(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182791
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】熱伝導性シート、及び熱伝導性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221201BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20221201BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20221201BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221201BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20221201BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08J5/18 CFH
C08L83/04
C08K7/06
C08K3/22
C08L83/07
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090523
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向 史博
(72)【発明者】
【氏名】細川 祐希
(72)【発明者】
【氏名】平岡 樹
(72)【発明者】
【氏名】北爪 琢哉
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA67
4F071AA88
4F071AB03
4F071AB11
4F071AB18
4F071AC08
4F071AD01
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4F071AF25Y
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4F071BB06
4F071BC01
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4J002CP03W
4J002CP12X
4J002DA016
4J002DE147
4J002EK008
4J002FA017
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD148
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】シートの硬さに影響を与えることなく、熱伝導性フィラーを適切に配向させることができる技術を提供する。
【解決手段】本発明の熱伝導性シート1は、シリコーンと、熱伝導性フィラーと、を含有する熱伝導性シートであって、前記熱伝導性フィラーは、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラー4と、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラー5と、を含み、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5は、ほぼ厚さ方向に配向しており、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5の合計含有量は、40~70体積%であり、第1熱伝導性フィラー4の含有量が第2熱伝導性フィラー5の含有量よりも多い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンと、熱伝導性フィラーと、を含有する熱伝導性シートであって、
前記熱伝導性フィラーは、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラーと、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーと、を含み、
前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーは、ほぼ厚さ方向に配向しており、
前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーの合計含有量は、40~70体積%であり、
前記第1熱伝導性フィラーの含有量が前記第2熱伝導性フィラーの含有量よりも多い、熱伝導性シート。
【請求項2】
未架橋のシリコーン、前記第1熱伝導性フィラー、及び前記第2熱伝導性フィラーを含有するシリコーン系組成物を押出成形し、押出方向に前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーが配向した前記熱伝導性シートの樹脂シート前駆体を成形した後、前記樹脂シート前駆体を折り畳みながら積層させることで成形される
請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記第2熱伝導性フィラーの粒子径は2~15μmである
請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記第1熱伝導性フィラーの含有量は、21~68体積%であり、
前記第2熱伝導性フィラーの含有量は、2~30体積%である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記シリコーンは、側鎖にビニル基を有するシリコーンの架橋物と、シリコーンオイルとの混合物である
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
シリコーンと、熱伝導性フィラーと、を含有する熱伝導性シートの製造方法であって、
(a)未架橋のシリコーンと、過酸化物と、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラーと、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーと、を含有するシリコーン系組成物を調製する工程、
(b)調製したシリコーン系組成物を押出成形し、押出方向に前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーが配向した、前記熱伝導性シートの樹脂シート前駆体を成形した後、前記樹脂シート前駆体を折り畳みながら積層させる工程、及び、
(c)積層された樹脂シート前駆体を架橋する工程、
を含む熱伝導性シートの製造方法。
【請求項7】
工程(a)で調製したシリコーン系組成物の粘度は、300~2000Pa・sである請求項6に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項8】
工程(c)で得られる熱伝導性シートのタイプEデュロメータで測定された硬さが60以下である請求項7に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート、及び熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高密度化・薄型化が急速に進み、ICやパワー部品、高輝度LED等が発生する熱の影響が重大な問題となっている。これに対して、例えば、チップ等の発熱体と、放熱体との間で熱を効率よく伝達する部材として、熱伝導性フィラーを分散させたシート状の成形体(熱伝導性シート)の利用が進んでいる。
熱伝導性シートにおいて、熱伝導性を高める手段としては、効率良く熱伝導パスを形成するために熱伝導性フィラーを高充填化する手法や異方性を示す熱伝導性フィラーを配向、配列させる手法等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記熱伝導性シートを製造する場合、例えば、未架橋のシリコーンと、熱伝導性フィラーとを含むシリコーン系組成物を原料組成物として用いて熱伝導性シートの前駆体を成形し、この前駆体を用いて前記熱伝導性シートを製造することがある。このとき、シリコーン系組成物を押出成形し、押出成形時のシリコーン系組成物の流動を利用することで前駆体に含まれる熱伝導性フィラーを配向させることがある。
【0005】
ここで、シリコーン系組成物の粘度が低い場合、例えば、シリコーン系組成物を押出成形したとしても、押出成形時にシリコーン系組成物に作用するせん断力が低くなり、熱伝導性フィラーを適切に配向させることができないおそれがある。
【0006】
また、成分を調整することによって、シリコーン系組成物の粘度を高めることも可能であるが、得られる熱伝導性シートの硬さも高まることがある。熱伝導性シートの熱伝導性は、シートそのものの熱伝導率の他、発熱体や放熱体との密着性に依存する。このため、熱伝導性シートの硬さは、発熱体や放熱体との密着性を高めることができる程度に低い(柔らかい)ことが好ましい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、シートの硬さに影響を与えることなく、熱伝導性フィラーを適切に配向させることができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、シリコーンと、熱伝導性フィラーと、を含有する熱伝導性シートであって、前記熱伝導性フィラーは、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラーと、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーと、を含み、前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーは、ほぼ厚さ方向に配向しており、前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーの合計含有量は、40~70体積%であり、前記第1熱伝導性フィラーの含有量が前記第2熱伝導性フィラーの含有量よりも多い。
【0009】
本発明の熱伝導性シートは、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーを炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラーよりも少ない量で含有している。
よって、上記熱伝導性シートの原料組成物として、未架橋のシリコーンと、第1熱伝導性フィラーと、第2熱伝導性フィラーとを含むシリコーン系組成物が用いられる。
第1熱伝導性フィラーと、第2熱伝導性フィラーとを含むシリコーン系組成物は、第1熱伝導性フィラーを含み第2熱伝導性フィラーを含まないシリコーン系組成物と比較して高粘度となる。
これにより、例えば、シリコーン系組成物を押出成形したときに、シリコーン系組成物に作用するせん断力が高められ、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向を促進することができる。
その一方、第1熱伝導性フィラーと、第2熱伝導性フィラーとを含むシリコーン系組成物による熱伝導性シートの硬さと、第1熱伝導性フィラーを含み第2熱伝導性フィラーを含まないシリコーン系組成物による熱伝導性シートの硬さとの間には、大きな相違がない。
この結果、シートの硬さに影響を与えることなく、熱伝導性フィラーを適切に配向させることができる。
【0010】
(2)上記熱伝導性シートは、未架橋のシリコーン、前記第1熱伝導性フィラー、及び前記第2熱伝導性フィラーを含有するシリコーン系組成物を押出成形し、押出方向に前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーが配向した前記熱伝導性シートの樹脂シート前駆体を成形した後、前記樹脂シート前駆体を折り畳みながら積層させることで成形されることが好ましい。
上述のように、シリコーン系組成物を高粘度とすることができるので、シリコーン系組成物を押出成形する際に、シリコーン系組成物に作用するせん断力が高められ、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向を促進することができる。これにより、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーが適切に配向された樹脂シート前駆体を得ることができる。
この結果、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーが適切に配向された熱伝導性シートを得ることができる。
【0011】
(3)上記熱伝導性シートにおいて、前記第2熱伝導性フィラーの粒子径は2~15μmであることが好ましい。
このような第2熱伝導性フィラーを用いることで、シリコーン系組成物の粘度を効果的に高めることができる。
【0012】
(4)上記熱伝導性シートにおいて、前記第1熱伝導性フィラーの含有量は、21~68体積%であり、前記第2熱伝導性フィラーの含有量は、2~30体積%であることが好ましい。
この場合、第1熱伝導性フィラーを配向させ、熱伝導性を確保するのに適している。
さらに、シリコーン系組成物の粘度を高めつつ、第2熱伝導性フィラーが必要以上に添加されるのを抑制でき、シリコーン系組成物の粘度が必要以上に高くなるのを抑制するとともにシートの硬さに与える影響を抑制することができる。
【0013】
(5)上記熱伝導性シートにおいて、前記シリコーンは、側鎖にビニル基を有するシリコーンの架橋物と、シリコーンオイルとの混合物であることが好ましい。
シリコーンオイルを含有する上記混合物は、シリコーンオイルを含有しないものと比較して可塑度が向上する。上記混合物の可塑度が向上すると、加工性の悪化を伴うことなくより多くの熱伝導性フィラーを含有させることが可能となる。
【0014】
(6)また、本発明は、シリコーンと、熱伝導性フィラーと、を含有する熱伝導性シートの製造方法であって、
(a)未架橋のシリコーンと、過酸化物と、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラーと、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーと、を含有するシリコーン系組成物を調製する工程、
(b)調製したシリコーン系組成物を押出成形し、押出方向に前記第1熱伝導性フィラー及び前記第2熱伝導性フィラーが配向した、前記熱伝導性シートの樹脂シート前駆体を成形した後、前記樹脂シート前駆体を折り畳みながら積層させる工程、及び、
(c)積層された樹脂シート前駆体を架橋する工程、
を含む熱伝導性シートの製造方法である。
【0015】
上記製造方法によれば、シリコーン系組成物が、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラー及び板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーを含んでいるので、第1熱伝導性フィラーを含み第2熱伝導性フィラーを含まないシリコーン系組成物と比較して高粘度とすることができる。
この結果、上記(b)の工程においてシリコーン系組成物を押出成形する際に、シリコーン系組成物に作用するせん断力が高められ、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向を促進することができる。
この結果、シートの硬さに影響を与えることなく、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーを適切に配向させることができる。
【0016】
(7)上記製造方法において、工程(a)で調製したシリコーン系組成物の粘度は、300~2000Pa・sであることが好ましい。
この場合、シリコーン系組成物を押出成形する際における、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向をより促進することができる。
【0017】
(8)上記製造方法において、工程(c)で得られる熱伝導性シートのタイプEデュロメータで測定された硬さが60以下であることが好ましく、この場合、例えば、第1熱伝導性フィラーを含み第2熱伝導性フィラーを含まないシリコーン系組成物を用いて製造した熱伝導性シートと比較して同程度の硬さとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シートの硬さに影響を与えることなく、熱伝導性フィラーを適切に配向させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る熱伝導性シートの製造で使用する押出機を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本発明において、「熱伝導性シート」とは、押出成型等で成形した後のブロック状物、及び、当該ブロック状物を適宜切断して得られる切断物(スライスしたシート状物を含む)の両方を含む概念である。
ここでは、スライスしたシート状物を例にして、熱伝導性シートの実施形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートの一例を模式的に示す断面図であり、上記熱伝導性シートの厚さ方向に平行な断面図である。
図1は模式図であり、各部材(特に第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラー)は、実寸法を正確に反映したものではない。
本実施形態に係る熱伝導性シート1は、ICチップ等の発熱部材とヒートシンク等の放熱部材との間に配置し、一方の面を発熱部材に接触させ、他方の面を放熱部材に接触させて使用する。
【0022】
熱伝導性シート1は、
図1に示すように、マトリックス成分2と、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5とを有しており、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5が熱伝導性シート1のほぼ厚さ方向(
図1中、上下方向)に配向している。熱伝導性シート1では、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5による熱伝導パスが、熱伝導性シート1のほぼ厚さ方向に形成されている。従って、熱伝導性シート1は厚さ方向における熱伝導性に優れる。
なお、上記熱伝導性シートでは、熱伝導性フィラー以外の成分をまとめてマトリックス成分と称する。
【0023】
マトリックス成分2は、シリコーンを含有する。そのため、熱伝導性シート1は耐熱性に優れる。
本実施形態において、上記シリコーンは、シリコーンの架橋物(以下、架橋シリコーンともいう)と、シリコーンオイルとの混合物である。
シリコーンオイルを含有する上記混合物は、シリコーンオイルを含有しないものと比較して可塑度が向上する。上記混合物の可塑度が向上すると、加工性の悪化を伴うことなくより多くの熱伝導性フィラーを含有させることが可能となる。
ここで、架橋シリコーンは、過酸化物架橋されたものであっても良いし、付加反応型の架橋により架橋されたものであっても良いが、過酸化物架橋されたものが好ましい。過酸化物架橋によって架橋された架橋シリコーンの方が耐熱性に優れるからである。
上記架橋シリコーンとしては、例えば、側鎖(末端も含む)の一部にビニル基を有するシリコーンを架橋させたものが好ましい。
【0024】
上記シリコーンオイルは、例えば、側鎖が全てメチル基で不飽和基を含まないシリコーンである。
マトリックス成分2では、上記架橋シリコーンによってもたらされる3次元網目構造の隙間に、上記シリコーンオイルが入り込んでいる。このようなマトリックス成分2によって、熱伝導性シートは、柔軟性が確保されつつ、優れた耐久性を確保するのに適した構造になっていると考えられる。
【0025】
上記側鎖の一部にビニル基を有するシリコーンの具体例としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0026】
上記架橋シリコーンと上記シリコーンオイルとを併用する場合、上記ビニル基を有するシリコーンと上記シリコーンオイルとの合計量に対する、上記ビニル基を有するシリコーンの含有量は1~10重量%が好ましい。
上記ビニル基を有するシリコーンの含有量が1重量%未満では、熱伝導性シートが軟らかすぎて、当該熱伝導性シートをパワーモジュールとヒートシンクとの間に配置した際に、両者の間からはみ出しやすくなる。一方、上記含有量が10重量%を超えると、熱伝導性シートが硬くなり、当該熱伝導性シートを発熱部材と放熱部材との間に配置した際に、発熱部材や放熱部材との接触面における密着性や追従性に劣ることになる。
【0027】
マトリックス成分2は、シリコーンとして、所謂、ミラブルタイプのシリコーンを含有していても良い。上記ミラブルタイプのシリコーンとしては、例えば、上記シリコーンオイルよりも数平均分子量が大きく、側鎖が全てメチル基で不飽和基を含まないシリコーンが挙げられる。
【0028】
上記過酸化物架橋を行う際の過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、P-メチルベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
更には、架橋促進剤や架橋促進助剤等を併用して架橋を行っても良い。
上記過酸化物の好ましい配合量は、ビニル基を有するシリコーンが過不足なく架橋反応する量であればよい。
【0029】
マトリックス成分2は、熱伝導性シート1の要求特性を損なわない範囲で、他のエラストマー成分等を含有していても良い。
マトリックス成分2は、難燃剤を含有していても良い。
上記難燃剤としては、例えば、白金系化合物、トリアゾール系化合物、べんがら、黒鉄などの酸化鉄等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
マトリックス成分2は、更に、補強剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、粘着付与剤、帯電防止剤、練り込み接着剤、カップリング剤等の一般的な配合・添加剤を含有していても良い。
【0030】
一方、マトリックス成分2は、シリカを含有しないことが好ましい。
シリカを含有すると、マトリックス成分が硬くなり、柔軟性を確保しつつ、導電性フィラーの含有量を高めることが困難になる。その結果、高い熱伝導性を確保することが難くなる。
このようにマトリックス成分が硬くなる理由は、マトリックス成分がシリカを含有すると、シリコーン系組成物を架橋させる際に、このシリカが、ポリマー(シリコーン)の流動を阻害する拘束点となり、得られた架橋物が硬くなり過ぎてしまうためと推測している。
【0031】
熱伝導性シート1は、熱伝導性フィラーとして、第1熱伝導性フィラー4と、第2熱伝導性フィラー5とを含有する。
第1熱伝導性フィラー4は、炭素繊維からなる。そのため、熱伝導性シート1は優れた熱伝導性を有する。また、炭素繊維は、適度なアスペクト比を有するため、マトリックス成分2中で配向させることで、必要な方向における熱伝導率を高めることができる。
第1熱伝導性フィラー4の繊維長は、20μm以上である。前記繊維長が20μm未満では、熱伝導パスが形成しにくく、熱伝導性に劣る場合がある。
一方、第1熱伝導性フィラー4の繊維長の好ましい上限は、第1熱伝導性フィラー4の熱伝導性シート1への充填のし易さの観点から500μmである。
第1熱伝導性フィラー4の繊維径は、5μm以上である。前記繊維径が5μm未満では、熱伝導パスが形成されにくく、熱伝導性に劣る場合がある。
第1熱伝導性フィラー4の繊維径の好ましい上限は、熱伝導性シート1を作製する際の加工性の観点から20μmである。
【0032】
第1熱伝導性フィラー4のアスペクト比は4以上である。この場合、第1熱伝導性フィラー4がマトリックス成分2中で配向し易い。
一方、第1熱伝導性フィラー4のアスペクト比の上限は100が好ましい。この場合、第1熱伝導性フィラー4を熱伝導性シート1に充填しやすく、また、熱伝導性シート1を作製する際の加工性にも優れることになる。
【0033】
本実施形態において、上記第1熱伝導性フィラー4の「繊維長」とは、第1熱伝導性フィラー4の顕微鏡画像を用いて求めた繊維方向の長さの平均値をいう。第1熱伝導性フィラー4の「繊維径」とは、第1熱伝導性フィラー4の顕微鏡画像を用いて求めた径方向の寸法の平均値をいう。
上記第1熱伝導性フィラー4の「アスペクト比」とは、第1熱伝導性フィラー4の「繊維長」を「繊維径」で除した値をいう。
「繊維長」及び「繊維径」は、第1熱伝導性フィラー4の顕微鏡画像を取得した後、その画像から無作為に20個の第1熱伝導性フィラー4を選択し、選択したフィラーの繊維方向の長さ及び径方向の寸法を測定し、その測定結果に基づいて求められる。
【0034】
第2熱伝導性フィラー5は、板状アルミナからなる。第2熱伝導性フィラー5の含有量は、第1熱伝導性フィラー4の含有量よりも少ない。
板状アルミナである第2熱伝導性フィラー5は、第1熱伝導性フィラー4とともに、熱伝導性シート1の原料組成物であるシリコーン系組成物に混合される。
第2熱伝導性フィラー5は、このシリコーン系組成物の粘度を高めることに寄与する。
第1熱伝導性フィラー4と、第2熱伝導性フィラー5とを含むシリコーン系組成物は、第1熱伝導性フィラー4を含み第2熱伝導性フィラー5を含まないシリコーン系組成物と比較して高粘度となる。
これにより、後に説明するように、シリコーン系組成物を押出成形したときに、シリコーン系組成物に作用するせん断力が高められ、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5の押出方向への配向を促進することができる。
【0035】
その一方、第1熱伝導性フィラー4と、第2熱伝導性フィラー5とを含むシリコーン系組成物による熱伝導性シートの硬さと、第1熱伝導性フィラー4を含み第2熱伝導性フィラー5を含まないシリコーン系組成物による熱伝導性シートの硬さとの間には、大きな相違がない。
この結果、シートの硬さに影響を与えることなく、熱伝導性シート1における第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5を適切に配向させることができる。
【0036】
また、板状アルミナは、炭素繊維と同様、適度なアスペクト比を有するため、配向させることで、必要な方向における熱伝導率を高めることができる。
【0037】
第2熱伝導性フィラー5の粒子径は、2μm以上、15μm以下である。
第2熱伝導性フィラー5の粒子径がこの範囲にあると、熱伝導性シート1の硬さが高くなるのを抑制しつつ、シリコーン系組成物の粘度を効果的に高めることができる。
第2熱伝導性フィラー5の粒子径が15μmを超えると、第1熱伝導性フィラー4の配向を妨げるおそれがある。また、熱伝導性シート1の硬さが高くなるおそれがある。
また、第2熱伝導性フィラー5の粒子径が2μmより小さいと、シリコーン系組成物の粘度が低下するおそれがある。
第2熱伝導性フィラー5の粒子径は、6μm以上、15μm以下がより好ましく、6μm以上、10μm以下が更に好ましい。
【0038】
第2熱伝導性フィラー5の厚みは、100nm以上、500nm以下である。
第2熱伝導性フィラー5の厚みがこの範囲にあると、適度なアスペクト比とすることができ、マトリックス成分2中で配向し易い。
第2熱伝導性フィラー5の厚みが100nmより小さいと、第2熱伝導性フィラー5の熱伝導に対する寄与が低下し、熱伝導性シート1の熱伝導性を低下させるおそれがある。
第2熱伝導性フィラー5の厚みが500nmより大きいと、第2熱伝導性フィラー5を適度なアスペクト比とするのが困難となる。
第2熱伝導性フィラー5の厚みは、100nm以上、500nm以下がより好ましい。
【0039】
第2熱伝導性フィラー5のアスペクト比は、12~40である。
第2熱伝導性フィラー5のアスペクト比がこの範囲にあると、マトリックス成分2中で適切に配向させることができる。
第2熱伝導性フィラー5のアスペクト比が40を超えると、第1熱伝導性フィラー4の配向を妨げるおそれがある。
第2熱伝導性フィラー5のアスペクト比が12より小さいと、第2熱伝導性フィラー5が適切に配向されないおそれがある。
【0040】
本実施形態において、上記第2熱伝導性フィラー5の「粒子径」とは、第2熱伝導性フィラー5の粒子径測定用の顕微鏡画像を用いて求めた板面方向の平均粒子径(50%メジアン径)をいう。第2熱伝導性フィラー5の「厚み」とは、第2熱伝導性フィラー5の厚み測定用の顕微鏡画像を用いて求めた板厚方向の寸法の平均値をいう。
上記第2熱伝導性フィラー5の「アスペクト比」とは、第2熱伝導性フィラー5の「粒子径」を「厚み」で除した値をいう。
「粒子径」は、第2熱伝導性フィラー5の粒子径測定用の顕微鏡画像を取得した後、その画像から無作為に20個の第2熱伝導性フィラー5を選択し、選択したフィラーの粒子径を測定し、その測定結果に基づいて求められる。「厚み」も同様であり、第2熱伝導性フィラー5の厚み測定用の顕微鏡画像を取得した後、その画像から無作為に20個の第2熱伝導性フィラー5を選択し、選択したフィラーの厚みを測定し、その測定結果に基づいて求められる。
【0041】
熱伝導性シート1における熱伝導性フィラーの合計含有量は、40体積%以上、70体積%以下である。
熱伝導性フィラーの合計含有量が40体積%より小さいと、充分な熱伝導性を確保することができない。また、熱伝導性フィラーの合計含有量が70体積%を超えると、熱伝導性シート1が硬く密着性に劣るため、熱伝導性が低下する。さらに、熱伝導性シート1を作製する際の加工性に劣ることがある。
【0042】
熱伝導性シート1における第1熱伝導性フィラー4の含有量は、21体積%以上、68体積%以下が好ましい。この場合、第1熱伝導性フィラー4を配向させ、熱伝導性を確保するのに適している。
一方、第1熱伝導性フィラー4の含有量が21体積%未満では、第1熱伝導性フィラー4を配向させても、充分な熱伝導性を確保することができないことがある。また、上記含有量が68体積%を超えると、安価に熱伝導性シートを提供することが困難になる。
【0043】
熱伝導性シート1における第2熱伝導性フィラー5の含有量は、2体積%以上、30体積%以下である。
この場合、シリコーン系組成物の粘度を高めつつ、第2熱伝導性フィラー5が必要以上に添加されるのを抑制でき、シリコーン系組成物の粘度が必要以上に高くなるのを抑制するとともにシートの硬さに与える影響を抑制することができる。
第2熱伝導性フィラー5の含有量が2体積%未満では、シリコーン系組成物の粘度を十分に高めることができないおそれがある。
第2熱伝導性フィラー5の含有量が30体積%を超えると、シリコーン系組成物の粘度が必要以上に高くなるおそれがあるのに加え、熱伝導性シート1の硬さが高くなるおそれがある。
第2熱伝導性フィラー5の含有量は、3~20体積%がより好ましい。
【0044】
なお、熱伝導性シート1は、本発明の効果を損なわない範囲で、第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5以外の熱伝導性フィラーを含有しても良い。
【0045】
熱伝導性シート1の厚さは特に限定されないが、例えば、0.1~3.0mm程度である。
この場合、熱伝導性シート1は、電気部品や自動車部品等において、発熱部材と放熱部材との間で熱を効率良く伝達する部材として好適に使用することができる。
【0046】
次に、熱伝導性シート1を製造する方法について説明する。
熱伝導性シート1は、例えば、下記(a)~(c)の工程を行うことにより製造することができる。
(a)未架橋のシリコーンと、過酸化物と、炭素繊維からなる第1熱伝導性フィラーと、板状アルミナからなる第2熱伝導性フィラーと、を含有するシリコーン系組成物を調製する工程、
(b)調製したシリコーン系組成物を成形する工程、及び、
(c)成形されたシリコーン系組成物を架橋し、その後、シート状にスライス加工する工程。
【0047】
まず、シリコーン系組成物を調製する工程(a)を行う。ここでは、例えば、未加硫のシリコーン、有機過酸化物、シリコーンオイル、熱伝導性フィラー(第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラー)、更には、必要に応じて添加する各種添加剤を2本ロールで練り込む等によってシリコーン系組成物を調製すれば良い。
このとき、各成分はマスターバッチの状態で供給しても良い。
【0048】
ここで工程(a)にて調整されたシリコーン系組成物の粘度は、温度30℃において、300~2000Pa・sである。
シリコーン系組成物の粘度が300~2000Pa・sであると、後の工程(b)においてシリコーン系組成物を押出成形する際に、シリコーン系組成物に含まれる第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向をより促進することができる。
シリコーン系組成物の粘度が300Pa・sより小さいと、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向が十分に促進されないおそれがある。
シリコーン系組成物の粘度が2000Pa・sを超えると、押出成形を行う押出機に掛かる負荷が大きくなるおそれがある。
なお、シリコーン系組成物の粘度は、ツインキャピラリーレオメーターによって、例えば、測定温度30℃、せん断速度100(1/s)の条件下で測定される。
【0049】
次に、調製したシリコーン系組成物を成形する工程(b)と、成形されたシリコーン系組成物(樹脂シート前駆体)を架橋し、その後、シート状にスライス加工する工程(c)とを行う。
上記シリコーン系組成物の成形は、例えば、押出機を用いて行えば良い。
図2は、本実施形態に係る熱伝導性シートの製造で使用する押出機を模式的に示す図である。
図2には、押出機の先端部分及びTダイの断面概略図を示す。
押出機30に投入された上記シリコーン系組成物は、スクリュー34によって撹拌・混練され、流路31に沿ってTダイの第1ギャップ32に導入される。
【0050】
押出機30で攪拌・混錬されたシリコーン系組成物は、まず、第1ギャップ32によって上下方向(厚さ方向)にしぼり込まれて薄い帯状となる。第1ギャップ32を通過するシリコーン系組成物にはせん断力が作用し、このとき、シリコーン系組成物中に混合されている熱伝導性フィラー(第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラー)がシリコーン系組成物の流れ方向(押出方向)に配向する。従って、第1ギャップ32を通過して成形された厚さの薄い樹脂シート前駆体40は、熱伝導性フィラー(第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラー)が当該前駆体40の面方向に配向している。
【0051】
特に、本実施形態では、シリコーン系組成物を高粘度とすることができるので、シリコーン系組成物を押出成形する際に、シリコーン系組成物に作用するせん断力が高められ、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーの押出方向への配向を促進することができる。これにより、第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーが適切に配向された樹脂シート前駆体40を得ることができる。
【0052】
第1ギャップ32の隙間(
図2中、上下方向の寸法)は、0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましい。第1ギャップ32の隙間が0.1mmよりも小さいと、押出し圧力が不必要に上昇するだけでなく、樹脂詰まりが発生してしまうことがある。一方、第1ギャップ32の隙間が5.0mmよりも大きいと、上記薄い樹脂シート前駆体40の面方向に対する熱伝導性フィラーの配向度が減少することがある。
【0053】
熱伝導性フィラーが配向した上記薄い樹脂シート前駆体40が第1ギャップ32を完全に通過すると、押出方向に限定されていたシートの流れ方向は、解放されて押出方向に対してほぼ垂直となる方向に変化する。これは、第1ギャップ32を通過した後の流路31の断面積が拡大し、流路31の上下方向の長さが長くなるためである。
シートの流れ方向が押出方向に対してほぼ垂直となる方向に変化した上記薄い樹脂シート前駆体40は、第1ギャップ32を完全に通過した後、更に第2ギャップ33に向かって押し出される。その結果、第2ギャップ33内には、押出方向に対してほぼ垂直となった樹脂シート前駆体40が折り畳まれるように積層される。その際に熱伝導性フィラー(第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラー)の多くは前駆体40の面方向に配向しているので、第2ギャップ33内で積層された状態の樹脂シート前駆体40における熱伝導性フィラーは、厚さ方向(
図2中、上下方向)に沿って配向させられる。
【0054】
このように、工程(b)では、シリコーン系組成物を押出成形し、押出方向に第1熱伝導性フィラー及び第2熱伝導性フィラーが配向した樹脂シート前駆体40を成形した後、この樹脂シート前駆体40を折り畳みながら積層させる。
【0055】
その後、工程(c)に進み、第2ギャップ33を通過し積層された樹脂シート前駆体40を所定の条件で加熱することにより架橋を進行させ、シリコーンと熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シートのブロックを作製する。また、樹脂シート前駆体40を架橋させた後は、必要に応じて二次架橋を行っても良い。
最後に、熱伝導性シートのブロックを厚さ方向に垂直な方向にスライス加工する。その結果、所定の厚さを有し、熱伝導性フィラーが厚さ方向にほぼ配向した熱伝導性シート1を得ることができる。
【0056】
本実施形態では、樹脂シート前駆体40に含まれる第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5が適切に配向されるので、熱伝導性シート1における第1熱伝導性フィラー4及び第2熱伝導性フィラー5についても適切に配向される。
【0057】
このような、熱伝導性シート1の製造方法において、第2ギャップ33の隙間は第1ギャップ32の隙間の2倍以上30倍以下であることが好ましい。第2ギャップ33の隙間が第1ギャップ32の隙間の2倍よりも小さい場合は、熱伝導性フィラーの多くが熱伝導性シート1の厚さ方向に配向しなくなることがある。また、第2ギャップ33の隙間が第1ギャップ32の隙間の30倍よりも大きい場合は、上記樹脂シート前駆体40内に上記薄い樹脂シート前駆体40が乱流した状態で積層した部分が生じやすくなり、その結果、熱伝導性シート1の厚さ方向に配向する熱伝導性フィラーの割合が減少してしまうことがある。
第2ギャップ33の隙間は第1ギャップ32の隙間の5倍以上20倍以下であることがより好ましい。
【0058】
また、上記薄い樹脂シート前駆体40が、第1ギャップ32を通過した後、流路31の上下方向において均等に流れやすくなるように、第1ギャップ32における厚さ方向の中心位置と第2ギャップ33における厚さ方向の中心位置とは、厚さ方向においてほぼ同一の位置にあることが好ましい。
【0059】
また、第1ギャップ32における開口部(第1ギャップとつながる部分)の形状は、特に限定されないが、上流側側面は圧力損失が少ないように傾斜面とすることが好ましい。また、第1ギャップ32における開口部の下流側側面は、熱伝導性フィラーを効率良く上記樹脂シート前駆体の厚さ方向に配向させるために、傾斜角度(押出方向と傾斜面とのなす角度)を調整することが望ましい。当該傾斜角度は、10°~50°が好ましく、20°~25°がより好ましい。
【0060】
第1ギャップ32における開口部は、上下共に傾斜を有している必要はなく、どちらか一方のみが傾斜を有していても良い。
なお、第1ギャップ32及び第2ギャップ33の奥行(即ち、
図2において紙面に垂直な方向における第1ギャップ32及び第2ギャップ33の寸法)は、Tダイの全体にわたってほぼ同一である。また、上記第1ギャップ及び上記第2ギャップの奥行は特に規定されず、熱伝導性シート1の製品幅に応じて種々の設計変更が可能である。
【0061】
また、上記工程(c)で得られる熱伝導性シート(ブロック)のタイプEデュロメータで測定された硬さは60以下である。
この場合、例えば、第1熱伝導性フィラーを含み第2熱伝導性フィラーを含まないシリコーン系組成物を用いて製造した熱伝導性シートと比較して同程度の硬さとなる。
これにより、シートの硬さに影響を与えることなく、熱伝導性フィラーを適切に配向させることができる。
【0062】
熱伝導性シートの硬さが60を超えると、当該熱伝導性シートを発熱部材と放熱部材との間に配置した際に、発熱部材や放熱部材との接触面における密着性や追従性に劣ることがある。
【実施例0063】
次に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示した組成の通り、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製 KF-96H-100KCS)90重量部、ビニル基含有シリコーンコンパウンド(東レ・ダウコーニング株式会社製 MR-53)1.58重量部、架橋剤として有機過酸化物(東レ・ダウコーニング株式会社製、RC-4 50P FD:過酸化物含有量50重量%)0.68重量部、白金化合物を含むビニル基含有ポリジメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製 ME400-FR)9重量部、炭素繊維(三菱ケミカル株式会社製 K223HM、平均繊維長50μm、繊維径11μm)178.56重量部、及び、板状アルミナ(DIC株式会社製 AP5、粒子径2~5μm、アスペクト比20~40、厚み100~200nm)79.2重量部を2本ロールで練り込み、幅約100mmで、厚さ約1mmのリボン状のシート(シリコーン系組成物)を作製した。
本実施例において、炭素繊維及び板状アルミナのシート全体に対する体積分率は約50.0%であり、炭素繊維と板状アルミナとの体積比率は、炭素繊維:板状アルミナ=40:10である。
【0064】
次に、作製したリボン状のシートをゴム用短軸押出機30にて、1mmの第1ギャップ及び10mmの第2ギャップを有する垂直配向金型を用いて(
図2参照)、厚さ10mmのシート(ブロック)を作製し、160℃で40分間の架橋処理を施した。
その後、得られたシートを厚さ方向に垂直な方向にスライス加工し、厚さ200μmのシートを作製した。更に、縦×横の寸法が40mm×40mmになるように厚さ方向に沿って裁断し、熱伝導性シートを得た。
【0065】
(実施例2)
板状アルミナを、DIC株式会社製 AP5(粒子径2~5μm、アスペクト比20~40、厚み100~200nm)からDIC株式会社製 AP10(粒子径6~10μm、アスペクト比12~18、厚み300~500nm)へ変更した(表1参照)以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0066】
(実施例3)
板状アルミナを、DIC株式会社製 AP5(粒子径2~5μm、アスペクト比20~40、厚み100~200nm)からDIC株式会社製 AP20(粒子径10~15μm、アスペクト比20~35、厚み300~500nm)へ変更した(表1参照)以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0067】
(比較例1)
板状アルミナを加えず、炭素繊維の量を223.27重量部とした(表1参照)以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0068】
【0069】
(評価試験)
(1)シリコーン系組成物の見かけ粘度測定
実施例及び比較例における熱伝導性シートの製造工程において、工程(a)で調製されたシリコーン系組成物の粘度を測定した。測定は、ツインキャピラリーレオメーター(GOTTFERT社製RHEOGRAPH75)を用い、バレル1(ロングダイ、L/D=10/1)及びバレル2(ショートダイ)それぞれに20gのサンプルを投入し、測定温度30℃、せん断速度100(1/s)の条件下で見かけ粘度(バレル1の値を採用)を測定した。
【0070】
(2)熱伝導性シートの硬さ測定
実施例及び比較例における熱伝導性シートの製造工程において、架橋処理後、スライス加工する前のシート(ブロック)の硬さを、タイプEデュロメータを用いて測定した。
【0071】
(3)熱伝導性シート熱伝導率の測定
実施例及び比較例において作製した厚さ1mmの熱伝導性シートを直径33mmに裁断して測定サンプルを作製した。この測定サンプルの厚さ方向の熱抵抗値をANALYSIS TECH社製 TIM Tester 1300を用いて測定した。測定条件としては、測定圧力を0.1MPa、サンプル温度25℃とし、熱抵抗値(K・cm2/W)を測定した。さらに、熱抵抗値の測定時おける測定サンプルの厚みを測定された熱抵抗値で除算し、熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0072】
上記各試験の測定結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
表2に示すように、比較例1におけるシリコーン系組成物の粘度が760程度であるのに対して、各実施例ではシリコーン系組成物の粘度がいずれも1000以上である。
一方、熱伝導性シートの硬さは、各実施例と比較例1との間で大きな相違はない。
また、各実施例の熱伝導率は、比較例1の熱伝導率と比較して増加している。これは、各実施例における熱伝導性フィラーが好適に配向されたことに起因すると思われる。
【0075】
〔その他〕
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。