IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特開2022-182707監視装置、および、それを含む電池装置
<>
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図1
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図2
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図3
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図4
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図5
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図6
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図7
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図8
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図9
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図10
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図11
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図12
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図13
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図14
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図15
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図16
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図17
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図18
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図19
  • 特開-監視装置、および、それを含む電池装置 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182707
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】監視装置、および、それを含む電池装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20221201BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20221201BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20221201BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20221201BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20221201BHJP
   B60L 58/10 20190101ALN20221201BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H02J15/00 D
H02H7/18
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090409
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉洋
【テーマコード(参考)】
5G053
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G053AA02
5G053AA06
5G053AA08
5G053BA04
5G053FA05
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA11
5G503EA02
5G503EA05
5G503EA06
5G503FA06
5G503FA16
5G503FA17
5G503GD02
5G503GD06
5G503GD07
5G503HA02
5G503HA03
5H125AA01
5H125AC12
5H125EE23
5H125EE26
5H125FF05
(57)【要約】
【課題】複数の範囲設定部の異常診断を行うことのできる監視装置、および、それを含む電池装置を提供する。
【解決手段】電池装置100は監視部10と制御部30を有する。監視部はレベルシフタ12とAD変換部13と基準電圧回路16を有する。レベルシフタは、電気的に接続された複数の電池セル220の閉路電圧の取得範囲を変化させるための複数の範囲設定部122,123を備える。AD変換部は、範囲設定部で設定された取得範囲で、レベルシフタから出力された閉路電圧をデジタル信号に変換する。基準電圧回路は基準電圧をレベルシフタに出力する。制御部30は演算部33を有する。演算部は、複数の範囲設定部それぞれによって設定される複数の取得範囲それぞれにおいてAD変換部でデジタル信号に変換された複数の基準電圧と、基準信号部から出力される基準電圧とに基づいて、複数の範囲設定部のいずれに異常が生じているのかを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に接続された複数の電池セル(220)の閉路電圧の取得範囲を変化させるための複数の範囲設定部(122,123)を備えるレベルシフタ(12)と、
前記レベルシフタで設定された前記取得範囲で、前記レベルシフタから出力された前記閉路電圧をデジタル信号に変換するAD変換部(13)と、
複数の前記範囲設定部それぞれの状態の診断を実施するための基準信号を前記レベルシフタに出力する基準信号部(16)と、を有する監視装置。
【請求項2】
前記レベルシフタは、複数の前記範囲設定部の他にオペアンプ(121)を有し、
複数の前記範囲設定部それぞれは、前記オペアンプのオフセットを調整するオフセット調整部(122)と、前記オペアンプのゲインを調整するゲイン調整部(123)と、を有する請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記オペアンプは入力端子と出力端子を複数有し、
複数の前記入力端子それぞれに前記オフセット調整部が接続され、複数の前記入力端子と複数の前記出力端子との間に複数の前記ゲイン調整部が設けられている請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
電気的に接続された複数の電池セル(220)の閉路電圧の取得範囲を変化させるための複数の範囲設定部(122,123)を備えるレベルシフタ(12)と、
前記範囲設定部で設定された前記取得範囲で、前記レベルシフタから出力された前記閉路電圧をデジタル信号に変換するAD変換部(13)と、
複数の前記範囲設定部それぞれの状態の診断を実施するための基準信号を前記レベルシフタに出力する基準信号部(16)と、
複数の前記範囲設定部それぞれによって設定される複数の前記取得範囲それぞれにおいて前記AD変換部でデジタル信号に変換された複数の前記基準信号と、前記基準信号部から出力される前記基準信号の電圧レベルとに基づいて、複数の前記範囲設定部のいずれに異常が生じているのかを判定する判定部(33)と、を有する電池装置。
【請求項5】
前記判定部は、異常が生じている前記範囲設定部を含む複数の前記範囲設定部のうちの少なくとも1つを用いて、前記取得範囲を設定できるのかを判定する請求項4に記載の電池装置。
【請求項6】
前記レベルシフタは、複数の前記範囲設定部の他にオペアンプ(121)を有し、
複数の前記範囲設定部それぞれは、前記オペアンプのオフセットを調整するオフセット調整部(122)と、前記オペアンプのゲインを調整するゲイン調整部(123)と、を有し、
前記判定部は、複数の前記オフセット調整部と複数の前記ゲイン調整部の組み合わせによって設定される複数の前記取得範囲それぞれにおいて前記AD変換部でデジタル信号に変換された複数の前記基準信号と、前記電圧レベルとに基づいて、複数の前記オフセット調整部と複数の前記ゲイン調整部のいずれに異常が生じているのかを判定する請求項4に記載の電池装置。
【請求項7】
前記判定部は、異常が生じている前記オフセット調整部および異常が生じている前記ゲイン調整部の少なくとも一方を含む複数の前記オフセット調整部と複数の前記ゲイン調整部のうちの少なくとも1つを用いて、前記取得範囲を設定できるかを判定する請求項6に記載の電池装置。
【請求項8】
前記オペアンプは入力端子と出力端子を複数有し、
前記判定部は、複数の前記入力端子それぞれに接続された複数の前記オフセット調整部と複数の前記入力端子と複数の前記出力端子との間に設けられた複数の前記ゲイン調整部の組み合わせによって設定される複数の前記取得範囲それぞれにおいて前記AD変換部でデジタル信号に変換された複数の前記基準信号と、前記電圧レベルとに基づいて、複数の前記オフセット調整部と複数の前記ゲイン調整部のいずれに異常が生じているのかを判定する請求項6または請求項7に記載の電池装置。
【請求項9】
前記判定部は、異常が生じている前記オフセット調整部および異常が生じている前記ゲイン調整部の少なくとも一方が接続されている前記入力端子と前記出力端子との間の通電経路の使用を禁止する請求項8に記載の電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の開示は、監視装置、および、それを含む電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のリチウム2次電池のSOCを均等化する容量調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-141957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のリチウム2次電池のSOCを均等化するためにリチウム2次電池の閉路電圧が用いられる。そのために閉路電圧の検出精度の向上が求められる。閉路電圧の検出精度を向上するために、構成要素が増大する虞がある。複数の構成要素(範囲設定部)のいずれで異常が生じているのかを診断することが求められる。
【0005】
本開示の目的は、複数の範囲設定部の異常診断を行うことのできる監視装置、および、それを含む電池装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による監視装置は、電気的に接続された複数の電池セル(220)の閉路電圧の取得範囲を変化させるための複数の範囲設定部(122,123)を備えるレベルシフタ(12)と、
レベルシフタで設定された取得範囲で、レベルシフタから出力された閉路電圧をデジタル信号に変換するAD変換部(13)と、
複数の範囲設定部それぞれの状態の診断を実施するための基準信号をレベルシフタに出力する基準信号部(16)と、を有する。
【0007】
本開示の一態様による電池装置は、電気的に接続された複数の電池セル(220)の閉路電圧の取得範囲を変化させるための複数の範囲設定部(122,123)を備えるレベルシフタ(12)と、
範囲設定部で設定された取得範囲で、レベルシフタから出力された閉路電圧をデジタル信号に変換するAD変換部(13)と、
複数の範囲設定部それぞれの状態の診断を実施するための基準信号をレベルシフタに出力する基準信号部(16)と、
複数の範囲設定部それぞれによって設定される複数の取得範囲それぞれにおいてAD変換部でデジタル信号に変換された複数の基準信号と、基準信号部から出力される基準信号の電圧レベルとに基づいて、複数の範囲設定部のいずれに異常が生じているのかを判定する判定部(33)と、を有する。
【0008】
これによれば、複数の範囲設定部の異常を診断することができる。
【0009】
なお、上記の括弧内の参照番号は、後述の実施形態に記載の構成との対応関係を示すものに過ぎず、技術的範囲を何ら限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電池装置と組電池を示すブロック図である。
図2】SOCとOCVの特性を示すグラフ図である。
図3】レベルシフタを示す回路図である。
図4】診断処理を説明するためのフローチャートである。
図5】診断処理の変形例を説明するためのフローチャートである。
図6】レベルシフタの変形例を示す回路図である。
図7】電圧検出を説明するためのタイミングチャートである。
図8】電圧検出を説明するためのタイミングチャートである。
図9】電圧検出処理を説明するためのフローチャートである。
図10】電圧検出処理を説明するためのフローチャートである。
図11】地絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図12】天絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図13】短絡判定処理を説明するためのフローチャートである。
図14】地絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図15】天絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図16】地絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図17】地絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図18】天絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図19】地絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
図20】天絡検出を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。
【0012】
各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせが可能である。また、特に組み合わせに支障が生じなければ、組み合わせが可能であることを明示していなくても、実施形態同士、実施形態と変形例、および、変形例同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態を図1図6に基づいて説明する。
【0014】
図1に電池装置100と組電池200を示す。電池装置100と組電池200はハイブリッド自動車や電気自動車などの電動車両に搭載される。この電動車両には、乗用車、バス、建設作業車、および、農業機械車両などが含まれる。
【0015】
電池装置100は組電池200の状態を監視するとともに制御する。組電池200は電動車両に推進力を提供する電動機などの各種車載機器に電源電力を供給する。
【0016】
<組電池>
組電池200は複数の電池スタック210を有する。複数の電池スタック210それぞれは電気的に直列接続された複数の電池セル220を有する。この電池セル220としてはリチウムイオン2次電池、ニッケル水素2次電池、および、有機ラジカル電池などの2次電池を採用することができる。直列接続された複数の電池セル220の出力電圧が電池スタック210の出力電圧になっている。図1では1つの電池スタック210に含まれる複数の電池セル220を破線で囲って示している。
【0017】
複数の電池スタック210は電気的に直列接続若しくは並列接続される。本実施形態では、複数の電池スタック210が電気的に直列接続されている。これら直列接続された複数の電池スタック210の出力電圧の総和が組電池200の出力電圧になっている。この出力電圧に依存する電源電力が各種車載機器に供給される。
【0018】
複数の電池スタック210それぞれには、電池セル220の物理量を検出する物理量センサ230が設けられている。物理量センサ230の検出する物理量としては、例えば、電池セル220の温度や電流がある。
【0019】
物理量センサ230で検出される物理量は、電池セル220、電池スタック210、および、組電池200それぞれのSOCの推定などに用いられる。SOCはstate of chargeの略である。
【0020】
SOCは上記した電源電力の各種車載機器への供給によって減少する。また、電池セル220は自己放電する。そのためにSOCは電源電力の非供給時においても減少する。
【0021】
このSOCの減少は、例えば、車外に設けられた電気スタンドなどの充電機器から組電池200への充電電力の供給によって改善される。この充電機器から組電池200への充電電力の供給は、電池装置100によって制御される。電池装置100は図示しない配線を介してCPLT信号を充電機器と送受信しながら、組電池200の充電を制御する。
【0022】
なお、複数の電池セル220の品質や環境などは均一ではない。そのために複数の電池セル220のSOCにばらつきが生じる。このばらつきは、後述の均等化処理によって改善される。
【0023】
<OCV、CCV、SOC>
電池セル220には内部抵抗がある。そのために電池セル220のSOCに応じた実際のセル電圧と、監視部10で検出されるセル電圧とには、この内部抵抗と電池セル220を流れる電流に応じた電圧降下分の差がある。
【0024】
以下においては、必要に応じて、電池セル220のSOCに応じた実際のセル電圧を開路電圧OCVと示す。監視部10で検出されるセル電圧を閉路電圧CCVと示す。電池セル220内の抵抗を内部抵抗R、電池セル220を実際に流れる電流を実電流Iとする。OCVはOpen Circuit Voltageの略である。CCVはClosed Circuit Voltageの略である。
【0025】
閉路電圧CCVと開路電圧OCVの関係は、CCV=OCV±I×Rとあらわされる。電池セル220の放電時では、CCV=OCV-I×Rとなる。電池セル220の充電時では、CCV=OCV+I×Rとなる。
【0026】
<SOCとOCVの特性>
電池セル220はSOCとOCVの特性を有している。電池セル220がリチウムイオン2次電池である場合のSOCとOCVの特性データを図2に示す。
【0027】
図2に示すように、SOCが0%に近い過放電領域では、SOCに対するOCVの変化率が高くなっている。SOCが100%に近い過充電領域では、SOCに対するOCVの変化率が高くなっている。
【0028】
これらに対して、過放電領域と過充電領域との間の充放電領域では、SOCに対するOCVの変化率が低くなっている。電池セル220は主としてこの充放電領域で使用される。図2では、一例として、過放電領域と充放電領域との間のSOCとOCVの値をSOC1,OCV1と表記している。充放電領域と過充電領域との間のSOCとOCVの値をSOC2,OCV2と表記している。
【0029】
図2に示す特性データは温度に依存している。そのため、温度によってSOCに対するOCVの変化率が変わる。それとともにSOC1,SOC2,OCV1,OCV2の値も変わる。
【0030】
<電池装置>
電池装置100は監視部10と制御部30を有する。電池装置100は監視部10を電池スタック210と同数有している。複数の監視部10は複数の電池スタック210それぞれの状態にかかわる電池情報を検出する。なお、電池装置100は監視部10を電池スタック210よりも多く有してもよい。この場合、1つの電池スタック210に複数の監視部10が設けられる。この監視部10は1つの電池スタック210に含まれる複数の電池セル220の一部を監視する。
【0031】
制御部30は複数の監視部10の診断を実施する。また、制御部30は複数の監視部10で検出された電池情報を取得する。制御部30は他の図示しない各種ECUと各種センサから入力される車両情報を取得する。電動車両に充電機器が接続されている場合、制御部30は充電機器から入力される充電情報を取得する。これら車両情報と充電情報の制御部30への入力と、制御部30の処理結果の各種ECUと充電機器などへの出力は図1において白抜き矢印で示している。
【0032】
制御部30は取得した諸情報に基づいて組電池200の状態を判定する。それとともに制御部30は組電池200に対する処理を実行する。組電池200に対する処理としては、例えば、組電池200の充放電、組電池200に含まれる複数の電池セル220のSOCを均等化する均等化処理などがある。
【0033】
<監視部>
複数の監視部10それぞれは複数の電池スタック210それぞれに個別に設けられる。1つの監視部10は1つの電池スタック210に含まれる複数の電池セル220それぞれの正極と負極との間の端子間電圧(閉路電圧)を検出する。また、監視部10は物理量センサ230で検出された物理量を取得する。監視部10は制御部30から入力される指示信号に基づいて処理を実行する。
【0034】
図1に示すように監視部10は、マルチプレクサ11、レベルシフタ12、AD変換部13、監視制御部14、監視通信部15、および、基準電圧回路16を有している。図面ではマルチプレクサ11をMUXと表記している。レベルシフタ12をLSと表記している。AD変換部13をADと表記している。監視制御部14をMCUと表記している。監視通信部15をMCSと表記している。基準電圧回路16をVRCと表記している。
【0035】
マルチプレクサ11は1つの電池スタック210に含まれる複数の電池セル220それぞれの正極と負極とに接続されている。これにより、マルチプレクサ11には複数の電池セル220の閉路電圧が入力される。
【0036】
また、マルチプレクサ11は物理量センサ230に接続されている。これにより、マルチプレクサ11には物理量が入力される。
【0037】
マルチプレクサ11は入力された複数の閉路電圧を順次選択して検出する。そしてマルチプレクサ11は検出した閉路電圧をレベルシフタ12に順次出力する。また、マルチプレクサ11は入力された複数の物理量も順次選択して検出する。マルチプレクサ11は検出した物理量もレベルシフタ12に順次出力する。
【0038】
図3に示すようにレベルシフタ12は、オペアンプ121と、複数のクランプ回路122と、複数の帰還回路123と、を有する。図面ではクランプ回路122をCCと表記している。帰還回路123をFCと表記している。
【0039】
オペアンプ121は入力端子と出力端子それぞれを2つ有する。オペアンプ121の2つの入力端子がマルチプレクサ11に接続されている。オペアンプ121の2つの出力端子がAD変換部13に接続されている。複数のクランプ回路122はオペアンプ121の2つの入力端子に接続されている。複数の帰還回路123はオペアンプ121の2つの入力端子と2つの出力端子との間それぞれに設けられている。これら複数の帰還回路123は並列接続されている。
【0040】
複数のクランプ回路122それぞれには少なくとも1つのスイッチが含まれている。このスイッチが、監視制御部14によって通電状態と遮断状態とに制御される。これによりオペアンプ121の入力レンジが制御される。オペアンプ121のオフセットが制御される。なお、複数のクランプ回路122それぞれに含まれるスイッチが全て遮断状態の場合、オペアンプ121の入力レンジは電源電圧の上限値と下限値との間になる。クランプ回路122がオフセット調整部に相当する。
【0041】
複数の帰還回路123それぞれには少なくとも1つの直列回路が含まれている。この直列回路は、直列接続されたスイッチとコンデンサを有する。このスイッチが、監視制御部14によって通電状態と遮断状態とに制御される。これによりオペアンプ121の入力端子と出力端子との間で接続されるコンデンサの数が変化する。オペアンプ121の入力端子と出力端子との間の静電容量が変化する。また、オペアンプ121の入力端子と出力端子との間の抵抗が変化する。この結果、オペアンプ121のゲインが制御される。なお、複数の帰還回路123に含まれるコンデンサの静電容量は同一でも不同でもよい。帰還回路123がゲイン調整部に相当する。
【0042】
AD変換部13にはレベルシフタ12からゲインとオフセットの調整された閉路電圧と物理量のアナログ信号が入力される。レベルシフタ12のゲインとオフセットの調整により、AD変換部13でアナログデジタル変換されるアナログ信号の電圧レンジが制御される。AD変換部13でアナログデジタル変換される閉路電圧と物理量の電圧レンジが制御される。この結果、閉路電圧と物理量の取得範囲が制御される。なお、物理量の取得範囲は特に制御しなくともよい。
【0043】
AD変換部13は連続的なアナログ信号を断続的にサンプリングする。そしてAD変換部13はサンプリングした値を量子化して、離散したデジタル信号に変換する。係る変換を行うため、アナログ信号とデジタル信号とには誤差(量子化誤差)がある。
【0044】
この量子化誤差は、AD変換部13の量子化ビット数が大きいほどに小さくなる。しかしながら、量子化ビット数は固定値になっている。そのため、例えば、閉路電圧の取得範囲が0.0V~5.0Vの場合、AD変換部13の分解能は、この0.0V~5.0Vを量子化ビット数で割った値になる。
【0045】
これに対して、例えば、閉路電圧の取得範囲が10分の1の3.0V~3.5Vの場合、AD変換部13の分解能は、この3.0V~3.5Vを量子化ビット数で割った値になる。この場合、AD変換部13の分解能は10倍程度に高まる。このように、取得範囲を制限することで、閉路電圧の検出精度が向上される。
【0046】
監視制御部14はプロセッサとこのプロセッサによって読み取り可能なプログラムとデータを非一時的に記憶する非遷移的実体的記憶媒体を有する。この非遷移的実体的記憶媒体にAD変換部13から入力されるデジタル信号や制御部30から入力される指示信号が保存される。監視制御部14のプロセッサは指示信号に基づいてマルチプレクサ11、レベルシフタ12、AD変換部13、および、基準電圧回路16を制御する。
【0047】
なお、AD変換部13と監視制御部14とはデジタルフィルタを介して接続されてもよい。係る構成の場合、AD変換部13から出力されたデジタル信号に含まれるノイズがこのデジタルフィルタで除去される。このノイズの除去されたデジタル信号が監視制御部14に入力される。
【0048】
監視制御部14に制御部30から入力される指示信号には、検出対象の電池セル220の閉路電圧の取得範囲が含まれている。監視制御部14は検出対象の閉路電圧をマルチプレクサ11が選択する際に、レベルシフタ12のゲインとオフセットを制御する。これにより閉路電圧の取得範囲が制御される。
【0049】
監視通信部15にはデジタル信号の閉路電圧と物理量が入力される。監視通信部15はこのデジタル信号を制御部30に出力する。また、監視通信部15には指示信号が入力される。この指示信号が監視制御部14に入力される。
【0050】
基準電圧回路16はマルチプレクサ11に接続されている。基準電圧回路16は基準電圧を生成する。この基準電圧がレベルシフタ12を介してAD変換部13に入力される。なお、基準電圧回路16はマルチプレクサ11ではなくレベルシフタ12に接続されてもよい。基準電圧回路16が基準信号部に相当する。基準電圧が基準信号に相当する。
【0051】
レベルシフタ12が正常の場合、レベルシフタ12を介してAD変換部13に入力される電圧は、基準電圧と同一になることが期待される。レベルシフタ12に異常が生じている場合、レベルシフタ12を介してAD変換部13に入力される電圧は、基準電圧と不同になることが想定される。このように、基準電圧はレベルシフタ12の診断に用いられる。
【0052】
<制御部>
図1に示すように制御部30は、制御通信部31、記憶部32、および、演算部33を有する。図面では制御通信部31をCCUと表記している。記憶部32をMUと表記している。演算部33をOPと表記している。
【0053】
制御通信部31には諸情報が入力される。この諸情報には監視部10で取得された閉路電圧と物理量が含まれる。また、この諸情報には車両情報と充電情報が含まれる。車両情報には電動車両の走行状態や現在時刻が含まれている。充電情報には充電電力が含まれている。
【0054】
なお、図示しない通信部に車両情報と充電情報が入力されてもよい。そして、制御部30がRTCを有する場合、現在時刻が車両情報に含まれていなくともよい。RTCはreal time clockの略である。
【0055】
記憶部32はコンピュータやプロセッサによって読み取り可能なプログラムを非一時的に記憶する非遷移的実体的記憶媒体である。記憶部32は揮発性メモリと不揮発性メモリとを有している。この記憶部32に制御通信部31に入力された諸情報や演算部33の処理結果が記憶される。
【0056】
また、記憶部32には演算部33が演算処理するためのプログラムや参照値があらかじめ記憶されている。この参照値には、例えば、基準電圧の電圧レベル、各種2次電池のSOCとOCVの特性データの温度依存性、均等化処理の実行を判定する均等化判定値、複数の電池セル220の製造日、および、劣化判定値などがある。
【0057】
演算部33にはプロセッサが含まれている。演算部33は制御通信部31に入力された諸情報を記憶部32に記憶する。演算部33は記憶部32に記憶された情報に基づいて各種演算処理を実行する。この演算処理された結果を含む電気信号は、制御通信部31を介して監視部10に出力される。この演算処理された結果を含む電気信号は、制御通信部31若しくは図示しない通信部を介して各種ECUに出力される。
【0058】
演算処理を具体的に例示すると、演算部33は記憶部32に記憶された情報に基づいて電池セル220のSOCの推定を行う。演算部33は推定したSOCと記憶部32に記憶された情報に基づいて監視部10の動作を指示する指示信号の生成を行う。
【0059】
演算部33は監視部10に自己診断させる。演算部33はこの自己診断の実行指示を含む指示信号を監視部10に出力する。監視部10の自己診断については後述する。
【0060】
演算部33は検出対象の電池セル220の閉路電圧の取得範囲を決定する。演算部33はこの取得範囲を含む指示信号を監視部10に出力する。演算部33は検出対象の電池セル220のSOCの推定に係わる電池情報に基づいて、閉路電圧の取得範囲を決定する。
【0061】
なお、記憶部32にSOCを推定するための電池情報が記憶されていない場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を、電池セル220の閉路電圧の取りうる範囲に設定する。上記の電池情報には、例えば、過去に検出した電池セル220の閉路電圧が含まれている。
【0062】
演算部33は複数の電池セル220のSOCのばらつきを低減する均等化処理の実行を決定する。演算部33は複数の電池スタック210それぞれに対する均等化処理を含む指示信号を監視部10に出力する。
【0063】
演算部33は監視部10から入力された閉路電圧の最大値と最小値の差を演算する。この差が均等化判定値を上回る場合、演算部33は均等化処理の実行を決定する。この均等化処理は、例えば、上記した閉路電圧の最大値と最小値のうちの少なくとも一方が検出された電池スタック210だけで行われてもよい。均等化処理は、すべての電池スタック210で行われてもよい。
【0064】
図面では明記していないが、監視部10は、マルチプレクサ11と複数の電池セル220の正極および負極それぞれとを接続する複数の配線を架橋する複数のスイッチを有する。監視制御部14は演算部33から入力される指示信号に基づいて、これら複数のスイッチを選択的に通電状態と遮断状態とに制御する。
【0065】
スイッチが通電状態に制御されると、複数の電池セル220の正極同士、負極同士が接続される。これにより、これら電気的に接続された複数の電池セル220のうちの相対的にSOCの高い電池セル220が放電される。これとは逆に、相対的にSOCの低い電池セル220が充電される。この結果、複数の電池セル220のSOCが均等化される。
【0066】
<自己診断>
監視部10の監視制御部14は、上記した自己診断の実行指示を含む指示信号を受信すると、基準電圧回路16からマルチプレクサ11に基準電圧を出力させる。それとともに、監視制御部14はマルチプレクサ11からレベルシフタ12に基準電圧を出力させる。
【0067】
また、監視制御部14はレベルシフタ12に含まれる複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123とを適宜選択する。この選択されたクランプ回路122と帰還回路123とによって定められる取得範囲と、この取得範囲においてAD変換部13でアナログデジタル変換された基準電圧それぞれが監視通信部15を介して制御部30に入力される。
【0068】
制御部30の演算部33は、ある取得範囲でアナログデジタル変換された基準電圧と、記憶部32に記憶されている基準電圧の電圧レベルとが同一の場合、その取得範囲は使用可能であると判定する。すなわち、演算部33は、その取得範囲を定めるクランプ回路122と帰還回路123、および、監視部10におけるこれら以外の構成要素が正常であると判定する。演算部33は判定部に相当する。
【0069】
これとは逆に、ある取得範囲でアナログデジタル変換された基準電圧と、記憶部32に記憶されている基準電圧とが不同の場合、演算部33はその取得範囲は使用不可能であると判定する。すなわち、演算部33は、その取得範囲を定めるクランプ回路122と帰還回路123のうちの少なくとも一方、若しくは、監視部10におけるこれら以外の構成要素に異常があると判定する。
【0070】
監視制御部14は複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123とを組み合わせ、それによって定められる複数の取得範囲においてAD変換部13でアナログデジタル変換された基準電圧を制御部30に出力する。制御部30の演算部33は、複数の取得範囲においてアナログデジタル変換された基準電圧と、記憶されている基準電圧とを比較する。演算部33はこれら複数の比較結果に基づいて、監視部10に含まれる構成要素のどこに異常が生じているのかを診断する。
【0071】
演算部33はクランプ回路122と帰還回路123の少なくとも一方に異常が生じているのかを診断する。演算部33は複数のクランプ回路122の少なくとも1つに異常が生じているのかを診断する。演算部33は複数の帰還回路123の少なくとも1つに異常が生じているのかを診断する。演算部33は監視部10における複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123以外の構成要素に異常が生じているのかを診断する。
【0072】
この診断結果に基づいて、演算部33は閉路電圧の取得が可能か否かを判定する。演算部33は閉路電圧の取得範囲の設定の制限と非制限とを決定する。
【0073】
<診断処理>
次に、演算部33の診断処理を図4に基づいて説明する。演算部33はこの診断処理を電動車両の立ち上がり時などにイベントタスクとして実行している。なお、演算部33はこの診断処理をサイクルタスクとして実行してもよい。ただし、診断処理をサイクルタスクとして実行する場合、その診断周期は、閉路電圧の取得周期よりも長く設定される。
【0074】
ステップS10で演算部33は、監視部10に自己診断の実行指示を含む指示信号として、診断信号を出力する。この後に演算部33はステップS20へ進む。
【0075】
監視部10は、診断信号を受信すると、複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123との組み合わせによって定められる複数の取得範囲と、それら複数の取得範囲でアナログデジタル変換された複数の基準電圧と、を演算部33に出力する。
【0076】
ステップS20へ進むと演算部33は、監視部10から入力される複数の取得範囲と複数の基準電圧を記憶部32に記憶する。そして演算部33は入力された複数の基準電圧それぞれと記憶部32に記憶されている基準電圧との比較結果、および、複数の取得範囲に基づいて、監視部10の状態を診断する。その診断の結果、監視部10に異常があると判断した場合、演算部33はステップS30へ進む。監視部10に異常がないと判断した場合、演算部33はステップS40へ進む。
【0077】
ステップS30へ進むと演算部33は、監視部10に含まれるレベルシフタ12に異常があるか否かを判定する。より具体的に言えば、演算部33はレベルシフタ12に含まれる複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123に異常が生じているか否かを判定する。これらの少なくとも1つに異常が生じていると判定すると、演算部33はステップS50へ進む。これらに異常がないと判断すると、演算部33はステップS70へ進む。すなわち、監視部10における複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123以外の構成要素に異常が生じていると判断すると、演算部33はステップS70へ進む。
【0078】
ステップS50へ進むと演算部33は、複数のクランプ回路122の中で使用可能なものがあるか否かを判定する。それとともに演算部33は、複数の帰還回路123のうちで使用可能なものがあるか否かを判定する。
【0079】
そして演算部33は、使用可能な回路要素を用いて、取得範囲を定めることができるか否かを判定する。使用可能な取得範囲があると判定すると演算部33はステップS60へ進む。使用可能な取得範囲がないと判定すると演算部33はステップS70へ進む。
【0080】
ステップS60へ進むと演算部33は、複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123のうちの一部に異常があるので、制限状態で閉路電圧の取得範囲を設定することを決定する。そして演算部33は診断処理を終了する。
【0081】
ステップS70へ進むと演算部33は、電池装置100で検出された電圧を用いた演算処理の禁止を含む電気信号(電圧禁止信号)を各種ECUに出力する。各種ECUは、電圧禁止信号を受け取ると、電動車両の制限走行、退避走行、若しくは、停車などを決定する。
【0082】
フローを遡って、ステップS20において監視部10に異常が生じていないと判断してステップS40へ進むと演算部33は、監視部10に異常がないので、非制限状態で閉路電圧の取得範囲を設定することを決定する。そして演算部33は診断処理を終了する。
【0083】
<課題>
これまでに説明したように、閉路電圧の取得範囲は、複数のクランプ回路122から少なくとも1つ、複数の帰還回路123から少なくとも1つを選択することで決定される。取得範囲を細かく設定するために、クランプ回路122と帰還回路123それぞれの数が増大する。この結果、取得範囲を決定する複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123(複数の範囲設定部)のいずれで異常が生じているのかを診断することが困難になる虞がある。
【0084】
<作用効果>
係る課題を解決するため、演算部33は複数のクランプ回路122から少なくとも1つを選択し、複数の帰還回路123から少なくとも1つを選択する。そして演算部33は選択したクランプ回路122と帰還回路123を組み合わせて取得範囲を設定する。演算部33はこの選択と組み合わせを切り換えて行うことで、複数の取得範囲を設定する。
【0085】
そして演算部33は、これら複数の取得範囲においてAD変換部13でアナログデジタル変換された複数の基準電圧、および、記憶部32に記憶されている基準電圧を比較する。これにより、複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123(複数の範囲設定部)のいずれに異常が生じているのかが判定される。
【0086】
複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123のうちのどれかに異常が生じた場合、演算部33は使用可能な取得範囲を設定することができるか否かを判定する。これによれば、閉路電圧の取得が継続されやすくなる。また、閉路電圧の検出精度の低下が抑制される。
【0087】
(第1変形例)
本実施形態では、演算部33が図4に示す診断処理を実行する例を示した。しかしながら、演算部33は図5に示す診断処理を実行してもよい。
【0088】
図5に示すステップS20において監視部10に異常があると判断した場合、演算部33はステップS110へ進む。
【0089】
ステップS110へ進むと演算部33は、クランプ回路122と帰還回路123の両方に異常が生じているのか否かを判定する。クランプ回路122と帰還回路123の両方に異常が生じている場合、演算部33はステップS50へ進む。ステップS50以降のステップS50~ステップS70はすでに説明済みなので、その説明を省略する。クランプ回路122と帰還回路123の両方に異常が生じていない場合、演算部33はステップS120へ進む。
【0090】
ステップS120へ進むと演算部33は、クランプ回路122に異常が生じているか否かを判定する。クランプ回路122に異常が生じている場合、演算部33はステップS130へ進む。クランプ回路122に異常が生じていない場合、演算部33はステップS140へ進む。
【0091】
クランプ回路122の異常とは、主として、クランプ回路122に含まれるスイッチの通電状態と遮断状態との切り換え不可の状態である。スイッチが通電状態に固着される場合、オペアンプ121のオフセットが固着することになる。スイッチが遮断状態に固着される場合、オペアンプ121のオフセット調整に制限が生じる。複数のクランプ回路122に含まれるスイッチの全てが遮断状態に固着した場合、オペアンプ121のオフセット調整ができなくなる。
【0092】
ステップS130へ進むと演算部33は、記憶部32に検出対象の電池セル220の閉路電圧が記憶されているか否かを判定する。閉路電圧が記憶されている場合、演算部33はその記憶されている閉路電圧が、異常状態のクランプ回路122を含む複数のクランプ回路122によって設定されうる、閉路電圧の取得範囲に含まれるか否かを判定する。
【0093】
この取得範囲に閉路電圧が含まれる場合、演算部33は、使用可能な、閉路電圧の取得範囲の限定された範囲(限定範囲)があると判定する。そして演算部33はステップS150へ進む。この取得範囲に閉路電圧が含まれない場合、演算部33は使用可能な限定範囲がないと判定する。そして演算部33はステップS160へ進む。なお、そもそも、記憶部32に検出対象の電池セル220の閉路電圧が記憶されていない場合、演算部33はステップS160へ進む。
【0094】
ステップS150へ進むと演算部33は、ステップS60と同様にして、制限状態で閉路電圧の取得範囲を設定することを決定する。ステップS160へ進むと演算部33は、複数のクランプ回路122の一切を用いないことを決定する。演算部33は閉路電圧の取りうる範囲の取得範囲(全範囲)で閉路電圧を検出することを決定する。これらステップS150若しくはステップS160の後に演算部33は診断処理を終了する。
【0095】
ステップS120においてクランプ回路122に異常が生じていないと判定してステップS140へ進むと演算部33は、帰還回路123に異常が生じているか否かを判定する。帰還回路123に異常が生じている場合、演算部33はステップS170へ進む。帰還回路123に異常が生じていない場合、演算部33はステップS190へ進む。すなわち、監視部10におけるクランプ回路122と帰還回路123以外の構成要素に異常が生じている場合、演算部33はステップS190へ進む。
【0096】
帰還回路123の異常とは、主として、帰還回路123に含まれるスイッチの通電状態と遮断状態との切り換え不可の状態である。スイッチが通電状態若しくは遮断状態に固着される場合、オペアンプ121のゲインに制限が生じる。複数の帰還回路123に含まれるスイッチの全てが固着した場合、オペアンプ121のゲイン調整ができなくなる。
【0097】
ステップS170へ進むと演算部33は、演算部33は帰還回路123によってゲインを定めることができるか否かを判定する。ゲインを定めることができる場合、演算部33は、使用可能な取得範囲があると判定する。そして演算部33はステップS180へ進む。ゲインを定めることができない場合、演算部33は使用可能な取得範囲がないと判定する。そして演算部33はステップS190へ進む。
【0098】
ステップS180へ進むと演算部33は、ステップS60と同様にして、制限状態で閉路電圧の取得範囲を設定することを決定する。ステップS190へ進むと演算部33は、ステップS70と同様にして、電圧禁止信号を各種ECUに出力する。これらステップS180若しくはステップS190の後に演算部33は診断処理を終了する。
【0099】
(第2変形例)
本実施形態では監視部10がマルチプレクサ11とオペアンプ121それぞれを1つずつ有する例を示した。しかしながら、監視部10はマルチプレクサ11とオペアンプ121それぞれを複数有してもよい。例えば図6に示すように監視部10はマルチプレクサ11とオペアンプ121それぞれを2つ有してもよい。2つのオペアンプ121それぞれに複数のクランプ回路122と複数の帰還回路123が接続される。なお、監視部10はオペアンプ121を複数有するとともに、マルチプレクサ11を単数有してもよい。
【0100】
係る変形例において監視部10は、診断信号を受信すると、クランプ回路122と帰還回路123との組み合わせによって定められる取得範囲を、2つのオペアンプ121において同一にする。監視部10は、複数の取得範囲と、これら複数の取得範囲でアナログデジタル変換された2つ基準電圧と、を演算部33に出力する。
【0101】
演算部33は、監視部10から入力される複数の取得範囲と、これら複数の取得範囲でアナログデジタル変換された2つの基準電圧を記憶部32に記憶する。そして演算部33は複数の取得範囲でアナログデジタル変換された2つの基準電圧と記憶部32にあらかじめ記憶されていた基準電圧との比較結果、および、複数の取得範囲に基づいて、監視部10の状態を診断する。
【0102】
演算部33は、これら2つのオペアンプ121のうちの一方に接続されるクランプ回路122と帰還回路123が正常であり、他方に接続されるクランプ回路122と帰還回路123に異常が生じている場合、他方の使用を禁止する。また、本実施形態のようにレベルシフタ12が1つのオペアンプ121を有する場合、このオペアンプ121の備える2つの入力端子と2つの出力端子との間で構成される複数の通電経路の一部で異常が生じた場合、その通電経路の使用を禁止してもよい。
【0103】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図7図10に基づいて説明する。
【0104】
第1実施形態では、記憶部32に記憶された閉路電圧に基づいて、閉路電圧の取得範囲が定められる例を示した。これに対して本実施形態では、記憶部32に記憶された閉路電圧と閉路電圧の変化量とに基づいて、閉路電圧の取得範囲が定められる。
【0105】
<閉路電圧の取得>
図2に示す電池セル220のSOCとOCVの特性のため、放電によってSOCが低下するとOCVも低下する。それにともなって電池セル220の閉路電圧CCVも減少する。これとは逆に、充電機器からの充電電力の供給によってSOCが増大すると、閉路電圧CCVも増大する。
【0106】
図7に閉路電圧の時間変化を示す。縦軸は任意単位である。横軸は時間である。任意単位はa.u.で表記している。時間はTで表記している。
【0107】
図7には、閉路電圧のほかに、電池装置100の駆動状態、組電池200を流れる実電流、ある一つの電池セル220の閉路電圧を示している。電池装置100の駆動状態はDSと表記している。説明を簡便とするため、図面に示す電池セル220の閉路電圧の挙動と組電池200の閉路電圧の挙動は同等とする。挙動を明示するため、図面では電池セル220の閉路電圧が短時間で大きく変化するように図示している。
【0108】
時間0の初期状態において、電池装置100は非駆動状態になっている。記憶部32には閉路電圧や物理量などの電池情報が記憶されていない。組電池200と各種車載機器との間の導通状態を制御するシステムメインリレーが遮断状態になっている。そのために組電池200に電流が実質的に流れていない。電池セル220の閉路電圧は充放電領域の値になっている。
【0109】
電池セル220に電流が実質的に流れていなくとも、自己放電のために電池セル220のSOCは減少する。そのために時間0の初期状態において、電池セル220の閉路電圧は微量ながら減少傾向にある。
【0110】
時間t0になると、電池装置100は非駆動状態から駆動状態になる。この際に、演算部33は上記の診断処理を実行する。以下においては説明を簡便とするため、診断処理の結果、監視部10に異常が生じていない場合の閉路電圧の取得を説明する。
【0111】
時間t0になると、電池装置100が非駆動状態から駆動状態になるとともに、システムメインリレーが遮断状態から通電状態になる。これにより組電池200から各種車載機器への電源電力の供給が開始する。組電池200に実電流が流れはじめる。電池セル220のSOCの減少率が増大する。それにともなって、電池セル220の閉路電圧の減少率も増大する。
【0112】
時間t1になると演算部33は、電池セル220の閉路電圧を取得する。この際、記憶部32には電池情報が記憶されていない。そのため、演算部33は時間t1での閉路電圧の取得範囲を、電池セル220の取りうる範囲に設定する。すなわち、演算部33は閉路電圧の取得範囲を0.0V~5.0Vに設定する。演算部33はこの時間t1での取得範囲において監視部10で検出された閉路電圧を取得する。
【0113】
時間t2になると演算部33は、再び電池セル220の閉路電圧を取得する。この際、第1実施形態で示したように、演算部33は時間t1で取得した電池セル220の閉路電圧に基づいて、時間t2での閉路電圧の取得範囲を決定することが考えられる。例えば、時間t1の閉路電圧が3.0Vの場合、この3.0Vを中心とした閉路電圧の取得範囲を設定することが考えられる。
【0114】
しかしながら、時間t1から時間t2へと時間経過する間に、電池セル220のSOCが変化する。図3に示す例で言えば、ハッチングで示す分の電力の放電が行われる。この放電のために時間t1での閉路電圧と時間t2での閉路電圧とが異なることが想定される。
【0115】
そこで演算部33は、時間t1で取得した閉路電圧と、時間t1から時間t2までの閉路電圧の変化量とに基づいて、時間t2での閉路電圧の取得範囲の中央値を算出する。すなわち、演算部33は時間t2での閉路電圧を推定する。時間t2での閉路電圧の推定については、後で詳説する。取得範囲の中央値は、取得範囲の上限値と下限値との間の値である。
【0116】
図面では、取得した閉路電圧のみに基づいて設定した場合の閉路電圧の取得範囲の中央値を一点鎖線矢印の先端で示している。取得した閉路電圧と閉路電圧の変化量とに基づいて設定した場合の閉路電圧の取得範囲の中央値を実線矢印の先端で示している。
【0117】
これら2種類の矢印の先端の位置の差で示されるように、閉路電圧の変化量を加味した分、取得範囲の中央値が時間t2での実際の電池セル220の閉路電圧の値に近づく。これにより、電池セル220の閉路電圧が取得範囲の上限値と下限値それぞれから遠ざかる。取得範囲を狭めた結果、意図せずして閉路電圧が取得範囲外になることが抑制される。
【0118】
閉路電圧の取得範囲は図7に示す実線の両端矢印の幅で示される。限定された取得範囲の中央値と上限値との差は上限範囲幅α1に設定される。限定された取得範囲の中央値と下限値との差は下限範囲幅α2に設定される。これら上限範囲幅α1と下限範囲幅α2とは同一でも不同でもよい。上限範囲幅α1と下限範囲幅α2は閉路電圧の検出誤差よりも大きな値である。上限範囲幅α1と下限範囲幅α2は図2に示すOCV1とOCV2の差の半分よりも小さい値である。
【0119】
上限範囲幅α1と下限範囲幅α2の大小関係は、例えば、閉路電圧の時間変化に基づいて決定することができる。閉路電圧が減少傾向の場合、上限範囲幅α1よりも下限範囲幅α2を大きく設定することができる。逆に、閉路電圧が増大傾向の場合、下限範囲幅α2よりも上限範囲幅α1を大きく設定することができる。これら2つの範囲幅の差の大きさは、閉路電圧の時間変化量に基づいて設定することができる。これら2つの範囲幅に差を設けるための補正値が記憶部32に記憶されている。
【0120】
演算部33はこれら上限範囲幅α1と下限範囲幅α2、および、取得範囲の中央値に基づいて、限定された取得範囲を設定する。本実施形態では、演算部33は上限範囲幅α1と下限範囲幅α2を同一に設定する。そのため、以下においては表記を簡明とするため、上限範囲幅α1と下限範囲幅α2を合わせて範囲幅αと表記する。なお、このように上限範囲幅α1と下限範囲幅α2とが等しい場合、上記した取得範囲の中央値は、取得範囲の中心値になる。
【0121】
範囲幅αは記憶部32に予め記憶されている。範囲幅αは電池セル220の温度と電流などに依存する値である。時間t2での取得範囲の幅はこの記憶部32に記憶された範囲幅αが用いられる。
【0122】
演算部33は以上に示した演算処理によって時間t2での取得範囲を決定する。演算部33は、例えば、時間t2での取得範囲を2.65V~2.93Vに設定する。演算部33はこの時間t2での取得範囲において監視部10で検出された閉路電圧を取得する。
【0123】
なお、厳密に言えば、電池装置100での演算処理があるため、時間t2における、取得範囲の決定タイミングと、閉路電圧の検出タイミングとは同一にならない。決定タイミングは検出タイミングの手前である。しかしながら、これら2つのタイミングの差は微小である。そのためにこれら2つのタイミングを同一とみなして記載している。
【0124】
演算部33は閉路電圧を取得周期で取得している。時間t1と時間t2との間の時間が取得周期に相当する。この取得周期は、定電流充電などによって電池セル220の充放電状態が急変しない限り、電池セル220のSOCが急変しないことの期待される時間間隔である。時間t1から取得周期が経過すると時間t2になる。
【0125】
時間t2から取得周期が経過して時間t3になると演算部33は、時間t2の閉路電圧と、時間t2から時間t3までの閉路電圧の変化量と、に基づいて取得範囲の中央値を決定する。また演算部33は時間t2で取得した閉路電圧と、時間t2での取得範囲の中央値との差を推定誤差として算出する。推定誤差は検出誤差よりも大きな値である。
【0126】
演算部33はこの推定誤差と記憶部32に記憶された範囲幅αとに基づいて時間t3での範囲幅αを算出する。推定誤差が所定値よりも小さい場合、時間t3での範囲幅αは記憶部32に記憶された範囲幅α若しくは時間t2での範囲幅αよりも小さくなる。推定誤差が所定値よりも大きい場合、時間t3での範囲幅αは記憶部32に記憶された範囲幅α若しくは時間t2での範囲幅αよりも大きくなる。
【0127】
以上に示した演算処理を行うことで、演算部33は時間t3での取得範囲を決定する。演算部33は、例えば、時間t3の取得範囲を2.60V~2.74Vに設定する。演算部33はこの時間t3の取得範囲において監視部10で検出された閉路電圧を取得する。
【0128】
時間t3から時間tc1になると、実電流が低減する。これに伴って、閉路電圧の減少率も低減する。
【0129】
時間t3から取得周期が経過して時間t4になると演算部33は、時間t3の閉路電圧と、時間t3から時間t4までの閉路電圧の変化量と、推定誤差を加味した範囲幅αと、に基づいて取得範囲を決定する。演算部33は、例えば、時間t4の取得範囲を2.62V~2.70Vに設定する。演算部33はこの時間t4での取得範囲において監視部10で検出された閉路電圧を取得する。
【0130】
このように時間t3と時間t4との間の閉路電圧の変化量を加味しているため、例え時間t3と時間t4との間の時間tc1で閉路電圧の減少率が低減し始めたとしても、時間t4において演算部33で取得される閉路電圧が取得範囲に収まる。
【0131】
時間t4から時間tc2になると、電動車両に充電機器が接続される。充電機器により組電池200が定電流充電される。これにより実電流が急上昇する。演算部33は係る情報を車両情報若しくは充電情報から取得する。
【0132】
時間t4から取得周期が経過して時間t5になると演算部33は、時間t4の閉路電圧と、時間t4から時間t5までの閉路電圧の変化量と、推定誤差を加味した範囲幅αと、に基づいて取得範囲を決定する。演算部33はこの時間t5での取得範囲において監視部10で検出された閉路電圧を取得する。
【0133】
このように時間t4と時間t5の間の閉路電圧の変化量を加味しているため、例え時間t4と時間t5との間の時間tc2で閉路電圧が急上昇し始めたとしても、時間t5において演算部33で取得される閉路電圧が取得範囲に収まる。
【0134】
なお、このように定電流充電が行われると、閉路電圧の単位時間当たりの変化率が大きくなる。そのため、時間t5での範囲幅αを時間t4での範囲幅αよりも増幅補正してもよい。若しくは、定電流充電時の範囲幅αが記憶部32に記憶されていてもよい。時間t5においてこの範囲幅αが用いられてもよい。演算部33は、例えば、時間t5の取得範囲を3.25V~3.75Vに設定する。
【0135】
時間t5から時間tc3になると、組電池200の出力電圧が目標電圧に到達する。これを検出すると、演算部33は充電機器による定電流充電を終了させる。演算部33は充電機器に定電圧充電を実行させる。なお、演算部33は定電流充電の終了後、定電圧充電に代わって、押し込み充電を実行してもよい。
【0136】
上記した定電流充電と定電圧充電とでは、供給電流量が異なる。定電流充電は定電圧充電よりも供給電流量が大きくなっている。
【0137】
上記したように閉路電圧CCVと開路電圧OCVとには電圧降下I×R分の差がある。充電時では、CCV=OCV+I×Rとなる。したがって、例えば組電池200の最高出力電圧が閉路電圧CCVとして検出されたとしても、開路電圧OCVは最高出力電圧に達していないことになる。組電池200のSOCは満充電量に達していないことになる。
【0138】
上記の目標電圧は、組電池200の最高出力電圧に基づく値である。演算部33は組電池200の閉路電圧が目標電圧に到達したと判定すると、定電圧充電を充電機器に実行させる。定電圧充電では、過充電を避けつつ、組電池200のSOCを満充電量に近づけるため、組電池200で検出される閉路電圧を目標電圧に保った状態で、組電池200への充電電力の供給が行われる。目標電圧と最高出力電圧は記憶部32に予め記憶されている。
【0139】
時間t5から取得周期が経過して時間t6になると、演算部33は、目標電圧と定電圧充電時の範囲幅αに基づいて決定された取得範囲において監視部10で検出された電池セル220の閉路電圧を取得する。演算部33は、例えば、時間t6の取得範囲を4.23V~4.26Vに設定する。
【0140】
時間t6以降、定電圧充電が実行され続ける限り、目標電圧が取得されることが期待される。この場合、演算部33は目標電圧と定電圧充電時の範囲幅αに基づいて決定された取得範囲で電池セル220の閉路電圧を取得し続ける。若しくは、演算部33は閉路電圧の取得をやめる。定電圧充電時の範囲幅αは例えば時間t2で用いた範囲幅αよりも小さい値である。定電圧充電時の範囲幅αは記憶部32に記憶されている。
【0141】
<定電圧駆動>
組電池200のSOCが過度に低減したり、電動車両の電動機が不調だったりした場合、電動車両は駆動を制限した定電圧駆動を実行する。この際に組電池200から出力される電源電力の電圧が制限される。電源電力の電圧が例えば一定値に保たれる。このため、電池セル220の閉路電圧が所定電圧に保たれることが期待される。
【0142】
図8に示す一例では、時間t3と時間t4との間の時間tc1で、電動車両が制限のない通常駆動から制限のある定電圧駆動に移行している。この場合、演算部33は、時間t4において、所定電圧と定電圧駆動時の範囲幅αに基づいて決定された取得範囲で電池セル220の閉路電圧を取得する。演算部33は、例えば、時間t4の取得範囲を2.47V~2.53Vに設定する。
【0143】
時間t4以降、定電圧駆動が実行され続ける限り、所定電圧が取得されることが期待される。この場合、演算部33は所定電圧と定電圧駆動時の範囲幅αに基づいて決定された取得範囲で電池セル220の閉路電圧を取得し続ける。若しくは、演算部33は閉路電圧の取得をやめる。
【0144】
定電圧駆動時の範囲幅αは通常駆動時の範囲幅αよりも小さい値である。定電圧駆動時の範囲幅αは記憶部32に記憶されている。なお、電動車両が走行状態から停車状態に変化すると、閉路電圧が短時間で急変する虞がある。係る急変によって閉路電圧が取得範囲外になることが避けられるように、範囲幅αの値が設定されるとよい。
【0145】
<閉路電圧の推定>
上記したように演算部33は、閉路電圧の取得範囲を算出するにあたって、取得範囲の中央値を算出する。すなわち、演算部33は取得時の閉路電圧を推定する。例えば図7に示す時間t2において演算部33は、時間t1で取得した閉路電圧と、時間t1から時間t2までの閉路電圧の変化量と、に基づいて時間t2での閉路電圧を推定する。
【0146】
時間t1から時間t2までの閉路電圧の変化量は、時間t1と時間t2との間の充放電履歴(充放電量)と、時間t1と時間t2との間の温度、および、SOCとOCVの特性データの温度依存性に基づいて算出される。
【0147】
時間t1と時間t2との間の充放電履歴は、例えば、時間t1と時間t2との間の時間と、時間t1と時間t2との間の電流と、に基づいて算出される。時間t1と時間t2との間の充放電履歴は、時間t1と時間t2との間の電流の積算値として算出される。なお、時間t1と時間t2との間の電流は、例えば、時間t1の電流と時間t2の電流の加算平均値で推定される。
【0148】
時間t1と時間t2との間の温度は、例えば、時間t1の温度と時間t2の温度の加算平均値で推定される。演算部33はこの温度のSOCとOCVの特性データを記憶部32から読み出す。そして演算部33は読みだしたSOCとOCVの特性データと、算出した時間t1と時間t2との間の充放電履歴とに基づいて、時間t1から時間t2までの閉路電圧の変化量を算出する。電流、温度、および、特性データが変化量に含まれている。
【0149】
なお、当然ながら、演算部33は各種2次電池のSOCとOCVの特性データのうち、電池セル220のSOCとOCVの特性データを記憶部32から読みだす。電池セル220がリチウムイオン2次電池の場合、演算部33はリチウムイオン2次電池のSOCとOCVの特性データを記憶部32から読みだす。
【0150】
演算部33は、例えば記憶部32に記憶された電池セル220の製造日と時間t2との差、および、劣化判定値に基づいて、時間t2での電池セル220の経年劣化を推定してもよい。演算部33は電池セル220の経年劣化と、時間t2の温度に基づいて、時間t2での電池セル220の内部抵抗を推定してもよい。演算部33はこの時間t2での内部抵抗と電流とに基づいて、時間t2での電池セル220で生じる電圧降下を算出してもよい。演算部33はこの電圧降下も加味して、時間t2での閉路電圧を推定してもよい。このように内部抵抗を推定する場合、内部抵抗を加味して範囲幅αを設定してもよい。
【0151】
また、演算部33は、電池セル220の等価回路モデル若しくは化学反応モデルと、電池セル220の電流および温度に基づいて、時間t1から時間t2までの閉路電圧の変化量を推定してもよい。
【0152】
さらに例示すれば、上記した閉路電圧の変化量を概算するための放電値と充電値が記憶部32に記憶されていてもよい。閉路電圧の変化量を、所定の放電値に時間t1と時間t2との間の時間を乗算して決定してもよい。閉路電圧の変化量を、所定の充電値に時間t1と時間t2との間の時間を乗算して決定してもよい。この変形例では、放電値と充電値が充放電量に含まれている。
【0153】
<電圧検出処理>
次に、演算部33の電圧検出処理を図9に基づいて説明する。演算部33はこの電圧検出処理をサイクルタスクとして実行している。この電圧検出処理の実行間隔は上記した取得周期に相当する。
【0154】
ステップS210で演算部33は、閉路電圧が記憶部32に記憶されているか否かを判定する。閉路電圧が記憶部32に記憶されている場合、演算部33はステップS220へ進む。閉路電圧が記憶部32に記憶されていない場合、演算部33はステップS230へ進む。
【0155】
ステップS220へ進むと演算部33は、定電圧充電が実行されているか否かを判定する。定電圧充電が実行されている場合、演算部33はステップS240へ進む。定電圧充電が実行されていない場合、演算部33はステップS250へ進む。
【0156】
ステップS240へ進むと演算部33は、監視部10で検出されることの期待される閉路電圧(推定電圧)を目標電圧に設定する。換言すれば、演算部33は閉路電圧の取得範囲に用いる閉路電圧を目標電圧に設定する。この後に演算部33はステップS260へ進む。
【0157】
ステップS260へ進むと演算部33は、推定電圧と記憶部32に記憶されている閉路電圧との差分値を算出する。演算部33はこの差分値が記憶部32に記憶されている変化電圧以上であるか否かを判定する。差分値が変化電圧以上の場合、演算部33はステップS270へ進む。差分値が変化電圧より小さい場合、演算部33は電圧検出処理を終了する。
【0158】
ステップS270へ進むと、演算部33は推定電圧と記憶部32に記憶されている諸情報に基づいて、限定された閉路電圧の取得範囲を設定する。この後に演算部33はステップS280へ進む。
【0159】
ステップS240を経てステップS270へ進んだ場合、演算部33は記憶部32から定電圧充電時の範囲幅αを読み出す。演算部33はこの範囲幅αと目標電圧とに基づいて閉路電圧の取得範囲を算出する。演算部33はこの取得範囲を記憶部32に記憶する。そして演算部33はステップS280へ進む。
【0160】
ステップS280へ進むと演算部33は、ステップS270で算出した取得範囲を含む指示信号を、限定範囲信号として監視部10に送信する。この後に演算部33はステップS290へ進む。
【0161】
ステップS290へ進むと演算部33は、監視部10で検出された閉路電圧を取得する。この後に演算部33はステップS300へ進む。
【0162】
ステップS300へ進むと演算部33は、取得した閉路電圧を記憶部32に記憶する。またこの際に演算部33は、取得範囲を記憶部32に記憶する。そして演算部33は電圧検出処理を終了する。
【0163】
フローをさかのぼって、ステップS220で定電圧充電が実行されていないと判定してステップS250へ進むと、演算部33は電動車両が定電圧駆動であるか否かを判定する。すなわち演算部33は、電池セル220の閉路電圧が所定電圧であるか否かを判定する。定電圧駆動である場合、演算部33はステップS310へ進む。定電圧駆動ではない場合、演算部33はステップS320へ進む。
【0164】
ステップS310へ進むと演算部33は、推定電圧を所定電圧に設定する。換言すれば、演算部33は閉路電圧の取得範囲の算出に用いる閉路電圧を所定電圧に設定する。この後に演算部33はステップS260へ進む。
【0165】
ステップS310を経てステップS270へ進んだ場合、演算部33は記憶部32から定電圧駆動時の範囲幅αを読み出す。演算部33はこの範囲幅αと所定電圧とに基づいて閉路電圧の取得範囲を設定する。
【0166】
フローをさかのぼって、ステップS250で定電圧駆動ではないと判定してステップS320へ進むと、演算部33は推定電圧を算出するための諸情報を取得する。この諸情報には、記憶部32に記憶されている閉路電圧、取得周期、電流、温度、SOCとOCVの特性データなどが含まれている。この後に演算部33はステップS330へ進む。
【0167】
ステップS330へ進むと演算部33は、ステップS320で取得した諸情報に基づいて、推定電圧を算出する。この後に演算部33はステップS260へ進む。
【0168】
ステップS330を経てステップS270へ進んだ場合、演算部33は記憶部32から範囲幅αを読み出す。演算部33は範囲幅αと推定電圧に基づいて閉路電圧の取得範囲を設定する。
【0169】
上記したように電圧検出処理はサイクルタスクである。前の電圧検出処理においてステップS280を実行している場合、ステップS270において演算部33は、記憶部32に記憶されている閉路電圧と推定電圧とを差分して、推定誤差を算出する。演算部33は範囲幅αと推定電圧に基づいて閉路電圧の取得範囲を設定する。これとは異なり、前の電圧検出処理においてステップS230を実行している場合、演算部33は推定誤差の算出をやめる。この場合、演算部33は範囲幅αと推定電圧に基づいて閉路電圧の取得範囲を設定する。
【0170】
フローをさかのぼって、ステップS210において閉路電圧が記憶部32に記憶されていないと判定してステップS230へ進むと、演算部33は閉路電圧の取りうる取得範囲を含む指示信号を、全範囲信号として監視部10に送信する。この後に演算部33はステップS290へ進む。
【0171】
なお、演算部33は、図9に示すステップS220,S240,S250,S310を実行しなくともよい。この場合、図10に示すように、ステップS210で閉路電圧が記憶部32に記憶されていると判定した場合、演算部33はステップS320へ進む。
【0172】
<作用効果>
これまでに説明したように演算部33は、記憶部32に記憶された過去の閉路電圧と、閉路電圧を再度取得するまでの間の電池セル220の閉路電圧の変化量とに基づいて閉路電圧の取得範囲を設定する。
【0173】
演算部33は、例えば、閉路電圧の取得範囲を0.0V~5.0Vの取りうる取得範囲から、2.65V~2.93Vの制限された取得範囲に変更する。この限定的な取得範囲において、アナログの閉路電圧がAD変換部13でデジタル信号に変換される。これによりAD変換部13の量子化誤差が低減される。この結果、閉路電圧の検出精度が向上される。
【0174】
また、上記したように演算部33は、閉路電圧を再度取得するまでの間の電池セル220の閉路電圧の変化量を加味して閉路電圧の取得範囲を設定している。そのため、閉路電圧が取得範囲外になることが抑制される。
【0175】
取得範囲の範囲幅αを、記憶部32に記憶された過去の閉路電圧と、その閉路電圧を検出した際に設定した閉路電圧の取得範囲の中央値との差(推定誤差)を加味して決定している。これによれば、閉路電圧が取得範囲外になることが効果的に抑制される。
【0176】
推定誤差が所定値よりも小さい場合、演算部33は範囲幅αを狭める。これにより、閉路電圧の取得範囲が狭まる。閉路電圧の検出精度が向上される。
【0177】
演算部33は、推定電圧と記憶部32に記憶されている閉路電圧との差分値が変化電圧よりも小さい場合、新たな取得範囲の設定をやめる。これによれば、演算部33での演算処理が簡素化される。
【0178】
なお本実施形態に記載の電池装置100には、第1実施形態に記載の電池装置100と同等の構成要素が含まれている。そのために本実施形態の電池装置100が第1実施形態に記載の電池装置100と同等の作用効果を奏することは言うまでもない。そのためにその記載を省略する。以下に示す他の実施形態でも重複する作用効果の記載を省略する。
【0179】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を図11図13に基づいて説明する。
【0180】
これまでの実施形態では、取得範囲内で閉路電圧が検出される例を示した。これに対して本実施形態では、取得範囲内で閉路電圧が検出されない場合の処理を説明する。
【0181】
図11に示す一例では、演算部33は、時間t3での閉路電圧の取得範囲を、時間t2で取得した閉路電圧に基づいて設定している。しかしながら、時間t2と時間t3との間の時間taで地絡が生じると、時間t3において監視部10で検出される閉路電圧が取得範囲外になる。演算部33で取得される閉路電圧は取得範囲の下限値になる。
【0182】
このように取得範囲の下限値を取得した場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を閉路電圧の取りうる範囲に再設定する。このように取得範囲を拡大することで、時間t4での閉路電圧の検出が可能になる。
【0183】
一時的な地絡ではなく、永続的な地絡の場合、図11に示すように、時間ta以降の時間t3,t4,t5,t6において監視部10で0.0Vが検出される。演算部33は0.0Vを複数回取得する。0.0Vの取得回数が短絡判定値以上になった場合、演算部33は地絡が発生していると判定する。
【0184】
この短絡判定値は記憶部32に参照値として記憶されている。短絡判定値の値は特に限定されない。本実施形態では短絡判定値が3に設定されている。
【0185】
図12に示す一例では、演算部33は、時間t3での閉路電圧の取得範囲を、時間t2で取得した閉路電圧に基づいて設定している。しかしながら、時間t2と時間t3との間の時間taで天絡が生じると、時間t3において監視部10で検出される閉路電圧が取得範囲外になる。演算部33で取得される閉路電圧は取得範囲の上限値になる。
【0186】
このように取得範囲の上限値を取得した場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を、図11に基づいて説明したように、閉路電圧の取りうる範囲に再設定する。
【0187】
一時的な天絡ではなく、永続的な天絡の場合、図12に示すように、時間ta以降の時間t3,t4,t5,t6において監視部10で5.0Vが検出される。演算部33は5.0Vを複数回取得する。5.0Vの取得回数が短絡判定値以上になった場合、演算部33は天絡が発生していると判定する。
【0188】
<短絡判定処理>
次に、演算部33の短絡判定処理を図13に基づいて説明する。演算部33はこの短絡判定処理を取得周期でサイクルタスクとして実行している。演算部33はこの短絡判定処理を実行する前に、ある取得範囲で閉路電圧を取得している。この取得範囲と閉路電圧は記憶部32に記憶されている。
【0189】
ステップS410で演算部33は、閉路電圧が取得範囲の上限値、若しくは、下限値であるか否かを判定する。すなわち、演算部33は閉路電圧が取得範囲の上限値と下限値を除く値であるか否かを判定する。閉路電圧が取得範囲の上限値、若しくは、下限値である場合、演算部33はステップS420へ進む。閉路電圧が取得範囲の上限値と下限値を除く値である場合、演算部33はステップS430へ進む。
【0190】
ステップS420へ進むと演算部33は、自身の保有するカウンタを1だけインクリメントする。この後に演算部33はステップS440へ進む。
【0191】
ステップS440へ進むと演算部33は、カウンタの値が短絡判定値よりも小さいか否かを判定する。カウンタの値が短絡判定値よりも小さい場合、演算部33はステップS450へ進む。カウンタの値が短絡判定値以上の場合、演算部33はステップS460へ進む。
【0192】
ステップS450へ進むと演算部33は、記憶部32に記憶されている取得範囲とは異なる取得範囲を含む指示信号を、範囲信号として監視部10に送信する。本実施形態の場合、演算部33は閉路電圧の取りうる範囲を範囲信号に含ませる。記憶部32に全範囲が記憶されていた場合、その全範囲を含む指示信号を、範囲信号として監視部10に送信する。若しくは、演算部33は範囲信号の出力をやめる。この後に演算部33はステップS470へ進む。
【0193】
ステップS470へ進むと演算部33は、監視部10で検出された閉路電圧を取得する。この後に演算部33はステップS410へ戻る。
【0194】
図11図12に示すように地絡や天絡が生じた場合、演算部33はステップS410,S420,S440,S450,S470を繰り返す。閉路電圧が取得範囲の上限値、若しくは、下限値になることが繰り返される。この結果、カウンタの値が短絡判定値以上になる。
【0195】
なお、カウンタの値が短絡判定値以上になっておらず、記憶部32に閉路電圧が記憶されている場合、演算部33はその記憶されている閉路電圧に基づいてSOCの推定などを行う。そして演算部33はその推定結果に基づいた演算処理を実行する。
【0196】
ステップS440においてカウンタの値が短絡判定値以上と判定してステップS4600へ進むと、演算部33は地絡や天絡などの短絡が生じていると判定する。そして演算部33は短絡判定処理を終了する。
【0197】
フローをさかのぼって、ステップS410において閉路電圧が取得範囲の上限値、若しくは、下限値ではないと判定してステップS430へ進むと、演算部33はカウンタをクリアする。演算部33はカウンタの値をゼロにする。そして演算部33はステップS480へ進む。
【0198】
ステップS480へ進むと演算部33は、短絡は発生していないと判定する。そして演算部33はステップS490へ進む。
【0199】
ステップS490へ進むと演算部33は、取得した閉路電圧を記憶部32に記憶する。そして演算部33は短絡判定処理を終了する。
【0200】
<作用効果>
これまでに説明したように、閉路電圧が取得範囲外である場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を変更する。演算部33は閉路電圧が検出されるように取得範囲を変更する。本実施形態の演算部33は取得範囲を閉路電圧の取りうる取得範囲に変更する。
【0201】
これによれば、取得範囲を狭めた結果、閉路電圧が検出できなくなることが抑制される。
【0202】
演算部33は閉路電圧の取得範囲の下限値若しくは上限値の取得回数が短絡判定値以上になった場合、短絡が発生していると判定する。具体的に言えば、演算部33は0.0Vの取得回数が3以上になった場合、地絡が発生していると判定する。演算部33は5.0Vの取得回数が3以上になった場合、天絡が発生していると判定する。
【0203】
これにより短絡の誤判定が抑制される。地絡と天絡とを区別して検出することができる。
【0204】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態を図14図15に基づいて説明する。
【0205】
第3実施形態では、取得範囲の上限値、若しくは、下限値の閉路電圧を取得した場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を閉路電圧の取りうる範囲に再設定する例を示した。そして、取りうる範囲で閉路電圧の取得を継続する例を示した。これに対して本実施形態では、取りうる範囲で上限値、若しくは、下限値の閉路電圧を取得した場合、演算部33は取得範囲をその取得した閉路電圧の近傍に狭める。
【0206】
演算部33は、図14に示すように、閉路電圧の取りうる範囲で下限値の閉路電圧を取得した場合、閉路電圧の取得範囲を、その閉路電圧を含む近傍に設定する。演算部33は取得範囲を0.0Vの近傍に設定する。演算部33は取得範囲の幅を記憶部32に記憶されている範囲幅αよりも小さい値に設定する。これにより地絡を高精度に検出することができる。
【0207】
演算部33は、図15に示すように、閉路電圧の取りうる範囲で上限値の閉路電圧を取得した場合、閉路電圧の取得範囲を、その閉路電圧を含む近傍に設定する。演算部33は取得範囲を5.0Vの近傍に設定する。演算部33は取得範囲の幅を範囲幅αよりも小さい値に設定する。これにより天絡を高精度に検出することができる。
【0208】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態を図16に基づいて説明する。
【0209】
第3実施形態では、取得範囲の上限値、若しくは、下限値の閉路電圧を検出した場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を閉路電圧の取りうる範囲に再設定する例を示した。これに対して本実施形態では、取得範囲の上限値、若しくは、下限値の閉路電圧を取得する度に、演算部33は図16に示すように閉路電圧の取得範囲を徐々に拡大する。
【0210】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態を図17図18に基づいて説明する。
【0211】
第4実施形態では、取得範囲の上限値、若しくは、下限値の閉路電圧を取得する度に、演算部33は閉路電圧の取得範囲を徐々に拡大する例を示した。これに対して本実施形態では、取得範囲の下限値の閉路電圧を取得する度に、演算部33は図17に示すように閉路電圧の取得範囲を徐々に0.0Vにシフトさせる。取得範囲の上限値の閉路電圧を取得する度に、演算部33は図18に示すように閉路電圧の取得範囲を徐々に5.0Vにシフトさせる。
【0212】
演算部33は0.0Vを含む取得範囲で0.0Vを取得した場合、地絡が発生していると判定する。演算部33は5.0Vを含む取得範囲で5.0Vを取得した場合、天絡が発生していると判定する。
【0213】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態を図19図20に基づいて説明する。
【0214】
第3実施形態では、閉路電圧が取得範囲の上限値、若しくは、下限値の場合、演算部33は閉路電圧の取得範囲を閉路電圧の取りうる範囲に再設定する例を示した。これに対して本実施形態では、閉路電圧が取得範囲の上限値、若しくは、下限値の場合、演算部33は取得した閉路電圧を新たな取得範囲の下限値、若しくは、上限値にする。
【0215】
閉路電圧が取得範囲の下限値の場合、図19において一点鎖線で示すように、演算部33は新たな取得範囲の上限値を取得した閉路電圧にする。そして演算部33は新たな取得範囲の下限値を取りうる範囲の下限値に設定する。
【0216】
閉路電圧が取得範囲の上限値の場合、図20において一点鎖線で示すように、演算部33は新たな取得範囲の下限値を取得した閉路電圧にする。そして演算部33は新たな取得範囲の上限値を取りうる範囲の上限値に設定する。
【0217】
これによれば、取得範囲の再設定による閉路電圧の検出精度の低下が抑制される。
【0218】
(その他の変形例)
本実施形態では、複数の監視部10に1つの制御部30が設けられる例を示した。しかしながら、複数の監視部10に複数の制御部30が個別に設けられる構成を採用することもできる。
【0219】
本実施形態では、複数の電池セル220それぞれの閉路電圧の取得範囲を設定する例を示した。しかしながら、複数の電池スタック210それぞれの閉路電圧の取得範囲を設定する構成を採用することもできる。1つの電池スタック210に含まれる複数の電池セル220それぞれに共通する閉路電圧の取得範囲を設定する構成を採用することもできる。係る変形例では、組電池200は少なくとも2つの電池スタック210を有する。
【0220】
本実施形態では、複数の電池セル220それぞれが同一種類の2次電池である例を示した。しかしながら、複数の電池セル220のうちの一部が異なる2次電池でもよい。例えば、複数の電池スタック210のうちの一部の電池スタック210に第1種類の電池セル220が含まれ、残りの電池スタック210に第1種類とは異なる第2種類の電池セル220が含まれてもよい。種類の異なる電池セル220としては、例えば、電池セル220の内部構成や外観構成が同一であるものの、正極や負極の組成材料が異なるものを採用することができる。
【0221】
係る変形例の場合、閉路電圧の変化量を推定する際に演算部33は、第1種類の電池セル220のSOCとOCVの特性データと、第2種類の電池セル220のSOCとOCVの特性データを記憶部32から読み出す。
【0222】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態が本開示に示されているが、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0223】
(技術的思想)
本明細書には、以下に示す種々の技術的思想が含まれている。
【0224】
<取得範囲の設定>
[技術的思想1]
電気的に接続された複数の電池セル(220)の閉路電圧と前記閉路電圧の変化量を含む電池情報を記憶する記憶部(32)と、
前記電池情報に基づいて前記閉路電圧の取得範囲を設定する設定部(33)と、
前記閉路電圧を検出する検出部(11)と、
前記設定部で設定される前記取得範囲で、前記検出部で検出された前記閉路電圧をデジタル信号に変換する変換部(12,13)と、を有する電池装置。
[技術的思想2]
前記変化量には、前記記憶部に記憶された前記閉路電圧が前記検出部で検出される第1検出タイミングから、新たに前記閉路電圧が前記検出部で検出される第2検出タイミングの手前までの間の前記電池セルの充放電量が含まれている技術的思想1に記載の電池装置。
[技術的思想3]
前記設定部は、前記記憶部に記憶された前記閉路電圧と前記変化量とに基づいて前記第2検出タイミングの前記取得範囲の中央値を設定する技術的思想2に記載の電池装置。
[技術的思想4]
前記設定部は、前記記憶部に記憶されている前記閉路電圧と前記第1検出タイミングの前記取得範囲の中央値との差に基づいて、前記第2検出タイミングの前記取得範囲の幅を設定する技術的思想3に記載の電池装置。
[技術的思想5]
前記設定部は、前記第2検出タイミングの前記取得範囲の中央値と前記第2検出タイミングの前記取得範囲の上限値との差の上限範囲幅と、前記第2検出タイミングの前記取得範囲の中央値と前記第2検出タイミングの前記取得範囲の下限値との差の下限範囲幅の大小関係を、前記変化量に基づいて設定する技術的思想3または技術的思想4に記載の電池装置。
[技術的思想6]
前記設定部は、前記変化量が減少傾向の場合、前記上限範囲幅よりも前記下限範囲幅を大きく設定し、前記変化量が増大傾向の場合、前記下限範囲幅よりも前記上限範囲幅を大きく設定する技術的思想5に記載の電池装置。
[技術的思想7]
前記設定部は、前記第2検出タイミングの前記取得範囲の中央値と、前記記憶部に記憶された前記閉路電圧との差分値が変化電圧以上の場合に前記第2検出タイミングでの前記取得範囲の新たな設定を決定し、前記差分値が前記変化電圧よりも低い場合に前記第2検出タイミングでの前記取得範囲の新たな設定をやめる技術的思想3~6のいずれか1項に記載の電池装置。
[技術的思想8]
前記閉路電圧が所定電圧の場合、前記設定部は前記第2検出タイミングの前記取得範囲の中央値を前記所定電圧に設定する技術的思想2~7のいずれか1項に記載の電池装置。
【0225】
<取得範囲の変更>
[技術的思想1]
電気的に接続された複数の電池セル(220)の閉路電圧を含む電池情報を記憶する記憶部(32)と、
前記電池情報に基づいて前記閉路電圧の取得範囲を設定する設定部(33)と、
前記設定部で設定される前記取得範囲で、前記閉路電圧をデジタル信号に変換する変換部(12,13)と、を有し、
前記設定部は、前記閉路電圧が前記取得範囲の上限値と下限値の一方である場合、前記取得範囲を変更する電池装置。
[技術的思想2]
前記設定部は、前記閉路電圧が前記取得範囲の上限値と下限値の一方である場合、前記取得範囲を拡大する技術的思想1に記載の電池装置。
[技術的思想3]
前記設定部は、前記閉路電圧が前記取得範囲の上限値と下限値の一方である場合、前記取得範囲を前記閉路電圧の取りうる範囲に変更する技術的思想2に記載の電池装置。
[技術的思想4]
前記設定部は、前記取得範囲が前記取りうる範囲の際に、前記閉路電圧が前記取りうる範囲の上限値と下限値の一方である場合、前記取得範囲を、前記取りうる範囲の上限値と下限値の一方を含む、制限された範囲に変更する技術的思想3に記載の電池装置。
[技術的思想5]
前記設定部は、前記閉路電圧が前記取得範囲の上限値と下限値の一方である場合、新たな前記取得範囲を、前記閉路電圧側に遷移させた範囲に変更する技術的思想1または技術的思想2に記載の電池装置。
[技術的思想6]
前記設定部は、
前記閉路電圧が前記取得範囲の上限値である場合、新たな前記取得範囲の下限値を前記閉路電圧にし、
前記閉路電圧が前記取得範囲の下限値である場合、新たな前記取得範囲の上限値を前記閉路電圧にする技術的思想1または技術的思想2に記載の電池装置。
[技術的思想7]
前記設定部は、前記閉路電圧が前記取得範囲の上限値と下限値の一方であることが複数回起きると、短絡が生じていると判定する技術的思想1~6のいずれか1項に記載の電池装置。
【符号の説明】
【0226】
10…監視部、11…マルチプレクサ、12…レベルシフタ、13…AD変換部、14…監視制御部、15…監視通信部、16…基準電圧回路、30…制御部、31…制御通信部、32…記憶部、33…演算部、100…電池装置、121…オペアンプ、122…クランプ回路、123…帰還回路、200…組電池、210…電池スタック、220…電池セル、230…物理量センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20