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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182661
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/26 20060101AFI20221201BHJP
   C09D 133/24 20060101ALI20221201BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20221201BHJP
   C08L 39/04 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08L33/26
C09D133/24
C09D133/02
C08L39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090348
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】高野 祥子
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BG13W
4J002BJ00X
4J002GB00
4J002GC00
4J002GG02
4J002GL00
4J002GN00
4J002GP00
4J002GQ00
4J038CG011
4J038CG031
4J038CG171
4J038GA02
4J038KA03
4J038NA06
4J038PA19
4J038PB07
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】優れた防曇性を有するとともに、長期にわたりその防曇性を持続できる塗膜を形成するために用いられる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物由来の第1の構造単位(a)と、アミド結合含有化合物由来の第2の構造単位(b)と、を含むカルボキシル基含有ポリマーと、架橋剤と、を含み、前記架橋剤が、オキサゾリン基を含有するポリマーである、熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物由来の第1の構造単位(a)と、アミド結合含有化合物由来の第2の構造単位(b)と、を含むカルボキシル基含有ポリマーと、
架橋剤と、を含み、
前記架橋剤が、オキサゾリン基を含有するポリマーである、
熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有ポリマーが、アルキルの炭素数が1または2である(メタ)アクリル酸アルキル由来の第3の構造単位(c)をさらに含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有ポリマーが、アルキルの炭素数が3~8である(メタ)アクリル酸アルキル由来の第4の構造単位(d)をさらに含む、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基に対する、前記架橋剤のオキサゾリン基の当量比が、0.08当量以上0.5当量以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記第1の構造単位(a)が、前記カルボキシル基含有ポリマー全体に対して、10モル%以上80モル%以下の量である、請求項1乃至4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記カルボキシル基含有ポリマーを含む第1溶液と、
前記架橋剤を含む第2溶液と、からなる2液型組成物である、
請求項1乃至5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂からなる基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に形成された塗膜と、を備え、
前記塗膜は、請求項1乃至6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化膜からなる、物品。
【請求項8】
車両用部材である、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記車両部材が、ヘッドライトカバー、メーターカバー、またはテールランプカバーである、請求項8に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物およびその用途に関する。より詳細には、本発明は、防曇コーティング材料として使用される熱硬化性樹脂組成物、および当該防曇コーティング材料が塗工された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の代替として軽量化や成形性の観点から樹脂成形体が広く用いられている。用途として、自動車部品、家電部品、ハウジング、容器、フィルム、シート等の広い分野で使用されている。特に透明プラスチックは、各種窓、光学用レンズ、ミラー、眼鏡、ゴーグル、遮音壁、信号機灯のレンズ、前照灯レンズ、カーブミラー、風防、銘板等に使用されている。しかし、プラスチック等の樹脂基材は、外気との温湿度差により、基材の一方の面が露点温度以下になった場合や、急激な温湿度変化が生じた場合に基材表面が結露し、表面に微細な水滴が付着し透過光を散乱することがある。そのような場合、樹脂成形体は、透明性が損なわれ、いわゆる曇りが発生する。
【0003】
上記の曇りの発生を防止する(防曇)方法として基材の表面に、親水性樹脂および界面活性剤などを混合した溶液を塗装し、塗膜(乾燥塗膜あるいは硬化塗膜)を形成させる方法が知られている。
【0004】
この方法は、塗膜中に含まれる界面活性剤が、付着した水滴の接触角を下げ、基材表面に付着した水分が水滴とはならず水膜となることにより、光の散乱を起こさないことで防曇効果を発現させる。また、当該方法は、界面活性剤による水滴の接触角低下が迅速に起こるため、防曇効果が速やかに発現できる。
【0005】
しかし、上記の塗膜の実使用を考慮した場合(例えば、長期間使用した場合、または塗膜表面を水拭きした場合など)、塗膜内部中の界面活性剤が容易に流出し、防曇性が低下してしまう。一方、界面活性剤を多量に添加することにより、防曇持続性を多少向上させることができるが、大幅に向上することはできず、また、塗膜が傷つき易くなり、塗膜の外観も低下してしまう問題がある。
【0006】
このような界面活性剤の流出を防ぐために、水に溶けにくい界面活性剤を使用する方法(特許文献1)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-86370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1における技術においても、界面活性剤の流出を完全には防ぐことができず、また長期にわたり界面活性剤の流出を抑制して防曇性を維持する点において改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであり、親水性基を有する特定の構造単位を含むポリマーから得られる塗膜が、優れた防曇性を有するとともに、長期にわたりその防曇性を持続できることを見出し完成されたものである。
【0010】
本発明によれば、
(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物由来の第1の構造単位(a)と、アミド結合含有化合物由来の第2の構造単位(b)と、を含むカルボキシル基含有ポリマーと、
架橋剤と、を含み、
前記架橋剤が、オキサゾリン基を含有するポリマーである、熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0011】
また本発明によれば、
熱可塑性樹脂からなる基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に形成された塗膜と、を備え、
前記塗膜は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化膜からなる、物品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた防曇性を有するとともに、長期にわたりその防曇性を持続できる塗膜を形成するために用いられる熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、「a以上b以下」を意味する。例えば、「5~90質量%」とは「5質量%以上90質量%以下」を意味する。
【0014】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものとの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
【0015】
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
特に、本明細書における「(メタ)アクリロイル基」とは、-C(=O)-CH=CHで表されるアクリロイル基と、-C(=O)-C(CH)=CHで表されるメタクリロイル基とを包含する概念を表す。
【0016】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物由来の第1の構造単位(a)と、アミド結合含有化合物由来の第2の構造単位(b)と、を含むカルボキシル基含有ポリマーと、オキサゾリン基を含有するポリマーである架橋剤とを含む。
【0017】
本実施形態の樹脂組成物は、カルボキシル基含有ポリマー(本明細書中、「カルボキシル基含有ポリマー(P1)」と称する)を含み、このカルボキシル基含有ポリマー(P1)は、(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物(本明細書中、「化合物(a1)」と称する)由来の第1の構造単位(a)と、アミド結合含有化合物(本明細書中、「化合物(b1)」と称する)由来の第2の構造単位(b)とを含む。カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、化合物(a1)由来のカルボキシル基と、化合物(b1)由来のアミド結合含有基とを有する。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)と架橋反応し得る、オキサゾリン基を含有する架橋剤(本明細書中、「架橋剤(C)」と称する)む。加熱により、カルボキシル基含有ポリマー(P1)と架橋剤(C)との架橋反応が進行して、架橋構造体が生成される。この架橋反応は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)が有するカルボキシル基と、架橋剤(C)が有するオキサゾリン基とが反応することによる。生成した架橋構造体は、水不溶性であり、カルボキシル基含有ポリマー(P1)に由来するアミド結合含有基を有する。このアミド結合含有基は親水性基であるため、架橋構造体は親水性を有する。
【0018】
架橋構造体は、基材表面に塗工された場合、基材表面上に塗膜を形成する。この架橋構造体が有するアミド結合含有基は、親水性基であるため、得られる塗膜は親水性を有し、よって、当該塗膜に水(水蒸気)が付着した場合、水は水滴とならずに、水膜を形成する。これにより、当該塗膜が塗工された基材は、防曇性を発現する。またこの架橋構造体は、立体網目構造を有し水不溶性であるため、得られた塗膜が水に晒された場合であっても、水に溶解したり、脱離したりしない。さらに架橋構造体は、その主鎖に共有結合された親水性基であるアミド結合含有基を有する。そのため、架橋構造体からなる塗膜が水に晒された場合であっても、架橋構造体からこの親水性基が脱離しない。よって、架橋構造体からなる塗膜は、優れた防曇維持性を備える。
【0019】
以下に本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0020】
(カルボキシル基含有ポリマー(P1))
本実施形態で用いられるカルボキシル基含有ポリマー(P1)は、(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物(化合物(a1))から誘導される第1の構造単位(a)と、アミド結合含有化合物(化合物(b1))から誘導される第2の構造単位(b)とを含む。
【0021】
一分子中に(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基とを有する化合物(a1)としては、例えば、(メタ)アクリルクリル酸、および式(a2)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
式(a2)において、
Rは、水素原子またはメチル基であり、
およびAは、独立して、炭素数2~20の置換基を有してもよい二価の炭化水素基である。
二価の炭化水素基としては、例えば、炭素数2~10の二価の炭化水素基、炭素数3~12の脂環式炭化水素基、炭素数6~14の二価の芳香族炭化水素基、又はこれらが2以上結合した基等が挙げられる。前記置換基としては、例えば、カルボキシル基又は酸無水物構造(-CO-O-CO-)を有していても良い炭化水素基;カルボキシル基又は酸無水物構造(-CO-O-CO-)を有していても良い炭化水素基の1又は2以上と、エステル構造(-CO-O-)の1又は2以上とが結合した基;カルボキシル基又は酸無水物構造(-CO-O-CO-)を有していても良い炭化水素基の1又は2以上と、カルボニル基(-CO-)の1又は2以上とが結合した基;又は、カルボキシル基又は酸無水物構造(-CO-O-CO-)を有していても良い炭化水素基の1又は2以上と、エステル構造(-CO-O-)の1又は2以上と、カルボニル基(-CO-)の1又は2以上とが結合した基等が挙げられる。
好ましい実施形態において、化合物(a1)は、(メタ)アクリル酸、またはコハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)(Rが水素原子であり、AおよびAがエチレン基である式(a2)の化合物)である。
【0024】
化合物(a1)が(メタ)アクリル酸である場合、この化合物から誘導される第1の構造単位(a)は、式(a3)で表される構造を有する。式(a3)において、Rは、水素原子、またはメチル基である。
【0025】
【化2】
【0026】
化合物(a1)が、式(a2)で表される化合物である場合、この化合物から誘導される第1の構造単位(a)は、式(a4)で表される構造を有する。式(a4)中のR、AおよびAは、式(a2)中のR、AおよびAと同義である。
【0027】
【化3】
【0028】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、カルボキシル基を有する式(a3)および式(a4)の少なくとも一方を構成単位(a)として含むことが好ましい。カルボキシル基含有ポリマー(P1)中の、式(a3)または式(a4)で表されるカルボキシル基を有する第1の構造単位(a)の割合は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)を構成する全構造単位に対して、例えば、10~80モル%であり、好ましくは、20~70モル%であり、より好ましくは、30~60モル%である。上記範囲の割合で第1の構造単位(a)を含むカルボキシル基含有ポリマー(P1)は、架橋剤(C)に対して良好な反応性を示し、結果として、水不溶性の架橋構造体が生成し得る。なお、第一の構造単位(a)が、式(a3)の構造単位および式(a4)の構造単位の両方を含む場合、第1の構造単位(a)の割合は、これらの構造単位の合計量の割合である。
【0029】
本実施形態のカルボキシル基含有ポリマー(P1)中に含まれる各構造単位の含有量(比率)は、ポリマー合成時の原料の仕込み量(モル量)、合成後に残存する原料の量、各種スペクトルのピーク面積(例えば、H-NMRのピーク面積)などから推定/算出することができる。
【0030】
アミド結合含有化合物(化合物(b1))としては、アミド結合含有基と(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく用いられる。(メタ)アクリロイル(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、又は、ジアセトンアクリルアミドが挙げられ、さらなる具体例としては、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-アクリロイルモルホリンが挙げられる。
【0031】
化合物(b1)から誘導される第2の構造単位(b)は、式(b2)で表されるアミド結合を含む構造を有する。
【0032】
【化4】
【0033】
式(b2)において、
Rは、水素原子またはメチル基であり、
およびBは、独立して、水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基である。ここで、炭素数1~10のアルキル基が有し得る置換基としては、カルボキシル基、カルボニル基(-CO-)、エステル構造(-CO-O-)が挙げられる。またはBおよびBは、これらが結合している窒素原子と一緒になって、3~10員複素環を形成してもよい。
【0034】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、アミド結合含有化合物(b1)から誘導されるアミド結合含有基を有する第2の構造単位(b)を必須の構成単位として含む。カルボキシル基含有ポリマー(P1)中の、式(b2)で表されるアミド結合含有基を有する第1の構造単位(b)の割合は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)を構成する全構造単位に対して、例えば、30~90モル%であり、好ましくは、35~80モル%であり、より好ましくは、40~70モル%である。上記範囲の割合で第2の構造単位(b)を含むカルボキシル基含有ポリマー(P1)と架橋剤(C)との架橋反応により得られる架橋構造体は、アミド結合含有基を有する。この架橋構造体は、アミド結合含有基が有する親水性に起因して、高い親水性を有し、よってこれを用いて形成された塗膜は、優れた防曇性を有する。
【0035】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、上記の第1の構造単位(a)および第2の構造単位に加え、アルキルの炭素数が1または2である(メタ)アクリル酸アルキル(本明細書中、「化合物(c1)」と称する)由来の第3の構造単位(c)をさらに含んでもよい。
【0036】
化合物(c1)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが挙げられる。
化合物(c1)から誘導される第3の構造単位(c)は、式(c2)で表される構造を有する。式(c2)において、Rは、メチル基、またはエチル基であり、Rは、水素原子、またはメチル基である。
【0037】
【化5】
【0038】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)が、式(c2)で表される第3の構造単位(c)を有する場合、その割合は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)を構成する全構造単位に対して、例えば、1~20モル%であり、より好ましくは、1~15モル%である。上記範囲の割合の第3の構造単位(c)を含むことにより、カルボキシル基含有ポリマー(P1)の分子量を増大することができ、よって架橋剤(C)との反応により得られる架橋構造体は、優れた耐水性を有し、水不溶性が高められる。結果として、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物より得られる防曇コーティング剤は、長期にわたりその防曇性を持続することができる。
【0039】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、上記の第1の構造単位(a)および第2の構造単位に加え、アルキルの炭素数が3~8である(メタ)アクリル酸アルキル(本明細書中、「化合物(d1)」と称する)由来の第4の構造単位(d)をさらに含んでもよい。
【0040】
化合物(d1)としては、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチルが挙げられる。
【0041】
化合物(d1)から誘導される第4の構造単位(d)は、式(d2)で表される構造を有する。式(d2)において、Rは、炭素数3~8のアルキル基であり、Rは、水素原子、またはメチル基である。
【0042】
【化6】
【0043】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)が、式(d2)で表される第4の構造単位(d)を有する場合、その割合は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)を構成する全構造単位に対して、例えば、1~40モル%であり、より好ましくは、5~30モル%である。上記範囲の割合の第4の構造単位(d)を含むことにより、カルボキシル基含有ポリマー(P1)の分子量を増大することができ、よって架橋剤(C)との反応により得られる架橋構造体は、優れた耐水性を有し、水不溶性が高められる。結果として、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物より得られる防曇コーティング剤は、長期にわたりその防曇性を持続することができる。また第4の構造単位(d)を含むカルボキシル基含有ポリマー(P1)から得られる架橋構造体は、基材に対する優れた密着性を有する。
【0044】
(カルボキシル基含有ポリマー(P1)の製造方法)
カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、例えば、上記化合物(a1)および化合物(b1)、ならびに必要に応じて化合物(c1)および/または化合物(d1)を原料モノマーとして使用し、これらを一括で反応させる方法により製造してもよいし、原料モノマーを順次反応させる方法で製造してもよい。この反応はラジカル重合反応(アクリル重合反応)であり、得られるカルボキシル基含有ポリマー(P1)は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよい。カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、分子鎖中に官能基が分散していることが好ましいため、ランダム共重合体または交互共重合体であることが好ましい。製造しやすさを考慮すると、カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0045】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)を製造するためのラジカル重合反応(アクリル重合反応)には重合開始剤を用いることもできる。使用できる重合開始剤としては、例えば、ハイドロパーオキサイド類のジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びジアルキルパーオキサイド類のジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、1,3-ビス-(t-ブチルパーオキシイソプロピル)-ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、及びジアシルパーオキサイド類のイソブチリルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、及びケトンパーオキサイド類のメチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、及びアルキルパーエステル類のt-ブチルパーオキシビバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、及びパーオキシジカーボネート類のジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、及びアゾ化合物類としてアゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2-アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノバレロニトリル、1,1-アゾビス(シクロヘキセン-1-カルボニトリル)、2,2-アゾビス{2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド}等が挙げられる。
【0046】
ラジカル重合反応(アクリル重合反応)は、通常、有機溶媒中で行われる。用いられる有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、酢酸n-ブチル、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等のエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル溶媒、1-ブタノール、2-プロパノール等のアルコール溶媒等が挙げられる。中でも、1-ブタノール、2-プロパノール等のアルコール溶媒を用いることが好ましい。必要に応じてメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルを用いることもできる。上記有機溶剤は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
上記工程により得られるカルボキシル基含有ポリマー(P1)の重量平均分子量は、例えば、6,000以上100,000以下であり、好ましくは、15,000以上70,000以下である。またカルボキシル基含有ポリマー(P1)の数平均分子量は、例えば、3,000以上60,000以下、好ましくは、7,000以上50,000以下である。カルボキシル基含有ポリマー(P1)の分子量が前記の範囲であれば、これを架橋剤(C)で処理して得られる架橋構造体もまた十分な水不溶性を備えるとともに、耐久性を備える。
【0048】
なお、本発明において、平均分子量の測定は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めた、ポリスチレン換算値を用いる。測定条件は、以下の通りである。
東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製TSK-GEL SuperAW2500
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:DMA(N,N-ジメチルアセトアミド)
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0049】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)のカルボン酸価は、例えば、100~500g/ eqであり、好ましくは、200~400g/eq以下である。上記範囲内のカルボン酸価を有するカルボキシル基含有ポリマー(P1)は、架橋剤(C)との反応性が良好であり、短時間で架橋構造体を形成し得る。
【0050】
カルボキシル基含有ポリマー(P1)のカルボン酸酸価は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)の合成に使用した原料モノマーである上記化合物(a1)、(b1)、(c1)および(d1)の仕込み量から算出することができる。なお、モノマー化合物(a1)、(b1)、(c1)および(d1)の重合反応の反応率は、99%以上である。
【0051】
(架橋剤(C))
本実施形態で用いられる架橋剤(C)は、オキサゾリン基を有するポリマーである。
ある。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述のカルボキシル基含有ポリマー(P1)と、オキサゾリン基を有するポリマーである架橋剤(C)とを含むことにより、カルボキシル基含有ポリマー(P1)が有するカルボキシル基と架橋剤(C)が有するオキサゾリン基とが、短時間で十分に反応して架橋構造体が形成される。
【0052】
オキサゾリン基を有する架橋剤(C)としては、オキサゾリン基を有するポリマーであれば任意の適切な架橋剤を使用することができる。このような架橋剤(C)においては、オキサゾリン基量(架橋剤1g当たりのオキサゾリン基の数)が、好ましくは1.0mmol/g~10mmol/gであり、より好ましくは2.0mmol/g~8mmol/gである。
【0053】
架橋剤(C)として使用されるオキサゾリン基を有するポリマー(本明細書中、「オキサゾリン基含有ポリマー」と称する)は、オキサゾリン基含有モノマー由来の構造単位を有する。このオキサゾリン基含有ポリマーは、好ましくは、オキサゾリン基含有モノマー由来の構造単位と、オキサゾリン基含有モノマー以外のモノマー由来の構造単位とを有する。
【0054】
オキサゾリン基含有モノマーとしては、エチレン性不飽和炭化水素基とオキサゾリン基とを有するものであれば任意の適切なモノマーを採用し得る。このようなオキサゾリン基含有モノマーとしては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-5,5-ジヒドロ-4H-1,3-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリンなどが挙げられ、好ましくは、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリンである。
【0055】
その他のモノマーは、オキサゾリン基を有しない単量体であれば任意の適切な単量体を採用し得る。このようなその他のモノマーとしては、例えば、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルラクタム系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸iso-ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のN置換または無置換の(メタ)アクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、ビニルナフタレン、フェニルマレイミド、ビニルアニリン等のビニルアリール単量体;エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、オクテン等のアルケン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールおよびこれらの塩またはこれらの4級化物等の不飽和アミン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;などが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルアリール単量体、シアン化ビニル系単量体であり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルである。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、好ましくは、脂肪族アルキル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸メチルである。
【0057】
ビニルアリールモノマーとしては、好ましくは、スチレン、α-メチルスチレンであり、より好ましくは、スチレンである。
【0058】
シアン化ビニル系モノマーとしては、好ましくは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルであり、より好ましくは、アクリロニトリルである。
【0059】
オキサゾリン基含有ポリマーにおいては、オキサゾリン基含有モノマー由来の構造単位の割合が、全構造単位100モル%に対して、好ましくは20モル%~95モル%であり、より好ましくは30モル%~90モル%であり、さらに好ましくは40モル%~85モル%である。
【0060】
オキサゾリン基含有ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10,000~150,000であり、より好ましくは30,000~130,000である。
【0061】
オキサゾリン基含有ポリマーは、モノマー成分から製造したものを用いてもよく、市販のポリマーを用いてもよい。
【0062】
[熱硬化性樹脂組成物の製造]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述のカルボキシル基含有ポリマー(P1)と架橋剤(C)とを、溶媒に溶解または分散させて、液状またはワニス状の樹脂組成物として提供される。樹脂組成物を作製するために用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、およびイソプロパノール、ならびにこれらの組み合せが挙げられる。中でも、架橋ポリマーPが溶解し得ることから、メタノール、エタノール/水混合物、メタノール/水混合物、2―プロパノール/水混合物、2-プロパノール/メタノール混合物が好ましく用いられる。
【0063】
本実施形態の樹脂組成物が溶媒を含む場合、カルボキシル基含有ポリマー(P1)は、組成物全体に対して、例えば、10質量%以上90質量%以下の量であり、好ましくは、20質量%以上80質量%以下の量である。上記の配合量でカルボキシル基含有ポリマー(P1)を配合することにより、塗布性や取扱い性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0064】
また、樹脂組成物中のカルボキシル基含有ポリマー(P1)および架橋剤(C)の配合量は、カルボキシル基含有ポリマー(P1)のカルボキシル基に対する、架橋剤(C)のオキサゾリン基の当量比が、0.08~0.5当量となる量であることが好ましく、0.08~0.3当量となる量であることがより好ましく、0.09~0.25当量となる量であることがより好ましい。このような配合量とすることにより、架橋構造体が短時間で形成される。
【0065】
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、80℃以上の温度で加熱されることにより、カルボキシル基含有ポリマー(P1)と架橋剤(C)との間の架橋反応が生じ、架橋構造体が形成される。
【0066】
本実施形態の樹脂組成物は、二液型として使用できる。二液型とする方法としては、特に限定されないが、カルボキシル基含有ポリマー(P1)、架橋剤(C)以外の成分(例えば、溶媒)を混合したものを二つにわけ、第一溶液にカルボキシル基含有ポリマー(P1)を、第二溶液に架橋剤(C)をそれぞれ添加する方法が挙げられる。この場合、使用時に二液を混合して架橋(熱硬化)させてもよく、両剤を別々に基材に塗布し接触させることで架橋(熱硬化)させてもよい。
【0067】
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤等のその他の成分を含んでもよい。本実施形態の樹脂組成物が界面活性剤を含む場合、その量は、例えば、樹脂組成物の固形分全体に対して、5質量%以下であり、好ましくは、3質量%以下であり、より好ましくは全く含まない。本実施形態の樹脂組成物は、界面活性剤を含まないため、塗膜が水に晒された場合の界面活性剤のブリードアウトの問題が生じない。よって、外観が優れた塗膜が得られる。
【0068】
本実施形態の樹脂組成物から得られる塗膜は、優れた防曇性を備える。本実施形態において、防曇性は、塗膜の水に対する接触角を指標として評価することができる。本実施形態の樹脂組成物から得られる塗膜は、高い親水性を有し、よって付着した水滴の接触角を下げ、水膜を形成するように作用する。塗膜上に形成された水膜は、光の散乱を起こさないため、結果として防曇効果が得られる。本実施形態の樹脂組成物から得られる塗膜の水に対する接触角は、60°以下であり、好ましくは、50℃以下であり、より好ましくは40°以下であり、さらに好ましくは30°以下であり、さらにより好ましくは20°以下である。なお、接触角の測定は、本実施形態の樹脂組成物を基材に塗布し、120℃で加熱処理して塗膜を得、当該塗膜について、協和界面化学株式会社製「CA-Z」等の市販の装置を用いて測定することができる。
【0069】
本実施形態の樹脂組成物から得られる塗膜は、水不溶性であり、水に晒された場合であってもその性能、形状、外観の変化がほとんどまたは全くない。本実施形態において、水不溶性であるとは、樹脂組成物を基材に塗布して120℃で恒量に達するまで乾燥させて、塗膜を得、得られた塗膜を飽和に達するまで25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることをいう。
【0070】
(用途)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を、当該分野で慣用的に用いられる塗装方法により基材に塗装し、架橋反応に十分な温度に加熱することによって、基材の表面に防曇性を有する塗膜を形成することができる。基材としては、特に限定されず、公知の樹脂基材(部材)が使用可能である。樹脂基材(部材)としては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。これらの基材は、目的に応じて、適宜、例えばハードコート処理、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理を施してもよい。
【0071】
基材に樹脂組成物を塗工する方法としては、例えば、バーコーター塗装、はけ塗り、流し塗り、浸漬塗り、スプレー塗り、スピンコート、フローコートなど、公知の方法が採用できる。
【0072】
本実施形態の樹脂組成物が塗工された基材は、例えば、家具、家庭用品、収納又は備蓄用品、壁又は屋根等の建材、玩具又は遊具、パチンコ面盤等の趣味用品、医療用品、福祉用品、OA機器、AV機器、電池電装用品、電気又は電子用品、照明機器、船舶部品、航空機の構造の車体部品、車両部品、光学部品に使用可能であり、特に好ましくは、車両用途や光学用途に用いることができる。
【0073】
車両用途では、内外装部品として好適であり、特に、ヘッドライトカバー、メーターカバー、またはテールランプカバー等のLED光源が想定される部材に利用することができる。
光学用途としては、例えば、太陽電池に用いられる透明基盤等が挙げられる。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDレンズ、LED用レンズ(キャップ)カバー、各種LEDやEL照明等のカバー等にも利用することができる。特に好ましくは、光ファイバー、LEDレンズ、LED用レンズ(キャップ)カバー、各種LEDやEL照明等のカバーに利用することができる。
【0074】
本実施形態の樹脂組成物を塗工して得られる塗膜の膜厚は、防曇性を向上させる観点から、1.0μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましい。また塗膜の膜厚は、塗膜の平滑性を高める観点から、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0075】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
[カルボキシル基含有ポリマーの調製]
(調製例1)
撹拌機および冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、1-ブタノール113重量部を入れ80℃まで加温し、窒素を通気して酸素を除去した。次いで、1-ブタノール10重量部、N,N-ジメチルアクリルアミド20重量部、アクリル酸14重量部、アクリル酸ブチル13重量部および、ジメチル2,2'‐アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.3重量部を混合して酸素を除去した液を滴下漏斗より2時間かけて連続滴下した。
滴下終了後、更に80℃で1時間撹拌して反応を進行させた。その後、100℃まで昇温し、1.5時間撹拌させ、加熱を止めて室温まで冷却した。これにより、カルボキシル基含有ポリマー(P1-1)を含む反応混合物を液状物として得た。この溶液の固形分は30.0%であった。
得られた溶液をヘプタン500重量部に滴下することで白色固体を沈殿させた。上澄み液を除去し、得られた白色沈殿に2-プロパノールを樹脂の固形分が20.0%になるよう投入して溶解させ、カルボキシル基含有ポリマー(P1―1)の2-プロパノール溶液を得た。
得られたカルボキシル基含有ポリマー(P1―1)は、N,N-ジメチルアクリルアミド由来の構造単位(40mol%)、アクリル酸由来の構造単位(40mol%)、アクリル酸ブチル由来の構造単位(20mol%)からなり、重量平均分子量は31,000であった。また、カルボキシル基含有ポリマー(P1―1)のカルボン酸価は、235.3g/eqであった。
【0078】
(調製例2)
N,N-ジメチルアクリルアミドの仕込み量を23重量部、アクリル酸の仕込み量を8.3重量部、アクリル酸ブチルの仕込み量を15重量部に変更した以外は、調製例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリマー(P1-2)の20%2-プロパノール溶液を得た。
得られたカルボキシル基含有ポリマー(P1―2)は、N,N-ジメチルアクリルアミド由来の構造単位(50mol%)、アクリル酸由来の構造単位(25mol%)、アクリル酸ブチル由来の構造単位(25mol%)からなり、重量平均分子量は、8,000であった。カルボキシル基含有ポリマー(P1―2)のカルボン酸価は、398.5g/eqであった。
【0079】
(調製例3)
N,N-ジメチルアクリルアミドの仕込み量を29重量部、アクリル酸の仕込み量を11重量部、アクリル酸ブチルの仕込み量を6.3重量部に変更した以外は、調製例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリマー(P1-3)の20%2-プロパノール溶液を得た。
得られたカルボキシル基含有ポリマー(P1―3)は、N,N-ジメチルアクリルアミド由来の構造単位(60mol%)、アクリル酸由来の構造単位(30mol%)、アクリル酸ブチル由来の構造単位(10mol%)からなり、重量平均分子量は、8,000であった。カルボキシル基含有ポリマー(P1―3)のカルボン酸価は、313.1g/eqであった。
【0080】
(調製例4)
N,N-ジメチルアクリルアミドの仕込み量を20重量部、アクリル酸の仕込み量を14重量部、アクリル酸ブチルの仕込み量を6.3重量部に変更し、メタクリル酸メチル4.9重量部を使用した以外は、調製例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリマー(P1-4)の20%2-プロパノール溶液を得た。
得られたカルボキシル基含有ポリマー(P1―4)は、N,N-ジメチルアクリルアミド由来の構造単位(40mol%)、アクリル酸由来の構造単位(40mol%)、アクリル酸ブチル由来の構造単位(10mol%)、メタクリル酸メチル由来の構造単位(10mol%)からなり、重量平均分子量は、19,000であった。カルボキシル基含有ポリマー(P1―4)のカルボン酸価は、228.3g/eqであった。
【0081】
(調製例5)
N,N-ジメチルアクリルアミドの仕込み量を0重量部、アクリル酸の仕込み量を11.1重量部、アクリル酸ブチルの仕込み量を19.9重量部に変更し、メタクリル酸メチル15.5重量部を使用した以外は、調製例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリマー(P1-5)の20%2-プロパノール溶液を得た。
得られたカルボキシル基含有ポリマー(P1―5)は、アクリル酸由来の構造単位(33.3mol%)、アクリル酸ブチル由来の構造単位(33.3mol%)、メタクリル酸メチル由来の構造単位(33.3mol%)からなり、重量平均分子量は、20,000であった。カルボキシル基含有ポリマー(P1―5)のカルボン酸価は、300.4g/eqであった。
【0082】
[熱硬化性樹脂組成物の作製]
(実施例1~実施例7)
表1に示す配合量で、カルボキシル基含有ポリマーと架橋剤とを混合し、樹脂組成物を作製した。なお表1中の配合量は、固形分量としての質量である。
表1中の成分は以下のとおりである。
(カルボキシル基含有ポリマー)
・ポリマー1:調製例1で合成したカルボキシル基含有ポリマー(P1-1)(固形分20%の2-プロパノール溶液、重量平均分子量:31,000、COOH価:235.3g/eq)
・ポリマー2:調製例2で合成したカルボキシル基含有ポリマー(P1-2)(固形分20%の2-プロパノール溶液、重量平均分子量:8,000、COOH価:398.5g/eq)
・ポリマー3:調製例3で合成したカルボキシル基含有ポリマー(P1-3)(固形分20%の2-プロパノール溶液、重量平均分子量:8,000、COOH価:313.1g/eq)
・ポリマー4:調製例4で合成したカルボキシル基含有ポリマー(P1-4)(固形分20%の2-プロパノール溶液、重量平均分子量:19,000、COOH価:228.3g/eq)
・ポリマー5:調製例5で合成したカルボキシル基含有ポリマー(P1-5)(固形分20%の2-プロパノール溶液、重量平均分子量:20,000、COOH価:300.4g/eq)
【0083】
(架橋剤)
・架橋剤1:オキサゾリン基含有ポリマー(日本触媒株式会社製、エポクロスWS-700、オキサゾリン価:220g/eq、重量平均分子量:40,000、固形分25%の水溶液)
・架橋剤2:オキサゾリン基含有ポリマー(日本触媒株式会社製、エポクロスWS-500、オキサゾリン価:220g/eq、重量平均分子量:70,000、固形分39%の水溶液)
・架橋剤3:オキサゾリン基含有ポリマー(日本触媒株式会社製、エポクロスWS-300、オキサゾリン価:130g/eq、重量平均分子量:120,000、固形分10%の水溶液)
【0084】
[塗膜の性能評価]
(実施例1~実施例7、比較例1)
各実施例で得られた樹脂組成物を、ポリカーボネート板に、2000rpmでスピンコート塗布した。その後、120℃で10分間加熱処理することにより、樹脂組成物を熱硬化して、厚みが1~5μmの塗膜を得た。
上述で得た塗膜が塗工されたポリカーボネート板を試験片として用いて、以下の項目について評価した。
【0085】
(防曇性の評価-80℃蒸気試験)
80℃温水浴に試験片の塗膜面があたるよう設置し、10秒間蒸気をあてた。蒸気をあてた直後に水膜が形成されるかを目視で確認した。結果を以下の評価基準で表1に示す。
◎:きれいな水膜を張る
〇:水膜は張るが波打ちが観察される
×:水滴が形成されるかまたは曇る
【0086】
(防曇維持性の評価-繰り返し80℃蒸気試験)
80℃温水浴に試験片の塗膜面があたるよう設置し、10秒間蒸気をあてた後、試験片を傾けて乾燥させた。これを20回繰り返した後、蒸気をあてた直後に水膜が形成されるかを目視で確認した。結果を、以下の評価基準で表1に示す。
◎:きれいな水膜を張る
〇:水膜は張るが波打ちが観察される
×:水滴が形成されるかまたは曇る
【0087】
(耐水性の評価-水垂れ跡の有無)
80℃温水浴に試験片の塗膜面があたるよう設置し、10秒間蒸気をあて、試験片を傾けて乾かした。その後、塗膜表面に白い汚れがないかを目視で観察した。結果を、以下の評価基準で表1に示す。
◎:水垂跡がまったく確認できない
〇:1cm未満のサイズの水垂跡が確認される
×:1cm以上のサイズの水垂跡が白くはっきり確認される
【0088】
【表1】
【0089】
実施例の樹脂組成物から得られる塗膜は、優れた耐水性を有するとともに、防曇性および防曇維持性において優れていた。