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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182931
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】金属製容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 21/02 20060101AFI20221201BHJP
   B21D 51/18 20060101ALI20221201BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20221201BHJP
   B65D 1/26 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B65D21/02 410
B21D51/18 A
B21D22/26 C
B65D1/26 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129299
(22)【出願日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2021090090
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】南馬 孝之
(72)【発明者】
【氏名】土橋 希望
【テーマコード(参考)】
3E006
3E033
4E137
【Fターム(参考)】
3E006AA01
3E006BA08
3E006CA05
3E006DA01
3E006DB03
3E006FA02
3E033AA08
3E033BA09
3E033CA20
3E033DA08
3E033DD02
3E033EA04
3E033FA01
3E033FA10
3E033GA02
4E137AA01
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA11
4E137CA24
4E137GA02
4E137GA15
4E137GB15
(57)【要約】
【課題】スタックしても抜けやすく、かつ、キズが付きにくい金属製容器を提供する。
【解決手段】胴部を備え、開口部にはカール部が形成され、底部はテーパ状の立ち上がり部を有し、胴部は、立ち上がり部から連続する下部円筒部と、下部円筒部の上端に連続する下部段部と、下部段部の上端に連続し、開口部に向かうにしたがって漸次拡径するテーパ面を有するテーパ筒部とを有し、立ち上がり部と下部円筒部との接続部分は、外面が凸状の第1湾曲面からなり、下部段部は、下部円筒部に接続される凹状外面の第2湾曲面と、第2湾曲面とテーパ筒部の下端とを接続する凸状外面の第3湾曲面とを有する下部連続湾曲面からなり、複数の金属製容器をスタックしたときに、内側の金属製容器の第1湾曲面の外面と、外側の金属製容器の下部連続湾曲面の内面とが接した状態で内側の金属製容器を支持する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の金属製容器であって、底部から開口部に向けて拡径するテーパ状の胴部を備え、前記開口部には、エッジを含む端部を巻き込んでなるカール部が形成され、
前記胴部には、外方に向けて突出する一つ以上の凸状外面が周方向に沿って形成されており、
複数の前記金属製容器をスタックしたときに、内側の前記金属製容器の前記凸状外面の一つが外側の前記金属製容器の内面に周方向に沿って接触し、他の部位は、内側の前記金属製容器と外側の前記金属容器とが非接触状態に配置可能であることを特徴とする金属製容器。
【請求項2】
前記胴部には、内方に向けて突出する凸状内面が周方向に沿って形成されており、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、内側の前記金属製容器の前記凸状外面と前記金属製容器の前記凸状内面とが周方向に沿って接触することを特徴とする請求項1に記載の金属製容器。
【請求項3】
有底筒状の金属製容器であって、
底部から開口部に向けて拡径するテーパ状の胴部を備え、前記開口部には、エッジを含む端部を半径方向外方に巻き込んでなるカール部が形成され、前記底部は、接地部となるリム部の外周端から前記胴部の最下端につながるテーパ状の立ち上がり部を有し、
前記胴部は、前記立ち上がり部から連続する下部円筒部と、前記下部円筒部の上端に連続する下部段部と、前記下部段部の上端に連続し、前記開口部に向かうにしたがって漸次拡径するテーパ面を有するテーパ筒部と、を有し、
前記立ち上がり部と前記下部円筒部との接続部分は、外面が凸状の第1湾曲面からなり、前記下部段部は、前記下部円筒部に接続される凹状外面の第2湾曲面と、前記第2湾曲面と前記テーパ筒部の下端とを接続する凸状外面の第3湾曲面とを有する下部連続湾曲面からなり、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、内側の前記金属製容器の前記第1湾曲面の外面と、外側の前記金属製容器の前記下部連続湾曲面の内面とが接した状態で内側の前記金属製容器を支持することを特徴とする金属製容器。
【請求項4】
前記胴部は、前記カール部に連続する上部円筒部と、前記上部円筒部の下端に連続する上部段部と、を有し、前記上部段部は、前記上部円筒部の下端に接続される凸状外面の第4湾曲面と、前記第4湾曲面と前記テーパ筒部の上端とを接続する凹状外面の第5湾曲面とを有する上部連続湾曲面からなり、前記カール部は、前記上部円筒部の上端に連続し上方に向かうにしたがって漸次拡径する上部内周側屈曲部を有し、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、外側の前記金属製容器の前記カール部における前記上部内周側屈曲部の高さ位置に内側の前記金属製容器の前記上部連続湾曲面の前記第4湾曲面が対向して配置されることを特徴とする請求項3に記載の金属製容器。
【請求項5】
前記第1湾曲面の外面の曲率半径が2.0mm以上10.0mm以下、前記第2湾曲面の内面の曲率半径が2.0mm以上24.0mm以下、第3湾曲面の内面の曲率半径が3.0mm以上26.0mm以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の金属製容器。
【請求項6】
前記第4湾曲面の外面の曲率半径が2.0mm以上10.0mm以下、前記第5湾曲面の外面の曲率半径が3.0mm以上22.0mm以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属製容器。
【請求項7】
前記金属製容器の缶軸に沿う縦断面において、前記カール部は、前記上部内周側屈曲部と、該上部内周側屈曲部の外周端に連続し該上部内周側屈曲部との間で天頂折り返し部を形成するとともに下方に向けて屈曲する上部外周側屈曲部と、該上部外周側屈曲部の外周端に連続し斜め下方に向けて凸となる下部屈曲部と、該下部屈曲部に連続するカール端部とを備え、前記上部内周側屈曲部の外面の曲率半径が0.8mm以上5.0mm以下であることを特徴とする請求項6に記載の金属製容器。
【請求項8】
前記テーパ面の前記缶軸に直交する平面に対する傾斜角度が80°以上88°以下であることを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載の金属製容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等からなる金属製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
イベント会場などで飲料を販売・提供する場合や、店舗などで提供された飲料を持ち帰る場合には、紙やプラスチックを素材とし、薄く、軽く、大量生産された使い捨てカップを用いることが一般的である。これらのカップは空間効率の観点からスタックされた状態で運搬・保管され、使用時にはスタックから分離される。また、これらのようなカップは金属を材料として製造することも可能である。
例えば、特許文献1にはテーパ状の金属カップ(金属製カップ)が開示されている。この金属製カップは、アルミニウム製で、プラスチックカップより硬く、耐久性があり、また、リサイクル性に優れていると記載されている。開口端部に形成されるカール部の内径は2.0インチ~5.0インチの間の直径であると記載されている。
【0003】
また、この金属製カップを製造する方法として、金属板を抜き及び絞り加工してカップを形成し、そのカップにしごき加工を施すことにより円筒状の垂直壁プリフォームを形成し(DI工程)、その開口端部を丸めてカール部を形成した後、段階的絞り処理により、カール部から底部に向けて、連続的に小さくなる直径及び異なる高さの垂直壁区画を有する垂直絞りカップを形成し、その後、テーパ状の輪郭を有するダイを用いて、垂直壁区画の各々を拡げることにより、各垂直壁区画をテーパ状側壁としたテーパ状カップを形成し、最後に、カップの底に、ドーム部を形成する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-508874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の金属製カップ(金属製容器)を複数スタックすると、複数がスタックされた金属製容器から1つの金属製カップを分離させるのが難しかったり、スタックした金属製容器にキズが付きやすかったりする問題が生じていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、スタックしても抜けやすく、かつ、キズが付きにくい金属製容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本研究者らは、鋭意研究の結果、従来の金属製容器では、複数の有底円筒状の金属製容器をスタックしたときに、金属製容器の胴部の下側(底部側)において、内側の金属製カップの外面と外側の金属製カップの内面とが面接触することから、内側(上側)の金属製カップを外側(下側)の金属製カップから引き抜こうとすると、面接触している部分が楔の様になり抜けにくく、無理やり抜く際にキズが生じていること、つまり、この面接触が金属製容器の抜きにくさ、及び、引き抜く際に擦れて生じるキズの原因であることを発見した。そして、本研究者らは、この原因を鋭意研究の結果、内側の金属製容器の胴部の外面と外側の金属製容器の胴部の内面との接触部分の形状を面接触とならない形状に変更することで、スタックしても抜けやすく、かつ、キズが付きにくい金属製容器を見出した。
【0008】
すなわち、本発明の金属製容器は、有底筒状の金属製容器であって、底部から開口部に向けて拡径するテーパ状の胴部を備え、前記開口部には、エッジを含む端部を巻き込んでなるカール部が形成され、前記胴部には、外方に向けて突出する一つ以上の凸状外面が周方向に沿って形成されており、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、内側の前記金属製容器の前記凸状外面が前記金属製容器の内面に周方向に沿って接触し、他の部位は、内側の前記金属製容器と外側の前記金属容器とが非接触状態に配置可能である。
【0009】
複数の金属製容器をスタックしたときに、内側の金属製容器の凸状外面においてのみ外側の金属製容器に接触するので、抜けやすく、引き抜いたときにキズが付きにくい。ただし、スタックしたときにわずかに傾くなどにより、凸状外面以外の部分で内側の金属製容器と外側の金属製容器とが接触する場合があるが、その場合でも、径方向に離間可能であり、強固な嵌合状態となることが抑制される。
【0010】
この金属製容器において、前記胴部には、内方に向けて突出する凸状内面が周方向に沿って形成されており、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、内側の前記金属製容器の前記凸状外面と前記金属製容器の前記凸状内面とが周方向に沿って接触するとよい。
凸状の面どうしの接触であるので、スタック状態からより引き抜きやすくなる。
【0011】
本発明はまた、有底筒状の金属製容器であって、底部から開口部に向けて拡径するテーパ状の胴部を備え、前記開口部には、エッジを含む端部を半径方向外方に巻き込んでなるカール部が形成され、前記底部は、接地部となるリム部の外周端から前記胴部の最下端につながるテーパ状の立ち上がり部を有し、前記胴部は、前記立ち上がり部から連続する下部円筒部と、前記下部円筒部の上端に連続する下部段部と、前記下部段部の上端に連続し、前記開口部に向かうにしたがって漸次拡径するテーパ面を有するテーパ筒部と、を有し、前記立ち上がり部と前記下部円筒部との接続部分は、外面が凸状の第1湾曲面からなり、前記下部段部は、前記下部円筒部に接続される凹状外面の第2湾曲面と、前記第2湾曲面と前記テーパ筒部の下端とを接続する凸状外面の第3湾曲面とを有する下部連続湾曲面からなり、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、内側の前記金属製容器の前記第1湾曲面の外面と、外側の前記金属製容器の前記下部連続湾曲面の内面とが接した状態で内側の前記金属製容器を支持する。
【0012】
本発明では、複数の金属製容器をスタックした際に、金属製カップの下側では第1湾曲面と下部連続湾曲面とが接触するとともに、下部段部の上端に接続されたテーパ筒部のテーパ面が開口部に向かうにしたがって漸次拡径する形状であるので、複数の金属製容器をスタックした場合でも、テーパ面どうしが離間し、内側の金属製カップの外面と外側の金属製カップの内面とが面接触することを抑制できる。このため、スタックした複数の金属製容器から最も上側(内側)の金属製カップを取り外す際に取り外しやすく、また、下側(外側)の金属製カップが複数連なって分離することを抑制できる。さらに、内側の金属製カップと外側の金属製カップが面接触することがないので、スタックする際及び引き抜く際にキズが発生することを抑制できる。
【0013】
本発明の金属製容器の好ましい態様としては、前記胴部は、前記カール部に連続する上部円筒部と、前記上部円筒部の下端に連続する上部段部と、を有し、前記上部段部は、前記上部円筒部の下端に接続される凸状外面の第4湾曲面と、前記第4湾曲面と前記テーパ筒部の上端とを接続する凹状外面の第5湾曲面とを有する上部連続湾曲面からなり、前記カール部は、前記上部円筒部の上端に連続し上方に向かうにしたがって漸次拡径する上部内周側屈曲部を有し、複数の前記金属製容器をスタックしたときに、外側の前記金属製容器の前記カール部における前記上部内周側屈曲部の高さ位置に内側の前記金属製容器の前記上部連続湾曲面の前記第4湾曲面が対向して配置されるとよい。
【0014】
複数の金属製容器をスタックしたときに、外側の金属製容器のカール部における上部内周側屈曲部の高さ位置に内側の金属製容器の上部連続湾曲面の第4湾曲面が対向して配置され、カール部の上部内周側屈曲部が上部円筒部の上端に連続し上方に向かうにしたがって漸次拡径する形状であるので、これら上部連続湾曲面の外面とカール部における上部内周側屈曲部の外面とが仮に接触したとしても面接触になることがない。つまり、上記態様では、金属製容器の下側が支持されている場合に、仮に金属製容器の上側で内側の金属製容器の上部連続湾曲面の外面が外側の金属製容器のカール部の外面に接触してもいずれもが曲面により構成されているので、これらが強固に嵌合することを抑制して、金属製容器が抜けにくくなることを抑制でき、かつ、スタックする際及び引き抜く際にキズが発生することを抑制できる。また、金属製容器の上側で上部連続湾曲面の外面及びカール部の外面が接触している場合には、下側で金属製容器を支持しつつ、上側で重ねられた金属製容器のぐらつきを抑制できる。
【0015】
本発明の金属製容器の好ましい態様としては、前記第1湾曲面の外面の曲率半径が2.0mm以上10.0mm以下、前記第2湾曲面の内面の曲率半径が2.0mm以上24.0mm以下、第3湾曲面の内面の曲率半径が3.0mm以上26.0mm以下であるとよい。
【0016】
本発明の金属製容器の好ましい態様としては、前記第4湾曲面の外面の曲率半径が2.0mm以上10.0mm以下、前記第5湾曲面の外面の曲率半径が3.0mm以上22.0mm以下であるとよい。
【0017】
本発明の金属製容器の好ましい態様としては、前記金属製容器の缶軸に沿う縦断面において、前記カール部は、前記上部内周側屈曲部と、該上部内周側屈曲部の外周端に連続し該上部内周側屈曲部との間で天頂折り返し部を形成するとともに下方に向けて屈曲する上部外周側屈曲部と、該上部外周側屈曲部の外周端に連続し斜め下方に向けて凸となる下部屈曲部と、該下部屈曲部に連続するカール端部とを備え、前記上部内周側屈曲部の外面の曲率半径が0.8mm以上5.0mm以下であるとよい。
【0018】
本発明の金属製容器の好ましい態様としては、前記テーパ面の前記缶軸に直交する平面に対する傾斜角度が80°以上88°以下であるとよい。
テーパ面の缶軸に直交する平面に対する傾斜角度が80°未満であると、開口部に向かうにしたがって胴部が広がりすぎて缶の容量が大きくなるとともにそのバランスが悪くなる可能性があり、傾斜角度が88°を超えると、複数の金属製容器をスタックした場合に、内側の金属製容器のテーパ面の外面が外側の金属製容器のテーパ面の内面に面接触する可能性がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スタックしても抜けやすく、かつ、キズが付きにくい金属製容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態の金属製カップ(金属製容器)の中心軸を中心に半分を縦断面とした正面図である。
図2図1の金属製カップのカール部の拡大断面図である。
図3】絞りしごき工程で得られる筒体の中心軸を中心に半分を縦断面図とした正面図である。
図4図1に示す金属製カップを3つスタックした状態を示す図であり、中心軸の右側半分のみを示す断面図である。
図5図4に示す金属製カップを3つスタックした状態における金属製カップの底部側を拡大して示す断面図である。
図6図4に示す金属製カップを3つスタックした状態における金属製カップの開口部側を拡大して示す断面図である。
図7】第二実施形態の金属製カップを3つスタックした状態で、開口部側が接触し、底部側が接触していない状態を示す図であり、中心軸の右側半分のみを示す断面図である。
図8】本発明の実施例において金属製カップを3つスタックした状態における底部側のX線画像である。
図9】本発明の実施例において金属製カップを3つスタックした状態における中腹部側のX線画像である。
図10】本発明の実施例において金属製カップを3つスタックした状態における開口部側のX線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る金属製容器の実施形態を、図面を参照して説明する。
第一実施形態の金属製容器は、図1に示すように広口の金属製カップ1である。この金属製カップ1は、図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をプレス成形により有底筒状に形成したものであり、底部2の直径より開口部3の直径が大きく、全体として底部2から開口部3に向けて漸次拡径するテーパ状の胴部4を有し、開口部3に、エッジEを含む端部を半径方向外方に巻き込んでなるカール部5が形成されている。この金属製カップ1の半径方向の中心を中心軸C(缶軸)とする。
【0022】
底部2は、凹状に湾曲したドーム部6、その外周縁に連続し、中心軸方向下方に向かうにしたがって漸次拡径する内側テーパ壁部7、内側テーパ壁部7の外周縁に連続し、金属製カップ1をテーブル等に置いたときに接地部となるリム部8、リム部8の外周端から胴部4の最下端につながるテーパ状の立ち上がり部9を連続させた形状である。ドーム部6は、中心軸C上の位置において、リム部8先端からの距離が最も大きい凹状である。リム部8は、中心軸C周りにリング状に形成され、中心軸Cの下方に向けて凸となる屈曲面に形成され、その最も突出位置が接地部となる。リム部8の屈曲面の最外周端は胴部4の最も径の小さい最下端よりも小径に形成されており、このリム部8の最外周端と胴部4の最下端との間がテーパ状の立ち上がり部9により連結されている。
【0023】
胴部4は、底部2付近と開口部3付近とに中心軸Cに沿うストレート状の円筒部11,12が形成されており、底部2から連続する下部円筒部11の上端に、わずかな範囲で下部段部13が形成されるとともに、カール部5に連続する上部円筒部12の下端にも、わずかな範囲で上部段部14が形成され、これら下部段部13の上端と上部段部14の下端との間が、下方から上方に向けて漸次直径が大きくなるテーパ筒部15に形成されている。具体的には、胴部4は、立ち上がり部9から連続する下部円筒部11と、下部円筒部11の上端に連続する下部段部13と、下部段部13の上端に連続し、開口部3に向かうにしたがって漸次拡径するテーパ面を有するテーパ筒部15と、カール部5に連続する上部円筒部12と、上部円筒部12の下端に連続する上部段部14とを備えている。
【0024】
また、金属製カップ1の缶軸(中心軸C)に沿う縦断面において、立ち上がり部9と下部円筒部11との接続部分は、外面が凸状の第1湾曲面91からなる。この第1湾曲面91の外面の曲率半径R11は2.0mm以上10.0mm以下とされている。また、下部段部13は、下部円筒部11に接続される凹状外面の第2湾曲面131と、第2湾曲面131とテーパ筒部15の下端とを接続する凸状外面の第3湾曲面132とを有する下部連続湾曲面13Aからなる。これら第2湾曲面131の内面の曲率半径R12は2.0mm以上24.0mm以下とされ、第3湾曲面132の内面の曲率半径R13は3.0mm以上26.0mm以下とされている。
なお、詳しくは後述するが、例えば、図4に示すように、複数の金属製カップ1がスタックされた場合、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面と、外側の金属製カップ1の下部連続湾曲面13Aの第2湾曲面131の内面とが接触し、当該接触部位により内側の金属製カップ1が支持される。
【0025】
また、金属製カップ1の缶軸(中心軸C)に沿う縦断面において、上部段部14は、上部円筒部12の下端に接続される凸状外面の第4湾曲面141と、第4湾曲面141とテーパ筒部15の上端とを接続する凹状外面の第5湾曲面142とを有する上部連続湾曲面14Aからなる。これら第4湾曲面141の外面の曲率半径R14は2.0mm以上10.0mm以下とされ、第5湾曲面142の外面の曲率半径R15は3.0mm以上22.0mm以下とされている。
なお、詳しくは後述するが、例えば、図4に示すように、複数の金属製カップ1がスタックされると、外側の金属製カップ1のカール部5の高さ位置に内側の金属製カップ1の上部連続湾曲面14Aの第4湾曲面141が対向して配置される。
【0026】
また、諸寸法としては、底面から下部段部13の下端までの高さH3が10mm以上30mm以下、カール部5の上端から上部段部14の上端までの長さH4が8mm以上25mm以下とされている。さらに、下部円筒部11の高さH31は、4mm以上20mm以下、上部円筒部12の高さH41は、4mm以上20mm以下とされている。
【0027】
また、金属製カップ1の缶軸(中心軸C)に沿う縦断面において、缶軸に直交する平面(水平面)に対するテーパ筒部15のテーパ面の傾斜角度θ2が80°以上88°以下に設定されている。このテーパ面の缶軸に直交する平面に対する傾斜角度θ2が80°未満であると、開口部3に向かうにしたがって胴部4が広がりすぎて缶の容量が大きくなるとともにそのバランスが悪くなる可能性があり、傾斜角度θ2が88°を超えると、複数の金属製カップ1をスタックした場合に、内側の金属製カップのテーパ面の外面が外側の金属製カップのテーパ面の内面に面接触する可能性がある。
【0028】
カール部5は、図2に示すように、中心軸Cを通る断面(縦断面)において、胴部4における上部円筒部12の上端に連続し上方に向かうにしたがって漸次拡径する上部内周側屈曲部71と、上部内周側屈曲部71の外周端に連続し上部内周側屈曲部71との間で天頂折り返し部72を形成するとともに下方に向けて屈曲する上部外周側屈曲部73と、上部外周側屈曲部73の外周端に連続し斜め下方に向けて凸となる下部屈曲部74と、下部屈曲部74に連続しエッジEを有するカール端部75とが連続して形成されている。上部内周側屈曲部71の後半部分から上部外周側屈曲部73の前半部分にかけて配置される天頂折り返し部72の中間位置がカール部5において最も上端位置に配置され、下部屈曲部74の後半部分がカール部5において最も下端位置に配置されている。
【0029】
また、カール部5の始端部に連続する胴部4の上部円筒部12の上端部の外面とカール部5の外面側におけるエッジEとの間に隙間gが形成されるとともに、エッジEを含むカール端部75が胴部4の中心軸Cに直交する平面に対して中心軸Cに向かうにしたがって上り勾配となるように傾斜している。このカール端部75は下部屈曲部74に連続しており、中心軸Cを通る縦断面において、下方に凸となるようにわずかに湾曲しているが、下部屈曲部74の曲率半径R5より大きく、長さも短いため、下部屈曲部74の終端からほぼ直線状に延びているとみなしてよい。
【0030】
このカール部5は、例えば、カール部5の直径(開口端部の外径)D1が75mm以上100mm以下、上部円筒部12の直径D4が70mm以上95mm以下、カール部5の半径方向の厚さTが1.8mm以上5.0mm以下、金属製カップ1の中心軸Cに沿うカール部5の高さWが1.2mm以上4.0mm以下である。この場合、WはTより小さい(W<T)。また、胴部4の上部円筒部12の上端部の外面とカール部5の外面側におけるエッジEとの間の隙間gは、中心軸Cに直交する平面に沿う寸法Bが0.1mm以上2.0mm以下であり、好ましくは0.3mm以上1.6mm以下である。
【0031】
また、カール部5の下端からカール部5の外面側におけるエッジEまでの中心軸に沿う高さXは0.1mm以上2.0mm以下であり、好ましくは0.3mm以上1.5mm以下である。この場合、XとBとは、カール部5の高さW、幅Tに対して、(1/20)×W<X<(1/2)×W、かつ、(1/20)×T<B<(1/2)×Tの関係に設定される。
【0032】
各屈曲部については、それぞれ外面の曲率半径で、上部内周側屈曲部71の曲率半径R1が0.8mm以上5.0mm以下である。上部外周側屈曲部73は、大きく分けて前半部分と後半部分との二つの曲率部からなり、前半部分の曲率半径R2が1.0mm以上3.0mm、好ましくは1.3mm以上2.5mm以下であり、後半部分の曲率半径R3が1.3mm以上5.0mm以下であり、好ましくは1.5mm以上3.8mm以下である。下部屈曲部74も、大きく分けて前半部分と後半部分との二つの曲率部からなり、前半部分の曲率半径R4が0.5mm以上2.5mm以下である。後半部分の曲率半径R5が0.8mm以上10mm以下であり、1.0mm以上5.0mm以下が好ましい。カール部5の最下端部位の外面は曲率半径R5の下部屈曲部74により形成される。
また、胴部4の中心軸Cに直交する平面に対するカール端部75の傾斜角度θ1は5°以上80°以下に設定されており、好ましくは10°以上50°以下である。
【0033】
その他の諸寸法は必ずしも限定されるものではないが、例えば、接地部の直径D2が45mm以上60mm以下、全体の高さH1が80mm以上180mm以下、下部円筒部11の直径D3が50mm以上70mm以下に形成される。
【0034】
次に、この金属製カップ1の製造方法について説明する。
この金属製カップ1は、金属板を絞りしごき加工することにより有底円筒状の筒体21を形成する筒体形成工程と、筒体形成工程後に、外径の異なる複数のパンチを外径の小さい順に用いながら、筒体21に開口部22側から前記パンチを押し込んで、筒体21の胴部23を、底部2側より開口部22側に向けて徐々に拡径してテーパ状のテーパ状中間筒体50を形成する拡径工程と、この拡径工程により形成されたテーパ状中間筒体50の開口端部にカール部5を形成するカール工程と、を有する工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0035】
[筒体形成工程]
筒体形成工程では、図3(a)に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金製の板材を打ち抜いて絞り加工することにより、次工程の筒体21よりも大径で浅いカップ25を形成するカップ形成工程と、このカップ25に絞り加工及びしごき加工(絞りしごき加工)を加えて、カップ25より小径で図3(b)に示すように所定高さの有底円筒状の筒体21を形成する絞りしごき工程とを有する。この絞りしごき工程では、筒体21の底部2は、金属製カップ1の底部2の最終形状に仕上げられ、ドーム部6、内側テーパ壁部7、リム部8、テーパ状の立ち上がり部9を有している。
【0036】
[拡径工程]
拡径工程は、複数の工程からなり、筒体21の胴部23に底部2側の直径より開口部22側の直径が大きい段部を形成する段部形成工程と、段部を押し広げながらテーパ面状に整形する整形工程とを、順次繰り返すことにより、図3(c)に示すテーパ状中間筒体50を形成する。
この場合、筒体21の最下部に下部段部13を形成する下部段部形成工程の後、その下部段部13の若干上方位置に第1段部を形成する第1段部形成工程、その第1段部を整形する第1整形工程、その整形面の上端付近に第2段部を形成する第2段部形成工程、第2段部を整形する第2整形工程、・・・というように、最初の下部段部形成後は、段部形成工程と整形工程とを交互に施工し、一つの段部を形成して、その段部を整形しながら、全体をテーパ状に形成する。また、筒体21の最上部においては、最後に上部段部14を形成するための上部段部形成工程を施工し、これにより拡径工程を終了する。
【0037】
[カール部成形工程]
拡径工程の後、テーパ状中間筒体50の上部円筒部12´のエッジEを含む端部を径方向の外側に折り返しながら巻回することによりカール部5を形成する。
このカール部成形工程は、上部円筒部12´の先端部を特定の曲率半径で半径外方に押し広げるように加工するプレカール工程と、プレカール工程後に、エッジEを反転させるように、押し広げた部分より下方部分を丸めるカーリング工程との二段階に分けて行われる。
【0038】
このようにして製造される金属製カップ1は、底部2及び開口部3付近に若干の長さのストレートの円筒部11,12が形成され、その間の胴部4の大部分が底部2から開口部3に向けて漸次拡径するテーパ状に形成されている。その製造方法においては、筒体21の底部2側より開口部22側の直径が大きい段部52,53を形成した後、その段部52,53を押し広げるようにテーパ状に整形するという工程を繰り返すことにより、胴部4の全体を滑らかなテーパ状に形成している。
【0039】
内周側から半径方向外方に金属材料を押し広げる加工となるので、しわが生じにくい。また、最初に段部を形成してからテーパ状に整形しているので、段部を形成せずにテーパ状に加工する場合に比べて割れの発生も少なくなる。このため、滑らかなテーパ状の胴部4を形成することができる。
【0040】
また、この金属製カップ1の底部2は、最初の段階で形成される有底円筒状の筒体21に形成した底部2をそのまま用いており、この底部2より上方部分を拡径加工している。したがって、筒体21を形成する工程(筒体形成工程)は、既存の飲料缶用の設備をそのまま用いて実施することができる。
【0041】
また、開口部3にはカール部5が形成されているため、口触りも滑らかである。特に、このカール部5は、高さWが幅Tより小さい(W<T)とともに、カール端部75が上り勾配に傾斜しているため、このカール端部75に触れる下唇もエッジE付近には触れにくく、したがって、違和感がなく、口当たりがよい。この場合、高さWが1.2mm以上4.0mm以下と比較的小さいことも、口当たりを良くする効果がある。なお、カール端部75の角度θ1が5°未満であると、下唇をカール部5に当てたときに、エッジE付近も唇に触れやすくなることから、口当たりの良さが低減する。その角度θ1が80°を超えるのは、カーリング加工が困難になる。
【0042】
また、カール部5の外面におけるエッジEの位置を(1/20)×W<X<(1/2)×W、かつ、(1/20)×T<B<(1/2)×Tに設定したことにより、良好な口当たりを確保しつつ、カール部内に侵入した水等の排出を容易にすることができる。Xが(1/20)×W以下、又はBが(1/2)×T以上であると、飲料を飲む際に下唇にエッジEが当たるおそれがある。一方、Xが(1/2)×W以上、又はBが(1/20)×T以下であると、カール部5内に侵入した水等を排出し難くなる。
【0043】
また、上部外周側屈曲部73の外面の曲率半径R2が1.0mm以上3.0mm以下、R3が1.3mm以上5.0mm以下と小さいことから、カール部5の高さWが小さいこととも相まって、カール部5の剛性が高く、広口のカップの開口部に適用しても変形等を生じることが防止される。
なお、カール部5のエッジEと胴部4の上部円筒部12の外面との間に隙間gが形成されているため、洗浄等によりカール部5内に水等が侵入した場合でも、速やかに排出することができる。この場合、カール端部75が傾斜しているが、その角度が小さく、隙間が大きいことから、内部の水等を容易に排出することができる。
【0044】
また、このような金属製カップ1を複数(例えば、3個)スタックすると、図4に示す状態となる。この金属製カップ1は、立ち上がり部9と下部円筒部11との接続部分の外面が凸状の第1湾曲面91からなるとともに、下部段部13が第2湾曲面131と、第2湾曲面131及び第3湾曲面132を有する下部連続湾曲面13Aからなり、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面と、外側の金属製カップ1の下部連続湾曲面13Aの内面とが接触している。具体的には、図5に示すように、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面(凸状外面)と、外側の金属製カップ1の下部連続湾曲面13Aを構成する第2湾曲面131の内面(凸状内面)とが接触しており、当該接触部位により内側の金属製カップ1が支持されている。
【0045】
なお、金属製カップ1の底部側において内側の金属製カップ1と外側の金属製カップ1とが接触している状態において、他の部位は、内側の金属製カップ1と外側の金属カップ1とが非接触状態に配置可能であり、その他の部位において一部が接触したとしても径方向に離間可能である。
金属製カップ1は、上部段部14が第4湾曲面141及び第5湾曲面142を有する上部連続湾曲面14Aからなり、図4に示すように、複数の金属製カップ1をスタックすると、外側の金属製カップ1のカール部5における上部内周側屈曲部71の高さ位置に内側の金属製カップ1の上部連続湾曲面14Aの第4湾曲面141が対向して配置される。つまり、図6に示すように、内側の金属製カップ1の上部連続湾曲面と14Aを構成する第4湾曲面141の外面が外側の金属製カップ1のカール部5の上部内周側屈曲部71の内周面に接触可能な状態とされる。ただし、強固な嵌合状態となることはなく、縦断面で視たときに、外側の金属カップ1のカール部5の上部内周側屈曲部71の高さ位置において、径方向の一方側では接触したとしても、反対側では隙間が形成され、接触している一方側も、径方向に離間可能である。
【0046】
複数の金属製カップ1をスタックした際に、金属製カップ1の下側では第1湾曲面91と下部連続湾曲面13Aとが接触するとともに、下部段部13の上端に接続されたテーパ筒部15のテーパ面が開口部3に向かうにしたがって漸次拡径する形状であるので、複数の金属製カップ1をスタックした場合でも、テーパ面どうしが離間し、内側の金属製カップ1の外面と外側の金属製カップ1の内面とが面接触することを抑制できる。このため、スタックした複数の金属製カップ1から最も上側(内側)の金属製カップ1を取り外す際に取り外しやすく、また、下側(外側)の金属製カップ1が複数連なって分離することを抑制できる。さらに、内側の金属製カップ1と外側の金属製カップ1が面接触することがないので、スタックする際及び引き抜く際にキズが発生することを抑制できる。
【0047】
また、複数の金属製カップ1をスタックしたときに、外側の金属製カップ1のカール部5における上部内周側屈曲部71の高さ位置に内側の金属製カップ1の上部連続湾曲面14Aの第4湾曲面141が対向して配置され、カール部5の上部内周側屈曲部71が上部円筒部12の上端に連続し上方に向かうにしたがって漸次拡径する形状であるので、これら上部連続湾曲面14Aの外面とカール部5における上部内周側屈曲部71の内周面とが仮に接触したとしても面接触になることがない。つまり、本実施形態では、複数の金属製カップ1をスタックして金属製カップ1の下側が支持されている場合に、仮に金属製カップ1の上側で内側の金属製カップ1の上部連続湾曲面14Aの外面が外側の金属製カップ1のカール部5の外面に接触してもいずれもが曲面により構成されているので、これらが強固に嵌合することを抑制して、金属製カップ1が抜けにくくなることを抑制でき、かつ、スタックする際及び引き抜く際にキズが発生することを抑制できる。また、金属製カップ1の上側で上部連続湾曲面14Aの外面及びカール部5の外面が接触している場合には、下側で金属製カップ1を支持しつつ、上側で重ねられた金属製カップ1のぐらつきを抑制できる。
【0048】
なお、内側の金属製カップ1の上部連続湾曲面と14Aを構成する第4湾曲面141の外面が外側の金属製カップ1のカール部5の上部内周側屈曲部71の内周面(径方向内方を向く面)との間には、径方向に板厚tの1/2倍~40倍の大きさで隙間が形成される。この隙間は径方向の両側の合計として形成されていればよく、縦断面で視たときに径方向の片側では隙間が形成され、反対側では接触してもよい。この反対側で接触した状態となっても、内側又は外側のいずれかの金属製カップ1を隙間の範囲内で径方向に移動させて離間させることができ、非接触状態に配置することが可能である。
この場合の板厚tは、図3(b)に示すように有底円筒状の筒体21を形成したときの、開口部22付近(通常、フランジ部と称される)の板厚をいう。隙間が板厚tの1/2倍未満では、金属製カップ1の真円度が低いと、複数をスタックしたときに嵌合状態となって引きにくくなるおそれがあり、40倍を超えるとスタックしたときにぐらついて安定しない。この隙間は板厚tの20倍以下が好ましい。
【0049】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を適宜変更可能である。
上記第一実施形態では、複数の金属製カップ1をスタックしたときに、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面(凸状外面)と、外側の金属製カップ1の下部連続湾曲面13Aを構成する第2湾曲面131の内面(凸状内面)とが接触するようにしたが、下部連続湾曲面13Aを構成する第3湾曲面132の内面の曲率半径が第1湾曲面91の外面の曲率半径より大きい場合には、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面(凸状外面)と、外側の金属製カップ1の第3湾曲面132の内面(凹状内面)とが接触するようにしてもよい。また、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面(凸状外面)と、胴部4のテーパ筒部15の内面とが接触するようにしてもよい。
【0050】
また、複数の金属製カップ1をスタックしたときに、金属製カップ1の底部側で内側の金属製カップ1の第1湾曲面91と、外側の金属製カップ1の下部連続湾曲面13Aとが接触するようにしたが、逆に、底部側で接触せずに、開口部3側で接触するようにしてもよい。図7はそのような底部側で接触せずに、開口部3側で接触するようにした第二実施形態を示している。この図7においては、便宜上、第一実施形態と同一の符号を付している。
つまり、この第二実施形態では、複数の金属製カップ1をスタックしたときに、内側の金属製カップ1の上部段部14の外面(凸状外面)と、外側の金属製カップ1のカール部4における上部内周側屈曲部71の内周面(凸状内面)とが接触し、底部側では、内側の金属製カップ1の第1湾曲面91の外面と、外側の金属製カップ1の下部連続湾曲面13Aの第2湾曲面131の内面とが非接触状態となっている。
【0051】
さらに、上記いずれの実施形態も、底部にリム部8及びテーパ面の立ち上がり部9を有し、この立ち上がり部9の上端に第1湾曲面91が連続する構成としたが、立ち上がり部及び第1湾曲面を形成せずに、胴部から直接リム部が形成される形状としてもよい。複数の金属製カップをスタックしたときに、底部側で接触させる場合は、リム部の凸状外面が外側の金属製カップの内面に接触するように構成すればよい。
要は、複数の金属製カップ(金属製容器)をスタックしたときに、内側の金属製カップの凸状の外面が、外側の金属製カップの内面に缶軸に沿う縦断面において缶軸方向では一か所で周方向に沿って接触するようにすればよい。この接触状態は、内側の金属製カップが外側の金属製カップに単に載置されているだけであるので、スタックした金属製カップを上下逆にすれば、内側の金属製カップは落下する。ただし、内側の金属製カップをわずかな力で引けば簡単に抜ける程度にわずかに嵌合状態となる場合も、本発明の接触に含まれるものとする。
【実施例0052】
上記第一実施形態で示した方法で、図1に示すH1が150mm、H3が17.5mm、H31が8.7mm、H4が13.0mm、H41が10.5mm、D1が84mm、D2が48mm、D3が62mm、D4が78mm、θ2が87°、第1湾曲面の外面の曲率半径R11が5.6mm、第2湾曲面の内面の曲率半径R12が17.7mm、第3湾曲面の内面の曲率半径R13が19.5mm、第4湾曲面の外面の曲率半径R14が7.4mm、第5湾曲面の曲率半径R15が14.2mm、カール部の上部内周側屈曲部の外面の曲率半径R1が1.4mmのアルミ合金製の金属製カップを300個製造した。そして、これら金属製カップを3個スタックした上、X線透視装置(株式会社島津製作所製:SMX―1000PLUS)で金属製カップの底部近傍、中腹部近傍及び開口部近傍を撮影した。なお、金属製カップの底部近傍の撮像画像を図8に、中腹部近傍の撮像画像を図9に、開口部近傍の撮像画像を図10に示した。
【0053】
図8図10から、複数の金属製カップをスタックした際に、金属製カップの下側(底部側)では第1湾曲面と下部連続湾曲面とが接触するとともに、下部段部の上端に接続されたテーパ筒部のテーパ面が開口部に向かうにしたがって漸次拡径する形状であるので、複数の金属製カップをスタックした場合でも、テーパ面どうしが離間し、内側の金属製カップの外面と外側の金属製カップの内面とが面接触することを抑制できることがわかった。また、金属製カップをスタックした場合に、それぞれの接触部分が曲面により構成されていることから、スタックした複数の金属製カップから最も上側(内側)の金属製カップを取り外す際に取り外しやすく、また、下側(外側)の金属製カップが複数連なって分離することを抑制できた。さらに、内側の金属製カップと外側の金属製カップが面接触することがないので、スタックする際及び引き抜く際にキズが発生することを抑制できた。
【符号の説明】
【0054】
C 中心軸(缶軸)
E エッジ
1 金属製カップ(金属製容器)
2 底部
3 開口部
4 胴部
5 カール部
6 ドーム部
7 内側テーパ壁部
8 リム部
9 立ち上がり部
91 第1湾曲面
11 下部円筒部
12 上部円筒部
13 下部段部
13A 下部連続湾曲面
131 第2湾曲面
132 第3湾曲面
14 上部段部
14A 上部連続湾曲面
141 第4湾曲面
142 第5湾曲面
15 テーパ筒部
21 筒体
25 カップ
50 テーパ状中間筒体
71 上部内周側屈曲部
91 第1湾曲面
131 第2湾曲面
132 第3湾曲面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10