IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図1
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図2
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図3
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図4
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図5
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図6
  • 特開-貝類養殖システム及び貝類養殖方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182586
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】貝類養殖システム及び貝類養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/51 20170101AFI20221201BHJP
【FI】
A01K61/51
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090227
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】井上 昌士
(72)【発明者】
【氏名】前田 茂哉
(72)【発明者】
【氏名】金井 貴弘
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA27
2B104BA09
2B104CA01
2B104DA01
2B104DD01
2B104EA01
2B104EC01
2B104EC20
2B104EC24
2B104ED10
2B104ED12
2B104ED24
2B104EE10
2B104EF01
(57)【要約】
【課題】養殖場所を選ばずに、アワビ等の貝類を効率的に養殖することができる貝類養殖システム及び貝類養殖方法を提供する。
【解決手段】貝類養殖システムA1は、貝類の飼育水槽10の飼育水W1をろ過して飼育水槽に戻す循環経路C1を制御する制御装置20を備える。そして、制御装置20が、飼育水槽10の飼育水W1のカルシウムイオン濃度を検知し、カルシウムイオン濃度が、基準値未満の場合、飼育水W1のカルシウムイオン濃度が基準値以上になるようにカルシウムイオン濃度を高めた海水を飼育水槽10に供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類の飼育水槽の飼育水をろ過して前記飼育水槽に戻す循環経路を制御する制御装置を備えた貝類養殖システムであって、
前記制御装置が、
前記飼育水槽の飼育水のカルシウムイオン濃度を検知し、
前記カルシウムイオン濃度が基準値未満の場合、前記飼育水のカルシウムイオン濃度が基準値以上になるようにカルシウムイオン濃度を高めた海水を前記飼育水槽に供給することを特徴とする貝類養殖システム。
【請求項2】
前記循環経路には、バッファタンクを備え、
前記制御装置が、
前記カルシウムイオン濃度の不足濃度を算出し、
前記不足濃度及び前記飼育水の容量に応じて、前記不足濃度を補うカルシウム剤を、前記バッファタンクに供給することを特徴とする請求項1に記載の貝類養殖システム。
【請求項3】
前記飼育水槽において、貝類としてアワビを養殖し、
前記制御装置が、前記飼育水のカルシウムイオン濃度が450~650mg/Lになるように高めた海水を供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の貝類養殖システム。
【請求項4】
飼育水槽の飼育水をろ過して前記飼育水槽に戻す循環式の貝類養殖方法であって、
前記飼育水の一部を新たな海水に入れ替えるときに、前記飼育水のカルシウムイオン濃度が450~650mg/Lになるように高めた海水を供給することを特徴とする貝類養殖方法。
【請求項5】
前記飼育水槽において、貝類としてアワビを養殖することを特徴とする請求項4に記載の貝類養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビ等の貝類を養殖するための貝類養殖システム及び貝類養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アワビの陸上養殖では、引き込んだ海水を連続的に供給して飼育に用いて排水する「かけ流し方式」と、飼育水を浄化しながら循環して長期間使う「閉鎖循環方式」(又は「完全循環方式」)がある。飼育水として、自然海水や、自然海水に近い様々な塩類をブレンドしたものを溶解して作る人工海水を用いる。また、海水を浄化しながら使うものの、少しずつ、新鮮な海水を入れ替える部分循環方式もある(例えば、特許文献1)。この文献に記載された循環方式の貝類養殖方法は、水槽とろ過タンクとを配管系で繋ぎ、その配管系に循環ポンプと水温調整器とを介在する。配管系の一端は吸込管として水槽の底部に接続し、他の一端は戻し管として水槽内に設けられる散水管に接続する。ろ過タンクには、ミネラル分を含んだろ材を収容する。そして、循環ポンプにより水槽内の貯水をろ過タンクとの間で循環させる。
【0003】
また、カルシウム塩添加海水で稚アワビを飼育する技術も検討されている(例えば、非特許文献1)。この文献に記載された技術では、内部ろ過循環式飼育槽を用いて、飼育水に塩化カルシウムを1g/Lを添加する。塩化カルシウム添加により飼育した貝の殻幅は、無添加で飼育した貝より増加する傾向が現われた。これは、外套膜上皮細胞が塩化カルシウムを同化して、炭酸カルシウムの分泌を促進し、殻縁部を成長肥大したものと思われる。塩化カルシウム添加により飼育した貝は、無添加貝に比較して、アラゴナイトの結晶板の表面を著しく粗くして真珠光沢を失なうとともに、結晶板周囲の境い目で、ところどころ深い穴と溝を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-119169号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂井英世,“カルシウム塩添加海水で飼育した稚アワビの殻体変化について”,[online],1975年3月25日,水産増殖,22巻,3-4号,p.105-109[令和3年5月1日検索],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci1953/22/3-4/22_3-4_105/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ろ材で処理したエンザイム処理水を用いる。このエンザイム処理水では、カルシウム、ナトリウム、カリウム、リン等に数ppmの増加がみられる。また、自然海水のカルシウムイオン濃度は、390~420mg/Lで自然海水と同等程度であり、飼育水全般を優位に濃度上昇させる効果は期待できない。また、非特許文献1では、1g/Lの塩化カルシウムを添加しており、最適化されていない。特に、アワビは環境変化を嫌うデリケートな生き物である。このため、アワビの陸上養殖においては、適正に水質を調整しなければ、生育の促進は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する貝類養殖システムは、貝類の飼育水槽の飼育水をろ過して前記飼育水槽に戻す循環経路を制御する制御装置を備える。そして、前記制御装置が、前記飼育水槽の飼育水のカルシウムイオン濃度を検知し、前記カルシウムイオン濃度が基準値未満の場合、前記飼育水のカルシウムイオン濃度が基準値以上になるようにカルシウムイオン濃度を高めた海水を前記飼育水槽に供給する。
【0008】
上記課題を解決する貝類養殖方法は、飼育水槽の飼育水をろ過して前記飼育水槽に戻す循環式の貝類養殖方法であって、前記貯水の一部を新たな海水に入れ替えるときに、前記飼育水のカルシウムイオン濃度が450~650mg/Lになるように高めた海水を供給する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、養殖場所を選ばずに、アワビ等の貝類を効率的に養殖することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における貝類養殖システムの説明図。
図2】実施形態におけるハードウェア構成の説明図。
図3】実施形態における処理手順の説明図。
図4】実施形態におけるアワビの成長について経過日数に対応する殻長の説明図。
図5】実施形態におけるアワビの写真。
図6】実施形態におけるアワビの写真。
図7】実施形態におけるアワビの成長について経過日数に対応する殻長の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1図7を用いて、貝類養殖システム及び貝類養殖方法を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、人工飼料ペレットを付与してエゾアワビの陸上養殖を行なう。
【0012】
図1に示すように、循環式の貝類養殖システムA1は、飼育水槽10、制御装置20、循環経路C1を備える。
飼育水槽10は、アワビを飼育(陸上養殖)するための水槽であり、曝気・水流撹拌装置11、シェルター12を備える。飼育水槽10には、飼育水W1を貯水する。本実施形態では、飼育水槽10内の海水を飼育水W1と呼ぶ。
【0013】
曝気・水流撹拌装置11は、飼育水槽10内で、曝気と水流による撹拌により、飼育水W1の水質を安定化させている。
シェルター12は、貝類の陰を好む習性に合わせて、陰を形成する囲いが設置されている。
【0014】
循環経路C1には、飼育水槽10の飼育水W1の一部が供給される。そして、循環経路C1は、カルシウムイオンの濃度を調節した海水を飼育水槽10に供給する。なお、飼育水槽10に供給された海水は、曝気・水流撹拌装置11により、水槽全体に攪拌される。
制御装置20は、循環経路C1による飼育水W1(海水)の循環の管理を行なう。
【0015】
(ハードウェア構成例)
図2は、制御装置20として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0016】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0017】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。入力装置H12は、管理者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。記憶装置H14は、制御装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0018】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、制御装置20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、制御装置20のアプリケーションプログラムが起動された場合、各処理を実行するプロセスを動作させる。プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行なう専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。
【0019】
(貝類養殖システムの機能)
本実施形態では、図1に示す制御装置20は、センサ30、バルブV1~V3、ポンプP1に接続される。制御装置20は、センサ30において、計測した結果に基づいて、循環経路C1により循環させる海水のカルシウムイオンの濃度を調節する。本実施形態では、人工海水粉末を添加した海水を用いており、海水の塩分濃度30~31‰に調整する。更に、海水のカルシウムイオン濃度として、450~650mg/L、pHは、7.8~8.2に制御する。
【0020】
センサ30は、飼育水槽10の飼育水W1のカルシウムイオン濃度を計測する。
バルブV1は、バッファタンク32に対して、飼育水槽10の飼育水W1の供給及び停止を制御する制御弁である。
【0021】
塩化カルシウム供給装置31は、バッファタンク32に、カルシウム剤として塩化カルシウムを供給する。この場合、飼育水槽10の飼育水W1のカルシウムイオン濃度に応じて、適量の塩化カルシウム材を供給する。塩化カルシウム材としては、食品添加剤として利用できる品質の塩化カルシウム粉末を用いる。
【0022】
バッファタンク32は、飼育水槽10に供給する海水を蓄積する蓄水槽である。このバッファタンク32には、飼育水槽10から供給された飼育水の他、必要に応じて自然海水や人工海水が供給される。
【0023】
バルブV2は、電解装置33に対して、バッファタンク32の海水の供給及び停止を制御する制御弁である。
電解装置33は、色素(難分解性有機物)を部分酸化し、除去しやすくする。具体的には、配管内に並べた電極板に電圧をかけることで、有機物を部分酸化し、微生物分解を促進する。
【0024】
固形物除去装置34は、円筒型のろ布(ドラムフィルタ)であり、残餌やフンなど固形ゴミを物理的に除去する。この固形物除去装置34は、ろ過量に応じて、ろ布の目詰まりを検知して、必要に応じて逆洗してフィルタ性能を回復する。
【0025】
この固形物除去装置34は、バルブV3を介して、脱窒装置35に接続されている。
バルブV3は、脱窒装置35に対して、固形物除去装置34の海水の供給及び停止を制御する制御弁である。
【0026】
脱窒装置35は、微生物が硝酸を窒素に変換し、無害化する硝酸処理を行なう装置である。具体的には、排泄物由来の強いアンモニアを酸化して、硝酸に変換する。ここでは、アンモニア酸化細菌が、酸素とアンモニアをエネルギー源にして増える。更に、脱窒菌は、酸素がなくなると硝酸からエネルギーを得て(硝酸呼吸)、有機物を分解する。硝酸中の窒素原子は窒素分子になり、空気中に放出される。
【0027】
脱窒装置35の下流は、生物ろ過槽36に接続されている。脱窒装置35は、硝酸処理を定期的に行なう。このため、バルブV3の開閉により、固形物除去装置34からの海水の供給及び停止を制御するとともに、固形物除去装置34から生物ろ過槽36にはバイパス配管が設けられている。
【0028】
生物ろ過槽36は、ろ材に付着した微生物が有害なアンモニアを毒性の低い硝酸にするアンモニア処理、有機物を分解する溶解性有機物分解処理を行なう。ここでは、多孔質のミネラル入りのろ材としてサンゴを用いる。その場合のミネラル分は、鉄分、カルシウム、マグネシウム、硫黄、カリウム、チタン、リン、コバルト、アルミニウム、ナトリウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、錫、亜鉛、バナジウム、ポロニウム、ニッケル、および銅を含む。
【0029】
生物ろ過槽36には、ポンプP1を介してクーラー37が接続されている。
ポンプP1は、循環経路C1における海水の循環を行なう。このポンプP1により、海水を、常時、循環させてもよいし、定期的に循環させてもよい。
【0030】
クーラー37は、飼育水槽10に供給する海水の温度を調節する。本実施形態では、水温を15℃に設定することで、アワビの成長速度を維持しつつ、雑菌の繁殖を抑制している。
そして、温度調節された海水は、飼育水槽10に還流される。
【0031】
(飼育処理)
次に、図3を用いて、飼育処理を説明する。この処理は、所定の時間間隔で定期的に実行される。
【0032】
まず、制御装置20は、カルシウムイオン濃度の検知処理を実行する(ステップS101)。具体的には、制御装置20は、センサ30を用いて、飼育水槽10内の飼育水W1のカルシウムイオン濃度を検知する。
【0033】
次に、制御装置20は、基準値範囲外かどうかについての判定処理を実行する(ステップS102)。具体的には、制御装置20は、検知したカルシウムイオン濃度と基準値とを比較する。本実施形態では、基準範囲として450~650mg/Lを用いる。
【0034】
基準値範囲外と判定した場合(ステップS102において「YES」の場合)、制御装置20は、塩化カルシウムの添加処理を実行する(ステップS103)。具体的には、制御装置20は、センサ30により検知したカルシウムイオン濃度と、基準値範囲との差分により不足濃度を算出する。そして、制御装置20は、不足濃度に、飼育水槽10の全容量を乗算することにより、塩化カルシウムの必要量を算出する。なお、循環経路C1内の海水の容量が大きい場合には、これを全容量に含めてもよい。次に、制御装置20は、塩化カルシウム供給装置31に、バッファタンク32に対して、必要量の供給を指示する。そして、ポンプP1の駆動により、バッファタンク32の海水を、循環経路C1を介して、飼育水槽10に供給する。この場合、飼育水槽10に供給された海水は、曝気・水流撹拌装置11により攪拌されて、カルシウムイオン濃度が全体的に向上する。
【0035】
一方、基準値範囲内と判定した場合(ステップS102において「NO」の場合)、制御装置20は、塩化カルシウムの添加処理(ステップS103)をスキップする。
そして、飼育期間(例えば、100日)を経過した場合、飼育処理を終了する。
【0036】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、貝類養殖システムA1は、飼育水槽10、循環経路C1を備える。これにより、場所を選ばず、貝類の養殖を行なうことができる。循環方式の貝類養殖方法は、海洋で養殖を行なう海面養殖と比べて、気候の変動による影響を抑制して安定した養殖を、海洋環境に影響を与えない形で実現できる。
【0037】
(2)本実施形態では、飼育水槽10の飼育水W1のカルシウムイオン濃度として、基準範囲として450~650mg/Lを用いる。
図4は、case1~3の3つのケースについて、殻長の成長を調べたグラフである。ここで、各ケースでは、異なる稚貝を同じ生育条件で飼育した。そして、経過日数90日までは、自然海水に近いカルシウムイオン濃度(380~420mg/L)を用いた。90日以降は、カルシウムイオン濃度として、480~520mg/Lを用いた。カルシウムイオン濃度を上げた90日以降では、成長速度が増加していることがわかる。評価のために、下記のフォン・ベルタランフィ近似を用いる。
【0038】
殻長L=α・(1-exp(-kt))
ここで、α:成長限界乗数(=想定される最大殻長)、k:成長乗数(時間あたり成長度)、t:飼育日数である。90日まで当初成長曲線の成長乗数kは「0.019」であるのに対して、カルシウム添加後は「0.041」となっており、成長が促進されている。
【0039】
図5図6は、成長したアワビの殻の写真である。領域a1は、稚貝の領域である。領域a2は、海水で成長させた領域であり、領域a3は、塩化カルシウムを添加して成長させた領域である。成長速度が上がっている領域a3においても、天然海水の領域a2とほぼ同等の殻の品質であることがわかる。
【0040】
図7は、経過日数30日までは、自然海水に近いカルシウムイオン濃度(380~420mg/L)を用いた。30日以降は、カルシウムイオン濃度として、無添加(380~420mg/L)、650mg/L、880mg/L、1100mg/Lを用いた。カルシウムイオン濃度650mg/Lでは、無添加よりも成長が早くなっているが、更にカルシウムイオン濃度が高い場合には成長速度が鈍化している。
【0041】
すなわち、ミネラル成分におけるカルシウムの配合比を、海水よりも飼育水槽10内の飼育水で高める。このため、カルシウム以外のミネラル成分では、海水に準じた配合比を実現しながら、殻の主成分で成長に特に不可欠なカルシウムに特化して、海水よりも高い配合比を実現することができる。その結果、殻の成長を含めた貝類そのものの成長速度を高めることが可能となる。特に、塩化ナトリウム等、溶出しやすいカルシウム塩を用いて、安定的に適量を追添加することで、アワビの成長促進に適したカルシウムイオン濃度を実現することができる。
【0042】
(3)本実施形態では、制御装置20は、カルシウムイオン濃度検知処理(ステップS101)、基準値範囲外かどうかについての判定処理(ステップS102)を実行する。そして、基準値範囲外と判定した場合(ステップS102において「YES」の場合)、制御装置20は、塩化カルシウムの添加処理を実行する(ステップS103)。これにより、適切なカルシウムイオン濃度を維持することができる。
【0043】
(4)本実施形態では、バッファタンク32において塩化カルシウムを供給する。飼育水槽10に直接、塩化カルシウムを供給する場合と異なり、カルシウムイオン濃度の濃度むらを抑制することができる。
【0044】
(5)本実施形態では、循環経路C1は、電解装置33、固形物除去装置34、脱窒装置35、生物ろ過槽36を備える。これにより、循環する飼育水の水質浄化を行なうとともに、ろ材に含まれるミネラル分を供給することができる。
【0045】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、制御装置20を用いて、アワビの飼育の管理を行なう。ここで、カルシウムイオン濃度を確認しながら、塩化カルシウムの添加を手動で行なうようにしてもよい。
【0046】
・上記実施形態においては、飼育処理を、定期的に所定の時間間隔で実行される。この時間間隔は、アワビの飼育状態(例えば、飼育数)や、成長状態に応じて変更してもよい。
・上記実施形態においては、循環経路C1は、電解装置33、固形物除去装置34、脱窒装置35、生物ろ過槽36を備える。水質浄化のための構成は、これらに限定されるものではない。
【0047】
・上記実施形態においては、貝類養殖システムA1をアワビの養殖に適用した。カルシウムを消費して成長する貝類であればアワビに限定されるものではない。
【0048】
・上記実施形態においては、カルシウム剤として塩化カルシウムを用いるが、カルシウムを供給できれば、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
A1…貝類養殖システム、C1…循環経路、P1…ポンプ、V1~V3:バルブ、W1…飼育水、10…飼育水槽、11…曝気・水流撹拌装置、12…シェルター、20…制御装置、31…塩化カルシウム供給装置、32…バッファタンク、33…電解装置、34…固形物除去装置、35…脱窒装置、36…生物ろ過槽、37…クーラー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7