(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182993
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】光エミッタ、通信システム、および方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/532 20130101AFI20221201BHJP
H04L 9/12 20060101ALI20221201BHJP
H04B 10/70 20130101ALI20221201BHJP
【FI】
H04B10/532
H04L9/12
H04B10/70
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022044921
(22)【出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】2107708.6
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ロバート イアン ウッドワード
(72)【発明者】
【氏名】ジリアン ユアン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェームス シールズ
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA51
5K102AB11
5K102PB03
5K102PH22
5K102PH24
5K102PH33
5K102PH49
5K102RD27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光の偏光状態は、情報を符号化するために変調することができる一般的な光学特性の一つである。本技術分野で使用される光送信機を提供する。
【解決手段】マスタレーザと複数のスレーブレーザとを備える光エミッタであって、各スレーブレーザはマスタレーザに光注入同期され、スレーブレーザのうちの少なくとも1つのスレーブレーザの出力の偏光を制御する少なくとも1つの偏光コントローラ121、123、125と、、スレーブレーザモジュールの出力を1つの出力信号に合成する偏光合成光学素子139と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次レーザと複数の二次レーザとを備える光エミッタであって、各二次レーザは前記一次レーザに光注入同期され、前記光エミッタは、前記二次レーザのうちの少なくとも1つの二次レーザの出力の偏光を制御するように構成された少なくとも1つの偏光コントローラをさらに備え、
前記光エミッタは、前記二次レーザの出力を1つの出力信号に合成するように構成された合成ユニットをさらに備える、光エミッタ。
【請求項2】
前記一次レーザおよび前記二次レーザは、光パルスを出力するように構成されたパルスレーザである、請求項1に記載の光エミッタ。
【請求項3】
前記出力信号がパルスのシーケンスを備えるように一度に前記出力信号を与えるべき前記複数の二次レーザのうちの1つを選択するように構成された選択ユニットをさらに備え、前記シーケンスは、前記パルスの偏光がパルスごとに変化するように前記二次レーザの前記出力間でランダムにスイッチする、請求項2に記載の光エミッタ。
【請求項4】
前記一次レーザおよび前記複数の二次レーザは、利得スイッチレーザである、請求項3に記載の光エミッタ。
【請求項5】
前記一次レーザは、パルス間にランダム位相を有するパルスを放出するように制御される、請求項4に記載の光エミッタ。
【請求項6】
前記選択ユニットは、前記選択された二次レーザの利得をそのレージングしきい値より上になるように制御するように構成された利得制御ユニットを備える、請求項4または5に記載の光エミッタ。
【請求項7】
前記利得制御ユニットは、選択されていない二次レーザをそのレージングしきい値より下に保持するように構成されている、請求項6に記載の光エミッタ。
【請求項8】
前記利得制御ユニットは、前記一次レーザおよび前記複数の二次レーザを制御するように構成されている、請求項3乃至7のいずれか一項に記載の光エミッタ。
【請求項9】
前記利得制御ユニットは、選択された第2の二次レーザが前記一次レーザからパルスを受信するときまたは受信した直後に、前記選択された第2の二次レーザの前記利得をそのレージングしきい値より上に増加させるように構成されている、請求項8に記載の光エミッタ。
【請求項10】
前記光エミッタによって出力された前記パルスを、平均して1光子未満を含むように減衰させるように構成された減衰器をさらに備える、請求項2乃至9のいずれか一項に記載の光エミッタ。
【請求項11】
前記一次レーザの出力を前記二次レーザの各々に接続するように構成された光パワースプリッタをさらに備える、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光エミッタ。
【請求項12】
前記二次レーザは、固定偏光レーザである、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光エミッタ。
【請求項13】
前記偏光コントローラは、波長板、偏光維持光ファイバ、またはその偏光軸が少なくとも1つの他の二次レーザに対して回転されるように前記二次レーザのうちの1つを取り付けるように構成されたマウントから選択される、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の光エミッタ。
【請求項14】
前記光エミッタは、偏光パルスを出力するように構成されており、ここで、前記偏光は、2つの偏光基底からランダムに選択される、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の光エミッタ。
【請求項15】
4つの二次レーザを備え、前記光エミッタは、各二次レーザからの出力が、前記合成ユニットにおいて受信されたときに4つの偏光状態のうちの1つとなるように構成されており、前記4つの偏光状態は、第1の偏光基底を形成する2つの直交状態と前記第1の偏光基底とは異なる第2の偏光基底を形成する2つの直交状態である、請求項14に記載の光エミッタ。
【請求項16】
請求項14または15のいずれかに記載の光エミッタ、および受信機を備える量子通信システムであって、前記受信機は、前記光エミッタからパルスを受信し、前記パルスを第1または第2の偏光基底で測定するように構成されている、量子通信システム。
【請求項17】
前記受信機は、前記偏光基底を受動的に選択するように構成されている、請求項16に記載の量子通信システム。
【請求項18】
前記受信機は、偏光ビームスプリッタと、各偏光基底について前記偏光ビームスプリッタの出力を測定するように構成された検出器とを備える、請求項16または17に記載の量子通信システム。
【請求項19】
異なる偏光状態を有する光信号を放出する方法であって、
一次レーザから光信号を放出することと、
前記一次レーザからの前記光信号が複数の二次レーザを光注入同期するように、前記一次レーザからの前記光信号を前記複数の二次レーザにおいて受信することと、
前記二次レーザの出力を1つの出力信号に合成することと、
を備え、
前記二次レーザのうちの少なくとも1つの二次レーザの出力は、合成より前に少なくとも1つの他の二次レーザの出力に対して偏光が回転される、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法にしたがって異なる偏光状態を有する光信号を放出することと、ここにおいて、前記偏光状態は、2つの偏光基底からランダムに選択され、
異なる偏光状態を有する前記光信号を受信機において受信し、前記受信機において前記偏光基底を変化させることと、
を備える、量子通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施形態は、光エミッタ、通信システム、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子通信システムでは、情報は、単一光子など、符号化された単一量子によって送信機と受信機との間で送られる。各光子は、偏光などの光子の特性上に符号化され得る1ビットの情報を搬送する。
【0003】
量子鍵配送(QKD)は、多くの場合「アリス」と呼ばれる送信機と、多くの場合「ボブ」と呼ばれる受信機の二者間での暗号鍵の共有をもたらす技法である。この技法の魅力は、多くの場合「イブ」と呼ばれる承認されていない盗聴者に、鍵の一部が知られた可能性があるかどうかのテストを提供するということである。量子鍵配送の多くの形態で、アリスとボブは、ビット値を符号化するための2つ以上の非直交基底を使用する。量子力学の法則によれば、イブが各々の符号化基底を事前に知ることなく光子を測定すると、一部の光子の状態の変化を不可避的に引き起こすとされている。これらの光子の状態の変化により、アリスとボブとの間で送信されるビット値に誤りが生じることになる。したがって、それらの共通のビット列の一部を比較することによって、アリスとボブは、イブが情報を得たかどうかを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るエミッタの概略図である。
【
図2】
図2は、一次レーザおよび二次レーザ配置の概略図である。
【
図3A】
図3Aは、一次レーザおよび二次レーザを駆動するための利得変調回路の概略図である。
【
図3B】
図3Bは、一連の5つの時間依存プロットであり、一番上のプロットから順番に、一次レーザの変調、一次レーザのキャリア密度、一次レーザの出力、二次レーザの変調、および二次レーザの出力である。
【
図4】
図4は、
図1のエミッタのためのコントローラの概略図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る量子通信システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
一実施形態では、一次レーザと複数の二次レーザとを備える光エミッタが提供され、各二次レーザは該一次レーザに光注入同期され、エミッタは、二次レーザのうちの少なくとも1つの二次レーザの出力の偏光を制御するように構成された少なくとも1つの偏光コントローラをさらに備え、
本エミッタは、二次レーザモジュールの出力を1つの出力信号に合成するように構成された合成ユニットをさらに備える。
【0006】
上記配置は、二次レーザ(正式名称にしたがい「スレーブレーザ」と呼ばれるときもある)のアレイが、共通の一次レーザ(正式名称にしたがい「マスタレーザ」と呼ばれるときもある)からの光によってシードされ、よって注入同期される、光注入同期(optical injection locking)を使用する。二次レーザの各々を同じ一次レーザと光注入同期することによって、各二次レーザは、同一波長を有する放射を出力する。そのため、二次レーザの出力同士をそれらの波長のわずかな変動により区別することは不可能である。量子通信では、放射のパルスは、異なる偏光で準備および符号化される。上記配置では、各二次レーザは、1つの偏光を有するパルスを生成するのに使用され得る。二次レーザの出力が偏光を除いて同一である場合、レーザの波長の変動から偏光についての情報を取得することは不可能である。
【0007】
二次レーザのアレイが一次レーザとの光注入同期なしに動作された場合、レーザ出力間のわずかな変動に起因して許容不可能なサイドチャネル情報漏洩が起きることになる。光注入同期がないと各レーザは個別に動作し、構成部品にわずかな変動(例えば、材料特性または幾何学的配置の変動)があると、レーザ特性(例えば波長)の測定可能な相違を招く可能性がある。さらに、時間的ジッタは、ランダムな自然放出によってシードされるパルスの性質から発生するものであるが、二次レーザが注入同期されない場合、高クロック速度システムについてのタイミング誤差を誘発する可能性がある。
【0008】
一実施形態では、一次レーザおよび二次レーザはパルスレーザである。
【0009】
さらなる実施形態では、本エミッタは、出力信号がパルスのシーケンスを備えるように一度に出力信号を与えるべき該複数の二次レーザのうちの1つを選択するように構成された選択ユニットをさらに備え、ここにおいて、シーケンスは、パルスの偏光がパルスごとに変化するように二次レーザの出力間でランダムにスイッチする。
【0010】
一実施形態では、一次レーザおよび複数の二次レーザは、利得スイッチレーザである。さらに、一次レーザは、パルス間にランダム位相を有するパルスを放出するように制御され得る。
【0011】
例えば、選択ユニットは、該複数の二次レーザのうちの1つをアクティブ化することによって、該複数の二次レーザのうちの1つを選択するように構成され得る。二次レーザのアクティブ化は、利得をレーザにそのレージングしきい値より上になるように適用することを備える。また選択ユニットは、選択されていないレーザをそのレージングしきい値より下に保持するように利得を適用するようにも構成され得る。
【0012】
本光エミッタは、一次レーザの出力を二次レーザの各々に接続するように構成された光パワースプリッタを備え得る。
【0013】
さらに、一実施形態では、二次レーザは固定偏光レーザである。しかしながら、固定偏光出力状態を有さないレーザを使用し、非固定偏光レーザの後に偏光器を使用して同様の結果を達成することが可能である。偏光コントローラにより、1つのレーザから出力されたパルスの偏光が、他のレーザによって出力されたパルスに対して回転されることが可能となる。偏光コントローラは、波長板、偏光維持光ファイバ、またはさらには二次レーザの偏光軸が互いに対して回転されるように二次レーザのうちの1つまたは複数を保持するマウントから選択され得る。二次レーザ自体は、エミッタによって出力された偏光の所望の相違を可能にするように配置または回転され得る。
【0014】
上記実施形態は、調整可能な偏光を有する光パルスを放出するエミッタを提供する。調整可能な偏光を有する光パルスは、能動光変調器を用いず、全パルスについて同一波長を有するように生成され得る。
【0015】
調整可能な偏光を有する光パルスの光源は、光パルスを生成するために選択的に励起される別個の偏光状態を有する複数の多重レーザ光源を備え、ここで、これらのレーザは、共通の波長を定義する共通の一次光源に注入同期される。
【0016】
一実施形態では、本光エミッタは、4つの二次レーザを備え、本エミッタは、各二次レーザからの出力が合成ユニットにおいて受信されたときに4つの偏光状態のうちの1つとなるように構成されており、4つの偏光状態は、第1の偏光基底を形成する2つの直交状態と第1の偏光基底とは異なる第2の偏光基底を形成する2つの直交状態である。上記エミッタは、量子通信のために使用することができる。本エミッタは、平均して1光子以下を備えるように、エミッタを出るパルスを減衰させるように構成された減衰器をさらに備える。
【0017】
本エミッタは、量子通信システムで使用することができ、ディスクリート光ファイバ、自由空間光通信、またはさらにはオンチップ配置を使用して実現することができる。
【0018】
一実施形態では、上記エミッタおよび受信機を備える量子通信システムが提供され、該受信機は、該エミッタからパルスを受信し、該パルスを第1または第2の偏光基底で測定するように構成されている。
【0019】
受信機は、偏光基底を受動的または能動的に選択するように構成され得る。例えば、受動的選択では、基底の選択時に可動部の制御はない。選択は、第1の基底で測定するように構成された第1の測定システムまたは第2の基底で測定するように構成された第2の測定システムのいずれかに向けて単一光子をランダムに方向付けるビームスプリッタによって提供され得る。各測定システムは、偏光ビームスプリッタと、偏光基底について該偏光ビームスプリッタの出力を測定するように構成された検出器とを備え得る。
【0020】
さらなる実施形態では、異なる偏光状態を有する光信号を放出する方法が提供され、本方法は、
一次レーザから光信号を放出することと、
該一次レーザからの光信号が複数の二次レーザを光注入同期するように、該一次レーザからの該光信号を該複数の二次レーザにおいて受信することと、
二次レーザの出力を1つの出力信号に合成することと、
を備え、
二次レーザのうちの少なくとも1つの二次レーザの出力は、合成より前に少なくとも1つの他の二次レーザの出力に対して偏光が回転される。
【0021】
さらなる実施形態では、量子通信方法が提供され、本方法は、
上記方法にしたがって、異なる偏光状態を有する光信号を放出することと、ここにおいて、偏光状態は、2つの偏光基底からランダムに選択され、
異なる偏光状態を有する光信号を受信機において受信し、受信機において偏光測定基底を変化させることと、を備える。
【0022】
上記は多くの使用用途を有し、高クロックレートの符号化された情報を有する光パルスの生成は、光通信のための鍵構築ブロックである。光の偏光状態は、情報を符号化するために変調することができる最も一般的な光学特性の1つである(例えば、偏光シフトキーイング)。実用的な通信システムの用途のためには、光送信機は、簡単、小型、低コストであり、かつ低消費電力であるべきである。上記実施形態は、本技術分野の技術水準を簡単にし、よって、多くの通信分野で使用することができる。
【0023】
また、偏光変調レーザ光源が様々なセンシングおよびイメージング用途のために必要であり、それら用途では、試料の光に対する応答が、その構造または特性についての情報を推論するために偏光の関数として測定される(例えば、偏光変調赤外反射吸収分光(PM-IRRAS))。
【0024】
上記エミッタは、多くのQKDシステムにおいて使用することができる。例えば、上記は、偏光符号化量子鍵配送(QKD)および偏光符号化測定装置無依存量子鍵配送(MDI QKD)デバイスにおいて使用することができる。偏光符号化は、衛星QKDなどの自由空間QKD用途で特に重要である。
【0025】
図1は、一実施形態に係るエミッタの概略図である。エミッタは、「マスタレーザ」と呼ばれるときもある一次レーザ101を備える。一次レーザ101は、この実施形態では偏光ビームを光パワースプリッタ103に出力し、光パワースプリッタ103は、一次レーザ101からの入射を4つの別個の出力チャネルに分割する。次いで、出力チャネルの各々は、二次レーザ105、107、109、および111内に方向付けられる。二次レーザは、スレーブレーザと呼ばれるときもある。
【0026】
一次レーザ101がどのように放射を出力するか、および二次レーザ105、107、109、111の出力をシードするためにこれがどのように使用されるかについての詳細を、
図2、
図3A、および
図3Bを参照して詳述する。この実施形態では、一次レーザは、パルスレーザであり、パルス放射を出力する。パルスレーザを使用すると、一部のQKDプロトコルのためのセキュリティに有用であるパルス間の位相ランダム化が可能となる。しかしながら、一部のプロトコルは、パルス間の位相ランダム化を必要とせず、連続波(CW)レーザを使用して実現することもできる。よって、他の実施形態では、一次レーザはCWレーザであってよい。
【0027】
光パワースプリッタ103からの第1のチャネル113は、第1の二次レーザ105に通じる。この特定の実施例では、一次レーザ101は、水平に偏光された放射を出力する。一次レーザの偏光は、光パワースプリッタ103を通過するとき保たれ、レーザに向けて方向付けられる。一次レーザパルスを第1の二次レーザ105へとシードすると、第1の二次レーザが、水平に偏光された放射であるパルスを出力チャネル131に沿って出力することになる。
【0028】
光パワースプリッタ103からの第2のチャネル115は、一次レーザ101からのパルスを第2の二次レーザ107に方向付ける。第2の二次レーザ107は、一次レーザ101から光パワースプリッタ103および第2のチャネル115を介して、水平に偏光されたパルスを受信する。次いで、第2の二次レーザ107は、第2の二次レーザ107をシードする一次レーザからのパルスを受信したことに応答して、水平に偏光されたパルスを出力する。次いで、第2の二次レーザ107の出力は、偏光コントローラ121を通過する。この実施形態では、偏光コントローラ121は、22.5°の角度の半波長板である。これにより、水平に偏光されたパルスを対角に偏光されたパルスに変換し、それらを第2の出力チャネル133に沿って出力する結果となる。
【0029】
光パワースプリッタ103からの第3のチャネル117は、一次レーザ101からのパルスを第3の二次レーザ109に方向付ける。第3の二次レーザ109は、一次レーザ101から光パワースプリッタ103および第3のチャネル117を介して、水平に偏光されたパルスを受信する。次いで、第3の二次レーザ109は、第3の二次レーザ109をシードする一次レーザからのパルスを受信したことに応答して、水平に偏光されたパルスを出力する。次いで、第3の二次レーザ109の出力は、偏光コントローラ123を通過する。この実施形態では、偏光コントローラ123は、45°の角度の半波長板である。これにより、水平に偏光されたパルスを垂直に偏光されたパルスに変換し、それらを第3の出力チャネル135に沿って出力する結果となる。
【0030】
光パワースプリッタ103からの第4のチャネル119は、一次レーザ101からのパルスを第4の二次レーザ111に方向付ける。第4の二次レーザ111は、一次レーザ101から光パワースプリッタ103および第4のチャネル119を介して、水平に偏光されたパルスを受信する。次いで、第4の二次レーザ111は、第4の二次レーザ111をシードする一次レーザからのパルスを受信したことに応答して、水平に偏光されたパルスを出力する。次いで、第4の二次レーザ111の出力は、第4の出力チャネル137に沿って偏光コントローラ125を通過する。この実施形態では、偏光コントローラ125は、67.5°の角度の半波長板である。これにより、水平に偏光されたパルスを反対角に偏光されたパルスに変換し、それらを第4の出力チャネル137に沿って出力する結果となる。反対角に偏光されたパルスは、偏光コントローラ121によって生成される対角に偏光されたパルスに対して直交している。
【0031】
第1の出力チャネル131、第2の出力チャネル133、第3の出力チャネル135、および第4の出力チャネル137は、第1~第4の二次レーザ105、107、109、および111からの出力パルスを合成光学素子(combination optics)139に送出する。
【0032】
次いで、合成光学素子139は、4つの出力チャネルからの偏光されたパルスを合成し、パルスの流れを出力し、ここで、パルスの流れのうちの各パルスは、4つの出力チャネルのうちの1つから到来している。
【0033】
第1~第4の入力チャネル113、115、117、および119と、第1~第4の出力チャネル131、133、135、および137とは、自由空間光通信、光ファイバ、または自由空間光通信と光ファイバの混合物によって提供されてもよい。
【0034】
光パワースプリッタ103は、1:4光パワー分割器によって提供されてもよいし、または、入力光を、偏光状態が影響を受けず、かつ各出力について等しい状態で4つの入力チャネル113、115、117、および119のための4つの等しい入力に分割するための複数の縦列ビームスプリッタを備えてもよい。
【0035】
偏光コンバイナ139は、4つの出力チャネル131、133、135、および137からのパルスを単一の空間モードに合成するように構成されている。これは、例えば縦列ビームスプリッタなどの受動部品を使用して達成してもよい。
【0036】
4つの出力チャネル131、133、135、および137内に、偏光コントローラ121、123、および125が、半波長板の形態で設けられる。しかしながら、すべてのファイバ構成において、偏光コントローラ121、123、および125は、波長板の代わりに偏光維持ファイバによって提供されてもよく、ここで、直線偏光状態は偏光維持ファイバの複屈折軸の向きに関連している。
図1では、偏光コントローラは、第2~第4の出力チャネル内に設けられている。しかしながら、合成光学素子139における合成のために必要な偏光を取得するために、偏光コントローラが全出力チャネル内に設けられてもよい。必要な偏光は、エミッタの使用目的によって設定されることになる。量子通信の場合、典型的には、エミッタは、1つまたは複数の直交基底から選択された偏光を有するパルスのシーケンスを放出することが必要となる。
【0037】
図1は、一次レーザ101がパワースプリッタ103を介して4つの二次レーザ105、107、109、111に出力することを示す。一次レーザ101を介して二次レーザをシードするプロセスを説明するために、単一の一次レーザ101および単一のパワースプリッタ103のみについて説明する。しかしながら、実施形態では、1つの一次レーザが複数の二次レーザをシードすることが理解されよう。
【0038】
図2の簡易化した配置では、一次レーザ403は、一次光パルスと呼ばれる光パルスのシーケンスを生成する。各一次光パルスの位相は、後続して生成される各一次光パルスの位相に対してランダム関係を有する。
図2では、一次レーザ403は、パルスのトリプレットによって表されるランダムな電磁位相φ
1、φ
2、φ
3、…と、大きい時間ジッタτとを有するパルス列を生成する。パルスのトリプレットは、光パルスが第1、第2、または第3のトリプレットパルスの時間に放出された可能性があるということを表し、それがどの時間に放出されるかは知られていない。次いで、一次パルスは、二次レーザ402内に「シード」として注入され、パルス注入シーディング(pulsed injection seeding)をもたらす。二次光源のキャビティに一次光パルスが存在することは、二次光パルスが、自然放出ではなく、刺激された放出によって開始されることを意味する。
【0039】
換言すれば、一次光パルスは、一次レーザ403から放出され、第1のアパーチャを通って二次レーザ402に入る。一次レーザ403からの光は、二次レーザ402の光キャビティに入り、二次レーザ402のパルス注入シーディングを引き起こす。パルス注入シーディングという用語は、レーザシーディングまたはレーザ以外の光源によるシーディングを指すことができる。二次光パルスが、パルス注入シーディングにより生成され、二次光源402の第2のアパーチャから放出される。
【0040】
この実施形態では、一次レーザ403は、互いにランダム位相関係を有する光パルスを出力するように構成されており、これは、各二次光パルスも、後続して生成される各二次光パルスに対してランダム位相を有することを意味する。パルス注入シーディングは、二次レーザ402がレージングしきい値より上にスイッチされるたびに生じる。この場合、生成された二次光パルスは、注入された一次光パルスに対して固定位相関係を有する。注入された各一次光パルスについて1つのみの二次光パルスが生成されるので、各二次光パルスは、後続して生成される各二次光パルスに対してランダム位相関係を有する(これは、各一次光パルスが、後続して生成される各一次光パルスに対してランダム位相関係を有するためである)。
【0041】
図3Aおよび
図3Bに関連して以下で説明する動作条件下で、二次レーザ402は、新たなパルス列を生成し、これは、依然としてランダムな電磁位相φ
1’、φ
2’、φ
3’を示す。これらのパルスはまた、一次レーザ403によって出力されたパルスに対してより小さい時間ジッタτ’<τを有する。低減されたジッタ時間は、二次光パルスの低い時間ジッタに起因して干渉可視性を改善する。低減されたジッタにより、到着時間の不確実性が低減されるので、(量子ビット誤り率によって定量化される)検出ノイズも低減する。
【0042】
また、各二次レーザの位相はランダムであり、すなわち、エミッタから出力される各パルスはランダム位相を有する。この実施形態は「偏光符号化」QKDのために使用され得るので、位相の実際値は重要ではない。したがって、二次レーザが(例えば、わずかに異なる経路長に起因して)パルス間に位相オフセットを有するパルスを生成するかどうかは関係ない。この理由は、4つの「分岐」からの1つのみのパルスが各ビットのための出力としてみなされ、すべての4つの分岐がランダム位相を有する限り、これは問題ないからである。
【0043】
位相ランダム化を達成するために、一次レーザに印加される電気駆動信号は、例えば、一次レーザキャビティ内のキャリアのための励起の合間の時間が空になることを可能にするように適合されており、その結果、次のパルスは、残留励起ではなく自然放出によってシードされる。次いで、二次レーザは、一次レーザによって同期され、一次レーザに対する固定位相オフセットを獲得する(これは光注入同期の性質である)。一次レーザの位相がランダムである限り、そこからの固定オフセットもランダムである。
【0044】
注入同期が生じるためには、フリーランニング二次レーザ周波数402(レーザキャビティ材料/幾何学的配置によって設定される)は、一次光周波数のある特定の範囲内にあるべきである。
【0045】
これは、注入同期が生じるための条件である。条件を満たしたとき、二次レーザ周波数は、一次レーザの周波数に等しくなるように変化する(その結果、一次および二次放出は全く同じ周波数である)。
【0046】
条件を満たさない場合、すなわち、一次および二次レーザがあまりに異なるので開始できない場合、注入同期は失敗となり、異なる周波数でレージングすることになり、これは、盗聴者が周波数から状態を決定し、ひいては「サイドチャネル」情報を取得することが可能となる。1つの実施形態では、一次レーザ403によって供給される光の周波数と二次レーザ402の周波数との差は、30GHz未満である。いくつかの実施形態では、二次レーザ402が分布帰還型(DFB:distributed feedback)レーザダイオードである場合、周波数の差は100GHz未満である。
【0047】
パルス注入シーディングの成功のためには、二次レーザ402の光キャビティに入る一次光パルスの相対パワーは、使用される光源のタイプに依存するある特定の限界内にある必要がある。1つの実施形態では、注入された一次光パルスの光パワーは、二次レーザ402の光出力パワーの少なくとも1000分の1である。1つの実施形態では、注入された一次光パルスの光パワーは、二次レーザ402の光出力パワーの少なくとも100分の1である。
【0048】
1つの実施形態では、二次レーザ402および一次レーザ403は、電気的に駆動される利得スイッチ半導体レーザダイオードである。1つの実施形態では、二次光源および一次光源は、同じ帯域幅を有する。1つの実施形態では、両方の光源は、10GHzの帯域幅を有する。1つの実施形態では、両方の光源は、2.5GHzの帯域幅を有する。ここで、帯域幅とは、直接変調されている利得スイッチレーザダイオードを用いて達成可能な最も高いビットレートを意味する。ある特定の帯域幅のレーザは、より低いクロックレートで動作することができる。
【0049】
図3Aは、一次レーザ503および二次レーザ502の両方が単一の利得変調ユニット509を用いて駆動される位相ランダム化光源500のための駆動方式の概略図である。利得変調ユニット509および遅延線510は、一次光パルスが受信される各時間期間中に1つのみの光パルスが生成されるように時変駆動信号を二次レーザ502に印加するように構成されたコントローラの一例である。一次レーザ503は、光接続505を介して二次レーザ502に接続される。光接続505は、導波路、例えば光ファイバ(
図2に示す)であり得る。代替的に、光パルスは、自由空間を通って一次レーザ503と二次レーザ502との間を移動してよい。光接続は、光サーキュレータ、光アイソレータ(一次レーザを妨害し得る、後方反射が一次レーザに入るのを防止する)、またはビームスプリッタなどのさらなる構成部品を含んでよい。
【0050】
利得変調ユニット509は、光パルスを生成するために一次レーザ503および二次レーザ502の両方を駆動する。遅延線510は、装置を同期させるために使用される。遅延線は、例えば、固定長ケーブルであってよい。利得変調ユニットは、一次レーザ503に直接接続されている。例えば、一次レーザ503が半導体レーザである場合、利得変調回路は、一次レーザ503に電気的に接続される。利得変調ユニット509は、遅延線510を通して二次レーザ502に接続される。
【0051】
図3Bは、
図3Aに示す単一の利得変調方式のための時間的シーケンスを示す。上のグラフは、一次光源503に適用される利得変調を示す。レーザに印加される電流が垂直軸に、時間が水平軸に示される。利得変調は、矩形波の形態を有する時変駆動信号であり、これは一次光源に印加されると、キャリア密度をレージングしきい値より上および下に変化させる。換言すれば、利得変調は一連のパルスである。パルス間では、利得は最小値を有し、これは利得バイアスであり、点線によって示されている。この場合の波は、矩形波形である。例えば、正弦波または非周期的な時変信号など、異なる利得変調信号を使用することができる。この場合、電流は、電流変調パルス間でゼロに低減されず、バイアス値(点線で示す)に低減されるだけである。
【0052】
電流変調信号は、レーザに印加され、レーザの利得を周期的にレージングしきい値より上および下にスイッチする。2番目のグラフは、レーザのキャリア密度を垂直軸に示し、時間を水平軸に示す。レージングしきい値を、破線水平線で示す。電流変調パルスがレーザに印加されると、注入されたキャリアがキャリア密度を増加させ、光子密度が増加する。
【0053】
変調信号によって生成されるレーザ出力をその下のグラフに示す。垂直軸がレーザ強度を示し、水平軸は時間である。キャリア密度がレージングしきい値より上であるときに、レーザは光を出力する。レーザキャビティ内部での自然放出によって生成された光子が、刺激された放出によって十分に増幅されて出力信号を生成する。電流変調パルスの印加と出力光の生成との間の遅延の長さは、レーザタイプ、キャビティの長さ、およびポンピングパワーなどの、いくつかのパラメータに依存する。
【0054】
光子密度の急増により、キャリア密度の減少が生じる。これは次に光子密度を減少させ、これはキャリア密度を増加させる。この時点で、電流変調パルスは、DCバイアスレベルにスイッチバックして下がるように調時され、レーザ放出は迅速に停止する。したがってレーザ出力は、下のグラフに示すように短いレーザパルス列から成る。
【0055】
より長いパルスを生成するために、レージングしきい値により近くなるように利得バイアスが選択される。これは、キャリア密度がより早くにレージングしきい値と交差することを意味し、これは、発する時間をより多く光パルスに与える。最初に光強度がオーバーシュートし、迅速にキャリア密度を減少させる。これは次に、光子密度を減少させ、キャリア密度を増加させ、次に光強度を増加させる。この競争プロセスにより、パルスの初めに光強度の振動が生じ、これは強く減衰し、強度が一定である安定状態を迅速にもたらす。この振動を緩和振動と呼ぶ。電流パルスが終了し、電流を再びバイアス値にスイッチしたときに、レーザパルスは終了する。
【0056】
この下のグラフは、一次レーザ503の出力を示す。キャリア密度がレージングしきい値より上に増加するたびに1つの光パルスが出力される。上述したように、利得が増加するときと光パルスが出力されるときとの間に遅延があり得る。一次光パルスは大きい時間ジッタτを有する。
【0057】
次のグラフは、二次光源502に適用される利得変調を示す。利得変調は、一次光源503に適用されたものと同じであるが、矢印によってラベルされた時間遅延が付加されている。利得変調は、二次光源に印加される時変駆動信号である。換言すれば、二次レーザ502に適用される利得変調は、一次レーザ503に適用された利得変調に対して時間がシフトされる。利得の各周期的増加が、一次レーザ503に適用されるのよりも後に二次光源502に適用される。この場合の遅延は、利得変調信号の周期の約半分である。遅延は、一次光パルスが注入された後に、利得の周期的増加が二次レーザ502に適用されることを意味する。したがって、利得増加が適用されるとき二次レーザキャビティに一次光パルスが存在し、結果として生じる二次光パルスは、一次光パルスからの刺激された放出によって生成される。これは、生成された二次光パルスが、注入された一次光パルスに対して固定位相関係を有することを意味する。
【0058】
二次レーザ502は一次光パルスが注入された後にレージングしきい値より上にスイッチされ、その結果、二次光パルスが、注入された一次光パルスによって引き起こされた刺激された放出によって開始される。二次レーザ502の利得バイアスの始まりのタイミングは、遅延線510を介して制御される。最後のグラフは、二次光源502の出力を示す。キャリア密度がレージングしきい値より上に増加するたびに1つのみの二次光パルスが出力される。ここでもまた、利得変調の増加と出力された光パルスとの間に遅延があり得る。出力された二次光パルスの時間ジッタは、一次光パルスのジッタのそれよりも低い。
【0059】
図3Aおよび
図3Bに示すシステムでは、利得変調ユニット509は、各一次光パルスが入射する時間中に一度だけレージングしきい値より上にスイッチされるように、時変利得変調を二次光源502に適用する。二次光源502のスイッチングは、同じ利得変調信号が両方の光源に印加されるので一次光パルスの到着と同期され、遅延線が、利得の増加を二次光源502に適用することを一次光源503に対して遅延させる。
【0060】
図3Bに示すシステムでは、時変利得変調信号は、矩形波形を有する。しかしながら、時変利得変調は、任意のパルス形状を有する信号を備えることができる。
【0061】
光源が利得スイッチ半導体レーザである場合、利得変調信号は、印加電流もしくは電圧である。1つの実施形態では、利得変調信号は、矩形波形を有する印加電流もしくは電圧である。代替の実施形態では、時変電流もしくは電圧は、周波数合成器によって生成された電気正弦波である。1つの実施形態では、利得変調信号の周波数は、4GHz以下である。1つの実施形態では、周波数は2.5GHzである。1つの実施形態では、周波数は2GHzである。
【0062】
利得スイッチ半導体レーザは、パルスが放出されるときの状態と「オフ」状態との間に良好な消光比を有する。それは、超短パルスを生成するために使用することができる。1つの実施形態では、各二次光パルスの持続時間は200ps未満である。1つの実施形態では、各二次光パルスの持続時間は50ps未満である。1つの実施形態では、各二次光パルスの持続時間は数ピコ秒のオーダである。1つの実施形態では、時変電流もしくは電圧が2GHzの周波数を有する矩形波電流もしくは電圧である場合、短光パルスは500ps離れている。
【0063】
これらの図に示す光源において、一次光源および二次光源は、利得変調のために同じ電気ドライバを共有する。しかしながら、一次光源および二次光源は、別個の利得変調ユニット509によって駆動されてもよい。別個のユニットによって利得変調を駆動することによって、
図3Bで生成されたものよりも長い一次光パルスを生成することが可能であり、利得バイアス値はレージングしきい値により近い。これは、キャリア密度がより早くにレージングしきい値と交差することを意味し、これは、発する時間をより多く光パルスに与える。これはジッタを低減するために使用することもできる。
【0064】
この実施形態では、各二次レーザによって出力されるパルスの位相はランダムである。位相ランダム化を達成するために、一次レーザに印加される電気駆動信号は、一次レーザキャビティ内のキャリアのための励起の合間の時間が空になることを可能にするように構成されており、その結果、次のパルスは、残留励起ではなく自然放出によってシードされる。次いで、二次レーザは、一次レーザによって同期され、一次レーザに対する固定位相オフセットを獲得する(これは光注入同期の性質である)。一次レーザ出力がランダム位相を有する限り、そこからの固定オフセットもランダムである。
【0065】
図4は、制御ユニット151による二次レーザ105、107、109、および111の制御を説明するために使用される
図1のエミッタの一部を示す。
図4では、明確にするために、オープンチャネル131、133、135、137と、偏光コントローラ121、123、および125と、偏光合成光学素子139とが省略されている。不要な繰り返しを避けるために、同様の特徴を示すために同様の参照番号を使用する。
【0066】
図4では、一次レーザおよび4つの二次レーザの両方を制御する単一の制御ユニット151が示されている。しかしながら、一次レーザ用の別個の制御ユニットおよび4つの二次レーザ用の別個の1つのコントローラユニットを有すること、またはさらには二次レーザの各々のための別個の利得制御ユニットを有することが可能である。
【0067】
特定の実施形態に関連して説明するように、別個のユニットによって制御される場合であっても、異なるレーザの制御間の調節が必要である。
図4に示す配置では、制御ユニット151は、一次レーザ101および二次レーザ105、107、109、ならびに111の各々の利得を制御するために使用される利得制御モジュールを備える。
【0068】
利得制御ユニット151は、一次レーザ101に、一次レーザ101の利得をそのレージングしきい値より上に増加させることによって一次パルスを出力させるように構成されている。この実施形態では、制御ユニット151はまた、パルスを出力するために二次レーザ105、107、109、および111のうちのどれを選択すべきかを決定するように構成された選択モジュール153を備える。選択モジュール153は、次のパルスを出力すべき二次レーザをランダムに選択するように構成され得る。選択モジュール153は、次のパルスを出力すべき二次レーザ105、107、109、および111を選択し、利得制御モジュール151は、選択された二次レーザに対して、その利得をレージングしきい値より上に増加させる命令を提供する。選択された二次レーザの利得の増加のタイミングは、
図3Aおよび
図3Bを参照して説明した方法で、一次レーザ101の利得の増加と合うように調節される。
【0069】
一次レーザ101の利得を制御することによって、一次レーザは、一次パルスのシーケンスを出力し、それは次いで、パワースプリッタ103によって4つの二次レーザ105、107、109、および111の各々に方向付けられる。しかしながら、制御ユニット151によって選択された二次レーザのみが、一次レーザからシーディングパルスを受信することに応答してパルスを出力することになる。これは、この実施形態では、
図3Aおよび
図3Bを参照して説明した条件にしたがって一次レーザ101からパルスを受信するとき、または受信した直後に、二次レーザのうちの1つの二次レーザの利得のみがそのレージングしきい値より上に上げられることになるからである。一次レーザから受信された各パルスについて二次レーザ間で選択することによって、異なる偏光を有するパルスのシーケンスを出力することが可能である。
【0070】
この実施形態は光注入同期を使用する。上記実施形態では、すべての二次レーザが、共通の一次レーザからの光によってシードされ、したがって注入同期される。
【0071】
二次レーザが一次レーザに注入同期されると、これにより、二次レーザの放出位相が、一次レーザから出力されたパルスの位相に対して固定関係を有することになる。上述のように、一次レーザによって出力されたパルスの位相はランダムとなる。重要なことに、二次レーザ波長はこの場合、それ自体のフリーランニング波長ではなく、注入された波長によって定義されることになる。よって、各二次レーザによって出力された波長は同一となる。
【0072】
多重アレイ内のすべての固定偏光二次レーザを注入同期するために一次レーザからのパワーを分割することによって、すべての生じ得るレーザ出力の波長が同一であることが確実となる。これにより、送信機からサイドチャネルが除去され、これは、盗聴者が波長を測定することによってどのレーザが各パルスを生成するために使用されたかをもはや識別できなくなることを意味する。
【0073】
上記実施形態では、一次レーザ101および二次レーザ105、107、109、111は、1GHzを超える可能性がある同じ周波数の電子駆動信号によって利得スイッチされる。信号は、
図3Aおよび
図3Bを参照して説明したように、二次レーザの電気信号が印加される時間中に一次パルスが二次レーザに到着するように時間的に揃えられる。ユーザ選択の偏光を有するパルスを生成するために、ユーザは一次レーザをパルスし、二次レーザのうちの1つを選択的にパルスする。この時間中、選択されていない他の3つの二次レーザは、電気信号を受信せず、レーザしきい値より下に保持され、光放出を防止する。
【0074】
エミッタについての他の変形形態が可能であり、例えば、上記実施例では、二次レーザが選択され、合成光学素子139は受動である。しかしながら、すべての二次レーザが二次パルスを出力するためにアクティブ化され、次いで合成光学素子139が、どのパルスが出力パルスのシーケンスを出力すべきかを選択することが可能である。
【0075】
上記エミッタは、特に、量子暗号で使用するのに適している。
図5は、
図1のエミッタを使用する量子暗号システムの一例である。上述したように、エミッタは、異なる偏光を有する複数のパルスを出力するように構成されている。
【0076】
光の電場は、2つの垂直の振動波として説明することができ、これら2つの振動波は、異なる振幅と位相遅延とを間に有し得る。これらの波は共に伝播し、光の偏光の状態として知られる電場の全体の方向を定義する。
【0077】
光偏光状態を変調することによって情報を符号化することができ、実際の用途では、以下の2つの直交基底状態を備える偏光基底から状態を選択するのが一般的である。
・ 直線偏光-基底状態H(水平偏光、すなわち0度の角度の向き)およびV(垂直偏光、すなわち90度の角度の向き)を有する
・ 対角直線偏光-基底状態D(対角偏光、すなわち45度の角度の向きであり、光が、0の位相遅延を間に有する水平の光50%と垂直方向の光50%から構成されているとみなすことと同等である)およびA(反対角偏光、すなわち-45度の角度の向きであり、光が、πの位相遅延を間に有する水平の光50%と垂直方向の光50%から構成されているとみなすことと同等である)を有する
・ 円偏光-基底状態L(左円偏光、すなわち45度の角度の向きであり、光が、π/2の位相遅延を間に有する水平の光50%と垂直方向の光50%から構成されているとみなすことと同等である)およびR(右円偏光、すなわち45度の角度の向きであり、光が、-π/2の位相遅延を間に有する水平の光50%と垂直方向の光50%から構成されているとみなすことと同等である)を有する
【0078】
これらの偏光基底状態はジョーンズベクトルで以下のように表し、
【数1】
ここで、
【数2】
である。
【0079】
次に、偏光を使用する基本的な量子通信プロトコルについて説明する。しかしながら、これは限定を意味するものではなく、他の偏光ベースのプロトコルを使用してもよいことに留意されたい。
【0080】
プロトコルは2つの基底を使用し、ここにおいて、各基底は2つの直交状態によって表される。この実施例の場合、H/VおよびD/Aの基底である。しかしながら、L/R基底を選択してもよい。
【0081】
プロトコルにおける送信者が、H、V、D、またはA偏光のうちの1つを有する状態を準備する。換言すれば、準備された状態は、2つの基底H/VおよびD/Aのうちの一方における2つの直交状態(HとVまたはDとA)から選択される。2つの基底のうちの一方で0および1の信号を送信する、例えば、H/V基底ではH=0、V=1の信号を、D/A基底ではD=0、A=1の信号を送信すると考えることができる。パルスは、平均して1光子以下を備えるように減衰される。よって、パルスに対して測定が行われた場合、パルスは破壊される。またパルスを分割することも不可能である。
【0082】
受信者は、H/V基底またはD/A基底から選択されたパルスの偏光について測定基底を使用する。測定基底の選択は、能動的または受動的であり得る。受動的選択では、基底は、
図5に示すビームスプリッタなどの固定部品を使用して選択される。「能動的」基底選択では、受信者は、例えば、電気制御信号を用いる変調器を使用して、どの基底で測定すべきかの判定を行う。受信者においてパルスの測定のために使用された基底が、パルスの符号化に使用された基底と同じである場合、受信者のパルスの測定は正確である。しかしながら、受信者がパルスの測定に他方の基底を選択した場合、受信者によって測定された結果に50%の誤りがあることになる。
【0083】
鍵を確立するために、送信者および受信者は、符号化および測定(復号)のために使用された基底を比較する。それらが一致した場合、結果は保たれ、一致しなかった場合、結果は破棄される。上記方法は非常にセキュアである。盗聴者がパルスを傍受し測定した場合、盗聴者は、受信者に送信するための別のパルスを準備する必要がある。しかしながら、盗聴者は、正しい測定基底がわからず、そのため、パルスの正しい測定の可能性は50%しかない。盗聴者によって再作成されたパルスがあると、盗聴者の存在を証明するために使用することができる、受信者に対する誤り率が大きくなる。送信者および受信者は、誤り率、ひいては盗聴者の存在を決定するために鍵の小部分を比較する。
【0084】
【0085】
送信機は、
図1を参照して説明したエミッタと同じものである。不要な繰り返しを避けるために、同様の特徴を示すために同様の参照番号を使用する。次いで、送信機からの出力パルスのシーケンスは、自由空間を通過して、または光ファイバ201を介して、受信機203に到達する。簡易化した形態の受信機が示されている。受信機は、到来パルスを第1の測定チャネル207または第2の測定チャネル209のいずれかに沿って方向付ける50:50ビームスプリッタ205を備える。パルスは平均して1光子未満を含むので、50:50ビームスプリッタ205は、パルスをランダムに第1の測定チャネルまたは第2の測定チャネルの一方に沿って方向付ける。これにより、測定基底の選択の結果は、X(D/A)基底またはZ(H/V)基底となる。非偏光ビームスプリッタ205は、2つの基底のうちの一方のランダムな選択が可能となるように機能する。
【0086】
第1の測定チャネルは、D/A基底に対応するX基底のためのものである。ここで、2つの検出分岐、すなわち2つの測定基底XおよびZを与える2つの検出分岐間で45度だけ偏光を回転させるために、半波長板211が設けられる。次いで、半波長板211の出力は、偏光ビームスプリッタ213に向けて方向付けられる。偏光ビームスプリッタ213は、反対角偏光を有するパルスを反対角検出器215に向けて方向付け、対角偏光を有するパルスを対角検出器217に向けて方向付ける。検出器215および217は、例えばアバランシェフォトダイオードなどの、単一光子検出器である。
【0087】
第2の測定チャネルに沿って方向付けられたパルスは、水平であるのか垂直であるのかを決定するためにZ基底で測定される。ここで、第2の測定チャネル内に方向付けられたパルスは偏光ビームスプリッタ219に向けて方向付けられ、偏光ビームスプリッタ219は、垂直に偏光されたパルスを検出器221に向けて方向付け、水平に偏光されたパルスを検出器223に向けて方向付ける。ここでもまた、検出器221および223は、単一光子検出器である。
【0088】
D/A基底で偏光された光子が受信され、これがランダムに送信されて第2の測定チャネル209に沿ってZ基底で測定された場合、検出器221、223の一方がカウントを登録する可能性が高い。しかしながら、この結果は、偏光ビームスプリッタ219において受信された光子が、垂直検出器または水平検出器のいずれかに向けて方向付けられる可能性が50:50であるので信用できない。
【0089】
上記実施形態において、光注入同期技法は、多重フリーランニング無依存パルスレーザを使用するのと比較して多くの利点をもたらす。注入同期は、パルス二次レーザが、真空ゆらぎではなく注入光によってシードされることを意味し、これにより、著しくそれらの出力の時間的ジッタが低減し、可能な最大変調帯域幅が(フリーランニング動作で可能なもの以上に)増加する。これにより、送信機がより高いクロックレートで動作することが可能となり、通信システム用途におけるビットレートがより高くなる。生成されたパルスのチャープおよび相対的な強度ノイズも低減され、性能が改善する。
【0090】
多重レーザ光源設計において光注入同期を使用する上記実施形態は、高速(>GHz)偏光符号化通信送信機として動作することが可能な、低コスト、小型、ロバストな光源をもたらす。
【0091】
上記は一例として量子通信を参照したが、エミッタは、他の分野の用途も有する。偏光変調レーザ光源が様々なセンシングおよびイメージング用途のために必要であり、それら用途では、試料の光に対する応答が、その構造または特性についての情報を推論するために偏光の関数として測定される(例えば、偏光変調赤外反射吸収分光(PM-IRRAS))。
【0092】
上記システムでは、異なる偏光を有する各パルスの波長は、それらがすべて同じ一次レーザから到来したものであるので同一であり、したがって、盗聴者がパルスの波長の相違に起因して「サイドチャネル」情報を取得することはできない。
【0093】
さらに、上記QKDシステムは、多大なコスト、複雑性、およびサイズを偏光変調送信機に付加する位相変調器を使用する必要がない。またLiNbO3変調器は、一体型フォトニクスプラットフォームに容易に適応可能でなく、これにより多くのQKD送信機設計が小型のフォトニックチップベース設計内に展開されることを妨げている。また、位相変調用水晶の複屈折は、偏光モード分散を誘発する可能性があり、これは追加の構成部品によって補償される必要があるので、さらなる複雑性およびコストを付加する。位相変調器は、典型的には、数ボルトの半波長電圧を有する。非干渉計配置で使用されるときに偏光モード間のπ位相シフトを取得するために、さらに高い電圧が必要となる。そのような高電圧は、通信送信機全体の消費電力を生成および増加させるのに実用的でない可能性がある。
【0094】
特定の実施形態について説明したが、これらの実施形態は単に例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。実際、本明細書に記載の新規のデバイスおよび方法は、様々な他の形態で具現化することができ、さらに、本明細書に記載のデバイス、方法、および製品の形態で様々な省略、置換え、および変更を、本発明の趣旨から逸脱することなく行うことができる。添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物は、本発明の趣旨および範囲内に入る形態または修正を網羅することを意図している。
【外国語明細書】