(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182948
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびセラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/30 201G
H01G4/30 516
H01G4/30 201F
H01G4/30 513
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172541
(22)【出願日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2021089488
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】龍 穣
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 誉志紀
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG11
(57)【要約】
【課題】 強還元雰囲気で再酸化処理を行なっても高寿命を実現することができるセラミック電子部品およびセラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層構造を備え、前記誘電体層が含む結晶粒子のうち少なくとも1つはコアシェル構造を有し、前記コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキは、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きいことを特徴とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層構造を備え、
前記誘電体層が含む結晶粒子のうち少なくとも1つはコアシェル構造を有し、
前記コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキは、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きいことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記原子変位量は、収差補正環状明視野走査透過電子顕微鏡像中の信号強度を二次元ガウス関数のフィッティングにより精密化した原子座標のうち、各Bサイト原子の位置と、各Bサイト原子の最近接の周囲の4つの酸素原子の重心位置との間の距離であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記シェル部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量のバラツキは、前記コア部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量のバラツキの1.3倍以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記シェル部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量の平均値は、15pm以上30pm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記コア部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の原子変位量の平均値は、10pm以上25pm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記シェル部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量の分散は、9pm2以上40pm2以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記コア部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の原子変位量の分散は、5pm2以上16pm2以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層構造を備え、
前記誘電体層が含む結晶粒子のうち少なくとも1つはコアシェル構造を有し、
前記コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きは、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きと異なっていることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項9】
前記原子変位の向きは、収差補正環状明視野走査透過電子顕微鏡像中の信号強度を二次元ガウス関数のフィッティングにより精密化した原子座標から、Bサイト原子の最近接の4つの酸素原子を特定し、前記4つの酸素原子の重心と前記Bサイト原子の位置の座標とを結ぶ線分のベクトルと、前記Bサイト原子を囲む4つのAサイト原子から、相互に順に隣接する第1~第3Aサイト原子を選び、第1Aサイト原子と第2Aサイト原子とを結ぶ線分のベクトルおよび前記第2Aサイト原子と第3Aサイト原子とを結ぶ線分のベクトルのうち、前記コア部および前記シェル部で共通方向のベクトルを選び、選んだベクトルと、前記Bサイト原子の位置の座標と前記重心とを結ぶ線分のベクトルとの成す角度を、前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の個々の原子変位の向きとし、当該個々の原子変位の向きを前記像中の全ての前記Bサイト原子について計算した場合の平均値であることを特徴とする請求項8に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記コア部における各Bサイト原子についての前記原子変位の向きの標準偏差と、前記シェル部における各Bサイト原子についての前記原子変位の向きの標準偏差との二乗和の平方根を合成標準偏差とした場合に、前記コア部の前記原子変位の向きと前記シェル部の前記原子変位の向きとの差が前記合成標準偏差の2倍以上となる場合に、前記シェル部の前記原子変位の向きが、前記コア部の前記原子変位の向きと異なっていることを特徴とする請求項9に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記シェル部における前記原子変位の向きと、前記コア部における前記原子変位の向きとの差異は、30°以上、60°以下であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
前記シェル部における前記原子変位の向きは、30°以上、90°以下であることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記コア部における前記原子変位の向きは、0°以上、30°以下であることを特徴とする請求項8から請求項12のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
前記誘電体層の厚みは、0.2μm以上0.4μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項15】
前記誘電体層の結晶粒径の平均値は、80nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項16】
前記内部電極層の厚みは、0.2μm以上0.8μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項17】
外形サイズが0201形状以上、0402形状以下であることを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項18】
前記誘電体層の主成分は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムのうち少なくとも1つから選択されることを特徴とする請求項1から請求項17のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項19】
前記誘電体層の主成分は、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムであることを特徴とする請求項1から請求項18のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項20】
前記積層構造は、略直方体形状を有し、
前記内部電極層は、前記略直方体形状の対向する2端面の少なくともいずれか一方に露出するように形成され、
前記2端面に1対の外部電極が形成され、
前記外部電極は、前記2端面上に形成されてCuを主成分とする下地層を含み、前記下地層上に形成されためっき層を含むことを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項21】
前記積層構造は、略直方体形状を有し、
前記内部電極層は、前記略直方体形状の対向する2端面の少なくともいずれか一方に露出するように形成され、
前記2端面に1対の外部電極が形成され、
前記外部電極は、前記2端面上に形成されてNiを主成分とする下地層を含み、前記下地層上に形成されためっき層を含むことを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項22】
前記外部電極は、前記下地層とめっき層の間に設けられた導電性樹脂層をさらに備えることを特徴とする請求項20または請求項21に記載のセラミック電子部品。
【請求項23】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、酢酸水溶液中でボールミリングされたセラミック原料粉末を含む誘電体層グリーンシート上に、内部電極層パターンが積層された積層単位を複数積層することでセラミック積層体を得る工程と、
前記セラミック積層体を焼成する工程とを含み、
焼成後の誘電体層が含みコアシェル構造を有する結晶粒子において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキを、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きくすることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項24】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック原料粉末を含む誘電体層グリーンシート上に、内部電極層パターンが積層された積層単位を複数積層することでセラミック積層体を得る工程と、
前記セラミック積層体を焼成することで焼成体を得る工程と、
前記焼成体に対して加圧して熱処理することで、焼成後の誘電体層が含みコアシェル構造を有する結晶粒子において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きと、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きとを異ならせる工程と、を含むことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やタブレット端末などのデジタル電子機器に使用される電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求が高くなっているため、当該回路を構成する積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品の小型化および大容量化が急速に進んでいる。このような電子部品では、高い静電容量を発揮させるために、誘電体層としてペロブスカイト構造を有するセラミックを利用し、内部電極層としてコスト低減のために卑金属などの金属を利用している。この組み合わせのセラミック電子部品について、金属の酸化を防ぎながらセラミックとニッケルを同時に焼成するため、還元雰囲気で焼成している。しかしながら、還元焼成後にセラミック中に発生する酸素空孔が、高温負荷試験時の寿命を悪化させることが分かっている。この酸素空孔の量を低減するため、還元処理後に金属が酸化し難い低温・酸化雰囲気での再酸化処理が求められている。
【0003】
そこで、強還元雰囲気でも誘電体層に高い絶縁性を持たせるため、コアシェル構造のコアとシェルの両方にマンガンを固溶させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、誘電体層内の結晶粒界を跨いで移動する酸素欠陥量を減らすことで、寿命を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-330160号公報
【特許文献2】特開2020-184587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の小型・大容量化の要求に応えるために、内部電極層および外部電極を薄くすることが求められる。このような薄い電極設計では、これまでは問題にならなかった、再酸化処理での僅かな表面の酸化によっても、電極の抵抗が増えてESRを悪化させる可能性がある。そこで、内部電極層および外部電極を酸化させないような強い還元雰囲気で焼成することが望まれる。しかしながら、強還元雰囲気で焼成すると、誘電体層内に多くの酸素空孔が生じ、特に再酸化処理後も添加元素濃度の低いコア部で酸素空孔が残留し、寿命を減らしてしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、強還元雰囲気で再酸化処理を行なっても高寿命を実現することができるセラミック電子部品およびセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層構造を備え、前記誘電体層が含む結晶粒子のうち少なくとも1つはコアシェル構造を有し、前記コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキは、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きいことを特徴とする。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記原子変位量は、収差補正環状明視野走査透過電子顕微鏡像中の信号強度を二次元ガウス関数のフィッティングにより精密化した原子座標のうち、各Bサイト原子の位置と、各Bサイト原子の最近接の周囲の4つの酸素原子の重心位置との間の距離であってもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記シェル部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量のバラツキは、前記コア部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量のバラツキの1.3倍以上であってもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記シェル部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量の平均値は、15pm以上30pm以下であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記コア部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の原子変位量の平均値は、10pm以上25pm以下であってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記シェル部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の前記原子変位量の分散は、9pm2以上40pm2以下であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記コア部における前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の原子変位量の分散は、5pm2以上16pm2以下であってもよい。
【0014】
本発明に係る他のセラミック電子部品は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層構造を備え、前記誘電体層が含む結晶粒子のうち少なくとも1つはコアシェル構造を有し、前記コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きは、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きと異なっていることを特徴とする。
【0015】
上記セラミック電子部品において、前記原子変位の向きは、収差補正環状明視野走査透過電子顕微鏡像中の信号強度を二次元ガウス関数のフィッティングにより精密化した原子座標から、Bサイト原子の最近接の4つの酸素原子を特定し、前記4つの酸素原子の重心と前記Bサイト原子の位置の座標とを結ぶ線分のベクトルと、前記Bサイト原子を囲む4つのAサイト原子から、相互に順に隣接する第1~第3Aサイト原子を選び、第1Aサイト原子と第2Aサイト原子とを結ぶ線分のベクトルおよび前記第2Aサイト原子と第3Aサイト原子とを結ぶ線分のベクトルのうち、前記コア部および前記シェル部で共通方向のベクトルを選び、選んだベクトルと、前記Bサイト原子の位置の座標と前記重心とを結ぶ線分のベクトルとの成す角度を、前記Bサイト原子と前記酸素原子との間の個々の原子変位の向きとし、当該個々の原子変位の向きを前記像中の全ての前記Bサイト原子について計算した場合の平均値であってもよい。
【0016】
上記セラミック電子部品において、前記コア部における各Bサイト原子についての前記原子変位の向きの標準偏差と、前記シェル部における各Bサイト原子についての前記原子変位の向きの標準偏差との二乗和の平方根を合成標準偏差とした場合に、前記コア部の前記原子変位の向きと前記シェル部の前記原子変位の向きとの差が前記合成標準偏差の2倍以上となる場合に、前記シェル部の前記原子変位の向きが、前記コア部の前記原子変位の向きと異なっていてもよい。
【0017】
上記セラミック電子部品において、前記シェル部における前記原子変位の向きと、前記コア部における前記原子変位の向きとの差異は、30°以上、60°以下であってもよい。
【0018】
上記セラミック電子部品において、前記シェル部における前記原子変位の向きは、30°以上、90°以下であってもよい。
【0019】
上記セラミック電子部品において、前記コア部における前記原子変位の向きは、0°以上、30°以下であってもよい。
【0020】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の厚みは、0.2μm以上0.4μm以下であってもよい。
【0021】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の結晶粒径の平均値は、80nm以上200nm以下であってもよい。
【0022】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層の厚みは、0.2μm以上0.8μm以下であってもよい。
【0023】
上記セラミック電子部品は、外形サイズが0201形状以上、0402形状以下であってもよい。
【0024】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の主成分は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムのうち少なくとも1つから選択されてもよい。
【0025】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の主成分は、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムであってもよい。
【0026】
上記セラミック電子部品において、前記積層構造は、略直方体形状を有し、前記内部電極層は、前記略直方体形状の対向する2端面の少なくともいずれか一方に露出するように形成され、前記2端面に1対の外部電極が形成され、前記外部電極は、前記2端面上に形成されてCuを主成分とする下地層を含み、前記下地層上に形成されためっき層を含んでいてもよい。
【0027】
上記セラミック電子部品において、前記積層構造は、略直方体形状を有し、前記内部電極層は、前記略直方体形状の対向する2端面の少なくともいずれか一方に露出するように形成され、前記2端面に1対の外部電極が形成され、前記外部電極は、前記2端面上に形成されてNiを主成分とする下地層を含み、前記下地層上に形成されためっき層を含んでいてもよい。
【0028】
上記セラミック電子部品において、前記外部電極は、前記下地層とめっき層の間に設けられた導電性樹脂層をさらに備えていてもよい。
【0029】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、酢酸水溶液中でボールミリングされたセラミック原料粉末を含む誘電体層グリーンシート上に、内部電極層パターンが積層された積層単位を複数積層することでセラミック積層体を得る工程と、前記セラミック積層体を焼成する工程とを含み、焼成後の前記誘電体層が含みコアシェル構造を有する結晶粒子において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキを、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きくすることを特徴とする。
【0030】
本発明に係る他のセラミック電子部品の製造方法は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック原料粉末を含む誘電体層グリーンシート上に、内部電極層パターンが積層された積層単位を複数積層することでセラミック積層体を得る工程と、前記セラミック積層体を焼成することで焼成体を得る工程と、前記焼成体に対して加圧して熱処理することで、焼成後の誘電体層が含みコアシェル構造を有する結晶粒子において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きと、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きとを異ならせる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、強還元雰囲気で再酸化処理を行なっても高寿命を実現することができるセラミック電子部品およびセラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)および(b)は外部電極の断面図である。
【
図5】(a)はコアシェル構造を例示する図であり、(b)は誘電体層の模式的な断面図である。
【
図6】シェル部から得られたCs-corrected ABF-STEM像である。
【
図8】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図9】原子間変位の向きの計算を例示する図である。
【
図10】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0035】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された積層構造を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0036】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、0201形状(長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mm)であり、または0402形状(長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm)、または0603形状(長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mm)であり、または1005形状(長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mm)であり、または長さ3216形状(3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mm)であり、または4532形状(長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mm)であるが、これらのサイズに限定されるものではない。例えば、積層セラミックコンデンサ100は、0201形状以上、0402形状以下のサイズを有していてもよい。
【0037】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。1層あたりの内部電極層12の厚みは、例えば、0.2μm以上0.8μm以下、0.8μm以上1.5μm以下、1.5μm以上4.0μm以下である。1層あたりの内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサの例えば
図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0038】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO
3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO
3(チタン酸バリウム),CaZrO
3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO
3(チタン酸カルシウム),SrTiO
3(チタン酸ストロンチウム),MgTiO
3(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa
1-x-yCa
xSr
yTi
1-zZr
zO
3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba
1-x-yCa
xSr
yTi
1-zZr
zO
3は、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.2μm以上0.4μm以下であり、または0.4μm以上1.0μm以下であり、または1.0μm以上10μm以下である。1層あたりの誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサの例えば
図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0039】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0040】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0041】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0042】
図4(a)は、外部電極20bの断面図であり、
図1のA-A線の部分断面図である。なお、
図4(a)では断面を表すハッチを省略している。
図4(a)で例示するように、外部電極20bは、下地層21上に、Cuなどの第1めっき層22、導電性樹脂層23、Niなどの第2めっき層24、およびSnなどの第3めっき層25が形成された構造を有する。下地層21、第1めっき層22、導電性樹脂層23、第2めっき層24および第3めっき層25は、積層チップ10の両端面から4つの側面に延在している。
【0043】
下地層21は、Cu,Ni,Al(アルミニウム),Zn(亜鉛)などの金属を主成分とし、下地層21の緻密化のためのガラス成分や、下地層21の焼結性を制御するための共材が含まれていてもよい。これらのセラミック成分が多く含まれる下地層21は、セラミック材料を主成分とする誘電体層11およびカバー層13と良好な密着性を有する。導電性樹脂層23は、Agなどの金属成分を含む樹脂層である。導電性樹脂層23は、緻密な金属層と比較して柔軟であるため、熱応力を緩和することが可能であり、積層セラミックコンデンサ100の信頼性を向上させることができる。第1めっき層22は、下地層21と導電性樹脂層23との密着性を高めるために設けられている。外部電極20aも、外部電極20bと同様の積層構造を有する。
【0044】
図4(b)で例示するように、第1めっき層22は、必ずしも設けられていなくてもよい。導電性樹脂層23は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0045】
本実施形態においては、誘電体層11の主成分セラミックが有する一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。なお、AサイトおよびBサイトは、それぞれ結晶学的に独立な占有サイトを示す。例えば、チタン酸バリウムであれば、Aサイトをバリウム、Bサイトをチタンが占有する。また、誘電体層11が含む結晶粒の少なくとも一部が、コアシェル構造を有している。
【0046】
図5(a)で例示するように、コアシェル粒子30は、略球形状のコア部31と、コア部31を囲むように覆うシェル部32とを備えている。コア部31は、添加化合物が固溶していないかもしくは添加化合物の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部32は、添加化合物が固溶しておりかつコア部31の添加化合物濃度よりも高い添加化合物濃度を有している結晶部分である。
【0047】
図5(b)は、誘電体層11の模式的な断面図である。
図5(b)で例示するように、誘電体層11は、主成分セラミックの複数の結晶粒子17を備えている。これらの結晶粒子17のうち、少なくとも一部が
図5(a)で説明したコアシェル粒子30である。
【0048】
積層セラミックコンデンサ100の寿命は、誘電体層11の主成分セラミック中の酸素空孔の拡散と堆積とによって生じると考えられている。特に、添加元素濃度の少ないコア部31では、弱い酸化処理後に酸素空孔濃度が高い状態にあると予想される。このコア部31からの酸素空孔拡散を抑制することができれば、積層セラミックコンデンサ100の寿命が向上すると考えられる。本実施形態においては、誘電体層11に含まれるセラミックの結晶粒子にコアシェル構造を持たせ、かつ、シェル部32のBサイト原子と酸素原子間の原子変位量のバラツキを大きくすることで、原子変位量が大きい箇所も含まれるようになる。原子変位量が大きい箇所では、酸素原子の格子位置間の移動が抑制され、酸素空孔の移動が阻害される。シェル部32での酸素空孔拡散が阻害されることで、コア部31からの酸素空孔の拡散、およびシェル部32で覆われている結晶粒子間の酸素空孔の拡散が抑制される。結果として、酸素空孔の拡散と堆積に起因すると考えられている積層セラミックコンデンサ100の寿命が向上する。以上のことから、強還元雰囲気で再酸化処理を行なっても高寿命を実現することができる。
【0049】
具体的には、シェル部32におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキを、コア部31におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きくする。なお、単純に各原子変位量を大きくしてしまうと、誘電体材料の圧電性が大きくなり音鳴き現象の原因となるおそれがある。そこで、本実施形態においては、原子変位量のバラツキに着目し、原子変位量の大きい箇所および原子変位量の小さい箇所の両方が含まれるようにしている。
【0050】
Bサイト原子と酸素原子間の原子変位量のバラツキは、例えば、収差補正環状明視野透過走査電子顕微鏡像(Cs-corrected ABF-STEM像)中のBサイト原子および酸素原子の位置から求める。例えば、積層セラミックコンデンサ100をイオンミリング装置で厚さ40nm以下まで薄化した後、表面のダメージ層を低加速電圧イオンミリング装置で除去する。この薄化試料をCs-corrected ABF-STEM像で撮像する。このとき、原子位置を特定するため、1ピクセルあたり0.01nm以下の解像度で、Bサイト原子が200個以上含まれるよう撮影する。例えば、日本電子株式会社製のJEM-ARM200F NEOARMを用いた場合、倍率20Mで1024×1024の解像度で撮影するとこの条件が満たされる(解像度0.0083nm/pix、394個のBサイト原子が含まれる)。
【0051】
図6は、実際にシェル部32から得られたCs-corrected ABF-STEM像である。Aサイト原子41、Bサイト原子42、および酸素原子43が確認されている。
【0052】
得られた像中のBサイト原子42と酸素原子43の位置をより正確に求めるため、像中の信号強度を、像中のAサイト原子41、Bサイト原子42、酸素原子43のそれぞれについて2次元ガウス関数によりフィッティングし、それらの信号強度と原子位置を精密化する。酸素原子43の強度は弱く、位置の特定が難しいため、次の手順により精密化する。まず、各Aサイト原子41の信号強度と位置をそれぞれ精密化する(Aサイト原子41の数が100個あるのであれば、100個の2次元ガウス関数を用意し、像中の各Aサイト原子41のそれぞれについて強度と位置を精密化する)。そうすると、Aサイト原子41の数だけ、2元ガウス関数が得られるので、それらの強度を像中から差し引く。これにより、Aサイト原子41の信号強度の無い像が得られる。この像から次に、各Bサイト原子42の信号強度と位置を同様に精密化し、像から差し引く。最後に、残った像中の酸素原子43の各強度と位置を同様に精密化し、酸素原子43の各位置を得る。撮像から精密化までの手続きは計算機中で実施され、得られた各Bサイト原子42および各酸素原子43の座標を基に原子間変位を計算する。
【0053】
原子間変位の計算は、例えば、
図7で例示する方法で計算することができる。まず、像中のあるBサイト原子42の最近接の4つの酸素原子43を特定する。次に、これらの4つの酸素原子43の重心44を計算する。各Bサイト原子42の位置の座標と酸素原子43の重心を計算し、両者の位置の差異量をBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45として定義する。この原子変位量45を画像中の全てのBサイト原子42について計算し、その分散を求め、Bサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45のバラツキと定義することができる。原子変位量45のバラツキを算出するための元になるデータ数は、ひとつの撮影画像から抜き取った25以上あればよい。なお、Cs-corrected ABF-STEM像中でAサイト原子41とBサイト原子42の判別が難しい場合、同時に取得する収差補正環状暗視野透過走査電子顕微鏡像や収差補正透過走査電子顕微鏡-EDS元素マップ像から判別してもよい。酸素原子43は、Aサイト原子41とBサイト原子42と比べ明確に信号強度が低いため、容易に判別可能である。
【0054】
例えば、シェル部32におけるBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45のバラツキは、コア部31におけるBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45のバラツキの1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。
【0055】
当該画像において、シェル部32におけるBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45の平均値は、例えば、15pm以上20pm以下であり、20pm以上25pm以下であり、25pm以上30pm以下である。コア部31におけるBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45の平均値は、例えば、10pm以上15pm以下であり、15pm以上20pm以下であり、20pm以上25pm以下である。
【0056】
当該画像において、シェル部32におけるBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45の分散は、例えば、9pm2以上15pm2以下であり、15pm2以上25pm2以下であり、25pm2以上40pm2以下である。コア部31におけるBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位量45の分散は、例えば、5pm2以上8pm2以下であり、8pm2以上12pm2以下であり、12pm2以上16pm2以下である。
【0057】
誘電体層11において、結晶粒子17の結晶粒径の平均値が大きいと、2層の内部電極層12間に介在するコアシェル粒子30が少なくなり、積層セラミックコンデンサ100の信頼性が低下するおそれがある。そこで、結晶粒子17の結晶粒径の平均値に、上限を設けることが好ましい。例えば、結晶粒子17の結晶粒径の平均値は、200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
一方、誘電体層11において、結晶粒子17の結晶粒径の平均値が小さいと、誘電体の誘電率が低下する、もしくは、コアシェル構造が形成されず所定の性能がでないおそれがある。そこで、結晶粒子17の結晶粒径の平均値に、下限を設けることが好ましい。例えば、結晶粒子17の結晶粒径の平均値は、80nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、120nm以上であることがさらに好ましい。なお、結晶粒子の結晶粒径は、たとえば積層セラミックコンデンサの断面を機械研磨とそれに続く機械化学研磨で形成し、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から20個の粒子の長径の平均値を求めることで測定することができる。
【0059】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図8は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0060】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0061】
得られたセラミック原料粉末を、酢酸水溶液中でボールミリング処理した後に、純水などで洗浄する。この方法により、ボールミリングにより生じる転位が酸による水素・Ba空孔により高温まで固定され、その転位周辺の歪を起点として酸素原子の変位が生じる。このような効果は、単に酸中での粉末の攪拌、中性水溶液中でのボールミリングだけでは生じず、酸により生じる化学的な欠陥(浸入型・置換型固溶した水素原子を含む)とボールミルによる物理的なエネルギーとが複合して生じる。特に酸として酢酸水溶液を用いると、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸と比べ弱酸のためプロセスのコントロールが容易である。強酸を用いると欠陥が入るにとどまらず、チタン酸バリウムの溶解も生じてしまう。また、酢酸水溶液を用いると、塩酸、硫酸、硝酸で処理したときの残留物から発生する塩素、硫黄、アンモニア等が生じず、積層セラミックコンデンサの特性劣化を防ぐとともに焼結時に用いる電気炉の劣化を防ぐことができる。
【0062】
酢酸処理して得られたセラミック原料粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0063】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0064】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.5μm以上の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0065】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層パターンを配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のBaTiO3を均一に分散させてもよい。
【0066】
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、所定層数(例えば100~1000層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下に、カバー層13を形成するためのカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0067】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧が10-12MPa~10-9MPa、1160℃~1280℃の還元雰囲気で、5分~10分の焼成を行なう。
【0068】
(再酸化処理工程)
還元雰囲気で焼成された誘電体層11の部分的に還元された主相であるチタン酸バリウムに酸素を戻すために、内部電極層12を酸化させない程度に、約1000℃でN2と水蒸気の混合ガス中、もしくは500℃~700℃の大気中での熱処理が行われることがある。この工程は、再酸化処理工程とよばれる。
【0069】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。
図4(a)の構成であれば、導電性樹脂層23も形成する。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0070】
本実施形態に係る製造方法では、焼成後において、シェル部32におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキが、コア部31におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキよりも大きくなるように、セラミック原料粉末の処理内容を調整する。例えば、酢酸水溶液の酢酸濃度、酢酸水溶液の温度、酢酸処理の時間などを調整する。または、ボールミリングに用いるZrボールの大きさ、ボールミリングの時間などを調整する。
【0071】
(第2実施形態)
第2実施形態においては、誘電体層11に含まれるセラミックの結晶粒子にコアシェル構造を持たせ、かつ、シェル部32のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きを、コア部31のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きと異なる方向とする。この構造により、コア部31の酸素空孔の、シェル部32への拡散が抑制され、酸素空孔の移動が阻害される。シェル部32での酸素空孔拡散が阻害されることで、コア部31からの酸素空孔の拡散、およびシェル部32で覆われている結晶粒子間の酸素空孔の拡散が抑制される。結果として、酸素空孔の拡散と堆積に起因すると考えられている積層セラミックコンデンサ100の寿命が向上する。以上のことから、強還元雰囲気で再酸化処理を行なっても高寿命を実現することができる。
【0072】
Bサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の方向は、例えば、収差補正環状明視野透過走査電子顕微鏡像(Cs-corrected ABF-STEM像)中のAサイト原子41、Bサイト原子42、および酸素原子43の位置から求める。例えば、積層セラミックコンデンサ100をイオンミリング装置で厚さ40nm以下まで薄化した後、表面のダメージ層を低加速電圧イオンミリング装置で除去する。この薄化試料をCs-corrected ABF-STEM像で撮像する。このとき、原子位置を特定するため、1ピクセルあたり0.01nm以下の解像度で、Bサイト原子42が200個以上含まれるよう撮影する。例えば、日本電子株式会社製のJEM-ARM200F NEOARMを用いた場合、倍率20Mで1024×1024の解像度で撮影するとこの条件が満たされる(解像度0.0083nm/pix、394個のBサイト原子42が含まれる)。
【0073】
得られた像中のAサイト原子41、Bサイト原子42、および酸素原子43の位置をより正確に求めるため、像中の信号強度を、像中のAサイト原子41、Bサイト原子42、および酸素原子43のそれぞれについて2次元ガウス関数によりフィッティングし、それらの信号強度と原子位置を精密化する。酸素原子43の強度は弱く、位置の特定が難しいため、次の手順により精密化する。まず、各Aサイト原子41の信号強度と位置をそれぞれ精密化する(Aサイト原子41の数が100個あるのであれば、100個の2次元ガウス関数を用意し、像中の各Aサイト原子41のそれぞれについて強度と位置を精密化する)。そうすると、Aサイト原子41の数だけ、2元ガウス関数が得られるので、それらの強度を像中から差し引く。これにより、Aサイト原子41の信号強度の無い像が得られる。この像から次に、各Bサイト原子42の信号強度と位置を同様に精密化し、像から差し引く。最後に、残った像中の酸素原子43の各強度と位置を同様に精密化し、酸素原子43の各位置を得る。撮像から精密化までの手続きは計算機中で実施され、得られた各Bサイト原子42および各酸素原子43の座標を基に原子間変位の向きを計算する。
【0074】
原子間変位の向きは、例えば、
図9で例示する方法で計算することができる。まず、像中のあるBサイト原子42の最近接の4つの酸素原子43を特定する。次に、これらの4つの酸素原子43の重心44を計算する。次に、Bサイト原子42の位置の座標と、酸素原子43の重心44とを結ぶ線分のベクトルを計算する(以降、BOベクトル46と称する)。次に、このBOベクトル46の向きの基準となるベクトルを計算する。Bサイト原子42を囲む4つのAサイト原子41から、相互に隣接する3つを選び、Aサイト原子41_1(第1Aサイト原子)、Aサイト原子41_2(第2Aサイト原子)、Aサイト原子41_3(第3Aサイト原子)とする。Aサイト原子41_1とAサイト原子41_2とを結ぶ線分のベクトルと、Aサイト原子41_2とAサイト原子41_3とを結ぶ線分のベクトルを計算する。この2つのベクトルのうち、一方を選ぶ(以降、AAベクトル47と称する)。どちらを選んでも結果に違いはないが、コア部31とシェル部32とで共通方向のベクトルを選ぶ。BOベクトル46とAAベクトル47とが成す角度48を計算し、これをBサイト原子42と酸素原子43との間の個々の原子変位の向きとして定義する。この個々の原子変位の向きを画像中の全てのBサイト原子42について計算し、その平均を求め、Bサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きと定義する。次に、コア部31およびシェル部32のそれぞれについて、各Bサイト原子42の原子変位の向きの標準偏差を計算する。コア部31の標準偏差およびシェル部32の標準偏差の二乗和の平方根を原子変位の向きの合成標準偏差と定義する。コア部31の原子変位の向きとシェル部32の原子変位の向きとの差が合成標準偏差の2倍以上となる場合に、シェル部32のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きが、コア部31のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きと異なると定義することができる。なお、Cs-corrected ABF-STEM像中でAサイト原子41とBサイト原子42の判別が難しい場合、同時に取得する収差補正環状暗視野透過走査電子顕微鏡像や収差補正透過走査電子顕微鏡-EDS元素マップ像から判別してもよい。酸素原子43は、Aサイト原子41とBサイト原子42と比べ明確に信号強度が低いため、容易に判別可能である。
【0075】
シェル部32での酸素空孔拡散を抑制する観点から、当該画像において、シェル部32のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きと、コア部31のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きとの差異は、30°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、44°以上であることがさらに好ましい。
【0076】
材料の誘電分極の観点から、当該画像において、シェル部32のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きと、コア部31のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きとの差異は、60°以下であることが好ましく、50°以下であることがより好ましく、46°以下であることがさらに好ましい。
【0077】
当該画像において、シェル部32のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きは、例えば、30°以上90°以下であり、40°以上80°以下であり、45°以上60°以下である。当該画像において、コア部31のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きは、例えば、0°以上30°以下であり、10°以上27°以下であり、15°以上20°以下である。
【0078】
誘電体層11において、結晶粒子17の結晶粒径の平均値が大きいと、2層の内部電極層12間に介在するコアシェル粒子30が少なくなり、積層セラミックコンデンサ100の信頼性が低下するおそれがある。そこで、結晶粒子17の結晶粒径の平均値に、上限を設けることが好ましい。例えば、結晶粒子17の結晶粒径の平均値は、200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。
【0079】
一方、誘電体層11において、結晶粒子17の結晶粒径の平均値が小さいと、誘電体の誘電率が低下する、もしくは、コアシェル構造が形成されず所定の性能がでないおそれがある。そこで、結晶粒子17の結晶粒径の平均値に、下限を設けることが好ましい。例えば、結晶粒子17の結晶粒径の平均値は、80nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、120nm以上であることがさらに好ましい。なお、結晶粒子の結晶粒径は、たとえば積層セラミックコンデンサの断面を機械研磨とそれに続く機械化学研磨で形成し、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から20個の粒子の長径の平均値を求めることで測定することができる。
【0080】
本実施形態に係る構成は、例えば、
図10で例示するように、
図8で説明した製造方法の再酸化処理工程とめっき処理工程との間に、加圧熱処理を行うことによって得ることができる。例えば、再酸化処理と同じ雰囲気中にて焼成体に対してホットプレスで1000℃に昇温後、100MPaで加圧して2時間熱処理し、その後、室温まで降温後に除圧することによって得られる。この手法を経ることによって、高温で原子が拡散し、降温時に原子位置が固定され、固定された加圧時の構造が除圧されることで誘電体層11にひずみが生じ、その歪によってシェル部32中の結晶に応力がかかり、結果としてシェル部32のBサイト原子42と酸素原子43との間の原子変位の向きが変化することになる。なお、本実施形態においては、第1実施形態で説明した酢酸処理を省略してもよい。
【実施例0081】
以下、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0082】
(実施例1)
誘電体材料の原料粉末として、酢酸水溶液で事前に格子欠陥を表面に導入したチタン酸バリウム粉末を用いた。具体的には、原料粉末を酢酸濃度0.2mol%の酢酸水溶液中で1時間、直径3mmで粉体重量の2倍の重量のZrボールで、温度80℃でボールミリング処理した後、純水で3回洗浄した。ここで、ボールミル中の温度はヒートガンを当てることで上昇させ、非接触式の温度計でモニターすることで適切な値に維持した。この原料粉末と、添加剤であるBaCO3、Ho2O3、MnCO3、MgO、およびSiO2の各粉末をポットミルで混合し、バインダを混錬してペースト状にした。このペーストをPETフィルム上に塗布し、誘電体グリーンシートを形成した。Niを主成分金属とする内部電極層パターンを印刷した誘電体グリーンシートを積層し、圧着後、外部電極を塗布し、焼成し、熱処理して積層セラミックコンデンサを作製した。
【0083】
(実施例2)
実施例2では、酢酸水溶液中の酢酸濃度を0.1mol%とした以外は、実施例1と同様の条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0084】
(比較例1)
比較例1では、酢酸水溶液でチタン酸バリウムを処理しなかった。その他は実施例1と同様の条件で積層セラミックコンデンサを作製した。
【0085】
実施例1,2および比較例1の積層セラミックコンデンサについて、誘電体層が含むコアシェル粒子のコア部およびシェル部のそれぞれにおいて、Bサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキを測定した。当該バラツキは、収差補正環状明視野透過走査電子顕微鏡像(Cs-corrected ABF-STEM像)中のBサイト原子および酸素原子の位置から求めた。具体的には、積層セラミックコンデンサをイオンミリング装置で厚さ40nm以下まで薄化した後、表面のダメージ層を低加速電圧イオンミリング装置で除去した。この薄化試料をCs-corrected ABF-STEM像で撮像した。このとき、原子位置を特定するため、1ピクセルあたり0.01nm以下の解像度で、Bサイト原子が200個以上含まれるように撮影した。日本電子株式会社製のJEM-ARM200F NEOARMを用いて、倍率20Mで1024×1024の解像度で撮影することで、この条件を満たした(解像度0.0083nm/pix、394個のBサイト原子が含まれた)。
【0086】
得られた像中のBサイト原子および酸素原子の位置をより正確に求める為、像中の信号強度を、像中のAサイト原子、Bサイト原子、酸素原子のそれぞれについて2次元ガウス関数によりフィッティングし、それらの信号強度と原子位置を精密化した。まず、Aサイトの各原子の信号強度と位置をそれぞれ精密化した。これにより、Aサイト原子の数だけ2次元ガウス関数が得られたので、それらの強度を像中から差し引いた。これにより、Aサイト原子の信号強度の無い像が得られた。この像から次に、Bサイトの各原子の信号強度と位置を同様に精密化し、像から差し引いた。最後に、残った像中の酸素原子の各強度と位置を同様に精密化し、酸素原子の各位置を得た。撮像から精密化までの手続きは計算機中で実施され、得られた各Bサイト原子と各酸素原子の座標を基に原子間変位を計算した。原子間変位の計算は、
図7に示す方法で計算した。
【0087】
実施例1,2および比較例1の積層セラミックコンデンサの寿命を、HALT試験(高温加速寿命試験:Highly Accelerated Limit Test)で確認した。具体的には、150℃の環境下で、DC100V(50V/μm)を継続印加する条件で、30個の積層セラミックコンデンサを用いて、その平均故障時間(MTTF)を測定した。平均故障時間が5000分未満である場合、積層セラミックコンデンサが所定の性能を満たしていない(NG)と判定した。平均故障時間が5000分以上である場合、積層セラミックコンデンサが所定の性能を満たしている(OK)と判定した。
【0088】
結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1,2では、HALT試験がOKと判定された。これは、コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキ(分散)が、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との変位量のバラツキ(分散)よりも大きかったからであると考えられる。一方、比較例1では、HALT試験がNGと判定された。これは、コアシェル構造において、シェル部におけるBサイト原子と酸素原子との間の原子変位量のバラツキが、コア部におけるBサイト原子と酸素原子との変位量のバラツキよりも大きくなかったからであると考えられる。
【表1】
【0089】
続いて、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0090】
(実施例3)
まず、原料粉末であるBaTiO3と、添加剤であるBaCO3、Ho2O3、MnCO3、MgO、SiO2の各粉末とをポットミルで混合し、バインダを混錬してペースト状にした。このペーストをPETフィルム上に塗布し、誘電体グリーンシートを形成した。Niを主成分金属とする内部電極層パターンを印刷した誘電体グリーンシートを積層し、圧着後、外部電極を塗布し、焼成し、熱処理して積層セラミックコンデンサを作製した。再酸化後に、再酸化時と同じ雰囲気中にてホットプレスで1000℃に昇温後100MPaで加圧して2時間熱処理し、その後、室温まで降温後に除圧した。
【0091】
(実施例4)
実施例4では、酢酸水溶液で事前に格子欠陥を表面に導入したBaTiO3原料粉末とホットプレス処理とを用いた。具体的には、原料粉末を酢酸濃度0.2mol%の酢酸水溶液中で1時間、直径3mm・粉体重量の2倍の重量のZrボールでボールミリング処理した後、純水で3回洗浄した。酢酸処理したBaTiO3と、添加剤であるBaCO3、Ho2O3、MnCO3、MgO、SiO2の各粉末とをポットミルで混合し、バインダを混錬してペースト状にした。このペーストをPETフィルム上に塗布し、誘電体グリーンシートを形成した。Niを主成分金属とする内部電極層パターンを印刷した誘電体グリーンシートを積層し、圧着後、外部電極を塗布し、焼成し、熱処理して積層セラミックコンデンサを作製した。再酸化後に、再酸化時と同じ雰囲気中にてホットプレスで1000℃に昇温後100MPaで加圧して2時間熱処理し、その後、室温まで降温後に除圧した。
【0092】
(比較例2)
比較例2では、再酸化後の熱処理において、加圧重量を0MPaとし、加圧しなかった。その他の条件は、実施例3と同様とした。
【0093】
実施例3,4および比較例2の積層セラミックコンデンサについて、誘電体層が含むコアシェル粒子のコア部およびシェル部のそれぞれにおいて、Bサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向きを測定した。Aサイト原子、Bサイト原子、および酸素原子の位置については、実施例1,2および比較例1と同様の手順により測定した。原子間変位の向きは、
図9に示す方法で計算した。
【0094】
結果を表2に示す。実施例3では、酢酸処理を行なわなかったため、酢酸濃度が0mol%となっている。実施例3では、コア部のBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向き(平均値)は19°であり、シェル部のBサイトと酸素原子との間の原子変位の向き(平均値)は59°であった。コア部の原子変位の向きの標準偏差は7°であり、シェル部の原子変位の向きの標準偏差は10°であった。合成標準偏差×2は、24°であった。シェル部の原子変位の向き(平均値)とコア部の原子変位の向き(平均値)との差は、合成標準偏差×2よりも大きくなった。実施例4では、コア部のBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向き(平均値)は26°であり、シェル部のBサイトと酸素原子との間の原子変位の向き(平均値)は78°であった。コア部の原子変位の向きの標準偏差は6°であり、シェル部の原子変位の向きの標準偏差は5°であった。合成標準偏差×2は、16°であった。シェル部の原子変位の向き(平均値)とコア部の原子変位の向き(平均値)との差は、合成標準偏差×2よりも大きくなった。比較例2では、コア部のBサイト原子と酸素原子との間の原子変位の向き(平均値)は20°であり、シェル部のBサイトと酸素原子との間の原子変位の向き(平均値)は35°であった。コア部の原子変位の向きの標準偏差は7°であり、シェル部の原子変位の向きの標準偏差は5°であった。合成標準偏差×2は、17°であった。シェル部の原子変位の向き(平均値)とコア部の原子変位の向き(平均値)との差は、合成標準偏差×2よりも大きくならなかった。
【表2】
【0095】
実施例3,4および比較例2の積層セラミックコンデンサの寿命を、実施例1,2および比較例1と同様の手順によりHALT試験で確認した。実施例3,4および比較例2の結果を表2に示す。表2に示すように、実施例3,4では、HALT試験がOKと判定された。これは、コアシェル構造において、シェル部の原子変位の向き(平均値)とコア部の原子変位の向き(平均値)との差が合成標準偏差×2よりも大きくなったからであると考えられる。一方、比較例2では、HALT試験がNGと判定された。これは、コアシェル構造において、シェル部の原子変位の向き(平均値)とコア部の原子変位の向き(平均値)との差が合成標準偏差×2よりも大きくならなかったからであると考えられる。
【0096】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。