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特開2022-183037蓄熱材用の組成物、蓄熱材および物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183037
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】蓄熱材用の組成物、蓄熱材および物品
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20221201BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C08F290/06
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079919
(22)【出願日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2021089200
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】満保 章泰
(72)【発明者】
【氏名】森 宏一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢佑
【テーマコード(参考)】
4J127
【Fターム(参考)】
4J127AA03
4J127AA04
4J127BA041
4J127BB021
4J127BB101
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC131
4J127BD221
4J127BE341
4J127BE34Y
4J127BF171
4J127BF17X
4J127BF17Y
4J127BG101
4J127BG10Y
4J127BG141
4J127BG14X
4J127CB341
4J127CB371
4J127EA13
4J127FA01
4J127FA07
(57)【要約】
【課題】相転移温度以上でも形状を維持し、かつ、引張強度に優れる蓄熱材用の組成物及び蓄熱材を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される単量体(a1)と、多官能(メタ)アクリレート(a2)とを重合性単量体として含有し、前記重合性単量体の全重量に基づく、前記単量体(a1)の割合が60~99重量%で、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合が1~40重量%であり、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)が1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである蓄熱材用の組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体(a1)と、多官能(メタ)アクリレート(a2)とを重合性単量体として含有し、
前記重合性単量体の全重量に基づく、前記単量体(a1)の割合が60~99重量%で、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合が1~40重量%であり、
前記多官能(メタ)アクリレート(a2)が1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである蓄熱材用の組成物。
【化1】

[Rは水素原子又はメチル基、-X-は-O-又は-NH-、Rは炭素数2~4のアルキレン基、Rは炭素数1~8のアルキル基;pは2~100の整数であり、pが2以上の場合2つ以上のRは同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記単量体(a1)が、一般式(1)中のRがメチル基、-X-が-O-、Rがエチレン基、Rがメチル基、pが5~90である化合物を含む請求項1に記載の蓄熱材用の組成物。
【請求項3】
前記単量体(a1)の融点が5~55℃である請求項1または2に記載の蓄熱材用の組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の組成物の硬化物を含む蓄熱材。
【請求項5】
発熱部材と請求項4に記載の蓄熱材とを備え、
蓄熱材が発熱部材と接触するように配置されている物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材用の組成物、蓄熱材および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材は、加熱により固体から液体へと変化する際に熱(潜熱)を蓄え、冷却により液体から個体へと変化する際に熱(潜熱)を放出するという物質の相変化を利用するものであり、熱量の大きさに幅がある点から広く用いられている。このような潜熱蓄熱材の材料としては、安価で相変化温度の制御が容易なポリエチレングリコールが利用されている。しかし、ポリエチレングリコールは加熱により液体になるため容器への封入が必要になるなどの制限がある。そこで、従来から、相転移温度以上でも形状を保つような改善が検討されている。例えば、特許文献1においては、ポリエチレングリコール中でSP値が8.5以上の単量体成分を重合して得られる蓄熱材が提案されている。また、特許文献2においては、側鎖にポリエチレングリコール基をもった第1のモノマーと、当該第1のモノマーと共重合可能であり反応性基を有する第2のモノマーとの重合体を含む樹脂を硬化させて得られる蓄熱材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-80723号公報
【特許文献2】国際公開第2019/221032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載の蓄熱材は、融点以上でも形状を保つ機能はあるが、圧力がかかる環境下(例えば、複数の蓄電素子を並べてなる蓄電素子群の蓄電素子間に配置する場合等)での引張強度が十分ではないという問題がある。
本発明の課題は、相転移温度以上でも形状を維持し、かつ、引張強度に優れる蓄熱材用の組成物及び蓄熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される単量体(a1)と、多官能(メタ)アクリレート(a2)とを重合性単量体として含有し、前記重合性単量体の全重量に基づく、前記単量体(a1)の割合が60~99重量%で、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合が1~40重量%であり、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)が1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである蓄熱材用の組成物、前記組成物の硬化物を含む蓄熱材及び、発熱部材と前記蓄熱材とを備え、前記蓄熱材が前記発熱部材と接触するように配置されている物品である。
【化1】

[Rは水素原子又はメチル基、-X-は-O-又は-NH-、Rは炭素数2~4のアルキレン基、Rは炭素数1~8のアルキル基;pは2~100の整数であり、pが2以上の場合2つ以上のRは同一でも異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、相転移温度以上でも形状を維持し、かつ、引張強度に優れる蓄熱材用の組成物及び蓄熱材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[蓄熱材用の組成物]
本発明の蓄熱材用の組成物は、下記一般式(1)で表される単量体(a1)と、多官能(メタ)アクリレート(a2)とを重合性単量体として含有する。本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート」及び/又は「アクリレート」を意味する。
【0008】
【化2】
【0009】
一般式(1)中のRは水素原子又はメチル基、-X-は-O-又は-NH-、Rは炭素数2~4のアルキレン基、Rは炭素数1~8のアルキル基、pは2~100の整数である。pが2以上の場合、2つ以上のRは同一でも異なっていてもよい。
【0010】
としては、メチル基が好ましく、-X-は-O-が好ましい。
pとしては、5~90の整数が好ましい。
この範囲であると、蓄熱性能がさらに良好となる。
【0011】
の炭素数2~4のアルキレン基としては、エチレン基、直鎖プロピレン基、分岐プロピレン基(1-メチルエチレン基、2-メチルエチレン基)、直鎖ブチレン基および分岐ブチレン基(1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、3-メチルプロピレン基、1,2-ジメチルエチレン基、1,1’-ジメチルエチレン基、および2,2’-ジメチルエチレン基)等が挙げられる。これらのうちエチレン基が好ましい。pが2以上の場合、Rは、同一でも異なっていてもよい。pは好ましくは、2~95であり、より好ましくは9~90である。
【0012】
の炭素数1~8のアルキル基としては、直鎖アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基)、分岐アルキル基(イソプロピル基、t-ブチル基、トリメチルエチル基及び2-エチルヘキシル基等)、環状アルキル基(シクロヘキシル基等)等が挙げられる。これらのうち直鎖アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0013】
単量体(a1)は、融点が5~55℃であることが好ましく、蓄熱材の蓄熱量が大きくなる等の観点から、さらに好ましくはメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート[一般式(1)中のRが水素原子またはメチル基、-X-が-O-、Rがエチレン基、Rがメチル基の化合物]であり、特に好ましくは、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート[一般式(1)中のRがメチル基、-X-が-O-、Rがエチレン基、Rがメチル基の化合物]であって、pが5~90のものである。
単量体(a1)は、一種を用いてもよいし二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
単量体(a1)は、(メタ)アクリル酸とポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから公知の方法で得ることができる。
単量体(a1)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては日油(株)製のブレンマー(登録商標)PMEシリーズが挙げられ、入手可能である。単量体(a1)として好適な市販品としては、日油(株)製の「ブレンマー PME―4000」[一般式(1)中のRがメチル基、-X-が-O-、Rがエチレン基、Rがメチル基、pが90の化合物]、日油(株)製の「ブレンマー PME―1000」[一般式(1)中のRがメチル基、-X-が-O-、Rがエチレン基、Rがメチル基、pが23の化合物]及び日油(株)製の「ブレンマー PME―400」[一般式(1)中のRがメチル基、-X-が-O-、Rがエチレン基、Rがメチル基、pが9の化合物]等が挙げられる。
【0015】
多官能(メタ)アクリレート(a2)は、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである。組成物が前記のような多官能(メタ)アクリレート(a2)を上記単量体(a1)とともに含むことにより、当該組成物を硬化してなる硬化物において充分な蓄熱性が発現し、形状が安定し引張強度が十分なものとなる。本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」は「アクリロイル基」及び/又は「メタアクリロイル基」を意味する。
【0016】
多官能(メタ)アクリレート(a2)の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する)付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンのAO付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのAO付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記AO付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2~4のアルキレンオキサイド[エチレンオキサイド(EO)、直鎖または分岐のプロピレンオキサイド(PO)および直鎖または分岐のブチレンオキサイド(BO)]等が挙げられる。多官能(メタ)アクリレート(a2)は、一種を用いてもよいし二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
多官能(メタ)アクリレート(a2)としては、好ましくは、1分子中に3個以上6個以下の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、1分子中に3個以上6個以下のアクリロイル基を有するアクリレートであり、さらに好ましくは、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールのテトラアクリレート及びジペンタエリスリトールのヘキサアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0018】
本発明において、重合性単位中の単量体(a1)の割合は、重合性単量体の全重量に基づき60~99重量%である。単量体(a1)の割合が前記範囲であることにより、組成物を硬化してなる硬化物(以下「組成物の硬化物」とする)において充分な蓄熱性が発現し、形状が安定し引張強度が十分なものとなる。
【0019】
前記単量体(a1)の割合が60重量%未満であると、組成物の硬化物の蓄熱量が低くなり、充分な蓄熱性が発現しなくなることがある。また前記単量体(a1)の割合が99重量%を超えると、組成物の硬化物の形状安定性が悪化することがある。
【0020】
前記単量体(a1)の割合は、蓄熱性および形状安定性の観点から、好ましくは60~70重量%以上であり、より好ましくは60~69重量%である。
【0021】
本発明において、重合性単量体中の多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合は、重合性単量体の全重量に基づき1~40重量%である。多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合が前記割合であることにより、組成物の硬化物において充分な蓄熱性が発現し、形状が安定し引張強度が十分なものとなる。
前記多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合が40重量%を超えると、組成物の硬化物の蓄熱量が低くなり、充分な蓄熱性が発現しなくなることがある。前記多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合が1重量%未満であると、組成物の硬化物の形状安定性が悪化することがある。
【0022】
前記多官能(メタ)アクリレート(a2)の割合は、蓄熱性および形状安定性の観点から、好ましくは30~40重量%であり、より好ましくは31~40重量%である。
【0023】
重合性単量体は、単量体(a1)および多官能(メタ)アクリレート(a2)以外の他の単量体(a3)を含んでいてもよい。
他の単量体(a3)としては、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート[例えば、ステアリル(メタ)アクリレート及びオクタデシル(メタ)アクリレート等]、1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート{エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキシドジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFアルキレンオキシドジ(メタ)アクリレート及び9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等}等が挙げられる。
【0024】
重合性単量体中の他の単量体(a3)の割合は、重合性単量体の全重量に基づき、好ましくは0~15重量%である。
【0025】
本発明の組成物は、硬化させることにより蓄熱材とすることができるため、硬化を促進するという観点から、重合開始剤(B)を含むことが好ましく、光重合開始剤を含んでいることがより好ましい。光重合開始剤は可視光線、紫外線、遠赤外線、荷電粒子線及びX線等の放射線の露光により、重合性不飽和化合物の重合を開始しうるラジカルを発生する成分であれば特に限定されないが、例えば、特開2016-163992号公報に記載の光重合開始剤等が挙げられる。当該公報にはベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ケタール化合物、ベンゾフェノン化合物及びホスフィンオキシド等の光重合開始剤が記載されており、これらは1種単独でも2種以上を併用して用いてもよい。これらのうち、アセトフェノン化合物が好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンがより好ましい。光重合開始剤の市販品としてはBASF(株)製のイルガキュア(登録商標)シリーズがあり、入手可能である。
【0026】
本発明の組成物が重合開始剤を含む場合、その添加量は重合性単量体の全重量100重量部に対し、0.1~10重量部であることが好ましく、0.5~3重量部であることがより好ましい。
【0027】
本発明の組成物は、重合性単量体及び重合開始剤以外の他の成分(C)を含んでいてもよい。他の成分(C)としては、可塑剤、有機溶剤、分散剤、消泡剤、チクソトロピー性付与剤(増粘剤)、スリップ剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤及び紫外線吸収剤等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明の組成物は、例えば、単量体(a1)、多官能(メタ)アクリレート(a2)ならびに、必要に応じ添加される成分[他の単量体(a3)、重合開始剤(B)及び他の成分(C)]を、30~80℃の温度条件に調温し、5~10分間撹拌混合することにより得ることができる。各成分の混合順は特に限定されず、混合する際の温度条件および混合時間は、添加する成分の種類及び添加量などに応じて調整することができる。
【0029】
[蓄熱材]
本発明の組成物を硬化してなる硬化物は蓄熱性に優れかつ引張強度が高いので、蓄熱材の材料として好適である。
本発明の蓄熱材は、本発明の組成物の硬化物を含む。本発明の蓄熱材は本発明の組成物を硬化してなる硬化物のみからなるものであってもよいし、本発明の組成物を硬化してなる硬化物と、他の部材とを備えるものであってもよい。
【0030】
本発明の蓄熱材が本発明の組成物の硬化物のみからなる場合、本発明の蓄熱材は、例えば、本発明の組成物を所望の形状の成形用型に入れて硬化させる方法、および本発明の組成物を、2枚のガラス板の間に配置して硬化させる方法等により製造することができる。
蓄熱材を製造する際の硬化方法[硬化のための装置(例えば照射装置等)、硬化温度及び硬化時間等]は組成物に含まれる成分[単量体(a)、多官能(メタ)アクリレート(a2)及び重合開始剤等]の種類及び量により調整することができる。
本発明の蓄熱材の形状は特に限定されず、その用途によって、適宜設定することができる。配置の利便性の観点から、蓄熱材の形状はシート状が好ましい。
【0031】
本発明の蓄熱材が他の部材を備える場合、他の部材としては本発明の組成物の硬化物を収容する収容体等が挙げられる。当該収容体としてはプラスチック製のフィルム等が挙げられる。本発明の蓄熱材が他の部材として収容体を備える場合、当該収容体に本発明の組成物を収容した後、組成物を硬化させることにより、本発明の蓄熱材を製造することができる。
【0032】
本発明の蓄熱材がシート状の場合、その引張強度は5MPa以上であることが好ましい。引張強度が5Mpa以上の蓄熱材は、圧力がかかる環境下での使用に適している。シート状の蓄熱材の引張強度は、例えば、オートグラフAGS―500D[島津製作所(株)製]を用い、引張速度1000mm/分で引張試験を行い、シート状の蓄熱材の試験片が破断するまでに要した力を測定し、当該測定値及び以下の式を用いて算出することができる。
引張強度=試験片が破断するまでに要した力の測定値/試験片の断面積
蓄熱材がシート状の場合、シートの厚さは0.2mm以上が好ましい。
【0033】
本発明の蓄熱材は、蓄熱性に優れるという観点から、30℃~150℃における蓄熱量が、好ましくは70J/g以上であり、より好ましくは71J/g以上である。本発明の組成物を硬化させることにより上記蓄熱量を実現可能である。
【0034】
さらに本発明の蓄熱材は150℃で流動性がないことが好ましい。単量体(a1)と、多官能(メタ)アクリレート(a2)との比率を調整することにより流動性を調整することができる。150℃で流動性がない蓄熱材は、本発明の組成物を硬化させることにより実現可能である。「150℃で流動性がない」とは、150℃の発熱体の上に蓄熱材を置きその上に200gの重りを載せて3分間加熱した後に形状の変化がなく、蓄熱材から液体の染み出しがないことをいう。
【0035】
本発明の蓄熱材は、圧力がかかる環境下での使用に適していることから、例えば複数の蓄電素子を並べてなる蓄電素子群の蓄電素子間に配置する用途等に適している。
【0036】
[物品]
本発明の物品は、発熱部材と本発明の蓄熱材とを備え、蓄熱材が発熱部材と接触するように配置されている物品である。発熱部材としては、蓄熱材による冷却の対象となる部材であり、具体的には、半導体素子(CPU等)、LEDバックライト、蓄電素子(バッテリー及びコンデンサー等)およびこれらを備えた電気回路等が挙げられる。物品は蓄熱材とともに、他の冷却装置(例えば空冷装置)などを備えていてもよい。
【0037】
本発明の物品において、蓄熱材は、発熱部材と直接接触していることが好ましく、発熱部材の発熱部分の全域に接触していることがより好ましい。
【0038】
本発明の物品は、前記の方法で蓄熱材用の組成物を硬化させて得られた硬化物を冷却対象となる発熱部材の表面に直接積層することで得ることが出来る。また、蓄熱材用の組成物を発熱部材の表面で硬化させることによっても製造することができる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<製造例1>
[単量体(a1-4)の製造]
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、メタノール16.0重量部(0.5モル部)及び水酸化カリウム2.5重量部を投入し、窒素置換後密閉し、130℃に昇温した。撹拌下でエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)110.1重量部(2.5モル部)を圧力が0.5MPa以下になるように調整しながら滴下ボンベから10時間かけて滴下した後、130℃で5時間熟成した。次いで90℃に冷却後、吸着処理剤「キョーワード600」[協和化学工業(株)製]20重量部を投入し、90℃で1時間撹拌して水酸化カリウムを吸着処理した後、吸着処理剤をろ過してメタノールEO5モル付加物を得た。
温度調節器、バキューム撹拌翼、減圧装置、ジムロート冷却管、分留管、留出液受け用フラスコ、窒素流入口及び流出口を備えた反応容器に、メタノールEO5モル付加物300重量部、メタクリル酸71.3重量部、トルエン150重量部及びパラトルエンスルホン酸4重量部を投入し、撹拌下115℃まで昇温した。次いで、115℃で8時間エステル化反応を行い、留出水を分離した。更に25℃まで冷却し、1H-NMRでエステル化反応物を確認(収率98モル%)した。
前記の反応で得られたエステル化物の全量が入った反応容器に10重量%水酸化ナトリウム水溶液200重量部を投入して撹拌し、パラトルエンスルホン酸及び過剰のメタクリル酸を十分に中和した。分液ロートで上澄み液を回収し、120℃に昇温後、同温度で減圧下(0.027~0.040MPa)トルエンを2時間かけて除去し、本発明の単量体(a1-4)を得た。
単量体(a1-4)は、一般式(1)におけるRはエチレン基、p=6、Rはメチル基で表される単量体である。
【0041】
<製造例2>
[単量体(a1-5)の製造]
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、ブタノール37.1重量部(0.5モル部)及び水酸化カリウム2.5重量部を投入し、窒素置換後密閉し、130℃に昇温した。撹拌下でエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)110.1重量部(2.5モル部)を圧力が0.5MPa以下になるように調整しながら滴下ボンベから10時間かけて滴下した後、130℃で5時間熟成した。次いで90℃に冷却後、吸着処理剤「キョーワード600」[協和化学工業(株)製]20重量部を投入し、90℃で1時間撹拌して水酸化カリウムを吸着処理した後、吸着処理剤をろ過してブタノールEO5モル付加物を得た。
温度調節器、バキューム撹拌翼、減圧装置、ジムロート冷却管、分留管、留出液受け用フラスコ、窒素流入口及び流出口を備えた反応容器に、ブタノールEO5モル付加物300重量部、メタクリル酸80.5重量部、トルエン150重量部及びパラトルエンスルホン酸4重量部を投入し、撹拌下115℃まで昇温した。次いで、115℃で8時間エステル化反応を行い、留出水を分離した。更に25℃まで冷却し、1H-NMRでエステル化反応物を確認(収率98モル%)した。
前記の反応で得られたエステル化物の全量が入った反応容器に10重量%水酸化ナトリウム水溶液200重量部を投入して撹拌し、パラトルエンスルホン酸及び過剰のメタクリル酸を十分に中和した。分液ロートで上澄み液を回収し、120℃に昇温後、同温度で減圧下(0.027~0.040MPa)トルエンを2時間かけて除去し、本発明の単量体(a1-5)を得た。
単量体(a1-5)は、一般式(1)におけるRはエチレン基、p=6、Rはブチル基で表される単量体である。
【0042】
前記の製造例で得られた単量体(a1-4)及び単量体(a1-5)以外に、実施例及び比較例において用いた各成分は下記のとおりである。
[単量体(a1)]
(a1-1):メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート[商品名「ブレンマー PME―4000」、日油(株)製、融点:54℃]
(a1-2):メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート[商品名「ブレンマー PME―1000」、日油(株)製、融点:33~38℃]
(a1-3):メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート[商品名「ブレンマー PME―400」、日油(株)製、室温(25℃)で液体(融点:-1~2℃)]
(a1-4):メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート[p=6、融点:-7~-5℃]
(a1-5):ブトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート[p=6、融点:-8~-6℃]
[多官能(メタ)アクリレート(a2)]
(a2-1):トリメチロールプロパントリアクリレート[東京化成工業(株)製]
(a2-2):ペンタエリスリトールテトラアクリレート[東京化成工業(株)製]
(a2-3):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[東京化成工業(株)製]
(a2―4):トリメチロールプロパントリメタクリラート[東京化成工業(株)製]
[他の単量体(a3)]
(a3-1):エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリラート[東京化成工業(株)製]
[1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(a2’)]
(a2’―1):テトラエチレングリコールジアクリレート[東京化成工業(株)製]
[重合開始剤(B)]
(B-1):1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名「イルガキュア184」、BASF(株)製]
【0043】
[実施例1]
(1-1)組成物の製造
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計及び窒素導入管を備えた反応容器に、単量体(a1-1)を90重量部、多官能(メタ)アクリレート(a2-1)10重量部、重合開始剤(B-1)1重量部を加え、70℃で5分撹拌混合し、組成物(A-1)を得た。
【0044】
(1-2)フィルムの製造及び評価
70℃で温調しながら5分間撹拌混合した組成物(A-1)を、長方形状のガラス板(縦30cm、横20cm、厚さ2.5mm)の長手方向の対向する2つの辺に沿って、ガラス板上に置いた2つの厚さ1mm、幅寸法1cmの帯状のシリコンシート(スペーサー)の間に出来た領域に組成物(A-1)を流し込んだ。組成物(A-1)を流し込んだ後、前記ガラス板と同形同大のガラス板を重ねて蓋をし、四方をクリップで固定した。さらに、70℃で3分間静置した後、露光機(HERAEUS社製、UV硬化装置 LH-10)を用いてガラス板両面に対し、鉛直方向から紫外線を照射量1000mJ/cm、露光時間約2秒間で照射し、組成物を硬化させ、厚さ1mmのフィルム状の硬化物[フィルム(X-1)]を得た。当該フィルムについて後述の評価試験(蓄熱量の測定、引張強度及び形状安定性)を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2~13、比較例1~3]
(2-1)組成物の製造
実施例1の(1-1)において、表1に記載の単量体(a1)、多官能(メタ)アクリレート(a2)、単量体(a3-1)、単量体(a2’-1)及び重合開始剤(B)を表1に記載の量で用いたこと以外は実施例1の(1-1)と同じ操作を行い、組成物(A-2)~(A-13)及びおよび組成物(A’-1)~(A’-3)を得た。
【0046】
(2-2)フィルムの製造及び評価
実施例1の(1-2)において、組成物(A-1)に代えて、表1に記載の組成物を用いたこと以外は実施例1の(1-2)と同じ操作を行い、フィルム状の硬化物[フィルム(X-2)~(X-13)、フィルム(X’-1)~(X’-3)]を得た。各フィルムについて後述の評価試験(蓄熱量、引張強度及び形状安定性)を行った。結果を表1に示す。表1には、重合性単量体中の単量体(a1)の含有割合及び多価(メタ)アクリレート(a2)の含有割合を合わせて示す。
【0047】
[評価試験]
<蓄熱量の測定>
実施例および比較例で作製したフィルムから切り出した円盤状の試験片(直径0.5cm)を測定試料とし、DSC[TA Instruments社製、「DSC Q2000」]により30℃から150℃まで、10℃/分の速度で昇温して示差走査熱量測定を行った。横軸を温度とし、縦軸が熱流とした測定チャートのピーク面積を測定し、蓄熱量を下記式(2)により算出した。
蓄熱量=ピーク面積/(測定前の試験片の質量) (2)
蓄熱量は70J/g以上が好ましい。
【0048】
<引張強度>
実施例および比較例で作製したフィルムからダンベルカッター(SDK-500)を用いて試験片(JISK7127に記載の試験片タイプ5)を各5枚ずつ切り出し試験片の引張強度を以下の方法により測定した。
(引張強度の測定)
(1)試験片を25℃、湿度65%以下で3時間静置した。
(2)試験片の長さ方向の両端部を上下のチャックでつかみ、チャック間の距離を70mmに調整した。
(3)オートグラフAGS―500D[島津製作所(株)製]を用い、引張速度1000mm/分で引張試験を行い、試験片が破断するまでに要した力を測定した。引張強度は下記式(3)を用いて算出した
引張強度=試験片が破断するまでに要した力の測定値/試験片の断面積 (3)
引張強度は5MPa以上であることが好ましい。
【0049】
<形状保持性の評価>
実施例および比較例で得られたフィルムから、正方形の試料を切り出し(一辺の寸法:25mm、厚み0.5mm)、当該試料をホットプレート上に置き、その上に200gの重りを乗せて150℃で3分間加熱した。加熱による形状の変化の有無および液体の染み出しの有無を目視により観察し、形状保持性を下記評価基準により評価した。
形状の変化の有無については、試料の加熱前後の大きさ(縦寸法及び横寸法)を比較し、いずれの寸法も変化がなければ形状の変化がないと判断し、縦寸法及び/または横寸法の変化が認められる場合は形状の変化が認められると判断した。
形状の変化及び液体の染み出しのいずれも認められないことが好ましい。
(評価基準)
〇:形状の変化が認められず、液体の染み出しも認められない。
×:形状の変化及び/又は液体の染み出しが認められる。
【0050】
【表1】
【0051】
本発明の組成物を硬化してなる実施例1~13の放熱材では、蓄熱量及び、引張強度が高く、かつ、各例で用いた単量体(a1)の融点よりも高温(150℃)で加熱し加圧したときの形状安定性に優れていた。これらの結果から、本発明によれば、相転移温度以上でも形状を維持し、かつ、引張強度に優れる蓄熱材用の組成物及び蓄熱材を提供することができるということが分かる。