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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182973
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】車両のブレーキ制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20221201BHJP
   B60T 7/14 20060101ALI20221201BHJP
   B60T 7/02 20060101ALI20221201BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B60T7/12 D
B60T7/14
B60T7/02 A
B60T13/74 G
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001427
(22)【出願日】2022-01-07
(62)【分割の表示】P 2021089269の分割
【原出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】高濱 健一
【テーマコード(参考)】
3D048
3D124
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB01
3D048BB12
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH51
3D048HH66
3D048HH67
3D048HH68
3D048HH70
3D048HH72
3D048QQ04
3D048RR02
3D048RR11
3D048RR31
3D124AA16
3D124BB01
3D124BB02
3D124BB12
3D124CC32
3D124DD54
3D124DD56
3D246DA01
3D246DA02
3D246EA02
3D246EA05
3D246EA11
3D246GB28
3D246GC16
3D246HA02A
3D246HA08A
3D246HA51A
3D246HA52A
3D246HA57A
3D246HA93A
3D246LA13Z
3D246MA11
(57)【要約】
【課題】運転者の意図しない電動ブレーキ装置の作動を防ぎつつ、緊急時には電動ブレーキ装置を確実に作動させることができる車両のブレーキ制御システムを提供する。
【解決手段】車両のブレーキ制御システム1は、車両の乗員が操作可能な位置に設けられ、電気信号によって制動力を調整可能なEPB30の作動および解除を切り換えるための操作スイッチ31と、操作スイッチ31の操作状態に応じてEPB30の制動力を制御可能なBCU10と、を備える。BCU10は、車両の運転者の制動意図と車両の減速度合とに基づき、運転者による制動操作が不可能であると判定した場合に、操作スイッチ31が操作されることにより、EPB30の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員が操作可能な位置に設けられ、電気信号によって制動力を調整可能な電動ブレーキ装置の作動および解除を切り換えるための操作スイッチと、
前記操作スイッチの操作状態に応じて前記電動ブレーキ装置の制動力を制御可能な制御装置と、
を備えた車両のブレーキ制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記車両の運転者の制動意図と前記車両の減速度合とに基づき、前記運転者による制動操作が不可能であると判定した場合に、前記操作スイッチが操作されることにより、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行うように構成されていることを特徴とする車両のブレーキ制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記制動意図に対する前記車両の減速度合いが設定値よりも小さい場合に前記運転者による制動操作が不可能であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項3】
前記操作スイッチは、通常時、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させるための作動操作と、前記電動ブレーキ装置の制動力を停止または減少させるための解除操作とを行うことが可能であり、
前記制御装置は、前記運転者による制動操作が不可能な緊急時であると判定した場合、前記操作スイッチで前記解除操作が行われても、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項4】
前記制御装置で前記運転者による制動操作が不可能な緊急時であると判定された場合に、前記車両の乗員に対して、前記解除操作を促すことが可能な報知装置を備えていることを特徴とする請求項3に記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記緊急ブレーキ制御を開始した後に、前記運転者による制動操作が可能であると判定し、かつ、前記操作スイッチで前記解除操作が行われた場合、前記緊急ブレーキ制御を停止するように構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記操作スイッチで前記解除操作が行われて、前記緊急ブレーキ制御を停止する際、前記制動意図に応じて増減する油圧によって制動力を調整可能な油圧ブレーキ装置の前記制動意図に対応した目標制動力と前記油圧ブレーキ装置の実際の制動力との差分に応じて、前記電動ブレーキ装置による制動力を増減させるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記電動ブレーキ装置による制動力を増減させて前記差分が所定値未満になった場合に前記電動ブレーキ装置による制動力を停止させるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項8】
前記操作スイッチは、中立位置から車室内側および車室外側に移動可能に構成されており、
前記作動操作は、前記操作スイッチを前記中立位置から前記車室内側に移動させる操作であり、
前記解除操作は、前記操作スイッチを前記中立位置から前記車室外側に移動させる操作であることを特徴とする請求項3~7のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項9】
車両の乗員が操作可能な位置に設けられ、電気信号によって制動力を調整可能な電動ブレーキ装置の作動および解除を切り換えるための操作スイッチと、
前記操作スイッチの操作状態に応じて前記電動ブレーキ装置の制動力を制御可能な制御装置と、
を備えた車両のブレーキ制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記車両の運転者による制動操作が不可能であると判定した場合に、前記操作スイッチが操作されることにより、前記電動ブレーキ装置の作動条件を変更して、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行うように構成されていることを特徴とする車両のブレーキ制御システム。
【請求項10】
車両の乗員が操作可能な位置に設けられ、電気信号によって制動力を調整可能な電動ブレーキ装置の作動および解除を切り換えるための操作スイッチと、
前記操作スイッチの操作状態に応じて前記電動ブレーキ装置の制動力を制御可能な制御装置と、を備え、
前記操作スイッチは、通常時、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させるための作動操作と、前記電動ブレーキ装置の制動力を停止または減少させるための解除操作とを行うことが可能であり、
前記制御装置は、前記車両の運転者による制動操作が不可能な緊急時であると判定した場合に、前記操作スイッチが操作されることにより、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行うように構成されている車両のブレーキ制御システムにおいて、
前記制御装置で前記運転者による制動操作が不可能な緊急時であると判定された場合に、前記車両の乗員に対して、前記解除操作を促すことが可能な報知装置を備えていることを特徴とする車両のブレーキ制御システム。
【請求項11】
車両の乗員が操作可能な位置に設けられ、電気信号によって制動力を調整可能な電動ブレーキ装置の作動および解除を切り換えるための操作スイッチと、
前記操作スイッチの操作状態に応じて前記電動ブレーキ装置の制動力を制御可能な制御装置と、を備え、
前記操作スイッチは、通常時、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させるための作動操作と、前記電動ブレーキ装置の制動力を停止または減少させるための解除操作とを行うことが可能であり、
前記制御装置は、前記車両の運転者による制動操作が不可能な緊急時であると判定した場合に、前記操作スイッチが操作されることにより、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行うように構成されている車両のブレーキ制御システムにおいて、
前記制御装置は、前記緊急ブレーキ制御を開始した後に、前記運転者による制動操作が可能であると判定し、かつ、前記操作スイッチで前記解除操作が行われた場合、前記緊急ブレーキ制御を停止するように構成されていることを特徴とする車両のブレーキ制御システム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記操作スイッチで前記解除操作が行われて、前記緊急ブレーキ制御を停止する際、前記制動意図に応じて増減する油圧によって制動力を調整可能な油圧ブレーキ装置の前記制動意図に対応した目標制動力と前記油圧ブレーキ装置の実際の制動力との差分に応じて、前記電動ブレーキ装置による制動力を増減させるように構成されていることを特徴とする請求項11に記載の車両のブレーキ制御システム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記電動ブレーキ装置による制動力を増減させて前記差分が所定値未満になった場合に前記電動ブレーキ装置による制動力を停止させるように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の車両のブレーキ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に用いれる制動装置として、電気信号によって制動力を調整可能な電動ブレーキ装置が知られている。例えば、電動ブレーキ装置の1つである電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake:以下「EPB」とする)は、電気モータの作動によって車両の車輪に制動力を与える。EPBは、操作スイッチの操作に応じて作動および解除が切り換えられる。すなわち、車両の乗員が操作スイッチで作動操作を行うと、EPBは車輪に制動力を与える作動状態となる。そして、乗員が操作スイッチで解除操作を行うと、EPBの制動力が停止されて解除状態となる。
【0003】
EPBの制御に関する従来技術として、例えば、特許文献1には、車両の走行中に操作スイッチの作動操作あるいは解除操作が行われたとき、EPBが解除状態にあれば、いずれの操作にかかわらずEPBを緊急作動させる内容が開示されている。このようなEPBの制御により、緊急事態の発生時、確実にEPBを作動させて制動をかけることができるようになる。特許文献1によるEPBの制御において、EPBの緊急作動は、操作スイッチでの操作が行われなくなると解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-199889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、EPBが搭載された車両では、EPBの操作スイッチに隣接して、車両の他の機能を作動させるための操作が行われる他の操作スイッチが設置されている場合がある。この場合、他の操作スイッチを操作するつもりの運転者が、誤ってEPBの操作スイッチを解除操作してしまう可能性がある。
【0006】
前述した引用文献1によるEPBの制御において、上記のようなEPBの操作スイッチの誤操作が行われた場合、車両が走行中かつEPBが解除状態にあれば、EPBが緊急作動することになる。つまり、運転者がEPBの作動を意図していないにも関わらず、EPBが作動してしまうことになり、運転者に違和感や不安を与える虞がある。しかも、EPBが緊急作動した後に、運転者がEPBの作動を解除すべく操作スイッチの解除操作を継続しても、EPBの緊急作動を解除することができないため、運転者の不安を増大させてしまう。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、運転者の意図しない電動ブレーキ装置の作動を防ぎつつ、緊急時には電動ブレーキ装置を確実に作動させることができる車両のブレーキ制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため本発明の一態様は、車両の乗員が操作可能な位置に設けられ、電気信号によって制動力を調整可能な電動ブレーキ装置の作動および解除を切り換えるための操作スイッチと、前記操作スイッチの操作状態に応じて前記電動ブレーキ装置の制動力を制御可能な制御装置と、を備えた車両のブレーキ制御システムを提供する。この車両のブレーキ制御システムにおける前記制御装置は、前記車両の運転者の制動意図と前記車両の減速度合とに基づき、前記運転者による制動操作が不可能であると判定した場合に、前記操作スイッチが操作されることにより、前記電動ブレーキ装置の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行うように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る車両のブレーキ制御システムによれば、運転者の制動意図と車両の減速度合とに基づいて運転者による制動操作の可否が判定されることで、運転者の意図しない電動ブレーキ装置の作動を防ぎつつ、運転者による制動操作が不可能な緊急時には、操作スイッチが操作されることにより、電動ブレーキ装置を確実に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る車両のブレーキ制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】上記実施形態によるブレーキ制御システムが適用される車両の要部構成を示す概略図である。
図3】上記実施形態におけるEPBの操作スイッチの一例を示す斜視図である。
図4】上記実施形態における監視装置の一例を示す概念図である。
図5】上記実施形態における走行中のEPB制御の一例を示すフローチャートである。
図6】上記実施形態における走行中のEPB制御の変形例(前半)を示すフローチャートである。
図7】上記実施形態における走行中のEPB制御の変形例(後半)を示すフローチャートである。
図8】上記実施形態における操作ボタンの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両のブレーキ制御システムの構成を示すブロック図である。また、図2は、図1のブレーキ制御システムが適用される車両の要部構成を示す概略図である。
【0012】
図1および図2に示すように、本実施形態によるブレーキ制御システム1は、ブレーキ制御ユニット(Brake Control Unit:以下「BCU」とする)10と、動力制御ユニット(Power Control Unit:以下「PCU」とする)50とを備えており、BCU10およびPCU50が連動して車両100の走行状態を制御している。本実施形態では、BCU10により、油圧ブレーキ20の制動力と電動パーキングブレーキ(EPB)30の制動力とがそれぞれ制御されている。また、PCU50により、内燃機関であるエンジン60の動力と、電動モータである第1モータ(Motor Generator Unit:以下「MGU」とする)61および第2モータ(Integrated Starter Generator Unit:以下「IGS」とする)62の動力とがそれぞれ制御されている。なお、本実施形態においては、BCU10が本発明の「制御装置」に相当し、油圧ブレーキ20が本発明の「油圧ブレーキ装置」に相当し、EPB30が本発明の「電動ブレーキ装置」に相当する。
【0013】
油圧ブレーキ20は、油圧の増減によって制動力を調整可能である。油圧ブレーキ20は、ブレーキ制御システム1が適用される車両100の前輪101と後輪102とにそれぞれ配置されている(図2を参照)。油圧ブレーキ20の油圧は、ブレーキペダル21の踏込み量に応じて増減する。ブレーキペダル21は、車両100の運転者が踏込み可能な位置に設けられている。制動意図検出装置22は、運転者の制動意図を示す情報として、ブレーキペダル21の踏込み量およびペダル位置を検出可能である。制動意図検出装置22の検出結果はBCU10に伝えられる。BCU10は、制動意図検出装置22で検出されたブレーキペダル21の踏込み量およびペダル位置に従って、油圧調整部11により、油圧ブレーキ20の油圧を調整する。これにより、油圧ブレーキ20は、前輪101および後輪102に制動力をそれぞれ付与する。なお、本実施形態では、制動意図検出装置22が本発明の「検出装置」に相当する。
【0014】
EPB30は、電気信号によって制動力を調整可能であり、車両100の後輪102に配置されている(図2を参照)。EPB30は、操作スイッチ31の操作状態に応じて、BCU10により作動および解除が切り換えられる(図1を参照)。操作スイッチ31は、車両100の乗員(運転者および助手席等の乗員を含む)が操作可能な位置に設けられている。操作スイッチ31は、その操作状態を示す信号をBCU10に出力する。
【0015】
具体的に、EPB30は、BCU10のEPB駆動部12から出力される電気信号に従って、図示しないアクチュエータ等の電動機が作動することにより、摺動部材を後輪102に押し当てて制動力を発生させる電動機械式のパーキングブレーキとすることが可能である。EPB30による制動力は、上記油圧ブレーキ20による制動力とは独立して発生するように構成されている。つまり、EPB30は、油圧ブレーキ20とは別系統で制動力を発生し、油圧ブレーキ20が故障等により作動しなくなった場合でも、EPB30単独で後輪102に制動をかけることができるようになっている。
【0016】
ここで、EPB30の操作スイッチ31について詳しく説明する。
図3は、操作スイッチ31の一例を示す斜視図である。図3において、操作スイッチ31は、例えば、車両100のセンターコンソール103等の上面に設けられている。操作スイッチ31は、レバー部31A、インジケータ部31Bおよびボタン部31Cを有している。
【0017】
レバー部31Aは、図示しない支軸を中心にして上下方向A1,A2に回動可能に構成されている。操作スイッチ31は、EPB30の作動および解除を切り換えるための操作として、レバー部31Aを中立位置(図3の一点鎖線)から車室内側に移動させる作動操作と、レバー部31Aを中立位置から車室外側に移動させる解除操作とを行うことが可能である。つまり、操作スイッチ31によるEPB30の作動操作は、レバー部31Aを上方(車室内側の方向)A1に引き上げる操作となる。また、操作スイッチ31によるEPB30の解除操作は、レバー部31Aを下方(車室外側の方向)A2に押し下げる操作となる。このようなEPB30の操作スイッチ31における作動操作および解除操作の各方向は、機械式のパーキングブレーキ(いわゆるサイドブレーキ)における作動操作および解除操作の各方向と対応するように設定されている。このように操作方向を設定することにより、運転者がEPB30の操作感覚を理解しやすくなる。
【0018】
インジケータ部31Bは、例えば、EPB30が作動状態にあるときに点灯し、EPB30が解除状態にあるときに消灯する。ボタン部31Cは、EPB30を利用したオートブレーキホールド機能のオンオフを切り換えるための操作が行われる。オートブレーキホールド機能は、運転者がブレーキペダル21を踏んで油圧ブレーキ20の制動力により車両100を停止させたときに、所定の条件が満たされることでEPB30を自動的に作動させる機能である。これにより、運転者がブレーキペダル21から足を離したとしても車両100の停止状態が維持されるようになる。操作スイッチ31からBCU10には、レバー部31Aおよびボタン部31Cそれぞれの操作状態を示す信号が出力される。
【0019】
上記のような操作スイッチ31からの出力信号を受けるBCU10には、車両100の運転者の状態を監視する監視装置41が接続されている。図4は、監視装置41の一例を示す概念図である。図4に示すように、監視装置41は、運転席前方のダッシュボード上やフロントガラスなどに設置されたカメラ等の撮像デバイス41Aを有している。撮像デバイス41Aは、運転席に着座している乗員(運転者)を撮像し、該運転者の画像情報を生成する。撮像デバイス41Aで生成された運転者の画像情報は、監視装置41の監視情報としてBCU10に出力される。
【0020】
また、BCU10には、車両100の速度を検出する車速検出装置42も接続されている。車速検出装置42は、例えば、車輪が所定角分回転するごとにパルスが発生する車速パルスに基づいて、車両100の速度を算出する。車速検出装置42で算出された車両100の速度はBCU10に伝えられる。
【0021】
さらに、BCU10には、運転者の加速意図を示す情報として、アクセルペダル43の踏込み量、ペダル位置およびアクセル開度を検出可能な加速意図検出装置44も接続されている。アクセルペダル43は、車両100の運転者が踏込み可能な位置に設けられている。加速意図検出装置44の検出結果はBCU10に伝えられるとともに、BCU10を介してPCU50にも伝えられる。
【0022】
BCU10では、監視装置41から出力された監視情報(運転者の画像情報)と、制動意図検出装置22で検出された運転者の制動意図を示す情報と、車速検出装置42で検出された車両100の速度情報とが、判定部13に与えられる。判定部13は、これらの情報を基に、運転者による制動操作が可能か否かを判定する。ここで、運転者による制動操作が不可能である状態とは、運転者が気絶、睡眠、朦朧、死亡、足が動かなくなるなどして、運転者がブレーキペダル21による制動操作を行うことが事実上困難な状態、或いは、油圧ブレーキ20の故障等により、運転者がブレーキペダル21による制動操作を行ってもブレーキペダル21の変位に応じた油圧の変化が発生せず、油圧ブレーキ20の制動力が前輪101および後輪102に作用しない状態を意味する。
【0023】
具体的に、判定部13は、監視装置41により取得された運転者の画像情報を基に、該運転者の頭部の状態と眼の状態とを識別する。頭部の状態は、例えば、頭部姿勢や頭部位置などとしてもよく、眼の状態は、例えば、開眼度などとしてもよい。そして、判定部13は、識別した頭部および眼の各状態に応じて、当該運転者による制動操作が可能か否かを判定する。また、判定部13は、制動意図検出装置22で検出されたブレーキペダル21の踏込み量およびペダル位置を基に運転者の制動意図を定量化するとともに、車速検出装置42で検出された速度の変化を基に車両100の減速度合いを求める。そして、判定部13は、運転者の制動意図に対する車両100の減速度合いが予め決めておいた設定値よりも小さい場合に、油圧ブレーキ20の故障等に起因して、運転者による制動操作が不可能な状態にあることを判定する。判定部13の判定結果は、EPB駆動部12に伝えられるとともに、BCU10からPCU50にも伝えられる。
【0024】
なお、本実施形態では、判定部13がBCU10内に設けられている一例を示したが、監視装置41が判定部13に相当する機能を備えていてもよい。この場合、監視装置41は、運転者の頭部および眼の各状態に応じて、当該運転者による制動操作が可能か否かを判定した結果を含めた監視情報をBCU10に出力する。また、本実施形態における判定部13に相当する機能が、車両の外部(例えば、複数の車両の運行を一括して管理する運行管理センターに設置されたサーバ等)に設けられていてもよい。この場合、車両100の監視装置41で取得された運転者の画像情報が外部のサーバ等に送信される。外部のサーバ等(または運行管理者)は、管理下の各車両から送られてくる運転者の画像情報を基に、当該運転者による制動操作が可能か否かを判定し、その判定結果を含む監視情報を該当車両のBCU10に送信する。つまり、本発明における制御装置が「監視装置から出力される監視情報を基に前記運転者による制動操作が不可能であると判定した場合」は、制御装置に接続された監視装置や車両外部のサーバ等から「運転者による制動操作が可能か否かを判定した結果」を受信し、当該受信情報を用いて制御装置が「運転者による制動操作が不可能である」ことを判断した場合を含む。
【0025】
EPB駆動部12は、判定部13で運転者による制動操作が可能であると判定された場合、緊急事態が発生していない通常時の作動条件に従って、EPB30の作動および解除を制御する。すなわち、EPB駆動部12は、操作スイッチ31で作動操作が行われることにより、EPB30の制動力を発生または増加させる制動作動信号をEPB30に与えるとともに、操作スイッチ31で解除操作が行われることにより、EPB30の制動力を停止または減少させる制動解除信号をEPB30に与える。
【0026】
一方、EPB駆動部12は、判定部13で運転者による制動操作が不可能であると判定された場合、操作スイッチ31で何等かの操作が行われることにより、EPB30の制動力を発生または増加させる緊急ブレーキ制御を行う。この緊急ブレーキ制御は、具体的には、EPB30の制動力を発生または増加させるための制動作動信号がEPB駆動部12からEPB30に与えられる。つまり、EPB駆動部12は、運転者による制動操作が不可能な緊急事態の発生時、EPB30の作動条件を変更し、操作スイッチ31のレバー部31Aで作動操作が行われるだけでなく、解除操作が行われても、或いは、オートブレーキホールド機能用のボタン部31Cが操作されても、上記制動作動信号をEPB30に与える。緊急時のEPB30による制動力の大きさは、BCU10の制動力演算部14で演算される。なお、緊急時のBCU10によるEPB30の制御の詳細については後述する。
【0027】
さらに、BCU10には、判定部13で運転者による制動操作が不可能であると判定された場合に、車両100の乗員に対して、操作スイッチ31の操作を促すことが可能な報知装置45が接続されいる。報知装置45は、例えば、車両100に搭載されている図示しないスピーカを利用した音声による報知や、車載ディスプレイを利用した文字・図形の表示による報知、操作スイッチ31のインジケータ部31Bを点滅させることによる報知などを行う。
【0028】
PCU50は、上記BCU10によるブレーキ制御と連動して、エンジン60、MGU(第1モータ)61およびISG(第2モータ)62の各動力を制御する。エンジン60およびMGU61は、図2に示すように、駆動軸としてのドライブシャフト70に動力を伝達する駆動源を構成している。エンジン60は、図示しないスタータによってクランクシャフト60Aに回転力を与えることで始動される。エンジン60のクランクシャフト60Aには、ベルト等を介してISG62が連結されている。
【0029】
ISG62は、図示しないバッテリに接続されており、該バッテリからの電力が供給されて回転することでエンジン60を回転駆動させる電動機として機能する。また、ISG62は、クランクシャフト60Aから入力された回転力を電力に変換する発電機としても機能する。ISG62は、電動機として機能することで、アイドリングストップ機能により停止状態にあるエンジン60を再始動させる。エンジン60のクランクシャフト60Aは、トランスミッション71を介してドライブシャフト70に連結されている。
【0030】
トランスミッション71は、エンジン60から出力された回転を変速し、ドライブシャフト70を介して前輪101を駆動するように構成されている。トランスミッション71は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の変速機構71Aと、ノーマルクローズタイプの乾式クラッチによって構成されるクラッチ71Bと、減速機としてのディファレンシャル機構71Cとを有している。クラッチ71Bは、変速機構71Aとエンジン60との間の動力伝達経路に設けられており、該動力伝達経路を切断または接続する。トランスミッション71は、PCU50に接続されたTCM(Transmission Control Module)72により制御される。具体的には、TCM72により制御された図示しないアクチュエータにより、変速機構71Aにおける変速段の切換えが行われるとともに、クラッチ71Bの切断および接続が行われる。ディファレンシャル機構71Cは、変速機構71Aによって出力された動力をドライブシャフト70に伝達するようになっている。
【0031】
MGU61は、ディファレンシャル機構71Cに対して、チェーン等の動力伝達機構73を介して連結されている。MGU61は、ディファレンシャル機構71Cを介してドライブシャフト70に接続されており、電動機として機能する。このように、車両100は、エンジン60とMGU61の両方の動力を車両駆動に用いることが可能なパラレルハイブリッドシステムを構成している。また、MGU61は、発電機としても機能し、車両100の走行によって発電を行うようになっている。
【0032】
PCU50では、加速意図検出装置44で検出されBCU10を介して伝えられるアクセルペダル43の踏込み量、ペダル位置およびアクセル開度に関する情報に基づいて、エンジン駆動部51によりエンジン60の動力が制御され、MGU駆動部52によりMGU61の動力が制御され、ISG駆動部53によりISG62の動力が制御される。
【0033】
次に、本実施形態によるブレーキ制御システム1の動作について説明する。
上記のような構成のブレーキ制御システム1では、車両100の図示しないイグニッションスイッチがオンされることで、BCU10およびPCU50等の各部が起動され、車両100の走行機能がオン状態になる。これにより、監視装置41による運転者の状態の監視が開始されるとともに、制動意図検出装置22、車速検出装置42および加速意図検出装置44のそれぞれによる検出動作が開始される。以下、EPB30の制動力の制御に関する内容を中心にブレーキ制御システム1の動作を詳しく説明する。
【0034】
EPB30は、通常、車両100の停止状態を維持するために使用される。すなわち、車両100が停止した状態で、運転者が操作スイッチ31のレバー部31Aを引き上げて作動操作を行うことにより、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動作動信号が与えられ、EPB30が作動する。これにより、EPB30の制動力が後輪102に作用して車両100の停止状態が維持される。そして、車両100の走行を開始する際には、運転者が操作スイッチ31のレバー部31Aを押し下げて解除操作を行うことにより、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動解除信号が与えられ、EPB30が解除される。これにより、後輪102に作用していたEPB30の制動力が停止され、アクセルペダル43およびブレーキペダル21の操作に応じた車両100の走行が開始される。車両100の走行中も、EPB30の制動力は、操作スイッチ31の操作状態に応じてBCU10により制御可能である。
【0035】
図5は、車両100の走行中におけるBCU10によるEPB制御の一例を示すフローチャートである。車両100の走行が開始されると、まず、図5のステップS10において、監視装置41の撮像デバイス41Aで撮像される運転者の画像情報と、制動意図検出装置22で検出される運転者の制動意図を示す情報と、車速検出装置42で検出される車両100の速度情報とが、BCU10の判定部13に伝えられる。
【0036】
次のステップS20では、BCU10の判定部13において、運転者による制動操作が可能か否かの判定が行われる。具体的に、判定部13では、監視装置41により取得された運転者の画像情報に基づき、運転者の頭部の状態(頭部姿勢、頭部位置など)と眼の状態(開眼度など)とが識別される。その際、運転者の画像情報に対して、運転者の頭部および眼の各状態を識別するために必要とされない情報を低減(間引く)する画像処理を施して識別精度を高めてもよい。そして、識別された運転者の頭部および眼の各状態が、予め定めた条件に該当する場合に、運転者による制動操作が可能であることが判定され、上記条件に該当しない場合には、運転者による制動操作が不可能であることが判定される。また、判定部13では、運転者の画像情報に基づく判定結果が制動操作可能であっても、制動意図検出装置22で検出される運転者の制動意図に対する車両100の減速度合いが予め定めた設定値よりも小さい場合には、油圧ブレーキ20の故障等に起因して、運転者による制動操作が不可能な状態にあることが判定される。
【0037】
上記ステップS20で運転者による制動操作が可能であることが判定された場合(YES)、ステップS10に戻る。一方、運転者による制動操作が不可能であることが判定された場合には(NO)、ステップS30に進む。なお、運転者による制動操作が可能な状態において、EPB30の作動および解除は、通常時のままの作動条件で制御される。すなわち、車両100の走行中、運転者が操作スイッチ31で作動操作を行うことにより、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動作動信号が与えられ、EPB30が作動する。また、運転者が操作スイッチ31で解除操作を行うことにより、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動解除信号が与えられ、EPB30が解除される。
【0038】
ステップS30では、判定部13での運転者による制動操作が不可能との判定結果を受けて、BCU10のEPB駆動部12により、EPB30の作動条件が緊急時のものに変更されて緊急ブレーキ制御が開始される。すなわち、操作スイッチ31で何等かの操作(レバー部31Aの作動操作もしくは解除操作、またはボタン部31Cの操作)が行われることにより、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動作動信号が与えられてEPB30が作動するように、EPB30の作動条件が変更される。
【0039】
次のステップS40では、報知装置45により、車両100の乗員に対して、操作スイッチ31の操作を促す報知が行われる。報知装置45による報知の具体例としては、音声や文字などにより「操作スイッチを操作してください」、「操作スイッチのレバー部を引き上げてください」、「操作スイッチのレバー部を押し下げてください」、「操作スイッチのレバー部を引き上げるか押し下げてください」、「操作スイッチのボタン部を押してください」などのメッセージを出力するとともに、操作スイッチ31のインジケータ部31Bを高速点滅させるようにすることが可能である。
【0040】
続くステップS50では、BCU10において、操作スイッチ31で操作が行われたか否かの判定が行われる。操作スイッチ31で操作が行われた場合には(YES)、次のステップS60に進む。操作スイッチ31で操作が行われていない場合には(NO)、ステップS40に戻って、操作スイッチ31の操作を促す報知が繰り返される。
【0041】
ステップS60では、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動作動信号が与えられ、EPB30が作動する。EPB30による制動力が車両100の後輪102に作用することで、車両100は減速されるようになる。そして、ステップS70では、BCU10において、車速検出装置42で検出される車速に基づき車両100が停止したかの判定が行われる。車両100の停止が判定されるまでの間(NO)、EPB駆動部12からEPB30に制動作動信号が継続して与えられて緊急ブレーキ制御が維持される。車両100の停止が判定されると(YES)、次のステップS80に進む。
【0042】
ステップS80では、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動解除信号が与えられ、EPB30が解除される。そして、ステップS90では、前述したステップS30で緊急時に対応させて変更されたEPB30の作動条件が、通常時に対応した元の条件に戻される。
【0043】
上記のようなステップS10~S90の一連の処理がBCU10により実行されることによって、本実施形態のブレーキ制御システム1は、車両100の走行中、運転者による制動操作が不可能になるような緊急事態が発生した場合に、操作スイッチ31で何等かの操作が行われることで、EPB30を確実に作動させることができる。特に、本実施形態では、運転者による制動操作が不可能と判定され、かつ、操作スイッチ31で解除操作が行われた場合であっても、制動作動信号がEPB30に与えられるようになっているので、緊急時にEPB30をより確実に作動させることが可能である。一方、運転者による制動操作が可能な状態では、EPB30の作動条件が通常時のままであるので、運転者が、他の操作スイッチを操作するつもりで誤ってEPB30の操作スイッチ31を解除操作したとしても、EPB30が作動してしまうことがない。つまり、運転者がEPB30の作動を意図していないにも関わらず、EPB30が作動してしまうことがないため、運転者に違和感や不安を与えるような状況を回避することができる。
【0044】
また、本実施形態によるブレーキ制御システム1では、運転者による制動操作が不可能であると判定された場合に、車両100の乗員に対して、操作スイッチ31の作動操作だけでなく解除操作も促すような報知が行われる。これにより、車両100の運転操作に慣れていない運転者や助手席の乗員でも、緊急時にEPB30を作動させやすくなる。
【0045】
さらに、本実施形態によるブレーキ制御システム1では、緊急時、車両100が停止するまで、緊急ブレーキ制御が継続して行われる。これにより、運転者による制動操作が不可能な状態においても、当該運転者が乗る車両100と、その前方の車両や障害物とが接触してしまうような事態の発生を抑制することができる。
【0046】
加えて、本実施形態によるブレーキ制御システム1では、運転者の制動意図に対する車両100の減速度合いが設定値よりも小さい場合にも、運転者による制動操作が不可能であることが判定される。これにより、油圧ブレーキ20が故障等により作動しなくなった場合においても、EPB30を確実に作動させることができる。
【0047】
また、本実施形態によるブレーキ制御システム1では、監視装置41の撮像デバイス41Aで撮像される画像情報を基に、運転者の頭部の状態と眼の状態とが識別され、該識別結果に応じて運転者による制動操作が可能か否かの判定が行われる。これにより、運転者の状態を正確に判定できるので、車両100の走行中、運転者の意図に基づきEPB30を作動させやすくなる。
【0048】
次に、上述した車両100の走行中におけるBCU10によるEPB制御の変形例について説明する。図6および図7は、上記変形例を示すフローチャートである。ここでは、前述した図5のステップS20において、運転者による制動操作が不可能であることが判定された後のBCU10によるEPB制御の変形例を説明する。
【0049】
まず、図6のステップS100~S120では、前述の図5に示したステップS30~S50と同様にして、EPB30の作動条件が緊急時のものに変更された後に、乗員に対して操作スイッチ31の操作を促す報知が行われ、操作スイッチ31で操作が行われた否かが判定される。そして、操作スイッチ31で操作が行われていないことが判定された場合には(ステップS120のNO)、次のステップS130に進み、操作スイッチ31で操作が行われたことが判定された場合には(ステップS120のYES)、ステップS140に移る。
【0050】
ステップS130では、BCU10において、運転者による制動操作が不可能であることが判定されてから所定時間が経過したか、または、車両100の前方に障害物が有るかどうかの判定が行われる。所定時間が経過しても操作スイッチ31の操作が行われていない場合や、車両100の前方に障害物が有る場合には、車両100の安全を確保するために、操作スイッチ31の操作を待たずに車両100を緊急停止させるのが望ましい。このような緊急停止を実現するためにステップS130の判定が行われる。所定時間が経過しておらず、かつ、前方に障害物が無い場合には(NO)、ステップS110に戻り、乗員に対して操作スイッチ31の操作を促す報知が繰り返される。一方、所定時間が経過した、または、前方に障害物がある場合には(YES)、次のステップS140に進む。
【0051】
ステップS140では、前述した図5のステップS60と同様にして、BCU10のEPB駆動部12からEPB30に制動作動信号が与えられ、EPB30が作動する。EPB30の制動力が車両100の後輪102に作用することで、車両100は減速されるようになる。したがって、変形例のEPB制御によれば、運転者による制動操作が不可能であることが判定されてから所定時間が経過しても操作スイッチ31の操作が行われない場合や、車両100の前方に障害物が有る場合に、車両100を緊急停止させるべくEPB30を作動させることが可能になる。
【0052】
続いて、図7のステップS150では、前述した図5のステップS70と同様にして、BCU10により、車速検出装置42で検出される車速に基づき車両100が停止したかの判定が行われる。車両100が停止したことが判定された場合には(YES)、前述した図5のステップS80,S90と同様にして、ステップS160で、EPB駆動部12からEPB30に制動解除信号が与えられてEPB30が解除され、ステップS170で、EPB30の作動条件が通常時のものに戻される。一方、車両100が停止していないことが判定された場合には(ステップS150のNO)、ステップS180に進む。
【0053】
ステップS180では、前述した図5のステップS20と同様にして、BCU10の判定部13において、運転者による制動操作が可能か否かの判定が再度行われる。緊急ブレーキ制御が開始されてEPB30による緊急制動モードになってから車両100が停止するまでの間に、例えば、気絶した運転者の意識が回復するなどして、運転者による制動操作が可能な状態に戻った場合、EPB30による緊急制動モードから通常の制動モードに切り替えるようにするのが望ましい。これを実現するためにステップS180の判定が行われる。運転者による制動操作が可能であると判定された場合には(YES)、次のステップS190に進み、運転者による制動操作が不可能であると判定された場合には(NO)、ステップS150に戻る。
【0054】
ステップS190では、BCU10により、運転者に対してEPB30による緊急制動モードである旨が報知される。この報知を受けた運転者は、自らの制動操作、すなわちブレーキペダル21を踏み込む操作によって車両100を停止させるかどうか判断する。自らの制動操作によって車両100を停止させる場合、運転者は、EPB30による緊急制動モードから通常の制動モードへの切替えを要求するための操作をBCU10に対して行う。当該切替え要求操作は、例えば、操作スイッチ31の解除操作(レバー部31Aを引き上げる操作)とすることが可能である。
【0055】
続くステップS200では、BCU10において、通常の制動モードへの切替え要求操作が行われたかどうかが判定される。切替え要求操作が行われた場合には(YES)、次のステップS210に進み、切替え要求操作が行われていない場合には(NO)、ステップS150に戻る。
【0056】
ステップS210では、BCU10において、運転者による制動操作(ブレーキペダル21を踏み込む操作)が行われたかどうかが判定される。この判定は、制動意図検出装置22からBCU10に伝えられる情報を用いて行われる。運転者による制動操作が行われた場合には(YES)、次のステップS220に進み、運転者による制動操作が行われていない場合には(NO)、ステップS150に戻る。
【0057】
ステップS220では、BCU10の制動力演算部14において、制動意図検出装置22で検出される運転者の制動意図に対応した油圧ブレーキ20の目標制動力が求められる。運転者の制動意図は、ブレーキペダル21の踏込み量およびペダル位置から定量化される。そして、求められた目標制動力と油圧ブレーキ20の実際の制動力との差分が演算される。この差分は、運転者がブレーキペダル21を踏み込んでから油圧ブレーキ20の制動力が発生するまでのタイムラグ等に起因して発生している。
【0058】
続くステップS230では、BCU10のEPB駆動部12により、制動力演算部14で演算された油圧ブレーキ20の目標制動力と実際の制動力との差分に対応させて、EPB30の制動力を増減させる制御が行われる。このようなEPB30の制動力制御が行われることで、車両100の制動力(油圧ブレーキ20の制動力およびEPB30の制動力)を運転者の制動意図に近づけることができるようになる。仮に、緊急制動モードによって発生させていたEPB30の制動力が、上記差分に対応させて増減されることなく停止された場合、通常の制動モードへの切替え時に車両100の制動力が大きく変化してしまう可能性がある。このような状況を回避すべく、上記差分に対応させてEPB30の制動力を増減させることにより、運転者に違和感や不安を殆ど与えずに通常の制動モードへの切替えを行うことが可能になる。
【0059】
次のステップS240では、制動力演算部14において、上記差分の値が所定値未満になったかどうかの判定が行われる。この判定で用いられる所定値は、緊急ブレーキ制御を止めたときの制動力変動により発生する車両100の振動や衝撃が許容範囲に収まるような値に設定される。この所定値は、固定の値であってもよく、或いは、車両100の走行状態に応じて変化する値(変数)であってもよい。所定値を変数とする場合の具体例としては、目標制動力が大きいほど小さい値に設定されるような目標制動力に応じて変化する変数や、車速が速いほど小さい値に設定されるような車速に応じて変化する変数などが挙げられる。差分の値が所定値未満になったことが判定されると(YES)、前述したステップS160,S170の処理が実行されて通常の制動モードとなる。なお、ステップS160において、EPB30に制動解除信号を与えて制動力を停止させる処理は、緊急ブレーキ制御によって発生または増加させたEPB30の制動力を停止させることを意味しており、前輪101および後輪102に作用している油圧ブレーキ20の制動力を含めた全ての制動力を停止させなくてもよい。
【0060】
上記のような変形例におけるステップS100~S240の一連の処理がBCU10により実行されることによって、運転者による制動操作が不可能な状態において、EPB30を一層確実に作動させて車両100を緊急停止させることができる。また、車両100が停止する前に、運転者による制動操作が可能な状態に戻った場合には、運転者の制動意図に合わせて制動力を制御しながら車両100を停止させることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、電動パーキングブレーキ(EPB)30が本発明の電動ブレーキ装置として用いられる一例を説明したが、第1モータ(MGU)61や第2モータ(ISG)62を電動ブレーキ装置として使用することも可能である。この場合、MGU61、ISG62のモータトルクを駆動軸に作用させて制動力を発生させる。このようなモータブレーキは、モータの力行トルクを駆動軸の回転方向と逆方向に作用させる場合と、モータの回生トルク(発電トルク)を駆動軸に作用させる場合とを含む。また、本発明における電動ブレーキ装置は、油圧ブレーキの油圧をモータ等で電気的に調整する電動油圧ブレーキ(図示省略)であってもよい。
【0062】
また、既述の実施形態では、EPB30の操作スイッチ31がセンターコンソール103の上面に設けられている一例を示したが、インストルメントパネル等に操作スイッチが配置されていてもよい。操作スイッチをインストルメントパネルに設ける場合、操作スイッチを車室外側(前方)に移動させる操作を作動操作とし、操作スイッチを車室内側(後方)に移動させる操作を解除操作としてもよい。このように操作方向を設定すれば、足踏み式のパーキングブレーキにおける作動操作および解除操作の各方向と対応するようになり、運転者がEPBの操作感覚を理解しやすくなる。
【0063】
さらに、既述の実施形態では、操作スイッチ31のレバー部31Aにより作動操作および解除操作が行われる場合を説明したが、例えば、図8に示すように、2つのプッシュボタン31D,31Eを有する操作スイッチ31’や、1つのプッシュボタン31Fを有する操作スイッチ31”を適用することも可能である。操作スイッチ31’の場合、一方のプッシュボタン31Dを押す操作によりEPBが作動となり、他方のプッシュボタン31Eを押す操作によりEPBが解除となる。また、操作スイッチ31”の場合、プッシュボタン31Fを一度押す操作によりEPBが作動となり、プッシュボタン31Fを再度押す操作によりEPBが解除となる。加えて、操作スイッチは、例示したような機械式のスイッチだけでなく、ディスプレイに表示されるアイコンをタッチすることで作動するタッチパネル式の仮想的なスイッチなどとすることも勿論可能である。
【0064】
また、既述の実施形態では、運転者の制動意図に対応したブレーキ装置として油圧ブレーキ20を採用しているが、電動ブレーキ装置を採用することも可能である。この場合、操作スイッチの操作に応じて作動する電動ブレーキ装置(既述の実施形態ではEPB30)を第1電動ブレーキ装置としたとき、第1電動ブレーキ装置とは独立して作動する第2電動ブレーキ装置を、運転者の制動意図に対応した電動ブレーキ装置としてもよい。或いは、操作スイッチの操作に応じて作動する電動ブレーキ装置と、運転者の制動意図に対応した電動ブレーキ装置とを兼用させても構わない。
【0065】
さらに、既述の実施形態では、判定部13において、運転者による制動操作(ブレーキペダル21を踏み込む操作)が可能か否かの判定が行われる一例を示したが、この判定に加えて、運転者が操作スイッチ31を操作することが困難な状態か否かの判定も行われるようにしてもよい。運転者が操作スイッチ31を操作困難な状態(例えば、気絶、睡眠、朦朧など)にあると判定された場合には、操作スイッチ31の操作を促す報知や、操作スイッチ31で操作が行われた否かの判定を行うことなく、EPB30に制動作動信号を与えてもよい。このようにすれば、緊急事態の発生状況を的確に判定して車両100をより迅速に緊急停止させることが可能になる。
【符号の説明】
【0066】
1…ブレーキ制御システム
10…ブレーキ制御ユニット(BCU、制御装置)
11…油圧調整部
12…EPB駆動部
13…判定部
14…制動力演算部
20…油圧ブレーキ(油圧ブレーキ装置)
21…ブレーキペダル
22…制動意図検出装置(検出装置)
30…電動パーキングブレーキ(EPB、電動ブレーキ装置)
31,31’,31”…操作スイッチ
31A…レバー部
31B…インジケータ部
31C…ボタン部
41…監視装置
41A…撮像デバイス
42…車速検出装置
43…アクセルペダル
44…加速意図検出装置
45…報知装置
50…動力制御ユニット(PCU)
60…エンジン
61…第1モータ(MGU)
62…第2モータ(ISG)
100…車両
101…前輪
102…後輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8