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特開2022-182855アルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池
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  • 特開-アルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池 図1
  • 特開-アルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182855
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/24 20060101AFI20221201BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20221201BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221201BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M4/24 J
H01M4/38 A
H01M4/62 C
H01M10/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090605
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】江原 友樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤
(72)【発明者】
【氏名】大畠 昇太
(72)【発明者】
【氏名】佐口 明
(72)【発明者】
【氏名】木原 勝
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA06
5H028AA07
5H028EE01
5H028EE04
5H028HH05
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA14
5H050CA03
5H050CB16
5H050DA03
5H050DA04
5H050DA09
5H050EA15
5H050FA17
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】サイクル寿命の向上と低温放電特性の向上との両立を図るアルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用の負極(26)は、金属製の負極芯体と、少なくとも水素吸蔵合金及びフッ化イットリウムを含み、負極芯体に坦持される負極合剤層と、を備え、フッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下となるように形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池用の負極であって、
金属製の負極芯体と、
少なくとも水素吸蔵合金及びフッ化イットリウムを含み、前記負極芯体に坦持される負極合剤層と、を備え、
前記フッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下となるように形成されている、ことを特徴とするアルカリ蓄電池用の負極。
【請求項2】
前記フッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ3μm以下となるように形成されている、請求項1記載のアルカリ蓄電池用の負極。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金の粒子は、平均粒子径が15μm以上かつ90μm以下となるように形成されている、請求項1又は2記載のアルカリ蓄電池用の負極。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項記載の負極と、正極と、前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータとで形成された電極群と、
前記電極群がアルカリ電解液とともに収容された、導電性を有する外装缶と、を備えることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池は、正極と負極とセパレータとを積層した電極群を備えている。電極群において、セパレータは正極と負極との間に配置されている。当該アルカリ蓄電池において、例えば電極群は渦巻き状に巻回されて、導電性を有する円筒形状の外装缶にアルカリ電解液と共に収容されている。当該アルカリ蓄電池では、セパレータを介して対向する正極と負極との間で所定の電気化学反応が生じ、これにより充電及び放電が行われている。例えば特許文献1には、アルカリ蓄電池の一例としてニッケル水素二次電池について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-149299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ニッケル水素二次電池は、高容量且つ環境安全性に優れていることから、アルカリ乾電池の互換、バックアップ電源、車載用途等、多彩な用途で使用されるようになっている。このように、用途が拡大しているため、ニッケル水素二次電池においては、その長寿命化(サイクル寿命の向上)のために、例えば水素吸蔵合金中へのCo添加による微粉化抑制、当該合金表面のアルカリ処理による腐食抑制など、様々な手法が検討されている。
【0005】
しかしながら、従来のニッケル水素二次電池においては、合金へのCo添加や合金表面のアルカリ処理によりサイクル寿命は向上するものの、一般的な傾向として、合金の反応性が低下し、特に低温での放電特性が低下することが分かっている。このように、ニッケル水素二次電池においては、サイクル寿命の向上と低温放電特性の向上とを両立させることが困難であった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、サイクル寿命の向上と低温放電特性の向上との両立を図るアルカリ蓄電池用の負極、及び当該負極を用いたアルカリ蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るアルカリ蓄電池用の負極は、金属製の負極芯体と、少なくとも水素吸蔵合金及びフッ化イットリウムを含み、前記負極芯体に坦持される負極合剤層と、を備え、前記フッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下となるように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るアルカリ蓄電池用の負極によれば、負極合剤層に含まれるフッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下となるように形成されている。このため、当該負極をアルカリ蓄電池に用いた場合、フッ化イットリウムの特性により、低温放電時の水素吸蔵合金の反応性が高まり、且つ、アルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食が抑制される。具体的には、イットリウムの特性により低温放電時の水素吸蔵合金の反応性が向上し、フッ素の特性によりアルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食が抑制される。さらに、フッ化イットリウムの粒子の平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下とされているため、フッ化イットリウムの粒子を水素吸蔵合金の間に十分に分散させることができ、低温放電時の水素吸蔵合金の反応性がより一層高まり、及びアルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食がより確実に抑制される。このようにして、サイクル寿命の向上と低温放電特性の向上との両立を図るアルカリ蓄電池用の負極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るアルカリ蓄電池を部分的に破断して示す斜視図である。
図2】実施例に係るアルカリ蓄電池のサイクル試験及び低温放電試験の結果を比較例とともに示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態に係るアルカリ蓄電池の一例としてニッケル水素二次電池2(以下、単に「電池2」ともいう)の実施形態を説明する。なお、一実施形態として、AAサイズの円筒形の電池2について説明する。しかし、電池2はこれに限るものではなく、例えばAAAサイズ等他のサイズでもよいし、例えば角型電池であってもよい。
【0011】
図1は、一実施形態に係るニッケル水素二次電池2(アルカリ蓄電池)を部分的に破断して示す斜視図である。図2は、実施例に係る電池2のサイクル試験及び低温放電試験の結果を比較例とともに示すものである。説明の便宜上、円筒形状の外装缶10の軸線xにおいて、矢印a方向を上側、矢印b方向を下側とする。ここで、上側とは、電池2における正極端子20が設けられている側を意味し、下側とは、電池2における底壁35が設けられている側であり、上側の反対側を意味する。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから遠ざかる方向を外周側とし(矢印c方向)、軸線xに向かう方向を内周側とする(矢印d方向)。
【0012】
図1に示すように、電池2は、上側(矢印a方向)が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、下側(矢印b方向)に設けられた底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。すなわち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0013】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の上側の面である外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0014】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、そのガスの圧力が高まれば、弁体18はガスの圧力によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔(図示せず)を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池2のための安全弁を形成している。
【0015】
図1に示すように、外装缶10には、渦状電極群22(電極群)が収容されている。この渦状電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28が互いに重ね合わされて形成されている。渦状電極群22は、正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻き状に形成されている。すなわち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が径方向に互いに重ね合わされている。渦状電極群22の最外周側は負極26の一部により形成され、外装缶10の内周側を向く壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0016】
そして、外装缶10内には、渦状電極群22の上側の端部と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と渦状電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39の中を通されて延びている。また、渦状電極群22と外装缶10の底壁35との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0017】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、渦状電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電の際の電気化学反応(充放電反応)を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH及びLiOHのうちの少なくとも一種を溶質として含む水溶液を用いることが好ましい。
【0018】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。具体的には、スルホン化処理が施されてスルホン基が付与されたポリオレフィン繊維からなる不織布を用いることが好ましい。ここで、スルホン基は、硫酸又は発煙硫酸等の硫酸基を含む酸を用いて不織布を処理することにより付与される。このようにセパレータにスルホン化処理を施すと、親水性が付与されるだけではなく電池の自己放電の抑制にも寄与する。
【0019】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基材と、この正極基材の空孔内に保持された正極合剤とを含んでいる。このような正極基材としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体、あるいは、発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を用いることができる。正極合剤は、正極活物質粒子、導電剤、正極添加剤及び結着剤を含む。
【0020】
正極合剤の結着剤は、正極活物質粒子、導電剤及び正極添加剤を結着させると同時に正極合剤を正極基材に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。また、正極添加剤は、正極の特性を改善するために、必要に応じ適宜選択されたものが添加される。主な正極添加剤としては、例えば、酸化イットリウム、酸化亜鉛、水酸化コバルト等が挙げられる。
【0021】
正極活物質粒子としては、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている水酸化ニッケル粒子が用いられる。この水酸化ニッケル粒子は、高次化されている水酸化ニッケル粒子を採用することが好ましい。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。上記したような正極活物質粒子は、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている製造方法により製造される。また、導電剤としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)やコバルト水酸化物(Co(OH)2)などのコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。この導電剤は、必要に応じて正極合剤に添加されるものであり、添加される形態としては、粉末の形態のほか、正極活物質の表面を覆う被覆の形態で正極合剤に含まれていてもよい。
【0022】
ついで、正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、正極活物質粒子からなる正極活物質粉末、導電剤、正極添加剤、水及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えばニッケルフォームに充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填されたニッケルフォームは、ロール圧延されてから所定の形状に裁断される。これにより、正極合剤を保持した正極24が製造される。
【0023】
次に、負極26について説明する。負極26は、金属製の負極芯体と、この負極芯体に担持された負極合剤層とを備え、全体として帯状をなしている。負極芯体は、導電性を有している。負極芯体は、貫通孔(図示せず)が分布された帯状の金属材であり、例えば、パンチングメタルシートを用いることができる。負極合剤層は、負極芯体の両面(表面及び裏面)に層状に塗布された負極合剤により形成されている。負極合剤は、負極芯体の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極芯体の表面及び裏面にも層状に担持されて負極合剤層を形成している。負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子、フッ化イットリウム(以下、YF3ともいう)、導電剤、結着剤及び負極補助剤を含む。
【0024】
ここで、水素吸蔵合金は、負極活物質である水素を吸蔵及び放出可能な合金である。水素吸蔵合金粒子における水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではなく、一般的なニッケル水素二次電池に用いられているものを用いるのが好ましい。例えば、水素吸蔵合金は、希土類元素、Mg、Niを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金であってよい。水素吸蔵合金の粒子は、体積平均粒子径(MV)が15μm以上かつ90μm以下となるように形成されることが好ましい。なお、本明細書において、水素吸蔵合金の粒子の体積平均粒子径(MV)とは、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置(装置名:Microtrac社製SRA-150、MT-3300)により粒子径分布を測定し、体積基準による積算が50%に当たる平均粒子径を意味する。
【0025】
また、フッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下、好ましくは平均粒子径が1μm以上かつ3μm以下となるように形成されている。なお、本明細書において、フッ化イットリウムの粒子の平均粒子径とは、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置(装置名:Microtrac社製HRA)により粒子径分布を測定し、全粒子中における頻度の累積が50%となる粒子径を意味する(D50)。
【0026】
水素吸蔵合金の粒子及びフッ化イットリウムの粒子は、例えば、以下のようにして得られる。まず、所定の組成となるよう金属原材料を計量して混合し、この混合物から所定の製造方法で作成されたインゴットを準備する。得られたインゴットを粉砕し、分級機を用いて篩分けを行うことにより所望粒子径の水素吸蔵合金の粒子及びフッ化イットリウムの粒子を得る。
【0027】
また、負極合剤の結着剤は、水素吸蔵合金粒子、導電剤等を互いに結着させると同時に水素吸蔵合金粒子、導電剤等を負極芯体に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、親水性若しくは疎水性のポリマー、カルボキシメチルセルロースなどの、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている結着剤を用いることができる。また、負極補助剤としては、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。導電剤としては、ニッケル水素二次電池の負極に一般的に用いられている導電剤が用いられる。例えば、カーボンブラック等が用いられる。
【0028】
負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、上記のような水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、フッ化イットリウムと、導電剤と、結着剤と、水とを準備する。この際、水素吸蔵合金粉末及びフッ化イットリウムについては、所定の組成となるよう金属原材料を計量して混合し、この混合物から所定の製造方法で作成されたインゴットを準備し、得られたインゴットを粉砕し、分級機を用いて篩分けを行うことにより所望粒子径の水素吸蔵合金の粒子及びフッ化イットリウムの粒子を得る。そして、これらを混練して負極合剤のペーストを調製する。得られたペーストは負極芯体に塗着され、乾燥させられる。その後、全体的に圧延が施されることにより水素吸蔵合金、フッ化イットリウムの充填密度を高めた後、所定形状に裁断されて負極26が製造される。
【0029】
以上のようにして製造された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で渦巻き状に巻回され、渦状電極群22が形成される。このようにして得られた渦状電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内には所定量のアルカリ電解液が注入される。その後、渦状電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた封口体11により封口され、一実施形態に係る電池2が得られる。電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0030】
次いで、一実施形態の負極26及び電池2の作用、効果について説明する。上述したように、一実施形態に係る負極26によれば、負極合剤層に含まれるフッ化イットリウムの粒子は、平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下好ましくは1μm以上かつ3μm以下となるように形成されている。このため、当該負極26を電池2に用いた場合、フッ化イットリウムの特性により、低温放電時の水素吸蔵合金の反応性が高まり、且つ、アルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食が抑制される。具体的には、イットリウムの特性により低温放電時の水素吸蔵合金の反応性が向上し、フッ素の特性により水素吸蔵合金とアルカリ電解液との接触が抑制されてアルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食が抑制される。さらに、フッ化イットリウムの粒子の平均粒子径が1μm以上かつ7μm以下、好ましくは1μm以上かつ3μm以下とされているため、フッ化イットリウムの粒子を水素吸蔵合金の間に十分に分散(点在)させることができる。このため、低温放電時の水素吸蔵合金の反応性がより一層高まる。さらに、アルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食がより確実に抑制され、水素吸蔵合金の腐食にともなうアルカリ電解液の消費が減り、これによりサイクル寿命が向上する。このようにして、サイクル寿命の向上と低温放電特性の向上との両立を図るニッケル水素二次電池2用の負極26及び電池2を提供することができる。
【0031】
ここで、フッ化イットリウムの粒子が上述した所望の範囲よりも大きい平均粒子径を有する場合、フッ化イットリウムを水素吸蔵合金中へ十分に分散させることができない。つまり、フッ化イットリウムの分布が局在化する。また、フッ化イットリウムが上述した所望の範囲よりも小さい平均粒子径を有する場合、フッ化イットリウムの粒子が凝集し、これによりフッ化イットリウムを水素吸蔵合金中へ十分に分散させることができない。このように、フッ化イットリウムの平均粒子径が所望の範囲外にある場合、低温放電時の水素吸蔵合金の反応性を十分に高めることができず、且つ、アルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食を十分に抑制することができない。
【0032】
また、一実施形態に係る負極26によれば、水素吸蔵合金の粒子は、平均粒子径が15μm以上かつ90μm以下となるように形成されている。このため、たとえフッ化イットリウムの粒子の凝集が生じた場合であっても、水素吸蔵合金の粒子によってフッ化イットリウムの粒子の凝集を解砕することができると考えられる。フッ化イットリウムの粒子の凝集を解すことができると、フッ化イットリウムを水素吸蔵合金の間に十分に分散(点在)させることができる。これにより、低温放電時の水素吸蔵合金の反応性が高まり、且つ、アルカリ電解液による水素吸蔵合金の腐食が抑制される。このようにして、サイクル寿命の向上と低温放電特性の向上との両立を図るニッケル水素二次電池2用の負極26及び電池2を提供することができる。
【0033】
ここで、水素吸蔵合金の粒子が所望の範囲(15μm~90μm)よりも大きい平均粒子径を有する場合、水素吸蔵合金の粒子同士の間隔が大きくなり、フッ化イットリウムの粒子の凝集を解砕することができないと考えられる。また、仮に水素吸蔵合金の粒子が所望の範囲(15μm~90μm)よりも小さい平均粒子径を有する場合、合金粒同士の凝集により、疑似的な大粒子として振る舞うため、フッ化イットリウムの粒子の凝集を解砕することができないと考えられる。
【0034】
1.電池の製造
[実施例1]
(1)正極の作製
金属ニッケルに対して、亜鉛3重量%、マグネシウム0.4重量%、コバルト1重量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸コバルトの混合水溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加し、反応中のpHを13~14に安定させて水酸化ニッケルを溶出させる。これを10倍量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥工程を経て水酸化ニッケル活物質を作製した。次に、当該活物質に10重量%の水酸化コバルトと0.5重量%の酸化イットリウムと40重量%のHPCディスパージョン液と0.3重量%の酸化亜鉛を混合して、活物質スラリーを作製した。この活物質スラリーを発泡ニッケルに充填し、乾燥後圧延して、所定のサイズで裁断し、正極を作製した。
【0035】
(2)負極の作製
平均粒子径MV=65μmの水素吸蔵合金の粉末100重量部に対して、ポリアクリル酸ナトリウム0.4重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)0.1重量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)の固形分50%のディスパージョン2.0重量部、ケッチェンブラック0.5重量部、平均粒子径=1μmのYF3粉末0.1重量部および水30重量部を加えて混練し、負極合剤のペーストを調製した。なお、水素吸蔵合金及びYF3については、所定の製造方法で作成されたインゴットを粉砕し、分級機を用いて篩分けを行うことにより、所望粒子径の水素吸蔵合金の粒子(平均粒径MV=65μm)及びYF3の粒子(平均粒子径=1μm)を得た。そして、このペーストを負極芯体として表面をニッケルめっきした鉄製の孔あき板の両面に均等に塗布した。ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板即ち負極芯体を更にロール圧延して、体積当たりの合金量を高め、所定のサイズで裁断し、負極を作製した。
【0036】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て、初期活性化処理
上記工程で作製した負極と正極を組み合わせ、セパレータ28と共に捲回し、NaOH、KOH、LiOH溶液で構成される電解液を所定量注液して、公称容量2000mAhのニッケル水素二次電池を作製した。その後、この電池を0.2Aでの16時間充電後に0.4Aで電池電圧が1.0Vになるまでの放電を5回繰返し、活性化を行った。
【0037】
[実施例2]
平均粒子径が3μmのフッ化イットリウム(YF3)を用いたこと以外は、実施例1の電池と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0038】
[実施例3]
平均粒子径が7μmのフッ化イットリウム(YF3)を用いたこと以外は、実施例1の電池と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0039】
[比較例1]
平均粒子径が0.8μmのフッ化イットリウム(YF3)を用いたこと以外は、実施例1の電池と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0040】
[比較例2]
負極合剤にフッ化イットリウム(YF3)を添加していないこと以外は、実施例1の電池と同様にしてニッケル水素二次電池を作製した。
【0041】
2.ニッケル水素二次電池の評価
[電池特性評価(サイクル試験)]
上記工程で作製した電池について、「充電:2A(ΔV=-10mV)、休止:20min、放電:2A(End V=1.0V)、休止:10min」の条件にてサイクル寿命評価を行った。なお、ΔV=-10mVとは、電池電圧が最大値に達した後、この最大値から10mV低下したときに充電を終了する、いわゆる-ΔV制御での充電(以下、単に-ΔV充電という)を意味する。上記条件での充放電を繰り返し、放電不可もしくは放電容量が1サイクル目の放電容量の60%を下回った点をサイクル寿命とした。
【0042】
図2に示すように、比較例1に対し、比較例2及び実施例1~3でサイクル寿命が向上していることが分かる。しかし、YF3の平均粒子径が0.8μmの比較例2及び当該平均粒子径が7μmの実施例3では、当該平均粒子径が1μmの実施例1及び当該平均粒子径が3μmの実施例2に対して、サイクル寿命が低下していることが分かる。これは、負極中において、YF3の分布が局在化しており、YF3が十分に分散していないためと考えられる。このように、サイクル寿命を向上させるためには、YF3の平均粒子径を1μm以上かつ3μm以下とすることが最適であることがわかる。
【0043】
[電池特性評価(低温放電試験)]
上記工程で作製した電池について、「充電:2A(-ΔV充電)、休止:1時間、放電:2A(End V=1.0V)、休止:1時間」のステップを25℃の環境下で3サイクル実施して電池の初期容量を測定した。その後、「充電:2A(-ΔV充電;25℃)、休止:3時間(-10℃)、放電:2A(End V=1.0V;-10℃)、休止:1時間(25℃)、放電:2A(25℃)、充電:2A(-ΔV充電;25℃)、休止:3時間(25℃)、放電:2A(End V=1.0V;25℃)」のステップにて放電容量を測定し、25℃放電容量と-10℃放電容量との比率を低温放電比率とした。
【0044】
図2に示すように、YF3を添加していない比較例1と比べて、YF3の平均粒子径が0.8μmの比較例2では低温放電比率が低下したのに対し、YF3の平均粒子径が1.0μmの実施例1、YF3の平均粒子径が3.0μmの実施例2、YF3の平均粒子径が7.0μmの実施例3では低温放電比率が向上していることが分かる。このように、低温放電特性を向上させるためには、YF3の平均粒子径を1μm以上かつ7μm以下とすることが最適であることがわかる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係るニッケル水素二次電池2に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。また、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0046】
2 ニッケル水素電池(アルカリ蓄電池)
22 渦状電極群(電極群)
24 正極
26 負極
28 セパレータ
図1
図2