IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タチバナテクノス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図1A
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図1B
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図2
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図3A
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図3B
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図3C
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図4
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図5
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図6
  • 特開-PTC発熱体及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182833
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】PTC発熱体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
H05B3/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090581
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】595042623
【氏名又は名称】タチバナテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 正博
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092QB14
3K092QB17
3K092QB21
3K092QB31
3K092QB36
3K092QB60
3K092QC16
3K092QC42
(57)【要約】
【課題】優れたPTC発熱体を提供する。
【解決手段】PTC発熱体10は、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とを含む無溶剤混練タイプのPTC抵抗体であって、化学架橋により成形されており、加熱処理により生じた凹凸形状を有するPTC抵抗体3と、PTC抵抗体3の外表面に可動性を有するように直接的に又は間接的に柔接触するように設けられた電極5とを備える。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とを含む無溶剤混練タイプのPTC抵抗体であって、化学架橋により成形されており、加熱処理により生じた凹凸形状を有するPTC抵抗体と、
前記PTC抵抗体の外表面に可動性を有するように直接的に又は間接的に柔接触するように設けられた電極と
を備えるPTC発熱体。
【請求項2】
前記PTC抵抗体は、シート形状を有する、請求項1に記載のPTC発熱体。
【請求項3】
前記PTC抵抗体と前記電極との間に設けられた、導電性短繊維によって形成されたシート状の導電性介在物をさらに備え、
前記電極は前記導電性介在物を介して前記PTC抵抗体に柔接触している、
請求項2に記載のPTC発熱体。
【請求項4】
線状の耐熱絶縁性基材をさらに備え、
前記電極に含まれる線状の第1の電極が前記耐熱絶縁性基材の周囲に螺旋状に巻きつけられており、
前記PTC抵抗体は、前記耐熱絶縁性基材及び前記第1の電極の周囲に設けられており、
前記電極に含まれる線状の第2の電極が前記PTC抵抗体の周囲に螺旋状に巻きつけられている、
請求項1に記載のPTC発熱体。
【請求項5】
前記第1の電極は、前記第1の電極の直径又は厚さの50%以上が前記耐熱絶縁性基材に食い込んでいる、又は、
前記第2の電極は、前記第2の電極の直径又は厚さの30%以下が前記PTC抵抗体に食い込んでいる、
請求項4に記載のPTC発熱体。
【請求項6】
前記PTC抵抗体は、全重量に対し少なくとも、55wt%~75wt%のポリエチレン樹脂と、10wt%~35wt%のカーボン粒子と、1wt%~4wt%のアマイド系ワックスと、10~30wt%の加工助剤及び充填剤粉末と、0.1wt%~0.5wt%の架橋剤とを材料として含む、請求項1乃至5の何れかに記載のPTC発熱体。
【請求項7】
前記PTC抵抗体の表面または表裏面が、耐熱性及び電気絶縁性の被覆材で封止されている、請求項1乃至6の何れかに記載のPTC発熱体。
【請求項8】
前記PTC抵抗体の厚さは、0.1mm~0.7mmである、請求項1乃至7の何れかに記載のPTC発熱体。
【請求項9】
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とを含む材料を混練することと、
前記材料を所定形状とするように化学架橋を伴う成形を行うことと、
成形された前記材料に対して前記ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で加熱処理を行いPTC抵抗体を作製することと、
前記PTC抵抗体の外表面に可動性を有するように直接的に又は間接的に柔接触するように電極を設けることと
を含むPTC発熱体の製造方法。
【請求項10】
前記PTC抵抗体の厚さは、0.1mm~0.7mmであり、
前記加熱処理の時間は1分~10分である、
請求項9に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC発熱体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キュリー温度付近で抵抗値が急増して通電時に自己温度制御機能を有するPTC(正の温度係数)抵抗体は、セラミック材料や高分子材料を使ったものが古くから知られている。このうち高分子材料を使ったPTC発熱体として、例えば、ポリエチレンや各種エラストマー等からなるベースポリマーに、カーボンブラック、グラファイト、金属粉末、ワックス、各種添加剤などの材料を混練し、電極線とともにベルト状や同軸状に押出成形することで形成されたPTC発熱体が知られている。また、別の形態として、前記材料を有機溶剤に分散させたPTC塗料を調製し、このPTC塗料を高分子フィルム等に印刷することで形成されたPTC抵抗体が知られており、このようなPTC抵抗体を用いたPTC発熱体が作製されている。なお、近年は環境保護の点から溶剤を使わない押出成形タイプのPTC発熱体が再び注目されつつある。
【0003】
図6は、従来のポリオレフィン系樹脂とカーボンブラックによるPTC発熱体70の一様態を示し、PTC発熱体70の断面を示す。図6に示すPTC発熱体70は、例えば、次のように作製される。ポリオレフィン系樹脂とカーボンブラックと各種添加剤が混練された組成物が、平行に配置された2本の電極75a、75bを覆い、断面形状がダンベル状となるように押出成形されて、PTC抵抗体73が形成される。さらに、その外側には形状安定用ジャケット74と絶縁性被覆材72とが押出成形されて、長尺のベルト状PTC発熱体70が形成される。このPTC発熱体70に対して、PTC抵抗体73の放射線架橋に関する処理が行われる。その後に、抵抗値安定化のために高温のアニール処理が行われる。高温アニール処理の温度と処理時間については、例えば、カーボンブラックの含有量が20wt%程度の場合、ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で24時間程度とされている。高温アニール処理の条件は、後掲の[先行技術文献]に記載の文献に開示されているように、種々の条件が存在する。なお、ジャケットと絶縁性被覆材の形成、放射線架橋及び高温アニールの順序や回数は任意である。
【0004】
図7は、同軸状のPTC発熱体80の断面を示す。中心導体85aが一方の電極とされ、その周囲にポリオレフィン系樹脂とカーボンブラックと各種添加剤が混練されたPTC組成物が同軸状に押出成形されてPTC抵抗体83が形成される。その周囲に金属テープや金属電極線85bが螺旋状に配置される。更に、その外側には形状安定用ジャケット84と絶縁性被覆材82とが押出成形されて、PTC発熱体80が形成される。放射線架橋された後に、抵抗値安定化のために、高温のアニール処理がなされる。
【0005】
上記に挙げた従来の高分子材料による各種PTC発熱体の優れている点は、次の通りである。
(1)既存の汎用材料、混練、押出に関わる設備、及び工法を利用できるので、製造ラインを容易に構築できる。
(2)放射線架橋と長時間の高温アニール処理によって、PTC抵抗体の常温抵抗値を低下させた状態で安定化できる。
(3)放射線架橋と長時間の高温アニール処理によって、PTC発熱体に通電動作を繰り返した後でも、PTC諸特性(常温抵抗値、高温域での抵抗増加率)を安定化できる。
【0006】
以上のようなPTC発熱体に関して例えば特許文献1~16に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3243573号明細書
【特許文献2】米国特許第3793716号明細書
【特許文献3】米国特許第3861029号明細書
【特許文献4】米国特許第3914363号明細書
【特許文献5】米国特許第3823217号明細書
【特許文献6】特開昭55-25499号公報
【特許文献7】特開昭55-154003号公報
【特許文献8】特開昭56-8443号公報
【特許文献9】特開昭57-84585号公報
【特許文献10】特開昭59-226493号公報
【特許文献11】特開昭61-198590号公報
【特許文献12】特開平5-226113号公報
【特許文献13】特開平6-45105号公報
【特許文献14】特開平8-120182号公報
【特許文献15】特表平10-501290号公報
【特許文献16】特開2010-244971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたPTC発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、PTC発熱体は、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とを含む無溶剤混練タイプのPTC抵抗体であって、化学架橋により成形されており、加熱処理により生じた凹凸形状を有するPTC抵抗体と、前記PTC抵抗体の外表面に可動性を有するように直接的に又は間接的に柔接触するように設けられた電極とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたPTC発熱体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、一実施形態に係るPTC発熱体の構成例の概略を示す図であり、PTC発熱体を上面から透視した状態を示す模式図である。
図1B図1Bは、一実施形態に係るPTC発熱体の構成例の概略を示す図であり、図1Aに示すI-I線に沿ったPTC発熱体の断面の概略を示す模式図である。
図2図2は、一実施形態に係るPTC抵抗体の表面状態の概略を示す図であり、(A)はアニール処理によってPTC抵抗体の面内に生じる凹凸を上面から見た概略を模式的に図であり、(B)は(A)の一方の端面II-II線に沿ったPTC抵抗体の断面の概略を模式的に示す図である。
図3A図3Aは、変形例に係る同軸状PTC発熱体の構成例の概略を示す図であり、軸に沿って部分展開した状態の概略を示す模式図である。
図3B図3Bは、変形例に係る同軸状PTC発熱体の耐熱絶縁性基材に食い込む第1の電極の深さについて説明するための図である。
図3C図3Cは、変形例に係る同軸状PTC発熱体のPTC抵抗体に食い込む第2の電極の深さについて説明するための図である。
図4図4は、実施例1、2、3、4及び比較例1、2に関するPTC特性の測定結果を示す。
図5図5は、実施例1、2,3に関する測定日数ごとの常温抵抗値R25の変動率の測定結果を示す。
図6図6は、従来の高分子材料によるPTC発熱体の一例の構造を示す図である。
図7図7は、従来の高分子材料によるPTC発熱体の別の例の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、PTC発熱体に関する。PTC発熱体として、一般に、溶剤タイプのPTC塗料を印刷した厚膜タイプと、PTC抵抗体がダンベル状の断面形状となるように押出成形された厚手の長尺ベルトタイプとが知られている。本実施形態のPTC発熱体は、薄いシート形状のPTC抵抗体を有している。PTC抵抗体が薄いシート形状でありながら、本実施形態のPTC発熱体は、優れた特性を発揮する。
【0013】
従来から知られている押出成形による厚手のベルトタイプのPTC発熱体は、長時間のアニール処理により優れたPTC特性と安定性とを有し、その製造ラインの構築も容易である。PTC抵抗体を薄いシート状に変更することには、次のような課題が存在する。
(1)PTC抵抗体を、薄いシート状にし、ベースポリマーの融点以上の温度でアニール処理した場合、加熱冷却の熱ストレスによりシートの変形が生じる可能性があるが、このような変形に関する事例情報がなく、量産化が見通せない。
(2)薄くしたシートが熱変形した場合の電極取出しに関する事例情報がなく、量産化が見通せない。
(3)長時間のアニール処理を必要とする場合、生産性を向上させることができない。
【0014】
例えば、近年、車載用等のPTC発熱体において、PTCの定格動作温度は80℃とされ、このためその温度に対応した特定の熱特性を有する材料を用いる必要がある一方で、瞬時耐熱は120℃とする要求がある。また、重量低減のため、PTC発熱体の厚さを極力薄くする要求が強まっている。耐熱要求に対して、上述の[背景技術]に記載のように、ポリオレフィン系ベースポリマーの融点以上の温度でアニール処理を施すことで、抵抗値の制御と安定化が可能である。一方で、重量低減の要求に対して、PTC抵抗体の厚さを薄くする必要がある。PTC抵抗体を薄くすると、熱変形に関する問題が生じ得る。
【0015】
[PTC発熱体の構造の概要]
PTC発熱体10の構造の概要について説明する。図1Aは、本実施形態に係るPTC発熱体10の構成例の概略を示す図であり、PTC発熱体10を上面から透視した状態を模式的に示す図である。図1Bは、図1Aに示すI-I線に沿ったPTC発熱体10の断面の概略を模式的に示す図である。
【0016】
PTC発熱体10は、発熱素子としてのPTC抵抗体3を備える。PTC抵抗体3は、耐熱絶縁性かつ難燃性の第1の被覆材1と第2の被覆材2との間に、伸縮可能なように接着されることなく配置されている。第1の被覆材1と第2の被覆材2との周辺部は、接着剤6によって封止固定されている。
【0017】
PTC発熱体10は、PTC抵抗体3に電力を供給するための第1の電極5a及び第2の電極5bを含む電極5を備える。第1の電極5a及び第2の電極5bは、第1の被覆材1に固定されている。第1の電極5a及び第2の電極5bは、PTC抵抗体3には直接は接続されていない。電極5は、導電性介在物4を介してPTC抵抗体3に接続されている。すなわち、第1の電極5aとPTC抵抗体3との間には、第1の導電性介在物4aが配置されている。第1の電極5aは、第1の導電性介在物4aを介してPTC抵抗体3に接続されている。第2の電極5bとPTC抵抗体3との間には、第2の導電性介在物4bが配置されている。第2の電極5bは、第2の導電性介在物4bを介してPTC抵抗体3に接続されている。
【0018】
[各部の詳細]
PTC発熱体10の各部の詳細について説明する。
【0019】
〈PTC抵抗体〉
本実施形態のPTC抵抗体3は、無溶剤混練タイプのものであり、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とが混練され、成形された後に、該ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度でアニール処理が施されたものである。PTC抵抗体3の架橋は、化学架橋による。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン樹脂又はオレフィン系共重合体が単独で又は2種以上を組み合わされて用いられ得る。ポリオレフィン樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が用いられ得る。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む。オレフィン系共重合体としては、エチレンと、プロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸、エチルアクリレート、塩化ビニルなどの何れかとの共重合体や、プロピレンと塩化ビニルとの共重合体などや、これらの変性体などが用いられ得る。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂としては、これらの中でも特に、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などが好適である。
【0022】
カーボン粒子としては、各種のものが用いられ得る。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック粒子(オイルファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック)、グラファイト粒子などが単独で又は組み合わされて混合物として用いられ得る。
【0023】
カーボン粒子の平均粒径について特に制限はない。通常、平均粒径が10~150nm、好ましくは20~100nmのカーボン粒子が用いられる。平均粒径が10nm未満のものであると、高温域での抵抗増加率が充分でなくなるため好ましくない。一方、平均粒径が150nmを超えたものであると、室温での電気抵抗値が大きくなるため好ましくない。カーボン粒子としては、平均粒径を異にする2種以上のカーボン粒子を混合したものであってもよい。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子との配合割合は、PTC抵抗体の全重量に対し、前者は40~90重量%、後者は40~10重量%の割合であり、好ましくは、前者が55~75wt%、後者が35~10wt%の割合である。ここで、カーボン粒子の配合量が10wt%より少ないと、PTC発熱体の常温抵抗値が大きくなり発熱体が充分に発熱しないので好ましくない。一方、カーボン粒子の配合量が40wt%を超えると、PTC特性の自己温度制御機能が充分に発現しないので好ましくない。
【0025】
本実施形態のPTC抵抗体3には、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子と架橋剤とが配合される他に、アマイド系ワックスと加工助剤・充填剤粉末とが配合される。
【0026】
本実施形態のPTC抵抗体3の架橋は、普及技術で安価な化学架橋による。本実施形態の架橋では、大規模で高価な上に安全保守基準の厳しい放射線装置は使用しない。架橋剤の配合は、ポリオレフィン系樹脂にマトリクスを形成しPTC発熱体を硬化させ、高温になってもポリオレフィン系樹脂の急激な流動化を抑止し、カーボン粒子のストラクチャーの崩壊を防ぐ。
【0027】
架橋剤としては、有機過酸化物、硫黄化合物、オキシム類、ニトロソ化合物、アミン化合物、ポリアミン化合物などが用いられる。架橋剤は、ポリオレフィン系樹脂の種類に応じてこれらの中から適宜選択して用いられる。
【0028】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等が用いられ得る。これらの中でも一般的なジクミルパーオキサイドが好ましい。
【0029】
本実施形態のPTC抵抗体3には、有機揺変剤が配合される。有機揺変剤の中でワックスとしては、酸化ポリエチレン系、水素添加ひまし油系、アマイド系等のワックスが知られている。これらの中で、PTC抵抗体3にはアマイド系ワックスが好適である。アマイド系ワックスは、融点が比較的高く、シーディング性も小さく、PTC抵抗体中で繊維状に分散するので、PTC抵抗体に柔軟性及び加熱・冷却過程における滑らかな伸縮性を与える。また、アマイド系ワックスは、融点を持つが結晶性ではないので、溶融に伴いベースポリマーの架橋マトリクスを不可逆的に破壊することがない。
【0030】
これに対して、酸化ポリエチレン系ワックスは、結晶系なのでPTC発熱体に柔軟性、及び加熱・冷却過程における滑らかな伸縮性を与え難い。また、酸化ポリエチレン系ワックスは、明確な融点を持ち、溶融に伴いベースポリマーの架橋マトリクスを不可逆的に破壊してしまうおそれがある。ひまし油系ワックスは、融点が低い。
【0031】
本実施形態のPTC抵抗体3における、架橋剤とアマイド系ワックスの作用は相反的である。架橋剤を増やすと、PTC抵抗体の常温抵抗値も高温域での抵抗増加率も両方とも小さくなる。アマイド系ワックスを増やすと、PTC抵抗体の常温抵抗値も高温域での抵抗増加率も両方とも大きくなる。また、PTC発熱体として繰返し動作後の常温抵抗値の変動も上記と同様の傾向を示す。したがって、本実施形態のPTC抵抗体3における架橋剤とアマイド系ワックスとの配合量は、微妙なバランスが必要とされる。PTC抵抗体の全重量に対し、架橋剤は、0.05wt%~1.0wt%、好ましくは0.1wt%~0.5wt%がよく、アマイド系ワックスは、0.5wt%~5wt%、好ましくは1wt%~4wt%がよい。
【0032】
上記より、加工助剤・充填剤粉末の全重量に対する割合は、10~30wt%などとなる。
【0033】
上記のポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子との混合は、例えば、混練用オープンロール、バンバリーミキサー、二軸混練押出機、ラボプラストミル、その他の高温混練機により行うことができる。混練温度は、ポリオレフィン系樹脂の融点以上、好ましくは融点より20~30℃高い温度が好ましい。このような温度で混練することにより、組成物の常温抵抗値を小さくすることができる。また、上記混練温度に達してからの混練時間は、5分間以内が好ましい。混練温度と混練時間との条件は、カーボン粒子のストラクチャーの発達とカーボン粒子の凝集成長のバランスとを左右する。また、混練温度と混練時間とに関する熱処理履歴は、後工程のアニール処理条件を左右する。
【0034】
混練した組成物は、単軸押出成形機、カレンダーロール・プレス機などの各種の成形機により、薄いシート状に成形され、PTC抵抗体が得られる。なお、二軸混練押出機にTダイを取り付け、混練とシート成形とを1台の装置で行なうこともできる。シート状のPTC抵抗体の厚さは、例えば、0.1mm~0.7mm、好ましくは、0.2mm~0.35mmである。
【0035】
薄いシート状に成形されたPTC抵抗体には、アニール処理が施される。予備的実験を行ったところ、ポリオレフィン系樹脂を用いた薄いシート状PTC抵抗体を上述の先行技術に倣い樹脂の融点以上の温度で長時間アニールして冷却すると、PTC抵抗体は大きく湾曲し、PTC発熱体の組立ができなかった。また、アニール温度を変えずにアニール時間を短くし、室温まで自然空冷すると、PTC抵抗体は大きくは湾曲しないが、PTC抵抗体の面内に凹凸形状が発現した。このPTC抵抗体の面内に生じる凹部9a及び凸部9bの概略を図2に示す。図2(A)は、面内の凹凸の一部を上面から見た模式図であり、図2(B)は、図2(A)の一方の端面II-II線に沿ったPTC抵抗体の断面の概略を模式的に示す図である。PTC抵抗体の厚さt1は、例えば、上述のとおり0.1mm~0.7mmであり、これに対して、PTC抵抗体の凹凸の厚さt2は、例えば、0.035mm~0.025mmであり、PTC抵抗体の全厚さt3は、例えば、0.135mm~0.725mmとなる。
【0036】
このPTC抵抗体の面内に生じた凹凸をそのまま維持してPTC抵抗体の特性を測定すると、アニール処理により以下の効果が得られたことが確認できた。
・PTC抵抗体の常温抵抗値を低下させた状態で安定化できる。
・PTC発熱体への通電動作を繰り返した後でもPTC諸特性(常温抵抗値、高温域での抵抗増加率)を安定化できる。
【0037】
一方で、PTC抵抗体の面内に生じた凹凸を維持したまま電極取出しを行うことは、容易ではないので、このような凹凸を生じさせないアニール処理の条件を検討した。その結果、アニール処理を熱プレスで行い徐冷すると、PTC抵抗体の面を平坦化できた。また、アニール処理により発生した凹凸を、アニール処理より低い温度で再加熱して熱プレスすると、PTC抵抗体の面を平坦化できた。しかしながら、いずれの場合も、PTCの諸特性が著しく低下することが判明した。したがって、これらの方法は実用的ではない。
【0038】
以上の検討から、本実施形態のPTC抵抗体3には、薄いシート状PTC抵抗体であって、ベースポリマーの融点以上の温度で短時間のアニール処理を行ったものであり、徐冷ではない程度の速度で冷却した結果面内に生じた凹凸をそのまま維持したものを用いることにした。アニール処理におけるベースポリマーの融点以上の温度での加熱時間は、例えば1分~10分であることが好ましい。
【0039】
上述の予備的実験の結果から、次のように考えられた。すなわち、アニール処理による面内の凹凸の発生は、アニール処理の加熱によりPTC抵抗体内でカーボン粒子のストラクチャーの形成とカーボン粒子の凝集成長とが偏在するようになり、冷却によってベースポリマーのマトリクスを歪めた状態で再配置され、その結果生じるマトリクスの応力差によるものと考えられた。このマトリクス内の応力差は、アニール温度よりもずっと低いPTC発熱体の動作温度域ではある程度解放されるので、PTC発熱体の動作温度域でカーボン粒子のストラクチャーがある程度分断されてPTC抵抗体の抵抗値は著しく増加する。一方、PTC発熱体の温度が室温に戻れば、ベースポリマーのマトリクス状態が歪んだ状態に戻り、カーボン粒子の配置も元に戻る。このようなことから、PTC特性の高温域での抵抗増加率と常温抵抗値との変動が小さくなると考えられた。
【0040】
このように、薄いシート状PTC抵抗体へのアニール処理において、アニール温度を既知の通りベースポリマーの融点以上とし、アニール時間を大幅に短縮し、PTC抵抗体の面内に生じる凹凸をそのまま維持することにより、優れたPTC発熱体が得られることが明らかになった。このアニール処理では、アニール時間が大幅に短縮されるので、本実施形態のPTC発熱体は、量産性が高く安価に提供され得る。
【0041】
〈電気的接続に関する構成〉
前記のようにアニール処理によって生じる面内の凹凸を維持したままPTC抵抗体3に電極を接続するためには、PTC抵抗体3の表面と電極面とを可動性がある状態で柔接触させる電極構造にする必要がある。
【0042】
電極5の材料としては、環境問題を考慮して金属ペースト等を使わない無溶剤タイプが好ましい。電極5には、例えば、銀,銅,ニッケル,アルミニウム,金等の金属が用いられ得る。本実施形態のPTC発熱体10では、電極5の形態としては、金属箔が用いられている。例えば、電極5には、汎用で安価で入手が容易な銅箔テープが用いられ得る。
【0043】
図1A及び図1Bに示すように、本実施形態のPTC発熱体10では、第1の被覆材1のPTC抵抗体3に対向する面であって、PTC抵抗体3の両端に相当する位置に、銅箔テープである第1の電極5a及び第2の電極5bが、非溶剤系の耐熱性の接着剤で貼付け固定されている。なお、本実施形態で要求され得る重要な条件である120℃瞬時耐熱を考慮すると、電極5の銅箔テープは、錫メッキされたものであることが好ましい。また、電極5の固定に用いられる接着剤には、予め錫メッキ銅箔テープの片面に付着したものを用いることが好ましい。
【0044】
電極5の形態としては、金属箔以外に、金属平編み線、金属メッシュ、金属不織布、及び被覆材にラミネートされた金属箔をエッチングにより電極を形成するもの等があり得る。しかしながら、PTC抵抗体に金属電極を直接接触させると、製造工程や通電動作の加熱によって軟化したPTC抵抗体と電極金属とが部分的に接着し易い。このような部分接着は、PTC抵抗体の伸縮を妨げるとともに、接触面積の変動が接触抵抗の変動も引き起こしやすい。また、金属平編み線や金属メッシュ、金属不織布では、表面が硬い突起状となるので、PTC発熱体の製造工程や通電動作中に前記の硬い金属突起が、軟化した薄いPTC抵抗体に食い込み、それを局部的に切断する可能性がある。また、金属加工に際しバリが出やすく、その除去処理に手間が掛かる上に、材料価格も高い。金属箔をエッチングするタイプの電極は高価である。
【0045】
本実施形態のPTC発熱体10では、前記錫メッキされた銅箔テープである電極5とPTC抵抗体3との間には、柔軟な導電性介在物4が配置され、電極5とPTC抵抗体3との柔接触構造が形成されている。本実施形態では、柔軟な導電性介在物4として導電性短繊維のシート状成形物が用いられている。この導電性短繊維のシート状成形物が適切に裁断されて、第1の導電性介在物4a及び第2の導電性介在物4bが形成されている。
【0046】
導電性介在物4としては、カーボン不織布が好適である。カーボン不織布は、加熱時に軟化したPTC抵抗体3に食い込んでも、PTC抵抗体3を切断することがない。また、カーボン不織布は、PTC抵抗体3と同種の材質なので接触抵抗の変動がない。特にカーボン長繊維の残材から成形されるカーボン不織布は、安価であり好適である。
【0047】
導電性短繊維のシート状成形物としては、銅細線又はステンレス細線による不織布等もあり得る。しかしながら、金属製の不織布は、加熱時に軟化したPTC抵抗体3に食い込みPTC抵抗体3を局部的に切断する可能性がある。また、金属製の不織布は、繊維であっても硬いバリが出やすくその除去処理に手間が掛かり、材料価格も高い。
【0048】
本実施形態のPTC発熱体10では、例えば、第1の被覆材1に貼り付けられた第1の電極5a及び第2の電極5b上に、それぞれ第1の電極5a及び第2の電極5bの大きさに合うよう切断された第1の導電性介在物4a及び第2の導電性介在物4bが配置され、その上にPTC抵抗体3が配置される。この中間組立体の上に耐熱絶縁性被覆材である第2の被覆材2が被せられるとともに、第1の被覆材1及び第2の被覆材2の周辺部が接着剤6により封止固定される。このようにして、図1A及び図1Bに示すような構成のPTC発熱体10が形成される。
【0049】
このような構成により、ベースポリマーの融点以上の温度で加熱されるアニール処理によってPTC抵抗体3の面内に生じた凹凸を維持したまま、導電性と弾力性及び可動性等を有する導電性介在物4による柔接触構造によって、電極5が引き出され得る。
【0050】
〈被覆体の構成〉
被覆体を構成する第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、耐熱絶縁性の高分子フィルムにより形成され得る。図1Aに示すように、第1の被覆材1は、第2の被覆材2の長辺より長い長方形の薄板である。第1の被覆材1に貼り付けられた第1の電極5a及び第2の電極5bの端部が見えるように第2の被覆材2が重ねられている。第1の電極5a及び第2の電極5bの端部の露出部分が、リード線接続部を形成している。
【0051】
絶縁性被覆材として機能する第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、強度と耐熱性と絶縁性と難燃性との条件を満たす必要がある。第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロン、塩化ビニル等といった高分子を素材にした高分子フィルムであり得る。第1の被覆材1及び第2の被覆材2としては、前記の条件を確保し、さらに接着性を確保する点で、ポリエステル・フィルムが好適である。また、第1の被覆材1及び第2の被覆材2は、内包するPTC抵抗体3が伸縮しても、外被としての機械的強度、耐熱性及び難燃性が確保され、また寸法安定性が確保される必要がある。このため、第1の被覆材1及び第2の被覆材2には、難燃グレードのポリエステル・フィルムを結晶化処理して硬くし、機械的強度と耐熱強度とを上げた材料が用いられることが好適である。ここで、結晶化処理は、一般的に知られているポリエステル樹脂の結晶化温度である約130℃以上、好ましくは140℃以上に加熱後、徐冷することによって達成される。
【0052】
また、図1A及び図1Bには、第1の被覆材1と第2の被覆材2との封止に、接着剤のみが用いられる例が示されているが、これに限らない。PTC抵抗体3の凹凸が大きい場合や、電極5及び導電性介在物4の厚さが厚い場合には、第1の被覆材1と第2の被覆材2の間にスペーサーが挟まれて接着されてもよい。なお、PTC抵抗体3の凹凸によって生じる空隙がPTC抵抗体3からの熱伝達の低下をもたらす。この熱伝達の低下の問題は、この空隙に、例えばシリコーン系のゴムや充填剤を充填し平坦化することで解決され得る。
【0053】
[変形例]
一般に、PTC発熱体の形態として同軸状のものが知られている。上述の実施形態に係る薄いシート状のPTC抵抗体は、同軸状のPTC発熱体にも適用され得る。この場合も、上述のシート状PTC発熱体と類似の構成で、高いPTC特性と安定性とを実現できる。
【0054】
図3Aは、同軸状PTC発熱体30の構成例の概略を示す図であり、軸に沿って部分展開した状態の概略を模式的に示す図である。同軸状PTC発熱体30は、ポリエステル繊維束等からなる巻き芯である線状の耐熱絶縁性基材31と、錫メッキ銅線等である第1の電極35aとを備える。第1の電極35aは、耐熱絶縁性基材31の周囲に螺旋状に強く巻き付けられている。第1の電極35aの断面形状は、円形状でも平板状でもよい。
【0055】
第1の電極35aの耐熱絶縁性基材31への巻き付けの強さは、図3Bに示すように、第1の電極35aの直径又は厚さの50%以上が耐熱絶縁性基材31に食い込むような強さにすることが好ましい。この食い込みの深さd1は、第1の電極35aが耐熱絶縁性基材31を確実に抑えて相互の位置ずれを防止するとともに、第1の電極35aの凸部の高さを抑え、耐熱絶縁性基材31の表面に占める第1の電極35aの面積を減らす。これにより、同軸状PTC発熱体30の動作時に、通電して加熱されたときにも、上層部に配置されるPTC抵抗体33と、耐熱絶縁性基材31及び第1の電極35aとの摩擦が減らされ、滑性、可動性が与えられ、柔接触構造が実現される。
【0056】
また、耐熱絶縁性基材31の材質はポリエステル樹脂であり、PTC抵抗体33の主な材質はポリエチレン樹脂である。ポリエステル樹脂とポリエチレン樹脂とは、難接着性である。このことからも、第1の電極35aが深く巻かれた耐熱絶縁性基材31とPTC抵抗体33とは、同軸状PTC発熱体30の動作時に、通電して加熱されたときにも、滑り易く、可動性が与えられる。
【0057】
第1の電極35aが巻き付けられた耐熱絶縁性基材31の上層部には、上述の実施形態のPTC抵抗体3の場合と同様のPTC抵抗体33の組成物が押出成形される。PTC抵抗体33は、ベースポリマーの融点以上の温度で短時間アニール処理されることで形成される。
【0058】
予備的実験によれば、アニール処理されたPTC抵抗体33の表面には、図3Aに示すように、凹部36が発現した。一方、理由は不明であるが、明確な形の凸部は確認できなかった。
【0059】
PTC抵抗体33の周囲には、第2の電極35bが螺旋状に巻かれている。PTC抵抗体33への食い込みの深さd2は、第2の電極35bの直径又は厚さの30%以下、好ましくは10%~20%である。これにより、同軸状PTC発熱体30の動作時に、通電して加熱されたときにも、第2の電極35bの食い込みが深まってPTC抵抗体33に亀裂や切断が発生することが防がれる。第2の電極35bの上には、塩化ビニル樹脂等の耐熱絶縁性被覆材32が押出成形されている。このようにして、同軸状PTC発熱体30が形成されている。
【0060】
第1の電極35a及び第2の電極35bがPTC抵抗体33に少し食い込んでいても、第1の電極35a及び第2の電極35bは螺旋状に巻かれているため、PTC抵抗体33は、伸縮時にこの螺旋方向に沿って滑る。このため、第1の電極35a及び第2の電極35bがPTC抵抗体33に少し食い込んでいても、PTC抵抗体33の伸縮は妨げられず、柔接触の電極構造が実現される。
【0061】
なお、PTC抵抗体33の上に第2の電極35bが巻き付けられてからアニール処理が施されることは好ましくない。PTC抵抗体33の上に第2の電極35bが巻き付けられてからアニール処理が施されると、第2の電極35bはPTC抵抗体33に深く食い込み、PTC抵抗体33を切断し、その結果、第1の電極35aと第2の電極35bとが短絡するおそれがある。短絡に至らなくても、第1の電極35aと第2の電極35bとの間隔が狭くなったまま、冷却後に接着的に固定される可能性がある。その結果、同軸状PTC発熱体30の動作時に、通電して加熱されたときに、食い込んだ第2の電極35bがPTC抵抗体33の伸縮を抑制し、柔接触の電極構造は実現されない。これにより、PTC特性の抵抗増加率の低下が引き起こされる。また、第2の電極35bがPTC抵抗体33に深く食い込み固定化される過程は、第2の電極35bの巻きピッチを乱す。これにより、常温抵抗のバラツキの増大が引き起こされる。
【0062】
なお、アニール処理によってPTC抵抗体33に発生する凹部36は、概ね耐熱絶縁性被覆材32で充填される。しかしながら、この充填が不十分な場合には、PTC抵抗体33の表面に、一般電線の場合のようにタルクが擦り込まれ、空隙が充填されてもよい。
【実施例0063】
以下、PTC発熱体10の具体的な実施例を示す。
【0064】
[PTC発熱体実施試料の作製]
本実施例に係るPTC発熱体10において、第1の被覆材1と第2の被覆材2には、難燃性ポリエステル・フィルムである、ルミラー(登録商標)#500-H10(東レ社製)を使用した。ここで、第1の被覆材1と第2の被覆材2とに対しては、予め結晶化処理を施した。結晶化処理では、対象物をアルミ板等で挟んで軽く荷重を掛けた状態で恒温槽中において145℃で30分間加熱し、その後、恒温槽の電源を切り室温まで徐冷した。
【0065】
第1の被覆材1の大きさは、140×90mm、厚さ0.5mmとした。第1の電極5a及び第2の電極5bの材質は錫メッキ銅箔とし、各々の大きさは、130×10mm、厚さ0.08mmとした。第1の電極5aと第2の電極5bとの各々の片面には、変性シリコーン系接着剤が塗布され、これにより、第1の電極5aと第2の電極5bとを、第1の被覆材1の両側端部に貼り付けた。
【0066】
第2の被覆材2の大きさは、130×90mm、厚さ0.5mmとした。第1の被覆材1に貼り付けられた第1の電極5aと第2の電極5bとの各端部が被覆されず見えるように、後程、第2の被覆材2が第1の被覆材1の長手方向の一端を合わせるように配置される。この第1の電極5aと第2の電極5bとの端部の露出する部分が、外部リード線との接続部となる。
【0067】
ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)M6520(旭化成社製)を使用した。カーボン粒子としては、グラファイトのうち平均粒径が80μmである鱗片状黒鉛CB-100(日本黒鉛社製)を使用した。
【0068】
架橋剤としては、ジアルキルパーオキサイドであるパークミルD(日油社製)を使用した。アマイド系ワックスとしては、ステアリン酸アミドであるアーモスリップHT(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を使用した。加工助剤と充填剤としては、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、アクリル系樹脂改質剤、炭カル、クレーを適宜配合した。
【0069】
これらの材料を表1の実施例1のように配合し、よく撹拌・混合してから、Tダイを備えた混練押出機で、厚さ0.3mmのシート状PTC抵抗体に成形した。ここで、表1には、事例ごとの成分合計に対する各成分の比率が示されている。表1には、各事例に対するアニール処理時間についても併記した。
【0070】
【表1】
【0071】
厚さ0.3mmに成形されたPTC抵抗体を、約300mm四方に切断し、150℃に加熱して9Kgの荷重(0.98N/cm)を掛けたホットプレスで5分間アニール処理した後に自然空冷した。この荷重は、加熱によるPTC抵抗体の凹凸変形は許容するが、大きな湾曲は抑制する程度のものである。ここで、アニール処理時間は、例えば1分ごとに常温抵抗値R25の値を評価しながら、複数回の熱処理を繰返し、適切な時間を決定することも可能である。また、1回の一括アニール処理で不足のものは、追加のアニール処理を施すことも可能である。アニール処理後、PTC抵抗体を、110×70mmに切断しPTC抵抗体3とした。
【0072】
このようにして作成されたPTC抵抗体3を、図1Aに示すように第1の電極5aと第2の電極5bとに重なる位置に配置した。ここで、第1の電極5a及び第2の電極5bとPTC抵抗体3との間には、それぞれカーボン不織布による第1の導電性介在物4a及び第2の導電性介在物4bを配置した。第1の導電性介在物4aと第2の導電性介在物4bとの大きさは、錫メッキ銅箔の第1の電極5aと第2の電極5bと同じく幅を10mmとし、長さはPTC抵抗体3に当接するように110mmとし、厚さは約0.5mmとした。
【0073】
この中間組立体の上に、図1Aに示すように、第1の被覆材1の一端に合わせ、他の一端では第1の電極5aと第2の電極5bの端部が見えるように、第2の被覆材2を第1の被覆材1に重ねた。なお、第2の被覆材2の周辺部には予め変性シリコーン系接着剤を塗布しておき、第1の被覆材1に重ねると同時に接着した。
【0074】
以上のように組み立てて、PTC発熱体10を作製した。
【0075】
[実施例、比較例の内容]
表1に示した実施例1のPTC抵抗体の配合は、予備的配合実験において、良好なPTC特性を示した配合の試料である。この配合を基本として、表1に示した実施例2及び実施例3の配合のPTC抵抗体も作製した。実施例2は、PTC抵抗体の配合において、架橋剤パークミルDの量を多めに、アマイド系ワックスのアーモスリップHTの量を下限まで減らした試料である。実施例3は、逆に、PTC抵抗体の配合において、架橋剤を下限に近い量まで減らし、アマイド系ワックスの量を多めにした試料である。
【0076】
さらに、実施例4として、実施例1と構造が異なる同軸状のPTC発熱体を作製した。耐熱絶縁性基材31は1500デニールのポリエステル繊維束であり、その上に直径0.18mmの錫メッキ銅合金線を0.9mmのピッチで螺旋状に巻き、第1の電極35aとした。第1の電極35aの耐熱絶縁性基材31への食い込み量は、第1の電極35aの直径の概ね50~60%である。
【0077】
この上に、実施例1と同じ配合のPTC抵抗体材料を電線製造に使われるのと同様の混練押出成形機で、厚さ0.33mmの円筒状に押し出した。アニール処理は、実施例1と同じく150℃で5分間加熱することで行った。PTC抵抗体33の上には、直径0.12mmの錫メッキ銅合金線を0.9mmのピッチで螺旋状に巻き、第2の電極35bとした。第2の電極35bのPTC抵抗体33への食い込み量は、概ね10~20%とした。この上に塩化ビニル樹脂からなる耐熱絶縁性被覆材32を押出成形し、10mの長さに切断し、PTC発熱体30の試料とした。
【0078】
表1に示した比較例1の配合のPTC抵抗体は、低密度ポリエチレン樹脂M6520の量を下限まで減らし、カーボン粒子CB-100の量は上限を超えるまでに増やした試料である。
【0079】
実施例1~4及び比較例1のアニール処理では、何れも150℃で5分間の加熱を実行した。
【0080】
比較例2は、配合とアニール温度は実施例1と同じであるが、アニール時間を25分と長くした試料である。
【0081】
[PTC特性の測定]
実施例1~4及び比較例1,2に関する試料について、PTC特性の測定を行った。測定方法は以下のとおりである。試料を恒温槽に設置し、25℃から120℃まで10℃又は15℃ステップで昇温させた。試料の大きさから十分な安定時間を10分として試料の抵抗値を抵抗計により測定した。120℃での測定は、この10分間を瞬時耐熱の試験ともした。
【0082】
また、実施例1~3に関する試料について、毎日1回、前記と同じ条件でPTC特性の測定を行い、これを10日間繰り返し、毎日の25℃における常温抵抗値R25の値を測定した。
【0083】
図4は、実施例1~4及び比較例1、2に関するPTC特性の測定結果を示す。実施例1、2、3は、PTC抵抗体の組成配合が互いに異なる例である。比較例1は、ポリオレフィン系樹脂とカーボン粒子の配合比率が推奨範囲を外れた例である。比較例2は、実施例1と同じ配合であるが、アニール時間を長くした例である。実施例4は、組成配合は実施例1と同じであるが、構造が異なる例である。
【0084】
図4では、横軸が温度を示し、縦軸が抵抗増加率Rrを示す。ここで、抵抗増加率Rrは、各温度における抵抗値を、常温25℃における抵抗値R25で除した値である。同図中に、常温抵抗値R25と、120℃における抵抗増加率Rr120を記載する。
【0085】
また、図5は、測定日数に対する実施例1、2、3の常温抵抗値R25の変動率を示す。ここで、R25変動率は、1日目の常温抵抗値R25で各測定日における常温抵抗値R25を除した値である。
【0086】
[配合に関する評価]
キュリー温度は、常温抵抗値R25が約2倍になる温度付近と言われている。PTC発熱体の立ち上り特性が急峻であればPTC発熱体の動作温度はキュリー温度付近になるとも言われている。またキュリー温度は各材料の性質によるとも言われている。実施例1のR25は、11.61kΩであった。実施例2のR25aは、8.16kΩであった。実施例3のR25は、17.72kΩであった。実施例4のR25は、6.55kΩであった。比較例1のR25は、2.36kΩであった。比較例2のR25は、5.01kΩであった。
【0087】
図4において、実施例1、2、3は、配合の違いによる作用を見ているが、標準的な配合である実施例1を中心に、実施例2では架橋剤を多めに、アマイド系ワックスを少なめに配合しており、実施例3では双方の配合を逆にしている。
【0088】
120℃の抵抗増加率(Rr120)は、それぞれ、実施例1では850、実施例2では597、実施例3では1248、実施例4では2176、比較例1では78、比較例2では108であった。120℃の抵抗増加率(Rr120)から、架橋剤が多いと抵抗増加率は小さくなり、ワックスが多いと抵抗増加率は大きくなることがわかる。したがって、PTC抵抗体の伸縮が、配合物の物性通りの働きをしていることがわかる。
【0089】
このことは、同図中の実施例1、2、3の常温25℃の抵抗値(R25)を比べてみても、架橋剤が多いとR25は小さくカーボン粒子の凝集が進むことがわかるし、ワックスが多いとカーボン粒子のストラクチャーの形成が進むことがわかる。
【0090】
一方、比較例1は、推奨範囲を超えてポリエチレン樹脂の配合量を少なく、カーボン粒子の配合量を多くしたものであり、PTC特性のRr120は小さく、常温抵抗値R25も小さくなった。これは、多量のカーボン粒子の凝集が進み、単純な抵抗体に近づいたことを示しており、既知の事実に準じている。
【0091】
図4における比較例2は、実施例1と同じ標準的配合であるが、アニール温度を150℃のままで、加熱時間を25分と5倍に増やしたものである。PTC特性での抵抗増加率Rr120は小さく、常温抵抗値R25も小さくなる。これは、架橋剤の影響よりは熱によってカーボン粒子の凝集が進んだ結果であり、薄いシート状PTC抵抗体へのアニール処理は、既知の事実に反し、短時間でなければならないことを示している。
【0092】
以上の評価結果は、PTC特性の設計をする上での自由度を広げ、経済的な効果が大きい。
【0093】
[構造に関する評価]
図4に示すように、実施例1、2、3及び比較例1の常温抵抗値R25と抵抗増加率Rr120との測定結果は、配合の違いを明確に示しており、柔構造の電極の効果が表れている。特に、配合が同じ実施例1と実施例4との比較は、PTC抵抗体の表面積に対する電極面積の占める割合の違いがPTC抵抗体の伸縮に影響を与えていることを明確にしている。このように、種々の柔構造の電極が特性の向上に効果を発揮することが明らかになった。
【0094】
[安定性に関する評価]
図5に示すように、10日間にわたる10回の25℃~120℃の繰返し加熱測定において、実施例1、2、3の常温抵抗値R25の変動は、配合依存性を示している。すなわち、標準的配合の実施例1に対し、架橋剤の多い実施例2ではR25の変動率は小さく、アマイド系ワックスの多い実施例3ではR25の変動率は大きくなっている。これらは、PTC抵抗体中のカーボン粒子の凝集とストラクチャー発展を矛盾なく示している。これらの知見によれば、適切な配合を選択でき、設計の自由度を高められる。
【0095】
以上説明したように、本実施形態に係るPTC発熱体では、薄く任意の形状に化学架橋されて成形されたPTC抵抗体が、その樹脂の融点以上の温度で加熱処理された後に、PTC抵抗体3の表面上又は表裏面に対向電極が柔接触で可動性を有する状態で配置され、その中間組品の表面又は表裏面が、耐熱性で電気絶縁性の高い樹脂成形物で被覆封止される。その結果、加熱・冷却時のPTC抵抗体の伸縮が妨げられず、バランスの取れたPTC特性を得られるとともに、常温抵抗値R25の安定性も確保でき、最終工程でのアニール時間が大幅に短縮され、量産性がよく安価なPTC発熱体が提供される。
【0096】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本実施形態に係るPTC発熱体は、例えば、床暖房などの面状採暖具、車両用及び蓄電用のバッテリーの保温などに用いることができる。
【符号の説明】
【0098】
10 PTC発熱体
1 第1の被覆材
2 第2の被覆材
3 PTC抵抗体
4a 第1の導電性介在物
4b 第2の導電性介在物
5a 第1の電極
5b 第2の電極
6 接着剤
30 PTC発熱体
31 耐熱絶縁性基材
32 耐熱絶縁性被覆材
33 PTC抵抗体
35a 第1の電極
35b 第2の電極
36 凹部
t1 PTC抵抗体の厚さ
t2 PTC抵抗体と凹凸の厚さ
t3 PTC抵抗体の全厚さ
70 従来のPTC発熱体
72 絶縁性被覆材
73 PTC抵抗体
74 ジャケット
75a 電極
75b 電極
80 従来の別のPTC発熱体
82 絶縁性被覆材
83 PTC抵抗体
84 ジャケット
85a 中心導体
85b 金属電極線

図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7