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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182871
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】全固体電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20221201BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221201BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090642
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】尹 龍燮
(72)【発明者】
【氏名】土屋 元
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 浩成
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM12
5H029BJ04
5H029CJ03
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029EJ07
5H029HJ15
(57)【要約】
【課題】負極活物質層より小さい正極活物質層の上面及び側面に固体電解質層を形成後、予備プレスした負極と積層して最終プレスすることにより内部短絡を防止する全固体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による全固体電池の製造方法は、負極集電体の両面に、負極集電体より小さい負極活物質層と、両面の負極活物質層及び外周に露出する負極集電体を覆う固体電解質層を形成して対称性の電極構造を形成する段階と、対称性の電極構造を最終プレス圧よりも低い予備プレス圧でプレスして負極を形成する段階と、正極集電体の一方の面上に正極集電体より小さく、外周に正極集電体が露出するように正極活物質層を形成後、正極活物質層及び外周の正極集電体を覆う固体電解質層を形成して負極と同一の平面形状を有する正極を形成する段階と、負極の両面に正極の固体電解質層が負極と対向するように正極を積層後、最終プレス圧にてプレスする段階とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体の両面に負極集電体より小さく、外周に前記負極集電体が露出するように負極活物質層を形成し、前記両面の負極活物質層をそれぞれ覆うように固体電解質層をさらに形成して対称性の電極構造を形成する段階と、
前記対称性の電極構造を最終プレス圧よりも低い予備プレス圧でプレスして負極を形成する段階と、
正極集電体の一方の面上に前記正極集電体より小さく、外周に前記正極集電体が露出するように正極活物質層を形成し、前記正極活物質層及び前記外周の前記正極集電体を覆うように固体電解質層をさらに形成して前記負極と同一の平面形状を有する正極を形成する段階と、
前記負極の両面に前記正極の固体電解質層が前記負極と対向するように2つの前記正極を積層後、最終プレス圧にてプレスする段階とを有することを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記正極を形成する段階は、前記正極集電体の他方の面に予め樹脂シートを貼り付ける段階を含み、
前記最終プレス圧でプレスする段階は、前記負極の両面に位置するそれぞれの前記正極の樹脂シートを介してプレスすることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
前記最終プレス圧にてプレスする段階で使用するプレス金型の上型及び下型のそれぞれにおいて、前記積層後の正極と負極を収容する凹部の外周壁上に弾性体を設けることによりプレス時における前記積層後の正極と負極の側面方向の変形を防止することを特徴とする請求項2に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
負極集電体と、前記負極集電体の両面に負極集電体より小さく、外周に前記負極集電体が露出するように形成された負極活物質層と、前記負極活物質層及び前記外周の負極集電体を覆うように形成された固体電解質層とを備える負極と、
正極集電体と、前記正極集電体の一面上に前記正極集電体より小さく外周に前記正極集電体が露出するように形成された正極活物質層と、前記正極活物質層及び前記外周の正極集電体を覆うように形成された固体電解質層とを備え、前記負極と同一の平面形状を有する正極とを有し、
前記負極の両面にそれぞれ前記正極の固体電解質層が前記負極と対向するように前記正極を積層してプレスすることにより形成される積層構造を有することを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池及びその製造方法に関し、特に負極活物質層より小さい正極活物質層の上面及び側面に固体電解質層を形成後、予備プレスした負極と積層して最終プレスすることにより内部短絡を防止する全固体電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、自動車用の蓄電池を含め世の中に広く普及し、高容量で小型軽量な二次電池として多くの分野で欠くことのできない存在となっている。しかし一方で現在流通しているリチウムイオン電池は、電解質として非水溶液系電解質を使用するため、使用法によっては発火や爆発の危険性があるという欠点があり、この欠点を本質的に対策するため、電解質として固体の電解質を使用する全固体電池の開発が急がれている。
【0003】
全固体電池は、製造方法としてバルク型全固体電池の場合、主に粉体の材料を使用し、正極となる正極活物質層、負極となる負極活物質層及び正極と負極の間に位置する固体電解質層を積層させた後、高い圧力でプレス成型して積層構造体を形成する方法が主に検討されている。
正極活物質層と負極活物質層の端面が露出している場合、積層構造体のプレス成型時に、外周部が伸びたり崩れたりして変形が生じた結果、正極活物質層と負極活物質層の端部が接触して短絡する可能性が高くなる。また負極活物質層の外周部が伸びて変形した全固体電池は、充電時に負極端部にリチウムが析出しやすく、さらに短絡が発生する可能性が高くなる。そこで正極活物質層と負極活物質層の大きさを変え、端部での短絡を防止する対策がとられている。
【0004】
正極活物質層と負極活物質層の大きさを変えて積層構造体を形成してプレスする場合、以下のような課題が挙げられる。正極活物質層と負極活物質層のいずれか小さい方の電極、例えば正極活物質層が負極活物質層より小さい場合、プレスにより正極活物質層の外周部が変形しやすくなり、崩れてしまうと崩れた部分の電極層は有効に使用することができず、有効な活物質層の面積が低下し、電池の性能不足になるおそれがある。また、一般に負極活物質としてグラファイトなどが使用される負極活物質層は正極活物質層に比べて柔らかいため、プレス時に正極活物質層が固体電解質層を破断させて負極活物質層に食い込み、正極活物質層の端部と負極活物質層が接触して短絡するおそれがある。
正極活物質層の外周部が崩れて有効面積が低下してしまう問題に対しては特許文献1のような対策も考えられている。
【0005】
特許文献1には、正極層、固体電解質層、及び負極層を含む全固体電池の製造方法であって、正極層及び負極層のうち小さい方の電極層の外周部が中央部よりも厚い形状を有するように形成することで、プレス後に均一な緻密度及び厚みの電極層を形成して短絡を防止する全固体電池の製造方法が開示されている。しかし、小さい方の電極層の外周部を厚く形成することでその分さらに外周部への広がりが発生しやすく、大きい方の電極層の端部と接近すれば短絡のおそれが生じるため、正極層及び負極層の寸法差を大きくとる必要がある。
【0006】
また特許文献2には、正極層、固体電解質層、及び負極層を含む全固体電池の製造方法であって、正極層及び負極層のうち、大きい方の電極層の外周部が、中央部より圧縮されるようにプレスしてから小さい方の電極層と積層してプレスすることで、小さい方の電極層の端部が大きい方の電極層に食い込むのを防止する全固体電池の製造方法が開示されている。特許文献2によれば、プレスの初期段階で小さい方の電極層の端部は、大きい方の電極層上の固体電解質層に直接接触しないので、小さい方の電極層による大きい方の電極層への食い込みは低減できるが、始めに大きい方の電極層への不均一なプレスを行い、最終的には小さい方の電極層を積層してさらにプレスして平坦に仕上げることから、プレス圧の制御を厳密に行わないと、全体的に不均一な密度となるおそれがある。
そこで、大きさの異なる正極活物質層と負極活物質層を、固体電解質層を挟んで積層後に高圧でプレスしても短絡の発生が抑制される全固体電池及びその製造方法の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-127643号公報
【特許文献2】特開2014-127272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の全固体電池における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、負極活物質層より小さい正極活物質層の上面及び側面に固体電解質層を形成後、予備プレスした負極と積層して最終プレスすることにより内部短絡を防止する全固体電池及びその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明による全固体電池の製造方法は、負極集電体の両面に負極集電体より小さく、外周に前記負極集電体が露出するように負極活物質層を形成し、前記両面の負極活物質層をそれぞれ覆うように固体電解質層をさらに形成して対称性の電極構造を形成する段階と、前記対称性の電極構造を最終プレス圧よりも低い予備プレス圧でプレスして負極を形成する段階と、正極集電体の一方の面上に前記正極集電体より小さく、外周に前記正極集電体が露出するように正極活物質層を形成し、前記正極活物質層及び前記外周の前記正極集電体を覆うように固体電解質層をさらに形成して前記負極と同一の平面形状を有する正極を形成する段階と、前記負極の両面に前記正極の固体電解質層が前記負極と対向するように2つの前記正極を積層後、最終プレス圧にてプレスする段階とを有することを特徴とする。
【0010】
前記正極を形成する段階は、前記正極集電体の他方の面に予め樹脂シートを貼り付ける段階を含み、前記最終プレス圧でプレスする段階は、前記負極の両面に位置するそれぞれの前記正極の樹脂シートを介してプレスすることが好ましい。
前記最終プレス圧にてプレスする段階で使用するプレス金型の上型及び下型のそれぞれにおいて、前記積層後の正極と負極を収容する凹部の外周壁上に弾性体を設けることによりプレス時における前記積層後の正極と負極の側面方向の変形を防止することが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明による全固体電池は、負極集電体と、前記負極集電体の両面に負極集電体より小さく、外周に前記負極集電体が露出するように形成された負極活物質層と、前記負極活物質層及び前記外周の負極集電体を覆うように形成された固体電解質層とを備える負極と、正極集電体と、前記正極集電体の一面上に前記正極集電体より小さく外周に前記正極集電体が露出するように形成された正極活物質層と、前記正極活物質層及び前記外周の正極集電体を覆うように形成された固体電解質層とを備え、前記負極と同一の平面形状を有する正極とを有し、前記負極の両面にそれぞれ前記正極の固体電解質層が前記負極と対向するように前記正極を積層してプレスすることにより形成される積層構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る全固体電池によれば、正極活物質層と負極活物質層はいずれも表面を固体電解質層で覆われ、また負極活物質層より小さい正極活物質層の外周部も固体電解質層で覆われるため、正極活物質層と負極活物質層の積層後の最終プレスにおいて、正極活物質層や負極活物質層の端部が変形して短絡が発生するのを防止することができる。また、正極活物質層の周りが固体電解質層で覆われることにより、正極活物質層と負極活物質層とは同じ大きさの平面同士での接触となるため、小さい方の正極活物質層の端部が大きい方の負極活物質層に過大な集中応力を生じさせることがなくなり、正極活物質層の食い込みによる負極活物質層との短絡発生を防止することが可能となる。
【0013】
本発明に係る全固体電池の製造方法によれば、負極集電体の両面に負極活物質層と、さらに負極活物質層の上に固体電解質層を形成してから最終プレス圧よりも低い予備プレス圧でプレスして負極を形成し、正極活物質層より柔らかい負極活物質層の密度を高めた上で正極活物質層と積層して最終プレスするので、負極活物質層への正極活物質層の食い込みを抑制することが可能となる。また最終プレス後の積層構造は対称性を有するため反りの発生が抑制された全固体電池を提供することができる。
【0014】
また本発明に係る全固体電池の製造方法によれば、正極集電体のプレス金型に当接する面に樹脂シートを貼り付けてから最終プレスを行うため、最終プレス時の圧力分布均等化が実現でき、正極活物質層や負極活物質層の端部割れを防止し、性能を確保した全固体電池を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態による全固体電池の製造方法を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施形態による全固体電池の負極の製造方法を概略的に示す図である。
図3】本発明の実施形態による全固体電池の正極の製造方法を概略的に示す図である。
図4】従来技術による全固体電池の製造方法の課題を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態による全固体電池の負極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の実施形態による全固体電池の正極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の実施形態による全固体電池の積層構造を形成する方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係る全固体電池及びその製造方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態による全固体電池の製造方法を概略的に示す図である。
図1を参照すると、最終的な積層プレスを行う前の負極10と正極20の構造、及び負極10と2つの正極20を、正極20/負極10/正極20の順に積層してプレス金型30にて最終的な積層プレスを行う状態が示される。図1の詳細を説明する前に、図4を参照して従来技術の積層プレスに伴う課題を簡単に説明する。
【0017】
図4は、従来技術による全固体電池の製造方法の課題を説明するための図である。
図4を参照すると、負極集電体11の一面上に負極活物質層12と固体電解質層13とをこの順に形成した負極10の上に、負極10より小さい正極集電体21の一面上に正極活物質層22を形成した正極20を、正極活物質層22を固体電解質層13に対向させて重ね合わせた上、500MPaの圧力でプレスして電極の積層構造が形成される状況が示される。このようなプレスにおいては、図4(a)及び(b)に示すような負極10と正極20の接触による短絡が発生するおそれがある。
【0018】
図4(a)は、プレスによって正極20の正極活物質層22が外周方向に延伸し、一方負極10の負極活物質層12も外周方向に延伸したものが固体電解質層13の側方に押し広がり、固体電解質層13の外周部近傍で短絡が発生するモードである。
図4(b)は、負極10より一回り小さい正極活物質層22からのプレス時の圧縮応力により、正極活物質層22端部に接する固体電解質層13が破断し、正極活物質層22が負極活物質層12に食い込み、正極活物質層22と負極活物質層12との間で短絡に至るモードである。これはLiNi1/3Co1/3Mn1/3などの酸化物に代表される正極活物質層22に比べて負極活物質層12に使用されるグラファイトが柔らかいことに起因する。
【0019】
再び図1を参照すると、上記従来技術による短絡の課題を防止するため、本発明の実施形態による全固体電池の正極20は、正極集電体21と、正極集電体21の一面上に正極集電体21より小さく外周に正極集電体21が露出するように形成された正極活物質層22と、正極活物質層22及び正極活物質層22の外周に露出する正極集電体21を覆うように形成された固体電解質層23とを備える。これにより正極活物質層22の上面と側面は固体電解質層23で覆われ、正極活物質層22は外部に露出することがない。正極活物質層22の側方は固体電解質層23で埋められているため、正極20と負極10とを組み合わせて高圧力で最終プレスする際、図4(a)で示すような正極活物質層22が外周方向に延伸するのを防止することができる。
【0020】
また、正極20の、正極活物質層22が形成されない面には、樹脂シート24が貼り付けられる。この面は最終プレスの際にプレス金型30の凹部33の底面に当接する面であり、樹脂シート24により最終プレス時の圧力分布が均等化され、正極活物質層22の端部の割れが防止されるという効果を奏する。
【0021】
一方、本発明の実施形態による全固体電池の負極10は、負極集電体11と、負極集電体11の両面上にそれぞれ形成された負極活物質層12と、それぞれの負極活物質層12の上面にさらに形成された固体電解質層13とを備える。このように負極集電体11を中心に対称性の電極構造を形成するが、実施形態ではこの状態で電極の最終的な積層構造を形成するための最終プレス圧よりも低い圧力で予備プレスを行い、正極活物質層22より柔らかい負極活物質層12の高密度化を行う。一実施形態では、最終プレス圧は500MPaであり、予備プレスの圧力は100MPaである。最終プレス圧500MPa、予備プレスの圧力100MPaの組み合わせは1つの例であって、予備プレスの圧力が最終プレス圧よりも低ければ、それぞれの圧力の値はこれに限らない。予備プレスを行うことにより、図4(b)で示すような負極活物質層12への正極活物質層22の食い込みを抑制することができる。
【0022】
上記の様な構造を有する正極20と負極10とを組み合わせて、全固体電池の電極を形成するが、本発明の実施形態では負極10の両面に、正極20の固体電解質層23が負極10と対向するように正極20を積層後、プレス金型30内で最終プレス圧にてプレスを行う。このように負極10の両側に正極20を配置して対称性を持たせる積層構造とすることで、最終プレス後の反りを抑えることができる。
【0023】
実施形態では正極集電体21と、負極集電体11とは厚さは異なっていてもよいが、平面的には同一の外形形状である。正極集電体21上の正極活物質層22は、正極集電体21よりは小さく形成されるものの、正極活物質層22の上面及び側面が固体電解質層23で覆われるため、正極20の上面は負極10の上面と同じ形状の平面を備えている。これにより正極20と負極10とを対向させて積層する際、同じ形状の平面同士を当接することになる。このため最終プレス圧を加えても正極活物質層22の端部に集中的な応力が発生しにくく、結果的に負極活物質層12への正極活物質層22の食い込みを抑制することができる。
【0024】
さらに、実施形態では、最終プレスに使用するプレス金型30の上型31及び下型32のそれぞれにおいて、積層後の正極20と負極10を収容する凹部33の外周壁34上に弾性体35を設ける。これにより最終プレス時における積層後の正極20と負極10の側面方向の変形を防止する。弾性体35は最終プレスの型締めの際、積層後の正極20と負極10の側面方向の変形を抑制すると同時にプレス金型30の圧力が積層後の両電極に正しく加わるように、高さと弾性を調整又は選定して使用する。また、プレス金型は、積層構造体が接触する箇所に、樹脂コーティングをすることが好ましい。
【0025】
次に負極10、正極20のそれぞれの製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態による全固体電池の負極の製造方法を概略的に示す図である。図2は、図2(a)から図2(f)に向かって負極の製造工程の進行に伴う構造の変化を示す図である。
【0026】
図2(a)は、ベースとなる負極集電体11を示す。負極集電体11としては銅が多く用いられるが、ステンレスやニッケルなどを使用してもよい。負極集電体11は平板状であり、平面形状は矩形で示すが、最終的に正極20と同一の平面形状となればよいので、円形など他の形状であっても構わない。
【0027】
図2(b)は、負極集電体11の両面に負極活物質層12を形成した状態を示す。実施形態では負極活物質層12の材料としてグラファイトを使用する。負極活物質層12は負極集電体11の全面に均一に形成してもよいが、一実施形態では負極集電体11の両面に形成するため、負極集電体11を固定したり反転したりしやすいように、負極集電体11の外周を残して負極活物質層12を形成する。
【0028】
図2(c)は、両面の負極活物質層12をそれぞれ覆うように固体電解質層13をさらに形成し、対称性の電極構造を形成した状態を示す。固体電解質層13に使用する電解質としてはLiS-P、LiS-B、LiS-SiS、LiS-GeS等の硫化物系固体電解質やLiO-B-P、LiO-SiO等の酸化物系非晶質固体電解質の他、LiLaZr12のような結晶質酸化物などが一般的に使用される。本発明の実施形態による全固体電池の製造方法では、特に固体電解質層13に使用する電解質に制約はなく、全固体電池に一般的に使用される様々な材料が使用可能である。
【0029】
図2(d)は、図2(c)で形成した対称性の電極構造を、最終プレス圧よりも低い予備プレス圧でプレスする状態を示す。予備プレスにはプレス金型を使用するが、図2(c)ではプレス金型は省略して示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1は、本発明の実施形態で負極活物質層12、正極活物質層22に主に使用する負極活物質、正極活物質の素材及びその素材のモース硬度を示す表である。負極活物質であるグラファイトのモース硬度が1~2であるのに対し、正極活物質の素材のモース硬度は6~8と高い値を有する。このため同じように形成した負極活物質層12と正極活物質層22とを積層してプレスすると、負極活物質層12がより大きく変形する。そのため、正極活物質層22を負極活物質層12より小さく形成した場合、負極活物質層12は、正極活物質層22が対向した部分が集中的に圧縮されることになる。このような不均一な圧縮は、正極活物質層22が負極活物質層12と正極活物質層22の間に介在する固体電解質層13を破断させ、負極活物質層12に食い込む要因となる。
【0032】
予備プレスはこうした不具合を防止するためのものであり、最終プレス圧500MPaより低い、例えば100MPaでプレスを行う。予備プレスにより負極活物質層12が高密度化されるため、最終プレス時の変形が低減し、固体電解質層13の破断及び正極活物質層22の負極活物質層12への食い込みが抑制される。予備プレスの圧力は高い程、正極活物質層22の食い込みの防止効果は向上するが、あまり予備プレスの圧力を高くすると、固体電解質層13が高密度化されて硬くなりすぎ、最終プレス時に正極活物質層側に形成した固体電解質層23との密着性が低下してしまうため、予備プレスの圧力は100MPa以下が望ましい。
【0033】
図2(e)は、予備プレス後の負極10の端部を取り除くように打ち抜きを行う状態を示す。最終プレス程高い圧力ではないが、予備プレスによって負極10の外周に位置する端部は変形しやすい。そこで負極活物質層12、固体電解質層13が平面形状を保ったまま均一に圧縮される中央部分を打ち抜いて使用する。このとき負極活物質層12の側面に固体電解質層13が残るような位置で打ち抜く。その結果図2(f)に示す形状に負極10が作製される。
【0034】
図3は、本発明の実施形態による全固体電池の正極の製造方法を概略的に示す図である。図3は、図3(a)から図3(e)に向かって正極の製造工程の進行に伴う構造の変化を示す図である。
【0035】
図3(a)は、ベースとなる正極集電体21の一面に樹脂シート24を貼り付けた状態を示す。正極集電体21も平板状の形状を有する。正極集電体21としてはアルミニウムが多く用いられるが、ステンレスやニッケルなどを使用してもよい。
正極20の正極活物質層22に使用する酸化物粒子からなる正極活物質は、表1に示すように負極活物質より硬く、最終プレス時に圧力分布が不均一になりやすい。樹脂シート24は、最終プレスの際、正極20に加わる圧力分布を均一化するためのものであり、そのために適切な弾性が求められる。また、正極活物質層22の形成時に乾燥工程が含まれる場合があるため、耐熱性も求められる。
【0036】
表2は、樹脂シート24に使用することが可能な樹脂素材のヤング率と耐熱温度を示す。
最終プレス圧500MPaに対して圧力分布を均一化するのに好適な特性は、ヤング率Eとしては1.5≦E≦3.5の範囲であることが好ましく、耐熱温度としては100℃以上であることが好ましい。この条件を考慮すると、樹脂シート24には、表2に示す樹脂素材のうち、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートのいずれかが好ましい。
【0037】
【表2】
【0038】
図3(b)は、正極集電体21の樹脂シート24を貼り付けていない面上に、正極集電体21より小さく、外周に正極集電体21が露出するように正極活物質層22を形成した状態を示す。正極活物質層22に使用する正極活物質は、表1に示したようにLiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.90Co0.07Al0.03などである。
【0039】
図3(c)は、正極活物質層22及び外周に露出する正極集電体21を覆うように固体電解質層23をさらに形成した状態を示す。固体電解質層23は、最終プレス時に負極10の固体電解質層13に対向して積層されてプレスされることで一体化された電解質層となる。そのため固体電解質層23は、固体電解質層13と同一の素材を使用してもよいし、適時正極活物質層22および負極活物質層12それぞれに最適な素材を使用してもよい。
【0040】
図3(d)は、端部を切断して除去する状態を示す。端部の切断は外周に有る不完全部分を除去するとともに、負極10の平面形状と合わせるために行う。
【0041】
図3(e)は切断の結果得られた正極20の構造を示す。正極活物質層22は正極集電体21より小さいものの、正極活物質層22の上面と側面が固体電解質層23で覆われるため、正極20の上面は全面が平坦な面として形成される。
【0042】
図5は、本発明の実施形態による全固体電池の負極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5を参照すると、段階S500にて、平板形状の負極集電体11の両面に外周を除き負極活物質層12を形成する。負極活物質層12の形成方法自体は特に制約はないが、実施形態では負極活物質としてのグラファイト、固体電解質、バインダ等を含有するペーストを塗布、乾燥させて負極活物質層12を形成する。
【0043】
次いで負極集電体11の両面の負極活物質層12の上に、それぞれ固体電解質層13を形成して対称性の電極構造を形成する(段落S510)。固体電解質層13の形成方法も特に制約はないが、実施形態では固体電解質を含有するペーストを塗布、乾燥させて固体電解質層13を形成する。
【0044】
対称性の電極構造は、両面に硬度の低いグラファイトの負極活物質層12を含み、正極20と組み合わせた後の最終プレスの際、不均一な圧縮力が加わるとその影響が顕在化しやすい。そこで、段落S520にて最終プレス圧より低い圧力で予備プレスを行う。
最後に段階S530にて、予備プレス後の電極構造から、不均質な周辺部分を除き、中央部の均質な積層体を取り出すように打ち抜きを行い、最終プレスに使用する負極10を形成する。
【0045】
図6は、本発明の実施形態による全固体電池の正極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6を参照すると、段階S600にて、正極集電体21の一面上に樹脂シート24を貼り付ける。樹脂シート24は、最終プレス時に電極の積層構造に均一に圧力を加えるためのものであり、最終プレス後は不要で剥離するものであるので、樹脂シート24の貼付けには耐熱性があり、のり残りのしにくい粘着剤などを使用する。
【0046】
次に正極集電体21の他面、即ち樹脂シート24を貼り付けていない面上に、正極集電体21の外周を除き正極活物質層22を形成する(段階S610)。正極活物質層22の形成方法には特に制約はないが、実施形態ではLiCoOなどの正極活物質、カーボンなどの導電材、固体電解質、バインダ等を含有するペーストを塗布、乾燥させて正極活物質層22を形成する。
【0047】
正極活物質層22の上面及び正極活物質層22の外周に露出する正極集電体21の上面にさらに固体電解質層23を形成する(段階S620)。この結果、正極活物質層22の上面及び側面は固体電解質層23で覆われる。固体電解質層23は固体電解質層13と同一の組成の材料を使用することができ、固体電解質層23の形成方法は、固体電解質層13の形成方法と同一である。
最後に段階S630にて負極10と同じ平面形状を有するように、端部を切断除去して正極20を形成する。
【0048】
図7は、本発明の実施形態による全固体電池の積層構造を形成する方法を説明するためのフローチャートである。
図7を参照すると、段階S700にて、負極10の両面に固体電解質層23を対向させて正極20を積層し、正極20/負極10/正極20となる積層体を形成する。このように組み合わせることにより、形成した積層体の最上面と最下面には樹脂シート24が位置する形となる。
【0049】
形成した積層体をプレス金型30に収容し、段階S710にて最終プレス圧にてプレスを行う。
正極20と負極10とは同じ平面形状を有し、互いの当接面は平坦に形成され、更に負極10は予め予備プレスされ、プレス金型30への当接面には樹脂シート24が貼り付けられているので、500MPaの高圧で最終プレスされても積層構造体に均一な圧力が加わり、正極20と負極10との接触による短絡を防止することができる。また、プレス金型30の凹部33の外周壁34上に弾性体35を設けることにより、最終プレス中の正極20と負極10の側方への変形が抑制されるため、全固体電池の電極構造の品質低下を防止することができる。
【0050】
最終プレス後は、積層構造体をプレス金型30から取り出し樹脂シート24を剥離して(段階S720)全固体電池の電極構造を作製する。
作製した積層構造体は、負極10及び正極20が外部の負極端子及び正極端子と接続される形で収容ケースに収められ、全固体電池が完成する。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 負極
11 負極集電体
12 負極活物質層
13、23 固体電解質層
20 正極
21 正極集電体
22 正極活物質層
24 樹脂シート
30 プレス金型
31 上型
32 下型
33 凹部
34 外周壁
35 弾性体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7