(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182788
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】衝撃吸収構造体
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20221201BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20221201BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221201BHJP
B60R 19/18 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 B
F16F7/00 K
F16F15/02 Z
B60R19/18 N
B60R19/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090519
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福井 勇人
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AB01
3J048AC06
3J048AD05
3J048BD03
3J048BD05
3J048DA04
3J048EA36
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA04
3J066BB01
3J066BC01
3J066BD05
3J066BE01
3J066BF02
3J066BG05
(57)【要約】
【課題】衝撃吸収構造体における衝撃エネルギーの吸収効率の低下を抑制する。
【解決手段】衝撃吸収構造体10の繊維構造体20は、一般部25と、一般部25よりも圧縮強度が低い脆弱部26と、一般部25と脆弱部26との境界において各々を構成する繊維が互いを連続しない不連続部27と、を備える。脆弱部26は、積層方向Zにおける内面20aと中間層30aとの間に位置する内層31と、積層方向Zにおける中間層30aと外面20bとの間に位置する外層32と、を備え、且つ車両上下方向Yにおける繊維構造体20の最下部を含んで位置する。内層31は、繊維構造体20の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束からなる軸方向繊維層36を含む。軸方向繊維層36は、外層32よりも内層31に多く位置する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなし、且つ軸線に対して直交する断面が閉じ断面形状である繊維構造体を備え、
前記繊維構造体にマトリックス材料を複合化することにより構成される衝撃吸収構造体であって、
前記繊維構造体は、一般部と、前記繊維構造体の周方向において前記一般部と隣り合い、且つ前記一般部よりも圧縮強度が低い脆弱部と、前記一般部と前記脆弱部との境界において各々を構成する繊維が互いを連続しない不連続部と、を備え、
前記繊維構造体の内面に直交し、且つ前記内面から前記繊維構造体の外面へと向かう方向を積層方向とし、
前記積層方向における前記繊維構造体の中間位置に延びる仮想的な層を中間層とするとき、
前記脆弱部は、前記積層方向における前記内面と前記中間層との間に位置する内層と、前記積層方向における前記中間層と前記外面との間に位置する外層と、を備え、且つ車両上下方向における前記繊維構造体の最下部を含んで位置し、
前記内層は、前記繊維構造体の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束からなる軸方向繊維層を含み、
前記軸方向繊維層は、前記外層よりも前記内層に多く位置することを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
前記脆弱部は、全体が車両上下方向において前記一般部より下方に位置する請求項1に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項3】
前記内層は、前記軸方向繊維層から構成され、
前記外層は、前記繊維構造体の周方向に主軸が延びる複数の周方向繊維束からなる周方向繊維層から構成される請求項1又は請求項2に記載の衝撃吸収構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維構造体にマトリックス樹脂を複合化することにより構成される衝撃吸収構造体が知られている。衝撃吸収構造体は車両等に設けられている。車両が衝撃荷重を受けた場合に、衝撃吸収構造体は、変形しつつ圧縮破壊されることによって衝撃エネルギーを吸収する。衝撃吸収構造体としては、例えば、特許文献1に記載のように、閉じ断面を有するものが知られている。衝撃吸収構造体が閉じ断面を有することにより、衝撃吸収構造体が開き断面を有する場合と比較して、衝撃吸収構造体における断面剛性が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝撃吸収構造体が衝撃荷重を受けた際、衝撃吸収構造体の変形及び圧縮破壊によって、衝撃吸収構造体から破片が生じるおそれがある。衝撃吸収構造体が閉じ断面を有する場合、生じた破片が衝撃吸収構造体の内部に蓄積する。衝撃吸収構造体の内部に蓄積された破片によって衝撃吸収構造体の変形が阻害されることにより、衝撃吸収構造体の衝撃エネルギーの吸収効率が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する衝撃吸収構造体は、筒状をなし、且つ軸線に対して直交する断面が閉じ断面形状である繊維構造体を備え、前記繊維構造体にマトリックス材料を複合化することにより構成される衝撃吸収構造体であって、前記繊維構造体は、一般部と、前記繊維構造体の周方向において前記一般部と隣り合い、且つ前記一般部よりも圧縮強度が低い脆弱部と、前記一般部と前記脆弱部との境界において各々を構成する繊維が互いを連続しない不連続部と、を備え、前記繊維構造体の内面に直交し、且つ前記内面から前記繊維構造体の外面へと向かう方向を積層方向とし、前記積層方向における前記繊維構造体の中間位置に延びる仮想的な層を中間層とするとき、前記脆弱部は、前記積層方向における前記内面と前記中間層との間に位置する内層と、前記積層方向における前記中間層と前記外面との間に位置する外層と、を備え、且つ車両上下方向における前記繊維構造体の最下部を含んで位置し、前記内層は、前記繊維構造体の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束からなる軸方向繊維層を含み、前記軸方向繊維層は、前記外層よりも前記内層に多く位置することを特徴とする。
【0006】
上記構成によれば、脆弱部が一般部よりも圧縮強度が低いため、衝撃吸収構造体に対して衝撃荷重が加わると、一般部よりも脆弱部の方が圧縮変形しやすい。そのため、脆弱部が圧縮変形した後に、一般部が圧縮変形することにより、衝撃吸収構造体の全体が破壊される。ここで、上記構成によれば、内層は、繊維構造体の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束からなる軸方向繊維層を含んでいる。軸方向繊維層は、外層よりも内層に多く位置している。そのため、衝撃吸収構造体に対して衝撃荷重が作用する方向である荷重方向が、繊維構造体の軸線に平行な方向である場合、軸方向繊維層を多く備える内層の方が、外層よりも衝撃荷重に対する圧縮弾性率が高くなる。これにより、脆弱部において、中間層よりも一方に位置する部分と他方に位置する部分とで圧縮弾性率に差が生じる。衝撃吸収構造体に対する衝撃荷重の作用に伴って脆弱部が圧縮変形するとき、内層と外層との圧縮弾性率の差によって、外層が内層よりも大きく圧縮変形する。これにより、脆弱部は一般部から離間するように変形する。脆弱部の変形に伴って、一般部と脆弱部との境界における不連続部に亀裂が進展することにより、一般部と脆弱部とが離間した離間部が衝撃吸収構造体に生じる。離間部を介して、繊維構造体の内部と外部とが連通するようになる。上記構成によれば、脆弱部は、車両上下方向における繊維構造体の最下部を含んで位置している。そのため、衝撃吸収構造体の圧縮変形に伴って破片が生じるとき、破片は脆弱部の内面上に蓄積しやすい。脆弱部が変形する際は、離間部を介して繊維構造体の内部から外部へと破片が排出されやすい。このため、脆弱部の変形が破片によって阻害されにくい。破片が脆弱部の内面に蓄積しにくいため、一般部が変形する際にも、一般部の変形が破片によって阻害されにくい。これにより、衝撃吸収構造体の内部に蓄積された破片によって衝撃吸収構造体の変形が阻害されにくくなる。したがって、衝撃吸収構造体における衝撃エネルギーの吸収効率の低下を抑制できる。
【0007】
衝撃吸収構造体において、前記脆弱部は、全体が車両上下方向において前記一般部より下方に位置するとよい。
上記構成によれば、衝撃吸収構造体の圧縮変形に伴って衝撃吸収構造体の内部に生じる破片は、一般部の内面よりも先に、脆弱部の内面上に蓄積する。衝撃吸収構造体に対する衝撃荷重の作用に伴って脆弱部が圧縮変形するとき、脆弱部は車両上下方向における下方に向かって曲がるように変形する。そのため、一般部から車両上下方向における下方に離間した位置において、破片が脆弱部の内面上に蓄積される。したがって、破片による一般部の変形の阻害がさらに生じにくくなるため、衝撃吸収構造体における衝撃エネルギーの吸収効率の低下をさらに抑制できる。
【0008】
衝撃吸収構造体において、前記内層は、前記軸方向繊維層から構成され、前記外層は、前記繊維構造体の周方向に主軸が延びる複数の周方向繊維束からなる周方向繊維層から構成されるとよい。
【0009】
軸方向繊維束の主軸が延びる方向が、衝撃吸収構造体に衝撃荷重が加わる荷重方向に一致する場合、繊維構造体の軸方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層と比較して、軸方向繊維層は衝撃荷重に対する圧縮弾性率が高い。これに対して、繊維構造体の周方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層と比較して、周方向繊維層は衝撃荷重に対する圧縮弾性率が低い。
【0010】
上記構成によれば、繊維構造体の軸方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層を内層が備える場合、及び繊維構造体の周方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層を外層が備える場合と比較して、内層と外層との圧縮弾性率の差を大きくできる。衝撃吸収構造体が衝撃荷重を受けた際に、一般部からさらに離れるように脆弱部が大きく変形するようになるため、離間部がより大きくなる。これにより、離間部を介して繊維構造体の内部から外部へと破片をより排出させやすくなる。したがって、破片による衝撃吸収構造体の変形の阻害がさらに生じにくくなるため、衝撃吸収構造体における衝撃エネルギーの吸収効率の低下をさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、衝撃吸収構造体における衝撃エネルギーの吸収効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施形態における衝撃吸収構造体を示す斜視図。
【
図3】実施形態における衝撃吸収構造体を示す正面図。
【
図6】圧縮変形が生じる前の衝撃吸収構造体を示す模式図。
【
図7】圧縮変形が生じたときの衝撃吸収構造体を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、衝撃吸収構造体を具体化した一実施形態を
図1~
図7にしたがって説明する。本実施形態の衝撃吸収構造体は、例えば車両の前方に設けられる。なお、以下の説明において、前、後、左、右、上、下とは、車両の運転者が前方(前進方向)を向いた状態を基準とした場合の、前、後、左、右、上、下のことをいう。車両の上方から下方に向かう方向を車両上下方向Yという。
【0014】
[車両の各種構造]
図1に示すように、車両において、左右両側に設けられたフロントサイドメンバ11の前端部同士の間には、フロントクロスメンバ12が車幅方向に連結するように設けられている。フロントサイドメンバ11の前端部には、衝撃吸収構造体10がフロントバンパ13を支持するように設けられている。
【0015】
[衝撃吸収構造体の基本構造]
図2に示すように、衝撃吸収構造体10は繊維構造体20を備える。繊維構造体20は、四角筒状をなす。これにより、衝撃吸収構造体10の形状も四角筒状をなす。繊維構造体20の軸線Lは、衝撃吸収構造体10の軸線に一致する。軸線Lの延びる方向は、車両の前後方向と一致する。繊維構造体20は、軸線Lに対して直交する断面が閉じ断面形状である。軸線Lの延びる方向を、以下では繊維構造体20の軸方向ともいう。
【0016】
衝撃吸収構造体10は、繊維構造体20にマトリックス材料Maを複合化することによって構成される。マトリックス材料Maとしては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びフェノール樹脂といった熱硬化性樹脂が挙げられる。繊維構造体20へのマトリックス材料Maの複合化は、例えばRTM(Resin Transfer Molding)法を用いて行われる。この場合、四角筒状に賦形させた姿勢で繊維構造体20を成形型に入れて、成形型の内部で繊維構造体20に熱硬化性樹脂を含侵硬化させることにより、衝撃吸収構造体10を製造できる。
【0017】
[繊維構造体の構造]
繊維構造体20は、上壁21と、車両上下方向Yにおいて上壁21よりも下方に位置する下壁22と、側壁23と、を備える。上壁21及び下壁22は車両上下方向Yに直交するように延びる平板状である。側壁23は、車両の左右方向に対して直交するように延びる平板状である。側壁23は、上壁21及び下壁22の端部同士を繋いでいる。上壁21、下壁22、及び側壁23によって、繊維構造体20の内部には空間が区画形成されている。上壁21の内面、下壁22の内面、及び側壁23の内面によって、繊維構造体20の内面20aが構成されている。上壁21の外面、下壁22の外面、及び側壁23の外面によって、繊維構造体20の外面20bが構成されている。繊維構造体20の内面20aに直交し、且つ内面20aから繊維構造体20の外面20bへと向かう方向を積層方向Zとする。
【0018】
繊維構造体20は、一般部25と、一般部25よりも圧縮強度が低い脆弱部26と、を備える。本実施形態の一般部25は、上壁21の全体と、車両上下方向Yにおける側壁23の上半分と、を構成する。本実施形態の脆弱部26は、下壁22の全体と、車両上下方向Yにおける側壁23の下半分と、を構成する。本実施形態の繊維構造体20の車両上下方向Yにおける最下部は下壁22に相当する。そのため、下壁22の全体に位置する脆弱部26は、車両上下方向Yにおける繊維構造体20の最下部を含んで位置している。脆弱部26は、全体が車両上下方向Yにおいて一般部25より下方に位置している。繊維構造体20の周方向において、脆弱部26は一般部25と隣り合っている。
【0019】
一般部25及び脆弱部26の各々は、繊維を有する構造体である。一般部25と脆弱部26との境界は、一般部25及び脆弱部26を構成する繊維が互いを連続しない不連続部27となっている。言い換えると、繊維構造体20は、一般部25と脆弱部26との境界において各々を構成する繊維が互いを連続しない不連続部27を備える。本実施形態の不連続部27は、側壁23の車両上下方向Yにおける中間に位置する。
【0020】
マトリックス材料Maの複合化前の一般部25及び脆弱部26は別体である。一般部25及び脆弱部26にマトリックス材料Maが複合化されることにより、一般部25と脆弱部26とが一体化されている。
【0021】
図3に示すように、積層方向Zにおける繊維構造体20の中間位置に延びる仮想的な層を中間層30aとする。図面では中間層30aを二点鎖線で示す。中間層30aは、上壁21、下壁22、及び側壁23の各々の厚み方向の中間に位置する。中間層30aのうち、上壁21及び下壁22に位置する部分は、車両上下方向Yに直交する方向に延びる平面状である。中間層30aのうち、側壁23に位置する部分は、左右方向に直交する方向に延びる平面状である。
【0022】
[一般部及び脆弱部の構造]
一般部25及び脆弱部26の各々は、積層方向Zに積層される複数の繊維層30を備える。本実施形態の一般部25及び脆弱部26は、互いに同数且つ偶数層の繊維層30を備える。図面では、一般部25及び脆弱部26が6層の繊維層30を備える態様を図示している。本実施形態の一般部25及び脆弱部26の各々において、中間層30aを境に積層方向Zと積層方向Zとは反対方向とに同数ずつの繊維層30が積層されている。一般部25及び脆弱部26の少なくとも一方は、不図示の層間結合糸によって繊維層30同士が結合されていてもよい。
【0023】
脆弱部26において、積層方向Zにおける繊維構造体20の内面20aと中間層30aとの間に位置する繊維層30を内層31という。脆弱部26において、積層方向Zにおける中間層30aと繊維構造体20の外面20bとの間に位置する繊維層30を外層32という。言い換えると、脆弱部26は内層31と外層32とを備えるといえる。本実施形態では、内層31と外層32とが同数の複数ずつである。
【0024】
内層31は、軸方向繊維層36から構成されている。外層32は、周方向繊維層37から構成されている。すなわち、軸方向繊維層36は、外層32よりも内層31に多く位置している。
【0025】
本実施形態の一般部25を構成する複数の繊維層30は、軸方向繊維層36を含んでいる。軸方向繊維層36は、一般部25の一部の繊維層30を構成してもよいし、一般部25の全ての繊維層30を構成してもよい。本実施形態において、一般部25が備える軸方向繊維層36の層数は、脆弱部26が備える軸方向繊維層36の層数よりも多い。すなわち、本実施形態の一般部25が備える軸方向繊維層36の層数は、内層31の総数よりも多い。
【0026】
図4に示すように、軸方向繊維層36は、繊維構造体20の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束41からなる。軸方向繊維層36は、繊維構造体20の周方向に軸方向繊維束41が複数配列されることにより形成されている。
【0027】
図5に示すように、周方向繊維層37は、繊維構造体20の周方向に主軸が延びる複数の周方向繊維束42からなる。周方向繊維束42は軸方向繊維束41に対して直交している。周方向繊維層37は、繊維構造体20の軸方向に周方向繊維束42が複数配列されることにより形成されている。
【0028】
軸方向繊維束41及び周方向繊維束42は、例えば強化繊維からなる糸である。強化繊維としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【0029】
[一般部と脆弱部との圧縮強度の比較]
図6に示すように、衝撃吸収構造体10に対して衝撃荷重が加わる方向を荷重方向Xとする。例えば、荷重方向Xは、車両の前方から後方へと向かう方向である。荷重方向Xは、繊維構造体20の軸線Lに対して平行な方向である。例えば、フロントバンパ13が荷重方向Xに過大な衝撃荷重を受ける場合、フロントバンパ13を介して衝撃吸収構造体10に衝撃荷重が加わる。
【0030】
図3、
図4、及び
図6に示すように、本実施形態において、一般部25は、繊維構造体20の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束41からなる軸方向繊維層36を含んでいる。一般部25は、脆弱部26よりも多くの軸方向繊維層36を備える。軸方向繊維束41の主軸が延びる方向は、荷重方向Xに一致する。そのため、衝撃吸収構造体10に対して荷重方向Xへの衝撃荷重が加わる場合、軸方向繊維層36を多く備える一般部25の方が、脆弱部26よりも衝撃荷重に対する圧縮強度が高くなる。
【0031】
[作用]
次に、本実施形態の作用について説明する。
脆弱部26が一般部25よりも圧縮強度が低いため、衝撃吸収構造体10に対して荷重方向Xへの衝撃荷重が加わると、一般部25よりも脆弱部26の方が圧縮変形しやすい。そのため、脆弱部26が圧縮変形した後に、一般部25が圧縮変形することにより、衝撃吸収構造体10の全体が破壊される。よって、衝撃吸収構造体の全体で圧縮強度に差がない場合と比較して、衝撃吸収構造体10に安定した破壊を生じさせやすくなるため、衝撃吸収構造体10によって衝撃エネルギーを効率良く吸収できる。
【0032】
ここで、内層31は、繊維構造体20の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束41からなる軸方向繊維層36を含んでいる。軸方向繊維層36は、外層32よりも内層31に多く位置している。そのため、衝撃吸収構造体10に対して荷重方向Xへの衝撃荷重が加わる場合、軸方向繊維層36を多く備える内層31の方が、外層32よりも衝撃荷重に対する圧縮弾性率が高くなる。これにより、脆弱部26において、中間層30aよりも一方に位置する部分と他方に位置する部分とで圧縮弾性率に差が生じる。
【0033】
図3、
図4、及び
図7に示すように、衝撃吸収構造体10に対する衝撃荷重の作用に伴って脆弱部26が圧縮変形するとき、内層31と外層32との圧縮弾性率の差によって、外層32が内層31よりも大きく圧縮変形する。これにより、脆弱部26は一般部25から離間するように変形する。脆弱部26の変形に伴って、不連続部27に亀裂が進展することにより、一般部25と脆弱部26とが離間した離間部30bが衝撃吸収構造体10に生じる。離間部30bを介して、繊維構造体20の内部と外部とが連通するようになる。
【0034】
脆弱部26は、車両上下方向Yにおける繊維構造体20の最下部を含んで位置している。そのため、衝撃吸収構造体10の圧縮変形に伴って破片Fが生じるとき、破片Fは脆弱部26の内面上に蓄積しやすい。脆弱部26が変形する際は、離間部30bを介して繊維構造体20の内部から外部へと破片Fが排出されやすい。このため、脆弱部26の変形が破片Fによって阻害されにくい。破片Fが脆弱部26の内面に蓄積しにくいため、一般部25が変形する際にも、一般部25の変形が破片Fによって阻害されにくい。
【0035】
[効果]
上記実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)内層31は、繊維構造体20の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束41からなる軸方向繊維層36を含んでいる。軸方向繊維層36は、外層32よりも内層31に多く位置している。そのため、衝撃吸収構造体10に対する衝撃荷重の作用に伴って脆弱部26が圧縮変形するとき、一般部25と脆弱部26とが離間した離間部30bが繊維構造体20に生じる。離間部30bを介して繊維構造体20の内部から外部へと破片Fが排出されやすくなる。このため、脆弱部26の変形が破片Fによって阻害されにくい。破片Fが脆弱部26の内面に蓄積しにくいため、一般部25の変形が破片Fによって阻害されにくい。これにより、衝撃吸収構造体10の内部に蓄積された破片Fによって衝撃吸収構造体10の変形が阻害されにくくなる。したがって、衝撃吸収構造体10における衝撃エネルギーの吸収効率の低下を抑制できる。
【0036】
(2)脆弱部26は、全体が車両上下方向Yにおいて一般部25より下方に位置する。そのため、衝撃吸収構造体10の圧縮変形に伴って衝撃吸収構造体10の内部に生じる破片Fは、一般部25の内面よりも先に、脆弱部26の内面上に蓄積する。衝撃吸収構造体10に対する衝撃荷重の作用に伴って脆弱部26が圧縮変形するとき、脆弱部26は車両上下方向Yにおける下方に向かって曲がるように変形する。そのため、一般部25から車両上下方向Yにおける下方に離間した位置において、破片Fが脆弱部26の内面上に蓄積される。したがって、破片Fによる一般部25の変形の阻害がさらに生じにくくなるため、衝撃吸収構造体10における衝撃エネルギーの吸収効率の低下をさらに抑制できる。
【0037】
(3)軸方向繊維束41の主軸が延びる方向が、衝撃吸収構造体10に衝撃荷重が加わる荷重方向Xに一致する場合、繊維構造体20の軸方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層と比較して、軸方向繊維層36は衝撃荷重に対する圧縮弾性率が高い。これに対して、繊維構造体20の周方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層と比較して、周方向繊維層37は衝撃荷重に対する圧縮弾性率が低い。本実施形態では、内層31は、繊維構造体20の軸方向に主軸が延びる複数の軸方向繊維束41からなる軸方向繊維層36から構成されている。外層32は、繊維構造体20の周方向に主軸が延びる複数の周方向繊維束42からなる周方向繊維層37から構成されている。繊維構造体20の軸方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層を内層31が備える場合、及び繊維構造体20の周方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層を外層32が備える場合より、内層31と外層32との圧縮弾性率の差を大きくできる。衝撃吸収構造体10が衝撃荷重を受けた際に、一般部25からさらに離れるように脆弱部26が大きく変形するようになるため、離間部30bがより大きくなる。これにより、離間部30bを介して繊維構造体20の内部から外部へと破片Fをより排出させやすくなる。したがって、破片Fによる衝撃吸収構造体10の変形の阻害がさらに生じにくくなるため、衝撃吸収構造体10における衝撃エネルギーの吸収効率の低下をさらに抑制できる。
【0038】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0039】
○ マトリックス材料Maとしての樹脂が含浸された繊維束を備えるプリプレグシート材を用いて繊維構造体20を製造してもよい。
○ 繊維構造体20における脆弱部26の配置位置は、脆弱部26の全体が一般部25より車両上下方向Yにおける下方に位置する位置に限らない。脆弱部26が車両上下方向Yにおける繊維構造体20の最下部を含んで位置しさえすれば、繊維構造体20における一般部25及び脆弱部26を配置する割合及び位置の変更が可能である。例えば、繊維構造体20を左右に分けた一方を一般部25とし、他方を脆弱部26としてもよい。この場合、例えば、左方の側壁23が一般部25となり、右方の側壁23が脆弱部26となる。上壁21及び下壁22の左半分が一般部25となる。上壁21及び下壁22の右半分が脆弱部26となる。車両上下方向Yにおける繊維構造体20の最下部に相当する下壁22は一般部25及び脆弱部26によって構成される。すなわち、この場合も、脆弱部26が車両上下方向Yにおける繊維構造体20の最下部を含んで位置している。
【0040】
○ 一般部25が備える繊維層30と、脆弱部26が備える繊維層30とは、互いに異なる層数であってもよい。
○ 一般部25及び脆弱部26の少なくとも一方は、奇数層の繊維層30を備えてもよい。この場合の中間層30aは、奇数層の繊維層30のうち、積層方向Zにおける中間位置にある繊維層30を通過する。なお、内層31は、積層方向Zにおける繊維構造体20の内面20aと中間層30aとの間に位置する。外層32は、積層方向Zにおける中間層30aと繊維構造体20の外面20bとの間に位置する。そのため、脆弱部26が奇数層の繊維層30を備える場合であっても、内層31と外層32とは繊維層30が同数ずつになる。
【0041】
○ 内層31の一部が軸方向繊維層36でなくてもよい。外層32の少なくとも一部が周方向繊維層37でなくてもよい。
○ 内層31及び外層32の少なくとも一方は、繊維構造体20の軸方向以外の方向且つ、周方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層を含んでもよい。内層31及び外層32の少なくとも一方は、不織布を含んでもよい。要するに、内層31が軸方向繊維層36を含み、且つ軸方向繊維層36が外層32よりも内層31に多く位置すればよい。
【0042】
○ 一般部25は、軸方向繊維層36を含まなくてもよい。繊維構造体20の軸方向以外の方向且つ、周方向以外の方向に主軸が延びる繊維束からなる繊維層を、一般部25が含んでもよい。一般部25は不織布を含んでもよい。要するに、脆弱部26の圧縮強度が一般部25よりも低いといった関係にあれば、一般部25を構成する繊維の配向方向は特に限定しない。
【0043】
○ 繊維構造体20は四角筒状に限らない。例えば、繊維構造体20は、四角以外の多角筒状であってもよいし、円筒状であってもよい。この場合、衝撃吸収構造体10の形状も繊維構造体20の形状の変更に応じて変わることになる。
【0044】
○ 繊維構造体20は、多層織であってもよい。複数の繊維層30の少なくとも一部は、繊維層30同士で織物を形成してもよい。この場合の織物としては、例えば平織り、綾織り、及び朱子織りが挙げられる。
【0045】
○ 衝撃吸収構造体10は、車両の前方に設けられていたが、車両の後方に設けられていてもよい。この場合、衝撃吸収構造体10は、例えば、リアサイドメンバの後端部に、リアバンパを支持するように設けられていればよい。要するに、車両において、衝撃吸収構造体10の配置位置は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
L…軸線、Ma…マトリックス材料、Y…車両上下方向、Z…積層方向、10…衝撃吸収構造体、20…繊維構造体、20a…内面、20b…外面、25…一般部、26…脆弱部、27…不連続部、30a…中間層、31…内層、32…外層、36…軸方向繊維層、37…周方向繊維層、41…軸方向繊維束、42…周方向繊維束。