(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182999
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】シュー生地の製造方法、シュー生地及びシュー
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20221201BHJP
A21D 13/33 20170101ALI20221201BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050786
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021089608
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直人
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB20
4B032DB35
4B032DE01
4B032DG07
4B032DG20
4B032DK15
4B032DP02
(57)【要約】
【課題】本発明は、シュー生地におけるしっとりした食感と、歯切れの良さを有し、ボリュームのあるシューパフが得られるシュー生地を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、澱粉を含む穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の合計量が70質量部以上であり、且つ、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下となるミックス粉を用いて、25℃での粘度が2000Pa・s以上6300Pa・s以下であるシュー生地を製造するシュー生地の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を含む穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の合計量が70質量部以上であり、且つ、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下となるミックス粉を用いて、25℃での粘度が2000Pa・s以上6300Pa・s以下であるシュー生地を製造する、シュー生地の製造方法。
【請求項2】
前記ミックス粉の穀粉類100質量部に対して、糖類を10質量部以上40質量部以下用いる、請求項1記載のシュー生地の製造方法。
【請求項3】
前記ミックス粉として穀粉類100質量部中、α化澱粉含量が、35質量部以下であるものを用い、生地調製時に穀粉類を加熱するか、或いは、
前記ミックス粉として穀粉類100質量部中に、α化澱粉を20質量部以上50質量部以下であるものを用いる、請求項1又は2記載のシュー生地の製造方法。
【請求項4】
前記穀粉類として、下記式(I)を満たす穀粉類を使用した請求項1~3のいずれか1項記載のシュー生地の製造方法。
式(I):((C)+(D))/(E)>0.60
但し、式(I)において、
(C)はα化澱粉を除いたワキシーコーンスターチのうち、下記条件(1)を満たすワキシーコーンスターチの総質量であり、
(D)はα化澱粉を除いたタピオカ澱粉のうち、下記条件(2)を満たすタピオカ澱粉の総質量であり、
(E)が穀粉類100質量部からα化澱粉を除いた総質量である。
条件(1):(A)>2000cpで且つ(B)/(A)>0.40
条件(2):(A)>2000cpで且つ(B)/(A)>0.25
条件(1)及び条件(2)において、(A)はRVAで測定した最高粘度(cp)であり、(B)はブレイクダウンの粘度(cp)である。
【請求項5】
澱粉を含む穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉を、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の合計量が70質量部以上、且つ、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下となる量で含有し、25℃での粘度が2000Pa・s以上6300Pa・s以下であるシュー生地。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法により得られたシュー生地を用いて製造されたシュー、又は、請求項5記載のシュー生地を用いて製造されたシュー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュー生地の製造方法、シュー生地及びシューに関する。
【0002】
従来、シュー生地には、穀粉類として澱粉類が用いられている。
特許文献1には、タピオカ澱粉と、小麦澱粉及び/又は馬鈴薯澱粉を含み、前記澱粉中のタピオカ澱粉と、小麦澱粉及び/又は馬鈴薯澱粉の合計の含有率が、前記澱粉の総質量に基づいて70~100質量%であることを特徴とするシュー生地用ミックスが提案されている。同文献には、当該組成によりシュー皮の形状安定性が得られると記載されている。
【0003】
特許文献2には粉体100重量部中に、もち米粉5~30重量部とタピオカ加工澱粉30~95重量部を含有させ、シュー生地が記載されている。同文献には、当該構成により、もちもちした食感と大きな空洞が得られると記載されている。
【0004】
特許文献3には、澱粉質原料100質量部のうち、(A)アミロペクチン含量80質量%以上の澱粉を70質量部~92質量部と、(B)α化澱粉を8~20質量部とを、A+B≦100質量部となる条件で含有し、かつ、上記(A)のアミロペクチン含量80質量%以上の澱粉のうち、少なくとも8質量部以上がもち種タピオカ澱粉である澱粉質原料を配合したシューパフが記載されている。
同文献には、当該構成により、モチ食感に優れ、容積が大きく、シュー皮が薄いシューパフが提供できると記載されている。
【0005】
特許文献4には、タピオカ澱粉が10~30重量%、コーンスターチが20~40重量%、米粉(うるち米)が30~70重量%の範囲で含まれる澱粉粉体、酸性剤、卵白、油脂、水分を必須成分として、シュー生地を前記酸性剤でpH8.0以下に調整し、オーブンで焼成してなることを特徴とする白色シューパフが記載されている。同文献には、当該構成により、焼き色が少ない白色シューパフが得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-17307号公報
【特許文献2】特開2013-123382号公報
【特許文献3】WO2017/037756号パンフレット
【特許文献4】特開2012-223182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術によるシュー生地を加熱して得られるシューパフは、しっとりさ、歯切れの良さ及び口溶け等の食感と、ボリュームを両立させる点で十分なものではなかった。特にフィリングが詰められた状態で冷蔵保管した後のしっとりさ、歯切れの良さ及び口溶けと、ボリュームある外観とを両立しがたかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、シュー生地におけるしっとりした食感と、歯切れ、口溶け等の食感を良好にしつつボリュームも得る構成について鋭意検討した。その結果、ワキシーコーンスターチとタピオカ澱粉とを特定比率で含有し、且つ特定の粘度を有させることで、上記の課題を解決できることを見出した。
【0009】
本発明は上記知見に基づくものであり、澱粉を含む穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の合計量が70質量部以上であり、且つ、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下となるミックス粉を用いて、25℃での粘度が2000Pa・s以上6300Pa・s以下のシュー生地を製造するシュー生地の製造方法を提供する。
【0010】
また本発明は、澱粉を含む穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉を、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の合計量が70質量部以上、且つ、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下となる量で含有し、25℃での粘度が2000Pa・s以上6300Pa・s以下のシュー生地を提供する。
【0011】
また本発明は上記シュー生地を用いたシューを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、しっとりとして、歯切れや口溶け等の食感が良く、ボリュームあるシューが得られるシュー生地を提供することができる。特に本発明では、得られるシューが、冷蔵保管後もしっとりとして、歯切れや口溶けが良好である点で優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシュー生地の製造方法及びシュー生地について、その好適な実施形態に基づいてまとめて説明する。
シュー生地とは、シュー(「シューパフ」と呼ばれることもある。)の原料(穀粉類、副原材料、油脂、水、卵など)を混合などし、調製したものであって、焼成していない混合物のことをいう。これを加熱することで、シューが得られる。なお、以下で「シュー生地に用いる穀粉類」という場合、シュー生地を構成する穀粉類、及びシュー生地の原料となる穀粉類のいずれの意味で解してもよい。
【0014】
本発明では、シュー生地は、用いる穀粉類として、澱粉を含む穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の合計量が70質量部以上であり、且つ、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下となる穀粉類を有するミックス粉を用い、生地粘度が25℃で2000Pa・s以上6300Pa・s以下である生地とする。シューの食感とボリュームを両立することは従来技術においては、十分なものではなかった。これに対し、本発明では、穀粉類中、ワキシーコーンスターチと、タピオカ澱粉とを上記の比率とし、特定の生地粘度とすることで、得られるシューにおいてしっとり、歯切れや口溶け等の食感とボリュームを両立させたものとすることができる。
【0015】
シューには、生クリームやカスタードクリーム等のフィリングを注入し喫食することが一般的であるが、そのフィリングの保存性を考慮し、冷蔵で流通・販売されることが多い。従来一般に、冷蔵で流通・販売された場合、フィリングの水分がシューへ移行し、ボソボソとして口溶けが悪い食感となりやすく、喫食した際、フィリングが先に溶けてしまいシューが口の中に溶け残りやすい。
これに対し、本発明では後述の実施例の4℃での保存後の食感評価結果にも示す通り、フィリングを注入した後の冷蔵での流通・販売時にもしっとりとした食感で、歯切れ、口溶けを良好としうるため有利である。
【0016】
例えば、後述する比較例1のようにワキシーコーンスターチの量が穀粉類100質量部中、50質量部未満であり、タピオカ澱粉が穀粉類100質量部中、50質量部超である場合、両者の合計が70質量部以上であって25℃の生地粘度が上記範囲内であっても、歯切れに欠け、口溶けにも劣るシューとなる。
また例えば比較例2のように、ワキシーコーンスターチとタピオカ澱粉の合計が穀粉類100質量部中、70質量部未満であると、フィリング注入後の冷蔵保管後にしっとりした食感に劣る生地になるほか、見た目のボリュームにも欠ける。また比較例3のように、ワキシーコーンスターチとタピオカ澱粉とが上記特定比を満たしても、特定粘度下限を下回る場合、冷蔵保管後にしっとりした食感、歯切れに劣るほか、口溶け、ボリュームにも劣る。比較例4のように、ワキシーコーンスターチとタピオカ澱粉とが上記特定比を満たしても、特定粘度上限を超える場合、冷蔵保管後に歯切れに劣るほか、口溶け、見た目のボリュームに劣る。
【0017】
穀粉類とは、穀粉及び澱粉の両方を含むものである。穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉;米粉、トウモロコシ粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉等が挙げられる。澱粉としては、前記の穀粉を由来とする澱粉及びその加工澱粉が挙げられる。例えば澱粉としては、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等が挙げられる。加工澱粉としては、未加工澱粉にエーテル化、エステル化、アセチル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化澱粉には、ヒドロキシプロピル化澱粉が含まれる。なお、ここでいう「澱粉」は、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。
【0018】
澱粉への加工の種類の数は1つでも2つ以上であってもよい。例えば2つ以上の加工処理を組み合わせた加工澱粉としては、アセチル化とアジピン酸架橋、アセチル化とリン酸架橋、アセチル化と酸化、エーテル化とリン酸架橋、リン酸モノエステル化とリン酸架橋、α化とエーテル化及びリン酸架橋、等の複数の加工を組み合わせた加工澱粉が挙げられる。
【0019】
ワキシーコーンスターチは、ワキシーコーンから得られる澱粉、並びにこれらに上述のような物理的又は化学的加工を施した加工ワキシーコーン澱粉を指す。
タピオカ澱粉としては、キャッサバから得られるタピオカ澱粉、及びこれに上述のような物理的又は化学的加工を施した加工タピオカ澱粉が挙げられる。 本発明では、シュー生地に用いる穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチが50質量部以上100質量部以下であり、得られるシューの歯切れの良さとしっとり感、ボリュームを一層高める点から、好ましくは60質量部以上90質量部以下である。
また本発明では、シュー生地に用いる穀粉類100質量部中に、タピオカ澱粉が0質量部以上50質量部以下であり、歯切れの良さとしっとり感、口溶け、ボリュームを一層高める点から、好ましくは10質量部以上40質量部以下である。
【0020】
更に、本発明において、シュー生地に用いる穀粉類100質量部中に、ワキシーコーンスターチとタピオカ澱粉は合計で70質量部以上であり、歯切れの良さとしっとり感、口溶け、ボリューム感を一層高める点から、75質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることが特に好ましい。
【0021】
シュー生地の製造に用いる穀粉類は、ミックス粉として混合された状態であることが均質なシューを製造する点から好ましい。
【0022】
更に、本発明において、シュー生地は25℃で測定した粘度が2500Pa・s以上5800Pa・s以下であることがボリュームを大きくし、且つ口溶け、しっとりした食感と歯切れの良さ(特にフィリング注入後の冷蔵保管後のこれらの食感)とを両立させる点で一層好ましく、3200Pa・s以上であることが更に一層好ましい。シュー生地の粘度は、焼成前、25℃にて測定する。生地の粘度はB型粘度計にて25℃、0.5rpmの条件にて120秒後の粘度を測定し、具体的には、以下の実施例に記載の方法にて測定できる。
上記の粘度を得る方法としては、例えば、用いる穀粉類に使用する澱粉の種類や量を調整したり、生地調製温度、穀粉類の加熱時間、加水量の変更、卵量の変更、増粘剤等の副原料の添加を調整する方法等が挙げられる。
【0023】
本発明においてミックス粉/シュー生地に用いる穀粉類は、α化澱粉の量を特定量に調整していることが、シュー生地の粘度を適切な範囲に調整でき、フィリング注入後に冷蔵保管後の食感の効果を得ながら見た目にボリュームのあるシューにしやすい点で好ましい。この観点から、α化澱粉含量が、ミックス粉における穀粉類100質量部中、35質量部以下であり、生地調製時に穀粉類を加熱するか、或いは、ミックス粉/シュー生地における穀粉類100質量部中に、α化澱粉を20質量部以上50質量部以下含むことが好ましい。
【0024】
上記の生地調製時に穀粉類を加熱するとは、穀粉類の少なくとも一部を糊化する加熱を指す。このような加熱としては、例えば60℃以上の加熱が挙げられる。常圧である場合、加熱温度の上限は通常100℃である。加熱温度は80℃以上100℃以下がより生産効率がよく、85℃以上95℃以下が粘度調整しやすさの点で特に好適である。なお、ここでいう加熱温度とは、例えば加熱した液体成分に、穀粉類を含むミックスを投入して生地を調製する場合、ミックス粉の投入直前の加熱した液体成分の温度を指す。加熱する液体成分としては、後述する水、油脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
なお、生地調製時に穀粉類を加熱するとは生地に使用する穀粉類の少なくとも一部を加熱する操作であればよいが、生地に使用する穀粉類の少なくとも20質量%以上(より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上)を加熱する操作であることが好適である。
上記の穀粉類の加熱を行う場合には、ミックス粉の穀粉類100質量部において、α化澱粉の量は、0質量部以上35質量部以下であることが、原材料費を抑制する点や上記の粘度に調整して本発明の効果が得やすい点から好ましい。この観点から上記の穀粉類の加熱を行う場合には、α化澱粉の量は、前記穀粉類100質量部中、0質量部以上25質量部以下であることがより好ましく、0質量部以上20質量部以下であることが更に好ましく、特に本発明の効果が優れる点から、0質量部以上8質量部未満であることが更に一層好ましく、0質量部以上7質量部以下が最も好ましい。
【0025】
またミックス粉は穀粉類100質量部に対しα化澱粉を20質量部以上含有する場合、シュー生地の調製時に穀粉類を加熱する必要はない。ミックス粉及びシュー生地中、α化澱粉を穀粉類100質量部に対し20質量部以上含有する場合、ミックス粉/シュー生地の粘度を適切な範囲に調整でき、フィリング注入後に冷蔵保管後の食感の効果を得ながら見た目にボリュームのあるシューにしやすい点で穀粉類100質量部に対しα化澱粉量が20質量部超であることがより好ましく、22質量部以上であることが更に一層好ましく、特に25質量部以上45質量部以下であることが好ましい。
【0026】
α化澱粉は、澱粉の由来に関係なく、α化処理を経た澱粉を意味し、α化処理とエーテル化処理、α化処理とアセチル化処理、α化処理と架橋処理等、α化に加えてα化以外の加工処理が施された澱粉も含む。シューのボリューム及びしっとりした食感や歯切れの良さの点から、シュー生地に用いる穀粉類中、α化ワキシーコーンスターチ又はα化タピオカ澱粉を含有することが好ましく、α化澱粉全体におけるα化ワキシーコーンスターチ又はα化タピオカ澱粉の割合は合計で50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。特に、α化澱粉として、α化ワキシーコーンスターチを用いることがしっとりした食感と歯切れの良さを一層高められる点で好ましい。
【0027】
本発明ではシュー生地に用いる穀粉類において、α化を施されていない澱粉(以下、「非α化澱粉」ともいう。)が特定の組成であることが好ましい。具体的には、前記穀粉類として、下記式(I)を満たす穀粉類を使用することが好ましい。
式(I):((C)+(D))/(E)>0.60
但し、式(I)において、
(C)はα化澱粉を除いたワキシーコーンスターチのうち、下記条件(1)を満たすワキシーコーンスターチの総質量であり、
(D)はα化澱粉を除いたタピオカ澱粉のうち、下記条件(2)を満たすタピオカ澱粉の総質量であり、
(E)が穀粉類100質量部からα化澱粉を除いた総質量である。
条件(1):(A)>2000cpで且つ(B)/(A)>0.40
条件(2):(A)>2000cpで且つ(B)/(A)>0.25
条件(1)及び条件(2)において、(A)はRVAで測定した最高粘度(cp)であり、(B)はブレイクダウン(cp)である。
【0028】
シューは、澱粉の糊化に起因した膨潤により膨らむことが知られている。一般に糊化過程では澱粉粒が吸水、膨潤した後に崩壊する。本発明者は、糊化特性の一つである糊化時の澱粉粒の崩壊しやすさを、上記式(I):((C)+(D))/(E)>0.60
を満たすように調整することで、シューのボリュームある外観を特に優れたものにしやすく、且つ良好な口溶け(例えば、フィリング注入後冷凍保管後の口溶け)等の優れた食感が得やすいものになることを見出した。
【0029】
より具体的にはボリュームある外観と口溶けの点で、式(I):((C)+(D))/(E)の値は0.65以上であることがより好ましく、0.7以上であることが特に好ましい。
(C)(条件(1)に該当する非α化ワキシーコーンスターチの総質量):(D)(条件(2)に該当する非α化タピオカ澱粉の総質量)の比率は上記のワキシーコーンスターチ及びタピオカ澱粉の比率を満たすものであればよい。
【0030】
なお、前記のRVAの各値(最高粘度(cp)、ブレイクダウン(cp))は、RVAとも略称されるラピッドビスコアナライザーと呼ばれる迅速粘度測定装置(ニューポートサンエンティフィク社製)を用い、次のようにして測定することができる。
測定装置に付属のアルミ缶(測定対象物の収容容器)に、測定対象となる澱粉3g及び蒸留水を25g入れた後、さらにパドル(攪拌子)を入れ、タワーにセットする。そして、アルミ缶内のパドルを回転数160rpm/minで回転させながら、該アルミ缶を加熱してその内容物(澱粉懸濁液)の温度を上昇させつつ該内容物の粘度を測定する。このときのアルミ缶内容物の加温上昇条件は、はじめにアルミ缶内容物の品温を50℃で2分間保持した後、9分をかけて95℃まで昇温させ、同温度で4分間保持し、次いで4分をかけて50℃まで降温した後、同温度で11分間保持する条件とする。そして、斯かるアルミ缶加熱処理中の内容物の粘度曲線を得、該粘度曲線に基づいて、最高粘度(A)(RVAピーク粘度)、降温時の最低粘度を求める。そして、下記式によりブレイクダウン(B)を算出する。
・ブレイクダウン(B)=最高粘度(A)-最低粘度
【0031】
ボリュームある外観、口溶け、しっとりした食感および歯切れの良い食感を一層高める点から、本発明で用いる条件(1)に該当する非α化ワキシーコーンスターチとしては、RVAにて測定される最高粘度(A)が3000cp以上であることが好ましく、3500cp以上であることがより好ましい。またボリュームある外観、口溶け、しっとりした食感および歯切れの良い食感を一層高める点から条件(1)に該当する非α化ワキシーコーンスターチとしては、(B)ブレイクダウン/(A)最高粘度の比率が0.40以上であることが好ましく、0.45以上であることがより好ましい。
またボリュームある外観、口溶け、しっとりした食感を一層高める点から、本発明で用いる条件(2)に該当する非α化タピオカ澱粉としては、RVAにて測定される最高粘度(A)が2500cp以上であることが好ましく、3000cp以上であることがより好ましい。またボリュームある外観、口溶け、しっとりした食感および歯切れの良い食感を一層高める点から条件(2)に該当する非α化タピオカ澱粉としては、(B)ブレイクダウン/(A)最高粘度の比率が0.25以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
なお、RVA測定において最高粘度が100cp未満である非α化澱粉の割合は、全非α化澱粉中、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明では、ボリュームある外観、冷蔵保存後も口溶け、しっとりした食感および歯切れの良い食感を一層高める点から、(C)に該当する澱粉は穀粉類100質量部中、15質量部以上75質量部以下であることが好ましく、25質量部以上65質量部以下がより好ましい。
また、ボリュームある外観、冷蔵保存後も口溶け、しっとりした食感および歯切れの良い食感を一層高める点から、(D)に該当する澱粉は穀粉類100質量部中、0質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上35質量部以下がより好ましい。
【0033】
本発明ではシュー生地において、ミックス粉の穀粉類100質量部に対して、糖類を10質量部以上40質量部以下用いることが好ましい。糖類としては、食品分野において使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、果糖、ブドウ糖等の単糖;ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース等の二糖;ソルビトール、キシリトール、マルチトール等の糖アルコール;ラフィノース、フルクトオリゴ糖、スタキオース、乳果オリゴ糖等の三糖以上のオリゴ糖等が挙げられる。その他糖類としては、異性化糖、砂糖、グラニュー糖、ハチミツ、水あめ、還元水あめ、メープルシロップ等の単糖、二糖、オリゴ糖又は糖アルコールを主成分とする糖が挙げられる。糖類としては、上記で挙げた各種の糖の1種又は2種以上を用いることができる。なお、例えば糖類として、ハチミツ、水あめ、還元水あめ、メープルシロップ等の単糖、二糖、糖アルコール又はオリゴ糖以外の成分を有する糖を用いる場合、それらの単糖、二糖、糖アルコール、オリゴ糖の合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
シュー生地において、穀粉類100質量部に対し、糖類を10質量部以上40質量部以下含有させることで、しっとりした食感、口溶け、歯切れ、ボリュームある外観を一層容易に得られる点で好ましい。この点から、穀粉類100質量部に対し、糖類の量が15質量部以上40質量部以下であることがより好ましい。好適な糖類としては、二糖、糖アルコール、還元水あめが挙げられる。
【0035】
本発明のシュー生地においては、穀粉類、糖類のほかに、水、油脂、卵類を用いることができる。油脂は、パーム油、ヤシ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、紅花油、ラード等の油脂、これらの油脂を水素添加、エステル交換、分別等の加工をして得られる加工油脂が挙げられる。油脂は、特に制限はなく、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等も使用することができる。卵類としては、特に制限はなく、全卵、卵白、卵黄をそれぞれ単独、又は複数混合して使用することができる。
【0036】
シュー生地中、例えば、水の使用量は、穀粉類100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下が好適であり、70質量部以上120質量部以下が更に好適である。シュー生地中、油脂の使用量は、例えば、穀粉類100質量部に対し、50質量部以上120質量部以下が好適であり、60質量部以上100質量部以下が更に好適である。シュー生地中、卵類の使用量は、例えば、穀粉類100質量部に対し、50質量部以上150質量部以下が好適であり、70質量部以上120質量部以下が更に好適である。また、シュー生地における水と卵類の使用量の合計量は、穀粉類100質量部に対し、165質量部以上220質量部以下が好適であり、170質量部以上210質量部以下がより好適である。卵類の量が穀粉類100質量部に対して70質量部以上である場合や、或いはシュー生地の調製における水と卵類の使用量の合計が上記下限以上である場合に、上記生地粘度とすることで本発明は一層冷蔵保管後も、しっとりとして、歯切れや口溶けが良好であり、ボリュームに優れるという効果が高いものとなる。
【0037】
本発明において、シュー生地は、生地を加熱して調製してもよく、加熱せずに調製してもよい。後者の場合、水及び卵類、油脂、前記穀粉類をよく混合して均一化する事で、シュー生地を調製することができる。本発明で用いるミックス粉は前記穀粉類からなるものであってもよく、当該穀粉類に更に、必要に応じて糖類やその他の粉体原料を含有するものであってもよい。
【0038】
本発明のシュー生地は、上記で説明した穀粉類、並びに糖類、卵類、油脂、水の他、本発明の効果を損なわない限り、一般に、シュー生地に配合されるその他の材料を適宜含有させることができる。その他の材料としては、ベーキングパウダー等の膨張剤;生クリーム、濃縮乳、牛乳、発酵乳、粉乳等の乳製品;カゼインナトリウム、カゼインカルシウム等のカゼイン塩、大豆たん白、卵たん白、乳たん白等のたん白素材;その他、酒やアルコール類、豆乳、食塩等の調味料;イースト;デキストリン等の糖質;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤;香辛料;ドライフルーツやナッツ類;酵素;香料;増粘剤や食物繊維等が例示できる。シュー生地において、穀粉類、糖類、卵類、油脂、水以外の成分は、固形分として、生地100質量部中20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
シュー生地について焼成、油調、蒸し等の加熱処理をおこないシューが製造される。シュー生地を焼成する場合、シュー生地を天板上に搾り出してオーブンで焼成する。本発明のシュー又はシュー生地を適用できる製品としては、シュークリーム、エクレア、フレンチクルーラー、揚げシュー等が挙げられる。また、他の生地と組み合わせてパイシュー、クッキーシューなどの複合菓子とすることもできる。またシュー生地と同様の絞りタイプの生地としてポンデケージョなどをあげることができる。シューは、本発明のシュー生地を用いているので、上述の通り、喫食した際に歯切れよく、しっとりした食感が両立している。本発明で得られるシューは、製造後冷凍して流通又は販売させる冷凍製品や、製造後冷蔵して流通又は販売させる冷蔵商品などにも適用できる。
【実施例0040】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、表2A~表2C、表3の配合の単位は質量部である。
(RVA測定)
加工種類の異なる5種のワキシーコーンスターチ1~5、加工種類の異なる5種のタピオカ澱粉1~5及び未加工の小麦澱粉について、それぞれRVAにより(A)最高粘度(cp)及び(B)ブレイクダウンの粘度(cp)を測定した。RVA分析は具体的には上記の方法により測定した。結果を表1に示す。 また表1には、「条件(1):(A)>2000cpで且つ(B)/(A)>0.40」に該当する非α化ワキシーコーンスターチには(C)を、条件(2):「(A)>2000cpで且つ(B)/(A)>0.25」に該当する非α化タピオカ澱粉には、(D)の符号を記載している。
【0041】
【0042】
上記表1に記載の各澱粉の詳細を下記に記載する。
ワキシーコーンスターチ1:松谷化学工業社製フードスターチW
ワキシーコーンスターチ2:松谷化学工業社製マーガレット
ワキシーコーンスターチ3:松谷化学工業社製フードスターチF403
ワキシーコーンスターチ4:三和澱粉工業社製ワキシーアルファ―Y
ワキシーコーンスターチ5:松谷化学工業社製パインゴールド
タピオカ澱粉1:Jオイルミルズ社製アクトボディA800
タピオカ澱粉2:松谷化学工業社製ゆり8
タピオカ澱粉3:日本コーンスターチ社製タップジェル1
タピオカ澱粉4:松谷澱粉工業社製パインベークCC
タピオカ澱粉5:松谷澱粉工業社製マツノリンM-22
小麦澱粉(未加工):グリコ栄養食品社製銀鱗G13
【0043】
(実施例1~18、比較例1~4)
穀粉類として、上記表1の通りに粘度測定を行った各種澱粉を用いて表2A~表2Cに示す組成で混合穀粉類を得た。混合穀粉類100質量部に対し、表2A~表2Cに記載の糖類を表2A~表2Cに記載の量加えるとともに、カゼインナトリウム5質量部を加えて混合し、ミックス粉を得た。
水90質量部、卵90質量部に、前述のミックス粉を投入し、低速2分、高速5分攪拌し、かき落としをした後、サラダ油80質量部を投入し低速1分、高速1分混合した。
得られた生地は、1つ約15gの円形に絞り出し、霧吹きで生地に水を振りかけた後、190℃のオーブンにて30分焼成してシューパフを得た。
また、得られた生地を容量300mLのトールビーカー(材質:ガラス、寸法:外径65mm、高さ:135mm)を満たすように入れ、TVB10型回転粘度計(東機産業社製のTVB-10U)で25℃、ロータTH5使用、0.5rpmの条件にて120秒後粘度を測定した。
【0044】
得られたシューパフについて焼成10分後の外観のボリュームを10名のパネラーにて下記基準にて評価し、平均点を求めた。また生クリームに砂糖を8質量%添加しホイップしたクリームをシューパフに注入し、シューパフ内部を完全に満たしシュークリームを得た。シュークリームをポリプロピレン包材にて密封包装した後、4℃にて24時間経過させた後、しっとりさ、歯切れの良さ、口溶けの良さなどの食感を、10名のパネラーにて下記基準にて評価し、平均点を求めた。結果を表2A~表2Cに示す。
【0045】
(しっとりさ)
5点 シューパフのしっとり感が非常に強く、非常に良好。
4点 シューパフのしっとり感が強く、良好。
3点 シューパフのしっとり感を若干感じる。
2点 シューパフのしっとり感が弱くややドライであり、劣る。
1点 シューパフのしっとり感がなく、ドライであり、非常に劣る。
【0046】
(歯切れの良さ)
5点 シューパフが柔らかで歯切れが良く、非常に良好。
4点 シューパフがやや柔らかで歯切れが良く、良好。
3点 シューパフがやや歯切れ良い。
2点 シューパフにややヒキがあり、歯切れが劣る。
1点 シューパフにヒキがあり、歯切れが悪い。
【0047】
(口溶けの良さ)
5点 シューパフの口溶けが非常に良好。
4点 シューパフの口溶けが良好。
3点 シューパフの口溶けは良いが、口の中で若干ダンゴになる。
2点 シューパフの口溶けが悪く、口の中でダンゴになる。
1点 シューパフの口溶けが非常に悪く、口の中でダンゴになる。
【0048】
(ボリューム)
5点 シューパフが非常に大きく、非常に良好。
4点 シューパフが大きく、良好。
3点 シューパフの大きさとして許容範囲。
2点 シューパフが小さく、不良。
1点 シューパフが非常に小さく、不良。
【0049】
【0050】
表2A~表2Cに記載の各実施例のシュー生地によれば、得られるシューパフのボリュームや、フィリングが詰められた状態で冷蔵保管した後のしっとりさと歯切れの良さ、口溶けが良好となることが判る。
一方、ワキシーコーンスターチの比率が本発明よりも小さく、タピオカ澱粉の比率が本発明よりも大きい比較例1では、歯切れ及び口溶けに劣り、ワキシーコーンスターチの量やタピオカ澱粉との合計比率が本発明よりも小さい比較例2では、ボリューム、歯切れ及び口溶けなどの食感に劣る。また、生地粘度が本発明の範囲外である比較例3及び4でもボリューム及び歯切れの良さ等の食感に劣る。
【0051】
(実施例19~22、比較例5、6)
穀粉類として、上記表1の通りに粘度測定を行った上記各種澱粉を用いて表3に示す組成で混合穀粉類を得た。混合穀粉類100質量部に対し、表3記載の糖類を表3に記載の量加えるとともに、カゼインナトリウム5質量部を加えて混合し、ミックス粉を得た。
ミキサーボールに水90質量部、サラダ油80質量部を混合して表3に記載の温度まで加熱した後、加熱を停止してから前述のミックス粉を投入し、低速1分攪拌した後、生地温度が50~60℃になるまで静置した。その後、高速3分の攪拌の間に卵90質量部を少しずつ投入し、かき落としをした後、高速1分混合した。
得られた生地は、1つ約15gの円形に絞り出し、霧吹きで生地に水を振りかけた後、190℃のオーブンにて30分焼成してシューパフを得た。シューパフを(実施例1~18、比較例1~4)と同様にして評価した。
また得られた生地について、(実施例1~18、比較例1~4)と同様にして粘度を測定した。結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
表3に示す通り、α化澱粉が所定量以下であり、加熱して調製する生地の場合であっても、所定の組成とし且つ25℃の粘度を所定範囲とすることにより、ボリュームや、フィリングが詰められた状態で冷蔵保管した後のしっとりさと歯切れの良さ、口溶けが良好となることが判る。