(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018261
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】切削工具および切削方法
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20220120BHJP
B23C 9/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
B23B27/14 C
B23C9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121243
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亘
【テーマコード(参考)】
3C022
3C046
【Fターム(参考)】
3C022QQ03
3C046BB02
3C046CC05
(57)【要約】
【課題】びびり振動を安定して抑制できる切削工具および切削方法を提供する。
【解決手段】すくい面11と、逃げ面12と、すくい面11と逃げ面12を接続する稜線に形成された切れ刃13と、逃げ面12から突出し、切れ刃13から離れて配置される凸部14と、を備え、切れ刃13が延びる刃長方向および切れ刃13と交差する所定方向を含む仮想平面を加工基準面VSとし、加工基準面VSと直交する方向を第1方向D1とし、所定方向を第2方向D2とし、第1方向D1および第2方向D2と直交する方向を第3方向D3として、逃げ面12は、切れ刃13から第2方向D2後側へ向かうに従い、第1方向D1内側へ向けて傾斜し、凸部14は、逃げ面12上に複数設けられる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
すくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、
前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、
前記切れ刃が延びる刃長方向および前記切れ刃と交差する所定方向を含む仮想平面を加工基準面とし、
前記加工基準面と直交する方向を第1方向とし、
前記所定方向を第2方向とし、
前記第1方向および前記第2方向と直交する方向を第3方向とし、
前記第1方向のうち、前記切れ刃から工具内側へ向かう方向を第1方向内側とし、
前記第2方向のうち、前記切れ刃から前記凸部へ向かう方向を第2方向後側として、
前記逃げ面は、前記切れ刃から前記第2方向後側へ向かうに従い、前記第1方向内側へ向けて傾斜し、
前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられる、
切削工具。
【請求項2】
複数の前記凸部は、
第1凸部と、
前記第1凸部よりも前記第2方向後側に位置する第2凸部と、を有する、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1凸部が前記逃げ面から突出する突出量に比べて、前記第2凸部が前記逃げ面から突出する突出量が大きい、
請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第1凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、
前記第2凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、
前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記刃長方向において交互に並ぶ、
請求項2または3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第1凸部は、前記刃長方向に延び、
前記第2凸部は、前記刃長方向に延びる、
請求項2または3に記載の切削工具。
【請求項6】
複数の前記凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、
各前記第1凸部は、前記第2方向に延びる、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項7】
複数の前記凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、
各前記第1凸部は、前記刃長方向と前記第2方向とを合成した方向に延びる、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項8】
前記第1方向のうち、前記切れ刃から工具外側へ向かう方向を第1方向外側とし、
前記第2方向のうち、前記凸部から前記切れ刃へ向かう方向を第2方向前側として、
前記凸部は、
前記第1方向外側を向く頂面と、
前記第2方向前側を向き、前記頂面と前記逃げ面とを接続する前面と、を有し、
前記頂面は、前記第2方向後側へ向かうに従い前記逃げ面からの突出量が大きくなる、
請求項1から7のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項9】
切削工具により被削材の加工面を切削する切削方法であって、
前記切削工具は、
すくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、
前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、
前記切れ刃が延びる刃長方向および前記切れ刃と交差する切削方向を含む仮想平面を加工基準面とし、
前記加工基準面と直交する方向を第1方向とし、
前記切削方向を第2方向とし、
前記第1方向および前記第2方向と直交する方向を第3方向とし、
前記第1方向のうち、前記切れ刃から工具内側へ向かう方向を第1方向内側とし、
前記第2方向のうち、前記切れ刃から前記凸部へ向かう方向を第2方向後側として、
前記逃げ面は、前記切れ刃から前記第2方向後側へ向かうに従い、前記第1方向内側へ向けて傾斜し、
前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられ、
前記第3方向に垂直な断面視において、前記逃げ面と前記加工基準面との間に形成される逃げ角をγnとし、前記第2方向に沿う前記逃げ面の最大摩耗幅をVBmaxとして、
前記第1方向において、前記加工基準面と各前記凸部との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である、
切削方法。
【請求項10】
工具軸線回りの周方向に回転させられる切削工具であって、
前記周方向のうち、工具回転方向を向くすくい面と、
逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、
前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、
前記逃げ面は、前記切れ刃から前記周方向のうち反工具回転方向へ向かうに従い、前記工具軸線と直交する径方向のうち径方向内側へ向けて傾斜しまたは前記工具軸線が延びる軸方向のうち基端側へ向けて傾斜し、
前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられる、
切削工具。
【請求項11】
複数の前記凸部は、
第1凸部と、
前記第1凸部よりも前記反工具回転方向に位置する第2凸部と、を有する、
請求項10に記載の切削工具。
【請求項12】
前記第1凸部が前記逃げ面から突出する突出量に比べて、前記第2凸部が前記逃げ面から突出する突出量が大きい、
請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
前記第1凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、
前記第2凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、
前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記刃長方向において交互に並ぶ、
請求項11または12に記載の切削工具。
【請求項14】
前記第1凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に延び、
前記第2凸部は、前記刃長方向に延びる、
請求項11または12に記載の切削工具。
【請求項15】
複数の前記凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、
各前記第1凸部は、前記刃長方向と交差する方向に延びる、
請求項10に記載の切削工具。
【請求項16】
複数の前記凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、
各前記第1凸部は、前記刃長方向と直交する方向と、前記刃長方向とを合成した方向に延びる、
請求項10に記載の切削工具。
【請求項17】
前記凸部は、
前記径方向のうち径方向外側を向きまたは前記軸方向のうち先端側を向く頂面と、
前記工具回転方向を向き、前記頂面と前記逃げ面とを接続する前面と、を有し、
前記頂面は、前記反工具回転方向へ向かうに従い前記逃げ面からの突出量が大きくなる、
請求項10から16のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項18】
工具軸線回りの周方向に回転させられる切削工具により、被削材の加工面を切削する切削方法であって、
前記切削工具は、
前記周方向のうち、工具回転方向を向くすくい面と、
前記工具軸線と直交する径方向のうち、径方向外側を向く逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、
前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、
前記逃げ面は、前記切れ刃から前記周方向のうち反工具回転方向へ向かうに従い、前記径方向のうち径方向内側へ向けて傾斜し、
前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられ、
前記工具軸線に垂直な断面視において、前記工具軸線を中心とし前記切れ刃を通る仮想円の、前記切れ刃上を通る接線と、前記逃げ面との間に形成される逃げ角をγnとし、前記周方向に沿う前記逃げ面の最大摩耗幅をVBmaxとして、
前記径方向において、前記仮想円と各前記凸部との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である、
切削方法。
【請求項19】
工具軸線回りの周方向に回転させられる切削工具により、被削材の加工面を切削する切削方法であって、
前記切削工具は、
前記周方向のうち、工具回転方向を向くすくい面と、
前記工具軸線が延びる軸方向のうち、先端側を向く逃げ面と、
前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、
前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、
前記逃げ面は、前記切れ刃から前記周方向のうち反工具回転方向へ向かうに従い、前記軸方向のうち基端側へ向けて傾斜し、
前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられ、
前記工具軸線と垂直で前記切れ刃が位置する仮想平面を加工基準面とし、
前記工具軸線と直交する径方向から見て、前記逃げ面と前記加工基準面との間に形成される逃げ角をγnとし、前記周方向に沿う前記逃げ面の最大摩耗幅をVBmaxとして、
前記軸方向において、前記加工基準面と各前記凸部との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である、
切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びびり振動を安定して抑制できる切削工具および切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工中に生じるびびり振動は、被削材の加工面精度に影響する。例えば下記非特許文献1には、びびり振動を抑制する技術として、プロセスダンピング現象を利用することが記載されている。プロセスダンピングとは、切削加工中にびびり振動が生じた場合に、切削工具の逃げ面が被削材の加工面に接触して、振動の減衰効果を生じさせる現象である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】井桁秀徳,鈴木教和,社本英二,“切削加工におけるびびり振動抑制を実現する逃げ面テクスチャの提案”,2017年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,2017年,pp.989-990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の切削工具では、様々な切削条件における幅広い周波数帯域でびびり振動を抑制することが要求されている。
【0005】
本発明は、びびり振動を安定して抑制できる切削工具および切削方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削工具の一つの態様は、すくい面と、逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、前記切れ刃が延びる刃長方向および前記切れ刃と交差する所定方向を含む仮想平面を加工基準面とし、前記加工基準面と直交する方向を第1方向とし、前記所定方向を第2方向とし、前記第1方向および前記第2方向と直交する方向を第3方向とし、前記第1方向のうち、前記切れ刃から工具内側へ向かう方向を第1方向内側とし、前記第2方向のうち、前記切れ刃から前記凸部へ向かう方向を第2方向後側として、前記逃げ面は、前記切れ刃から前記第2方向後側へ向かうに従い、前記第1方向内側へ向けて傾斜し、前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられる。
【0007】
本発明によれば、逃げ面から突出する凸部が設けられるので、例えば低切削速度条件などの切削加工時において、プロセスダンピングと呼ばれる現象が発現して、びびり振動が抑制される。プロセスダンピングとは、切削加工中にびびり振動が生じた場合に、切削工具の逃げ面が被削材の加工面に接触して、振動の減衰効果を生じさせる現象である。つまり本発明では、逃げ面に凸部を設けることで、凸部が被削材の加工面に接触しやすくなるので、プロセスダンピング現象を積極的に発現させることができ、びびり振動を抑制できる。
【0008】
そして本発明では、凸部が逃げ面に複数設けられるので、各凸部の切れ刃からの距離、形状、逃げ面からの突出量、第2方向の長さおよび第3方向の長さもしくは刃長方向の長さ等を適宜設定することにより、凸部ごとにプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を異ならせることができ、これにより、びびり振動を抑制可能な周波数範囲を拡張できる。このため、幅広い周波数帯域においてびびり振動を抑えることが可能になる。したがって本発明によれば、びびり振動を安定して抑制できる。
【0009】
なお本発明において、「所定方向」(第2方向)とは、切削加工時に、被削材の加工面と切れ刃とが振動を伴わずに相対移動させられる見かけの方向であり、つまり「切削方向」を指す。
また「加工基準面」は、切れ刃の稜線と、この稜線に交差し所定方向(切削方向)に延びる仮想直線と、を含む仮想平面と言い換えてもよい。
【0010】
上記切削工具において、複数の前記凸部は、第1凸部と、前記第1凸部よりも前記第2方向後側に位置する第2凸部と、を有することとしてもよい。
【0011】
この場合、複数の凸部が、第2方向において切れ刃からの距離が互いに異なる第1凸部および第2凸部を含む。このため、第1凸部がプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲と、第2凸部がプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲とを、互いに異ならせることが可能になり、幅広い周波数帯域においてロバストにプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0012】
上記切削工具は、前記第1凸部が前記逃げ面から突出する突出量に比べて、前記第2凸部が前記逃げ面から突出する突出量が大きいこととしてもよい。
【0013】
この場合、被削材の加工面(加工基準面に相当)と第1凸部との間の第1方向の距離と、被削材の加工面と第2凸部との間の第1方向の距離との差を小さくしたり、各距離を同じにすることができる。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した際、各凸部を安定して加工面に接触させることができる。プロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0014】
上記切削工具において、前記第1凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、前記第2凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記刃長方向において交互に並ぶこととしてもよい。
【0015】
この場合、複数の第1凸部が切れ刃の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃と第1凸部との間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部と第2凸部とが刃長方向に交互に配列するため、刃長方向において、凸部が配置されない領域が小さく抑えられる。言い換えると、刃長方向において、広範囲に凸部によるプロセスダンピング効果が発現させられ、びびり振動がより安定して抑制される。
【0016】
上記切削工具において、前記第1凸部は、前記刃長方向に延び、前記第2凸部は、前記刃長方向に延びることとしてもよい。
【0017】
この場合、刃長方向の広い範囲で、各凸部によるプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0018】
上記切削工具において、複数の前記凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、各前記第1凸部は、前記第2方向に延びることとしてもよい。
【0019】
この場合、複数の第1凸部が切れ刃の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃と第1凸部との間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部が第2方向に延びるので、第1凸部がプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を拡張することが可能になり、びびり振動が安定して抑制される。
【0020】
上記切削工具において、複数の前記凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、各前記第1凸部は、前記刃長方向と前記第2方向とを合成した方向に延びることとしてもよい。
【0021】
この場合、複数の第1凸部が切れ刃の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃と第1凸部との間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部が少なくとも第2方向に延びるので、第1凸部がプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を拡張することが可能になり、具体的には、第1凸部が刃長方向と第2方向とを合成した方向に延びるので、刃長方向において広範囲に第1凸部によるプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0022】
上記切削工具において、前記第1方向のうち、前記切れ刃から工具外側へ向かう方向を第1方向外側とし、前記第2方向のうち、前記凸部から前記切れ刃へ向かう方向を第2方向前側として、前記凸部は、前記第1方向外側を向く頂面と、前記第2方向前側を向き、前記頂面と前記逃げ面とを接続する前面と、を有し、前記頂面は、前記第2方向後側へ向かうに従い前記逃げ面からの突出量が大きくなることとしてもよい。
【0023】
この場合、各凸部の頂面が、第2方向後側へ向かうに従い逃げ面からの突出量が大きくなっており、つまり頂面が逃げ面に対して傾斜している。このため、第3方向に垂直な断面視で、被削材の加工面(加工基準面に相当)に対する逃げ面の逃げ角よりも、加工面に対する凸部の頂面の傾き(頂面の逃げ角に相当する角度)を小さくでき、切削加工時にびびり振動が発生した際、この頂面を安定して加工面に接触させることができる。これによりプロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0024】
また本発明の一つの態様は、切削工具により被削材の加工面を切削する切削方法であって、前記切削工具は、すくい面と、逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、前記切れ刃が延びる刃長方向および前記切れ刃と交差する切削方向を含む仮想平面を加工基準面とし、前記加工基準面と直交する方向を第1方向とし、前記切削方向を第2方向とし、前記第1方向および前記第2方向と直交する方向を第3方向とし、前記第1方向のうち、前記切れ刃から工具内側へ向かう方向を第1方向内側とし、前記第2方向のうち、前記切れ刃から前記凸部へ向かう方向を第2方向後側として、前記逃げ面は、前記切れ刃から前記第2方向後側へ向かうに従い、前記第1方向内側へ向けて傾斜し、前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられ、前記第3方向に垂直な断面視において、前記逃げ面と前記加工基準面との間に形成される逃げ角をγnとし、前記第2方向に沿う前記逃げ面の最大摩耗幅をVBmaxとして、前記第1方向において、前記加工基準面と各前記凸部との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である。
【0025】
本発明の切削方法によれば、加工基準面(被削材の加工面に相当)と各凸部との間の距離H、すなわち被削材の加工面に対する各凸部の退避距離である距離Hが、VBmax・tanγn以上である。このため、切削工具の逃げ面摩耗が最大となって工具寿命に至るまでの間、複数の凸部によってびびり振動を安定して抑制することができる。
【0026】
また本発明の一つの態様は、工具軸線回りの周方向に回転させられる切削工具であって、前記周方向のうち、工具回転方向を向くすくい面と、逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、前記逃げ面は、前記切れ刃から前記周方向のうち反工具回転方向へ向かうに従い、前記工具軸線と直交する径方向のうち径方向内側へ向けて傾斜しまたは前記工具軸線が延びる軸方向のうち基端側へ向けて傾斜し、前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられる。
【0027】
本発明によれば、逃げ面から突出する凸部が設けられるので、例えば低切削速度条件などの切削加工(転削加工)時において、プロセスダンピング現象が発現して、びびり振動が抑制される。つまり本発明では、逃げ面に凸部を設けることで、凸部が被削材の加工面に接触しやすくなるので、プロセスダンピング現象を積極的に発現させることができ、びびり振動を抑制できる。
【0028】
そして本発明では、凸部が逃げ面に複数設けられるので、各凸部の切れ刃からの距離、形状、逃げ面からの突出量、周方向の長さ、軸方向の長さおよび径方向の長さ、もしくは刃長方向の長さ等を適宜設定することにより、凸部ごとにプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を異ならせることができ、これにより、びびり振動を抑制可能な周波数範囲を拡張できる。このため、幅広い周波数帯域においてびびり振動を抑えることが可能になる。したがって本発明によれば、びびり振動を安定して抑制できる。
【0029】
なお本発明において、工具軸線回りの「周方向」、すなわち工具軸線を中心とする「周方向」は、切削加工時に、被削材の加工面と切れ刃とが振動を伴わずに相対移動させられる見かけの方向であり、つまり「切削方向」を指す。
【0030】
上記切削工具において、複数の前記凸部は、第1凸部と、前記第1凸部よりも前記反工具回転方向に位置する第2凸部と、を有することとしてもよい。
【0031】
この場合、複数の凸部が、周方向において切れ刃からの距離が互いに異なる第1凸部および第2凸部を含む。このため、第1凸部がプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲と、第2凸部がプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲とを、互いに異ならせることが可能になり、幅広い周波数帯域においてロバストにプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0032】
上記切削工具は、前記第1凸部が前記逃げ面から突出する突出量に比べて、前記第2凸部が前記逃げ面から突出する突出量が大きいこととしてもよい。
【0033】
この場合、被削材の加工面と第1凸部との間の距離と、被削材の加工面と第2凸部との間の距離との差を小さくしたり、各距離を同じにすることができる。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した際、各凸部を安定して加工面に接触させることができる。プロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0034】
上記切削工具において、前記第1凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、前記第2凸部は、前記刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられ、前記第1凸部と前記第2凸部とは、前記刃長方向において交互に並ぶこととしてもよい。
【0035】
この場合、複数の第1凸部が切れ刃の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃と第1凸部との間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部と第2凸部とが刃長方向に交互に配列するため、刃長方向において、凸部が配置されない領域が小さく抑えられる。言い換えると、刃長方向において、広範囲に凸部によるプロセスダンピング効果が発現させられ、びびり振動がより安定して抑制される。
【0036】
上記切削工具において、前記第1凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に延び、前記第2凸部は、前記刃長方向に延びることとしてもよい。
【0037】
この場合、刃長方向の広い範囲で、各凸部によるプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0038】
上記切削工具において、複数の前記凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、各前記第1凸部は、前記刃長方向と交差する方向に延びることとしてもよい。
【0039】
この場合、複数の第1凸部が切れ刃の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃と第1凸部との間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部が刃長方向と交差する方向に延びるので、第1凸部がプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を拡張することが可能になり、びびり振動が安定して抑制される。
【0040】
上記切削工具において、複数の前記凸部は、前記切れ刃が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部を有し、各前記第1凸部は、前記刃長方向と直交する方向と、前記刃長方向とを合成した方向に延びることとしてもよい。
【0041】
この場合、複数の第1凸部が切れ刃の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃と第1凸部との間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部が少なくとも刃長方向と直交する方向に延びるので、第1凸部がプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を拡張することが可能になり、具体的には、第1凸部が刃長方向と直交する方向と、刃長方向とを合成した方向に延びるので、刃長方向において広範囲に第1凸部によるプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0042】
上記切削工具において、前記凸部は、前記径方向のうち径方向外側を向きまたは前記軸方向のうち先端側を向く頂面と、前記工具回転方向を向き、前記頂面と前記逃げ面とを接続する前面と、を有し、前記頂面は、前記反工具回転方向へ向かうに従い前記逃げ面からの突出量が大きくなることとしてもよい。
【0043】
この場合、各凸部の頂面が、反工具回転方向へ向かうに従い逃げ面からの突出量が大きくなっており、つまり頂面が逃げ面に対して傾斜している。このため、被削材の加工面に対する逃げ面の逃げ角よりも、加工面に対する凸部の頂面の傾き(頂面の逃げ角に相当する角度)を小さくでき、切削加工時にびびり振動が発生した際、この頂面を安定して加工面に接触させることができる。これによりプロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0044】
また本発明の一つの態様は、工具軸線回りの周方向に回転させられる切削工具により、被削材の加工面を切削する切削方法であって、前記切削工具は、前記周方向のうち、工具回転方向を向くすくい面と、前記工具軸線と直交する径方向のうち、径方向外側を向く逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、前記逃げ面は、前記切れ刃から前記周方向のうち反工具回転方向へ向かうに従い、前記径方向のうち径方向内側へ向けて傾斜し、前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられ、前記工具軸線に垂直な断面視において、前記工具軸線を中心とし前記切れ刃を通る仮想円の、前記切れ刃上を通る接線と、前記逃げ面との間に形成される逃げ角をγnとし、前記周方向に沿う前記逃げ面の最大摩耗幅をVBmaxとして、前記径方向において、前記仮想円と各前記凸部との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である。
【0045】
本発明の切削方法によれば、仮想円(被削材の加工面に相当)と各凸部との間の径方向の距離H、すなわち被削材の加工面に対する各凸部の退避距離である距離Hが、VBmax・tanγn以上である。このため、切削工具の逃げ面摩耗が最大となって工具寿命に至るまでの間、複数の凸部によってびびり振動を安定して抑制することができる。
【0046】
また本発明の一つの態様は、工具軸線回りの周方向に回転させられる切削工具により、被削材の加工面を切削する切削方法であって、前記切削工具は、前記周方向のうち、工具回転方向を向くすくい面と、前記工具軸線が延びる軸方向のうち、先端側を向く逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面を接続する稜線に形成された切れ刃と、前記逃げ面から突出し、前記切れ刃から離れて配置される凸部と、を備え、前記逃げ面は、前記切れ刃から前記周方向のうち反工具回転方向へ向かうに従い、前記軸方向のうち基端側へ向けて傾斜し、前記凸部は、前記逃げ面上に複数設けられ、前記工具軸線と垂直で前記切れ刃が位置する仮想平面を加工基準面とし、前記工具軸線と直交する径方向から見て、前記逃げ面と前記加工基準面との間に形成される逃げ角をγnとし、前記周方向に沿う前記逃げ面の最大摩耗幅をVBmaxとして、前記軸方向において、前記加工基準面と各前記凸部との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である。
【0047】
本発明の切削方法によれば、加工基準面(被削材の加工面に相当)と各凸部との間の軸方向の距離H、すなわち被削材の加工面に対する各凸部の退避距離である距離Hが、VBmax・tanγn以上である。このため、切削工具の逃げ面摩耗が最大となって工具寿命に至るまでの間、複数の凸部によってびびり振動を安定して抑制することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の一つの態様の切削工具および切削方法によれば、びびり振動を安定して抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態の刃先交換式バイトを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、刃先交換式バイトの切削インサートを示す上面図である。
【
図3】
図3は、刃先交換式バイトの切削インサートを示す正面図である。
【
図4】
図4は、刃先交換式バイトの切削インサートを示す側面図である。
【
図6】
図6は、切れ刃近傍を示す断面図であり、本発明の作用効果を説明する図である。
【
図7】
図7は、各凸部のびびり振動抑制領域を示すグラフであり、横軸はびびり振動の周波数帯域、縦軸は切れ刃から凸部までの距離を表す。
【
図8】
図8は、各凸部のびびり振動抑制領域を示すグラフであり、横軸はびびり振動の周波数帯域、縦軸は切れ刃から凸部までの距離を表す。
【
図9】
図9は、第1実施形態の第1変形例の切削インサートの切れ刃近傍を拡大して示す正面図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態の第2変形例の切削インサートの切れ刃近傍を拡大して示す正面図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態の第3変形例の切削インサートの切れ刃近傍を拡大して示す正面図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態の第4変形例の切削インサートの切れ刃近傍を拡大して示す正面図である。
【
図16】
図16は、第1実施形態の第4変形例の切削インサートの切れ刃近傍を拡大して示す断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第2実施形態のソリッドエンドミルを示す斜視図である。
【
図18】
図18は、ソリッドエンドミルを軸方向から見た正面図である。
【
図19】
図19は、ソリッドエンドミルの外周刃近傍を示す断面図である。
【
図20】
図20は、ソリッドエンドミルの外周刃近傍を示す断面図である。
【
図21】
図21は、ソリッドエンドミルの外周刃近傍を示す側面図である。
【
図22】
図22は、ソリッドエンドミルの先端刃近傍を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態の切削工具である刃先交換式バイト10およびこの切削工具を用いた切削方法について、
図1から
図16を参照して説明する。
本実施形態の刃先交換式バイト10は、旋削工具である。刃先交換式バイト10は、例えば炭素鋼などの金属製の被削材の加工面MSを旋削加工する。
【0051】
図1に示すように、刃先交換式バイト10は、ホルダ1と、切削インサート2と、クランプネジ3と、を備える。
ホルダ1は、例えば鋼材製である。ホルダ1は、柱状の棒体である。本実施形態の例では、ホルダ1が四角形柱状である。ホルダ1は、図示しない工作機械の刃物台等に着脱可能に装着される。ホルダ1は、ホルダ1の先端部にインサート取付座4を有する。インサート取付座4は、ホルダ1の先端部の外面から窪む凹状である。インサート取付座4は、多角形凹状または円形凹状であり、本実施形態の例では三角形凹状である。
【0052】
切削インサート2は、例えば超硬合金製である。切削インサート2は、クランプネジ3によりインサート取付座4に着脱可能に固定される。切削インサート2は、板状である。具体的に、切削インサート2は、多角形板状または円形板状であり、本実施形態の例では三角形板状である。
【0053】
図2から
図5に示すように、切削インサート2は、すくい面11と、逃げ面12と、すくい面11と逃げ面12を接続する稜線に形成された切れ刃13と、逃げ面12から突出し、切れ刃13から離れて配置される凸部14と、貫通孔15と、を備える。つまり刃先交換式バイト(切削工具)10は、すくい面11と、逃げ面12と、切れ刃13と、凸部14と、を備える。すくい面11は、切削インサート2の一対の板面つまり表面2aおよび裏面2bのうち、表面2aに配置される。逃げ面12および凸部14は、切削インサート2の外周面に配置される。凸部14は、逃げ面12のうち切れ刃13から離れた位置に突設される。
【0054】
〔方向の定義〕
本実施形態では、切削インサート2の中心軸(インサート中心軸)Cが延びる方向を軸方向(インサート軸方向)と呼ぶ。軸方向のうち、切削インサート2の裏面2bから表面2aへ向かう方向を軸方向一方側と呼び、表面2aから裏面2bへ向かう方向を軸方向他方側と呼ぶ。
中心軸Cと直交する方向を径方向(インサート径方向)と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
中心軸C回りに周回する方向を周方向(インサート周方向)と呼ぶ。
【0055】
また
図5に示すように、切れ刃13が延びる刃長方向、および切れ刃13と交差する所定方向を含む仮想平面を加工基準面VSとし、加工基準面VSと直交する方向を第1方向D1と呼ぶ。なお本実施形態において、「刃長方向」とは、切れ刃13の稜線が延びる方向を指し、「所定方向」とは、切削加工時に、被削材の加工面MSと切れ刃13とが振動を伴わずに相対移動させられる見かけの方向であり、つまり「切削方向」を指す。本実施形態では、「所定方向」は、中心軸Cが延びる軸方向に相当する。
また「加工基準面VS」は、切れ刃13の稜線と、この稜線に交差し所定方向(切削方向)に延びる仮想直線と、を含む仮想平面と言い換えてもよい。
【0056】
第1方向D1のうち、切れ刃13から工具内側(中心軸C側)へ向かう方向(-D1側)を第1方向D1内側と呼び、切れ刃13から工具外側(中心軸Cとは反対側)へ向かう方向(+D1側)を第1方向D1外側と呼ぶ。第1方向D1のうち切れ刃13から工具内側へ向かう方向、つまり第1方向D1内側は、第1方向D1のうち切れ刃13から切削インサート2の中心部へ向かう方向に相当する。第1方向D1のうち切れ刃13から工具外側へ向かう方向、つまり第1方向D1外側は、第1方向D1のうち切れ刃13から切削インサート2の中心部とは反対側へ向かう方向に相当する。
第1方向D1外側は、第1方向D1のうち、中心軸Cから逃げ面12へ向かう方向でもある。第1方向D1内側は、第1方向D1のうち、逃げ面12から中心軸Cへ向かう方向でもある。
上記「所定方向」を、第2方向D2と呼ぶ。第2方向D2は、第1方向D1と直交する方向である。第2方向D2のうち、切れ刃13から凸部14へ向かう方向(-D2側)を第2方向D2後側と呼び、凸部14から切れ刃13へ向かう方向(+D2側)を第2方向D2前側と呼ぶ。
第1方向D1および第2方向D2と直交する方向を第3方向D3と呼ぶ。本実施形態において第3方向D3は、切れ刃13が延びる方向であり、つまり切れ刃13の刃長方向に相当する。
図5は、第3方向D3に垂直な断面視を示しており、本実施形態では、切れ刃13に垂直な断面視に相当する。
【0057】
〔すくい面〕
すくい面11は、切削インサート2の表面2aのうち、切れ刃13に隣接する部分に配置される。すくい面11は、表面2aの外周部に配置される。すくい面11は、切れ刃13に沿って延びる。すくい面11は、軸方向一方側を向く。本実施形態の例では、すくい面11が、中心軸Cと垂直に拡がる平面状である。なお特に図示しないが、すくい面11は、切れ刃13から径方向内側へ向かうに従い軸方向他方側へ向けて傾斜していてもよい。この場合、すくい面11のすくい角はポジティブ角である。またすくい面11は、切れ刃13から径方向内側へ向かうに従い軸方向一方側へ向けて傾斜していてもよい。この場合、すくい面11のすくい角はネガティブ角である。
【0058】
〔逃げ面〕
逃げ面12は、切削インサート2の径方向外側を向く外周面のうち、切れ刃13に隣接する部分に配置される。逃げ面12は、切れ刃13に沿って延びる。逃げ面12は、切れ刃13から軸方向他方側へ向かうに従い、径方向内側へ向けて傾斜する。なお特に図示しないが、逃げ面12は、切れ刃13から軸方向他方側へ向けて、中心軸Cと平行に延びていてもよい。
逃げ面12は、切れ刃13から第2方向D2後側(-D2側)へ向かうに従い、第1方向D1内側(-D1側)へ向けて傾斜する。
【0059】
図5に示すように、第3方向D3に垂直な断面視(切れ刃13と直交する断面視)で、逃げ面12と中心軸Cとの間に形成される角度(図示省略)は、本実施形態の例では、逃げ角γnに相当する。逃げ角γnは、この断面視において、切れ刃13を中心として逃げ面12と被削材の加工面MS(加工基準面VS)との間に形成される2つの角度(鋭角および優角)のうち、小さい角度(つまり鋭角)である。
【0060】
図5に符号VBmaxで示すものは、第2方向D2に沿う(被削材の加工面MSに沿う)逃げ面12の最大摩耗幅である。切削インサート2は、この断面視において、第2方向D2に沿う逃げ面12の摩耗幅(本実施形態では中心軸Cの軸方向に沿う逃げ面12の摩耗幅)が最大摩耗幅VBmaxに達したときに、切削精度を良好に維持することが難しくなり、工具寿命と判断される。
図5において、被削材の加工面MSは、逃げ面12が最大摩耗幅VBmaxに達したときに、加工面MSよりも第1方向D1内側の(つまり中心軸Cとの距離が近い)加工面MS´に位置する。
【0061】
〔切れ刃〕
切れ刃13は、表面2aの外周縁に沿って延びる。
図2に示すように、本実施形態の例では切れ刃13が、コーナ刃部13aと、直線刃部13bと、を有する。コーナ刃部13aは、径方向外側に突出する凸曲線状である。直線刃部13bは、コーナ刃部13aの端部に繋がり、直線状に延びる。本実施形態では、コーナ刃部13aの刃長方向の両端部に、一対の直線刃部13bが接続する。
図2に示すように、切削インサート2を軸方向から見た上面視(表面2aを正面に見た上面視)で、コーナ刃部13aおよび一対の直線刃部13bの組は、全体として略V字状である。コーナ刃部13aおよび一対の直線刃部13bの組は、切削インサート2の複数のコーナ部にそれぞれ設けられる。
【0062】
〔凸部〕
図1および
図5に示すように、凸部14は、切削インサート2の外周面のうち軸方向の両端部間に位置する中間部分に配置される。凸部14は、前記中間部分のうち軸方向一方側(切れ刃13側)の部分に位置する。凸部14は、切削インサート2の外周面のうち複数のコーナ部にそれぞれ設けられる。凸部14は、少なくとも、切れ刃13(本実施形態では切削インサート2のコーナ部近傍)の第2方向D2後側(-D2側)つまり軸方向他方側に配置される。
【0063】
図3から
図5に示すように、凸部14は、逃げ面12上に複数設けられる。複数の凸部14は、互いに間隔をあけて配置されてもよく、互いに一部同士が繋がっていてもよい。本実施形態の例では、各凸部14が、リブ状であり、逃げ面12上において第2方向D2つまり軸方向に延びる。各凸部14は、軸方向において切れ刃13と間隔をあけて配置され、切れ刃13の刃長方向と交差する方向(図示の例では刃長方向と直交する方向)にそれぞれ延びる。
【0064】
図5に示すように、凸部14は、頂面14aと、前面14bと、後面14cと、を有する。
頂面14aは、第1方向D1外側(+D1側)を向く。頂面14aは、第2方向D2後側(-D2側)へ向かうに従い逃げ面12からの突出量が大きくなる。本実施形態の例では、
図5に示す第3方向D3に垂直な断面視で、頂面14aと加工基準面VSとが平行である。
【0065】
本実施形態の例では頂面14aが、
図5に示す断面視において、中心軸Cと平行に直線状に延びる。すなわち、この断面視において、頂面14aと逃げ面12との間に形成される角度は、中心軸Cと逃げ面12との間に形成される角度と等しい。また、本実施形態の例では、この断面視において、頂面14aと逃げ面12との間に形成される角度が、逃げ面12と加工面MS(加工基準面VS)との間に形成される逃げ角γnとも等しい。
【0066】
複数の凸部14のうち、コーナ刃部13aの第2方向D2後側つまり軸方向他方側に配置される凸部14の頂面14aは、軸方向から見て径方向外側に凸となる凸曲面状である。複数の凸部14のうち、直線刃部13bの第2方向D2後側に配置される凸部14の頂面14aは、平面状である。凸曲面状の頂面14aを有する凸部14は、切削インサート2の外周面のうち凸曲面部、つまり切削インサート2の上面視で角部に配置される。平面状の頂面14aを有する凸部14は、切削インサート2の外周面のうち平面部、つまり切削インサート2の上面視で辺部に配置される。
【0067】
図5に示すように、複数の凸部14のうち、最も切れ刃13に近づいて配置される凸部14の頂面14aにおける第2方向D2前側(+D2側)の端部と、切れ刃13と、の間の第2方向D2に沿う距離l
tは、0.3mm以上である。また距離l
tは、1.35mm以下である。また、頂面14aの第2方向D2の長さは、例えば、0.03mm以上2mm以下である。頂面14aの第2方向D2前側の端部と、逃げ面12のうち前面14bと接続する部分と、の間の第1方向D1の高さhは、(l
t-VBmax)・tanγnよりも小さい。高さhは、例えば、0.002mm以上0.1mm以下である。高さhは、例えば、0.05mm以下でもよい。
【0068】
前面14bは、第2方向D2前側(+D2側)を向き、頂面14aと逃げ面12とを接続する。前面14bは、第1方向D1内側(-D1側)へ向かうに従い、第2方向D2前側へ向けて傾斜する。本実施形態の例では、
図5に示す第3方向D3に垂直な断面視で、前面14bが直線状である。
【0069】
図5に示すように、第3方向D3に垂直な断面視において、頂面14aと前面14bとの間に形成される2つの角度(鈍角および優角)のうち、小さい角度θ1は、鈍角である。つまり角度θ1は、90°よりも大きい。また角度θ1は、150°以下である。なお特に図示しないが、頂面14aと前面14bとの接続部分が凸曲面状に形成されることとしてもよく、この場合、凸部14への凝着がより抑制される。
またこの断面視において、前面14bと逃げ面12との間に形成される2つの角度(鈍角および優角)のうち、小さい角度θ2は、鈍角である。つまり角度θ2は、90°よりも大きい。また角度θ2は、143°以下である。
【0070】
後面14cは、第2方向D2後側(-D2側)を向き、頂面14aと逃げ面12とを接続する。後面14cは、第1方向D1内側へ向かうに従い、第2方向D2後側へ向けて傾斜する。本実施形態の例では、
図5に示す断面視で、後面14cが直線状である。
【0071】
図3から
図5に示すように、複数の凸部14は、第1凸部14Aと、第2凸部14Bと、を有する。
第1凸部14Aは、複数の凸部14のうち、最も切れ刃13に近づいて配置される凸部14である。第2凸部14Bは、第1凸部14Aよりも第2方向D2後側に位置する。本実施形態の例では、第2凸部14Bが、複数の凸部14のうち、最も切れ刃13から離れて配置される凸部14である。第1凸部14Aが逃げ面12から突出する突出量に比べて、第2凸部14Bが逃げ面12から突出する突出量が大きい。
【0072】
第1凸部14Aは、切れ刃13の刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態の例では複数の第1凸部14Aが、第3方向D3に互いに間隔をあけて配列する。各第1凸部14Aは、第2方向D2つまり軸方向に延びる。第2凸部14Bは、切れ刃13の刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態の例では複数の第2凸部14Bが、第3方向D3に互いに間隔をあけて配列する。各第2凸部14Bは、第2方向D2つまり軸方向に延びる。第1凸部14Aと第2凸部14Bとは、切れ刃13の刃長方向において交互に並ぶ。
【0073】
第1凸部14Aおよび第2凸部14Bの各刃長方向に沿う長さ(幅)はそれぞれ、例えば、0.050mm以上1.000mm以下である。刃長方向に隣り合う第1凸部14A,14A間の距離(間隔)、および、刃長方向に隣り合う第2凸部14B,14B間の距離はそれぞれ、例えば、0.050mm以上1.000mm以下である。
本実施形態の例では、複数の第1凸部14Aのうち、切削インサート2の外周面の凸曲面部(角部)に位置する第1凸部14Aの刃長方向の幅が、切削インサート2の外周面の平面部(辺部)に位置する第1凸部14Aの刃長方向の幅よりも大きい。また、複数の第2凸部14Bのうち、切削インサート2の外周面の凸曲面部(角部)に位置する第2凸部14Bの刃長方向の幅が、切削インサート2の外周面の平面部(辺部)に位置する第2凸部14Bの刃長方向の幅よりも大きい。
【0074】
第2凸部14Bの第2方向D2の長さは、第1凸部14Aの第2方向D2の長さよりも長い。
図5に示すように、切れ刃13の刃長方向つまり第3方向D3から見て、第1凸部14Aの第2方向D2後側の端部と、第2凸部14Bの第2方向D2前側の端部とは、互いに重なる。なお切れ刃13の刃長方向つまり第3方向D3から見て、第1凸部14Aと第2凸部14Bとは、互いに重ならなくてもよい。
本実施形態では、第1凸部14Aの頂面14aの第2方向D2の長さと、第2凸部14Bの頂面14aの第2方向D2の長さとが、互いに同じである。なお、第1凸部14Aの頂面14aの第2方向D2の長さが、第2凸部14Bの頂面14aの第2方向D2の長さより長くてもよい。また、第1凸部14Aの頂面14aの第2方向D2の長さが、第2凸部14Bの頂面14aの第2方向D2の長さより短くてもよい。
【0075】
なお本実施形態では、複数の凸部14が第1凸部14Aおよび第2凸部14Bを有する例を挙げたが、これに限らない。例えば、複数の凸部14は、第2凸部14Bよりも第2方向D2後側に位置する第3凸部を有していてもよい。また複数の凸部14は、第3凸部よりも第2方向D2後側に位置する第4凸部を有していてもよい。第3凸部および第4凸部は、それぞれ逃げ面12上に複数設けられる。第2凸部14Bが逃げ面12から突出する突出量に比べて、第3凸部が逃げ面12から突出する突出量は大きい。また、第3凸部が逃げ面12から突出する突出量に比べて、第4凸部が逃げ面12から突出する突出量は大きい。さらに、複数の凸部14は、上記同様に第5凸部、第6凸部、・・・を有していてもよい。
【0076】
〔貫通孔〕
図1および
図2に示すように、貫通孔15は、切削インサート2の表面2aおよび裏面2bに開口する。貫通孔15は、切削インサート2の内部を軸方向に延びる。貫通孔15は、中心軸Cを中心とする多段円孔状である。貫通孔15の内径は、軸方向一方側の端部から軸方向他方側へ向かうに従い、段階的に縮径する。貫通孔15内には、クランプネジ3が挿入される。特に図示しないが、貫通孔15に挿入されたクランプネジ3の雄ネジ部は、インサート取付座4の雌ネジ穴に螺着される。これにより切削インサート2は、インサート取付座4に着脱可能に固定される。
【0077】
〔切削方法〕
次に、本実施形態の刃先交換式バイト(切削工具)10により被削材の加工面MSを切削する切削方法について説明する。
図5に示すように、第3方向D3に垂直な断面視において、逃げ面12と加工基準面VS(加工面MS)との間に形成される逃げ角をγnとし、第2方向D2に沿う逃げ面12の最大摩耗幅をVBmaxとする。本実施形態の切削方法では、第1方向D1(本実施形態の例では径方向に相当)において、加工基準面VSと各凸部14との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である。また、各凸部14の頂面14aは、それぞれ加工面MSと平行である。
【0078】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の刃先交換式バイト(切削工具)10によれば、逃げ面12から突出する凸部14が設けられるので、例えば低切削速度条件などの切削加工(旋削加工)時において、プロセスダンピングと呼ばれる現象が発現して、びびり振動が抑制される。プロセスダンピングとは、切削加工中にびびり振動が生じた場合に、切削工具の逃げ面が被削材の加工面に接触して、振動の減衰効果を生じさせる現象である。つまり本実施形態では、逃げ面12に凸部14を設けることで、凸部14が被削材の加工面MSに接触しやすくなるので、プロセスダンピング現象を積極的に発現させることができ、びびり振動を抑制できる。
【0079】
そして本実施形態では、凸部14が逃げ面12に複数設けられるので、各凸部14の切れ刃13からの距離lt、形状、逃げ面12からの突出量、第2方向D2の長さおよび第3方向D3の長さもしくは刃長方向の長さ等を適宜設定することにより、凸部14ごとにプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を異ならせることができ、これにより、びびり振動を抑制可能な周波数範囲を拡張できる。このため、幅広い周波数帯域においてびびり振動を抑えることが可能になる。したがって本実施形態によれば、びびり振動を安定して抑制できる。
【0080】
複数の凸部14によって、幅広い周波数帯域でびびり振動が抑制される作用について、詳しく説明する。
本発明の発明者は実験等により、下記式(1)の条件を満たす場合に、凸部14によるプロセスダンピング効果が発現しやすいという知見を得た。
【0081】
【0082】
実際には、波の周期性も考慮し、上記式(2)の範囲で効果が発現しやすいと考えられる。
ここで、びびり振動の周波数をfc、切削速度をvcとすると、振動の波長λ=vc/fcとなる。したがって上記式(1)は、上記式(3)のように速度と周波数の関係式として表される。
【0083】
以上の関係式に従い、例えば
図6に示すように、逃げ面12上に第1凸部14A、第2凸部14Bおよび第3凸部14Cが突設された場合のびびり振動抑制効果について考える。なお
図6では、第1凸部14A(の頂面14a)の第2方向D2前側の端部と、切れ刃13と、の間の第2方向D2に沿う距離l
tをl
taで表し、第2凸部14B(の頂面14a)の第2方向D2前側の端部と、切れ刃13と、の間の第2方向D2に沿う距離l
tをl
tbで表し、第3凸部14C(の頂面14a)の第2方向D2前側の端部と、切れ刃13と、の間の第2方向D2に沿う距離l
tをl
tcで表す。具体的には、例えば、距離l
taは0.55mmであり、距離l
tbは0.87mmであり、距離l
tcは1.25mmである。なお各凸部14(の頂面14a)の第2方向D2に沿う長さは、例えば、それぞれ0.1mmである。
【0084】
図7のグラフに示すように、切削速度v
c=100m/minの場合、上記式(3)より、第1凸部14Aは、151.5~1515Hzもしくは3182~4545Hzの周波数範囲でプロセスダンピング効果を発現することが期待できる。同様に、第2凸部14Bおよび第3凸部14Cはそれぞれ、2011~2874Hz、1400~2000Hz等の周波数範囲でプロセスダンピング効果を発現することが期待できる。また
図8のグラフは、切削速度v
c=150m/minの場合に、第1凸部14A、第2凸部14Bおよび第3凸部14Cがプロセスダンピング効果を発現することが期待される周波数範囲を示している。
図7より、切削速度v
c=100m/minの場合には、逃げ面12上に複数の凸部14が設けられることで、低周波からおおよそ5kHz程度までの幅広い周波数帯域で、ロバストにプロセスダンピング効果を発現することが可能と考えられる。また
図8より、切削速度v
c=150m/minの場合には、逃げ面12上に複数の凸部14が設けられることで、低周波からおおよそ7kHz程度までの幅広い周波数帯域で、ロバストにプロセスダンピング効果を発現することが可能と考えられる。
したがって本発明によれば、びびり振動を安定して抑制できる。
【0085】
また本実施形態では、
図5に示すように、複数の凸部14が、互いに第2方向D2の位置が異なる第1凸部14Aおよび第2凸部14Bを有する。
この場合、第1凸部14Aがプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲と、第2凸部14Bがプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲とを、互いに異ならせることが可能になり、幅広い周波数帯域においてロバストにプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0086】
また本実施形態では、第1凸部14Aが逃げ面12から突出する突出量に比べて、第2凸部14Bが逃げ面12から突出する突出量が大きい。すなわち、複数の凸部14のうち、第2方向D2において切れ刃13から離れた凸部14であるほど、逃げ面12からの突出量が大きい。
この場合、被削材の加工面MS(加工基準面VS)と第1凸部14Aとの間の第1方向D1の距離と、被削材の加工面MSと第2凸部14Bとの間の第1方向D1の距離との差を小さくしたり、各距離を同じにすることができる。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した際、各凸部14を安定して加工面MSに接触させることができる。プロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0087】
また本実施形態では、複数の第1凸部14Aが切れ刃13の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃13と第1凸部14Aとの間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃13が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部14Aと第2凸部14Bとが刃長方向に交互に配列するため、刃長方向において、凸部14が配置されない領域が小さく抑えられる。言い換えると、刃長方向において、広範囲に凸部14によるプロセスダンピング効果が発現させられ、びびり振動がより安定して抑制される。
【0088】
また本実施形態では、第1凸部14Aおよび第2凸部14Bがそれぞれ、第2方向D2に延びるので、第1凸部14Aがプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域、および第2凸部14Bがプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を、それぞれ拡張することが可能になり、びびり振動が安定して抑制される。
【0089】
また本実施形態では、各凸部14の頂面14aが、第2方向D2後側へ向かうに従い逃げ面12からの突出量が大きくなっており、つまり頂面14aが逃げ面12に対して傾斜している。このため、
図5に示す第3方向D3に垂直な断面視で、被削材の加工面MS(加工基準面VSに相当)に対する逃げ面12の逃げ角γnよりも、加工面MSに対する凸部14の頂面14aの傾き(頂面14aの逃げ角に相当する角度)を小さくでき、切削加工時にびびり振動が発生した際、この頂面14aを安定して加工面MSに接触させることができる。これによりプロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0090】
また本実施形態では、凸部14の前面14bが、第1方向D1内側へ向かうに従い、第2方向D2前側へ向けて傾斜しており、
図5に示す第3方向D3に垂直な断面視で、頂面14aと前面14bとの間に形成される角度θ1が鈍角であるので、頂面14aと前面14bとの接続部分や、逃げ面12と前面14bとの接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、凸部14や逃げ面12上に凝着物が堆積することが抑えられて、切れ刃13の刃先欠損等が抑制される。また、前面14bが傾斜していることにより、凸部14が加工面MSに接触した時に加工面MSを切削してしまうことが抑えられて、加工面精度が確保される。
なお「第3方向D3に垂直な断面視において、頂面14aと前面14bとの間に形成される2つの角度」のうち大きい角度(小さい角度θ1以外の角度)は、頂面14aと前面14bとの間に形成される優角、すなわち180°を超え360°未満の角度を指す。
【0091】
また本実施形態では、第3方向D3に垂直な断面視で、頂面14aと前面14bとの間に形成される角度θ1が150°以下であるので、前面14bが被削材の加工面MS(加工基準面VSに相当)と略平行に配置されることが抑制される。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した場合に、被削材の加工面MSに凸部14の前面14bが接触することを抑制できる。凸部14の頂面14aが加工面MSに安定して接触させられるため、所望の周波数帯域のびびり振動を安定して抑制できる。
【0092】
また本実施形態では、第3方向D3に垂直な断面視で、凸部14の前面14bと逃げ面12との間に形成される角度θ2が鈍角であるので、前面14bと逃げ面12との接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、凸部14や逃げ面12上に凝着物が堆積することが抑えられて、切れ刃13の刃先欠損等が抑制される。
なお「第3方向D3に垂直な断面視において、前面14bと逃げ面12との間に形成される2つの角度」のうち大きい角度(小さい角度θ2以外の角度)は、前面14bと逃げ面12との間に形成される優角、すなわち180°を超え360°未満の角度を指す。
【0093】
また本実施形態では、第3方向D3に垂直な断面視で、前面14bと逃げ面12との間に形成される角度θ2が143°以下であるので、前面14bが被削材の加工面MS(加工基準面VSに相当)と略平行に配置されることが抑制される。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した場合に、被削材の加工面MSに凸部14の前面14bが接触することが抑制される。凸部14の頂面14aが加工面MSに安定して接触させられるため、所望の周波数帯域のびびり振動を安定して抑制できる。
【0094】
また本実施形態では、複数の凸部14のうち、最も切れ刃13に近づいて配置される凸部14(つまり第1凸部14A)の頂面14aにおける第2方向D2の前端部と、切れ刃13と、の間の第2方向D2の距離ltが、0.3mm以上であるので、切削加工により逃げ面摩耗が進行しても、この凸部14(第1凸部14A)が逃げ面12とともに摩耗することは抑制される。このため、凸部14によってプロセスダンピング現象が安定して発現され、びびり振動が安定して抑制される。刃先交換式バイト(切削工具)10の機能が長期にわたり良好に維持され、工具寿命が延長する。
また、凸部14が切れ刃13に近づき過ぎず配置されるため、凸部14と被削材の加工面MSとの接触抵抗を小さく抑えつつ、プロセスダンピング現象を発現できる。
【0095】
また本実施形態では、距離ltが、1.35mm以下であるので、切削加工時に発生するびびり振動の周波数帯域に対して、安定して凸部14によるプロセスダンピング作用を得ることができる。つまり幅広い周波数帯域に対して、ロバストに本発明の効果が得られる。また、切削加工時の逃げ角γnの大きさ等に関わらず、つまり逃げ角γnがたとえ大きく設定されても、凸部14を安定して被削材の加工面MSに接触させることができ、凸部14によってプロセスダンピング現象が安定して発現され、びびり振動が安定して抑制される。
【0096】
また本実施形態では、凸部14の頂面14aの第2方向D2の長さが2mm以下であるので、この頂面14aと被削材の加工面MSとの接触面積および接触領域が小さく抑えられる。このため、凸部14と加工面MSとの接触による接線方向(切削方向つまり第2方向D2)の摩擦抵抗を抑制できる。また、凸部14に被削材の凝着物が付着することを抑制できる。
【0097】
また本実施形態では、第3方向D3に垂直な断面視で、頂面14aと加工基準面VSとが平行である。
この場合、凸部14の頂面14aを安定して被削材の加工面MSと接触させることができる。このため、びびり振動が安定して抑制される。
【0098】
なお特に図示しないが、頂面14aは、第3方向D3に垂直な断面視で、第2方向D2後側へ向かうに従い、第1方向D1内側へ向けて延びていてもよい。
この場合、凸部14の頂面14aが、第2方向D2後側へ向かうに従い、第1方向D1において被削材の加工面MSから離れるように傾斜する。凸部14の頂面14aと被削材の加工面MSとの接触抵抗を小さく抑えつつプロセスダンピング現象を発現して、びびり振動を安定して抑制できる。
【0099】
また本実施形態の切削方法によれば、加工基準面VS(被削材の加工面MSに相当)と各凸部14との間の距離H、すなわち被削材の加工面MSに対する各凸部14の退避距離である距離Hが、VBmax・tanγn以上である。このため、刃先交換式バイト10の切削インサート2の逃げ面摩耗が最大となって工具寿命に至るまでの間、複数の凸部14によってびびり振動を安定して抑制することができる。
【0100】
〔第1実施形態の変形例〕
図9は、第1実施形態の第1変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す正面図である。
図10は、第1実施形態の第1変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す断面図であり、
図9のX-X断面を表す。
図9および
図10に示すように、この第1変形例では、複数の凸部14が、切れ刃13の刃長方向(第3方向D3)に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部14Aを有する。また各第1凸部14Aは、第2方向D2に延びる。
【0101】
この第1変形例によれば、複数の第1凸部14Aが切れ刃13の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃13と第1凸部14Aとの間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃13が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部14Aが第2方向D2に延びるので、第1凸部14Aがプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を拡張することが可能になり、びびり振動が安定して抑制される。
【0102】
図11は、第1実施形態の第2変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す正面図である。
図12は、第1実施形態の第2変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す断面図であり、
図11のXII-XII断面を表す。
図11および
図12に示すように、この第2変形例では、複数の凸部14が、第1凸部14Aと、第2凸部14Bと、第3凸部14Cと、を有する。第1凸部14A、第2凸部14Bおよび第3凸部14Cはそれぞれ、切れ刃13の刃長方向(第3方向D3)に延びる。
この第2変形例によれば、刃長方向の広い範囲で、各凸部14によるプロセスダンピング効果を発現させることができる。第2変形例は、例えば、溶着が生じにくい被削材の切削加工などに適している。
【0103】
図13は、第1実施形態の第3変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す正面図である。
図14は、第1実施形態の第3変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す断面図であり、
図13のXIV-XIV断面を表す。
図13および
図14に示すように、この第3変形例では、複数の凸部14が、切れ刃13の刃長方向(第3方向D3)に互いに間隔をあけて配置される複数の第1凸部14Aを有する。また各第1凸部14Aは、第2方向D2に向かうに従い刃長方向に向けて延びる。すなわち各第1凸部14Aは、
図13に示すように第1方向D1から見て、切れ刃13の刃長方向および切れ刃13と直交する方向に対して、傾斜して延びる。つまり各第1凸部14Aは、刃長方向と第2方向D2とを合成した方向(斜め方向)に延びる。
【0104】
この第3変形例によれば、複数の第1凸部14Aが切れ刃13の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、切れ刃13と第1凸部14Aとの間で溶着が生じたり、溶着により切れ刃13が損傷したりすることを抑制できる。また、第1凸部14Aが少なくとも第2方向D2に延びるので、第1凸部14Aがプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を拡張することが可能になり、具体的には、第1凸部14Aが刃長方向と第2方向D2とを合成した方向に延びるので、刃長方向において広範囲に第1凸部14Aによるプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0105】
図15は、第1実施形態の第4変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す正面図である。
図16は、第1実施形態の第4変形例の切削インサート2の切れ刃13近傍を示す断面図である。
図15および
図16に示すように、この第4変形例では、複数の凸部14が、第1凸部14Aと、第2凸部14Bと、を有する。第1凸部14Aは、切れ刃13の刃長方向(第3方向D3)に並んで複数設けられる。複数の第1凸部14Aには、第2方向D2に沿って延びる一の第1凸部14Aと、第2方向D2および第3方向D3に対して傾斜して延びる他の第1凸部14Aと、が含まれる。第2凸部14Bは、第3方向D3に沿って延びる。
この第4変形例によれば、前述した実施形態および各変形例による作用効果が得られる。
【0106】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態の切削工具であるソリッドエンドミル20およびこの切削工具を用いた切削方法について、
図17から
図22を参照して説明する。なお第2実施形態では、第1実施形態と同じ構成要素については同じ名称や同じ符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0107】
本実施形態のソリッドエンドミル20は、転削工具である。ソリッドエンドミル20は、工具軸線O回りの周方向に回転させられる。ソリッドエンドミル20の少なくとも後述する刃部20aは、例えば超硬合金製や高速度工具鋼製等である。
図17および
図18に示すように、本実施形態の例ではソリッドエンドミル20が、スクエアエンドミルである。ソリッドエンドミル20は、例えば炭素鋼などの金属製の被削材の加工面MSを転削加工する。
【0108】
ソリッドエンドミル20は、工具軸線Oに沿って延びる円柱状である。ソリッドエンドミル20は、刃部20aと、シャンク部(図示省略)と、を有する。刃部20aとシャンク部とは、工具軸線Oが延びる方向において互いに異なる位置に配置される。シャンク部は、図示しない工作機械の主軸等に着脱可能に装着される。
【0109】
刃部20aは、切屑排出溝21と、外周すくい面(すくい面)22と、外周逃げ面(逃げ面)23と、外周すくい面22と外周逃げ面23を接続する稜線に形成された外周刃(切れ刃)24と、外周逃げ面23から突出し、外周刃24から離れて配置される外周凸部(凸部)25と、先端すくい面(すくい面)26と、先端逃げ面(逃げ面)27と、先端すくい面26と先端逃げ面27を接続する稜線に形成された先端刃(切れ刃)28と、先端逃げ面27から突出し、先端刃28から離れて配置される先端凸部(凸部)29と、を備える。
つまりソリッドエンドミル(切削工具)20は、すくい面22,26と、逃げ面23,27と、切れ刃24,28と、凸部25,29と、を備える。
【0110】
外周すくい面22は、切屑排出溝21の工具回転方向Tを向く壁面21bに配置される。外周逃げ面23および外周凸部25は、ソリッドエンドミル20の外周面に配置される。外周凸部25は、外周逃げ面23のうち外周刃24から離れた位置に突設される。
先端すくい面26は、切屑排出溝21の工具回転方向Tを向く壁面21bに配置される。先端逃げ面27および先端凸部29は、ソリッドエンドミル20の先端面に配置される。先端凸部29は、先端逃げ面27のうち先端刃28から離れた位置に突設される。
【0111】
〔方向の定義〕
本実施形態では、ソリッドエンドミル20の工具軸線(工具中心軸)Oが延びる方向を軸方向(工具軸方向)と呼ぶ。各図に示すZ軸方向が、軸方向に相当する。なお以下の説明では、工具軸線Oを単に軸線Oと呼ぶ場合がある。軸方向のうち、図示しないシャンク部から刃部20aへ向かう方向を先端側(+Z側)と呼び、刃部20aからシャンク部へ向かう方向を基端側(-Z側)と呼ぶ。
軸線Oと直交する方向を径方向(工具径方向)と呼ぶ。径方向のうち、軸線Oに近づく方向を径方向内側と呼び、軸線Oから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
軸線O回りに周回する方向を周方向(工具周方向)と呼ぶ。周方向のうち、ソリッドエンドミル20が工作機械の主軸等により回転させられる方向を工具回転方向T(+T側)と呼び、工具回転方向Tとは反対方向を反工具回転方向(-T側)と呼ぶ。なお本実施形態において、軸線O回りの「周方向」、すなわち軸線Oを中心とする「周方向」は、切削加工時に、被削材の加工面MSと切れ刃24,28とが振動を伴わずに相対移動させられる見かけの方向であり、つまり「切削方向」を指す。
【0112】
〔切屑排出溝〕
切屑排出溝21は、刃部20aの外周面から窪む溝状である。切屑排出溝21は、刃部20aの先端面に開口し、刃部20aの先端面から軸方向の基端側へ向かうに従い、反工具回転方向へ向けてねじれて延びる。切屑排出溝21は、刃部20aの外周に、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では切屑排出溝21が、刃部20aの外周に、周方向に等ピッチまたは不等ピッチで2つ設けられる。
【0113】
〔外周すくい面〕
外周すくい面22は、切屑排出溝21の溝壁のうち、工具回転方向Tを向く壁面21bの外周部に配置される。外周すくい面22は、切屑排出溝21の工具回転方向Tを向く壁面21bのうち、外周刃24に隣接する部分に配置される。つまり外周すくい面22は、工具回転方向Tを向く。外周すくい面22は、外周刃24に沿って延びる。外周すくい面22は、例えば凹曲面状である。
【0114】
〔外周逃げ面〕
外周逃げ面23は、刃部20aの外周面のうち、外周刃24に隣接する部分に配置される。外周逃げ面23は、外周刃24の反工具回転方向に、外周刃24と隣接して配置される。外周逃げ面23は、径方向外側を向く。外周逃げ面23は、外周刃24に沿って延びる。外周逃げ面23は、外周刃24から反工具回転方向へ向かうに従い、径方向内側へ向けて傾斜する。
【0115】
図19は、ソリッドエンドミル20の外周刃24近傍の軸線Oに垂直な断面を示す横断面図である。
図20は、ソリッドエンドミル20の外周刃24近傍の軸線Oに垂直な断面を示す横断面図であり、
図19とは軸線Oの位置が異なる横断面を表す。
図19および
図20に示すように、軸線Oに垂直な断面視において、軸線Oを中心とし外周刃24を通る仮想円VCは、被削材の加工面MSに相当する。詳しくは、上記仮想円VCのうち少なくとも外周刃24上を含む部分が、加工面MSに相当する。外周刃24を軸線O回りに回転させて得られる仮想曲面が、加工面MSに相当する。この仮想曲面は、加工基準面と言い換えてもよい。
図19および
図20の各断面視において、外周刃24を中心として、仮想円VC(加工面MS)の外周刃24上を通る接線と、外周逃げ面23との間に形成される2つの角度(鋭角および優角)のうち、小さい角度(つまり鋭角)が、逃げ角γnに相当する。なお上記仮想円VCの外周刃24上を通る接線は、外周刃24近傍においては概ね加工面MS(仮想円VC)と一致する。このため逃げ角γnは、各断面視において、外周刃24を中心として外周逃げ面23と加工面MSとの間に形成される角度であるといえる。
【0116】
図19および
図20にそれぞれ符号VBmaxで示すものは、周方向に沿う(被削材の加工面MSに沿う)外周逃げ面23の最大摩耗幅である。ソリッドエンドミル20は、これらの断面視において、周方向に沿う外周逃げ面23の摩耗幅が最大摩耗幅VBmaxに達したときに、切削精度を良好に維持することが難しくなり、工具寿命と判断される。
図19および
図20において、被削材の加工面MSは、外周逃げ面23が最大摩耗幅VBmaxに達したときに、加工面MSよりも径方向内側の加工面MS´に位置する。
【0117】
〔外周刃〕
外周刃24は、刃部20aの外周面に配置される。外周刃24は、刃部20aの径方向外端に位置する。外周刃24は、切屑排出溝21の工具回転方向Tを向く壁面21bの外周縁に沿って延びる。外周刃24は、刃部20aの先端から軸方向の基端側へ向かうに従い、反工具回転方向へ向けてねじれて延びる。外周刃24は、刃部20aの外周に、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では外周刃24が、刃部20aの外周に、周方向に等ピッチまたは不等ピッチで2つ設けられる。つまり本実施形態のソリッドエンドミル20は、2枚刃のエンドミルである。
【0118】
〔外周凸部〕
図17、
図19、
図20および
図21に示すように、外周凸部25は、外周逃げ面23のうち周方向の両端部間に位置する中間部分、すなわち工具回転方向Tの端部と反工具回転方向の端部との間に位置する中間部分に配置される。外周凸部25は、少なくとも、外周刃24のうち切削加工に用いられる部分(本実施形態では刃部20aの基端部以外の部分)の反工具回転方向に配置される。つまり外周凸部25は、外周刃24の反工具回転方向に位置する。
【0119】
外周凸部25は、外周逃げ面23上に複数設けられる。複数の外周凸部25は、互いに間隔をあけて配置されてもよく、互いに一部同士が繋がっていてもよい。図示の例では、複数の外周凸部25が、互いに間隔をあけて配列する。本実施形態の例では、各外周凸部25が、突起状である。具体的に外周凸部25は、外周逃げ面23を正面に見て(径方向外側から見て)、多角形状または円形状等であり、図示の例では四角形状である。各外周凸部25は、周方向において外周刃24と間隔をあけて配置される。
【0120】
図19に示すように、外周凸部25は、頂面25aと、前面25bと、後面25cと、を有する。
頂面25aは、径方向外側を向く。頂面25aは、反工具回転方向へ向かうに従い外周逃げ面23からの突出量が大きくなる。本実施形態の例では、
図19に示す軸線Oに垂直な断面視で、頂面25aと仮想円VCとが平行である。つまり頂面25aは、この断面視で、周方向の全長にわたって径方向の位置が一定である。
【0121】
本実施形態の例では頂面25aが、
図19に示す断面視において、軸線Oを中心とする周方向つまり被削材の加工面MSと平行に、凸曲線状に延びる。なお頂面25aは、この断面視において、被削材の加工面MSと略平行に延びる直線状であってもよい。
【0122】
図19に示すように、複数の外周凸部25のうち、最も外周刃24に近づいて配置される外周凸部25の頂面25aにおける工具回転方向Tの端部と、外周刃24と、の間の周方向に沿う距離l
tは、0.3mm以上である。また距離l
tは、1.35mm以下である。また、頂面25aの周方向の長さは、例えば、0.03mm以上2mm以下である。頂面25aの工具回転方向Tの端部と、外周逃げ面23のうち前面25bと接続する部分と、の間の径方向の高さhは、例えば、0.002mm以上0.1mm以下である。高さhは、例えば、0.05mm以下でもよい。
【0123】
前面25bは、工具回転方向Tを向き、頂面25aと外周逃げ面23とを接続する。前面25bは、径方向内側へ向かうに従い、工具回転方向Tへ向けて傾斜する。本実施形態の例では、
図19に示す軸線Oに垂直な断面視で、前面25bが直線状である。
【0124】
特に図示しないが、軸線Oに垂直な断面視において、頂面25aと前面25bとの間に形成される2つの角度(鈍角および優角)のうち、小さい角度(
図5の角度θ1に相当)は、鈍角である。つまり前記角度は、90°よりも大きい。また前記角度は、150°以下である。
またこの断面視において、前面25bと外周逃げ面23との間に形成される2つの角度(鈍角および優角)のうち、小さい角度(
図5の角度θ2に相当)は、鈍角である。つまり前記角度は、90°よりも大きい。また前記角度は、143°以下である。
【0125】
後面25cは、反工具回転方向を向き、頂面25aと外周逃げ面23とを接続する。後面25cは、径方向内側へ向かうに従い、反工具回転方向へ向けて傾斜する。本実施形態の例では、
図19に示す軸線Oに垂直な断面視で、後面25cが直線状である。
【0126】
図17、
図19、
図20および
図21に示すように、複数の外周凸部25は、第1外周凸部(第1凸部)25Aと、第2外周凸部(第2凸部)25Bと、を有する。
第1外周凸部25Aは、複数の外周凸部25のうち、最も外周刃24に近づいて配置される外周凸部25である。第2外周凸部25Bは、第1外周凸部25Aよりも反工具回転方向に位置する。本実施形態の例では、第2外周凸部25Bが、複数の外周凸部25のうち、最も外周刃24から離れて配置される外周凸部25である。第1外周凸部25Aが外周逃げ面23から突出する突出量に比べて、第2外周凸部25Bが外周逃げ面23から突出する突出量が大きい。
【0127】
第1外周凸部25Aは、外周刃24が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態の例では複数の第1外周凸部25Aが、軸方向に互いに間隔をあけて配列する。各第1外周凸部25Aは、外周刃24の刃長方向に延びるリブ状である。第2外周凸部25Bは、外周刃24が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態の例では複数の第2外周凸部25Bが、軸方向に互いに間隔をあけて配列する。各第2外周凸部25Bは、外周刃24の刃長方向に延びるリブ状である。第1外周凸部25Aと第2外周凸部25Bとは、外周刃24の刃長方向において交互に並ぶ。
【0128】
第1外周凸部25Aおよび第2外周凸部25Bの外周刃24の刃長方向に沿う長さはそれぞれ、例えば、0.050mm以上1.000mm以下である。外周刃24の刃長方向に隣り合う第1外周凸部25A,25A間の距離(間隔)、および、外周刃24の刃長方向に隣り合う第2外周凸部25B,25B間の距離はそれぞれ、例えば、0.050mm以上1.000mm以下である。
【0129】
本実施形態の例では、
図21に示すように径方向から見て(外周逃げ面23を正面に見て)、第1外周凸部25Aの外周刃24の刃長方向と直交する方向の長さ(幅)と、第2外周凸部25Bの外周刃24の刃長方向と直交する方向の長さとが、互いに略同じである。また、第1外周凸部25Aの周方向(工具回転方向T)の長さと、第2外周凸部25Bの周方向の長さとが、互いに略同じである。また、第1外周凸部25Aの軸方向(Z軸方向)の長さと、第2外周凸部25Bの軸方向の長さとが、互いに略同じである。また第1外周凸部25Aと第2外周凸部25Bとは、外周刃24の刃長方向と直交する方向において、互いに離れて配置される。すなわち、外周刃24の刃長方向から見て、第1外周凸部25Aと第2外周凸部25Bとは、互いに重ならない。なお、外周刃24の刃長方向から見て、第1外周凸部25Aと第2外周凸部25Bとは、互いの一部が重なってもよい。
【0130】
本実施形態の例では、
図21に示すように、第1外周凸部25Aの軸方向位置と、第2外周凸部25Bの軸方向位置とが、互いに異なる。つまり軸方向において、第1外周凸部25Aと第2外周凸部25Bとは、互いに異なる位置に配置される。
本実施形態では、外周刃24の刃長方向と直交する方向および周方向のそれぞれにおいて、第1外周凸部25Aの頂面25aの長さと、第2外周凸部25Bの頂面25aの長さとが、互いに同じである。なお、外周刃24の刃長方向と直交する方向および周方向のそれぞれにおいて、第1外周凸部25Aの頂面25aの長さが、第2外周凸部25Bの頂面25aの長さより長くてもよい。また、外周刃24の刃長方向と直交する方向および周方向のそれぞれにおいて、第1外周凸部25Aの頂面25aの長さが、第2外周凸部25Bの頂面25aの長さより短くてもよい。
【0131】
なお本実施形態では、複数の外周凸部25が第1外周凸部25Aおよび第2外周凸部25Bを有する例を挙げたが、これに限らない。例えば、複数の外周凸部25は、第2外周凸部25Bよりも反工具回転方向に位置する第3外周凸部(第3凸部)を有していてもよい。また複数の外周凸部25は、第3外周凸部よりも反工具回転方向に位置する第4外周凸部(第4凸部)を有していてもよい。第3外周凸部および第4外周凸部は、それぞれ外周逃げ面23上に複数設けられる。第2外周凸部25Bが外周逃げ面23から突出する突出量に比べて、第3外周凸部が外周逃げ面23から突出する突出量は大きい。また、第3外周凸部が外周逃げ面23から突出する突出量に比べて、第4外周凸部が外周逃げ面23から突出する突出量は大きい。さらに、複数の外周凸部25は、上記同様に第5外周凸部(第5凸部)、第6外周凸部(第6凸部)、・・・を有していてもよい。
【0132】
〔先端すくい面〕
図17および
図22に示すように、先端すくい面26は、切屑排出溝21の溝壁のうち、工具回転方向Tを向く壁面21bの先端部に配置される。先端すくい面26は、切屑排出溝21の工具回転方向Tを向く壁面21bのうち、先端刃28に隣接する部分に配置される。つまり先端すくい面26は、工具回転方向Tを向く。先端すくい面26は、先端刃28に沿って延びる。先端すくい面26は、例えば凹曲面状である。
【0133】
〔先端逃げ面〕
先端逃げ面27は、刃部20aの先端面のうち、先端刃28に隣接する部分に配置される。先端逃げ面27は、先端刃28の反工具回転方向に、先端刃28と隣接して配置される。先端逃げ面27は、軸方向のうち先端側を向く。先端逃げ面27は、先端刃28に沿って延びる。先端逃げ面27は、先端刃28から反工具回転方向へ向かうに従い、軸方向のうち基端側へ向けて傾斜する。
【0134】
図22において、本実施形態では、軸線Oと垂直で先端刃28が位置する仮想平面を加工基準面VSとする。加工基準面VSは、被削材の加工面MSに相当する。
図22に示すように、軸線Oと直交する径方向から見て(先端刃28が延びる刃長方向から見て)、先端逃げ面27と加工基準面VSとの間に形成される2つの角度(鋭角および優角)のうち、小さい角度(つまり鋭角)が、逃げ角γnに相当する。逃げ角γnは、ソリッドエンドミル20の側面視で、先端刃28を中心として先端逃げ面27と加工面MSとの間に形成される角度であるといえる。
なお、
図22に示す各角度および各寸法は、先端刃28が延びる刃長方向と垂直な断面における各角度および各寸法に相当する。すなわち、
図22に示す側面図は、先端刃28の刃長方向と垂直な断面図に相当する。
【0135】
図22に符号VBmaxで示すものは、周方向に沿う(被削材の加工面MSに沿う)先端逃げ面27の最大摩耗幅である。ソリッドエンドミル20は、周方向に沿う先端逃げ面27の摩耗幅が最大摩耗幅VBmaxに達したときに、切削精度を良好に維持することが難しくなり、工具寿命と判断される。
図22において、被削材の加工面MSは、先端逃げ面27が最大摩耗幅VBmaxに達したときに、加工面MSよりも基端側の加工面MS´に位置する。
【0136】
〔先端刃〕
図17および
図18に示すように、先端刃(底刃)28は、刃部20aの先端面に配置される。先端刃28は、刃部20aの軸方向の先端に位置する。先端刃28は、切屑排出溝21の工具回転方向Tを向く壁面21bの先端縁に沿って延びる。先端刃28は、径方向に延びる。先端刃28は、刃部20aの先端に、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では先端刃28が、刃部20aの先端に、周方向に等ピッチまたは不等ピッチで2つ設けられる。
【0137】
〔先端凸部〕
図17、
図18および
図22に示すように、先端凸部29は、先端逃げ面27のうち周方向の両端部間に位置する中間部分、すなわち工具回転方向Tの端部と反工具回転方向の端部との間に位置する中間部分に配置される。先端凸部29は、少なくとも、先端刃28のうち切削加工に用いられる部分の反工具回転方向に配置される。つまり先端凸部29は、先端刃28の反工具回転方向に位置する。
【0138】
先端凸部29は、先端逃げ面27上に複数設けられる。複数の先端凸部29は、互いに間隔をあけて配置されてもよく、互いに一部同士が繋がっていてもよい。図示の例では、複数の先端凸部29が、互いに間隔をあけて配列する。本実施形態の例では、各先端凸部29が、リブ状であり、先端刃28の刃長方向と交差する方向(図示の例では刃長方向と直交する方向)にそれぞれ延びる。各先端凸部29は、周方向において先端刃28と間隔をあけて配置される。
【0139】
図22に示すように、先端凸部29は、頂面29aと、前面29bと、後面29cと、を有する。
頂面29aは、軸方向の先端側を向く。頂面29aは、反工具回転方向へ向かうに従い先端逃げ面27からの突出量が大きくなる。本実施形態の例では、
図22に示す側面視で、頂面29aと加工基準面VSとが平行である。つまり頂面29aは、この側面視で、周方向の全長にわたって軸方向の位置が一定である。
【0140】
本実施形態の例では頂面29aが、被削材の加工面MS(加工基準面VS)と平行に、平面状に拡がる。なお頂面29aは、軸方向の先端側に向けて凸となる凸曲面状等であってもよい。
【0141】
図22に示すように、複数の先端凸部29のうち、最も先端刃28に近づいて配置される先端凸部29の頂面29aにおける工具回転方向Tの端部と、先端刃28と、の間の周方向に沿う距離l
tは、0.3mm以上である。また距離l
tは、1.35mm以下である。また、頂面29aの周方向の長さは、例えば、0.03mm以上2mm以下である。頂面29aの工具回転方向Tの端部と、先端逃げ面27のうち前面29bと接続する部分と、の間の軸方向の高さhは、例えば、0.002mm以上0.1mm以下である。高さhは、例えば、0.05mm以下でもよい。
【0142】
前面29bは、工具回転方向Tを向き、頂面29aと先端逃げ面27とを接続する。前面29bは、軸方向の基端側へ向かうに従い、工具回転方向Tへ向けて傾斜する。本実施形態の例では、前面29bが平面状である。
【0143】
図22に示す側面視において、頂面29aと前面29bとの間に形成される2つの角度(鈍角および優角)のうち、小さい角度θ1は、鈍角である。つまり角度θ1は、90°よりも大きい。また角度θ1は、150°以下である。
またこの側面視において、前面29bと先端逃げ面27との間に形成される2つの角度(鈍角および優角)のうち、小さい角度θ2は、鈍角である。つまり角度θ2は、90°よりも大きい。また角度θ2は、143°以下である。
【0144】
後面29cは、反工具回転方向を向き、頂面29aと先端逃げ面27とを接続する。後面29cは、軸方向の基端側へ向かうに従い、反工具回転方向へ向けて傾斜する。本実施形態の例では、後面29cが平面状である。
【0145】
図17、
図18および
図22に示すように、複数の先端凸部29は、第1先端凸部(第1凸部)29Aと、第2先端凸部(第2凸部)29Bと、を有する。
第1先端凸部29Aは、複数の先端凸部29のうち、最も先端刃28に近づいて配置される先端凸部29である。第2先端凸部29Bは、第1先端凸部29Aよりも反工具回転方向に位置する。本実施形態の例では、第2先端凸部29Bが、複数の先端凸部29のうち、最も先端刃28から離れて配置される先端凸部29である。第1先端凸部29Aが先端逃げ面27から突出する突出量に比べて、第2先端凸部29Bが先端逃げ面27から突出する突出量が大きい。
【0146】
第1先端凸部29Aは、先端刃28が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態の例では複数の第1先端凸部29Aが、径方向に互いに間隔をあけて配列する。各第1先端凸部29Aは、先端刃28の刃長方向と交差する方向(図示の例では直交する方向)に延びるリブ状である。第2先端凸部29Bは、先端刃28が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態の例では複数の第2先端凸部29Bが、径方向に互いに間隔をあけて配列する。各第2先端凸部29Bは、先端刃28の刃長方向と交差する方向(図示の例では直交する方向)に延びるリブ状である。第1先端凸部29Aと第2先端凸部29Bとは、先端刃28の刃長方向において交互に並ぶ。
【0147】
第1先端凸部29Aおよび第2先端凸部29Bの先端刃28の刃長方向に沿う長さ(幅)はそれぞれ、例えば、0.050mm以上1.000mm以下である。先端刃28の刃長方向に隣り合う第1先端凸部29A,29A間の距離(間隔)、および、先端刃28の刃長方向に隣り合う第2先端凸部29B,29B間の距離はそれぞれ、例えば、0.050mm以上1.000mm以下である。
【0148】
本実施形態の例では、第1先端凸部29Aの先端刃28の刃長方向と直交する方向の長さに比べて、第2先端凸部29Bの先端刃28の刃長方向と直交する方向の長さが大きい。
図22に示す側面視で、第1先端凸部29Aの反工具回転方向の端部と、第2先端凸部29Bの工具回転方向Tの端部とは、互いに重なる。なおこの側面視で、第1先端凸部29Aと第2先端凸部29Bとは、互いに重ならなくてもよい。
本実施形態では、先端刃28の刃長方向と直交する方向において、第1先端凸部29Aの頂面29aの長さと、第2先端凸部29Bの頂面29aの長さとが、互いに同じである。なお、先端刃28の刃長方向と直交する方向において、第1先端凸部29Aの頂面29aの長さが、第2先端凸部29Bの頂面29aの長さより長くてもよい。また、先端刃28の刃長方向と直交する方向において、第1先端凸部29Aの頂面29aの長さが、第2先端凸部29Bの頂面29aの長さより短くてもよい。
【0149】
なお本実施形態では、複数の先端凸部29が第1先端凸部29Aおよび第2先端凸部29Bを有する例を挙げたが、これに限らない。例えば、複数の先端凸部29は、第2先端凸部29Bよりも反工具回転方向に位置する第3先端凸部(第3凸部)を有していてもよい。また複数の先端凸部29は、第3先端凸部よりも反工具回転方向に位置する第4先端凸部(第4凸部)を有していてもよい。第3先端凸部および第4先端凸部は、それぞれ先端逃げ面27上に複数設けられる。第2先端凸部29Bが先端逃げ面27から突出する突出量に比べて、第3先端凸部が先端逃げ面27から突出する突出量は大きい。また、第3先端凸部が先端逃げ面27から突出する突出量に比べて、第4先端凸部が先端逃げ面27から突出する突出量は大きい。さらに、複数の先端凸部29は、上記同様に第5先端凸部(第5凸部)、第6先端凸部(第6凸部)、・・・を有していてもよい。
【0150】
〔切削方法〕
次に、本実施形態のソリッドエンドミル(切削工具)20により被削材の加工面MSを切削する切削方法について説明する。
図19および
図20に示すように、軸線Oに垂直な断面視において、仮想円VC(加工面MS)の外周刃24上を通る接線と、外周逃げ面23との間に形成される逃げ角をγnとし、周方向に沿う外周逃げ面23の最大摩耗幅をVBmaxとする。本実施形態の切削方法では、径方向において、仮想円VCと各外周凸部25との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である。また、外周凸部25の頂面25aは、加工面MSと平行である。
本実施形態において、互いに軸方向の位置が異なる
図19に示す距離Hと、
図20に示す距離Hとは、互いに同じである。
【0151】
図22に示すように、軸線Oと直交する径方向から見て、先端逃げ面27と加工基準面VS(加工面MS)との間に形成される逃げ角をγnとし、周方向に沿う先端逃げ面27の最大摩耗幅をVBmaxとする。本実施形態の切削方法では、軸方向において、加工基準面VSと各先端凸部29との間の距離Hが、VBmax・tanγn以上である。また、先端凸部29の頂面29aは、加工面MSと平行である。
【0152】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態のソリッドエンドミル(切削工具)20によれば、外周刃24を用いた切削加工の際、外周逃げ面23から突出する外周凸部25が設けられるので、例えば低切削速度条件などの切削加工(転削加工)時において、プロセスダンピング現象が発現して、びびり振動が抑制される。また先端刃28を用いた切削加工の際、先端逃げ面27から突出する先端凸部29が設けられるので、例えば低切削速度条件などの切削加工時において、プロセスダンピング現象が発現して、びびり振動が抑制される。
つまり本実施形態では、各逃げ面23,27に各凸部25,29を設けることで、各凸部25,29が被削材の加工面MSに接触しやすくなるので、プロセスダンピング現象を積極的に発現させることができ、びびり振動を抑制できる。
【0153】
そして本実施形態では、外周凸部25が外周逃げ面23に複数設けられるので、各外周凸部25の外周刃24からの距離、形状、外周逃げ面23からの突出量、周方向の長さおよび軸方向の長さ、もしくは刃長方向の長さ等を適宜設定することにより、外周凸部25ごとにプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を異ならせることができ、これにより、びびり振動を抑制可能な周波数範囲を拡張できる。
また、先端凸部29が先端逃げ面27に複数設けられるので、各先端凸部29の先端刃28からの距離、形状、先端逃げ面27からの突出量、周方向の長さおよび径方向の長さ、もしくは刃長方向の長さ等を適宜設定することにより、先端凸部29ごとにプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を異ならせることができ、これにより、びびり振動を抑制可能な周波数範囲を拡張できる。
このため本実施形態によれば、幅広い周波数帯域においてびびり振動を抑えることが可能になる。つまり本実施形態によれば、びびり振動を安定して抑制できる。
【0154】
また本実施形態では、複数の外周凸部25が、周方向において外周刃24からの距離が互いに異なる第1外周凸部25Aおよび第2外周凸部25Bを含む。このため、第1外周凸部25Aがプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲と、第2外周凸部25Bがプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲とを、互いに異ならせることが可能になり、幅広い周波数帯域においてロバストにプロセスダンピング効果を発現させることができる。
また、複数の先端凸部29が、周方向において先端刃28からの距離が互いに異なる第1先端凸部29Aおよび第2先端凸部29Bを含む。このため、第1先端凸部29Aがプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲と、第2先端凸部29Bがプロセスダンピング効果を発現する周波数範囲とを、互いに異ならせることが可能になり、幅広い周波数帯域においてロバストにプロセスダンピング効果を発現させることができる。
【0155】
また本実施形態では、第1外周凸部25Aが外周逃げ面23から突出する突出量に比べて、第2外周凸部25Bが外周逃げ面23から突出する突出量が大きい。すなわち、複数の外周凸部25のうち、周方向において外周刃24から離れた外周凸部25であるほど、外周逃げ面23からの突出量が大きい。
この場合、外周刃24を用いた切削加工の際、被削材の加工面MSと第1外周凸部25Aとの間の径方向の距離と、被削材の加工面MSと第2外周凸部25Bとの間の径方向の距離との差を小さくしたり、各距離を同じにすることができる。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した際、各外周凸部25を安定して加工面MSに接触させることができる。プロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0156】
また本実施形態では、第1先端凸部29Aが先端逃げ面27から突出する突出量に比べて、第2先端凸部29Bが先端逃げ面27から突出する突出量が大きい。すなわち、複数の先端凸部29のうち、周方向において先端刃28から離れた先端凸部29であるほど、先端逃げ面27からの突出量が大きい。
この場合、先端刃28を用いた切削加工の際、被削材の加工面MS(加工基準面VSに相当)と第1先端凸部29Aとの間の軸方向の距離と、被削材の加工面MSと第2先端凸部29Bとの間の軸方向の距離との差を小さくしたり、各距離を同じにすることができる。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した際、各先端凸部29を安定して加工面MSに接触させることができる。プロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0157】
また本実施形態では、複数の第1外周凸部25Aが外周刃24の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、外周刃24と第1外周凸部25Aとの間で溶着が生じたり、溶着により外周刃24が損傷したりすることを抑制できる。また、第1外周凸部25Aと第2外周凸部25Bとが外周刃24の刃長方向に交互に配列するため、この刃長方向において、外周凸部25が配置されない領域が小さく抑えられる。言い換えると、外周刃24の刃長方向において、広範囲に外周凸部25によるプロセスダンピング効果が発現させられ、びびり振動がより安定して抑制される。
【0158】
また本実施形態では、複数の第1先端凸部29Aが先端刃28の刃長方向に互いに間隔をあけて配列するので、先端刃28と第1先端凸部29Aとの間で溶着が生じたり、溶着により先端刃28が損傷したりすることを抑制できる。また、第1先端凸部29Aと第2先端凸部29Bとが先端刃28の刃長方向に交互に配列するため、この刃長方向において、先端凸部29が配置されない領域が小さく抑えられる。言い換えると、先端刃28の刃長方向において、広範囲に先端凸部29によるプロセスダンピング効果が発現させられ、びびり振動がより安定して抑制される。
【0159】
また本実施形態では、第1先端凸部29Aおよび第2先端凸部29Bがそれぞれ、先端刃28の刃長方向と交差する方向(直交する方向)に延びるので、第1先端凸部29Aがプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域、および第2先端凸部29Bがプロセスダンピング効果を発現する振動波長領域を、それぞれ拡張することが可能になり、びびり振動が安定して抑制される。
【0160】
また本実施形態では、各外周凸部25の頂面25aが、反工具回転方向へ向かうに従い外周逃げ面23からの突出量が大きくなっており、つまり頂面25aが外周逃げ面23に対して傾斜している。このため、
図19および
図20に示す軸線Oに垂直な断面視で、被削材の加工面MSに対する外周逃げ面23の逃げ角γnよりも、加工面MSに対する外周凸部25の頂面25aの傾き(頂面25aの逃げ角に相当する角度)を小さくでき、切削加工時にびびり振動が発生した際、この頂面25aを安定して加工面MSに接触させることができる。これによりプロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0161】
また本実施形態では、各先端凸部29の頂面29aが、反工具回転方向へ向かうに従い先端逃げ面27からの突出量が大きくなっており、つまり頂面29aが先端逃げ面27に対して傾斜している。このため、
図22に示す径方向から見た側面視で、被削材の加工面MSに対する先端逃げ面27の逃げ角γnよりも、加工面MSに対する先端凸部29の頂面29aの傾き(頂面29aの逃げ角に相当する角度)を小さくでき、切削加工時にびびり振動が発生した際、この頂面29aを安定して加工面MSに接触させることができる。これによりプロセスダンピング現象が安定して発現し、びびり振動が安定して抑制される。
【0162】
また本実施形態では、外周凸部25の前面25bが、径方向内側へ向かうに従い工具回転方向Tへ向けて傾斜しており、
図19および
図20に示す軸線Oに垂直な断面視で、頂面25aと前面25bとの間に形成される角度(
図22の角度θ1に相当する角度。以下角度θ1と呼ぶ)が鈍角であるので、頂面25aと前面25bとの接続部分や、外周逃げ面23と前面25bとの接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、外周凸部25や外周逃げ面23上に凝着物が堆積することが抑えられて、外周刃24の刃先欠損等が抑制される。また、前面25bが傾斜していることにより、外周凸部25が加工面MSに接触した時に加工面MSを切削してしまうことが抑えられて、加工面精度が確保される。
【0163】
また本実施形態では、軸線Oに垂直な断面視で、頂面25aと前面25bとの間に形成される角度θ1が150°以下であるので、前面25bが被削材の加工面MSと略平行に配置されることが抑制される。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した場合に、被削材の加工面MSに外周凸部25の前面25bが接触することを抑制できる。外周凸部25の頂面25aが加工面MSに安定して接触させられるため、所望の周波数帯域のびびり振動を安定して抑制できる。
【0164】
また本実施形態では、軸線Oに垂直な断面視で、外周凸部25の前面25bと外周逃げ面23との間に形成される角度(
図22の角度θ2に相当する角度。以下角度θ2と呼ぶ)が鈍角であるので、前面25bと外周逃げ面23との接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、外周凸部25や外周逃げ面23上に凝着物が堆積することが抑えられて、外周刃24の刃先欠損等が抑制される。
【0165】
また本実施形態では、軸線Oに垂直な断面視で、前面25bと外周逃げ面23との間に形成される角度θ2が143°以下であるので、前面25bが被削材の加工面MSと略平行に配置されることが抑制される。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した場合に、被削材の加工面MSに外周凸部25の前面25bが接触することが抑制される。外周凸部25の頂面25aが加工面MSに安定して接触させられるため、所望の周波数帯域のびびり振動を安定して抑制できる。
【0166】
また本実施形態では、複数の外周凸部25のうち、最も外周刃24に近づいて配置される外周凸部25(つまり第1外周凸部25A)の頂面25aにおける工具回転方向Tの端部と、外周刃24と、の間の周方向の距離ltが、0.3mm以上であるので、切削加工により逃げ面摩耗が進行しても、この外周凸部25(第1外周凸部25A)が外周逃げ面23とともに摩耗することは抑制される。このため、外周凸部25によってプロセスダンピング現象が安定して発現され、びびり振動が安定して抑制される。ソリッドエンドミル20の機能が長期にわたり良好に維持され、工具寿命が延長する。
また、外周凸部25が外周刃24に近づき過ぎず配置されるため、外周凸部25と被削材の加工面MSとの接触抵抗を小さく抑えつつ、プロセスダンピング現象を発現できる。
【0167】
また本実施形態では、距離ltが、1.35mm以下であるので、切削加工時に発生するびびり振動の周波数帯域に対して、安定して外周凸部25によるプロセスダンピング作用を得ることができる。つまり幅広い周波数帯域に対して、ロバストに本発明の効果が得られる。また、切削加工時の逃げ角γnの大きさ等に関わらず、つまり逃げ角γnがたとえ大きく設定されても、外周凸部25を安定して被削材の加工面MSに接触させることができ、外周凸部25によってプロセスダンピング現象が安定して発現され、びびり振動が安定して抑制される。
【0168】
また本実施形態では、外周凸部25の頂面25aの周方向の長さが2mm以下であるので、この頂面25aと被削材の加工面MSとの接触面積および接触領域が小さく抑えられる。このため、外周凸部25と加工面MSとの接触による接線方向(切削方向つまり周方向)の摩擦抵抗を抑制できる。また、外周凸部25に被削材の凝着物が付着することを抑制できる。
【0169】
また本実施形態では、軸線Oに垂直な断面視で、頂面25aは、周方向の全長にわたって径方向の位置が一定である。
この場合、外周凸部25の頂面25aを安定して被削材の加工面MSと接触させることができる。このため、びびり振動が安定して抑制される。
【0170】
なお特に図示しないが、頂面25aは、軸線Oに垂直な断面視で、反工具回転方向へ向かうに従い、径方向内側へ向けて延びていてもよい。
この場合、外周凸部25の頂面25aが、反工具回転方向へ向かうに従い、径方向において被削材の加工面MSから離れるように傾斜する。外周凸部25の頂面25aと被削材の加工面MSとの接触抵抗を小さく抑えつつプロセスダンピング現象を発現して、びびり振動を安定して抑制できる。
【0171】
また本実施形態では、先端凸部29の前面29bが、軸方向の基端側へ向かうに従い工具回転方向Tへ向けて傾斜しており、
図22に示す径方向から見た側面視(先端刃28の刃長方向と垂直な断面視に相当)で、頂面29aと前面29bとの間に形成される角度θ1が鈍角であるので、頂面29aと前面29bとの接続部分や、先端逃げ面27と前面29bとの接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、先端凸部29や先端逃げ面27上に凝着物が堆積することが抑えられて、先端刃28の刃先欠損等が抑制される。また、前面29bが傾斜していることにより、先端凸部29が加工面MSに接触した時に加工面MSを切削してしまうことが抑えられて、加工面精度が確保される。
【0172】
また本実施形態では、径方向から見た側面視で、頂面29aと前面29bとの間に形成される角度θ1が150°以下であるので、前面29bが被削材の加工面MSと略平行に配置されることが抑制される。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した場合に、被削材の加工面MSに先端凸部29の前面29bが接触することを抑制できる。先端凸部29の頂面29aが加工面MSに安定して接触させられるため、所望の周波数帯域のびびり振動を安定して抑制できる。
【0173】
また本実施形態では、径方向から見た側面視で、先端凸部29の前面29bと先端逃げ面27との間に形成される角度θ2が鈍角であるので、前面29bと先端逃げ面27との接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、先端凸部29や先端逃げ面27上に凝着物が堆積することが抑えられて、先端刃28の刃先欠損等が抑制される。
【0174】
また本実施形態では、径方向から見た側面視で、前面29bと先端逃げ面27との間に形成される角度θ2が143°以下であるので、前面29bが被削材の加工面MSと略平行に配置されることが抑制される。これにより、切削加工時にびびり振動が発生した場合に、被削材の加工面MSに先端凸部29の前面29bが接触することが抑制される。先端凸部29の頂面29aが加工面MSに安定して接触させられるため、所望の周波数帯域のびびり振動を安定して抑制できる。
【0175】
また本実施形態では、複数の先端凸部29のうち、最も先端刃28に近づいて配置される先端凸部29(つまり第1先端凸部29A)の頂面29aにおける工具回転方向Tの端部と、先端刃28と、の間の周方向の距離ltが、0.3mm以上であるので、切削加工により逃げ面摩耗が進行しても、この先端凸部29(第1先端凸部29A)が先端逃げ面27とともに摩耗することは抑制される。このため、先端凸部29によってプロセスダンピング現象が安定して発現され、びびり振動が安定して抑制される。ソリッドエンドミル20の機能が長期にわたり良好に維持され、工具寿命が延長する。
また、先端凸部29が先端刃28に近づき過ぎず配置されるため、先端凸部29と被削材の加工面MSとの接触抵抗を小さく抑えつつ、プロセスダンピング現象を発現できる。
【0176】
また本実施形態では、距離ltが、1.35mm以下であるので、切削加工時に発生するびびり振動の周波数帯域に対して、安定して先端凸部29によるプロセスダンピング作用を得ることができる。つまり幅広い周波数帯域に対して、ロバストに本発明の効果が得られる。また、切削加工時の逃げ角γnの大きさ等に関わらず、つまり逃げ角γnがたとえ大きく設定されても、先端凸部29を安定して被削材の加工面MSに接触させることができ、先端凸部29によってプロセスダンピング現象が安定して発現され、びびり振動が安定して抑制される。
【0177】
また本実施形態では、先端凸部29の頂面29aの周方向の長さが2mm以下であるので、この頂面29aと被削材の加工面MSとの接触面積および接触領域が小さく抑えられる。このため、先端凸部29と加工面MSとの接触による接線方向(切削方向つまり周方向)の摩擦抵抗を抑制できる。また、先端凸部29に被削材の凝着物が付着することを抑制できる。
【0178】
また本実施形態では、径方向から見た側面視で、頂面29aは、周方向の全長にわたって軸方向の位置が一定である。
この場合、先端凸部29の頂面29aを安定して被削材の加工面MSと接触させることができる。このため、びびり振動が安定して抑制される。
【0179】
なお特に図示しないが、頂面29aは、径方向から見た側面視で、反工具回転方向へ向かうに従い、軸方向の基端側へ向けて延びていてもよい。
この場合、先端凸部29の頂面29aが、反工具回転方向へ向かうに従い、軸方向において被削材の加工面MSから離れるように傾斜する。先端凸部29の頂面29aと被削材の加工面MSとの接触抵抗を小さく抑えつつプロセスダンピング現象を発現して、びびり振動を安定して抑制できる。
【0180】
また本実施形態の切削方法によれば、
図19および
図20に示すように、仮想円VC(被削材の加工面MSに相当)と各外周凸部25との間の径方向の距離H、すなわち被削材の加工面MSに対する各外周凸部25の退避距離である距離Hが、VBmax・tanγn以上である。このため、ソリッドエンドミル20の外周刃24近傍の逃げ面摩耗が最大となって工具寿命に至るまでの間、複数の外周凸部25によってびびり振動を安定して抑制することができる。
【0181】
また本実施形態の切削方法では、外周凸部25の頂面25aが、被削材の加工面MSと平行である。
この場合、頂面25aを安定して加工面MSと接触させることができる。このため、びびり振動が安定して抑制される。
【0182】
また本実施形態の切削方法によれば、
図22に示すように、加工基準面VS(被削材の加工面MSに相当)と各先端凸部29との間の軸方向の距離H、すなわち被削材の加工面MSに対する各先端凸部29の退避距離である距離Hが、VBmax・tanγn以上である。このため、ソリッドエンドミル20の先端刃28近傍の逃げ面摩耗が最大となって工具寿命に至るまでの間、複数の先端凸部29によってびびり振動を安定して抑制することができる。
【0183】
また本実施形態の切削方法では、先端凸部29の頂面29aが、被削材の加工面MSと平行である。
この場合、頂面29aを安定して加工面MSと接触させることができる。このため、びびり振動が安定して抑制される。
【0184】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0185】
第2実施形態において、
図9および
図10に示す第1実施形態の第1変形例の構成を採用してもよい。この場合、複数の外周凸部25は、外周刃24が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1外周凸部25Aを有する。各第1外周凸部25Aは、外周刃24の刃長方向と交差する方向(図示の例では直交する方向。なお周方向でもよい)に延びる。また、複数の先端凸部29は、先端刃28が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1先端凸部29Aを有する。各第1先端凸部29Aは、先端刃28の刃長方向と交差する方向(図示の例では直交する方向)に延びる。
この場合、第1変形例と同様の作用効果が得られる。
【0186】
第2実施形態において、
図11および
図12に示す第1実施形態の第2変形例の構成を採用してもよい。この場合、複数の外周凸部25は、第1外周凸部25Aと、第2外周凸部25Bと、第3外周凸部と、を有する。第1外周凸部25A、第2外周凸部25Bおよび第3外周凸部はそれぞれ、外周刃24の刃長方向に延びる。また、複数の先端凸部29は、第1先端凸部29Aと、第2先端凸部29Bと、第3先端凸部と、を有する。第1先端凸部29A、第2先端凸部29Bおよび第3先端凸部はそれぞれ、先端刃28の刃長方向に延びる。
この場合、第2変形例と同様の作用効果が得られる。
【0187】
第2実施形態において、
図13および
図14に示す第1実施形態の第3変形例の構成を採用してもよい。この場合、複数の外周凸部25は、外周刃24が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1外周凸部25Aを有する。各第1外周凸部25Aは、外周刃24の刃長方向と直交する方向に向かうに従い外周刃24の刃長方向に向けて延びる。つまり各第1外周凸部25Aは、刃長方向と直交する方向と、刃長方向とを合成した方向(斜め方向)に延びる。また、複数の先端凸部29は、先端刃28が延びる刃長方向に互いに間隔をあけて配置される複数の第1先端凸部29Aを有する。各第1先端凸部29Aは、先端刃28の刃長方向と直交する方向に向かうに従い先端刃28の刃長方向に向けて延びる。つまり各第1先端凸部29Aは、刃長方向と直交する方向と、刃長方向とを合成した方向(斜め方向)に延びる。
この場合、第3変形例と同様の作用効果が得られる。
【0188】
第2実施形態において、
図15および
図16に示す第1実施形態の第4変形例の構成を採用してもよい。この場合、複数の外周凸部25は、第1外周凸部25Aと、第2外周凸部25Bと、を有する。第1外周凸部25Aは、外周刃24の刃長方向に並んで複数設けられる。複数の第1外周凸部25Aには、外周刃24の刃長方向と直交する方向に延びる一の第1外周凸部25Aと、外周刃24の刃長方向と直交する方向および外周刃24の刃長方向に対して傾斜して延びる他の第1外周凸部25Aと、が含まれる。第2外周凸部25Bは、外周刃24の刃長方向に延びる。複数の先端凸部29は、第1先端凸部29Aと、第2先端凸部29Bと、を有する。第1先端凸部29Aは、先端刃28の刃長方向に並んで複数設けられる。複数の第1先端凸部29Aには、先端刃28の刃長方向と直交する方向に延びる一の第1先端凸部29Aと、先端刃28の刃長方向と直交する方向および先端刃28の刃長方向に対して傾斜して延びる他の第1先端凸部29Aと、が含まれる。第2先端凸部29Bは、先端刃28の刃長方向に延びる。
この場合、第4変形例と同様の作用効果が得られる。
【0189】
第1実施形態および第2実施形態において、凸部14,25,29の前面14b,25b,29bが、逃げ面12,23,27と接続する端部に図示しない凹曲面部を有していてもよい。
この場合、前面14b,25b,29bと逃げ面12,23,27とが滑らかに接続され、この接続部分に、被削材の凝着物が付着したり溜まったりすることが抑制される。これにより、凸部14,25,29や逃げ面12,23,27上に凝着物が堆積することが抑えられて、切れ刃13,24,28の刃先欠損等が抑制される。
【0190】
第1実施形態および第2実施形態において、凸部14,25,29の前面14b,25b,29bが、頂面14a,25a,29aと接続する端部に図示しない凸曲面部を有していてもよい。
この場合、前面14b,25b,29bと頂面14a,25a,29aとの接続部分に尖った角部が形成されることが抑制される。このため、びびり振動時に凸部14,25,29が被削材の加工面MSと接触しても、凸部14,25,29の前面14b,25b,29bに被削材の凝着物が付着しにくい。すなわち、凸部14,25,29や逃げ面12,23,27上に凝着物が堆積することが抑えられるため、切れ刃13,24,28の刃先欠損等が抑制される。また、凸部14,25,29が加工面MSを切削してしまうことが抑えられるため、加工面精度が確保される。
【0191】
第1実施形態および第2実施形態において、角度θ1,θ2は、鈍角でなくてもよい。すなわち、角度θ1は、90°以下であってもよく、角度θ2は、90°以下であってもよい。
【0192】
また前述の実施形態では、切削工具として刃先交換式バイト10およびソリッドエンドミル20を例に挙げて説明したが、これらに限らない。例えば、ソリッドタイプのバイトや刃先交換式エンドミルに、本発明を適用してもよい。また、バイト以外の旋削工具や、エンドミル以外の転削工具に本発明を適用してもよい。また、旋削工具および転削工具以外の切削工具に、本発明を適用してもよい。
【0193】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の切削工具および切削方法によれば、びびり振動を安定して抑制できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0195】
10…刃先交換式バイト(切削工具)
11…すくい面
12…逃げ面
13…切れ刃
14…凸部
14a,25a,29a…頂面
14b,25b,29b…前面
14A…第1凸部
14B…第2凸部
20…ソリッドエンドミル(切削工具)
22…外周すくい面(すくい面)
23…外周逃げ面(逃げ面)
24…外周刃(切れ刃)
25…外周凸部(凸部)
25A…第1外周凸部(第1凸部)
25B…第2外周凸部(第2凸部)
26…先端すくい面(すくい面)
27…先端逃げ面(逃げ面)
28…先端刃(切れ刃)
29…先端凸部(凸部)
29A…第1先端凸部(第1凸部)
29B…第2先端凸部(第2凸部)
D1…第1方向
D2…第2方向
D3…第3方向
H…距離(退避距離)
lt(lta,ltb,ltc)…距離
MS…加工面
O…工具軸線
T…工具回転方向
VBmax…最大摩耗幅
VC…仮想円
VS…加工基準面
γn…逃げ角