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特開2022-182975水晶振動子及び水晶振動子中間体並びに水晶振動子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182975
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】水晶振動子及び水晶振動子中間体並びに水晶振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20221201BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H03H9/19 F
H03H3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013832
(22)【出願日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021090496
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 清治
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆宏
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108CC04
5J108DD02
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE18
5J108FF04
5J108GG03
5J108GG16
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】ドライブレベル特性の改善が図れる新規な構造を有したATカットの水晶振動子を提供する。
【課題手段】水晶振動子10は、平面形状が長方形状で水晶のX軸に平行な方向を長辺とするATカットの水晶片20と、前記水晶片の表裏に設けた励振用電極21a,21bと、水晶片を実装する容器30と、具えている。前記水晶片の厚みをTと表し、前記水晶片の表裏に設けた前記励振用電極の厚みの合計値をtと表したとき、両者の比であるt/Tが、0.026~0.030である。又は、水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mが、0.192~0.216である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み滑りモードで振動する水晶片と、前記水晶片の表裏に設けた励振用電極と、前記励振用電極を設けた水晶片を実装する容器と、具える水晶振動子において、
前記水晶片の厚みをTと表し、前記水晶片の表裏に設けた前記励振用電極の厚みの合計値をtと表したとき、両者の比であるt/Tが、0.026~0.030であることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記t/Tが、0.027~0.029であることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
厚み滑りモードで振動する水晶片と、前記水晶片の表裏に設けた励振用電極と、前記励振用電極を設けた水晶片を実装する容器と、具える水晶振動子において、
水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mが、0.192~0.216であることを特徴とする水晶振動子。
【請求項4】
前記m/Mが、0.199~0.209であることを特徴とする請求項3に記載の水晶振動子。
【請求項5】
前記水晶片はATカットの水晶片であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【請求項6】
前記水晶振動子が、発振周波数76~80MHz帯の任意の周波数の水晶振動子であることを特徴とする請求項5に記載の水晶振動子。
【請求項7】
前記水晶振動子が、発振周波数76.8MHzの水晶振動子であることを特徴とする請求項5に記載の水晶振動子。
【請求項8】
前記水晶振動子が、発振周波数79.96MHzの水晶振動子であることを特徴とする請求項5に記載の水晶振動子。
【請求項9】
前記水晶振動子が、発振周波数80MHzの水晶振動子であることを特徴とする請求項5に記載の水晶振動子。
【請求項10】
前記水晶片は、平面形状が長方形状のATカットの水晶片であって、長辺が水晶のX軸に平行で、短辺が水晶のZ′軸に平行な水晶片であり、前記長辺の寸法Lxと、前記短辺の寸法Wxとの比であるWx/Lxが、0.690~0.745であることを特徴とする請求項5~9のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【請求項11】
水晶片と、この水晶片の表裏の主面に設けた励振用電極と、を具えた水晶振動片であって、前記水晶片の厚みをTと表し、前記水晶片の表裏に設けた前記励振用電極の厚みの合計値をtと表したとき、又は、前記水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、
前記t/Tが、0.026~0.030、又は、前記m/Mが0.192~0.216である水晶振動片を、
マトリクス状に多数有したウエハから成ることを特徴とする水晶振動子中間体。
【請求項12】
前記水晶振動子中間体は、ATカットの水晶ウエハを用いたものであることを特徴とする請求項11に記載の水晶振動子中間体
【請求項13】
水晶振動子の製造方法であって、厚み滑りモードで振動する水晶片の厚みをTと表し,この水晶片の表裏に設ける励振用電極の合計の厚みをtと表したとき、t/Tとドライブレベル特性との相関を求めるか、又は、前記水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mとドライブレベル特性との相関を求める工程と、
前記求めた相関から、ドライブレベル特性が所望範囲となるtの範囲又はmの範囲を求める工程と、
前記求めた範囲t又はmとなるように励振用電極を、前記水晶片に形成する工程と
を含むことを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項14】
前記水晶片がATカットの水晶片であることを特徴とする請求項13に記載の水晶振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み滑りモードで振動しドライブレベル特性に優れる水晶振動子、この水晶振動子用の水晶振動子中間体、及び水晶振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、基準周波数源として使用されるため、極力、一定の周波数で振動する必要がある。従って、水晶振動子の駆動電力が変化した場合でも、周波数の変動が小さいこと、すなわち、ドライブレベル特性に優れることが好ましい。この要求は、厚み滑りモードで振動する水晶片、例えばATカットの水晶片を用いて構成される水晶振動子に対しても同様である。
【0003】
特許文献1には、ATカットの水晶片を用いた水晶振動子のドライブレベル特性の改善を図るため、表裏に励振用電極が形成されたATカットの水晶片において、励振用電極を下層及び上層の積層構造とし、かつ、平面的に見て、上層を下層の外縁内に収まるよう小さい面積で設けることが記載されている(特許文献1の請求項1、請求項2、図1等)。
具体的には、下層をクロム(Cr)で構成し、上層を金(Au)で構成した2層構造の励振用電極を、フォトリソグラフィ技術で形成する際に、Au膜とCr膜とを順にパターニングした後、Au膜を再度エッチングして、金層がクロム層の外縁内に収まる構造(金層がひさし状にならない構造)を有した水晶片を形成している(特許文献1の段落0049等)。
【0004】
特許文献1に記載された水晶振動子では、金層がひさし状にならないため、上層と下層との密着性が高い励振用電極を水晶片に形成できるため、ドライブレベル特性の改善が図れるという(特許文献1の段落0034等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-25344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、この出願に係る発明者も、厚み滑りモードで振動する水晶振動子、特にATカットの水晶片を用いて構成される水晶振動子のドライブレベル特性を改善する技術について、鋭意研究を重ねてきた。その結果、ドライブレベル特性を改善できる新規な事項を見出し、本発明を完成するに至った。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、従ってこの発明の目的は、厚み滑りモードで振動する水晶振動子であってドライブレベル特性の改善が図れる新規な構造を有した水晶振動子、この水晶振動子用の水晶振動子中間体、並びに、水晶振動子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明の水晶振動子によれば、厚み滑りモードで振動する水晶片と、前記水晶片の表裏に設けた励振用電極と、前記励振用電極を設けた水晶片を実装する容器と、具える水晶振動子において、前記水晶片の厚みをTと表し、前記水晶片の表裏に設けた前記励振用電極の厚みの合計値をtと表したとき、両者の比であるt/Tが、0.026~0.030であることを特徴とする。
t/Tが0.026~0.030の範囲であると、後述するように、この水晶振動子に印加するドライブレベルを所定範囲で変化させた場合の当該水晶振動子での周波数変化量(すなわち、DLD特性)を、±6ppmの範囲に抑制できる。DLD特性がこの範囲に抑制された水晶振動子は、当該水晶振動子の利用者の要求仕様を満たすので、産業上の利用性が高まるから、好ましい。
この水晶振動子の発明を実施するに当たり、より好ましくは、前記t/Tが、0.027~0.029であることが良い。この好適な範囲であると、後述するように、DLD特性での周波数変化量を±4ppmの範囲に抑制できる。DLD特性がこの範囲に抑制された水晶振動子は、産業上の利用性がより高まるので、さらに好ましい。
【0008】
ここで、水晶片の厚みTは、実測による厚み、又は、実際の周波数と周波数定数(水晶片が例えばATカット水晶片の場合であれば、1670)とから周知の計算式で算出される厚み等、任意の方法で抽出できる。
一方、この発明でいう励振用電極の厚みtは、励振用電極を構成する主たる金属の膜の厚みであって、かつ、この主たる金属が金(Au)である場合で示した厚みである。この点について、以下に説明する。
【0009】
水晶振動子の励振用電極は、一般に、水晶片と励振用電極との密着性を確保するための下地金属膜と、この下地電極膜上に形成される主たる金属の膜との積層構造とされる。そして、下地金属膜の厚みは、主たる金属の膜の厚みに比べて相当薄いため、厚みの測定が難しい場合がある。また、下地金属膜の厚みが相当薄いことから、下地金属膜の厚みを除外しても本発明の趣旨は示せる。従って、この発明でいう励振用電極の厚みtは、励振用電極中の主たる金属の膜の厚みとみなして良い。従って、下地金属がクロム(Cr)であり、主たる金属が金(Au)の場合なら、主たる金属は金である。また、下地金属がクロム(Cr)であり、主たる金属が銀(Ag)の場合なら、主たる金属は銀である。なお、励振用電極の積層数が3層以上の場合があっても良く、その場合も、主たる金属を考慮すれば良い。また、主たる金属が合金層である場合でも良い。また、下地金属膜の厚みが測定できた場合は、そのことを考慮しても良い。
【0010】
また、励振用電極の厚みtは、主たる金属が金である場合で示した厚みとした主な理由は、励振用電極の主たる金属として、金を用いることが多いからである。従って、主たる金属が金以外の金属である場合で、その金以外の金属で構成した電極の厚みがtxである場合は、本発明でいう電極の厚みtは、t=tx・Wx/Woで換算される厚みである。ここで、Wxは金以外の電極材料の密度、Woは金の密度である。具体例でいえば、励振用電極の主たる金属が例えば銀(Ag)である場合の励振用電極の厚みがtxであった場合、本発明でいう電極の厚みtは、t=tx*(銀の密度/金の密度)で求まる厚みである。従って、励振用電極の主たる金属が銀(Ag)である場合は、銀の密度が10.50であり、金の密度が19.32であるので(「理科年表平成28年」、平成27年11月30日発行、第385頁による)、本発明でいう励振用電極の厚みtは、t=tx・(10.5/19.32)≒0.543・txで与えられ厚みである。主たる金属の膜が積層膜や合金膜である場合も、それらの密度と金の密度とから厚みtを上記の式によって求めればよい。
また、水晶片の一方の主面に設ける励振用電極の厚みをt1と表し、水晶片の他方の主面に設ける励振用電極の厚みをt2と表したとき、上記t=t1+t2であるが、t1=t2でも、t1≠t2でも良い。
【0011】
励振用電極の厚みtxは、実測による厚み、又は、実際の周波数と周波数定数(水晶片が例えばATカットの水晶片の場合であれば、1670)とから周知の計算式で算出される厚み等である。
なお、水晶片の厚みTや励振用電極の厚みtxを実測する場合、測定位置は水晶片内の1点でも多点でも良く、測定精度を考慮した任意の位置で良い。多点測定の場合は、多点の測定値の平均値を当該厚みとすることが好ましい。
【0012】
また、この発明の水晶振動子において、前記したt/Tの代わりに、水晶片の質量に対する励振用電極の質量の比で表しても良い。すなわち、当該水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mが、0.192~0.216と規定しても良い。その場合、より好ましくは、m/Mが、0.199~0.209であることが良い。なお、励振用電極の質量を求める際、上記したt/Tの場合と同様に、励振用電極における下地金属の膜の質量は除外しても良いし、考慮してもどちらでも良い。
m/Mが0.192~0.216の範囲であると、この水晶振動子に印加するドライブレベルを所定範囲で変化させた場合の当該水晶振動子での周波数変化量(すなわち、DLD特性)を、±6ppmの範囲に抑制できる。m/Mが0.199~0.209の範囲であると、この水晶振動子に印加するドライブレベルを所定範囲で変化させた場合の当該水晶振動子での周波数変化量(すなわち、DLD特性)を、±4ppmの範囲に抑制できる。
【0013】
上記の水晶振動子の発明を実施するに当たり、前記水晶片の大きさ及び平面形状の本発明への影響は、低い。励振用電極の下方に振動エネルギーを効果的に閉じ込め得る構造ができていると推定するからである。従って、本発明は、種々の大きさ、形状、辺比の水晶片に対して、適用できると推定する。
また、後述する現在までの実験結果でも、水晶片の大きさ及び平面形状の本発明への影響は、低いと推定できる。具体的には、平面形状が長方形状で、水晶のX軸に沿う方向を長辺とし、水晶のZ′軸に沿う方向を短辺とするATカットの水晶片であって、長辺寸法Lxが0.826~0.869mmの範囲、短辺寸法Wxが0.587~0.635mmの範囲の水晶片において、本発明の効果を確認できている。この場合、水晶振動子の容器の外形サイズでいって、1.2mm×1.0mmの水晶振動子、いわゆる1210サイズの水晶振動子を実現できる。
さらに、これらより小さい、長辺寸法Lxが0.680~0.785mm、短辺寸法Wxが0.466~0.520mmの水晶片においても、本発明の効果を確認できている。従って、少なくとも、このような範囲の水晶片では本発明の効果が得られる。この場合、水晶振動子の容器の外形サイズでいって、1.0mm×0.8mmの水晶振動子、いわゆる1008サイズの水晶振動子を実現できる。
また、実験で用いた上記した水晶片の、長辺寸法Lxと短辺寸法Wxとの比(すなわち辺比)Wx/Lxを示すと、0.594~0.769であるので、少なくとも、このような範囲の辺比のATカットの水晶片では、本発明の効果が得られる。
【0014】
また、上記の水晶振動子の発明を実施するに当たり、励振用電極の大きさ及び平面形状の、本発明への影響は、低い。なぜなら、励振用電極の下方に振動エネルギーを効果的に閉じ込め得る構造ができていると推定するからである。従って、本発明は、種々の大きさ及び形状の励振用電極に適用できると推定する。
また、後述する現在までの実験結果でも、励振用電極の大きさ及び平面形状の本発明への影響は、低いと推定できる。具体的には、励振用電極の平面形状が四角形状で、長辺寸法Leが0.46~0.54mmの範囲、短辺寸法Weが0.22~0.30の範囲、さらに、励振用電極の長辺寸法Leが0.413~0.453の範囲、短辺寸法Weが0.288~0.328の範囲において、本発明の効果を確認できている。従って、少なくとも、このような大きさの励振用電極であれば、本発明の効果が得られる。
なお、水晶片と励振用電極との平面的な位置関係は、水晶片の中心と励振用電極の中心とが一致する場合でも、あるいは、水晶片の中心に対し励振用電極の中心が偏心している場合でも良い。
【0015】
また、上記の水晶振動子の発明を実施するに当たり、発振周波数は、任意のものとできると考える。なぜなら、励振用電極の下方に振動エネルギーを効果的に閉じ込め得る構造ができているためと推定するからである。現在までの実験結果で述べれば、発振周波数が76~80MHzの範囲のもので、本発明の効果を確認できている。具体的には、発振周波数が76.8MHz、79.96MHz、80.00MHzの各水晶振動子について、本発明の効果を確認できている。なお、発振周波数が76.8MHz、79.96MHz及び80MHzの水晶振動子それぞれは、例えば第5世代移動通信システムの例えば携帯端末における基準信号源等として用いることができるため、有用である。
【0016】
また、この発明の水晶振動子中間体は、水晶片とこの水晶片の表裏の主面に設けた励振用電極とを具えた水晶振動片であって、上記したt/Tが、0.026~0.030か、又は、上記したm/Mが0.192~0.216である水晶振動片を、マトリクス状に多数有したウエハから成ることを特徴とする。
より好ましくは、上記したt/Tが、0.027~0.029か、又は、上記したm/Mが0.199~0.209である水晶振動片を、マトリクス状に多数有したウエハから成ることを特徴とする。
なお、水晶振動子中間体の発明を実施するに当たり、上記のt/T及び上記のm/Mの範囲に関して、以下のような考慮があっても良い。
水晶振動子を製造する際、一般には、励振用電極が形成された水晶片を容器に実装した後に、励振用電極をイオンミリングによって微量ずつ除去して、当該水晶振動子の周波数を所望の周波数に調整することを行う。従って、最終製品である水晶振動子と水晶振動子用中間体とでは、励振用電極の厚みは、上記の周波数調整量の分だけ、異なる。従って、イオンミリングによって周波数調整をする場合は、励振用電極の厚みは、水晶振動子用中間体の方が最終製品である水晶振動子に比べてわずかに厚くなることが多い。このため、水晶振動子用中間体の上記のt/T及びm/Mの範囲は、上記の周波数調整量の分だけシフトする場合があるので、この点を、水晶振動子用中間体では考慮するのが好ましい。シフト量は、t/Tに関しては0.0005程度であり、m/Mに関しては0.004程度である。
【0017】
また、この発明の水晶振動子の製造方法は、厚み滑りモードで振動する水晶片の厚みをTと表し、この水晶片の表裏に設ける励振用電極の合計の厚みをtと表したとき、t/Tとドライブレベル特性との相関を求めるか、又は、前記水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mとドライブレベル特性との相関を求める工程と、
前記求めた相関から、ドライブレベル特性が所望範囲となるtの範囲又はmの範囲を求める工程と、
前記求めた範囲t又はmとなるように励振用電極を、前記水晶片に形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明の水晶振動子によれば、水晶片の厚みTに対し励振用電極の厚みtを適正範囲にしてある、又は、水晶片の質量Mに対し励振用電極の質量mを適正範囲にしてあるので、そうしない場合に比べ、ドライブレベル特性に優れる水晶振動子及び水晶振動子中間体を提供することが出来る。
また、この発明の水晶振動子の製造方法によれば、上記のt/T又はm/Mに着目して励振用電極の適正厚み又は適正質量を求め、この求めた適正厚み又は適正質量に対応する励振用電極を水晶片に形成するので、ドライブレベル特性に優れる水晶振動子を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(A)及び(B)は、第1の実施形態の水晶振動子10を説明する図である。
図2図2(A)~(C)は、第1の実施形態の水晶振動子10に具わる水晶片20の説明図である。
図3図3(A)~(C)は、第2の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片24の説明図である。
図4図4(A)は、第3の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片25の説明図、図4(B)は、第4の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片26の説明図、図4(C)は、第5の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片27の説明図、図4(D)は、第6の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片28の説明図である。
図5図5(A)、(B)は、水晶振動子中間体50の説明図である。
図6図6(A)、(B)は、Au電極厚み/水晶片厚みと、DLD特性における周波数変化率との関係を説明する図であり、(A)図は第1の実施形態の水晶片20に関するもの、(B)図は第2の実施形態の水晶片24に関するものである。
図7図7(A)、(B)は、Au電極質量/水晶片質量と、DLD特性における周波数変化率との関係を説明する図であり、(A)図は第1の実施形態の水晶片20に関するもの、(B)図は第2の実施形態の水晶片24に関するものである。
図8図8(A)、(B)は、本発明の効果が水晶片の辺比に依存しないことを説明する図であり、(A)図は第1の実施形態の水晶片20に関するもの、(B)図は第2の実施形態の水晶片24に関するものである。
図9】励振用電極の大きさを種々に変えた実験でのサンプルの条件(水準)を説明する図である。
図10図10(A)~(C)は、本発明の効果が励振用電極の大きさに依存しないことを説明する図であり、励振用電極の長辺に関してまとめた図である。
図11図11(A)~(C)は、本発明の効果が励振用電極の大きさに依存しないことを説明するための図10に続く図であり、励振用電極の短辺に関してまとめた図である。
図12】水晶振動子の製造方法の発明の要部を説明するフローチャートである。
図13図13(A)は、図6(A)を用いて説明した実験の補足実験の結果を説明するための図であり、図13(B)は、図13(A)で説明した水晶振動子のクリスタルインピダンスの分布を説明するための図である。
図14図14(A)は、図7(A)を用いて説明した実験の補足実験の結果を説明するための図であり、図14(B)は、図14(A)で説明した水晶振動子のクリスタルインピダンスの分布を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照してこの発明の水晶振動子、水晶振動子中間体及び水晶振動子の製造方法の実施形態についてそれぞれ説明する。なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0021】
1. 水晶振動子の実施形態
1-1.水晶振動子の第1の実施形態
(全体の概要)
図1(A)及び(B)は、第1の実施形態の水晶振動子10の説明図である。特に、図1(A)は、水晶振動子10の平面図、図1(B)は、図1(A)中のI-I線に沿った断面図である。
第1の実施形態の水晶振動子10は、厚み滑りモードで振動する水晶片20と、水晶片20の表裏に設けた励振用電極21a、21bと、励振用電極21a、21bを設けた水晶片20を実装する容器30と、を具えている。なお、図1(A)中に示した座標軸X,Y′、Z′それぞれは、水晶の結晶軸を示す。また、以下、励振用電極21a、21bの一方を第1の励振用電極21a、他方を第2の励振用電極21bと称することもある。
水晶片20は、この場合、平面形状が長方形状のATカットの水晶片であって、長辺が水晶のX軸に平行で、短辺が水晶のZ′軸に平行な水晶片である。ATカットの水晶片自体の詳細は、例えば、文献:「水晶デバイスの解説と応用」。日本水晶デバイス工業会2002年3月第4版第7頁等に記載されているので、ここではその説明を省略する。
【0022】
水晶片20は、第1の励振用電極21a、第2の励振用電極21b各々から水晶片20の一方の短辺に引き出された引出電極23を、具えている。
容器30は、水晶片20を実装する凹部30aを有したセラミック製の容器である。容器30は、凹部30aの底面の所定位置に接続パッド31a、31bを具えており、かつ、外部の底面に外部接続端子33a、33bを具えている。
水晶片20は、引出電極23の位置で、接続パッド31a、31bに、導電性接着剤41によって、接続固定してある。接続パッド31a、31bは、図示しないビア配線及び又はキャスタレーションによって、外部接続端子33a、33bに接続してある。
容器30の凹部30a周囲の土手部の天面で、容器30は、蓋部材43によって封止してある。なお、図1(A)では、蓋部材43の図示を省略してある。
【0023】
(特徴の説明)
次に、図2を参照して、本発明の特徴について説明する。図2は、図1に示した水晶片20及び励振用電極21a、21bの部分を抽出して拡大して示した図である。そして、図2(A)は水晶片及び励振用電極の平面図、図2(B)は、図2(A)中のI-I線に沿った断面図、図2(C)は、図2(A)中のII-II線に沿った断面図である。
第1の実施形態の水晶振動子10に具わる水晶片20は、平面視で長方形状のATカットの水晶片20であって、厚みがTのものである。水晶片20の厚みTとは、本例のように水晶片が単純な平板である場合は、平板の厚みである。水晶片の一部が凸とされたメサ構造である場合は、メサ部の厚みである。
また、第1の実施形態における水晶片20は、水晶のX軸と交差する側面20a各々が、外側に凸の2つの面となっており(図2(B)参照)、かつ、水晶のZ′軸に交差する面20b各々が、水晶片20の主面に対し角度θを成す1つの面となっている。ここで、θは水晶片20を製造する際のフッ酸系エッチャントによるエッチング時間で多少前後するが、85~89度の範囲である。従って、水晶片20の他方の主面と面20bとの成す角度は95~91度の範囲である。また、水晶片20は、長辺の寸法がLx、短辺の寸法がWxとなっている。長辺の長さ及び短辺の長さの具体例は、後述の実験の項にて詳述する。
水晶のZ′軸に交差する面20b各々が、水晶片20の主面に対し角度θを成す1つの面となっている場合、図3に示したような側面が2面の場合に比べ、図3(C)に示した側面24b2の製造バラツキに起因する寸法変動が無い分、水晶振動子の特性バラツキが少ないと考えられる。
【0024】
また、第1の励振用電極21a及び第2の励振用電極21b各々は、平面形状が長方形状で、その長辺は水晶片20の長辺に平行で、短辺は水晶片20の短辺に平行なものとなっている。第1の励振用電極21a及び第2の励振用電極21b各々の長辺寸法Le及び短辺寸法Weは、両電極において同じとしてある。第1の励振用電極21a及び第2の励振用電極21bは、水晶片20を挟んで、対向するよう配置してある。
また、第1の励振用電極21a及び第2の励振用電極21bの平面的な中心Oeが、水晶片20の平面的な中心Oxに対し、ΔLだけ、水晶片20の引出電極23とは反対側、すなわち水晶片20の先端に偏心している。
また、第1の励振用電極21aは、厚みがt1となっており、第2の励振用電極21bは、厚みがt2となっている。従って、励振用電極の厚みの合計値tは、t=t1+t2である。ただし、厚みt1と厚みt2とは、同じの場合でも、異なる場合であっても良い。
そして、第1の実施形態の水晶振動子10に具わる水晶片20では、水晶片20の厚みTと、第1の励振用電極21a及び第2の励振用電極21bの厚みの合計値tとの比t/Tが、0.026~0.030の範囲の値にしてある。
【0025】
又は、この水晶振動子の発明は、別の観点での主張として、水晶片20の励振用電極21a、21bを設けた領域における水晶の質量をMと表し、励振用電極21a、21bを設けた領域におけるこれら励振用電極21a、21bの質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mが、0.192~0.216の範囲の値であっても良い。これらt/T、m/Mの数値範囲の意義については、後述する「実験及び考察」の項にて詳述する。
【0026】
1-2.水晶振動子の第2の実施形態
図3(A)~(C)は、第2の実施形態の水晶振動子の特に水晶片24に着目した説明図である。そして、図3(A)は水晶片及び励振用電極の平面図、図3(B)は、図3(A)中のI-I線に沿った断面図、図3(C)は、図3(A)中のI-I線に沿った断面図、図3(C)は、図3(A)中のII-II線に沿った断面図である。
第2の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片24の、第1の実施形態の水晶振動子に具わる水晶片20との相違点は、水晶のZ′軸と交差する側面24cの構造である。すなわち、第1の実施形態で説明した水晶片20では、側面20b(図2(C)参照)は、主面に対し角度θを成す1つの面で構成していたのに対し、第2の実施形態の水晶片24の場合は、側面24b(図3(C))は、第1の面24b1と第2の面24b2との、2つの面で構成してある。第1の面24b1は、水晶片24の一方の主面に対し角度θ1の内角をもって交わり、第2の面24b2は水晶片24の他方の主面に対し角度θ2の内角をもって交わる面である。ここで、θ1は90~94°、好ましくは90から92°29′であり、θ2はおおよそ147°である。なお、第2の面24b2は、水晶の結晶面であるm面であっても良い。また、水晶片24の、水晶のX軸と交差する側面24aは、第1の実施の形態での水晶片20の側面20aと同様に2つの面で構成してある。
【0027】
1-3.水晶振動子の第3の実施形態
図4(A)は、第3の実施形態の水晶片25の説明図であり、水晶片25を、図2(A)のII-II線と同様な線に沿って切った断面図である。
第3の実施形態の水晶片25の上記の各実施形態と相違する点は、水晶のZ′軸と交差する側面25aが、水晶片25の主面と直交する1つの面で構成してある点である。
【0028】
1-4.水晶振動子の第4の実施形態
図4(B)は、第4の実施形態の水晶片26の説明図であって、水晶片26を、図2(A)のI-I線と同様な線に沿って切った断面に相当する断面図である。
第4の実施形態の水晶片26の上記の各実施形態と相違する点は、水晶のX軸と交差する側面26aが、水晶片25の主面と直交する1つの面で構成してある点である。
【0029】
1-5.水晶振動子の第5の実施形態、第6の実施形態
図4(C)は、第5の実施形態の水晶片27の説明図であり、水晶片27を、図2(A)のII-II線と同様な線に沿って切った断面図である。
図4(D)は、第6の実施形態の水晶片28の説明図であり、水晶片28を図2(A)のI-I線と同様な線に沿って切った断面図である。
第5の実施形態の水晶片27及び第6の実施形態の水晶片28それぞれの、上記の各実施形態と相違する点は、水晶片27及び水晶片28各々が、水晶のX軸方向に沿った一端に、水晶のY′方向に突出した凸部27x、28xを具えた点である。この凸部27x、28xは、水晶片27,28を容器30(図1参照)に固定するための固定部として使用する。凸部27x、28Xが在ると、無い場合に比べ、水晶片への容器側からの影響を低減できるので、その分、水晶振動子の特性改善が図れる。なお、第5の実施形態及び第6の実施形態各々では、水晶片27,28それぞれの長辺寸法Lxは、凸部27x、28xを設けた部分を含む寸法としてある。凸部27x、28xの水晶のX軸に沿う寸法は、例えば0.1~0.2mmの範囲の設計に応じた寸法である。
なお、第5の実施形態の水晶片27は、水晶片27の水晶のX軸に交差する側面(すなわち水晶片27の先端)が、2つの面で構成してある例である。第6の実施形態の水晶片28は、水晶片27の水晶のX軸に交差する側面(すなわち水晶片28の先端)が、水晶片28の主面と直交する1つの面で構成してある例である。凸部27x、28xを有した水晶片において、水晶片の側面形状は、図4(C),(D)の構造に限られず、他の構造であっても良い。
【0030】
2. 水晶振動子中間体の実施形態
次に、上記の水晶振動子を製造するために使用する水晶振動子中間体の実施形態について説明する。図5(A)及び(B)は、実施形態の水晶振動子中間体50の説明図である。特に図5(A)は、水晶振動子中間体50の全体を見た平面図、図5(B)は図5(A)中のR部分を拡大して示した平面図である。
この水晶振動子中間体50は、水晶片20(水晶片24~28等でももちろん良い)と、励振用電極21a、21bとを具えた水晶振動片51であって、上記したt/T、又は、m/Mが上記した所定範囲となっている水晶振動片51を、マトリクス状に多数有したウエハから成るものである。ここで、各水晶振動片51は、水晶振動子中間体50が有する桟50aに、ブリッジ50bよって接続してある。水晶振動子中間体50では、ブリッジ50bの位置で、各水晶振動片51を桟50aから分離して個片化できる。個片化した各水晶振動片51は、図1に示したように、容器30に実装することで、所望の水晶振動子を製造することができる。
【0031】
3. 実験及び考察(t/Tやm/Mの意義、水晶片や励振用電極の大きさについて)
先ず、本発明で主張しているt/Tやm/Mの意義について、実験結果によって、説明する。
3-1.t/Tについての第1の実験
上記した水晶片20であって、長辺寸法Lx(図2(A)参照)を0.826~0.869mmの範囲、短辺寸法Wx(図2(A)参照)を0.587~0.635mmの範囲で、種々の長辺寸法及び短辺寸法とした複数種類の水晶片(具体的には図8を用いて後述)、を、用意した。ただし、これら水晶片20の表裏に形成する励振用電極21a,21bは、長辺寸法Le(図2(A)参照)が0.496mm、短辺寸法We(図2(A)参照)が0.25mmのものとした。しかも、水晶片20に励振用電極を形成する際に、励振用電極の厚みtと水晶片の厚みTとの比t/Tが、0.0253であるグループ、t/Tが、0.0279であるグループ、t/Tが、0.0294であるグループの、3つのグループとなるよう、励振用電極を、水晶片上に形成した。このように形成した複数種類の水晶片を用いて、図1を用いて説明した構造の水晶振動子10を作製した。
なお、励振用電極は、下地金属膜がクロム膜、この下地金属膜上の主たる金属膜がAu膜で構成した、積層構造のものである。従って、この場合の励振用電極の厚みtは、水晶片20の表裏に設けたAu膜の合計の厚みである。また、水晶振動子10の発振周波数は76.8MHzである。なお、ここで用いた水晶片は、水晶振動子の容器の外形サイズが1.2mm×1.0mmのもの、すなわち1210サイズの容器に実装できる大きさの水晶片である。
【0032】
次に、これら複数種類の水晶振動子それぞれを、水晶振動子に印加する電力を10μW→30μW→100μW→200μW→300μWと変えて、発振させる。そして、印加電力が300μWのときの発振周波数f3から印加電力が10μWのときの発振周波数f1を引いた値を、この水晶振動子の公称周波数F0(この実験では76.8MHz)で除して求まる周波数変化率ΔF(単位:ppm)=(f3-f1)/F0を、求める。
そして、上記の水準の水晶振動子各々の、ΔFと、t/Tとの関係をプロットする。図6(A)は、このプロット図であり、横軸にAu電極厚み/水晶片厚み(すなわちt/T)をとり、縦軸にdFをとって、両者の関係を示したものである。図6(A)中の黒四角■がt/Tが0.0253のグループ、黒三角▲がt/Tが0.0279のグループ、黒丸●がt/Tが0.0294のグループである。しかも、図6(A)には、上記3グループのデータを基に、最小二乗近似法によって近似した、近似曲線も示してある。
ここで、ΔFが±6ppmであると産業上利用性のある水晶振動子といえ、また、ΔFが±4ppmであると産業上でさらに利用性のある水晶振動子といえる。そこで、上記求めた近似曲線から、ΔFが±6ppmを満足できるt/Tを算出すると、t/Tは0.026~0.030であることが分かった。また、近似曲線から、ΔFが±4ppmを満足できるt/Tを算出すると、t/Tは0.027~0.029であることが分かった。従って、t/Tは、0.026~0.030が良く、より好ましくは、t/Tは0.027~0.029が良い。
【0033】
また、上記の第1の実験に対する追加の実験として、Au電極の厚みを第1の実験の場合より薄くした実験、具体的には、Au電極厚み/水晶片厚みが、0.0092の場合、0.0153の場合、及び、0.0206の場合各々の水準で、水晶振動子を試作し、それら水晶振動子について第1の実験と同様にドライブレベル特性を測定した。なお、Au電極厚み/水晶片厚みを、0.0092、0.0153、及び、0.0206とした理由は、発振周波数が76MHz付近よりも低い周波数帯、具体的には、38MHz帯程度の周波数帯の水晶振動子では、Au電極厚み/水晶片厚みが0.0092、0.0153、及び、0.0206等の設計が用いられることが多いため、このような低周波数帯で電極設計でのDLD特性を確認することで、本発明の意義を確認するためである。
図13(A)は、この追加の実験のDLD特性データを、図、6(A)に示した第1の実験結果のDLD特性データと併せて示した特性図である。横軸はAu電極厚み/水晶片厚みであり、縦軸は上記した周波数変化率である。
図13(A)から、Au電極厚み/水晶片厚みが0.0092、0.0153、及び、0.0206程度と、Au電極厚みが第1の実験の場合に比べ薄い場合、周波数変化率はプラス側の領域すなわち0~20ppmの領域で変位することが分かる。然も、Au電極厚み/水晶片厚みが、0.0092、0.0153、0.0206と大きくなるにしたがい、周波数変化率が大きくなることが分かる。
また、第1の実験と今回の追加の実験とに関し、水晶振動子の重要な特性の1つであるクリスタルインピダンス(CI)についても、検討した。図13(B)はその検討結果をまとめた特性図であり、Au電極厚み/水晶片厚みとCIとの関係を示した図である。横軸はAu電極厚み/水晶片厚みであり、縦軸はCIである。
図13(B)から、Au電極厚み/水晶片厚みが、0.0092、0.0153、0.0206の各水準の水晶振動子のCIは、20~50Ωの領域に分布し、然も、Au電極厚み/水晶片厚みが、0.0092、0.0153、0.0206においては、0.0092の水準の水晶振動子のCIが最も悪いことが分かる。これに対し、本発明の範囲を含むAu電極厚み/水晶片厚みが、0.1840、0.2030、0.2143の各水準の水晶振動子のCIは、20数Ω以下であり、特に本発明の範囲のものは、ほぼ20Ω以下であることが分かる。
上記した追加の実験結果及びCIの評価結果各々からしても、t/Tは、0.026~0.030が良く、より好ましくは、t/Tは0.027~0.029が良いことが分かる。
【0034】
3-2.t/Tについての第2の実験
上記の第1の実験では水晶片として第1の実施形態の水晶片20を用いていたのに対し、第2の実験では第2の実施形態の水晶片24を用いた。それ以外は、上記の第1の実験と同様にして複数水準の水晶振動子を作製し、それら水晶振動子の上記ΔFをそれぞれ求め、ΔFとt/Tとの関係をプロットした。図6(B)は、このプロット図である。
そして、第1の実験と同様に近似式を求めて、ΔFとt/Tとの関係を求め、さらに、ΔFが±6ppmを満足できるt/Tと、ΔFが±4ppmを満足できるt/Tをそれぞれ求めた。
その結果、水晶片24を用いた場合も、ΔFが±6ppmを満足できるt/Tは0.026~0.030であり、ΔFが±4ppmを満足できるt/Tは0.027~0.029であることが分かった。
第1の実験結果及び第2の実験結果から、水晶片のZ′軸に交差する側面の構造が変わっても、好ましいt/Tの範囲は変わらないと言える。
また、水晶片24を用い、上記の第1の実験に対する追加の実験と同様に、Au電極厚み/水晶片厚みが、0.0092の場合、0.0153の場合、及び、0.0206の場合各々の水準で水晶振動子を試作し、それら水晶振動子についてドライブレベル特性を測定した。また、CIの評価も実施した。その結果、水晶片24を用いた場合も、上記の図13(A)及び(B)を用いて説明したと同様な結果が得られた。すなわち、水晶片のZ′軸に交差する側面の構造が変わっても、上記の図13(A)及び(B)を用いて説明したと同様な結果が得られることが分かった。
【0035】
3-3.第3の実験(別の観点であるm/Mからの考察)
上記した実験1、実験2では、t/Tについて考察したが、水晶片の質量に対する励振用電極の質量をパラメータとしてドライブレベル特性の良好な範囲を考察したところ、以下のような結果になった。具体的には、第1の実験で作製した水晶振動子及び第2の実験で作製した水晶振動子について、水晶片の励振用電極を設けた領域における水晶の質量をMと表し、前記領域における前記表裏の励振用電極の質量をmと表したとき、両者の比であるm/Mと、ΔFとの関係を検討した。なお、励振電極の質量mとは、この場合は、Au電極の質量である。
図7(A)は、水晶片20を用いた場合のΔFとm/Mとの関係をプロットした図であり、図7(B)は、水晶片24を用いた場合のΔFとm/Mとの関係をプロットした図である。
このプロット図を基に、m/MとΔFとの近似式をそれぞれ求め、かつ、ΔFが±6ppmを満足できるm/Mと、ΔFが±4ppmを満足できるm/Mをそれぞれ求めた。
その結果、水晶片20を用いた場合、水晶片24を用いた場合いずれも、ΔFが±6ppmを満足できるm/Mは0.192~0.216であり、ΔFが±4ppmを満足できるm/Mは0.199~0.209であることが分かった。
また、水晶片20及び水晶片24各々も用いた上記した追加の実験結果について、t/Tの代わりに、m/Mに着目して、m/MとΔFとの関係、m/MとCIとの関係についてそれぞれ検討した。すなわち、m/Mが、0.00667、0.1118及び0.1501と、小さい水準について、DLD特性とCIとについて検討した。図14(A)及び(B)はそれら検討結果を図13(A)及び(B)と同様にまとめて示したものである。
図14(A)及び(B)から、m/Mが、0.00667、0.1118及び0.1501と小さい水準では、CIが大きくなることが分かる。
従って、水晶片20を用いた場合、水晶片24を用いた場合であって、m/M着目した場合も、ΔFが±6ppmを満足できるm/Mは0.192~0.216であり、ΔFが±4ppmを満足できるm/Mは0.199~0.209であることが分かる。
【0036】
3-4.水晶片の大きさ依存性についての考察
水晶片の大きさが変わると、この発明で主張するt/Tやm/Mの効果が無くなってしまうか否かについて、考察した。図8(A)及び(B)はその説明図である。図8(A)、(B)において、横軸は、水晶片の短辺寸法と長辺寸法との比、すなわち辺比であり、縦軸は上記したΔFである。具体的には、図8(A)は、第1実験で用いた各種の水晶片の短辺寸法/長辺寸法とΔFとの関係をプロットした図、図8(B)は、第2実験で用いた各種の水晶片の短辺寸法/長辺寸法とΔFとの関係をプロットした図である。
図8(A)及び(B)から、水晶片の短辺寸法/長辺寸法と、ΔFとの相関は無いことが分かる。むしろ、t/Tが0.0279の水晶振動子のグループのΔFは±2ppmの中に分布していることから、第1実験や第2実験で考察して好ましいと判断した、t/Tの範囲であると、ΔFを小さくできることが、図8(A)、(B)からも理解できる。
【0037】
3-5.励振用電極の大きさ依存性についての考察
励振用電極の大きさが変わると、この発明で主張するt/Tやm/Mの効果が無くなってしうのか否かについて、次のように実験し考察した。ただし、この実験では、水晶片として、長辺寸法が0.745mm、短辺寸法が0.514mmのものを用いた。しかも、この水晶片の表裏に設ける励振用電極は、図9に13個の点で示したように、長辺寸法が0.434mm、短辺寸法が0.308mmを中心として、励振用電極の長辺寸法を複数水準、短辺寸法を複数水準変えたものとした。しかも、励振用電極は、t/Tがこの発明の範囲内である0.0279(実施例という)、t/Tがこの発明の範囲外である0.0199(比較例1という)、t/Tがこの発明の範囲外である0.0167(比較例2という)の3種類となるようにした。そして、このような水晶片を用いて、実験用の複数水準の水晶振動子を作製した。なお、ここで用いた水晶片は、水晶振動子の容器の外形サイズが1mm×0.8mmのもの、すなわち1008サイズの容器に実装できる水晶片である。
次に、上記試作した水晶振動子それぞれについて、実験1と同様の手順でドライブレベル特性、すなわちΔFについての特性を求めた。そして、ΔFと励振用電極の大きさとの関係を、プロットした。
【0038】
図10図11は、このようにプロットした特性図である。具体的には、図10は、励振用電極の長辺寸法とΔFとの関係をプロットした図であり、図11は、励振用電極の短辺寸法とΔFとの関係をプロットした図である。
図10図11それぞれから、t/Tが本発明の範囲である実施例(図10(A)、図11(A)参照)では、励振用電極の長辺寸法や短辺寸法を変えても、ΔFは好ましい範囲内にてほぼ一定であり変動しないことが分かる。これに対し、比較例1、比較例2では、いずれも、励振用電極の長辺寸法や短辺寸法が変わると、ΔFが変動することが分かる。しかも、比較例1及び比較例2いずれも、ΔFは±6ppmは4ppmの範囲から逸脱していることも分かる。
従って、t/Tやm/Mが本発明で主張する範囲であると、励振用電極の大きさが変わってもΔFの変動が小さい状態を維持できることが分かる。すなわち、本発明は、励振用電極の大きさ依存性が小さいので、好ましい。
【0039】
4. 水晶振動子の製造方法
上記した説明から、厚み滑りモードで振動する水晶振動子であって、DLD特性に優れる水晶振動子を製造する好ましい方法として、以下の方法が挙げられる。すなわち、水晶片の厚みをTと表し,この水晶片の表裏に設ける励振用電極の合計の厚みをtと表したとき、これらt及びTに着目して以下の工程を含む方法で水晶振動子を製造する。以下、その実施形態について、図12に示したフローチャートを参照して説明する。
厚み滑りモードで振動する厚みがTの複数の水晶片を用意し、そしてその両面に、励振用電極であって両面の厚みの合計が厚みtn1である励振用電極を形成する(図12のステップS1)。また、第1の水晶片と厚みが同様だが、水晶片の両面に形成する励振用電極は、その両面の厚みの合計が厚みtn2(≠tn1)である励振用電極を形成する。同様に、第1の水晶片と厚みが同様の第nグループの水晶片の両面に、励振用電極であって両面の厚みの合計が厚tnn(≠tn1、tn2)である励振用電極を形成する(図12のステップS2)。
【0040】
そして、励振用電極の形成が済んだ上記のn種のグループの水晶片を、容器に実装して図1に示した構造の水晶振動子を形成する(図12のステップS3)。次に、これら水晶振動子それぞれのドライブレベル特性を測定する(図12のステップS4)。
次に、この測定したドライブレベルからこれら水晶振動子ごとの例えば上記したΔF(印加電力が10μWと300μW各々の周波数差)を求め、次に、各水晶振動子のΔFとt/Tとの関係をプロットして、ΔFが所定範囲、例えば上記した±6ppmとなるt/Tを抽出することによって、励振用電極の適正な厚みtを抽出する(図12のステップS5)。tから換算可能な質量mを抽出しても良い。なお、質量は、励振用電極の厚みと励振用電極を構成している材料の密度とにより求めることが出来る。
次に、励振用電極の厚みが上記抽出した厚みtとなるように、水晶片に励振用電極を形成し(図12のステップS6)、次に、この水晶片を容器に実装して目的とする水晶振動子を得る(図12のステップS7)。
このように製造した水晶振動子は、t/T(m/M)が本発明で主張する適正範囲になっているので、DLD特性にすぐれる水晶振動子が得られる。
【0041】
5. 変形例
上述においては、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は以下のような変形例においても実施形態の場合と同様な効果が期待できる。
実施形態では長辺が水晶のX軸に平行で、短辺がZ′軸に平行なATカットの水晶片の例を示したが、長辺が水晶のZ′軸に平行で短辺が水晶のX軸に平行なATカットの水晶片でも本発明の効果は得られる。
また、厚み滑りモードで振動する水晶片としてATカットの水晶片を用いたが、厚み滑りモードで振動する他の水晶片、例えばSCカットに代表される2回回転水晶片でも本発明の効果が期待できる。
また、水晶片の形状及び励振用電極の形状を平面視で長方形状の例を示したが、水晶片の形状及び又は励振用電極の形状は、正方形、円形、楕円形等、他の形状でも同様の効果が期待できる。
また、励振用形状の構成材料はクロム、金に限られず、他の任意好適な材料でも良い。また、水晶片の表裏に設ける励振用電極は互いが非対向の場合でも良い。
また、水容器として凹部を有したセラミック製の容器を用いる例を説明したが、容器の構造はこの例に限られない。例えば平板状のセラミック基板に水晶片を実装し、この水晶片をキャップ状の蓋部材で封止する容器の構造や、金属製のかつリードタイプの容器構造でも良い。
また、発振周波数が76~80MHzの水晶振動子を例に挙げて説明したが、他の周波数帯の水晶振動子に対しても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0042】
10:第1の実施形態の水晶振動子 20:第1の実施形態の水晶片、
21a:第1の励振用電極 21b:第2の励振用電極
23:引き出し電極 30:容器
30a:凹部 31a,31b:接続パッド
33a:33b:外部接続端子 41:導電性接着剤
43:蓋部材
24:第2の実施形態の水晶片 25:第3の実施形態の水晶片
26:第4の実施形態の水晶片 27:第5の実施形態の水晶片
28:第6の実施形態の水晶片 27x、28x:凸部
50:水晶振動子中間体 50a:桟
50b:ブリッジ 51:水晶振動片
T:水晶片の厚み t:励振用電極の厚み
t1:第1の励振用電極の厚み t2:第2の励振用電極の厚み
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