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特開2022-182625音響可聴化装置及び音響可聴化プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182625
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】音響可聴化装置及び音響可聴化プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20221201BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H04S7/00 300
H04R3/00 310
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090284
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和憲
【テーマコード(参考)】
5D162
5D220
【Fターム(参考)】
5D162AA05
5D162CA26
5D162CC08
5D162CC19
5D162DA02
5D162EG02
5D220AA03
5D220AA05
5D220AB01
5D220BA30
(57)【要約】
【課題】聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができる音響可聴化装置及び音響可聴化プログラムを得る。
【解決手段】音響可聴化装置10は、対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得する取得部11Aと、上記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定する特定部11Gと、取得部11Aによって取得された形状情報、音響関連情報、及び音源情報と、特定部11Gによって特定された受音点の位置と、を用いて、音源から発せられた音の受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出する導出部11Cと、導出部11Cによって導出された音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行う再生制御部11Dと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得する取得部と、
前記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定する特定部と、
前記取得部によって取得された前記形状情報、前記音響関連情報、及び前記音源情報と、前記特定部によって特定された前記受音点の位置と、を用いて、前記音源から発せられた音の前記受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出する導出部と、
前記導出部によって導出された前記音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行う再生制御部と、
を備えた音響可聴化装置。
【請求項2】
前記導出部は、前記音響可聴化情報を、伝達関数を用いて導出する、
請求項1に記載の音響可聴化装置。
【請求項3】
前記形状情報を用いて、前記聴取者の移動に応じて当該聴取者が見える前記室の映像を示す映像情報を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された前記映像情報が示す前記映像を表示部により仮想的に表示させる制御を行う表示制御部と、
を更に備えた請求項1又は請求項2に記載の音響可聴化装置。
【請求項4】
前記導出部による前記音響可聴化情報の導出と、前記生成部による前記映像情報の生成とを単一のコンピュータにより行う、
請求項3に記載の音響可聴化装置。
【請求項5】
前記導出部は、前記音響可聴化情報を、前記音源の移動によるドップラー効果の影響を反映した情報として導出する、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の音響可聴化装置。
【請求項6】
対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得し、
前記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定し、
取得した前記形状情報、前記音響関連情報、及び前記音源情報と、特定した前記受音点の位置と、を用いて、前記音源から発せられた音の前記受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出し、
導出した前記音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行う、
処理をコンピュータに実行させるための音響可聴化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響可聴化装置及び音響可聴化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における音響設計では、構成部材やプラン等の仕様を決定するために統計音響理論や数値計算より得られた残響時間や音圧分布が評価される。しかし、結果を適切に評価するためには一定の経験や知識が必要とされている。
【0003】
一方で、経験や知識が乏しくても、直感的な評価を可能にするために数値計算や模型実験の結果を基にして、設計中の建物内の音を聴取できるように再現する技術がある。この技術を音響可聴化技術と呼ぶ 。
【0004】
従来、音響可聴化技術に関する技術として、次の技術があった。
【0005】
特許文献1には、臨場感のある三次元的な音響波面を伴う音場を生成することができるようにすることを目的とした空間音響生成装置が開示されている。
【0006】
この空間音響生成装置は、複数のスピーカに接続された、記憶部と制御部とを備えた空間音響生成装置であって、前記制御部は、移動する発音体を示す情報に基づき、前記発音体の移動に応じて時間毎の伝達特性を変化させながら逆システムを適用して、前記発音体が発する音を示す音源信号から、前記各スピーカへの複数の入力信号を算出する。また、前記逆システムは、境界音場制御において前記入力信号に基づき前記スピーカに三次元的な音響波面を形成させるように、前記複数のスピーカが配置された空間中の伝達特性に応じて前記入力信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表2018-070487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、受音点が移動することについては考慮されておらず、対象とする室において聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができない、という問題点があった。
【0009】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができる音響可聴化装置及び音響可聴化プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明に係る音響可聴化装置は、対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得する取得部と、前記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定する特定部と、前記取得部によって取得された前記形状情報、前記音響関連情報、及び前記音源情報と、前記特定部によって特定された前記受音点の位置と、を用いて、前記音源から発せられた音の前記受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出する導出部と、前記導出部によって導出された前記音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行う再生制御部と、を備えている。
【0011】
請求項1に記載の本発明に係る音響可聴化装置によれば、対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得し、上記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定し、取得した形状情報、音響関連情報、及び音源情報と、特定した受音点の位置と、を用いて、音源から発せられた音の受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出し、導出した音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行うことで、聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができる。
【0012】
請求項2に記載の本発明に係る音響可聴化装置は、請求項1に記載の音響可聴化装置であって、前記導出部が、前記音響可聴化情報を、伝達関数を用いて導出するものである。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係る音響可聴化装置によれば、音響可聴化情報を、伝達関数を用いて導出することで、伝達関数を用いない場合に比較して、より簡易に音源から発せられた音を再生することができる。
【0014】
請求項3に記載の本発明に係る音響可聴化装置は、請求項1又は請求項2に記載の音響可聴化装置であって、前記形状情報を用いて、前記聴取者の移動に応じて当該聴取者が見える前記室の映像を示す映像情報を生成する生成部と、前記生成部によって生成された前記映像情報が示す前記映像を表示部により仮想的に表示させる制御を行う表示制御部と、を更に備えている。
【0015】
請求項3に記載の本発明に係る音響可聴化装置によれば、上記形状情報を用いて、聴取者の移動に応じて当該聴取者が見える上記室の映像を示す映像情報を生成し、生成した映像情報が示す映像を仮想的に表示することで、当該映像を表示しない場合に比較して、より臨場感をもって、音源から発せられた音を再生することができる。
【0016】
請求項4に記載の本発明に係る音響可聴化装置は、請求項3に記載の音響可聴化装置であって、前記導出部による前記音響可聴化情報の導出と、前記生成部による前記映像情報の生成とを単一のコンピュータにより行うものである。
【0017】
請求項4に記載の本発明に係る音響可聴化装置によれば、音響可聴化情報の導出と、映像情報の生成とを単一のコンピュータにより行うことで、音響可聴化情報の導出と、映像情報の生成とを異なるコンピュータにより行う場合に比較して、より容易に音響可聴化情報が示す音の再生と、映像情報が示す映像の表示との同期をとることができる。
【0018】
請求項5に記載の本発明に係る音響可聴化装置は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の音響可聴化装置であって、前記導出部が、前記音響可聴化情報を、前記音源の移動によるドップラー効果の影響を反映した情報として導出するものである。
【0019】
請求項5に記載の本発明に係る音響可聴化装置によれば、音響可聴化情報を、音源の移動によるドップラー効果の影響を反映した情報とすることで、ドップラー効果の影響を反映しない場合に比較して、より高精度に、音源から発せられた音を再生することができる。
【0020】
請求項6に記載の本発明に係る音響可聴化プログラムは、対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得し、前記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定し、取得した前記形状情報、前記音響関連情報、及び前記音源情報と、特定した前記受音点の位置と、を用いて、前記音源から発せられた音の前記受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出し、導出した前記音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行う、処理をコンピュータに実行させる。
【0021】
請求項6に記載の本発明に係る音響可聴化プログラムによれば、対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得し、上記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定し、取得した形状情報、音響関連情報、及び音源情報と、特定した受音点の位置と、を用いて、音源から発せられた音の受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出し、導出した音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行うことで、聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る音響可聴化装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る音響可聴化装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係るコントローラの構成の一例を示す正面図である。
図4】実施形態に係る建物関連情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図5】実施形態に係る伝達関数関連情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
図6】実施形態に係る伝達関数の演算に関する設定対象の一例を示す斜視図である。
図7】実施形態に係る波動性を考慮しない場合の伝達関数の演算に関する設定対象の一例を示す側面図である。
図8】実施形態に係る波動性を考慮する場合の伝達関数の演算に関する設定対象の一例を示す側面図である。
図9】実施形態に係る設定処理の一例を示すフローチャートである。
図10】実施形態に係る設定対象入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図11】実施形態に係る設定情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図12】実施形態に係る音響可聴化処理の一例を示すフローチャートである。
図13】実施形態に係る処理対象入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図14】実施形態に係る映像画面の構成の一例を示す正面図である。
図15】実施形態に係る映像画面の構成の他の例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0025】
まず、図1図3を参照して、本実施形態に係る音響可聴化装置10の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る音響可聴化装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、図2は、本実施形態に係る音響可聴化装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。更に、図3は、本実施形態に係るコントローラ21の構成の一例を示す正面図である。なお、音響可聴化装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る音響可聴化装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0027】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、設定プログラム13A及び音響可聴化プログラム13Bが記憶されている。設定プログラム13Aは、設定プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの設定プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。また、音響可聴化プログラム13Bも、音響可聴化プログラム13Bが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの音響可聴化プログラム13Bの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、設定プログラム13A及び音響可聴化プログラム13Bの各プログラムを記憶部13から適宜読み出してメモリ12に展開し、当該各プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0028】
また、記憶部13には、建物関連情報データベース13C及び伝達関数関連情報データベース13Dが記憶される。建物関連情報データベース13C及び伝達関数関連情報データベース13Dについては、詳細を後述する。
【0029】
更に、図1に示すように、本実施形態に係る通信I/F部18には、マイクロホン(以下、「マイク」という。)20、コントローラ21、及びスピーカ22が接続されている。
【0030】
本実施形態に係るマイク20は、音響可聴化装置10のユーザ(本発明の「聴取者」に相当。)が発する声や、後述する音源から発せられる音を示す音源情報を収集するためのものである。本実施形態では、マイク20として、単一指向性で、かつ、コンデンサ型のものが適用されているが、これに限るものではない。例えば、双指向性や無指向性等で、かつ、ダイナミック型のものをマイク20として適用する形態としてもよい。
【0031】
また、本実施形態に係るコントローラ21は、ユーザによる操作に応じた各種情報を入力するためのものである。一例として図3に示すように、本実施形態では、コントローラ21として、ゲーム機用の汎用のコントローラを適用しているが、これに限るものではなく、音響可聴化装置10に専用のものをコントローラ21として適用する形態としてもよい。
【0032】
図3に示すように、本実施形態に係るコントローラ21は、各々ユーザの左手及び右手で把持される一対の把持部21A及び把持部21Bが備えられている。把持部21A及び把持部21Bは、中間部21Cによって結合され、かつ、把持される手の親指で操作可能なボタン21A1及びボタン21B1が各々設けられている。
【0033】
また、本実施形態に係るコントローラ21は、中間部21Cの図3における下端部で、かつ、把持部21A及び把持部21Bの各々の近傍に、対応する把持部を把持する手の親指で操作可能なスティック部21C1及びスティック部21C2が各々設けられている。本実施形態に係る音響可聴化装置10では、スティック部21C1によって、後述する受音点の移動の指示入力を受け付け、スティック部21C2によって受音点の向きの指示入力を受け付ける。
【0034】
更に、本実施形態に係るスピーカ22は、音響可聴化装置10によって生成された音を再生するためのものである。本実施形態では、スピーカ22として、ダイナミック型で、かつ、ステレオ型のものを適用しているが、これに限るものではない。例えば、コンデンサ型や圧電型等で、かつ、モノラル型のものをスピーカ22として適用する形態としてもよい。
【0035】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る音響可聴化装置10の機能的な構成について説明する。
【0036】
図2に示すように、本実施形態に係る音響可聴化装置10は、取得部11A、検出部11B、導出部11C、再生制御部11D、生成部11E、表示制御部11F、及び特定部11Gを含む。音響可聴化装置10のCPU11が設定プログラム13A及び音響可聴化プログラム13Bを実行することで、取得部11A、検出部11B、導出部11C、再生制御部11D、生成部11E、表示制御部11F、及び特定部11Gとして機能する。
【0037】
本実施形態に係る取得部11Aは、対象とする室(以下、「対象室」ともいう。)の形状を示す形状情報、及び当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報を取得する。
【0038】
本実施形態では、上記形状情報として、詳細を後述する3次元CAD(Computer Aided Design)情報による情報を適用しているが、これに限るものではない。例えば、BIM(Building Information Modeling)情報による情報を上記形状情報として適用する形態としてもよい。また、本実施形態では、上記音響関連情報として、対象室における壁面、天井面、床面等の面(以下、「構成面」という。)の吸音率、散乱係数、及び透過率を含む情報を適用しているが、これに限るものではない。例えば、吸音率、散乱係数、及び透過率のうちの何れか1つ、及び2つの組み合わせを含む情報を上記音響関連情報として適用する形態としてもよい。
【0039】
なお、上記吸音率は、対象とする材料が音をどれだけ吸収するかを示す指標であり、最大値であれば入射した音は全て吸収され、最小値(通常は、0(零))であれば入射した音は吸収されることなく反射することを意味する。また、上記散乱係数は、対象とする材料に入射した音が鏡面反射ではない方向に反射する割合を示す指標であり、散乱係数が高い場合、音をあらゆる方向にランダムに反射し、散乱係数が低い場合、音は鏡のように鏡面反射する。更に、上記透過率は、対象とする材料が音をどれだけ透過させるかを示す指標であり、最大値であれば入射した音は全て入射方向とは反対方向に透過され、最小値(通常は、0(零))であれば入射した音は透過することなく完全に遮断されることを意味する。
【0040】
また、本実施形態に係る検出部11Bは、対象とする音源(以下、「対象音源」ともいう。)から発せられる音(以下、「音源音」ともいう。)、及び対象室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点における音(以下、「受音点音」ともいう。)の少なくとも一方を示す音源情報を検出する。
【0041】
なお、本実施形態では、検出部11Bにより音源音及び受音点音の双方を示す音源情報を検出する場合について説明するが、これに限るものではない。例えば、受音点音を示す音源情報のみを検出部11Bにより検出する形態としてもよいし、音源音を示す音源情報のみを検出部11Bにより検出する形態としてもよい。また、本実施形態では、検出部11Bによる音源音を示す音源情報の検出を、対象音源から発せられた音をマイク20により検出して音源情報として予め記憶部13に記憶し、当該音源情報を記憶部13から読み出すことで間接的に行う場合について説明する。この場合、当該音源情報を記憶部13から読み出すことにより取得するため、換言すれば、当該音源情報を取得部11Aによって取得するものとも言える。但し、この形態に限るものではなく、例えば、音源音を示す音源情報の検出又は取得を、記憶部13を介することなく、マイク20を介して直接、検出又は取得する形態としてもよい。
【0042】
また、本実施形態に係る導出部11Cは、取得部11Aによって取得された形状情報、及び音響関連情報と、検出部11Bによって検出された音源情報と、を用いて、対象音源及び受音点の少なくとも一方から発せられた音の当該受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出する。
【0043】
なお、本実施形態では、導出部11Cにより音源音及び受音点音の双方に対応する音響可聴化情報を導出する場合について説明するが、これに限るものではない。例えば、受音点音のみに対応する音響可聴化情報を導出部11Cにより導出する形態としてもよいし、音源音のみに対応する音響可聴化情報を導出部11Cにより導出する形態としてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、導出部11Cが、音響可聴化情報を、伝達関数を用いて導出する。
【0045】
そして、本実施形態に係る再生制御部11Dは、導出部11Cによって導出された音響可聴化情報が示す音を再生部(本実施形態では、スピーカ22)により再生させる制御を行う。
【0046】
一方、本実施形態に係る生成部11Eは、上述した形状情報を用いて、聴取者の移動に応じて当該聴取者が見える対象室の映像を示す映像情報を生成する。そして、本実施形態に係る表示制御部11Fは、生成部11Eによって生成された映像情報が示す映像を表示部15により仮想的に表示させる制御を行う。
【0047】
また、本実施形態に係る特定部11Gは、受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定する。そして、本実施形態に係る導出部11Cは、音響可聴化情報を、更に、特定部11Gによって特定された受音点の位置を用いて導出する。
【0048】
なお、本実施形態では、導出部11Cによる音響可聴化情報の導出と、生成部11Eによる映像情報の生成とを単一のコンピュータ(本実施形態では、CPU11)により行っている。これにより、音響可聴化情報が示す音の再生と、映像情報が示す映像の表示との同期を、より容易にとることができる。但し、これに限るものではなく、例えば、導出部11Cによる処理と、生成部11Eによる処理とを、異なるコンピュータで行う形態としてもよい。この形態では、導出部11Cによる処理の負荷と、生成部11Eによる処理の負荷とを分散することができ、より高精度かつ高速に音の再生及び映像の表示を行うことができる。
【0049】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Cについて説明する。図4は、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Cの構成の一例を示す模式図である。なお、建物関連情報データベース13Cは、本実施形態に係る音響可聴化装置10が取り扱い対象としている建物に関する情報が記憶されたデータベースである。
【0050】
図4に示すように、本実施形態に係る建物関連情報データベース13Cは、音響可聴化装置10が取り扱い対象としている建物毎に、建物名称、3次元CAD情報、及び音源関連情報の各情報が関連付けられて記憶されている。
【0051】
上記建物名称は、対応する建物の名称を示す情報であり、上記3次元CAD情報は、対応する建物の形状を示す建物形状情報、及び当該建物における各部屋を特定するための特定情報を含むモデル(以下、「建物関連モデル」という。)を示す情報とされている。
【0052】
本実施形態では、建物関連モデルを、予め定められた3次元CADソフトウェアを用いて作成している。本実施形態では、上記3次元CADソフトウェアとして、ライノセラス(Rhinoceros)(登録商標)を適用しているが、これに限定されるものではない。例えば、レビット(Revit)(登録商標)等の他のソフトウェアを上記3次元CADソフトウェアとして適用する形態としてもよい。
【0053】
また、上記音源関連情報は、上述した対象音源に関する情報であり、部屋情報、音源情報、位置情報、及び指向性情報の各情報を含む。上記部屋情報は、対応する建物の対応する部屋(対象室)を特定するための情報であり、本実施形態では上述した特定情報を適用している。また、上記音源情報は、上述したように、対応する対象音源から発せられ、かつ、マイク20によって得られた音そのものを示す情報である。また、上記位置情報は、対応する対象音源の3次元の位置を示す情報であり、上記指向性情報は、対応する対象音源の指向性を示す情報である。
【0054】
例えば、対象室が学校の教室である場合、対象音源の具体例として教師の声が挙げられる。この場合、対象音源の位置としては、教師が立つと考えられる黒板の前面側や教壇の上等の位置が適用され、指向性としては人の声の指向性が適用され、音源情報としては、教師が授業を行う際に発する声を示す時系列の情報が適用される。
【0055】
次に、図5を参照して、本実施形態に係る伝達関数関連情報データベース13Dについて説明する。図5は、本実施形態に係る伝達関数関連情報データベース13Dの構成の一例を示す模式図である。なお、伝達関数関連情報データベース13Dは、本実施形態に係る音響可聴化装置10によって生成される、詳細を後述する伝達関数の演算に関する情報を記憶するデータベースである。
【0056】
図5に示すように、本実施形態に係る伝達関数関連情報データベース13Dは、音響可聴化装置10が取り扱い対象としている建物毎に、建物名称、及び伝達関数関連情報の各情報が関連付けられて記憶される。
【0057】
上記建物名称は、建物関連情報データベース13Cの建物名称と同一の情報であり、上記伝達関数関連情報は、対応する建物における各部屋に対応する、後述する伝達関数に関する情報であり、部屋情報及び伝達関数情報の各情報を含む。上記部屋情報は、建物関連情報データベース13Cの部屋情報と同一の情報であり、上記伝達関数情報は、後述する設定処理により、対応する部屋に対して設定された、対象音源の位置と、受音点の位置との間の伝達関数の演算に関する情報である。
【0058】
ここで、図6図8を参照して、本実施形態で適用する伝達関数の演算に関する設定について説明する。図6は、本実施形態に係る伝達関数の演算に関する設定対象の一例を示す斜視図である。また、図7は、本実施形態に係る波動性を考慮しない場合の伝達関数の演算に関する設定対象の一例を示す側面図である。更に、図8は、本実施形態に係る波動性を考慮する場合の伝達関数の演算に関する設定対象の一例を示す側面図である。
【0059】
一例として図6に示すように、本実施形態では、音の波動性を考慮しない音線法に基づく伝達関数の演算を行う。音線法では一つの対象音源から発生させる音線の数や最大反射回数等によって結果が変化するため、CPU11による演算負荷等を考慮しながら、適切な値を設定する。
【0060】
一例として図7に示すように、波動性を考慮しない場合、音の流れは直線状に進むので、対象音源と受音点との間に防音塀等がある場合は音が受音点に届かない。一方、一例として図8に示すように、波動性を考慮した場合は、対象音源からの音が防音塀等を回り込んで回折音として受音点に届く。本実施形態では、現状のコンピュータによる処理能力を考慮して、音線法として波動性を考慮しない音線法を演算手段として適用しているが、これに限るものではなく、波動性を考慮する演算手法を適用する形態としてもよいことは言うまでもない。
【0061】
次に、図9図15を参照して、本実施形態に係る音響可聴化装置10の作用を説明する。まず、図9図11を参照して、伝達関数の演算に関する情報を設定するための設定処理を実行する場合の音響可聴化装置10の作用を説明する。ユーザによって設定処理の実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、音響可聴化装置10のCPU11が設定プログラム13Aを実行することにより、図9に示す設定処理が実行される。図9は、本実施形態に係る設定処理の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、錯綜を回避するために、建物関連情報データベース13Cが構築済みである場合について説明する。
【0062】
図9のステップ100で、CPU11は、予め定められた構成とされた設定対象入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ102で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0063】
図10には、本実施形態に係る設定対象入力画面の一例が示されている。図10に示すように、本実施形態に係る設定対象入力画面では、伝達関数の演算に関する情報の設定対象とする室(以下、「設定対象室」という。)の入力を促すメッセージが表示される。また、本実施形態に係る設定対象入力画面では、設定対象室が設けられている建物、及び当該設定対象室の各情報を入力するための入力領域15Aが表示される。
【0064】
一例として図10に示す設定対象入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、対応する情報を、対応する入力領域15Aに入力した後に、終了ボタン15Dを指定する。これに応じて、ステップ102が肯定判定となって、ステップ104に移行する。
【0065】
ステップ104で、CPU11は、設定対象入力画面において入力された建物に対応する3次元CAD情報、及び設定対象入力画面において入力された設定対象室に対応する音源関連情報(以下、これらの情報を総称して「建物関連情報」という。)を建物関連情報データベース13Cから読み出す。
【0066】
ステップ106で、CPU11は、予め定められた構成とされた設定情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ108で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0067】
図11には、本実施形態に係る設定情報入力画面の一例が示されている。図11に示すように、本実施形態に係る設定情報入力画面では、設定対象室の音響特性に関する情報の入力を促すメッセージが表示される。また、本実施形態に係る設定情報入力画面では、設定対象室における構成面の吸音率、散乱係数、透過率等の音響関連情報の各々の値を入力するための入力領域15Bが表示される。
【0068】
図11に示すように、本実施形態では、入力領域15Bとして、対応する音響関連情報の各々毎に、左右方向に延びる所定長さの直線を表示する。そして、本実施形態では、当該直線の一端部(本実施形態では、左端部)を最低値とし、他端部を最大値として、入力部14を用いてマーカの位置を指定することで、対応する音響関連情報の値を入力するものとされているが、これに限るものではない。例えば、一例として図10に示した入力領域15Aと同様に、対応する値を直接入力する矩形状等の入力領域を、音響関連情報の値を入力する入力領域として適用する形態としてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、錯綜を回避するために、設定対象室における全ての構成面が同一の素材により製作されており、当該素材のみに対応する音響関連情報の値を入力するものとしているが、これに限るものではない。例えば、設定対象室における各構成面が、壁面、天井面、床面等の部位毎に異なる素材で製作されており、各素材の種類毎に対応する音響関連情報の値を入力する形態としてもよい。
【0070】
一例として図11に示す設定情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、マーカの位置を、対応する音響関連情報の値に対応する位置とするように指定した後に、終了ボタン15Dを指定する。これに応じて、ステップ108が肯定判定となって、ステップ110に移行する。
【0071】
ステップ110で、CPU11は、設定情報入力画面において入力された音響関連情報を用いて、設定対象室における、読み出した建物関連情報における位置情報が示す対象音源の位置と、受音点の位置(即ち聴取者の位置)との間の伝達関数の演算に関する設定を、上述した音線法を適用して行う。
【0072】
ステップ112で、CPU11は、以上の処理によって得られた設定対象室における伝達関数の演算に関する設定結果を示す情報を伝達関数情報として、対象建物を示す建物名称及び設定対象室を示す部屋情報と共に伝達関数関連情報データベース13Dに記憶(登録)する。そして、当該記憶が終了すると、CPU11は、本設定処理を終了する。
【0073】
次に、図12図15を参照して、音響可聴化処理を実行する場合の音響可聴化装置10の作用を説明する。ユーザによって音響可聴化処理の実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、音響可聴化装置10のCPU11が音響可聴化プログラム13Bを実行することにより、図12に示す音響可聴化処理が実行される。図12は、本実施形態に係る音響可聴化処理の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、錯綜を回避するために、音響可聴化処理の対象とする対象室に関する情報が伝達関数関連情報データベース13Dに登録済みである場合について説明する。
【0074】
図12のステップ200で、CPU11は、予め定められた構成とされた処理対象入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ202で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0075】
図13には、本実施形態に係る処理対象入力画面の一例が示されている。図13に示すように、本実施形態に係る処理対象入力画面では、音響可聴化処理の対象とする部屋(以下、「音響可聴化対象室」という。)の入力を促すメッセージが表示される。また、本実施形態に係る処理対象入力画面では、音響可聴化対象室が設けられている建物、及び当該音響可聴化対象室の各情報を入力するための入力領域15Cが表示される。
【0076】
一例として図13に示す処理対象入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、対応する情報を、対応する入力領域15Cに入力した後に、終了ボタン15Dを指定する。これに応じて、ステップ202が肯定判定となって、ステップ204に移行する。
【0077】
ステップ204で、CPU11は、処理対象入力画面において入力された建物に対応する建物関連情報を建物関連情報データベース13Cから読み出す。また、ステップ204で、CPU11は、処理対象入力画面において入力された音響可聴化対象室に対応する伝達関数情報を伝達関数関連情報データベース13Dから読み出す。
【0078】
ステップ206で、CPU11は、読み出した建物関連情報及び伝達関数情報を用いて、上述した音線法で対象音源から受音点に対して、どのように直接音と反射音とが到来するかを演算し、当該直接音と反射音群とをフーリエ変換することで伝達関数を演算する。
【0079】
ステップ208で、CPU11は、上記伝達関数の演算結果を用いて、音響可聴化対象室の受音点から予め定められた方向を見た場合に聴取される音の聞こえ方を示す音響可聴化情報の生成を開始する。また、ステップ208で、CPU11は、読み出した3次元CAD情報における音響可聴化対象室に関する情報を用いて、音響可聴化対象室の、受音点から上記予め定められた方向を見た場合の3次元映像を示す映像情報の生成を開始する。
【0080】
なお、本実施形態では、この際の初期における受音点の位置を、音響可聴化対象室の出入口の位置における予め定められた高さ(本実施形態では、1.6m)を適用しているが、これに限るものではない。例えば、上記予め定められた高さとして、ユーザの実際の身長に応じた高さを初期における受音点の高さとして適用する形態や、音響可聴化対象室の中央点(重心点)を初期における受音点の位置として適用する形態としてもよい。
【0081】
また、本実施形態では、この際の初期における上記予め定められた方向として、音響可聴化対象室の出入口から音響可聴化対象室の室内の中心部を正面に臨む方向としているが、これに限るものではない。例えば、ユーザ等により、音響可聴化装置10の用途等に応じて予め設定された方向を初期における上記予め定められた方向として適用する形態としてもよい。
【0082】
ステップ210で、CPU11は、生成した音響可聴化情報を用いたスピーカ22による音の再生を開始すると共に、生成した映像情報が示す映像画面の表示部15による表示を開始する。これ以降、CPU11は、当該音の再生と、当該映像画面の表示とを、同期をとりつつ行うようにする。
【0083】
図14には、実施形態に係る映像画面の一例が示されている。図14に示すように、本実施形態に係る映像画面では、音及び映像を再生している旨が表示されると共に、受音点から上記予め定められた方向を見た場合の音響可聴化対象室の3次元画像が表示される。また、本実施形態に係る映像画面では、コントローラ21による受音点の位置の移動方法及び向いている方向(以下、単に「向き」という。)の変更方法が表示される。従って、ユーザは、映像画面を参照することで、自身が受音点の位置にいる場合の視線で音響可聴化対象室を仮想的に見ることができると共に、自身が当該視線の方向を向いた状態において聴取される音をスピーカ22から仮想的に聴取することができる。
【0084】
映像画面が表示されると、ユーザは、受音点の位置及び向きの少なくとも一方を変更する場合は、コントローラ21を用いて、当該映像画面において表示されている方法により変更対象を変更する。この際、ユーザは、自身の声を音響可聴化の対象としたい場合には、マイク20に向けて自身の声を発する。そして、ユーザは、映像画面の表示及び音の再生を終了させる場合は、入力部14を用いて終了ボタン15Dを指定する。
【0085】
そこで、ステップ212で、CPU11は、ユーザによって受音点の位置及び向きの少なくとも一方を変更する操作が行われたか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ218に移行する一方、肯定判定となった場合はステップ214に移行する。
【0086】
ステップ214で、CPU11は、ユーザによるコントローラ21に対する操作に応じた受音点の位置及び向きを特定する。ステップ216で、CPU11は、特定した受音点の位置及び向きを用いて、対象音源と受音点との間の伝達関数の再演算を行い、スピーカ22により再生している音、及び表示部15により表示している映像を更新する音・映像更新処理を実行する。
【0087】
なお、本実施形態に係る音・映像更新処理では、マイク20を介してユーザによる声を示す音響情報が入力された場合は、当該音響情報が示す音が受音点から発せられているものとして、音響可聴化情報に反映するようにする。即ち、この場合、音・映像更新処理では、マイク20によって集音された音に対して、受音点と音源とを同位置として演算を行うことで得られた伝達関数を畳み込む。そして、CPU11は、当該音・映像更新処理を実行した後にステップ218に移行する。この音・映像更新処理により、ユーザによるコントローラ21に対する操作に応じた状態に、スピーカ22によって再生されている音、及び表示部15によって表示されている映像画面が、リアルタイムで更新される。
【0088】
ステップ218で、CPU11は、ユーザによって終了ボタン15Dが指定されたか否かを判定することで、本音響可聴化処理の終了タイミングが到来したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ212に戻る。また、肯定判定となった場合はステップ220に移行する。
【0089】
図15には、ステップ212~ステップ218の処理を繰り返し実行した場合における、映像画面の一例が示されている。なお、図15に示す例は、図14に示した映像画面に対し、受音点の向きが左方向に移動した場合の例が示されている。
【0090】
ステップ220で、CPU11は、ステップ210で開始した音の再生及び映像の表示を停止し、ステップ222で、CPU11は、ステップ208で開始した音響可聴化情報及び映像情報の生成を停止し、その後に本音響可聴化処理を終了する。
【0091】
以上説明したように、本実施形態によれば、対象とする室の形状を示す形状情報、当該室の内装の音響特性に関連する音響関連情報、及び対象とする音源から発せられる音を示す音源情報を取得する取得部11Aと、上記室における音響設計効果を確認する聴取者がいる地点である受音点の移動に伴う当該受音点の位置を特定する特定部11Gと、取得部11Aによって取得された形状情報、音響関連情報、及び音源情報と、特定部11Gによって特定された受音点の位置と、を用いて、音源から発せられた音の受音点における聞こえ方を示す音響可聴化情報を導出する導出部11Cと、導出部11Cによって導出された音響可聴化情報が示す音を再生部により再生させる制御を行う再生制御部11Dと、を備えている。従って、聴取者が仮想的に移動した場合における、当該聴取者に聴取される音を再現することができる。
【0092】
また、本実施形態によれば、音響可聴化情報を、伝達関数を用いて導出している。従って、伝達関数を用いない場合に比較して、より簡易に音源から発せられた音を再生することができる。
【0093】
また、本実施形態によれば、上記形状情報を用いて、聴取者の移動に応じて当該聴取者が見える上記室の映像を示す映像情報を生成し、生成した映像情報が示す映像を仮想的に表示している。従って、当該映像を表示しない場合に比較して、より臨場感をもって、音源から発せられた音を再生することができる。
【0094】
更に、本実施形態によれば、音響可聴化情報の導出と、映像情報の生成とを単一のコンピュータにより行っている。従って、音響可聴化情報の導出と、映像情報の生成とを異なるコンピュータにより行う場合に比較して、より容易に音響可聴化情報が示す音の再生と、映像情報が示す映像の表示との同期をとることができる。
【0095】
なお、上記実施形態では、1つの対象室に対して音源が1つのみ存在する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、各対象室に音源が複数存在する形態としてもよい。この場合、各音源と受音点との組み合わせ毎に伝達関数に関する演算を行う。
【0096】
また、上記実施形態では、音源は移動せず、受音点のみが移動する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、音源のみ、又は音源及び受音点の双方が移動する形態としてもよい。この場合、音源の移動速度と、音源が受音点に対して向かってくるのか、離れていくのか、ということから、ドップラー効果による、音源から発せられる音の周波数の補正を行った後に、当該音に伝達関数を畳み込む。この音源による音の周波数の補正を行うことで、当該音の再現精度を向上させることができる。また、この伝達関数の畳み込みを行うことで、再現音場における響きのついた音を再現することができる。
【0097】
なお、音源が移動する形態例としては、例えば、対象室が高速道路に隣接するビルの一室である場合における高速道路の交通騒音が挙げられる。この場合、音源の位置としては、高速道路における車の軌道上が適用され、指向性としては点音源(全指向性)又は車の走行時の指向性が適用され、音源情報としては、車の走行時の音を示す時系列の情報が適用される。
【0098】
また、上記実施形態では、受音点における頭部伝達関数については考慮しない場合について説明したが、これに限定されない。例えば、受音点の向きに応じた頭部伝達関数を更に畳み込む形態としてもよい。
【0099】
この場合、人が正面を向いている場合や、横を向いている場合等の各方向に対する頭部伝達関数のデータを予め用意しておき、受音点の向きによって畳み込む頭部伝達関数のデータを選択的に切り替える。この頭部伝達関数を適用することで、音源の方向を正確に再現することができる。
【0100】
また、上記実施形態では、受音点の位置及び向きを変更するためにコントローラ21を用いる場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、本実施形態に係る入力部14を用いて受音点の位置及び向きを変更する形態としてもよい。また、例えば、音響可聴化装置10に音声認識機能を設けておき、ユーザが音声により受音点の位置及び向きを指示する形態としてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、音響可聴化処理で得られた映像を、音響可聴化装置10に設けられた表示部15によって表示し、音響可聴化処理で得られた音を、音響可聴化装置10に接続されたスピーカ22によって再生する場合について説明したが、これに限らない。例えば、音響可聴化装置10によって得られた映像及び音を、ヘッドホンが設けられたヘッド・マウント・ディスプレイによって表示及び再生する形態としてもよい。なお、上記実施形態では言及しなかったが、音の再生をスピーカ22で行う場合、ハウリング・キャンセラを利用する等して、マイク20とスピーカ22との閉ループが原因のハウリングが生じないようにすることが好ましい。
【0102】
また、上記実施形態で適用した各種データベースの構成は一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0103】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、検出部11B、導出部11C、再生制御部11D、生成部11E、表示制御部11F、及び特定部11Gの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0104】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0105】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0106】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
10 音響可聴化装置
11 CPU
11A 取得部
11B 検出部
11C 導出部
11D 再生制御部
11E 生成部
11F 表示制御部
11G 特定部
12 メモリ
13 記憶部
13A 設定プログラム
13B 音響可聴化プログラム
13C 建物関連情報データベース
13D 伝達関数関連情報データベース
14 入力部
15 表示部
15A 入力領域
15B 入力領域
15C 入力領域
15D 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
20 マイク
21 コントローラ
22 スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15