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特開2022-182583ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182583
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20221201BHJP
   A23B 4/08 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23B4/08 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090221
(22)【出願日】2021-05-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】593157910
【氏名又は名称】株式会社タイショーテクノス
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 圭右
(72)【発明者】
【氏名】大坪 弘樹
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC02
4B042AC06
4B042AG30
4B042AH01
4B042AK04
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】ミオグロビン含有赤身魚肉の新規な退色抑制剤を提供すること。
【解決手段】コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤。
【請求項2】
酸化防止剤を更に含有する、請求項1に記載のミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤。
【請求項3】
前記酸化防止剤が、アスコルビン酸及びその塩、アスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸配糖体、並びに、アスコルビン酸異性体及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤。
【請求項4】
酸型日持向上剤と共に用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載のミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤。
【請求項5】
ミオグロビン含有赤身魚肉を含む魚肉加工食品の退色を抑制する方法であって、
ミオグロビン含有赤身魚肉に、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させる工程を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マグロ等のミオグロビン含有赤身魚において、ミオグロビンは、新鮮な魚肉では、還元型(デオキシ)ミオグロビン(ヘム部分:Fe2+)として存在している。還元型ミオグロビンは、酸素に触れることによって、オキシミオグロビン(ヘム部分:Fe2+-O)に変化し、これによって、鮮赤色等の好ましい色調に発色する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-88926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オキシミオグロビンは、さらに様々な要因により自動酸化して褐色を呈するメトミオグロビン(ヘム部分:Fe3+)に変化するため、ミオグロビン含有赤身魚肉は、好ましい色調に発色した後に、徐々に退色することが分かっている。
【0005】
例えば、マグロの赤身は、酸化防止剤(主にビタミンC類)及びリン酸塩・炭酸塩等のアルカリ剤を添加することで、pH7~8にして、退色を抑えることができる。しかし、pH7~8にすることで、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色を抑制する方法では、有機酸等の酸型日持向上剤の使用が制限される場合があった。
【0006】
本発明は、ミオグロビン含有赤身魚肉の新規な退色抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤に関する。
【0008】
本発明に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有するため、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色を抑制することができる。
【0009】
本発明に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸化防止剤を更に含んでもよい。この場合、本発明による効果がより一層優れたものとなる。
【0010】
酸化防止剤は、アスコルビン酸及びその塩、アスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸配糖体、並びに、アスコルビン酸異性体及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。この場合、本発明による効果がより一層優れたものとなる。
【0011】
本発明に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸型日持向上剤と共に用いられてよい。
【0012】
本発明はまた、ミオグロビン含有赤身魚肉を含む魚肉加工食品の退色を抑制する方法であって、ミオグロビン含有赤身魚肉に、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させる工程を含む、方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ミオグロビン含有赤身魚肉の新規な退色抑制剤を提供することができる。
【0014】
本発明に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸性条件下でも、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色を抑制することができるため、本発明に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸型日持向上剤と併用することができる。これによって、従来の方法(ミオグロビン含有赤身魚肉にアルカリ剤を添加する方法)では困難であった退色の抑制と、日持ちの向上(静菌効果)との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1においてコハク酸ナトリウムの退色抑制効果を評価した結果を示すグラフである。
図2】試験例1においてコハク酸ナトリウムの退色抑制効果を評価した結果及び酸化防止剤(アスコルビン酸ナトリウム)併用時のコハク酸ナトリウムの退色抑制効果を評価した結果を示すグラフである。
図3】試験例2において、アスコルビン酸ナトリウム0.01%併用時の各種有機酸(0.2%)の効果を評価した結果を示すグラフである。
図4】試験例3-1において、アスコルビン酸ナトリウム0.01%併用時のコハク酸の効果を評価した結果を示すグラフである。
図5】試験例3-2において、アスコルビン酸ナトリウム0.01%併用時のコハク酸の効果を評価した結果を示すグラフである。
図6】試験例4において、アスコルビン酸ナトリウム0.3%併用時の各種有機酸(0.6%)の効果を評価した結果を示すグラフである。
図7】試験例5において、pHの異なる溶液中でのコハク酸ナトリウム(3.0%)の効果を評価した結果を示すグラフである。
図8】試験例6において、各種薬剤併用時における効果を評価した結果を示すグラフである。
図9】試験例6において、一般生菌数を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書において、該当する物質が複数存在する場合の成分の量は、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
〔ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤〕
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、「コハク酸成分」ともいう。)を有効成分として含有する。
【0019】
ミオグロビン含有赤身魚としては、例えば、マグロ、カツオ、ブリ、イワシ、サバ、アジ、ハマチ、カンパチ、ニシン、マダイ、トビウオ、シイラ等が挙げられる。
【0020】
ミオグロビン含有赤身魚肉における使用部位は、ミオグロビンを含有し得る部位であれば特に限定されない。使用部位は、例えば、赤身部位、スキ身(中落ち)部位、小トロ部位、中トロ部位、大トロ部位等であってよい。
【0021】
本明細書における「ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制」は、ミオグロビン含有赤身魚肉の経時的な退色を抑制することを意味する。本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚の退色抑制剤は、これを使用しない場合と比べて、ミオグロビン含有赤身魚肉の経時的な退色を抑制することができる。本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚の退色抑制剤によれば、長期(例えば、3日以上)にわたって、ミオグロビン含有赤身魚の退色を抑制することができる。ミオグロビン含有赤身魚の魚肉の経時的な退色が抑制されていることは、ミオグロビン含有赤身魚肉の外観観察及び/又は色差計によるa値の測定によって確認することができる。
【0022】
ミオグロビン含有赤身魚肉は、漁獲直後には、デオキシミオグロビン(R-Mb)を含む。ミオグロビン含有赤身魚肉が酸素に触れることによって、R-Mbの酸素化によって、ミオグロビン含有赤身魚肉中でオキシミオグロビン(Oxy-Mb)が形成される。Oxy-Mbを含むミオグロビン含有赤身魚肉は好ましい色調を呈する。Oxy-Mbが種々の要因により酸化すると、ミオグロビン含有赤身魚肉中でメトミオグロビン(Met-Mb)が形成される。ミオグロビン含有赤身魚肉は、ミオグロビン含有赤身魚肉中でのメトミオグロビンの形成に起因して退色すると考えられている。本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、例えば、オキシミオグロビン(ヘム部分:Fe2+-O)からメトミオグロビン(ヘム部分:Fe3+)への酸化を抑制することによって、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色を抑制することができる。よって、本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、メトミオグロビン形成抑制剤等ということもできる。但し、本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤による退色抑制メカニズムはこれに限定されない。
【0023】
コハク酸は、式:HOOC-(CH-COOHで表されるジカルボン酸である。コハク酸は、コハク酸無水物又はコハク酸水和物であってもよい。
【0024】
コハク酸の塩としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されない。コハク酸の塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。コハク酸の塩は、無水物又は水和物であってもよい。
【0025】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、コハク酸又はその塩を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0026】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、有効成分として酸化防止剤を更に含有してもよい。ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤が、コハク酸に加えて、酸化防止剤を更に含有する場合、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制効果がより一層向上する。
【0027】
酸化防止剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸カルシウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸2-グルコシド、亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、γ-オリザノール、カテキン、カンゾウ油性抽出物、グアヤク脂、クエルセチン、クエン酸イソプロピル、クローブ抽出物、酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ルチン(抽出物)、酵素分解リンゴ抽出物、ゴマ油不けん化物、コメヌカ油抽出物、コメヌカ酵素分解物、次亜硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、精油除去ウイキョウ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、セージ抽出物、単糖・アミノ酸複合物、チャ抽出物、トコトリエノール、dl-α-トコフェロール、d-α-トコフェロール、d-γ-トコフェロール、d-δ-トコフェロール、生コーヒー豆抽出物、二酸化硫黄、ヒマワリ種子抽出物、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、フェルラ酸、ブチルヒドロキシアニソール、ブドウ種子抽出物、プロポリス抽出物、ヘゴ・イチョウ抽出物、没食子酸、没食子酸プロピル、ミックストコフェロール、メラロイカ精油、ヤマモモ抽出物、ルチン酵素分解物、ルチン(抽出物)、アズキ全草抽出物、エンジュ抽出物、ソバ全草抽出物、ローズマリー抽出物が挙げられる。
【0028】
アスコルビン酸は、L-アスコルビン酸、アスコルビン酸無水物又はアスコルビン酸水和物であってもよい。アスコルビン酸の塩としては、食品として許容可能なものであれば特に制限されない。アスコルビン酸の塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。アスコルビン酸の塩は、無水物又は水和物であってもよい。また、アスコルビン酸類縁体であってもよい。アスコルビン酸類縁体の具体例としては、例えば、L-アスコルビン酸2-グルコシド等のアスコルビン酸配糖体やL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルやL-アスコルビン酸パルミチン酸エステル等のアスコルビン酸脂肪酸エステルであってもよい。また、アスコルビン酸類縁体は、エリソルビン酸及びその塩等の立体異性体であってもよい。
【0029】
酸化防止剤は、アスコルビン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。酸化防止剤として、アスコルビン酸又はその塩を用いると、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色を抑制するという効果がより優れたものとなる。
【0030】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸化防止剤1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0031】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤において、酸化防止剤(C2)の総含有量(g)に対する、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(C1)の総含有量(g)の質量比(C1/C2)は、例えば、1~100、2~50、又は5~35であってよい。これにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0032】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のみからなっていてもよく、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種及び酸化防止剤のみからなっていてもよく、またミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤の具体的態様に応じて、食品に許容されるその他成分を含有するものであってもよい。
【0033】
その他成分としては、例えば、炭酸水素塩(例えば、炭酸水素ナトリウム)、炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム)、食塩、デキストリン、デンプン(加工でんぷんも含む)、アミノ酸(ペプチドも含む)、核酸、リン酸及びその塩、重合リン酸塩、糖類(水飴も含む)、糖アルコール、酵母エキス、有機酸及びその塩、脂肪酸エステル、また着色料や増粘多糖類等の食品添加物が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、固体(例えば、粉末等)、液体(水溶性若しくは脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状であってもよい。
【0035】
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸性条件下又は塩基性条件下のいずれの条件でも用いることができる。本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、例えば、pH5.7~8.0、又は6.4~7.6の条件で用いられてよい。本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸性条件下(例えば、pH5.7以上7.0未満又は6.3~6.9)で用いることができるため、ミオグロビン含有赤身魚肉に対して、アルカリ特有の苦味を与えることなく、退色を抑制することが可能となる。
【0036】
ミオグロビン含有赤身魚肉をアルカリ性条件に調整することによって退色を抑制する方法では、酸型日持向上剤の効果が得られにくかった。一方、本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、酸性条件下でも退色抑制効果を有するため、酸型日持向上剤と共に用いることができる。酸型日持向上剤と共に用いることによって、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色を抑制するとともに、日持ちを向上させる(静菌作用を有する)ことができる。
【0037】
ここで、「酸型日持向上剤」とは、pHを酸性にコントロールして保存性の比較的低い食品の腐敗及び変敗を抑える目的で使用されるものである。酸型日持向上剤は、日持向上剤のうち酸性官能基(例えば、カルボキシル基)を有する化合物又はその塩をいう。酸型日持向上剤としては、例えば、酢酸及びその塩(醸造酢も含む)、乳酸及びその塩、クエン酸及びその塩、アジピン酸及びその塩、フマル酸及びその塩、酒石酸及びその塩、リンゴ酸及びその塩、グルコン酸及びその塩、チアミンラウリル硫酸塩、等の有機酸が挙げられる。酢酸塩は、例えば、酢酸ナトリウムであってよい。
【0038】
〔魚肉加工食品〕
コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(コハク酸成分)を有効成分とする、ミオグロビン含有赤身魚肉の退色抑制剤は、魚肉加工食品の成分として用いることができる。すなわち、本発明の一実施形態は、ミオグロビン含有赤身魚肉と、コハク酸成分と、を含有する、魚肉加工食品である。
【0039】
魚肉加工食品は、ミオグロビン含有赤身魚肉を含有する魚肉加工食品であれば特に制限されない。例えば、魚肉加工食品には、魚の切り身、ネギトロ、魚肉ステーキ、たたき、魚肉ソーセージ、魚肉ハンバーグ、つみれ等が含まれる。ネギトロは、マグロと、油脂とを含む混合物をペースト状にしたものである。ネギトロは、マグロと、食用油脂を粉砕及び混合することによって得ることができる。
【0040】
魚肉加工食品中のミオグロビン含有赤身魚肉の含有量は、魚肉加工食品の種類等に応じて、適宜選択される。例えば、魚肉加工食品中のミオグロビン含有赤身魚肉の含有量は、魚肉加工食品全量を基準として、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、99.9質量%以下であってもよい。
【0041】
本実施形態に係る魚肉加工食品において、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量(コハク酸成分の含有量)は、例えば、魚肉加工食品全質量を基準として、コハク酸換算で、0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、又は0.02質量%以上であってよく、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.08質量%以下、又は0.05質量%以下であってよい。コハク酸成分の含有量は、すべてのコハク酸成分をコハク酸に換算して求められる値である。
【0042】
魚肉加工食品中のコハク酸成分の含有量は、例えば、液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0043】
本実施形態に係る魚肉加工食品は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤の具体的な態様は、上述した態様を適用することができる。
【0044】
本実施形態に係る魚肉加工食品において、酸化防止剤の含有量は、例えば、魚肉加工食品全質量を基準として、0.002質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、又は0.015質量%以上であってよく、0.02質量%以下、0.5質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。
【0045】
本実施形態に係る魚肉加工食品は、酸型日持向上剤を含有してもよい。酸型日持向上剤の具体的な態様は、上述した態様を適用することができる。
【0046】
本実施形態に係る魚肉加工食品において、酸型日持向上剤の含有量は、例えば、魚肉加工食品全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、又は1質量%以上であってよく、0.5質量%以下、1質量%以下、又は10質量%以下であってもよい。
【0047】
本実施形態に係る魚肉加工食品のpHは、例えば、5.7~8.0、又は5.9~7.6であってよい。魚肉加工食品のpHは、通常の方法に従って測定することができる。切り身及びネギトロのpHは、例えば、後述する実施例の方法によって測定することができる。
【0048】
本実施形態に係る魚肉加工食品は、食品に許容されるその他成分を含有するのが好ましい。その他成分としては、例えば、油脂、食塩、炭酸水素塩(例えば、炭酸水素ナトリウム)、タンパク質、炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム)、デキストリン、デンプン(加工デンプンも含む)、野菜、凝固剤、消泡剤、着色料、アミノ酸、核酸、糊料、甘味料、香料、糖類(糖アルコールも含む)、乳化剤、調味料(醤油、みりん、等)、膨張剤、リン酸塩、重合リン酸塩等が挙げられる。
【0049】
〔魚肉加工食品を製造する方法〕
本実施形態に係る魚肉加工食品は、ミオグロビン含有赤身魚肉に、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(コハク酸成分)を接触させる工程(接触工程)を含む方法によって製造することができる。
【0050】
接触工程において、ミオグロビン含有赤身魚肉に、酸化防止剤を更に接触させてよい。酸化防止剤の具体的な態様は、上述した態様を適用することができる。接触工程において、ミオグロビン含有赤身魚肉に、酸型日持向上剤を更に接触させてよい。酸型日持向上剤の具体的な態様は、上述した態様を適用することができる。
【0051】
ミオグロビン含有赤身魚肉に、コハク酸成分、酸化防止剤、酸型日持向上剤等の各種成分を接触させる方法に特に制限はなく、魚肉加工食品の種類等に応じて、適宜選択される。ミオグロビン含有赤身魚肉は、各種成分と接触させる前に、切断、粉砕、冷凍、半解凍、解凍、及び食品に許容されるその他の成分の混合等の種々の処理が施されていてよい。
【0052】
接触させる方法の一例としては、コハク酸成分及び水を含む浸漬液に、ミオグロビン含有赤身魚肉を浸漬させる方法が挙げられる。すなわち、接触工程は、コハク酸成分及び水を含む浸漬液に、ミオグロビン含有赤身魚肉を浸漬させることにより行われてよい。浸漬液は、必要に応じて、酸化防止剤、炭酸水素塩、炭酸塩、食塩等の他の成分を含んでいてよい。
【0053】
浸漬液中のコハク酸成分の濃度は、浸漬液全量を基準として、例えば、コハク酸換算で、0.05~10質量%、又は0.1~5質量%であってよい。浸漬液中の酸化防止剤の濃度は、浸漬液全量を基準として、例えば、0.1~1質量%、又は0.01~5質量%であってよい。浸漬液のpHは、例えば、6.5~11.5であってよい。
【0054】
浸漬液に、ミオグロビン含有赤身魚肉を浸漬させる際の浸漬液の温度は、例えば、25℃以下、10℃以下、5℃以下、又は0℃以下であってよく、例えば、0℃超5℃以下、又は0℃超20℃以下であってよい。浸漬時間は、例えば、10秒以下、10秒以上、30秒以上、又は1分以上であってよい。浸漬液に浸漬させたミオグロビン含有赤身魚肉は、必要に応じて、水切りを行った後に所定温度以下(例えば、0℃超5℃以下)で保存されてよい。
【0055】
接触させる方法の他の例として、コハク酸成分を、ミオグロビン含有赤身魚肉に添加する方法が挙げられる。すなわち、接触工程は、コハク酸成分を、ミオグロビン含有赤身魚肉に添加することにより行われてよい。酸化防止剤、酸型日持向上剤、及びその他の成分は、コハク酸成分と同時に、又は別々にミオグロビン含有赤身魚肉に添加されてもよい。
【0056】
接触工程は、コハク酸成分と、ミオグロビン含有赤身魚肉とが接触した状態で保存することを含んでいてよい。ミオグロビン含有赤身魚肉には、必要に応じて、コハク酸成分以外の上記の成分が接触していてもよい。保存温度は、例えば、10℃以下であってよく、5℃以下であってよい。保存時間は、例えば、半日以上、1日以上、3日間以上、5日間以上、又は8日間以上であってよい。
【0057】
〔魚肉加工食品用添加剤〕
本発明の一実施形態として、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(コハク酸成分)と、酸型日持向上剤と、を含む、魚肉加工食品用添加剤(魚肉加工食品用製剤)が提供される。魚肉加工食品用添加剤は、酸化防止剤及び/又は上記のその他の成分を更に含んでいてもよい。コハク酸成分、酸型日持向上剤、酸化防止剤及びその他の成分の具体的な態様は、上述した態様を際限なく適用することができる。
【0058】
〔ミオグロビン含有赤身魚肉を含む魚肉加工食品の退色を抑制する方法〕
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉を含む魚肉加工食品の退色を抑制する方法は、ミオグロビン含有赤身魚肉に、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させる工程(接触工程)を含む。接触工程の具体的な態様は、上述した態様を際限なく適用することができる。
【0059】
〔ミオグロビン含有赤身魚肉を含む魚肉加工食品の退色を抑制する方法〕
本実施形態に係るミオグロビン含有赤身魚肉を含む魚肉加工食品の退色を抑制するとともに、日持ちを向上させる方法は、ミオグロビン含有赤身魚肉に、コハク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、酸型日持向上剤と、を接触させる工程(接触工程)を含む。接触工程は、上述した態様を際限なく適用することができる。
【実施例0060】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。以下の実施例において、各成分の含有量を示す「%」は、特に言及のない限り、「質量%」を示す。
【0061】
〔試験例1:ネギトロにコハク酸成分を添加した際の効果〕
冷凍マグロ柵950gを半解凍の状態にし、食用油脂(ST-85(横関油脂工業株式会社))50gを加え粉砕機で粉砕及び混合したものをネギトロとした。ネギトロに対して、表1に示す各種薬剤を表2に示す終濃度となるように1%添加し、容器に入れ10℃で保存した。保存中、経時的に色差計(NIPPON DENSHOKU社 SPECTOROPHOTOMETER SE2000)で色差(a値)の測定を行った(n=3)。表3はa値の残存率を示す。a値の残存率は保存開始時のa値を100%として算出した。
【0062】
表2中の「ネギトロ 10%pH」は、マグロの切り身10gと蒸留水90gをフードプロセッサーにかけ、細かく粉砕した身を含む液を測定した値であり、食品の保存性や色調保持の指標として用いられる。
【0063】
図1は、アスコルビン酸ナトリウム又はコハク酸ナトリウムを添加した魚肉加工食品(ネギトロ)を8日間保管した後のa値の残存率を示す。図2は、表1に示す各種薬剤を添加した魚肉加工食品(ネギトロ)を9日間保管した後のa値の残存率を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
表3及び図1~2のとおり、コハク酸成分の添加によって、長期間の退色抑制効果が得られることが示された。表3及び図2のとおり、コハク酸成分とアスコルビン酸ナトリウムとを併用することで、更に長期間の退色抑制効果が得られた。
【0068】
〔試験例2:アスコルビン酸ナトリウムと各種有機酸併用時の効果〕
冷凍マグロ柵950gを半解凍の状態にし、食用油脂(ST-85(横関油脂工業株式会社))50gを加え粉砕機で粉砕及び混合したものをネギトロとした。ネギトロに対して表4に示す各種薬剤を所定量添加し、ポリ袋に入れ、真空密閉し5℃で保存した。保存中、経時的に色差計(NIPPON DENSHOKU社 SPECTOROPHOTOMETER SE2000)で色差(a値)の測定を行った。表5は、保存開始時のa値を100%として算出したa値の残存率を示す。
【0069】
図3は、有機酸又はその塩と、L-アスコルビン酸ナトリウムとを添加した魚肉加工食品(ネギトロ)を8日間保管した後のa値の残存率を示す。
【表4】

【表5】
【0070】
表5及び図3のとおり、コハク酸成分の添加によって、長期間退色を抑制できる効果は他の有機酸では得られなかった。
【0071】
〔試験例3-1:コハク酸ナトリウム添加量による効果1〕
冷凍マグロ柵950gを半解凍の状態にし、食用油脂(ST-85(横関油脂工業株式会社))50gを加え粉砕機で粉砕及び混合したものをネギトロとした。ネギトロに対してL-アスコルビン酸ナトリウム0.01%とコハク酸ナトリウムを表6に示す所定量(0.05%~2.00%)添加し、ポリ袋に入れ、真空密閉し、5℃で保存した。保存中、経時的に色差計(NIPPON DENSHOKU社 SPECTOROPHOTOMETER SE2000)で色差(a値)の測定を行った。表7は、保存開始時のa値を100%として算出したa値の残存率を示す。
【0072】
図4は、各コハク酸ナトリウム濃度における7日保管後のa値の残存率の測定結果を示す。
【表6】

【表7】
【0073】
表7及び図4のとおり、コハク酸ナトリウム濃度が0.05%以上である場合に、優れた退色抑制効果が奏されることが確認された。
【0074】
〔試験例3-2:コハク酸ナトリウム添加量による効果2〕
冷凍マグロ柵950gを半解凍の状態にし、食用油脂(ST-85(横関油脂工業株式会社))50gを加え粉砕機で粉砕及び混合したものをネギトロとした。ネギトロに対してL-アスコルビン酸ナトリウム0.01%とコハク酸ナトリウム所定量(0.005%~0.05%)を表8に示す終濃度となるように添加し、ポリ袋に入れ、真空密閉し5℃で保存した。保存中、経時的に色差計(NIPPON DENSHOKU社 SPECTOROPHOTOMETER SE2000)で色差(a値)の測定を行った。表9は、保存開始時のa値を100%として算出したa値の残存率を示す。
【0075】
図5は、各コハク酸ナトリウム濃度における4日保管後のa値の残存率の測定結果を示す。
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
表9及び図5のとおり、コハク酸ナトリウム濃度0.005質量%(コハク酸換算の含有量:0.0022質量%)においても、コハク酸成分が退色抑制効果を有することが確認された。
【0079】
〔試験例4:マグロ切り身を用いた場合の効果〕
冷凍マグロ柵を厚みが7~10mm程度になるよう切り、5℃で保存した表10に示す各種浸漬液に1分間浸漬した。浸漬後2分間水切りしたものを容器に入れ、5℃で保存した。保存したものを経時的に観察し、8日間経過時点の写真をランダムに並び替え、赤みが維持している順に順位を付けた(12名)。表11及び図6に、12名により付けられた順位の平均値を示す。
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
表11及び図6のとおり、魚肉加工食品がマグロの切り身である場合でも、コハク酸成分による退色抑制効果が確認された。
【0083】
〔試験例5:pH依存性の評価〕
冷凍マグロ柵を厚みが7~10mm程度になるよう切り、5℃で保存した表12に示す各種浸漬液に1分間浸漬した。浸漬後2分間水切りしたものを容器に入れ、10℃で保存した。保存開始から5日間経過したものを観察し、赤みが維持している順に順位を付けた(7名)。表13及び図7は、7名により付けられた順位の平均値を示す。
【0084】
表12中の「マグロの切り身 10%pH」は、マグロの切り身10gと蒸留水90gをフードプロセッサーにかけ、細かく粉砕した身を含む液を測定した値であり、食品の保存性や色調保持の指標として用いられる。
【表12】

【表13】
【0085】
表13及び図7より、酸性条件(pH6.68)であっても、コハク酸成分による退色抑制効果が得られることが示された。
【0086】
〔試験例6:酸型日持向上剤併用による効果1〕
冷凍マグロ柵950gを半解凍の状態にし、食用油脂(ST-85(横関油脂工業株式会社))50gを加え粉砕機で粉砕及び混合したものをネギトロとした。ネギトロに対して表14に示す組成の各種薬剤を所定量添加し、ポリ袋に入れ、真空密閉し5℃で保存した。保存中、経時的に色差計(NIPPON DENSHOKU社 SPECTOROPHOTOMETER SE2000)で色差(a値)の測定を行った。表15は、保存開始時のa値を100%として算出したa値の残存率を示す。
【0087】
図8は、表14に示す各種薬剤を添加した魚肉加工食品(ネギトロ)の7日保管後のa値の残存率の測定結果を示す。
【0088】
表14に示す各種薬剤を添加した魚肉加工食品(ネギトロ)の保存中に測定した一般生菌数の測定結果をそれぞれ図9に示す。
【0089】
一般生菌数の測定は、次に示す方法によって実施した。
滅菌された袋で保存された検体を10g量りとり90gの滅菌された生理食塩水とともにストマッカー袋(アテクト社)に入れて均一化して調製した試料を用いた。一般生菌数測定には標準寒天培地を用いて、混釈法に基づいて生菌数測定を行った。
【0090】
【表14】
【0091】
【表15】
【0092】
表15及び図8のとおり、コハク酸成分を含む場合には、各種薬剤併用時でも、退色抑制効果が得られることが示された。図9のとおり、コハク酸成分及び酸型日持向上剤を含む薬剤を用いた場合には、退色抑制効果に加えて、生菌数の抑制効果(日持ち向上効果)が得られることが示された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9