(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182665
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】アルミニウム再生塊の製造方法、アルミニウム製再生缶の製造方法及びアルミニウム製カップ
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20221201BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20221201BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20221201BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20221201BHJP
B21D 22/28 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C22B7/00 F
B22D21/04 A
B22D11/00 E
B21D51/26 X
B21D22/28 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090352
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】南馬 孝之
(72)【発明者】
【氏名】土橋 希望
【テーマコード(参考)】
4E137
4K001
【Fターム(参考)】
4E137AA17
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA01
4E137GA02
4E137GB17
4K001AA02
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001DA05
(57)【要約】
【課題】アルミニウム製使用済み缶から缶を再生する際に、前述した成分調整用の新塊の投入量を最小限にする、或はゼロにし、アルミニウム製缶への再成率を100%に近づける、或は100%にする。
【解決手段】アルミニウム製筒状缶の開口部に蓋が取り付けられた状態の使用済み蓋付き筒状缶、及びアルミニウム製ボトル状缶のねじ部にキャップが取り付けられた状態の使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊を溶解する際に、有底円筒状の一体成形品であるアルミニウム製カップの使用済みカップからなる回収塊を添加して溶解する溶解工程と、溶解されたアルミニウムの溶湯から再生塊を鋳造する鋳造工程とにより、JIS3000系のアルミニウム再生塊を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の一体成形品であるJIS3000系のアルミニウム製カップの使用済みカップからなる回収塊を溶解する溶解工程と、溶解されたアルミニウムの溶湯から再生塊を鋳造する鋳造工程とにより、JIS3000系のアルミニウム再生塊を製造することを特徴とするアルミニウム再生塊の製造方法。
【請求項2】
前記溶解工程では、前記使用済みカップからなる回収塊に加えて、JIS3000系のアルミニウムの製缶屑または圧延屑を溶解することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム再生塊の製造方法。
【請求項3】
前記溶解工程では、有底円筒状の一体成形品のアルミニウム製筒状缶の開口部に蓋が取り付けられた状態の使用済み蓋付き筒状缶、及び有底円筒状の一体成形品で胴部に比べて縮径された口部にねじ部を有するアルミニウム製ボトル状缶の前記ねじ部にキャップが取り付けられた状態の使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊も溶解することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム再生塊の製造方法。
【請求項4】
前記使用済みカップからなる回収塊は、前記使用済み蓋付き筒状缶及び前記使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊とは別に作製されており、前記溶解工程において、前記使用済み蓋付き筒状缶及び前記使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊を溶解する際に前記使用済みカップからなる回収塊を添加することを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム再生塊の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム再生塊の製造方法によって製造された前記再生塊を圧延して得たアルミニウム合金板から、絞りしごき成形により有底円筒体を成形する円筒体成形工程と、該有底筒状体の底部より開口部の直径を大きく成形する拡径工程と、該拡径工程後の開口端部を丸めてカール部を形成するカール成形工程を経て、アルミニウム製再生カップを製造することを特徴とするアルミニウム製再生缶の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム再生塊の製造方法によって製造された前記再生塊を圧延して得たアルミニウム合金板から、絞りしごき成形により有底円筒体を成形する円筒体成形工程と、前記有底筒状体の開口端部を加工してフランジを形成する開口部成形工程とを経て、前記フランジに蓋を巻き締め可能なアルミニウム製筒状缶用再生筒状胴体を製造することを特徴とするアルミニウム製再生缶の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム再生塊の製造方法によって製造された前記再生塊を圧延して得たアルミニウム合金板から、絞りしごき成形により有底円筒体を成形する円筒体成形工程と、前記有底筒状体の開口端部を縮径加工して胴部の上に小径部を有するボトル状筒体を成形する縮径加工工程と、前記小径部の周囲にねじ部を形成するとともに、前記小径部の端部を丸めてカール部を形成する口部成形工程とを経て、前記ねじ部にキャップを取り付け可能なアルミニウム製ボトル状缶用再生ボトル状胴体を製造することを特徴とするアルミニウム製再生缶の製造方法。
【請求項8】
JIS3000系の組成を有する再生アルミニウム合金から構成され、底部より開口部が大きい有底円筒状であって、底部から開口部に向けて漸次直径が大きくなるテーパ筒部を有し、前記開口部に、その端部を丸めてなるカール部が周方向に沿って形成されていることを特徴とするアルミニウム製カップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用後に回収されたアルミニウム製缶を再生利用するためのアルミニウム再生塊の製造方法、その再生塊を用いたアルミニウム製再生缶の製造方法及びアルミニウム製カップに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の炭酸飲料水やアルコール飲料等の容器として、軽量で加工性や耐腐食性に優れるアルミニウム製缶(以下、アルミニウム缶という)が大量に使用されている。このアルミニウム缶には、円筒状の胴体とその開口部を閉鎖する蓋とからなる筒状缶と、ボトル形状をした胴体とその口部に結合されるキャップとからなるボトル状缶とが普及している。
【0003】
そして使用済みアルミニウム缶(Used aluminum beverage cans;略してUBCという)は回収され溶解して、アルミニウム缶の材料となるアルミニウム再生塊として再生される。このようなアルミニウム再生塊を製造するために要する電気エネルギーは、ボーキサイトから電解精錬によって新たに再生塊(スラブ)を製造する場合に要する電気エネルギーの約3%であるといわれている。このため、近年における省エネルギーによる地球環境保護や資源の有効活用の要請の高まりから、使用済みアルミニウム缶を回収し、これを再びアルミニウム缶とするために再生利用することが行なわれている。
【0004】
従来、特許文献1に示されるように、アルミニウム缶の回収再生方法は、主として使用済みアルミニウム缶からなるプレスされた塊状の回収物を薫蒸処理する薫蒸工程と、上記回収物を解砕する解砕工程と、得られた上記回収物から非アルミニウム材を分離する選別工程と、選別されたアルミニウム缶を焙焼処理するとともに焙焼された上記アルミニウム缶を200℃~550℃の温度範囲に保持したままで振動篩に供給して付着物を除去する焙焼工程と、この焙焼工程を経た上記アルミニウム缶を溶解する溶解工程と、この溶解工程において得られたアルミニウムの溶湯からスラブまたは再生塊を得る鋳造工程とを、一貫して連続的に行なう技術が知られている。
【0005】
ちなみに、回収されたアルミニウム製筒状缶及びアルミニウム製ボトル状缶は、缶重量の80%以上が、通常、Al-Mn系合金であるA3004材またはA3104材(いずれもJIS規格の呼称)によって成形されたボディ材(筒状缶及びボトル状缶の胴体の材料)によって占められているものの、当該アルミニウム缶を構成する筒状缶の蓋材またはボトル状缶のキャップ材としてはAl-Mg系合金であるA5052A、5082材またはA5182材等が使用されており、また筒状缶の蓋に取り付けられているタブとしては、A5182材等が用いられている。
【0006】
これらの各種材料が混合した使用済みアルミニウム缶(筒状缶及びボトル状缶)を溶解して得た溶湯をそのままスラブとして使用すると、Mg(マグネシウム)が多すぎるため、ボディ材として適切な3000系合金の再生塊とすることができない。そこで使用済みアルミニウム缶を再生して、新規のアルミニウム缶におけるボディ材の再生塊を製造するためには、保持炉の中に新塊を投入して、Mg量を1.3%以下となるように合金成分を調整する必要がある。
これら成分調整用の新塊の投入を極力減らして、UBCから再生されるアルミ缶の重量割合を100%に近づけたいという課題がある。
【0007】
一方、近年プラスチックの海洋汚染等の環境破壊があり、脱プラスチックが社会問題となっている。そこでプラスチック製のカップに代わり、特許文献2に開示のようなアルミニウム製カップが海外で登場してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4465798号公報
【特許文献2】特表2020-508874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、使用済みアルミニウム缶からアルミニウム缶を再生する際に、前述した成分調整用の新塊(純アルミニウム、例えば、純度99.0~99.9質量%のアルミニウム地金)の投入量を最小限にする、或はゼロにした再生塊を製造し、その再生塊から製造された100%又はそれに近いリサイクルアルミニウム材料でアルミニウム缶を製造することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のアルミニウム再生塊の製造方法は、JIS3000系のアルミニウム材からなる有底円筒状の一体成形品であるアルミニウム製カップの使用済みカップからなる回収塊を溶解する溶解工程と、溶解されたアルミニウムの溶湯から再生塊を鋳造する鋳造工程とにより、JIS3000系のアルミニウム再生塊を製造する。
【0011】
このアルミニウム製カップは、蓋を有する筒状缶やキャップを有するボトル状缶とは異なり、蓋やキャップなどのような異なる材質の部材を含まず、3000系のアルミニウム合金からなるので、その使用済みカップを回収して溶解することにより、新塊を用いることなく3000系のアルミニウム再生塊を製造することができる。
【0012】
このアルミニウム再生塊の製造方法において、前記溶解工程では、前記使用済みカップからなる回収塊に加えて、JIS3000系のアルミニウムの製缶屑または圧延屑を溶解することができる。
【0013】
アルミニウム製ボトル状缶のボトル状胴体も3000系アルミニウム合金により形成されているので、キャップを有しないボトル状胴体や筒状缶の缶胴の製缶屑や圧延屑を加えて溶解することにより、アルミニウム製カップの使用済みカップからなる回収塊のみの場合と同様に、3000系のアルミニウム再生塊を効率的に製造することができる。
【0014】
また、このアルミニウム再生塊の製造方法において、前記溶解工程では、有底円筒状の一体成形品のアルミニウム製筒状缶の開口部に蓋が取り付けられた状態の使用済み蓋付き筒状缶、及び有底円筒状の一体成形品で胴部に比べて縮径された口部にねじ部を有するアルミニウム製ボトル状缶の前記ねじ部にキャップが取り付けられた状態の使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊も溶解することができる。
【0015】
使用済み蓋付き筒状缶及び使用済みキャップ付きボトル状缶は、蓋やキャップがJIS5000系の材質であるため、前述したように、3000系アルミニウムの再生塊を得るには、新塊を投入する必要があったが、アルミニウム製カップの使用済みカップとの配合を適切に制御することにより、新塊を用いることなく、あるいは新塊の使用を最小限として、3000系のアルミニウム再生塊を製造することができる。
【0016】
このアルミニウム再生塊の製造方法において、前記使用済みカップからなる回収塊は、前記使用済み蓋付き筒状缶及び前記使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊とは別に作製するこことにより、前記溶解工程において、前記使用済み蓋付き筒状缶及び前記使用済みキャップ付きボトル状缶からなる回収塊を溶解する際に前記使用済みカップからなる回収塊を添加するとよい。
【0017】
この方法とすることにより、使用済みカップを単独で取り扱うことができるので、使用済みカップからなる回収塊による成分調整を容易にすることができる。
【0018】
以上のようにして得られるアルミニウム再生塊は、アルミニウム製カップ、アルミニウム製ボトル缶の筒状胴体、アルミニウム製筒状缶の筒状胴体のうちの少なくともいずれかを製造するための再生塊とすることができ、これらの缶を以下のようにして製造することができる。
【0019】
すなわち、前記アルミニウム再生塊の製造方法によって製造された前記再生塊を圧延して得たアルミニウム合金板から、絞りしごき成形により有底円筒体を成形する円筒体成形工程と、該有底筒状体の底部より開口部の直径を大きく成形する拡径工程と、該拡径工程後の開口端部を丸めてカール部を形成するカール成形工程を経て、アルミニウム製再生カップを製造する。
【0020】
また、前記アルミニウム再生塊の製造方法によって製造された前記再生塊を圧延して得たアルミニウム合金板から、絞りしごき成形により有底円筒体を成形する円筒体成形工程と、前記有底筒状体の開口端部を加工してフランジを形成する開口部成形工程とを経て、前記フランジに蓋を巻き締め可能なアルミニウム製筒状缶用再生筒状胴体を製造する。
【0021】
さらに、アルミニウム再生塊の製造方法によって製造された前記再生塊を圧延して得たアルミニウム合金板から、絞りしごき成形により有底円筒体を成形する円筒体成形工程と、前記有底筒状体の開口端部を縮径加工して胴部の上に小径部を有するボトル状筒体を成形する縮径加工工程と、前記小径部の周囲にねじ部を形成するとともに、前記小径部の端部を丸めてカール部を形成する口部成形工程とを経て、前記ねじ部にキャップを取り付け可能なアルミニウム製ボトル状缶用再生ボトル状胴体を製造する。
【0022】
本発明のアルミニウム製カップは、JIS3000系の組成を有する再生アルミニウム合金から構成され、底部より開口部が大きい有底円筒状であって、底部から開口部に向けて漸次直径が大きくなるテーパ筒部を有し、前記開口部に、その端部を丸めてなるカール部が周方向に沿って形成されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルミニウム製カップの使用済み品を活用することで、新塊の投入量を最小限又はゼロにして再生することができる。また、JIS3000系のアルミニウム製カップの回収塊と3000系アルミニウム屑だけをを溶解する場合は、アルミニウム製カップを100%再生塊からリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】アルミニウム再生塊の製造方法の一実施形態を示す概略工程図である。
【
図2】アルミニウム製缶の製造方法の一実施形態を示す示す概略工程図である。
【
図3】本発明の製造方法により製造されるアルミニウム製缶の製造途中に形成される有底円筒体の一実施形態を示す中心軸を中心に半分を縦断面とした正面図であり、ボトル状缶の製造時に形成されるボトル状筒体を二点鎖線で示した。
【
図4】本発明の製造方法により製造されるアルミニウム製筒状缶の一実施形態を示す中心軸を中心に半分を縦断面とした正面図であり、(a)が全体図、(b)が蓋を巻き締める前の状態の開口部付近を示す。
【
図5】本発明の製造方法により製造されるアルミニウム製ボトル状缶の一実施形態を示す中心軸を中心に半分を縦断面とした正面図であり、(a)が全体図、(b)はキャップを固定する前の状態の口部付近を示す。
【
図6】本発明の製造方法により製造されるアルミニウム製カップの一実施形態を示す中心軸を中心に半分を縦断面とした正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るアルミニウム再生塊(単に再生塊という場合がある)の製造方法、及びその再生塊を用いたアルミニウム製再生缶(単に再生缶という場合がある)の製造方法の実施形態を図面を参照して説明する。
まず、対象となるアルミニウム製缶について説明する。アルミニウム製缶は、
図4に示すアルミニウム製筒状缶10、
図5に示すアルミニウム製ボトル状缶20、
図6に示すアルミニウム製カップ40、の三種類が存在する。
【0026】
アルミニウム製筒状缶(以下、単に筒状缶という場合がある)10は、
図4に示すように、有底円筒状の胴体(筒状胴体)11と、その筒状胴体11の開口部に巻き締められた蓋12とを有している。筒状胴体11は、有底円筒状の一体成形品であり、底部13と胴部14とが一体成形されている。底部13は、中心軸C上に凹状に湾曲したドーム部15を有しており、その外周縁に連続し、テーブル等に置いたときに接地部となるリム部16が形成され、リム部16の外周端が胴部14の最下端に連続している。
胴部14はほぼストレートの円筒状に形成され、その上端の開口端部に蓋12が巻き締められている。蓋12は、蓋本体17の中心部に、開口のためのタブ18が取り付けられている。この蓋12は、筒状胴体11の開口部に形成されたフランジ19に巻き締められることにより、筒状胴体11に固定される。
【0027】
この筒状缶10の筒状胴体11は、アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条についてのJIS(JIS H4000:2006)に規定されている合金番号で3004又は3104のAl-Mn系アルミニウム合金により形成され、蓋12は、蓋本体17が5052、5082又は5182のAl-Mg系アルミニウム合金、タブ18が5182のAl-Mg系アルミニウム合金により形成されている。
【0028】
アルミニウム製ボトル状缶(以下、単にボトル状缶という場合がある)20は、ボトル形状の胴体(ボトル状胴体)21と、そのボトル状胴体21の上部で縮径した口部22に取り付けられるキャップ23とを有している。ボトル状胴体21は、有底円筒状の一体成形品であり、その底部13は、前述したアルミニウム製筒状缶10における筒状胴体11の底部13とほぼ同じ形状であるので、同一符号を付して説明を省略する。
このボトル状胴体21は、底部13を有する有底筒状の胴部25と、胴部25の上端から上方に向けて漸次縮径するテーパ状の肩部26と、この肩部26の上端から上方に延びる小径(例えば38mm口径)の口部22とを有するボトル状に形成されている。口部22の外周部には、ねじ部27が形成され、そのねじ部27の上の開口端部に、そのエッジを含む端部を外側に折り返すように丸めてなるカール部28が形成されている。
なお、キャップ23は、キャップ本体29とシール材30とから構成され、ボトル状胴体21の口部22に被せられた後に、口部22のねじ部27等に沿って成形されることにより、口部22に取り付けられる。
【0029】
このボトル状缶20のボトル状胴体21は、前述のJISの合金番号で3004又は3104のアルミニウム合金により形成され、キャップ23は、5052、5082、5182等のアルミニウム合金により形成されている。
【0030】
アルミニウム製カップ40は、全体としては有底円筒状であるが、その直径は、底部13より開口部42の方が大きく形成され、開口部42にその端部を丸めたカール部43が周方向に沿って形成されている。底部13は、前述したアルミニウム製筒状缶10及びアルミニウム製ボトル状缶20の各胴体11,21の底部とほぼ同じ形状であり、同一符号を付しておく。
【0031】
また、図示例では、底部13付近と開口部42付近との側面に中心軸Cに沿うストレート状の円筒部44,45が形成されており、底部41から連続する下部円筒部44の上端と、カール部43に連続する上部円筒部45の下端との間が、下方から上方に向けて漸次直径が大きくなるテーパ筒部46に形成されている。
【0032】
カール部43は、上部円筒部44の上端からエッジを有する端部を半径方向外方に折り返すように丸めて形成されている。前述のアルミニウム製ボトル状缶20のカール部28より若干大きい形状に形成される。
このアルミニウム製カップ40は、JIS合金番号で3004又は3104の材料が用いられる。
【0033】
図2は、これら三種類のアルミニウム製缶10,20,40を製造するフローチャートである。
図2では、いずれの缶においても円筒体成形工程までは同じであるので、共通して表示している。
アルミニウム製筒状缶10を製造するには、アルミニウム合金板を絞り成形して比較的浅いカップを形成し、そのカップにさらに絞りしごき加工を施して
図3に示す有底円筒体50を成形する(円筒体成形工程)。この有底円筒体50は、底部13とストレートの円筒状の胴部51とが一体成形されており、その底部13は、前述したアルミニウム製缶の製品とほぼ同じ形状に形成されているので、
図4~6と同一符号を付している。
次いで、この有底円筒体50の外面に印刷、塗装を施した後に、開口部にフランジ19を形成する(開口部成形工程)。内面への塗装等が施された後、筒状胴体11が製造される。蓋12は筒状胴体11とは別に製造され、筒状胴体11に飲料が充填された後に、フランジ19に蓋12が巻き締められる。
【0034】
アルミニウム製ボトル状缶20を製造するには、アルミニウム製筒状缶10の場合と同じ円筒体成形工程により有底円筒体50を形成した後、印刷、塗装等を施すとともに、有底円筒体50の開口端部を縮径加工して、胴部25の上に肩部26、その肩部26の上に小径部52を有するボトル状筒体53(いずれも
図3に二点鎖線で示した)を成形し(縮径加工工程)、その小径部52の周囲にねじ部27を形成するとともに、小径部52の端部を丸めてカール部28を形成することにより口部22を形成して(口部成形工程)、ボトル状胴体21が製造される。キャップ23はボトル状胴体21とは別に製造され、ボトル状胴体21に飲料が充填された後に、口部22にキャップ23が被せられて固定される。
【0035】
アルミニウム製カップ40を製造するには、アルミニウム製筒状缶10の場合と同じ円筒体成形工程により有底円筒体50を形成した後、必要に応じて印刷、塗装等を施すとともに、有底円筒体50の底部13より開口部の直径を大きく成形する拡径工程、拡径工程後の開口端部を丸めてカール部43を形成するカール部成形工程を経て製造される。
【0036】
次に、これらのアルミニウム製缶10,20,40をリサイクルして再生缶を製造する方法、及びそのなかで製造されるアルミニウム再生塊の製造方法について説明する。
【0037】
まず、アルミニウム再生塊の製造方法について説明する。
このアルミニウム再生塊の製造方法は、
図1のフローチャートに示したように、使用済みアルミニウム製缶からなる塊状の回収物を水蒸気により薫蒸処理する薫蒸工程と、その回収物を解砕する解砕工程と、解砕された回収物から非アルミニウム材を分離してアルミニウム材を取得する選別工程と、選別されたアルミニウム材を焙焼処理するとともに焙焼されたアルミニウム材を200℃~550℃の温度範囲に保持したままで振動篩に供給して付着物を除去する焙焼工程と、この焙焼工程を経たアルミニウム材を溶解する溶解工程と、この溶解工程において得られたアルミニウムの溶湯からスラブまたは再生塊を得る鋳造工程と、を有している。このリサイクル方法の実施に必要な回収再生設備として、燻蒸装置、解砕機等の機器類は、特定の敷地内に順次連続して設置される。
【0038】
回収設備には、大部分が回収業者によって一定の大きさのブロックにプレス成形された使用済みアルミニウム製缶からなる塊状の回収物が、トラック等の搬送手段によって搬入される。一部プレス成形されない回収されたままの使用済みアルミニウム製缶や、アルミニウム製缶の製造過程の切断加工やプレス加工において生じた余剰材等の廃材が搬入されてくる。
【0039】
(燻蒸工程)
搬入後に、先ず少なくとも塊状の回収物を水蒸気により薫蒸処理し、これにより、回収物に含まれる異臭の原因となる微生物を死滅させるとともに、内部に含まれるおそれのある虫やその卵を死滅させる。
【0040】
(解砕工程及び選別工程)
次いで、燻蒸処理がなされた塊状の回収物を、順次解砕した後に、ベルトコンベアー等によって搬送しながら選別する。選別手段としては、磁気によって鉄類を吸着除去する磁選機、回収物に空気を噴射することにより、アルミニウム材より軽量のプラスチック類や屑類、アルミニウム材より重量が大きい銅、ステンレス等の非着磁性の金属やコンクリート片等の夾雑物を分離除去する風力選別機が用いられる。
【0041】
(焙焼工程)
このようにして、解砕され、分離された回収物には、塗料や樹脂層などの有機物が付着しているので、一定量ごとにロータリーキルン(図示略)に投入して、アルミニウムの融点よりも低い温度で焙焼処理することにより表面に付着していた上記有機物を直接気化させて燃焼させ、残部を炭化物や酸化物とした後に、さらに焙焼された回収物を200℃~550℃の温度範囲に保持したままで、振動篩(図示略)に供給し、上記炭化物および酸化物並びに選別工程において除去されなかった砂等の付着物を分離する。
【0042】
(溶解工程)
次いで、焙焼した回収物を溶解炉(図示略)に投入して溶解する。なお、アルミニウム製缶の製造過程の切断加工やプレス加工において生じた余剰材等の廃材については、溶解炉に投入して溶解してもよい。
溶解して得たアルミニウム合金の溶湯を保持炉(図示略)に送り、必要に応じて、合金の成分を調整する。
保持炉を経た溶湯中に含まれる水素等のガス分を除去するとともに、溶湯を濾過して非金属介在物等を除去した後に、鋳造機に送ってスラブ(再生塊)に鋳造する。
【0043】
得られたスラブは圧延工場へと搬出され、圧延されてアルミニウム合金板に圧延される。このようにして圧延された再生アルミニウム合金板は、溶解工程において、使用済みアルミニウム製筒状缶10、アルミニウム製ボトル缶20、アルミニウム製カップ40の混合比率を適切に制御することにより、溶解工程で新塊(純アルミニウム、例えば、純度99.0~99.9質量%のアルミニウム地金)の投入をしないで、JISの3000系合金に相当する成分とすることができる。
【0044】
したがって、このスラブを圧延して、アルミニウム製缶(アルミニウム製筒状缶10の筒状胴体11、アルミニウム製ボトル状缶20のボトル状胴体21、アルミニウム製カップ40)の材料として用いることができる。この再生されたアルミニウム合金(再生アルミニウム合金)のスラブから得たアルミニウム合金板を用いてアルミニウム製缶(再生アルミニウム製缶)を製造するには、前述した
図2に示す方法によってそれぞれアルミニウム製筒状缶10の筒状胴体(再生筒状胴体)11、アルミニウム製ボトル状缶20のボトル状胴体(再生ボトル状胴体)21、アルミニウム製カップ(再生アルミニウム製カップ)40を製造することができる。
【0045】
なお、本発明では、使用済み缶を使用済み筒状缶、使用済みボトル状缶、使用済みカップとする。また、使用済み筒状缶を使用済み蓋付き筒状缶、使用済みボトル状缶のうち、キャップを有しないものを使用済みボトル状胴体、キャップが取り付けられた状態のものを使用済みキャップ付きボトル状缶という場合がある。さらに、再生塊で製造されたアルミニウム製缶については、再生缶、再生筒状胴体、再生ボトル状胴体、再生カップと称している。
【0046】
因みに、3000系アルミニウム合金のうち、3004、3104の各合金組成は表1の通りである。表中に記載の各数値の単位は質量%であり、範囲で特定されていないものは上限を示す。また、「その他」の欄で「個々」は個々の成分、「合計」は「その他」に含まれる成分の合計をいう。
【0047】
【0048】
上記のリサイクル過程において、アルミニウム製カップ40は、各種イベント会場、野球やサッカー等の競技場等、限定された空間でのみ使用される。このため、その回収物は、アルミニウム製カップ40のみによって構成され、また、アルミニウム製カップ40は、他のアルミニウム製筒状缶10やアルミニウム製ボトル缶20とは異なり、蓋12やキャップ23のような、胴体11,21とは異なる材質のアルミニウムを含んでいない。したがって、3000系のアルミニウム合金からなる回収物となる。
【0049】
このため、このアルミニウム製カップ40の回収物を、成分調整のために添加される新塊の代替として用いることが可能である。ただ、塗料等が付着しているので、溶解工程ではなく、焙焼工程でロータリーキルンに投入して、塗料等を消失させる必要がある。このとき、わずかに成分変動も生じ得る。したがって、このアルミニウム製カップ40の添加量を多くするか、新塊を溶解工程で若干量添加するとよい。
【0050】
以下は、アルミニウム製缶をリサイクルして得られるアルミニウム合金のMg含有量をシミュレーションした結果である。表2がアルミニウム製カップを含まない、アルミニウム製筒状缶とアルミニウム製ボトル状缶との二種類の使用済み品でリサイクルした場合、表3がアルミニウム製筒状缶、アルミニウム製ボトル状缶、及びアルミニウム製カップの三種類の使用済み品を用いてリサイクルした場合の例である。
【0051】
いずれの表も、再生品における「配合(重量部)」「Mg含有量」の欄は、各重量部で配合した場合の合計量であり、最下欄に、これらの合計量から算出されるMg含有率(質量%)を記載した。ただし、Mgの含有量は、10%程度は溶解時にドロスとして浮いてきて排出されるので、90%として計算した。
【0052】
【0053】
【0054】
JISの3004、3104のアルミニウム合金でMgの含有率は表1に示すように0.8~1.3質量%であり、表2のアルミニウム製カップを用いない場合の再生品では、Mg含有率が1.31質量%とJIS規格より多くなっているが、表3のアルミニウム製カップを加えたものは、1.28質量%とJISの規格内のアルミニウム合金が得られた。これらの表から、アルミニウム製カップを用いない従来のリサイクル方法では、溶解時に純アルミニウムからなる新塊を相当量加えなければ、3000系のアルミニウム合金として再生することはできず、アルミニウム製カップの使用済み品(使用済みカップ)を用いることにより、新塊を加えなくても、3000系のアルミニウム合金として再生できることがわかる。
【0055】
次いで、表3に示す再生品(再生塊)でアルミニウム製カップ(再生カップ)を製造し、その再生カップを再度リサイクルする、具体的には表3に示す配合のうちのアルミニウム製カップの全量が再生カップである場合についてシミュレーションした。その結果を表4に示す。
表5は、表4に示す再生品(再生塊)でアルミニウム製カップ(再生カップ)を製造して再度リサイクルした場合であり、表3に示す配合のうちのアルミニウム製カップの全量が表4に示す再生塊で得られた再生カップである場合についてシミュレーションした結果である。
【0056】
【0057】
【0058】
これら表の結果から、純アルミニウム新塊を用いなくても、3000系のアルミニウム再生塊を製造することができ、アルミニウム製カップを用いたリサイクルにより、繰り返し再生缶を再生できることがわかる。
【0059】
上記とは異なるロットであるが、Mg以外の成分も含めて測定した結果を表6に、及びその再生アルミニウム合金を圧延して形成した板材についての機械的特性を測定した例を表7に示す。
なお、耳率は、ポンチ径33mm、絞り比1.75の絞り加工により有底円筒体を形成したときの開口端に生じる凹凸の差を円筒体の高さ(最低高さ)で除して得た比率である。
AB耐力は再生アルミニウム合金板に焼き付け塗装した後の耐力である。
【0060】
【0061】
【0062】
表1に示す3000系の新塊による合金組成に対して、Crが0.02質量%、Tiが0.03質量%含まれること以外は同等と認められる。また、その機械的特性も製缶に適したものであることがわかる。
【符号の説明】
【0063】
10 アルミニウム製筒状缶
11 筒状胴体
12 蓋
13 底部
14 胴部
15 ドーム部
16 リム部
17 蓋本体
18 タブ
19 フランジ
20 アルミニウム製ボトル状缶
21 ボトル状胴体
22 口部
23 キャップ
25 胴部
26 肩部
27 ねじ部
28 カール部
29 キャップ本体
30 シール材
40 アルミニウム製カップ
42 開口部
43 カール部
44,45 円筒部
46 テーパ筒部
50 有底円筒体
51 胴部
52 小径部
53 ボトル状筒体