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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182869
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】透明字消し用組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20221201BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20221201BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20221201BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20221201BHJP
   B43L 19/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L83/04
C08L71/02
C08K5/101
B43L19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090625
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】青木 優香
(72)【発明者】
【氏名】柴田 頼成
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD031
4J002CH023
4J002CP032
4J002EH126
4J002EZ017
4J002FD026
4J002FD037
4J002FD202
4J002FD203
4J002GC00
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】
消泡性に優れており且つ透明性に優れた字消しを提供可能な字消し用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン系の脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、を含む、透明字消し用組成物を提供する。前記組成物は、安息香酸エステル系の可塑剤を含み得る。前記組成物は、有機錫系安定剤を含み得る。前記組成物は、前記ポリシロキサン系の脱泡剤を、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部以下の量で含み得る。前記組成物は、前記ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤を、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上3.0質量部以下の量で含み得る。また、本発明は、硬化物も提供する。前記硬化物は、字消しとして用いられ得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂と、
ポリシロキサン系の脱泡剤と、
ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、
を含む、透明字消し用組成物。
【請求項2】
安息香酸エステル系の可塑剤をさらに含む、請求項1に記載の透明字消し用組成物。
【請求項3】
有機錫系安定剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の透明字消し用組成物。
【請求項4】
前記ポリシロキサン系の脱泡剤を、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部以下の量で含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の透明字消し用組成物。
【請求項5】
前記ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤を、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上3.0質量部以下の量で含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の透明字消し用組成物。
【請求項6】
プラスチゾル組成物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の透明字消し用組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の透明字消し用組成物の硬化物。
【請求項8】
字消しとして用いられる、請求項7に記載の硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明字消し用組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、字消しは、実用性とともに、形状や色彩等の意匠の観点から、様々な工夫がなされている。中でも、透明字消しに関しては、例えば意匠な観点から、高い需要がある。
【0003】
透明字消しに関して、例えば、下記特許文献1には、800~1500の平均重合度を有する塩化ビニル樹脂と、1.50以上の屈折率及び9.4~11.0の溶解パラメータを有する可塑剤とを含有する字消しが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-30708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
字消しに気泡が含まれることは字消しの品質や美的観点から望ましくなく、特に透明字消しにおいては、気泡が含まれることは許容されない。そのため、字消し用組成物の製造において脱泡工程が行われることがある。この脱泡工程において、十分に気泡が字消し用組成物から除去されることが必要であるが、そのためにはしばしば多くの時間を要し、これは例えば製造効率の観点から望ましくない。脱泡工程をより迅速に完了することができれば、製造効率を高めることができる。
より迅速に脱泡工程を完了するために、例えば脱泡剤や破泡剤などの消泡剤を添加することが考えられる。しかしながら、消泡剤の添加は、字消しの透明性を損なうことがある。
【0006】
そこで、本発明は、消泡性に優れており且つ透明性に優れた字消しを提供可能な字消し用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の組成によって、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン系の脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、を含む、透明字消し用組成物を提供する。
前記透明字消し用組成物は、安息香酸エステル系の可塑剤をさらに含み得る。
前記透明字消し用組成物は、有機錫系安定剤をさらに含み得る。
前記ポリシロキサン系の脱泡剤は、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部以下の量で含み得る。
前記ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤を、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上3.0質量部以下の量で含み得る。
また、前記透明字消し用組成物は、プラスチゾル組成物であり得る。
更に、本発明は、前記透明字消し用組成物の硬化物も提供する。前記硬化物は、字消しとして用いられ得る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の透明字消し用組成物は、消泡性及び透明性に優れている。本発明によって、字消し用組成物及び字消しの生産効率を高めつつ、且つ、透明性に優れた字消しを提供することができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。なお、本明細書において百分率は、特に断りのない限り、質量による表示である。
【0011】
本発明の透明字消し用組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン系の脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤とを含む。この組成によって、特には前記脱泡剤と前記破泡剤との組合せによって、前記組成物の消泡性が向上され、且つ、当該組成物を硬化して得られる硬化物の透明性が向上される。
以下で、本発明の組成物について、より詳細に説明する。
【0012】
(1)ポリ塩化ビニル樹脂
前記ポリ塩化ビニル樹脂は、CH―CHCl―で表される構造を有する合成樹脂である。前記ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単重合体のほか、例えば、塩化ビニルモノマーと該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0013】
前記塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーとして、具体的には、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、イソブチレン、アクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトリル、各種ビニルエーテル等が挙げられる。また、前記塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する他のモノマーは、これらの群から選ばれる1種又は2種以上が用いられていてもよい。
【0014】
また、前記ポリ塩化ビニル樹脂は、本発明において字消しの透明性と消字性を損なわない限りにおいて、ポリマーブレンドであってもよい。当該ポリマーブレンドとして、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン―酢酸ビニル共重合体、エチレン―アルキルアクリレート共重合体、エチレン―プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン―α―オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリペンテン、クロロポリエチレン、及びクロロポリプロピレン等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種又は2種以上が用いられ得る。
【0015】
前記ポリ塩化ビニル樹脂の好適な平均重合度は、例えば500以上、好ましくは700以上、より好ましくは800以上である。前記平均重合度は、例えば5000以下であってよく、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下である。
平均重合度がこのような数値範囲内にあることは、得られる字消しに適切な硬度及び十分な消字力をもたらすために好ましい。また、後述の可塑剤や安定剤等との混和性を向上させて、得られる字消しの透明性を高めるためにも好ましい。
【0016】
また、前記ポリ塩化ビニル樹脂は、K値(重合度)は、例えば40以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上である。また、前記K値は、例えば90以下、好ましくは80以下である。当該K値は、JIS K 7367-2に従い測定されてよい。
【0017】
本発明の透明字消し用組成物において、前記ポリ塩化ビニル樹脂は、好ましくはポリ塩化ビニル(塩化ビニルのホモポリマー)である。当該ホモポリマーは、可塑剤との混和が容易であり、かつ、高い消字性を備えた字消しを得るために好適である。
【0018】
前記ポリ塩化ビニル樹脂は、当技術分野で既知の製造方法によって製造されてよい。前記ポリ塩化ビニル樹脂は、例えば、乳化重合法、懸濁重合法または塊状重合法等の種々の重合法で製造したものを用いることができる。また、前記ポリ塩化ビニル樹脂は市販品を用いてもよい。
【0019】
前記ポリ塩化ビニル樹脂は、粒子の形状や粒子径等の特徴によって、ペースト塩化ビニル樹脂、サスペンジョン塩化ビニル樹脂、及びブレンド塩化ビニル樹脂に分類され得る。前記ポリ塩化ビニル樹脂は、ペースト塩化ビニル樹脂、サスペンジョン塩化ビニル樹脂、及びブレンド塩化ビニル樹脂のうちのいずれかであってよいが、好ましくはペースト塩化ビニル樹脂である。ペースト塩化ビニル樹脂は、流動性に優れ、成形しやすいため、製造のし易さの観点から好ましい。
【0020】
前記ペースト塩化ビニル樹脂は、粒子径が精密に制御された微粉末であってよい。前記ペースト塩化ビニル樹脂は、例えば可塑剤と混合することで流動性の良いペースト状になる。前記ペースト塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル粒子は、好ましくは球体であり、特には内部及び表面に空隙が少ない真球状であってよい。前記塩化ビニル樹脂中の一次粒子(粒子単体)の好適な粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、更により好ましくは2.5μm以下である。前記塩化ビニル樹脂中の一次粒子(粒子単体)の好適な粒子径は、例えば0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、更により好ましくは0.05μm以上であってよい。
【0021】
(2)脱泡剤
本発明の透明字消し用組成物に含まれる脱泡剤は、ポリシロキサン系の脱泡剤である。当該脱泡剤を、前記ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と組み合わせることによって、上記で述べたとおり消泡性及び透明性の向上が図られる。また、前記脱泡剤によって、硬化の進行によって流動性を失う前に、泡をより迅速に取り除くことができる。前記脱泡剤は、泡の表面への移動を促進する機能を有するものであり、当該移動促進のために用いられてよい。当該移動の促進のために、前記脱泡剤は、組成物の系内に存在する泡を合一させて大きくする機能を有してもよい。前記脱泡剤は、透明性や組成物に対する不相溶性と非溶解性の観点から、特にシロキサン結合からなる直鎖状ポリマーであるポリシロキサン系の脱泡剤が好適である。具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。また、組成物に対する適切な不相溶性や表面張力を得るために、前記ポリシロキサン結合の直鎖状のポリマーは、側鎖、末端に各種有機基を導入したものや、反応性を示すものを使用してもよい。
【0022】
前記脱泡剤の含有量は特に限定されないが、例えば、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上である。前記脱泡剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して例えば0.5質量部以下であってよく、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。前記含有量が、このような数値範囲内にあることが、消泡性及び透明性の向上のために好ましい。
【0023】
前記脱泡剤は、23℃における屈折率が1.0~2.0の範囲程度であるものから選択され得る。また、前記脱泡剤の23℃における屈折率は、透明性の観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上である。前記屈折率は、好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.6以下である。このような屈折率は、塩化ビニル樹脂の屈折率に近いため、透明性向上の観点から好ましい。
【0024】
(3)破泡剤
本発明の透明字消し用組成物に含まれる破泡剤は、アルキレングリコール誘導体を含む破泡剤である。当該破泡剤を、前記ポリシロキサン系の脱泡剤と組み合わせることによって、上記で述べた通りの破泡性及び透明性の向上が図られる。また、前記破泡剤によって、硬化の進行によって流動性を失う前に、泡をより迅速に取り除くことができる。前記破泡剤は、前記破泡剤は組成物の表面に発生した泡を不安定化させることにより消去することに用いられてよい。本発明で採用され得る破泡剤としては、例えば、高級アルコール、脂肪酸、アルキルフェノール等に由来する炭化水素基にEO(エチレンオキサイド)や、PO(プロピレンオキサイド)を付加させた活性剤系破泡剤が挙げられる。前記破泡剤は、透明性や操作性の観点から、特にアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤が好適である。具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸物エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸ジエステル等が挙げられる。
【0025】
前記アルキレングリコール誘導体を含む破泡剤の好適な曇点は、例えば0℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上である。前記破泡剤の好適な曇点は、例えば60℃以下、好ましくは50度以下、更に好ましくは30℃以下である。前記曇点がこのような数値範囲内にあることは、室温付近においてより強い破泡効果をもたらすために好ましい。このような曇点を有するアルキレングリコール誘導体含有破泡剤を選択することにより、本発明の組成物に関して透明性や操作性が向上する。
【0026】
前記破泡剤の含有量は、例えば、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0以上である。前記破泡剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して例えば5.0質量部以下であってよく、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下である。前記含有量が、このような数値範囲内にあることが、消泡性及び透明性の向上のために好ましい。
【0027】
(4)可塑剤
本発明の透明字消し用組成物は、さらに可塑剤を含んでよい。前記可塑剤は、好ましくは安息香酸エステル系である。当該可塑剤によって、前記ポリ塩化ビニル樹脂の加工性や製品特性を改善が図られる。また、前記透明字消し用組成物から得られる字消しに関して、適切な柔軟性と摩擦抵抗を付与することができる。
【0028】
前記可塑剤は、屈折率が1.0~2.0の範囲程度であるものから選択され得る。また、前記可塑剤の屈折率は、透明性の観点から、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上である。前記屈折率は、好ましくは2.0以下であり、より好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.6以下である。このような屈折率は、塩化ビニル樹脂の屈折率に近いため、透明性向上の観点から好ましい。また、前記屈折率が1.0未満であると、前記塩化ビニル樹脂との屈折率の差により、透明性が損なわれる可能性がある。
【0029】
また、前記可塑剤は、溶解パラメータ(sp値)が9.3~12.0の範囲程度であるものから選択され得る。また、前記可塑剤の溶解パラメータは、塩化ビニル樹脂との相溶性の観点から、好ましくは、9.4以上、より好ましくは9.5以上、より好ましくは9.6以上である。前記可塑剤の溶解パラメータは、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、より好ましくは10.0以下である。溶解パラメータが前記範囲内にあることによって、前記可塑剤の塩化ビニル樹脂との相溶性が向上し、これは透明性の向上に貢献する。
【0030】
本発明において採用し得る可塑剤としては、例えば、エポキシ系可塑剤、エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。特に、エステル系可塑剤としては、例えば、2―エチルヘキシルエステル、直鎖型アルキルエステル、イソノニルエステル、ジペンタエリスリトールエステル、アジピン酸系エステル、フタル酸系エステル、安息香酸系エステル、アセチルクエン酸トリブチル、アルキルスルホン酸系エステル、テレフタル酸オクチルエステル等が挙げられる。前記可塑剤は、上記透明性と相溶性の観点から、安息香酸エステル系可塑剤が好適である。
【0031】
前記可塑剤の含有量は、例えば、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、60質量部以上、好ましくは80質量部以上、より好ましくは100以上である。前記可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して例えば360質量部以下であってよく、好ましくは240質量部以下、より好ましくは200質量部以下である。このような数値範囲内の含有量は、透明性向上のために好ましい。
【0032】
(5)安定剤
本発明の透明字消し用組成物はさらに安定剤を含んでよい。本発明において採用し得る安定剤としては、例えば、有機錫系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤等が挙げられる。前記安定剤は、好ましくは有機錫系安定剤である。前記有機錫系安定剤は、前記塩化ビニル樹脂との相溶性の観点から好ましい。前記有機錫系安定剤としては、例えば、メチル錫メルカプタイド、ブチル錫マレート、オクチル錫メルカプタイド、オクチル錫マレート等を挙げることができ、前記有機錫系安定剤は、これらのうちの1つ又は2つ以上を含んでよい。前記有機錫系安定剤により、加工時の着色防止性、透明性、安定性が付与される。
【0033】
前記安定剤の含有量は、例えば、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。前記安定剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して例えば5.0質量部以下であってよく、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下である。このような数値範囲内の含有量は、透明性向上のために好ましい。
【0034】
(6)その他の成分
本発明において、上記の成分のほかに、透明性と消字性を損なわない限りにおいて、各種添加物を添加することができる。
前記添加物としては、例えば、軟化剤、酸化防止剤、研磨剤、充填剤、香料、着色剤、界面活性剤等が挙げられる。前記軟化剤としては、例えば、植物油、動物油、鉱物油、流動パラフィン、ポリブテン等が挙げられる。また、前記酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒンダートフェノール系酸化防止剤が挙げられる。また、前記着色剤としては、有機顔料、無機顔料、傾向顔料等の公知の顔料や、公知の染料等を用いることができるが、これらの例に限られない。
【0035】
(7)組成物の製造方法
本発明の透明字消し用組成物の製造法は、以下に示す方法を一例とすることができるが、これに特に限定されない。
【0036】
本発明の透明字消し用組成物の製造方法は、例えば以下の工程を含みうる。
(7)-1 ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン系脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、安息香酸エステル系の可塑剤と、有機錫系安定剤と、を混合することで混合物を得る混合工程;及び
(7)-2 前記混合工程において得られた前記混合物を減圧下で撹拌して脱泡する脱泡工程。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0037】
(7)-1 混合工程
ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン系脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、安息香酸エステル系の可塑剤と、有機錫系安定剤と、をミキサー等で混合し、混合物を得る。前記混合工程は、当技術分野で既知の撹拌装置により行われうる。また、前記混合工程における液温は、例えば10℃~50℃、好ましくは20℃~40℃、より好ましくは20~30℃でよいが、この範囲に限定されない。
【0038】
(7)-2 脱泡工程
前記混合工程において得られた前記混合物は、大気圧下で脱泡工程に付されてよく、又は、消泡を促進するために、減圧下で撹拌されてもよい。なお、本明細書において「減圧下」とは、例えば絶対圧力が10kPa以下であってもよく、好ましくは5kPa、さらに好ましくは2.5kPa以下である。また、前記脱泡工程は絶対真空下(0kPa)で行われてもよい。また、前記脱泡工程における液温は、例えば10℃~50℃、好ましくは20℃~40℃、より好ましくは20~30℃でよいが、この範囲に限定されない。
【0039】
(8)透明字消し用組成物の物性及び使用方法
本発明の透明字消し用組成物は、ゾル状態にあってよく、好ましくはプラスチゾル組成物である。プラスチゾル組成物は、所望の形状を有する型に注入しやすく、字消しの製造し易さの観点から好ましい。前記プラスチゾル組成物の23±2℃における粘度は、例えば50mPa・s~10,000mPa・s、好ましくは500mPa・s~5,000mPa・sであってよい。
本発明の透明字消し用組成物は、硬化させることによって字消しとして使用することができる。当該字消しは、後述のとおり、鉛筆、シャープペン、フリクションボールペン(例えば可逆熱変色性インクを用いたボールペン)等の筆跡を消すために用いられてよい。
【0040】
また、当該字消しの消字性に関しては、消字率によって評価され得る。消字率E(%)は、摩消部の濃度Mと着色部の濃度Cの値から、下記の数式1によって算出される。当該M及びCの値は、JIS S 6050に従い測定されてよい。
【0041】
【数1】
【0042】
本発明の透明字消し用組成物から得られる透明字消しの消字率は、例えば、60%~100%、好ましくは70%~100%、さらに好ましくは80%~100%であってよい。
【0043】
(9)透明字消し用組成物の硬化方法
本発明の透明字消し用組成物の硬化物は、前記組成物を加熱溶融し、成形することによって得られる。前記成形の方法としては、例えば、射出成形、押出成形、熱板によるプレス成形が挙げられる。
本発明の透明字消し用組成物の硬化物においては、前記組成物(特にはゾル状態の組成物、より特にはプラスチゾル組成物)を所定の型に注入し、当該型に入れられた状態で加熱して硬化させてもよい。本発明においては、以下に示す方法を一例とすることができるが、これに限定されない。
【0044】
前記硬化のために適用される温度は、例えば100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。前記温度は、例えば200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。
前記温度に維持される時間は、例えば3分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。前記時間は、例えば30分以下、好ましくは20分以下、より好ましくは15分以下である。
本発明の組成物は、このような温度及び/又は時間の加熱工程に付されて硬化されるために用いられる。
また、本発明の透明字消し用組成物の硬化物は、硬化後に裁断工程に付されてもよい。当該裁断工程において、硬化物は、所望の形状へと裁断されうる。当該形状は、当業者により適宜選択されてよい。裁断するための手段として、当技術分野で既知の装置が使用されてよく、例えばレバー式裁断カッター、ディスクカッター、又は電動のこぎりが採用されてよいがこれらに限定されない。
【0045】
(10)硬化物の使用方法
前記硬化方法によって得られた硬化物は、字消しとして使用することができる。例えば、鉛筆やボールペンの筆跡を、前記字消しで擦ることにより消去することができる。
【0046】
(11)硬化物の物性
本発明の透明字消し用組成物を硬化することによって得られた硬化物は、優れた透明性を示す。この透明性については以下に示す物性により評価されうる。
【0047】
(11)-1 ヘイズ値
ヘイズ値は、プラスチックやガラス等の材料の透明性を表す指標として用いられる。
前記ヘイズ値は、既知の測定機器において測定される『全光線透過率(Tt)』と『平行線透過率(Pt)』の値から下記の数式2で算出される。
【0048】
【数2】
【0049】
本発明の透明字消し用組成物を1.5mmの厚みで堆積させ、そして、180℃で90秒間加熱することにより硬化させて硬化物を得た。得られた硬化物のヘイズ値は、好ましくは25以下であり、より好ましくは20以下である。このようなヘイズ値を有する硬化物をもたらす組成物は、透明字消しを製造するために適している。
【0050】
以下、実験例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実験例は本発明の代表例であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0051】
1.透明字消し用組成物の調製
【0052】
(実験例1)
(1)混合工程
塩化ビニル樹脂としてR―860(東ソー社製、平均重合度1600)100質量部と、可塑剤としてPN-6122(ADEKA社製)120質量部と、安定剤としてSTX―80(大協化成社製)1質量部と、をブレンダー内で撹拌して、プラスチゾル組成物である混合物1を得た。
【0053】
(2)消泡工程
上記(1)で得られた混合物1を、デシケーターを用いて減圧下(0.1kPa)で脱泡を行い、目的の透明字消し用組成物1を得た。
【0054】
(実験例2)
脱泡剤としてBYK―3105(BYK社製)0.02質量部を添加したこと以外は、前記実験例1と同じ方法で、混合物2および目的の透明字消し用組成物2を得た。
【0055】
(実験例3)
破泡剤としてディスホームCD―432(日油社製)1質量部を添加したこと以外は、前記実験例1と同じ方法で、混合物3および目的の透明字消し用組成物3を得た。
【0056】
(実験例4)
脱泡剤としてBYK―3105(BYK社製)0.02質量部と、破泡剤としてディスホームCD―432(日油社製)1質量部を添加したこと以外は、前記実験例1と同じ方法で、混合物4および目的の透明字消し用組成物4を得た。
【0057】
(実験例5)
破泡剤として、ディスパロンP―450(楠本化成社製)1質量部を添加したこと以外は、前記実験例2と同じ方法で、混合物5および目的の透明字消し用組成物5を得た。
【0058】
(実験例6)
破泡剤として、サーフィノールDF―58(日信化学社製)1質量部を添加したこと以外は前記実験例2と同じ方法で、混合物6および目的の透明字消し用組成物6を得た。
【0059】
2.透明字消し用組成物の硬化物の調製
【0060】
前記実験例1~6において得られた透明字消し用組成物1~4を金型に入れて、180℃にて90秒間加熱して硬化(ゲル化)させた。金型を冷却した後、硬化物を金型から取り出し、硬化物サンプル1~6を得た。前記硬化物サンプル1~6は、1.5mmの厚みとなるように前記金型に流し込み、硬化させた。
【0061】
実験例1~6で得られた透明字消し用組成物1~6及び硬化物サンプル1~6について、それぞれ以下の評価を行った。
【0062】
1.消泡性評価
【0063】
1-1 所要時間の評価
前記混合物1~6について、各混合物80gを脱泡したとき、泡の発生がなくなり液面の高さが元に戻るまでの時間を計測した。
【0064】
1-2 泡の数による評価
前記硬化物サンプル1~6について、サンプル内に残存する気泡の数を計測した。
【0065】
2.透明性評価
【0066】
2―1 HAZE値による評価
1.5mm厚の前記硬化物サンプル1~6について、HAZE値を測定した。測定条件については以下のとおりである。
【0067】
上記の方法により測定したヘイズ値によって、以下に示す3段階評価によって、前記硬化物サンプル1~6の透明性を評価した。
A:HAZE値が25以下
B:HAZE値が25超50以下
C:HAZE値が50超
【0068】
各実験例の組成及び各評価の結果を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実験例1~6の結果から、ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン系の脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、を含む透明字消し用組成物は、優れた消泡性を有し、かつ、透明性を示すことがわかった。
【0071】
実験例2及び3は、実験例1の組成物に対して、ポリシロキサン構造を有する脱泡剤、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤をそれぞれ単独で添加した組成である。ここで、実験例2は実験例1と比較して、脱泡の所要時間が1分58秒短縮され、前記硬化物サンプル2の気泡も全て消去された。また、実験例3は実験例1と比較して、脱泡時間が48秒短縮されたが、前記硬化物サンプル3の気泡は6個残存した。
【0072】
一方、実験例4は、実験例2及び3で添加した、ポリシロキサン構造を有する脱泡剤、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤を両方添加した実験例である。実験例4の評価においては実験例1と比較して、脱泡の所要時間が3分28秒と大幅に短縮し、前記硬化物サンプル4の気泡はすべて消去されていた。このことから、実験例2、3と実験例4との比較により、ポリシロキサン構造を有する脱泡剤及びポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤を併用することにより、極めて優れた消泡効果が得られることが分かる。また、透明性の評価は、HAZE値による評価がAであった。
【0073】
以上より、ポリ塩化ビニル樹脂と、ポリシロキサン構造を有する脱泡剤と、ポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤と、を含む透明字消し用組成物は、優れた透明性を有するとともに、優れた消泡性によって生産効率を改善することができる。
【0074】
また、実験例5及び6は、実験例1に対しポリシロキサン構造を有する脱泡剤及び破泡剤を併用した実験例である。しかし、実験例5で使用される前記破泡剤は特殊ビニル系重合物を主成分とする破泡剤であり、実験例6で使用される前記破泡剤は、アセチレン基を中央に有し、左右対称の構造をした非イオン性界面活性剤である。
【0075】
実験例5の評価においては、実験例1と比較して脱泡の所要時間が3分33秒と大幅に短縮し、前記硬化物サンプル5の気泡はすべて消去されていた。しかし、HAZE値による評価が下がり、透明性が損なわれた。また、実験例6に関しては、実験例1と比較して脱泡の所要時間が12秒長くなり、前記硬化物サンプル6の気泡は2個残存した。また、透明性は維持されているものの、実験例1と比較してHAZE値の評価が下がった。
【0076】
実験例4と、実験例5及び6との結果から、併用されうる脱泡剤と破泡剤に関しては、その種類が重要であることも分かる。つまり、ポリシロキサン系の脱泡剤及びポリアルキレングリコール誘導体を含む破泡剤の組合せは、優れた透明性をもたらすために重要であることも分かる。
【0077】
3.透明字消しの製造
実験例4の組成物を硬化させて10mmの厚みの透明字消しを作成した。当該透明字消しについて目視評価を行ったところ、透明であった。すなわち、本発明の透明字消し用組成物によって、透明な字消しを製造できることが確認された。