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特開2022-183025ガラス糸、ガラスクロスの製造方法及びガラスクロス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183025
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ガラス糸、ガラスクロスの製造方法及びガラスクロス
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20221201BHJP
   D02G 3/18 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
D03D15/267
D02G3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072715
(22)【出願日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021089446
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正朗
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA21
4L036UA07
4L036UA23
4L048AA03
4L048AA34
4L048AA48
4L048AA51
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB12
4L048AC09
4L048AC12
4L048CA15
4L048DA43
4L048EA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】本発明は、欠点の少ないガラスクロス、及びその製造方法、並びにそれを構成するガラス糸を提供することを目的とする。
【解決手段】複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として製織したガラスクロスであって、ガラスクロスにおける長さ方向500mを対象に、そのクロス面に沿って白色LED光を照射して長さ方向1mごとに観察し、上記クロス面に全面毛羽が存在した場合に欠点数1とカウントするとき、下記式:
減点率(%)=(欠点のカウント数の合計/500)×100
で表される減点率が、0~3.5%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸に用いて製織したガラスクロスであって、
前記ガラスクロスにおける長さ方向500mを対象に、そのクロス面に沿って白色LED光を照射して長さ方向1mごとに観察し、前記クロス面に全面毛羽が存在した場合に欠点数1とカウントするとき、下記式:
減点率(%)=(欠点のカウント数の合計/500)×100
で表される減点率が、0~3.5%である、ガラスクロス。
【請求項2】
前記全面毛羽は、光学顕微鏡により前記クロス面に観察される、前記フィラメントの切れによる200~1000μmの毛羽立ちを含む、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
前記ガラスクロスの厚さが、10~50μmである、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項4】
次の条件:
(i)TEXが、1~13であり、
(ii)破断強度が、0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である、
を満たす前記ガラス糸を含む、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ガラス糸の撚り間隔長さが、1.8~10.0cmである、前記ガラス糸を含む、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラス糸の、撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)が、0.7以下である、前記ガラス糸を含む、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項7】
10,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項8】
50,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項9】
100,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項10】
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸に用いて製織する工程を含む、ガラスクロスの製造方法であって、
(i)前記ガラス糸のTEXが、1~13であり、
(ii)前記ガラス糸の破断強度が、0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である、
ガラスクロスの製造方法。
【請求項11】
前記ガラス糸のTEXが、1~7である、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項12】
前記ガラス糸を構成するモノガラスフィラメント数が、30~120本である、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項13】
前記ガラス糸の撚り間隔長さが、1.8~10.0cmである、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項14】
前記ガラス糸の、撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)が、0.7以下である、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項15】
前記ガラス糸の密度が、2.2g/cm以上2.5g/cm未満である、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項16】
前記ガラス糸の弾性係数が、50~70GPaである、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項17】
前記ガラス糸の弾性係数が、50~63GPaである、請求項10に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項18】
10,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項10~17のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項19】
50,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項10~17のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項20】
100,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項10~17のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項21】
(i)TEXが1~13であり、
(ii)破断強度が0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である、
ガラス糸。
【請求項22】
前記TEXが、1~7である、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項23】
前記ガラス糸を構成するモノガラスフィラメント数が30~120本である、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項24】
撚り間隔長さが、1.8~10.0cmである、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項25】
撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)が、0.7以下である、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項26】
密度が、2.2g/cm以上2.5g/cm未満である、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項27】
弾性係数が、50~70GPaである、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項28】
弾性係数が、50~63GPaである、請求項21に記載のガラス糸。
【請求項29】
10,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項21~28のいずれか1項に記載のガラス糸。
【請求項30】
50,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項21~28のいずれか1項に記載のガラス糸。
【請求項31】
100,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、請求項21~28のいずれか1項に記載のガラス糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス糸、ガラスクロスの製造方法及びガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信社会の発達とともに、データ通信及び/又は信号処理が大容量で高速に行われるようになっている。ハイエンドサーバー、ハイエンドルータ/スイッチ、スーパーコンピュータ、基地局の通信機器、計測器等には、プリント配線板が用いられるところ、プリント配線板の低誘電率化が進行している。そのため、プリント配線板を構成するガラスクロスに関して、低誘電ガラスクロスが提案されている。例えば、特許文献1は、従来から使用されているEガラスクロスに対して、ガラス組成中に三酸化二ホウ素(B)を多く配合し、かつ、二酸化ケイ素(SiO)等の他の成分の配合量を調整することで、ガラスクロスの低誘電化を図る旨を開示している。
【0003】
スマートフォン等の端末電子機器に関しても、大容量かつ高速での通信への対応が求められるため、スマートフォン用に用いられるプリント配線板の低誘電化も、近年、拡大を見せ始めている。そのため、薄い(例えば、厚さ10~50μmの)低誘電ガラスクロスが強く求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-292567号公報
【特許文献2】特開2013-112917号公報
【特許文献3】特開2004-115351号公報
【特許文献4】特開2011-140721号公報
【特許文献5】国際公開第2018/216637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載される低誘電ガラスクロスは、従来から既知のEガラスクロスと比較し、その性能又は品質にバラツキがあることが分かってきた。特に、厚さ10~50μmの低誘電ガラスクロスでは、毛羽品質に大きなバラツキが生じ易く、そのため、安定して毛羽品質に優れるガラスクロスを得るのが困難であった。
【0006】
ガラスクロスの毛羽品位を改善する方法としては、特許文献2、3はガラス糸の集束剤に特定の澱粉を用いる方法を、特許文献4はガラス糸製造においてトラベラーでの糸の屈曲をなだらかにする方法を、特許文献5は低誘電ガラスに特定の組成を用いる方法を、それぞれ開示している。
【0007】
特許文献2は、25~100質量%がアミロースで構成された澱粉を含有し、かつ、該澱粉の平均粒子径が12μm以下の集束剤を用いて製造されるガラス糸を用いてガラスクロスを製造することにより、クロスの毛羽立ちを抑制できる旨を開示している。
【0008】
特許文献3は、アミロース含量50%以上のエーテル化ハイアミロース澱粉を含む集束剤を1.5~3.0質量%付着させたガラス糸を作製することにより、ガラス糸の集束性を向上させ、これにより、毛羽発生を有効に防止できる旨を開示している。
【0009】
特許文献4は、ガラス糸製造における撚糸工程において、トラベラーの糸通過部を肉厚にし、トラベラー通過時の糸の屈曲を緩やかにすることにより、毛羽、糸切れ、ループ等の品位欠損が発生し難くなる旨を開示している。
【0010】
特許文献5は、ガラス組成として重量%表示で50≦SiO≦56、20≦B≦30、10≦Al≦20、3.5≦MgO+CaO≦10、及び0≦RO≦1.0(式中、Rは、Li、Na、及びKから選ばれる少なくとも1種の元素である)を含み、更にFeを含有する低誘電ガラスを形成することで、ガラス糸加工時の糸切れ、又は毛羽立ちを抑制できることを開示している。
【0011】
低誘電ガラス糸は、従来から用いられてきたEガラスのガラス糸に比べて強度が弱いためと推定されるが、市場で入手可能な低誘電ガラス糸を用いて製造されるガラスクロスは、毛羽品質に大きなバラツキがあるため、安定して高品位のガラスクロスが得られる低誘電ガラス糸が現在に至るまで得られていないのが現状であった。
【0012】
例えば、欠点の少ないガラス糸を用いることで、ガラスクロスの品質向上を図り易い。近年、ガラスクロスに要求される品質が高まる中、そのような品質向上の期待に応えられるガラスクロスの提供が望まれていた。一例としては、低誘電樹脂は、分子量が高くなる傾向、又は嵩高い官能基を有する傾向にあり、従来の樹脂に比べてワニスの含侵性に劣ることがあるため、ガラスクロス側には高い含侵性が要求される背景があった。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、欠点の少ないガラス糸を提供すること、かかるガラス糸を用い、均一性が高くかつ良品質のガラスクロスを提供すること、ひいては、その製造方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の目視観察によってはじめて微小毛羽が検出可能であること等に着目し、本発明を完成するに至った。本発明の一態様を以下に列記する。
[1]
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸に用いて製織したガラスクロスであって、
前記ガラスクロスにおける長さ方向500mを対象に、そのクロス面に沿って白色LED光を照射して長さ方向1mごとに観察し、前記クロス面に全面毛羽が存在した場合に欠点数1とカウントするとき、下記式:
減点率(%)=(欠点のカウント数の合計/500)×100
で表される減点率が、0~3.5%である、ガラスクロス。
[2]
前記全面毛羽は、光学顕微鏡により前記クロス面に観察される、前記フィラメントの切れによる200~1000μmの毛羽立ちを含む、項目1に記載のガラスクロス。
[3]
前記ガラスクロスの厚さが、10~50μmである、項目1又は2に記載のガラスクロス。
[4]
次の条件:
(i)TEXが、1~13であり、
(ii)破断強度が、0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である、
を満たす前記ガラス糸を含む、項目1~3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[5]
前記ガラス糸の撚り間隔長さが、1.8~10.0cmである、前記ガラス糸を含む、項目1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[6]
前記ガラス糸の、撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)が、0.7以下である、前記ガラス糸を含む、項目1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[7]
10,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[8]
50,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[9]
100,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
[10]
複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸に用いて製織する工程を含む、ガラスクロスの製造方法であって、
(i)前記ガラス糸のTEXが、1~13であり、
(ii)前記ガラス糸の破断強度が、0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である、
ガラスクロスの製造方法。
[11]
前記ガラス糸のTEXが、1~7である、項目10に記載のガラスクロスの製造方法。
[12]
前記ガラス糸を構成するモノガラスフィラメント数が、30~120本である、項目10又は11に記載のガラスクロスの製造方法。
[13]
前記ガラス糸の撚り間隔長さが、1.8~10.0cmである、項目10~12のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[14]
前記ガラス糸の、撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)が、0.7以下である、項目10~13のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[15]
前記ガラス糸の密度が、2.2g/cm以上2.5g/cm未満である、項目10~14のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[16]
前記ガラス糸の弾性係数が、50~70GPaである、項目10~15のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[17]
前記ガラス糸の弾性係数が、50~63GPaである、項目10~16のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[18]
10,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目10~17のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[19]
50,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目10~17のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[20]
100,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目10~17のいずれか1項に記載のガラスクロスの製造方法。
[21]
(i)TEXが1~13であり、
(ii)破断強度が0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である、
ガラス糸。
[22]
前記TEXが、1~7である、項目21に記載のガラス糸。
[23]
前記ガラス糸を構成するモノガラスフィラメント数が30~120本である、項目21又は22に記載のガラス糸。
[24]
撚り間隔長さが、1.8~10.0cmである、項目21~23のいずれか1項に記載のガラス糸。
[25]
撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)が、0.7以下である、項目21~24のいずれか1項に記載のガラス糸。
[26]
密度が、2.2g/cm以上2.5g/cm未満である、項目21~25のいずれか1項に記載のガラス糸。
[27]
弾性係数が、50~70GPaである、項目21~26のいずれか1項に記載のガラス糸。
[28]
弾性係数が、50~63GPaである、項目21~27のいずれか1項に記載のガラス糸。
[29]
10,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目21~28のいずれか1項に記載のガラス糸。
[30]
50,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目21~28のいずれか1項に記載のガラス糸。
[31]
100,000m以上の長さを有する前記ガラス糸を対象に、
互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が、前記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて3個以下である、項目21~28のいずれか1項に記載のガラス糸。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、欠点の少ないガラス糸を提供することができ、また、かかるガラス糸を用い、均一性が高くかつ良品質のガラスクロスを提供することができ、更に、その製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0017】
〔ガラスクロス〕
本発明における第一の実施形態は、ガラスクロスである。
【0018】
本実施形態のガラスクロスは、
複数本のガラスフィラメント(以下、単に「フィラメント」とも称する。)を含むガラス糸を経糸及び緯糸に用いて製織したガラスクロスであって、ガラスクロスにおける長さ方向の全長のうち所定の測定長さ500(m)を対象に、長さ方向1mのクロス面ごとにクロス面に沿って白色LED光を照射して観察し、該クロス面に全面毛羽が存在した場合に欠点数1とカウントするとき、下記式:
減点率(%) = 全面毛羽カウント数の合計/500(m)×100
で表される減点率が、0~3.5%である。
【0019】
本実施形態では、クロス面に沿った白色LED光を照射してクロス面を観察することによって、クロス面に垂直な方向での光照射による従来の観察に比べて、長さ1mm未満のフィラメント切れ(以下、「微小毛羽」ともいう)を感度よく検出できる。そして、そのような検出手法のもとで導かれる減点率が0~3.5%であるために、ガラスクロスとしての欠点が少なく、ひいては各種の特性に優れる。同様の観点から、減点率は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.9%以下である。
なお、従来の観察(クロス面に垂直な方向での光照射による従来の観察)は、微小毛羽の観察を想定するものではなかった。ゆえに、従来の観察手法に基づく場合、本実施形態が想定するような微小毛羽を感度良く検出できるはずがなく、ひいては、減点率を本実施形態が想定するような数値範囲に制御する着想に至ることが困難であった。
「減点率(%)」の算出方法は、実施例において詳述される。
【0020】
全面毛羽は、光学顕微鏡によりクロス面に観察される、フィラメントの切れによる200~1000μmの毛羽立ちを含む。本実施形態のとおり、クロス面に沿って白色LED光を照射してクロス面を観察するからこそ、このような全面毛羽を観察し易い。
【0021】
本実施形態のガラスクロスは、後述する厚さを有することが好ましい。また、本実施形態のガラスクロスを得るためのガラス糸は、後述する構成を有することが好ましい。
【0022】
(ガラスクロスの誘電率)
ガラスクロスの誘電率は、10GHzの周波数において、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.9以下、更に好ましくは4.8以下、特に好ましくは4.6以下である。ガラスクロスの誘電率は、空洞共振法により測定することができる。本明細書において、ガラスクロスの誘電率は、特に断りがない限り10GHzの周波数におけるものをいう。
【0023】
〔ガラス糸〕
本発明における第二の実施形態は、ガラス糸である。
【0024】
第二の実施形態のガラス糸は、
(i)TEXが1~13であり、
(ii)破断強度が0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)180m測定時における、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数(以下、「180m測定時における、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数」を、単に「滑脱フィラメント数」とも称する。)が3個以下である。
【0025】
低誘電ガラス糸を用いて製造されるガラスクロスは、従来のEガラスクロスに比べてガラスクロスの品質にばらつきがあった。そのため、安定して高品質の低誘電ガラスクロスを得るのが困難なことが分かってきた。このうち、比較的品質の劣るガラスクロスを詳細に調べると、滑脱フィラメント数が特定範囲を外れる低誘電ガラス糸から製造される低誘電ガラスクロスでは、長さ方向に帯状に毛羽が密集して存在する「帯状の毛羽欠点」が多く認められた。これに対して、本実地形態は、フィラメントの脱落が特定範囲以内の低誘電ガラス糸を用いることで、低誘電ガラスクロスの当該欠点を少なくできるとの知見に基づく。この理由は、理論に拘束されるものではないが、フィラメントの脱落が特定値(例えば、滑脱フィラメント数が3個より大きいガラス糸は、製織工程において、ボビンから解舒してからループガイド等の織機部材を通過する際の織機部材との干渉を受けた際、フィラメントの脱落の増大、又はフィラメント切れを生じさせ易いと考えられる。
【0026】
特に、緯糸は、ボビンから解舒されて噴出されるまでの糸道でバルーニング運動を伴いながら搬送される。このため、フィラメント滑脱部位は、せん断応力を受けて切断され易いこと、また、切断されたフィラメント片は、旋回運動により絡まりを生じ、粗大毛羽へと成長し易いことが考えられる。生産性を上げるために緯糸の打込みスピードは速い方が好ましいが、緯糸の搬送速度が速いほどフィラメント脱落の増大又はフィラメント切れは更に大きくなり易いと考えらえる。
【0027】
これまで用いられていたEガラスのガラス糸は、低誘電ガラス糸より密度が大きく、強度も強い。このため、ガラス糸の搬送も安定しており、織機部材との干渉度合いも小さく、そのため、干渉した際に受けるダメージも限定的であった。他方、より軽くて強度の弱い低誘電ガラス糸では、ガラス糸を搬送させる際にも張力変動等により振れが大きくなる傾向にある。そのため、織機部材との干渉が起こり易く、織機部材と干渉した際にも、より大きなダメージを受け易い。このため、フィラメントの脱落の増大、又はフィラメント切れが助長され易いものと考えられる。
【0028】
また、フィラメントの脱落が特定範囲より大きいガラス糸では、開繊工程で高圧スプレー水等の物理的な負荷を受けるとき、脱落部位が動き易い。そのため、脱落部位はガラスクロスの搬送部材と干渉する等の負荷を受け易く、脱落部位を起点として、フィラメント切れによる毛羽、又は切れた部位の毛羽立ちが生じ易いと考えられる。ガラスクロスの面内均一性の向上、含侵性の向上を目的に開繊加工力は強い方が好ましいが、開繊加工力が強いほど、フィラメント切れによる毛羽欠点、又はフィラメント絡みによる粗大毛羽欠点は、より多く生じ易くなるものと考えらえる。
【0029】
更に、Eガラスより密度が小さく強度が弱い低誘電ガラス糸では、ヒートクリーニング工程におけるガラス強度の低下が著しい。このため、ヒートクリーニング工程の後に開繊工程を行う際、高圧水スプレー等の物理的な負荷によるダメージを強く受け、フィラメント切れによる毛羽、又は切れたフィラメントの毛羽立ちが、よりいっそう発生し易いものと考えられる。これらの影響が、ガラスクロスの品質として現れたものと考えられる。
【0030】
他方、本実施形態のガラス糸を用いることにより、低誘電化した比較的軽くて強度の弱いガラス糸を用いる場合でも、製織工程でガラス糸を解舒してからループガイド等の織機部材を通過する際の織機部材との干渉度時に受けるダメージを小さくすることができる。また、本実施形態のガラス糸の使用は、開繊工程においても、脱落部位が搬送部材と干渉する度合い又は干渉する際に受けるダメージを小さくすることができる。これらにより、本実施形態のガラス糸を用いることにより、製織工程及び開繊工程でのフィラメント切れに起因した毛羽の発生を抑止し、良品質の均一なガラスクロスを得ることができる。また、上記ガラス糸を用いることにより、製織速度(ガラス糸の打込み速度)、及び/又は開繊工程の開繊加工力を上げられる傾向にあり、好ましい。
【0031】
本実施形態のガラス糸を用いる場合、クリールでボビン原糸から解舒されてガラス糸(例えば経糸)を引き揃える過程において、糸道ガイド等で擦れる際の毛羽の発生等の不良を防止でき、このため、品質良く、かつ、安定に生産できる傾向にあり、好ましい。また、上記ガラス糸を用いることで、製経速度を上げられる傾向にあり、好ましい。
【0032】
(ガラス糸のTEX)
ガラス糸のTEXは、1~13、好ましくは1.5~12、より好ましくは2.0~11、更に好ましくは、2.5~10、又は1~7である。ガラス糸のTEXが13以下であると、ガラス糸の強度が弱いため、製織工程でガラス糸を解舒してからループガイド等の織機部材を通過する際の織機部材との干渉、開繊工程でガラスクロスの搬送部材との干渉により毛羽不良が発生し易い傾向が生じる可能性がある。他方、フィラメント脱落の程度を本実施形態の特定範囲内に調整することで、上記の干渉度合い、又は干渉時に受けるダメージを小さくすることができ、その結果、高品質なガラスクロスを安定して得ることができる。ガラス糸のTEXが1以上であることにより、フィラメント脱落の程度が本実施形態の特定範囲内であるとき、製織工程でガラス糸を解舒してからループガイド等の織機部材を通過する際の織機部材との干渉時、開繊工程でガラスクロスの搬送部材との干渉時に、フィラメント切れを抑制することができる。
【0033】
(ガラス糸の破断強度)
ガラス糸の破断強度は、0.50~0.80N/texである。破断強度の好ましい範囲は0.53~0.79N/tex、より好ましい範囲は0.57~0.78N/tex、更に好ましい範囲は0.60~0.77N/texである。ガラス糸の破断強度が上記の下限値以上であれば、製織工程でガラス糸を解舒してからループガイド等の織機部材を通過する際の織機部材との干渉、開繊工程でガラスクロスの搬送部材との干渉によりせん断応力を受けた際に、フィラメントが切れ難く、毛羽が発生し難い。他方、ガラス糸の破断強度が上記の上限値以下であれば、ガラス糸がボビンから解舒されて噴出されるまでの糸搬送過程での糸の振れ又はバルーニング運動が小さく抑えられる傾向にあり、その結果、フィラメントの脱落の増大、又はフィラメント切れによる毛羽不良が発生し難い。このことは、ガラス糸のしなやかさに基づく作用効果であると推定される。
【0034】
(ガラス糸の滑脱フィラメント数)
ガラス糸は、滑脱フィラメント数が3個以下である。滑脱フィラメント数の好ましい範囲は2個以下、より好ましくは1個以下、更に好ましくは0個である。
【0035】
上記の「180m」は、
1)ガラス糸における長さ方向の端部(一端又は他端)を起点とする長さ;
2)端部を除いた任意箇所での長さ;
のいずれでもよい。
上記2)の具体例としては、
2-1)端部から長さ方向2~6m(例えば5m)の箇所を起点として設定される長さ
が挙げられる。2-1)を採用すれば、ガラス糸の端部に生じ易い「ほつれ」の影響を受けることなく、滑脱フィラメント数を本発明の趣旨に沿って正確に測定し易い。
【0036】
ガラス糸がボビンに巻き取られた状態である場合、「180m」は、
3)ボビンの最外周又は最内周の少なくとも一部を含んだ長さ;
4)最外周及び最内周を除いた任意箇所での長さ;
のいずれでもよい。
上記4)の具体例としては、観測の容易性の観点から、
4-1)最外周を1周目としたときの2周目の開始部分を起点として設定される長さ;
4-2)最内周を1周目としたときの2周目の開始部分を起点として設定される長さ;
が挙げられる。ただし、
4-3)上記起点を除いた任意箇所で設定される長さ
であっても構わない。
【0037】
10,000m以上の長さを有するガラス糸を対象に、互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、滑脱フィラメント数は、5か所の測定範囲のそれぞれにおいて、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、更に好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。
【0038】
また、50,000m以上の長さを有するガラス糸を対象に、互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、滑脱フィラメント数は、7か所の測定範囲のそれぞれにおいて、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、更に好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。
【0039】
また、100,000m以上の長さを有するガラス糸を対象に、互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、滑脱フィラメント数は、10か所の測定範囲のそれぞれにおいて、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、更に好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。
【0040】
滑脱フィラメント数の測定のとき、ガラス糸の搬送速度を早くしてよい。製織工程における緯糸噴出と同じように、エアーによってガラス糸をボビンから解舒して搬送しながら測定すること(この時、噴出したガラス糸が暴れるのを防ぐために適切に糸道ガイドを設けること);
等が可能である。ただし、滑脱フィラメント数の測定は、実施例に記載の方法に準拠して行われる。
【0041】
滑脱フィラメント数が上記の範囲以下であり、かつ破断強度が上記範囲であることにより、ガラス糸をボビンから解舒してから噴出するまでの搬送過程で、フィラメント脱落の増大、フィラメント切れ、又は切れたフィラメントの絡まりによる粗大毛羽を発生させ難い。これにより、毛羽密集部位の少ない高品質なガラスクロスを安定して得ることができる。これは、フィラメント滑脱の程度と頻度が一定範囲以内に小さいため、滑脱部位がループガイド等の織機部材と干渉する度合い、又は干渉による抵抗が小さくなるため、織機部材との干渉によるダメージを小さく抑えられ得るためと推定される。
【0042】
特に、緯糸は上記のとおり、切断され易く、また、切断されたフィラメント片がバルーニング運動により絡まりを生じ易い。他方、脱落フィラメント数を上記範囲内に調整することで、フィラメント切断、又は切断されたフィラメントの絡まりが抑制されると推定される。また、フィラメント滑脱の程度と頻度が一定範囲以内に小さいため、開繊工程でガラスクロスの搬送部材と干渉する度合い又は干渉による抵抗が小さくなり、これにより、搬送部材との干渉によるダメージを小さく抑えられ得るためと推定される。
【0043】
滑脱フィラメント数は、以下の方法を単独、又は組み合わせによることによって、調整することができる:
・ガラス糸製造の紡糸工程において、複数のブッシングノズルから吐出されるフィラメントを1つの糸束に収束させる際、複数のブッシングノズルから集束点までの距離が同等になるようにブッシングノズル配置をデザインする方法;
・上記のブッシングノズルから集束点までの距離の違いに応じて、ブッシングノズルのノズル形状を調整する方法;
・上記のブッシングノズルから集束点までの距離の違いに応じて、ブッシングノズルの温度を調整する方法;
・ガラス糸製造の紡糸工程において、冷却温度を調整する方法;
・ケーキ巻取り張力を調整する方法;
・ケーキ巻き取り速度を調整する方法;
・ケーキ巻取り時のトラバースを調整する方法;
・ガラス糸製造のケーキのエージング工程において、ガラス糸の水分含有率、及びサイズ剤付着量がガラス糸全長においてより均一になるように、ケーキ巻取り方法及びエージング条件を調整する方法;
・ガラス糸製造の撚糸工程において、ガラス糸が屈曲される際の負荷が小さくなるように、トラベラーの形状や重さを調整する方法;
・単位長さ当たりの撚り数の変動幅を特定範囲に調整する方法;
・ガラス糸がケーキから解舒されてボビンに巻き取られる間の張力変動が小さくなるように調整する方法;
・撚糸時のバルーニングを調整する方法;及び
・ガラス糸のボビンへの巻取り綾角を調整する方法。
【0044】
(ガラス糸の密度)
ガラス糸の密度は、好ましくは2.2g/cm以上2.5g/cm未満、より好ましくは2.2g/cm以上2.45g/cm未満、更に好ましくは2.2g/cm以上2.40g/cm以下、より更に好ましくは2.25g/cm以上2.4g/cm以下である。
【0045】
ガラス糸の密度が2.5g/cm未満であると、ガラス糸をボビンから解舒して噴出させるまでの搬送過程で、搬送方向と垂直方向への振れ又はバルーニング運動が大きくなり易く、織機部材との干渉により毛羽不良が発生し易い傾向が生じる場合がある。しかし、滑脱フィラメント数を本実施形態に係る特定の範囲内に調整することで、織機部材との干渉による毛羽発生を抑え、これにより、高品質なガラスクロスを安定して得ることができる。
【0046】
また、ガラス糸の密度が2.5g/cm未満であると、開繊工程にて高圧水スプレー圧等の物理的な負荷を受ける際に、ガラスクロスの弛みが大きくなり、ガラスクロスが搬送部材と干渉し易くなり、搬送部材との干渉により毛羽不良が発生し易い傾向が生じる場合がある。しかし、滑脱フィラメント数を本実施形態における特定の範囲内に調整することで、搬送部材との干渉による毛羽発生を抑え、これにより、高品質なガラスクロスを安定して得ることができる。
【0047】
他方、ガラス糸の密度が2.2g/cm以上であることにより、ガラス糸の搬送軌道を安定させることができる。また、ガラス糸の密度が2.2g/cm以上であることにより、ガラスクロスの弛みを小さくすることができる。ガラス糸の密度は、1cmの塊状のガラスの密度として求めることができる。
【0048】
(フィラメント及び直径)
ガラス糸は、複数本のフィラメントを束ね、必要に応じて撚って得られるものである。この場合、ガラス糸はマルチガラスフィラメント、ガラス糸に含まれるフィラメント(ガラスフィラメント)はモノガラスフィラメントにそれぞれ分類される。
ここで、フィラメントの「滑脱」とは、モノガラスフィラメント1本単位での滑脱、モノガラスフィラメント数本単位での滑脱、だけでなく、フィラメントに切れが生じているものも含む。滑脱フィラメント数は、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0049】
ガラス糸は、好ましくは、平均直径が3.5~5.5のモノガラスフィラメントを40~240本束ねたガラス糸、又はモノガラスフィラメント数が30~120本のガラス糸である。平均直径及びフィラメント本数が上記範囲のガラス糸を用いることにより、従来のEガラスクロスの1000、1017、1015、1012、1027、1024、1020、1030、1037、1035、106、1067、1078相当の厚さを有するガラスクロスを製造し易い(IPC規格(IPC-4412B):Style1000、1017、1015、1012、1027、1024、1020、1030、1037、1035、106、1067、1078)。
【0050】
(ガラス糸の弾性係数)
ガラス糸の弾性係数は、好ましくは50~70GPa、より好ましくは50~63GPa、更に好ましくは53~63GPaである。弾性係数が50GPa以上であることにより、ガラス糸の剛性が向上し、製造工程において、毛羽が生じ難くなる傾向にある。また、弾性係数が70GPa以下であることにより、ガラス糸の耐脆性が向上し、製造工程において、毛羽が生じ難くなる傾向にある。更に、弾性係数が上記範囲内であることにより、ガラス糸が適度に柔軟性を有し、機械的負荷が加わった際に、フィラメントの断裂等が発生し難く、毛羽、織欠点が発生し難い傾向にある。
【0051】
(ガラス糸の成分の構成)
ガラス糸の構成元素としては、ケイ素(Si)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、及びフッ素(F)等が挙げられる。
【0052】
ガラス糸のSi含量は、SiO換算で、好ましくは40~60質量%、より好ましくは45~55質量%、更に好ましくは47~53質量%、より更に好ましくは48~52質量%である。
【0053】
Siはガラス糸の骨格構造を形成する成分であり、Si含量が40質量%以上であることにより、ガラス糸の強度がより向上し易い。これにより、ガラスクロスの製造工程及びガラスクロスを用いたプリプレグの製造等の後工程において、ガラスクロスの破断がより抑制される傾向にある。また、Si含量が40質量%以上であることにより、ガラスクロスの誘電率がより低下する傾向にある。他方、Si含量が60質量%以下であることにより、フィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、これにより、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。このため、得られるフィラメントに部分的に失透し易い部位、又は部分的に気泡が抜け難い部位が発生し難くなることから、フィラメントに局所的に強度の弱い部位が生じ難くなり、結果として、これを用いて得られるガラス糸から構成されるガラスクロスは、破断し難いものとなる。Si含量は、フィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0054】
ガラス糸のB含量は、B換算で、好ましくは15~40質量%、より好ましくは17~30質量%、又は20~40質量%、更に好ましくは18~28質量%、より更に好ましくは19~26質量%、更により好ましくは20~25質量%、最も好ましくは20.5~24質量%である。
【0055】
B含量が15質量%以上であることにより、誘電率がより低下する傾向にある。また、B含量が15質量%以上であることにより、ガラスクロスの耐脆性の向上、適度な柔軟性、しなやかさが付与されるため、ガラス糸が、糸道ガイド、筬等の織機部材に接触した際に毛羽が発生し難くなる傾向にある。他方、ガラス糸の強度を保つにはB含量が40質量%以下であることが好ましい。また、B含量が40質量%以下であることにより、耐吸湿性が向上する。B含量は、フィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。なお、フィラメント作製中に条件、使用量又は含量が変動し得る場合には、それを予め見越して、原料の仕込量を調整することができる。
【0056】
ガラス糸のAl含量は、酸化アルミニウム(Al)換算で、好ましくは11~18質量%、より好ましくは11~16質量%、更に好ましくは12~16質量%である。Al含量が上記範囲内であることにより、電気特性、強度がより向上する傾向にある。Al含量は、フィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0057】
ガラス糸のCa含量は、酸化カルシウム(CaO)換算で、好ましくは5~10質量%、好ましくは5~9質量%、より好ましくは5~8.5質量%である。Ca含量が5質量%以上であることにより、フィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。また、Ca含量が10質量%以下であることにより、誘電率がより向上する傾向にある。Ca含量は、フィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0058】
ガラス糸は、Mg、P、Na、K、Ti、Zn、Fe、及びFを所定量含むことで、各種特性に優れる場合がある。これらの含量は、フィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0059】
上記各含量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。具体的には、Si含量及びB含量は、秤取したガラスクロスサンプルを炭酸ナトリウムで融解した後、希硝酸で溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。また、Fe含量は、秤取したガラスクロスサンプルをアルカリ溶解法により溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。更に、Al含量、Ca含量、及びMg含量は、秤取したガラスクロスサンプルを硫酸、硝酸及びフッ化水素により加熱分解した後、希硝酸で溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。なお、ICP発光分光分析装置としては、日立ハイテクサイエンス社製のPS3520VDD IIを用いることができる。
【0060】
(ガラス糸の誘電率)
ガラス糸の誘電率は、10GHzの周波数において、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.9以下、更に好ましくは4.8以下で、特に好ましくは4.6以下である。ガラス糸の誘電率は、例えば、空洞共振法により測定することができる。本明細書において、ガラス糸の誘電率は、特に断りがない限り10GHzの周波数におけるものをいう。
【0061】
(ガラス糸の撚り間隔長さと撚り間隔長さ差指数)
ガラス糸の撚り間隔長さは、好ましくは1.8~10.0cm、より好ましくは1.9~9.9cm、更に好ましくは1.95~4.0、最も好ましくは2.0~3.5である。撚り間隔長さの最小値は、好ましくは1.8cm、より好ましくは1.9cm、更に好ましくは1.95cm、最も好ましくは2.0cmである。撚り間隔長さの最大値は、好ましくは10.0cm、より好ましくは9.9cm、更に好ましくは4.0cm、最も好ましくは3.5である。
【0062】
また、ガラス糸の、撚り間隔長さの最大値と撚り間隔長さの最小値の差を撚り間隔長さの平均値で割った値(撚り間隔長さ差指数)は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.4以下であり、また、0超えでよい。ガラス糸の撚り間隔長さ、及び/又は撚り間隔長さ差指数が上記の数値範囲内にあると、ガラス糸がボビンに巻かれている場合に、ボビン外層部で評価した上記の滑脱フィラメント数が3個以下になり易く、かつ/又はボビン全長に亘り滑脱フィラメント数が少なくなる傾向にある。滑脱フィラメント数が少なくなる理由としては、理論に拘束されることを望まないが、次の3つが考えられる:
(i)撚り間隔長さが下限値より長いと、ねじりせん断応力が小さく抑えられるため、フィラメントの滑脱が生じ難い;
(ii)撚り間隔長さが上限値より短いと、ガラス糸を構成するフィラメント同士の拘束力が高められるため、フィラメントの滑脱が生じ難い;
(iii)撚り間隔長さ差指数が上限値より小さいと、ガラス糸の長さ方向において、ねじり角の変動が小さく抑えられるため、フィラメントの滑脱が生じ難い。
なお、ガラス糸の撚り数の標準偏差は、好ましくは0.05~0.20、より好ましくは0.09~0.18である。
【0063】
〔ガラスクロスの製造方法〕
本発明における第三の実施形態は、ガラスクロスの製造方法である。
【0064】
本実施形態は、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸に用いて製織する工程を含む、ガラスクロスの製造方法である。
使用されるガラス糸は、上記で説明されたとおり、
(i)TEXが1~13であり、
(ii)破断強度が0.50~0.80N/texであり、かつ
(iii)滑脱フィラメント数(180m測定時における糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が3個以下である。
【0065】
かかる製造方法は、具体的には、滑脱フィラメント数が特定の個数以下となるようにガラス糸を調整するガラス糸調整工程と、調整した上記ガラス糸を製織してガラスクロスを得る製織工程と、ガラスクロスのガラス糸を開繊する開繊工程と、を含む方法が挙げられる。ガラスクロスの製造方法は、必要に応じて、ガラスクロスのガラス糸に付着したサイズ剤を除く脱糊工程、シランカップリング剤による表面処理工程を有してよい。
以下、ガラスクロスの製造方法における各工程について、より詳細に説明する。
【0066】
(ガラス糸調整工程)
ガラス糸調整工程は、滑脱フィラメント数が3個以下となるようにガラス糸を調整する工程である。より具体的には、ガラス糸調整工程では、滑脱フィラメント数が上記範囲内であれば、そのガラス糸を続く製織工程で用い、範囲外であれば、そのガラス糸のガラス糸での使用を禁止する。
【0067】
滑脱フィラメント数を測定する方法は、ガラス糸を搬送させながらレーザー光、LED光等の光投影方式の変位計で糸幅、及び滑脱したフィラメントを観察する方法;ガラス糸を搬送させ、かつガラス糸の形状を画像で観察しながら糸幅、及び滑脱したフィラメントを観察する方法;等が挙げられる。
【0068】
(製織工程)
製織工程は、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程である。ガラスクロスの織り構造については、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り、等の織り構造が挙げられる。これらの中でも、平織り構造がより好ましい。
【0069】
本実施形態の製造方法における、製織工程の一例では、エアージェットルーム方式によって、並列に引かれた経糸を上下に開口し、その開口に、緯糸貯留装置から給糸された糸がノズルの噴射流により緯糸として送り出されて通されることにより製織を行うことができる。
【0070】
この製織工程において、緯糸となるガラス糸をボビンから巻き出し、貯蔵装置を介して緯糸を噴出させるガラス糸噴出過程において、
ガラス糸はバルーニング運動等の進行方向と異なる方向への運動を伴いながらヤーンガイド等の織機部材との干渉を伴い搬送されるため;、或いは、
緯糸1本分の長さ単位で緯糸の噴出及び停止が繰り返されることから、張力の変動を伴いながらヤーンガイド等の織機部材との干渉を伴い搬送されるため;
滑脱フィラメント数の大きい緯糸は、上記干渉によるダメージを小さく抑えることが困難であり、得られるガラスクロスには毛羽又は織欠点が生じ得る。
【0071】
これに対して、本実施形態では、滑脱フィラメント数が特定の範囲内であるガラス糸を用いることにより、緯糸を織り込む際に毛羽又は織欠点の発生を抑制し、これにより、ガラスクロスの品質の面内均一性及びロット間の均一性を向上することができる。なお、製織方法は、エアージェットルーム方式に限定されず、ウォータージェットルーム方式、又はシャトル方式であってもよい。
【0072】
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは30~120本/25mmであり、より好ましくは40~110本/25mmであり、更に好ましくは45~105本/25mmである。経糸の打ち込み密度は、並列に引かれた経糸の間隔を調整することにより制御することができ、そして緯糸の打ち込み密度は、ノズルからの緯糸の単位時間当たりの噴射回数及び経糸の流れスピードにより制御することができる。
【0073】
(開繊工程)
開繊工程は、ガラスクロスのガラス糸を開繊する工程である。開繊方法としては、例えば、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水、マングル等で開繊加工する方法が挙げられる。
【0074】
開繊工程等を経て最終的に得られるガラスクロスの厚さは、好ましくは5~60μmであり、より好ましくは7~55μmであり、更に好ましくは9~50μm又は10~50μmである。ガラスクロスの厚さが上記範囲内であることにより、薄くて比較的に強度の高いガラスクロスが得られる傾向にある。開繊工程等を経て最終的に得られるガラスクロスの布重量(目付け)は、好ましくは5~55g/m、より好ましくは6~50g/m、更に好ましくは7~48g/mである。
【0075】
(脱糊工程)
脱糊工程は、ガラスクロスのガラス糸に付着したサイズ剤を除く工程である。脱糊方法としては、例えば、サイズ剤を加熱除去する方法が挙げられる。
【0076】
(表面処理工程)
表面処理工程は、シランカップリング剤によるガラスクロスの表面処理を行う工程である。また、表面処理方法としては、シランカップリング剤を含む表面処理剤をガラスクロスと接触させ、乾燥等する方法が挙げられる。なお、ガラスクロスへの表面処理剤の接触は、表面処理剤中にガラスクロスを浸透させる方法;ロールコーター、ダイコーター、又はグラビアコーター等を用いてガラスクロスに表面処理剤を塗布する方法;等が挙げられる。表面処理剤の乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、熱風乾燥、及び電磁波を用いる乾燥方法が挙げられる。
【0077】
〔プリプレグ〕
プリプレグは、上記のようにして得られたガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂組成物とを有する。上記ガラスクロスを有するプリプレグは、品質のばらつきが少なく、最終製品の歩留まりの高いものとなる。
【0078】
プリプレグは、常法に従って製造することができる。例えば、ガラスクロスに、エポキシ樹脂のようなマトリックス樹脂を有機溶剤で希釈したワニスを含浸させた後、乾燥炉にて有機溶剤を揮発させ、熱硬化性樹脂をBステージ状態(半硬化状態)にまで硬化させることにより製造することができる。
【0079】
マトリックス樹脂組成物としては、上述のエポキシ樹脂の他、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、BT樹脂、官能基化ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、全芳香族ポリエステルの液晶ポリマー(LCP)、ポリブタジエン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;及び、それらの混合樹脂等が挙げられる。誘電特性、耐熱性、耐溶剤性、及びプレス成形性を向上させる観点から、マトリックス樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂で変性した樹脂を用いてもよい。
【0080】
また、マトリックス樹脂組成物は、樹脂中にシリカ及び水酸化アルミニウム等の無機充填剤;臭素系、リン系、金属水酸化物等の難燃剤;その他シランカップリング剤;熱安定剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;顔料;着色剤;滑沢剤等を含んでいてもよい。
【0081】
〔プリント配線板〕
プリント配線板は、上記プリプレグを備えることが好ましい。上記プリプレグを備えるプリント配線板は、品質のばらつきが少なく、最終製品の歩留まりの高いものとなる。また、上記プリプレグを備えるプリント配線板は、誘電特性に優れ、耐吸湿性に優れるために使用環境の影響、特に高湿度環境で誘電率の変動が小さいという効果も奏することができる。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。
【0083】
〔ガラス糸及びガラスクロスの物性〕
ガラス糸及びガラスクロスの物性、具体的には、ガラスクロスの厚さ、ガラス糸を構成するフィラメントの平均直径、ガラス糸のTEX、ガラス糸の破断強度(引張強さ)、経糸及び緯糸の打ち込み密度(織密度)は、JIS R3420に準拠して測定した。
【0084】
〔撚り間隔長さ、撚り間隔長さ差指数〕
検撚器(テクノス社製)を用いて、ガラス糸50cmの撚り数を測定し、測定長50cmを得られた撚り数で割って、撚り1間隔当たりの長さを算出した。該方法で50cm当たりの撚り数を繰り返し30点測定し、撚り1間隔当たりの長さを算出し、撚り1間隔当たりの長さデータを30点算出した。得られた30点の撚り1間隔当たりの長さデータを平均し、撚り間隔長さを求めた。
【0085】
また、得られた30点の撚り間隔長さデータの平均値、最大値、及び最小値を用い、撚り間隔長さの最大値と最小値の差の、撚り間隔長さの平均値に対する割合として、下式(1)にて、撚り間隔長さ差指数を求めた。
撚り間隔長さ差指数={(撚り間隔長さの最大値-撚り間隔長さの最小値)/撚り間隔長さの平均値}×100・・・(1)
【0086】
〔撚り数の標準偏差〕
検撚器(テクノス社製)を用いて、ガラス糸50cmの撚り数を測定し、25mm当たりの撚り数に換算した。該方法で25mm当たりの撚り数を繰り返し30点測定し、得られた撚り数データ30点の標準偏差を求めた。
【0087】
〔弾性係数〕
ガラス糸の弾性係数は、ガラス糸を溶融、冷却して得られるガラスバルクを試験片に用い、パルスエコーオーバーラップ法により測定した。
【0088】
〔滑脱フィラメント数〕
ガラス糸を1m/分の速度で搬送させながら、LEDカメラ方式の寸法測定器(HIGH ACCURACY CMOS MICROMETER LS-9006MR /キーエンス社製)を用い、ガラス糸の投影された形状をモニターで観察しながら糸幅を連続で測定した。ガラス糸180m分の糸幅を測定し、得られた糸幅データから、ガラス糸の糸幅の平均値を算出した。また、糸幅の中心から糸幅の2倍以上にフィラメント滑脱が観察された場合をカウントし、その合計を、「滑脱フィラメント数」、すなわち、「180m測定時における、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数」とした。
【0089】
ここで、LEDカメラ方式の寸法測定器による糸幅測定は、1m当たり1934点の測定値が得られる条件で行い、LEDの焦点が合わないこと等でエラーとなった場合(-9999値が表示される)には、該測定値は削除して、糸幅の平均値及び/又は滑脱フィラメント数の算出を行った。
【0090】
なお、ガラス糸が搬送される際にガラス糸に作用する張力は、張力計(SCHMIDT社製Conrol instruments ETPB-100-C0585)で測定される値の張力であり、0.12~0.18Nであった。
【0091】
〔ボビン外観検査(毛羽検査)〕
ガラス糸が巻かれたボビン外観を目視検査し、検出された毛羽立ちの本数(毛羽本数)をカウントした。本検査を50回行い、毛羽本数の平均値を算出した。
【0092】
〔ガラス糸に負荷をかけて評価するガラス糸の毛羽検査〕
NIHON KAGAKU ENG社製の毛羽検査装置を用い、ガラス糸を1m/分の速度で搬送させながら、1分間に450往復する筬羽間隔距離0.35mmのモデル筬にガラス糸を通してしごきを与えた後、180m当たりの毛羽発生数をセンサーでカウントした。また、モデル筬の往復速度を100往復/分として、同様に180m当たりの毛羽発生数をセンサーでカウントした。
【0093】
〔評価:ガラスクロスの毛羽品質〕
ガラス糸品質(例えば、滑脱フィラメント数)がガラスクロスの毛羽品質に及ぼす影響を調べた。ガラスクロス製造の標準条件として、織機回転数を450rpmとし、高圧水スプレーによる開繊処理を施した。更に、生産性向上を目的として織機回転数を増大(550、600rpm)し、また、特性向上を目的として高圧水スプレー強度を増強した。
【0094】
実施例、比較例及び参考例で得られたガラスクロスの毛羽品質を、目視検反にて評価した。ガラスクロス用の検反機を用い、ガラスクロスを10m/分の速度で搬送させながら、目視にてガラスクロスの毛羽品質を評価した。ここで、従来の目視検査では、ガラスクロスに直角方向にハロゲンランプ光を当てて光が反射する部分として、毛羽、及び織欠点を観察する。しかしながら、長さ1mm未満のフィラメント切れ毛羽を感度よく観察するために、白色LED光をガラスクロスの端部側からガラスクロス面に対し並行方向に当てて目視検査を行った。検反板状のガラスクロス全面にわたり毛羽が散在しており、このため、ガラスクロス全面にわたり輝いて観察される毛羽発生状態を全面毛羽欠点とした。全面毛羽発生部位の毛羽立ちを光学顕微鏡で観察したところ、凡そ200μm~1000μmのフィラメント切れによる毛羽立ちが多く発生していた。
【0095】
測定長さ500mを対象に、ガラスクロスの長さ方向1mの範囲内に全面毛羽が存在した場合に欠点数1とカウントし、下記式:
減点率(%)=(欠点のカウント数の合計/500)×100
に従って、減点率を算出した。
【0096】
〔評価:ガラスクロスの含侵性評価〕
23±2℃の環境下にて、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をベンジルアルコールに溶解し、粘度230±5mPa・sの含侵性評価用のワニスを作製した。次いで、ガラスクロス試験片を含侵性評価用のワニスに浸漬し、横から光を照射しながら、光学顕微鏡にて含侵性評価用ワニスがガラスクロスに含侵する様子を光学顕微鏡で観察した。そして、ガラスクロス試験片を含侵性評価用ワニスに浸漬してから5分後のボイド数(含侵性評価用ワニスの未含侵部位)をカウントした。このとき、光学顕微鏡で観察したガラスクロスの視野範囲は、経糸方向約6.5mm、緯糸方向約9mmとした。
【0097】
〔実施例及び比較例;ガラス糸〕
〔試験例1〕
ボビンに巻かれた状態にあるガラス糸A~N(低誘電ガラス糸、密度2.3g/cm、弾性係数61GPa)、O~Q(低誘電ガラス糸、密度2.3g/cm、弾性係数56GPa)、R(Eガラス糸、密度2.6g/cm、弾性係数74GPa)のボビン最外層のガラス糸を解舒し、端部から長さ方向5mの箇所を起点Tとして、滑脱フィラメント数を測定した。
【0098】
〔試験例2〕
次いで、ボビンから500mのガラス糸を更に解舒した箇所、すなわち、上記の起点Tから長さ方向500mの箇所を起点T500として、滑脱フィラメント数を測定した。
【0099】
〔試験例3〕
上記の試験例1及び2に準じて、ボビンからガラス糸を更に解舒し、
上記の起点Tから長さ方向1,000mの箇所を起点T1,000として;
上記の起点Tから長さ方向2,000mの箇所を起点T2,000として;
上記の起点Tから長さ方向5,000mの箇所を起点T5,000として;
上記の起点Tから長さ方向7,000mの箇所を起点T7,000として;
上記の起点Tから長さ方向9,000mの箇所を起点T9,000として;
上記の起点Tから長さ方向10,000mの箇所を起点T10,000として;
上記の起点Tから長さ方向20,000mの箇所を起点T20,000として;
上記の起点Tから長さ方向30,000mの箇所を起点T30,000として;
上記の起点Tから長さ方向40,000mの箇所を起点T40,000として;
上記の起点Tから長さ方向50,000mの箇所を起点T50,000として;
上記の起点Tから長さ方向60,000mの箇所を起点T60,000として;
上記の起点Tから長さ方向70,000mの箇所を起点T70,000として;
上記の起点Tから長さ方向80,000mの箇所を起点T80,000として;
上記の起点Tから長さ方向100,000mの箇所を起点T100,000として;
上記の起点Tから長さ方向120,000mの箇所を起点T120,000として;
滑脱フィラメント数を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0100】
【表1-1】
【0101】
【表1-2】
【0102】
撚り間隔長さ差指数が小さく撚りが均一に緩やかに掛かっている、実施例のガラス糸A~C,G,H,J,K,O,Pは、ボビン外層部で評価した滑脱フィラメント数が3個以下であった。
そして、起点T;起点T500;起点T1,000;起点T2,000;起点T5,000;起点T7,000;起点T9,000;のいずれの起点から測定した場合でも、滑脱フィラメント数は3個以下であった。これにより、10,000m以上の長さを有するガラス糸を対象に、互いに異なる5か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、滑脱フィラメント数が、上記5か所の測定範囲のそれぞれにおいて、3個以下に該当することが確かめられた。
【0103】
50,000m以上の長さを有するガラス糸を対象にしても、上記と同趣旨によれば、互いに異なる7か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、滑脱フィラメント数が、上記7か所の測定範囲のそれぞれにおいて、3個以下であることが確かめられた。
【0104】
100,000m以上の長さを有するガラス糸を対象にしても、上記と同趣旨によれば、互いに異なる10か所において、長さ方向180mの測定範囲をそれぞれ選択したとき、滑脱フィラメント数が、上記10か所の測定範囲のそれぞれにおいて、3個以下であることが確かめられた。
【0105】
他方、撚り間隔長さ差指数が大きい、比較例のガラス糸D~F,I,L~N,Q,Rは、所定の測定範囲において、滑脱フィラメント数が4個以上であった。
【0106】
〔実施例1〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度65本/25mm、緯糸織り密度67本/25mmのガラスクロス生機を得た。
表中、「起点Tから測定された滑脱フィラメント数」の項目で示されるとおり、実施例1では、上記起点Tから180m測定時における、糸幅平均値の2倍以上に滑脱したフィラメント数が0のガラス糸を用いた。
【0107】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を5.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0108】
〔実施例2〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0109】
〔実施例3〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0110】
〔実施例4〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0111】
〔比較例1〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0112】
〔比較例2〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0113】
〔比較例3〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0114】
〔実施例5〕
エアージェットルームの織機回転数を550rpm回転にした以外は、実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0115】
〔実施例6〕
エアージェットルームの織機回転数を550rpm回転にした以外は、実施例3と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0116】
〔比較例4〕
エアージェットルームの織機回転数を550rpm回転にした以外は、比較例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0117】
〔実施例7〕
エアージェットルームの織機回転数を600rpm回転にした以外は、実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0118】
〔実施例8〕
エアージェットルームの織機回転数を600rpm回転にした以外は、実施例3と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0119】
〔比較例5〕
エアージェットルームの織機回転数を600rpm回転にした以外は、比較例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0120】
〔実施例9〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0121】
〔実施例10〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、実施例3と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0122】
〔比較例6〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、比較例1と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0123】
〔比較例7〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、比較例2と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0124】
〔比較例8〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、比較例3と同様にして、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0125】
〔実施例11〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX2.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度74本/25mm、緯糸織り密度74本/25mmのガラスクロス生機を得た。
【0126】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を4.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ21μmのガラスクロスを作製した。
【0127】
〔実施例12〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX2.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例11と同様にして、厚さ21μmのガラスクロスを作製した。
【0128】
〔比較例9〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX2.9、フィラメント本数100本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例11と同様にして、厚さ21μmのガラスクロスを作製した。
【0129】
〔実施例13〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を10.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、実施例11と同様にして、厚さ21μmのガラスクロスを作製した。
【0130】
〔比較例10〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を10.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、比較例9と同様にして、厚さ21μmのガラスクロスを作製した。
【0131】
〔実施例14〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX9.8、フィラメント本数200本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度52.5本/25mm、緯糸織り密度52.5本/25mmのガラスクロス生機を得た。
【0132】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を6.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ46μmのガラスクロスを作製した。
【0133】
〔実施例15〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX9.8、フィラメント本数200本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例14と同様にして、厚さ46μmのガラスクロスを作製した。
【0134】
〔比較例11〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX9.8、フィラメント本数200本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を用いた以外は実施例14と同様にして、厚さ46μmのガラスクロスを作製した。
【0135】
〔実施例16〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、実施例14と同様にして、厚さ46μmのガラスクロスを作製した。
【0136】
〔比較例12〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、比較例11と同様にして、厚さ46μmのガラスクロスを作製した。
【0137】
〔実施例17〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.8、フィラメント本数100本、弾性係数56GPa、ガラス組成:SiO換算49.8質量%、Al換算16.8質量%、CaO換算3.1質量%、MgO換算0.1質量%、B換算23.9質量%、P換算4.0質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度65/25mm、緯糸織り密度67本/25mmのガラスクロス生機を得た。
【0138】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を5.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ31μmのガラスクロスを作製した。
【0139】
〔実施例18〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.8、フィラメント本数100本、弾性係数56GPa、ガラス組成:SiO換算49.8質量%、Al換算16.8質量%、CaO換算3.1質量%、MgO換算0.1質量%、B換算23.9質量%、P換算4.0質量%)を用いた以外は実施例17と同様にして、厚さ31μmのガラスクロスを作製した。
【0140】
〔比較例13〕
下表に記載の低誘電ガラス糸(TEX4.8、フィラメント本数100本、弾性係数56GPa、ガラス組成:SiO換算49.8質量%、Al換算16.8質量%、CaO換算3.1質量%、MgO換算0.1質量%、B換算23.9質量%、P換算4.0質量%)を用いた以外は実施例15と同様にして、厚さ31μmのガラスクロスを作製した。
【0141】
〔実施例19〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、実施例17と同様にして、厚さ31μmのガラスクロスを作製した。
【0142】
〔比較例14〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、比較例13と同様にして、厚さ31μmのガラスクロスを作製した。
【0143】
〔参考例1a〕
滑脱フィラメント数が5~10個の低誘電ガラス糸(TEX14.6、フィラメント本数200本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度59本/25mm、緯糸織り密度61本/25mmのガラスクロス生機を得た。
【0144】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を7.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ73μmのガラスクロスを作製した。
【0145】
〔参考例1b〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、参考例1aと同様にして、厚さ73μmのガラスクロスを作製した。
【0146】
〔参考例2a〕
滑脱フィラメント数が5~10個の低誘電ガラス糸(TEX19.4、フィラメント本数200本、弾性係数61GPa、ガラス組成:SiO換算51.2質量%、Al換算14.3質量%、CaO換算8.1質量%、MgO換算0.3質量%、B換算23.3質量%、P換算0.1質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度60本/25mm、緯糸織り密度57本/25mmのガラスクロス生機を得た。
【0147】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を7.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ89μmのガラスクロスを作製した。
【0148】
〔参考例2b〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、参考例2aと同様にして、厚さ89μmのガラスクロスを作製した。
【0149】
〔参考例3a〕
滑脱フィラメント数が5~10個のEガラス糸(TEX5.5、フィラメント本数100本、弾性係数74GPa、ガラス組成:SiO換算53.1質量%、Al換算15.3質量%、CaO換算21.0質量%、MgO換算1.9質量%、B換算8.0質量%、P換算<0.1質量%)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームの織機回転数450rpm(緯糸打込み速度450本/分)の条件にて、経糸織り密度65本/25mm、緯糸織り密度67本/25mmのガラスクロス生機を得た。
【0150】
次いで、ガラスクロス生機の加熱により脱糊処理を行い、水圧を5.0±0.1kg/cmに調整したスプレーで高圧水開繊を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、厚さ29μmのガラスクロスを作製した。
【0151】
〔参考例3b〕
開繊処理における高圧水スプレーの水圧を12.0±0.1kg/cmに高くすることにより開繊強度を上げたこと以外は、参考例3aと同様にして、厚さ89μmのガラスクロスを作製した。
【0152】
以上の実施例、比較例、及び参考例における、ガラス糸、及びガラスクロスに関する評価結果を下表に示す。なお、表中、「高圧水開繊時の水圧(kg/cm)」の項目において、「±0.1(kg/cm)」の表記は省略して示されている。
【0153】
【表2-1】
【0154】
【表2-2】
【0155】
【表2-3】
【0156】
【表2-4】
【0157】
【表2-5】
【0158】
【表2-6】
【0159】
【表2-7】
【0160】
【表2-8】
【0161】
【表2-9】
【0162】
実施例1~4、実施例11、12、実施例14、15、実施例17、18は、毛羽品質に優れるガラスクロスが得られた。これらの実施例で用いたガラス糸は、起点Tから測定された滑脱フィラメント数が3個以下であることから、ボビンに巻かれたガラス糸の全体に亘って滑脱フィラメント数が少ないことが推察される。このようなガラス糸を用いることで、毛羽品質に優れるガラスクロスが得られることが確かめられた。
【0163】
実施例5~8は、製織工程にて生産性を上げるために織機回転数を450rpmから550rpm又は600rpmまで上げても、毛羽品質は大きく劣ることなく、比較的良好な毛羽品質のガラスクロスが得られた。
【0164】
実施例9、10,13,16,19は、高圧水スプレーの水圧を上げることで、比較的良好な毛羽品質を維持しつつ、含侵性が向上された低誘電ガラスクロスが得られた。
【0165】
他方、比較例1~3、比較例9、比較例11、比較例13は、得られたガラスクロスは毛羽品質に劣るものであった。
【0166】
更に、比較例4~8、10、12、14は、製織工程にて織機回転数を450rpmから550rpm又は600rpmまで上げるか、或いは、開繊工程にて高圧水スプレーの水圧を上げると、毛羽品質が大きく劣るガラスクロスが得られた。
【0167】
参考例1(a,b)、参考例2(a,b)では、厚さは、それぞれ73μm、89μmと、実施例1~16のガラスクロスの薄さには及ばなかった。
【0168】
Eガラス糸を用いた参考例3(a,b)は、毛羽品質が比較的良好なガラスクロスが得られた。TEXが同等の低誘電ガラス糸では、滑脱フィラメント数が多いと、高圧水スプレーのスプレー圧が上がることで毛羽品質が悪くなる傾向が生じるのに対し(比較例1~3,6~8)、Eガラス糸は、参考例3の結果から見れば、そのような傾向は確かめられなかった。
【0169】
実施例1~4、比較例1~3において、「ボビン外観検査」、及び「ガラス糸に負荷をかけて発生した毛羽発生数」よりも、「滑脱フィラメント数」の方が、ガラスクロスの毛羽品質に反映される結果が得られた。