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特開2022-182725乗客コンベア及び乗客コンベアの乗客の状況検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182725
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】乗客コンベア及び乗客コンベアの乗客の状況検知方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20221201BHJP
   B66B 25/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B66B31/00 C
B66B25/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090435
(22)【出願日】2021-05-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】新井 晋治
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321DA01
3F321DD02
3F321EA01
3F321EB07
(57)【要約】
【課題】本発明は、デッキボード又はハンドレール先端から以遠の領域だけでなく、この領域とステップとの間の領域の乗客の状況を検知する乗客コンベア及び乗客の検知方法を提供する。
【解決手段】本発明の乗客コンベア10は、乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサー40と、前記滞留センサーの検知結果に基づいてステップ11を循環駆動するモーター17の速度制御を行なう制御装置31と、を具えた乗客コンベアであって、前記滞留検知センサーは、前記ステップに対してデッキボード19又はハンドレール12先端よりも以遠側の第1領域αと、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域βとに夫々存在する物体の状況を取得可能であり、前記制御装置は、前記滞留検知センサーにより取得された前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する物体の状況に基づいて、前記モーターの速度制御を行なう。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサーと、前記滞留センサーの検知結果に基づいてステップを循環駆動するモーターの速度制御を行なう制御装置と、を具えた乗客コンベアであって、
前記滞留検知センサーは、前記ステップに対してデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の第1領域と、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域とに夫々存在する物体の状況を取得可能であり、
前記制御装置は、前記滞留検知センサーにより取得された前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する物体の状況に基づいて、前記モーターの速度制御を行なう、
乗客コンベア。
【請求項2】
前記滞留検知センサーは、前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する前記物体の距離データを連続的に逐次取得するエリア型センサーである、
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記第2領域は、前記ステップまでの領域である、
請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記第2領域は、前記乗降口のフロアプレートと水平になるステップ部分を含む領域である、
請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記滞留検知センサーは、135°以上の測定角を有しており、少なくとも90°が前記第1領域を検知し、少なくとも45°が前記第2領域を検知する、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の乗客コンベア。
【請求項6】
乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサーを具えた乗客コンベアの乗客の状況検知方法であって、
前記滞留検知センサーによって、ステップに対してデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の第1領域と、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域とに夫々存在する物体の状況を連続的に逐次取得する領域判定ステップ、
前記逐次取得された前記物体の状況から、前記第1領域と前記第2領域の夫々に存在する物体の重心位置を時系列順に算出する重心位置算出ステップ、
前記第1領域と前記第2領域の夫々の前記重心位置の移動速度を算出する重心移動速度算出ステップ、
とを含んでいる、
乗客コンベアの乗客の状況検知方法。
【請求項7】
前記重心移動速度算出ステップは、前記第1領域と前記第2領域における前記乗客コンベアの進行方向の移動速度のみを算出する、
請求項6に記載の乗客コンベアの乗客の状況検知方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の乗客コンベアの乗客の状況検知方法を用いた乗客コンベアの速度制御方法であって、
前記重心移動速度算出ステップにより算出された前記第1領域と前記第2領域の前記重心位置の移動速度に基づいて、前記ステップを循環駆動させるモーターの回転を制御する、速度制御ステップを有する、
乗客コンベアの速度制御方法。
【請求項9】
前記速度制御ステップは、前記第2領域の前記重心位置の移動速度が所定の速度以下の場合、前記第1領域の前記重心位置の移動速度に関係なく前記モーターを制御する、
請求項8に記載の乗客コンベアの速度制御方法。
【請求項10】
前記速度制御ステップは、前記第2領域に前記物体が検知されない場合、前記第1領域の前記重心位置の移動速度による前記モーターの制御は行なわない、
請求項7又は請求項9に記載の乗客コンベアの速度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーター等の乗客コンベアの乗客の状況検知方法に関するものであり、より具体的には、1つのセンサーでデッキボード又はハンドレール先端から以遠の領域と、前記領域よりもステップ側の領域の2領域の乗客の状況を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く歩道のような乗客コンベアでは、降り口に乗客を検知する滞留検知センサー(以下、適宜「センサー」という)を具えたものがある。たとえば、特許文献1では、センサーが降り口における乗客の滞留、転倒、立ち止まり等を検知すると、エスカレーターの速度(モーターの回転速度)を減じるようにしている。
【0003】
特許文献1のエスカレーターでは、センサーとしてToF(Time of Flight)センサーの如きエリア型センサーを利用している。センサーは、エスカレーター(ステップ側)から見てデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の領域(以下「第1領域」という)の乗客を検知している。そして、センサーにより第1領域を平面スキャンし、第1領域に存在する物体(乗客)までの距離データから重心位置を算出し、その移動速度を算出する。その結果得られた重心位置の移動速度が、所定の移動速度以下の場合には第1領域で乗客が滞留等していると判断し、エスカレーターの速度を調整する。
【0004】
センサーは、検知精度が維持でき、乗客や乗客が運んでいる荷物などと衝突を避け、また、いたずらを防止する等の理由により、設置箇所が限られている。特許文献1では、エスカレーターのデッキボードを通常よりも長く形成し、延長されたデッキボードの下面にセンサーを設置している。そして、設置位置の制約により、センサーが乗客を検知する領域は、上記した第1領域に限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6816836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第1領域よりもステップに近い領域、すなわち、デッキボードやハンドレール先端よりもステップ側の領域(以下「第2領域」と称する)でも乗客の転倒や立ち止まりは発生する。この第2領域は、第1領域よりもステップ側に近いため、乗客の転倒や立ち止まりが発生すると、第1領域よりもエスカレーターの運行に対する影響が大きい。
【0007】
本発明の目的は、デッキボード又はハンドレール先端から以遠の領域だけでなく、この領域よりもステップ側の領域の乗客の状況を検知する乗客コンベア及び乗客の検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の乗客コンベアは、
乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサーと、前記滞留センサーの検知結果に基づいてステップを循環駆動するモーターの速度制御を行なう制御装置と、を具えた乗客コンベアであって、
前記滞留検知センサーは、前記ステップに対してデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の第1領域と、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域とに夫々存在する物体の状況を取得可能であり、
前記制御装置は、前記滞留検知センサーにより取得された前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する物体の状況に基づいて、前記モーターの速度制御を行なう。
【0009】
前記滞留検知センサーは、前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する前記物体の距離データを連続的に逐次取得するエリア型センサーとすることができる。
【0010】
前記滞留検知センサーは、135°以上の測定角を有しており、少なくとも90°が前記第1領域を検知し、少なくとも45°が前記第2領域を検知するものを採用できる。
【0011】
本発明の乗客コンベアの乗客の状況検知方法は、
乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサーを具えた乗客コンベアの乗客の状況検知方法であって、
前記滞留検知センサーによって、ステップに対してデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の第1領域と、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域とに夫々存在する物体の状況を連続的に逐次取得する領域判定ステップ、
前記逐次取得された前記物体の状況から、前記第1領域と前記第2領域の夫々に存在する物体の重心位置を時系列順に算出する重心位置算出ステップ、
前記第1領域と前記第2領域の夫々の前記重心位置の移動速度を算出する重心移動速度算出ステップ、
とを含んでいる。
【0012】
前記重心移動速度算出ステップは、前記第1領域と前記第2領域における前記乗客コンベアの進行方向の移動速度のみを算出することができる。
【0013】
前記第2領域は、前記ステップまでの領域とすることができる。
【0014】
前記第2領域は、前記乗降口のフロアプレートと水平になるステップ部分を含む領域とすることができる。
【0015】
また、本発明の乗客コンベアの乗客の状況検知方法を用いた乗客コンベアの速度制御方法は、
上記乗客コンベアの乗客の状況検知方法を用いた乗客コンベアの速度制御方法であって、
前記重心移動速度算出ステップにより算出された前記第1領域と前記第2領域の前記重心位置の移動速度に基づいて、前記ステップを循環駆動させるモーターの回転を制御する、速度制御ステップを有する。
【0016】
前記速度制御ステップは、前記第2領域の前記重心位置の移動速度が所定の速度以下の場合、前記第1領域の前記重心位置の移動速度に関係なく前記モーターを制御することができる。
【0017】
前記速度制御ステップは、前記第2領域に前記物体が検知されない場合、前記第1領域の前記重心位置の移動速度による前記モーターの制御は行なわないようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の乗客コンベア及び乗客の状況検知方法によれば、デッキボードやハンドレール先端よりも以遠の第1領域だけでなく、第1領域よりもステップ側の第2領域の乗客の状況、すなわち、乗客の滞留や転倒、立ち止まり等を早期に発見できる。ステップ側の第2領域の乗客の状況を検知することで、早めにエスカレーターの運行制御を行なうことができ、滞留等の解消を早期に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明を適用できるエスカレーターの概略構成図である。
図2図2は、降り口近傍の斜視図である。
図3図3は、滞留検知センサーの設置位置を示す側面図である。
図4図4は、第1領域及び第2領域を示す降り口近傍の平面図である。
図5図5は、図4よりも広く第2領域を設定した降り口近傍の平面図である。
図6図6は、滞留検知センサーの測定範囲を示す平面図である。
図7図7は、滞留検知センサーにより検知された第1領域、第2領域の距離データの一例を示している。
図8図8は、本発明のエスカレーターの制御システムの一実施形態を示すブロック図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係るフローチャートである。
図10図10は、速度指令生成ステップのサブルーチンを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、乗客コンベアとしてエスカレーター10を例に挙げるが、乗客コンベアは、所謂動く歩道などであっても構わない。
【0021】
本発明の一実施形態に係るエスカレーター10は、図1に示すように、乗降口となる上階側階床20と下階側階床21の間でステップ11をハンドレール12と共に循環させて構成される。エスカレーター10の骨組みを形成するトラス13には、上下にスプロケット14,15を具え、これらスプロケット14,15間にステップ11を多数連結して循環させるステップチェーン16が掛けられている。一方のスプロケット14は、モーター17に減速機18を介して動力伝達可能に連携されている。また、トラス13には、図示しないレールが上下の階床間に配設されており、ステップ11は、ステップチェーン16に牽引されてレール上を走行する。
【0022】
本実施形態では、エスカレーター10は下り運転するものとし、乗り口20aを上階側階床20、降り口21aを下階側階床21として説明する。上り運転の場合には、上階側階床20が降り口、下階側階床21が乗り口となり、ステップ11の走行方向が逆になる。
【0023】
乗り口20a及び降り口21aには夫々フロアプレート25に連続する乗降板22が設けられている。降り口21aについて図2及び図3に示すように、乗降板22の先端には、ステップ11が通過する櫛23が形成されている。乗り口20aではステップ11は乗降板22の下方を通って櫛23から送出され、降り口21aではステップ11は櫛23を通って乗降板22の下方に侵入する。
【0024】
図1乃至図3に示すように、本発明の一実施形態に係るエスカレーター10は、降り口21aの近傍にセンサー40を配備している。センサー40として、ToF(Time of Flight)センサーの如きエリア型センサー(測域センサー)を例示できる。ToFセンサーは、レーザー光の投光部と受光部を回転させながら、投光部から発せられたレーザー光が物体に反射して受光部に戻ってくるまでの時間を計測し、回転角度毎に物体までの距離データを出力するセンサーである。なお、センサー40は、ToFセンサーに限定されるものではない。
【0025】
センサー40は、図2及び図3に示すように、デッキボード19の端縁を通常よりも長く形成し、突出したデッキボード19の下面にセンサー40を配置している。これにより、センサー40は、乗客の足元近傍の高さを平面スキャンすることができる。なお、センサー40の設置位置は、これに限定されるものではなく、スカートガードやニューエルカバーに設置、或いは、別途ポールを降り口21aに立設してセンサー40を装着することもできる。センサー40は、図4図5等に示すように、左右の何れか一方に配置すれば足りるが、降り口21aの左右に1つずつ配置しても構わない。図示のセンサー設置位置は、進行方向右側のデッキボード19の先端であり、ハンドレール12が円弧状に折り返すハンドレール12の先端よりもやや後退した位置である。
【0026】
図4図5は、降り口21aを平面視した模式図である。降り口21aには、センサー40により検知される領域が設定される。この領域を第1領域α、第2領域βと称する。第1領域αは、ステップ11側から見てデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の領域であり、第2領域βは、当該第1領域よりもステップ11側の領域である。
【0027】
より詳細には、第1領域αは、先行技術文献で掲示した特許文献1の測定領域に相当し、乗降口のフロアプレート25を一部含む領域である。第1領域αには、エスカレーター10の乗客が通過することはもちろん、乗客以外の者も第1領域αを横切ることがある。
【0028】
第2領域βは、第1領域αよりもステップ11側の領域である。具体的実施形態として、第2領域βは、図4に示すように、第1領域αの基端側からステップ11の直前の櫛23までの領域とすることができる。また、エスカレーター10には、櫛23の手前側にステップ11がフロアプレート25(乗降板22)と略水平になる水平部11a(図2図3参照)が存在する。この水平部11aを第2領域βに含めることができる。この場合、第2領域βは、図5に示す領域となり、第1領域αの基端側から、櫛23を越えて、ステップ11がフロアプレート25と略水平になる水平部11aを含む領域となる。水平部11aは、ステップ1枚分から3枚分(福祉仕様など)の長さに設定できる。第2領域βを広げることで、乗降板22側だけでなくステップ11の水平部11aにおける乗客の滞留等も検知できる。
【0029】
この第2領域βは、通常はエスカレーター10の乗客以外は侵入しない領域であり、第1領域αよりもステップ11側であるから、第2領域βでの乗客の転倒や転倒、立ち止まり等はエスカレーター10の運行に大きな影響を与える領域である。なお、以下では、図5に示すフロアプレート25と略水平な1枚分のステップ11を含む領域を第2領域βとして採用した実施形態について説明する。
【0030】
上記した第1領域αと第2領域βは、降り口21aの乗客の進行方向(図2等の矢印A)をY軸、Y軸と平面内で直交する水平方向をX軸としたときに、XY座標で規定することができる。たとえば、センサー40の位置をX軸(Y軸のゼロ)上とし、Y軸(X軸のゼロ)は、降り口21aの幅方向中心に設定する。第1領域αは、図5に示すように、X軸方向には-Xα~Xα、Y軸方向には0~Yαの矩形領域で規定できる。同様に、第2領域βは、第1領域αよりもステップ11側に位置する、X軸方向に-Xβ~Xβ、Y軸方向には-Yβ~0の矩形領域で規定できる。なお、図5では、第1領域αを第2領域βよりも幅広としているが、幅は同じであってもよい。また、これらの長さ(YαとYβ)も同じ又は異なっていてもよい。
【0031】
図6は、センサー40の検知可能な範囲を示している。たとえば、センサー40は、135°以上の測定角を有するものを採用でき、少なくとも90°が第1領域αを検知し、少なくとも45°が前記第2領域βを検知する構成とするよう設置する。図6では、センサー40は、測定角の90°が第1領域を検知し、65°が第2領域βを検知している。なお、市販のセンサー40を採用した場合、測定角は約270°である。この場合、センサー40の投光部と受光部の回転角を少なくとも135°以上に設定すればよい。また、センサー40の位置を前後させたり、内側に配置したりすることで検知範囲を広げることもできる。測定不要な範囲では、測定された距離データにゼロを代入する等の処理を行なえばよい。
【0032】
センサー40が左右何れか一方の場合、図6に示すように第2領域βには測定不能な死角領域γが発生する。この死角領域γができるだけ狭くなるようにセンサー40を設置することが望ましい。しかしながら、死角領域γは比較的狭い領域であるから、死角領域γのみに乗客の滞留等が発生する可能性は極めて低く、運用上問題はない。センサー40を左右に1つずつ配置することで、コスト増には繋がるが、第2領域βの全範囲をほぼ死角領域γが生ずる測定することができる。
【0033】
然して、センサー40により、第1領域αと第2領域βは、平面スキャンされ、センサー40は、これら領域に存する物体(乗客50)の距離データを次に説明する制御装置31に出力する。たとえば、センサー40は、所定時間毎、たとえば25msec毎に降り口21aを平面スキャンし、検出された物体の距離データをたとえば座標値として連続的に逐次検知し続ける構成とすることができる。
【0034】
図7は、ToFセンサーをセンサー40として採用し、第1領域αと第2領域βを平面スキャンした1スキャン分の2次元座標系の検知結果を示す距離データの一例を示している。たとえば、図5に示すように、第1領域αに2人の乗客50α、第2領域に1人の乗客50βがステップ11から降りて、進行方向に向けて歩行している状態では、乗客50α、50βに対し、図7に示すように、センサー40により検出された距離データ(図中黒丸印で示す)が得られる。図7を参照すると、第1領域αでは、乗客50αの足の輪郭を示す点の集合50a,50bが確認され、第2領域βでは、乗客50βの足の輪郭を示す点の集合50cを確認することができる。
【0035】
センサー40の距離データは、エスカレーター10の制御装置31に出力される。図8は、本発明に係る制御に関連する要部構成を示すエスカレーター10の制御システム30のブロック図である。制御システム30は、制御装置31を具え、センサー40から出力される距離データを受信し、降り口21aの第1領域αと第2領域βにおける乗客の状況を夫々判定し、当該判定結果に基づいてモーター17の回転速度を制御する。たとえば、制御装置31は、センサー40からの検知結果から降り口21aの乗客の状況を判定する状況判定手段32(後述する)と、状況判定手段32にて判定された状況に基づいて、モーター17の速度指令を発する速度指令生成手段33と、当該速度指令に基づいてモーター17をインバーター制御するインバーター制御手段34を具える構成とすることができる。なお、モーター17の回転速度制御は、インバーター制御に限るものではない。
【0036】
状況判定手段32は、センサー40から取得した距離データが何れの領域の距離データであるかを判別し、各領域α、βに存在する物体50の重心の移動速度を算出し、或いは、物体50の重心の移動速度と物体50の幅とを算出し、領域α、β毎の乗客の状況を判定する。以下の実施形態では、第1領域α、第2領域βの両方について、物体50の重心の移動速度と物体50の幅に基づいて乗客の状況を判定するが、一方又は両方の領域について、物体の重心の移動速度のみに基づいて乗客の状況を判定してもよい。また、幅に代えて物体の面積を算出して採用してもよい。
【0037】
具体的実施形態として、状況判定手段32は、図8に示すように、センサー40から距離データが入力され、各距離データが何れの領域の距離データであるかを判別する領域判定部32aと、各領域α、βの距離データに基づいて、各領域α、βに存する物体50の重心位置を算出する重心算出部32b、算出された重心位置51から重心位置51の移動速度を算出する重心移動速度算出部32c、また、領域判定部32aから第1領域α、第2領域βの距離データを得て物体50の幅を算出する幅算出部32dと、これらにより算出された重心移動速度と幅に基づいて降り口21aの状況を判定する状況判定部32eを具えた構成することができる。
【0038】
これらの各機能により、以下の要領でセンサー40の距離データから降り口21aの乗客の状況を判定する。なお、具体的な算出、演算方法、演算式等については、実施例で説明する。
【0039】
センサー40が所定時間毎に測定した距離データは、領域判定部32aで連続的に逐次取得される。領域判定部32aは、入力された距離データ(座標値)が何れの領域の距離データであるかを判別する。すなわち、距離データが第1領域αのデータであるか、第2領域βのデータであるか、或いは、これら以外の領域のデータであるかを判別する。具体的には、領域判定部32aは、距離データの座標値が、図3に示す第1領域α内、すなわち、距離データのX座標が-Xα~Xα、且つ、Y座標が0~Yα内にあれば、第1領域αの距離データと判別する。また、距離データのX座標が-Xβ~Xβ、Y座標が-Yβ~0内にあれば、第2領域βの距離データがと判別する。これ以外の座標値の場合には、の矩形領域内にあれば第2領域βと判別する。距離データの座標がこれら領域α、β以外であれば、距離データにゼロを代入することで不要なデータとして除去することができる。
【0040】
領域判定部32aにより、領域α、β毎に取得された距離データは、逐次連続的に重心算出部32bと、幅算出部32dにも送信される。
【0041】
重心算出部32bは、領域α、β毎に受信した距離データから、各領域α、βの乗客50α、50βの重心位置を算出する。重心算出部32bにより算出された重心位置を図7中、符号51α、51βで示す。重心算出部32bは、たとえば、受信した領域α、β毎の距離データのX軸方向成分、Y軸方向成分をそれぞれ加算し、距離データの数で除算することで重心位置51α、51βを算出できる。
【0042】
なお、重心算出部32bは、領域α、β毎に検出された物体50α、50βについて、各領域に夫々1つの物体として重心位置51α、51βを算出、すなわち、距離データ群全体の重心位置51を算出している。一方で、個々の距離データ群毎の塊に対し、個々の重心位置を算出し、各重心位置の移動速度を算出するようにしてもよい。この場合、個々の重心位置のX軸方向の移動速度を分析することで、エスカレーター10から降車した乗客ではなく、降り口21a、特に第1領域αを横切っただけの利用者を重心位置の移動速度の計算から除外することもできる。これにより、エスカレーター10の乗客による降り口21aの流れ、滞留などをより正確に判断できる。
【0043】
算出された各領域α、βの重心位置51α、51βは、重心移動速度算出部32cに送信される。そして、重心移動速度算出部32cは、順次受信する重心位置51α、βから、当該重心位置51α、βの移動速度を算出する。重心移動速度算出部32cは、たとえば、順次受信した重心位置51αの差分から第1領域α内の乗客50αの移動速度を算出できる。また、順次受信した重心位置51βの差分から第2領域β内の乗客50βの移動速度を算出できる。なお、重心位置51α、51βの移動速度の算出に際し、エスカレーター10の進行方向のみの速度を抽出するようにすることが望ましい。また、測定誤差等の影響を抑えるために、重心位置51α、51βの移動速度は、たとえば、移動平均とすることで算出データの微小変化を平滑化することができる。
【0044】
幅算出部32dは、第1領域αに存する乗客50αについて、領域判定部32aから得た距離データに基づいて、第1領域αに存在する物体50αの幅を算出する。物体50αの占める幅は、たとえば、物体50αを矩形と見做し、得られた距離データのX軸方向成分の最大値、最小値から算出できる。このように第1領域αについて、物体50αの幅を算出することで、乗客が通過できない程度の物体が第1領域αを占有しているのか、物体50αは存在するものの、乗客は通行可能であるのかを判断することができる。第2領域βについても同様に、物体50βの占める幅は、物体50βを矩形と見なし、得られた距離データのX軸方向成分の最大値、最小値から算出できる。
【0045】
そして、上記重心移動速度算出部32cにて算出された第1領域αの重心位置51αの移動速度と、第2領域βの重心位置51βの移動速度、さらに、幅算出部32dにて算出された物体50α、50βの幅は、状況判定部32eに送信される。状況判定部32eは、領域α、βについては、移動速度と幅に基づいて乗客の流れ、滞留などの状況を判定する。
【0046】
たとえば、第1領域αの重心位置51αの移動速度が速く、且つ、第1領域αに対する物体50αの幅が小さければ、第1領域αでは、乗客がスムーズに流れていると判定できる。また、第2領域βについても、重心位置51βの移動速度が速く、且つ、第2領域βに対する物体50βの幅が小さければ、乗客がスムーズに流れていると判定できる。一方で、第1領域αの重心位置51αの移動速度が所定値以下、或いは、第1領域αに対する物体50αの幅が大きい場合には、第1領域αで滞留等が発生していると判断できる。同様に、第2領域βの重心位置51βの移動速度が所定値以下、及び/又は、第2領域βに対する物体50βの幅が大きい場合には、第2領域βで滞留等が発生していると判断できる。
【0047】
そこで、状況判定部32eは、予め第1領域αの重心位置51αの移動速度と物体50αの幅、また、第2領域βの重心位置51βの移動速度と物体50βの幅をパラメーターとし、乗客の流れ、滞留などの状況を算出する関数やテーブルを具え、これらパラメーターから乗客の流れ、滞留などの状況を数値化(以下「状況値」)すればよい。
【0048】
状況判定部32eで判定された降り口21aの第1領域αと第2領域βの乗客の流れ、滞留などの状況は、エスカレーター10の運行速度制御に利用することができる。状況判定部32eで判定された状況(状況値)は、図8に示す速度指令生成手段33に送信される。速度指令生成手段33は、状況値に基づいて、エスカレーター10の運行速度が最適となるように、モーター17の回転速度の指令値を生成する。たとえば、速度指令生成手段33は、状況値とモーターの回転速度の指令値のテーブルを格納したメモリを有し、当該テーブルを参照してモーター17の回転速度の指令値を生成すればよい。モーター17の回転速度の指令値は、状況値にリアルタイムに追従する変化、すなわち、第1領域αと第2領域βの状況に応じて可変な閾値を持つ制御とすることもできるし、段階的に変化する速度指令であってもよい。
【0049】
そして、速度指令生成手段33により生成された速度指令に基づいて、インバーター制御手段34がモーター17の回転速度を制御することで、第1領域αと第2領域βの状況に応じてエスカレーター10の運行速度は制御される。一般的には、重心位置51α、51βの移動速度が遅い場合、及び/又は、第1領域α、第2領域βに占める物体50α、50βの幅が大きい場合には、乗客が滞留していると判断して、エスカレーター10の運行速度を遅くして、エスカレーター10により降り口21aに到着する乗客数を減らし、降り口21aの滞留の解消を図ることができる。なお、エスカレーター10の運行速度を遅くする前に、必要に応じて、降り口21aから移動するよう注意喚起のアナウンス等を行なってもよい。また、降り口21aにて滞留が生じていない場合には、エスカレーター10の運行速度を定格速度まで戻せばよい。
【0050】
一方で、第1領域αと第2領域βで比較すると、第2領域βは、第1領域αよりもステップ11側の領域である。また、第2領域βの左右にはハンドレール12や欄干が立設されている。従って、第2領域βは、第1領域αよりも重点的に乗客50βの滞留等を検知する必要がある。
【0051】
そこで、状況判定部32eは、先に第2領域βの乗客50βの状況を判定し、第2領域βの重心位置51βの移動速度が所定値以下であれば、第1領域αの状況に拘わらず、エスカレーター10を停止又は運行速度を遅くすることが望ましい。加えて、第2領域βの物体50βの幅が所定幅以上であれば、エスカレーター10を停止又はさらに運行速度を遅くすることが望ましい。逆に、第2領域βに乗客が検知されない場合には、第1領域αに滞留等が発生していたとしても、第2領域βから第1領域αに向かう乗客はいないので、エスカレーター10の停止や運行速度制御は実行しない制御とすることが好適である。
【0052】
本発明によれば、降り口21aにおける乗客の状況を、降り口21aを第1領域αと第2領域βに分け、これら領域の乗客の状況を1つのセンサー40により測定している。そして、測定された距離データを元に算出される各領域α、βの重心位置51α、51βの移動速度等に基づいて判定することができる。そして、判定された状況に基づいてエスカレーター10の運行速度を制御することで、降り口21aにおける乗客の滞留等を防止でき、スムーズな流れを確保できる。
【0053】
なお、重心位置51α、51βの移動速度のみに基づいて状況値を得るには、幅算出部32dは不要である。この場合、重心移動速度算出部32cにて算出された重心位置51α、51βの移動速度を状況判定部32eに送信し、第1領域α、第2領域βにおける乗客の流れ、滞留などの状況を判定し、エスカレーター10の速度制御等を行なえばよい。たとえば、重心位置51α、51βの移動速度が速いほど、乗客はスムーズに流れており、重心位置51α、51βの移動速度が遅いほど、降り口21aに乗客が滞留していることが判定できる。この場合でも、ステップ11に近い第2領域βに重点を置いて制御を行なうことが望ましい。
【実施例0054】
以下、図5に点線で示す降り口21aの第1領域αと第2領域βに対し、センサー40により距離データを測定し、重心位置51α、51βの移動速度と、第1領域αの物体50αの幅に基づいて、乗客の状況を判定し、エスカレーター10の速度制御を行なった。
【0055】
第1領域αは、図5及び以下の式(1-1),(1-2)、領域βは、図5及び以下の式(1-3)、(1-4)に示すX軸、Y軸座標で表され、センサー40は、X軸に配置、また、Y軸のゼロ点をエスカレーター10の幅方向中心としている。
【0056】
【数1】
【0057】
第1領域αは、エスカレーター10の幅よりも若干広い幅に設定している。また、第2領域βは、第1領域αよりもステップ11側の領域であり、幅方向は、ステップ11の幅と略同じに設定した。なお、第2領域βは、第1領域αの基端側からステップ11がフロアプレート25と水平になる水平部11a(図2図3)を含む領域としている。
【0058】
以下、本発明の一実施形態に係る制御を、降り口21aの平面、図5乃至図7、フローチャート図9図10等を参照しながら説明する。
【0059】
<領域判定ステップ>
乗客50の状況の測定が開始されると、まず、図6に示すように、センサー40が第1領域α及び第2領域βを含む領域を平面スキャンし(図9のステップS1)、距離データを制御装置31に送信する(ステップS2)。図7は、距離データを黒丸で座標表示している。領域判定部32aは、取得したセンサー40の距離データが、何れの領域のデータであるか、または、それ以外の範囲のデータであるかを判定する(ステップS3)。具体的には、距離データをゼロ点を中心とするXY座標とし、距離データが上記した(1-1)、(1-2)を満たす場合には第1領域αの距離データ、(1-3)、(1-4)を満たす場合には第2領域βの距離データと判定する。それ以外の距離データについてはゼロを代入することで不要なデータとして除去する。
【0060】
そして、領域判定部32aは、重心算出部32bに第1領域αと第2領域βの各距離データを送信する(ステップS3)。同時に、幅算出部32dにも距離データを送信する。
【0061】
第1領域αの距離データについては、ステップS4~S6に示すように、重心位置51αとその移動速度及び幅を算出する。また、第2領域βの距離データについても、ステップS8~S10に示すように、重心位置51βとその移動速度及び幅を算出する。
【0062】
<重心位置算出ステップ>
各領域α、βの重心位置51α、51βは、第1領域αと第2領域βのそれぞれの距離データ群の奥行方向と水平方向の平均値を下記式(1-5)、(1-6)を用いて計算することで算出できる(ステップS4、S8)。なお、これにより算出される重心位置51はα、51βは、実際に各領域α、βに存在する個々の物体の重心位置ではなく、あくまでも各領域α、βの距離データ群全体の重心位置となる。
【0063】
【数2】
【0064】
<重心移動速度算出ステップ>
上記にて順次算出される重心位置51α、51βから、下記式(1-7)、(1-8)を用いて、重心位置51α、51βの移動速度を算出する(ステップS5、ステップS9)。ここで、サンプリング周期は、たとえば25msecとすることができる。
【0065】
【数3】
【0066】
なお、上記(1-7)、(1-8)にて算出した重心速度は、センサー40により得られた距離データが塊として移動する速度を示すが、重心位置51α、51βを算出しているため、各領域α、βの距離データの分布度合(分布形状)に影響を受ける。すなわち、乗客の移動速度が一定であった場合であっても、先頭の人が領域α、βを進行方向に出て行くタイミング、或いは、後続の人が領域α、βに侵入するタイミングによっては、距離データの分布度合が急激に変化し、実際には生じていない重心位置の移動速度の急激な変化が検出されることになる。これら2つのタイミングは、何れも進行方向とは逆の速度として検出される。このため、進行方向と同じ方向の速度を正とする移動速度のみを抽出することが望まれる。そこで、重心位置移動速度算出ステップ(ステップS5、S9)では、式(1-7)、(1-8)で算出された領域α、βにおける進行方向を正とする移動速度について、下記式(1-9)を適用し、当該移動速度の絶対値を加えた速度に基づいて重心位置51α、51βの移動速度を算出することで、正の値となる速度のみを抽出するようにしている。これにより、進行方向とは逆の方向で検出された移動速度はゼロとなり、実際に発生していない負の速度は、後に示す移動平均に反映されないようにできる。
【0067】
【数4】
【0068】
また、本実施形態では、センサー40の領域α、βにおける距離データ群をそれぞれ1サンプリング毎に処理しているから、測定誤差等の影響により微小な速度変化が発生し、誤判定の原因となり得る。そこで、下記式(1-10)の如き移動平均フィルタを用いることで、得られた重心位置の移動速度の移動平均を算出し、微小変化を平滑化することが望ましい。もちろん、データ処理は、移動平均に限定されるものではない。
【0069】
【数5】
【0070】
上記により、得られた重心位置51α、51βの移動速度は、状況判定部32eに送信される(ステップS7、S11)。
【0071】
<物体の幅の算出>
本実施形態では、幅算出部32dは、得られた物体の距離データから、物体を矩形と見做して、物体の幅を算出する(ステップS6、S10)。たとえば、幅は、第1領域α、第2領域βの距離データのX軸方向の最大値と最小値の差分で算出できる。
【0072】
続いて、幅算出部32dは、上記により得られた各領域α、βの物体50α、50βの幅を、状況判定部32eに送信する(ステップS7、S11)。
【0073】
<状況判定ステップ>
状況判定部32eは、重心移動速度算出部32cで算出された重心位置51の移動速度と、幅算出部32dで算出された物体50の幅に基づいて、降り口21aの乗客の流れ、滞留等の状況を数値化した状況値を算出する(ステップS7、S11)。状況値は、具体的には、第1領域αについては重心位置51αの移動速度と幅である。また、第2領域βの状況値は重心位置51βの移動速度と幅である。
【0074】
<速度指令生成ステップ>
状況判定部32eで算出された状況値は、速度指令生成手段33に送信される(ステップS12、サブルーチン図10)、速度指令生成手段33は、第1領域αと第2領域βの状況値に基づいてエスカレーター10の運行速度が最適となるように、モーター17の回転速度の指令値を生成する(サブルーチン図10)。
【0075】
本実施例では、第1領域αと第2領域βのうち、ステップ11側に近い第2領域βに重点を置いて乗客の状況を判定し、エスカレーター10の運行を制御する。
【0076】
具体的には、サブルーチン図10に示すように、まず、第2領域β自体に物体が存在するか否かを判定する(ステップS13)。物体が存在するか否かは、第2領域βの距離データが存在するか、また、移動速度が算出されているかどうかにより判定できる。そして、第2領域βに物体が存在しない場合には、後述のステップS18に移行し、第1領域αの状況を判断する(ステップS13のNo)。
【0077】
第2領域βに物体が存在する場合には(ステップS13のYes)、その重心位置51βの移動速度が所定速度(例では100mm/sec)以上かどうか判定する(ステップS14)。第2領域βの重心位置51βの移動速度が所定速度以下の場合には、第2領域βに滞留等が発生しているから、第2領域βの乗客の状況に基づいてエスカレーター10の減速を行なう(ステップS14のNo)。
【0078】
第2領域βの重心位置51βの移動速度が、所定速度以下の場合(ステップS14のNo)、第2領域βに乗客が通過できる幅員が確保されているかどうかを判断する(ステップS15)。第2領域βの幅員は、第2領域βに存在する物体の幅を参照することで判断できる。
【0079】
その結果、第2領域βの幅員が確保されていない場合には(ステップS15のNo)、速度指令生成手段33は、エスカレーター10を大きく減速する速度指令を生成し(たとえば5m/minまで)、滞留等の解消を待つ(ステップS16)。なお、第2領域βは、第1領域αよりも乗客の滞留等によるエスカレーター10の運行に与える影響が大きいから、第2領域βに幅員が確保されていない場合には、エスカレーター10を緊急停止するようにしてもよい。
【0080】
一方で、第2領域βの幅員が確保されている場合には(ステップS15のYes)、乗客は第2領域βに発生した滞留等を避けることで通行できるから、エスカレーター10の減速はステップS16よりも小さくする(ステップS17)。具体的には、速度指令生成手段33は、所定の運行速度(たとえば10m/min)まで減速する速度指令を生成する。減速度は0.1m/s程度とすればよい。
【0081】
上記ステップS16、S17により、速度変更が所定値(たとえば9m/min)以上となった場合には(ステップS27のYes)、乗客に減速する旨のアナウンスを行なう(ステップS28)。
【0082】
上記ステップS14~S17により、第2領域βに存在する物体(乗客50β)の移動速度と幅員に基づいてエスカレーター10の運行制御を行なうことができる。第2領域βは、第1領域αよりもステップ11に近いから、第2領域βの乗客の状況により早期にエスカレーター10の運行を制御することで、乗客の滞留等による影響を早期に解消等することができる。
【0083】
ステップS13がNo又はステップS14がYesの場合は、第2領域βに滞留等がない状況である。この場合、第1領域αの物体50αに基づいて、速度指令生成手段33は、エスカレーター10の運行速度を制御すればよい。ステップS18~S26がその一例である。
【0084】
具体的には、ステップS13がNo又はステップS14のYesの場合、第1領域αに物体50αが存在しているかどうかを判断する(ステップS18)。第1領域αに物体50αが存在していなければ(ステップS18のNo)、ステップS13がNo又はステップS14のYesより第2領域βに滞留がない状態であって、第1領域αにも滞留はなく、エスカレーター10の速度制限を行なう必要はないから、他のステップにてエスカレーター10が減速されている場合に定格速度(たとえば30m/min)に戻すよう加速する(ステップS19)。また、第1領域αに物体50αが存在し(ステップS18のYes)、当該物体50αの移動速度が所定速度(たとえば100mm/sec以上)の場合も同様である(S20のYes、ステップS21)。
【0085】
一方、第1領域αに物体50αが存在し(ステップS18のYes)、当該物体50αの重心位置51αの移動速度が所定範囲(たとえば50mm/sec~100mm/sec)となった場合は(ステップS20のNo、ステップS22のYes)、エスカレーター10を若干減速する(ステップS23)。重心位置51αの移動速度がさらに遅い場合には(ステップS22のNo)、第1領域αに存在する物体の幅を参照し、第1領域αに乗客が通過できる幅員が確保されているかどうかを判断する(ステップS24)。
【0086】
その結果、第1領域αの幅員が確保されていない場合には(ステップS24のNo)、速度指令生成手段33は、エスカレーター10を大きく減速する速度指令を生成し(たとえば5m/minまで)、滞留等の解消をまてばよい(ステップS25)。
【0087】
一方で、第1領域αの幅員が確保されている場合には(ステップS24のYes)、乗客は第1領域αに発生した滞留等を避けることで通行できるから、エスカレーター10の減速はステップS22よりも小さくて済む(ステップS26)。
【0088】
上記何れの場合も、速度変更が所定値(たとえば9m/min)以上となった場合には(ステップS27のYes)、乗客に減速する旨のアナウンスを行なう(ステップS28)。そして、図9のフローチャートのステップS1に戻る(ステップS29)。
【0089】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0090】
10 エスカレーター
12 ハンドレール
17 モーター
19 デッキボード
21a 降り口
31 制御装置
32 状況判定手段
32a 領域判定部
32b 重心算出部
32c 重心移動速度算出部
33 速度指令生成手段
34 インバーター制御手段
40 センサー
50 乗客(物体)
α 第1領域
β 第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサーと、前記滞留検知センサーの検知結果に基づいてステップを循環駆動するモーターの速度制御を行なう制御装置と、を具えた乗客コンベアであって、
前記滞留検知センサーは、前記ステップに対してデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の第1領域と、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域とに夫々存在する物体の状況を取得可能であり、
前記制御装置は、前記滞留検知センサーにより取得された前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する物体の移動速度と幅に基づいて、前記モーターの速度制御を行なうものであり
前記制御装置は、前記第2領域に前記物体が存在し、前記第2領域における前記物体の前記移動速度が所定速度未満であって、且つ、前記第2領域の前記物体の前記幅から算出され、前記第2領域に乗客が通過できる幅員が確保されている場合には、前記モーターの速度を減速し、前記幅員が確保されていない場合には、前記モーターの速度を前記減速よりもさらに減速する制御を行なう、
乗客コンベア。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2領域に前記物体が存在しない又は前記第2領域における前記物体の移動速度が所定速度以上の場合であって、前記第1領域に前記物体が存在しない場合、又は、前記第1領域に存在する前記物体の移動速度が所定速度以上の場合に、前記モーターの速度を加速する制御を行なう、
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第2領域に前記物体が存在しない又は前記第2領域における前記物体の移動速度が所定速度以上の場合であって、前記第1領域に存在する前記物体の移動速度が所定速度未満の場合に、前記モーターの速度を減速する制御を行なう、
請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記滞留検知センサーは、前記第1領域と前記第2領域に夫々存在する前記物体の距離データを連続的に逐次取得するエリア型センサーである、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記第2領域は、前記ステップまでの領域である、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記第2領域は、前記乗降口のフロアプレートと水平になるステップ部分を含む領域である、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記滞留検知センサーは、135°以上の測定角を有しており、少なくとも90°が前記第1領域を検知し、少なくとも45°が前記第2領域を検知する、
請求項1乃至請求項の何れかに記載の乗客コンベア。
【請求項8】
乗降口に設置され、前記乗降口における物体の状況を検知する滞留検知センサーを具えた乗客コンベアの速度制御方法であって、
前記滞留検知センサーによって、ステップに対してデッキボード又はハンドレール先端よりも以遠側の第1領域と、前記第1領域よりも前記ステップ側の第2領域とに夫々存在する物体の状況を連続的に逐次取得する領域判定ステップ、
前記逐次取得された前記物体の状況から、前記第1領域と前記第2領域の夫々に存在する物体の重心位置を時系列順に算出する重心位置算出ステップ
前記第1領域と前記第2領域の夫々の前記重心位置の移動速度を算出する重心移動速度算出ステップ、
により、乗客の状況を検知し、
前記重心移動速度算出ステップにより算出された前記第1領域と前記第2領域の前記重心位置の移動速度に基づいて、前記ステップを循環駆動させるモーターの回転を制御する、速度制御ステップを有するものであって、
前記速度制御ステップは、前記第2領域の前記重心位置の移動速度が所定速度未満の場合、前記第1領域の前記重心位置の移動速度に関係なく前記モーターを制御する、
乗客コンベアの速度制御方法。
【請求項9】
前記重心移動速度算出ステップは、前記第1領域と前記第2領域における前記乗客コンベアの進行方向の移動速度のみを算出する、
請求項に記載の乗客コンベアの速度制御方法。
【請求項10】
前記速度制御ステップは、前記第2領域に前記物体が検知されない場合、前記第1領域の前記重心位置の移動速度による前記モーターの制御は行なわない、
請求項又は請求項9に記載の乗客コンベアの速度制御方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0076
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0076】
具体的には、サブルーチン図10に示すように、まず、第2領域β自体に物体が存在するか否かを判定する(ステップS13)。物体が存在するか否かは、第2領域βの距離データが存在するか、また、移動速度が算出されているかどうかにより判定できる。そして、第2領域βに物体が存在しない場合には(ステップS13のNo)、後述のステップS18に移行し、第1領域αの状況を判断する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0077
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0077】
第2領域βに物体が存在する場合には(ステップS13のYes)、その重心位置51βの移動速度が所定速度(例では100mm/sec)以上かどうか判定する(ステップS14)。第2領域βの重心位置51βの移動速度が所定速度未満の場合には、第2領域βに滞留等が発生しているから、第2領域βの乗客の状況に基づいてエスカレーター10の減速を行なう(ステップS14のNo)。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0078
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0078】
第2領域βの重心位置51βの移動速度が、所定速度未満の場合(ステップS14のNo)、第2領域βに乗客が通過できる幅員が確保されているかどうかを判断する(ステップS15)。第2領域βの幅員は、第2領域βに存在する物体の幅を参照することで判断できる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0085
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0085】
一方、第1領域αに物体50αが存在し(ステップS18のYes)、当該物体50αの重心位置51αの移動速度が所定範囲(たとえば50mm/sec以上100mm/sec未満)となった場合は(ステップS20のNo、ステップS22のYes)、エスカレーター10を若干減速する(ステップS23)。重心位置51αの移動速度がさらに遅い場合には(ステップS22のNo)、第1領域αに存在する物体の幅を参照し、第1領域αに乗客が通過できる幅員が確保されているかどうかを判断する(ステップS24)。