(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182902
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】治療計画装置、治療計画作成方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090707
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 拓人
(72)【発明者】
【氏名】藤高 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】高柳 泰介
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE01
4C082AG05
4C082AN01
4C082AN05
4C082AP01
(57)【要約】
【課題】治療時間を増大させることなく、患者毎のCT値と水等価厚比分布との相関を補正でき、より高精度な治療が実現できる。
【解決手段】照射対象に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置112は、予め作成された第1治療計画の水等価厚比の補正量を算出し、補正量と第1治療計画とに基づいて水等価厚比分布を計算し、水等価厚比分布から第2治療計画を作成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置であって、
予め作成された第1治療計画の水等価厚比の補正量を算出し、
前記補正量と前記第1治療計画とに基づいて水等価厚比分布を計算し、
前記水等価厚比分布から第2治療計画を作成する
ことを特徴とする治療計画装置。
【請求項2】
前記粒子線の照射に伴って計測された前記粒子線の実測飛程に基づいて前記補正量を算出することを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記実測飛程は、前記粒子線の照射に伴って発生する即発ガンマ線の計測結果に基づくものであることを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項4】
前記第1治療計画には前記粒子線の照射条件が含まれ、
前記実測飛程及び前記照射条件に基づいて前記補正量を算出することを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項5】
前記照射対象を撮像して得られた画像データを複数の領域に区分し、前記領域毎の前記補正量を算出することを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項6】
前記第1治療計画から前記粒子線の補正前飛程を求め、前記実測飛程及び前記補正前飛程に基づいて前記補正量を算出することを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項7】
前記照射対象を撮像して得られた複数のピクセルからなる画像データをそれぞれ複数の前記ピクセルを有する複数の領域に区分し、前記実測飛程に基づいて求められた前記領域における実測経路長、前記領域を構成する前記ピクセル毎の前記実測飛程と前記補正前飛程との差分である差分経路長、及び前記領域を構成する前記ピクセル毎の前記水等価厚比を入力とし、前記領域毎の前記補正量を最小二乗法により求めることを特徴とする請求項6に記載の治療計画装置。
【請求項8】
前記治療計画は、目標となる前記粒子線の目標線量を複数回に分割して照射する際に、各回の前記照射のために複数個作成され、前記第2治療計画は前記第1治療計画の後に前記粒子線を照射するためのものであることを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項9】
前記実測飛程は、前記第1治療計画に基づいて照射された前記粒子線の実測飛程であることを特徴とする請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項10】
請求項1に記載の治療計画装置と、
粒子線を加速する加速器と、
前記加速器で加速された前記粒子線を照射対象に照射する照射装置と、
前記照射対象に前記粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置と、
前記粒子線の飛程を測定する飛程計測装置と
を有する粒子線治療システム。
【請求項11】
前記治療計画装置は、前記第1治療計画から前記粒子線の補正前飛程を求め、
前記照射装置は、前記粒子線の照射に伴って前記飛程計測装置により計測された前記粒子線の実測飛程と前記補正前飛程との差分である差分飛程が予め定められた閾値を超えたら前記粒子線の照射を中止し、
その後、前記治療計画装置は前記補正量を算出する
ことを特徴とする請求項10に記載の粒子線治療システム。
【請求項12】
照射対象に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置による治療計画作成方法であって、
予め作成された第1治療計画の水等価厚比の補正量を算出し、
前記補正量と前記第1治療計画とに基づいて水等価厚比分布を計算し、
前記水等価厚比分布から第2治療計画を作成する
ことを特徴とする治療計画作成方法。
【請求項13】
標的に粒子線を照射する治療計画を生成するコンピュータにより実行されるコンピュータプログラムであって、
予め作成された第1治療計画の水等価厚比の補正量を算出する機能と、
前記補正量と前記第1治療計画とに基づいて水等価厚比分布を計算する機能と、
前記水等価厚比分布から第2治療計画を作成する機能と
を実現させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療計画装置、治療計画作成方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、好ましくは、粒子線をがん患部に照射することでがん治療を行うための粒子線治療システム、粒子線の飛程計測装置、および治療計画装置に関する。
【0003】
陽子線や炭素線をはじめとする粒子線は、患者体内で停止する直前に大線量を付与する。この大線量、いわゆるブラッグピークを利用することで、X線治療と比べて腫瘍形状に合致した線量分布を形成し易く、高精度な放射線治療が実現されると期待されている。
【0004】
粒子線治療においては、患者体内の水等価厚比(同じエネルギー損失を起こす水の厚さと局所的な媒質の厚さの比)の分布から粒子線毎の飛程(ブラッグピークの位置)を推定し、線量分布を計算する。この線量分布を基に、患者体内の各領域に目標の線量を付与するための各ビームの照射位置及び照射量が決定される。この照射条件を処方箋、条件の決定手順を治療計画と呼ぶ。
【0005】
しかしながら、線量計算で得た飛程と実測された飛程には数%の誤差が生じることが知られている。誤差の主な原因としては、体内構造の変化と、患者毎の水等価厚比の差異が挙げられる。
【0006】
飛程の計算に用いる水等価厚比の分布は、事前に撮影した患者のX線コンピュータ断層撮影(以降、CT)画像を、ファントムを用いて作成したCT値と水等価厚比の変換テーブルによって変換することで計算される。CT画像の撮影時と粒子線照射時の体内構造の変動によって水等価厚比分布が変化することが、飛程誤差の主原因の1つ目である。一方で、CT値と水等価厚比の相関は患者によって異なるために、たとえ体内構造に変動がなくともCT値から変換された水等価厚比分布には実際の分布との誤差が生じる。これが誤差の主原因の2つ目である。
【0007】
一般的な治療計画では、飛程誤差を加味するために腫瘍に対して余白(以降、マージン)を加えた領域を標的体積として設定する。しかしながら、マージンが大きい場合、危険臓器に囲まれた腫瘍に対し、高線量を付与することが困難となる。従って、粒子線治療の適用範囲の拡大に向けては、飛程誤差を抑制して治療精度を向上し、マージンを削減することが求められる。
【0008】
飛程誤差の主原因の1つである体内構造の変動については、CTや磁気共鳴画像法によって体内構造を日々観測することで治療計画に反映することができる。一方で、水等価厚比の患者依存性による誤差を抑制するためには、患者毎の水等価厚比の分布を取得する必要がある。
【0009】
水等価厚比の分布を取得する手法の一つとして、陽子線CTによる水等価厚比分布の測定が検討されている。陽子線CTでは、治療時よりも高いエネルギーの陽子線を3次元的に照射し、透過線を計測することで、患者体内の水等価厚比分布が直接測定される。
【0010】
特許文献1には、荷電粒子線として、陽子線およびヘリウム線を照射可能であり、患者を透過した陽子線のエネルギーを計測する残飛程計測装置と、残飛程計測装置によって計測された患者の陽子線に対する阻止能比分布を求め、求めた阻止能比分布に基づいてヘリウム線に対する阻止能比分布を演算する粒子線CT画像生成装置と、を備えた粒子線治療システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
水等価厚比の分布を患者ごとに取得することで、粒子線治療の精度は向上する。特許文献1に開示されているように、水等価厚比の測定手法の一つである陽子線CTは、治療と同じ線種を用いるため、治療ビームに対する水等価厚比の測定精度は高い。また、治療とは独立した照射をおこなうため、体のどの部分の水等価厚比を測定するか、分解能をどの程度に設定するか、といった選択の自由度が高い。
【0013】
しかしながら、治療で使用するよりも高エネルギーの陽子線を取り出すためには大型の加速装置が必要となる。また、治療プロセスに陽子線CTが追加されるため、治療時間の増大も想定される。
【0014】
以上のように、陽子線CTは高性能な水等価厚比の測定手法ではあるが、臨床の観点ではいくつかの課題がある。高精度、低コストかつ高スループットの粒子線治療の実現に向けては、治療以外の計測プロセスの追加によって治療時間を増大させることなく、患者毎のCT値と水等価厚比との相関を補正することが求められている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、治療時間を増大させることなく、患者毎のCT値と水等価厚比分布との相関を補正でき、より高精度な治療が実現できる治療計画装置、治療計画作成方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う治療計画装置は、照射対象に粒子線を照射する治療計画を生成する治療計画装置であって、予め作成された第1治療計画の水等価厚比の補正量を算出し、補正量と第1治療計画とに基づいて水等価厚比分布を計算し、水等価厚比分布から第2治療計画を作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、治療時間を増大させることなく、患者毎のCT値と水等価厚比分布との相関を補正でき、より高精度な治療が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1に係る粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【
図2】実施例1に係る粒子線治療システムの照射ノズルの構成を示す図である。
【
図3】実施例1に係る粒子線治療システムにおける即発ガンマ線を用いた飛程計測装置の概略を示す図である。
【
図4】実施例1に係る粒子線治療システムにおける即発ガンマ線を用いた飛程計測によって取得される信号を示す図である。
【
図5】実施例1に係る粒子線治療システムにおける治療計画装置の構成を示す図である。
【
図6】実施例1に係る粒子線治療システムによる粒子線治療全体のフローチャートを示す図である。
【
図7】実施例1に係る粒子線治療システムによる粒子線治療のうち、治療計画装置が動作するステップのフローチャートの詳細を示す図である。
【
図8】実施例1に係る治療計画装置による治療計画作成動作において、患者X線CT画像の領域区分及び水等価厚比補正量の決定に用いる入力量を説明する図である。
【
図9】実施例1に係る治療計画装置による治療計画作成動作において、水等価厚比計算プログラムの水等価厚比分布計算のフローチャートを示す図である。
【
図10】実施例1に係る治療計画装置による水等価厚比補正量の決定手順を示す図である。
【
図11】実施例2に係る粒子線治療システムによる粒子線治療のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0020】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0022】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0023】
本実施形態の治療計画装置を有する粒子線治療システムは、一例として以下のような構成を有する。
【0024】
すなわち、本実施形態の治療計画装置を有する粒子線治療システムは、その一例を挙げるならば、照射対象に対して粒子線を照射する粒子線治療システムであって、加速器で加速された前記粒子線を前記照射対象に照射する照射装置と、前記照射対象側面に配置され、前記照射装置と同期して前記粒子線それぞれの実測飛程を測定する飛程計測装置と、水等価厚比分布の計算と補正、及び処方箋の作成を実行する治療計画装置と、を備え、前記治療計画装置は、患者X線CT画像の領域を区分する機能と、前回治療までの水等価厚比補正結果などに基づいて標的体積及び水等価厚比分布を計算する水等価厚比計算プログラムと、前記水等価厚比分布から前記粒子線の処方箋を作成する処方箋作成プログラムと、前記実測飛程、前記処方箋などの情報から、前記領域毎の水等価厚比補正量を決定する水等価厚比補正プログラムと、を保有することを特徴とする。
【0025】
そして、本実施形態によれば、実測された治療粒子線の飛程から水等価厚比の補正量を推定できるため、加速装置の大型化、治療時間の増大が生じない。また、CT画像を領域区分し、領域毎の水等価厚比補正量を決定する手法を用いることで、限られた飛程誤差情報から高精度な水等価厚比補正を可能にする。更に、水等価厚比補正に使用する飛程誤差情報を治療回ごとに蓄積することで補正精度を向上させ、その精度向上をマージンの削減によって治療計画に反映させることができる。
【0026】
実施形態の放射線治療計画装置(以下、単に「治療計画装置」と称する)を、
図1~11を参照して説明する。本実施形態では、放射線治療の一種であるスキャニング照射法による陽子線治療の治療計画を立案する治療計画装置について説明するが、散乱体照射法による陽子線治療や、炭素線等を用いる重粒子線治療の治療計画を立案する治療計画装置にも適用可能である。また、X線治療の治療計画装置にも適用可能である。
【実施例0027】
以下、
図1から
図10を用いて、本実施例の治療計画装置について説明する。前半に本実施例の治療計画装置を有する粒子線治療システムの構成について
図1から
図5を用いて説明し、後半に実施例1における同システムの動作手順を
図6から
図10を用いて説明する。
【0028】
最初に、粒子線治療システムの全体構成を
図1を用いて説明する。
図1は本実施例の粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【0029】
本実施例の粒子線治療システム101は、スポットスキャニング照射を採用したものである。スポットスキャニング照射とは、照射対象102内の微小な照射領域(以降、スポット)それぞれに対してペンシルビーム(広がりの小さい粒子線、以降、ビーム103)を照射することで目標の線量分布を形成する手法である。
【0030】
粒子線治療システム101は、照射対象102に対してビーム103を照射するためのシステムであり、
図1に示すように、加速器系104と、ビーム輸送系105と、照射ノズル106と、治療台107と、全体制御装置108と、加速器・ビーム輸送系制御装置109と、照射ノズル制御装置110と、飛程計測装置111と、治療計画装置112と、を備えている。
【0031】
加速器系104は、ビーム103を生成、加速する装置である。
図1では、加速器として入射器113、シンクロトロン加速器114、イオン源115の例を示したが、サイクロトロン加速器でも良いし、シンクロサイクロトロン加速器でも良い。
【0032】
ビーム輸送系105は、照射対象102にビーム103を照射する照射ノズル106まで加速器104で加速されたビーム103を輸送する装置群であり、加速器104と照射ノズル106とを接続している。加速器104で必要なエネルギーまで加速されたビーム103は、ビーム輸送系105に配置された偏向電磁石116により真空中を磁場で曲げられながら照射ノズル106まで輸送される。ビーム輸送系105は回転ガントリーを有するが、固定照射ポートでも良い。
【0033】
照射ノズル106は、ビーム輸送系105から輸送されたビーム103を調整し、照射対象102に照射する装置である。照射ノズル106の詳細な構成は
図2を用いて後述する。
【0034】
飛程計測装置111は、照射対象102におけるビーム103の飛程を計測し、治療計画装置112へ出力する装置である。
図3に示すように、本実施例では飛程計測装置の例として即発ガンマ線計測装置を示したが、照射対象102内の飛程をビーム103毎に計測できる装置であれば良く、他には超音波計測装置や対消滅ガンマ線計測装置などが挙げられる。飛程計測装置111の詳細な構成及び飛程の決定方法は
図3及び
図4を用いて後述する。
【0035】
再び、
図1において、治療計画装置112は、治療計画を実施して処方箋を作成し、さらに処方箋を全体制御装置108に転送し、また飛程計測装置111によって測定された飛程などから水等価厚比の分布を補正する。治療計画装置112の詳細な構成と動作に関しては
図5を用いて後述する。
【0036】
加速器・ビーム輸送系制御装置109は、加速器系104やビーム輸送系105を構成する各機器の動作を制御する。
【0037】
照射ノズル制御装置110は、照射ノズル106を構成する各機器の動作を制御する。
【0038】
全体制御装置108は、治療計画装置112、加速器・ビーム輸送系制御装置109、照射ノズル制御装置110、飛程計測装置111、治療台107と接続されており、各機器の動作を制御する。
【0039】
これら全体制御装置108や加速器・ビーム輸送系制御装置109、照射ノズル制御装置110、飛程計測装置111、治療計画装置112は、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)およびCPUに接続されたメモリを有する。
【0040】
なお、実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに分かれていても良く、更にはそれらの組み合わせでも良い。
【0041】
各装置の保有するプログラムの一部またはすべては専用ハードウェアで実現しても良く、モジュール化されていても良い。更には、各種プログラムは、プログラム配布サーバや外部記憶メディアによって各装置にインストールされていてもよいし、既存の装置をアップデートしてもよい。
【0042】
また、各装置は、各々が独立した装置で有線あるいは無線のネットワークで接続されたものであっても、2つ以上が一体化していてもよい。
【0043】
治療台107は、照射対象102である患者を載せるベッドである。治療台107は全体制御装置108からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転する、いわゆる6軸方向に移動することができる。これらの移動と回転により、照射対象102の位置を所望の位置に移動させることができる。
【0044】
次に、照射ノズル106の詳細な構成について
図2を用いて説明する。
図2は照射ノズル106の構成を示す図である。
【0045】
照射ノズル106内には、走査電磁石201A、201B、線量モニタ202、位置モニタ203、リッジフィルタ204、レンジシフタ205が配置されている。また、照射ノズル制御装置110は、線量モニタ制御装置206、位置モニタ制御装置207、走査電磁石制御装置208に接続されている。
【0046】
走査電磁石201A、201Bは、ビーム103の通過方向に対して垂直な平面にビーム103を走査する。走査電磁石201A、201Bにより走査されたビーム103は、照射対象102内の標的体積209に照射される。なお、癌などの患者を治療する場合、照射対象102は患者を表し、標的体積209はマージン210を加味した腫瘍211などを表す。
【0047】
線量モニタ202は、各スポット位置に照射されるビーム103の線量を測定するために、ビーム103の通過によって生じた電子を収集するためのモニタであり、検出信号は線量モニタ制御装置206に入力される。線量モニタ制御装置206は、線量モニタ202から入力された検出信号に基づいて各スポット位置に照射される照射量を演算し、演算した照射量を照射ノズル制御装置110に出力する。
【0048】
位置モニタ203は、各スポット位置を測定するために、ビーム103の通過によって生じた電子を収集するためのモニタである。位置モニタ203の検出信号(電子を収集して得られたパルス信号)は位置モニタ制御装置207に入力される。位置モニタ制御装置207は、位置モニタ203から入力された検出信号に基づいて各スポット位置における線量をカウントし、演算したカウント値を照射ノズル制御装置110に出力する。
【0049】
リッジフィルタ204は、ブラッグピークを太らせることが必要な場合に使用することができる。また、レンジシフタ205は、ビーム103の到達位置を調整する際に挿入することができる。
【0050】
スポットスキャニング照射において、照射ノズル制御装置110は、位置モニタ制御装置207に入力された信号に基づきビーム103の通過位置を求め、求めた通過位置のデータからスポット位置の演算を行い、ビーム103の照射位置を確認する。更には、照射ノズル制御装置110は、線量モニタ制御装置206に入力された照射線量が目標線量に達すると、走査電磁石制御装置208を介してビーム103を次にスポットへと走査する。同じエネルギーのスポット群(レイヤーという)への照射が全て満了すると、照射ノズル制御装置110は全体制御装置108に信号を送信する。全体制御装置108は照射ノズル制御装置110からレイヤーへの照射満了の信号を受け取ると、加速器・ビーム輸送系制御装置109へ指令を送り、ビーム103のエネルギーを変更して次のレイヤーへの照射を開始する。
【0051】
次に、飛程計測装置111の詳細について
図3を用いて説明する。本実施例では飛程計測装置の例として即発ガンマ線を利用した飛程計測装置を挙げており、
図3はその概略を示す図である。
【0052】
即発ガンマ線301は、照射対象102に照射されたビーム103と照射対象102との相互作用によって発生する。
【0053】
コリメータ302は、ビーム103の進行方向から見て標的体積209の側面に設置されている。コリメータ302はスリット303を通過する即発ガンマ線301以外を遮蔽する。コリメータの素材としては、例えばタングステンや鉛のブロックを用いる。
図3では、コリメータ302のスリット303の内壁を三角形とする場合を示しているが、スリット303の形状は例えば内壁がたがいに平行であっても良い。
【0054】
アレイ型検出器304は、スリット303を通過した即発ガンマ線301を検出する。アレイはビーム進行方向に配列されており、アレイ毎の信号を区別することで、各即発ガンマ線301の検出位置を求めることができる。アレイ型検出器304には、半導体や、蛍光体と光検出器の複合検出器などが用いられる。
【0055】
検出器制御装置305はアレイ型検出器304、全体制御装置108、及び治療計画装置112に接続されている。検出器制御装置305は、全体制御装置108から照射中のビーム103の情報を受け取り、ビーム103毎にアレイ型検出器304から信号を受信する。次に、検出器制御装置305は、検出された信号から飛程を決定し、治療計画装置112に送信する。
【0056】
図4に、アレイ型検出器304の検出信号の一例を示す。照射対象102から発生する即発ガンマ線301の数は、付与された線量と相関するため、飛程近傍で急激に増加する。従って、アレイ型検出器304の各アレイを実空間での配置順に番号付けして横軸に取り、縦軸にアレイ毎の係数率をプロットすると、検出信号401のようなブラッグピークに相当する形状が観測される。
【0057】
ただし、アレイ型検出器304で検出される即発ガンマ線301の分布は、標的体積209における即発ガンマ線301の分布と比べると、スリット303の位置を中心に反転される。検出器制御装置305は、検出信号401のピークの位置から、実測飛程402を決定する。
【0058】
図3ではコリメータ302を固定して即発ガンマ線301の分布を測定する場合を示しているが、コリメータ302をビーム103の進行方向に平行移動させながら測定してもよい。
【0059】
次に、治療計画装置112の詳細な構成について
図5を用いて説明する。
図5は、治療計画装置112の構成図である。
【0060】
治療計画装置112は、例えば、CPU501、メモリ502、記憶装置503、通信インターフェース装置504、ユーザインターフェース(UI:User Interface)装置505を有するコンピュータシステムとして構成される。
【0061】
記憶装置503は、例えば、フラッシュメモリデバイス、ハードディスクドライブ(HDD)などから構成されており、オペレーティングシステム(OS)506、水等価厚比計算プログラム507、処方箋作成プログラム508、水等価厚比補正プログラム509といったコンピュータプログラムを記憶している。また、治療開始以降は水等価厚比補正や治療計画に用いる情報が保存される。保存される情報の詳細は、動作手順の説明において後述する。
【0062】
CPU501が、記憶装置503に格納された各種プログラム(507、508、509)をメモリ502に読み出して実行することにより、治療計画装置112としての機能(水等価厚比計算、処方箋作成、水等価厚比補正)が実現される。なお、ここでは、演算素子の代表としてCPU501を用いて説明したが、演算素子は、CPU501以外にも、GPU(Graphic Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等を用いてもよい。
【0063】
通信インターフェース装置504は、粒子線治療システム101の各装置(全体制御装置108、飛程計測装置111)と通信するための装置である。
【0064】
UI装置505は、治療計画装置112を使用するユーザ(以降、医師とする)との間で情報を交換する装置である。UI装置505は、情報出力装置と情報入力装置とを含む。情報出力装置としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、音声合成装置等がある。情報入力装置としては、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、音声認識装置等がある。例えば、処方箋作成プログラム508の線量分布計算結果はディスプレイに表示される。
【0065】
粒子線治療システム101の構成及び各装置の詳細の説明は以上である。以降は、実施例1における同システムの動作手順を説明する。
【0066】
粒子線治療システム101による治療手順を、主に
図6を用いて説明する。ただし、詳細な手順を補足するために、適宜
図7から
図10を用いる。
図6は粒子線治療全体のフローチャートを示す図である。
【0067】
一般に粒子線治療においては、目標となる線量を数回に分けて付与する分割照射が行われる。これは、1度に高線量が付与されることで正常組織が損傷を受けることを防止するためである。本実施例では、目標線量である60Gyを1日2Gyずつ、30日に分割して照射するとするが、分割回数が2回以上であれば、分割回数、照射量を変えても本発明の効果は失われない。また、分割単位は1日である必要はなく、1日の治療を複数回治療に細分化してもよい。
【0068】
治療手順は1日目と2日目以降と30日目で異なるため、以降は1日目から順に時系列に沿って説明する。
【0069】
1日目の治療が開始されると(ステップS601)、最初に治療計画装置112の水等価厚比計算プログラム507は水等価厚比分布の計算をおこなう(ステップS602)。
【0070】
図7を用いて、水等価厚比分布計算の詳細を示す。
図7は治療計画装置112の各プログラムの動作の詳細を示すフローチャートである。
【0071】
水等価厚比計算プログラム507は、最初に粒子線治療システム101の外部にあるX線CT装置によって撮像された患者の患部周辺のX線CT画像を読み込む(ステップS701)。X線CT装置は、撮像直後にCT画像を治療計画装置112に送信してもよいし、X線CT装置が自身のまたは外部の記憶装置にCT画像を格納し、治療計画装置112が水等価厚比計算(ステップS602)を開始するにあたってCT画像を読み込んでもよい。
【0072】
次に、水等価厚比計算プログラム507は、CT画像の領域区分をおこなう(ステップS702)。ただし、1日目の水等価厚比計算には領域区分情報は必要でないため、領域区分は粒子線照射後に実施される水等価厚比補正(ステップS711)までの任意のステップで実施してもよい。
【0073】
図8を用いてCT画像の領域区分について補足する。
図8では、X線CT画像801の各ピクセルがマス目で表されており、CT値の差異がマス目の色の濃度で示されている。
【0074】
領域802の区分は、X線CT画像801を基に決定される。領域802の区分を決定する際は、X線CT画像801をUI装置505に表示して医師によって体内組織の種類毎に区分させてもよいし、CT値の近いピクセルを1つの領域にまとめるプログラムを治療計画装置112に取り入れて自動的に実施してもよい。
【0075】
図8では、領域802の境界を太線で示しており、領域1から領域3の3つの領域(802A、802B、802C)に区分されている。領域802の数は3つに限らず任意に設定可能であるが、領域802の数が実測飛程402の情報数よりも多い場合、後述の手法で決定した水等価厚比補正量の当てはまりが良くない、あるいは水等価厚比補正量の決定処理が正常に動作しないことが想定される。
【0076】
図7に戻り、次に、水等価厚比計算プログラム507は、X線CT画像801の水等価厚比分布への変換、及び標的体積209の決定を実施する(ステップS704)。なお、1日目の治療におけるステップS704時点では水等価厚比補正が未実施のため、水等価厚比補正量の呼出(ステップS703)はスキップする。
【0077】
図9を用いて、水等価厚比分布の変換フローを説明する。1日目は、
図9に示した2種類の水等価厚比分布(補正前水等価厚比分布905、補正水等価厚比分布906)のうち、補正前水等価厚比分布905のみを作成する。補正前水等価厚比分布905は、治療計画装置112に予め保存されたCT値と水等価厚比との変換テーブルを読み込み(ステップS901)、この変換テーブルを用いてX線CT画像801を変換することで計算される(ステップS902)。ここで、変換テーブルはファントムを用いた測定などによって事前に作成されており、患者に依らず一定である。変換テーブルとして、CT値と水等価厚比の関係式が記録されたファイルを想定すると、X線CT画像801の各ピクセルのCT値を関係式に代入し、戻り値をそのピクセルの水等価厚比とすることで変換が完了する(ステップS905)。変換テーブルはいくつかのCT値と対応する水等価厚比が離散的に記録されているファイルなどでも良く、ファイル内に必要なCT値が記録されていない場合は線形補間などの処理を加えてから水等価厚比に変換すればよい。
【0078】
図7のステップS704に戻り、次に以下の手順で標的体積209を決定する。まず、UI装置505に表示したX線CT画像801あるいは補正前水等価厚比分布905を基に、医師が腫瘍211(
図2参照)の輪郭を抽出する。この輪郭に、予め定められたマージン210を加味し、標的体積209の輪郭を決定する。例えば、マージン210が標的体積209内で一律10mmと定められた場合、標的体積209の輪郭は医師の抽出した腫瘍211の10mm外側に設定される。マージン210は本実施例のように照射対象102内で一律としてもよいし、照射対象102表面からの深さなどのパラメータに応じて変動させてもよい。
【0079】
以上で、1日目の水等価厚比分布計算(ステップS602)は完了となる。
図6に戻り、次に、治療計画装置112の処方箋作成プログラム508は処方箋を作成する(ステップS603)。
【0080】
【0081】
最初に、処方箋作成プログラム508は、水等価厚比計算プログラム507から出力された補正前水等価厚比分布905と標的体積209の設定を読み込む(ステップS705)。
【0082】
次に、処方箋作成プログラム508は、標的体積209に対する目標線量を設定する。目標線量は、UI装置505を介して医師によって入力される(ステップS706)。
【0083】
次に、処方箋作成プログラム508は、補正前水等価厚比分布905に基づいて、各スポットに照射されるビーム103が標的体積209内に指定された各計算点に付与する線量を計算し、スポット数と計算点数の積だけの要素数を持つ行列(以降、線量行列)の形式で出力する(ステップS707)。
【0084】
次に、処方箋作成プログラム508は、線量行列を基に、目標線量を付与するための照射量の最適化計算を実施し、処方箋、すなわち各ビーム103のスポット位置と照射量を決定する(ステップS708)。
【0085】
次に、処方箋作成プログラム508は、照射量の最適化計算で決定した処方箋によって形成される線量分布を計算する(ステップS709)。計算結果はUI装置505を介して医師に確認される。医師による承認がなされると、処方箋が治療計画装置112に保存され、また全体制御装置108に送信される(ステップS710)。以上で処方箋作成(ステップS603)は完了となる。承認がなされない場合は、ステップS706に戻り、目標線量の再設定を実施する。
【0086】
再び
図6に戻り、次に、患者を治療台107に載せてX線CT画像の撮影時と合致するように位置を合わせた後、粒子線治療システム101はビーム103の照射を開始する(ステップS604)。照射は、全体制御装置108に入力された処方箋に基づいて調整されたビーム103毎に実施される。全体制御装置108は、加速器・ビーム輸送系制御装置109及び照射ノズル制御装置110を制御し、各ビーム103のスポット位置及び照射量を変更する。
【0087】
飛程計測装置111は、照射と並行してビーム103毎の実測飛程402(
図4参照)を計測する(ステップS605)。
図3では、全体制御装置108から処方箋を読み込むことでビーム103を区別しながら飛程計測を実施する例を示したが、飛程計測時はビーム103を区別せず、全体制御装置108に記録した各ビーム103の照射時刻を参照して後に計測結果を各ビーム103の成分に区別してもよい。
【0088】
計画された照射が全て完了すると、次に水等価厚比補正プログラム509は水等価厚比補正を開始する(ステップS606)。再度
図7を用いて、水等価厚比補正の手順を説明する。
【0089】
まず、水等価厚比補正プログラム509は、水等価厚比計算時に決定された領域802及び補正前水等価厚比分布905と、処方箋作成時に入力された処方箋と、を読み込む(ステップS711)。なお、ステップS711の実施は照射及び飛程計測(ステップS605)の完了後である必要はなく、ステップS603の処方箋作成以降かつステップS713の水等価厚比補正量の決定以前の任意のステップと並行して実施してもよい。
【0090】
次に、水等価厚比補正プログラム509は、ステップS605で得られた各ビーム103の実測飛程402を飛程計測装置111から受信する(ステップS712)。実測飛程402は照射された全てのビーム103について受信してもよいし、計測結果の信頼性判定のために実測飛程402の決定に利用された検出信号401の統計量を検出器制御装置305から取得し、その統計量が一定値を超えるビーム103についてのみ受信してもよい。
【0091】
次に、処方箋、補正前水等価厚比分布905、領域802、及び実測飛程402に基づいて、水等価厚比補正量を決定する(ステップS713)。
図8及び
図10を用いて水等価厚比補正量の決定方法を説明する。
【0092】
まず、水等価厚比補正量の決定に用いる入力量を計算する。具体的な計算方法を説明する前に、必要な入力量を示すために
図8を用いて水等価厚比補正量の決定原理を説明する。
【0093】
補正前水等価厚比分布905から推定される飛程(以降、補正前飛程803)と実測飛程402の差が、水等価厚比分布の誤差によって生じる場合、実測されたビーム経路上の水等価厚の誤差分は、補正前飛程803と実測飛程402の間の経路(以降、差分経路804)の水等価厚と一致すると考えられる。このとき、以下の式(1)が成立する。
【数1】
ただし、j、iはそれぞれビーム103、X線CT画像801のピクセルを表すインデックスであり、δlは差分経路804の各ピクセルにおける経路長(以降、差分経路長805)、wは各ピクセルの補正前水等価厚比806、lは各ピクセルの実測経路長(図示せず)、そしてδwは各ピクセルの水等価厚比の誤差を表す。式(1)が成立するδwが求められれば、各ピクセルの水等価厚比補正量が決定される。
【0094】
しかしながら、飛程計測によって得られる式(1)の数は治療に用いるビーム103の数以下に制限されるので、変数δwの数、すなわちピクセル数に対して方程式の数が不足する場合が多い。そこで本実施例では、各ピクセルの差分経路長805と補正前水等価厚比806、及び各領域802の実測経路長807を入力量とし、複数のピクセルをまとめた領域802毎の水等価厚比補正量を最小二乗法で決定する。すなわち、以下の式(2)を最小とするδwを求める。
【数2】
ただし、nは領域802を表すインデックスである。
【0095】
水等価厚比補正量の決定原理の説明は以上である。引き続き
図8を用いて各入力量の計算手順を説明する。
【0096】
まず、各領域802の実測経路長807を計算する。ビーム103は処方箋によって指定されたスポット位置へ向かって進行するとし、実測飛程402の位置をビーム103の終端とすることで経路が決まる(
図8の実線矢印)。この経路から、領域802毎の経路長が計算されるので、これらを実測経路長807とし、治療計画装置112に保存する。
図8の例では経路が3領域に跨るので、3つの領域の実測経路長(807A、807B、807C)が保存される。
【0097】
次に、ピクセル毎の差分経路長805及びその経路上の補正前水等価厚比806を計算する。これらの入力量を計算するためには補正前飛程803が必要となる。補正前飛程803は、処方箋に従ってビーム103の進行方向を定め、その方向に沿って補正前水等価厚比を積算した値が水中での飛程と一致するまでの積算距離から求められる。求められた補正前飛程803と実測飛程402から差分経路804を決定し、各ピクセルにおける差分経路長805と補正前水等価厚比806を計算する。
図8の例では、差分経路804はピクセル1から3の3ピクセルのみを通過するため、これら3ピクセルでの差分経路長(805A、805B、805C)及び補正前水等価厚比(806A、806B、806C)を計算すればよい。
【0098】
治療計画装置112には、ピクセル毎の差分経路長805と補正前水等価厚比806の積を全てのピクセルについて和を取った量(差分経路804上の水等価厚に相当し、以降、差分水等価厚と呼ぶ)を保存する。
【0099】
以上で、水等価厚比補正量の決定に用いる入力量が全て治療計画装置112に保存される。
【0100】
図7のステップS713に戻り、次に、水等価厚比補正プログラム509は、治療計画装置112に保存された入力量から、領域802毎の水等価厚比補正量を決定する(ステップS714)。
【0101】
水等価厚比補正量の決定手順を、
図10を用いて説明する。
図10は、最小二乗法を用いた水等価厚比補正量の決定手順を示す図である。
【0102】
最初に、治療計画装置112に保存された、各ビーム103の領域802毎の実測経路長807、及び各ビーム103の差分水等価厚1001を呼び出す。次に、未知量である水等価厚比補正量1002を定義し、式(2)が最小となるような水等価厚比補正量1002を求める。以上の計算によって、領域802毎の水等価厚比補正量1002が決定される。なお、決定手法は最小二乗法に限らず、他の手法によって水等価厚比補正量1002を求めてもよい。
【0103】
図7に戻り、治療計画装置112に水等価厚比補正量1002を保存することで次回治療時に水等価厚比計算プログラム119が読み込めるようにする(ステップS714)。以上で、水等価厚比補正(ステップS606)が完了となる。
図6に戻ると、水等価厚比補正の完了によって1日目の治療は終了となる。
【0104】
次に、2日目以降の治療手順を再度
図6及び
図7を用いて説明する。ただし、1日目と同様の手順については説明を簡略化する。また、本実施例では代表として2日目の治療手順について述べるが、3日目以降も手順は同じである。
【0105】
2日目の治療開始(ステップS601)後、水等価厚比計算が実施される(ステップS602)。まず、2日目に再度撮影されたX線CT画像に基づいて領域区分をおこなう。次に、水等価厚比分布への変換及び標的体積209の決定を実施する。水等価厚比分布への変換時には、1日目と同様の手順で補正前水等価厚比分布905を作成し、次に補正水等価厚比分布906を作成する。変換の詳細な手順は前述の
図9に示している。補正水等価厚比分布906は、前日(2日目の治療においては1日目を指す)に決定した水等価厚比補正量1002を加味した分布である。補正水等価厚比分布906への変換は、前日に保存した水等価厚比補正量1002を読み込み(ステップS903)、補正前水等価厚比分布905に領域802毎に決まる水等価厚比補正量1002を加算することで完了する(ステップS904)。
【0106】
図7のステップS704に戻り、次に標的体積209(
図2参照)を決定する。1日目と同様に、医師によって抽出された腫瘍211の輪郭を、前日の治療結果に基づいて補正されたマージン量だけ外側に拡大した範囲を標的体積209とする。マージン210の補正方法としては、前日に決定した水等価厚比補正量1002の当てはまりの良さを反映するために、例えば、式(2)のδwに決定した水等価厚比補正量1002を代入した値(当てはまりが良いほど小さな値を取る)に反比例するような係数を、予め定めたマージンに積算する手法がある。あるいは、前日の治療時の飛程誤差の大きさに比例した値を設定してもよいし、前日までの治療にて治療計画装置112に保存された実測飛程402の情報数に応じて削減しても良い。
【0107】
図6に戻り、次に、処方箋を作成する(ステップS603)。処方箋の作成手順は1日目と同様である。ただし水等価厚比補正の効果を治療計画に反映するため、補正前水等価厚比分布905ではなく、2日目に作成した補正水等価厚比分布906を読み込み、処方箋作成に用いる。
【0108】
処方箋作成後は、1日目と同様の手順で粒子線照射及び飛程計測を実施し(ステップS604、ステップS605)、続いて水等価厚比補正をおこなう(ステップS606)。
【0109】
水等価厚比補正においては、まず2日目の処方箋、補正前水等価厚比分布905、実測飛程402及び領域802から、各ビーム103の差分水等価厚1001及び領域802毎の実測経路長807を計算し、治療計画装置112に保存する。次に、1日目と同様の手順で水等価厚比補正量1002を決定する。ただし、2日目の差分水等価厚1001及び実測経路長807だけでなく、前日までに治療計画装置112に保存された差分水等価厚1001及び実測経路長807も併せて入力量とする。この方法によって、1日目よりも高精度な補正となることが期待される。
【0110】
水等価厚比補正量1002の決定後は、1日目と同様の手順をたどり、2日目の治療は完了となる。以上で説明した治療手順を29日目まで繰り返す。
【0111】
次に、30日目の治療手順を
図6を用いて説明する。治療開始(ステップS601)からビーム照射及び飛程計測(ステップS605)までは、2日目から29日目までと同様の手順で治療をおこなう。本実施例では30日目は治療最終日であるため、水等価厚比補正(ステップS606)はスキップされ、30日目の治療は完了となる。
【0112】
なお、本実施例では1日目から29日目までは毎日水等価厚比補正を実施するとしたが、毎日水等価厚比補正を実施する必要はなく、例えば、隔日で実施するなどしてもよい。
【0113】
30日目の治療が完了することによって、本実施例における粒子線治療は終了となる。
【0114】
次に、本実施例の効果を説明する。
【0115】
上述した実施例1の治療計画装置112では、飛程計測装置111による実測経路長807などを入力量とし、X線CT画像801から決定した領域802毎の水等価厚比補正量1002を決定することができる。翌日の治療時には、領域802を区分してX線CT画像801を水等価厚比分布に変換する際に、各ピクセルの補正前水等価厚比806に前日の治療時に計算した水等価厚比補正量1002を加算することで、患者毎のCT値と水等価厚比の相関の差異を考慮した補正水等価厚比分布906を取得できる。補正水等価厚比分布906を用いて治療計画を実施することで、水等価厚比の患者依存性によって生じる飛程誤差を抑制することができ、治療精度が向上する。更に、治療精度の向上に応じてマージン210を削減することで、水等価厚比補正をおこなわない従来の粒子線治療では高線量の付与が困難であった、膵臓癌などへの粒子線治療の適用が可能となると期待される。
【0116】
粒子線治療システム101では、水等価厚比補正に必要な実測飛程402の測定はビーム照射と並行して実施される。また、水等価厚比補正は水等価厚比補正プログラム509によって自動的に実行されるので患者や医師を拘束しない。従って、水等価厚比補正のために治療時間が増大することはない。また、治療以外のビーム照射が必要ないため、装置サイズが一般的な粒子線治療システムよりも大型化することはない。
【0117】
治療時に照射されるビームの飛程計測を利用した水等価厚比補正においては、実測飛程402の情報数がビーム数以下に限られるため、X線CT画像801のピクセル毎に水等価厚比を補正できない場合が多い。水等価厚比を補正するには、X線CT画像801を少なくとも実測飛程402の情報数以下の数の領域802に区分する必要があるが、領域802毎に水等価厚比を一律で決定する方法では、領域802内の水等価厚比の差が大きいほど精度が低下する。
【0118】
本実施例では、領域802毎の水等価厚比自体を決定するのではなく、水等価厚比補正量1002を決定して補正前の各ピクセルの水等価厚比に加算する方法を用いるため、領域802内の水等価厚比の差が大きくても、誤差の大きさ及び符号が同程度であれば補正精度は低下しない。すなわち、領域802の区分、及び領域802毎の水等価厚比補正量1002の決定によって、限られた情報数から高い治療精度の向上を実現できる。
各ビーム103の照射毎に飛程誤差の判定を実施するためには、処方箋作成プログラム508によって想定されている飛程(以降、計画飛程)をビーム103毎に照射開始までに計算しておく必要がある。計画飛程の計算をするには、補正前飛程803の計算手順において補正前水等価厚比分布905を補正水等価厚比分布906に置き換えればよい。計画飛程は処方箋作成後に水等価厚比補正プログラム509によって計算され、治療計画装置112に保存される。
保存された計画飛程と実測飛程402の差分を計算することで、飛程誤差の判定が実施される。飛程誤差の閾値は、治療毎にUI装置505を介して医師によって設定してもよいし、スポット位置などの照射条件に依存する閾値を計算するプログラムを治療計画装置112に導入して自動的に設定してもよい。
実施例1の治療フローでは、各回の治療時に作成された処方箋は、飛程誤差の大きさに限らず最終スポットまで実施される。従って、飛程計測結果によって照射が中止されることはなく、治療時間は増大しない。しかしながら、特に水等価厚比補正精度が高くない初期の治療日では、マージン210よりも大きなスケールの飛程誤差が生じ、危険臓器などが損傷を受ける危険性を排除できない。
一方で、実施例2のように照射後のインターロックを追加することで、標的体積209外への大線量付与を抑制することができる。従って、実施例1によって得られる効果と比較すると、治療時間が増大する可能性は生じるが、更なる治療精度の向上、特に危険臓器の損傷の可能性の低減が期待される。
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
例えば、補正する対象の物理量について水等価厚比を用いる場合について説明したが、水等価厚比の替わりに、阻止能比(単位長さを粒子線が通過する間に、対象の組織内で損失するエネルギーと、基準組織内で損失するエネルギーの比)とすることも可能である。
また、目標線量を設定する対象として腫瘍211にマージン210を加えた標的体積209を挙げたが、標的体積209の周辺の危険臓器などに対する目標線量を追加で設定してもよい。
また、水等価厚比補正は各治療日の粒子線照射後に実施するとしたが、各治療日の処方箋や実測飛程などの情報を翌日まで保存し、翌日の水等価厚比計算の前に実施してもよい。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。