(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182631
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】釣用履物
(51)【国際特許分類】
A41D 13/012 20060101AFI20221201BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20221201BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20221201BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20221201BHJP
A43B 1/00 20060101ALI20221201BHJP
A43B 5/00 20220101ALI20221201BHJP
【FI】
A41D13/012
D03D15/00 C
D03D1/00 Z
B32B5/02 A
A43B1/00
A43B5/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090295
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】松本 美緒
(72)【発明者】
【氏名】塚本 暁
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕之
【テーマコード(参考)】
3B011
4F050
4F100
4L048
【Fターム(参考)】
3B011AA05
3B011AB03
3B011AC08
4F050HA20
4F050HA28
4F050JA21
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AK46D
4F100AK51A
4F100AK51C
4F100AR00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100DG12B
4F100DG13D
4F100DJ00A
4F100GB74
4F100JD04
4F100JD04A
4F100JK02
4F100JK08
4F100JK10
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4L048AA20
4L048AA22
4L048AA34
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB12
4L048BA01
4L048BA02
4L048CA01
4L048CA04
4L048CA09
4L048CA15
4L048DA00
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】 良好なストレッチ性及び良好な耐摩耗性を兼ね備える釣用履物を提供することを課題としている。
【解決手段】 少なくとも一部が繊維構造体によって形成された釣用履物であって、前記繊維構造体は、透湿防水層と、該透湿防水層の一方の面側に配置された織物層とを備え、前記織物層では、ポリエステル繊維を含む撚糸で構成された経糸と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含む緯糸とが、それぞれ少なくとも2本引き揃えられて平織りされている釣用履物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が繊維構造体によって形成された釣用履物であって、
前記繊維構造体は、透湿防水層と、該透湿防水層の一方の面側に配置された織物層とを備え、
前記織物層は、ポリエステル繊維を含む撚糸で構成された経糸と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含む緯糸とが、それぞれ少なくとも2本引き揃えられて平織りされている、釣用履物。
【請求項2】
前記経糸の撚り数は、前記緯糸の撚り数よりも大きい、請求項1に記載の釣用履物。
【請求項3】
前記経糸の撚り数が700回/m以上である、請求項1又は2に記載の釣用履物。
【請求項4】
前記透湿防水層が、少なくとも多孔樹脂膜を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の釣用履物。
【請求項5】
前記透湿防水層が、無孔樹脂膜をさらに有し、
前記無孔樹脂膜と前記織物層との間に前記多孔樹脂膜が配置されている、請求項4に記載の釣用履物。
【請求項6】
前記透湿防水層は、該透湿防水層の他方の面側に配置され且つ前記多孔樹脂膜に重なる表面処理層をさらに有する、請求項4又は5に記載の釣用履物。
【請求項7】
前記透湿防水層の他方の面側に配置された編物層をさらに備える、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の釣用履物。
【請求項8】
前記繊維構造体の目付が350g/m2以下である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の釣用履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣用履物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ライダースーツ又は釣用履物(いわゆるフィッシングウェーダー)などを構成する防水性の繊維構造体(布帛)が知られている。この種の繊維構造体は、例えば、海水や雨水などを内部に浸透させにくい防水性を少なくとも有する。
【0003】
この種の繊維構造体(布帛)としては、例えば、表面と裏面とが互いに異なる糸密度の2層からなり、表面が裏面より高密度に構成された織編物であって、該表面を構成する糸条には、パラ系芳香族ポリアミド繊維が少なくとも50%混入されており、かつ該織編物の少なくとも裏面にエラストマーが含浸されている、繊維構造体が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の繊維構造体(布帛)は、上記のごとく織編物の少なくとも裏面にエラストマーが含浸されていることから、防水性を有することができる。さらに、表面を構成する糸条に、パラ系芳香族ポリアミド繊維が少なくとも50%混入されているため、耐摩耗性を有することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の繊維構造体は、着用者の動きに応じて伸縮できる良好なストレッチ性を有することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対して、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを兼ね備えた繊維構造体で構成された衣類が要望されている。特に、着用者が水中でも陸上でも使用できる、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを兼ね備えた釣用履物が要望されている。
【0008】
本発明は、上記の要望点等に鑑み、良好なストレッチ性及び良好な耐摩耗性を兼ね備える釣用履物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明に係る釣用履物は、少なくとも一部が繊維構造体によって形成された釣用履物であって、
前記繊維構造体は、透湿防水層と、該透湿防水層の一方の面側に配置された織物層とを備え、
前記織物層は、ポリエステル繊維を含む撚糸で構成された経糸と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含む緯糸とが、それぞれ少なくとも2本引き揃えられて平織りされていることを特徴とする。
【0010】
上記の釣用履物では、繊維構造体の織物層において、緯糸がポリトリメチレンテレフタレート繊維で構成された撚糸であるため、良好なストレッチ性を発揮できる。また、経糸がポリエステル繊維で構成された撚糸であるため、良好な耐摩耗性も発揮できる。
従って、上記の釣用履物は、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを兼ね備えることができる。
【0011】
上記の釣用履物では、前記経糸の撚り数は、前記緯糸の撚り数よりも大きいことが好ましく、前記経糸の撚り数が700回/m以上であることがより好ましい。斯かる構成により、釣用履物がより良好な耐摩耗性を有することができる。
【0012】
上記の釣用履物では、前記透湿防水層が、少なくとも多孔樹脂膜を有することが好ましい。斯かる構成により、釣用履物が良好な透湿性を有することができる。
また、上記の釣用履物では、前記透湿防水層が、無孔樹脂膜をさらに有し、前記無孔樹脂膜と前記織物層との間に前記多孔樹脂膜が配置されていることが好ましい。斯かる構成により、釣用履物が良好な透湿性及び防水性を有することができる。
【0013】
上記の釣用履物では、前記透湿防水層は、該透湿防水層の他方の面側に配置され且つ前記多孔樹脂膜に重なる表面処理層をさらに有することが好ましい。表面処理層の厚さを薄くすることによって、釣用履物の軽量化が可能であることから、着用感がより良好となり得る。
【0014】
上記の釣用履物は、前記透湿防水層の他方の面側に配置された編物層をさらに備えることが好ましい。用履物の着用者側に配置された編物層によって、着用感がより良好となり得る。
【0015】
上記の釣用履物では、前記繊維構造体の目付が350g/m2以下であることが好ましい。斯かる構成により、釣用履物がより軽量となり、着用者がより動きやすくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の釣用履物によれば、良好なストレッチ性及び良好な耐摩耗性の両方を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体を厚さ方向に切断した断面の一例を表す概略図。
【
図2】本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体における織物層の一部を拡大した電子顕微鏡写真。
【
図3】本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体の織物層の織組織を表した模式図。
【
図4】本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体の織物層において、織物の緯糸を構成する繊維の一例を表した模式断面図。
【
図5】本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体を厚さ方向に切断した断面の他の例を表す概略図。
【
図6】本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体を厚さ方向に切断した断面の別の例を表す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の釣用履物の一実施形態ついて、図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0019】
本実施形態の釣用履物は、少なくとも一部が繊維構造体1によって形成された釣用履物であって、前記繊維構造体1は、透湿防水層30と、該透湿防水層30の一方の面側に配置された織物層10とを備え、前記織物層10では、ポリエステル繊維を含む撚糸で構成された経糸11と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含む緯糸12とが、それぞれ少なくとも2本引き揃えられて平織りされている。
【0020】
本実施形態の釣用履物は、少なくともその一部が、以下に詳述する繊維構造体1で形成されている。換言すると、本実施形態の釣用履物の少なくとも一部は、以下に詳述する繊維構造体1によって構成されている。さらに換言すると、本実施形態の釣用履物は、以下に詳述する繊維構造体1を少なくとも一部に含む。
本実施形態の釣用履物は、以下に詳述する繊維構造体1でほぼ全部が形成されていてもよく、以下に詳述する繊維構造体1でごく一部が形成されていてもよい。
【0021】
本実施形態の釣用履物は、例えば、フィッシングウェーダーである。本実施形態の釣用履物は、例えば、釣りを楽しむために着用者に着用され、陸上及び水中のいずれでも使用できる。
【0022】
本実施形態の釣用履物を構成する繊維構造体1について、詳しく説明する。
【0023】
上記の繊維構造体1は、
図1に示すように、シート状である。上記の繊維構造体1では、透湿防水層30が、少なくとも多孔樹脂膜31を有することが好ましい。また、透湿防水層30が、無孔樹脂膜32をさらに有してもよく、無孔樹脂膜32と織物層10との間に多孔樹脂膜31が配置されてもよい。上記の繊維構造体1は、編物層20をさらに備え、編物層20と織物層10との間に透湿防水層30が配置されてもよい。
【0024】
本実施形態の一例において、上記の繊維構造体1では、
図1に示すように、透湿防水層30が多孔樹脂膜31と無孔樹脂膜32とを有し、多孔樹脂膜31が織物層側に配置され、無孔樹脂膜32が編物層側に配置されている。また、編物層20と透湿防水層30と織物層10とがこの順序で積層されている。
【0025】
織物層10は、織物を含む。本実施形態の一例において、織物層10は、織物のみで構成され、最も外側に配置されている。繊維構造体1が釣用履物の生地として使用されるときに、織物層10は、外気と接するように配置され得る。
【0026】
織物層10の厚さは、例えば、0.40mm以上0.60mm以下であってもよく、0.45mm以上0.53mm以下であってもよい。
【0027】
織物は、
図2及び
図3に示すように、経糸11と緯糸12とで構成されている。経糸11及び緯糸12は、いずれもポリエステル繊維でそれぞれ形成されている。織物は、ポリエステル繊維を含む撚糸で構成された経糸11と、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含む緯糸12とが、それぞれ少なくとも2本引き揃えられて平織りされたものであればよい。
【0028】
織物の織組織は、
図2及び
図3に示すように、例えばオックスフォード織である。換言すると、上記の織物の織組織(織り方)は、例えばオックスフォード織である。
オックスフォード織は、経糸11及び緯糸12がそれぞれ2本又は3本束ねられた(引き揃えられた)合糸を織った平織りの織組織である。
【0029】
織物を構成する糸は、通常、マルチフィラメント糸であり、具体的には、マルチフィラメント糸で構成された撚糸である。なお、該糸は、フルダル、セミダル、又は、ブライトなどのいずれかであってもよい。
【0030】
マルチフィラメント糸(撚糸)あたりのフィラメント数は、例えば10以上であってもよく、20以上であってもよい。また、斯かるフィラメント数は、100以下であってもよく、80以下であってもよい。
なお、糸(撚糸)を構成するフィラメントの繊度(単糸繊度)は、例えば1Dtex(デシテックス)以上であってもよく、2Dtex以上であってもよく、3Dtex以上であってもよい。また、斯かる単糸繊度は、例えば10Dtex以下であってもよい。
【0031】
織物を構成する撚糸として、甘撚糸、中撚糸、強撚糸などが採用される。
撚糸の撚り数は、甘撚糸で500回/m未満、中撚糸で500回/m以上1,000回/m未満、強撚糸で1,000回/m以上(例えば3,000回/m以下)である。
なお、撚糸の撚り方向は、右撚り(S撚り)又は左撚り(Z撚り)のいずれであってもよい。
【0032】
織物において、経糸11及び緯糸12の撚り数は、それぞれ独立して、例えば400回/m以上であってもよく、500回/m以上であってもよく、600回/m以上であってもよく、700回/m以上であってもよい。また、経糸11及び緯糸12の撚り数は、それぞれ独立して、例えば3,000回/m以下であってもよく、2,000回/m以下であってもよく、1,500回/m以下であってもよく、1,000回/m以下であってもよい。
【0033】
織物において、経糸11の撚り数は、緯糸12の撚り数よりも大きいことが好ましい。この場合、撚り数の差は、100[回/m]以上であってもよく、200[回/m]以上であってもよい。また、撚り数の差は、500[回/m]以下であってもよく、400[回/m]以下であってもよい。
【0034】
織物を構成する糸(撚糸)の総繊度は、50Dtex(デシテックス)以上200Dtex以下であってもよく、75Dtex以上150Dtex以下であってもよい。
なお、総繊度とは、フィラメント1本あたりの繊度ではなく、撚糸1本あたりの繊度である。
【0035】
織物の経糸密度(経糸本数)は、67本/cm(170本/インチ)以上83本/cm(210本/インチ)以下であってもよく、70本/cm(180本/インチ)以上79本/cm(200本/インチ)以下であってもよい。
【0036】
織物の緯糸密度(緯糸本数)は、27本/cm(70本/インチ)以上48本/cm(120本/インチ)以下であってもよく、31本/cm(80本/インチ)以上44本/cm(110本/インチ)以下であってもよい。
【0037】
本実施形態において織物は、合成繊維を含む。織物は、合成繊維としてポリエステル繊維を含み、さらに、ポリアミド繊維、ポリアクリルニトリル繊維、ポリビニルアルコール繊維などを含んでもよい。
なお、織物は、複数種の上記繊維が組み合わされたものであってもよい。
繊維には、無機粒子などの添加物が練り込まれていてもよい。
【0038】
織物に含まれるポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維などが挙げられる。
【0039】
織物層10において、織物の経糸11は、上記のポリエステル繊維(例えばPET繊維)で構成された撚糸であり、且つ、織物層10の緯糸12は、ポリトリメチレンテレフタレート繊維で構成された撚糸である。
【0040】
好ましくは、織物層10の織物は、
図3に示すように、PET繊維の撚糸を経糸11として2本束ねた合糸aと、PTT繊維の撚糸を緯糸12として2本束ねた合糸bとで織られたオックスフォード織である。
このように構成された繊維構造体1は、経糸11が撚糸であるため摩擦力による摩耗に強い。また、伸縮性が良好なPTT繊維を緯糸12が含むため、ストレッチ性が良好である。従って、上記の繊維構造体1は、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを兼ね備えている。
さらに、上記の繊維構造体1は、後に詳述するように、良好な引裂強さ、良好な耐水性、良好な透湿性、良好な撥水性、良好な耐スナッグ性といった性能を有し得る。
【0041】
織物層10の織物において、緯糸12を構成する繊維を長さ方向に垂直に切断した断面形状は、
図4に示すように、角が丸みを帯びた長方形において対向する長辺の中間部分が内方へ窪んだ窪み形状(例えば、ひょうたん型、くびれた長円形など)であることが好ましい。換言すると、緯糸12を構成する各繊維(フィラメント)は、断面が円形の2つの繊維が長さ方向に引き揃えられた状態で互いに押し合って面接触したような形状であることが好ましい。
より好ましくは、上記のごとく断面が窪み形状の繊維は、
図4に示すような断面で見たときに、窪みを堺にして長辺方向における一方側に配置されたPTT繊維単位xと、他方側に配置されたPET繊維単位yとで構成されている。
緯糸12を構成する繊維が、上記のごとく異なる材質の繊維単位の組み合わせによって構成されていることにより、捲縮(クリンプ)を発現させることができる。また、PTTの材質自体の特性によって伸縮性を発現させることができる。よって、緯糸12がより良好な伸縮性を有することができる。
断面が上記のごとき窪み形状であるこの種の繊維としては、例えば、製品名「ライクラ T400ファイバー」(東レ・オペロンテックス社製)といった市販品を採用できる。
【0042】
編物層20は、編物を含む。本実施形態の一例において、編物層20は、編物のみで構成され、最も外側に配置されている。編物層20は、織物層10との間で透湿防水層30を挟み込むように配置されている。編物層20は、繊維構造体1が衣服の生地として使用された場合に、着用者の皮膚と対向するように配置され得る。
【0043】
編物層20を構成する上記編物の編組織(編み方)は、特に限定されない。編組織は、平編、ゴム編、又はパール編などの緯編であってもよく、トリコット編、マトラス編、又はプレーンコード編などの経編であってもよい。
上記編物の編組織(編み方)としては、耐摩耗性と良好な肌触り性とを両立できるという点で、トリコット編、丸編などが好ましい。
【0044】
上記の編物を構成する糸としては、例えば、上述した織物を構成する糸と同様のものが採用される。また、上述した織物を構成する繊維としては、例えば、上述した織物を構成する繊維と同様のものが採用される。上記の編物を構成する糸の繊維としては、一般的な合成繊維が採用されてもよい。
【0045】
上記の編物としては、例えばポリアミド繊維製トリコット編物などが採用される。
【0046】
本実施形態において、透湿防水層30は、樹脂で成形された樹脂膜で構成されている。透湿防水層30は、1つの樹脂膜を有してもよく、異なる樹脂膜を複数有してもよい。透湿防水層30における複数の樹脂膜は、通常、重なり合って積層されている。
【0047】
透湿防水層30の厚さ(総厚さ)は、例えば、40μm以上100μm以下である。
【0048】
透湿防水層30に含まれる樹脂は、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などである。
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
透湿防水層30に含まれる樹脂は、架橋された樹脂であることが好ましい。これにより、繊維構造体1の洗濯耐久性をより向上できる。
【0049】
本実施形態の一例において、透湿防水層30は、上述したように織物層10と編物層20との間に配置されている。透湿防水層30は、織物層側の多孔樹脂膜31と、編物層側の無孔樹脂膜32とが積層された構成を有する。なお、透湿防水層30は、無孔樹脂膜32を有しなくてもよい。
【0050】
透湿防水層30における多孔樹脂膜31の厚さは、40μm以上80μm以下であることが好ましい。これにより、釣用履物の着用感をより良好にできる。
【0051】
多孔樹脂膜31は、例えば、湿式コーティング加工によって作製される。
多孔樹脂膜31を構成する樹脂は、ポリエステル系ポリウレタン樹脂であることが好ましい。これにより、良好な透湿性と良好な耐水性とを両立できるという利点がある。
【0052】
透湿防水層30における無孔樹脂膜32の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。これにより、釣用履物の着用感をより良好にできる。
【0053】
無孔樹脂膜32は、例えば、ラミネート加工によって作製された、ラミネート樹脂フィルムである。
無孔樹脂膜32を構成する樹脂は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂であることが好ましい。斯かる樹脂は加水分解を起こしにくいという利点を有する。また、無孔樹脂膜32がポリエーテル系ポリウレタン樹脂であることによって、上記の繊維構造体1が比較的高い耐水圧を有することができ、また、より良好な耐洗濯性耐久性を有することができる。
【0054】
上記の繊維構造体1の目付は、350g/m2以下であることが好ましい。斯かる目付は、340g/m2以下であってもよい。また、斯かる目付は、150g/m2以上であってもよく、200g/m2以上であってもよく、250g/m2以上であってもよく、270g/m2以上であってもよく、280g/m2以上であってもよい。
【0055】
上記の繊維構造体1は、JIS L1096:2010 B法(グラブ法)に従って測定されたよこ方向(コース方向)の伸び率が5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、8%以上であることがさらに好ましく、9%以上であることが特に好ましい。
このように、上記の伸び率が比較的高いことによって、上記の繊維構造体1がより良好なストレッチ性を発揮できる。
なお、上記の繊維構造体1において、上記のよこ方向(コース方向)の伸び率は、15%以下であってもよく、12%以下であってもよい。
【0056】
上記の繊維構造体1の上記伸び率を高めるためには、例えば、織物層10の織物において、PTT繊維を含む緯糸12の繊度を大きくする。
【0057】
上記の繊維構造体1は、より良好な耐摩耗性を有することが好ましく、JIS L0849:2013 摩擦試験機II形(学振形)法に準じた乾燥試験において15回以上の往復摩擦で破れがないことが好ましく、20回以上の往復摩擦で破れがないことがより好ましい。
上記の試験では、押圧荷重を4.9Nに設定し、研磨紙として研磨布 製品名「AA-40」(理研コランダム社製)を使用し、より過酷な摩擦条件で試験を実施する。
なお、上記の繊維構造体1は、30回以下の往復摩擦で破れがなくてもよい。
【0058】
上記の繊維構造体1は、上記のごとく、比較的高い伸び率と比較的高い耐摩耗性とを有するように構成されていることによって、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とをより十分に兼ね備えることができる。
【0059】
上記の繊維構造体1は、JIS L1096:2010 D法(ペンジュラム法)に従って測定された引裂強さが、たて20N以上且つよこ10N以上であることが好ましい。
このように、上記の繊維構造体1は、より高い引裂強さを有することが好ましい。より高い引裂強さを有することにより、釣用履物を形成するために使用された上記の繊維構造体1が、より破れにくくなるという利点がある。
上記の引裂強さについて、たて30N以上であることがより好ましく、また、よこ15N以上であることがより好ましい。
上記の引裂強さについて、たて15N以下であってもよく、よこ10N以下であってもよい。
【0060】
上記の繊維構造体1の引裂強さをより高めるためには、例えば、経糸11又は緯糸12の撚り数をより大きくする。
【0061】
また、上記の繊維構造体1は、JIS L1092:2009 耐水度試験(静水圧法)B法(高水圧法)に従って測定された耐水圧が、200kPa以上であることが好ましい。上記の耐水圧は、300kPa以上であることがより好ましい。
このように、上記の繊維構造体1は、より高い耐水度を有することが好ましい。より高い耐水度を有することにより、耐水性を要求されるフィッシングウェーダーを上記の繊維構造体1で形成したときに、フィッシングウェーダーの着用者がより快適に使用できるという利点がある。
なお、上記の耐水圧は、200kPa以下であってもよい。
【0062】
上記の繊維構造体1の耐水度をより高めるためには、例えば、透湿防水層30の厚さをより厚くする。
【0063】
また、上記の繊維構造体1は、JIS L1099:2012 A-1法(塩化カルシウム法)に従って測定された透湿度が5000[g/m2・h]以上であり、且つ、B-1法(酢酸カリウム法)に従って測定された透湿度が6000[g/m2・h]以上であることが好ましい。
このように、上記の繊維構造体1は、より高い透湿度を有することが好ましい。より高い透湿度を有することにより、透湿性を要求されるフィッシングウェーダーを上記の繊維構造体1で形成したときに、フィッシングウェーダーの着用者がより快適に使用できるという利点がある。
なお、A-1法による透湿度は、4000[g/m2・h]以下であってもよい。また、B-1法による透湿度は、5000[g/m2・h]以下であってもよい。
【0064】
上記の繊維構造体1の透湿度をより高めるためには、例えば、多孔樹脂膜31を形成するときに、多孔樹脂膜31の孔の数を多くするか、又は、孔の大きさを大きくする。
【0065】
上記の繊維構造体1は、JIS L1092:2009 撥水度試験に従って判定された等級が3級、4級、又は5級であることが好ましい。
また、上記の繊維構造体1は、JIS L1930:2014 C形基準洗濯機の洗濯方法No.C4M法による洗濯20回後において前記撥水度試験による等級が3級、4級、又は5級であることが好ましい。
このように、上記の繊維構造体1は、より高い撥水度を有することが好ましい。より高い撥水度を有することにより、例えば撥水性を要求されるフィッシングウェーダーを上記の繊維構造体1で形成したときに、フィッシングウェーダーの着用者がより快適に使用できるという利点がある。
【0066】
また、上記の繊維構造体1は、JIS L1058:2011 スナッグ試験D-3法に従って判定された等級が4級、4.5級、又は5級であることが好ましい。
このように、上記の繊維構造体1は、より高い耐スナッグ性(ひきつれ抑制性能)を有することが好ましい。より高い耐スナッグ性を有することにより、耐スナッグ性を要求されるフィッシングウェーダーを上記の繊維構造体1で形成したときに、斯かるフィッシングウェーダーの着用者がより快適に使用できるという利点がある。
上記の繊維構造体1のスナッグ性をより高めるためには、例えば、経糸11又は緯糸12の撚り数をより大きくする。
【0067】
上述した実施形態の一例では、
図1に示すように、釣用履物の繊維構造体1が織物層10と、編物層20と、織物層10及び編物層20の間に配置された透湿防水層30とを備えている。一方、
図5に示すように、釣用履物の繊維構造体1は、透湿防水層30が無孔樹脂膜32を有さず多孔樹脂膜31を有し、織物層10と、編物層20と、織物層10及び編物層20の間に配置された多孔樹脂膜31とを備えた3層構造であってもよい。また、
図6に示すように、釣用履物の繊維構造体1は、編物層20を備えず、透湿防水層30として多孔樹脂膜31と表面処理層33とを有し、織物層10と表面処理層33との間に多孔樹脂膜31が配置された構造(いわゆる2.5層構造)であってもよい。このような3層構造又は2.5層構造であることによって、釣用履物の繊維構造体1をより軽量化できる。
【0068】
上記の表面処理層33は、最も外側に配置されている。具体的には、上記の表面処理層33は、織物層10との間で透湿防水層30を挟みつつ織物層10の反対側で最も外側に配置されている。釣用履物が着用されたときに、上記の表面処理層33は、着用者の体表面と対向するように配置される。上記の表面処理層33の厚さは、織物層10及び多孔樹脂膜31のいずれよりも薄い。
【0069】
上記の表面処理層33は、例えば、多孔樹脂膜31の表面に一般的な加工処理を施すことによって作製される。上記の表面処理層33は、プリント加工処理によって作製された層であってもよい。表面処理層を作製する場合、プリント加工処理の方法は特に限定されないが、例えば、スクリーン捺染といったプリント加工を施すことによって、多孔樹脂膜の表面上に表面処理層を作製することができる。インクジェット印刷といったプリント加工を施すことによって多孔樹脂膜の表面上に表面処理層を作製してもよい。
【0070】
上述した実施形態の釣用履物は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の釣用履物などに限定されるものではない。
また、一般の釣用履物などにおいて用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【0071】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0072】
以下のようにして、各実施例及び各参考例の繊維構造体(釣用履物の一部)を作製した。
【0073】
<繊維構造体の構成部材>
表1に示す織組織の織物をそのまま織物層としてそれぞれ用いた。織物の詳細を以下に示す。
=織物層=
[織組織(織り方)](表1に示す通り、オックスフォード織又は平織り)
・オックスフォード織:
経糸2本を引き揃えた合糸と、緯糸2本を引き揃えた合糸とで構成された織物
・平織り:
経糸1本と、緯糸1本とで構成された織物
[経糸](表1に示す通り、下記の経糸A又は経糸B)
・経糸A:ポリエステル(PET)繊維の中撚糸
(総繊度/150Dtex、マルチフィラメント数/72、撚り数/800回/m)
・経糸B: ポリエステル(PET)繊維の甘撚糸
(総繊度/150Dtex、マルチフィラメント数/72、撚り数/400回/m)
[経糸密度(経糸本数)]
表1に示す通り
[緯糸](表1に示す通り、下記の緯糸A又は緯糸B)
・緯糸A:ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維の中撚糸
(総繊度/100Dtex、マルチフィラメント数/50、撚り数/500回/m)
・緯糸B:ポリエステル(PET)繊維の中撚糸
(総繊度/100Dtex、マルチフィラメント数/50、撚り数/500回/m)
[緯糸密度(緯糸本数)]
表1に示す通り
[厚さ]:0.5mm
=編物層=
ポリアミド繊維のトリコット編構造の編物
=透湿防水層の多孔樹脂膜=
ポリウレタン樹脂を湿式コーティング加工した樹脂膜(多孔膜)(厚さ:50μm)
=透湿防水層の無孔樹脂膜=
ポリウレタン樹脂をラミネート加工した樹脂膜(無孔膜)(厚さ:10μm)
【0074】
<繊維構造体の製造方法>
上記の編物(編物層)に、ポリウレタン樹脂をラミネート加工することによって、編物層の上に多孔樹脂膜を重ねた。必要に応じて、ラミネート加工によって予め作製しておいたポリウレタン樹脂の無孔樹脂膜をさらに重ねた。必要に応じてさらに、編物層としての上記編物を重ね、各繊維構造体を製造した。表面処理層を作製する場合、スクリーン捺染というプリント加工を施すことによって、多孔樹脂膜の表面上に表面処理層を作製した。
【0075】
<繊維構造体の物性>
=ストレッチ性=
[JIS L1096:2010 に従って測定された伸び率]
B法(グラブ法)に従って測定されたよこ方向(コース方向)の伸び率
(伸び率が大きいほどストレッチ性が良好)
=耐摩耗性=
[JIS L0849:2013 摩擦試験機II形(学振形)法に準じた乾燥試験]
・所定回数の往復摩擦にける破れの有無
なお、押圧荷重を4.9Nに設定し、研磨紙として研磨布 製品名「AA-40」(理研コランダム社製)を使用した。これにより、より過酷な摩擦条件で試験を実施した。
(破れが生じるまでの回数が多いほど耐摩耗性が良好)
=引裂強さ=
[JIS L1096:2010 D法(ペンジュラム法)に従って測定された引裂強さ]
・たて、及び、よこにおける各N値(値が大きいほど引裂強さが大きい)
=耐水性=
[JIS L1092:2009 耐水度試験(静水圧法)B法(高水圧法)に従って測定された耐水圧]
(耐水圧が大きいほど耐水性が高い)
=透湿性=
[JIS L1099:2012 A-1法(塩化カルシウム法)及びB-1法(酢酸カリウム法)従って測定された各透湿度]
(透湿度が大きいほど透湿性が高い)
=撥水性=
[JIS L1092:2009 撥水度試験に従って判定された等級]
・C形基準洗濯機の洗濯方法No.C4M法による洗濯20回の前後における各等級
1級、2級、3級、4級、又は、5級(5級が最も高い撥水性)
=耐スナッグ性/耐ひきつれ性=
[JIS L1058:2011 スナッグ試験D-3法に従って判定された等級]
1級、1.5級、2級、2.5級、3級、3.5級、4級、4.5級、又は5級(5級が最も高い耐スナッグ性)。
【0076】
上記のごとく製造した各繊維構造体の構成の詳細、及び、物性の詳細を表1に示す。
【0077】
【0078】
表1の結果から把握されるように、実施例の繊維構造体は、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを兼ね備えていた。さらに、引裂強さ、耐水性、透湿性、撥水性、耐スナッグ性の点でも良好であった。よって、この繊維構造体で形成された釣用履物も、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを兼ね備えることができる。
一方、参考例の繊維構造体は、良好なストレッチ性と良好な耐摩耗性とを必ずしも兼ね備えていなかった。