(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182687
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ペプチド化合物
(51)【国際特許分類】
C07K 2/00 20060101AFI20221201BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20221201BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20221201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221201BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20221201BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C07K2/00 ZNA
C07K4/00
C12M3/00 Z
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P35/04
A61K38/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090384
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】野水 基義
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大和
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 圭佑
【テーマコード(参考)】
4B029
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA03
4C084BA44
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC42
4H045AA10
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA33
4H045EA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インテグリンαvβ5結合能を有する最適化されたペプチドリガンドを含むペプチド化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表されるペプチド化合物。式(I)中、X
1は、Gly、AlaおよびProからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基数が2~15である、ペプチド;X
2は、RGDVF、RGDAF、RGDSF、RGDTF、RGDDF、RGDVP、およびRGDNYのいずれか一つで表されるアミノ酸配列であり、X
3は、独立して、任意のアミノ酸残基から選択され、mは、0または1であり、nは、0~5の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表されるペプチド化合物:
【化1】
式(I)中、
X
1は、Gly、AlaおよびProからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基数が2~15である、ペプチド;(GGGGS)
o、(EAAAK)
oまたは(AP)
qで表されるペプチドであり、oは、1~3の整数であり、qは、1~7の整数である;およびポリエチレングリコール;ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであり、
X
2は、RGDVF(配列番号1)、RGDAF(配列番号2)、RGDSF(配列番号3)、RGDTF(配列番号4)、RGDDF(配列番号5)、RGDVP(配列番号6)、およびRGDNY(配列番号7)のいずれか一つで表されるアミノ酸配列であり、
X
3は、独立して、任意のアミノ酸残基から選択され、
mは、0または1であり、
nは、0~5の整数である。
【請求項2】
前記ペプチド化合物のN末端および/またはC末端にCys残基が付加されている、請求項1に記載のペプチド化合物。
【請求項3】
前記ペプチド化合物は、環状構造を有する、請求項1または2に記載のペプチド化合物。
【請求項4】
前記X2は、配列番号1~6のいずれか一つで表されるアミノ酸配列である、請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチド化合物。
【請求項5】
前記ペプチド化合物は、配列番号1~75のいずれか一つで表されるアミノ酸配列からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチド化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド化合物を含む、細胞培養用基材。
【請求項7】
前記細胞は、インテグリンαvβ5を発現する細胞である、請求項6のいずれか1項に記載の細胞培養用基材。
【請求項8】
前記細胞は、iPS細胞またはES細胞である、請求項6または7に記載の基材。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、インテグリンαvβ5阻害剤。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、腫瘍の転移の抑制および/または予防用医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド化合物および薬物を含み、インテグリンαvβ5を発現する細胞に前記薬物を送達するための薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)の3残基のRGDモチーフはインテグリンα5β1、αvβ1、αvβ3、αvβ5、αvβ6、αvβ8、αIIβ3のリガンドとして知られている。このようなRGDモチーフを含むペプチド(RGD含有ペプチド)は、細胞接着基材への固相化により細胞接着因子として広く使われている。例えば、非特許文献1には、ビトロネクチン由来の12残基のRGD含有ペプチドのN末端にグリシン2残基を介してリジン残基を導入し、リジン残基の側鎖を介して合成ポリマーに結合させたものがインテグリンαvβ5を介したヒトiPS細胞の接着を媒介し、培養基材として有用であることが報告されており、Synthemax(登録商標)という名で商品化されている。液性因子としてもこれまでに様々なRGDアナログが開発されており、例えば環状化RGD含有ペプチドであるシレンギチドは、インテグリンαvβ3の阻害剤としてがん治療への応用が期待され、臨床研究が行われている。薬物送達の分野においてもRGD含有ペプチドは、がんへの標的分子として広く利用されており、例えば表面にRGDペプチドが修飾された薬物内封リポソーム等が開発されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Melkoumian Z. et al., "Synthetic peptide-acrylate surfaces for long-term self-renewal and cardiomyocyte differentiation of human embryonic stem cells", Nature Biotechnology, 30 May 2010, p. 606-610
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されているように、RGD含有ペプチドがインテグリンαvβ5に結合することは知られている。しかし、その結合に必要なRGDモチーフ周辺配列の解析が詳細に行われていない。すなわち、RGD含有ペプチドの十分な最適化が行われていない。そのため、インテグリンαvβ5を高発現する細胞に対する培養基材、阻害剤、標的分子などに用いるRGD含有ペプチドとしては、さらなる改良が求められている。
【0005】
そこで、本発明では、インテグリンαvβ5結合能を有する最適化されたペプチドリガンドを含む、ペプチド化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列を含むペプチド化合物によって、上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明の一形態は、以下の式(I)で表されるペプチド化合物である。
【0008】
【0009】
式(I)中、
X1は、Gly、AlaおよびProからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基数が2~15である、ペプチド;(GGGGS)o、(EAAAK)oまたは(AP)qで表されるペプチドであり、oは、1~3の整数であり、qは、1~7の整数である;およびポリエチレングリコール;ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであり、
X2は、RGDVF(配列番号1)、RGDAF(配列番号2)、RGDSF(配列番号3)、RGDTF(配列番号4)、RGDDF(配列番号5)、RGDVP(配列番号6)、およびRGDNY(配列番号7)のいずれか一つで表されるアミノ酸配列であり、
X3は、独立して、任意のアミノ酸残基から選択され、
mは、0または1であり、
nは、0~5の整数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インテグリンαvβ5結合能を有する最適化されたペプチドリガンドを含むペプチド化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1における細胞接着活性の評価結果を示す。
【
図2】試験例2における細胞増殖の評価結果を示す。
【
図3】試験例3における細胞接着活性の評価結果、抗インテグリン抗体による細胞接着阻害効果の評価結果およびフローサイトメトリーによるインテグリンαvβ3とαvβ5との発現解析の結果を示す。
【
図4】試験例4におけるRGDVFのVF部分を置換したペプチドの細胞接着活性の評価の結果を示す。
【
図5】試験例5におけるペプチドの液性因子としての阻害活性評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、インテグリンαvβ5受容体に対する結合において、RGD配列だけではなく、そのC末端に続く2残基のアミノ酸が大きな役割を果たしていることを見出した。具体的には、インテグリンαvβ5に強力に結合するペプチドリガンドとして、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを見出した。これらのペプチドを足場に共有結合することによって、インテグリンαvβ5依存的な細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞など)の接着および増殖を促進することができる。また、これらのペプチドを液性因子として用いることで、インテグリンαvβ5を介した細胞接着などの生物活性の阻害剤として使用することができる。さらに、インテグリンαvβ5を発現する細胞・組織への標的分子として使用することができる。
【0013】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0014】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0015】
本明細書において、「式(I)で表されるペプチド化合物」を、単に「本発明に係るペプチド化合物」とも称する。
【0016】
本発明における「アミノ酸残基」とは、ペプチドまたはタンパク質分子上で、ペプチドまたはタンパク質を構成しているアミノ酸の一単位に当たる部分を意味する。より具体的には、以下の式のように表される、α-アミノ酸から誘導される2価の基を意味する:
【0017】
【0018】
ただし、上記R0はアミノ酸の側鎖であり、例えばGlyであれば水素原子、Alaであればメチル基である。
【0019】
「アミノ酸残基」は、天然もしくは非天然のα-アミノ酸に由来し、光学活性体があり得る場合、L体およびD体の何れであってもよいが、L体が好ましい。
【0020】
より具体的には、「アミノ酸残基」は、Arg、Lys、Asp、Asn、Glu、Gln、His、Pro、Tyr、Trp、Ser、Thr、Gly、Ala、Met、Cys、Phe、Leu、Val、およびIle、ならびにこれらの類縁体が例示できる。上記の類縁体としては、例えば上記20種のアミノ酸残基の側鎖が任意の置換基で置換された誘導体等であってもよく、例えば、上記20種のアミノ酸残基のハロゲン化誘導体(例えば、3-クロロアラニン)、2-アミノ酪酸、ノルロイシン、ノルバリン、イソバリン、2-アミノイソ酪酸、ホモフェニルアラニン、2,3-ジアミノプロピオン酸、2,4-ジアミノブタン酸、オルニチン、2-ヒドロキシグリシン、ホモセリン、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、3,4-ジデヒドロプロリン、ホモプロリン、ホモシステイン、ホモメチオニン、アスパラギン酸エステル(例えば、アスパラギン酸-メチルエステル、アスパラギン酸-エチルエステル、アスパラギン酸-プロピルエステル、アスパラギン酸-シクロヘキシルエステル、アスパラギン酸-ベンジルエステルなど)、グルタミン酸エステル(グルタミン酸-シクロヘキシルエステル、グルタミン酸-エチルエステル、グルタミン酸-プロピルエステル、グルタミン酸-メチルエステル、グルタミン酸-ベンジルエステルなど)、ホルミルトリプトファン、2-シクロペンチルグリシン、2-シクロヘキシルグリシン、2-フェニルグリシン、2-ピリジルアラニン、3-シクロペンチルアラニン、3-シクロヘキシルアラニン、3-ピリジルアラニン、3-ピラゾリルアラニン、3-フラニルアラニン、3-チエニルアラニン、メトキシフェニルアラニン、3-ナフチルアラニン、および4-ピリジルアラニン等のアミノ酸に由来するアミノ酸残基が例示できるが、これらに制限されない。また、IleやThrのように、側鎖に不斉炭素を有するジアステレオマーが存在するものについては、天然型(例えば、(2R*,3R*)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸、および(2R*,3S*)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタン酸)および非天然型(例えば、(2R*,3S*)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸、および(2R*,3R*)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタン酸)が特に区別なく使用され得る。すなわち、「Ile」は(2R*,3R*)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸および(2R*,3S*)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸の両方を含む意味として使用され、「Thr」は(2R*,3S*)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタン酸および(2R*,3R*)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタン酸の両方を含む意味として使用される。好ましくは、天然型ジアステレオマー(すなわち、Ileであれば(2R*,3R*)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸、Thrであれば(2R*,3S*)-2-アミノ-3-ヒドロキシブタン酸)が使用される。
【0021】
本明細書に記載のアミノ酸配列は、特に言及がない限り、慣例に従ってN末端(アミノ末端)側からC末端(カルボキシル末端)側への方向に表記される。
【0022】
本明細書において「薬学的に許容される塩」は、患者や被験体へ投与された後、望ましくない生理学的効果を生じさせない、金属塩、アンモニウム塩、有機酸塩、無機酸塩、または有機塩基もしくは無機塩基との塩である。より具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、メチルアミン塩、エチルアミン塩、アニリン塩、ジメチルアミン塩、ジエチルアミン塩、ピロリジン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フタル酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩等が例示できるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明に係るペプチドのN末端の構造は特に制限されず、例えば、水素原子(すなわち、未修飾)、または従来公知の手法により修飾基を導入した構造であってもよい。N末端の修飾基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数1~20のアルキニル基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基、複素環基、スルホニル基、カルボキシル基、グリオキシル基、ホルミル基;ポリエチレングリコール基(PEG化)、ポリオキシエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基;tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基(Z基)、フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)のような保護基;シクロペンチルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基、ノルボルニルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基等のシクロアルキルオキシカルボニル基;ピログルタミン酸やモロタン酸などのアミノ酸から誘導される保護基;カルバメート系保護基;ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸やリン酸から誘導される保護基等、が例示できる。
【0024】
本発明に係るペプチドのC末端の構造もまた特に制限されず、カルボン酸の保護に一般的に使用される保護基で修飾された構造であってもよい。より具体的には、本発明に係るペプチドのC末端の構造は、例えば、カルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)、アルキルアミド(-CONHR31、-CONR31R32)、エステル(-COOR31)、ピバロイルオキシメチル基のようなアシルオキシアルキル(-R33-OCOR31)、炭素数1~4のアルキル基もしくはアルコキシ基で置換されてもよいフタリジル基(例えば、フタリジル基、ジメチルフタリジル基、ジメトキシフタリジル基)、または(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メチル基であり得る。このうち、ペプチドのC末端はアミドであることが好ましい。上記のアルキルアミド、エステル、およびアシルオキシアルキルにおけるR31およびR32は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アミル基、イソアミル基、tert-アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基;フェニル基、ナフチル等の炭素数6~10のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、ベンズヒドリル基等の炭素数7~18のアラルキル基;グルコース等の糖;炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アミル基、イソアミル基、tert-アミル基、ヘキシル基)で修飾されていてもよいポリエチレングリコール基などが挙げられる。アシルオキシアルキルにおけるR33は、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基のような炭素数1~4のアルキレン基である。
【0025】
<ペプチド化合物>
本発明の第一の態様は、以下の式(I)で表されるペプチド化合物である。
【0026】
【0027】
式(I)中、
X1は、Gly、AlaおよびProからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基数が2~15である、ペプチド;(GGGGS)o、(EAAAK)oまたは(AP)qで表されるペプチドであり、oは、1~3の整数であり、qは、1~7の整数である;およびポリエチレングリコール;ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであり、
X2は、RGDVF(配列番号1)、RGDAF(配列番号2)、RGDSF(配列番号3)、RGDTF(配列番号4)、RGDDF(配列番号5)、RGDVP(配列番号6)、およびRGDNY(配列番号7)のいずれか一つで表されるアミノ酸配列であり、
X3は、独立して、任意のアミノ酸残基から選択され、
mは、0または1であり、
nは、0~5の整数である。
【0028】
本明細書中、「Gly、AlaおよびProからなる群から選択されるアミノ酸残基を含み、アミノ酸残基数が2~15である、ペプチド」を「第1のペプチド」、および「(GGGGS)o、(EAAAK)oまたは(AP)qで表されるペプチド」を「第2のペプチド」とも称する。
【0029】
式(I)において、X1は、好ましくは第1のペプチド、第2のペプチドまたはポリエチレングリコールであり、より好ましくは第1のペプチドである。
【0030】
式(I)において、第1のペプチドのアミノ酸残基数は、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~6である。
【0031】
式(I)において、第1のペプチドのアミノ酸配列の具体例としては、GG、PPP、GGAAAA、PPPPPなどが挙げられる。
【0032】
式(I)において、ポリエチレングリコールにおけるエチレングリコールの繰り返し数は、好ましくは2~50である。
【0033】
式(I)において、X2は、好ましくは配列番号1~6のいずれか一つで表されるアミノ酸配列である。
【0034】
式(I)において、X3は、好ましくはMetおよびCys以外のアミノ酸残基であり、より好ましくはGly、AlaおよびProからなる群から選択されるアミノ酸残基である。
【0035】
式(I)において、nは、好ましくは0~3の整数であり、より好ましくは0である。
【0036】
一実施形態では、本発明に係るペプチド化合物は、N末端および/またはC末端にCys残基が付加されている。C末端にCys残基が付加されている場合、本発明に係るペプチド化合物は、N末端にクロロアセチル基などのハロアセチル基を導入することで、チオエーテル結合により環化構造を有することができる。N末端およびC末端にCys残基が付加されている場合、本発明に係るペプチド化合物は、Cys残基間のジスルフィド結合により環化構造を有することができる。
【0037】
ペプチドを環化させる方法は、上記以外にも、Lys残基の側鎖のアミノ基とC末端カルボキシル基とのアミド結合により環化させる方法、N末端アミノ基とC末端カルボキシル基とのアミド結合により環化させる方法などが挙げられる。
【0038】
一実施形態では、本発明に係るペプチドがN末端およびC末端の少なくとも一方にCys残基が付加されている場合、Cys残基を介して他の材料(例えば、マレイミド基を導入した材料)と共有結合することができ、後述の細胞培養用基材として好適である。
【0039】
一実施形態では、本発明に係るペプチド化合物は、環状構造を有する。環状構造を有することにより、インテグリンαvβ5を介した細胞接着などの生物活性を阻害する効果をより高めることができる。
【0040】
一実施形態では、本発明に係るペプチド化合物のアミノ酸残基数は、5以上15以下であり、より好ましくは5以上12以下であり、さらに好ましくは5以上9以下である。本発明に係るペプチド化合物は、インテグリンαvβ5結合能を有する最適化されたペプチドリガンドを含むため、ペプチドを短鎖化することができる。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明に係るペプチド化合物は、配列番号1~75のいずれか一つで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。なお、配列番号21~48および55~61で表されるアミノ酸配列からなるペプチド化合物は、環状ペプチドであってもよい。
【0042】
【0043】
(ペプチド化合物の製造方法)
本発明に係るペプチド化合物のペプチド部分(本明細書中、単に「ペプチド部分」とも称する)は、化学的合成法や組換え技術を含む従来公知の手法によって製造することができる。ペプチド部分を化学合成により調製するには、各アミノ酸をペプチド化学において通常用いられる方法、例えば、「ザ ペプチド(The Peptides)」第1巻〔Schroder and Luhke著, Academic Press, New York, U.S.A.(1966年)〕、「ペプチド合成の基礎と実験」(泉屋信夫ら著丸善株式会社、1985年)等に記載されている方法によって製造することが可能であり、液相法および固相法のいずれによっても製造できる。さらに、カラム法、バッチ法のいずれの方法も用いることができる。
【0044】
ペプチド部分はまた、例えば下記のCurrent Protocols in Molecular Biology、Chapter 16に記載されるような手法により、動物細胞、昆虫細胞、または微生物等を利用した組み換え技術により製造してもよい。ペプチドは、培養細胞や微生物によって生成された後、従来公知の方法によって精製し得る。ペプチドの精製および単離法は当分野の技術者に公知であり、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology、Chapter 16(Ausubelら、John Wiley and Sons、2006年)等に記載の手法により行うことができる。
【0045】
ペプチド結合を形成するための縮合方法として、アジド法、酸ハライド法、酸無水物法、カルボジイミド法、カルボジイミド-アディティブ法、活性エステル法、カルボニルイミダゾール法、酸化還元法、酵素法、ウッドワード試薬K、HATU試薬、Bop試薬を用いる方法等を例示することができる。なお、固相法での縮合反応は上記した方法のうち、酸無水物法、カルボジイミド法、および活性エステル法が主な方法として挙げられる。
【0046】
さらに、固相法でペプチド鎖を延長するときは、用いる有機溶媒に対して不溶な樹脂等の支持体に、C末端アミノ酸を結合する。かような樹脂としては、アミノ酸を樹脂に結合させる目的で官能基を導入した樹脂や、樹脂と官能基の間にスペーサーを挿入したもの等を目的に応じて用いることもできる。より具体的には、例えば、クロロメチル樹脂などのハロメチル樹脂、オキシメチル樹脂、4-(オキシメチル)-フェニルアセトアミドメチル樹脂、4-(オキシメチル)-フェノキシメチル樹脂、Rinkアミド樹脂などを挙げることができる。なお、これらの縮合反応を行う前に、通常公知の手段によって当該縮合反応に関与しないカルボキシル基やアミノ基や水酸基やアミジノ基等の保護手段を施すことができる。また逆に当該縮合反応に直接関与するカルボキシル基やアミノ基を活性化することもできる。
【0047】
各ユニットの縮合反応に関与しない官能基の保護手段に用いる保護基としては有機化学において通常用いられている保護基、例えば、「Protective Groups in Organic Synthesis(Greene著、John Wiley & Sons, Inc.(1981年))等に記載されている保護基によって保護することが可能である。より具体的には、カルボキシル基の保護基としては、例えば、各種のメチルエステル、エチルエステル、ベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステル、t-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル等の通常公知の保護基を挙げることができる。アミノ基の保護基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)等を挙げることができる。
【0048】
カルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、当該カルボキシル基に対応する酸無水物;アジド;ペンタフルオロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、p-ニトロフェノール、N-ヒドロキシコハク酸イミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシミド、N-ヒドロキシフタルイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等との活性エステル等が挙げられる。アミノ基の活性化されたものとしては、当該アミノ基に対応する燐酸アミド等を挙げることができる。
【0049】
ペプチド合成の際の縮合反応は、通常溶媒中で行われる。当該溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、水、メタノール等、または、これらの混合物を挙げることができる。また、当該縮合反応の反応温度は、通常の場合と同様に、-30℃~50℃の範囲で行なうことができる。
【0050】
さらに、ペプチドの製造工程における保護基の脱離反応の種類は、ペプチド結合に影響を与えずに保護基を脱離させることができる限りにおいて、用いる保護基の種類に応じて選択することができる。例えば、塩化水素、臭化水素、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、またはこれらの混合物等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ヒドラジン、ジエチルアミン、ピペリジン等によるアルカリ処理、液体アンモニア中におけるナトリウム処理やパラジウム炭素による還元および、トリメチルシリルトリフラート、トリメチルシリルブロマイド等のシリル化処理等が挙げられる。なお、上記の酸またはシリル化剤処理による脱保護基反応においては、アニソール、フェノール、クレゾール、チオアニソール、エタンジチオール等のカチオン捕捉剤を添加するのが、脱保護基反応が効率的に行われるという観点から好ましい。
【0051】
なお、固相法で合成したペプチドの固相からの切断方法も通常公知の方法に従う。例えば、上記の酸またはシリル化剤による処理等を当該切断方法として挙げることができる。このようにして製造されたペプチドに対しては、上記の一連の反応の終了後に通常公知の分離、精製手段を駆使することができる。例えば、抽出、分配、再沈澱、再結晶、固相抽出、カラムクロマトグラフィー等によって、より高純度でペプチドを収得することができる。
【0052】
本発明に係るペプチド化合物において、ペプチド部分のN末端およびC末端の修飾は、従来公知の方法によって行うことができる。N末端の修飾では、ペプチドを固相法で合成する場合、最後のアミノ酸残基の脱保護の後、PEGを導入することで得ることができる。また、C末端の修飾では、例えば、アミド体合成用樹脂であるRinkアミド樹脂を用いて固相合成することで、ペプチドのアミド体を得ることができる。
【0053】
本発明に係るペプチド化合物は、単離または精製されていてもよい。「単離または精製」とは、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離または精製された本発明に係るペプチド化合物の純度は、通常50%以上(例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、100%)である。
【0054】
本発明に係るペプチド化合物は、インテグリンαvβ5に強力に結合するため、インテグリンαvβ5依存的な細胞の接着および増殖を促進するための細胞培養用基材、インテグリンαvβ5を標的とした阻害剤としてがんなどの疾病の治療、インテグリンαvβ5を標的とした薬物送達における標的分子などとして使用することができる。
【0055】
<細胞培養用基材>
本発明の一実施形態は、本発明に係るペプチド化合物を含む、細胞培養用基材(本明細書中、単に「細胞培養用基材」とも称する)である。
【0056】
細胞培養用基材としては、本発明に係るペプチド化合物を単独で用いてもよく、固定化材料とともに用いてもよい。
【0057】
好ましい実施形態では、細胞培養用基材は、本発明に係るペプチド化合物と固定化材料とを含む。
【0058】
固定化材料は、本発明に係るペプチド化合物を細胞培養用基材の培養表面に固定化するために使用される。本発明に係るペプチド化合物は、共有結合により固定化材料に固定化されていることが好ましい。これにより、インテグリンαvβ5依存的な細胞の接着および増殖をより促進することができる。
【0059】
固定化材料としては、細胞培養に用いられる従来公知のものを使用することができる。固定化材料の例としては、血清アルブミン、コラーゲン、絹フィブロイン、フィブロイン、アビジン、ストレプトアビジンなどのタンパク質;アルギン酸、スターチ、ヒアルロン酸、デキストラン、セルロースおよびこれらの誘導体などの多糖類;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、PLGAとポリエチレングリコールとの共重合体、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリプロピレンフマレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類;ポリオルトエステル類;ポリ無水物類;ポリアミノ酸類;ポリホスファゼン類;ポリアクリル酸およびその誘導体;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリスチレン;ポリエチレングリコール;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール誘導体;エチレン-ビニルアルコール共重合体およびその誘導体;ポリテトラフルオロエチレン;ナイロン-6,6などのポリアミド類;ポリイミド類;ポリウレタン類;チタン;酸化チタン;金などの金属類;ヒロキシアパタイト;ガラス;シリコンなどが挙げられる。固定化材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
本発明に係るペプチド化合物を固定化材料に固定化する方法は、特に制限されず、共有結合を形成する従来公知の反応を用いることができる。共有結合を形成する反応の例としては、マイケル付加反応、アミド結合形成反応、クリック反応(クリックケミストリー)、ライゲーション反応(チアゾリジン環形成)などが挙げられる。
【0061】
これらの反応には、本発明に係るペプチド化合物が有する反応性基と固定化材料が有する反応性基とを結合のために用いてもよく、反応性基を導入したものを用いてもよい。また、本発明に係るペプチド化合物のN末端またはC末端に反応性基を有するアミノ酸残基を付加してもよい。さらに、本発明に係るペプチド化合物と固定化材料とをスペーサーを介して連結してもよい。スペーサーとしては、従来公知のものを使用することができる。式(I)におけるX1およびX3をスペーサーとして利用してもよい。
【0062】
マイケル付加反応の例としては、マレイミド基、アクリルエステル基、ビニルスルホン基などのα,β-不飽和カルボニル基とチオール基とを反応させる方法が挙げられる。
【0063】
マイケル付加反応を用いる場合、本発明に係るペプチド化合物は、N末端またはC末端にシステイン残基を有することが好ましい。
【0064】
アミド結合形成反応の例としては、カルボジイミドなどの縮合剤を用いてアミノ基とカルボキシル基とを縮合させる方法、アミノ基とN-ヒドロキシスクシンイミドなどにより活性化されたカルボキシル基とを反応させる方法などが挙げられる。
【0065】
クリック反応の例としては、アルキニル基とアジド基とを付加反応させる方法が挙げられる。
【0066】
クリック反応を用いる場合、本発明に係るペプチド化合物は、N末端にアルキニル基を有するプロパルギルグリシン、プロピオール酸など、またはアジド基を有するアジドリジン、アジド酢酸などを付加することが好ましい。
【0067】
ライゲーション反応(チアゾリジン環形成)の例としては、システイン残基のアミノ基およびチオール基とアルデヒドとを反応させる方法が挙げられる。
【0068】
ライゲーション反応を用いる場合、本発明に係るペプチド化合物は、N末端システイン残基を有することが好ましい。
【0069】
一実施形態では、細胞培養用基材に用いられるペプチド化合物は、式(I)におけるmが1であり、X1が第1のペプチドであり、nが0である。ペプチド化合物は、好ましくは配列番号8~54および62~75から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、より好ましくは配列番号8~20および62~75から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0070】
細胞培養用基材を用いて培養される細胞の種類としては、特に制限されない。細胞培養用基材を用いて培養される細胞は、例えばインテグリンαvβ5を発現する細胞であり、好ましくはiPS細胞(Induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)またはES細胞(Embryonic stem cells:胚性幹細胞)である。インテグリンαvβ5の発現は、例えばフローサイトメトリーにより確認することができる(実施例参照)。
【0071】
細胞培養用基材の形状は、特に制限されず、従来公知の基材と同様の形状とすることができる。
【0072】
細胞培養用基材の製造方法は、特に制限されない。例えば、細胞培養用基材が固定化材料を含む場合、細胞培養用基材は、容器(例えば、培養用プレート)に固定化材料をコートした後、本発明に係るペプチドを上述の反応を用いて固定化材料に共有結合させることにより製造することができる。
【0073】
本発明の一実施形態は、上述の細胞培養用基材を含む、細胞培養容器(本明細書中、単に「細胞培養容器」とも称する)である。
【0074】
細胞培養容器は、上述の細胞培養用基材のみより形成されてもよく、上述の細胞培養用基材と他の部材とが組み合わされて構成されていてもよく、上述の細胞培養用基材と他の部材とが一体化されて構成されていてもよい。
【0075】
細胞培養容器の形態は、特に制限されない。細胞培養容器の形態の例としては、シングルプレート、マルチウェルプレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、バッグなどが挙げられる。また、細胞培養容器は、大量培養装置、潅流培養装置などの培養装置における細胞培養用容器の形態であってもよい。
【0076】
細胞の培養に用いる培地および細胞の培養方法は、特に制限されず、培養する細胞の種類に応じて適宜選択できる。
【0077】
細胞培養用基材および細胞培養容器は、滅菌処理されてもよい。滅菌方法は、特に制限されず、放射線滅菌、エチレンオキサイド滅菌、二酸化窒素滅菌、高圧蒸気滅菌などの従来公知の方法を用いることができる。
【0078】
<インテグリンαvβ5阻害剤>
本発明の一実施形態は、本発明に係るペプチド化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、インテグリンαvβ5阻害剤(本明細書中、単に「インテグリンαvβ5阻害剤」とも称する)である。本発明に係るペプチド化合物は、インテグリンαvβ5に強力に結合することができるため、インテグリンαvβ5阻害剤は、インテグリンαvβ5を介した細胞接着などの生物活性を阻害するために使用することができる。
【0079】
インテグリンαvβ5阻害剤は、本発明に係るペプチド化合物またはその薬学的に許容される塩の1種以上から構成されてもよく、本発明に係るペプチド化合物の1種以上またはその薬学的に許容される塩の1種以上と薬学的に許容される担体とから構成されていてもよい。
【0080】
薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、乳糖、ショ糖、マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等の賦形剤;シリカ、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、デキストリン、ゼラチン等の結合剤;アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トコフェロール等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤;ホウ酸塩、重炭酸塩、Tris-HCl、クエン酸塩、リン酸塩、他の有機酸等の緩衝剤;注射用水、生理食塩水、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、マクロゴール、オリーブ油、トウモロコシ油等の溶媒;プルロニック(登録商標)、ポリエチレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、トリトン(登録商標)、レシチン、コレステロール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤または湿潤剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール等の等張化剤;安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン等の保存剤;錯化剤;アミノ酸;抗菌剤;着色剤;フレーバー剤および希釈剤;乳化剤;ナトリウム等の塩形成対イオン;搬送ビヒクル;希釈剤などが挙げられる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, A.R. Gennaro監修, Mack Publishing Company, 1990)。
【0081】
好ましい実施形態では、インテグリンαvβ5阻害剤に含まれるペプチド化合物は、阻害活性をより高めるとの観点から、環状構造を有する。
【0082】
好ましい実施形態では、インテグリンαvβ5阻害剤に含まれるペプチド化合物は、配列番号1~7、21~48および55~61で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。かかるペプチドは、環状ペプチドであってもよい。
【0083】
本発明に係るペプチド化合物のインテグリンαvβ5阻害剤中の含有量は、阻害剤全体に対して0.01~100質量%であり得る。
【0084】
<腫瘍の転移の抑制および/または予防用医薬組成物>
本発明の一実施形態は、本発明に係るペプチド化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、腫瘍の転移の抑制および/または予防用医薬組成物(本明細書中、単に「医薬組成物」とも称する)である。
【0085】
本発明に係る医薬組成物の対象となるがんの種類は、特に限定されない。例えば、神経系のがん(例えば、脳腫瘍、頚がん);消化器系のがん(例えば、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、肝がん、胆嚢がん、胆道がん、脾臓がん、大腸がん、小腸がん、十二指腸がん、結腸がん、結腸腺がん、直腸がん、膵臓がん、肝臓がん);筋骨格系のがん(例えば、肉腫、骨肉種、骨髄腫);泌尿器系のがん(例えば、膀胱がん、腎がん);生殖器系のがん(例えば、乳がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、前立腺がん);呼吸器系のがん(例えば、肺がん);造血器系のがん(例えば、急性または慢性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性または慢性リンパ性白血病等の白血病、悪性リンパ腫(リンパ肉腫)、血管肉腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、原発性骨髄線維症、血管外膜細胞腫);甲状腺がん、副甲状腺がん、舌がん、悪性黒色腫(メラノーマ)、肥満細胞腫、皮膚組織球腫、脂肪腫、毛包腫瘍、皮膚乳頭腫、皮脂腺腫、基底細胞がんなどが挙げられる。
【0086】
本発明に係る医薬組成物は、上述の薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0087】
本発明に係る医薬組成物の適用対象は、特に制限されず、哺乳動物や鳥類、好ましくはがんに罹患した哺乳動物や鳥類である。ここで、哺乳動物は、ヒト、サル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン等の霊長類、ならびにマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ヤギなどの非ヒト哺乳動物双方を包含する。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、ハトなどが挙げられる。
【0088】
本発明に係る医薬組成物は、経口剤、外用剤、注射剤、吸入剤、点鼻・点眼剤等として提供されることができ、これらの使用方法に応じて、錠剤、液剤、注射剤、軟膏、クリーム、ローション、エアゾール剤、座剤等の所望の剤形にすることができる。
【0089】
好ましい実施形態では、インテグリンαvβ5阻害剤に含まれるペプチド化合物は、配列番号1~7、21~48および55~61で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。かかるペプチドは、環状ペプチドであってもよい。
【0090】
本発明に係るペプチド化合物の医薬組成物中の含有量は、阻害剤全体に対して0.01~100質量%であり得る。
【0091】
<薬物送達システム>
本発明の一実施形態は、本発明に係るペプチド化合物および薬物を含み、インテグリンαvβ5を発現する細胞に薬物を送達する薬物送達システム(本明細書中、単に「薬物送達システム」とも称する)である。
【0092】
インテグリンαvβ5を発現する細胞としては、上述の腫瘍細胞などが挙げられる。
【0093】
本発明に係る薬物送達システムは、本発明に係るペプチド化合物と薬物とが一体化していない形態であってもよく、本発明に係るペプチド化合物と薬物とが相互作用により一体化した形態であってもよい。一体化の形態は、特に限定されず、例えば、本発明に係るペプチド化合物と薬物と薬物を封入したリポソームと本発明との結合体、本発明に係るペプチド化合物と薬物を担持したナノマテリアルとの結合体、本発明に係るペプチド化合物と薬物とが直接結合した結合体などの形態が挙げられる。
【0094】
本発明に係る薬物送達システムに用いられる薬物は、特に制限されず、標的部位であるインテグリンαvβ5を発現する細胞に送達することが好ましい薬物であればよい。薬物の例としては、疾病治療用の薬物、インテグリンαvβ5を発現する細胞を可視化するための薬物(蛍光性物質、放射性物質、化学発光性物質、磁性物質など)が挙げられる。
【実施例0095】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0096】
<ペプチド合成>
以下の試験例で使用したペプチドはFmoc固相合成法によってマニュアル合成し、C末端はアミドの形に調製した。
【0097】
まず始めに、レジン(4-(2,4-dimethoxyphenyl-Fmoc-aminomethyl)-phenoxy resin、rink amide resin)をPD-10カラム(Cytiva製)に0.05mmolの置換基となるように秤量した。レジンをジメチルホルムアミド(DMF)で洗浄した後、20v/v%ピペリジンを含むDMFを加え15分間振とうし、レジンのFmoc基の脱保護を行った。再びレジンをDMFで洗浄し、各アミノ酸をレジンに対して5当量、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を加え、約1時間振とうしてアミノ酸を縮合させた。アミノ酸が付加したレジンをDMFで洗浄し、20%ピペリジンを含むDMFを加え、アミノ酸のFmoc基の脱保護を行った。以後、各アミノ酸の縮合とアミノ酸のFmoc基の脱保護の操作を繰り返し、最後にメタノールで洗浄し、乾燥させたのち目的のペプチドが付加したレジンを得た。次に、レジン上で合成されたペプチドのレジンからの脱離とペプチドの保護基を除去するために、トリフルオロ酢酸(TFA):m-クレゾール:1,2-エタンジチオール:チオアニソール:Milli-Q水(80:5:5:5:5 v/v/v/v/v)の混合溶液をレジンの入ったカラムに加え、室温で3時間インキュベーションした。さらにレジンをフィルターで除去し、目的のペプチドを含む濾液を得た。濾液に冷ジエチルエーテルを加え、析出物を10分間、3000rpmで遠心分離し沈殿物を得た。さらにこの沈殿物をジエチルエーテルで2回洗浄し、室温で乾燥させて、粗ペプチドを得た。粗ペプチドを0.1v/v%TFAを含むMilli-Q水とアセトニトリルとを適量加えて溶解させ、粗ペプチド溶液を得た。0.1v/v%TFAを含むMilli-Q水とアセトニトリルとを用いて逆相系のHPLCにて精製した後に、得られた精製ペプチド液を凍結乾燥して白色羽毛状の粉末(ペプチド)を得た。
【0098】
なお、後述の試験例5において、c(RGDTFC)、c(RGDTFGC)およびc(RGDTFAC)は、レジン上でペプチドを合成した後、10当量の無水クロロ酢酸を添加して、N末端にクロロアセチル基を導入した。上記と同様にして、ペプチドのレジンからの脱離と側鎖の脱保護とを行って、粗ペプチドを得た。粗ペプチドを1mMの濃度で100mM HEPES緩衝液(pH8.0)に溶解し、一時間室温で静置することで環化させ、上記と同様にして、HPLCにて精製した。得られた精製ペプチド液を凍結乾燥して白色羽毛状の粉末(ペプチド)を得た。
【0099】
<マレイミド化ウシ血清アルブミン(Mal-BSA)の合成>
45mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に0.5gのウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)を溶解させた。次にBSAの10当量となる25.3mgのSuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate(SMCC)を5mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶かし、BSA溶液に添加した。室温で30分反応させ、10kDa MWCO透析膜と0.1%TFAを含むMilli-Q水を用いて3日間透析した。透析後、0.22μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥によりマレイミド化BSAの粉末を得た。
【0100】
<Mal-BSAを用いたペプチドコートプレートの作製>
Mal-BSAをPBSに溶解させ、10μg/mLのMal-BSA溶液を調製した。Mal-BSA溶液をノントリートの96-wellプレートに100μL/wellで添加し、37℃で30分インキュベーションし、吸着させた。インキュベーション後、Mal-BSA溶液を吸い、200μLのPBSで2回洗浄した。10μMペプチド/100mM HEPES(pH7)をプレートに加え、室温で2時間静置し反応させた。反応後、プレートを200μLのPBSで1回洗浄し、細胞接着アッセイに用いた。
【0101】
<細胞培養>
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞(1383D6,RIKEN BRC)は10μM Y-27632、Zellshieldを含むStemFit AK02N培地とヒトビトロネクチンをコートしたプレートとを用いて、37℃条件下で培養した。
【0102】
ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)、HeLa細胞およびA549細胞は、10%FBS(fetal bovine serum)、100units/mlペニシリンおよび10μg/mlストレプトマイシンを含むLow glucose DMEMを用いて、37℃条件下で培養した。
【0103】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、10%FBS、20μg/mL BPE(bovine pituitary extract)、10ng/mL EGF(epidermal growth factor)、50μg/mL heparin、100units/mlペニシリンおよび10μg/mlストレプトマイシンを含むMDCB-107培地とヒトコラーゲンをコートしたプレートとを用いて、37℃条件下で培養した。
【0104】
(試験例1)vnRGDペプチドおよびbspRGDペプチドの置換ペプチドおよび短縮ペプチドのiPS細胞接着活性の評価
図1AおよびBのペプチドを用いて、Mal-BSAを用いたペプチドコートプレートを作製した。
【0105】
図1AおよびBのペプチドのアミノ酸配列と配列番号との関係は、以下のとおりである。
【0106】
【0107】
上記細胞培養で培養したiPS細胞をPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLのStemFit AK02N培地によるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収し、1000rpm×3minで遠心した。遠心した細胞の上清を吸い、10μMのY-27632を添加した培地でもう一度細胞を懸濁した。細胞数をカウントし、上記で作製したペプチドコートプレートにiPS細胞を2×10
4cells/100μL/wellの濃度で播種し37℃条件下にて60分間接着させた。60分後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図1CおよびDに示す。
【0108】
図1CおよびDに示すように、RGDVF(配列番号1)およびRGDNY(配列番号7)で表されるアミノ酸配列が最小活性配列であることが分かる。
【0109】
(試験例2)RGDVFペプチド上でのiPS細胞増殖の評価
vnRGDペプチド(配列番号76)またはRGDVFペプチド(配列番号77)を用いて、Mal-BSAを用いたペプチドコートプレートを作製した。また、ポジティブコントロールとして、ヒトビトロネクチンをコートしたコントロールプレートを作製した。
【0110】
上記細胞培養で培養したiPS細胞をPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLのStemFit AK02N培地によるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収し、1000rpm×3minで遠心した。遠心した細胞の上清を吸い、10μMのY-27632を添加した培地でもう一度細胞を懸濁した。細胞数をカウントし、上記で作製したペプチドコートプレートまたはコントロールプレートにiPS細胞を2×104cells/100μL/wellの濃度で播種し37℃条件下にて3日間培養した。
【0111】
細胞増殖は、Keyence BZ-X810顕微鏡での撮影とCell Counting Kit-8を用いた吸光度測定(450nm)による細胞生存の定量化とにより評価した。結果を
図2AおよびBに示す。
【0112】
図2AおよびBに示すように、RGDVFペプチド(配列番号8)は、vnRGDペプチド(配列番号76)およびヒトビトロネクチンと同様に、iPS細胞の培養に使用できることが分かる。
【0113】
(試験例3)RGDVFペプチドおよびRGDAAペプチドの細胞接着活性の比較
細胞としては、iPS細胞、HeLa細胞、A549細胞、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)およびヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を使用した。
【0114】
[細胞接着活性の比較]
RGDVFペプチド(配列番号8)またはRGDAAペプチド(配列番号90)を用いて、Mal-BSAを用いたペプチドコートプレートを作製した。
【0115】
上記細胞培養で培養したiPS細胞をPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLのStemFit AK02N培地によるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収し、1000rpm×3minで遠心した。遠心した細胞の上清を吸い、10μMのY-27632を添加した培地でもう一度細胞を懸濁した。細胞数をカウントし、上記で作製したペプチドコートプレートにiPS細胞を2×10
4cells/100μL/wellの濃度で播種し37℃条件下にて60分間接着させた。60分後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図3Aに示す。
【0116】
上記細胞培養で培養したHeLa細胞、A549細胞、HDFまたはHUVECをPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLの0.1% BSA/DMEMによるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収した。細胞数をカウントし、上記で作製したペプチドコートプレートにHDFは5×10
3cells/100μL/wellの濃度、ならびにHeLa細胞、A549細胞およびHUVECは2×10
4cells/100μL/wellの濃度で播種し37℃条件下にて60分間接着させた。60分後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図3D、G、JおよびMに示す。
【0117】
図3A、D、G、JおよびMにおいて、使用したペプチドの濃度は、1μM、0.5μM、0.25μM、0.125μM、0.0625μM、0.03125μMおよび0.015625μMである。
【0118】
[抗インテグリン抗体を用いた細胞接着阻害効果の比較]
抗インテグリン抗体を用いた細胞接着阻害効果の評価は細胞接着活性の評価と同様の条件で行った。各細胞懸濁液に各抗インテグリン抗体(αvβ3:MAB1976、αvβ5:MAB1961、EMD Millipore)を10μg/mlの濃度となるよう加え、細胞を各wellに播種し37℃条件下にて60分間接着させた。60分後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図3B、E、H、KおよびNに示す。
【0119】
図3B、E、H、KおよびNにおいて、各細胞の接着(%)は、抗インテグリン抗体を添加していないコントロールにおける各細胞の接着数を100%としたときの比率を示す。
【0120】
[フローサイトメトリーによるインテグリン発現評価の比較]
上記細胞培養で培養した各細胞を剥離し、1×10
6cells/100μLの濃度で1v/v%BSA/PBSに懸濁し、各抗インテグリン抗体(αvβ3:MAB1976、αvβ5:MAB1961)を10μg/mlの濃度で添加した。氷上で30分反応させた後、1v/v%BSA/PBSで2回洗浄した。Alexa Fluor(登録商標) 488でラベルされた二次抗体を20μg/mlの濃度で1v/v%BSA/PBSに添加し、細胞を懸濁させた。再び氷上で30分反応させた後、1v/v%BSA/PBSで2回洗浄し、BD FACSCantoを用いて蛍光強度を測定し、FlowJoソフトウェアにより解析した。結果を
図3C、F、I、LおよびOに示す。
【0121】
[比較結果]
図3に示すように、RGDVFペプチド(配列番号8)に接着するがRGDAAペプチド(配列番号53)には接着しない細胞(iPS細胞、HeLa細胞およびA549細胞)は、インテグリンαvβ3をほとんど発現せず、インテグリンαvβ5を介してRGDVFペプチドに接着していることが明らかとなった。
【0122】
(試験例4)RGDVFのVF部分を置換したペプチドの細胞接着活性の評価
RGDVFペプチド(配列番号8)のVF部分をMetおよびCysを除く他のアミノ酸で置換したペプチドを合成した(表3)。
【0123】
【0124】
表3に示すペプチドを用いて、Mal-BSAを用いたペプチドコートプレートを作製した。
【0125】
上記細胞培養で培養したiPS細胞をPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLのStemFit AK02N培地によるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収し、1000rpm×3minで遠心した。遠心した細胞の上清を吸い、10μMのY-27632を添加した培地でもう一度細胞を懸濁した。細胞数をカウントし、上記で作製したペプチドコートプレートにiPS細胞を2×10
4cells/100μL/wellの濃度で播種し37℃条件下にて60分間接着させた。60分後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図4Aに示す。
【0126】
上記細胞培養で培養したHeLa細胞をPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLの0.1% BSA/DMEMによるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収した。細胞数をカウントし、上記で作製したペプチドコートプレートに2×10
4cells/100μL/wellの濃度で播種し37℃条件下にて60分間接着させた。60分後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図4Bに示す。
【0127】
図4AおよびBに示すように、RGDVF(配列番号1)のアミノ酸配列に加えて、RGDAF(配列番号2)、RGDSF(配列番号3)、RGDTF(配列番号4)、RGDDF(配列番号5)およびRGDVP(配列番号6)のアミノ酸配列が高い細胞接着活性を示した。
【0128】
(試験例5)HeLa細胞のビトロネクチンへの接着に対するペプチドの阻害効果の評価
阻害実験では、
図5Aのペプチド、RGDTFペプチド(配列番号4)およびシレンギチドを使用した。
図5Aのペプチドは、チオエーテル結合により環化した構造を有する。シレンギチド(c(RGDf(NMe)V))は、N末端とC末端との間のアミド結合により環化した構造を有する。
【0129】
図5Aのペプチドのアミノ酸配列と配列番号との関係は、以下のとおりである。
【0130】
【0131】
1μg/mLヒトビトロネクチン/PBSをノントリートの96-wellプレートに100μL/wellで添加し、37℃で30分インキュベーションし、吸着させた。インキュベーション後、200μLのPBSで2回洗浄した。上記細胞培養で培養したHeLa細胞をPBS(-)で洗浄し、1mM EDTAおよび1mM EGTAを含むPBSを加えてインキュベーターで10分間加温した。5mLの0.1% BSA/DMEMによるピペッティングで細胞を剥離し15mLチューブに回収した。細胞数をカウントし、HeLa細胞を2×10
4cells/100μLの濃度で懸濁し、各ペプチドを様々な濃度で添加し、ビトロネクチンをコートしたプレートに播種した。37℃条件下にて60分間接着させた後、0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノール水溶液(50μL/well)で10分間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。染色した接着細胞をKeyence BZ-X810顕微鏡下でカウントした。結果を
図5Bに示す。
【0132】
図5Bにおいて、使用したペプチドの濃度は、RGDTFペプチドが100μM、50μM、25μM、12.5μM、6.25μM、3.125μM、1.5625μMおよび0.78125μMであり、RGDTFペプチド以外のペプチドが10μM、5μM、2.5μM、1.25μM、0.625μM、0.3125μM、0.15625μMおよび0.078125μMである。
【0133】
図5Bにおいて、HeLa細胞接着(%)は、ペプチドを添加していないコントロールにおけるHeLa細胞接着数を100%としたときの比率を示す。
【0134】
図5Bに示すように、ペプチドが環状構造を有することで、よりも高い阻害活性を有することが分かる。特に、c(RGDTFGC)ペプチドおよびc(RGDTFAC)ペプチドは、シレンギチドと同等以上の阻害活性を有することが分かる。