(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182559
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20221201BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20221201BHJP
B60T 13/12 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T8/17 B
B60T13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090174
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】増田 芳夫
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB33
3D048CC54
3D048DD02
3D048HH18
3D048HH42
3D048RR35
3D246BA05
3D246CA03
3D246CA04
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3D246GB15
3D246GC11
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA04A
3D246HA13A
3D246HA43A
3D246HA64A
3D246HA81A
3D246HA94A
3D246HA95A
3D246JB11
3D246JB33
3D246JB47
3D246LA02Z
3D246LA04Z
3D246LA23Z
3D246LA57Z
3D246LA73Z
(57)【要約】
【課題】 制動制御装置において、停車状態が確実に維持され得るものを提供する。
【解決手段】 制動制御装置は、車両(JV)のホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を電気的に調節するアクチュエータ(HU)と、前記車両(JV)の制動操作部材(BP)の操作量(Ba)に基づいて前記アクチュエータ(HU)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。前記コントローラ(ECU)は、前記車両(JV)の停止状態を判定する時点(t3)で、前記制動液圧(Pw)を所定液圧(Pk)だけ増加する嵩上げを行うよう構成されている。更に、前記コントローラ(ECU)は、前記操作量(Ba)が所定量(bx)よりも大きい場合には、前記車両(JV)が動き出しても、前記嵩上げを継続する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のホイールシリンダの制動液圧を電気的に調節するアクチュエータと、
前記車両の制動操作部材の操作量に基づいて前記アクチュエータを制御するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記車両の停止状態を判定する時点で、前記制動液圧を所定液圧だけ増加する嵩上げを行うよう構成された、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記操作量が所定量よりも大きい場合には、前記車両が動き出しても、前記嵩上げを継続する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「乗員の意志による簡単な操作によって、車両の制動力を保持する制御を実行すること」を目的に、「乗員の制動操作に基づいて動作する所定の制動装置により車輪に付与する制動力を制御する車両の制動制御装置において、前記車両の車速を検出する車速検出手段(ステップS101)と、前記所定の制動装置における前記乗員の制動操作量を検出する制動操作検出手段(ステップS102~S105)と、前記車速検出手段により前記車速が所定車速以下になったことが検出された場合に、前記制動操作検出手段により前記所定の制動装置における前記乗員の第1の制動操作量が検出され、その後、その第1の制動操作量よりも大きい前記所定の制動装置における前記乗員の第2の制動操作量が検出された場合に、前記制動力を保持する制動力保持手段(ステップS103~S106)と、を備える」ことが記載されている。具体的には、特許文献1に記載される制動制御装置は、第1の制動操作量が検出された後に第1の制動操作量に予め定められた所定量を加えた値よりも大きい前記第2の制動操作量が検出された場合に、制動力を保持するものである。
【0003】
ところで、傾斜路面(例えば、登坂路、降坂路)において、車両の重力加速度成分に起因する力と制動力とが略同等の状態で車両が停止(即ち、停車)されていることがある。該状況では、僅かな制動力の減少で、車両が動き始め、運転者が違和感を覚える場合がある。同様に、クリープトルクと制動力とが略等しい状態で停車されている場合にも、登坂路等と同様の現象が生じ得る。車両の制動制御装置では、確実に停車状態が維持され得るものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、車両の制動制御装置において、停車状態が確実に維持され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の制動制御装置は、車両(JV)のホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を電気的に調節するアクチュエータ(HU)と、前記車両(JV)の制動操作部材(BP)の操作量(Ba)に基づいて前記アクチュエータ(HU)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。
【0007】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記車両(JV)の停止状態を判定する時点(t3)で、前記制動液圧(Pw)を所定液圧(Pk)だけ増加する嵩上げを行うよう構成される。更に、前記コントローラ(ECU)は、前記操作量(Ba)が所定量(bx)よりも大きい場合には、前記車両(JV)が動き出しても、前記嵩上げを継続する。
【0008】
上記構成によれば、車両JVが停止した際には、制動液圧Pwの嵩上げによって、確実に停車状態が維持される。また、車両JVが動き出しても、嵩上げは継続されるので、車両JVが、滑らかに発進され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る制動制御装置SCを搭載する車両の全体を説明するための概略図である。
【
図2】調圧制御の処理を説明するためのフロー図である。
【
図3】調圧制御の動作を説明するための時系列線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
<構成要素の記号等>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された部材、信号、値等の構成要素は同一機能のものである。車輪に係る各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前輪、後輪の何れに関する要素であるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は「前輪に係る要素」を、「r」は「後輪に係る要素」を、夫々示す。例えば、ホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf、後輪ホイールシリンダCWr」というように表記される。更に、添字「f」、「r」は省略されることがある。これらが省略される場合には、各記号は、その総称を表す。
【0012】
<制動制御装置SCを搭載した車両JV>
図1の概略図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体構成について説明する。車両JVには、制動操作部材BP、制動装置SX、各種センサ(VW等)、及び、制動制御装置SCが備えられる。
【0013】
車両JVには、制動操作部材BPが備えられる。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPの操作量Baに応じて、制動制御装置SC(後述)にて制動液圧Pwが発生される。そして、制動液圧Pwが、制動装置SXに供給される。
【0014】
車両JVの各車輪WHには、制動液圧Pwに応じて、車輪WHに制動力Fxを発生させるよう、制動装置SXが備えられる。制動装置SXは、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KT、及び、ブレーキキャリパCPにて構成される。回転部材KTは、車輪WHに固定され、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパCPが設けられる。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられる。ホイールシリンダCWには、制動制御装置SCから、制動液圧Pwに調整された制動液BFが供給される。制動液圧Pwによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSが、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動力Fxが発生される。
【0015】
車両JVには、制動操作量センサBA、操舵量センサSA、車輪速度センサVW、ヨーレイトセンサYR、前後加速度センサGX、横加速度センサGY等の各種センサが備えられる。
【0016】
制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baを検出する制動操作量センサBAが設けられる。具体的には、制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧(マスタシリンダ液圧)を検出するマスタシリンダ液圧センサPM(図示省略)、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP(図示省略)、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFP(図示省略)のうちの少なくとも1つが採用される。つまり、制動操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、制動操作変位Sp、及び、制動操作力Fpのうちの少なくとも1つに基づいて決定される。
【0017】
操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)(図示省略)の操作量Saを検出する操舵量センサSA(例えば、操舵角センサ)が設けられる。操舵操作量Sa(例えば、操舵角)は、車両の直進走行に対応する操舵中立位置「Sa=0」からの変位である。車両JVの各車輪WHには、車輪WHの回転速度である車輪速度Vwを検出する車輪速度センサVWが備えられる。また、車両JVには、車体の実際のヨーレイト(ヨー角速度)Yrを検出するヨーレイトセンサYR、車体の前後方向における加速度(前後加速度)Gxを検出する前後加速度センサGX、及び、車体の横方向における加速度(横加速度)Gyを検出する横加速度センサGYが設けられる。
【0018】
車両JVには、制動装置SX(特に、ホイールシリンダCW)に加圧された制動液BFを供給するよう、制動制御装置SCが備えられる。具体的には、制動制御装置SCは、制動操作部材BPの操作量Baに応じて、電気的に、制動液圧Pwを発生する。そして、制動液圧Pwが、ホイールシリンダCWに供給されて、車輪WHに制動力Fxが発生される。制動制御装置SCは、マスタシリンダCMを含む流体ユニットHU(「アクチュエータ」ともいう)、及び、制動制御装置SC用のコントローラECU(単に、「コントローラ」ともいう)にて構成される。
【0019】
流体ユニットHU(アクチュエータ)は、電気モータMAを動力源として、制動液圧Pwを電気的に発生させる。そして、制動液圧Pwは、前輪、後輪連絡路HSf、HSrを介して、ホイールシリンダCWに供給される。例えば、制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用される。また、2系統の制動系統として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用されてもよい。なお、制動制御装置SCには、制動液圧Pwを検出する制動液圧センサPWが設けられる。
【0020】
例えば、流体ユニットHUには、ストロークシミュレータSS(単に、「シミュレータ」ともいう)が含まれる。即ち、制動制御装置SCでは、所謂、ブレーキ・バイ・ワイヤ型の構成が採用され得る。具体的には、シミュレータSSによって、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。シミュレータSSの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSSに流入する際に、制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。つまり、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって形成される。
【0021】
操作力Fpは、シミュレータSSによって発生されるため、シミュレータSS内の液圧(シミュレータ液圧)Puを検出するシミュレータ液圧センサPU(図示省略)は、上記の操作力センサFPに相当する。また、シミュレータSSが、マスタシリンダCMに接続される構成では、シミュレータ液圧センサPUが、マスタ液圧センサPMに相当する。つまり、シミュレータ液圧センサPUは、制動操作量センサBAの1つであり、シミュレータ液圧Puは、制動操作量Baの1つである。
【0022】
≪流体ユニットHUの構成例≫
例えば、流体ユニットHU(アクチュエータ)として、以下に列挙する構成のものが採用される。何れにしても、流体ユニットHUは、電気モータを動力源にして、電気的にホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwを調整することができる。
-電気モータを動力源にして、アキュムレータに蓄えられた高圧(アキュムレータ液圧)に基づき、リニア弁を介して、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwが制御される構成(例えば、特開2008-006893号を参照)。
-上記のアキュムレータ液圧に基づいて、マスタシリンダを介して、制動液圧Pwが制御される構成(例えば、特開2018-047807号を参照)。
-電気モータにて駆動される流体ポンプが吐出する制動液BFが、リニア弁によって絞られることで、制動液圧Pwが制御される構成(例えば、特開2016-144952号を参照)。
-電気モータによって、シリンダに挿入されたピストンが直接駆動されることで制動液圧Pwが調整される構成(例えば、特開2015-231821号を参照)。
【0023】
制動制御装置SCには、上述の流体ユニットHUを制御するよう、コントローラECUが設けられる。コントローラECUには、制動操作量Ba、制動液圧Pw、車輪速度Vw、前後加速度Gx等の信号が入力される。そして、これらの信号に基づいて、コントローラECUによって、流体ユニットHUを構成する電磁弁、電気モータ等が制御される。コントローラECUは、「信号処理を行うマイクロプロセッサMP」、及び、「電磁弁、電気モータを駆動する駆動回路DD」にて構成される。なお、コントローラECUは、他のシステムと情報(検出値、演算値等)を共有できるよう、通信バスBSを介して、他のコントローラに接続されている。
【0024】
コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車両JVの車体速度Vxが演算される。また、コントローラECUでは、車輪速度Vw、及び、車体速度Vxに基づいて、車輪WHのロックを抑制するアンチロックブレーキ制御が実行される。更に、コントローラECUでは、操舵操作量Sa、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、横加速度Gy等に基づいて、車両JVの安定性を維持する(即ち、過大なアンダステア/オーバステア挙動を抑制する)車両安定性制御が実行される。
【0025】
<調圧制御の処理>
図2のフロー図を参照して、制動制御装置SCにおける調圧制御の処理例について説明する。「調圧制御」は、電気モータMAを動力源にして、電気的に制動液圧Pwを発生し、調整するものである。調圧制御のアルゴリズムは、コントローラECU内のマイクロプロセッサMPにプログラムされている。
【0026】
ステップS110にて、制動操作量Ba、制動液圧Pw、車輪速度Vw、前後加速度Gx等を含む各種信号が読み込まれる。ここで、制動操作量Ba(制動操作部材BPの操作状態量の総称)は、制動操作量センサBAによって検出される。制動液圧Pwは、制動液圧センサPWによって検出される。車輪速度Vwは、車輪速度センサVWによって検出される。前後加速度Gxは、前後加速度センサGXによって検出される。
【0027】
ステップS120にて、車輪速度Vw、及び、公知の方法に基づいて、車体速度Vxが演算される。また、車体速度Vxは、通信バスBSを通して、他のコントローラから取得されてもよい。
【0028】
ステップS130にて、要求液圧Ps(変数)が演算される。要求液圧Psは、運転者によって要求された車両JVを減速するための制動液圧Pw(実際値)に対応する目標値である。要求液圧Psは、ブロックX130に示すように、制動操作量Ba(変数)、及び、演算マップZpsに基づいて決定される。具体的には、演算マップZpsに従って、制動操作量Baが「0」から遊び量boの範囲内では、要求液圧Psは「0」に演算される。そして、制動操作量Baが遊び量bo以上の場合には、制動操作量Baの増加に伴って、要求液圧Psが「0」から増加するように演算される。つまり、「Ba≧bo」では、制動操作量Baが大きいほど、要求液圧Psが大きくなるように決定される。ここで、遊び量boは、予め設定された所定値(定数)であり、制動操作部材BPに遊びに相当する。
【0029】
ステップS140にて、車体速度Vxに基づいて、「車両JVが停車状態であるか、否か(「停車判定」という)」が判定される。車体速度Vxが「0」よりも大きく、車両JVが未だ減速中である場合には、停車判定は否定され、処理はステップS150に進められる。車体速度Vxが「0」であり、車両JVが停車中である場合には、停車判定は肯定され、処理はステップS160に進められる。
【0030】
ステップS150にて、減速制御が実行される。「減速制御」は、制動操作量Baに応じて、車両JVを減速するものである。具体的には、減速制御では、制動操作量Baによって要求される要求液圧Psが、目標液圧Ptとして演算される(即ち、「Pt=Ps」)。ここで、目標液圧Ptは、制動制御装置SCによって達成されるべき液圧の最終的な目標値である。従って、要求液圧Psは、目標液圧Ptを演算するための中間的な目標値ということができる。
【0031】
ステップS150の減速制御では、制動液圧Pw(実際値)が、目標液圧Pt(目標値)に近付き、一致するように、流体ユニットHUが制御される。つまり、減速制御では、制動液圧センサPWの検出値Pwに基づく、液圧フィードバック制御が実行される。
【0032】
ステップS160にて、停車制御が実行される。「停車制御」は、車両JVの停車状態を維持するものである。具体的には、停車制御では、制動操作量Baによって要求される要求液圧Psに対して、更に所定液圧Pkが加算されて、最終的な目標値である目標液圧Ptが演算される(即ち、「Pt=Ps+Pk」)。ここで、要求液圧Psに所定液圧Pkが加算され、その結果、制動液圧Pwが所定液圧Pkだけ増加されることが、「嵩上げ」と称呼される。また、所定液圧Pkが「嵩上げ液圧」とも称呼される。停車制御でも、減速制御と同様に、制動液圧Pwが、目標液圧Ptに近付き、一致するよう、流体ユニットHUが液圧フィードバック制御される。
【0033】
例えば、所定液圧Pk(嵩上げ液圧)は、予め設定された所定値(定数)として決定される。また、所定液圧Pkは、路面勾配Kvに基づいて演算されてもよい。具体的には、ブロックX160に示すように、演算マップZpkに従って、路面勾配Kvが大きいほど、所定液圧Pkが大きくなるように決定される。路面勾配Kvは、車両JVが停車する時点での、車両JVの前後方向(進行方向)に対する道路の傾斜(例えば、登坂路、降坂路の傾き)である。路面勾配Kvは、前後加速度センサGXの検出値(前後加速度)Gxに基づいて演算される。また、路面勾配Kvは、通信バスBS等を介して、地図情報から取得されてもよい。なお、演算マップZpkでは、演算される所定液圧Pkに、下限値pk、及び、上限値pjが設けられている。ここで、下限値pk、上限値pjは、予め設定された所定値(定数)である。
【0034】
更に、所定液圧Pkは、制動操作部材BPが「0(非制動状態に対応する初期位置)」に向けて戻されるに従って、徐々に小さくなるように決定されてもよい。ここで、所定液圧Pkには下限値pkが設けられている。詳細には、車両JVが停止する時点(停車時点)で、所定液圧Pkが決定される。そして、制動操作量Baが一定である場合には、停車時点での所定液圧Pkが維持される。その後、制動操作量Baが減少されるにつれて、所定液圧Pkが順次減少されていく。しかしながら、所定液圧Pkには、下限値pkが設けられているので、停車制御が終了される時点でも、目標液圧Ptは、要求液圧Psに対して、少なくとも下限値pk分だけは大きい。
【0035】
停車制御は、車両JVが動き始めても、制動操作量Baが所定量bxよりも大きい場合には継続される。即ち、停車制御による嵩上げは、車両JVが停止したことが判定された時点で開始され、制動操作量Baが所定量bx以下の条件が満足される時点で終了される。ここで、所定量bxは、制動操作量Baに対応するしきい値であり、予め設定された「0」近傍の所定値(定数)である。例えば、所定量bxは「0」に設定され得る。この場合、車両JVが動き始めた後、制動操作部材BPが完全に初期位置「0」に戻されるまでは、停車制御が実行され続け、制動液圧Pwの嵩上げが行われる。そして、制動操作が完全に終了され、制動操作量Baが「0」に戻される時点で、停車制御が終了され、所定液圧Pkが「0」にステップ的に減少される。換言すれば、停車制御の実行中は、車両JVが動いていても、制動液圧Pwは、要求液圧Psに対して、所定液圧Pkだけ(少なくとも下限値pkだけ)は嵩上げされ続ける。
【0036】
停車制御では、減速制御に対して、制動液圧Pwが所定液圧Pk分だけ嵩上げされている。つまり、停車状態では、所定液圧Pkが余裕として、制動液圧Pwに見込まれている。このため、車両の停止状態に対して、クリープトルクや路面勾配による重力の影響が及び難い。結果、運転者の意思に反して車両JVは動き出さず、確実な停車状態が維持され得る。
【0037】
停車制御は、車両JVが動き出した後も継続され、制動操作量Baが所定量bx以下になる時点で終了される。車両JVが動き出した時点(即ち、停車状態ではなくなった時点)で、停車制御による嵩上げが直ちに終了されると、車両JVの動き(例えば、車体加速度)に不連続が生じ、運転者が違和を感じる場合がある。該状況が回避され得るよう、「Ba≦bx」が満足される時点で、所定液圧Pk分の嵩上げが終了される。このように、制動液圧Pwの嵩上げが継続されることにより、車両JVが発進される際において、上記不連続が回避され、円滑で良好な発進特性が確保され得る。
【0038】
<調圧制御の作動>
図3の時系列線図(時間Tの経過に対する各種状態量の遷移図)を参照して、停車制御を含む調圧制御の作動例について説明する。例では、車体速度Vxが一定速度voで走行している車両JVが減速され、その後、停止される状況が想定されている。ここで、車両JVが停止した時点での路面は下り勾配を有する降坂路である。また、停車制御の終了条件において、所定量bx(制動操作量Baに係るしきい値)は「0」に設定されている。
【0039】
線図では、時点t0(制動操作の開始時点)から時点t3(停車判定時点)までが、ステップS150の減速制御に対応し、時点t3から時点t7(制動操作の終了時点)までが、ステップS160の停車制御に対応している。なお、制動液圧Pwは、目標液圧Ptに一致するように制御されるので、制動液圧Pwと目標液圧Ptとは重なっている。
【0040】
時点t0までは、制動操作が行われず、「Vx=vo」の定速で車両JVは走行している。時点t0にて、制動操作部材BPの操作が開始され、制動操作量Baが「0(初期位置)」から増加される。そして、時点t1にて、制動操作量Baは値baに保持される。
【0041】
時点t0からは、演算マップZpsに応じて、要求液圧Psが「0」から順次増加される。そして、時点t1からは、「Ba=ba」に対応して、要求液圧Psは値paに維持される。車両JVは未だ停止していないので、ステップS150の減速制御が実行される。このため、最終的な目標値(目標液圧)Ptは、要求液圧Psに等しく演算される。つまり、目標液圧Ptは、「Pt=Ps」に基づいて決定される。減速制御によって、目標液圧Ptに一致するよう、制動液圧Pwが制御(増加)される。この減速制御により、時点t0にて、車両JVの減速が開始され、時点t1からは、「Pw=pa」に対応して、車体減速度が一定で、車体速度Vxが減少される。
【0042】
時点t2にて、車体速度Vxが「0」になり、車両JVが停止する。時点t2の直後(即ち、時点t3)にて、ステップS140の停車判定が肯定され、停車状態(即ち、「Vx=0」の状態)が識別される。これに伴い、状態フラグFTが、「0」から「1」に切り替えられる。ここで、状態フラグFTは、停車状態を表す制御フラグであって、「1」が停車状態を、「0」が走行状態(停車状態ではなく、車両JVが動いている状態)を、夫々表示する。
【0043】
時点t3にて、調圧制御が、減速制御(ステップS150の処理)から停車制御(ステップS160の処理)に切り替えられる。換言すれば、時点t3にて、減速制御が終了され、停車制御が開始される。これにより、時点t3からは、要求液圧Psに所定液圧Pkが加えられることで、最終的な目標値(目標液圧)Ptが演算される。即ち、「Pt=Ps+Pk」に基づいて、目標液圧Ptが決定される。停車制御でも、制動液圧Pwが、目標液圧Ptに近付き、一致するように調整される。つまり、同一の制動操作量Baであっても、停車制御の場合には、減速制御の場合に比較して、所定液圧Pkだけ高い制動液圧PwがホイールシリンダCWに供給される。
【0044】
時点t4にて、制動操作部材BPの戻し操作が開始される。時点t4からは、制動操作量Baが、「0」に向けて徐々に減少される。時点t5にて、下り勾配に起因する重力、及び、車両JVの発動機によって発生されるクリープトルクにより、車両JVが動き始める。その直後の時点t6にて、車両JVの走行状態(即ち、「Vx≠0」)が識別され、状態フラグFTが、「1(停車状態)」から「0(走行状態)」に切り替えられる。しかしながら、制動操作量Baは「0(=bx)」に戻されていないため、停車制御の実行は継続される。
【0045】
車両JVが動き始めた後の時点t7にて、制動操作部材BPが完全に初期位置(非制動状態)にまで戻されて、制動操作量Baが「0」にされる。時点t7にて、停車制御が終了され、所定液圧Pkが「0」に急減される。時点t7では、「Ba=0」であるため、「Ps=0」である(演算マップZpsを参照)。従って、時点t7では、目標液圧Ptは「0」に決定され、制動液圧Pwは「0」に調整される。
【0046】
所定液圧Pkは、制動操作量Baの減少に伴って、小さくなるように演算され得る。しかしながら、所定液圧Pkには、予め設定された下限値pk(定数)が設けられる。この場合、目標液圧Ptは、一点鎖線(a)にて示すように遷移する。所定液圧Pkが徐々に減少される構成であっても、制動操作が終了される直前では、目標液圧Ptは、要求液圧Psよりも、少なくとも下限値pk分だけは大きいので、制動終了時点t7で、目標液圧Ptは「0」に急減される。
【0047】
停車制御によって、制動液圧Pwの嵩上げが実行されるので、発動機のクリープトルク、路面勾配等の影響を受けず、車両JVの停車状態が確実に維持される。更に、制動液圧Pwの嵩上げは、車両JVが動いていても、制動操作量Baが所定量bx以下になるまで(例えば、制動操作が完全に終了されるまで)継続される。これにより、車両JVは、急に動き出すことはなく、滑らかに発進される。つまり、運転者が意図したよりも大きい加速度で、車両JVが発進されることが回避される。
【0048】
上述した例では、停車中に、制動操作部材BPは一定値baに維持されていたが、制動操作部材BPの操作量Baが増加される場合が、二点鎖線(b)にて例示される。時点t4にて、制動操作量Baが増加されると、制動操作量Baの増加に応じて、要求液圧Psが増加される。これに合わせて、目標液圧Ptが増加される。所定液圧Pkによる嵩上げが行われていても、運転者による制動操作部材BPの操作量Baは、調圧制御に反映される。
【0049】
<制動制御装置SCの実施形態のまとめ>
以下、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態をまとめる。制動制御装置SCには、車両JVのホイールシリンダCWの制動液圧Pwを電気的に調節するアクチュエータ(流体ユニット)HUと、制動操作部材BPの操作量Baに基づいてアクチュエータHUを制御するコントローラECUと、が備えられる。詳細には、コントローラECUにて、制動操作量Baに基づいて演算される目標液圧Ptに対して、制動液圧Pw(制動液圧センサPWの検出値)が近付き、一致するよう、流体ユニットHUが制御される。
【0050】
制動制御装置SCでは、コントローラECUによって、車両JVの停止状態が判定される時点(停車判定時点)で、嵩上げが実行される。ここで、「嵩上げ」は、制動液圧Pwが所定液圧Pkだけ増加されることである。具体的には、車両JVが走行している場合(即ち、車両JVの停止状態が判定されない場合)には、制動操作量Baに基づいて演算される要求液圧Psが、目標液圧Ptとして決定される(即ち、「Pt=Ps」)。一方、車両JVの停止状態が判定されると、該時点にて、要求液圧Psに所定液圧Pkが加えられた値が、目標液圧Ptとして演算される(即ち、「Pt=Ps+Pk」)。つまり、停車判定時点で、嵩上げが行われ、制動液圧Pwが、停車状態を維持するための余裕成分として所定液圧Pkだけ、ステップ的に増加される。余裕成分Pkを見込んだ嵩上げにより、クリープトルク、路面勾配に起因して、車両JVが不必要に動き始めることが回避され、確実な停車状態が確保される。
【0051】
制動制御装置SCのコントローラECUでは、操作量Baが所定量bxよりも大きい場合(即ち、「Ba>bx」)には、車両JVが動き出した後も、嵩上げ(所定液圧Pk分の増加)が継続される。つまり、停車制御による嵩上げは、停車判定時から、制動操作量Baが所定量bx以下になるまでの間に亘って続けられる。ここで、所定量bxは、予め設定された所定値であり、例えば、「0」に設定され得る。「bx=0」の構成では、嵩上げは、制動操作部材BPの操作が完全に終了される直前まで継続され、制動操作部材BPの操作終了時点で終了される。クリープトルクが大きい場合、及び/又は、路面勾配Kvが大きい場合には、制動操作量Baが減少し始める際に、運転者が意図したより大きい加速度で、車両JVが急に動き始めることがある。しかしながら、嵩上げは、車両JVの走行開始後も継続されているので、車両JVは滑らかに発進される。
【0052】
更に、コントローラECUでは、車両JVが停止する路面の勾配Kvが大きいほど、所定液圧Pkが大きく決定される。また、操作量Baが減少されるに従って、所定液圧Pkが小さくなるように決定される。状況に応じて、所定液圧Pk(嵩上げ液圧)が決定されるので、停車制御による嵩上げが適切に行われ得る。
【符号の説明】
【0053】
JV…車両、SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CW…ホイールシリンダ、HU…流体ユニット(アクチュエータ)、MA…電気モータ、SS…ストロークシミュレータ、ECU…コントローラ、VW…車輪速度センサ、Vw…車輪速度(車輪速度センサVWの検出値)、Vx…車体速度、BA…制動操作量センサ、Ba…制動操作量(制動操作量センサBAの検出値)、PW…制動液圧センサ、Pw…制動液圧(ホイールシリンダCWの液圧であり、制動液圧センサPWの検出値)、Ps…要求液圧(操作量Baによって要求される中間的な目標値)、Pt…目標液圧(最終的な液圧目標値)、Pk…所定液圧(嵩上げ液圧)。