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特開2022-18294光学デバイス、及びこれを用いた宇宙機
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018294
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】光学デバイス、及びこれを用いた宇宙機
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20220120BHJP
   F03H 3/00 20060101ALI20220120BHJP
   B64G 1/24 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G02F1/13 505
F03H3/00
B64G1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121303
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】杉原 アフマッド清志
(72)【発明者】
【氏名】森 治
【テーマコード(参考)】
2H088
【Fターム(参考)】
2H088EA23
2H088EA33
2H088GA10
2H088HA21
2H088MA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光の輻射圧が作用する向きを様々に変更可能な光学デバイスを提供する。
【解決手段】光学デバイス1は、基準面に沿って延び、複数の傾斜面と、光制御部と、を具備する。複数の傾斜面は、基準面に対して相互に異なる向きに傾いている。光制御部は、光学デバイス1に入射する光によって複数の傾斜面に加わる作用の大きさを個別に電気的に切替可能に構成されている。この光学デバイス1では、複数の傾斜面ごとに、入射する光の輻射圧が作用する向きが異なる。このため、この光学デバイス1では、各傾斜面に加わる作用の大きさを光制御部によって個別に制御することで、複数の傾斜面に作用する光の輻射圧の合計として加わる駆動力の向きを様々に変更可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面に沿って延びる光学デバイスであって、
前記基準面に対して相互に異なる向きに傾いた複数の傾斜面と、
前記光学デバイスに入射する光によって前記複数の傾斜面に加わる作用の大きさを個別に電気的に切替可能に構成された光制御部と、
を具備する光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学デバイスであって、
前記光学デバイスは、少なくとも3つの傾斜面を有する
光学デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学デバイスであって、
前記複数の傾斜面は、光反射性を有する
光学デバイス。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光学デバイスであって、
前記複数の傾斜面は、光屈折性を有する
光学デバイス。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光学デバイスであって、
前記複数の傾斜面は、光反射性を有する傾斜面と、光屈折性を有する傾斜面と、を含む
光学デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光学デバイスであって、
前記光制御部は、前記複数の傾斜面にそれぞれ設けられ、高分子分散型液晶で形成された複数の液晶層を有する
光学デバイス。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の光学デバイスであって、
前記光制御部は、光反射性を個別に電気的に切替可能な表面を有する複数のクロミックデバイスを有し、
前記複数のクロミックデバイスの前記表面が前記複数の傾斜面として構成される
光学デバイス。
【請求項8】
受光面と、前記受光面に沿って延びる光学デバイスと、を具備し、
前記光学デバイスは、
前記受光面に対して相互に異なる向きに傾いた複数の傾斜面と、
前記光学デバイスに入射する光によって前記複数の傾斜面に加わる作用の大きさを個別に電気的に切替可能に構成された光制御部と、
を有する
宇宙機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス、及びこれを用いた宇宙機に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、宇宙空間を航行可能な宇宙機であるソーラーセイル「IKAROS」について記載されている。ソーラーセイルは、太陽光を受けるセイルを有する宇宙帆船である。つまり、ソーラーセイルは、セイルが太陽光から受ける輻射圧を推進力として宇宙空間を航行することができる。
【0003】
また、非特許文献1に記載のソーラーセイルは、セイルが太陽光から受ける輻射圧を利用して姿勢制御を行うことができる。このセイルには、姿勢制御のための複数の光学デバイスが、受光面の外縁に沿って配列されている。各光学デバイスではそれぞれ、太陽光から加わる輻射圧の大きさを電気的に変化させることができる。
【0004】
したがって、非特許文献1に記載のソーラーセイルでは、各光学デバイスごとに太陽光から受ける輻射圧の大きさを異ならせることによって、セイルの受光面に沿った任意の軸を中心として回動させることができる。これにより、このソーラーセイルでは、セイルの受光面の向きを任意に変更することができる。
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のソーラーセイルでは、光学デバイスに入射する太陽光の輻射圧がセイルの受光面と直交する向きのみに作用するため、受光面に平行な向きの力を受けることが困難である。したがって、この光学デバイスでは、受光面に平行な向きの力を利用した姿勢制御や位置制御が困難である。
【0006】
これに対し、特許文献1には、太陽光の輻射圧を受光面に平行な向きに作用させることが可能な光学デバイスが開示されている。この光学デバイスでは、受光面に対して傾いたプリズム面に太陽光を入射させることで、太陽光の輻射圧の作用によって加わる力に受光面と平行な成分を持たせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-205483号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】森治、川口淳一郎(他11名)著 「IKAROSの開発およびミッション概要」 日本航空宇宙学会誌 第60巻 第8号 283~289ページ (2012年8月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術では、1つの光学デバイスによって太陽光の輻射圧を作用させることができる受光面に平行な成分は1つの向きに限られる。したがって、この技術において受光面に平行な様々な向きの力を利用した効率的な姿勢制御や位置制御を可能とするためには、複数の光学デバイスを組み合わせた構成とする必要がある。
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明の目的は、光の輻射圧が作用する向きを様々に変更可能な光学デバイス、及びこれを用いた宇宙機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る光学デバイスは、基準面に沿って延び、複数の傾斜面と、光制御部と、を具備する。
上記複数の傾斜面は、上記基準面に対して相互に異なる向きに傾いている。
上記光制御部は、上記光学デバイスに入射する光によって上記複数の傾斜面に加わる作用の大きさを個別に電気的に切替可能に構成されている。
【0012】
この光学デバイスでは、複数の傾斜面ごとに、入射する光の輻射圧が作用する向きが異なる。このため、この光学デバイスでは、各傾斜面に加わる作用の大きさを光制御部によって個別に制御することで、複数の傾斜面に作用する光の輻射圧の合計として加わる駆動力の向きを様々に変更可能である。
【0013】
上記光学デバイスは、少なくとも3つの傾斜面を有していてもよい。
この構成では、光の輻射圧が作用する向きを制御しやすくなる。
【0014】
上記複数の傾斜面は、光反射性を有してもよい。
前記複数の傾斜面は、光屈折性を有してもよい。
前記複数の傾斜面は、光反射性を有する傾斜面と、光屈折性を有する傾斜面と、を含んでもよい。
【0015】
上記光制御部は、上記複数の傾斜面にそれぞれ設けられ、高分子分散型液晶で形成された複数の液晶層を有してもよい。
上記光制御部は、光反射性を個別に電気的に切替可能な表面を有する複数のクロミックデバイスを有し、前記複数のクロミックデバイスの前記表面が前記複数の傾斜面として構成されてもよい。
この構成によって、光制御部の機能を実現可能である。
【0016】
本発明の一形態に係る宇宙機は、受光面と、上記受光面に沿って延びる上記光学デバイスと、を具備する。
上記光学デバイスを宇宙機に用いることで、宇宙機における効率的な姿勢制御及び位置制御が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の目的は、光の輻射圧が作用する向きを様々に変更可能な光学デバイス、及びこれを用いた宇宙機を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る光学デバイスの斜視図である。
図2】上記光学デバイスの図1の領域Rを拡大して示す部分平面図である。
図3】上記光学デバイスの図2のA-A'線に沿った部分断面図である。
図4】上記光学デバイスの図2のB-B'線に沿った部分断面図である。
図5】上記光学デバイスのOFF状態における液晶層の微細構造を示す部分断面図である。
図6】上記光学デバイスのON状態における液晶層の微細構造を示す部分断面図である。
図7】上記光学デバイスの動作の一例を示す部分断面図である。
図8】上記光学デバイスの動作の一例を示す部分断面図である。
図9】上記光学デバイスの動作の一例を示す部分断面図である。
図10】上記光学デバイスの動作の一例を示す部分断面図である。
図11】上記光学デバイスの他の構成例を示す部分平面図である。
図12】上記光学デバイスの変形例を示す部分平面図である。
図13】上記光学デバイスの変形例の動作の一例を示す図12のC-C'線に沿った部分断面図である。
図14】上記光学デバイスの変形例の動作の一例を示部分断面図である。
図15】上記光学デバイスの変形例の他の構成例を示す部分平面図である。
図16】上記光学デバイスが設けられた宇宙機の斜視図である。
図17】上記光学デバイスを用いた宇宙機の制御の一例を示す斜視図である。
図18】上記光学デバイスを用いた宇宙機の制御の一例を示す斜視図である。
図19】上記光学デバイスを用いた宇宙機の制御の一例を示す斜視図である。
図20】上記光学デバイスを用いた宇宙機の制御の一例を示す斜視図である。
図21】上記光学デバイスを用いた宇宙機の制御の一例を示す斜視図である。
図22】上記光学デバイスを用いた人工衛星の構成例を示す斜視図である。
図23】上記光学デバイスを用いたソーラーセイルの構成例を示す斜視図である。
図24】上記光学デバイスを用いた望遠鏡システムの構成例を示す斜視図である。
図25】上記光学デバイスを用いた干渉計システムの構成例を示す斜視図である。
図26】上記光学デバイスを用いた干渉計システムの構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は、下記の実施形態によって限定的に解釈されるものではない。なお、以下の説明における上下左右などといった方向を示す表現は、特に断りのない限りにおいて、図面の紙面に沿った方向を示すものとする。
【0020】
[光学デバイス1]
図1~11を参照し、本発明の一実施形態に係る光学デバイス1について説明する。なお、各図面には、適宜、相互に直交する座標軸であるX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、光学デバイス1に対して固定された固定座標系を規定し、すべての図面について共通である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る光学デバイス1の斜視図である。光学デバイス1は、基準面であるXY平面に沿って延びるシート状の概形を有する。本実施形態に係る光学デバイス1は、Z軸方向の上側から下側に向けて入射する光の輻射圧が作用する向きを様々に変更可能なように構成されている。
【0022】
図2は、光学デバイス1の上面における図1の領域Rを拡大して示す部分平面図である。光学デバイス1は、高密度のドットパターンで示された複数の第1光学エレメントEpと、低密度のドットパターンで示された複数の第2光学エレメントEqと、無地で示された複数の第3光学エレメントErと、を有する。
【0023】
光学エレメントEp,Eq,Erは、XY平面に沿ってピクセル状に配列されている。各光学エレメントEp,Eq,Erは、いずれも平板状に形成され、XY平面に対して相互に異なる向きに傾いている。各光学エレメントEp,Eq,Erは、上側から入射する光をそれぞれ独立して反射可能な反射素子として構成される。
【0024】
各光学エレメントEp,Eq,Erは、輻射圧の作用が最も強力な可視及び赤外領域の光の作用を有効に受けるために、赤外領域の波長の数倍程度の大きさを有していれば充分である。したがって、光学デバイス1では、各光学エレメントEp,Eq,Erを小型の構成とすることで、Z軸方向に薄くて軽量なフィルム状とすることができる。
【0025】
図3,4は光学デバイス1のZ軸に平行な面に沿った部分断面図であり、図3図2のA-A'線に沿った断面を示し、図4図2のB-B'線に沿った断面を示している。つまり、図3は第1及び第2光学エレメントEp,Eqの縦断面を示し、図4は第1及び第3光学エレメントEp,Erの縦断面を示している。
【0026】
各光学エレメントEp,Eq,Erはそれぞれ、内側電極層10と、外側電極層20と、液晶層30と、を含む共通の層状構造を有する。各光学エレメントEp,Eq,Erでは、内側電極層10が下側に位置し、外側電極層20が上側に位置し、液晶層30が内側電極層10と外側電極層20との間に位置する。
【0027】
各光学エレメントEp,Eq,Erの内側電極層10は、液晶層30に隣接する傾斜面Dp,Dq,Drを有する。各光学エレメントEp,Eq,Erの傾斜面Dp,Dq,Drは、XY平面に対して相互に異なる向きに傾き、図2に示すZ軸に対して相互に異なる向きに傾いた単位法線ベクトルp,q,rを有する。
【0028】
傾斜面Dp,Dq,Drの単位法線ベクトルp,q,rはそれぞれ、XY平面に平行な成分を有する。具体的に、単位法線ベクトルpはX軸方向マイナス及びY軸方向マイナスの成分を有し、単位法線ベクトルqはX軸方向プラス及びY軸方向マイナスの成分を有し、単位法線ベクトルrはY軸方向プラスの成分を有する。
【0029】
各光学エレメントEp,Eq,Erの内側電極層10の各傾斜面Dp,Dq,Drはいずれも、光反射性を有し、入射する光を鏡面反射する。これにより、各光学エレメントEp,Eq,Erはそれぞれ、内側電極層10の傾斜面Dp,Dq,Drに入射する光を単位法線ベクトルp,q,rの向きに応じた方向に反射する反射鏡として機能する。
【0030】
光学デバイス1では、各傾斜面Dp,Dq,Drおいて光を反射する各光学エレメントEp,Eq,Erの内側電極層10が協働して、光の輻射圧の作用を受ける作用部として構成される。各光学エレメントEp,Eq,Erでは、傾斜面Dp,Dq,Drに反射される光の輻射圧が、単位法線ベクトルp,q,rの逆ベクトルの向きに作用する。
【0031】
各光学エレメントEp,Eq,Erでは、外側電極層20が光透過性を有し、上側から入射する光が外側電極層20を透過して液晶層30に入射する。光学デバイス1は、各光学エレメントEp,Eq,Erごとに、液晶層30を透過して内側電極層10の傾斜面Dp,Dq,Drにに加わる作用の大きさを制御可能な光制御部を有する。
【0032】
より詳細に、光学デバイス1の光制御部は、各光学エレメントEp,Eq,Erにおける液晶層30の光透過性を、機械的な動作を伴わずに電気的に個別に切替可能に構成される。各光学エレメントEp,Eq,Erでは、内側電極層10及び外側電極層20が、光制御部の一対の電極を構成し、液晶層30に電圧を印加可能なように構成される。
【0033】
各光学エレメントEp,Eq,Erの内側電極層10は、傾斜面Dp,Dq,Drにおける光反射性と、液晶層30に対する電気的接続を得るための導電性と、が良好に得られる構成であればよい。一例として、内側電極層10は、例えば、金属光沢及び高い導電性を有するアルミニウムなどの金属材料によって形成することができる。
【0034】
また、内側電極層10は、例えば樹脂フィルムなどの絶縁性のフィルム部材を用いた構成とすることもできる。この場合、フィルム部材における傾斜面Dp,Dq,Drを含む領域に蒸着法などによって金属膜を形成することで、金属膜を形成した領域に光反射性及び導電性を持たせることができる。
【0035】
各光学エレメントEp,Eq,Erの外側電極層20は、例えば、ポリイミドフィルムなどの透明なフィルム部材を用いた構成とすることができる。この場合、フィルム部材に、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を形成することで、液晶層30に対する電気的接続を得ることができる。
【0036】
光学デバイス1は、複数の光学エレメントEp,Eq,Erがそれぞれ並列接続された共通の電源PSと、複数の光学エレメントEp,Eq,Erについてそれぞれ設けられた複数のスイッチSWと、を有する。電源PSは、各光学エレメントEp,Eq,Erの内側電極層10及び外側電極層20にスイッチSWを介して接続されている。
【0037】
光学デバイス1では、各光学エレメントEp,Eq,Erごとに、スイッチSWによって電源PSによる通電状態を変更することができる。したがって、光学デバイス1では、内側電極層10と外側電極層20とに挟まれた液晶層30へ電圧の印加の有無を、各光学エレメントEp,Eq,Erごとに電気的に切り替えることができる。
【0038】
つまり、光学デバイス1では、各光学エレメントEp,Eq,Erごとに、液晶層30に電圧が印加されていないOFF状態と、液晶層30に電圧が印加されたON状態と、を個別に切替可能である。図5,6は液晶層30を模式的に示す部分断面図であり、図5はOFF状態を示し、図6はON状態を示している。
【0039】
液晶層30は、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)で形成されている。つまり、液晶層30は、高分子材料31中に液晶のドロップレット32が分散した構成を有している。ドロップレット32を構成する液晶分子は異方性を有している。
【0040】
図5に示すOFF状態の光学エレメントEp,Eq,Erの液晶層30では、ドロップレット32中の液晶分子がランダムな方向を向いているため、ドロップレット32に入射する光が液晶分子によって乱反射させられる。したがって、OFF状態の光学エレメントEp,Eq,Erでは、液晶層30の光透過性が低くなる。
【0041】
このため、OFF状態の光学エレメントEp,Eq,Erでは、光が液晶層30による拡散反射によって遮断されることで、内側電極層10の傾斜面Dp,Dq,Drに入射する光の量が少なくなる。したがって、OFF状態の光学エレメントEp,Eq,Erでは、内側電極層10の傾斜面Dp,Dq,Drに光の輻射圧の作用が有効に加わらない。
【0042】
これに対し、図6に示すON状態の光学エレメントEp,Eq,Erの液晶層30では、ドロップレット32中の液晶分子が電圧の印加方向に沿って配向することで、液晶分子の配向方向に沿ってドロップレット32を光が透過しやすくなる。したがって、ON状態の光学エレメントEp,Eq,Erでは、液晶層30の光透過性が高くなる。
【0043】
このため、ON状態の光学エレメントEp,Eq,Erでは、液晶層30を透過し、内側電極層10の傾斜面Dp,Dq,Drに入射する光の量が多くなる。したがって、ON状態の光学エレメントEp,Eq,Erでは、内側電極層10の傾斜面Dp,Dq,Drに光の輻射圧の作用が有効に加わる。
【0044】
図7~10を参照し、光学デバイス1の基本動作について説明する。なお、以下の説明では、各図面に示す光学エレメントEp,EqのXZ平面に沿った部分断面のみについて着目する。しかし、光学デバイス1では、光学エレメントEp,Eq,ErのZ軸に平行な他の任意の部分断面についても以下と同様に理解することができる。
【0045】
図7に示す状態では、光学エレメントEpがON状態で、光学エレメントEqがOFF状態である。したがって、ON状態の光学エレメントEpでは、液晶層30を透過した光が内側電極層10の傾斜面Dpに入射する。この一方で、OFF状態の光学エレメントEqでは、液晶層30によって光が遮断される。
【0046】
したがって、図7に示す光学デバイス1の部分では、光の輻射圧が光学エレメントEpに対して有効に作用する。このため、この光学デバイス1では、当該部分において、単位法線ベクトルpがX軸方向マイナスの成分を持つ傾斜面Dpで反射される光の輻射圧の作用によって、X軸方向プラスの成分を有する駆動力Fが加わる。
【0047】
図8に示す状態では、光学エレメントEpがOFF状態で、光学エレメントEqがON状態である。したがって、OFF状態の光学エレメントEpでは、液晶層30によって光が遮断される。この一方で、ON状態の光学エレメントEqでは、液晶層30を透過した光が内側電極層10の傾斜面Dqに入射する。
【0048】
したがって、図8に示す光学デバイス1の部分では、光の輻射圧が光学エレメントEqに対して有効に作用する。このため、この光学デバイス1では、当該部分において、単位法線ベクトルqがX軸方向プラスの成分を持つ傾斜面Dqで反射される光の輻射圧の作用によって、X軸方向マイナスの成分を有する駆動力Fが加わる。
【0049】
以上のとおり、光学デバイス1では、光学エレメントEp,EqにおけるON状態とOFF状態との切り替えによって、光の輻射圧を有効に作用させる光学エレメントEp,Eqを変更することができる。これにより、光学デバイス1では、駆動力FにX軸方向プラス及びマイナスのいずれの成分も持たせることができる。
【0050】
光学デバイス1における任意の部分に加わる駆動力Fの向きは、当該部分にあるON状態の光学エレメントEp,Eq,Erの単位法線ベクトルp,q,rの逆ベクトルの総和によって決まる。このため、光学デバイス1は、任意の部分において、ON状態の光学エレメントEp,Eq,Erの組み合わせに応じた駆動力Fを受けることができる。
【0051】
上記のとおり、光学デバイス1では、単位法線ベクトルp,q,rが、X軸方向プラス及びマイナス、並びにY軸方向プラス及びマイナスの4成分をいずれも含んでいる。これにより、光学デバイス1は、任意の部分において、XY平面に平行な任意の成分を有する駆動力Fを受けることが可能となる。
【0052】
次に、図9,10に示す状態では、X軸方向に2分割された左側の領域と右側の領域とで、光学エレメントEp,EqのON状態とOFF状態とが切り替えられている。図9,10に示す光学デバイス1の部分では、左側及び右側の各領域において光学エレメントEp,Eqがいずれも共通の通電状態とされている。
【0053】
具体的に、図9に示す状態では、左側の光学エレメントEp,EqがいずれもON状態であり、右側の光学エレメントEp,EqがいずれもOFF状態である。したがって、図9に示す光学デバイス1の部分では、光の輻射圧が左側の光学エレメントEp,Eqの傾斜面Dp,Dqに対して有効に作用する。
【0054】
図9に示す光学デバイス1の部分の左側の光学エレメントEp,Eqでは、傾斜面Dp,Dqに作用する光の輻射圧が、X軸方向に相互に打ち消し合い、Z軸方向下向きに作用する。したがって、当該部分では、左側の領域のみに下向きの駆動力Fが加わることで、Y軸を中心とする反時計回りのモーメントが発生する。
【0055】
図10に示す状態では、左側の光学エレメントEp,EqがいずれもOFF状態であり、右側の光学エレメントEp,EqがいずれもON状態である。したがって、図10に示す光学デバイス1の部分では、光の輻射圧が右側の光学エレメントEp,Eqの傾斜面Dp,Dqに対して有効に作用する。
【0056】
図10に示す光学デバイス1の部分の右側の光学エレメントEp,Eqでは、傾斜面Dp,Dqに作用する光の輻射圧が、X軸方向に相互に打ち消し合い、Z軸方向下向きに作用する。したがって、当該部分では、右側の領域のみに下向きの駆動力Fが加わることで、Y軸を中心とする時計回りのモーメントが発生する。
【0057】
以上のとおり、光学デバイス1では、光学エレメントEp,Eqの通電状態の切り替えによって、光の輻射圧を有効に作用させる領域をX軸方向に沿って偏らせることができる。これにより、光学デバイス1では、Y軸を中心とする両方向のモーメントを発生させることができる。
【0058】
同様に、光学デバイス1では、光学エレメントEp,Eq,Erの通電状態の切り替えによって、光の輻射圧を有効に作用させる領域をXY平面に沿ったいずれの方向にも偏らせることができる。これにより、光学デバイス1では、XY平面に平行な任意の軸を中心とするモーメントを発生させることができる。
【0059】
なお、光学デバイス1では、光の輻射圧の作用の合計として加わる駆動力Fの向きが変化しないようにON状態の光学エレメントEp,Eq,Erの数を増減させることで、駆動力Fの大きさのみを変更することができる。これにより、光学デバイス1は、任意の部分において、様々な大きさの駆動力Fを様々な向きに受けることが可能となる。
【0060】
また、光学デバイス1では、光学エレメントEp,Eq,Erの配列を様々に変更可能であり、各光学エレメントEp,Eq,Erを不規則な配置とすることも可能である。更に、光学デバイス1では、各光学エレメントEp,Eq,Erについて、例えば、単位法線ベクトルp,q,r、形状、大きさなどの構成を様々に変更可能である。
【0061】
加えて、光学デバイス1における単位法線ベクトルの向きが相互に異なる光学エレメントの数は、2つ以上であればよく、用途などに応じて適宜決定可能である。例えば、光学デバイス1では、図11に示すように、4つの光学エレメントEp,Eq,Er,Esが配列された構成であってもよい。
【0062】
しかし、光学デバイス1では、XY平面に平行な任意の成分を有する駆動力Fを得るために、単位法線ベクトルの向きが相互に異なる光学エレメントが3つ以上あることが好ましく、更に、単位法線ベクトルがX軸方向プラス及びマイナス、並びにY軸方向プラス及びマイナスの4成分のすべてを含むことがより好ましい。
【0063】
また、光学デバイス1の傾斜面は、光の輻射圧の作用を有効に受けられる構成であれば反射面でなくてもよい。つまり、光学デバイス1の傾斜面は、光屈折性を有する屈折面や、光吸収性を有する吸収面であってもよい。一例として、傾斜面が屈折面である変形例に係る光学デバイス1Aについて説明する。
【0064】
図12は、光学デバイス1Aの部分平面図である。図13,14は、光学デバイス1Aの図12のC-C'線に沿った部分断面図である。光学デバイス1Aの各光学エレメントEp,Eq,Erでは、内側電極層10と外側電極層20と液晶層30との積層体がXY平面に沿って配置されている。内側電極層10は、外側電極層20と同様に光透過性を有する。
【0065】
つまり、光学デバイス1Aでは、光学エレメントEp,Eq,Erに設けられた複数の液晶層30がXY平面に平行な同一平面上に並んでいる。このため、光学デバイス1Aでは、光学エレメントEp,Eq,Erにおいて複数の液晶層30を含む一連の液晶パネルを用いることで、製造コストを低減することができる。
【0066】
また、各光学エレメントEp,Eq,Erは、外側電極層20にZ軸方向に隣接して設けられた透過部材40を更に有する。透過部材40は、光透過性を有し、Z軸方向下側を向いた傾斜面Dp,Dq,Drを含む。光学デバイス1Aでは、複数の透過部材40が傾斜面Dp,Dq,Drにおいて光の輻射圧の作用を受ける作用部として構成される。
【0067】
光学エレメントEp,Eq,Erに設けられた複数の透過部材40は、例えば、多面加工を施した一連の多面化透過フィルムとして構成することができる。複数の透過部材40を構成する多面化透過フィルムは、例えば、プレス加工、エッチング加工などの技法を用いて製造することができる。
【0068】
図13に示す状態では、光学エレメントEpがON状態で、光学エレメントEqがOFF状態である。したがって、ON状態の光学エレメントEpにおいて、液晶層30を透過し、更に透過部材40を投下した光が、傾斜面Dpで屈折させられる。これにより、傾斜面Dpに加わる光の輻射圧の作用によって、光学エレメントEpに駆動力Fが加わる。
【0069】
図14に示す状態では、光学エレメントEpがOFF状態で、光学エレメントEqがON状態である。したがって、ON状態の光学エレメントEqにおいて、液晶層30を透過し、更に透過部材40を投下した光が、傾斜面Dqで屈折させられる。これにより、傾斜面Dqに加わる光の輻射圧の作用によって、光学エレメントEqに駆動力Fが加わる。
【0070】
光学デバイス1Aには、光学エレメントEp,Eq,Erの間に、光を遮断する遮光部Bを有することが好ましい。これにより、隣接する光学エレメントEp,Eq,Erに入射する光の侵入を防止することができる。例えば、図13に示す状態では、光学エレメントEpに入射する光の光学エレメントEqへの侵入を防止することができる。
【0071】
なお、光学デバイス1Aでも、光学エレメントの数を適宜決定可能であり、例えば、図15に示すように4つの光学エレメントEp,Eq,Er,Esが配列された構成であってもよい。図15に示す構成では、従来の液晶パネルの製造技術をそのまま利用できるため、光学デバイス1A製造コストを低減することができる。
【0072】
[光学デバイス1を用いた宇宙機100の制御]
図16~21を参照し、本実施形態に係る光学デバイス1を用いた宇宙機100の制御について説明する。図16は、本実施形態に係る光学デバイス1が設けられた宇宙機100の斜視図である。宇宙機100は、宇宙空間における太陽光が入射する領域で動作可能な任意の機器を想定した立方体のモデルである。
【0073】
光学デバイス1は、太陽光の輻射圧を利用することで、推進薬などの消費資源を一切消費せずに宇宙機100を半永久的に制御可能である。また、太陽光の輻射圧によって生成される推力は数ナノニュートンと極微小であるため、光学デバイス1では従来不可能なレベルの超高精度での宇宙機100の制御が可能となる。
【0074】
光学デバイス1は、特に、宇宙空間における太陽光の輻射圧による外乱が支配的な領域における宇宙機100の制御に特に有利である。一例として、光学デバイス1は、L1、L2、L3、L4、L5などのラグランジュ点軌道や、静止軌道、長楕円軌道、惑星間飛行軌道といった太陽光の輻射圧による軌道外乱が支配的な軌道に乗る宇宙機100の制御に非常に有用である。
【0075】
宇宙機100では、XY平面に沿って延びる外面が、太陽光の入射を受ける受光面110として構成される。光学デバイス1は、宇宙機100の受光面110に沿って設けられている。光学デバイス1は、図16に示すように、X軸及びY軸に沿って、複数の光学エレメントEp,Eq,Erを含む16個のセグメントSに分割されている。
【0076】
光学デバイス1では、各セグメントSごとに、太陽光の輻射圧を作用させる向きが設定され、設定された向きに太陽光の輻射圧が作用するように各光学エレメントEp,Eq,Erの通電状態が制御される。これにより、光学デバイス1では、すべてのセグメントSに加わる太陽光の輻射圧の合計として様々な向きの駆動力Fが得られる。
【0077】
なお、光学デバイス1では、分割するセグメントSの数は、16個に限定されず、任意に決定可能である。また、光学デバイス1では、複数の光学エレメントEp,Eq,Erを含むセグメントSに分割することは必須ではなく、例えば、太陽光の輻射圧を作用させる向きを各光学エレメントEp,Eq,Erごとに細かく設定してもよい。
【0078】
図17に示す光学デバイス1では、すべてのセグメントSが、光の輻射圧がX軸に沿った右向きに作用するように設定されている。したがって、この状態の光学デバイス1では、太陽光の輻射圧の作用によって宇宙機100に対して右向きに駆動力Fが加わるため、宇宙機100を右向きに移動させることができる。
【0079】
同様に、光学デバイス1では、すべてのセグメントSを太陽光の輻射圧がX軸に沿った左向きに作用するように設定することで、太陽光の輻射圧の作用で加わる駆動力Fによって、宇宙機100を左向きに移動させることができる。このように、光学デバイス1によって、宇宙機100をX軸に沿った両方向に移動させることができる。
【0080】
また、図18に示す光学デバイス1では、すべてのセグメントSが、太陽光の輻射圧がY軸に沿った上向きに作用するように設定されている。したがって、この状態の光学デバイス1では、太陽光の輻射圧の作用によって宇宙機100に対して上向きに駆動力Fが加わるため、宇宙機100を上向きに移動させることができる。
【0081】
同様に、光学デバイス1では、すべてのセグメントSを太陽光の輻射圧がY軸に沿った下向きに作用するように設定することで、太陽光の輻射圧の作用で加わる駆動力Fによって、宇宙機100を下向きに移動させることができる。このように、光学デバイス1によって、宇宙機100をY軸に沿った両方向に移動させることができる。
【0082】
更に、光学デバイス1では、すべてのセグメントSを太陽光の輻射圧がZ軸に沿った奥向きに作用するように設定することができる。これにより、光学デバイス1では、太陽光の輻射圧の作用によって宇宙機100に対して奥向きに駆動力Fが加わるため、宇宙機100を奥向きに移動させることができる。
【0083】
ここで、複数の宇宙機100を想定すると、一部の宇宙機100のみに対してZ軸に沿った奥向きの駆動力Fを加えることで、当該一部の宇宙機100と他の宇宙機100とをZ軸に沿って相対移動させることができる。つまり、光学デバイス1によって、複数の宇宙機100をZ軸に沿った両方向に相対移動させることができる。
【0084】
以上のとおり、光学デバイス1は、宇宙機100に対してX軸、Y軸、及びZ軸に沿ったいずれの方向にも駆動力Fを加えることができる。これにより、光学デバイス1では、宇宙機100をXYZ空間中の任意の方向に移動させることができ、つまり宇宙機100に対する並進3自由度での効率的な位置制御が可能となる。
【0085】
次に、図19に示す光学デバイス1では、各セグメントSが、太陽光の輻射圧が時計回りに周回する向きに作用するように設定されている。したがって、この状態の光学デバイス1では、太陽光の輻射圧の作用による駆動力Fで発生するZ軸に平行な軸を中心とするモーメントによって宇宙機100を時計回りに回動させることができる。
【0086】
同様に、光学デバイス1では、各セグメントSを太陽光の輻射圧が半時計回りに周回する向き作用するように設定することで、宇宙機100を半時計回りに回動させることができる。このように、光学デバイス1によって、宇宙機100をZ軸に平行な軸を中心とする両方向に回動させることができる。
【0087】
また、図20に示す光学デバイス1では、太陽光の輻射圧が左半分の領域にあるセグメントSに対して奥向きに作用するように設定されている。したがって、この状態の光学デバイス1では、太陽光の輻射圧の作用による駆動力Fで発生するY軸に平行な軸を中心とするモーメントによって宇宙機100を図20に示す向きに回動させることができる。
【0088】
同様に、光学デバイス1では、太陽光の輻射圧が右半分の領域あるセグメントSに対して奥向きに作用するように設定することで、宇宙機100を上記とは反対向きに回動させることができる。このように、光学デバイス1によって、宇宙機100をY軸に平行な軸を中心とする両方向に回動させることができる。
【0089】
更に、図21に示す光学デバイス1では、太陽光の輻射圧が上半分の領域にあるセグメントSに対して奥向きに作用するように設定されている。したがって、この状態の光学デバイス1では、太陽光の輻射圧の作用による駆動力Fで発生するX軸に平行な軸を中心とするモーメントによって宇宙機100を図21に示す向きに回動させることができる。
【0090】
同様に、光学デバイス1では、太陽光の輻射圧が下半分の領域にあるセグメントSに対して奥向きに作用するように設定することで、宇宙機100を上記とは反対向きに回動させることができる。このように、光学デバイス1によって、宇宙機100をX軸に平行な軸を中心とする両方向に回動させることができる。
【0091】
以上のとおり、光学デバイス1は、宇宙機100に対してX軸、Y軸、及びZ軸に平行な軸を中心とするいずれの方向にもモーメントを発生させることができる。これにより、光学デバイス1では、宇宙機100を任意の軸に沿って回動させることができ、つまり宇宙機100に対する回転3自由度での効率的な姿勢制御が可能となる。
【0092】
したがって、本実施形態に係る光学デバイス1を用いることにより、並進3自由度と回転3自由度とを組み合わせた6自由度での宇宙機100の制御が可能となる。これにより、本実施形態に係る光学デバイス1が設けられた宇宙機100では、精密な位置制御及び姿勢制御を効率的に行うことが可能となる。
【0093】
[光学デバイス1の応用例]
図22~26を参照し、本実施形態に係る光学デバイス1の応用例について説明する。なお、本実施形態に係る光学デバイス1は、以下の応用例に限定されず、上記の機能を有効に利用可能な任意の用途に利用可能である。また、本実施形態に係る光学デバイス1を設ける位置や数量などは適宜変更可能である。
【0094】
図22は、光学デバイス1が設けられた人工衛星200の斜視図である。人工衛星200は、本体部210と、太陽光パネル220と、を有する。太陽光パネル220は、本体部210の外側に延び、太陽光の入射を受けることで電気エネルギを生成する。光学デバイス1は、本体部210の外面に沿って設けられている。
【0095】
光学デバイス1は、人工衛星200に対し、所定の軌道上に維持するための位置制御や、太陽光パネル220を太陽の方向に向ける姿勢制御などを行うことができる。なお、光学デバイス1は、太陽光パネル220に設けられていてもよく、本体部210及び太陽光パネル220の両方に設けられていてもよい。
【0096】
図23は、光学デバイス1が設けられたソーラーセイル300の斜視図である。ソーラーセイル300は、本体部310と、セイル320と、を有する。セイル320は、本体部310の周囲に二次元的に延び、太陽光の入射を受けることで推進力を得る。光学デバイス1は、セイル320の表面に設けられている。
【0097】
光学デバイス1は、ソーラーセイル300に対し、軌道修正のための位置制御や、進行方向に応じてセイル320の向きを変える姿勢制御などを行うことができる。なお、光学デバイス1は、本体部310に設けられていてもよく、本体部310及びセイル320の両方に設けられていてもよい。
【0098】
図24は、光学デバイス1を用いた望遠鏡システム400を示す斜視図である。望遠鏡システム400は、検出器411を備えた検出器衛星410と、光学系421を備えた光学系衛星420と、を有する。光学デバイス1は、検出器衛星410及び光学系衛星420の外面にそれぞれ設けられている。
【0099】
望遠鏡システム400では、フォーメーションフライトする検出器衛星410及び光学系衛星420が協働して1つの望遠鏡として機能する。フォーメーションフライトでは、各衛星間の距離が充分に近く、典型的には数kmの場合に、太陽光の輻射圧による外乱が支配的になるため、光学デバイス1による制御が特に有効となる。
【0100】
光学デバイス1は、観測したい方向の光が光学系421に入射するように光学系衛星420の位置制御及び姿勢制御を行い、光学系421に入射する光が正確に検出器411に集光されるように検出器衛星410の位置制御及び姿勢制御を行う。これにより、望遠鏡システム400では、任意の方向の観測画像を生成可能となる。
【0101】
このように、光学デバイス1を用いることで、2機の衛星間の相対位置を精密制御することができる。このため、光学デバイスを、望遠鏡システム400以外にも、例えば、コロナグラフィーや系外惑星観測などに応用することで、推進薬などの消費資源を一切消費しない運用が可能になる。
【0102】
図25は、光学デバイス1を用いた干渉計システム500の斜視図である。干渉計システム500は、アンテナ511を備えた複数の受信衛星510を有する。アンテナ511は、マイクロ波やミリ波などの電波を受信可能に構成されている。光学デバイス1は、各受信衛星510の外面にそれぞれ設けられている。
【0103】
干渉計システム500では、フォーメーションフライトする複数の受信衛星510が協働して1つの干渉計として機能する。光学デバイス1は、各受信衛星510がアンテナ511によって受信する電波によって目的とする情報が得られるように、各受信衛星510の位置制御及び姿勢制御を行う。
【0104】
図26は、光学デバイス1を用いた干渉計システム600の斜視図である。干渉計システム600は、検出器衛星610と、光学系621を備えた複数の光学系衛星620と、を有する。光学デバイス1は、検出器衛星610及び複数の光学系衛星620の外面にそれぞれ設けられている。
【0105】
干渉計システム600では、フォーメーションフライトする検出器衛星610及び複数の光学系衛星620が協働して1つの干渉計として機能する。光学デバイス1は、各光学系621に入射する光が検出器611に集光されるように検出器衛星610及び各光学系衛星620の位置制御及び姿勢制御を行う。
【0106】
このように、光学デバイス1を用いることで、複数基の衛星間の相対位置を精密制御して、複数基の衛星・パーツを連結しなくともあたかも1つの構造として成立させることができる。このため、光学デバイスを、例えば、バーチャルストラクチャや重力波干渉計などに応用することで、推進薬などの消費資源を一切消費しない運用が可能になる。
【0107】
また、光学デバイス1を用いることで、少量の電力での駆動が可能となるため、推進薬などの消費資源や発電量が限られる超小型衛星の姿勢制御及び位置制御が実現可能となる。また、光学デバイス1を量産可能な液晶などを用いて製造することで、低コストで、超小型衛星のフォーメーションフライトを実現可能である。
【0108】
以上のとおり、本実施形態に係る光学デバイス1は、各種宇宙機の制御に特に好適に利用可能であるが、これ以外の用途にも利用可能である。例えば、本実施形態に係る光学デバイス1における光学エレメントの通電状態によって傾斜面による反射光の光路を変化させることが可能な機能は、様々な機器に応用可能である。
【0109】
例えば、光学デバイス1を用いたプロジェクタでは、映像を投射する向きを一瞬にして大きく変化させることが可能である。また、光学デバイス1を用いた標識では、視覚情報を提示する向きを迅速に切り替えることができる。更に、光学デバイス1を用いた照明器具では、光を照射する向きを容易かつ迅速に変更することができる。
【0110】
[その他の実施形態]
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0111】
一例として、本発明の光学デバイスの光制御部は、液晶層を用いた構成に限定されない。例えば、光制御部は、光を遮断することが可能な光シャッタを用いた構成であってもよい。光シャッタとしては、例えば、液晶光シャッタや圧電光シャッタなどが挙げられる。液晶光シャッタは、典型的には、偏光軸が直交する2枚の偏光板の間に液晶層が挟まれた構成を有する。液晶光シャッタの方式としては、例えば、TN(Twisted Nematic)方式、VA(Vertical Alignment)方式、IPS(In-Plane-Switching)方式を採用可能である。
【0112】
また、光制御部は、複数の傾斜面に対する光透過性を変更可能な構成に限定されない。例えば、光制御部は、エレクトロクロミズムやサーモクロミズムなどを応用し、光反射性を個別に電気的に切替可能な表面を有するクロミックデバイスを用いた構成であってもよい。このような光制御部では、複数のクロミックデバイスの表面をそれぞれ傾斜面として構成することで、各傾斜面の光反射性を個別に電気的に切替可能である。
【0113】
更に、本発明の光学デバイスでは、各光学エレメントの作用部に設ける複数の傾斜面の種類が相互に異なっていてもよい。例えば、光学デバイスは、光反射性を有する傾斜面と、光屈折性を有する傾斜面と、を組み合わせて構成することもできる。これにより、光学デバイスでは、更に高い精度での姿勢制御及び位置制御が可能となる。
【0114】
加えて、光学デバイス1では、傾斜面において光の輻射圧の作用を受ける作用部が、各光学エレメントごとに分割された複数の内側電極層10で構成されていなくてもよい。例えば、光学デバイス1の作用部は、各光学エレメントごとに傾斜面が設けられた一体の部材として構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…光学デバイス
10…内側電極層
20…外側電極層
30…液晶層
31…高分子材料
32…ドロップレット
Ep,Eq,Er…光学エレメント
Dp,Dq,Dr…傾斜面
p,q,r…単位法線ベクトル
PS…電源
SW…スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図25
図26