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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182927
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20221201BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20221201BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20221201BHJP
   B60K 6/365 20071001ALI20221201BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20221201BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20221201BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20221201BHJP
【FI】
B60W20/10
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60K6/365 ZHV
B60W10/10 900
B60W20/00 900
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117929
(22)【出願日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2021090310
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 涼太
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 翔太
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB01
3D202BB11
3D202BB30
3D202CC02
3D202CC22
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202EE10
3D202FF07
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125CA09
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】車両用駆動装置のサイズ及びコストを小さく抑えつつ、比較的多くの動作モードを設定可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、第1モードでは、内燃機関EGの正トルクを差動歯車機構の第1回転要素E1に伝達すると共に回転電機MGの正トルクを差動歯車機構の第3回転要素E3に伝達し、少なくとも第3回転要素E3の回転速度Ne3を上昇させることによって差動歯車機構の第2回転要素E2の回転速度Ne2を次第に上昇させ、第2モードでは、第3回転要素E3の回転速度Ne3を静止目標回転速度に維持するように回転電機MGを制御しつつ、内燃機関EGの正トルクを第1回転要素E1に伝達し、第1回転要素の回転速度Ne1を上昇させることによって第2回転要素E2の回転速度Ne2を次第に上昇させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
ロータを備えた回転電機と、
回転速度の順に、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記ロータに連動して回転するように駆動連結された差動歯車機構と、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、前記第2回転要素から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、
前記内燃機関、前記回転電機、及び前記変速機を制御する制御装置と、を備え、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
前記車輪を車両の前進方向に駆動するトルクを正トルクとして、
前記制御装置は、
前記第1モードでは、前記内燃機関の正トルクを前記第1回転要素に伝達すると共に前記回転電機の正トルクを前記第3回転要素に伝達し、少なくとも前記第3回転要素の回転速度を上昇させることによって前記第2回転要素の回転速度を次第に上昇させ、
前記第2モードでは、前記第3回転要素の回転速度を規定の静止目標回転速度に維持するように前記回転電機を制御しつつ、前記内燃機関の正トルクを前記第1回転要素に伝達し、前記第1回転要素の回転速度を上昇させることによって前記第2回転要素の回転速度を次第に上昇させる、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記第2回転要素の回転速度が規定の第1回転速度域にある場合には、前記静止目標回転速度を規定の第1目標回転速度に設定し、
前記第2回転要素の回転速度が前記第1回転速度域よりも高い第2回転速度域にある場合には、前記静止目標回転速度を前記第1目標回転速度よりも高い第2目標回転速度に設定する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記静止目標回転速度は、ゼロ未満に設定されている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する係合装置を更に備え、
前記動作モードとして、第3モードを更に備え、
前記制御装置は、前記第3モードでは、前記係合装置を係合状態として前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素が一体的に回転する状態とすると共に、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記差動歯車機構に伝達し、
複数の前記変速段は、第1変速段と、前記第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段と、を含み、
前記第1モードは、前記変速機が前記第1変速段を形成した状態とされる第1変速段第1モードを含み、
前記第2モードは、前記変速機が前記第1変速段を形成した状態とされる第1変速段第2モードと、前記変速機が前記第2変速段を形成した状態とされる第2変速段第2モードと、を含み、
前記第3モードは、前記変速機が前記第2変速段を形成した状態とされる第2変速段第3モードを含み、
前記制御装置は、前記第2回転要素の回転速度の上昇に伴って、前記第1変速段第1モード、前記第1変速段第2モード、前記第2変速段第2モード、前記第2変速段第3モードの順に前記動作モードを変化させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する係合装置を更に備え、
前記動作モードとして、第3モードを更に備え、
前記制御装置は、前記第3モードでは、前記係合装置を係合状態として前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素が一体的に回転する状態とすると共に、前記内燃機関及び前記回転電機のトルクを前記差動歯車機構に伝達し、
複数の前記変速段は、第1変速段と、前記第1変速段よりも変速比が小さい第2変速段と、を含み、
前記第1モードは、前記変速機が前記第1変速段を形成した状態とされる第1変速段第1モードを含み、
前記第2モードは、前記変速機が前記第1変速段を形成した状態とされる第1変速段第2モードを含み、
前記第3モードは、前記変速機が前記第1変速段を形成した状態とされる第1変速段第3モードと、前記変速機が前記第2変速段を形成した状態とされる第2変速段第3モードと、を含み、
前記制御装置は、前記第2回転要素の回転速度の上昇に伴って、前記第1変速段第1モード、前記第1変速段第2モード、前記第1変速段第3モード、前記第2変速段第3モードの順に前記動作モードを変化させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備えた差動歯車機構と、回転電機と、変速機と、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置は、内燃機関(3)に駆動連結される入力部材(8)と、車輪に駆動連結される出力部材(7)と、ロータを備えた回転電機(4)と、入力部材(8)に駆動連結された第1回転要素(13)、出力部材(7)と駆動連結された第2回転要素(12)、及び回転電機(4)のロータに駆動連結された第3回転要素(11)を備えた差動歯車機構(10)と、第2回転要素(12)からの回転を変速して出力部材(7)の側へ伝達する変速機(19)と、を備えている。
【0004】
また、特許文献1の車両用駆動装置は、複数の係合装置(16,17)を備えており、これらの係合装置の状態を変化させることにより、複数の動作モード(CVTM,DM,EM)のいずれかに切り替え可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-525358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の車両用駆動装置において、上記の動作モード(CVTM,DM,EM)に加えて更に別の動作モードを設けようとした場合、上記の係合装置(16,17)に加えて更に別の係合装置を設ける必要がある。その結果、車両用駆動装置のサイズ及びコストの増加を招くため、動作モードを追加することが難しい場合があった。
【0007】
そこで、車両用駆動装置のサイズ及びコストを小さく抑えつつ、比較的多くの動作モードを設定可能な車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の特徴構成は、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
ロータを備えた回転電機と、
回転速度の順に、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記ロータに連動して回転するように駆動連結された差動歯車機構と、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、前記第2回転要素から伝達される回転を、複数の前記変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して前記出力部材の側へ伝達する変速機と、
前記内燃機関、前記回転電機、及び前記変速機を制御する制御装置と、を備え、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
前記車輪を車両の前進方向に駆動するトルクを正トルクとして、
前記制御装置は、
前記第1モードでは、前記内燃機関の正トルクを前記第1回転要素に伝達すると共に前記回転電機の正トルクを前記第3回転要素に伝達し、少なくとも前記第3回転要素の回転速度を上昇させることによって前記第2回転要素の回転速度を次第に上昇させ、
前記第2モードでは、前記第3回転要素の回転速度を規定の静止目標回転速度に維持するように前記回転電機を制御しつつ、前記内燃機関の正トルクを前記第1回転要素に伝達し、前記第1回転要素の回転速度を上昇させることによって前記第2回転要素の回転速度を次第に上昇させる点にある。
【0009】
この特徴構成によれば、第2モードにおいて、差動歯車機構の第3回転要素の回転速度を規定の静止目標回転速度に維持するように回転電機を制御する。これにより、第3回転要素を選択的に固定するブレーキを設けることなく、第2モードを実現することができる。その結果、ブレーキを備えた構成と比べて、車両用駆動装置のサイズ及びコストを小さくすることができる。このように、本特徴構成によれば、車両用駆動装置のサイズ及びコストを小さく抑えつつ、比較的多くの動作モードを設定することができる。
また、本特徴構成によれば、第1モード及び第2モードの双方において、差動歯車機構の第2回転要素から伝達された回転を、複数の変速段のうちから選択された変速段に応じた変速比で変速して出力部材の側に伝達することができる。特に第2モードは、差動歯車機構の変速比が固定となる疑似的なパラレルハイブリッドモードであるため、複数の変速段を形成可能な変速機を備えることで車両を効率的に走行させ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の制御ブロック図
図3】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の各動作モードにおける係合装置等の状態を示す図
図4】第1の実施形態に係る第1モードにおける差動歯車機構及び変速機の速度線図
図5】第1の実施形態に係る第3モードにおける差動歯車機構及び変速機の速度線図
図6】第1の実施形態に係る第2モードにおける差動歯車機構及び変速機の速度線図
図7】第1の実施形態に係る動作モードの遷移を示す図
図8】第1の実施形態に係る制御装置による制御処理の一例を示すフローチャート
図9】第2の実施形態に係る動作モードの遷移を示す図
図10】第3の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図
図11】第3の実施形態に係る第2モード及び第3モードにおける差動歯車機構及び変速機の速度線図
図12】第3の実施形態に係る動作モードの遷移を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る車両用駆動装置100について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、車両用駆動装置100は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、車輪Wに駆動連結される出力部材Oと、回転電機MGと、分配用差動歯車機構SPと、変速機TMと、を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置100は、第1係合装置CL1と、第2係合装置CL2と、出力用差動歯車機構DFと、第1ギヤ21と、第2ギヤ22と、第3ギヤ23と、第4ギヤ24と、第1アイドラギヤ31と、第2アイドラギヤ32と、を更に備えている。
【0013】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、遊星歯車機構における複数の回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0014】
本実施形態では、入力部材I、第1係合装置CL1、及び第1ギヤ21は、内燃機関EGの出力軸ESの回転軸心としての第1軸X1上に配置されている。そして、分配用差動歯車機構SP、変速機TM、第2係合装置CL2、第2ギヤ22、第3ギヤ23、及び第4ギヤ24は、第1軸X1とは異なる第2軸X2上に配置されている。更に、回転電機MG、出力部材O、及び出力用差動歯車機構DFは、第1軸X1及び第2軸X2とは異なる第3軸X3上に配置されている。また、本実施形態では、第1アイドラギヤ31は、第1軸X1~第3軸X3とは異なる第4軸X4上に配置されている。そして、第2アイドラギヤ32は、第1軸X1~第4軸X4とは異なる第5軸X5上に配置されている。
【0015】
本例では、上記の軸X1~X5は、互いに平行に配置されている。以下の説明では、上記の軸X1~X5に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。本実施形態では、軸方向Lにおいて、内燃機関EGに対して入力部材Iが配置される側を軸方向第1側L1とし、その反対側を軸方向第2側L2としている。また、上記の軸X1~X5のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。なお、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合や、どの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lに沿って延在する入力軸1である。本実施形態では、入力軸1は、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置DPを介して、内燃機関EGの出力軸ESに駆動連結されている。内燃機関EGは、車輪Wの駆動力源として機能する。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。
【0017】
回転電機MGは、車輪Wの駆動力源として機能する。回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、回転電機MGは、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置BT(図2参照)との間で電力の授受を行うように、当該蓄電装置BTと電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行してトルクを発生する。また、回転電機MGは、内燃機関EGのトルク、又は出力部材Oの側から伝達されるトルクにより発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0018】
回転電機MGは、非回転部材(例えば、回転電機MG等を収容するケース)に固定されたステータSTと、当該ステータSTに対して相対回転可能に支持されたロータRTと、を備えている。本実施形態では、ロータRTは、ステータSTに対して径方向Rの内側に配置されている。
【0019】
本実施形態では、ロータRTには、軸方向Lに沿って延在するように形成されたロータ軸RSを介して、ロータギヤRGが一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、ロータギヤRGは、第3軸X3上に配置されている。図1に示す例では、ロータギヤRGは、ロータRTよりも軸方向第1側L1に配置されている。
【0020】
分配用差動歯車機構SPは、第1回転要素E1と、第2回転要素E2と、第3回転要素E3と、を備えた「差動歯車機構」である。第1回転要素E1は、入力部材Iに駆動連結されている。第2回転要素E2は、変速機TMに駆動連結されている。第3回転要素E3は、ロータRTに連動して回転するように駆動連結されている。
【0021】
分配用差動歯車機構SPの回転要素の回転速度の順は、第1回転要素E1、第2回転要素E2、第3回転要素E3の順となっている。ここで、「回転速度の順」とは、各回転要素の回転状態における回転速度の順番のことである。各回転要素の回転速度は、遊星歯車機構の回転状態によって変化するが、各回転要素の回転速度の高低の並び順は、遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。なお、各回転要素の回転速度の順は、各回転要素の速度線図(図4等参照)における配置順に等しい。ここで、「各回転要素の速度線図における配置順」とは、速度線図における各回転要素に対応する軸が、当該軸に直交する方向に沿って配置される順番のことである。速度線図における各回転要素に対応する軸の配置方向は、速度線図の描き方によって異なるが、その配置順は遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。
【0022】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPは、第1サンギヤS1、第1キャリヤC1、及び第1リングギヤR1を備えた遊星歯車機構である。本実施形態では、第1回転要素E1は、第1リングギヤR1である。そして、第2回転要素E2は、第1キャリヤC1である。また、第3回転要素E3は、第1サンギヤS1である。本例では、分配用差動歯車機構SPは、第1ピニオンギヤP1を支持する第1キャリヤC1と、第1ピニオンギヤP1に噛み合う第1サンギヤS1と、当該第1サンギヤS1に対して径方向Rの外側に配置されて第1ピニオンギヤP1に噛み合う第1リングギヤR1と、を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0023】
本実施形態では、第1リングギヤR1は、第2ギヤ22と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2ギヤ22は、第1リングギヤR1に対して径方向Rの外側に配置されている。そして、第2ギヤ22は、第1アイドラギヤ31を介して、第1ギヤ21に駆動連結されている。つまり、本実施形態では、第1ギヤ21と第2ギヤ22とが、第1アイドラギヤ31の周方向の互いに異なる位置において、第1アイドラギヤ31に噛み合っている。こうして、第1ギヤ21と第2ギヤ22とは、第1アイドラギヤ31を介して、互いに連動して回転するように連結されている。なお、図1において、ギヤ同士を結ぶ1点鎖線は、それらのギヤが互いに噛み合っていることを示している。
【0024】
また、本実施形態では、第1サンギヤS1は、第3ギヤ23と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第3ギヤ23は、ロータギヤRGに噛み合っている。また、第3ギヤ23は、第3ギヤ23は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0025】
第1係合装置CL1は、入力部材Iと第1ギヤ21との間の動力伝達を断接するように構成されている。本実施形態では、第1係合装置CL1は、第1ギヤ21に対して軸方向第2側L2に配置されている。本例では、第1係合装置CL1は、一対の摩擦部材を備え、当該一対の摩擦部材同士の係合の状態が油圧によって制御される摩擦係合装置である。これにより、第1係合装置CL1を滑り係合状態として、第1係合装置CL1の伝達トルク容量を制御することができる。したがって、回転電機MGのトルクを利用して内燃機関EGを始動する場合に、回転電機MGから内燃機関EGに伝達されるトルクを制御することができるため、回転電機MGを一旦停止する必要がない。ここで、「滑り係合状態」とは、摩擦係合装置の一対の摩擦部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態である。
【0026】
第2係合装置CL2は、第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する「係合装置」である。本実施形態では、第2係合装置CL2は、第1回転要素E1としての第1リングギヤR1と、第2回転要素E2としての第1キャリヤC1との間の動力伝達を断接するように構成されている。また、本実施形態では、第2係合装置CL2は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、第2係合装置CL2は、変速機TMに対して軸方向第1側L1に配置されている。本例では、第2係合装置CL2は、一対の摩擦部材を備え、当該一対の摩擦部材同士の係合の状態が油圧によって制御される摩擦係合装置である。
【0027】
変速機TMは、複数の変速段を選択的に形成可能に構成されている。そして、変速機TMは、第2回転要素E2から伝達される回転を、複数の変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oの側へ伝達する。本実施形態では、複数の変速段は、第1変速段GS1と、当該第1変速段GS1よりも変速比が小さい第2変速段GS2と、を含む。
【0028】
本実施形態では、変速機TMは、遊星歯車機構PGを備えた遊星歯車式の変速機である。遊星歯車機構PGは、第2サンギヤS2と、第2キャリヤC2と、第2リングギヤR2と、を備えている。本実施形態では、遊星歯車機構PGは、第2ピニオンギヤP2を支持する第2キャリヤC2と、第2ピニオンギヤP2に噛み合う第2サンギヤS2と、当該第2サンギヤS2に対して径方向Rの外側に配置されて第2ピニオンギヤP2に噛み合う第2リングギヤR2と、を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0029】
本実施形態では、第2リングギヤR2は、第1キャリヤC1と一体的に回転するように連結されている。また、第2キャリヤC2は、第4ギヤ24と一体的に回転するように連結されている。
【0030】
本実施形態では、変速機TMは、上記の複数の変速段を形成するための係合装置である変速用係合装置CLtを備えている。本実施形態では、変速用係合装置CLtは、変速用クラッチCtと、変速用ブレーキBtと、を含む。
【0031】
変速用クラッチCtは、第2リングギヤR2と第2キャリヤC2との間の動力伝達を断接するように構成されている。本実施形態では、変速用クラッチCtは、遊星歯車機構PGに対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、変速用クラッチCtは、第4ギヤ24に対して軸方向第1側L1に配置されている。本実施形態では、変速用ブレーキBtは、第2サンギヤS2を、非回転部材(例えば、変速機TM等を収容するケース)に対して選択的に固定するように構成されている。また、本実施形態では、変速用ブレーキBtは、第4ギヤ24に対して軸方向第2側L2に配置されている。本例では、変速用クラッチCt及び変速用ブレーキBtのそれぞれは、一対の摩擦部材を備え、当該一対の摩擦部材同士の係合の状態が油圧によって制御される摩擦係合装置である。
【0032】
本実施形態では、変速用クラッチCtが解放状態であり、変速用ブレーキBtが係合状態である場合に、第1変速段GS1が形成される。また、変速用クラッチCtが係合状態であり、変速用ブレーキBtが解放状態である場合に、第2変速段GS2が形成される。なお、変速用クラッチCt及び変速用ブレーキBtの双方が解放状態である場合には、いずれの変速段も形成されない。つまり、本実施形態では、変速機TMは、分配用差動歯車機構SPと出力用差動歯車機構DFとの間で動力伝達を行わないニュートラル状態に切り替え可能に構成されている。
【0033】
出力用差動歯車機構DFは、出力部材Oの回転を一対の車輪Wに分配するように構成されている。本実施形態では、出力部材Oは、出力用差動歯車機構DFの入力要素である差動入力ギヤ4である。本実施形態では、差動入力ギヤ4は、第2アイドラギヤ32を介して、第4ギヤ24に駆動連結されている。つまり、本実施形態では、差動入力ギヤ4と第4ギヤ24とが、第2アイドラギヤ32の周方向の互いに異なる位置において、第2アイドラギヤ32に噛み合っている。こうして、差動入力ギヤ4と第4ギヤ24とは、第2アイドラギヤ32を介して、互いに連動して回転するように連結されている。
【0034】
本実施形態では、出力用差動歯車機構DFは、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、出力用差動歯車機構DFは、中空の差動ケースと、当該差動ケースと一体的に回転するように支持されたピニオンシャフトと、当該ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の差動ピニオンギヤと、当該一対の差動ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対のサイドギヤと、を備えている。差動ケースには、ピニオンシャフト、一対の差動ピニオンギヤ、及び一対のサイドギヤが収容されている。
【0035】
本実施形態では、差動ケースには、出力部材Oとしての差動入力ギヤ4が、当該差動ケースから径方向Rの外側に突出するように連結されている。そして、一対のサイドギヤのそれぞれには、車輪Wに駆動連結されたドライブシャフトDSが一体的に回転可能に連結されている。図示の例では、出力用差動歯車機構DFは、回転電機MGに対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、軸方向第1側L1のドライブシャフトDSが、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されたロータ軸RSに対して径方向Rの内側を通るように配置されている。
【0036】
図2に示すように、車両用駆動装置100は、内燃機関EG、回転電機MG、及び変速機TMを制御する制御装置10を備えている。本実施形態では、制御装置10は、主制御部11と、内燃機関EGを制御する内燃機関制御部12と、回転電機MGを制御する回転電機制御部13と、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtの係合の状態を制御する係合制御部14と、を備えている。
【0037】
主制御部11は、内燃機関制御部12、回転電機制御部13、及び係合制御部14のそれぞれに対して、各制御部が担当する装置を制御する指令を出力する。内燃機関制御部12は、内燃機関EGが、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように内燃機関EGを制御する。回転電機制御部13は、回転電機MGが、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように回転電機MGを制御する。係合制御部14は、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtのそれぞれが、主制御部11から指令された係合の状態となるように、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtを動作させるためのアクチュエータ(図示を省略)を制御する。
【0038】
主制御部11は、車両用駆動装置100が搭載される車両の各部の情報を取得するために、当該車両の各部に設けられたセンサからの情報を取得可能に構成されている。主制御部11は、それらのセンサからの情報に基づいて、後述する複数の動作モードの選択を行う。主制御部11は、係合制御部14を介して、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtのそれぞれを、選択した動作モードに応じた係合の状態に制御することにより、当該選択した動作モードへ移行する。更に、主制御部11は、内燃機関制御部12及び回転電機制御部13を介して、内燃機関EG及び回転電機MGの動作状態を協調制御することにより、選択した動作モードに応じた適切な車両の走行を可能とする。
【0039】
図3に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、動作モードとして、電気式トルクコンバータモード(以下、「eTCモード」と記す)と、第1疑似パラレルモードと、第2疑似パラレルモードと、第1パラレルモードと、第2パラレルモードと、第1EVモードと、第2EVモードと、充電モードと、を備えている。
【0040】
図3に、本実施形態の各動作モードにおける、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLt(変速用クラッチCt、変速用ブレーキBt)の状態を示す。なお、図3の各係合装置の符号を示す「CL1」、「CL2」、「Ct」、及び「Bt」の各欄において、「〇」は対象の係合装置が係合状態であることを示し、「-」は対象の係合装置が解放状態であることを示している。また、図3の「Ne3固定」の欄において、「〇」は対象の動作モード実行中に分配用差動歯車機構SPの第3回転要素E3の回転速度である第3回転速度Ne3が一定に維持されることを示し、「-」は対象の動作モード実行中に第3回転速度Ne3が可変であることを示している。
【0041】
eTCモードは、分配用差動歯車機構SPにより、回転電機MGのトルクを反力として内燃機関EGのトルクを増幅して出力部材Oに伝達することで車両を走行させるモードである。eTCモードは、内燃機関EGのトルクを増幅して出力部材Oに伝達することができるため、所謂、電気式トルクコンバータモードと称される。
【0042】
eTCモードでは、制御装置10は、内燃機関EGの正トルクを第1回転要素E1に伝達すると共に、回転電機MGの正トルクを第3回転要素E3に伝達する。そして、制御装置10は、少なくとも第3回転要素E3の回転速度である第3回転速度Ne3を上昇させることによって、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2を次第に上昇させる。eTCモードは、「第1モード」に相当する。ここで、本願において「正トルク」とは、車輪Wを車両の前進方向に駆動するトルクを指す。
【0043】
本実施形態のeTCモードでは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる。そのため、本実施形態のeTCモードは、「第1変速段第1モード」に相当する。
【0044】
図3に示すように、本実施形態のeTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされ、第2係合装置CL2が解放状態とされ、変速用クラッチCtが解放状態とされ、変速用ブレーキBtが係合状態とされる。本実施形態のeTCモードでは、分配用差動歯車機構SPが、回転電機MGのトルクと内燃機関EGのトルクとを合わせて、内燃機関EGのトルクよりも大きいトルクを第1キャリヤC1から出力する。そして、第1キャリヤC1と一体的に回転する第2リングギヤR2の回転が、変速機TMにおいて第1変速段GS1に応じた変速比で変速されて、出力部材Oの側に伝達される(図4参照)。そのため、eTCモードは、比較的大きなトルクを車輪Wに伝達する必要がある場合や、内燃機関EGの回転速度が低い場合等に選択されると好適である。
【0045】
第1パラレルモード及び第2パラレルモードは、内燃機関EG及び回転電機MGのうち、少なくとも内燃機関EGのトルクにより、車両を走行させるパラレルハイブリッドモードである。
【0046】
第1パラレルモード及び第2パラレルモードでは、制御装置10は、第2係合装置CL2を係合状態として第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3が一体的に回転する状態とする。そして、制御装置10は、内燃機関EG及び回転電機MGのトルクを分配用差動歯車機構SPに伝達するように、内燃機関EG及び回転電機MGを制御する。第1パラレルモード及び第2パラレルモードは、「第3モード」に相当する。
【0047】
本実施形態の第1パラレルモードでは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる。そのため、本実施形態の第1パラレルモードは、「第1変速段第3モード」に相当する。また、本実施形態の第2パラレルモードでは、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる。そのため、本実施形態の第2パラレルモードは、「第2変速段第3モード」に相当する。
【0048】
図3に示すように、本実施形態の第1パラレルモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされ、第2係合装置CL2が係合状態とされ、変速用クラッチCtが解放状態とされ、変速用ブレーキBtが係合状態とされる。また、本実施形態の第2パラレルモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされ、第2係合装置CL2が係合状態とされ、変速用クラッチCtが係合状態とされ、変速用ブレーキBtが解放状態とされる。
【0049】
本実施形態の第1パラレルモード及び第2パラレルモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPに連結された状態となる。そして、第2係合装置CL2が係合状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態となる。その結果、内燃機関EGの側及び回転電機MGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま変速機TMに伝達される。そして、変速機TMに入力された回転は、変速用係合装置CLtの状態に応じて、第1パラレルモードでは第1変速段GS1に応じた変速比、第2パラレルモードでは第2変速段GS2に応じた変速比で変速されて、出力部材Oの側に伝達される(図5参照)。
【0050】
第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードでは、制御装置10は、第3回転要素E3の回転速度である第3回転速度Ne3を規定の静止目標回転速度Ntに維持するように回転電機MGを制御しつつ、内燃機関EGの正トルクを第1回転要素E1に伝達する。そして、制御装置10は、内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1の回転速度である第1回転速度Ne1を上昇させることによって、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2を次第に上昇させる。第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードは、「第2モード」に相当する。なお、静止目標回転速度Ntは、第3回転要素E3の回転速度を一定の値に維持する(すなわち回転速度の変動を静止させる)ための目標回転速度であり、任意の回転速度に設定することができる。したがって、静止目標回転速度Ntをゼロ、又はゼロに近い値に設定しても良いし、正の回転速度に設定しても良いし、負の回転速度に設定しても良い。
【0051】
本実施形態の第1疑似パラレルモードでは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる。そのため、本実施形態の第1疑似パラレルモードは、「第1変速段第2モード」に相当する。また、本実施形態の第2疑似パラレルモードでは、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる。そのため、本実施形態の第2疑似パラレルモードは、「第2変速段第2モード」に相当する。
【0052】
図3に示すように、本実施形態の第1疑似パラレルモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされ、第2係合装置CL2が解放状態とされ、変速用クラッチCtが解放状態とされ、変速用ブレーキBtが係合状態とされる。また、本実施形態の第2疑似パラレルモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされ、第2係合装置CL2が解放状態とされ、変速用クラッチCtが係合状態とされ、変速用ブレーキBtが解放状態とされる。
【0053】
本実施形態の第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPに連結された状態となる。そして、第2係合装置CL2が解放状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに相対回転可能な状態となる。また、回転電機MGに駆動連結された第3回転要素E3(ここでは、第1サンギヤS1)の回転速度である第3回転速度Ne3が静止目標回転速度Ntに維持されることにより、内燃機関EGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、分配用差動歯車機構SPの変速比で変速されて変速機TMに伝達される。そして、変速機TMに入力された回転は、変速用係合装置CLtの状態に応じて、第1疑似パラレルモードでは第1変速段GS1に応じた変速比、第2疑似パラレルモードでは第2変速段GS2に応じた変速比で変速されて、出力部材Oの側に伝達される(図6参照)。このように、第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードは、分配用差動歯車機構SPの変速比が固定となる疑似的なパラレルハイブリッドモードである。
【0054】
第1EVモード及び第2EVモードは、内燃機関EG及び回転電機MGのうち、回転電機MGのみのトルクにより、車両を走行させるモードである。
【0055】
図3に示すように、本実施形態の第1EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態とされ、第2係合装置CL2が係合状態とされ、変速用クラッチCtが解放状態とされ、変速用ブレーキBtが係合状態とされる。また、本実施形態の第2パラレルモードでは、第1係合装置CL1が解放状態とされ、第2係合装置CL2が係合状態とされ、変速用クラッチCtが係合状態とされ、変速用ブレーキBtが解放状態とされる。
【0056】
本実施形態の第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPから分離されて、内燃機関EGと出力用差動歯車機構DFとの間での動力伝達が遮断された状態となる。そして、第2係合装置CL2が係合状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態となる。その結果、内燃機関EGの側及び回転電機MGの側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま変速機TMに伝達される。そして、変速機TMに入力された回転は、変速用係合装置CLtの状態に応じて、第1EVモードでは第1変速段GS1に応じた変速比、第2EVモードでは第2変速段GS2に応じた変速比で変速されて、出力部材Oの側に伝達される(図5参照)。
【0057】
充電モードは、内燃機関EGの駆動力により回転電機MGに発電を行わせて、蓄電装置BTを充電するモードである。図3に示すように、充電モードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の双方が係合状態とされ、変速用クラッチCt及び変速用ブレーキBtの双方が解放状態とされる。そして、内燃機関EGが駆動力を出力し、回転電機MGが内燃機関EGの駆動力によって回転するロータRTの回転方向とは反対方向の駆動力を出力することにより発電するように制御される。
【0058】
図4に、本実施形態のeTCモードにおける分配用差動歯車機構SP、及び変速機TMの遊星歯車機構PGの速度線図を示す。図4の速度線図において、縦線は、分配用差動歯車機構SP、及び変速機TMの遊星歯車機構PGの各回転要素の回転速度に対応している。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれは、分配用差動歯車機構SP、及び変速機TMの遊星歯車機構PGの各回転要素に対応している。また、図4の速度線図において、複数本の縦線の上方に示された符号は、対応する回転要素の符号である。そして、複数本の縦線の下方に示された符号は、上方に示された符号に対応する回転要素に駆動連結された要素の符号である。
【0059】
また、図4の速度線図において、第2サンギヤS2に対応する縦線上の黒塗りの四角形は、第2サンギヤS2を非回転部材に対して選択的に固定する変速用ブレーキBtが直結係合状態であることを示している。なお、「直結係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がない係合状態である。また、図4の速度線図において、複数本の縦線上の黒塗りの円は、対象の縦線に対応する回転要素同士が一体的に回転することを示している。このような速度線図の記載方法は、図5及び図6においても同様である。
【0060】
図4に示すように、本実施形態のeTCモードでは、第1リングギヤR1に駆動連結された内燃機関EGが正回転しつつ正トルクを出力し、第1サンギヤS1に駆動連結された回転電機MGが負回転しつつ正トルクを出力して発電する。これにより、内燃機関EGのトルクよりも大きいトルクが分配用差動歯車機構SPの第1キャリヤC1に伝達される。このトルクによって回転する第1キャリヤC1の回転が、変速機TMにおける遊星歯車機構PGの第2リングギヤR2に伝達される。そして、遊星歯車機構PGにて第1変速段GS1に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。
【0061】
図5に、本実施形態の第1パラレルモード及び第2パラレルモード、並びに、第1EVモード及び第2EVモードにおける、分配用差動歯車機構SP、及び変速機TMの遊星歯車機構PGの速度線図を示す。
【0062】
図5に示すように、本実施形態の第1パラレルモード及び第2パラレルモード、並びに、第1EVモード及び第2EVモードでは、第2係合装置CL2が係合状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態となる。このように一体回転する分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3に対して、第1パラレルモード及び第2パラレルモードでは内燃機関EG及び回転電機MGの双方のトルクが伝達され、第1EVモード及び第2EVモードでは回転電機MGのトルクが伝達される。これらのトルクによって回転する分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3のうち、第2回転要素E2としての第1キャリヤC1から出力された回転が、変速機TMにおける遊星歯車機構PGの第2リングギヤR2に伝達される。そして、第1パラレルモード及び第1EVモードでは、遊星歯車機構PGにて第1変速段GS1に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。一方、第2パラレルモード及び第2EVモードでは、遊星歯車機構PGにて第2変速段GS2に応じた変速比で減速された回転(本例では、第2変速段GS2の変速比が1であるため同速のままの回転、以下同じ)が、第2キャリヤC2から出力される。
【0063】
図6に、本実施形態の第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードにおける、分配用差動歯車機構SP、及び変速機TMの遊星歯車機構PGの速度線図を示す。なお、図6の速度線図において、第1サンギヤS1に対応する縦線上の白塗りの四角形は、第1サンギヤS1の回転速度(第3回転速度Ne3)が静止目標回転速度Ntに維持されていることを示している。図6に示す例では、第1サンギヤS1の回転速度(第3回転速度Ne3)がゼロに維持されている(Nt=0)。
【0064】
図6に示すように、本実施形態の第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードでは、第2係合装置CL2が解放状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに相対回転可能な状態となる。そして、第3回転速度Ne3を静止目標回転速度Ntに維持するように回転電機MGのトルクが第3回転要素E3としての第1サンギヤS1に伝達されると共に、内燃機関EGの正トルクが第1回転要素E1としての第1リングギヤR1に伝達される。その結果、第2回転要素E2としての第1キャリヤC1から出力された回転が、変速機TMにおける遊星歯車機構PGの第2リングギヤR2に伝達される。そして、第1疑似パラレルモードでは、遊星歯車機構PGにて第1変速段GS1に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。一方、第2疑似パラレルモードでは、遊星歯車機構PGにて第2変速段GS2に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。なお、本実施形態の第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードでは、第3回転速度Ne3を静止目標回転速度Ntに維持するように、回転電機MGの回転速度制御が行われる。
【0065】
以上のように、車両用駆動装置100は、
内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、
車輪Wに駆動連結される出力部材Oと、
ロータRTを備えた回転電機MGと、
回転速度の順に、第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3を備え、第1回転要素E1が入力部材Iに駆動連結され、第3回転要素E3がロータRTに連動して回転するように駆動連結された分配用差動歯車機構SPと、
複数の変速段を選択的に形成可能に構成され、第2回転要素E2から伝達される回転を、複数の変速段のうちの形成された変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oの側へ伝達する変速機TMと、
内燃機関EG、回転電機MG、及び変速機TMを制御する制御装置10と、を備え、
動作モードとして、第1モード(ここでは、eTCモード)と、第2モード(ここでは、第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモード)と、を備え、
車輪Wを車両の前進方向に駆動するトルクを正トルクとして、
制御装置10は、
第1モードでは、内燃機関EGの正トルクを第1回転要素E1に伝達すると共に回転電機MGの正トルクを第3回転要素E3に伝達し、少なくとも第3回転要素E3の回転速度である第3回転速度Ne3を上昇させることによって第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2を次第に上昇させ、
第2モードでは、第3回転速度Ne3を規定の静止目標回転速度Ntに維持するように回転電機MGを制御しつつ、内燃機関EGの正トルクを第1回転要素E1に伝達し、第1回転要素E1の回転速度である第1回転速度Ne1を上昇させることによって第2回転速度Ne2を次第に上昇させる。
【0066】
この構成によれば、第2モードにおいて、分配用差動歯車機構SPの第3回転要素E3の回転速度である第3回転速度Ne3を規定の静止目標回転速度Ntに維持するように回転電機MGを制御する。これにより、第3回転要素E3を選択的に固定するブレーキを設けることなく、第2モードを実現することができる。その結果、ブレーキを備えた構成と比べて、車両用駆動装置100のサイズ及びコストを小さくすることができる。このように、本構成によれば、車両用駆動装置100のサイズ及びコストを小さく抑えつつ、比較的多くの動作モードを設定することができる。
また、本構成によれば、第1モード及び第2モードの双方において、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2から伝達された回転を、複数の変速段のうちから選択された変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oの側に伝達することができる。特に第2モードは、分配用差動歯車機構SPの変速比が固定となる疑似的なパラレルハイブリッドモードであるため、複数の変速段を形成可能な変速機TMを備えることで車両を効率的に走行させ易くなる。
【0067】
図7に示すように、本実施形態では、制御装置10は、例えば、停止している車両を発進させる際や車両を再加速させる際等、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2の上昇に伴って、言い換えると車速の上昇に伴って、eTCモード、第1疑似パラレルモード、第2疑似パラレルモード、第2パラレルモードの順に動作モードを変化させる。
【0068】
このように、本実施形態では、第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置CL2を更に備え、
動作モードとして、第3モードを更に備え、
制御装置10は、第3モードでは、第2係合装置CL2を係合状態として第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3が一体的に回転する状態とすると共に、内燃機関EG及び回転電機MGのトルクを分配用差動歯車機構SPに伝達し、
複数の変速段は、第1変速段GS1と、当該第1変速段GS1よりも変速比が小さい第2変速段GS2と、を含み、
第1モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第1モード(ここでは、eTCモード)を含み、
第2モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第2モード(ここでは、第1疑似パラレルモード)と、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる第2変速段第2モード(ここでは、第2疑似パラレルモード)と、を含み、
第3モードは、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる第2変速段第3モード(ここでは、第2パラレルモード)を含み、
制御装置10は、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2の上昇に伴って、第1変速段第1モード、第1変速段第2モード、第2変速段第2モード、第2変速段第3モードの順に動作モードを変化させる。
【0069】
この構成によれば、第3モードにおいて、第2係合装置CL2を係合状態とすることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態とすることができる。これにより、第3モードとして、内燃機関EGと回転電機MGとが同期して回転する状態としつつ、これらのトルクを出力部材Oの側に伝達する動作モードであるパラレルハイブリッドモードを実現できる。
また、本構成によれば、動作モードが、第2変速段第2モードを経て、第1変速段第2モードから第2変速段第3モードに遷移している。この構成では、動作モードが、第3モードで変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態(上記の第1変速段第3モードに対応)を経て、第1変速段第2モードから第2変速段第3モードに遷移する構成と比べて、以下の理由から回転電機MGの小型化を図り易い。
即ち、第1変速段第3モードで一定の最高車速まで走行させる場合、第2変速段第3モードで上記の最高車速まで走行させる場合と比べて、回転電機MGの最高回転速度が高くなり易い。第1変速段第3モードに代えて第2変速段第2モードを用いた場合、当該第2変速段第2モードでは回転電機MGに駆動連結された第3回転要素E3の回転速度である第3回転速度Ne3を静止目標回転速度Ntとすることができるため、第2変速段第2モードで最高車速まで走行させる場合でも、回転電機MGの最高回転速度を低く抑えることができる。その結果、回転電機MGの最高回転速度が高くなり過ぎないようにしつつ、回転電機MGから出力部材Oまでの減速比を大きく確保し易くなる。したがって、回転電機MGの最大トルクを小さく抑え易くなり、回転電機MGの小型化を図り易い。
【0070】
図8に示すように、本実施形態では、制御装置10は、静止目標回転速度Ntを、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2に応じた値に設定する。図8は、静止目標回転速度Ntを第2回転速度Ne2に応じた値に設定する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0071】
図8に示すように、まず、制御装置10は、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2が、規定の第1回転速度域Rn1にあるか否かを判断する(ステップ#1)。
【0072】
制御装置10は、第2回転速度Ne2が第1回転速度域Rn1にあると判断した場合(ステップ#1:Yes)、静止目標回転速度Ntを規定の第1目標回転速度Nt1に設定し(ステップ#2)、制御を終了する。一方、制御装置10は、第2回転速度Ne2が第1回転速度域Rn1にないと判断した場合(ステップ#1:No)、第2回転速度Ne2が規定の第2回転速度域Rn2にあるか否かを判断する(ステップ#3)。ここで、第2回転速度域Rn2は、第1回転速度域Rn1よりも高い回転速度域である。具体的には、第2回転速度域Rn2の下限値は、第1回転速度域Rn1の上限値以上である。本実施形態では、第2回転速度Ne2の変化し得る範囲の全域を第1回転速度域Rn1と第2回転速度域Rn2とに二分している。つまり、第1回転速度域Rn1の上限値と第2回転速度域Rn2の下限値とは一致している。また、第1回転速度域Rn1の下限値は第2回転速度Ne2の変化し得る範囲の下限に一致し、第2回転速度域Rn2の上限値は第2回転速度Ne2の変化し得る範囲の上限に一致している。なお、第1目標回転速度Nt1は、任意の回転速度に設定することが可能である。
【0073】
制御装置10は、第2回転速度Ne2が第2回転速度域Rn2にあると判断した場合(ステップ#3:Yes)、静止目標回転速度Ntを第1目標回転速度Nt1よりも高い第2目標回転速度Nt2に設定し(ステップ#4)、制御を終了する。一方、制御装置10は、第2回転速度Ne2が第2回転速度域Rn2にないと判断した場合(ステップ#3:No)、制御を終了する。ここで、第2目標回転速度Nt2は、第1目標回転速度Nt1より高い任意の回転速度に設定することが可能である。例えば、第1目標回転速度Nt1と第2目標回転速度Nt2との差は、第1回転速度域Rn1と第2回転速度域Rn2との差に応じて設定されると好適である。より具体的には、例えば、第1目標回転速度Nt1と第2目標回転速度Nt2との差は、第1回転速度域Rn1の中央値と第2回転速度域Rn2の中央値との差に応じて設定されると好適である。この場合において、第1目標回転速度Nt1と第2目標回転速度Nt2との双方が負の値に設定されても良いし、これらの双方が正の値に設定されても良い。或いは、第1目標回転速度Nt1が負の値に設定され、第2目標回転速度Nt2が正の値に設定されても良い。
【0074】
このように、本実施形態では、制御装置10は、
第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2が規定の第1回転速度域Rn1にある場合には、静止目標回転速度Ntを規定の第1目標回転速度Nt1に設定し、
第2回転速度Ne2が第1回転速度域Rn1よりも高い第2回転速度域Rn2にある場合には、静止目標回転速度Ntを第1目標回転速度Nt1よりも高い第2目標回転速度Nt2に設定する。
【0075】
この構成によれば、第2モードにおいて、内燃機関EGの回転速度が過剰に増減することを回避し易い。したがって、内燃機関EGの効率を低下し難くすることができる。
【0076】
また、静止目標回転速度Ntは、ゼロ未満に設定されていると好適である。
【0077】
この構成によれば、第2モードにおいて、内燃機関EGのトルクを利用して、回転電機MGにより発電することができる。したがって、第2モードにおいて、車両に必要な電力を確保し易い。この場合、静止目標回転速度Ntは、車両に必要な電力を発電するために必要な回転電機MGの回転速度である発電必要回転速度に応じて設定されると好適である。より具体的には、静止目標回転速度Ntは、発電必要回転速度以下、つまり、発電必要回転速度と同じ又はそれよりも負方向に低い回転速度に設定されると好適である。
【0078】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る車両用駆動装置100について、図9を参照して説明する。本実施形態では、動作モードの遷移が、上記第1の実施形態のものとは異なっている。以下では、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0079】
図9に示すように、本実施形態では、制御装置10は、例えば、停止している車両を発進させる際や車両を再加速させる際等、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2の上昇に伴って、eTCモード、第1疑似パラレルモード、第1パラレルモード、第2パラレルモードの順に動作モードを変化させる。
【0080】
このように、本実施形態では、第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置CL2を更に備え、
動作モードとして、第3モードを更に備え、
制御装置10は、第3モードでは、第2係合装置CL2を係合状態として第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3が一体的に回転する状態とすると共に、内燃機関EG及び回転電機MGのトルクを分配用差動歯車機構SPに伝達し、
複数の変速段は、第1変速段GS1と、当該第1変速段GS1よりも変速比が小さい第2変速段GS2と、を含み、
第1モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第1モード(ここでは、eTCモード)を含み、
第2モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第2モード(ここでは、第1疑似パラレルモード)を含み、
第3モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第3モード(ここでは、第1パラレルモード)と、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる第2変速段第3モード(ここでは、第2パラレルモード)と、を含み、
制御装置10は、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2の上昇に伴って、第1変速段第1モード、第1変速段第2モード、第1変速段第3モード、第2変速段第3モードの順に動作モードを変化させる。
【0081】
この構成によれば、第3モードにおいて、第2係合装置CL2を係合状態とすることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態とすることができる。これにより、第3モードとして、内燃機関EGと回転電機MGとが同期して回転する状態としつつ、これらのトルクを出力部材Oの側に伝達する動作モードであるパラレルハイブリッドモードを実現できる。
また、本構成によれば、動作モードが、第1変速段第3モードを経て、第1変速段第2モードから第2変速段第3モードに遷移している。この構成では、動作モードが、第2モードで変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態(上記の第2変速段第2モードに対応)を経て、第1変速段第2モードから第2変速段第3モードに遷移する構成と比べて、以下の理由から車両用駆動装置100のエネルギ効率を高め易い。
即ち、第2変速段第2モードでは回転電機MGが常にトルクを出力する必要があるため、回転電機MGにおけるエネルギ損失が生じ得るが、第1変速段第3モードでは、回転電機MGのトルクが必要ない場合には回転電機MGがトルクを出力しない制御(ゼロトルク制御)を行うことができる。したがって、回転電機MGにおけるエネルギ損失を少なく抑えることができるため、車両用駆動装置100のエネルギ効率を高め易い。
【0082】
3.第3の実施形態
以下では、第3の実施形態に係る車両用駆動装置100について、図10及び図11を参照して説明する。本実施形態では、遊星歯車機構PGの各回転要素(第2サンギヤS2、第2キャリヤC2、第2リングギヤR2)の連結対象、変速用係合装置CLt(変速用クラッチCt、変速用ブレーキBt)の連結対象、及び、動作モードの遷移が、上記第1及び第2の実施形態のものとは異なっている。以下では、上記第1及び第2の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1及び第2の実施形態と同様とする。
【0083】
図10に示すように、本実施形態では、第2サンギヤS2は、分配用差動歯車機構SPの第1キャリヤC1と一体的に回転するように連結されている。そして、第2キャリヤC2は、第4ギヤ24と一体的に回転するように連結されている。
【0084】
本実施形態では、変速用クラッチCtは、第2リングギヤR2と第2キャリヤC2との間の動力伝達を断接するように構成されている。そして、変速用ブレーキBtは、第2リングギヤR2を、非回転部材(例えば、変速機TM等を収容するケース)に対して選択的に固定するように構成されている。
【0085】
図11に、本実施形態の第1パラレルモード及び第2パラレルモード、並びに、第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードにおける、分配用差動歯車機構SP、及び変速機TMの遊星歯車機構PGの速度線図を示す。
【0086】
なお、図11の速度線図において、第1サンギヤS1に対応する縦線上の白塗りの四角形は、第1サンギヤS1の回転速度(第3回転速度Ne3)が静止目標回転速度Ntに維持されていることを示している。図11に示す例では、第1サンギヤS1の回転速度(第3回転速度Ne3)がゼロに維持されている(Nt=0)。また、第2リングギヤR2に対応する縦線上の黒塗りの四角形は、第2リングギヤR2を非回転部材に対して選択的に固定する変速用ブレーキBtが直結係合状態であることを示している。また、第1キャリヤC1に対応する縦線上の白塗りの円は、各動作モードにおける分配用差動歯車機構SPの出力を示している。また、第2キャリヤC2に対応する縦線上の黒塗りの円は、各動作モードにおける遊星歯車機構PGの出力を示している。
【0087】
図11において、「1st」は第1疑似パラレルモード、「3rd」は第2疑似パラレルモードを表している。図11に示すように、本実施形態の第1疑似パラレルモード及び第2疑似パラレルモードでは、第2係合装置CL2が解放状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに相対回転可能な状態となる。そして、第3回転速度Ne3を静止目標回転速度Ntに維持するように回転電機MGのトルクが第3回転要素E3としての第1サンギヤS1に伝達されると共に、内燃機関EGの正トルクが第1回転要素E1としての第1リングギヤR1に伝達される。その結果、第2回転要素E2としての第1キャリヤC1から出力された回転が、変速機TMにおける遊星歯車機構PGの第2サンギヤS2に伝達される。そして、本実施形態の第1疑似パラレルモードでは、遊星歯車機構PGにて第1変速段GS1に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。一方、本実施形態の第2疑似パラレルモードでは、遊星歯車機構PGにて第2変速段GS2に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。
【0088】
図11において、「2nd」は第1パラレルモード、「4th」は第2パラレルモードを表している。図11に示すように、本実施形態の第1パラレルモード及び第2パラレルモードでは、第2係合装置CL2が係合状態とされることによって分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態となる。このように一体回転する分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3に対して、第1パラレルモード及び第2パラレルモードでは内燃機関EG及び回転電機MGの双方のトルクが伝達される。これらのトルクによって回転する分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3のうち、第2回転要素E2としての第1キャリヤC1から出力された回転が、変速機TMにおける遊星歯車機構PGの第2サンギヤS2に伝達される。そして、本実施形態の第1パラレルモードでは、遊星歯車機構PGにて第1変速段GS1に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。一方、本実施形態の第2パラレルモードでは、遊星歯車機構PGにて第2変速段GS2に応じた変速比で減速された回転が、第2キャリヤC2から出力される。
【0089】
本実施形態では、各動作モードで、内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1の回転速度である第1回転速度Ne1を一定とした場合において、出力部材Oに駆動連結された第2キャリヤC2の回転速度は、第1疑似パラレルモード(1st)、第1パラレルモード(2nd)、第2疑似パラレルモード(3rd)、第2パラレルモード(4th)の順に高くなっている。
【0090】
そこで、本実施形態では、図12に示すように、制御装置10は、例えば、停止している車両を発進させる際や車両を再加速させる際等、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2の上昇に伴って、言い換えると車速の上昇に伴って、eTCモード、第1疑似パラレルモード(1st)、第1パラレルモード(2nd)、第2疑似パラレルモード(3rd)、第2パラレルモード(4th)の順に動作モードを変化させる。
【0091】
このように、本実施形態では、第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置CL2を更に備え、
動作モードとして、第3モードを更に備え、
制御装置10は、第3モードでは、第2係合装置CL2を係合状態として第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3が一体的に回転する状態とすると共に、内燃機関EG及び回転電機MGのトルクを分配用差動歯車機構SPに伝達し、
複数の変速段は、第1変速段GS1と、当該第1変速段GS1よりも変速比が小さい第2変速段GS2と、を含み、
第1モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第1モード(ここでは、eTCモード)を含み、
第2モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第2モード(ここでは、第1疑似パラレルモード)と、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる第2変速段第2モード(ここでは、第2疑似パラレルモード)と、を含み、
第3モードは、変速機TMが第1変速段GS1を形成した状態とされる第1変速段第3モード(ここでは、第1パラレルモード)と、変速機TMが第2変速段GS2を形成した状態とされる第2変速段第3モード(ここでは、第2パラレルモード)と、を含み、
制御装置10は、第2回転要素E2の回転速度である第2回転速度Ne2の上昇に伴って、第1変速段第1モード、第1変速段第2モード、第1変速段第3モード、第2変速段第2モード、第2変速段第3モードの順に動作モードを変化させる。
【0092】
この構成によれば、第3モードにおいて、第2係合装置CL2を係合状態とすることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が一体的に回転する状態とすることができる。これにより、第3モードとして、内燃機関EGと回転電機MGとが同期して回転する状態としつつ、これらのトルクを出力部材Oの側に伝達する動作モードであるパラレルハイブリッドモードを実現できる。
また、本構成によれば、車速に応じて、比較的多くの動作モードに変化させることができる。これにより、車両を効率良く走行させることができる。
【0093】
4.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、分配用差動歯車機構SPがシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、第1回転要素E1が第1リングギヤR1であり、第2回転要素E2が第1キャリヤC1であり、第3回転要素E3が第1サンギヤS1である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1回転要素E1が第1サンギヤS1であり、第2回転要素E2が第1キャリヤC1であり、第3回転要素E3が第1リングギヤR1である構成としても良い。或いは、分配用差動歯車機構SPをダブルピニオン型の遊星歯車機構としても良い。この場合、第1回転要素E1がサンギヤ又はキャリヤの一方、第2回転要素E2がリングギヤ、第3回転要素E3がサンギヤ又はキャリヤの他方とすると良い。
【0094】
(2)上記の実施形態では、第2回転速度Ne2が第1回転速度域Rn1にある場合には静止目標回転速度Ntを第1目標回転速度Nt1に設定し、第2回転速度Ne2が第1回転速度域Rn1よりも高い第2回転速度域Rn2にある場合には、静止目標回転速度Ntを第1目標回転速度Nt1よりも高い第2目標回転速度Nt2に設定する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、静止目標回転速度Ntを、第2回転速度Ne2に応じて、1つ又は3つ以上の目標回転速度に設定される構成としても良い。
【0095】
(3)上記の実施形態では、静止目標回転速度Ntがゼロ又はゼロ未満に設定される構成を例についても主に説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、静止目標回転速度Ntがゼロ以上に設定されていても良い。
【0096】
(4)上記の実施形態では、変速機TMが遊星歯車式の変速機である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、変速機TMが平行軸歯車式の変速機であっても良い。
【0097】
(5)上記の実施形態では、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtのそれぞれが摩擦係合装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び変速用係合装置CLtの少なくとも1つが噛み合い式係合装置であっても良い。
【0098】
(6)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示に係る技術は、内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備えた差動歯車機構と、回転電機と、変速機と、を備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
100:車両用駆動装置、10:制御装置、I:入力部材、O:出力部材、MG:回転電機、RT:ロータ、SP:分配用差動歯車機構(差動歯車機構)、E1:第1回転要素、E2:第2回転要素、E3:第3回転要素、TM:変速機、EG:内燃機関、W:車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12