヂミア圧延機の形状制御に適用されている。
【0003】
ニューロ・ファジィ制御を適用した形状制御では、特許文献1に示されるように、形状検出器で検出された実績形状パターンと目標形状パターンの差と、予め設定された基準形状パターンとの類似割合を求める処理が行われている。そして、ニューロ・ファジィ制御を適用した形状制御では、求められた類似割合から、予め設定された基準形状パターンに対する制御操作端操作量によって表現された制御ルールにより、操作端に対する制御出力量を求めている。
【0004】
形状制御は、複数の制御操作端を持ち、それら複数の制御操作端の特徴の差により制御を実行する。形状は、板幅方向の板の波打ち状態であり、制御操作端は、板幅方向の特定の領域の形状を変化させることが可能である。例えば、AS-Uロールは、操作するサドル位置近傍の形状を、中間ロールシフトは板端部の形状をそれぞれ変化させることができる。形状制御を行う際には、実形状に応じて、形状偏差が抑制されるようにそれぞれの制御操作端を組み合わせて動作させる。
【0005】
圧延機が圧延を実施する際には、被圧延材と圧延機のロール間の潤滑及び圧延による発熱の冷却のため冷却材(以下クーラントと呼ぶ)が必要になる。この冷却材が形状制御の操作端となり、クーラントの噴射量を板幅方向で調整することにより板幅方向全領域で形状を変化させることが可能である。6段圧延機では、特許文献2に示すように、板幅方向でクーラント噴射量調整機構を持ち、実績形状を用いて噴射量を変更することで形状制御が実施されている。しかしながら、センヂミア圧延機では、圧延中、圧延機のロールがクーラントに浸かった状態となっており、クーラントは形状への効果が現れるまでAS-Uや中間ロールシフトに比較して時間を要する。また、クーラント噴射量の調整が自動ではできないため、流量調整弁の操作等オペレータが実施する必要がある場合も考えられる。
【0006】
また、圧延機の機械構成によっては、板幅方向でクーラントの流量調整が不可能な場合もあるが、その場合でもクーラント噴射ノズルを交換することで実際の板幅方向噴射量を変更することが可能である。センヂミア圧延機は、クーラントをワークロール近傍まで循環させるため、板幅方向で複数のクーラント噴射ノズルが設定された機械装置を圧延機に設定する機構を有している。このため、センヂミア圧延機は、流量の異なるクーラント噴射ノズルが設定された機械装置を複数準備することで、圧延前に交換し板幅方向でクーラント流量を変化させることができる。
【0007】
圧延機における圧延の実施中には、被圧延材が破断する操業異常が発生する場合がある。被圧延材の破断は、被圧延材に起因して発生する場合も多いが、被圧延材が蛇行することで破断する場合もある。被圧延材の蛇行とは、被圧延材が圧延機の片側にずれてしまうことをいい、通常は圧延機の中央部で圧延が実行される。
このような蛇行は、AS-Uロールや中間ロールシフトの位置により発生することが予想される。形状制御では、被圧延材の形状を目標形状に維持するためにAS-Uや中間ロールシフトを操作するが、その結果として機械的状態が被圧延材の蛇行が発生しやすい状態になることがある。
【0008】
従来から、4段圧延機や6段圧延機などの通常の圧延機においては、機械的な操作部であるベンダー、レベリングの他、クーラント噴射量を板幅方向で変更する操作部を有し、形状制御に使用している。センヂミア圧延機と異なり、通常の圧延機では圧延機のロールがクーラントに浸かっておらず、クーラントの形状に与える効果が機械的操作手段と同等の時間で得られる。そのため、通常の圧延機における形状制御は、機械的操作手段とクーラントを同等に扱い、クーラントを制御操作端として用いている。その場合においても、クーラントは板幅方向全域に効果があるため、機械的操作部と競合し、被圧延材の実績形状は同じでも、機械的操作部の実績位置は異なる場合が多い。
【0009】
また、4段圧延機や6段圧延機においても、クーラント装置の機械構成によっては、圧延中に板幅方向のクーラント流量の調整が不可能な場合もある。このような場合においても、オペレータは、手動操作により、圧延開始前に板幅方向のクーラント流量を変更することができる。
【0010】
図19は、従来のセンヂミア圧延機の制御装置の概略構成を示す。
まず、演算器901で、目標形状d1と圧延機990で得た被圧延材の形状実績d2との差分をとり、この差分を第1形状制御部902に与える。第1形状制御部902は、機械的な操作部である機械的操作端904を制御する。
【0011】
圧延機990は、機械的操作端904による機械的な操作処理と、クーラント操作端905によるクーラント噴射量の操作処理を実行して、被圧延材の圧延処理を行い、被圧延材の形状実績d2と圧延実績d3を得る。この場合、機械的操作端904による機械的な操作処理では、操作量の制御により、比較的高速の応答で、被圧延材の形状が変更される。
【0012】
この図19に示す構成の場合、機械的操作端904による機械的操作処理を適切に制御するのは難しいという問題があった。例えば、高速応答の機械的操作端904の動作範囲の上限に近い状態のときには、形状実績d2や圧延実績d3が安定に制御することができずに振動が発生し、制御対象プラントである圧延機990を安定に動作できないことがある。
【0013】
このようなセンヂミア圧延機の形状制御を適切に行う従来技術としては、例えば、特許文献3に記載されているように、被圧延材の実績形状偏差と制御操作端操作量の関係を実績データから機械学習を用いて学習して、制御する技術がある。この特許文献3に記載される技術では、形状偏差に応じて制御出力を出し、制御操作端を操作する形状制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許2804161号公報
【特許文献2】特許2515028号公報
【特許文献3】特開2018-005544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献3に記載された技術は、形状偏差に対する制御操作方法を学習することで形状制御を実行しており、制御操作端位置に関しては考慮されていない。特に、従来の形状制御においては、形状偏差に基づき制御しているため、板破断等の操業異常につながる機械的操作端の実績位置を制限することはできないという問題があった。
【0016】
なお、ここまでの説明では、センヂミア圧延機の形状制御の問題について述べたが、様々なプラント制御装置は、応答性が早い制御操作と、応答性が遅い制御操作を同時に行う場合、双方の制御操作を同時に適切に行う際に、同様な問題がある。
【0017】
本発明の目的は、制御対象プラントにおける操業異常の発生を予測し、操業異常が発生しないように制御操作端を適切に操作することで、制御効果と操業効率の向上を行うことができるプラント制御装置、プラント制御方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、プラント制御装置として、制御対象プラントに対して、操作に対する応答速度が所定の応答速度の第1操作処理と、第1操作処理よりも操作に対する応答速度が遅い第2操作処理とを行うプラント制御装置であり、
制御対象プラントの目標とする状態量を取得して、第1操作処理の指示を行う操作端制御部と、
第2操作処理の指示を行う第2操作端設定部と、
操作端制御部による指示で、制御対象プラントの第1操作処理を実行する第1操作端と、
操作端設定部による指示で、制御対象プラント第2操作処理を実行する第2操作端と、
第1操作端の実績に基づいて第1操作端による第1操作処理の安全操作範囲を決定する安全操作範囲決定部と、
制御対象プラントにおける操業実績より、生産材単位での制御対象プラントの第1操作処理による第1操作端の位置及び目標とする状態量を学習する学習部と、
学習部での学習結果を用いて次生産材の生産時における第1操作端の位置を予測する操作端位置予測部と、を備え、
操作端設定部は、操作端位置予測部での次生産材における第1操作端の位置の動作範囲予測値と、安全操作範囲決定部における判断により、生産材の操業時に第1操作端の位置が安全操作範囲から逸脱しないように前記第2操作端の位置を決定するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、制御対象プラントでの操業状態を適正に制御して、操業異常となるような操作端の実績位置を抑制することができる。その結果、制御対象プラントの制御精度の向上と、操業効率の向上と、操業異常の発生抑制が期待できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態例によるプラント制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施の形態例によるプラント制御装置を圧延機に適用した場合の構成例を示すブロック図である。
図3】センヂミア圧延機の例を示す構成図である。
図4】シングルスタンド圧延機の圧延設備の例を示す構成図である。
図5】本発明の一実施の形態例による機械的操作端の概要を示す図である。
図6】本発明の一実施の形態例による安全操作範囲決定部の構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の一実施の形態例による機械的操作端安全操作範囲決定部のニューラルネットの構成例を示す図である。
図8】本発明の一実施の形態例によるニューラルネット管理テーブルの構成例を示す図である。
図9】本発明の一実施の形態例による学習データベースの構成例を示す図である。
図10】本発明の一実施の形態例による機械的操作端位置予測部の構成例を示すブロック図である。
図11】本発明の一実施の形態例による機械的操作端位置予測部のニューラルネットの構成例を示す図である。
図12】本発明の一実施の形態例によるニューラルネット管理テーブルの構成例を示す図である。
図13】本発明の一実施の形態例による学習データベースの構成例を示す図である。
図14】本発明の一実施の形態例によるクーラント操作端設定部の構成例を示す図である。
図15】本発明の一実施の形態例による機械的操作端の予測値の例を示す図である。
図16】本発明の一実施の形態例による機械的操作端の決定例を示す図である。
図17】本発明の一実施の形態例によるクーラント操作端制御出力演算部とクーラント操作端制御出力選択部の構成例を示す図である。
図18】本発明の一実施の形態例のプラント制御装置をコンピュータで構成した場合のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図19】従来の圧延機の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)のプラント制御装置を、図1図18を参照して説明する。
【0022】
[プラント制御装置の全体構成]
図1は、本例のプラント制御装置の全体構成の例を示す。
図1に示すプラント制御装置は、制御対象プラント190を制御するものであり、制御対象プラント190の制御として、高速操作端(第1操作端)103による操作処理と、低速操作端(第2操作端)104による操作処理とを実行する。
本例のプラント制御装置は、第1状態量目標d11を取得し、演算器101で第1状態量d12との差分を取得する。第1状態量d12は、高速操作端103及び低速操作端104による操作処理の結果として、制御対象プラント190から得られるものである。また、高速操作端103及び低速操作端104は、制御対象プラント190に加えられるその他の操作端の操作処理の結果として第2状態量d13が得られる。
【0023】
プラント制御装置の制御ユニット110は、高速操作端制御部111と低速操作端設定部112とを有する。高速操作端制御部111は、高速操作端103の操作処理を制御する。低速操作端設定部112は、低速操作端104の操作処理を制御する。
高速操作端制御部111には、演算器101で得られた第1状態量目標d11と第1状態量d12との差分が供給され、第1状態量d12を差分に近づける制御が行われる。
高速操作端制御部111の制御出力は、高速操作端103に直接供給され、高速操作端103の操作処理を制御する。
【0024】
また、本例のプラント制御装置は、安全操作範囲決定部105を備える。安全操作範囲決定部105は、高速操作端103の操作実績を取得し、取得した操作実績が安全操作範囲に余裕を持っているか否かを判定し、判定結果としての安全操作範囲d14のデータを、低速操作端設定部112に供給する。
さらに、安全操作範囲決定部105は、制御対象プラント190の第1状態量d12と第2状態量d13を取得する。そして、安全操作範囲決定部105は、第1状態量d12と第2状態量d13とを参照して、高速操作端103の現在の操作実績が、安全操作範囲に余裕を持っているか否かを判定する。
【0025】
ここで、安全操作範囲決定部105は、操業異常の発生を検知し、その時点の第1状態量d12及び第2状態量d13と、高速操作端103の実績位置を学習して、高速操作端103で操業異常が発生しないように、操作可能な範囲である安全操作範囲d14を決定する。操業異常は、頻繁に発生する現象ではないため、安全操作範囲決定部105は、実績データを継続的に採取し、機械学習等を用いて学習を実行して、安全操作範囲d14を得るのが好ましい。
そして、安全操作範囲決定部105は、判定した安全操作範囲d14のデータを低速操作端設定部112に供給する。
【0026】
操作端位置予測部102は、生産材単位での高速操作端103の動作範囲を、過去の操業実績データより学習し、その結果をもとに次生産材生産時に高速操作端103の動作量を予測する。
低速操作端設定部112は、操作端位置予測部102で予測した次生産材生産時の高速操作端103の動作量を基に、高速操作端103が安全操作範囲d14内となるように低速操作端104の設定値を決定し、低速操作端104を設定する。低速操作端104の設定は、低速操作端設定部112の指令により、自動設定が可能であれば機械的に行い、自動設定が不可である場合は、オペレータに対して低速操作端104の設定値を画面に表示する等の手段により通知し、オペレータが手動にて設定する。
【0027】
図1に示す構成のプラント制御装置によると、高速操作端103を操業異常が発生しない範囲で、効率的に動作させることが可能になり、操業効率の向上に加えて、制御精度の向上も期待できる。
【0028】
[センヂミア圧延機の制御装置に適用した場合の全体構成]
次に、本例のプラント制御装置を、センヂミア圧延機に適用した場合の全体構成について説明する。
図2は、センヂミア圧延機に適用した場合の本例のプラント制御装置の構成を示す。
図2に示すプラント制御装置は、被圧延材の目標形状d21を取得し、演算器201で圧延後の形状実績d23との差分を取得する。
【0029】
本例のプラント制御装置は、圧延機301の制御として、機械的操作端203による操作処理と、クーラント操作端204による設定操作処理とを実行する。機械的操作端203による操作処理は、圧延処理を行うロールギャップなどを機械的に変化させるものであり、被圧延材の形状実績d23に現れる応答が高速になる。一方、クーラント操作端204による設定操作処理は、クーラント噴射量の変化させるものであり、被圧延材の圧延実績d24に現れる応答が、機械的操作端203による操作よりも低速になる。
【0030】
プラント制御装置の制御ユニット220は、機械的操作端203の操作処理を制御する第1形状制御部211と、クーラント操作端204の設定を行うクーラント操作端設定部212を有する。
第1形状制御部211は、被圧延材が目標形状d21となるようにフィードバック制御するものである。目標形状d21は、被圧延材の特性等に応じて予め設定されたものである。
【0031】
クーラント操作端設定部212は、クーラント操作端204の設定を実施する。ここで、設定を実施するという意味は、圧延機が製造する製品としての被圧延材(生産材)の製造単位である生産材単位ごとの製造作業を実施する前に、予めクーラント操作端204の板幅方向の流量分布を定めることを意味する。被圧延材の製造作業中は、板幅方向の流量分布の変更は行わない。被圧延材の製造単位とは、圧延操業の1回を意味し、生産材単位とも称する。より詳細に説明すると、センヂミア圧延機においては、同じ被圧延材を、圧延方向を変えながら出側板厚の異なる(出側板厚を順次減少させていく)複数回の圧延操業を実施して、目標となる製品板厚を得る作業が行われる。この複数回の圧延操業の1回ごとが、上述した製造単位や生産材単位である。
第1形状制御部211の制御出力は、機械的操作端203に直接供給され、機械的操作端203の操作処理を制御する。
【0032】
クーラント操作端設定部212は、クーラント操作端204の設定を実施するが、プラント制御装置の制御ユニット220からの直接操作が不可である場合には、オペレータにクーラント操作端204の設定ガイダンスを表示し、オペレータが設定操作を行う。ここでの制御ユニット220からの直接操作が不可の場合とは、例えば制御ユニット220が電子計算機で実現される場合、入出力ユニット経由で電子計算機が直接クーラント操作端204を操作することができない場合をいう。
【0033】
また、本例のプラント制御装置は、機械的操作端安全操作範囲決定部205を備える。
機械的操作端安全操作範囲決定部205は、機械的操作端203の操作実績である機械的操作端位置実績d22を取得し、取得した機械的操作端位置実績d22が安全操作範囲に余裕を持っているか否かを判定する。そして、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、判定結果としての機械的操作端安全操作範囲d25のデータを、クーラント操作端設定部212に供給する。
【0034】
さらに、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、圧延機301の形状実績d23と圧延実績d24を取得する。そして、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、形状実績d23と圧延実績d24とを参照して、取得した機械的操作端位置実績d22が、安全操作範囲に余裕を持っているか否かを判定する。
【0035】
機械的操作端安全操作範囲決定部205は、操業異常の発生を検知し、その時点の形状実績d23及び圧延実績d24と、機械的操作端位置実績d22を学習する学習部としての処理を行う。この学習により、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、機械的操作端203で操業異常が発生しないように、操作可能な範囲である機械的操作端安全操作範囲d25を決定する。ここで機械的操作端安全操作範囲決定部205は、実績データを継続的に採取し、機械学習等を用いて学習を実行して、機械的操作端安全操作範囲d25を得る。
そして、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、判定した機械的操作端安全操作範囲d25のデータをクーラント操作端設定部212に供給する。
なお、機械的操作端安全操作範囲決定部205が操業異常の学習などを行う詳細構成については図6で後述する。
【0036】
機械的操作端位置予測部210は、圧延実績d24、機械的操作端位置実績d22、及びクーラント操作端位置実績d27より、被圧延材の製造単位毎に、機械的操作端位置変動量d26を学習する。機械的操作端位置変動量d26は、製造単位毎に機械的操作端203の実績値がどの範囲で変動したかを、製造単位を製品仕様に応じて分類し学習したものである。
ここで、製品仕様に応じて分類するとは、被圧延材の鋼種や板幅、板厚等により、機械的操作端203の実績値がほぼ同様となるように予め基準を設定しておき、その基準に従って分類することをいう。
【0037】
分類が同じ製品仕様であれば、機械的操作端203の実績値の移動範囲は同じになるので、被圧延材の製造単位毎の製造作業が開始される前に、製造作業を開始する製造単位の製品仕様が判明する。このため、機械的操作端位置予測部210は、製品仕様が同じ分類の機械的操作端位置変動量d26の学習結果を得ることができる。同時に、機械的操作端位置予測部210は、機械的操作端位置変動量d25の場合におけるクーラント操作端204の位置も予測可能であり、クーラント操作端位置予測d28をクーラント操作端設定部212に出力する。
【0038】
クーラント操作端設定部212は、次製造単位の機械的操作端位置変動量d26及びそのときのクーラント操作端位置予測d28を機械的操作端位置予測部210より受け取る。そして、クーラント操作端設定部212は、機械的操作端安全操作範囲決定部205から受け取った機械的操作端安全操作範囲d25と、機械的操作端位置変動量d26とを比較する。これにより、クーラント操作端設定部212は、次製造単位の製造作業を実施した場合に、機械的操作端203の位置実績が機械的操作端安全操作範囲d25内にあるかどうかを判定する。
【0039】
この判定の結果、機械的操作端安全操作範囲d25内にある場合は、クーラント操作端設定部212は、クーラント操作端位置予測d28をクーラント流量とするクーラント設定指示をクーラント操作端204に出力する。
また、判定の結果、機械的操作端安全操作範囲d25から外れる場合には、クーラント操作端設定部212は、機械的操作端203の位置実績を機械的操作端安全操作範囲d25となる板幅方向のクーラント流量でクーラント操作端位置予測d28を補正したクーラント設定指示を、クーラント操作端204に出力する。
この場合のクーラント操作端204に対する出力指示としては、クーラント操作端設定部212からクーラント操作端204へ直接出力するほか、オペレータに対してクーラント操作端204の設定値を表示し、オペレータが作業を実施して実際のクーラント流量変更を行う場合を含む。
【0040】
[センヂミア圧延機の構成]
ここで、センヂミア圧延機の構成例について説明する。
図3は、センヂミア圧延機において、形状制御を行う場合の概略構成を示す。
センヂミア圧延機は、圧延された被圧延材の実形状が、形状検出器14で検出される。
形状検出器14で検出された実形状は、制御装置10の形状検出前処理部11でパターン認識の前処理が施された後、パターン認識部12で予め設定された基準形状パターンのどれに最も近いかが演算される。そして、演算された基準形状パターンに基づいて、制御演算部13で、操作すべき操作端及び操作量が判断され、その操作すべき操作端及び操作量でセンヂミア圧延機を制御する処理が実行される。
【0041】
図4は、シングルスタンド圧延機の圧延設備の例を示す。センヂミア圧延機は、シングルスタンド圧延機の一種である。
図4に示す圧延設備は、圧延機301と入側テンションリール(以下、「TR」と称する)302と出側TR303とより構成され、入側TR302から引き出された被圧延材300が、圧延機301を通過して、出側TR303により巻き取られる。
圧延機301は、被圧延材300を圧延する。ここでの圧延とは、被圧延材300の板厚を所定の板厚まで薄くする処理である。
【0042】
圧延機301には、圧延速度を調整するためのミル速度制御部304と、圧延機301のロールギャップを調整するためのロールギャップ制御部307が設置されている。また、入側TR302と出側TR303には、それぞれが発生する張力を調整するための入側TR制御部305、及び出側TR制御部306が設置されている。
【0043】
圧延処理は、圧延機301の上下ロール間隔をロールギャップ制御部307により調整することで被圧延材300を潰す圧力をかけ、ミル速度制御部304により被圧延材300を出側に送り出すことで実施される。このとき、圧延機301の入側及び出側で、入側TR302及び出側TR303を用いて被圧延材300に張力をかける処理も行われる。
【0044】
圧延操業にとって重要なのは、製品となる被圧延材300の板厚(圧延機の出側板厚)であり、被圧延材300が予め決められた板厚となるように、ロールギャップ及び入側張力、出側張力が予め設定される。
入側張力電流変換部315は、入側張力設定部311にて設定された入側張力を用いて、設定された入側張力を得るために必要な電流を求め、入側TR制御部305を介して入側TR302に与えることで入側張力を得る。
同様に、出側張力電流変換部316は、出側張力設定部312にて設定された出側張力を用いて、設定された出側張力を得るために必要な電流を求め、出側TR制御部306を介して出側TR303に与えることで出側張力を得る。
【0045】
ロールギャップ設定部319にて設定されたロールギャップは、ロールギャップ制御部307に与えられ、ロールギャップ制御部307によりロールギャップが設定される。
圧延速度設定部310は、圧延機のオペレータの指示により圧延機301の速度を決定し、ミル速度制御部304により圧延機301の速度を設定する。
【0046】
圧延機301の入側及び出側には、入側張力計308及び出側張力計309が設置され、それらで測定された実績張力が設定張力と一致するように入側張力制御部313及び出側張力制御部314が制御を実行する。また、圧延機301の出側には、出側板厚計317が設置され、そこで測定された実績板厚が設定板厚と一致するように出側板厚制御装部318が制御を実行する。
【0047】
以上の構成に加えて、既に説明した図3に示すように、圧延機の出側には被圧延材の形状を検出するための形状検出器14が設置されており、検出された形状が予め設定された目標形状と一致するように形状制御が実行される。
【0048】
既に述べたように、形状は、被圧延材である金属の板の波打ちの度合いである。したがって、圧延機の下工程での加工性や圧延機においての圧延操業の効率性から目標となる形状である目標形状が予め設定される。一般的には、被圧延材には張力が印加されているため、板端部にひび割れ等の傷が有ったりすると、そこから裂け目が発生し、被圧延材が板幅方向に分断(板破断)する場合が発生しやすい。このため、張力が集中しないように板端部を波打たせる状態にする場合が多い。
【0049】
被圧延材の波打ちは、実際には被圧延材に張力をかけているため、顕在化せず、見かけ上は波打ち無しになるが、板幅方向で張力分布が変化している。
ここで、図3に示す形状検出器14は、板幅方向での張力分布を測定することで板の波打ちを推定して形状実績として検出する。
【0050】
[形状制御機械的操作端の構成及び処理]
図5(a)は、センヂミア圧延機の機械的操作端203により操作処理が行われる際の構成を示す。図5では、被圧延材300の板幅方向の断面を示し、被圧延材300の上側の構成のみを示し、下側の構成は省略する。
また、図5(b),(c)は、それぞれ被圧延材300の形状を変化させた場合の動作波形を示す。
【0051】
センヂミア圧延機は、図5(a)に示すように、被圧延材300をはさんで、ワークロール401、第1中間ロール402、第2中間ロール403、AS-Uロール404より構成される。
第1中間ロール402は、上下で逆側にロールにテーパが設けられており、板幅方向にシフトすることで、被圧延材300の板端部の形状に影響を与えることができる。
【0052】
AS-Uロール404は、複数の分割ロール405の間にサドル406が入った構成になっており、サドル406の位置(図5の縦方向の位置)を変えることで、AS-Uロール404のたわみを板幅方向で変化させることができる。
例えば図5(b)に示すように、中心のサドル406を下げた場合、被圧延材300の中央部の形状に影響を与えることができる。
【0053】
ここで、図5(b),(c)の最下段に示す動作波形は、サドル406又は第1中間ロール402をシフト操作したときの被圧延材300の板厚分布の変化を示す。形状変化は板厚分布とは逆となる。
形状は板幅方向の波打ちの度合いの分布であり、波打ちが大きいということは、被圧延材300が伸びていることである。これは、「出側板厚が薄くなる」ことと、「薄くなった部分の被圧延材の伸びが大きい」ことと、「被圧延材の形状が大きくなる」こととが等しいためである。
【0054】
操業異常については、被圧延材300の板破断が大きな問題である。板破断が発生すると、破断後の被圧延材300が圧延機のワークロール401や第1中間ロール402を破損させてしまう。また、場合によっては、板破断の発生で、第2中間ロール403やAS-Uロール404についても破損させてしまう。これらの破損が発生すると、これらのロールの交換が必要になると共に、圧延機内に残った被圧延材300の除去処理に時間を要し、操業効率が極端に低下する。
【0055】
AS-Uロール404は、分割ロール405をサドル406で押さえ込む形で第2中間ロール403に押し付けているため、サドル406の位置によっては、分割ロール405と第2中間ロール403が接触しなくなる場合がある。そのような状態になると、その部分のワークロール401から被圧延材300にかかる力が急減し、被圧延材300が伸びなくなり、その部分の被圧延材300にかかる張力が増大する。
【0056】
このような状態が被圧延材300の板端部で発生した場合、板端部から板破断することになる。また、被圧延材300の板幅方向両端部にかかる張力が変化するため、被圧延材300の板幅方向中心が圧延機の板幅方向中心からずれてしまう現象が発生し、圧延機前後の機械設備に衝突して、板破断となる場合もある。このように、機械的操作端203の実績位置によっては、操業異常が発生しうる場合がある。
【0057】
操業異常が発生する実績位置は、機械構成から計算で求まるものではなく、被圧延材300の板幅方向板厚分布や、入出側板厚、張力や圧延荷重等の圧延状態、他の形状制御機械的操作端との位置関係でも変化するため、予め予測するのは困難である。
そこで、本例においては、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、圧延異常が発生したときのこれらの条件を実績データとして保存し、正常時の実績データと比較することで、圧延異常が発生しやすい形状制御機械的操作端の実績位置を求める。
【0058】
本例の機械的操作端安全操作範囲決定部205は、機械学習を用いて機械的操作端安全操作範囲を決定する。機械学習を行う際の実績データには、入出側板厚、張力や圧延荷重等の圧延状態、機械的操作端203の実績位置を用い、教師データには圧延異常発生情報を用いる。
圧延異常発生情報としては、板破断及び圧延機の非常停止の情報が用いられる。板破断は、入出側張力が減少することで判定可能であり、非常停止は圧延状態に何らかの異常が発生し、操業を停止する場合にオペレータが操作する操作スイッチの情報が用いられる。操作スイッチの情報は、圧延機を制御する制御装置を構成する計算機で検出することができ、実績情報の1つとして利用可能である。機械的操作端安全操作範囲決定部205は、これらの実績データ及び教師データを用いて、操業異常の発生の有無を判定するニューラルネットワーク(N.N.)を作成する。
【0059】
[機械的操作端安全操作範囲決定部の構成とニューラルネットの構成]
図6は、機械的操作端安全操作範囲決定部205を機械学習により実現した場合の構成を示す。
また、図7は、機械的操作端安全操作範囲決定部205が備えるニューラルネット502の構成を示す。
ニューラルネット502は、図7に示すように、入力データ作成部501から、圧延実績d24と機械的操作端位置実績d22を入力端502aに得、出力端502bから操業異常判定値d32を出力する。操業異常判定値d32は、圧延異常発生情報である板破断の情報及び非常停止の情報である。ニューラルネット502は、これらの入力データと出力データの組み合わせから学習を実行する。
【0060】
図6に示す機械的操作端安全操作範囲決定部205について説明すると、入力データ作成部501は、機械的操作端位置実績d22及び形状実績d23を採取する。また、教師データ作成部505は、操業異常判定部506で判定した操業異常判定値d32を採取する。これらの入力データ作成部501と教師データ作成部505でのデータ採取は、ニューラルネット学習制御部503の制御により定時間周期で行われ、1つの動作周期毎に1組の学習データを得る。得られた学習データは、学習データデータベース511に順次格納される。
操業異常判定部506は、圧延実績d24より操業異常である板破断及び圧延機の非常停止の有無を判定する。判定結果である操業異常判定値d32は、板破断及び非常停止の情報である。
【0061】
ところで、圧延機は、種々の被圧延材300を仕様に応じて圧延し、製品を得る。このため、圧延機は、被圧延材300を仕様に応じて、機械構成であるワークロール401の仕様(板幅方向の直径分布)、第1中間ロール402のテーパ仕様、AS-Uロール404の分割ロール405の組合せを変更して対応するのが一般的である。また、被圧延材300についても、板幅や材質は一様ではない。そのため、機械構成や被圧延材300の仕様に応じて、ニューラルネット502を分けた方が効率的な学習が可能になる。
このため、本例の機械的操作端安全操作範囲決定部205は、ニューラルネット502を複数種類持ち、切り替えて使用することが可能となるように、制御ルールデータベース512及びニューラルネット選択部504を備える。
【0062】
図8は、制御ルールデータベース512の構成例を示す。
制御ルールデータベース512には、図8(a)に示すように、入力データと教師データとの組み合わせよりなる学習データを用いて学習した複数のニューラルネットが格納されている。
そして、ニューラルネット学習制御部503は、学習が必要なニューラルネットNo.を指定する。ニューラルネット選択部504は、ニューラルネット学習制御部503の学習が必要なニューラルネットNo.の指定を受けて、制御ルールデータベース512より当該ニューラルネットを取り出し、ニューラルネット502に設定する。
ニューラルネット選択部504は、現状の圧延実績d24より圧延条件及び機械構成に合わせて、制御ルールデータベース512より、該当するニューラルネットNo.のニューラルネットを取り出し、制御用ニューラルネットd33として機械的操作端位置抑制制御部202に設定する。
【0063】
図8(b)は、制御ルールデータベース512に格納される、ニューラルネット管理テーブルの構成を示す。管理テーブルは、(B1)板幅と、(B2)鋼種及び機械構成(A)に応じて区分けされる。(B1)板幅としては、例えば、3フィート幅、メータ幅、4フィート幅、5フィート幅の4区分が用いられる。(B2)鋼種としては、鋼種(1)~鋼種(10)の10区分程度が用いられる。(A)については、例えば第1中間ロール402のテーパ仕様であるテーパ部の長さに従い、(A1)、(A2)に区別する。
以上のテーブル区別は、一例であり、圧延設備や生産する被圧延材の種類に応じて適時設定する必要が有る。
機械的操作端安全操作範囲決定部205は、これらのニューラルネットを、圧延条件及び機械構成に応じて使い分けて使用する。
【0064】
ニューラルネット学習制御部503は、図8(a)に示す入力データ及び教師データの組合せである学習データを、図8(b)に示すニューラルネット管理テーブルに従って、該当するニューラルネットNo.と紐付けて学習データデータベース511に格納する。
【0065】
図9は、学習データデータベース511が格納する学習データの例を示す。
図9に示すように、学習データデータベース511は、ニューラルネットNo.ごとに対応した学習データを格納する。
【0066】
ニューラルネット学習制御部503は、学習データデータベース511より、当該ニューラルネットに対応する、入力データ及び教師データの管理テーブルからの取り出しを、入力データ作成部501及び教師データ作成部505に指示する。ニューラルネット502は、これらを用いて学習を実行する。ニューラルネットの学習方法は、従来から種々提案されており、いずれの学習手法を用いてもよい。
【0067】
機械学習には、大量の学習データの組が必要であり、学習データデータベース511にある程度(例えば10000組)格納されたら、ニューラルネット502は学習を実行する。
ニューラルネット502の学習が完了すると、ニューラルネット学習制御部503は、学習結果であるニューラルネット502を、制御ルールデータベース512の当該ニューラルネットNo.の位置に書き戻すことで、学習が完了する。
【0068】
学習が完了したニューラルネット502は、圧延実績d24と機械的操作端位置実績d22を入力することで、操業異常判定値を出力する。このため、ニューラルネット502は、予想される将来の形状実績d23と機械的操作端位置実績d22を与えることで、操業異常発生有無を予測することができ、機械的操作端安全操作範囲d25を探索することが可能である。
【0069】
[機械的操作端位置予測部の構成とニューラルネットの構成]
図10は、機械的操作端位置予測部210を機械学習により実現した場合の構成を示す。
また、図11は、機械的操作端位置予測部210が備えるニューラルネット702の構成を示す。
図11に示すように、ニューラルネット702は、入力データ作成部701から圧延実績d24を入力端702aに得て、出力端702bからクーラント操作端位置予測d28及び機械的操作端位置変動量d26を出力する。ニューラルネット702は、これらの入力データと出力データの組み合わせから学習を実行する。
【0070】
図10に示す機械的操作端位置予測部710について説明すると、入力データ作成部701は、圧延実績d24を採取する。また、教師データ作成部705は、製造単位データ作成部706で作成した製造単位毎の機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28を採取する。
製造単位データ作成部706は、圧延実績d24の圧延速度から、被圧延材の製造単位を判断する。既に述べたように、被圧延材の製造単位は圧延操業の1回を意味するから、被圧延材の1回の圧延操業(製造単位の製造)は、圧延速度=0から圧延速度=0でない状態になり、その後圧延速度=0となるまでと判断できる。
したがって、製造単位データ作成部706は、圧延速度0となるまでの間の機械的操作端位置実績d22及びクーラント操作端位置実績d27の最大値、最小値を採取し、機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28を作成する。
【0071】
被圧延材の圧延操業1回(製造単位)が終了し、機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28の作成が完了したら、ニューラルネット702の学習に必要な学習データが1つ作成されるので、製造単位データ作成部706は、ニューラルネット学習制御部703に通知する。ニューラルネット学習制御部703は、製造単位データ作成部706からの通知を受け取って、入力データ作成部701と教師データ作成部705でのデータ採取を実施する。得られた学習データは、学習データデータベース711に順次格納される。
【0072】
ところで、圧延機は、種々の被圧延材300を仕様に応じて圧延し、製品を得る。このため、圧延機は、被圧延材300を仕様に応じて、機械構成であるワークロール401の仕様(板幅方向の直径分布)、第1中間ロール402のテーパ仕様、AS-Uロール404の分割ロール405の組合せを変更して対応するのが一般的である。また、被圧延材300についても、板幅や材質は一様ではない。そのため、機械構成や被圧延材300の仕様に応じて、ニューラルネット702を分けた方が効率的な学習が可能になる。
このため、本例の機械的操作端位置予測部201は、ニューラルネット702を複数種類持ち、切り替えて使用することが可能となるように、制御ルールデータベース712及びニューラルネット選択部704を備える。
【0073】
図12は、制御ルールデータベース712の構成例を示す。
制御ルールデータベース712には、図8(a)に示すように、入力データと教師データとの組み合わせよりなる学習データを用いて学習した複数のニューラルネットが格納されている。
そして、ニューラルネット学習制御部703は、学習が必要なニューラルネットNo.を指定する。ニューラルネット選択部704は、ニューラルネット学習制御部703の学習が必要なニューラルネットNo.の指定を受けて、制御ルールデータベース712より当該ニューラルネットを取り出し、ニューラルネット702に設定する。
ニューラルネット選択部704は、現状の圧延実績d24より圧延条件及び機械構成に合わせて、制御ルールデータベース712より、該当するニューラルネットNo.のニューラルネットを取り出し、制御用ニューラルネットd33として設定する。
【0074】
制御用ニューラルネットd33には、入力データ作成部701からの圧延実績d24が入力され、クーラント操作端設定部212に、機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28を出力する。このとき、圧延実績d24には、板厚、鋼種、張力、荷重等の設定値などの被圧延材の次製造単位の製造情報が含まれているため、これらの製造情報を基に機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28を推定する。
そして、制御用ニューラルネットd33にて求めた機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28がクーラント操作端設定部212に出力される。
【0075】
図12(b)は、制御ルールデータベース712に格納される、ニューラルネット管理テーブルの構成を示す。管理テーブルは、(B1)板幅と、(B2)鋼種及び機械構成(A)に応じて区分けされる。(B1)板幅としては、例えば、3フィート幅、メータ幅、4フィート幅、5フィート幅の4区分が用いられる。(B2)鋼種としては、鋼種(1)~鋼種(10)の10区分程度が用いられる。(A)については、例えば第1中間ロール402のテーパ仕様であるテーパ部の長さに従い、(A1)、(A2)に区別する。
以上のテーブル区別は、一例であり、圧延設備や生産する被圧延材の種類に応じて適時設定する必要が有る。
機械的操作端位置予測部210は、これらのニューラルネットを、圧延条件及び機械構成に応じて使い分けて使用する。
【0076】
ニューラルネット学習制御部703は、図12(a)に示す入力データ及び教師データの組合せである学習データを、図12(b)に示すニューラルネット管理テーブルに従って、該当するニューラルネットNo.と紐付けて学習データデータベース711に格納する。
【0077】
図13は、学習データデータベース711が格納する学習データの例を示す。
図13に示すように、学習データデータベース711は、ニューラルネットNo.ごとに対応した学習データを格納する。
【0078】
ニューラルネット学習制御部703は、学習データデータベース711より、当該ニューラルネットに対応する、入力データ及び教師データの管理テーブルからの取り出しを、入力データ作成部701及び教師データ作成部705に指示する。ニューラルネット702は、これらを用いて学習を実行する。ニューラルネットの学習方法は、従来から種々提案されており、いずれの学習手法を用いてもよい。
【0079】
機械学習には、大量の学習データの組が必要であり、学習データデータベース711にある程度(例えば10000組)格納されたら、ニューラルネット702は学習を実行する。
ニューラルネット702の学習が完了すると、ニューラルネット学習制御部703は、学習結果であるニューラルネット702を、制御ルールデータベース712の当該ニューラルネットNo.の位置に書き戻すことで、学習が完了する。
【0080】
学習が完了したニューラルネット702は、入力データ作成部701から圧延実績d24が入力されると、ニューラルネット選択部704に、機械的操作端位置変動量d26及びクーラント操作端位置予測d28を出力する。このため、ニューラルネット702は、次に生産する製造単位と、同じか類似している製造単位を製造する場合には、機械的操作端位置の変動範囲と、その時の板幅方向のクーラント噴射量の分布を過去の実績データから予測することができる。
【0081】
[クーラント操作端設定部の構成]
図14は、クーラント操作端設定部212の構成を示す。
クーラント操作端設定部212は、機械的操作端位置異常領域判定部610と、機械的操作端位置異常抑制制御部620とを備える。
機械的操作端位置異常領域判定部610は、図7で説明したニューラルネット502を用いて、操業異常の発生が予測される機械的操作端203を推定する。ここで使用するニューラルネット502は、機械的操作端安全操作範囲決定部205(図6)より受け取った制御用ニューラルネットd33である。
機械的操作端位置異常抑制制御部620は、機械的操作端位置異常領域判定部610での判定結果を基に、クーラント操作端204の設定指令を作成する。
【0082】
機械的操作端位置予測部210(図2)は、次に製造する製造単位である被圧延材の圧延操業時に、機械的操作端203の実績位置が、どの程度変動するかを予測し、機械的操作端位置変動量d26として、クーラント操作端設定部212に渡す。
ここで、機械的操作端位置変動量d26は、各機械的操作端203が製造単位内での最大値と最小値の差なので、次に説明する図15に示すような内容になる。
【0083】
この機械的操作端の各動作範囲内での種々の位置の組合せが操業異常とならないかどうかは、操作範囲をいくつかに分けて機械的操作端安全範囲決定部205にて学習した操業異常を判定可能なニューラルネットd33に入力して、操業異常発生の可能性を判断することにより知ることができる。しかしながら、機械的操作端203は複数個(本実施例の場合は7種類)あるため、判定が必要なケース数が膨大な数となり実用的ではない。
【0084】
操業異常の原因となるような機械的操作端実績位置は、機械的操作端203の動作の上限または下限近傍であり、動作範囲中央部にはないと考えられる。したがって、機械的操作端位置予測部210は、各機械的操作端203の最大値及び最小値の組合せをとり、制御用ニューラルネットd33(図10参照)に入力することで簡易的に安全操作範囲の判定を実施することが可能になる。
【0085】
図15は、機械的操作端位置変動量の例を示す。図15の横軸は、機械的操作端203の種類、縦軸は位置予測値を示す。
図15の例は、機械的操作端203がn種類(nは整数)である場合、機械的操作端位置変動量d26の最大値及び最小値は、
POSMAX(k),POSMIN(k),k=1,2,・・・,n
である。
【0086】
例えば、図15に示す機械的操作端(3)の製造単位の動作範囲は、最大値POSMAX(3)と最小値POSMIN(3)で示される範囲になる。
ここで、機械的操作端203がn種類とは、例えば、AS-Uロール404のサドル406の数と、板幅方向にシフト可能な第1中間ロール402の数の合計値が該当する。例えば、図5に示す例の場合、サドル数5、第1中間ロールが上下2本であるのでn=7になる。以下の説明で、機械的操作端203(k)と示した場合、機械的操作端203のn種類(1~n)の中のそれぞれを示す。
【0087】
これにより、各機械的操作端203の推定位置実績は、2通り作成することができる。例えば、n=7の場合、推定位置実績は、128通り作成できる。この推定位置実績は、順次、入力データ作成部612(図7参照)に出力される。
入力データ作成部612は、圧延実績d24と推定位置d31よりニューラルネット502への入力データを作成して、ニューラルネット502へ出力する。
【0088】
ニューラルネット502は、図7に示す操業異常判定値d32を出力する。操業異常判定値d32は、板破断及び非常停止となる度合いである。ここでは、ニューラルネット502から出力される操業異常判定値d32を受けて、出力データ判定部613が両者の度合いを重みづけして加算し、操業異常評価値d26とする。一般に、操業異常が発生した場合、オペレータは非常停止を実施するが、オペレータは、板破断に至る兆候が発生した場合も実施する。ここで、板破断に至る兆候としては、例えば被圧延材300が蛇行する場合などが考えられる。
非常停止がなく板破断が発生した場合は、板破断の兆候がなく発生したことになるので、このような場合には、板破断を抑制する方の優先度が高くなる。したがって、板破断の度合いの重みづけを大きくする。
【0089】
図14に示す機械的操作端位置異常領域探索部611は、出力した推定位置d31と、戻ってきた操業異常評価値d26を記憶しておき、操業異常評価値d26が最大となる推定値を探索する。探索の結果、操業異常評価値d26の最大値が、予め定めておいた閾値を超えた場合、機械的操作端位置異常領域探索部611は、その場合の推定位置d31における機械的操作端位置変動量d26の各操作端の最大値POSMAX(i)、最小値POSMIN(i)のどちらかの組合せをPOSEST(i)として記憶する。そして、POSEST(i)を補正することによる、操業異常評価値d26の増減を確認するため、予め定めたΔPOS(i)だけ、POSEST(i)を増減させる。
【0090】
つまり、以下に示す演算が行われる。
POSEST(i)+=POSEST(i)+ΔPOS(i)
POSEST(i)-=POSEST(i)-ΔPOS(i)
POSEST(i)0= POSEST(i)+0(ΔPOS(i)=0)
【0091】
そして、再度、各機械的操作端203の上記3種類の機械的操作端位置推定値を、各機械的操作端203に組み合わせて推定位置d31を設定し、入力データ作成部612に出力する。入力データ作成部612は、圧延実績d24と推定位置d31よりニューラルネット502への入力データを作成して、ニューラルネット502へ出力する。
【0092】
ここでは、機械的操作端位置異常領域探索部611は、操業異常評価値d26が最小となる(異常となる度合いが最も小さい)推定位置d31の組合せを探索し、結果を実績位置異常領域操作端判定値d51(ΔPOS(i)、-ΔPOS(i))として出力する。また、機械的操作端位置異常領域探索部611は、このときの操業異常評価値d26も、操業異常評価最大値として実績位置異常領域操作端判定値d51に含める。
【0093】
図16は、図15に示す機械的操作端位置変動量が修正された状態を示す。図16に示す動作範囲の斜線を付けて示す範囲が、修正された箇所である。
例えば、図16に示す機械的操作端(3)の製造単位の動作範囲は、予め定めたΔPOS(3)だけPOSEST(3)を増加又は減少させた、POSEST(3)+又はPOSEST(3)-で示す範囲に修正される。なお、上述した式のPOSEST(i)0= POSEST(i)+0(ΔPOS(i)=0)の場合のように、範囲を修正しない場合もある。
【0094】
以上説明した例では、機械的操作端位置異常領域探索部611は、機械的操作端位置変動量d26の各機械的操作端の最大値、最小値を用いて推定位置d31を作成した。これに対して、計算機の処理能力に余裕がある場合は、更に細分化して推定位置d31を作成することも可能である。
また、機械的操作端位置異常領域探索部611は、POSEST(i)からの変化量を3通りとして推定位置d31を作成したが、別の処理で作成してもよい。例えば、機械的操作端位置異常領域探索部611は、推定位置d31の変化量を細かく制御するようにしてもよい。なお、機械的操作端位置異常領域探索部611は、明らかに操業異常が発生しない方向への探索は実施しないなど、状況に応じて適時変更してもよい。ここで、明らかに操業異常が発生しない方向とは、例えば機械的操作端実績位置の中央方向へ移動する場合が考えられる。
【0095】
機械的操作端位置異常抑制制御部620は、機械的操作端位置異常領域判定部610の出力である実績位置異常領域操作端判定値d51と、第2形状制御部212のクーラント操作端204への制御指令から、クーラント操作端204への設定出力であるクーラント設定d41を作成する。
【0096】
機械的操作端位置変動量d26に従って、機械的操作端位置が変化しても操業異常が発生しないと判断される場合は、機械的操作端位置予測部210は、機械的操作端位置変動量d26と同時に予測したクーラント操作端位置予測d28をそのまま用いてもよい。
【0097】
クーラント制御ルールデータベース623は、製造単位毎の機械的操作端203と影響するクーラント操作端204の対応が予め定められている。この対応は、圧延操業中に実際に機械的操作端203とクーラント操作端204を操作して求めることも可能であり、また、機械学習により、実績データより求めることも可能である。ここでは、実際に操作した結果から、対応を求めてクーラント制御ルールデータベース623に登録した場合を考える。
【0098】
[クーラント操作端制御出力演算部の構成及び動作]
図17は、クーラント操作端制御出力演算部621の構成と動作を示す。
クーラント制御ルールデータベース623(図14)には、各機械的操作端203(k)を操作するのと同等の効果が得られるクーラント流量変化必要量が登録されている。図17(a)に示すデータベース検索部631は、機械的操作端位置異常領域判定部610で得られた実績位置異常領域操作端判定値d27に基づいて、クーラント制御ルールデータベース623から、操業異常が発生する機械的操作端203(k)の実績位置変更量に該当するクーラント流量変化必要量を取り出す。
【0099】
そして、出力合成部632は、取り出した機械的操作端203(k)毎のクーラント流量変化必要量を加算処理し、図17(b)に示す異常抑制出力d42を得る。
クーラント操作端制御出力選択部622は、加算器622aで異常抑制出力d42とクーラント操作端位置予測d28を加算し、さらに上下限処理部622bで上下限処理を実施後、クーラント設定d41として出力する。
【0100】
クーラント設定d41は、クーラント操作端204で直接設定される他、マンマシンインターフェース画面にオペレータに対するガイダンスとして出力され、オペレータがガイダンスに従ってクーラント操作端204を操作するようにしてもよい。
【0101】
以上により、過去の実績より、次の製造単位の圧延操業を実施しても、機械的操作端203の位置に起因する操業異常の発生がないと判断された場合は、クーラント操作端位置予測d28がそのままクーラント設定d41として出力される。また、操業異常の発生が予測される場合は、操業異常の発生を抑制する方向に補正されたクーラント設定d41が出力される。
【0102】
各製造単位のクーラント設定と、機械的操作端の位置変動は、機械的操作端位置予測部210で常時学習され、次回同様の製造単位の圧延操業が実施される場合に使用されることで、操業異常の発生を抑制するようなクーラント設定を実現することができる。
【0103】
以上説明したように、本例のプラント制御装置によると、機械的操作端203の機械的操作端位置実績d22に起因する操業異常を防止しつつ、良好な形状制御を実行することが可能になる。
【0104】
[変形例]
なお、本発明は、上述した実施の形態例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0105】
例えば、上述した実施の形態例においては、機械的操作端安全操作範囲決定部205を機械学習により実現したが、オペレータの経験から数式により表現することで、機械的操作端安全操作範囲決定部205を実現してもよい。あるいは、操業異常発生時の圧延状態をデータベース化しておき、該当するケースの有無を判定して、機械的操作端安全操作範囲決定部205を実現してもよい。
また、機械的操作端安全操作範囲決定部205は、オペレータや操業技術者の知識を元に、数値モデルや記号倫理モデルを作成して、機械学習時に利用してもよい。
【0106】
また、上述した実施の形態例では、機械的操作端位置異常抑制制御部620は、クーラント制御ルールデータベース623に予め実験等により求めた結果を格納しておき利用するようにした。これに対して、機械的操作端位置異常抑制制御部620は、機械学習を用いて、実績データからルールベースを作成してもよい。
また、上述した実施の形態例では、圧延機の形状制御を対象としたが、本発明は、一般的なプラント制御に対しても適用が可能である。
【0107】
また、図1などのブロック図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0108】
また、上述した実施の形態例で説明した制御部などの処理部は、それぞれ専用のハードウェアで構成してもよいが、コンピュータにプログラム(アプリケーション)を実装することで、上述した実施の形態例で説明した各処理部の機能を実現してもよい。
図18は、プラント制御装置をコンピュータで構成した場合のハードウェア構成例を示す。
図18に示すプラント制御装置(コンピュータ)100は、バスにそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)100a、ROM(Read Only Memory)100b、及びRAM(Random Access Memory)100cを備える。さらに、プラント制御装置100は、不揮発性ストレージ100d、ネットワークインタフェース100e、入出力装置100f、及び出力装置100gを備える。
【0109】
CPU100aは、プラント制御装置100が行う機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM100bから読み出して実行する演算処理部である。
RAM100cには、演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。
不揮発性ストレージ100dには、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの大容量情報記憶媒体が用いられる。不揮発性ストレージ100dには、プラント制御装置100が行う処理機能を実行するプログラム(プラント制御プログラム)が記録される。また、不揮発性ストレージ100dには、機械学習を行うために必要なデータが記録される。
【0110】
ネットワークインタフェース100eは、LAN(Local Area Network)、専用線などを介して外部と各種情報の送受信を行う。
入出力装置100fは、制御対象プラント190(圧延機301)からの各種情報を入力すると共に、各操作端103,104(203,204)への指示を行う情報を出力する。
表示装置100gは、制御対象プラント190(圧延機301)の制御状態を表示する。
【0111】
なお、プラント制御装置100が行う各処理機能を実現するプログラムの情報は、HDDやSSDなどの不揮発性ストレージの他に、半導体メモリ、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置くことができる。
【0112】
また、プラント制御装置の各処理部の一部又は全てをハードウェアで構成する場合には、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)を利用してもよい。
【符号の説明】
【0113】
11…形状検出前処理部、12…パターン認識部、13…制御演算部、14…形状検出器、50…制御装置、100…プラント制御装置(コンピュータ)、101…演算器、102…第3制御部、103…高速操作端、104…低速操作端、105…安全操作範囲決定部、110…制御ユニット、111…高速操作端制御部、112…低速操作端設定部、190…制御対象プラント、201…演算器、202…機械的操作端位置抑制制御部、203…機械的操作端、204…クーラント操作端、205…機械的操作端安全操作範囲決定部、210…機械的操作端位置予測部、211…形状制御部、212…クーラント操作端設定部、220…制御ユニット、300…被圧延材、301…圧延機、302…入側テンションリール(入側TR)、303…出側テンションリール(出側TR)、304…ミル速度制御部、305…入側TR制御部、306…出側テンションリール制御部、307…ロールギャップ制御部、308…入側張力計、309…出側張力計、310…圧延速度設定部、311…入側張力設定部、312…出側張力設定部、313…入側張力制御部、314…出側張力制御部、315…入側張力電流変換部、316…出側張力電流変換部、317…出側板厚計、318…出側板厚制御装部、319…ロールギャップ設定部、401…ワークロール、402…第1中間ロール、403…第2中間ロール、404…AS-Uロール、405…分割ロール、406…サドル、501…入力データ作成部、502…ニューラルネット、503…ニューラルネット学習制御部、504…ニューラルネット選択部、505…教師データ作成部、506…操業異常判定部、511…学習データデータベース、512…制御ルールデータベース、610…機械的操作端位置異常領域判定部、611…機械的操作端位置異常領域探索部、612…入力データ作成部、613…出力データ判定部、620…機械的操作端位置異常抑制制御部、621…クーラント操作端制御出力演算部、622…クーラント操作端制御出力選択部、623…クーラント制御ルールデータベース、701…入力データ作成部、702…ニューラルネット、703…ニューラルネット学習制御部、704…ニューラルネット選択部、705…教師データ作成部、706…製造単位データ作成部、711…学習データデータベース、712…制御ルールデータベース、901…演算器、902…第1形状制御部、903…第2形状制御部、904…機械的操作端、905…クーラント操作端、990…圧延機、d11…第1状態量目標、d12…第1状態量、d13…第2状態量、d14…安全操作範囲、d21…目標形状、d22…機械的操作端位置実績、d23…形状実績、d24…圧延実績、d25…機械的操作端安全操作範囲、d26…機械的操作端位置変動量、d27…クーラント操作端位置実績、d28…クーラント操作端位置予測、d30…クーラント操作出力、d31…推定位置、d32…操業異常判定値、d33…制御用ニューラルネット、d42…異常抑制出力、d51…実績位置異常領域操作端判定値、d52…操業異常評価値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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