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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182693
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20221201BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B23K26/53
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090392
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
(72)【発明者】
【氏名】城庵 颯
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CA06
4E168CA07
4E168CA13
4E168CB07
4E168CB13
4E168DA43
4E168EA11
4E168HA01
4E168JA12
5F063AA02
5F063AA21
5F063BA33
5F063BA34
5F063BA45
5F063CB03
5F063CB07
5F063CB20
5F063DD27
5F063DD31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】半導体基板の内部に複数列の分割用の改質領域を形成するレーザ加工装置において、レーザ加工精度を向上させること。
【解決手段】レーザ加工装置は、レーザ照射ユニット3と制御部8とを備え、制御部8は、X方向に延びるラインのそれぞれに沿って、分割用の改質領域が形成され該改質領域12a,bから表面21a方向に亀裂14が延びるようにレーザ照射ユニット3を制御する第1制御と、第1制御後において、Y方向に複数のラインのそれぞれに沿って、分割用の改質領域が形成され改質領域から表面21a方向に亀裂14が延びるようにレーザ照射ユニット3を制御する第2制御と、第2制御前において、反り抑制用の複数の改質領域から延びる亀裂14が、裏面21bに到達すると共に分割用の改質領域から延びる亀裂14に連続せずに形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御する第3制御と、を実行するように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む対象物の前記第1面を入射面として前記対象物にレーザ光を照射するレーザ照射部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記入射面に沿う第1方向に延びる複数の第1ラインのそれぞれに沿って、前記レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に分割用の第1改質領域が形成され該第1改質領域から前記第2面方向に亀裂が延びるように前記レーザ照射部を制御する第1制御と、
前記第1制御後において、前記第1方向に交差すると共に前記入射面に沿う第2方向に延びる複数の第2ラインのそれぞれに沿って、前記レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に分割用の第2改質領域が形成され該第2改質領域から前記第2面方向に亀裂が延びるように前記レーザ照射部を制御する第2制御と、
前記第2制御前において、前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に反り抑制用の複数の第3改質領域が形成され該第3改質領域から延びる亀裂が、前記第1面に到達すると共に前記第1改質領域から延びる亀裂に連続せずに形成されるように、前記レーザ照射部を制御する第3制御と、を実行するように構成されている、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第3制御において、前記第2方向における前記第1改質領域の形成位置と異なる位置に前記第3改質領域が形成されるように、前記レーザ照射部を制御する、請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第3制御において、前記第2方向で隣り合う2つの前記第1ラインそれぞれの形成位置の前記第2方向における中間の位置に前記第3改質領域が形成されるように、前記レーザ照射部を制御する、請求項2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ照射部は、設定された変調パターンに応じて前記レーザ光を変調する空間光変調器を有しており、
前記制御部は、前記第3制御において、前記第2方向における前記第1改質領域の形成位置と異なる位置に前記第3改質領域が形成されるように前記変調パターンを設定する、請求項2又は3記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記レーザ照射部は、設定された変調パターンに応じて前記レーザ光を変調する空間光変調器を有しており、
前記制御部は、前記第1制御及び前記第3制御の少なくともいずれか一方において、前記第1改質領域から延びる亀裂の前記第1面側の端部の位置が、前記第3改質領域から延びる亀裂の前記第2面側の端部の位置と異なるように、前記変調パターンを設定する、請求項1~4のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第3制御において、前記第1改質領域から延びる亀裂よりも前記第3改質領域から延びる亀裂が短くなるように、前記レーザ照射部を制御する、請求項1~5のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第3制御では、前記第2方向において、前記第1改質領域の数よりも多くの数の前記第3改質領域が形成されるように、前記レーザ照射部を制御する、請求項6記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第3制御において、前記対象物の前記第2方向における中央部の前記第3改質領域と両端部の前記第3改質領域とを比較した場合に、前記両端部のほうが前記第2方向における前記第3改質領域の数が多くなること、及び、前記両端部のほうが前記第3改質領域から延びる亀裂の長さが長くなること、の少なくともいずれか一方が満たされるよう前記第3改質領域が形成されるように、前記レーザ照射部を制御する、請求項1~7のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1制御におけるいずれかの前記第1ラインに係る前記第1改質領域の形成と、前記第3制御における前記第3改質領域の形成とを、交互に実施するように、前記レーザ照射部を制御する、請求項1~8のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に反り抑制用の複数の第4改質領域が形成され該第4改質領域から延びる亀裂が、前記第1面に到達すると共に前記第2改質領域から延びる亀裂に連続せずに形成されるように、前記レーザ照射部を制御する第4制御を更に実行するように構成されており、
前記第2制御におけるいずれかの前記第2ラインに係る前記第2改質領域の形成と、前記第4制御における前記第4改質領域の形成とを、交互に実施するように、前記レーザ照射部を制御する、請求項9記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む対象物の前記第1面を入射面として前記対象物にレーザ光を照射し、前記対象物のレーザ加工を行うレーザ加工方法であって、
前記入射面に沿う第1方向に延びる複数の第1ラインのそれぞれに沿って、前記レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に分割用の第1改質領域を形成し、該第1改質領域から前記第2面方向に延びる亀裂を形成する第1工程と、
前記第1工程後において、前記第1方向に交差すると共に前記入射面に沿う第2方向に延びる複数の第2ラインのそれぞれに沿って、前記レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に分割用の第2改質領域を形成し、該第2改質領域から前記第2面方向に延びる亀裂を形成する第2工程と、
前記第2工程前において、前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に反り抑制用の複数の第3改質領域を形成し、該第3改質領域から前記第1面に到達すると共に前記第1改質領域から延びる亀裂に連続しない亀裂を形成する第3工程と、を備えるレーザ加工方法。
【請求項12】
前記第3工程では、前記第2方向における前記第1改質領域の形成位置と異なる位置に前記第3改質領域を形成する、請求項11記載のレーザ加工方法。
【請求項13】
前記第3工程では、前記第2方向で隣り合う2つの前記第1ラインそれぞれの形成位置の前記第2方向における中間の位置に前記第3改質領域を形成する、請求項12記載のレーザ加工方法。
【請求項14】
前記第3工程では、前記レーザ光を変調する空間光変調器の変調パターンを設定することにより、前記第2方向における前記第1改質領域の形成位置と異なる位置に前記第3改質領域を形成する、請求項12又は13記載のレーザ加工方法。
【請求項15】
前記第1工程及び前記第3工程の少なくともいずれか一方では、前記レーザ光を変調する空間光変調器の変調パターンを設定することにより、前記第1改質領域から延びる亀裂の前記第1面側の端部の位置と、前記第3改質領域から延びる亀裂の前記第2面側の端部の位置とを異ならせる、請求項11~14のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項16】
前記3工程では、前記第1改質領域から延びる亀裂よりも前記第3改質領域から延びる亀裂が短くなるように、前記第3改質領域を形成する、請求項11~15のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項17】
前記第3工程では、前記第2方向において、前記第1改質領域の数よりも多くの数の前記第3改質領域を形成する、請求項16記載のレーザ加工方法。
【請求項18】
前記第3工程では、前記対象物の前記第2方向における中央部の前記第3改質領域と両端部の前記第3改質領域とを比較した場合に、前記両端部のほうが前記第2方向における前記第3改質領域の数が多くなること、及び、前記両端部のほうが前記第3改質領域から延びる亀裂の長さが長くなること、の少なくともいずれか一方が満たされるよう前記第3改質領域を形成する、請求項11~17のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項19】
前記第1工程におけるいずれかの前記第1ラインに係る前記第1改質領域の形成と、前記第3工程における前記第3改質領域の形成とを、交互に実施する、請求項11~18のいずれか一項記載のレーザ加工方法。
【請求項20】
前記レーザ光の照射によって前記対象物の内部に反り抑制用の複数の第4改質領域を形成し、該第4改質領域から前記第1面に到達すると共に前記第2改質領域から延びる亀裂に連続しない亀裂を形成する第4工程を更に備え、
前記第2工程におけるいずれかの前記第2ラインに係る前記第2改質領域の形成と、前記第4工程における前記第4改質領域の形成とを、交互に実施する、請求項19記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板と、半導体基板の一方の表面に形成された機能素子層と、を備えるウエハを複数のラインのそれぞれに沿って切断するために、半導体基板の他方の面側からウエハにレーザ光を照射することにより、複数のラインのそれぞれに沿って半導体基板の内部に複数列の分割(切断)用の改質領域を形成するレーザ加工装置が知られている(例えば特許文献1参照)。このようなレーザ加工装置では、改質領域を形成する加工後に、改質領域を研削することにより、抗折強度の強い半導体チップを生産することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第376209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工装置を用いたレーザ加工では、互いに交差する複数のラインに沿って順次分割用の改質領域の形成が行われる場合がある。この場合、先にレーザ光が照射されるライン(第1ライン)に沿った改質領域の形成によってウエハに反りが生じ、当該ウエハの反りの影響によって、後にレーザ光が照射される交差するライン(第2ライン)の加工の精度が低下するおそれがある。すなわち、反りが生じた状態で、後にレーザ光が照射されるライン(第2ライン)の加工が実施されると、第2ラインの加工時におけるレーザ光の集光スポット調整のためのオートフォーカス等の精度を担保することが難しくなり、適切に改質領域の形成等が行えなくなるおそれがある。
【0005】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、対象物に対して適切に分割用の改質領域を形成し、レーザ加工精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、第1面と第1面の反対側の第2面とを含む対象物の第1面を入射面として対象物にレーザ光を照射するレーザ照射部と、制御部と、を備え、制御部は、入射面に沿う第1方向に延びる複数の第1ラインのそれぞれに沿って、レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、レーザ光の照射によって対象物の内部に分割用の第1改質領域が形成され該第1改質領域から第2面方向に亀裂が延びるようにレーザ照射部を制御する第1制御と、第1制御後において、第1方向に交差すると共に入射面に沿う第2方向に延びる複数の第2ラインのそれぞれに沿って、レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、レーザ光の照射によって対象物の内部に分割用の第2改質領域が形成され該第2改質領域から第2面方向に亀裂が延びるようにレーザ照射部を制御する第2制御と、第2制御前において、レーザ光の照射によって対象物の内部に反り抑制用の複数の第3改質領域が形成され該第3改質領域から延びる亀裂が、第1面に到達すると共に第1改質領域から延びる亀裂に連続せずに形成されるように、レーザ照射部を制御する第3制御と、を実行するように構成されている。
【0007】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、レーザ光の照射によって、入射面に沿う第1方向に延びる複数の第1ラインのそれぞれに沿って分割用の第1改質領域が形成され第1改質領域から第2面方向に延びる亀裂が形成され、その後に、レーザ光の照射によって、第1方向に交差すると共に入射面に沿う第2方向に延びる複数の第2ラインのそれぞれに沿って分割用の第2改質領域が形成され第2改質領域から第2面方向に延びる亀裂が形成される。このように、互いに交差する複数のラインに沿って順次改質領域の形成が行われる場合、先にレーザ光が照射されるライン(第1ライン)に沿った第1改質領域の形成によって対象物に反りが生じ、当該対象物の反りの影響によって、後にレーザ光が照射されるライン(第2ライン)の加工の精度が低下するおそれがある。対象物の反りは、具体的には、第1改質領域の形成及び第1改質領域から第2面方向に延びる亀裂の形成によって、対象物の片面(ここでは、亀裂が主に延びる方向である第2面)に応力が集中することにより生じる。このような対象物の反りは、対象物が微小チップである場合や比較的大きな亀裂を形成する場合において特に顕著になる。そして、反りが生じた状態で、後にレーザ光が照射されるライン(第2ライン)の加工が実施されると、第2ラインの加工時におけるレーザ光の集光スポット調整のためのオートフォーカス等の精度を担保することが難しくなり、適切に第2改質領域の形成等が行えなくなるおそれがある。
【0008】
この点、本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、第2ラインの加工に関する制御(第2制御)に先行して、レーザ光の照射により対象物の内部に反り抑制用の複数の第3改質領域が形成され、該第3改質領域から延びる亀裂が、第1面に到達すると共に第1改質領域から延びる亀裂に連続しないように形成される。このように、分割用の第1改質領域の形成によって応力が集中する第2面とは反対側の第1面に亀裂が到達するように第3改質領域が形成されることによって、応力の局在化が緩和され、対象物の反りを軽減することができる。これにより、反り抑制用の第3改質領域の形成後に実施される第2ラインの加工において、適切に第2改質領域を形成することが可能になる。そして、第3改質領域から延びる亀裂が第1改質領域から延びる亀裂に連続しないように形成されていることにより、反り抑制用の第3改質領域が形成されることによって意図しない対象物の割れが発生することを適切に抑制することができる。以上のように、本発明の一態様に係るレーザ加工装置によれば、対象物の意図しない割れが生じることを抑制しながら、対象物に対して適切に分割用の改質領域を形成することができ、レーザ加工精度を向上させることができる。
【0009】
制御部は、第3制御において、第2方向における第1改質領域の形成位置と異なる位置に第3改質領域が形成されるように、レーザ照射部を制御してもよい。これにより、第1改質領域からの亀裂と第3改質領域からの亀裂とが連続することを適切に回避することができ、対象物の意図しない割れが生じることをより好適に抑制できる。
【0010】
制御部は、第3制御において、第2方向で隣り合う2つの第1ラインそれぞれの形成位置の第2方向における中間の位置に第3改質領域が形成されるように、レーザ照射部を制御してもよい。2つの第1ラインに挟まれたちょうど真ん中の位置に第3改質領域が形成されることにより、いずれの第1ラインの改質領域とも第3改質領域との離間距離を大きくすることができ、第1改質領域の亀裂と第3改質領域の亀裂とが連続することを適切に回避することができる。これにより、対象物の意図しない割れが生じることを好適に抑制できる。
【0011】
レーザ照射部は、設定された変調パターンに応じてレーザ光を変調する空間光変調器を有しており、制御部は、第3制御において、第2方向における第1改質領域の形成位置と異なる位置に第3改質領域が形成されるように変調パターンを設定してもよい。このように、空間光変調器の変調パターンの設定によって第3改質領域の形成位置が調整されることにより、ステージ動作によって改質領域の形成位置が変更される場合と比較して、加工時間を短縮することができる。
【0012】
レーザ照射部は、設定された変調パターンに応じてレーザ光を変調する空間光変調器を有しており、制御部は、第1制御及び第3制御の少なくともいずれか一方において、第1改質領域から延びる亀裂の第1面側の端部の位置が、第3改質領域から延びる亀裂の第2面側の端部の位置と異なるように、変調パターンを設定してもよい。このように、空間光変調器の変調パターンの設定によって改質領域から延びる亀裂の端部の位置が調整されることにより、亀裂の端部の位置を適切に調整し、亀裂同士が連続することによって対象物の意図しない割れが生じることをより好適に抑制できる。
【0013】
制御部は、第3制御において、第1改質領域から延びる亀裂よりも第3改質領域から延びる亀裂が短くなるように、レーザ照射部を制御してもよい。反り抑制用の第3改質領域から延びる亀裂については、分割用の第1改質領域から延びる亀裂と異なり、分割に寄与させたい亀裂ではないため、短くされることにより、亀裂同士が連続することによって対象物の意図しない割れが生じることをより好適に抑制できる。
【0014】
制御部は、第3制御では、第2方向において、第1改質領域の数よりも多くの数の第3改質領域が形成されるように、レーザ照射部を制御してもよい。上述したように、適切な分割を行う点においては反り抑制用の第3改質領域から延びる亀裂を短くしたい。しかしながら、第3改質領域から延びる亀裂が短くされた場合には、反り抑制の効果が十分に奏されないおそれがある。この点、第2方向において第3改質領域の数が多く(第1改質領域よりも多く)されることにより、多数の第3改質領域から延びる亀裂によって、反り抑制効果についても十分に発揮しながら、対象物の意図しない割れが生じることを抑制することができる。
【0015】
制御部は、第3制御において、対象物の第2方向における中央部の第3改質領域と両端部の第3改質領域とを比較した場合に、両端部のほうが第2方向における第3改質領域の数が多くなること、及び、両端部のほうが第3改質領域から延びる亀裂の長さが長くなること、の少なくともいずれか一方が満たされるよう第3改質領域が形成されるように、レーザ照射部を制御してもよい。第1改質領域が形成されることによる対象物の反りは、第2方向における両端部ほど顕著となる。この点、対象物の第2方向における中央部よりも両端部において、第3改質領域の数が多くされるか、または、第3改質領域から延びる亀裂の長さが長くされることにより、反りが顕著となる第2方向両端部における対象物の反りを効果的に抑制することができる。
【0016】
制御部は、第1制御におけるいずれかの第1ラインに係る第1改質領域の形成と、第3制御における第3改質領域の形成とを、交互に実施するように、レーザ照射部を制御してもよい。第1改質領域の形成による対象物の反りは、複数の第1ラインに係る第1改質領域の形成が進むにつれて徐々に進行する。そのため、先に加工が実施される第1ラインの加工の影響は、後に加工が実施される第1ラインの加工に及ぼされることとなる。すなわち、複数の第1ラインのうち、比較的後半に加工が実施される第1ラインの加工においては、対象物が反った状態で第1改質領域が形成されることとなるので、例えば対象物の第2面に対して斜めに亀裂が延びたり、加工位置精度が悪化したり、加工時の吸着不良が生じるおそれがある。この点、分割用の第1改質領域の形成と反り抑制用の第3改質領域の形成とが交互に実施されることにより、先に実施された第1ラインの加工の影響が後に実施される第1ラインの加工に及ぼされることが抑制され、対象物に対して適切に分割用の第1改質領域を形成することができる。
【0017】
制御部は、レーザ光の照射によって対象物の内部に反り抑制用の複数の第4改質領域が形成され該第4改質領域から延びる亀裂が、第1面に到達すると共に第2改質領域から延びる亀裂に連続せずに形成されるように、レーザ照射部を制御する第4制御を更に実行するように構成されており、第2制御におけるいずれかの第2ラインに係る第2改質領域の形成と、第4制御における第4改質領域の形成とを、交互に実施するように、レーザ照射部を制御してもよい。このように、第2ラインに係る第2改質領域の形成と、反り抑制用の第4改質領域の形成とが交互に実施されることにより、先に実施された第2ラインの加工の影響が後に実施される第2ラインの加工に及ぼされることが抑制され、対象物に対して適切に分割用の第2改質領域を形成することができる。
【0018】
本発明の一態様に係るレーザ加工方法は、第1面と第1面の反対側の第2面とを含む対象物の第1面を入射面として対象物にレーザ光を照射し、対象物のレーザ加工を行うレーザ加工方法であって、入射面に沿う第1方向に延びる複数の第1ラインのそれぞれに沿って、レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、レーザ光の照射によって対象物の内部に分割用の第1改質領域を形成し、該第1改質領域から第2面方向に延びる亀裂を形成する第1工程と、第1工程後において、第1方向に交差すると共に入射面に沿う第2方向に延びる複数の第2ラインのそれぞれに沿って、レーザ光の集光スポットを相対移動させながら、レーザ光の照射によって対象物の内部に分割用の第2改質領域を形成し、該第2改質領域から第2面方向に延びる亀裂を形成する第2工程と、第2工程前において、レーザ光の照射によって対象物の内部に反り抑制用の複数の第3改質領域を形成し、該第3改質領域から第1面に到達すると共に第1改質領域から延びる亀裂に連続しない亀裂を形成する第3工程と、を備える。
【0019】
第3工程では、第2方向における第1改質領域の形成位置と異なる位置に第3改質領域を形成してもよい。
【0020】
第3工程では、第2方向で隣り合う2つの第1ラインそれぞれの形成位置の第2方向における中間の位置に第3改質領域を形成してもよい。
【0021】
第3工程では、レーザ光を変調する空間光変調器の変調パターンを設定することにより、第2方向における第1改質領域の形成位置と異なる位置に第3改質領域を形成してもよい。
【0022】
第1工程及び第3工程の少なくともいずれか一方では、レーザ光を変調する空間光変調器の変調パターンを設定することにより、第1改質領域から延びる亀裂の第1面側の端部の位置と、第3改質領域から延びる亀裂の第2面側の端部の位置とを異ならせてもよい。
【0023】
第3工程では、第1改質領域から延びる亀裂よりも第3改質領域から延びる亀裂が短くなるように、第3改質領域を形成してもよい。
【0024】
第3工程では、第2方向において、第1改質領域の数よりも多くの数の第3改質領域を形成してもよい。
【0025】
第3工程では、対象物の第2方向における中央部の第3改質領域と両端部の第3改質領域とを比較した場合に、両端部のほうが第2方向における第3改質領域の数が多くなること、及び、両端部のほうが第3改質領域から延びる亀裂の長さが長くなること、の少なくともいずれか一方が満たされるよう第3改質領域を形成してもよい。
【0026】
第1工程におけるいずれかの第1ラインに係る第1改質領域の形成と、第3工程における第3改質領域の形成とを、交互に実施してもよい。
【0027】
上記レーザ加工方法は、レーザ光の照射によって対象物の内部に反り抑制用の複数の第4改質領域を形成し、該第4改質領域から第1面に到達すると共に第2改質領域から延びる亀裂に連続しない亀裂を形成する第4工程を更に備え、第2工程におけるいずれかの第2ラインに係る第2改質領域の形成と、第4工程における第4改質領域の形成とを、交互に実施してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、対象物に対して適切に分割用の改質領域を形成し、レーザ加工精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】一実施形態の検査装置の構成図である。
図2】一実施形態のウエハの平面図である。
図3図2に示されるウエハの一部分の断面図である。
図4図1に示されるレーザ照射ユニットの構成図である。
図5図4示される4fレンズユニットを示す図である。
図6図4に示される空間光変調器を示す図である。
図7図1に示される検査用撮像ユニットの構成図である。
図8図1に示されるアライメント補正用撮像ユニットの構成図である。
図9】ウエハ反りの発生原理を説明する図である。
図10】CH1加工後のCH2加工進行方向の反りを示す図である。
図11】CH2加工時のAF(オートフォーカス)追従不良について説明する図である。
図12】反り抑制用の改質領域の形成について説明する図である。
図13】チップ中央位置付近における反り抑制用の改質領域の形成について説明する図である。
図14】多点分岐加工による反り抑制用の改質領域の形成について説明する図である。
図15】ウエハの外周部分における反りを重点的に抑制するための加工方法について説明する図である。
図16】反り抑制用の改質領域の形成態様別の、CH1加工後のCH2加工進行方向の反りを示す図である。
図17】空間光変調器の変調パターン設定による加工位置シフトを説明する図である。
図18】空間光変調器の変調パターン設定による斜め亀裂の形成を説明する図である。
図19】CH1後半加工時の加工安定悪化について説明する図である。
図20】分割用の改質領域と反り抑制用の改質領域とを交互に形成する加工方法を説明する図である。
図21】本実施形態に係る作用効果を説明する図であり、CH1加工後のCH2加工進行方向の反りを示す図である。
図22】本実施形態に係る作用効果を説明する図であり、CH2加工後のウエハの反りを示す図である。
図23】CH1加工後のCH1加工進行方向の反りを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0031】
[検査装置の構成]
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ照射ユニット3と、複数の撮像ユニット4,5,6と、駆動ユニット9と、制御部8と、ディスプレイ150(表示部)とを備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。
【0032】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能であり、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。なお、X方向及びY方向は、互いに垂直な第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は、鉛直方向である。
【0033】
レーザ照射ユニット3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光スポットCに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0034】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延び易いという特性を有している。このような改質領域12の特性は、対象物11の切断に利用される。
【0035】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光スポットCをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光スポットCの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0036】
撮像ユニット4は、対象物11に形成された改質領域12、及び改質領域12から延びた亀裂の先端を撮像可能に構成されている。なお、撮像ユニット4については、必須の構成要素ではないが、本実施形態ではレーザ加工装置1が撮像ユニット4を有しているとして説明する。
【0037】
撮像ユニット5及び撮像ユニット6は、制御部8の制御のもとで、ステージ2に支持された対象物11を、対象物11を透過する光により撮像する。撮像ユニット5,6が撮像することにより得られた画像は、一例として、レーザ光Lの照射位置のアライメントに供される。なお、撮像ユニット5,6については、必須の構成要素ではないが、本実施形態ではレーザ加工装置1が撮像ユニット5,6を有しているとして説明する。
【0038】
駆動ユニット9は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6を支持している。駆動ユニット9は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6をZ方向に沿って移動させる。
【0039】
制御部8は、ステージ2、レーザ照射ユニット3、複数の撮像ユニット4,5,6、及び駆動ユニット9の動作を制御する。制御部8は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部8では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。
【0040】
ディスプレイ150は、ユーザから情報の入力を受付ける入力部としての機能と、ユーザに対して情報を表示する表示部としての機能とを有している。
【0041】
[対象物の構成]
本実施形態の対象物11は、図2及び図3に示されるように、ウエハ20である。ウエハ20は、半導体基板21と、機能素子層22と、を備えている。なお、本実施形態では、ウエハ20は機能素子層22を有するとして説明するが、ウエハ20は機能素子層22を有していても有していなくてもよく、ベアウエハであってもよい。半導体基板21は、表面21a及び裏面21bを有している。半導体基板21は、例えば、シリコン基板である。機能素子層22は、半導体基板21の表面21aに形成されている。機能素子層22は、表面21aに沿って2次元に配列された複数の機能素子22aを含んでいる。機能素子22aは、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。機能素子22aは、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。なお、半導体基板21には、結晶方位を示すノッチ21cが設けられているが、ノッチ21cの替わりにオリエンテーションフラットが設けられていてもよい。
【0042】
ウエハ20は、複数のライン15のそれぞれに沿って機能素子22aごとに切断される。複数のライン15は、ウエハ20の厚さ方向から見た場合に複数の機能素子22aのそれぞれの間を通っている。より具体的には、ライン15は、ウエハ20の厚さ方向から見た場合にストリート領域23の中心(幅方向における中心)を通っている。ストリート領域23は、機能素子層22において、隣り合う機能素子22aの間を通るように延在している。本実施形態では、複数の機能素子22aは、表面21aに沿ってマトリックス状に配列されており、複数のライン15は、格子状に設定されている。すなわち、ウエハ20では、X方向に延びる複数のライン15(第1ライン)と、Y方向に延びる複数のライン15(第2ライン)とが設定されている。なお、ライン15は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。
【0043】
[レーザ照射ユニットの構成]
図4に示されるように、レーザ照射ユニット3は、光源31(レーザ照射部)と、空間光変調器7と、集光レンズ33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。空間光変調器7は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器7は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ33は、空間光変調器7によって変調されたレーザ光Lを集光する。なお、集光レンズ33は、補正環レンズであってもよい。
【0044】
本実施形態では、レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウエハ20にレーザ光Lを照射することにより、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の内部に改質領域12(例えば2列の改質領域12a,12b)を形成する。改質領域12aは、2列の改質領域12a,12bのうち表面21aに最も近い改質領域である。改質領域12bは、2列の改質領域12a,12bのうち、改質領域12aに最も近い改質領域であって、裏面21bに最も近い改質領域である。
【0045】
2列の改質領域12a,12bは、ウエハ20の厚さ方向(Z方向)において隣り合っている。2列の改質領域12a,12bは、半導体基板21に対して2つの集光スポットC1,C2がライン15に沿って相対的に移動させられることにより形成される。レーザ光Lは、例えば集光スポットC1に対して集光スポットC2が進行方向の後側且つレーザ光Lの入射側に位置するように、空間光変調器7によって変調される。なお、改質領域の形成に関しては、単焦点であっても多焦点であってもよいし、1つの切断予定ラインに1列の改質領域を形成(1パス)であっても複数列の改質領域を形成(複数パス)であってもよい。
【0046】
このような2列の改質領域12a,12b及び亀裂14の形成は、次のような場合に実施される。すなわち、後の工程において、例えば、半導体基板21の裏面21bを研削することにより半導体基板21を薄化すると共に亀裂14を裏面21bに露出させ、複数のライン15のそれぞれに沿ってウエハ20を複数の半導体デバイスに切断する場合である。
【0047】
図5に示されるように、4fレンズユニット34は、空間光変調器7から集光レンズ33に向かうレーザ光Lの光路上に配列された一対のレンズ34A,34Bを有している。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器7の変調面7aと集光レンズ33の入射瞳面(瞳面)33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像(空間光変調器7において変調されたレーザ光Lの像)が、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、図中のFsはフーリエ面を示す。
【0048】
図6に示されるように、空間光変調器7は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器7は、半導体基板71上に、駆動回路層72、画素電極層73、反射膜74、配向膜75、液晶層76、配向膜77、透明導電膜78及び透明基板79がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0049】
半導体基板71は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層72は、半導体基板71上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層73は、半導体基板71の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極73aを含んでいる。各画素電極73aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極73aには、駆動回路層72によって電圧が印加される。
【0050】
反射膜74は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜75は、液晶層76における反射膜74側の表面に設けられており、配向膜77は、液晶層76における反射膜74とは反対側の表面に設けられている。各配向膜75,77は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜75,77における液晶層76との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜75,77は、液晶層76に含まれる液晶分子76aを一定方向に配列させる。
【0051】
透明導電膜78は、透明基板79における配向膜77側の表面に設けられており、液晶層76等を挟んで画素電極層73と向かい合っている。透明基板79は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜78は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板79及び透明導電膜78は、レーザ光Lを透過させる。
【0052】
以上のように構成された空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部8から駆動回路層72に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極73aに印加され、各画素電極73aと透明導電膜78との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層76において、各画素電極73aに対応する領域ごとに液晶分子76aの配列方向が変化し、各画素電極73aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層76に変調パターンが表示された状態である。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。
【0053】
すなわち、液晶層76に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板79及び透明導電膜78を介して液晶層76に入射し、反射膜74で反射されて、液晶層76から透明導電膜78及び透明基板79を介して外部に出射させられると、液晶層76に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器7によれば、液晶層76に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。なお、図5に示された変調面7aは、例えば液晶層76である。
【0054】
以上のように、光源31から出力されたレーザ光Lが、空間光変調器7及び4fレンズユニット34を介して集光レンズ33に入射され、集光レンズ33によって対象物11内に集光されることにより、その集光スポットCにおいて対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂が形成される。さらに、制御部8がステージ2を制御することにより、集光スポットCをウエハ20に対して相対移動させることにより、集光スポットCの移動方向に沿って改質領域12及び亀裂が形成されることとなる。
【0055】
図4に示されるように、レーザ照射ユニット3は、AF(オートフォーカス)ユニット91(測定部,測定ユニット)を更に有している。AFユニット91は、ウエハ20における入射面である裏面21bに厚さ方向(Z方向)の変位(うねり)が存在する場合においても、裏面21bから所定距離の位置にレーザ光Lの集光スポットを精度良く合わせるための構成である。AFユニット91は、光源31によってウエハ20に照射されるレーザ光Lの集光スポットを調整するために、裏面21b(測定対象面)における変位を測定する。AFユニット91は、具体的には、AF用レーザ光LA(測定光)を裏面21bに照射すると共に、裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光を受光し検出することにより、裏面21bの変位データを取得する(変位を測定する)。
【0056】
AFユニット91は、AF用レーザ光LAを出力するAF用光源91aと、AF用レーザ光LAの反射光を受光し検出する変位検出部91bと、を有している。AF用光源91aから出射されたAF用レーザ光LAは、AF用ダイクロイックミラー92において反射され、集光レンズ33を経て裏面21bに照射される。このように、AF用レーザ光LAとレーザ光Lとは、同じ集光レンズ33からウエハ20に照射される(同軸である)。そして、裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光は、AF用ダイクロイックミラー92において反射され変位検出部91bに検出される。変位検出部91bは、例えば4分割フォトダイオードを含んで構成されている。4分割フォトダイオードは、AF用レーザ光LAの反射光の集光像を分割して受光し、それぞれの光量に応じた電圧値を出力する構成である。当該集光像は、AF用レーザ光LAの反射光に非点収差が付加されているため、AF用レーザ光LAの集光スポットに対してウエハ20の裏面21bがどの位置にあるかによって、形状(縦長、真円、横長)が変化する。すなわち、集光像は、集光スポットに対するウエハ20の裏面21bの位置に応じて変化する。そのため、4分割フォトダイオードから出力される電圧値は、AF用レーザ光LAの集光スポットに対するウエハ20の裏面21bの位置に応じて変化することとなる。
【0057】
変位検出部91bの4分割フォトダイオードから出力される電圧値は、制御部8に入力される。制御部8は、変位検出部91bの4分割フォトダイオードから出力された電圧値に基づいて、AF用レーザ光LAの集光スポットに対するウエハ20の裏面21bの位置に関する位置情報として演算値を演算する。そして、制御部8は、当該演算値に基づき、駆動ユニット9(アクチュエータ)を制御して、光源31から照射されるレーザ光Lの集光スポットの位置が裏面21bから一定の深さとなるように集光レンズ33の位置を上下方向に微調整する。このように、レーザ光Lによるレーザ加工と共に(レーザ加工に先行して)AFユニット91による測距結果に基づく制御が行われることにより、入射面である裏面21bにうねりが存在する場合においても、裏面21bから所定距離の位置にレーザ光Lの集光スポットを精度良く合わせることができる。
【0058】
[検査用撮像ユニットの構成]
図7に示されるように、撮像ユニット4(撮像部)は、光源41と、ミラー42と、対物レンズ43と、光検出部44と、を有している。撮像ユニット4はウエハ20を撮像する。光源41は、半導体基板21に対して透過性を有する光I1を出力する。光源41は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I1を出力する。光源41から出力された光I1は、ミラー42によって反射されて対物レンズ43を通過し、半導体基板21の裏面21b側からウエハ20に照射される。このとき、ステージ2は、上述したように2列の改質領域12a,12bが形成されたウエハ20を支持している。
【0059】
対物レンズ43は、半導体基板21の表面21aで反射された光I1を通過させる。つまり、対物レンズ43は、半導体基板21を伝搬した光I1を通過させる。対物レンズ43の開口数(NA)は、例えば0.45以上である。対物レンズ43は、補正環43aを有している。補正環43aは、例えば対物レンズ43を構成する複数のレンズにおける相互間の距離を調整することにより、半導体基板21内において光I1に生じる収差を補正する。なお、収差を補正する手段は、補正環43aに限られず、空間光変調器等のその他の補正手段であってもよい。光検出部44は、対物レンズ43及びミラー42を透過した光I1を検出する。光検出部44は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I1を検出する。なお、近赤外領域の光I1を検出(撮像)する手段はInGaAsカメラに限られず、透過型コンフォーカル顕微鏡等、透過型の撮像を行うものであればその他の撮像手段であってもよい。
【0060】
撮像ユニット4は、2列の改質領域12a,12bのそれぞれ、及び、複数の亀裂14a,14b,14c,14dのそれぞれの先端を撮像することができる。亀裂14aは、改質領域12aから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14bは、改質領域12aから裏面21b側に延びる亀裂である。亀裂14cは、改質領域12bから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14dは、改質領域12bから裏面21b側に延びる亀裂である。
【0061】
[アライメント補正用撮像ユニットの構成]
図8に示されるように、撮像ユニット5は、光源51と、ミラー52と、レンズ53と、光検出部54と、を有している。光源51は、半導体基板21に対して透過性を有する光I2を出力する。光源51は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I2を出力する。光源51は、撮像ユニット4の光源41と共通化されていてもよい。光源51から出力された光I2は、ミラー52によって反射されてレンズ53を通過し、半導体基板21の裏面21b側からウエハ20に照射される。
【0062】
レンズ53は、半導体基板21の表面21aで反射された光I2を通過させる。つまり、レンズ53は、半導体基板21を伝搬した光I2を通過させる。レンズ53の開口数は、0.3以下である。すなわち、撮像ユニット4の対物レンズ43の開口数は、レンズ53の開口数よりも大きい。光検出部54は、レンズ53及びミラー52を通過した光I2を検出する。光検出部54は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I2を検出する。なお、光検出部54は、SDカメラであってもよく、透過性を有しない光を検出するものであってもよい。
【0063】
撮像ユニット5は、制御部8の制御のもとで、裏面21b側から光I2をウエハ20に照射すると共に、表面21a(機能素子層22)から戻る光I2を検出することにより、機能素子層22を撮像する。また、撮像ユニット5は、同様に、制御部8の制御のもとで、裏面21b側から光I2をウエハ20に照射すると共に、半導体基板21における改質領域12a,12bの形成位置から戻る光I2を検出することにより、改質領域12a,12bを含む領域の画像を取得する。これらの画像は、レーザ光Lの照射位置のアライメントに用いられる。撮像ユニット6は、レンズ53がより低倍率(例えば、撮像ユニット5においては6倍であり、撮像ユニット6においては1.5倍)である点を除いて、撮像ユニット5と同様の構成を備え、撮像ユニット5と同様にアライメントに用いられる。
【0064】
[レーザ加工方法の詳細]
以下では、レーザ加工装置1が実施するレーザ加工方法の詳細について説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法は、裏面21b(第1面)と、裏面21bの反対側の表面21a(第2面)とを含むウエハ20(対象物)の裏面21bを入射面としてウエハ20にレーザ光Lを照射し、ウエハ20のレーザ加工を行うレーザ加工方法である。本レーザ加工方法は、第1工程と、該第1工程よりも後に実施される第2工程と、を含んでいる。上述したように、ウエハ20は複数のライン15のそれぞれに沿って機能素子22aごとに切断される。第1工程では、裏面21bに沿うX方向(第1方向)に延びる複数のライン15(第1ライン,図2参照)のそれぞれに沿って、レーザ照射を行う。第2工程では、裏面21bに沿うY方向(第2方向)に延びる複数のライン15(第2ライン,図2参照)のそれぞれに沿って、レーザ照射を行う。以下では、第1工程の加工をCH1加工、第2工程の加工をCH2加工として説明する場合がある。
【0065】
詳細には、第1工程の加工(CH1加工)では、X方向に延びる複数のライン15のそれぞれに沿って、レーザ光Lの集光スポットを相対移動させながら、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に分割用の改質領域12(第1改質領域)を形成し、該改質領域12から表面21a方向に延びる亀裂14を形成する。制御部8は、このような亀裂14が形成されるようにレーザ照射ユニット3を制御する(第1制御)。ここでは、第1工程において、亀裂14が表面21aに到達したいわゆるBHC(Bottom side half-cut)状態となるように、改質領域12が形成されるとする。なお、第1工程においては、亀裂14が表面21aに到達していないいわゆるST(Stealth)状態となるように、改質領域12が形成されてもよい。また、第2工程の加工(CH2加工)では、Y方向に延びる複数のライン15のそれぞれに沿って、レーザ光Lの集光スポットを相対移動させながら、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に分割用の改質領域12(第2改質領域)を形成し、該改質領域12から表面21a方向に延びる亀裂14を形成する。制御部8は、このような亀裂14が形成されるようにレーザ照射ユニット3を制御する(第2制御)。ここでは、第2工程において、亀裂14が表面21aに到達したいわゆるBHC状態となるように、改質領域12が形成されるとする。なお、第2工程においては、亀裂14が表面21aに到達していないいわゆるST状態となるように、改質領域12が形成されてもよい。
【0066】
ここで、上述したCH1加工及びCH2加工のように、互いに交差する複数のライン15に沿って順次改質領域12の形成が行われる場合、先にレーザ光Lが照射されるX方向に延びるライン15(第1ライン)に沿った改質領域12の形成によって、ウエハ20に反りが生じることがある。図9は、ウエハ20の反りの発生原理を説明する図である。ウエハ20の反りは、具体的には、図9に示されるように、改質領域12の形成及び改質領域12から表面21a方向に延びる亀裂14の形成によって、ウエハ20の片面(ここでは、亀裂14が到達している表面21a)に応力が集中することにより生じる。図9に示される例では、CH1加工においてX方向に延びると共にY方向において互いに隣り合っている複数のライン15(第1ライン)に順次改質領域12が形成されて亀裂14が表面21a方向に延びることにより、特にウエハ20のY方向の両端部側において反り量が大きくなっている。すなわち、CH1加工によって、CH2加工における加工進行方向であるY方向における反りが生じている。このようなウエハ20の反りは、ウエハ20が微小チップである場合やウエハ20に比較的大きい亀裂14を形成する場合において特に顕著になる。
【0067】
図10は、CH1加工後且つCH2加工前の、CH2加工進行方向における反りを示す図である。図10において、横軸はCH2の加工進行方向(ウエハ20の幅方向)を示しており、縦軸は電圧値で示される変位量を示している。縦軸の電圧値1Vは、例えば8μm程度の変位量に相当する。図10には、ワークサイズ:775μm(65mm×36mm小片)、チップサイズ:1mm、研削後の仕上げ厚さ:80μm、分割用の改質領域:3パス(総亀裂約300μm、BHC亀裂約80μm)、測定点:小片の端部から1.5mmの位置、との条件でCH1加工を行った場合の結果の一例が示されている。図10からも明らかなように、CH1加工後においては、CH2加工進行方向の両端部(ウエハエッジ部)において反り量が大きくなっている。
【0068】
図11は、CH1加工後におけるCH2加工時のAF(オートフォーカス)追従不良について説明する図である。上述したように、レーザ照射ユニット3では、AFユニット91によって、裏面21bからの反射光が検出されることにより裏面21bの変位データが取得される。しかしながら、CH1加工後においては上述したようにウエハエッジ部における反り量が大きくなっており、AF追従不良が生じ、AFユニット91によっても裏面21bの正確な変位データが取得できないおそれがある。これによって、CH2加工時の改質領域12(第2改質領域)形成の精度が悪化するおそれがある。
【0069】
そこで、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第2工程前において、反り抑制に係る第3工程を実施する。第3工程では、第2工程前において、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に反り抑制用の改質領域12(第3改質領域)を形成し、該改質領域12から入射面である裏面21bに到達すると共に、分割用の改質領域12から延びる亀裂14に連続しない亀裂114(図12参照)を形成する。この場合、制御部8は、レーザ光Lの照射によって複数の反り抑制用の改質領域12が形成され該改質領域12から延びる亀裂114が裏面21bに到達すると共に分割用の改質領域12から延びる亀裂14に連続せずに形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御する(第3制御)。
【0070】
図12は、反り抑制用の改質領域12の形成について説明する図である。図12に示されるように、CH1加工において分割用の改質領域12が形成され、該改質領域12から表面21a方向に亀裂14が形成されるとする。CH1加工における分割用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂14は、例えば、X方向に延びるライン15(第1ライン)が形成された、ストリート領域23の中央に形成される。この場合、第3工程では、図12に示されるように、Y方向における、分割用の改質領域12(亀裂14に係る改質領域12)と異なる位置(分割用の改質領域12からずらした位置)に、反り抑制用の改質領域12(亀裂114に係る改質領域12)を形成する。すなわち、制御部8は、第3制御において、Y方向における分割用の改質領域12の形成位置と異なる位置に反り抑制用の改質領域12が形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御する。第3工程では、亀裂114が裏面21bに到達したいわゆるHC(Half-cut)状態となるように、反り抑制用の改質領域12を形成する。このように、HC状態とされることにより、反り抑制用の改質領域12由来の反りが生まれ、分割用の改質領域12由来の反りをより軽減することができる(詳細は後述)。分割用の改質領域12の位置と反り抑制用の改質領域12の位置(及び亀裂14の位置と亀裂114の位置)とのずらし方は限定されないが、例えば、ステージ2の動作、又は、空間光変調器7のYシフトパターン(詳細は後述)によって実施される。
【0071】
第3工程では、Y方向で隣り合う2つのライン15(第1ライン)それぞれの形成位置のY方向における中間の位置に、反り抑制用の改質領域12を形成してもよい。この場合、制御部8は、第3制御において、Y方向で隣り合う2つのライン15(第1ライン)それぞれの形成位置のY方向における中間の位置に反り抑制用の改質領域12が形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御する。上述したように、Y方向で隣り合ってX方向に延びるライン15(第1ライン)には、CH1加工において分割用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂14が形成される。そのため、Y方向で隣り合う2つのライン15それぞれの形成位置のY方向における中間の位置とは、切断(分割)後のチップ中央位置となる。図13は、チップ中央位置付近における反り抑制用の改質領域12の形成について説明する図である。第3工程において、このようなチップ中央位置に、反り抑制用の改質領域12が形成されることにより、分割用の改質領域12から延びる亀裂14と、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂14との離間距離を最大化することができ、これらの亀裂が連続することによるウエハ割れリスクを低減することができる。なお、図13(a)に示されるように、反り抑制用の改質領域12が形成されるチップ中央位置付近が機能素子22a上とされるため、アクティブエリア上に反り抑制用の改質領域12を形成することになるが、第3工程における集光スポットから機能素子22aまでの距離を十分に遠くすることができるため、第3工程のレーザ照射に係る抜け光によって機能素子22aが損傷することはない。そして、図13(b)に示されるように、反り抑制用の改質領域12については後の研削において除去されるため、第3工程においてアクティブエリア上に反り抑制用の改質領域12が形成されていても、チップ化された半導体デバイスに影響を及ぼすことはない。
【0072】
第3工程では、分割用の改質領域12から延びる亀裂14よりも反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114が短くなるように、亀裂114を形成してもよい。更に、第3工程では、亀裂114の長さを上記のように短くしつつ、第2方向において、分割用の改質領域12よりも多くの数の反り抑制用の改質領域12を形成してもよい。図14は、多点分岐加工による反り抑制用の改質領域の形成について説明する図である。反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114の長さを短くしつつ反り抑制用の改質領域12の数を多くする加工方法として、例えば、空間光変調器7に設定される変調パターン(多点分岐パターン)を利用した多点分岐加工が実施されてもよい。この場合、制御部8は、亀裂14よりも亀裂114が短くなり、且つ、分割用の改質領域12よりも多くの数の反り抑制用の改質領域12が形成されるように、変調パターン(多点分岐パターン)を空間光変調器7に設定する。図14に示されるように、空間光変調器7の多点分岐加工によって、一度に多数の反り抑制用の改質領域12が形成される。また、集光スポット数が増やされてエネルギーが分散されることにより、垂直方向の亀裂114を短く(ウエハ割れリスクを小さく)することができる。このような、空間光変調器7に設定される変調パターン(多点分岐パターン)を利用した多点分岐加工によれば、タクトを落とすことなく、ウエハ割れリスクを低減した反り抑制加工が可能である。なお、亀裂14よりも亀裂114を短くすると共に、分割用の改質領域12よりも多くの数の反り抑制用の改質領域12を形成する方法は、空間光変調器7による多点分岐加工に限定されず、例えば、テーブルを送り1ラインずつ加工されてもよい。
【0073】
第3工程では、反り量が大きくなるウエハ20の外周部分(CH2加工進行方向の両端部であるウエハエッジ部)の反りを重点的に抑制するように、反り抑制用の改質領域12が形成されてもよい。図15は、ウエハ20の外周部分における反りを重点的に抑制するための加工方法について説明する図である。図15(a)に示されるように、第3工程では、ウエハ20のY方向における中央部の反り抑制用の改質領域12と両端部の反り抑制用の改質領域12とを比較した場合に、両端部のほうが第2方向における反り抑制用の改質領域12の数が多くなるように、場所によって加工インデックスを変えて、反り抑制用の改質領域12を形成してもよい。この場合、制御部8は、第3制御において、Y方向における両端部のほうが反り抑制用の改質領域12の数が多くなるようにレーザ照射ユニット3を制御する。また、図15(b)に示されるように、第3工程では、ウエハ20のY方向における中央部の反り抑制用の改質領域12と両端部の反り抑制用の改質領域12とを比較した場合に、両端部の亀裂114である亀裂114Lの長さが中央部の亀裂114である亀裂114Sと比べて長くなるように、反り抑制用の改質領域12を形成してもよい。この場合、制御部8は、第3制御において、Y方向における両端部のほうが反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114の長さが長くなるようにレーザ照射ユニット3を制御する。
【0074】
図16は、反り抑制用の改質領域の形成態様別の、CH1加工後のCH2加工進行方向の反りを示す図である。図16において、横軸はCH2の加工進行方向(ウエハ20の幅方向)を示しており、縦軸は電圧値で示される変位量を示している。縦軸の電圧値1Vは、例えば8μm程度の変位量に相当する。図16には、ワークサイズ:775μm(65mm×36mm小片)、チップサイズ:1mm、研削後の仕上げ厚さ:80μm、分割用の改質領域:3パス(総亀裂約300μm、BHC亀裂約80μm)、測定点:小片の端部から1.5mmの位置、との条件でCH1加工を行った場合の結果の一例が示されている。図16には、分割用の改質領域12のみを形成した場合(パターン1)、分割用の改質領域12を形成すると共に同数の反り抑制用の改質領域12を形成した場合(パターン2)、及び、パターン2に加えてウエハ20の外周部分であるエッジ10mm部分については反り抑制用の改質領域12を2ライン形成した場合(パターン3)のそれぞれについて、反り量(変位量)が示されている。図16に示されるように、パターン3を採用した場合には、反り量が大きくなりやすいウエハ20の外周部分についても、反り量を抑えることができている。
【0075】
なお、図15(c)に示されるように、第3工程では、ウエハ20の中央部の反り抑制用の改質領域12が間引かれるように、各反り抑制用の改質領域12が形成されてもよい。例えば、ウエハ20の中央部においては反り量が極めて小さく、両端部のみにおいて反り量が大きくなっているような場合には、このように、ウエハ20の中央部の反り抑制用の改質領域12が間引かれても、ウエハ20の反りを適切に抑制することができる。
【0076】
第3工程では、レーザ光Lを変調する空間光変調器7の変調パターン(集光スポットをシフトさせる変調パターン)を設定することにより、Y方向における分割用の改質領域12と異なる位置に反り抑制用の改質領域12を形成してもよい。すなわち、制御部8は、第3制御において、Y方向における分割用の改質領域12の形成位置とは異なる位置に反り抑制用の改質領域12が形成されるように変調パターンを設定してもよい。図17は、空間光変調器7の変調パターン設定による加工位置シフトを説明する図である。図17に示される例では、第1工程において分割用の改質領域12の集光スポットを基準集光位置から-Y方向にシフトさせており、第3工程において反り抑制用の改質領域12の集光スポットを基準集光位置から+Y方向にシフトさせている。これにより、分割用の改質領域12及び反り抑制用の改質領域12をY方向において逆方向にシフトすることができ、これらの改質領域12同士の位置及びこれらの改質領域12から延びる亀裂14,114を十分に離間させることができる。そして、第1工程及び第3工程において、変調パターンの切り替えのみによって加工位置をシフトさせることができるため、ステージ2を動作させる場合と比較して、加工にかかる処理時間を短縮することができる。
【0077】
第1工程及び第3工程の少なくともいずれか一方では、空間光変調器7の変調パターンを設定することにより、分割用の改質領域12から延びる亀裂14の裏面21b側の端部の位置と、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114の表面21a側の表面21a側の端部の位置とを異ならせてもよい。すなわち、制御部8は、第1制御及び第3制御の少なくともいずれか一方において、分割用の改質領域12から延びる亀裂14の裏面21b側の端部の位置が、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114の表面21a側の端部の位置と異なるように、変調パターンを設定してもよい。ここでは、第1工程において空間光変調器7の変調パターンを設定することにより、亀裂14の裏面21b側の端部の位置と亀裂114の表面21a側の端部の位置とを異ならせるとして説明する。具体的には、第1工程において、Z方向及びY方向に対して傾斜する亀裂14を形成することにより、亀裂14の裏面21b側の端部の位置と亀裂114の表面21a側の端部の位置とを異ならせる(図18(a)参照)。
【0078】
図18は、空間光変調器の変調パターン設定による斜め亀裂の形成を説明する図である。図18(a)に示される例では、第1工程において、分割用の2列の改質領域12を形成しており、表面21a側の改質領域12から延びる亀裂14Aについてはライン15に沿って延びるように形成し、裏面21b側の改質領域12から延びる亀裂14Bについては亀裂14Aに連続すると共にZ方向及びY方向に対して傾斜する斜め亀裂として形成している。これにより、例えば図18(a)に示されるように第3工程において亀裂14AとY方向における同じ位置に亀裂114が形成されるように反り抑制用の改質領域12が形成される場合においても、分割用の改質領域12から延びる亀裂14(詳細には亀裂14B)の裏面21b側の端部の位置と亀裂114の表面21a側の端部の位置とを異ならせることができる。そして、亀裂14Bにつながる亀裂14Aについてはライン15に沿って延びているため、分割用の亀裂14として求められる位置及び方向に適切に亀裂14(詳細には亀裂14A)を延ばすことができる。
【0079】
図18(b)に示される例では、分割用の3列の改質領域12を形成しており、最も表面21a側の改質領域12(図18(b)におけるSD1)についてはライン15に沿って亀裂14Aが延びるように形成されている。また、空間光変調器7の変調パターンの設定(Yシフト及びコマ収差の設定)によって、真ん中の改質領域12(図18(b)におけるSD2)についてはSD1からY方向にシフトすると共にそこから斜め亀裂14Bが延びており、最も裏面21b側の改質領域12(図18(b)におけるSD3)についてはSD2から更にY方向にソフトすると共にそこから斜め亀裂14Cが延びている。斜め亀裂14Bは亀裂14A及び斜め亀裂14Cに連続しており、斜め亀裂14B及び斜め亀裂14Cは同じ方向(斜め方向)に延びている。
【0080】
ここまでは、第1工程の加工(CH1加工)によってウエハ20に反りが生じ第2工程の加工(CH2加工)に悪影響が出ることを抑制するために、第2工程前の第3工程においてウエハ20の内部に反り抑制用の改質領域12(第3改質領域)を形成することを説明してきた。ここで、CH1加工における改質領域12の形成によるウエハ20の反りは、複数のライン15に係る分割用の改質領域12の形成が進むにつれて徐々に進行する。そのため、CH1加工において、先に加工が実施されるライン15の加工の影響は、後に加工が実施されるライン15の加工に及ぼされることとなる。すなわち、CH1加工において、複数のライン15のうち、比較的後半に加工が実施されるライン15の加工においては、ウエハ20が反った状態で分割用の改質領域12が形成される可能性があり、この場合、加工安定性が悪化するおそれがある。
【0081】
図19は、CH1後半加工時の加工安定悪化について説明する図である。図19に示されるように、既に複数のラインについて改質領域12が形成され該改質領域12から亀裂14が延びている状態では、ウエハ20に反りが生じている。この状態で、CH1加工において更なる分割用の改質領域12の形成のためにレーザ光Lが照射されると、ウエハ20のデバイス面に対して斜めに亀裂14が延びること、加工位置精度が悪化すること等が問題となる。また、ウエハ20が反った状態ではステージ2におけるウエハ20の吸着不良が生じることがある。このように、CH1後半加工時においては、安定的に精度良く加工を行うことが難しい場合がある。
【0082】
このような事情に鑑み、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第1工程におけるいずれかのライン15に係る分割用の改質領域12の形成と、第3工程における反り抑制用の改質領域12の形成とを、交互に実施してもよい。すなわち、制御部8は、第1制御におけるいずれかのライン15に係る分割用の改質領域12の形成と、第3制御における反り抑制用の改質領域12の形成とを、交互に実施するように、レーザ照射ユニット3を制御する。ここでの交互に実施とは、完全に1対1で交互に実施する場合のみでなく、複数の分割用の改質領域12の形成と複数の反り抑制用の改質領域12の形成とを交互に実施することを含んでいる。
【0083】
図20は、分割用の改質領域12と反り抑制用の改質領域12とを交互に形成する加工方法を説明する図である。図20(a)~図20(c)において、1~9の各数字は、加工順序を示している。図20(a)に示される例では、最初に第3工程における反り抑制用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂114の形成(加工順序1)が行われ、つづいて、第1工程における分割用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂14の形成(加工順序2)が行われ、その後、第3工程及び第1工程が1加工ずつ順番に実施されている。この場合、各加工における加工箇所は、Y方向において加工順序順に並んでいる。図20(b)に示される例では、最初に第3工程における反り抑制用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂114の形成が2加工(加工順序1,2)行われ、つづいて、第1工程における分割用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂14の形成が2加工(加工順序3,4)行われ、その後、このような2加工ずつの加工が繰り返し実施されている。この場合、第1工程及び第3工程のそれぞれで個別に見ると、各加工における加工箇所は、Y方向において加工順序順に並んでいる。図20(c)に示される例では、最初に第3工程における反り抑制用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂114の形成が3加工(加工順序1,2,3)行われ、つづいて、第1工程における分割用の改質領域12及び該改質領域12から延びる亀裂14の形成が3加工(加工順序4,5,6)行われている。この場合、第1工程及び第3工程のそれぞれで個別に見ると、各加工における加工箇所は、Y方向において加工順序順に並んでいる。
【0084】
なお、同一工程(上述した例ではCH1加工)内において先の加工の影響が後の加工に及ぼされることについては、CH2加工においても同様に生じる。このため、CH2後半加工時の加工安定悪化を抑制する目的で、以下の第4工程を更に実施してもよい。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工方法は、レーザ光の照射によってウエハ20の内部に反り抑制用の複数の改質領域12(第4改質領域)を形成し、該改質領域12から裏面21bに到達すると共にCH2加工によって形成された分割用の改質領域12から延びる亀裂14に連続しない亀裂114を形成する第4工程を更に備えていてもよい。この場合、第2工程におけるいずれかのライン15に係る分割用の改質領域12の形成と、第4工程における反り抑制用の改質領域12の形成とを、交互に実施してもよい。
【0085】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置1の作用効果について説明する。
【0086】
本実施形態に係るレーザ加工装置1は、レーザ照射ユニット3と制御部8とを備え、制御部8は、裏面21bに沿うX方向に延びる複数のライン15のそれぞれに沿って、レーザ光Lの集光スポットを相対移動させながら、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に分割用の改質領域12が形成され該改質領域12から表面21a方向に亀裂14が延びるようにレーザ照射ユニット3を制御する第1制御と、第1制御後において、X方向に交差すると共に裏面21bに沿うY方向に延びる複数のライン15のそれぞれに沿って、レーザ光Lの集光スポットを相対移動させながら、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に分割用の改質領域12が形成され該改質領域12から表面21a方向に亀裂14が延びるようにレーザ照射ユニット3を制御する第2制御と、第2制御前において、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に反り抑制用の複数の改質領域12が形成され該改質領域12から延びる亀裂114が、裏面21bに到達すると共に分割用の改質領域12から延びる亀裂14に連続せずに形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御する第3制御と、を実行するように構成されている。
【0087】
本実施形態に係るレーザ加工装置1では、レーザ光Lの照射によって、裏面21bに沿うX方向に延びる複数のライン15のそれぞれに沿って分割用の改質領域12が形成され該改質領域12から表面21a方向に延びる亀裂14が形成され、その後に、レーザ光Lの照射によって、Y方向に延びる複数のライン15のそれぞれに沿って分割用の改質領域12が形成され該改質領域12から表面21a方向に延びる亀裂14が形成される。このように、互いに交差する複数のライン15に沿って順次改質領域12の形成が行われる場合、先にレーザ光Lが照射されるライン15(第1ライン)に沿った改質領域12の形成(CH1加工)によってウエハ20に反りが生じ、当該ウエハ20の反りの影響によって、後にレーザ光Lが照射されるライン15(第2ライン)の加工の精度が低下するおそれがある。ウエハ20の反りは、具体的には、改質領域12の形成及び改質領域12から表面21a方向に延びる亀裂14の形成によって、ウエハ20の片面(ここでは、亀裂14が主に延びる方向である表面21a)に応力が集中することにより生じる。このようなウエハ20の反りは、ウエハ20が微小チップである場合や比較的大きな亀裂を形成する場合において特に顕著になる。そして、反りが生じた状態で、後にレーザ光Lが照射されるライン15(第2ライン)の加工(CH2加工)が実施されると、ライン15の加工時におけるレーザ光Lの集光スポット調整のためのオートフォーカス等の精度を担保することが難しくなり、CH2加工において適切に改質領域12の形成等が行えなくなるおそれがある。
【0088】
この点、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、CH2加工に関する制御(第2制御)に先行して、レーザ光Lの照射によりウエハ20の内部に反り抑制用の複数の改質領域12が形成され、該改質領域12から延びる亀裂114が、裏面21bに到達すると共に分割用の改質領域12から延びる亀裂14に連続しないように形成される。このように、分割用の改質領域12の形成によって応力が集中する表面21aとは反対側の裏面21bに亀裂141が到達するように反り抑制用の改質領域12が形成されることによって、応力の局在化が緩和され、ウエハ20の反りを軽減することができる。これにより、反り抑制用の改質領域12の形成後に実施されるCH2加工において、適切に改質領域12を形成することが可能になる。そして、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂141が分割用の改質領域12から延びる亀裂14に連続しないように形成されていることにより、反り抑制用の改質領域12が形成されることによって意図しないウエハ20の割れが発生することを適切に抑制することができる。以上のように、本実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、ウエハ20の意図しない割れが生じることを抑制しながら、ウエハ20に対して適切に分割用の改質領域12を形成することができ、レーザ加工精度を向上させることができる。
【0089】
図21は、本実施形態に係るレーザ加工装置1の作用効果を説明する図であり、CH1加工後のCH2加工進行方向の反りを示す図である。図21において、横軸はCH2の加工進行方向(ウエハ20の幅方向)を示しており、縦軸は電圧値で示される変位量を示している。縦軸の電圧値1Vは、例えば8μm程度の変位量に相当する。図21には、CH1加工後且つCH2加工前の反り量が示されており、反り抑制用の改質領域12を形成していない場合(図21中において「BHCのみ」と記載)、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114がST状態である場合(図21中において「BHC+反り抑制SD(ST)」と記載)、及び、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114が裏面21bに到達したHC状態である場合(図21中において「BHC+反り抑制SD(HC)」と記載)のそれぞれについて、反り量の結果が示されている。図21には、ワークサイズ:775μm(65mm×36mm小片)、チップサイズ:1mm、研削後の仕上げ厚さ:80μm、分割用の改質領域:3パス(総亀裂約300μm、BHC亀裂約80μm)、反り抑制用の改質領域:1パス(総亀裂約60μm)、との条件で加工を行った場合の結果の一例が示されている。図21からも明らかなように、反り抑制用の改質領域12を形成し、且つ、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114が裏面21bに到達したHC状態とされることにより、分割用の改質領域12の形成に係るBHC由来のウエハ20の反りを大きく低減することができている。
【0090】
図22は、本実施形態に係るレーザ加工装置1の作用効果を説明する図であり、CH1加工及びCH2加工後のウエハ20の反りを示す図である。図22において、横軸はウエハ20の幅方向における位置を示しており、縦軸は表面変位を示している。ここでの表面変位は、顕微鏡によって測定されている。図22には、CH1加工及びCH2加工後のウエハ20の反り量を示す表面変位が示されており、反り抑制用の改質領域12を形成していない場合(図22中において「分割用SDのみ」と記載)、及び、反り抑制用の改質領域12をチップ中央に形成している場合(図22中において「分割用SD+反り抑制SD(チップ中央に加工)」と記載)のそれぞれについて、反り量を示す表面変位が示されている。図22には、ワークサイズ:775μm(12inch)、チップサイズ:1mm、研削後の仕上げ厚さ:80μm、分割用の改質領域:3パス(総亀裂約300μm、BHC亀裂約80μm)、反り抑制用の改質領域:3パス(総亀裂約150μm)、との条件で加工を行った場合の結果の一例が示されている。図22に示されるように、反り抑制用の改質領域12をチップ中央に形成した場合においては、反り抑制用の改質領域12を形成しない場合と比較して、ウエハ20の両端部における反り量(変位)を半分以下とすることができた。ウエハ20の両端部における反り量が大きい場合には、加工後において搬送アームにウエハ20を適切に吸着させることができずウエハ20の落下等の搬送不良が生じるおそれがある。この点、上記のように反り抑制用の改質領域12によって反り量を半分以下としたウエハ20については、ウエハ20を適切に搬送することができた。また、搬送後のウエハ20において割れが生じることもなかった。
【0091】
制御部8は、第3制御において、Y方向における分割用の改質領域12の形成位置と異なる位置に反り抑制用の改質領域12が形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。これにより、分割用の改質領域12からの亀裂14と反り抑制用の改質領域12からの亀裂114とが連続することを適切に回避することができ、ウエハ20の意図しない割れが生じることをより好適に抑制できる。
【0092】
制御部8は、第3制御において、Y方向で隣り合う2つのライン15それぞれの形成位置のY方向における中間の位置に反り抑制用の改質領域12が形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。2つのライン15に挟まれたちょうど真ん中の位置に反り抑制用の改質領域12が形成されることにより、いずれの分割用の改質領域12とも反り抑制用の改質領域12との離間距離を大きくすることができ、亀裂14と亀裂114とが連続することを適切に回避することができる。これにより、ウエハ20の意図しない割れが生じることを好適に抑制できる。
【0093】
制御部8は、第3制御において、Y方向における分割用の改質領域12の形成位置と異なる位置に反り抑制用の改質領域12が形成されるように変調パターンを設定してもよい。このように、空間光変調器7の変調パターンの設定によって反り抑制用の改質領域12の形成位置が調整されることにより、ステージ2の動作によって改質領域12の形成位置が変更される場合と比較して、加工時間を短縮することができる。
【0094】
制御部8は、第1制御及び第3制御の少なくともいずれか一方において、亀裂14の裏面21b側の端部の位置が、亀裂114の表面21a側の端部の位置と異なるように、変調パターンを設定してもよい。このように、空間光変調器7の変調パターンの設定によって改質領域12から延びる亀裂14,114の端部の位置が調整されることにより、亀裂14,114の端部の位置を適切に調整し、亀裂14,114同士が連続することによってウエハ20の意図しない割れが生じることをより好適に抑制できる。
【0095】
制御部8は、第3制御において、分割用の改質領域12から延びる亀裂14よりも反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114が短くなるように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114については、分割用の改質領域12から延びる亀裂14と異なり、分割に寄与させたい亀裂ではないため、短くされることにより、亀裂14,114同士が連続することによってウエハ20の意図しない割れが生じることをより好適に抑制できる。
【0096】
制御部8は、第3制御では、Y方向において、分割用の改質領域12の数よりも多くの数の反り抑制用の改質領域12が形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。上述したように、適切な分割を行う点においては反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114を短くしたい。しかしながら、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114が短くされた場合には、反り抑制の効果が十分に奏されないおそれがある。この点、反り抑制用の改質領域12の数が多く(分割用の改質領域12よりも多く)されることにより、多数の反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114によって、反り抑制効果についても十分に発揮しながら、ウエハ20の意図しない割れが生じることを抑制することができる。
【0097】
制御部8は、第3制御において、ウエハ20のY方向における中央部の反り抑制用の改質領域12と両端部の反り抑制用の改質領域12とを比較した場合に、両端部のほうがY方向における反り抑制用の改質領域12の数が多くなること、及び、両端部のほうが反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114の長さが長くなること、の少なくともいずれか一方が満たされるよう反り抑制用の改質領域12が形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。分割用の改質領域12が形成されることによるウエハ20の反りは、Y方向における両端部ほど顕著となる。この点、ウエハ20のY方向における中央部よりも両端部において、反り抑制用の改質領域12の数が多くされるか、または、反り抑制用の改質領域12から延びる亀裂114の長さが長くされることにより、反りが顕著となるY方向両端部におけるウエハ20の反りを効果的に抑制することができる。
【0098】
制御部8は、第1制御におけるいずれかのライン15に係る分割用の改質領域12の形成と、反り抑制用の改質領域12の形成とを、交互に実施するように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。分割用の改質領域12の形成によるウエハ20の反りは、複数のライン15に係る分割用の改質領域12の形成が進むにつれて徐々に進行する。そのため、先に加工が実施されるライン15の加工の影響は、後に加工が実施されるライン15の加工に及ぼされることとなる。すなわち、複数のライン15のうち、比較的後半に加工が実施されるライン15の加工においては、ウエハ20が反った状態で改質領域12が形成されることとなるので、例えばウエハ20の表面21aに対して斜めに亀裂14が延びたり、加工位置精度が悪化したり、加工時の吸着不良が生じるおそれがある。この点、分割用の改質領域12の形成と反り抑制用の改質領域12の形成とが交互に実施されることにより、先に実施されたライン15の加工の影響が後に実施されるライン15の加工に及ぼされることが抑制され、ウエハ20に対してより適切に分割用の改質領域12を形成することができる。
【0099】
なお、このようなCH1加工内における反り抑制用の改質領域12の形成(分割用の改質領域12と反り抑制用の改質領域12とを交互の実施する加工)は、必ずしも実施されなくてもよく、例えば、CH1加工後においてCH1加工方向においてウエハ20の凹凸が生じている場合にのみ実施されてもよい。図23は、CH1加工後のCH1加工進行方向の反りを示す図である。図23において、横軸はCH1加工進行方向を示しており、縦軸は電圧値で示される変位量を示している。図23には、ワークサイズ:775μm(65mm×36mm小片)、チップサイズ:1mm、研削後の仕上げ厚さ:80μm、分割用の改質領域:3パス(総亀裂約300μm、BHC亀裂約80μm)、測定点:小片の端部から1.5mmの位置、との条件でCH1加工を行った場合の結果の一例が示されている。図23に示される例では、加工前後で反り量が変化しているものの、加工後においてもCH1の加工進行方向における凹凸は見受けられない。このような場合には、CH1加工内における反り抑制用の改質領域12の形成は必ずしも実施されなくてもよく、CH2加工前に反り抑制用の改質領域12の形成が行われればよい。
【0100】
制御部8は、レーザ光Lの照射によってウエハ20の内部に反り抑制用の複数の改質領域12が形成され該改質領域12から延びる亀裂114が、裏面21bに到達すると共にCH2加工における分割用の改質領域12(第2改質領域)から延びる亀裂に連続せずに形成されるように、レーザ照射ユニット3を制御する第4制御を更に実行するように構成されており、第2制御におけるいずれかのライン15に係る改質領域12の形成と、第4制御における改質領域12の形成とを、交互に実施するように、レーザ照射ユニット3を制御してもよい。このように、CH2加工における改質領域12の形成と、反り抑制用の改質領域12の形成とが交互に実施されることにより、CH2加工においても、先に実施されたライン15の加工の影響が後に実施されるライン15の加工に及ぼされることが抑制され、ウエハ20に対して適切に分割用の改質領域12を形成することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…レーザ加工装置、3…レーザ照射ユニット(レーザ照射部)、7…空間光変調器、8…制御部、12…改質領域(第1改質領域,第2改質領域,第3改質領域)、14,114…亀裂、15…ライン(第1ライン,第2ライン)、20…ウエハ(対象物)。
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