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特開2022-182935被検動物の視機能検査システム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182935
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】被検動物の視機能検査システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
A61B3/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133085
(22)【出願日】2021-08-18
(62)【分割の表示】P 2021090044の分割
【原出願日】2021-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】516386074
【氏名又は名称】JIG-SAW株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 剛
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA11
4C316AA21
4C316AA29
4C316FA02
4C316FB21
4C316FZ01
4C316FZ03
(57)【要約】
【課題】被検動物の視機能を検査するためのシステム、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定し、時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定し、前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する、ことを特徴とする視機能検査システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定し、
時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定し、
前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する、
ことを特徴とする視機能検査システム。
【請求項2】
前記視線方向の移動速度は視線方向の角速度である、請求項1に記載の視機能検査システム。
【請求項3】
前記所定方向に移動する視覚情報に対向するように配置された視機能を有しない動物の視線方向の移動速度の周波数特性を比較対象特性とし、前記被検動物の視機能を検査することは、前記決定された周波数特性と前記比較対象特性とを比較することを含む、請求項1又は2に記載の視機能検査システム。
【請求項4】
前記視覚情報を表示させずに、又は、前記視覚情報を移動させずに、他の所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の他の移動速度を決定し、
時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の他の移動速度に基づいて、他の周波数特性を比較対象特性として決定し、
前記被検動物の視機能を検査することは、前記決定された周波数特性と前記決定された比較対象特性とを比較することを含む、
請求項1又は2に記載の視機能検査システム。
【請求項5】
前記比較対象特性は、各周波数における振幅閾値を示し、
前記被検動物の視機能を検査することは、前記決定された周波数特性の各周波数の振幅が前記振幅閾値以上であるか否かを判定することを含む、請求項3又は4に記載の視機能検査システム。
【請求項6】
前記被検動物の視機能を検査において判定される各周波数は空間周波数又は予め取得された視機能を有する動物の視線方向の周波数特性に基づいて決定されたピーク周波数である、請求項5に記載の視機能検査システム。
【請求項7】
前記決定されたピーク周波数が複数ある場合、前記複数のピーク周波数のうち空間周波数と推定されるピーク周波数を他の各ピーク周波数によって除算して複数の首振り周期の関係を推定することを含む、請求項6に記載の視機能検査システム。
【請求項8】
前記被検動物の視機能を検査において判定される各周波数は一定の幅を持った周波数範囲である、請求項5~7のいずれか1項に記載の視機能検査システム。
【請求項9】
前記被検動物の視線方向を示す情報は所定の表示領域内に表示され、
前記変位特性を取得することは、前記決定された視線方向の移動速度のうち、表示領域外の視線方向の移動速度に対して重み付けを行うことを含む、
請求項1~8のうちいずれか1項に記載の視機能検査システム。
【請求項10】
所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物を配置させる被検動物収容部を備え、
所定方向に移動する視覚情報に対向するように配置された被検動物の視線方向を示す情報を所定期間取得する、
請求項1~9のいずれか1項に記載された視機能検査システム。
【請求項11】
所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定する段階と、
時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定する段階と、
前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する段階と、
を含む、視機能検査方法。
【請求項12】
コンピュータに、
所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定する段階と、
時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定する段階と、
前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する段階と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検動物の視機能を検査するためのシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
視機能に関する疾患を治療するための治療薬等の研究開発に用いるために、ラットやマウス等に実験中の治療薬を投与して被検動物の視機能に与える影響を検査する方法が一般的に行われている。このような視機能の検査においてはオプトモータ反応(視運動反応)を用いて被検動物の視力測定を行う方法が知られている(先行文献1)。
【0003】
オプトモータ反応とは特定の視覚刺激に追従する反射性の運動であり、例えばラットは、視野内の対象全体が一定方向に移動すると、眼球、頭部ないし体全体を、当該対象の移動方向と同じ方向に運動させる。オプトモータ反応を用いてラットの視力測定を行う場合には、一定方向に移動する縞模様をラットに提示したときに、ラットが縞模様の動きに追従して首を動かした場合には当該ラットが視機能を有すると判定され、首を動かさない場合には当該ラットが視機能を有しないと判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-19978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラットが縞模様の動きに同期して首を動かしているか否かを検査者の主観的な判断に委ねると検査精度を保証することが困難であるため、先行文献1は、被検動物の頭部を経時的に撮像する撮像装置によって撮像された画像に基づいて取得された、被検動物の視線の正の角速度のうち絶対値が所定の範囲に属する正の角速度の頻度と、負の角速度のうち絶対値が所定の範囲に属する負の角速度の頻度との差に基づいて、被検動物の視機能を検査するシステムを開示する。
【0006】
しかしながら、正負の角速度(範囲内)の頻度差分による首振り抽出方法では、視機能を有しないラットが縞模様の動きと関係なく頻繁に首を振る場合、視機能を有するラットの縞模様に同期した首振り動作との区別が不十分となり、精度の高い視機能検査が行えないという問題がある。
【0007】
先行文献1においてはラットの視線の角度と角速度の間の回帰直線の傾きに基づいて視機能を検査するシステムも開示するが、ランダムに首振りを行うブラインドラットの回帰直線の傾きは、視機能を有するラットの回帰直線の傾きと同様となるから、精度の高い視機能検査を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.上記の目的を達成するために、本発明の一態様としての視機能検査システムは、所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定し、時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定し、前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する。
【0009】
2.項1に記載の視機能検査システムにおいて、前記視線方向の移動速度は視線方向の角速度としてもよい。
【0010】
3.項1又は2に記載の視機能検査システムにおいて、前記所定方向に移動する視覚情報に対向するように配置された視機能を有しない動物の視線方向の移動速度の周波数特性を比較対象特性とし、前記被検動物の視機能を検査することは、前記決定された周波数特性と前記比較対象特性とを比較することを含んでもよい。
【0011】
4.項1又は2に記載の視機能検査システムにおいて、前記視覚情報を表示させずに、又は、前記視覚情報を移動させずに、他の所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の他の移動速度を決定し、時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の他の移動速度に基づいて、他の周波数特性を比較対象特性として決定し、前記被検動物の視機能を検査することは、前記決定された周波数特性と前記決定された比較対象特性とを比較することを含むようにすることができる。
【0012】
5.項3又は4に記載の視機能検査システムにおいて、前記比較対象特性は、各周波数における振幅閾値を示し、前記被検動物の視機能を検査することは、前記決定された周波数特性の各周波数の振幅が前記振幅閾値以上であるか否かを判定することを含んでもよい。
【0013】
6.項5に記載の視機能検査システムにおいて、前記前記被検動物の視機能を検査において判定される各周波数は空間周波数又は予め取得された視機能を有する動物の視線方向の周波数特性に基づいて決定されたピーク周波数とすることができる。
【0014】
7.項6に記載の視機能検査システムにおいて、前記決定されたピーク周波数が複数ある場合、前記複数のピーク周波数のうち空間周波数と推定されるピーク周波数を他の各ピーク周波数によって除算して複数の首振り周期の関係を推定することを含むことができる。
【0015】
8.項5~7のいずれか1項に記載の視機能検査システムにおいて、前記被検動物の視機能を検査において判定される各周波数は一定の幅を持った周波数範囲としてもよい。
【0016】
9.項1~8のうちいずれかに記載の視機能検査システムにおいて、前記被検動物の視線方向を示す情報は所定の表示領域内に表示され、前記変位特性を取得することは、前記決定された視線方向の移動速度のうち、表示領域外の視線方向の移動速度に対して重み付けを行うことを含むことができる。
【0017】
10.項1~9のいずれかに記載された視機能検査システムは、所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物を配置させる被検動物収容部を備え、所定方向に移動する視覚情報に対向するように配置された被検動物の視線方向を示す情報を所定期間取得してもよい。
【0018】
11.また、本発明の一態様としての視機能検査方法は、所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定する段階と、時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定する段階と、前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する段階と、を含む。
【0019】
12.さらに本発明の一態様としてのプログラムは、コンピュータに、所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物が配置されている場合に所定期間取得された前記被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定する段階と、時間経過に従って変化する前記決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向移動速度の周波数特性を決定する段階と、前記決定された周波数特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する段階と、を実行させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被検動物の視機能の検査を高い精度で行うことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る視機能検査システムのシステム構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る情報取得装置の概略平面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る検査装置のハードウェア構成ブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る視機能検査システムの機能ブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る被検動物の視線方向を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る被検動物の視線方向の角度を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る情報処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る視線方向角度の時間遷移を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る視線方向角速度の時間遷移を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る視線方向角速度の時間変位の周波数特性を示す図である。
図11】本発明の変形例に係る情報処理を示すフローチャートである。
図12】本発明の変形例に係る視線方向角速度の時間変位の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一つの実施形態における視機能検査システム100の概略図を図1に示す。視機能検査システム100は情報取得装置10と当該情報取得装置10と通信可能に接続された検査装置20とを備える。情報取得装置10は所定方向に移動する視覚情報に対向するように被検動物を配置させ、所定方向に移動する視覚情報に対向するように配置された被検動物の視線方向を示す情報を所定期間取得する。検査装置20は情報取得装置10によって取得された情報に基づいて被検動物の視機能を検査する。
【0023】
図1及び2に例示されるように、情報取得装置10は、筐体11、撮像装置12、当該撮像装置を支持する支持部13、被検動物を収容する収容部14、視覚情報を表示する表示装置15を備える。撮像装置12は被検動物の視線方向を示す情報となる被検動物の動画を撮像する。撮像装置支持部13は撮像装置12を支持できるものであればどのようなものであってもよい。筐体11の上部を覆う蓋状の板等であってもよい。
【0024】
収容部14は視線方向を示す情報を取得する所定期間の間、被検動物を収容可能なものであればどのようなものであってもよい。被検動物の胴体を拘束するベルトを備えてもよいし、ケージ状のものであってもかまわない。表示装置15は所定の方向に移動する視覚情報を表示させることができるものであればどのようなものであってもかまわない。例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイであってもよいし、スクリーンとそのスクリーンに視覚情報を投影するプロジェクタとすることもできる。
【0025】
図3に示すように、検査装置20は、プロセッサ21、表示装置22、入力装置23、記憶装置24及び通信装置25を備える。これらの各構成装置はバス26によって接続される。なお、バス26と各構成装置との間には必要に応じてインタフェースが介在しているものとする。本実施形態において、検査装置20はコンピュータであるが、上記の構成を備えるものであれば、タブレットなどのその他の電子装置とすることができる。
【0026】
プロセッサ21は、検査装置20全体の動作を制御するものであり、例えばCPUである。なお、プロセッサ21としては、MPU等の電子回路が用いられてもよい。プロセッサ21は、記憶装置24に格納されているプログラムやデータを読み込んで実行することにより、様々な処理を実行する。1つの例では、プロセッサ21は、複数のプロセッサから構成される。
【0027】
表示装置(ディスプレイ)22は、プロセッサ21の制御に従って、アプリケーション画面などをユーザに表示する。好ましくは液晶ディスプレイであるが、有機ELを用いたディスプレイやプラズマディスプレイ等であってもよい。
【0028】
入力装置23は、検査装置20に対するユーザからの入力を受け付けるユーザインタフェースであり、例えば、キーボード、マウス又はタッチパネルである。記憶装置24は、揮発性メモリであるRAM及び不揮発性メモリであるROMを含む、一般的なコンピュータが備える記憶装置である。1つの例では、記憶装置24は、揮発性メモリであるRAM及び不揮発性メモリであるeMMC、UFS、SSDのようなフラッシュメモリを用いた記憶装置及び磁気記憶装置等を含む、一般的なスマートフォン及びコンピュータが備える記憶装置である。記憶装置24は、外部メモリを含むこともできる。
【0029】
例えば記憶装置24は、情報取得装置10を制御するための制御用プログラム、情報取得装置10によって撮像された被検動物の撮像動画像に基づいて、被検動物の視線方向を解析するための視線解析プログラム及び被検動物の視線方向を示す情報に基づいて視機能を検査するためのプログラムを記憶する。
【0030】
通信装置25は、通信ケーブル2(図2においては省略)を介して他の装置との間でデータの授受を行う。情報取得装置10もまた通信装置を備える。例えば通信装置25は、USBケーブルを介して直接接続によって検査装置20と情報取得装置10とを接続してもよい。通信ケーブルに代えてブルートゥース(登録商標)等を介した無線接続を行ってもよい。また、有線ローカルエリアネットワークや、無線LAN等の無線通信を行い、ネットワークへ接続して、情報取得装置10と通信を行ってもよい。情報取得装置10に含まれる撮像装置12、表示装置15が別々に検査装置20と接続されるようにしてもよい。
【0031】
検査装置20は通信装置25を介して情報取得装置10に対して表示装置15における視覚情報表示、撮像装置12を用いた被検動物の撮像及び撮像データの検査装置20への送信等の動作を制御できるものとする。
【0032】
図4は本発明の一実施形態による視機能検査システム100の機能ブロック図の一例を示す。視機能検査システム100は、制御部101、情報取得部102、視線解析部103、変位特性取得部104及び視機能検査部105を備える。
【0033】
制御部101は、視機能検査システムにおける各機能部が協働して動作するように各機能部を制御する機能を有する。情報取得部102は、所定方向に移動する視覚情報に対向するように配置された被検動物の視線方向を示す情報を所定期間取得する。本実施形態においては、情報取得部102は、視覚情報としての縞模様を所定方向に移動させ、被検動物としてのラットの動画像を所定期間撮像する機能を有する。
【0034】
視線解析部103は、情報取得部102によって取得された視線方向を示す情報に基づいて、さらに視線方向を解析する機能を有する。ここでは、情報取得部102によって取得されたラットの動画像に基づいて、ラットの視線方向を解析する機能を有するものとする。ラットの動画像から視線解析が可能であるからラットの動画像は視線方向を示す情報である。
【0035】
変位特性取得部104は、視線解析部103によって決定された視線方向を示す情報に基づいて視線方向の時間変位特性を演算する。本実施形態においては、視線方向を示す情報に基づいて視線方向の角速度を決定し、決定された角速度の時間変位を決定し、角速度の時間変位の周波数特性を決定するものとする。視機能検査部105は、決定された周波数特性に基づいて被検動物の視機能の有無を判定する。
【0036】
本実施形態においては、検査装置20のプロセッサ21が記憶装置24に記憶されるプログラムを実行し、情報取得装置10及び検査装置20の各ハードウェアと協働して動作することによりこれらの機能が実現される。情報取得装置10がプロセッサ及び記憶装置を備え、そこに格納されたプログラム又は記憶装置24に記憶されたプログラムとが協働して、これらの機能が実現されるようにしてもよい。各種機能がプログラム読み込みにより実現されるため、1つのパート(機能)の一部又は全部を他のパートが有していてもよい。各機能の一部又は全部を実現するための電子回路等を構成することによりハードウェアによってこれらの機能を実現してもよい。
【0037】
図5を用いてラットの視線方向を説明する。本実施形態において被検動物としてのラットの視線方向は、両耳(A1及びA2)の中点(B)を中心としてそこから鼻(C)へ伸ばしたベクトルが向いている方向vを視線方向とする。図6に示すように視線方向は水平面における左右角度と水平面に対して垂直な垂直面における上下角度によって定義するものとする。表示装置15に対して平行な右方向を0度とし、左方向を-180度とし、表示装置15に対して垂直方向を-90度とする。さらに上下方向については、水平方向を0度とし鉛直上方向を90度とし鉛直下方向を-90度とする。
【0038】
本実施形態においては視線方向を解析するにあたって、動物を撮像した動画から動物の姿勢推定を行うことができる画像解析アルゴリズムを用いるものとする。このようなアルゴリズムを実現するためのアプリケーションは、例えば、深層学習で動物の身体をトラッキングするDeepLabCut等が一般的に広く知られており、このようなアプリケーションを用いた画像解析は当業者であれば容易に実施することができる。本実施形態においてはDeepLabCutを用いてラットの視線方向を推定する。撮像動画において、撮像されたラットの鼻、両耳、撮像装置上の固有部をマーキングし、マーキング情報よりDeepLabCutを用いて撮像動画の全フレーム上のマーキングを座標化する。そして、座標化された座標より、マウスの視線方向のベクトルを決定する。
【0039】
ラットの上下方向の視線方向は、ラットの視線方向が水平方向である場合の両耳の中点(B)から鼻(C)までの距離D(最大距離)に基づいて演算することができる。すなわち、所定のフレームにおける両耳の中点(B)から鼻(C)までの距離をD'とすると視線方向の上下方向角度はarccosine(D'/D)によって求めることができる。
【0040】
変位特性取得部104は、所定期間取得された被検動物の視線方向を示す情報に基づいて、時間経過に従って変化する視線方向の移動速度を決定し、時間経過に従って変化する決定された視線方向の移動速度に基づいて、視線方向の移動速度の変位特性を決定する。本実施形態においては、変位特性取得部104が取得する視線方向を示す情報は視線解析部103によって推定された経時的に取得された被検動物の視線方向角度を示す情報とする。また、ここでは視線方向の移動速度は視線方向の角速度とし、視線方向の移動速度の変位特性は視線角速度の時間変位の周波数特性とする。
【0041】
視機能検査部105は、変位特性取得部104によって取得された変位特性に基づいて、前記被検動物の視機能を検査する。例えば、視覚情報の移動に起因するオプトモータ反応を示す被検動物の変位特性と、オプトモータ反応を示さない状態の被検動物の変位特性とを比較することにより、視機能を検査することができる。
【0042】
次に、本発明の一実施形態による視機能検査システム100の被検動物の視機能検査処理の一例を図7に示したフローチャートを用いて説明する。本実施形態においては被検動物としてラットを用い、ラットが視機能を有するか否か、すなわち、視覚があるか否かを検査するものとする。ラットの視線方向を解析するために、ディープラーニングを用いた視線解析用アプリケーション(DeepLabCut)を用いることとする。DeepLabCutを用いてラットの両耳と鼻にマーキング処理を施し、その座標を取得して、ラットの両耳と鼻の座標より頭の向き、すなわち視線方向(ベクトル)を決定する。
【0043】
本実施形態においてはまず、被検動物であるラットを情報取得装置10の収容部14に表示装置15に対向する状態で配置した後、視覚情報としての正弦波格子を表示装置15に表示して、図2の矢印の方向に一定の速度で移動させる。正弦波格子とは図3に示すような白い部分と暗い部分とが交互にグラデーションをもって表現される縞模様である。視覚情報は被検動物のオプトモータ反応を発生させるような情報であれば、グラデーションのない単なる縞模様やその他の情報であってもかまわない。
【0044】
正弦波格子の移動速度は、例えば、被検動物を配置する位置等の所定の位置を中心として格子(縞)が回転する回転速度によって定義することができる。また、視角1.0度に含まれる格子のサイクル数(c/d: cycles/degree)を空間周波数という。空間周波数が大きいということは、細い縞が多く含まれることを意味し、空間周波数が低いとは縞の幅が広いことを意味する。そして、正弦波格子を移動させる場合には、1.0度の視角に移動して入ってくる縞模様があるから、移動時の空間周波数は単位時間あたりの移動角度を乗算した値となる。
【0045】
例えば、2.0rpmで0.18c/dの正弦波格子が移動する際の移動時の空間周波数は2.16Hzとなる。正弦波格子を表示している表示装置15からの距離が大きいほど、視角1.0度に含まれる格子の数は増加する。例えば、表示装置15への距離が2倍になった場合には空間周波数も2倍になる。本実施形態においては、表示部が平面上であるから、表示装置15の中心部分と両端部分においては被検動物からの距離が一定ではない。表示装置15の表示領域の全面にわたって、被検動物からみた空間周波数が一定となるように、表示される格子の実際の空間周波数を変化させている。すなわち、両端から中心に近づくにつれて空間周波数を増加させる。ここでは、被検動物から見た空間周波数が4.32Hzとなるように設定されているものとする。
【0046】
正弦波格子の移動を開始した後(S701)、情報取得装置10における撮像装置12によってラットの動画像を一定期間、撮像する(S702)。そして、数フレーム分の撮像された動画像において両耳及び鼻をマーキングした後、DeepLabCutを用いて撮像された動画の各フレームにおいて、座標化されたラットのマーキング位置を取得する(S704)。ここでは、ラットの両耳の座標及び鼻の座標をフレーム毎に取得する。そして、取得された両耳及び鼻の座標情報に基づいて、各フレームにおけるラットの視線方向を決定する(S706)。本明細書においては、視線方向を、視線方向ベクトル、ベクトルということがある。
【0047】
次に、各フレームにおける視線方向角度(ベクトル角度)を決定する(S708)。ベクトル角度は前述のとおり、図6に示すように左右角度と上下角度に基づいて決定されるものとする。そして決定された視線方向角度が移動する角速度を決定する(S710)。角速度(度/秒)は連続する2つのフレームにおける視線方向角度の差にフレームレートを乗算することで演算することができる。
【0048】
正弦波格子は水平方向へ移動するだけであるから、角速度は左右角度の移動についてのみ計算するものとする。上下角度は後述する重み付けにのみ用いる。変形例として上下角度の角速度についても考慮してもかまわない。
【0049】
次に、本実施形態においては演算された角速度に対して重み付けを行う(S712)。被検動物は正弦波格子の移動と無関係に首を振る場合がある。ここでは被検動物が正弦波格子の移動に反応して視線方向を移動させていることを示す情報と推測される情報にはより大きな重みを与え、正弦波格子とは無関係に首を振ることで視線方向が移動していることを示すと推定される情報にはより低い重みを与えることにより、精度良く被検動物のオプトモータ反応を検出することを可能とする。
【0050】
表示装置15を視認する場合、正弦波格子が見える視線方向の角度の範囲は表示装置15の表示領域の大きさと被検動物の位置によって決まる。被検動物が配置された場所を基準として、そこから正弦波格子が視認できない範囲の視線方向の角度を示す情報に対して補正係数を乗算することによって、視認可能な範囲の視線方向より小さい重みを与えることとする。本実施形態においては、表示装置15の表示領域の高さは26.773cmとし、被検動物から表示装置までの距離を40cmとする。正弦波格子を視認可能な最大仰角は表示装置15の表示領域の上端であるから、その最大仰角は28.5607度である。被検動物の視線方向角度が28.5607度を超える場合には、下記の式1により決定される上下方向重み係数を角速度に乗算することにより、角速度の重み付けを行う。
〔数1〕
上下方向重み係数 = (最大仰角(28.5608)/視線方向角度)2
【0051】
また同様に左右方向についても正弦波格子を視認できない視線方向角度を示す情報に基づいて算出された角速度に対してより小さな重みとなるように、視線方向角度により、左右端の最大角度を超えた場合に、式2により決定される左右方向重み係数を乗算する。
〔数2〕
左右方向重み係数 = ((90+最大左右端角度)/(90+視線方向角度))2
【0052】
ここでは、左右で重み付け係数を正規化するため、-90度位置を0度として係数を算出する。例えば、右端の最大角度は-59.2491度とし、左端の最大角度は-120.7509度とする。視線方向角度が-10.0度の場合、右端の最大角度を超えているから、((90-59.2491)/(90-10))2=0.147753が左右方向重み係数であり、これを角速度に乗算する。一方、視線方向角度が-90度の場合、正弦波格子を視認可能な範囲内のため、左右方向重み係数=1.0とする。視線方向角度が-170度の場合、((90-120.7509)/(90-170))2=0.147753を重み係数として角速度に乗算する。
【0053】
本実施形態を用いた場合の一例としての視線方向角度及び角速度を表1に示す。
【表1】
【0054】
表1において時間は測定開始からの経過時間を示し、上下角度は視線方向の上下角度、左右角度は視線方向の左右角度、角速度は左右角度の一つ前のフレームとの差分をフレーム間の時間で除算して得られる角速度である。重付後角速度は重み付けを行った後の角速度を示す。角度及び角速度の決定は撮像動画のフレーム毎に行い、ここでは撮像動画のフレームレートは120fpsであるからフレーム間隔は1/120秒(0.00833秒)である。
【0055】
測定時間=0.008333秒において角速度は、その時点における角度(-76.9728)と一つ前のフレームの左右角度(-77.5552)との差(0.582436188)をフレーム間隔で除算した値である。この時点においては上下角度及び左右角度ともに最大仰角及び最大左右端角度以下であるから、重み付けは実行されず、重み付け後の角速度は0.582436188となる。重み係数1.0を乗算してもよい。
【0056】
測定時間=0.016667秒においては、上下角度(29.85425271)が最大仰角(28.5608)を超えているから角速度(1.22945239)に対して、重み係数((28.5608/29.85425271)2=0.91522)を乗算して、重み付け後の角速度(1.125218855)を決定する。測定時間=3.000833秒においては、左右角度が最大左端角度(-120.7509)を超えているから角速度(1.325452683)に対して、重み係数((90-120.7509)/(90-129.8438))2=0.595654を乗算して、重み付け後の角速度(0.789511368)を決定する。測定時間=4.0025においては上下角度及び左右角度の両方が最大角度を超えているから、上下角度に基づく重みづけ係数及び左右角度に基づく重みづけ係数の両方を乗算して、重み付け後の角速度を決定する。
【0057】
本実施形態においては、正弦波格子を視認できない範囲での視線方向を示す情報に基づいて算出された角速度について1より小さな重み係数を乗算して小さな重みとなるようにしたが、視認可能な範囲に対して1より大きな重みとなるような重み係数を乗算するようにしてもよい。たとえば上記式1及び2に示される係数を全視線方向角度範囲に対して乗算するようにしてもよい。
【0058】
正弦波格子を視認できない範囲での視線方向を示す情報に基づく角速度についてはゼロとしてもよい。しかし、視線方向角度が表示領域範囲外であっても、被被検動物が依然として縞模様を視認している場合もある。例えば、視線方向角度は鼻の向いている方向で判定しており、眼球の向きは考慮していない。したがって、眼球を動かすことで縞模様が視認できている場合もある。このため、視線方向角度が表示領域外の角速度情報を一律でゼロにしてしまうと、本来考慮すべき情報が破棄されてしまう可能性がある。また、視認できない範囲に基づく角速度をゼロ補間するような処理を行うと、後述するフーリエ変換による出力データの線形性が確保できず、精度の高い検査を行うことができない。
【0059】
一方、本実施形態のように視認できない範囲についてもその視線角度に基づいて重み付けを行うことにより、表示領域に比較的近い領域に向けられた視線方向については依然として正弦波格子を視認している状態の情報である可能性があるから比較的重い重み付けを与え、表示領域から離れるにつれて重み付けを軽くしていくことで、情報の有効性に基づいて周波数特性を決定する際に考慮に含ませることが可能となる。また、表示領域から離れるにつれて徐々に重み付けを小さくすることにより、フーリエ変換後の出力データの線形性を確保することも可能となる。なお、角速度に対する重み付けを行わずに全ての視線方向角度に基づいて得られた角速度をそのまま用いることもできる。
【0060】
次に、重み付け処理を終えた後の角速度に基づいて角速度の時間変位についての周波数特性を決定する(S714)。そして、決定された周波数特性に基づいて視機能の検査を行う(S716)。視線方向の左右角度の時間遷移の一例を図8に示し、角速度の時間遷移の一例を図9に示す。角速度の時間変位の周波数特性は例えば、角速度の時間変位を示す波形をフーリエ変換することにより取得することができる。本実施形態においてはフレーム毎の角速度の値に基づいて高速フーリエ変換(FFT)を行うことにより、角速度の周波数特性を決定する。
【0061】
図9に示す角速度の時間遷移を示すグラフは、図8に示した角度の時間遷移から取得された角速度データをノイズ除去フィルタに通した後のデータに基づくものである。ノイズ除去フィルタは一般的に良く知られたフィルタを用いることができ、当業者であれば明確に理解できるものである。角速度においてノイズを除去することにより、視線解析の処理等によって発生する視線方向角度の誤差の影響等を除去した、視線方向角度の角速度を示すデータを取得することができる。
【0062】
図9に示した角速度の時間遷移を示すデータに基づいてFFTを行って得られた角速度の周波数特性を図10に示した。図10において線1001は視機能を有しないラットの角速度の周波数特性を示し、線1002は視機能を有するラットの角速度の周波数特性を示す。
【0063】
ここでは、検査対象となるラットの視機能検査に先立って、視機能を有しないことが分かっているラットについて前述のS701~S714の処理によって角速度の周波数特性を示す情報を複数回取得する。そして、得られた複数の周波数特性の各周波数における振幅値の最大値を全周波数について抽出し(マックスホールド)、この抽出された各周波数の振幅最大値を視機能を有しないラットの視線方向角速度変位の周波数特性とする(線1001)。
【0064】
角速度の周波数特性を示す情報の取得は1回でも本発明は実施可能であるが、本実施形態に示すように複数回取得することが好ましい。検査対象となるラット検査回数と同数回以上取得することが好ましい。角速度の周波数特性を示す情報を複数回取得することにより、より信頼性の高い周波数特性を取得することを可能とする。角速度の周波数特性を示す情報を少ない回数だけ取得した場合には、発生する確率の低い大きな振幅値を取得することができず、本来の最大値を含んだ特性とならない場合がある。
【0065】
図9に示すように視機能を有しないラット(ブラインドラット)の角速度変位の周波数特性は大きなピークを持たず、周波数0付近から高周数へ向けて振幅が漸減する特性を有していることが分かる。
【0066】
線1002は上述のS714において取得された視機能を有するラットの視線方向角度変位の周波数特性を示す。線1002においては、線1001とは異なり、0.5Hz、1.0Hz及び5.0Hz付近にピークをもった周波数特性となっていることが分かる。
【0067】
視機能を有しないラットは正弦波格子の移動とは無関係に単なる習性として首を振る。線1001はその時の首振りの周波数特性を示すものであり、この場合は特定の周波数成分を含んだ角速度変位を含まない。これに対して、視機能を有するラットが正弦波格子の移動に起因するオプトモータ反応によって視線方向を移動させる場合、空間周波数と相関のある角速度変位を含んで首を振ることになる。このため、移動する正弦波格子を見せられている視機能を有するラットの視線方向の角速度の時間変位は特定の周波数成分においてピークを含んだ変位となる。
【0068】
本実施形態においては比較対象としての線1001は視機能を有しないラットの複数回取得された周波数特性をマックスホールドして取得された周波数特性であるから、視機能を有しないラットの通常の周波数特性における各周波数の振幅値は、線1001の各周波数の振幅値を超えない。一方で、視機能を有するラットの周波数特性は、特性の周波数成分を多く含んだ特性となるから、その周波数においてはマックスホールドされたブラインドラットの周波数特性の振幅を超えることになる。
【0069】
したがって、この視機能を有しないラットの周波数特性を比較対象特性とする。すなわち、視機能を有しないラットの各周波数におけるマックスホールドされた振幅値を閾値とし、検査対象のラットについて上述の方法によって取得された周波数特性の振幅がいずれかの周波数において閾値を超えるか否かを判定する。そして、検査対象のラットの周波数特性においていずれかの周波数の振幅が閾値を超える場合には、検査対象のラットは視機能を有すると判定し、閾値を超えない場合には視機能を有しないと判定する。誤判定を防止するために、線1001から決定される閾値をマックスホールドによって得られる振幅値より、例えば所定の割合だけ大きい値としてもよい。
【0070】
また、視機能を有するラットの周波数特性においてピークが立つと推定される周波数の振幅が閾値を超えるか否かを判定することが好ましい。この周波数は一定の幅を持った周波数帯域(範囲)とすることが好ましい。
【0071】
ピーク周波数を推定する方法は様々な方法が考えられるが、空間周波数に基づいて推定することができる。本実施形態においては前述のとおり、空間周波数は4.32Hzとなるように設定されており、この空間周波数をピーク周波数の中心周波数と推定することができる。被検動物の視線移動は正弦波格子の移動に反応するオプトモータ反応であるため、空間周波数に相関があるものと推定されるからである。
【0072】
空間周波数は被検動物の眼の位置と表示領域との距離によって変化するものであり、被検動物は収容部14内に固定されているものの、完全に眼の位置を固定することはできない。そのため、被検動物から見た正弦波格子までの距離は必ずしも一定ではなく、空間周波数も一定とはならない。そこで、空間周波数の誤差範囲を考慮してピーク周波数帯域幅を決定する。ここでは被検動物から視認される空間周波数には20%の誤差があるものと推定し、ピーク周波数帯域は3.46Hz~5.18Hzとする。このピーク周波数帯域内で線1002の振幅値が線1001の対応する周波数の振幅値を超える場合には、視機能を有するラットと判定する。
【0073】
線1003は正弦波格子の空間周波数に基づいて演算された視機能を有するラットの角速度の周波数特性と推定される周波数特性を示す。ここではピーク周波数を誤差範囲の最大である5.18Hzとして表示しており、図に1004で示す、3.46Hz~5.18Hzの帯域幅を持たせるものとする。
【0074】
図10においては5.0Hz周辺において線1002の振幅値の方が線1001の振幅値よりも大きいから、この被検動物は視機能を有するものと判定する。
【0075】
ピーク周波数を推定する方法としては、視機能を有することが既知であるラットの周波数特性を事前に取得しておき、その周波数特性から決定してもよい。例えば、視機能を有するラットの周波数特性を取得して、そのピーク周波数を中心として前後10%程度の周波数を含む帯域をピーク周波数帯域とすることができる。
【0076】
視機能を有するラットは正弦波格子が移動すると、オプトモータ反応によって、正弦波格子の移動を追いかけるように視線方向を移動させる。この際、正弦波格子の移動を視線が追い越した後、いったん戻ってまた正弦波格子を追いかけるという細かい首振り動作を繰り返す傾向がある。そして、視線方向がいったん表示領域端に到達すると、反対端まで首を大きく首を動かして、再度細かい首振りを繰り返す。線1002における周波数特性は、このような特徴的な首振りに起因したものと考えられる。
【0077】
線1002において1.0Hz以下においても2つピーク周波数が現れている。ここでは最小周波数は0.5Hzまでとし、0.5Hz未満の周波数成分は検出していない。これら2つのピーク周波数は被検動物がゆっくりと首を振っている場合に出現する。また、前述のような視線方向がいったん表示領域端に到達したため視線を大きく戻す等の理由により細かい首振りよりもゆっくりとした首振りを行うことがあるから、このような首振りに起因するピークが観察されているものとも考えられる。
【0078】
線1002は被検動物の首振りが複数の周期の首振りが合成された首振りであることを示していると考えてもよい。ピーク周波数が複数出現した場合には、取得された周波数特性に基づいて複数の首振り周期の関係を推定してもよい。より具体的には、空間周波数付近、例えば空間周波数の前後10%の範囲に現れるピーク周波数を第1のピーク周波数とする。この第1のピーク周波数が閾値を超える場合には、視機能を有すると判定する。そして、視機能を有すると判定された場合には更に、複数出現したピーク周波数のうちの第1のピーク周波数以外のピーク周波数を用いて、空間周波数に同期した首振りとそれとは異なる首振りの周期の関係を推定する。
【0079】
例えば、線1002においては、空間周波数4.32Hzの前後10%の帯域幅1004に含まれる5.0Hz周辺のピーク周波数を第1のピーク周波数とする。ここでは簡単のため5.0Hzとする。そして、この第1のピーク周波数以外のピーク周波数として、1.0Hzの第2のピーク周波数と0.5Hzの第3のピーク周波数が検出されたものとする。第1のピーク周波数を第2のピーク周波数で除算してその商(5/1=5)を決定し、この決定された商を空間周波数に同期した首振りが何回行われる毎にそれよりもゆっくりとした首振りが1回行われたものかを示すものとする。ここでは商が5であるから、空間周波数に同期した首振りが5回行われるとそれよりもゆっくりとした首振りが1回行われたものと推定する。さらに、第1のピーク周波数を第3のピーク周波数で除算して得られた商についても同様に算出し、ここでは空間周波数に同期した首振りが10回行われる毎に1回のよりゆっくりとした首振りが1回検出されたものとする。
【0080】
本実施形態を用いることにより、被検動物の視機能検査を精度良く行うことを可能とする。従来の視機能検査においては、視機能を有しないラットが縞模様の動きと関係なく頻繁に首を振る場合、視機能を有するラットの縞模様に同期した首振り動作との区別がつかず、十分な視機能の検査精度が得られないという問題があった。本実施形態においては、視機能を有する被検動物が移動する視覚情報を視認した場合のオプトモータ反応による視線方向の移動角速度の周波数特性に基づいて視機能の検査を行うことで、視機能を有しない被検動物の縞模様の動きと無関係の首振りによる誤判定を防止することができる。
【0081】
また、本実施形態においては、視線方向角度に基づいて角速度に対して重み付けを行うことにより、より高い精度の判定を可能とする。従来のシステムにおいては、視線方向が縞模様の表示領域外の場合にはデータを排除していた。しかし、視線方向角度が表示領域範囲外であっても、被被検動物が依然として縞模様を視認している場合もある。例えば、視線方向角度は鼻の向いている方向で判定しているが、眼球の向きまでは判定していない。眼球を動かすことで縞模様が視認できている場合もある。本実施形態においては、視線方向角度が表示領域外を示す場合には、被検動物が正弦波格子を視認できていない可能性を鑑みて、重み付けを小さくしつつデータを破棄することなく視機能検査を行う。このような情報処理を行うことにより、フーリエ変換による出力データの線形性を確保することも可能となる。
【0082】
本実施形態においては、情報取得装置10が撮像した動画情報を検査装置20が受信して、これに基づいて検査装置20が視線方向解析処理を実行するものとするが、情報取得装置10が視線解析処理(S704及びS706)を実行し、解析された視線方向を示す情報を検査装置20へ送信するようにしてもかまわない。さらに、情報取得装置10が視線方向角度の決定から周波数特性の決定処理(S708~S714)までを実行してもよい。また、一つの装置ですべての処理を実行するようにしてもよいし、情報取得装置10及び検査装置20を含む装置のうち、実行可能な主体が実行可能なように適宜設計することが可能である。
【0083】
[変形例]
被検動物の視機能を検査するための視機能検査処理の変形例について説明する。本変形例においては、被検動物の視機能の検査にあたって事前に用意したブラインドラットの周波数特性ではなく、当該被検動物に対して視覚情報を示さない状態で取得した周波数特性を用いる点で前述の実施形態と異なる。以下、前述の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0084】
変形例の情報処理のフローチャートを図11に示した。視機能を検査するための処理を開始すると、S1101において、移動する正弦波格子の表示を開始、又は、停止する(S1101)。ここでは停止処理は正弦波格子を含め何も表示しない状態とするが、停止した正弦波格子を表示してもよい。開始と停止は交互に実行され、正弦波格子が停止している場合には開始処理が実行され、移動している場合には停止処理が実行される。最初は移動の開始とするが、停止から開始してもかまわない。正弦波格子の移動を開始した後、前述の実施形態と同様に所定の期間、被検動物の撮像を行う(S1102)。所定期間は5秒とする。そして、S1101及びS1102の繰り返し実行が所定回数に至っているか否かを判定し(S1103)、至っていないと判定するとS1101に戻る。
【0085】
繰り返し実行されるS1101においては、一つ前のS1101の処理において実行した処理と反対の処理、すなわち、一つ前のS1101の処理において移動開始処理が実行されていれば、停止処理を実行し、一つ前の処理が停止処理であれば開始処理を実行する。その後、その状態で所定期間の間、被検動物の撮像処理を実行する(S1102)。ここでは一つ前の処理が開始処理であったから、S1101において正弦波格子の表示が停止され、S1102において表示装置15に何も表示されていない状態での被検動物の動きを撮像する。撮像された動画は、正弦波格子が移動している状態に撮像されたか、停止している状態に撮像されたかを示す情報とともに記憶される。
【0086】
本変形例においては、正弦波格子が表示された状態と表示されていない状態での撮像を10回ずつ行うようにS1101及びS1102を繰り返し実行した後、S1102において判定が真となり、S1104以降の処理が開始される。S1104~S1116の基本的な処理は前述のS704~S716までの処理と同様であるが、移動する正弦波格子が表示された状態で撮像された被検動物の撮像動画と、正弦波格子が表示されていない状態で撮像された被検動物の撮像動画とに対して別々に処理を実行する点でS704~S716と異なる。
【0087】
移動する正弦波格子が表示された状態で撮像された被検動物の撮像動画については、5秒おきに繰り返し取得された10個の撮像動画を被検動物の一つの撮像動画としてS1104~S1116までの処理を実行する。
【0088】
移動する正弦波格子が表示されていない状態での被検動物の撮像動画は、5秒おきに繰り返し取得された10個の撮像動画のそれぞれに対して別々に、S1104~S1114の処理を実行する。そして、正弦波格子非表示状態の動画の周波数特性の決定(S1114)においては、各撮像動画のための周波数特性を決定した後、決定された10個の周波数特性に基づいて非表示状態における一つの周波数特性を決定する。ここでは、10個の非表示状態の周波数特性の各周波数から最大振幅を抽出して(マックスホールド)、抽出された最大振幅によって決定される特性を非表示状態の周波数特性として決定する。この周波数特性を比較対象特性とする。
【0089】
そして、移動する正弦波格子が表示された状態の撮像動画から決定された周波数特性と非表示の状態の撮像動画から決定された周波数特性とに基づいて、この被検動物の視機能を検査する(S1116)。
【0090】
図12に変形例を用いた場合の周波数特性を示した。線1201は正弦波格子が非表示状態の撮像動画から決定された周波数特性を示し、線1202は正弦波格子が表示状態で撮像された動画から決定された周波数特性を示し、線1203は空間周波数に基づく推定ピーク周波数を4.9Hzとした場合の視機能を有する被検動物の推定周波数特性を示す。
【0091】
ここでは線1202の各周波数における振幅値を線1201の対応する周波数の振幅値と比較していずれかの周波数において線1202の振幅値の方が大きい場合にはこの検査対象のラットは視機能を有していると判定し、そのような周波数がない場合にはこのラットは視機能を有していないと判定する。
【0092】
正弦波格子が表示されていない場合には被検動物は正弦波格子が見えていない状態であるから、ブラインドラットと同じ状態とみなし、線1201を視機能検査の比較対象特性とする。そして、正弦波格子を表示させた状態で被検動物を撮像すると、視機能を有する被検動物は正弦波格子の移動に対するオプトモータ反応によって首振りを行うから、ピーク周波数を有する視機能を有する被検動物特有の周波数特性を示す。
【0093】
視機能を有しないブラインドマウスの場合には、正弦波格子の表示を行った場合であっても、正弦波格子を表示しない状態と同じであるから、正弦波格子を表示しない状態で得られる周波数特性のマックスホールドによって取得された線1201よりも各周波数における振幅が小さくなる。したがって、正弦波格子を表示した状態の撮像動画から取得された周波数特性の各周波数の振幅が線1201の対応する周波数の振幅よりも小さい場合には、視機能を有しないと判定することができる。誤判定を防止するために比較対象特性とする周波数特性の各振幅はマックスホールド値よりも所定の割合だけ大きくしてもよい。
【0094】
線1203は空間周波数に基づく推定ピーク周波数を4.9Hzとした場合の視機能を有する被検動物の推定周波数特性を示す。本変形例においても空間周波数は4.32Hzに設定されており、これを中心周波数として20%の誤差範囲を含む周波数帯域を空間周波数に基づいて推定される周波数帯域3.46Hz~5.18Hzを比較に用いる周波数帯域として、線1201と線1202とを比較することにより検出を行うことが可能であることは前述の実施形態と同様である。
【0095】
本変形例を用いることにより、事前にブラインドラットの周波数特性を用意する必要がなく、一体の被検動物の視機能検査の処理だけで視機能検査を行うことができるから、より容易に視機能検査を行うことが可能となる。
【0096】
以上に説明した処理又は動作において、矛盾が生じない限りにおいて、処理、動作及び組み合わせを自由に変更することができる。上述の処理及び動作を上述の実行主体とは異なる装置が実行してもよい。また以上に説明してきた各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0097】
2 :通信ケーブル
10 :情報取得装置
11 :筐体
12 :撮像装置
13 :撮像装置支持部
14 :収容部
15 :表示装置
20 :検査装置
21 :プロセッサ
22 :表示装置
23 :入力装置
24 :記憶装置
25 :通信装置
26 :バス
100 :視機能検査システム
101 :制御部
102 :情報取得部
103 :視線解析部
104 :変位特性取得部
105 :視機能検査部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12