(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182969
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ガスエンジンの制御装置、及びガス燃料用の燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02D 19/02 20060101AFI20221201BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20221201BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20221201BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F02D19/02 A
F02D41/04
F02D19/02 D
F02D43/00 301J
F02D43/00 301G
F02M21/02 G
F02M21/02 L
F02M21/02 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211132
(22)【出願日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2021090599
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】樋口(武内) あづ彩
(72)【発明者】
【氏名】青柳 賢司
【テーマコード(参考)】
3G092
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA06
3G092AB06
3G092BB06
3G092BB08
3G092FA15
3G092FA24
3G092HA05Z
3G092HE01Z
3G301HA01
3G301HA04
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3G301JA21
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3G384DA02
3G384DA14
3G384FA08Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】燃焼室内での混合気の均質性の向上を図る。
【解決手段】エンジン10は、気筒内を往復動するピストン13と、所定の燃圧に圧力調整されたガス燃料を燃焼室14内に直接噴射する燃料噴射弁31とを備え、燃料噴射弁31から噴射されたガス燃料が燃焼室14内で燃焼に供される。ECU80は、燃焼室14内において燃料噴射弁31から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度を、均質度推定値として算出する算出部と、前記算出部により算出された均質度推定値に基づいて、燃料噴射弁31の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかを制御する制御部と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内を往復動するピストン(13)と、所定の燃圧に圧力調整されたガス燃料を燃焼室(14)内に直接噴射する燃料噴射弁(31)とを備え、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料が前記燃焼室内で燃焼に供されるガスエンジン(10)に適用され、
前記燃焼室内において前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度を、均質度推定値として算出する算出部と、
前記算出部により算出された均質度推定値に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかを制御する制御部と、
を備える、ガスエンジンの制御装置(80)。
【請求項2】
前記燃料噴射弁の燃料噴射制御の指令値として、前記算出部により算出された均質度推定値が所定の閾値よりも大きくなる燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかを設定する設定部を備え、
前記制御部は、前記設定部により設定された前記指令値としての燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかに基づいて、前記燃料噴射弁による燃料噴射を行わせる、請求項1に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期をパラメータとして用いて前記均質度推定値を算出するものであり、
前記設定部は、前記燃料噴射時期の複数の候補値を定め、それら候補値ごとに前記算出部により前記均質度推定値を算出するとともに、該算出した各均質度推定値のうち前記閾値よりも大きい均質度推定値に対応する前記候補値に基づいて、前記指令値としての燃料噴射時期を設定する、請求項2に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、噴射開始時期を前記燃料噴射時期とし、噴射開始時期の進角限界と遅角限界との間である設定可能範囲内で前記複数の候補値を定め、それら候補値ごとに前記算出部により前記均質度推定値を算出するとともに、該算出した各均質度推定値のうち前記閾値よりも大きい均質度推定値に対応する前記候補値であり、かつ前記設定可能範囲内で最も進角となる前記候補値に基づいて、前記指令値としての燃料噴射時期を設定する、請求項3に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記候補値ごとに算出した前記均質度推定値が全て前記閾値よりも小さい場合に、それら均質度推定値のうち最も大きい均質度推定値に対応する前記候補値に基づいて、前記指令値としての燃料噴射時期を設定する、請求項4に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期と燃圧とをパラメータとして用いて前記均質度推定値を算出するものであり、
前記設定部は、前記候補値ごとに算出した前記均質度推定値が全て前記閾値よりも小さい場合に、燃圧を高い圧力に変えて前記算出部により再び前記均質度推定値を算出し、前記均質度推定値が前記閾値よりも大きくなる燃料噴射時期と燃圧とを、前記指令値として設定する、請求項4に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記算出部は、燃圧をパラメータとして用いて前記均質度推定値を算出するものであり、
前記設定部は、燃圧の複数の候補値を定め、それら候補値ごとに前記算出部により前記均質度推定値を算出するとともに、該算出した各均質度推定値のうち前記閾値よりも大きい均質度推定値に対応する前記候補値に基づいて、前記指令値としての燃圧を設定する、請求項2に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記設定部は、前記候補値ごとに算出した前記均質度推定値が全て前記閾値よりも小さい場合に、それら均質度推定値のうち最も大きい均質度推定値に対応する前記候補値に基づいて、前記指令値としての燃圧を設定する、請求項7に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項9】
前記算出部は、前記燃料噴射弁の噴射開始時期をパラメータとして用いて前記均質度推定値を算出するものであり、
前記噴射開始時期の進角限界と遅角限界との間である設定可能範囲内で前記噴射開始時期の複数の候補値を定め、それら候補値ごとに前記算出部により前記均質度推定値を算出するとともに、該算出した各均質度推定値のうち最も大きい均質度推定値に対応する前記候補値に基づいて、前記制御部の制御指令値としての燃料噴射時期を設定する設定部を備える、請求項1に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項10】
前記算出部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期をパラメータとして用いて、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料の噴流の大きさを示す噴流ペネトレーション推定値と、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料がピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの大きさを示す巻き上がり推定値と、前記燃料噴射弁からのガス燃料の噴射後において混合気形成が行われる混合時間を示す混合時間推定値とを算出するとともに、それら巻き上がり推定値と混合時間推定値と噴流ペネトレーション推定値とに基づいて前記均質度推定値を算出する、請求項1~9のいずれか1項に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項11】
前記算出部は、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期と燃圧とエンジン回転速度とエンジン負荷とをパラメータとして用いて前記均質度推定値を算出する、請求項1~9のいずれか1項に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項12】
気筒内を往復動するピストン(13)と、所定の燃圧に圧力調整されたガス燃料を燃焼室(14)内に直接噴射する燃料噴射弁(31)とを備え、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料が前記燃焼室内で燃焼に供されるガスエンジン(10)に適用され、
前記燃焼室内が、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度が低下する状態である所定の低均質状態になるか否かを判定する均質度判定部と、
前記低均質状態になると判定された場合に、前記均質度を高めるべく前記燃料噴射弁の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかの制御を実施する制御部と、
を備える、ガスエンジンの制御装置(80)。
【請求項13】
前記均質度判定部は、前記低均質状態になると判定された場合において、その均質度低下の要因が、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料がピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの不足に起因する第1要因であるか、前記燃料噴射弁からのガス燃料の噴射後において混合気形成が行われる混合時間の不足に起因する第2要因であるかを判定し、
前記制御部は、
前記均質度低下の要因が前記第1要因であれば、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期の遅角化を実施し、
前記均質度低下の要因が前記第2要因であれば、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期の進角化を実施する、請求項12に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項14】
前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料がピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの大きさを示す巻き上がり推定値と、前記燃料噴射弁からのガス燃料の噴射後において混合気形成が行われる混合時間を示す混合時間推定値とのいずれかを、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期に基づいて算出する算出部を備え、
前記均質度判定部は、前記低均質状態になると判定された場合において、前記巻き上がり推定値又は前記混合時間推定値に基づいて、均質度低下の要因が前記第1要因であるか前記第2要因であるかを判定する、請求項13に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項15】
気筒内を往復動するピストン(13)を備える4サイクルレシプロ型のエンジン(10)に用いられ、燃焼室(14)内にガス燃料を直接噴射するガス燃料用の燃料噴射弁(31)であって、
前記エンジンは、吸気ポート(15)と排気ポート(16)とを有し、吸気行程で前記吸気ポートから流入する空気により前記燃焼室内に縦旋回成分を含む筒内流動を生じさせるものであり、
噴射弁先端部には、ガス燃料を噴射させる噴射部(61)が設けられており、
前記噴射部は複数の噴孔(62)を有し、その複数の噴孔は、噴射弁中心軸から離反する向きに燃料が噴射されるように設けられており、
前記燃焼室内において前記各噴孔から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が互いに等しくなるように、前記吸気ポート及び前記排気ポートの各位置と前記各噴孔からのガス燃料の噴射の向きとに応じて、当該各噴孔から噴射されるガス燃料の噴流の状態が定められている、ガス燃料用の燃料噴射弁。
【請求項16】
前記燃焼室内を二分し前記排気ポート側の領域を第1領域(R1)、前記吸気ポート側の領域を第2領域(R2)とする場合に、前記複数の噴孔は、前記第1領域側及び前記第2領域側のうち前記第1領域側に向けてガス燃料を噴射する第1噴孔(62A)と、前記第2領域側に向けてガス燃料を噴射する第2噴孔(62B)とを有しており、
前記第1噴孔と前記第2噴孔とでは、噴射されるガス燃料の噴射エネルギが相違しており、前記第1噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、前記第2噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強い、請求項15に記載のガス燃料用の燃料噴射弁。
【請求項17】
前記複数の噴孔は、前記第1噴孔及び前記第2噴孔に加えて、前記第1領域及び前記第2領域の境界となる境界部に沿う向きにガス燃料を噴射する第3噴孔(62C)を有しており、
前記第1噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、前記第3噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強い、請求項16に記載のガス燃料用の燃料噴射弁。
【請求項18】
前記複数の噴孔は、前記第1噴孔及び前記第2噴孔に加えて、前記第1領域及び前記第2領域の境界となる境界部に沿う向きにガス燃料を噴射する第3噴孔(62C)を有しており、
前記第2噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、前記第3噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも弱い、請求項16又は17に記載のガス燃料用の燃料噴射弁。
【請求項19】
前記第1噴孔と前記第2噴孔とでは、互いに噴孔径が異なることにより前記噴射エネルギが相違している、請求項16~18のいずれか1項に記載のガス燃料用の燃料噴射弁。
【請求項20】
前記燃焼室内を二分し前記排気ポート側の領域を第1領域(R1)、前記吸気ポート側の領域を第2領域(R2)とする場合に、前記複数の噴孔は、それぞれ前記第1領域及び前記第2領域の境界となる境界部においてその境界部に沿った方向にガス燃料を噴射する噴孔として設けられ、かつそれら各噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギが互いに同等である、請求項15に記載のガス燃料用の燃料噴射弁。
【請求項21】
気筒内を往復動するピストン(13)を備える4サイクルレシプロ型のエンジン(10)に用いられ、燃焼室(14)において吸気側又は排気側にオフセットした位置に配置され、当該燃焼室内にガス燃料を直接噴射するガス燃料用の燃料噴射弁(31)であって、
前記エンジンは、吸気ポート(15)と排気ポート(16)とを有し、吸気行程で前記吸気ポートから流入する空気により前記燃焼室内に縦旋回成分を含む筒内流動を生じさせるものであり、前記燃焼室において上面中央部となる位置に点火プラグ(32)が設けられており、
噴射弁先端部には、ガス燃料を噴射させる噴射部(61)が設けられており、
前記噴射部は複数の噴孔(62)を有し、その複数の噴孔は、噴射弁中心軸から離反する向きに燃料を噴射させるように設けられており、
前記燃焼室内を二分し前記排気ポート側の領域を第1領域(R1)、前記吸気ポート側の領域を第2領域(R2)とする場合に、前記複数の噴孔は、前記第1領域側及び前記第2領域側のうち前記第1領域側に向けてガス燃料を噴射する第1噴孔(61A)と、前記第2領域側に向けてガス燃料を噴射する第2噴孔(62B)とを有しており、
前記第1噴孔と前記第2噴孔とでは、噴射されるガス燃料の噴射エネルギの状態が相違しており、前記第1噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、前記第2噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっているとともに、前記燃焼室内において前記第1噴孔及び前記第2噴孔から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が、当該各噴孔から前記点火プラグまでのガス燃料の移動距離に比例するものとなっている、ガス燃料用の燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、ガスエンジンの制御装置、及びガス燃料用の燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮天然ガス(CNG)や水素等のガス燃料を用いるガスエンジンにおいて、燃料噴射弁から燃焼室内にガス燃料を噴射する技術として、吸気行程と圧縮行程とでガス燃料を噴射する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。この場合、可能な限り圧縮行程でガス燃料を噴射することにより、燃焼室内の充填効率を上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、可能な限り圧縮行程でガス燃料を噴射しようとすると、混合気形成の時間が減り、燃焼室内での混合気の均質性低下が懸念される。また、燃焼室内での混合気の均質性低下の原因としては、燃焼室内への新気の流入により生じる筒内流動が考えられる。混合気の均質性が低下すると、未燃損失の増加による熱効率の低下や排気エミッションの悪化が懸念される。そのため、混合気の均質性向上の技術が望まれる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、燃焼室内での混合気の均質性の向上を図ることができるガスエンジンの制御装置、及びガス燃料用の燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明におけるガスエンジンの制御装置は、
気筒内を往復動するピストンと、所定の燃圧に圧力調整されたガス燃料を燃焼室内に直接噴射する燃料噴射弁とを備え、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料が前記燃焼室内で燃焼に供されるガスエンジンに適用され、
前記燃焼室内において前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度を、均質度推定値として算出する算出部と、
前記算出部により算出された均質度推定値に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかを制御する制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
ガスエンジンでは、燃焼室内においてガス燃料と空気とからなる混合気の均質度に応じて燃焼状態が変動する。また、混合気の均質度は、燃料噴射時期や燃圧といった噴射条件に応じて変動する。この点に着目し、燃焼室内において燃料噴射弁から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度を、均質度推定値として算出し、その均質度推定値に基づいて、燃料噴射弁の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかを制御するようにした。この場合、燃料噴射時期や燃圧の制御により、燃料噴射弁から燃焼室内に噴射されるガス燃料についてピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの度合や混合時間が適度に変わり、燃焼室内において均質度の適正化を図ることができる。これにより、ガスエンジンにおいてガス燃料を適正に燃焼させることができる。
【0008】
なお、混合気の均質度は、燃焼室内において混合のばらつきに応じたものでもあり、燃焼室内での混合のばらつきが小さいほど均質度が高いものとなっている。また、混合気の均質度は、燃焼室内でのガス燃料の濃度分布のばらつきに応じたものでもあり、燃焼室内での濃度分布のばらつきが小さいほど均質度が高いものとなっている。
【0009】
また、ガスエンジンの制御装置に関する別の発明は、
気筒内を往復動するピストンと、所定の燃圧に圧力調整されたガス燃料を燃焼室内に直接噴射する燃料噴射弁とを備え、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料が前記燃焼室内で燃焼に供されるガスエンジンに適用され、
前記燃焼室内が、前記燃料噴射弁から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度が低下する状態である所定の低均質状態になるか否かを判定する均質度判定部と、
前記低均質状態になると判定された場合に、前記均質度を高めるべく前記燃料噴射弁の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかの制御を実施する制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、燃焼室内が、燃料噴射弁から噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質の度合を示す均質度が低下する状態である所定の低均質状態になるか否かを判定し、低均質状態になると判定された場合に、均質度を高めるべく燃料噴射弁の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかの制御を実施するようにした。この場合、燃料噴射時期や燃圧の制御により、燃料噴射弁から燃焼室内に噴射されるガス燃料についてピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの度合や混合時間が適度に変わり、燃焼室内において均質度の適正化を図ることができる。これにより、ガスエンジンにおいてガス燃料を適正に燃焼させることができる。
【0011】
また、燃料噴射弁に関する発明は、
気筒内を往復動するピストンを備える4サイクルレシプロ型のエンジンに用いられ、燃焼室内にガス燃料を直接噴射するガス燃料用の燃料噴射弁であって、
前記エンジンは、吸気ポートと排気ポートとを有し、吸気行程で前記吸気ポートから流入する空気により前記燃焼室内に縦旋回成分を含む筒内流動を生じさせるものであり、
噴射弁先端部には、ガス燃料を噴射させる噴射部が設けられており、
前記噴射部は複数の噴孔を有し、その複数の噴孔は、噴射弁中心軸から離反する向きに燃料が噴射されるように設けられており、
前記燃焼室内において前記各噴孔から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が互いに等しくなるように、前記吸気ポート及び前記排気ポートの各位置と前記各噴孔からのガス燃料の噴射の向きとに応じて、当該各噴孔から噴射されるガス燃料の噴流の状態が定められている、ことを特徴とする。
【0012】
エンジンにおいて、CNGや水素等のガス燃料を用いる場合には、可能な限り圧縮行程でガス燃料を噴射することにより燃焼室内の充填効率を上げることができる。しかし、圧縮行程噴射とすることで、混合気形成の時間が減少し均質性の低下が懸念される。また、吸気行程での吸気ポートからの新気の流入により筒内流動が生じると、燃焼室内において吸気ポート側の領域と排気ポート側の領域とで異なる態様の筒内流動が生じ、それに起因して、やはり均質性の低下が生じることが考えられる。具体的には、燃焼室内において、排気ポート側の領域では下向き(ヘッド側からピストン上面側への向き)で縦旋回成分の筒内流動が生じるとともに、吸気ポート側の領域では上向き(ピストン上面側からヘッド側への向き)で縦旋回成分の筒内流動が生じ、これにより、燃焼室内において混合気の均質性にばらつきが生じることが考えられる。
【0013】
この点、上記構成では、噴射弁先端部の噴射部において、噴射弁中心軸から離反する向きに燃料が噴射されるように複数の噴孔が設けられているため、高分散となる状態でのガス燃料の噴射が可能となっている。また、吸気ポート及び排気ポートの各位置と各噴孔からのガス燃料の噴射の向きとに応じて、各噴孔から噴射されるガス燃料の噴流の状態を定め、燃焼室内で生じる筒内流動にかかわらず、燃焼室内において各噴孔から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が互いに等しくなるようにした。これらにより、燃焼室内における混合気の均質性向上を実現することができる。
【0014】
また、燃料噴射弁に関する別の発明は、
気筒内を往復動するピストンを備える4サイクルレシプロ型のエンジンに用いられ、燃焼室において吸気側又は排気側にオフセットした位置に配置され、当該燃焼室内にガス燃料を直接噴射するガス燃料用の燃料噴射弁であって、
前記エンジンは、吸気ポートと排気ポートとを有し、吸気行程で前記吸気ポートから流入する空気により前記燃焼室内に縦旋回成分を含む筒内流動を生じさせるものであり、前記燃焼室において上面中央部となる位置に点火プラグが設けられており、
噴射弁先端部には、ガス燃料を噴射させる噴射部が設けられており、
前記噴射部は複数の噴孔を有し、その複数の噴孔は、噴射弁中心軸から離反する向きに燃料を噴射させるように設けられており、
前記燃焼室内を二分し前記排気ポート側の領域を第1領域、前記吸気ポート側の領域を第2領域とする場合に、前記複数の噴孔は、前記第1領域側及び前記第2領域側のうち前記第1領域側に向けてガス燃料を噴射する第1噴孔と、前記第2領域側に向けてガス燃料を噴射する第2噴孔とを有しており、
前記第1噴孔と前記第2噴孔とでは、噴射されるガス燃料の噴射エネルギの状態が相違しており、前記第1噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、前記第2噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっているとともに、前記燃焼室内において前記第1噴孔及び前記第2噴孔から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が、当該各噴孔から前記点火プラグまでのガス燃料の移動距離に比例するものとなっている、ことを特徴とする。
【0015】
燃焼室において吸気側又は排気側にオフセットした位置に配置された燃料噴射弁では、混合気の均質性向上を図るべく、各噴孔からの噴流が筒内流動の影響を受けることに加え、各噴孔からの噴流がピストン上面に衝突して巻き上がった後に点火プラグに到達するまでの所要時間が相違することを考慮することが望ましい。この点、第1噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギを、第2噴孔から噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くするとともに、燃焼室内において第1噴孔及び第2噴孔から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が、これら各噴孔から点火プラグまでのガス燃料の移動距離に比例するものとなるようにした。これにより、各噴孔からの噴流が筒内流動の影響を受けることと、各噴孔からの噴流が点火プラグに到達するまでの所要時間が相違することとを考慮しつつ、燃焼室内における混合気の均質性向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】シリンダヘッドにおける開口部や燃料噴射弁等の配置を示す図。
【
図6】筒内流動によるガス燃料の噴流への影響を説明するための図。
【
図8】筒内流動によらずガス燃料の噴流の貫徹力が等しくなった状態を示す図。
【
図10】第1実施形態の変形例において各噴孔の構成を説明するための図。
【
図11】第2実施形態において筒内流動によるガス燃料の噴流への影響を説明するための図。
【
図13】第3実施形態において燃焼室内の噴流の軌跡を示す図。
【
図14】筒内流動によるガス燃料の噴流への影響を説明するための図。
【
図15】筒内流動によらずガス燃料の噴流の貫徹力が等しくなった状態を示す図。
【
図16】第4実施形態における制御システムの構成図。
【
図17】均質度推定値の算出手法を説明するためのブロック図。
【
図21】燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
【
図22】燃料噴射時期を説明するためのタイムチャート。
【
図23】噴射開始時期と充填効率との関係を示す図。
【
図24】噴射開始時期に対応する均質度推定値を示す図。
【
図25】第5実施形態において燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
【
図27】第6実施形態において燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
【
図28】噴射開始時期に対応する均質度推定値を示す図。
【
図29】第7実施形態において燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
【
図30】変形例における燃料噴射制御の手順を示すフローチャート。
【
図31】変形例における燃料噴射の形態を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、車載エンジンシステムにおいて、エンジンとして、ガス燃料である水素又はCNGを燃料として使用するガスエンジンを用いる構成としている。本システムの全体概略図を
図1に示す。
【0018】
図1に示すエンジンシステムにおいて、エンジン10は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を1燃焼サイクルとする筒内噴射式の4サイクル多気筒エンジンである。エンジン10は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12とを有しており、シリンダブロック11に形成された各気筒11a内にピストン13が収容されている。また、シリンダ内壁とシリンダヘッド12とピストン13とにより燃焼室14が区画形成されている。シリンダヘッド12には、燃焼室14に開口する吸気ポート15と排気ポート16とが形成されている。これら吸気ポート15及び排気ポート16は、それぞれ図示しないカムによって駆動される吸気弁21と排気弁22とにより開閉されるようになっている。吸気ポート15には外気を吸入するための吸気管23が接続され、排気ポート16には、排気を排出するための排気管24が接続されている。
【0019】
吸気管23にはサージタンク25が設けられ、このサージタンク25に、吸気管内の圧力を検知する吸気圧センサ26が設けられている。吸気管23においてサージタンク25よりも上流側にはスロットルバルブ27が設けられている。排気管24には、排気中のCO,HC,NOx等を浄化するための三元触媒等の触媒が設けられている。
【0020】
シリンダヘッド12には、気筒11aごとに燃料噴射弁31と点火プラグ32とが取り付けられている。燃料噴射弁31は、燃料供給装置40から供給される燃料を燃焼室14内に直接噴射する。燃焼室14では、燃料噴射弁31から噴射された燃料が点火プラグ32の火花放電により着火され、燃焼に供される。
【0021】
図2は、シリンダヘッド12における開口部や燃料噴射弁31等の配置を示す図である。シリンダヘッド12には、吸気ポート15における燃焼室14側の開口部として2つの吸気口15aが設けられるとともに、排気ポート16における燃焼室14側の開口部として2つの排気口16aが設けられている。つまり、シリンダヘッド12には、燃焼室14に通じる4つの開口部が設けられている。そして、燃焼室14の上面中央部に、燃料噴射弁31及び点火プラグ32が設けられている。
【0022】
図1の説明に戻り、燃料噴射弁31には、燃料配管35を介して燃料容器36が接続されている。燃料容器36には、ガス燃料が高圧状態で貯蔵されている。燃料配管35には、減圧弁や主止弁、遮断弁など、燃料容器36からの燃料供給を調節する調節弁37と、燃料噴射弁31に供給されるガス燃料の圧力(燃圧)を調節する燃圧レギュレータ33とが設けられている。減圧弁は、燃料容器36から供給されるガス燃料が異常高圧となった場合に燃圧を所定の設定圧(例えば3.0MPa)まで減圧する。主止弁及び遮断弁は、燃料配管35におけるガス燃料の流通の許容及び遮断を行う。燃圧レギュレータ33は、例えば1~3MPaの範囲内で燃圧を調節する。
【0023】
ECU80は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成された電子制御装置であり、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。具体的には、ECU80は、吸気圧センサ26や不図示の回転速度センサ等から各種検出信号を入力し、その検出信号に基づいて燃料噴射弁31及び点火プラグ32の動作を制御する。
【0024】
次に、燃料噴射弁31の構成を説明する。
図3は燃料噴射弁31の断面図である。
【0025】
図3に示すように、燃料噴射弁31は、第1ニードル41と、第2ニードル42と、これら各ニードル41,42を収容するボディ43とを有する。第1ニードル41には可動コア44が固定されており、第1ニードル41及び可動コア44はスプリング45により図の下方に付勢されている。この場合、第1ニードル41は、ボディ43に形成された第1弁座43aに当接する向き、すなわち第1ニードル41によりボディ43内の燃料通路46を遮断する向きに付勢されている。また、燃料噴射弁31はソレノイドコイル48を有しており、ソレノイドコイル48の通電により、第1ニードル41及び可動コア44がスプリング45の付勢力に抗して図の上方に移動可能となっている。
【0026】
また、ボディ43の先端部には、円筒状の筒体51が固定されており、ボディ43において第1ニードル41と筒体51との間に第2ニードル42が収容されている。第2ニードル42は、スプリング52により図の上方、すなわちボディ43に形成された第2弁座43bに当接する向きに付勢されている。第1ニードル41及び第2ニードル42は、軸方向に互いに離間した状態で設けられており、それら各ニードル41,42の間には中間室53が形成されている。
【0027】
また、ボディ43の先端部には、筒体51内の通路51aを塞ぐ位置に噴射部としてのキャップ61が取り付けられている。キャップ61は、略半球状に膨出した膨出部61aを有し、その膨出部61aに複数の噴孔62が設けられている。これにより、燃料噴射弁31が多孔構造となっている。各噴孔62は、燃料噴射弁31の中心軸Jから離反する向きに燃料が噴射されるように、すなわち放射状となる向きに燃料が噴射されるように設けられている。
【0028】
ソレノイドコイル48の非通電時には、第1ニードル41が第1弁座43aに着座し、燃料通路46が遮断されている。第2ニードル42は第2弁座43bに着座した状態で保持されている。これにより、燃料噴射弁31は、燃料噴射を停止した状態で保持される。一方、ソレノイドコイル48の通電時には、第1ニードル41が第1弁座43aから離座することで燃料が中間室53に流入する。この場合、中間室53に流入した燃料の圧力により第2ニードル42が図の下方に移動することで、第2ニードル42が第2弁座43bから離座し、燃料が第2ニードル42の下流側に流れる。これにより、キャップ61の噴孔62から燃料が噴射される。
【0029】
ここで、ECU80により実施される燃料噴射制御の概要を
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
図4において、ステップS11では、噴射量マップを用い、エンジン回転速度や要求トルクに基づいて燃料噴射量を決定する。ステップS12では、燃料噴射量と、燃料噴射弁31に供給されるガス燃料の圧力とに基づいて、噴射期間(燃料噴射弁31の通電期間)を決定する。ステップS13では、噴射開始時期を決定する。このとき、噴射開始時期に対する充填効率の感度を加味しつつ、充填効率が所定値以上となる範囲内においてより進角側の時期を噴射開始時期とする。ステップS14では、噴射終了時期を決定する。このとき、所定の上限噴射終了時期以内の範囲において、ステップS12,S13で決定した噴射期間と噴射開始時期とに基づいて噴射終了時期を決定する。なお、上限噴射終了時期は、圧縮行程での筒内圧上昇に対して噴射可能な限界から定められた最遅角側の噴射終了時期であり、筒内圧と噴射圧とにより設定されるとよい。
【0031】
その後、ステップS15では、燃料噴射弁31から実際に噴射された実噴射量が、ステップS11で算出した燃料噴射量(目標噴射量)に一致しているか否かを判定する。具体的には、排気管24に設けられたA/Fセンサの検出値や燃料配管35に設けられた燃料流量計の計測値に基づいて実噴射量を算出し、その実噴射量と目標噴射量との差が所定値以下であるか否かに応じて、実噴射量が目標噴射量に一致しているか否かを判定する。このとき、実噴射量が目標噴射量に一致していれば、ステップS20に進む。また、実噴射量が目標噴射量に一致していなければ、ステップS16に進み、噴射時期の再設定を実施する。
【0032】
ステップS16では、目標噴射量に対して実噴射量が不足している状態、又は目標噴射量に対して実噴射量が超過している状態を解消するための噴射終了時期の補正値を算出する。具体的には、実噴射量と目標噴射量との差に基づいて、噴射終了時期を遅角側又は進角側に補正するための補正値を算出する。このとき、実噴射量と目標噴射量との差が大きいほど、補正値として大きい値が算出されるとよい。また、燃料圧力に基づいて補正値を算出する構成としてもよく、燃料圧力が高いほど補正値を小さい値にするとよい。なお、補正値はあらかじめ定めた固定値であってもよい。
【0033】
ステップS17では、ステップS16で算出した補正値による補正後の噴射終了時期が上限噴射終了時期を超えるものであるか否かを判定する。そして、補正後の噴射終了時期が上限噴射終了時期を超えていれば、ステップS18に進み、上限噴射終了時期を今回の燃料噴射での噴射終了時期とする。また、補正後の噴射終了時期が上限噴射終了時期を超えていなければ、ステップS19に進み、補正後の噴射終了時期を今回の燃料噴射での噴射終了時期とする。
【0034】
ステップS20では、上記のごとく決定された噴射開始時期及び噴射終了時期に基づいて燃料噴射弁31を通電し、燃料噴射を実施する。
【0035】
ところで、ガス燃料を燃料として使用するガスエンジンでは、可能な限り圧縮行程で燃料噴射を行い燃焼室14内の充填効率を上げることが望ましい。ただし、圧縮行程での燃料噴射を想定すると、混合気形成の時間が短くなることや、吸気行程での新気の流入により筒内流動が生じることに起因して、均質性の低下が生じることが考えられる。そこで、本実施形態の燃料噴射弁31では、吸気ポート15及び排気ポート16の各位置と各噴孔62からのガス燃料の噴射の向きとに応じて、各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴流の状態が定められた構成とし、これにより、各噴孔62から噴射されたガス燃料による燃焼室14内での噴流の貫徹力を互いに等しくし、ひいては混合気の均質性向上が可能になるものとしている。以下、燃焼室14内での筒内流動と、その筒内流動を考慮してなされた燃料噴射弁31の新規な構成とを詳しく説明する。なお、噴流の貫徹力とは外乱(筒内流動)の影響を加味したものを意味している。
【0036】
まずは
図5より筒内流動について説明する。以下の説明では、燃焼室14内を二分し、排気ポート16側の領域を第1領域R1、吸気ポート15側の領域を第2領域R2としている。
【0037】
図5(a)に示すように、吸気行程では、吸気弁21の開弁により吸気ポート15から燃焼室14内に新気が流入する。このとき、新気は、ピストン13の下動に伴い吸気ポート15から吸気弁21の開弁による隙間を通って燃焼室14内に流入し、燃焼室14の第1領域R1の内壁に沿って図の下方に流れる。
【0038】
また、
図5(b)に示すように、圧縮行程では、吸気弁21及び排気弁22が閉弁した状態でのピストン13の上動により、吸気行程で生じた図の下方への筒内流動がピストン上面で押し上げられ、縦旋回の筒内流動が生成される。なお、
図5には、筒内流動のうち縦旋回成分のみを示したが、筒内流動には横旋回成分の流動、つまり気筒の周方向の旋回成分も含まれている。
【0039】
次に、筒内流動によるガス燃料の噴流への影響を具体的に説明する。
図6(a)は、圧縮行程前半において、筒内流動によるガス燃料の噴流への影響を示す図であり、
図6(b)は、圧縮行程後半において、筒内流動による混合気形成への影響を示す図である。なお、
図6(a),(b)では、燃料噴射弁31において複数の噴孔62がいずれも同じ形態で設けられ、かつ各噴孔62から放射状となる向きで燃料噴射が行われることを想定している。
【0040】
図6(a)に示すように、燃料噴射弁31の各噴孔62から放射状となる向きでガス燃料が噴射されることにより、燃焼室14内でのガス燃料の高分散化が図られている。ただし、ガス燃料の高分散化により各噴孔62における噴流の貫徹力が減少され、さらに筒内流動の影響を受けることで第1領域R1及び第2領域R2で噴流の貫徹力に差が生じる。詳しくは、燃焼室14内において、第1領域R1では下向き(ヘッド側からピストン上面側への向き)で縦旋回成分の筒内流動が生じるとともに、第2領域R2では上向き(ピストン上面側からヘッド側への向き)で縦旋回成分の筒内流動が生じている。そのため、第1領域R1では噴流の貫徹力が弱化される一方、第2領域R2では噴流の貫徹力が強化され、ピストン衝突後の各噴流の巻き上がりがアンバランスになる。
【0041】
したがって、
図6(b)に示すように、燃焼室14内で混合気形成に際して混合気の均質性にばらつきが生じる。
【0042】
本実施形態では、燃焼室14内で生じる筒内流動を考慮して各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴射エネルギを適宜設定するものとしており、その具体的な構成を
図7にて説明する。
【0043】
図7において、(a)は、噴射弁先端のキャップ61における各噴孔62の配置を示す図であり、(b)は、キャップ61の縦断面図である。これら各図において、キャップ61には4つの噴孔62が周方向に均等配置されており、それら各噴孔62のうち、燃焼室14内の第1領域R1に向けてガス燃料を噴射する噴孔62を第1噴孔62A、第2領域R2に向けてガス燃料を噴射する噴孔62を第2噴孔62Bとしている。また、第1噴孔62A及び第2噴孔62B以外の噴孔62を第3噴孔62Cとしている。なお、各噴孔62は、いずれもその軸方向に直交する向きの開口形状が真円をなしている。ただし、各噴孔62の開口形状は、噴射弁先端の径方向に長い楕円形状、又は周方向に長い楕円形状であってもよい。
【0044】
図7に示す構成では、第1噴孔62A及び第2噴孔62Bは、それぞれ入口側から出口側にかけて開口面積が均一であり、かつその開口面積の関係が、第1噴孔62Aの開口面積>第2噴孔62Bの開口面積となっている。これにより、第1噴孔62Aでは、第2噴孔62Bに比べて単位時間当たりの噴射量が多くなっている。この場合、各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴射エネルギは物体の質量と速さの二乗に比例するため、第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっている。
【0045】
第3噴孔62Cは、燃焼室14内における第1領域R1及び第2領域R2の境界部に沿った方向に向けて燃料を噴射するための噴孔62である。第3噴孔62Cは、入口側から出口側にかけて開口面積が均一であり、かつその開口面積の関係が、第1噴孔62Aの開口面積>第3噴孔62Cの開口面積>第2噴孔62Bの開口面積となっている。これにより、第3噴孔62Cから噴射されるガス燃料の噴射エネルギは、第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも弱く、かつ第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっている。
【0046】
エンジン10のシリンダヘッド12には、第1噴孔62Aが排気ポート16側の第1領域R1に向けてガス燃料を噴射し、第2噴孔62Bが吸気ポート15側の第2領域R2に向けてガス燃料を噴射し、さらに第3噴孔62Cが第1領域R1及び第2領域R2の境界部に沿う向きにガス燃料を噴射するようにして、燃料噴射弁31が組み付けられる。
【0047】
図7に示す構成を有する燃料噴射弁31によれば、
図8(a),(b)に示すように、燃焼室14内において、各噴孔62から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が互いに等しくなり、均質性の高い混合気形成が可能になっている。この場合、第1噴孔62Aの噴射エネルギを強くし、かつ第2噴孔62Bの噴射エネルギを弱くしていることにより、第1噴孔62Aからの噴流の貫徹力F1と第2噴孔62Bからの噴流の貫徹力F2とが等しくなっている。
【0048】
各噴孔62の構成を、
図7の構成から
図9の構成に変更することも可能である。
図9の構成においても、噴孔数を4つとしており、第1噴孔62Aが第1領域R1に向けてガス燃料を噴射し、第2噴孔62Bが第2領域R2に向けてガス燃料を噴射し、さらに第3噴孔62Cが各領域R1,R2の境界部に沿う向きにガス燃料を噴射するものとしている。
【0049】
図9に示す構成では、第1噴孔62A及び第2噴孔62Bは、それぞれテーパ構造になっており、そのうち第1噴孔62Aは、入口側から出口側に向けて縮径された逆テーパ型となり、第2噴孔62Bは、入口側から出口側に向けて拡径されたテーパ型となっている。これにより、第1噴孔62Aでは、第2噴孔62Bに比べて、ガス燃料が噴出される際の噴射速度が大きくなる。この場合、各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴射エネルギは物体の質量と速さの二乗に比例するため、第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっている。
【0050】
なお、第3噴孔62Cは、入口側から出口側にかけて開口面積が均一な非テーパ構造となっている。これにより、第3噴孔62Cから噴射されるガス燃料の噴射エネルギは、第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも弱く、かつ第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっている。
ている。
【0051】
図9に示す構成では、破線で示すように、キャップ61(膨出部61a)の厚さ方向の1/2の中間位置で、第1噴孔62A及び第2噴孔62Bの開口面積が等しくなっているとよい。この中間位置での各噴孔62A,62Bの開口面積は、第3噴孔62Cの開口面積と同じであるとよい。ただし、第1噴孔62A及び第2噴孔62Bにおいて出口側の開口面積を互いに等しくする構成であってもよい。
【0052】
図9に示す構成を有する燃料噴射弁31においても、
図8(a),(b)に示すように、燃焼室14内において、各噴孔62から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力を互いに等しくすることができ、均質性の高い混合気形成が可能になっている。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0054】
噴射弁先端部のキャップ61(噴射部)において、噴射弁中心軸Jから離反する向きに燃料が噴射されるように複数の噴孔62を設けたため、高分散となる状態でのガス燃料の噴射が可能となっている。また、吸気ポート15及び排気ポート16の各位置と各噴孔62からのガス燃料の噴射の向きとに応じて、各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴流の状態を定め、燃焼室14内で生じる筒内流動にかかわらず、燃焼室14内において各噴孔62から噴射されたガス燃料の噴流の貫徹力が互いに等しくなるようにした。これらにより、燃焼室14内における混合気の均質性向上を実現することができ、ひいては未燃損失の増加による熱効率の低下や排気エミッションの悪化を抑制することができる。
【0055】
排気ポート16側の第1領域R1に向けてガス燃料を噴射する第1噴孔62Aでは、噴流の勢いが筒内流動の縦旋回成分により減衰され、吸気ポート15側の第2領域R2に向けてガス燃料を噴射する第2噴孔62Bでは、噴流の勢いが筒内流動の縦旋回成分により増幅される。これを考慮し、第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギを、第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くした。これにより、混合気の均質性を高めることができる。
【0056】
第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギを、第3噴孔62Cから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くする一方、第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギを、第3噴孔62Cから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも弱くした。これにより、キャップ61において多孔化による高分散性の向上を図りつつ、各噴孔62A~62Cの噴流の噴射エネルギをそれぞれ適正に設定することができる。
【0057】
ガス燃料として水素を用いる場合には、CNGに比べて密度が小さく噴流の噴射エネルギが小さくなるため、筒内流動の影響をより受けやすいと考えられる。この点、ガス燃料として水素を用いる場合にあっても、燃焼室14内において混合気の均質性向上を図ることができる。
【0058】
(第1実施形態の変形例)
各噴孔62を、
図10(a)~(d)に示す構成としてもよい。これら各図は、噴射弁先端のキャップ61における各噴孔62の配置を示す図である。
【0059】
図10(a)に示す構成では、第1~第3噴孔62A~62Cのうち第1噴孔62Aについて、他の噴孔62B,62Cよりも開口面積を大きくすることにより噴射エネルギを強くしている。第1噴孔62Aについて、逆テーパ型にすることにより噴射速度を大きくし、噴射エネルギを強くすることも可能である。なお、噴孔62B,62Cは、いずれも非テーパ構造であり、かつ噴射エネルギが互いに同じものであるとよい。
【0060】
図10(b)に示す構成では、第1~第3噴孔62A~62Cのうち第2噴孔62Bについて、他の噴孔62A,62Cよりも開口面積を小さくすることにより噴射エネルギを弱くしている。第2噴孔62Bについて、テーパ型にすることにより噴射速度を小さくし、噴射エネルギを弱くすることも可能である。なお、噴孔62A,62Cは、いずれも非テーパ構造であり、かつ噴射エネルギが互いに同じものであるとよい。
【0061】
図10(c)に示す構成では、噴孔数を6つとしており、内訳は第1噴孔62A、第2噴孔62B、第3噴孔62Cをそれぞれ2つにしている。また、これら各噴孔62A~62Cの噴射エネルギを、上記同様、第1噴孔62Aの噴射エネルギ>第3噴孔62Cの噴射エネルギ>第2噴孔62Bの噴射エネルギとしている。
【0062】
図10(d)に示す構成では、複数の噴孔62として第1噴孔62Aと第2噴孔62Bとが設けられている。これら各噴孔62A,62Bの数は例えば1つずつとすればよいが、それぞれ2つ以上設けることも可能である。そして、これら各噴孔62A,62Bの噴射エネルギを、第1噴孔62Aの噴射エネルギ>第2噴孔62Bの噴射エネルギとしている。
【0063】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態は、燃焼室14内において、排気ポート16側の第1領域R1と吸気ポート15側の第2領域R2とでは筒内流動の縦旋回成分の向きが異なるが、これら各領域R1,R2の境界となる境界部では、その境界部に沿った方向において筒内流動の縦旋回成分の差が小さくなることに着目したものである。これを、
図11を用いて説明する。
【0064】
図11(a)は、気筒11aの構成を模式的に示す斜視図であり、その気筒11aにおいて、2つの吸気口15aの間の中央位置と2つの排気口16aの間の中央位置とを通る縦断面が断面A1、吸気側と排気側とを二分しかつ断面A1に直交する縦断面が断面A2となっている。そして、
図11(b)には、断面A1での筒内流動を示し、
図11(c)には、断面A2での筒内流動を示している。
【0065】
ここで、
図11(b)に示すように、断面A1に相当する部位で、図示のB1,B2のように燃料噴射が行われる場合を想定する。この場合、これらB1,B2は筒内流動の縦旋回の影響を受け、その一方が減衰、他方が強化される。これに対して、
図11(c)に示すように、断面A2に相当する部位で、図示のC1,C2のように燃料噴射が行われる場合には、これらC1,C2に対する筒内流動の縦旋回の影響はいずれも略同じとなる。つまり、断面A2は、断面A1に直交する縦断面であり、その断面A2の延びる方向は、第1領域R1及び第2領域R2の境界部に沿った方向である。そのため、断面A2では、断面A1とは異なり、互いに向きの異なる縦旋回の筒内流動によるC1,C2への影響が生じないものとなっている。
【0066】
そこで本実施形態では、
図12に示すように、キャップ61に、第1領域R1及び第2領域R2の境界部に沿った方向にガス燃料を噴射する噴孔62のみを設ける構成としている。これにより、
図11(c)に示す形態で、各噴孔62からガス燃料が噴射される。本実施形態において、各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴射エネルギは互いに同等である。本実施形態の構成によれば、筒内流動に起因する混合気の均質性がばらつくことが抑制できるものとなっている。
【0067】
なお、
図11(c)の左右それぞれにガス燃料を噴射する噴孔62は、各々複数個ずつ設けられていてもよい。噴孔62は、非テーパ構造、テーパ構造のいずれであってもよい。テーパ構造とする場合、逆テーパ型、テーパ型のいずれであってもよい。
【0068】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1実施形態では、燃焼室14において上面中央部の位置に燃料噴射弁31を設けた構成としたが、本実施形態では、燃焼室14において上面中央部から吸気側にオフセットした位置に燃料噴射弁31を設けた構成としている。
【0069】
図13は、燃焼室14内の噴流の軌跡を示す図である。
図13において、図の左側が吸気側、右側が排気側であり、燃焼室14において上面中央部となる位置に点火プラグ32が設けられ、吸気側にオフセットした位置に燃料噴射弁31(キャップ61)が設けられている。この構成では、各噴孔62からの噴流が筒内流動の影響を受けることに加えて、各噴孔62からの噴流がピストン上面に衝突して巻き上がった後に、点火プラグ32に到達するまでの移動距離が相違することが考えられる。移動距離は、詳しくは、噴流がピストン上面を経由して、シリンダ内壁とシリンダヘッド12を沿って点火プラグ32の位置まで到達するまでの距離である。
図13では、第1噴孔62Aからの噴流の軌跡をT1、第2噴孔62Bからの噴流の軌跡をT2としており、これら各軌跡T1,T2を比べると、第1噴孔62Aの方が、第2噴孔62Bよりも点火プラグ32までのガス燃料の移動距離が長いことが分かる。これらの要因により、混合気の均質性低下が懸念される。
【0070】
図14(a)は、圧縮行程前半において、筒内流動によるガス燃料の噴流への影響を示す図であり、
図14(b)は、圧縮行程後半において、筒内流動による混合気形成への影響を示す図である。なお、
図14(a),(b)では、燃料噴射弁31において複数の噴孔62がいずれも同じ形態で設けられ、かつ排気ポート16側の領域である第1領域R1側と吸気ポート15側の領域である第2領域R2側とに向けて各噴孔62からそれぞれ燃料噴射が行われることを想定している。
【0071】
図14(a)に示すように、燃焼室14内では、上述したとおり筒内流動の影響を受けることにより第1領域R1及び第2領域R2で噴流の貫徹力に差が生じており、ピストン衝突後の各噴流の巻き上がりがアンバランスになる。したがって、
図14(b)に示すように、燃焼室14内で混合気形成に際して混合気の均質性にばらつきが生じる。
【0072】
本実施形態では、燃焼室14内で生じる筒内流動を考慮して各噴孔62から噴射されるガス燃料の噴射エネルギを適宜設定するものとしており、その具体的な構成は、既述の
図7又は
図9の構成に準ずるものとなっている。
【0073】
すなわち、キャップ61に設けられた第1噴孔62A及び第2噴孔62Bは、その開口面積が互いに大小異なること、又は、テーパ構造が互いに異なることにより、第1噴孔62Aから噴射されるガス燃料の噴射エネルギが、第2噴孔62Bから噴射されるガス燃料の噴射エネルギよりも強くなっている。また、第3噴孔62Cを含めた構成で言えば、各噴孔62A~62Cから噴射されるガス燃料の噴射エネルギの関係は、第1噴孔62Aの噴射エネルギ>第3噴孔62Cの噴射エネルギ>第2噴孔62Bの噴射エネルギとなっている。
【0074】
また、第1噴孔62Aからの噴流と第2噴孔62Bからの噴流とを比べると、それら各噴流は、ピストン上面に衝突して巻き上がった後に点火プラグ32に到達するまでの移動距離が相違している。そのため、本実施形態では、各噴孔62A,62Bから点火プラグ32までのガス燃料の移動距離の違いを併せ考慮して、各噴孔62A,62Bの噴射エネルギを定めることとしている。この場合、各噴孔62A,62Bからの噴流の貫徹力が、各噴孔62A,62Bから点火プラグ32までのガス燃料の移動距離に比例するようにして、各噴孔62A,62Bの噴射エネルギが定められているとよい。
【0075】
本実施形態の燃料噴射弁31によれば、
図15(a),(b)に示すように、第1噴孔62Aの噴射エネルギを強くし、かつ第2噴孔62Bの噴射エネルギを弱くしていることにより、第1噴孔62Aからの噴流の貫徹力F1と第2噴孔62Bからの噴流の貫徹力F2とが調整されている。この場合特に、第1噴孔62Aの方が、第2噴孔62Bよりも点火プラグ32までのガス燃料の移動距離が長くなることから、第1噴孔62Aからの噴流の貫徹力F1が、第2噴孔62Bからの噴流の貫徹力F2よりも強くなっている。これにより、燃焼室14内において均質性の高い混合気形成が可能になっている。
【0076】
第3実施形態の変形例として、燃焼室14において上面中央部から排気側にオフセットした位置に燃料噴射弁31(キャップ61)が設けられている構成としてもよい。この場合、上述したとおり筒内流動の影響を加味しつつ、第1噴孔62Aの方が、第2噴孔62Bよりも点火プラグ32までのガス燃料の移動距離が短くなることに基づいて、各噴孔62A,62Bの噴射エネルギが定められるとよい。
【0077】
(第1実施形態~第3実施形態の変形例)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0078】
・上記実施形態では、燃料噴射弁31の構成として、ボディ43内に第1ニードル41と第2ニードル42とを軸方向に並べて配置する構成を採用したが、その構成に限られない。例えば、ボディ43内に単一のニードルを設け、そのニードルの開弁に伴いボディ43内の燃料通路46が開通されて各噴孔62からガス燃料が噴射される構成であってもよい。
【0079】
・上記実施形態では、エンジン10において燃焼室14内に横旋回成分と縦旋回成分とを含む筒内流動を生じさせる構成としたが、横旋回成分が生じない又は生じても微小のものとなる構成としてもよい。
【0080】
(第4実施形態)
本実施形態では、燃料噴射弁31から燃焼室14内に噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質度を高めるべく実施される燃料噴射制御について説明する。つまり、本実施形態は、エンジン10の燃焼室14内においてガス燃料と空気とからなる混合気の均質性に応じて燃焼状態が変動することに着目してなされたものであり、燃料噴射弁31から燃焼室14内に噴射されたガス燃料と空気との混合気の均質度を、均質度推定値Xとして算出し、その均質度推定値Xに基づいて、燃料噴射弁31の燃料噴射時期を制御することとしている。なお本実施形態では、
図1に示すエンジンシステムを流用することとしている。
図1において不図示としているが、エンジンシステムは、ターボチャージャ、スーパーチャージャ等の過給機や、吸排気弁の開閉タイミングを調整する可変動弁装置を有するものであってもよい。
【0081】
図16は、本実施形態における制御システムの構成図である。ECU80には、回転速度センサ71、エアフロセンサ72、燃圧センサ73、筒内圧センサ74等を含む各種センサから検出信号が逐次入力される。回転速度センサ71はエンジン回転速度NEを検出し、エアフロセンサ72は、エンジン負荷として吸気量Qinを検出する。燃圧センサ73は、燃料配管35において燃圧レギュレータ33と燃料噴射弁31との間に設けられ、燃料噴射弁31に供給される燃料の圧力である燃圧Pfを検出する。筒内圧センサ74は、シリンダヘッド12に設けられ、燃焼室14内の圧力である筒内圧Pcを検出する。
【0082】
ECU80は、上記各センサの検出信号に基づいて、燃料噴射弁31、点火プラグ32、燃圧レギュレータ33の動作を制御する。ECU80は、燃料噴射制御として、エンジン回転速度NEやエンジン負荷(要求トルク又は吸気量Qin)に基づいて燃料噴射量Qfを算出するとともに、燃料噴射量Qfと燃圧Pfとに基づいて燃料噴射弁31の噴射期間Tdを算出し、その噴射期間Tdに基づいて燃料噴射弁31による燃料噴射を実施する。本実施形態では、主に圧縮行程にて燃料噴射が行われる。なお、噴射期間Tdの始まりが噴射開始時期SOIであり、噴射期間Tdの終わりが噴射終了時期EOIである。噴射開始時期SOI及び噴射終了時期EOIがそれぞれ「燃料噴射時期」に相当する。
【0083】
また、ECU80は、燃圧レギュレータ33による燃圧制御として、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷に基づいて目標燃圧Ptgを設定するとともに、燃圧センサ73により検出された燃圧Pf(実燃圧)が目標燃圧Ptgに一致するように燃圧フィードバック制御を実施する。この場合、例えば1~3MPaの範囲内で燃圧Pfが制御される。
【0084】
本実施形態では、燃料噴射弁31として
図3に示す構成を有するものを用いることとしており、燃料噴射弁31は、その先端部に複数の噴孔62を有する多孔構造を具備している。噴孔62の数は例えば4つであり、各噴孔62はいずれも同じ大きさを有するものとなっている。各噴孔62は、燃料噴射弁31の中心軸Jから離反し、すなわち放射状となり、かつピストン上面に向かう向きで燃料が噴射されるように設けられている。
【0085】
ところで、本願発明者らの知見によれば、ガスエンジンにおける混合気の均質度に寄与する主要要素には、燃料噴射弁31による燃料噴射直後のガス燃料のペネトレーション(貫徹力)である噴流ペネトレーションと、燃焼室14内においてピストン上面からガス燃料が巻き上がる際の噴流巻き上がりと、燃焼室14内でのガス燃料と空気との混合時間とが含まれることが見出された。なお、噴流ペネトレーションは、燃料噴射弁31による圧縮行程噴射が行われる際において、噴射開始からガス燃料がピストン上面に到達するまでの期間における均質度の寄与要素である。噴流巻き上がりは、ガス燃料がピストン上面の到達後にシリンダ内壁に沿って巻き上がる際の巻き上がりの度合を示すものであり、ピストン上面の到達から燃料噴射終了時期までの期間における均質度の寄与要素である。混合時間は、燃料噴射終了時期から点火時期(又はTDC)までの期間における均質度の寄与要素である。
【0086】
本実施形態では、ECU80は、混合気の均質度に寄与する3つの要素、すなわち噴流ペネトレーション、噴流巻き上がり、及び混合時間についてこれら各々の推定値(噴流ペネトレーション推定値A、巻き上がり推定値B、及び混合時間推定値C)を算出するとともに、これら各推定値に基づいて均質度推定値Xを算出する。そして、ECU80は、均質度推定値Xに基づいて燃料噴射弁31の燃料噴射時期の制御を行う。
【0087】
均質度推定値Xの算出手法を
図17により説明する。
図17は、ECU80により実施される均質度推定値Xの算出に関する機能ブロック図である。
図17に示すように、ECU80は、噴流ペネトレーション推定値Aを算出する第1算出部M1と、巻き上がり推定値Bを算出する第2算出部M2と、混合時間推定値Cを算出する第3算出部M3とを有しており、これら各推定値A,B,Cの和により均質度推定値Xを算出する(X=A+B+C)。
【0088】
第1算出部M1は、燃焼室14内(筒内)におけるガス燃料の噴流の大きさを示す噴流体積a1と、燃料噴射開始時における筒内容積a2とに基づいて、噴流ペネトレーション推定値Aを算出する。具体的には、下記の式1により噴流ペネトレーション推定値Aを算出する。
A=k1×(a1/a2) (式1)
式2において、k1は所定の係数である(下記のk2~k8も同様)。
【0089】
噴流体積a1は、燃圧Pf及び燃料噴射量Qfをパラメータとして基づいて算出される。例えば
図18(a)に示す関係に基づいて、燃圧Pf及び燃料噴射量Qfにより噴流体積a1が算出される。噴流体積a1は、燃圧Pf及び燃料噴射量Qfの少なくともいずれかが大きいほど、大きい値として算出される。
【0090】
筒内容積a2は、例えば
図18(b)に示す関係に基づいて、噴射開始時期SOIにより算出される。筒内容積a2は、噴射開始時期SOIがTDCに対して進角側になるほど、大きい値として算出される。
【0091】
噴流ペネトレーション推定値Aは、燃焼室14内における噴流の大きさ、すなわち筒内容積に対する噴流の占める割合を示すものであり、燃圧Pfが高いほど(上記式1の分子項が大きいほど)、又は噴射開始時期SOIがTDCに近づく遅角側になるほど(上記式1の分母項が小さいほど)、大きい値として算出される。
【0092】
第2算出部M2は、噴流巻き上がりに寄与する噴流の状態に関する項である噴流項b1と、噴流巻き上がりに寄与する筒内の環境に関する項である筒内環境項b2とを加算することにより、巻き上がり推定値Bを算出する。具体的には、下記の式2により巻き上がり推定値Bを算出する。
B=b1+b2 (式2)
つまり、噴流巻き上がりの度合は、噴流自体の状態に応じて変わり得るとともに、筒内環境に応じても変わり得るため、噴流項b1と筒内環境項b2とを各々算出するとともに、これら各項を加算して巻き上がり推定値Bを算出する。
【0093】
噴流項b1は、
・噴流巻き上がりに対する噴流速度の寄与度を示す噴流速度寄与度b11と、
・噴流巻き上がりに対する噴流押し出しの寄与度を示す押出し寄与度b12と、
に基づいて、下記の式3により算出される。
b1=k2×b11+k3×b12 (式3)
噴流速度寄与度b11は、例えば
図19(a)に示す関係に基づいて、燃圧Pfにより算出される。噴流速度寄与度b11は、燃圧Pfが高いほど、噴流速度が大きくなることから大きい値として算出される。
【0094】
押出し寄与度b12は、例えば
図19(b)に示す関係に基づいて、噴射期間Tdにより算出される。押出し寄与度b12は、噴射期間Tdが長くなるほど、大きい値として算出される。
【0095】
また、筒内環境項b2は、
・噴流巻き上がりに対する噴流移動距離の寄与度を示す移動距離寄与度b21と、
・噴流巻き上がりに対する筒内流動の寄与度を示す筒内流動寄与度b22と、
・噴流巻き上がりに対するピストン上昇速度の寄与度を示すピストンアップ寄与度b23と、
・噴流巻き上がりに対する燃料噴射時の筒内圧の寄与度を示す筒内圧寄与度b24と、
に基づいて、下記の式4により算出される。
b2=k4×b21+k5×b22+k6×b23+k7×b24 (式4)
燃焼室14内での噴流移動距離は、噴流がピストン上面及びシリンダ内壁を経て点火プラグ32の位置に到達するまでに要する距離であり、その噴流移動距離が短いほど噴流の勢いが強いため、均質度の寄与度が大きくなる。なお、噴流移動距離は、噴射開始時期SOIに応じて変わり、噴射開始時期SOIがTDCに近いほど(遅角側であるほど)、噴流移動距離が短くなる。移動距離寄与度b21は、例えば
図20(a)に示す関係に基づいて、噴射開始時期SOIにより算出される。移動距離寄与度b21は、噴射開始時期SOIがTDCに近いほど(遅角側であるほど)、大きい値として算出される。
【0096】
筒内流動寄与度b22は、例えば
図20(b)に示す関係に基づいて、筒内流動の強弱に応じて算出される。筒内流動は、エンジン回転状態やエンジン負荷に応じて変動するものであり、例えばエンジン回転速度NE及び吸気量Qinに基づいて筒内流動の強弱の度合が判定される。この場合、エンジン回転速度NEが大きいほど、又は吸気量Qinが多いほど、強流動であると判定される。また、燃料噴射弁31が多孔構造である場合には、筒内流動が弱いほど均質度の寄与度が大きく、筒内流動が強いほど均質度の寄与度が小さくなると考えられる。これらを考慮し、筒内流動寄与度b22は、筒内流動が弱いほど大きい値として算出され、筒内流動が強いほど小さい値として算出される。
【0097】
なお、燃料噴射弁31の噴孔が一つである場合、すなわち単孔である場合には、筒内流動の強弱に関係なく、筒内流動寄与度b22は一定値として算出される。
【0098】
圧縮行程においてピストン13が上昇移動する際には、ピストン上昇速度が大きいほど均質度の寄与度が大きくなる。また、エンジン回転速度NEが高いほど、ピストン上昇速度が大きくなる。これらを考慮し、ピストンアップ寄与度b23は、例えば
図20(c)の関係に基づいて、エンジン回転速度NEにより算出される。ピストンアップ寄与度b23は、エンジン回転速度NEが高いほど、大きい値として算出される。
【0099】
筒内圧寄与度b24は、例えば
図20(d)の関係に基づいて、筒内圧Pcにより算出される。筒内圧寄与度b24は、筒内圧Pcが高いほど、噴流が移動可能な距離が短くなるため、小さい値として算出される。ここで用いる筒内圧Pcは、燃料噴射中における燃焼室14内の圧力であり、筒内圧センサ74により検出される。ただし、筒内圧センサ74を具備していない構成であれば、吸気量Pinや吸気温、吸気弁21の閉じタイミング等により筒内圧Pcが推定されるとよい。
【0100】
第3算出部M3は、下記の式5を用い、点火時期IG、噴射終了時期EOI、エンジン回転速度NEに基づいて混合時間推定値Cを算出する。
C=((IG[CA]-EOI[CA])×60[sec])/(NE[rpm]×360[CA]) (式5)
混合時間推定値Cは、噴射終了時期EOIが進角側であるほど、大きい値として算出される。なお、式5において、噴射終了時期EOIから点火時期IGまでの角度期間に代えて、噴射終了時期EOIからTDCまでの角度期間を用いて、混合時間推定値Cを算出することも可能である。
【0101】
ECU80は、上記のごとく算出される均質度推定値Xに基づいて、燃料噴射弁31の燃料噴射時期を制御する。この場合、ECU80は、燃料噴射弁31の燃料噴射制御の指令値として、均質度推定値Xが所定の閾値よりも大きくなる燃料噴射時期を設定し、その燃料噴射時期に基づいて、燃料噴射弁31による燃料噴射を行わせる。
【0102】
図21に示したフローチャートを用い、均質度推定値Xに基づく燃料噴射制御について説明する。本処理は、ECU80により所定周期で繰り返し実施される。
【0103】
ステップS21では、運転条件やセンサ検出信号等の各種情報を取得する。具体的には、エンジン回転速度NEやエンジン負荷情報(要求トルク等)、燃圧Pf、筒内圧Pcを取得する。
【0104】
ステップS22では、噴射量マップを用い、エンジン回転速度NEや要求トルクに基づいて燃料噴射量Qfを決定する。ステップS23では、燃料噴射量Qfと燃圧Pfとに基づいて噴射期間Tdを決定する。
【0105】
ステップS24では、噴射開始時期SOIの設定が可能となるSOI設定範囲を決定する。このSOI設定範囲について、
図22のタイムチャートを用いて説明する。
図22では、噴射開始時期SOIについて進角限界(最進角時期)を下限噴射開始時期SOImin、遅角限界(最遅角時期)を上限噴射開始時期SOImaxとしており、そのSOImin~SOImaxのSOI設定範囲内で、燃料噴射弁31の噴射開始時期SOIが設定される。
図22において「IVC」は吸気弁21の閉じタイミングである。
【0106】
ここで、燃焼室14内へのガス燃料の充填効率は噴射開始時期SOIに応じて変動し、噴射開始時期SOIに対する充填効率が
図23に示す関係となることが考えられる。この場合、
図23の関係に基づいて、充填効率が所定値以上となる範囲内においてより進角側となる噴射開始時期SOIが下限噴射開始時期SOIminとして設定される。
【0107】
また、
図22では、噴射終了時期EOIの遅角限界(最遅角時期)を上限噴射終了時期EOImaxとしており、その上限噴射終了時期EOImaxと噴射期間Tdとに基づいて上限噴射開始時期SOImaxが設定される。上限噴射終了時期EOImaxは、圧縮行程での筒内圧上昇に対して噴射可能な限界から定められた最遅角側の噴射終了時期であり、燃圧Pf及び筒内圧Pcにより算出されるとよい。ただし、上限噴射終了時期EOImaxは、固定値として定められていてもよい。
【0108】
なお、噴射開始時期SOIの進角限界である下限噴射開始時期SOImin、遅角限界である上限噴射開始時期SOImaxの設定手法は上記手法に限られない。例えば、SOImin,SOImaxを、予め定めた固定値として設定することも可能である。
【0109】
ステップS25では、SOI設定範囲(SOImin~SOImax)内において、複数の噴射開始時期SOIに対応する均質度推定値Xを算出する。すなわち、SOI設定範囲内において噴射開始時期SOIの複数(n個)の候補値をSOI候補値T1~Tnとして定め、それらSOI候補値T1~Tnごとに
図17の算出手法により均質度推定値Xを算出する。SOI候補値T1~Tnの数は任意であるが、例えばSOI設定範囲(SOImin~SOImax)内で10[CA]刻みでSOI候補値T1~Tnが定められているとよい。
【0110】
ステップS26では、ステップS25で算出した複数の均質度推定値X、すなわち複数のSOI候補値T1~Tnに対応する各均質度推定値Xについて目標値Xtg以上のものがあるか否かを判定する。目標値Xtgは、燃焼室14内の混合気が低均質状態であるか否かを判定するための閾値である。
【0111】
均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていれば、ステップS27に進み、均質度推定値Xが目標値Xtg以上となるSOI候補値T1~Tnのうち最進角側の噴射開始時期SOIを、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定する。また、均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていなければ、ステップS28に進み、各均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応する噴射開始時期SOIを、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定する。
【0112】
図24(a),(b)を用いて、SOI候補値T1~Tnごとの複数の均質度推定値Xから噴射開始時期SOIを設定する処理を補足説明する。
図24(a)では、SOI候補値T1~Tnごとの均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれている。この場合、目標値Xtg以上の均質度推定値Xに対応するSOI候補値T1~Tnのうち最進角側のSOI候補値T1(下限噴射開始時期SOImin)が、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定される。均質度推定値Xが目標値Xtg以上になる条件でかつ、最進角側で噴射開始時期SOIが設定されることにより、断熱圧縮での筒内圧上昇による熱効率の向上が可能となる。
【0113】
また、
図24(b)では、SOI候補値T1~Tnごとの均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていない。すなわち、全ての均質度推定値Xが目標値Xtg未満となっている。この場合、各均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応するSOI候補値Txが、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定される。
【0114】
ステップS29では、ステップS27,S28で設定した噴射開始時期SOIと、噴射期間Tdとに基づいて、燃料噴射制御の噴射終了時期EOIを決定する。
【0115】
その後、ステップS30~S35では、燃料噴射量の過不足が生じているか否かに応じた補正を適宜行いつつ燃料噴射を実施する。すなわち、燃料噴射弁31から実際に噴射された実噴射量が目標噴射量(燃料噴射量Qf)に一致しているか否かを判定し、実噴射量が目標噴射量に一致していれば、上記のごとく決定された噴射開始時期SOI及び噴射終了時期EOIに基づいて燃料噴射弁31の燃料噴射を実施し(ステップS35)、実噴射量が目標噴射量に一致していなければ、噴射時期の再設定を行った後に燃料噴射を実施する(ステップS31~S35)。なお、ステップS30~S35の処理は、第1実施形態における
図4のステップS15~S20と同様の処理であり、ここでは詳細な説明を割愛する。
【0116】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0117】
燃焼室14内における混合気の均質度を均質度推定値Xとして算出し、その均質度推定値Xに基づいて、燃料噴射弁31の燃料噴射時期を制御するようにした。この場合、燃料噴射時期の制御により、燃料噴射弁31から燃焼室14内に噴射されるガス燃料についてピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの度合や混合時間が適度に変わり、燃焼室14内において均質度の適正化を図ることができる。これにより、ガスエンジンにおいてガス燃料を適正に燃焼させることができる。
【0118】
燃料噴射弁31の燃料噴射制御の指令値として、均質度推定値Xが目標値Xtgよりも大きくなる噴射開始時期SOI(燃料噴射時期)を設定し、その噴射開始時期SOIに基づいて、燃料噴射弁31による燃料噴射を行わせるようにした。こうした燃料噴射制御により、燃焼室14内において所望とする均質度を実現することができる。
【0119】
噴射開始時期SOIの候補値として複数のSOI候補値T1~Tnを定め、それらSOI候補値T1~Tnごとに均質度推定値Xを算出するとともに、それら各均質度推定値Xのうち目標値Xtgよりも大きい均質度推定値Xに対応するSOI候補値に基づいて、制御指令値としての噴射開始時期SOIを設定するようにした。この場合、噴射開始時期SOIを変更することで均質度に影響が及ぶことを加味しつつ、均質度向上を可能とする噴射開始時期SOIを適正に把握することができる。
【0120】
噴射開始時期SOIの進角限界(SOImin)と遅角限界(SOImax)との間であるSOI設定範囲内で複数のSOI候補値T1~Tnを定め、それらSOI候補値T1~Tnごとに均質度推定値Xを算出するとともに、それら各均質度推定値Xのうち目標値Xtgよりも大きい均質度推定値Xに対応するSOI候補値であり、かつSOI設定範囲内で最も進角となるSOI候補値に基づいて、制御指令値としての噴射開始時期SOIを設定するようにした。この場合、均質度推定値Xを目標値Xtg以上とし、かつ最進角側となる噴射開始時期SOIが設定されることにより、断熱圧縮での筒内圧上昇による熱効率の向上を図ることができる。
【0121】
SOI候補値T1~Tnごとに算出した均質度推定値Xが全て目標値Xtgよりも小さい場合に、それら均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応するSOI候補値に基づいて、制御指令値としての燃料噴射時期を設定するようにした。この場合、所望とする均質度レベルに達しない状況でも、その状況下で最良の均質度を実現できる。
【0122】
ガスエンジンにおける混合気の均質度に寄与する主要要素には、燃料噴射弁31による燃料噴射直後のガス燃料のペネトレーション(貫徹力)である噴流ペネトレーションと、燃焼室14内においてピストン上面からガス燃料が巻き上がる際の噴流巻き上がりと、燃焼室14内でのガス燃料と空気との混合時間とが含まれると考えられる。また、これら各要素は、少なくとも燃料噴射弁31の燃料噴射時期(噴射開始時期SOI、噴射終了時期EOI)に応じて変動する。この点を考慮し、噴流ペネトレーション推定値Aと巻き上がり推定値Bと混合時間推定値Cとに基づいて均質度推定値Xを算出する構成とした。これにより、均質度推定値Xの算出を適正に行い、ひいては燃料噴射制御の適正化を図ることができる。
【0123】
燃焼室14内における混合気の均質度は、燃料噴射弁31の燃料噴射時期(噴射開始時期SOI、噴射終了時期EOI)や、燃圧Pf、エンジン回転速度NE、エンジン負荷(吸気量)、筒内圧Pcに応じて変動することが考えられる。この点、燃料噴射弁31の燃料噴射時期(噴射開始時期SOI、噴射終了時期EOI)、燃圧Pf、エンジン回転速度NE、エンジン負荷(吸気量)及び筒内圧Pcに基づいて均質度推定値Xを算出する構成にしたため、混合気の均質度を適正に把握することができる。
【0124】
(第5実施形態)
本実施形態では、均質度推定値Xに基づいて、燃料噴射弁31から噴射される燃料の圧力(燃圧)を制御することとしており、その詳細を以下に説明する。なお、均質度推定値Xの算出については第4実施形態の構成に準ずるものとしている。
【0125】
図25に示したフローチャートを用い、均質度推定値Xに基づく燃料噴射制御について説明する。本処理は、ECU80により所定周期で繰り返し実施される。
【0126】
ステップS41では、運転条件やセンサ検出信号等の各種情報を取得する。具体的には、エンジン回転速度NEやエンジン負荷情報(要求トルク等)、燃圧Pf、筒内圧Pcを取得する。
【0127】
ステップS42では、噴射量マップを用い、エンジン回転速度NEや要求トルクに基づいて燃料噴射量Qfを決定する。ステップS43では、噴射開始時期SOIを決定する。この場合、例えば
図23の関係に基づいて、充填効率が所定値以上となる範囲内においてより進角側となる噴射開始時期SOIを決定する。
【0128】
ステップS44では、所定の下限燃圧Pminから上限燃圧Pmaxまでの燃圧設定範囲内において複数の燃圧Pfに対応する噴射終了時期EOIを算出する。すなわち、燃圧設定範囲内において燃圧Pfの複数(n個)の候補値を燃圧候補値P1~Pnとして定め、それら燃圧候補値P1~Pnごとに噴射終了時期EOIを算出する。例えば、下限燃圧Pminは1.0[MPa]、上限燃圧Pmaxは3.0[MPa]である。燃圧候補値P1~Pnの数は任意であるが、例えば燃圧設定範囲(Pmin~Pmax)内で0.1~0.5[MPa]刻みで燃圧候補値P1~Pnが定められているとよい。噴射終了時期EOIは、燃圧Pfが高いほど進角側の値として算出される。
【0129】
なお、燃圧設定範囲内の燃圧候補値P1~Pnごとに、噴射終了時期EOIの遅角限界(最遅角時期)である上限噴射終了時期EOImaxを決定し、その上限噴射終了時期EOImaxよりも進角側となるようにして噴射終了時期EOIが算出されるとよい。上限噴射終了時期EOImaxは、圧縮行程での筒内圧上昇に対して噴射可能な限界から定められた最遅角側の噴射終了時期EOIであり、燃圧Pfが高いほど遅角側に設定されるとよい。上限噴射終了時期EOImaxを燃圧Pfと筒内圧Pcとにより決定することも可能である。
【0130】
ステップS45では、燃圧設定範囲(Pmin~Pmax)内において、燃圧候補値P1~Pnごとに
図17の算出手法により均質度推定値Xを算出する。このとき、燃圧候補値P1~Pnごとに、ステップS43,S44で算出した噴射開始時期SOIと噴射終了時期EOIとを用いて均質度推定値Xを算出する。
【0131】
ステップS46では、ステップS45で算出した複数の均質度推定値X、すなわち複数の燃圧候補値P1~Pnに対応する各均質度推定値Xについて目標値Xtg以上のものがあるか否かを判定する。目標値Xtgは、燃焼室14内の混合気が低均質状態であるか否かを判定するための閾値である。
【0132】
均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていれば、ステップS47に進み、均質度推定値Xが目標値Xtg以上となる燃圧候補値P1~Pnのうち最も低い燃圧Pfを、燃圧Pfの制御指令値として設定する。また、均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていなければ、ステップS48に進み、各均質度推定値Xのうち最大の均質度推定値Xに対応する燃圧Pfを、燃圧Pfの制御指令値として設定する。
【0133】
図26(a),(b)を用いて、燃圧候補値P1~Pnごとの複数の均質度推定値Xから燃圧Pfを設定する処理を補足説明する。
図26(a)では、燃圧候補値P1~Pnごとの均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれている。この場合、目標値Xtg以上の均質度推定値Xに対応する燃圧候補値P1~Pnのうち最も低い燃圧候補値P3が、燃圧Pfの制御指令値として設定される。均質度推定値Xが目標値Xtg以上になる条件でかつ、最も低圧の燃圧Pfが設定されることにより、省エネを図りつつ均質度の向上が可能となる。
【0134】
また、
図26(b)では、燃圧候補値P1~Pnごとの均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていない。すなわち、全ての均質度推定値Xが目標値Xtg未満となっている。この場合、均質度推定値Xが最大となる燃圧候補値Pxが、燃圧Pfの制御指令値として設定される。
【0135】
ステップS49では、ステップS42で決定した燃料噴射量Qfと、ステップS43で決定した噴射開始時期SOIと、ステップS47,S48で設定した燃圧Pfとに基づいて、燃料噴射制御の噴射終了時期EOIを決定する。
【0136】
その後、ステップS30~S35では、
図21で説明したとおり、燃料噴射弁31の実噴射量が目標噴射量に一致しているか否かを判定し、実噴射量が目標噴射量に一致していれば、上記のごとく決定された噴射開始時期SOI及び噴射終了時期EOIに基づいて燃料噴射弁31の燃料噴射を実施し(ステップS35)、実噴射量が目標噴射量に一致していなければ、噴射時期の再設定を行った後に燃料噴射を実施する(ステップS31~S35)。
【0137】
本実施形態では、複数の燃圧候補値P1~Pnを定め、それら燃圧候補値P1~Pnごとに均質度推定値Xを算出するとともに、それら各均質度推定値Xのうち目標値Xtgよりも大きくなる均質度推定値Xに対応する燃圧候補値に基づいて、制御指令値としての燃圧Pfを設定するようにした。これにより、均質性確保を図る上で適正な燃圧Pfを用いて燃料噴射制御を実施することができる。
【0138】
燃圧候補値P1~Pnごとに算出した均質度推定値Xが全て目標値Xtgよりも小さい場合に、それら均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応する燃圧候補値に基づいて、制御指令値としての燃圧Pfを設定するようにした。この場合、所望とする均質度レベルに達しない状況でも、その状況下で最良の均質度を実現できる。
【0139】
(第6実施形態)
本実施形態では、均質度推定値Xに基づいて、燃料噴射弁31の燃料噴射時期と燃圧とを制御することとしており、その詳細を以下に説明する。なお、均質度推定値Xの算出については第4実施形態の構成に準ずるものとしている。
【0140】
図27に示したフローチャートを用い、均質度推定値Xに基づく燃料噴射制御について説明する。本処理は、ECU80により所定周期で繰り返し実施される。
【0141】
ステップS51では、運転条件やセンサ検出信号等の各種情報を取得する。具体的には、エンジン回転速度NEやエンジン負荷情報(要求トルク等)、燃圧Pf、筒内圧Pcを取得する。
【0142】
ステップS52では、噴射量マップを用い、エンジン回転速度NEや要求トルクに基づいて燃料噴射量Qfを決定する。ステップS53では、燃圧Pfを、本システムにおける下限燃圧Pmin(例えば1.0MPa)に設定する。
【0143】
ステップS54では、噴射開始時期SOIの設定が可能となるSOI設定範囲を決定する。このSOI設定範囲は、先に説明した
図22に示すとおり、噴射開始時期SOIの進角限界(最進角時期)である下限噴射開始時期SOIminから、噴射開始時期SOIの遅角限界(最遅角時期)である上限噴射開始時期SOImaxまでの範囲で設定される。
【0144】
ステップS55では、SOI設定範囲(SOImin~SOImax)内において、複数の噴射開始時期SOIに対応する均質度推定値Xを算出する。すなわち、SOI設定範囲内において噴射開始時期SOIの複数(n個)の候補値をSOI候補値T1~Tnとして定め、それらSOI候補値T1~Tnごとに
図17の算出手法により均質度推定値Xを算出する。SOI候補値T1~Tnの数は任意であるが、例えばSOI設定範囲(SOImin~SOImax)内で10[CA]刻みでSOI候補値T1~Tnが定められているとよい。
【0145】
ステップS56では、ステップS55で算出した複数の均質度推定値X、すなわち複数のSOI候補値T1~Tnに対応する各均質度推定値Xについて目標値Xtg以上のものがあるか否かを判定する。目標値Xtgは、燃焼室14内の混合気が低均質状態であるか否かを判定するための閾値である。
【0146】
均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていれば、ステップS57に進み、均質度推定値Xが目標値Xtg以上となるSOI候補値T1~Tnのうち最進角側の噴射開始時期SOIを、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定する。また、今回の均質度推定値Xの算出に用いた燃圧Pfを、燃圧Pfの制御指令値として設定する。
【0147】
また、均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていなければ、ステップS58に進み、今回、均質度推定値Xの算出に用いた燃圧Pfが上限燃圧Pmax(例えば3.0MPa)であるか否かを判定する。そして、Pf<Pmaxであれば、ステップS59に進み、燃圧Pfを所定値だけ増加させる。
【0148】
その後、ステップS55に戻り、増加側に変更した燃圧Pfを用い、SOI設定範囲(SOImin~SOImax)内において複数のSOI候補値T1~Tnごとに均質度推定値Xを算出するとともに、それら各均質度推定値Xについて目標値Xtg以上のものがあるか否かを判定する(ステップS55,S56)。そして、均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていれば、ステップS57に進む一方、均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていなければ、ステップS58に進む。ステップS58~S60によれば、Pf=Pmaxになるまで、燃圧Pfが所定値ずつ増加される。
【0149】
Pf=Pmaxになると、ステップS60に進み、上限燃圧Pmaxを用いて算出した各均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応する噴射開始時期SOIを、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定する。また、上限燃圧Pmaxを、燃圧Pfの制御指令値として設定する。
【0150】
図28(a)~(c)を用いて、ステップS55~S60にて行われる噴射開始時期SOIの設定処理を補足説明する。
図28(a)では、SOI候補値T1~Tnごとの均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれている。この場合、目標値Xtg以上の均質度推定値Xに対応するSOI候補値T1~Tnのうち最進角側のSOI候補値T1(下限噴射開始時期SOImin)が、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定される。
【0151】
また、
図28(b)では、SOI候補値T1~Tnごとの均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれていない。すなわち、全ての均質度推定値Xが目標値Xtg未満となっている。この場合、Pf<Pmaxとなる燃圧範囲内で燃圧Pfが所定値ずつ増加させられながら、SOI設定範囲内における複数のSOI候補値T1~Tnごとに均質度推定値Xが算出されるとともに、それら各均質度推定値Xと目標値Xtgとが大小判定される。燃圧Pfの増加により、均質度推定値Xが大きくなる。その結果、
図28(c)に示ように、均質度推定値Xとして目標値Xtg以上となるものが含まれることになると、その均質度推定値X(Xtg以上の均質度推定値X)に対応するSOI候補値Txが、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定される。
【0152】
その後、ステップS61では、ステップS57,S60で設定した噴射開始時期SOIと、燃料噴射量Qf及び燃圧Pfから算出した噴射期間Tdとに基づいて、燃料噴射制御の噴射終了時期EOIを決定する。
【0153】
その後、ステップS30~S35では、燃料噴射弁31の実噴射量が目標噴射量に一致しているか否かを判定し、実噴射量が目標噴射量に一致していれば、上記のごとく決定された噴射開始時期SOI及び噴射終了時期EOIに基づいて燃料噴射弁31の燃料噴射を実施し(ステップS35)、実噴射量が目標噴射量に一致していなければ、噴射時期の再設定を行った後に燃料噴射を実施する(ステップS31~S35)。なお、ステップS30~S35の処理は、第1実施形態における
図4のステップS15~S20と同様の処理であり、ここでは詳細な説明を割愛する。
【0154】
本実施形態では、SOI候補値T1~Tnごとに算出した均質度推定値Xが全て目標値Xtgよりも小さい場合に、燃圧Pfを高い値に変えて再び均質度推定値Xを算出し、均質度推定値Xが目標値Xtgよりも大きくなる燃料噴射時期と燃圧Pfとを、制御指令値として設定するようにした。この場合、噴射開始時期SOIの調整だけでは所望の均質度レベルを実現できない状況でも、燃圧Pfの調整を付加的に行うことにより、所望の均質度レベルを実現することができる。
【0155】
(第7実施形態)
本実施形態では、燃焼室14内が、混合気の均質度が低下する状態である所定の低均質状態になるか否かを判定し、低均質状態になると判定された場合に、混合気の均質度を高めるべく燃料噴射弁31の燃料噴射時期の制御を実施することとしている。
【0156】
また、混合気の均質度が低下する要因としては、燃焼室14内におけるガス燃料の巻き上がりが不足することと、ガス燃料の噴射後における混合時間が不足することとが考えられ、これら要因のうち巻き上がり不足は、例えば噴射開始時期SOIが早すぎることに起因して生じるのに対し、混合時間の不足は、例えば噴射開始時期SOIが遅すぎることに起因して生じる。つまり、上記2つの要因は互いにトレードオフの関係にあると言える。そこで本実施形態では、低均質状態となる場合の要因に基づいて、燃料噴射時期の制御を行うこととしている。
【0157】
図29に示したフローチャートを用い、均質度推定値Xに基づく燃料噴射制御について説明する。本処理は、ECU80により所定周期で繰り返し実施される。
【0158】
ステップS71では、予め定めたマップやテーブル等を用い、燃料噴射量Qf、噴射期間Td、噴射開始時期SOI、噴射終了時期EOIを決定する。続くステップS72では、
図17の算出手法により均質度推定値Xを算出する。このとき、噴流ペネトレーション推定値Aと巻き上がり推定値Bと混合時間推定値Cとの加算により均質度推定値Xが算出される。
【0159】
ステップS73では、均質度推定値Xが所定の閾値Th1よりも低くなる低均質状態であるか否かを判定する。均質度推定値Xが閾値Th1よりも高く、低均質状態でなければ、ステップS77に進み、ステップS71で算出した噴射条件に基づいて燃料噴射弁31による燃料噴射を実施する。
【0160】
また、低均質状態であれば、ステップS74に進み、その均質度低下の要因が、燃料噴射弁31から噴射されたガス燃料がピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの不足に起因する第1要因であるか、燃料噴射弁31からのガス燃料の噴射後において混合気形成が行われる混合時間の不足に起因する第2要因であるかを判定する。具体的には、巻き上がり推定値Bが所定の閾値Th2よりも小さいか否かを判定し、巻き上がり推定値Bが閾値Th2よりも小さければ、巻き上がりの不足に起因する第1要因であるとし、巻き上がり推定値Bが閾値Th2よりも小さくなければ、混合時間の不足に起因する第2要因であるとする。
【0161】
なお、ステップS74において、巻き上がり推定値Bが閾値Th2よりも小さいか否かを判定する処理に代えて、混合時間推定値Cが閾値Th3よりも小さいか否かを判定する処理を実施することも可能である。この場合、混合時間推定値Cが閾値Th3よりも小さければ、均質度低下の要因が第2要因であるとし、混合時間推定値Cが閾値Th3よりも小さくなければ、均質度低下の要因が第1要因であるとするとよい。
【0162】
均質度低下の要因が第1要因であると判定された場合、ステップS75に進み、燃料噴射時期の遅角化を実施すべく、噴射開始時期SOIと噴射終了時期EOIとをそれぞれ所定値だけ遅角側にシフトさせる。また、均質度低下の要因が第2要因であると判定された場合、ステップS76に進み、燃料噴射時期の進角化を実施すべく、噴射開始時期SOIと噴射終了時期EOIとをそれぞれ所定値だけ進角側にシフトさせる。これにより、混合気の均質度が高められる。
【0163】
その後、ステップS77では、ステップS71,S75,S76で算出した噴射条件に基づいて燃料噴射弁31による燃料噴射を実施する。
【0164】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0165】
燃焼室14内が所定の低均質状態になると判定された場合に、混合気の均質度を高めるべく燃料噴射弁31の燃料噴射時期の制御を実施するようにした。この場合、燃料噴射弁31の燃料噴射時期の制御によれば、燃料噴射弁31から燃焼室14内に噴射されるガス燃料についてピストン上面から巻き上がる際の巻き上がりの度合や混合時間を調整することができ、ひいては混合気の均質度を高めることができる。
【0166】
混合気の均質度低下の要因が第1要因(ガス燃料の巻き上がり不足に起因する要因)であれば、燃料噴射弁31の燃料噴射時期の遅角化を実施し、第2要因(ガス燃料の混合時間の不足に起因する要因)であれば、燃料噴射弁31の燃料噴射時期の進角化を実施するようにした。これにより、均質度低下の要因を考慮しつつ、均質度向上の制御を適正に実施することができる。
【0167】
燃料噴射弁31の燃料噴射時期(噴射開始時期SOI、噴射終了時期EOI)をパラメータとして用いて、巻き上がり推定値Bと混合時間推定値Cとを算出するとともに、それら各推定値B,Cに基づいて均質度推定値Xを算出する構成において、巻き上がり推定値B又は混合時間推定値Cに基づいて、均質度低下の要因が第1要因であるか第2要因であるかを判定するようにした。これにより、混合気の均質度低下の要因が第1要因か第2要因かを適正に把握し、ひいては燃料噴射時期の遅角又は進角を適正に実施することができる。
【0168】
(第4実施形態~第7実施形態の変形例)
・均質度推定値Xの算出手法を、
図17の手法から変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、燃圧Pf、燃料噴射量Qf及び噴射開始時期SOIをパラメータとして噴流ペネトレーション推定値Aを算出する構成としたが、これに代えて、燃圧Pf及び噴射開始時期SOIをパラメータとして噴流ペネトレーション推定値Aを算出する構成にしてもよい。
【0169】
上記実施形態では、燃圧Pf、噴射期間Td、噴射開始時期SOI、筒内流動、エンジン回転速度NE、筒内圧Pcをパラメータとして巻き上がり推定値Bを算出する構成としたが(
図19(a),(b)、
図20(a)~(d))、これらのパラメータのうち少なくとも燃圧Pf、噴射期間Td、噴射開始時期SOI、及び筒内流動をパラメータとして巻き上がり推定値Bを算出する構成としてもよい(
図19(a),(b)、
図20(a),(b))。
【0170】
上記実施形態では、噴射終了時期EOIから点火時期IGまでの角度期間(又は噴射終了時期EOIからTDCまでの角度期間)、及びエンジン回転速度NEに基づいて混合時間推定値Cを算出する構成としたが、これらのパラメータのうち少なくとも噴射終了時期EOIとエンジン回転速度NEをパラメータとして混合時間推定値Cを算出する構成としてもよい。
【0171】
均質度推定値Xを、燃料噴射弁31の燃料噴射時期(SOI、EOI)と燃圧Pfとエンジン回転速度NEとエンジン負荷(Pin)との少なくとも1つを用いて算出することも可能である。
【0172】
また、噴流ペネトレーション推定値A、巻き上がり推定値B及び混合時間推定値Cの加算により均質度推定値Xを算出する構成に代えて、巻き上がり推定値B及び混合時間推定値Cの加算により均質度推定値Xを算出する構成にしてもよい。噴流ペネトレーション推定値A、巻き上がり推定値B及び混合時間推定値Cのうち少なくともいずれか1つを用いて均質度推定値Xを算出する構成にしてもよい。
【0173】
・上記第4実施形態の変形例として、ECU80が、
図30に示す燃料噴射制御を実施する構成としてもよい。
図30のフローチャートは、
図21のフローチャートの一部を変更したものであり、ステップS26~S28に代えて、ステップS81の処理を実施するものとしている。
【0174】
具体的には、ECU80は、
図30のステップS25において、SOI設定範囲(SOImin~SOImax)内で複数の噴射開始時期SOIに対応する均質度推定値Xを算出した後、ステップS81に進み、各均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応する噴射開始時期SOIを、噴射開始時期SOIの制御指令値として設定する。そしてその後、噴射開始時期SOIと噴射期間Tdとに基づいて噴射終了時期EOIを決定する(ステップS29)。
【0175】
上記構成では、SOI設定範囲(設定可能範囲)内で複数のSOI候補値を定め、それらSOI候補値ごとに均質度推定値Xを算出するとともに、それら均質度推定値Xのうち最も大きい均質度推定値Xに対応するSOI候補値に基づいて、制御指令値としての燃料噴射時期を設定するようにした。こうした燃料噴射制御により、燃焼室14内において所望とする均質度を実現することができる。
【0176】
・第7実施形態の
図29において、低均質状態であると判定された場合(ステップS73がYESの場合)に、燃圧Pfを高める制御を実施することも可能である。かかる構成においても、混合気の均質度を高めることができる。
【0177】
・第7実施形態の
図29の処理では、均質度推定値Xを算出し、その均質度推定値Xに基づいて低均質状態であるか否かを判定する構成としたが(ステップS72,S73)、これを以下のように変更してもよい。エンジン運転領域が高回転中負荷領域であるか否かを判定し、高回転中負荷領域であることに基づいて低均質状態であることを判定する構成であってもよい。その他に、エンジン運転状態が過渡状態であることに基づいて、低均質状態であることを判定する構成、又は、燃料容器36内のガス燃料が減少したことに基づいて、低均質状態であることを判定する構成であってもよい。
【0178】
エンジン運転領域が高回転中負荷領域である場合には、ガス燃料と空気との混合時間が短く、噴流巻き上がりが低下することから、低均質状態であると判定される。エンジン運転状態が過渡状態である場合には、吸気量の応答遅れが生じることに起因して噴流巻き上がりの低下が生じ得ることから、低均質状態であると判定される。特に減速過渡の状態では、吸気量の応答遅れによる筒内圧の上昇に起因して噴流巻き上がりの低下が生じると考えられる。また、燃料容器36内のガス燃料が所定以下に減少した場合には、燃圧低下による噴流巻き上がりの低下が生じ得ることから、低均質状態であると判定される。
【0179】
・第4~第7実施形態に適用される燃料噴射弁31を、複数の噴孔62を有する多孔構造とし、かつ各噴孔62がいずれも同じ大きさを有するものとしたが、これを変更してもよい。例えば、各噴孔62が、
図2や
図7、
図9、
図10、
図12で説明した形態を有するものであってもよい。また、燃料噴射弁31が、単一の噴孔62を有する単孔構造であってもよい。
【0180】
・上記実施形態では、エンジン10を、燃料噴射弁31の先端部(キャップ61)に設けられた各噴孔62から放射状に、かつピストン上面に向けてガス燃料が噴射される構成としたが(
図8参照)、これを変更してよい。具体的には、
図31に示すように、燃料噴射弁31の先端部(キャップ61)に設けられた噴孔62からシリンダ壁面に向けてガス燃料が噴射される構成とする。この場合、噴射方向がシリンダ平面視において一方向のみであり、当該方向への燃料噴射により、燃焼室14内においてガス燃料の噴流としてタンブル流が形成されるようになっている。つまり、燃料噴射弁31から噴射されたガス燃料は、シリンダ壁面からピストン上面に至り、さらにピストン上面からの巻き上がりにより縦方向の旋回流を形成するものとなっている。この場合、ピストン上昇によるタンブル流の崩壊で乱流が増加し、ガス燃料の拡散が促進される。また、噴射開始時期の遅角、又は燃圧の上昇により、タンブル流の流れの強さを示すタンブル比を向上させることができる。これにより、タンブル流の崩壊時の乱れを向上させることができ、ガス燃料の拡散が促進されることで均質度の向上を図ることができる。
【0181】
なお、燃料噴射の向きは任意であり、例えば、吸気ポート側から排気ポート側になる向き、排気ポート側から吸気ポート側になる向き、吸気ポート及び排気ポートが並ぶ方向に直交する向きのいずれであってもよい。
【0182】
図31に示す構成のエンジン10であっても、上記同様、ECU80が、燃焼室14内における混合気の均質度を均質度推定値Xとして算出し、その均質度推定値Xに基づいて、燃料噴射弁31の燃料噴射時期及び燃圧の少なくともいずれかを制御するものであるとよい(第4~第6実施形態参照)。この場合特に、エンジン圧縮行程において燃料噴射弁31の噴孔62からシリンダ壁面に向けて噴射されるガス燃料について、シリンダ壁面を経てピストン上面から巻き上がる際の噴流巻き上がりの度合を示す巻き上がり推定値Bが算出される。そして、その巻き上がり推定値Bを含む均質度推定値Xが算出されるともに、均質度推定値Xに基づく燃料噴射制御が行われる。
【0183】
また、
図31に示す構成のエンジン10において、燃焼室14内が所定の低均質状態になるか否かを判定し、低均質状態になると判定された場合に、混合気の均質度を高めるべく燃料噴射弁31の燃料噴射時期の制御を実施するものであるとよい(第7実施形態参照)。
【0184】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0185】
10…エンジン、13…ピストン、14…燃焼室、15…吸気ポート、16…排気ポート、31…燃料噴射弁、32…点火プラグ、61…キャップ、62…噴孔、80…ECU。