(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182994
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】金属板材の曲げ加工方法、金属板材の曲げ加工用の金型及び金属板材よりなる曲げ加工品
(51)【国際特許分類】
B21D 5/01 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
B21D5/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045590
(22)【出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021089991
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】守本 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
(72)【発明者】
【氏名】原田 和加大
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA01
4E063BA01
4E063CA01
4E063JA01
4E063MA11
(57)【要約】
【課題】寸法精度が高く、スプリングバックが抑制され、曲げ部における強度不足のおそれがない曲げ加工品を製造する曲げ加工方法を提供する。
【解決手段】素材3は金属板材であり、パンチ1は、一対のパンチ型面1bと、パンチ先端に設けられた突起部1cとを備え、突起部1cの先端面が素材3の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、突起部1cの長さが素材3の板厚の30%以上60%以下に相当する長さとされており、ダイ2には一対のパンチ型面1bに対するV字溝状のダイ凹部が設けられ、ダイ凹部の底部には、素材3の板厚の60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面2bが設けられており、パンチ1とダイ2とを接近させてパンチ1及びダイ2をそれぞれ素材3に密着させるとともに、パンチ1の突起部1cの少なくとも一部を素材3に圧入させる、金属板材の曲げ加工方法を採用する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチとダイとの間に金属板材からなる素材を配置する配置工程と、
前記パンチと前記ダイとを相対接近させて前記素材に対して型曲げ加工する成形工程と、を備えた金属板材の曲げ加工方法であり、
前記素材は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.9以下、板厚が6mm以下を満足する金属板材であり、
前記パンチは、パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備え、前記突起部の先端面が、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さとされており、
前記ダイには、前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられ、前記ダイ凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられており、
前記成形工程は、前記パンチと前記ダイとを接近させて前記パンチ及び前記ダイをそれぞれ前記素材に密着させるとともに、前記パンチの前記突起部の少なくとも一部を前記素材に圧入させる工程である、金属板材の曲げ加工方法。
【請求項2】
前記突起部は、前記凸曲面と、前記凸曲面に接続されて前記突起部の幅をなす側壁面とを有する、請求項1に記載の金属板材の曲げ加工方法。
【請求項3】
パンチとダイとの間に金属板材からなる素材を配置する配置工程と、
前記パンチと前記ダイとを相対接近させて前記素材に対して型曲げ加工する成形工程と、を備えた金属板材の曲げ加工方法であり、
前記素材は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材であり、
前記パンチは、パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備え、前記突起部の先端面が、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さとされるとともに、前記突起部の幅が、前記素材の板厚の50%以上150%以下に相当する長さとされ、かつ、前記一対のパンチ型面と前記突起部との境界に凹曲面が設けられ、前記凹曲面の曲率半径が、前記素材の板厚の150%以下の長さに相当する曲率半径とされており、
前記ダイには、前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられ、前記ダイ凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられており、
前記成形工程は、前記パンチと前記ダイとを接近させて前記パンチ及び前記ダイをそれぞれ前記素材に密着させるとともに、前記パンチの前記突起部の少なくとも一部を前記素材に圧入させる工程である、金属板材の曲げ加工方法。
【請求項4】
前記突起部には、前記凸曲面と、前記突起部の幅をなす側壁面と、前記凸曲面と前記側壁面との間にある傾斜面とが設けられている、請求項3に記載の金属板材の曲げ加工方法。
【請求項5】
0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.9以下、板厚が6mm以下を満足する金属板材からなる素材に対して型曲げ加工するための金型であって、
パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備えたパンチと、
前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられたダイブロックからなるダイと、を備え、
前記突起部の先端面は、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さであり、
前記V字溝状の凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられている、金属板材の曲げ加工用の金型。
【請求項6】
前記突起部は、前記凸曲面と、前記凸曲面に接続されて前記突起部の幅をなす側壁面とを有する、請求項5に記載の金属板材の曲げ加工用の金型。
【請求項7】
0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚が6.0mm以下を満足する金属板材からなる素材に対して型曲げ加工するための金型であって、
パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備えたパンチと、
前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられたダイブロックからなるダイと、を備え、
前記突起部の先端面は、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さであるとともに、前記突起部の幅が、前記素材の板厚の50%以上150%以下に相当する長さであり、かつ、前記一対のパンチ型面と前記突起部との境界に凹曲面が設けられており、前記凹曲面の曲率半径が、前記素材の板厚の150%以下の長さに相当する曲率半径であり、
前記V字溝状の凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられている、金属板材の曲げ加工用の金型。
【請求項8】
前記突起部は、前記凸曲面と、前記突起部の幅をなす側壁面と、前記凸曲面と前記側壁面との間にある傾斜面とを有する、請求項7に記載の金属板材の曲げ加工用の金型。
【請求項9】
0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚6.0mm以下を満足する金属板材からなる板材部と、前記板材部に設けられた曲げ部とを備え、
前記曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径が前記板材部の板厚以下に相当する長さの半径であり、
前記曲げ部の最小肉厚が、前記板材部の板厚tの0.75倍以上である、金属板材よりなる曲げ加工品。
【請求項10】
前記曲げ部の曲げ内側には、前記曲げ部の長手方向に沿って凹部が設けられ、前記凹部の内面には凹曲面が設けられている、請求項9に記載の金属板材よりなる曲げ加工品。
【請求項11】
前記板材部におけるビッカース硬さHVmに対する前記曲げ部におけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)が1.50以上1.90以下の範囲である、請求項9または請求項10に記載の金属板材よりなる曲げ加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板材の曲げ加工方法、金属板材の曲げ加工用の金型及び金属板材よりなる曲げ加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
外装建材、内装建材には、窓枠フレームやカーテンウォールなど視認されやすい箇所に用いられる部材がある。このような部材には、寸法がゆがみなく精緻であり、曲げ加工部の径が小さくシャープな曲げ稜線であるなど、意匠性、美観性が求められる。そして、このような部材には、構造部材としての強度確保の観点から、近年では300MPa以上の高耐力を有する金属材料が適用される傾向にある。
【0003】
高耐力な金属板材に対して曲げ加工を行うと、曲げ加工後の寸法精度が低くなる場合がある。寸法精度を高めるために、加工条件を厳しくすると、曲げ部において割れが発生するおそれがある。また、加工条件を厳しくすることで、もらい疵やかじり疵が発生し、意匠性を損ねてしまう場合もある。特に、美観性が重視される建材に適用する場合に問題になる。
【0004】
特許文献1には、曲げ加工によって意匠性に優れたシャープな稜線を形成できる溝付き鋼板素材を提供することを可能とする溝付きオーステナイト系ステンレス鋼板が記載されている。しかし、特許文献1では、鋼板表面にV溝を設ける必要があり、コスト面で不利になる。また、鋼板表面にV溝を設けることによって鋼板の板厚が減少するため、曲げ加工後の曲げ加工品の曲げ部における肉厚が減少し、強度不足のおそれがある。
【0005】
特許文献2には、パンチおよびダイスによって構成される曲げ加工装置を用いて金属板の曲げ加工を行うにあたり、成形ストロークの最終工程で、曲げ加工を受けた金属板の凸面側の少なくともその一部に金属板厚の20%以下の深さ凹部を付与するプレス加工方法が記載されている。しかし、特許文献2に記載のプレス加工方法によって製造された加工品は、凸面側に凹部が形成されるために、美観を損ねるおそれがあり、外装建材または内装建材の素材として用いることは困難である。また、特許文献2では、素材として軟質なアルミニウム合金板を想定しているものであるから、高耐力を有する金属板材の曲げ加工には適用できないおそれがある。
【0006】
特許文献3には、板厚tなる被加工材を所望の角度に折曲成形するダイおよびパンチからなり、このダイおよびパンチの被加工材を折曲しようとする部分の近傍を板厚tの高々10%なる高さだけ他の型面より高くし、ダイの頂角部に約半径tの丸みをつけた曲げ型によって、被加工材を折曲成形する方法が記載されている。しかし、特許文献3に記載の折曲成形方法では、折曲成形後のスプリングバックを抑制することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-169423号公報
【特許文献2】特許第3633012号公報
【特許文献3】特公昭47-25266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、寸法精度が高い曲げ加工品を安定的に得ることが可能であり、スプリングバックを抑制することができ、曲げ部における強度不足のおそれがない金属板材の曲げ加工方法、金属板材の曲げ加工用の金型及び金属板材よりなる曲げ加工品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] パンチとダイとの間に金属板材からなる素材を配置する配置工程と、
前記パンチと前記ダイとを相対接近させて前記素材に対して型曲げ加工する成形工程と、を備えた金属板材の曲げ加工方法であり、
前記素材は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.9以下、板厚tが6mm以下を満足する金属板材であり、
前記パンチは、パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備え、前記突起部の先端面が、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さとされており、
前記ダイには、前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられ、前記ダイ凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられており、
前記成形工程は、前記パンチと前記ダイとを接近させて前記パンチ及び前記ダイをそれぞれ前記素材に密着させるとともに、前記パンチの前記突起部の少なくとも一部を前記素材に圧入させる工程である、金属板材の曲げ加工方法。
[2] 前記突起部は、前記凸曲面と、前記凸曲面に接続されて前記突起部の幅をなす側壁面とを有する、[1]に記載の金属板材の曲げ加工方法。
[3] パンチとダイとの間に金属板材からなる素材を配置する配置工程と、
前記パンチと前記ダイとを相対接近させて前記素材に対して型曲げ加工する成形工程と、を備えた金属板材の曲げ加工方法であり、
前記素材は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.9.0以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材であり、
前記パンチは、パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備え、前記突起部の先端面が、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さとされるとともに、前記突起部の幅が、前記素材の板厚の50%以上150%以下に相当する長さとされ、かつ、前記一対のパンチ型面と前記突起部との境界に凹曲面が設けられ、前記凹曲面の曲率半径が、前記素材の板厚の150%以下の長さに相当する曲率半径とされており、
前記ダイには、前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられ、前記ダイ凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられており、
前記成形工程は、前記パンチと前記ダイとを接近させて前記パンチ及び前記ダイをそれぞれ前記素材に密着させるとともに、前記パンチの前記突起部の少なくとも一部を前記素材に圧入させる工程である、金属板材の曲げ加工方法。
[4] 前記突起部には、前記凸曲面と、前記突起部の幅をなす側壁面と、前記凸曲面と前記側壁面との間にある傾斜面とが設けられている、[3]に記載の金属板材の曲げ加工方法。
[5] 0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.9以下、板厚tが6mm以下を満足する金属板材からなる素材に対して型曲げ加工するための金型であって、
パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備えたパンチと、
前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられたダイブロックからなるダイと、を備え、
前記突起部の先端面は、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さであり、
前記V字溝状の凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられている、金属板材の曲げ加工用の金型。
[6] 前記突起部は、前記凸曲面と、前記凸曲面に接続されて前記突起部の幅をなす側壁面とを有する、[5]に記載の金属板材の曲げ加工用の金型。
[7] 0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材からなる素材に対して型曲げ加工するための金型であって、
パンチ先端に向かうにつれて相互に接近する一対のパンチ型面と、前記パンチ先端に設けられた突起部と、を備えたパンチと、
前記一対のパンチ型面に対するV字溝状のダイ凹部が設けられたダイブロックからなるダイと、を備え、
前記突起部の先端面は、前記素材の板厚の30%以上50%以下の長さに相当する曲率半径の凸曲面であり、前記突起部の長さが前記素材の板厚の30%以上60%以下に相当する長さであるとともに、前記突起部の幅が、前記素材の板厚の50%以上150%以下に相当する長さであり、かつ、前記一対のパンチ型面と前記突起部との境界に凹曲面が設けられており、前記凹曲面の曲率半径が、前記素材の板厚の150%以下の長さに相当する曲率半径であり、
前記V字溝状の凹部の底部には、前記素材の板厚の20%以上60%以下の長さに相当する曲率半径の凹曲面が設けられている、金属板材の曲げ加工用の金型。
[8] 前記突起部は、前記凸曲面と、前記突起部の幅をなす側壁面と、前記凸曲面と前記側壁面との間にある傾斜面とを有する、[7]に記載の金属板材の曲げ加工用の金型。
[9] 0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚6.0mm以下を満足する金属板材からなる板材部と、前記板材部に設けられた曲げ部とを備え、
前記曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径が前記板材部の板厚以下に相当する長さの半径であり、
前記曲げ部の最小肉厚が、前記板材部の板厚tの0.75倍以上である、金属板材よりなる曲げ加工品。
[10] 前記曲げ部の曲げ内側には、前記曲げ部の長手方向に沿って凹部が設けられ、前記凹部の内面には凹曲面が設けられている、[9]に記載の金属板材よりなる曲げ加工品。
[11] 前記板材部におけるビッカース硬さHVmに対する前記曲げ部におけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)が1.50以上1.90以下の範囲である、[9]または[10]に記載の金属板材よりなる曲げ加工品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属板材の曲げ加工方法によれば、パンチとダイとを用いて素材に対して型曲げ加工する際に、パンチ先端に突起部が設けられたパンチと、V字溝状のダイ凹部の底部が凹曲面とされたダイを用いて、パンチの突起部の少なくとも一部を素材に圧入させることで、素材がダイ凹部の底部まで圧入されてダイ凹部の底部にまで材料流入が生じるようになる。また、ダイ凹部の底部の凹曲面の曲率半径が素材の板厚の60%以下に相当する長さとされているので、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径が小さくなる。更に、突起部を素材に圧入させることで、曲げ部における残留応力の分布状態を、突起部がないパンチを用いて型曲げ加工した場合の曲げ部における残留応力の分布状態に比べて、異なる分布状態にする。従来の型曲げ加工では、曲げ外側の引張残留応力と曲げ内側の圧縮残留応力とによりスプリングバックが生じると考えられているが、本発明では曲げ部の残留応力分布が従来に比べて変化することにより、型曲げ加工後のスプリングバックが小さくなる。よって、本発明によれば、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚が6.0mm以下を満足する金属板材を素材として、寸法精度が高い曲げ加工品を安定的に製造することができる。すなわち、本発明に係る加工方法によれば、曲げ部外側の凸曲面の曲率半径が小さくシャープな形状になり、型曲げ加工後のスプリングバックが小さい曲げ加工品を製造できる。
【0011】
また、本発明の金属板材の曲げ加工方法によれば、突起部の幅を素材の板厚の50~150%とし、パンチ型面と突起部との境界に所定の曲率半径の凹曲面を設けることで、繰り返し加工した場合に突起部の破損頻度を低減できる。
【0012】
本発明の金属板材の曲げ加工用の金型によれば、パンチ先端に突起部が設けられたパンチと、V字溝状のダイ凹部の底部が凹曲面とされたダイと、を備えており、この金型を、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚が6.0mm以下を満足する金属板材からなる素材を型曲げ加工する際の金型として用いることにより、寸法精度が高い曲げ加工品を安定的に製造することができる。
【0013】
また、本発明の金属板材の曲げ加工用の金型によれば、突起部の幅を素材の板厚の50~150%とし、パンチ型面と突起部との境界に所定の曲率半径の凹曲面を設けることで、繰り返し加工した場合に突起部の破損頻度を低減できる。
【0014】
本発明の金属板材よりなる曲げ加工品によれば、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径が板材部の板厚以下に相当する長さの半径であるので、曲げ部外側の凸曲面の曲率半径が小さくシャープな形状とすることができる。また、曲げ部の最小肉厚が板材部の板厚の0.75倍以上であるので、曲げ部における強度を十分な強度にすることができる。
【0015】
また、本発明の金属板材よりなる曲げ加工品には、曲げ部の長手方向に沿って凹部が設けられ、この凹部の内部には凹曲面が設けられている。この凹部は型曲げ加工時にパンチの突起部によって形成された圧痕である。このような圧痕が設けられることで、曲げ加工品の曲げ部は、曲げ部の肉厚方向の圧縮残留応力が付与された状態にある。よって、本発明によれば、従来の圧縮残留応力と引張残留応力との関係から生じるスプリングバックが軽減され、スプリングバックを小さくできる。また、凹部の内面が凹曲面であるので、凹部を起点とする割れの発生も防止できる。
【0016】
また、本発明の金属板材よりなる曲げ加工品によれば、板材部におけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部におけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)が1.50~1.90の範囲であり、曲げ部のビッカース硬さが高くなっているため、曲げ部に凹部が設けられることにより曲げ部の肉厚が板材部の板厚よりも小さくなるにも関わらず、曲げ部に十分な強度を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態である金属板材の曲げ加工用の金型を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態である金属板材の曲げ加工方法を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態である金属板材の曲げ加工方法を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施形態である金属板材の曲げ加工方法を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態である金属板材よりなる曲げ加工品の断面模式図である。
【
図6】
図6は、従来の金属板材の曲げ加工方法を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施形態の金型における突起部の長さの説明する模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施形態である金属板材の曲げ加工用の金型を示す模式図である。
【
図9】
図9は、
図8の金型のパンチの要部を示す部分拡大模式図である。
【
図10】
図10は、
図9の部分拡大図であって、先端面の範囲(角度θr)と傾斜面の角度θqとの関係を説明する模式図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2の実施形態の金型における突起部の長さの説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態である金属板材の曲げ加工方法(以下、曲げ加工方法と言う場合がある。)、金属板材の曲げ加工用の金型(以下、金型という場合がある。)及び金属板材よりなる曲げ加工品(以下、曲げ加工品という場合がある)について説明する。
【0019】
本実施形態の概要は次の通りである。本実施形態の曲げ加工方法は、
図2に示すように、パンチ1とダイ2との間に金属板材からなる素材3を配置する配置工程と、
図3及び
図4に示すように、パンチ1とダイ2とを相対接近させて素材3に対して型曲げ加工する成形工程とを備える。素材3は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材である。
図1に示すように、パンチ1は、一対のパンチ型面1bと、パンチ先端1aに設けられた突起部1cとを備えている。突起部1cの先端面1eが凸曲面であり、突起部1cの長さHは所定の長さとされる。ダイ2には、一対のパンチ型面1bに対するV字溝状のダイ凹部2aが設けられる。ダイ凹部2aの底部2dには、所定の曲率半径の凹曲面2bが設けられている。そして、成形工程は、パンチ1とダイ2とを接近させてパンチ1及びダイ2をそれぞれ素材3に密着させるとともに、パンチ1の突起部1cの少なくとも一部を素材3に圧入させる。これにより、
図5に示すような、曲げ部外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくなり、シャープな形状の曲げ部4bを有する曲げ加工品4が得られる。
以下、本実施形態について順次説明する。
【0020】
(素材)
本実施形態に係る素材3は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材である。
以下、素材3として好適な金属板材の限定理由を述べる。
【0021】
<0.2%耐力>
本実施形態に係る金属板材の0.2%耐力は300MPa以上とする。これにより、本実施形態の金属板材を外装建材や内装建材の素材として用いた場合に、十分な強度を確保できる。0.2%耐力が300MPa未満では、強度が不足してしまう。
【0022】
<降伏比>
本実施形態に係る金属板材の降伏比は0.90以下とする。これにより、曲げ成形時において曲げ部、特に曲げ部外側の面の割れを抑制することが可能となる。降伏比が0.90を超える場合、曲げ成形中に曲げ部の外側の面に割れが生じ、外観に優れた曲げ加工品を提供することができなくなる。なお、引張強さ(TS)に対する降伏強さ(YS)の割合を降伏比(YS/TS)といい、ここでは0.2%耐力を降伏強さ(YS)とする。
【0023】
<板厚>
本実施形態に係る金属板材の板厚tは、6.0mm以下、好ましくは4.0mm以下とする。板厚tの下限は0.5mm以上であってもよく、1mm以上であってもよい。板厚tを6.0mm以下とすることにより、曲げ成形後の曲げ加工品のスプリングバックを小さくすることができる。
【0024】
(金型)
次に、本実施形態の曲げ加工品を製造する際に用いられる、金属板材の曲げ加工用の金型について
図1を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る金型Kは、いわゆる型曲げ加工用の金型である。すなわち、本実施形態に係る金型Kは、素材3の両端3aを自由端として、素材3の上下から金型K(パンチ1及びダイ2)を押し付けて曲げる加工方法の金型として用いられる。以下、本実施形態の金型Kについて説明する。
【0025】
本実施形態に係る金型Kは、パンチ1及びダイ2とから構成される。
【0026】
パンチ1は、
図1に示すように、パンチ先端1aに向かうにつれて相互に接近するように傾斜する一対のパンチ型面1bと、パンチ先端1aに設けられた突起部1cと、が備えられている。一対のパンチ型面1bは、その相対角度θpが例えば80~100°の範囲とされており、好ましくは85~95°とされており、より好ましくは88~92°とされており、更に好ましくは90°とされる。一対のパンチ型面1bは、パンチ1の外形を形作るものであり、パンチ先端1aに向かって相互に接近するように傾斜している。パンチ先端1aには突起部1cがある。
【0027】
突起部1cは、パンチ先端1aからダイ2側に向けて突出している。突起部1cは、
図1に示すように、パンチ型面1bに接する側壁面1dと、側壁面1dに接する先端面1eとを有する。側壁面1dは平面とされ、先端面1eは凸曲面とされている。
【0028】
突起部1cの先端面1eは、曲率半径Rpの凸曲面とされている。先端面1eの曲率半径Rpは、素材3の板厚tの30%以上50%以下の長さ、すなわち、0.30t~0.50tの長さに相当する半径とされる。曲率半径Rpを素材3の板厚tの30%以上(0.30t)の長さに相当する半径とすることで、後述するように、曲げ部4bに対して十分な圧縮応力を付与することができ、これにより曲げ加工品4のスプリングバックを低減できる。また、曲率半径Rpを素材3の板厚tの50%以下(0.50t)の長さに相当する半径とすることで、曲げ加工後の曲げ部4bにおける曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routを小さくすることができる。また、先端面1eを凸曲面とすることで、曲げ加工品4の曲げ部4bの割れを防止できる。
【0029】
突起部1cの長さHは、素材3の板厚tの30%以上60%以下に相当する長さ、すなわち、0.30t~0.60tに相当する長さとされる。突起部1cの長さHは、
図1に示すように、突起部1cの突出方向の長さであって、側壁面1dとパンチ型面1bとの境界の位置から、先端面1eまでの長さとする。突起部1cの長さHを素材3の板厚tの30%以上(0.30t)に相当する長さとすることで、ダイ凹部2aの底部への材料流動を促進して、曲げ加工後の曲げ部4bにおける曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routを小さくすることができる。また、曲げ部4bに十分な圧縮応力を付与することができ、曲げ加工品のスプリングバックが抑えられる。また、突起部1cの長さHを素材3の板厚tの60%以下(0.60t)に相当する長さとすることで、パンチ1が下死点に到達した際に、パンチ1のパンチ型面1b及びダイ凹部2aに素材を密着させて素材3をパンチ1とダイ2との間で拘束することができ、曲げ加工を確実に行える。また、突起部1cが素材3に過度に侵入することがなく、曲げ加工品の曲げ部4bにおける肉厚を十分に確保するとともに、スプリングゴーを抑制できる。
【0030】
突起部1cの長さHは、側壁面1dとパンチ型面1bとの境界の位置から先端面1eまでの長さとするが、側壁面1dとパンチ型面1bとの境界の位置が不明りょうな場合は、突起部1cの長さHを次のように決定してもよい。すなわち、
図7に示すように、パンチ型面1bの輪郭線の延長線と、側壁面1dの輪郭線の延長線との交点Xの位置を特定し、交点Xから突起部1cの幅W方向に仮想の水平線Mを描く。そして、水平線Mと突起部1cの先端(凸曲面の頂点)との間の距離を、突起部1cの長さHとする。
【0031】
突起部1cの側壁面1d同士の間隔、すなわち突起部1cの幅Wは、素材3の板厚tの50%以上150%以下(0.50t~1.50t)に相当する長さとすることが好ましい。
【0032】
一対のパンチ型面1bと突起部1cとの境界に設けられる凹曲面1gの曲率半径Rjは、素材3の板厚tの150%以下(1.50t)の長さに相当する曲率半径とすることが好ましい。
【0033】
次に、ダイ2について説明する。ダイ2は、
図1に示すように、ダイ凹部2aが設けられたダイブロック2Aからなる。ダイ凹部2aは、ダイブロック2Aの上面2mに設けられている。ダイ凹部2aの断面形状は、パンチ1のパンチ型面1bに対するV字溝状とされる。すなわち、ダイ凹部2aは、一対のパンチ型面1bに対応する一対のダイ型面2cと、ダイ凹部2aの底部2dに設けられた凹曲面2bとによって区画される。一対のダイ型面2cは、ダイ凹部2aの底部2dに向かうにつれて相互に接近するように傾斜している。凹曲面2bは、これら一対のダイ型面2cの間に位置している。一対のダイ型面2c及び凹曲面2bは相互に接している。
【0034】
ダイ凹部2aの凹曲面2bの曲率半径Rdは、素材3の板厚tの20%以上60%以下の長さ、すなわち、0.20t~0.60tの長さに相当する半径とされている。突起を有するパンチ1で曲げ加工を施すとダイ凹部2aの凹曲面2bに応力が集中する。この応力集中は凹曲面2bの曲率半径Rdが小さいほど大きくなり、曲率半径Rdが素材3の板厚tの20%未満のとき、集中した応力がダイ2の破壊限界を上回りダイ2に塑性変形や割れをもたらすことがある。このため、ダイ凹部2aの凹曲面2bの曲率半径Rdは素材3の板厚tの20%以上(0.20t)とする。また、曲率半径Rdを素材3の板厚tの60%(0.60t)以下の半径にすることで、ダイ凹部2aの底部2dに材料流動可能な空間が確保され、曲げ加工後の曲げ部4bにおける曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routを小さくすることができ、また、曲げ部4bに対してスプリングゴーが生じない程度の適度な大きさの圧縮応力を加えることができ、スプリングバックを抑制できる。
【0035】
次に、本実施形態の曲げ加工方法について
図2~
図4を参照して説明する。本実施形態の曲げ加工方法は、素材3に対してパンチ1及ダイ2を用いた型曲げ加工を行うことにより、素材3に曲げ部4bを形成する。曲げ加工に用いるパンチ1及びダイ2は、
図1に示した通りである。本実施形態の曲げ加工方法は、配置工程と成形工程とを備える。
【0036】
(配置工程)
配置工程は、
図2に示すように、ダイ2のダイブロック2Aの上面2m上に、素材3を載置し、更にその上方にパンチ1を配置する。素材3は、上面3bがパンチ1側に向けられ、また、下面3cがダイブロック2Aの上面2mに接するように、ダイ2上に設置される。このようにして、パンチ1とダイ2の間に素材3を配置する。素材3の両端3aは、拘束させずに自由端とする。なお、パンチ1及びダイ2は、図示しないプレス成形機に装着されている。
【0037】
(成形工程)
次に、成形工程では、プレス成形機を作動させて、パンチ1とダイ2とを相対接近させ、素材3に対して型曲げ加工を行う。
【0038】
成形工程では、
図3に示すように、パンチ1とダイ2とを相対的に接近させて、素材3の上面3bにパンチ1の突起部1cを押し当てる。突起部1cが押し当てられた素材3は、更にパンチ1によってダイ凹部2aに押し込まれる。これにより素材3は、突起部1cが接触している箇所において曲げ変形(塑性変形)が開始される。
【0039】
パンチ1及びダイ2を更に相対的に接近させると、素材3が曲げ変形(塑性変形)を受けつつ、素材の下面3cがダイ2のダイ型面2cに密着する。その一方で素材3の下面3cはダイ2の上面2mから離間する。この段階では、素材の下面3cは、ダイ2の底部2dの凹曲面2bには接触せずに空隙S1が残る。一方、素材3の上面3bは、突起部1cのみと接触しており、素材3の上面3bとパンチ型面1bとは接触していない。これにより、素材3の上面3bとパンチ型面1bとの間には空間S2が生じる。この空間S2をなくすまでパンチ1を更に押し下げる余地が残っている。
【0040】
パンチ1のパンチ型面1bが素材3の上面に密着するまでパンチ1及びダイ2を相対的に接近させると、
図4に示すように、素材3の上面3b及び下面3cにパンチ型面1b及びダイ型面2cがそれぞれ密着するとともに、曲げ部4bの曲げ内側に突起部1cが圧入される。曲げ部4bには、突起部1cによって厚み方向に圧縮応力が付与された結果として鍛造に近い加工が施される。これにより、曲げ部4bにおいて材料流動が起こり、素材3の下面3cとダイ2の凹曲面2bとの間に存在していた空隙S1の一部又は全部が材料流動により埋められる。これにより、曲げ部4bの曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくなる。以上により、
図5に示すような、曲げ部4bを有する曲げ加工品4が製造される。
【0041】
図6には、比較のために、突起部を有しないパンチ111を用いた場合の断面模式図を示す。突起部を有しないパンチ111によって素材3を型曲げ加工した場合は、
図6に示すように、素材3の上面3b及び下面3cにパンチ型面111b及びダイ型面2cがそれぞれ密着するまでパンチ111及びダイ2を相対的に接近させるが、パンチ111に突起部が無いため、曲げ部14bにおいて材料流動が起こらず、素材3の下面3cとダイ2の凹曲面2bとの間に空隙S1が残ったまま型曲げ加工が終了することになる。このため、突起部を有しないパンチ111を用いて製造された曲げ加工品は、曲げ部14bの曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routを小さくすることができない。また、曲げ部14bの肉厚方向に圧縮残留応力が付与されないため、スプリングバックも抑えにくくなる。
【0042】
次に、本実施形態に係る曲げ加工品4について説明する。
図5には、本実施形態の曲げ加工品の断面模式図を示す。
【0043】
本実施形態に係る曲げ加工品4は、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下の金属板材からなる板材部4aと、板材部4aに設けられた曲げ部4bと、が備えられている。曲げ部4bの曲げ外側には凸曲面4cが設けられ、曲げ内側には凹部4dが設けられている。
【0044】
曲げ部4bの曲げ角度θは、85°から95°の範囲とされ、より好ましくは88~92°の範囲とされ、更に好ましくは90°とされる。これは、狙いの曲げ角度θを90°とした場合に曲げ部4bにおける曲げ角度θが±5°または±2°の範囲内になることを意味する。曲げ角度θを前述の範囲内とされることで、曲げ角度θのばらつきが小さくなり、曲げ部4bの曲げ外側の全長に渡って、シャープな稜線を有するものとなる。
【0045】
また、曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routは、板材部4aの板厚以下に相当する長さの半径とされる。曲げ外側の凸曲面4dの曲率半径Routを、板材部4aの板厚以下にすることで、曲げ部4bの曲げ外側の外観が角張ったシャープな外観となり、外装建材、内装建材の素材として好適に用いることができる。
【0046】
曲げ部4bの曲げ内側には凹部4dが設けられている。この凹部4dは、成形工程の最終段階においてパンチ1の突起部1cが圧入されたことにより形成された圧痕である。凹部4dには、突起部1cの先端面1eによって形成された凹曲面4eが設けられている。
凹部4dの内部が凹曲面4eであることで、凹部4dを起点とする割れの発生が防止される。
【0047】
また、曲げ部4bの曲げ内側に凹部4dが設けられることにより、曲げ部4bにおける肉厚が、板材部4aにおける板厚tより小さくなるが、曲げ部4bにおける最小肉厚は板材部4aの板厚tの0.75倍(0.75t)以上とする必要がある。これにより、曲げ部4bの強度を十分なものとすることができる。
【0048】
また、板材部4aにおけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部4bにおけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)は、1.50以上1.90以下の範囲であることが好ましい。本実施形態に係る曲げ部4bには、素材3が塑性変形されたことよって生じる加工硬化に加えて、成形工程中に突起部1cによって肉厚方向の残留応力が付与されたことによる加工硬化も加わる。このため、本実施形態に係る曲げ部品4の曲げ部4bの硬度は、板材部4aの硬度より高くなり、曲げ部4bの強度が増加する。その一方で、曲げ部4bの硬度が高くなりすぎると、曲げ部4bにおいて割れが生じやすくなる。よって、板材部4aにおけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部4bにおけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)を1.50~1.90の範囲とすることが好ましい。
【0049】
以上のような本実施形態の曲げ加工品4は、外装建材、内装建材の素材として好適に用いることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の金属板材の曲げ加工方法によれば、パンチ1とダイ2とを用いて素材3に対して型曲げ加工する際に、パンチ先端1aに突起部1cが設けられたパンチ1と、V字溝状のダイ凹部2aの底部2dが凹曲面2bとされたダイ2を用いて、パンチ1の突起部1cの少なくとも一部を素材4に圧入させることで、素材3がダイ凹部2aの底部2dまで圧入されてダイ凹部2aの底部2dにまで材料流入が生じるようになる。
【0051】
また、ダイ凹部2aの底部2dの凹曲面2bの曲率半径が素材3の板厚の20%以上60%以下に相当する長さとされているので、曲げ部4bの曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくなる。
【0052】
更に、突起部1cを素材3に圧入させることで、曲げ部4bにおける残留応力の分布状態を、突起部1cがないパンチを用いて型曲げ加工した場合の曲げ部における残留応力の分布状態に比べて、異なる分布状態にすることができる。すなわち、従来の型曲げ加工では、曲げ外側の引張残留応力と曲げ内側の圧縮残留応力とによりスプリングバックが生じると考えられているが、本実施形態では曲げ部4bの残留応力分布が従来に比べて変化することにより、型曲げ加工後のスプリングバックが小さくなる。
【0053】
よって、本実施形態によれば、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材を素材3として、寸法精度が高い曲げ加工品4を安定的に製造することができる。すなわち、本実施形態に係る加工方法によれば、曲げ部外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくシャープな形状になり、型曲げ加工後のスプリングバックが小さい曲げ加工品4を製造できる。
【0054】
本実施形態の金属板材の曲げ加工用の金型Kによれば、パンチ先端1aに突起部1cが設けられたパンチ1と、V字溝状のダイ凹部2aの底部2dが凹曲面2bとされたダイ2と、を備えており、この金型Kを、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下を満足する金属板材からなる素材3を型曲げ加工する際の金型Kとして用いることにより、寸法精度が高い曲げ加工品4を安定的に製造することができる。
【0055】
本実施形態の曲げ加工品4によれば、曲げ部4bの曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routが板材部4aの板厚t以下に相当する長さの半径であるので、曲げ部外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくシャープな形状とすることができる。また、曲げ部4bの最小肉厚が板材部4aの板厚tの0.75倍以上であるので、曲げ部4bにおける強度を十分な強度にすることができる。
【0056】
また、本実施形態の曲げ加工品4には、曲げ部4bの長手方向に沿って凹部4dが設けられ、この凹部4dの内部には凹曲面4eが設けられている。この凹部4dは型曲げ加工時にパンチ1の突起部1cによって形成された圧痕である。このような圧痕が設けられることで、曲げ加工品4の曲げ部4bは、曲げ部4bの肉厚方向の圧縮残留応力が付与された状態にある。よって、本実施形態によれば、従来の圧縮残留応力と引張残留応力との関係から生じるスプリングバックが軽減され、スプリングバックを小さくできる。また、凹部4dの内面が凹曲面4eであるので、凹部4dを起点とする割れの発生も防止できる。
【0057】
また、本実施形態の曲げ加工品4によれば、板材部4aにおけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部4bにおけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)が1.50~1.90の範囲であり、曲げ部4bのビッカース硬さが高くなっているため、曲げ部4bに凹部4dが設けられることにより曲げ部4bの肉厚が板材部4aの板厚tよりも小さくなるにも関わらず、曲げ部4bに十分な強度を付与することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
第1実施形態に対する第2の実施形態の変更点は、パンチの先端部分の形状を変更するものである。具体的には、突起部の幅を拡げることにより、型曲げ加工を繰り返し行った場合に起こりうるパンチの先端部の破損が防止されるようになる。以下、本実施形態の金型、金型を用いた曲げ加工方法および曲げ加工品について説明する。
【0059】
(金型)
図8に示すように、本実施形態に係る金型Lは、
図1と同様に、型曲げ加工用の金型である。金型Lは、パンチ11及びダイ2から構成される。ダイ2の形状は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0060】
パンチ11には、パンチ先端11aに向かうにつれて相互に接近するように傾斜する一対のパンチ型面11bと、パンチ先端11aに設けられた突起部11cと、が備えられている。一対のパンチ型面11bの相対角度θpは第1の実施形態と同様に、例えば80~100°、好ましくは85~95°、より好ましくは88~92°、更に好ましくは90°とされる。
【0061】
図9に示すように、突起部11cは、突起部11cの幅Wをなす一対の側壁面11dと、突起部11cの先端面11e(凸曲面)と、側壁面11dと先端面11eとの間にある傾斜面11fとを有する。側壁面11dは、パンチ型面11bに接続されている。側壁面11dとパンチ型面11bとの間には、曲率半径Rjの凹曲面11gがある。側壁面11dは相互に平行とされている。側壁面11dには傾斜面11fが接続され、傾斜面11fには先端面11eが接続される。傾斜面11fは、側壁面11dに対して傾斜角度θqをもって傾斜している。このように、突起部11cは、側壁面11d、先端面11e(凸曲面)および傾斜面11fによって構成されており、突起部11cとパンチ型面11bの間に曲率半径Rjの凹曲面11gがある。
【0062】
突起部11cの先端面11eは、曲率半径Rpの凸曲面とされている。先端面11eの曲率半径Rpは、第1の実施形態と同様に、素材3の板厚tの30%以上50%以下(0.30t~0.50t)の長さに相当する半径とされる。曲率半径Rpを素材3の板厚tの30%(0.30t)以上とすることで、曲げ加工品4の曲げ部4bに対して十分な圧縮応力を付与して、曲げ加工品4のスプリングバックを低減できる。また、曲率半径Rpを素材3の板厚tの50%(0.50t)以下とすることで、曲げ加工後の曲げ部4bにおける曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routを小さくできる。また、先端面11eを凸曲面とすることで、曲げ加工品4の曲げ部4bの割れを防止できる。
【0063】
また、本実施形態の先端面11eは、
図9のように断面視した場合に、円弧状の輪郭を有する。この円弧状の輪郭線よりなる先端面11eの範囲を、円弧の中心Oにおける中心角度で定義した場合、先端面11eの範囲は、突起部11cの幅W方向中心を通る法線方向Lに対して、25°以上65°以下の角度θrとすることが好ましい。先端面11eをこのような範囲とすることで、繰り返し型曲げ加工を行った場合のパンチ11の耐久性を高めることができる。
【0064】
傾斜面11fは、先端面11eの両端の延長上にある。また、傾斜面11fに接する側壁面11dは、法線方向Lと平行に延在する。このことから、先端面11eの好適範囲の指定に伴って、側壁面11dに対する傾斜面11fの角度θqは、25°以上65°以下の範囲に定まってくる。
図10に示すように、θr+θq=90°の関係になるから、θrの値が決まればθqも一義的に決定される。傾斜面11fの角度θqをこの範囲とすることで、繰り返し型曲げ加工を行った場合のパンチ11の耐久性を高めることができる。
【0065】
突起部11cの側壁面11d同士の間隔、すなわち突起部11cの幅Wは、素材3の板厚tの50%以上150%以下(0.50t~1.50t)に相当する長さとされる。突起部11cの幅Wを素材3の板厚tの50%(0.50t)以上にすることで、型曲げ加工時の突起部11cへの応力集中が緩和されるようになり、繰り返し型曲げ加工を行った場合の突起部11cの破損を防止できる。上記理由から、突起部11cの幅Wの下限は、好ましくは素材3の板厚tの60%(0.60t)、より好ましくは80%(0.80t)、さらに好ましくは100%(1.00t)である。また、突起部11cの幅Wを素材3の板厚tの150%(1.50t)以下にすることで、加工後の曲げ部4bにおける曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくシャープな形状とすることができる。また、成形工程時に突起部11cを素材3に圧入させやすくなり、曲げ部4bに十分な圧縮応力を付与することができ、曲げ加工品4のスプリングバックを抑えられる。
【0066】
突起部11cの長さHは、第1の実施形態と同様に、素材3の板厚tの30%以上60%以下に相当する長さ(0.30t~0.60t)とされる。突起部11cの長さHを素材3の板厚tの30%(0.30t)以上にすることで、ダイ凹部2aの底部への材料流動を促進して、曲げ加工後の曲げ部4bの曲げ外側の曲率半径を小さくできる。また、曲げ部4bに十分な圧縮応力を付与することができ、曲げ加工品4のスプリングバックが抑えられる。また、突起部11cの長さHを素材3の板厚tの60%(0.60t)以下にすることで、パンチ11が下死点に到達した際に、パンチ11のパンチ型面11b及びダイ凹部2aに素材を密着させて素材3をパンチ11とダイ2との間で拘束することができ、曲げ加工を確実に行える。また、突起部11cが素材3に過度に侵入することがなく、曲げ加工品の曲げ部4bにおける肉厚を十分に確保するとともに、スプリングゴーを抑制できる。
【0067】
突起部11cの長さHは、
図11に示すように、突起部11cの突出方向の長さであり、次のようにして決定する。すなわち、
図11に示すように、パンチ型面11bの輪郭線の延長線と、側壁面11dの輪郭線の延長線との交点Xの位置を特定し、交点Xから突起部11cの幅W方向に仮想の水平線Mを描く。そして、水平線Lと突起部11cの先端(凸曲面の頂点)との間の距離を、突起部11cの長さHとする。
【0068】
一対のパンチ型面11bと突起部11cとの境界に設けられる凹曲面11gの曲率半径Rjは、素材3の板厚tの150%以下(1.50t)の長さに相当する曲率半径とされる。凹曲面11gの曲率半径Rjを150%以下(1.50t)にすることで、成形工程時に曲げ部4bに十分な圧縮応力を付与することができ、曲げ加工品4のスプリングバックが抑えられる。また、本実施形態のパンチ11を用いて型曲げ加工を行った場合に、突起部11cとパンチ型面11bの間にある凹曲面11gに最も応力が集中して、破損の起点になりやすい。応力集中を緩和するためには、凹曲面11gの曲率半径Rjは素材3の板厚tの40%以上(0.40t)にすることが好ましい。曲率半径Rjを素材3の板厚tの40%(0.40t)以上にすることで、型曲げ加工時に凹曲面11gへの応力集中を防止して、パンチ11の破損を抑制できる。上記理由から、凹曲面11gの曲率半径Rjの下限は、好ましくは素材3の板厚tの50%(0.50t)、より好ましくは60%(0.60t)、さらに好ましくは70%(0.70t)である。
【0069】
本実施形態の曲げ加工方法は、金型Lに変更した以外は第1の実施形態の場合と同様にして、素材3に対してパンチ11及ダイ2を用いた型曲げ加工を行うことにより、素材3に曲げ部を形成する。曲げ加工に用いるパンチ11及びダイ2は、
図8および
図9に示した通りである。本実施形態の曲げ加工方法は、第1の実施形態と同様に、配置工程と成形工程とを順次行う。
【0070】
配置工程は、
図2の場合と同様にして、ダイ2の上面2m上に素材3を載置し、更にその上方に
図8および
図9に示すパンチ11を配置する。素材3の両端は拘束させずに自由端とする。
【0071】
次に、成形工程では、
図3の場合と同様にして、パンチ11とダイ2とを相対接近させて、素材3に対して型曲げ加工を行う。突起部11cが押し当てられた素材3は、パンチ11によってダイ凹部2aに押し込まれる。これにより素材3は、突起部11cが接触している箇所において曲げ変形(塑性変形)が開始される。そして、
図4の場合と同様にして、パンチ11のパンチ型面11bが素材3の上面3bに密着するまでパンチ11及びダイ2を相対的に接近させる。これにより、素材3の曲げ部の曲げ内側に突起部11cが圧入され、曲げ部には、突起部11cによって厚み方向に圧縮応力が付与された結果として鍛造に近い加工が施され、曲げ部において材料流動が起こり、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径が小さくなる。以上により、曲げ加工品が製造される。
【0072】
本実施形態によれば、第1の実施形態において得られた曲げ加工品4と同等の曲げ加工品が得られる。また、本実施形態の金型Lを用いることにより型曲げ加工を繰り返し行ったとしても、パンチ11の破損を防止することができる。
【0073】
本実施形態の金型Lおよび金属板材の曲げ加工方法によれば、パンチ11先端11aの突起部11cの幅Wが、素材3の板厚tの50%以上150%以下に相当する長さとされているので、型曲げ加工時の突起部11cへの応力集中が緩和され、繰り返し型曲げ加工を行った場合の突起部11cの破損を防止できる。
【0074】
また、本実施形態の金型Lおよび金属板材の曲げ加工方法によれば、一対のパンチ型面11bと突起部11cとの境界に凹曲面11gが設けられており、凹曲面11gの曲率半径Rjが、素材3の板厚tの150%以下の長さに相当する曲率半径とされているので、型曲げ加工時の凹曲面11gへの応力集中が防止され、繰り返し型曲げ加工を行った場合のパンチ11の破損を抑制できる。
【0075】
更に、本実施形態の金型Lおよび金属板材の曲げ加工方法によれば、突起部11cが、先端面(凸曲面)11eと側壁面11dと傾斜面11fとを有している。突起部11cの先端面11eと側壁面11dとの間に傾斜面11fがあるため、先端面11eの曲率半径Rpを小さくしても、突起部11cの幅Wを確保することができる。これにより、繰り返し型曲げ加工を行った場合のパンチの耐久性を高めることができ、かつ、曲げ加工後の曲げ部4bにおける曲げ外側の凸曲面4cの曲率半径Routが小さくシャープな形状とすることができる。
【0076】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上記実施形態の曲げ加工方法及び曲げ加工品の金属素材としては、例えば、0.2%耐力が300MPa以上、降伏比が0.90以下、板厚tが6.0mm以下のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板が好ましく用いられる。二相ステンレス鋼板は、十分な強度があり、また、オーステナイト系ステンレス鋼板よりも安価であり、かつ、フェライト系ステンレス鋼板よりも耐食性に優れている。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼に比べて耐力が高いため、曲げ加工を行うと、曲げ加工後の寸法精度が低くなる場合がある。寸法精度を高めるために、加工条件を厳しくすると、曲げ部において割れが発生するおそれがある。また、加工条件を厳しくすることで、もらい疵やかじり疵が発生し、意匠性、美観性を損ねてしまう場合もある。そのため、視認されやすい箇所に用いる曲げ加工が必要な外装建材、内装建材として二相ステンレス鋼板を適用することが困難であった。本発明を適用することで、このような問題を生じることなく、曲げ加工を施すことができ、また、意匠性、美観性に優れた曲げ加工品を提供することができる。
【0077】
そのようなステンレス鋼板としては、例えば、化学組成が質量%で、C:0.050%以下、Si:2.00%以下、Mn:1.00~8.00%、P:0.050%以下、S:0.0500%以下、Ni:0.10~6.00%、Cr:17.00~25.00%、Mo:0.10~2.50%、Cu:0.10~3.00%、N:0.080~0.300%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板であってもよい。
また、上記のステンレス鋼板は、Feの一部に代えて、更に質量%で、Sn:0.01~1.00%以下、W:0.01~1.00%、V:0.01~1.00%、の1種または2種以上を含有してもよい。
更に、上記のステンレス鋼板は、Feの一部に代えて、更に質量%で、Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Al:0.50%以下、希土類元素:0.50%以下、の1種または2種以上を含有してもよい。
更に、上記のステンレス鋼板は、Feの一部に代えて、更に質量%で、Nb:0.100%以下を含有してもよい。
【0078】
Cは、鋼板の耐食性を確保するため、C量を0.050%以下、好ましくは0.040%以下としてよい。一方で、Cは、二相組織を構成するオーステナイトを形成する元素であるため、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上としてもよい。
【0079】
Siは、脱酸のため0.01%以上の量で含有させることが好ましく、より好ましくは0.10%以上であり、更に好ましくは0.30%以上である。また、2.00%を超えてSiを含有させると、σ相の析出が促進されるので、Si量は2.00%以下がよく、より好ましくは0.60%以下がよい。
【0080】
Mnは、脱酸材および二相組織にするためのオーステナイト安定化元素として、1.00%以上、好ましくは1.50%以上であり、より好ましくは2.00%以上を含有させるとよい。一方、8.00%を超えてMnを含有させると耐食性が劣化するため、Mn量は8.00%以下がよく、好ましくは5.00%以下がよく、より好ましくは4.00%以下がよい。
【0081】
Pは、熱間加工性および靭性を劣化させるため、P量を0.050%以下に制限し、好ましくは0.035%以下がよい。一方、過度にP量を低減させると精錬コストが高くなるため、0.005%以上としてもよい。
【0082】
Sは、熱間加工性、靭性および耐食性を劣化させるため、S量を0.0500%以下に制限し、好ましくは0.0100%以下とし、より好ましくは0.0010%以下とする。一方、過度にS量を低減させると原料コストと精錬コストが高くなるため、0.0003%以上としてもよい。
【0083】
Niは、鋼板の皮膜に含有されることで、皮膜のFe濃度が高い場合に孔食発生を抑制する効果と、腐食が生じた際の腐食進展を抑制する効果を有する。一方、Ni量が過剰になると、皮膜のCr濃度が低下しすぎるため十分な耐食性を得ることが出来ない。よって、Ni量を0.10~6.00%の範囲にすることが好ましい。Ni量の下限は、好ましくは0.30%以上、0.50%以上、または1.00%以上でもよい。Ni量の上限は、好ましくは5.00%以下、4.00%以下、または3.00%以下でもよい。
【0084】
鋼に十分な耐食性を付与するためには、Cr量を17.00~25.00%の範囲にすることが好ましい。Cr量の下限は、好ましくは18.00%以上であり、より好ましくは20.00%以上であり、更に好ましくは21.00%以上である。Cr量の上限は、好ましくは24.00%以下であり、より好ましくは22.00%以下である。
【0085】
Moは、耐食性を向上させる元素であり、0.10%以上の含有で効果が発揮する。2.50%以下であればMoを含有してもよいが、Mo量が2.50%を超えると、熱間加工時にσ相が析出し易くなる。このため、Mo量の下限は、0.10%以上であり、好ましくは0.20%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。Mo量の上限は、2.50%以下であり、好ましくは2.00%以下であり、より好ましくは1.50%以下である。
【0086】
0.10%以上のCuを含有させると、腐食が生じた際の腐食進展を抑制する効果が得られる。3.00%以下の量であればCuを含有してもよい。また、Cu量が3.00%を超えると、鋳造時に割れが発生し易くなる場合がある。このため、Cu量の下限は、0.10%以上であり、好ましくは0.30%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。Cu量の上限は、3.00%以下であり、好ましく2.50%以下であり、より好ましくは2.00%以下である。
【0087】
Nは、耐食性を著しく高め、オーステナイト相量を高める元素であり、オーステナイト安定化元素として、0.080%以上含有させることが好ましい。N量の下限は、好ましくは0.150%以上である。一方、N量が過剰になると鋼中に窒化物を形成して耐食性や靭性を低下させるため、N量の上限を0.300%以下にするとよい。N量の上限は、好ましくは0.250%以下である。
【0088】
また、微量のSnを含有させると、耐食性が向上する。このため、Snは、耐食性を向上させるのに有用な元素であり、廉価性を損なわない範囲で含有させてもよい。Sn量が0.001%未満では、耐食性を向上させる効果は発現されず、Sn量が1.00%を超えると、コスト増が顕在化すると共に加工性も低下するので、Sn量の適正範囲を0.001~1.00%とする。Sn量の下限は、好ましくは0.01%以上であり、Sn量の上限は、好ましくは0.50%以下である。なお、Snは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn量は0%であってもよい。
【0089】
V、Wは、耐食性、特に耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて含有してもよい。ただし、VやWの過度の量の含有は、加工性を低下させ、かつ耐食性を向上させる効果も飽和するため、V、Wのそれぞれの量の下限を0.01%以上とし、V、Wのそれぞれの量の上限を1.00%以下とする。V、Wのそれぞれの量の下限は、好ましくは0.04%以上であり、V、Wのそれぞれの量の上限は、好ましくは0.50%以下である。なお、V、Wは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V量、W量はそれぞれ0%であってもよい。
【0090】
Ca、Mg、REMは、熱間加工性を改善する元素であり、その目的でCa、Mg、REMの1種または2種以上を含有させてもよい。Ca、Mgの効果は0.0002%以上の量で発現することから、Ca、Mgのそれぞれの量の下限を0.0002%以上とする。REMの場合は、下限を0.001%以上とする。なお、Ca、Mg、REMは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca量、Mg量、REM量はそれぞれ0%であってもよい。
【0091】
しかしながら、いずれも過剰な量の含有は、逆に熱間加工性を低下するため、その含有量の上下限を次のように設定することが好ましい。すなわち、Ca、Mgのそれぞれの量は0.0002~0.0050%であり、REMの量は0.001~0.50%である。
【0092】
Ca、Mgのそれぞれの量の下限は、好ましくは0.0005%以上である。Ca、Mgのそれぞれの量の上限は、好ましくは0.0015%以下である。REM量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、REM量の上限は、好ましくは0.30%以下である。
【0093】
ここで、希土類元素(REM)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有させてもよいし、混合物であってもよい。REM量は、これら元素の合計量である。
【0094】
Alは、脱酸元素として有用であるが、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではない。Al量の上限を0.50%以下に制限するのがよい。Al量の好ましい範囲は、0.30%以下である。Al量の下限は0.01%以上である。なお、Alは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Al量は0%であってもよい。
【0095】
Nbは、Nと親和力が強くクロムよりも優先的に窒化物を形成することで、材料中のクロム量低下を抑制し、耐食性を向上することができる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、靱性低下を生じるため、Nb含有量は0.100%以下とし、0.060%以下でもよい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は0.005%以上であるのが好ましく、0.010%以上であるのがより好ましく、0.020%以上であるのがより好ましい。なお、Nbは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb量は0%であってもよい。
【0096】
上述してきた元素以外の残部は、Fe及び不純物であるが、以上説明した各元素の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0097】
曲げ加工品4の素材として上記の化学組成を有するステンレス鋼を用いることにより、本実施形態の曲げ加工品4は、強度及び耐食性に優れたものとなり、外装建材、内装建材として好適に用いることができる。
【0098】
また、例えば、金属素材として、さらに、引張強さが750MPa以上及び/又は全伸びが20%以上を満足する金属板材を用いてもよい。
【実施例0099】
(実施例1)
表1に示す化学成分を有し、表2に示す板厚tを有するフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板を用意した。フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板の機械的性質は表1に示す通りであった。フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板よりなる金属板材を、長さ100mm、幅30mmのサイズに切り出して素材とした。
なお、表2中のYSは降伏強さ、TSは引張強さ、T.Elは全伸びを意味し、0.2耐力を降伏強さ(YS)として示した。
【0100】
また、
図1に示すような、パンチ及びダイを備えた金型を用意した。パンチは、凸曲面と、凸曲面に接続された側壁面とを有する突起部を備えたものを用いた。パンチのパンチ型面の相対角度θpは90°とした。パンチの幅は80mmとし、長さ(
図1の奥行き方向の長さ)は60mmとした。ダイ凹部の幅は80mmとし、ダイ凹部の長さ(
図1の奥行き方向の長さ)は60mmとした。
【0101】
そして、パンチ及びダイをプレス成形機に取り付け、
図2に示すように、パンチとダイの間に素材を配置した。その際、素材の長さ方向が
図2の奥行き方向と一致するように素材を配置した。また、素材の幅方向中心を、金型の中心に合わせた。そして、プレス成形機を作動させてパンチ及びダイが素材に密着するまでパンチ及びダイスを相互に接近させることで、素材に対してV曲げを行って曲げ部を形成した。このようにして、曲げ部を有する曲げ加工品を製造した。
【0102】
得られた曲げ加工品について、曲げ部における曲げ角度θを測定した。曲げ角度θは、曲げ部の長手方向に沿って1cm間隔で4箇所の測定点を設定し、各測定点において、曲げ部の曲げ内側における曲げ角度θを測定した。そして、4箇所の測定点における曲げ角度θの平均値を求めた。得られた曲げ角度θの平均値と、パンチ型面の相対角度θp(=90°)から、Δθ(=θ-θp)を求めた。Δθは曲げパンチに対する曲げ加工品の角度変化量であり、Δθ>0の場合にスプリングバックが生じており、Δθ<0の場合にスプリングゴーが生じたことを示す。形状凍結性の観点からΔθの絶対値は小さいことが望ましいため、Δθが-1.5/t以上1.5/t以下となる範囲を合格とした。より詳細には、Δθが0以上1.5/t以下である場合にスプリングバックが良好であると評価し、Δθが0未満-1.5/t以上である場合はスプリングゴーが良好であると評価した。
なお、板厚tによって、スプリングバックやスプリングゴーの生じやすさ、曲げパンチに対する曲げ加工品の角度変化量Δθの絶対値の大小が異なるため、板厚tを考慮し、Δθが-1.5/t以上1.5/t以下を合格範囲とした。
結果を表2に示す。
【0103】
表2に示すように、本発明例A1~A11はいずれも、本発明範囲を満足する条件で型曲げ加工が行われた。その結果、得られた曲げ加工品は、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径(表2の外側径Rout)が板材部の板厚t以下となり、曲げ部の最小肉厚(表2のtmが、板材部の板厚tの0.75倍以上となり、曲げパンチに対する曲げ加工品の角度変化量(表2のΔθ)が-1.5/t以上1.5/t以下を満足した。よって、本発明例A1~A11の曲げ加工品は、スプリングバックおよびスプリングゴーが抑制され、曲げ部における強度不足のおそれがなく、曲げ部外側の形状もシャープな形状になった。
【0104】
また、本発明例A1~A11はいずれも、板材部におけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部におけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)が1.50~1.90の範囲になった。
【0105】
一方、表2に示すように、比較例B1は、パンチの突起部の先端面の曲率半径が、素材の板厚の30%未満であったため、曲げ部の圧縮力が小さくなり、スプリングバックが大きくなった。
【0106】
比較例B2は、パンチの突起部の先端面の曲率半径が、素材の板厚の50%超であったため、曲げ部の外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。
【0107】
比較例B3は、パンチの突起部の長さが、素材の板厚の30%未満であったため、曲げ部の外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。また、スプリングバックも大きくなった。
【0108】
比較例B4は、パンチの突起部の長さが、素材の板厚の60%超になり、パンチ型面と素材との間に空間が生じてしまい、パンチによって素材を十分に拘束することができなくなり、スプリングゴーが大きくなった。また、最小肉厚が小さくなり、曲げ部の強度及び剛性が低下した。
【0109】
比較例B5は、ダイのダイ凹部の底面の曲率半径が、素材の板厚の60%超になり、材料流動が起きるための空間が確保されなかったため、曲げ部の外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。また、曲げ部への圧縮力が強すぎてスプリングゴーが大きくなった。
【0110】
比較例B6は、ダイのダイ凹部の底面の曲率半径が、素材の板厚の20%未満であり、曲げ加工中にダイ凹部底面に割れが発生したため曲げ加工の続行が不可能となった。
【0111】
なお、各試験例において、突起部の幅Wは素材の板厚の50%以上150%以下に相当する長さであり、パンチ型面と突起部との境界に設けられる凹曲面の曲率半径Rjは、素材の板厚の150%以下の長さに相当する曲率半径であった。
【0112】
【0113】
【0114】
(実施例2)
実施例1と同様に、表1に示す化学成分を有し、表3Aに示す板厚tを有するフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板を用意した。フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板の機械的性質は表1に示す通りであった。フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板よりなる金属板材を、長さ100mm、幅30mmのサイズに切り出して素材とした。
【0115】
また、
図8および
図9に示すような、パンチ及びダイを備えた金型を用意した。パンチは、先端面11e(凸曲面)、側壁面11d、および傾斜面11fを有する突起部11cを備えたものを用いた。パンチのパンチ型面の相対角度θpは90°とした。パンチの幅は80mmとし、長さ(
図8および
図9の奥行き方向の長さ)は60mmとした。ダイ凹部の幅は80mmとし、ダイ凹部の長さ(
図8の奥行き方向の長さ)は60mmとした。
【0116】
そして、パンチ及びダイをプレス成形機に取り付け、パンチとダイの間に素材を配置した。その際、素材の長さ方向が
図8および
図9の奥行き方向と一致するように素材を配置した。また、素材の幅方向中心を、金型の中心に合わせた。そして、プレス成形機を作動させてパンチ及びダイが素材に密着するまでパンチ及びダイスを相互に接近させることで、素材に対してV曲げを行って曲げ部を形成した。このようにして、曲げ部を有する曲げ加工品を製造した。
【0117】
得られた曲げ加工品について、実施例1と同様にして、曲げ部における曲げ角度θを測定し、スプリングバックおよびスプリングゴーについて評価した。また、板材部におけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部におけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)を測定した。結果を表3Bに示す。
【0118】
また、個数として1000個の金属素材を用意し、1つの金型を用いてこれらの金属素材に対してV曲げを行った場合の、パンチの変形の有無を評価した。以下の評価基準により評価を行った。結果を表3Bに示す。
【0119】
A:1000回でもパンチに変形なし。
B:800回以上1000回未満でパンチに変形発生。
C:600回以上800回未満でパンチに変形発生。
D:100回以上600回未満でパンチに変形発生。
【0120】
また、以下の基準で総合評価を行った。曲げ加工品において、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径(表3Bの外側径Rout)、曲げ部の最小肉厚(表3Bのtm)及び曲げパンチに対する曲げ加工品の角度変化量(表3BのΔθ)のうちの何れかが不合格の場合は、金型変形の評価を行なわなかった。
【0121】
合格(○):金型の変形の評価がAだったもの。
合格(△):金型の変形の評価がB~Dだったもの。
不合格(×):金型変形の評価を行わなかったもの(曲げ加工品において、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径が大きい、曲げ部の最小肉厚が小さい、又は曲げパンチに対する曲げ加工品の角度変化量が大きかったもの)。
【0122】
表3A及び表3Bに示すように、本発明例A21~A37はいずれも、本発明範囲を満足する条件で型曲げ加工が行われた。その結果、得られた曲げ加工品は、曲げ部の曲げ外側の凸曲面の曲率半径(表3Bの外側径Rout)が板材部の板厚t以下となり、曲げ部の最小肉厚(表3Bのtmが、板材部の板厚tの0.75倍以上となり、曲げパンチに対する曲げ加工品の角度変化量(表3BのΔθ)が-1.5/t以上1.5/t以下を満足した。よって、本発明例A21~A37の曲げ加工品は、スプリングバックおよびスプリングゴーが抑制され、曲げ部における強度不足のおそれがなく、曲げ部外側の形状もシャープな形状になった。
【0123】
また、本発明例A21~A37はいずれも、板材部におけるビッカース硬さHVmに対する曲げ部におけるビッカース硬さHVrの比(HVr/HVm)が1.50~1.90の範囲になった。
【0124】
更に、本発明例A21~A37における金型は、1000回に渡る加工を行った場合でもパンチおよびダイが変形しないか、変形したとしても許容できる耐久性を有することが確認された。
【0125】
一方、表3A及び表3Bに示すように、比較例B21は、パンチの突起部の先端面の曲率半径Rpが、素材の板厚の30%未満であったため、曲げ部の圧縮力が小さくなり、スプリングバックが大きくなった。
【0126】
比較例B22は、パンチの突起部の先端面の曲率半径Rpが、素材の板厚の50%超であったため、曲げ部の外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。
【0127】
比較例B23は、パンチの突起部の長さHが、素材の板厚の30%未満であったため、曲げ部の外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。また、スプリングバックも大きくなった。
【0128】
比較例B24は、パンチの突起部の長さHが、素材の板厚の60%超になり、パンチ型面と素材との間に空間が生じてしまい、パンチによって素材を十分に拘束することができなくなり、スプリングゴーが大きくなった。また、最小肉厚が小さくなり、曲げ部の強度及び剛性が低下した。
【0129】
比較例B25、B27は、パンチの突起部の幅Wが、素材の板厚の150%超であったため、曲げ部の曲げ外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。また、パンチの突起部が素材に圧入されず、曲げ部への圧縮力の付与が不十分になり、スプリングバックが大きくなった。
【0130】
比較例B26、28は、パンチの凹曲面の曲率半径Rjが、素材の板厚の150%超であったため、スプリングバックが大きくなった。
【0131】
比較例B29は、ダイのダイ凹部の底面の曲率半径が、素材の板厚の60%超になり、材料流動が起きるための空間が確保されなかったため、曲げ部の外側の曲率半径が板厚を超えてしまい、シャープな形状が得られなかった。また、曲げ部への圧縮力が強すぎてスプリングゴーが大きくなった。
【0132】
比較例B30は、ダイのダイ凹部の底面の曲率半径が、素材の板厚の20%未満であり、曲げ加工中にダイ凹部底面に割れが発生したため曲げ加工の続行が不可能となった。
【0133】
【0134】
1…パンチ、1a…パンチ先端、1b…パンチ型面、1c…突起部、1e…突起部の先端面、2…ダイ、2A…ダイブロック、2a…ダイ凹部、2c…ダイの凹曲面、2d…底部、3…素材、4…曲げ加工品(金属板材よりなる曲げ加工品)、4a…板材部、4b…曲げ部、4c…曲げ部の曲げ外側の凸曲面、4d…曲げ部の凹部、4e…凹部の凹曲面。