(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182913
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】パン生地製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 10/02 20060101AFI20221201BHJP
A21D 8/02 20060101ALI20221201BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20221201BHJP
【FI】
A21D10/02
A21D8/02
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021111816
(22)【出願日】2021-05-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年7月9日 神奈川県厚木市戸室4丁目20番7号で行われたパン教室 令和2年12月4日 https://pandanukitchen.hatenadiary.jp/ 令和3年1月12日 https://recipe.cotta.jp/ 令和3年3月3日 東京都文京区関口1丁目29番6号で行われたパン教室 令和3年3月19日 https://jibunmedia.publishers.fm/article/23838/ 令和3年3月25日 神奈川県綾瀬市小園の個人の自宅で行なわれたパン教室 令和3年4月5日 https://www.facebook.com/jibundeyurutt
(71)【出願人】
【識別番号】521163064
【氏名又は名称】小沼 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小沼 裕子
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DG17
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK54
4B032DP08
(57)【要約】
【課題】家庭における製パンの課題は、仕込み水を加えた小麦粉を扱うことの厄介さ、パン生地工程での生地の粘着性のために手で直接に扱う困難さ、パン生地作りに要する時間が長いなどが挙げられる。
【解決手段】小麦粉やイーストなどを容器の中で混合し、生地の表面層に特化して叩く・折る・引く工程を直交する4方向で行い、表面層のグルテン強化を行った後に、表面層がグルテン強化の遅れているバルク部を包み込んで1次発酵と同時に生地全体のグルテン強化を行うものであり工程の時間短縮である。計量から混合までと発酵とを同一容器で行う利点がある。仕込み水を注いでから焼き上がりまで1時間以内でできる家庭パン生地製造方法である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面と側面を有する容器を準備し、
小麦粉を該側面上部及び該底面に接し斜面を成すよう配置した後、
イーストは、該底面に接するように配置し、
砂糖は該イーストと接しないように該斜面中間部に配置し、
塩は該イースト及び該砂糖と接しないように該斜面上部に配置し、
仕込み水を該塩と接しないように該イースト及び該砂糖の一部の上に注ぎ、
それらを混ぜ棒で混ぜて該イーストの全部及び該砂糖の一部を溶解させた後、
該仕込み水と該小麦粉と該砂糖の残りと該塩とを一気に混ぜ、
る事を特徴とするパン生地製造方法。
【請求項2】
小麦粉とイーストと砂糖と塩と仕込み水からなる生地にオイルを被覆させ、
該生地を作業台上に叩いた時に該生地は作業台に接する表面層と、表面層以外のバルク部になり、該生地の表面層の中心部が直交する4方向に対して叩く・折る・引く工程を複数回の行われることにより、該表面層のグルテン強化は該バルク部のグルテン強化に比して高い状態になり、
該表面層を外側に、該バルク部を内側に該生地を丸めた後に、
発酵工程を行う事を特徴とするパン生地製造方法。
【請求項3】
請求項2における該生地の表面層の中心部が直交する4方向に対して叩く・折る・引く工程を複数回の行われること工程とは、
該オイルを被覆した該生地の一部分を保持し作業台の上に叩く第1の工程であり、該生地において保持した側の端を第1の端部とし、長径方向に延伸した側の端を第2の端部とし、該第1の端部と該第2の端部の中間に位置する中心部とし、
該中心部から長径方向と直交する短径方向の端を第3の端部、他方を第4の端部とし、
該第1の端部を該第2の端部を越えて折る第2の工程であり、該作業台に接した側の該中心部が折り部の外周に位置するよう配置するようにし、
該第1の端部及び該第2の端部を該中心部の方向に該生地を該作業台に接したまま引いてまとめる第3の工程と、
該生地の該第3の端部を該第1の工程の該一部分であると定め、該中心部が該作業台に接するように叩かれることを定める第4の工程であり、
第4の工程の後に第1の工程及び第2の工程及び第3の工程を15回乃至30回繰り返す事により該表面層のグルテン強化する事を特徴とするパン生地製造方法。
【請求項4】
請求項2における該仕込み水とは、第2の工程における該仕込み水は水であり、
温度は38℃乃至45℃であり、その量は小麦粉重量の68%乃至78%である事を特徴とするパン生地製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンを製造するもととなるパン生地製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーでも、コンビニエンスストアでも、専門店でも様々なパンが手軽に入手できるようになって、パン食はますます多様化している。その多様化の流れの中で、大量生産のパンとは異なり添加物の少ない家庭製パンに近い手作りを行うパン屋さんも増えてきた。手作りの良さが見直され、中身のわかる材料で作ったパンを食べたい、自分でパンを作って食べてみたい、また食育の一環としての親子や子どもとのパン作りを経験したい、といったニーズの高まりがある。
【0003】
パンをめぐる食生活の多様化に伴い、家庭製パンを教えるパン教室も多様化が求められている。より本格的で専門店に負けないパンを教える教室から、より身近で簡便な家庭製パン法に特化した教室まで、教室は多岐にわたる。ただ、本格的な製造装置(捏ね機、発酵機、業務用オーブンなど)を必要とする本格製法にはどれも程遠く、家庭製パンには、道具、時間、温度管理、熟練の不足など多くの問題が残る。その上、初心者が従来の一般的な家庭製法でパン生地を手捏ねしようとすると、それは粘りが強くかなり厄介なものであり、出来上がるまでに少なくとも3時間から5時間がかかり、体力を消耗し、次回の挑戦のハードルを上げ熟練を妨げるのである。パン教室はこのような初心者の直面する困難を軽減するものでなければならない。
【0004】
パン教室で教授する時の課題としては、パン作りにかかる時間が長時間であることも開業のハードルを上げる。なぜならば長時間にわたる講習時間が必要になる上に、発酵時間が単なる待ち時間となってしまい兼ねないからである。多くのパン教室ではその待ち時間を減らす工夫がなされているが、その解決法は待ち時間の間に別のパンを作って埋めたり、予め差し替え生地を用意することで時間短縮を図ったりする。前者の場合は複数を並行して作業するために教授を受ける側に混乱が生じやすく、後者の場合は差し替えを用意する教授する側の負担が大きくなる。また、教授する側が予め発酵された生地を使用し成形後の2次発酵中に、材料から始まる生地作りを行うなどで作業手順の逆転による教授を受ける側に混乱が起き、順番を追ってパン作りを経験できなくなる問題も起こってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
家庭における製パンの課題は、仕込み水を加えた小麦粉を扱うことの厄介さ、パン生地工程での生地の粘着性のために手で直接に扱う困難さ、パン生地作りに要する時間が長いなどが挙げられる。こうした課題が克服できれば、パン教室の限られた時間の中で一貫したパン作り工程を教授でき、すなわち家庭製パンにおいても時間短縮につながり、教授を受ける側の理解が深まり、満足感も広がる。その結果、パン教室で教授されたレシピを用いて家庭でパン作りを行って家族で楽しむことにつながる。
【0008】
パン生地の扱い難さは、小麦粉に含まれるでんぷんとタンパク質(小麦粉に含まれるグルテニンとグリジアンからできるグルテン)によるものである。手捏ねで良いパンを作る為には、ベタベタした粘着性のある生地を素手で扱う厄介さと戦いながら、生地を強く捏ねて物理的な力を加えてグルテンを強化することを避けて通れない。この課題を解決することが発明の目的とするところである。これを解決すれば時間短縮だけでなく、パンを自分の手で作ることの手軽さが増すことになり、家庭製パンのハードルが下がると思慮する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様では、特にパン生地作りの小麦粉などの材料を扱う段階での課題に対して、底面と側面を有する容器を準備し、小麦粉を容器の側面上部及び底面に接し斜面を成すよう配置した後、イーストは、底面に接するように配置し、砂糖はイーストと接しないように斜面中間部に配置し、塩は既に配置したイースト及び砂糖と接しないように斜面上部に配置し、仕込み水を塩と接しないようにイースト及び砂糖の一部の上に注ぎ、それらを混ぜ棒で混ぜてイーストの全部及び砂糖の一部を溶解させた後、仕込み水と小麦粉と砂糖の残りと塩とを一気に混ぜてパン生地の固まりを製造するものである。
【0010】
また、本発明の一態様は、パン生地の強化の課題に関するものである。小麦粉とイーストと砂糖と塩と仕込み水からなる生地にオイルを被覆させ、生地を作業台上に叩いた時に生地は作業台に接する表面層と表面層以外のバルク部になり、生地の表面層の中心部が直交する4方向に対して叩く・折る・引く工程を複数回の行われることにより、表面層のグルテン強化はバルク部のグルテン強化に比して高い状態になり、表面層を外側に、バルク部を内側に生地を丸めた後に、発酵工程を行い、パン生地を製造するものである。
【0011】
生地の表面層の中心部が直交する4方向に対して叩く・折る・引く工程を複数回の行われる工程とは、オイルを被覆した生地の一部分を保持し作業台の上に叩く第1の工程の時に生地において保持した側の端を第1の端部とし、長径方向に延伸した側の端を第2の端部とし、第1の端部と第2の端部の中間に位置する部分を中心部とし、中心部から長径方向と直交する短径方向の端を第3の端部、他方を第4の端部とし、第1の端部を第2の端部を越えて折る第2の工程であり、作業台に接した側の中心部が折り部の外周に位置するよう配置するようにし、第1の端部及び第2の端部を中心部の方向に生地を作業台に接したまま引いてまとめる第3の工程と、生地の第3の端部を第1の工程の一部分であると定め、中心部が作業台に接するように叩かれることを定める第4の工程であり、第4の工程の後に第1の工程及び第2の工程及び第3の工程を15回乃至30回繰り返す事により表面層のグルテン強化するものである。
【0012】
この工程を行う事により保持する生地の部分及び延伸する生地の部分がその都度90°変わるために、生地の表面層が直交する4方向に対して複数回の叩く・折る・引く工程を行う事になる。
【0013】
ここでいう仕込み水とは水であり、温度は38℃乃至45℃であり、その量は小麦粉重量の68%乃至78%である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、小麦粉、イースト、塩、砂糖などの粉の扱いを一の容器の中で可能にし、生地が容易にできる。また、オイルを被覆した生地は粘着性を抑えられ、所定の面に叩く・折る・引く工程を直行する二つの方向から行うことで短時間に生地表面強化ができ、1次発酵は表面グルテンのテンション下において短時間で生地内部のグルテン強化ができる。これにより、粉の混ぜからパンの焼き上がるまで1時間以内で可能な家庭パンができ上る。パン作りについて教授受ける側にとっても、教授する側にとっても大きなメリットとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】 本発明の一態様の容器内で粉配置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるパン生地を作る出発材料である粉をまとめ、短時間で発酵が進む方法の一例について
図1を用いて説明する。
【0017】
まず、容器を準備する。通常、容器の底面の形状が円形または長方形や正方形などがあり、底面が平坦で側面が高さ方向に平坦なもの、底面が平坦でも側面が高さ方向に曲面なものなど様々である。いずれにおいても対応することは可能だ。本実施の形態では、底面が円形で平坦であり高さ方向に直線的なものを使用する。容器の中で粉を混ぜ棒で円を描くように連続的に混ぜるという点では角のある長方形の容器に比して円形のものが理に敵っている。容器に角があれば生地が角に残りやすい。また、側面が高さ方向に曲線的な場合には、混ぜ棒と側面の間に隙間ができる為に効率は下がる。その結果、混ぜる工程に時間を要することになる。つまり、容器1のように底面が円形で平坦かつ側面が高さ方向にできる限り直線的なものが使用しやすい。容器の保温性や生地の密着性の低いものが使いやすいので、ポリスチレンやポリカーボネイトなどの樹脂製のものが望ましい。
【0018】
パン生地の材料となる小麦粉、イースト、砂糖、塩を準備する。ここでいう、小麦粉は、強力小麦粉、薄力粉、米粉、ライ麦粉などがある。それぞれにグルテンの含有量や風味が異なる。イーストは、インスタントドライイースト、生イースト、ドライイースト、天然酵母などがある。インスタントドライイーストに関しては顆粒状のものであり、そのまま本実施の形態で使用できる。一方、ドライイーストや天然酵母などについては予め下準備を施す必要がある。それを経たものであれば同様に使用できる。本実施の形態では、容器1に対する粉の配置が大切である。この小麦粉は容器1の底面と側面に接するようにして、一方が側面上部に大きく接し、他方が底面に接し側面に接しないように小麦粉2の上面が傾斜をなす斜面と成すように配置する。底面に対して小麦粉が接しない部分が残る程度に配置した方がよい。
【0019】
次に、イースト3を容器の底面に接するか小麦粉2の斜面の最も低部に配置し、砂糖4を小麦粉斜面中間部に配置し、塩5を小麦粉2の斜面上部に配置する。この時に、イースト3は砂糖4と接しないのが望ましく、塩5とイースト3は接しないようにする。もし、イースト、砂糖、塩以外の小麦粉と均一の混ざる材料を入れたい時には、砂糖と同様の斜面中間部に一緒に配置してもよい。また、容器を重量計の上にのせ、各材料を保存容器から分取、計量しながら配置することができる。余分な容器を必要としないことも利点である。もちろん、予め別容器で計量した材料を配置しても構わないし、適量を分包してある材料があればそれを使用しても構わない。
【0020】
ここに、仕込み水6を注ぐ。ここでいう仕込み水は、通常の水、牛乳と水を混ぜたもの、卵と水を混ぜたものなど様々である。なお、本実施の形態では、小麦粉と混ぜ合わせる液体を仕込み水と呼び、水及び仕込み水に至る準備の段階のものを含めて仕込み水と呼ぶ事にする。また、仕込み水の量や温度は、パン生地を作るうえで重要な条件であり、所定の条件のものを使用する。仕込み水6の全量をイースト3の上に注ぎ、イースト3の全部及び砂糖4の全部または一部を混ぜ棒で局所的に混ぜ、溶解させる。仕込み水が丁度よく一部の砂糖が浸るように砂糖の位置を調整してもよいし、砂糖が仕込み水液面より上にある時には混ぜ棒で砂糖をかき落とし対応してもよい。イースト3と砂糖4は水に対して溶解性が高いが、小麦粉は溶解性が低い。従って、仕込み水6は小麦粉2まで浸透せず、あたかも小麦粉容器の上でイースト3と砂糖4のみが溶解する。ある程度、小麦粉が混ざっても構わない。これがパン生地の仕込み水となり、仕込み水と一緒に発酵の始まったイーストが小麦粉の中に早い段階で浸透していくことになる。
【0021】
塩分濃度は、イーストの浸透圧の関係から仕込み水にとっては阻害物になる為に小麦粉2の斜面上部に配置し、イースト3と塩5とは隔離している。
【0022】
イースト3と砂糖4が溶解した段階で、仕込み水と小麦粉2と塩5を含めて容器1内部全体を混ぜ棒で混ぜる。
【0023】
混ぜ棒は、一膳の箸、スプーン、フォークなどでも良い。前述のように側面に立ち上がる容器に用いるからには、直線的な棒、箸などが望ましいが、子供などの手の大きさやもちやすさ、力の入れやすさなどを考慮して選べばよい。容器1の中身の全体を棒で混ぜると小麦粉2と砂糖4と塩5が粉の状態から全体が一つの固まりになっていく。この時に、小麦粉は、仕込み水と混ざり、浸透し、捏ねられることで含有しているグルテンが生成し、その粘着性で固まりとなることを促します。仕込み水の浸透は、早い段階で生地が発酵因子であるイーストを含むことになる。この実施の形態ではイースト3と砂糖4と塩5と仕込み水6とが容器1の中で所定の位置をとる事で、生地の粘着性に関わりなく短時間で発酵が進むことが特徴となる。この実施の形態は、小麦粉の種類、イーストの種類によらず容器の中に所定の配置を行えば、順を追って粉から手軽に生地の固まりを作ることができる。
【0024】
この方法を『材料斜面配置法』と呼んでいる。パン教室を教授する側の準備として、容器の中に各々の材料を計量し配置させたものをテーブルの上に置いておくこともできるし、参加者が集まってから粉入りの容器を配布する事もできる。すなわち一般的に使われている材料毎の小分け容器が必要なくなる。そして、手順を説明した後に仕込み水を各容器に注ぎ、パン作りを開始する事ができる。その点からも、利用価値の高い方法である。
【0025】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るパン生地を短時間で作ることができる一例について
図1、
図2、
図3、
図4を用いて説明する。
【0026】
本実施の形態では、まず小麦粉とイーストと砂糖と塩と水によりできた生地を準備する。生地の製造方法としては、実施の形態1で行った手法を用いても良いし、通常通りにボールなどでそれぞれの粉を混ぜてできた固まりでも良い。この状態では、粉が仕込み水でつながれており、固まりは大小様々な固まりの集合体である。不定形といっても良い。手で触れると粘着性がある。でんぷんとグルテンが影響している。
【0027】
まず、容器1を準備する。円形の平らな底面と縦方向に直線的な容器を用いる。ここに、小麦粉と、イーストと、砂糖と、塩を配置していく。小麦粉は強力小麦粉を使い、その量は生地として扱う重量の全量である。イーストはインスタントドライイーストであり、小麦粉重量の3%を準備する。生イーストを用いる時には小麦粉重量の7%乃至9%とする。容器1に、まず小麦粉2が斜面を成すように一方を側面上部に大きく接するように、他方を底面だけに接するように配置する。次に、容器の底面に接するようにイースト3を、斜面中間部に砂糖4を、斜面上部に塩5を配置する。この配置で、塩5、砂糖4及びイースト3は、各々が接しないようにする。
【0028】
ここに、仕込み水として水を準備する。発酵が促進しやすいことを考慮して35℃乃至42℃のもの、望ましくは40℃乃至41℃のものが良い。もちろん、材料の温度や気温との関係も考慮する必要がある。水の量は、小麦粉重量の60%乃至80%であり、70%乃至75%が望ましい。この仕込み水6の全量をイースト3の上にゆっくり注ぎ、イースト2と砂糖3の一部を混ぜ棒でゆっくり混ぜる。どちらも仕込み水に対して容易に溶解する。仕込み水にイーストが溶けたら、小麦粉2と塩5と仕込み水の全体を大きく一気に混ぜる。小麦粉が仕込み水と混ざると大きな固まりが出来てくる。混ぜ棒で固まりを刺し、容器に残った粉に固まりを押し付けるようにし、全体を一つの固まりとする。固まりになったら、混ぜ工程は終了とする。
【0029】
まず、この小麦粉の固まりにオイルを滴下し、固まりと合わせて被覆する。固まりの表面への被覆だけではなく、内部にも多少のオイルが入り込むのは構わない。これにより触れた時の粘着性がなくなり、素手で扱いが容易になる。ここで用いるオイルは、常温で液状のものがよく、代表的なものとしてはサラダオイル、オリーブオイル、米油、あまに油などである。もちろん、出来上がったパンの風味にも影響するので、それを考慮する必要がある。常温で固体のラード、バター、ショートニングなどは適さない。オイルは、生地の粘着性防止だけでなく、グルテンの伸展性を向上させ、生地のグルテン被覆膜形成を促すことができる。
【0030】
オイルで生地を被覆した後、生地の吸水時間5分を取る。
【0031】
ここからグルテンの強化方法について説明する。それは特に生地表面へのグルテン膜形成を促すものである。容器から生地を取り出し、作業台の上に置く。作業台は、木製のもの、ステンレス製のものなど様々あるが、表面が滑らかで丈夫なものが良い。その上にシリコンマットなどを敷いても良い。生地の端の一部分を指で保持し作業台30の上に叩きつける。これが第1の工程である。この時に生地を親指と人差し指と中指の3本の指で保持し、生地が円弧を描くように親指の方向に叩くと移動速度も増し、生地に伝わる衝撃も大きくなるだけでなく、方向も場所も安定する。本実施の形態では生地の所定の場所を叩くことが重要なので、安定した動作が望ましい。また、叩いた後まで継続的に生地を保持していてもよいし、最後は手を放す状態になってもよく、生地の所定の場所を叩ければよい。叩いた生地の概観図を
図2に示す。
図2Aと
図2B、
図2Cと
図2D、
図2Eと
図2Fは、それぞれの工程での作業台上方から生地を見た時の正面図と右側面図を示している。右側面図には作業台30を記載している。
【0032】
作業台30に生地を叩いた時の生地の概観が
図2Aと
図2Bである。叩かれた生地は、長径と短径を持つ楕円形状に延伸する。また、繰り返し叩く中で生地の延伸の様子は変化してくる。生地の説明の為に、保持していた方の端を第1の端部8、第1の端部と対向して長径方向に延伸した端の部分を第2の端部9、第1の端部8と第2の端部9の中間に位置する中心部10、中心部10を挟んで第1の端部と第2の端部による長径方向と直交方向にある短径方向の一方の端を第3の端部12、他方の端を第4の端部21とする。作業者は、第1の端部側に位置している。生地が作業台に叩かれた時に最初に作業台にあたる部分が中心部10であり、最も衝撃を受ける部分である。そこから生地が第2の端部の方向に延伸する。第3の端部及び第4の端部の方向への延伸は小さい。作業台30に接した生地の中心部10のグルテンは、最も強化される。この時の作業台に接しグルテンが強化される部分を表面層40、生地7の表面層以外の部分をバルク部50と呼ぶ。表面層の絵脂質はバルク部と異なており、工程が進むに従って差異は顕著になる。次に、
図2Cと
図2Dにあるように、生地7の第1の端部8を持ち上げ第2の端部を越えた位置で軽く折ると生地の中心部10が折り部の外周部にあたる。これが第2の工程である。そして、両手の指で第1の端部と第2の端部側から中心部10の方向13に生地を引く。これが第3の工程である。その時には生地7が作業台に密着させたまま引くのが良い。そうすると
図2Eと
図2Fに示すように、生地7の第1の端部8と第2の端部は生地7の内部に押し込められるのに伴い、中心部10は押し出されるよう円弧のように伸展する。それにより生地表面のグルテンが強化され、生地表面積を小さくしようとする張力14(テンション)が増す。その後、樽状になった生地7を引いた方向13と直角な方向の部分である第3の端部12を次に保持する一部分と定め、再び作業台30上に中心部10が接するように叩くことを定める。これが第4の工程である。第4の工程の後に第1の工程、第2の工程、第3の工程を行い、2度目の叩く・折る・引く工程になる。この叩く・折る・引く工程を10回から20回、時には30回表面のグルテンが強化されるまで繰り返し、最後は生地を引く第3の工程で終了する。
【0033】
2度目に生地を叩く時には、1度目に生地を引いた方向と直角な方向の部分を保持しているため、生地を叩いて延伸する方向及び生地を引いて張力を働かせる方向は1度目の方向と90度方向を変えことになる。1度目の叩きの生地の概観図が
図2Aであるので、これを用いて説明する。2度目の叩きでは第3の端部12を保持して叩くので、生地は第4の端部21の方向に延伸し、第3の端部12を折り、引くので、次の保持部分は引きと直角方向なので第2の端部9になる。第3度目の叩きでは、第2の端部9を保持して叩くので第1の端部が延伸して、叩き・折り・引く工程が行われる。第4度目の叩きでは、第4の端部を保持して叩き、第3の端部が延伸して、叩き・折り・引く工程が行われる。つまり、第1回目の叩きでは第1の端部8を保持し、第2回目の叩きでは第3の端部12を保持し、第3度目の叩きでは第2の端部9を保持し、第4回目の叩きでは第4の端部21を保持しての工程になり、保持する場所が第1の端部8から左周りに90度ずつ移動していることになる。それに従い保持した場所の対向する側つまり第1回目の叩きでは第2の端部9、第2回目の叩きでは第4の端部21、第3回目の叩きでは第1の端部8、第4回目の叩きでは第3の端部12がそれぞれ延伸する。
【0034】
なお、第1回目の叩きの保持部は第1の端部であり、第2回目の叩きの保持部は第3の端部とは、引きの方向13と右側の直角な方向に当たり、この生地の右側を保持方向することを繰り返している。もちろん、2回目の叩きの保持部は引き方向13と左側の直角な方向である第4の端部21でもよい。但し、生地のグルテン強化には、一連の工程の中で保持部を生地の右側か左側かは統一する必要がある。
【0035】
中心部の1箇所に集中して、叩く・折る・引く工程を直交する4方向に対して5回ずつ計画的に行った事になる。回数が増えてくると生地の表面層40は滑らかな状態に変化し、次第に生地を引く工程で球形に丸みを帯びやすくなっていき、生地の表面層のグルテン強化が進み張力が増加しているのがわかる。
図3に示すように中心部に対して直交する4方向の張力15が働き、グルテンの強化が行われる。これを『4方向表面グルテン強化法』と呼んでいる。中心部は叩き工程で延伸し、先回の中心部に比べ拡大した中心部ができる。ただ、本発明で繰り返し強化される中心部は折りの時の外周部に位置する部分としているので、先回の中心部から中心部拡大した部分及び先回中心部以外の周辺部は今回の叩き・折る・引く工程により所定の割合で生地内部に押し込められていく。20回の叩き・折る・引く工程の中で逐次これが繰り返され、最も強化された生地表面が生地全体を被覆する。
【0036】
これは、1度目の叩き工程後の中心部に染色を行い、叩き・折り・引き工程を進めると、回数を増すに従い染色部分が大きくなって行き広がるが15回目を過ぎると色を失っていき、染色した痕跡はほとんど見えなくなる。生地をはさみやナイフで切って観察すると、染色して色が濃い部分は生地の内部に見られる。また、生地の表面層は滑らからで粘着性はないが、内部のバルク部50はざらつき感や粘着質を感じグルテン強化が遅れているのがわかる。この事から、
図4に示すように、中心部に対して行った叩き・折り・引き工程により、グルテンは強化され生地表面の表面層40は伸展し、それは生地の内部に押し込められている事がわかっている。風船が空気を内包しているが如く、グルテン強化された表面層40が、グルテン形成の不完全なバルク部を内包している。この状態を『グルテンバルーン』と呼んでいる。
【0037】
次に、生地を丸める工程を行う。樽状の生地を改めて丸める工程を行う。生地の中心部を上にして作業台30の上に置き、容器1を被せ、作業台30の上で直怪30cmから40cmの円を描くように容器を3回から6回まわす。容器内部の生地は、作業台の面と容器の側面に当たった状態で転がされ、張りを保ちつつ生地は樽状から球形に変わる。もちろん容器を用いなくとも手で生地を転がして張りを保ちつつ丸めても構わない。丸めを終えた生地の閉じ目を下向きに容器に入れ、40℃内外の環境に置き、生地の1次発酵を10分乃至15分行う。
【0038】
一次発酵工程を経ると、生地はふっくら膨らむ。体積にして発酵前の1.5倍から2.5倍になる。つまり生地内部のイースト発酵が進み、二酸化炭素が発生する。それが強化されたグルテン膜を持つ表面層40で覆われているので、二酸化炭素が逃げる事がない証として、張りを保ったまま膨張する。この時に既に表面層40はグルテンが強化されているのでバルク部からの膨張に抗することができ、生地内部の圧力が増加する。この圧力増加が、グルテン強化の遅れた生地内部のグルテン強化を促すことになる。本実施の形態の特徴は、生地を叩く・折る・引く工程の段階では表面層のみをグルテン強化する第1段階と、グルテン強化された表面層40の下で急速な一次発酵による内部のバルク部50は急激な圧力増加が起こり内部の生地もグルテン強化される第2段階があることである。これにより、生地全体のグルテン強化を一次発酵と同時に行うことができる。すなわち、第1段階ではグルテンの一部だけを強化すればよく、一般的に厄介な捏ね作業は不要である。従来のパン生地製造工程では、生地を手で力を入れて捏ねる手法や、生地を何度も叩く手法は行われている。これらは、生地の一部の表面層という特定の部分だけグルテン強化を行うという思慮はなく、生地全体のグルテン強化を目的とするものであった。これは、生地の粘着性との闘いが必要であること、生地全体がグルテン強化された後での発酵には長い時間を要るものであった。本発明は表面層のグルテン強化を行う第1段階と、主に生地内部のバルク部のグルテン強化を一次発酵と並行して行う第2段階によるもので、従来の手法とは大きく異なるものである。家庭用製パンでは手軽に短時間でできるという点では極めて有用なものである。一次発酵を終えた生地は、好みの成型、短い二次発酵、焼成を行えば良く、手軽かつ応用自在にパン作りを楽しむ事ができる。
【実施例0039】
実施の形態2に基づいて4方向表面グルテン強化法でフォカッチャを製造した。強力小麦粉100g、インスタントドライイースト小さじ1杯、塩小さじ1/3杯、砂糖小さじ1杯、水(41℃)72g、オリーブオイル5gを準備した。容器は円形の底面を持ち、側面は高さ方向に対して直線的なものを用いた。容積710ミリリットルであり、底面直径に対する側面高さの比は、0.81であった。直径容器には、
図1に示すように小麦粉の一方を容器側面上部に大きく接し、他方はほぼ底面のみに接するように斜面に配置し、インスタントドライイーストを底面上に、砂糖を中間部、塩を上部に配置した。ここまでを準備時間として、ここから時間計測を始めた。
【0040】
容器に仕込み水としての水をインスタントドライイースト上に注ぎ、砂糖と共に1膳の箸で混ぜ、溶解したところで容器全体を一気に混ぜた。固まりができるまで1分だった。ここにオリーブオイルを注ぎ、固まりと軽く混ぜ、容器に蓋をして5分の吸水時間をおいた。生地の叩き・折り・引き工程20回による生地の表面の強化に2分、生地を丸めた生地を40℃環境下においての1次発酵は15分だった。ここまでで25分だった。次に、生地を麺棒で直径16cmに伸ばし、指で凹みを10箇所程度設け、そこに輪切りにしたオリーブを押し込み、オリーブオイルをかけるなどの成型に3分、室温で2次発酵を5分、焼き工程はオーブン200℃で15分だった。水の注入から焼き上がりまで49分だった。
【0041】
(比較例)
パン生地のグルテン強化を手捏ねでおこなった比較例について記述する。強力小麦粉100g、インスタントドライイースト小さじ1杯、塩小さじ1/3杯、水72g(41℃)、オリープオイル小さじ5gを準備した。容器には、
図1に示すように小麦粉一方を容器側面上部に大きく接し、他方はほぼ底面のみに接するように斜面に配置し、インスタントドライイーストを低部、砂糖を中間部、塩を上部に配置した。ここまでを準備時間として、ここから時間計測を始めた。
【0042】
仕込み水として水をインスタントドライイースト上に注ぎ、一部の砂糖共に箸で混ぜ、溶解したところで客器全体を一気に混ぜた。固まりができるまで1分だった。ここにオリーブオイルを注ぎ、固まりと混ぜ、容器に蓋をして5分の吸水時間5分だった。
【0043】
生地を作業台に載せ、手の平で生地を作業台にこすり付け、伸ばすことを繰り返して手捏ね作業を行った。オリーブオイルと混ぜた生地でではあるが、手捏ねでは生地が手にまつわり付いた。その都度ヘラを用いかき落としながらグルテン強化の作業を行った。その時間は12分であり、4方向表面グルテン強化法の6倍だった。生地全体にゲルテンが強化され表面の滑らかさに加え、生地の内部も薄く伸ばすことができた。生地を手で丸めた。1次発酵時間は30分を要した。これは4方向表面グルテン強化法の2倍だった。発酵時間が長かったのは、生地全体でグルテン強化されているために表面及び内部が固かったと推察された。焼き上がりまでの時間は80分だった。4方向表面グルテン強化法に比べ60%増しだった。