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  • 特開-亜塩素酸水を調製するための組成物 図1
  • 特開-亜塩素酸水を調製するための組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182924
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】亜塩素酸水を調製するための組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/08 20060101AFI20221201BHJP
   A01N 43/64 20060101ALI20221201BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20221201BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20221201BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20221201BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20221201BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20221201BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20221201BHJP
   C01B 11/04 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C01B11/08
A01N43/64 105
A01N59/08 A
A01N25/00 102
A01P1/00
C02F1/50 531J
C02F1/50 531M
C02F1/50 531P
C02F1/50 531Q
C02F1/50 532C
C02F1/50 532H
C02F1/50 532D
C02F1/50 540B
C02F1/50 540E
A61L9/01 F
A61L9/14
C02F1/50 560Z
C01B11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021113163
(22)【出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】520135954
【氏名又は名称】和日庵株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅美
(72)【発明者】
【氏名】久保田 隆男
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 葵
(72)【発明者】
【氏名】宮田 善之
【テーマコード(参考)】
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CB01
4C180EA53X
4C180EA56X
4C180EA58X
4C180EB05Y
4C180EB15Y
4C180EB17X
4C180GG06
4C180GG08
4C180KK10
4C180LL20
4H011AA01
4H011BA01
4H011BB09
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA03
(57)【要約】
【課題】 真菌などの病原体などの有効な除去手段を提供する。
【課題の解決手段】 次亜塩素酸水のpHを5~7.5とし、かつ、遊離塩素分子の濃度を有効塩素量に比して少なくし、これを酸化して亜塩素酸と為し用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝塩を含む次亜塩素酸と、酸化性化合物からなる亜塩素酸生成システム。
【請求項2】
(1)水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)及び酸化性化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の亜塩素酸生成用システム。
【請求項3】
前記生成する次亜塩素酸において、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の亜塩素酸生成用システム。
【請求項4】
前記遊離塩素分子の濃度は、前記次亜塩素酸の濃度に対して、0.1倍以下であることを特徴とする、請求項1~3何れか1項に記載の亜塩素酸生成用システム。
【請求項4】
前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の亜塩素酸生成用システム。
【請求項5】
前記有効塩素濃度が、DPD法による試験法またはKI法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(1)水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物であって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)より生成された次亜塩素酸水溶液に酸化性物質を加えてなる亜塩素酸水。
【請求項7】
酸化性物質が過酸化水素水である、請求項6に記載の亜塩素酸水。
【請求項8】
亜塩素酸塩を緩衝塩とともに溶かし、リン酸水溶液又はクエン酸水溶液pH調整することを特徴とする、亜塩素酸発生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌消毒用の亜塩素酸水及び該亜塩素酸水を生成するための組成物に関し、更に詳細には、保存安定性にすぐれる微生物除染及び漂白用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス、細菌、真菌などの病原体の除染は病原体による感染症の予後措置及び予防措置上重要な技術であり、これまで消毒用エタノールや、ホルマリン燻蒸、次亜塩素酸塩を主成分とする汎用殺菌剤などで行われてきている。しかしながら、室内全体を安全に殺菌する方法はこれまで知られておらず、わずかに、電解次亜塩素酸を噴霧する方法が知られているが、非電離型次亜塩素酸については、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により生じるが、この様に生成した非電離型次亜塩素酸水は、一時的にしか存在せず、すぐに塩素と水に分解することも知られている。この為、塩素による毒性発現が問題となっていた。一方、気体である二酸化塩素も有効な殺菌消毒剤であるが、これも又安全性上の懸念があり、その使用には制限があった。更に、二酸化塩素を水に溶かすことにより生じる亜塩素酸は、二酸化塩素同様の効果が存したが二酸化塩素と次亜塩素酸とに分解するため、安定性と効果に問題が存した。
【0003】
そのほかには、次亜塩素酸乃至はその塩の毒性があまり発現せず、殺菌作用にすぐれる非電解非電離型次亜塩素酸を使用時に発生させる、トリクロロイソシアヌル酸を利用した錠剤と、それを水に溶かすによって生じる液をドライミスト化し、広域空間の殺菌に用いる方法が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。また、トリクロロイソシアヌル酸については、殺菌剤への応用は既に知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6を参照)。さらに、ジクロロイソシアヌル酸を中心とする塩化イソシアヌル酸類に消臭・殺菌作用があることも知られている(特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11を参照)。更にこれらの次亜塩素酸を水溶液中非電界型とし、安全性と効果とを向上せしめる技術も開発されている(特許12を参照)。
【0004】
また、亜塩素酸とジクロロイソシアヌル酸とを反応させる技術は既に知られているし(特許13を参照)、かかる二酸化塩素が感染予防に有用なことも知られている(特許14、非特許文献1を参照)。
【0005】
また、非電離型亜塩素酸については全く知られておらず、かかる非電離型亜塩素酸が優れた殺菌作用を有していることも知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-047511号公報
【特許文献2】特願2018-047512号公報
【特許文献3】特開2019-089781号公報
【特許文献4】特開2019-076821号公報
【特許文献5】特開2019-004413号公報
【特許文献6】特開2018-162232号公報
【特許文献7】特開2000-247806号公報
【特許文献8】特開2001-300545号公報
【特許文献9】特開平09-208107号公報
【特許文献10】特開平10-168425号公報
【特許文献11】特開2002-172155号公報
【特許文献12】特許6871663号公報
【特許文献13】特開2015-167861号公報
【特許文献14】特開2013-501146号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】赤井仁志ら「空気・衛生工学論文集」122巻、2007、1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下為されたものであり、病原体に対して有効で安全な除去手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況に鑑みて、病原体に対して有効で安全な除去手段を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、本発明者らは、非電離型の亜塩素酸が優れた微生物除去性と安全性を有することを見出した。
【0010】
このような非電離型亜塩素酸が、毒性を示さずに、有効な除菌効果を示すのは、除菌効果が非電離型亜塩素酸そのものにあり、これが分解してできる塩素分子や活性酸素に依存しないためである。更に、安定性が高いため、毒性の高い遊離の塩素分子は発生しにくい。非電離型亜塩素酸は、緩衝塩によって水素イオンが電離しない形に安定化されており、かかる亜塩素酸における水素原子は酸としての性格よりも、酸素原子とともに水酸基に近い性質を示すことになる。この様な亜塩素酸については、塩素分子の生成量及び二酸化塩素の生成量が少ないと言うことを本発明者らは見出している。
加えて、病原体に対する除染効果も、塩素分子を有効成分とする、次亜塩素酸ナトリウムや電解次亜塩素酸水よりも高いことを本発明者らは見出しているし、生体に対する毒性と、病原体に対する毒性の差が大きいことも見出している。
【0011】
従って、亜塩素酸類の使用に際しては、この様な非電離型亜塩素酸が、塩素分子に対してどれだけ多く存在しているかが、安全に効果が高く使えるかの指標になるが、この点について言究した公表資料は存在しない。
【0012】
このような状況に鑑みて、病原体に対して有効で安全な除去手段を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、非電離型亜塩素酸を主成分とし、遊離の塩素分子の含有量が少ない亜塩素酸水を鑑別し用いることにより、この様な目的が達成されることを見出した。
【0013】
本発明は、上述の本発明者らにより初めて見出された知見に基づき完成されたものである。すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下に示すとおりである。
【0014】
<1> pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が、有効塩素量に比して少ないことを特徴とする、亜塩素酸水。
<2>pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、<1>に記載の次亜塩素酸水。
<3> 前記定量上限が10ppmであることを特徴とする、<3>に記載の次亜塩素酸水。
<4> 亜塩素酸の濃度が50~500ppmであることを特徴とする、<1>~<3>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<5> 緩衝塩を含むことを特徴とする、<1>~<4>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<6> 緩衝塩の存在下、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上の加水分解によって生じた次亜塩素酸を酸化して得ることを特徴とする、<1>~<5>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<7> 1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を5分以上攪拌混合することで得た組成物を水性媒体で希釈して製造される次亜塩素酸水を酸化剤で酸化して得られることを特徴とする、<1>~<6>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<8> 含まれる亜塩素酸が、電解型亜塩素酸又は非電解型亜塩素酸であることを特徴とする、<1>~<8>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<9> 遊離塩素分子の濃度が、次亜塩素酸の濃度の0.1倍以下であることを特徴とする、<1>~<8>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<10>前記酸化剤が過酸化水素水であることを特徴とする、<1>~<9>何れか1項に記載の亜塩素酸水。
<11> 亜塩素酸の効果と毒性の判別のための試験紙であって、有効塩素濃度を測定する試験片、pHを測定する試験片及び遊離塩素分子濃度を測定する試験片とを独立に備えた、試験紙。
<12> <1>~<10>の何れか一項に記載の亜塩素酸水に該当するか否かを判別するために用いられることを特徴とする、<11>に記載の試験紙。
<13> 前記有効塩素濃度を測定する試験片が、KI法による有効塩素量測定のための試験片又はDPD法による有効塩素量測定のための試験片であり、遊離塩素分子量を測定する試験片がシリングアルダジン試験片である、<11>又は<12>に記載の試験紙。
<14> 試験紙における好適範囲が亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、pHが5~7であり、遊離塩素分子が0~10ppmであることを表示した比較色票が添付されていること特徴とする、<10>~<13>の何れか一項に記載の試験紙。
<15> 判別すべき亜塩素酸が、電解型亜塩素酸又は非電解型亜塩素酸であることを特徴とする<10>~<14>の何れか一項に記載の試験紙。
<16> 判別すべき次亜塩素酸が、ジクロロイソシアヌル酸塩又はトリクロロイソシアヌル酸を、緩衝塩の存在下、加水分解して得たものである、<10>~<15>の何れか一項に記載の試験紙。
<17> <10>~<16>の何れか一項に記載の試験紙により、効果があり、安全性が高いと判別された亜塩素酸水。
<18> <10>~<16>の何れか一項に記載の試験紙により、pHが5~7であり、遊離塩素分子の濃度が0~10ppmであることをもって、効果があり安全性が高いと判別される、<17>に記載の亜塩素酸水。
<19> <10>~<16>の何れか一項に記載の試験紙により、亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、pH5~7.5であり、遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であると判別される、亜塩素酸水。
<20> 遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されることを特徴とする、<18>又は<19>に記載の亜塩素酸水。
<21> シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さないことを特徴とする、<20>に記載の亜塩素酸水。
<22> 病原微生物除染のために用いられることを特徴とする、<1>~<10>及び<17>~<21>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<23> 前記病原微生物が真菌であることを特徴とする、<22>に記載の亜塩素酸水。
<24> 前記真菌が酵母であることを特徴とする、<23>に記載の亜塩素酸水。
<25> 噴霧して用いられることを特徴とする、<1>~<10>及び<17>~<24>の何れか一項に記載の亜塩素酸水。
<26> (1)1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物と、(2)過酸化水素水からなる亜塩素酸発生システム。
<27> 水性媒体によって1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物を希釈し、過酸化水素水を加えて酸化したとき、<1>~<10>及び<17>~<25>の何れか一項に記載の亜塩素酸水を調製できる、亜塩素酸発生システム。
<28> 水性媒体によって1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物を希釈し、過酸化水素水を加えて酸化したとき、<1>~<10>及び<17>~<25>の何れか一項に記載の亜塩素酸水を調製できる、<25>に記載の亜塩素酸発生システム。
<29> 前記希釈が、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物に対して100~10000質量倍の水性媒体による希釈であることを特徴とする、<27>又は<28>に記載の亜塩素酸発生システム。
<30> 1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を10質量%以上と、2)緩衝塩を10質量%以上と、を含むことを特徴とする<26>~<29>の何れか一項に記載の亜塩素酸発生システム。
<31> (1)1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を5分以上攪拌混合することで製造される、組成物を水性担体で溶解せしめ、(2)過酸化水素で酸化する<26>~<30>いずれか1項に記載の亜塩素酸発生システム。
<32> 水性媒体によって希釈したとき、pH5~7.5であり、次亜塩素酸の濃度が50~500ppmであり、遊離塩素分子の濃度が有効塩素濃度に比して少なく、前記遊離塩素分子の濃度が20ppm以下であり、有効成分が非電離型次亜塩素酸である、次亜塩素酸水を調製できる組成物と、過酸化水素水とからなる亜塩素酸発生システムであって、
1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物(但し、前記水性媒体と前記組成物の何れにもアルカリ金属又はアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれない。)である亜塩素酸発生システム。
<33> 前記遊離塩素分子の濃度が10ppm以下であることを特徴とする、<32>に記載の亜塩素酸発生システム。
<34> 前記遊離塩素分子の濃度は、前記次亜塩素酸の濃度に対して、0.1倍以下であることを特徴とする、<32>または<33>に記載の亜塩素酸発生システム。
<35> 前記遊離塩素分子の濃度がシリングアルダジン試薬との接触時間2秒以内の比色で決定されるものであることを特徴とする、<32>~<34>の何れか一項に記載の亜塩素酸発生システム。
<36> 前記有効塩素濃度が、KI法による試験法またはSMT法による試験片で定量されるものであることを特徴とする、<32>~<35>の何れか一項に記載の亜塩素酸発生システム。
<37>亜塩素酸塩を緩衝塩とともに溶かし、リン酸水溶液又はクエン酸水溶液pH調整することを特徴とする、亜塩素酸発生システム。
<38> 前記亜塩素酸水が、真菌の除染のために用いられることを特徴とする、<32>~<36>の何れか一項に記載の亜塩素酸発生システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の亜塩素水及びそれを生成する組成物と過酸化水素などの酸化剤からなるシステムによれば、安全で、真菌などの病原体の有効な除去手段を提供することができる。また、本発明の試験紙によれば、そのような有効で安全な除去手段を判別する手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】 実施例1の試験紙を表す図である。1はKI法試験紙片、2はpH試験紙片、3はシリングアルダジン試験紙片を表す。
図2】試験紙判別のための色票を示す図である。適正な数値を楕円で囲んである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<亜塩素酸を発生させるための次亜塩素酸水>
本発明のシステムを構成する次亜塩素酸水はpH5~7.5である。より好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、本発明の次亜塩素酸は、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。pHの値は通常市販されているpH測定計またはpH試験紙により測定することができる。
【0018】
本発明に用いる次亜塩素酸の遊離塩素分子の濃度は、有効塩素濃度に比し低く、具体的には20ppm以下であり、好ましくは10ppm以下であり、より好ましくは9ppm以下、さらに好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。本発明の次亜塩素酸の遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。これは従来次亜塩素酸の有効成分が遊離の塩素分子であったところ、本願発明の次亜塩素酸では、非電離型の次亜塩素酸そのものであるためである。これより、後記のごとく誘導される亜塩素酸も、同様に非電離型であり、遊離塩素分子濃度が極めて低い。
【0019】
遊離の塩素分子の濃度は、シリングアルダジン試薬により測定することができる。シリングアルダジンは、分子状の塩素と非電離状態の次亜塩素酸のような分子に結合した塩素の両方に反応し、且つ、両者との反応性に差があり、まず、分子状の塩素に対して発色し、次いで、結合型の塩素に反応し発色する。具体的には、1~2秒程度で分子状の塩素に対して発色し、次いで3秒以上で結合型の塩素に反応する。言い換えれば、接触後2秒以内の発色により、次亜塩素酸水における分子状の塩素濃度を知ることができる。非電離型亜塩素酸では、酸素と塩素の結合が強いため、シリングアルダジンでは呈色反応を起こさない。言い換えれば、シリングアルダジンにより呈色反応を示さないことにより、非電離型亜塩素酸の生成を確認することができる。
【0020】
また、本発明に用いる次亜塩素酸水は、シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さない実施の形態としてもよい。上述のとおり、シリングアルダジン試験紙によれば、接触後2秒以内の発色により、分子状の塩素濃度を知ることができる。そして、市販のシリングアルダジン試験紙(日産化学工業株式会社製、「残留塩素試験紙 アクアチェック3」)の呈色による定量限界は10ppmである。したがって、次亜塩素酸水を当該シリングアルダジン試験紙に接触させたときに2秒以内に定量上限を示す呈色を示さない場合、その次亜塩素酸水の遊離塩素濃度は、10ppm以下であるといえる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、亜塩素酸へと誘導される、次亜塩素酸の濃度は、好ましくは10ppm以上、より好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは150ppm以上である。
また、本発明の好ましい実施形態では、次亜塩素酸の濃度は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0022】
遊離塩素分子の濃度は、次亜塩素酸の濃度に対して、好ましくは0.1倍以下であり、より好ましくは0.05倍以下であり、より好ましくは0.02倍以下である。
【0023】
次亜塩素酸水に含まれる次亜塩素酸は、電離型次亜塩素酸と非電離型次亜塩素酸の何れでも良い。好ましくは非電離型次亜塩素酸を含む実施の形態とする。より好ましい実施の形態では、非電離型次亜塩素酸の濃度が、上述した次亜塩素酸の好ましい濃度範囲にある。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明に用いられる次亜塩素酸水は緩衝塩を含む。緩衝塩としては、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸が分解して出来るイソシアヌル酸や、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。
【0025】
本発明の亜塩素酸の生成に用いられる次亜塩素酸水は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩と、を含む組成物を水性媒体で希釈して製造することができる。これに対して、最終濃度が次亜塩素酸と同程度になるように過酸化水素を加えることにより、本発明の亜塩素酸へと誘導することができる。
【0026】
上記1)と2)の成分を好ましくは5分以上、より好ましくは6分以上、さらに好ましくは7分以上、さらに好ましくは8分以上、さらに好ましくは9分以上、攪拌混合して得た組成物を水性媒体で希釈して製造された次亜塩素酸水が、好ましい実施の形態として挙げられる。水性媒体としては、水又は水溶液を例示することができ、水溶液としては酸性水溶液を好適に例示することができる。上記攪拌混合は、公知の何れの手段で実施してもよいが、ヘンシェルミキサーによる攪拌混合を好適に例示することができる。
その他、上記組成物の詳細については後述する。
【0027】
本発明の亜塩素酸水は、真菌などの病原微生物の除染のために用いられることが好ましい。特に真菌、より具体的には、酵母類の除染のために用いられることが好ましい。胞子を作り除去しにくい酵母類をも除去できることから、芽胞菌や細菌、ウイルスの除去にも用いることができる。非電離型であるので、有効性が高く、且つ、生体毒性が低い。
【0028】
本発明の亜塩素酸水は、噴霧して用いる形態とすることが好ましい。噴霧手段は特に限定されない。ポンプスプレーによる噴霧であってもよいし、超音波噴霧器によるドライミスト状での噴霧であってもよい。噴霧形態にて提供される亜塩素酸水によれば、空間消毒が可能となる。
【0029】
<組成物>
本発明は次亜塩素酸水を調製することができる組成物も構成要素とする。
本発明の一つの実施形態は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む、組成物と、酸化性物質、例えば過酸化水素を構成要素するものである。即ち、前記組成物を水性担体に溶解せしめ次亜塩素酸を生成させた後、過酸化水素のような酸化性物質を加えることにより、亜塩素酸へと誘導できる。かかる非電離型亜塩素酸はシリングアルダジンに呈色反応を示さず、KI法による呈色反応を示すためこの2つの呈色反応によりその生成具合を知ることができる。
【0030】
また、本発明の一つの実施形態では、水性媒体によって希釈したときに、上述した本発明の構成要素の次亜塩素酸水を調製できる組成物である。具体的には、本発明は、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む組成物であって、3)水性媒体で希釈したときのpHが5~7.5であり、4)遊離の塩素濃度が10ppm以下である、組成物についても構成要素とする。
本発明の亜塩素酸性性に用いる組成物は、非電離型亜塩素酸の有効成分としての効力を最大限発揮させる観点から、アルカリ金属の亜塩素酸塩とアルカリ土類金属の亜塩素酸塩を含まないことが好ましい。
【0031】
上記水性媒体としては、水又は水溶液を例示することができ、水溶液としては酸性水溶液を好適に例示することができる。また、水性媒体による希釈率は、好ましくは100質量倍以上、より好ましくは200質量倍以上、さらに好ましくは500質量倍以上とすることができる。また、水性媒体による希釈率は、好ましくは10000倍以下、より好ましくは8000倍以下、さらに好ましくは6000質量倍以下、さらに好ましくは4000質量倍以下、さらに好ましくは2000質量倍以下、さらに好ましくは1000質量倍以下とすることができる。
水性媒体は、非電離型次亜塩素酸の有効成分としての効力を最大限発揮させる観点から、アルカリ金属の次亜塩素酸塩とアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含まないことが好ましい。
【0032】
一つの実施形態として、1)トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上と、2)緩衝塩を含む組成物であって、3)500質量倍の水を加えたときのpHが6~7.5であり、4)遊離の塩素濃度が10ppm以下である、ウイルス除染用の組成物を酸化することが挙げられる。
【0033】
本発明の主旨は、前述のごとく、安定で、使用しやすく、安全性の高い病原微生物除去用の組成物を提供することにある。この実現方法として、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩の1種乃至は2種以上を、緩衝塩とともに製剤化し、必要に応じて、用時に水で溶解し、非電離型次亜塩素酸を発生せしめ、しかる後に過酸化水素などの酸化性物質で酸化することが好ましい。
また、逆に亜塩素酸ナトリウムなどの亜塩素酸塩を緩衝塩とともに水性担体に溶解せしめ、しかる後に、リン酸やクエン酸などの有機酸の水溶液でpHを調整しても同様の非電離型亜塩素酸ができる。かかる技術も本発明に属する。
【0034】
このように発生せしめた亜塩素酸は非電離型の水溶液として、病原微生物除染に適用される。このような水溶液の持つべき要件は、以下の(i)及び(ii)の2点である。
【0035】
(i)pH5~7.5である。
好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。
【0036】
(ii)遊離の塩素分子の濃度が20ppm以下の域であれば、10ppm以下である。
遊離の塩素分子の濃度は、好ましくは9ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。また、遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。
また、有効塩素濃度との関係においては、有効塩素濃度に対して10%以下が好ましく、5%以下が更に好ましい。
後述の本発明の製造法によれば、遊離の塩素は0.1乃至は0.5ppm程度に抑えることができる。
【0037】
さらには、以下の(iii)の要件を満たすことが好ましい。
(iii)KI法による有効塩素量が10ppm以上である。
有効塩素量は、好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは150ppm以上である。また、有効塩素量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0038】
このような数値範囲に本発明の組成物を収めることにより、水素イオンと、亜塩素酸イオンに電離しない、非電離型亜塩素酸を形成せしめ、病原微生物除去効果と、安全性を高めることが出来る。このような効果をもたらす理由は、病原微生物に対して、塩素分子が作用するのではなく、亜塩素酸が直接作用するためと考えられる。
【0039】
このような組成物は、水溶液の形態も取ることができるし、粉末組成物或いは錠剤のような固形製剤組成物とし、用時に水性担体に溶解させて次亜塩素酸を生成せしめ、過酸化水素水で酸化して使用することもできる。例えば、固形製剤を仮定した場合であって、1Lの水性担体に溶解させて使用する使用形態を考えれば、200ppm程度の次亜塩素酸を生成せしめるには、200~300mgのトリクロロイソシアヌル酸、乃至は、300~500mgのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが必要となる。過酸化水素は重量に換算して200~500mgが好ましい。
【0040】
組成物におけるジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。
また、組成物におけるジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
上記含有量の数値は、好ましくは組成物に含まれる水以外の成分の総量に対する含有量である。
【0041】
ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を用いて、この様な非電離型次亜塩素酸を生成するためには、これらに対して0.1~5当量の緩衝塩を用いることが好ましい。緩衝塩としては、分解して出来るイソシアヌル酸、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。かかる成分は、常法に従い処理し、粉末、顆粒、錠剤に加工される。本発明の固形組成物としては、これらのいずれもが利用できる。
【0042】
組成物における緩衝塩の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。
また、組成物における緩衝塩の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
上記含有量の数値は、好ましくは組成物に含まれる水以外の成分の総量に対する含有量である。
【0043】
本発明の微生物除去用の亜塩素酸を誘導すべき組成物では、上記成分以外に、崩壊性の調整や、造粒性の向上、付着性の抑制などの目的で、通常製剤化に使用される任意成分を含有することが出来る。このような成分としては、例えば、ポリエチレングリコールのような多価アルコール、ラウロマクロゴールのような界面活性剤、ヒプロメロースのようなセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウムのような滑択剤などが好適に例示できる。
【0044】
これらの成分は、常法にしたがって処理することにより、顆粒、錠剤などの固形製剤、希釈して用いる濃縮タイプの液剤などに加工することができる。
本発明の好ましい実施の形態では、1)ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩と、2)緩衝塩を含む処方成分を好ましくは5分以上、より好ましくは6分以上、さらに好ましくは7分以上、さらに好ましくは8分以上、さらに好ましくは9分以上、攪拌混合することで組成物を調製することができる。好ましくは、当該攪拌混合の工程においては、水を添加しない。また、当該攪拌混合は、公知の何れの手段で実施してもよいが、ヘンシェルミキサーによる攪拌混合を好適に例示することができる。
上記の時間範囲にて攪拌混合を行うことによって、組成物を水性媒体に溶解したときに生じる遊離の塩素分子の濃度を低減することができる。
【0045】
このようにして製剤化された本発明の亜塩素酸誘導用の組成物を、水性媒体で溶解或いは希釈することにより発生する非電離型次亜塩素酸は、次亜塩素酸塩と異なり、滅菌性は維持するものの、生体に対する毒性は大きく軽減し、錠剤そのもののLD50値はマウスに対して1g/匹(推定100g/Kg)を越える。次亜塩素酸ソーダのような電解型では1g/Kgであること(http://www.jsia.gr.jp/data/naclo.pdf)に比べて、格段に低いことがわかる。また、液性は中性乃至は微酸性(pH5~7.5)、好ましくは中性(pH6~7)であるため、アルカリによる腐食性も存しない。
【0046】
かかる技術について、以下に説明を加える。トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸、それらの塩は、定められた水分量に対し、最終の発生する非電離型次亜塩素酸の濃度が100~500ppm、より好ましくは、150~300ppmに設定することが好ましい。このような形態にするためには、水1Lに溶かす想定であれば、50~500mgが好ましく、100~300mgがより好ましい。
【0047】
前記、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸を水に溶かしたときに、電離型ではなく非電離型の次亜塩素酸にとどめる作用は、前記緩衝塩による。この作用は過酸化水素を加え亜塩素酸と為した後も継続する。
【0048】
<試験紙>
本発明は、次亜塩素酸の効果と毒性の判別のための試験紙であって、有効塩素濃度を測定する試験片、pHを測定する試験片及び遊離塩素分子濃度を測定する試験片とを独立に備えた、試験紙にも関する。
【0049】
ここで「試験片」とは少なくとも呈色部を含む試験紙及びその一部を意味する。有効塩素濃度を測定する試験紙の呈色部と、pHを測定する試験紙の呈色部と、遊離塩素分子濃度を測定する試験紙の呈色部が、同一の試験紙上に設けられた試験紙(図1参照)も、本発明の範囲に含まれる。また、上記3つの試験紙を互いに独立して備える試験紙のセットも本発明の範囲に含まれる。
【0050】
本発明の主旨は、前述のごとく、安定で、使用しやすく、安全性の高い病原微生物除染用の組成物を提供することにある。そのため、安全性が高く、効果の高い次亜塩素酸を確実に判別し、亜塩素酸へと誘導し除染に用いることができることを確認し、除染に用いることを目的とする。
【0051】
この実現方法として、電解次亜塩素酸水、トリクロロイソシアヌル酸を緩衝塩、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩の1種乃至は2種以上を、緩衝塩とともに製剤化し、水溶液とした非電解型次亜塩素酸水を酸化し亜塩素酸となしたものについて、安全性と、除染効果を判別することが好ましい。このよう亜塩素酸水は、ウイルス除染や病原体除染に適用される。
【0052】
このような安全性が高く、効果が高い亜塩素酸水の持つべき要件は以下の(i)~(iii)の3点である。
【0053】
(i)pH5~7.5である。
好ましくはpH6以上、さらに好ましくはpH6.3以上である。また、好ましくはpH7.3以下であり、より好ましくはpH7以下である。
【0054】
(ii)遊離の塩素分子の濃度が20ppm以下の域であれば、10ppm以下である。
遊離の塩素分子の濃度は、好ましくは9ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは4ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。また、遊離塩素分子の濃度は0ppmであってもよい。
【0055】
(iii)有効塩素量が10ppm以上である。
有効塩素量は、好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上、さらに好ましくは150ppm以上である。また、有効塩素量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0056】
上述の(i)~(iii)の3点を同時に確認、判別することが好ましい。このためには、これらの数値域で、的確な呈色反応を示す物質をコートした試験紙を合わせて一枚の試験紙に加工することが好ましい。
【0057】
(i)pHを測定する手段については、通常市販されているpH試験紙を用いることもできるし、チモールブルーなどの試薬をアルコールなどに溶解し、紙上に噴霧コートし調製した試験紙を用いることもできる。
【0058】
(ii)遊離の塩素濃度を測定する手段としては、シリングアルダジンを呈色薬に用いることが好ましく、シリングアルダジンを呈色試薬としてコートした試験紙を用いることもできる。試験紙は、シリングアルダジンを溶剤に溶解し、紙上に噴霧し試験紙を調製することもできる。
【0059】
シリングアルダジンは低濃度の有効塩素濃度を測定する呈色であるが、次亜塩素酸由来の塩素に対する呈色反応の速度と、遊離の塩素分子に対する呈色反応の速度が異なり、接触後3秒以内に比色すると遊離の塩素分子の濃度が測定できる。市販の試験紙(日産化学工業株式会社製、「残留塩素試験紙 アクアチェック3」)においては、上限は10ppmである。これを越えると黒み帯びた色になり、濃度の上昇に応じた変化を示さない。更に、亜塩素酸に対しては何ら呈色反応を示さないので、次亜塩素酸の亜塩素酸への変換の度合いを確認することもできる。
【0060】
(iii)有効塩素量を測定する手段については、KI法あるいはDPDといった試薬が知られている。これらを試験紙に加工した製品も販売されており、これを用いることもできるし、これらの試薬をアルコールに溶解し、紙媒体にコートすることもできる。
【0061】
これらの試験紙を、市販品であれば、呈色部を2~6mm×2~6mmの小片に切り出し、2~10mm×30~100mmの紙小片に順次両面テープなどで貼付することにより鑑別試験紙が製造できる。試験紙については、呈色程度とこれらの数値を照らし合わせる基準色票を添付することが好ましい(図2)。
【0062】
本発明の試験紙による判別の対象となる次亜塩素酸水、亜塩素酸水は、塩化ナトリウムを加水分解して得たものでもよいし、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムで加水分解したものでもよい。特に好ましくは、遊離の塩素分子、言い換えれば、分子状の塩素の存在が少ない、ジクロロイソシアヌル酸及び/またはそのアルカリ金属塩乃至はトリクロロイソシアヌル酸を炭酸塩、有機酸塩、ホウ酸塩などの緩衝塩の存在下加水分解して発生させたもの及びそれを過酸化水素で酸化したものが好ましい。
【0063】
上述した(i)~(iii)に示したような数値範囲に次亜塩素酸水を収めることにより、水素イオンと、次亜塩素酸イオンに電離しない、非電離型次亜塩素酸を形成せしめ、これより誘導した亜塩素酸は、病原体除去効果と、安全性を高めることが出来る。このような効果をもたらす理由は、ウイルスに対して、塩素分子が作用するのではなく、亜塩素酸が直接作用するためと考えられる。
【0064】
本発明は、上記試験紙によって、効果があり、安全性が高いと判別された亜塩素酸水にも関する。具体的には、本発明は、上記試験紙によって、上記(i)及び(ii)の条件、より好ましくは上記(i)~(iii)の全てに当てはまることが判別された次亜塩素酸水より誘導された亜塩素酸にも関する。
【0065】
このような次亜塩素酸水をジクロロイソシアヌル酸ナトリウム及び/又はトリクロロイソシアヌル酸を加水分解して次亜塩素酸を調製する場合、200ppm程度の次亜塩素酸を生成せしめるには、200~300mgのトリクロロイソシアヌル酸、乃至は、300~500mgのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが必要となる。
【0066】
ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸及びこれらの塩から選ばれる1種乃至は2種以上を用いて、この様な非電離型次亜塩素酸を生成するためには、これらに対して0.1~5当量の緩衝塩を用いることが好ましい。緩衝塩としては、分解して出来るイソシアヌル酸、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような炭酸水素塩、クエン酸、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素1ナトリウムのようなリン酸塩、ホウ酸、乳酸、乳酸ナトリウムのような乳酸塩などが好適に例示できる。硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムなどの強酸強塩基の塩も系を安定させるので緩衝塩に分類される。かかる成分は、常法に従い処理し、粉末、顆粒、錠剤に加工される。本発明の構成要素の固形組成物としては、これらのいずれもが利用できる。
【0067】
本発明の試験紙により効果があり、安全性が高いと判別された亜塩素酸水の一つの実施形態は、上記試験紙を用いて呈色反応をさせた場合、標準色票との比較において、(i)pHが6~7、更に好ましくは、6.55~7であること、(ii)遊離の塩素が20ppm以下、域であれば0~20ppmであること、より好ましくは10ppm以下、域であれば0~10ppmであること、更に好ましくは8ppm以下、域であれば0~8ppmであること、(iii)有効塩素量が10~1000ppm、より好ましくは50~500ppmであること、の3点を充足する。
【0068】
以下、実施例を示して、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例0069】
<試験紙の作成>
6mm×50mmの紙片に、市販のSBT法の有効塩素試験片6mm×6mm、市販の万能試験片6mm×6mm、シリングアルダジン1mgを1mlのジメチルホルムアミドに溶解し、これを10mlのメタノールで希釈した液をA4の画用紙に均一に噴霧し、溶剤を揮散させ、試験紙を作成し、これから6mm×6mmの紙片を切り出し、これらを順次両面テープで貼付し、本発明の試験紙を作成した。
【実施例0070】
<トリクロロイソシアヌル酸錠の作成>
以下に示す処方に従って、即ち、処方成分をヘンシェルミキサーで10分間、混合した後、1gを秤量し、打錠機で打錠して錠剤を得た。この錠剤を水道水5lで溶かしたところ、直ちに溶解し、溶液について、実施例1の試験紙で判別を行ったところ、pHは6.5で次亜塩素酸の濃度は100ppmで、溶解直後の遊離塩素分子濃度は0.2ppmあった。このものは異臭がほとんどなかった。この次亜塩素酸水5mLに3%過酸化水素水0.5mLの過酸化水素水を加えたところ、有効塩素濃度は100ppm弱で、シリングアルダジンは呈色反応を示さなかった。
【0071】
【表1】
【実施例0072】
実施例2の錠剤調整において、混合時間を3分とし、それ以外は実施例2と同様に操作し、溶液について実施例1の試験紙で測定したところ、pHは7.5で有効塩素濃度は100ppm、遊離の塩素分子は10ppmを越えてスケールオーバーしていた。希釈してスケール内に比色をおさめ測定したところ、20ppmであり、このものは刺激臭が強かった。この次亜塩素酸水5mLに3%過酸化水素水0.5mLの過酸化水素水を加えたところ、有効塩素濃度は200ppm弱で、シリングアルダジンは呈色反応を示さなかった。また、刺激臭も消失していた。
【実施例0073】
実施例2と同様に、表2の成分を処理し、粉末製剤の組成物を得た。このもの1.3gを秤量し、これに水2Lを加え、実使用液を調整した。この液に実施例1の試験紙を接触させて、標準と比色したところ。pHは6であり、有効塩素濃度は200ppmであり、遊離の塩素分子の濃度は10ppmであった。このものは多少の異臭はするものの、刺激を感じるには至らなかった。この次亜塩素酸水5mLに3%過酸化水素水0.5mLの過酸化水素水を加えたところ、有効塩素濃度は200ppm弱で、シリングアルダジンは呈色反応を示さなかった。
【0074】
【表2】
【実施例0075】
実施例2と同様に表3にしたがって、粉末を作成し、このもの1.17gを秤量し、0.13mgのクエン酸を溶かした2Lの水に溶かした。このものに実施例1の試験紙を接触させ、標準色票と比色したところ、pH6.0であり、有効塩素濃度は200ppmであり、遊離の塩素分子濃度は5ppmであった。異臭は極めて軽度であった。刺激はほとんど感じなかった。これより、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いる場合には、酸性の水性媒体に溶解せしめて実用液を製造することが好ましいことがわかる。この次亜塩素酸水5mLに3%過酸化水素水0.5mLの過酸化水素水を加えたところ、有効塩素濃度は100ppm弱で、シリングアルダジンは呈色反応を示さなかった。
【0076】
【表3】
【実施例0077】
下記表4の成分を80mLの水で溶かし、1V/V%のリン酸水溶液でpHを7に調整し、しかる後に全量を2Lに希釈し、亜塩素酸水を得た。このものはKI法で有効塩素濃度は200ppmであった。又、シリングアルダジンには呈色反応を示さなかった。
【0078】
【表4】
【実施例0079】
実施例2の100ppm弱の亜塩素酸水及びそれを誘導する前の次亜塩素酸水について、酵母に対する作用をしらべた。即ち、ドライイースト少量を水に溶いた液4mlを3つのチューブに分注し、1つには水を1ml、1つには実施例2で調製した次亜塩素酸水を1ml、残る1つには亜塩素酸水を1ml加え、1分後にATP量をキッコーマンバイオケミファ社製ルミテスター(ATP測定器)で測定した。結果を表5に示す。亜塩素酸添加のもののみATPの低減を見た。これは、亜塩素酸によりドライイーストが破壊されたためである。これより本発明の亜塩素酸水は優れた病原微生物除去能を有することがわかる。
【0080】
【表5】
【実施例0081】
表6に記載の処方の検体1~3を10gスケールで作成し(コーヒーミルを用いて、30秒での攪拌を10回行い混合)、それぞれから0.15gを秤取り、500mlの水道水を加えて検体を作成した。pHはpHメーターで測定し、遊離塩素分子はシリングアルダジン試験紙で比色定量し、有効塩素濃度はKI法による試験紙で比色定量した。
【0082】
【表6】
【0083】
表6に示すように、本発明の組成物によって生成される次亜塩素酸はpHにほとんど依存せず中性付近でも安定に存在する。また、遊離の塩素分子の量がほとんど変わらないことから、これらは非電離型次亜塩素酸であると推認される。これらの次亜塩素酸水5mLに3%過酸化水素水0.5mLの過酸化水素水を加えたところ、いずれも有効塩素濃度は100ppm弱で、シリングアルダジンは呈色反応を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明はコロナウイルスなどのウイルスや病原体の除染に適用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 KI法試験紙片
2 pH試験紙片
3 シリングアルダジン試験紙片
図1
図2