(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183057
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083530
(22)【出願日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021089787
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中塚 貴典
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】楠 洋平
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA43
4F071AA46
4F071AB21
4F071AB26
4F071AD02
4F071AF27
4F071AF28
4F071AH16
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】フィルム搬送性に優れる摩擦係数を持たせたまま転写性を阻害しない、転写用フィルムに適した二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも一方の面について、SRz/SPcが5.0以上である二軸配向ポリエステルフィルムであって、フィルムの一方の面ともう一方の面の静摩擦係数μsが0.10以上0.50以下である二軸配向ポリエステルフィルム。
このとき、SRzはフィルム表面の三次元十点平均粗さ(nm)、SPc(単位面積あたりの突起個数)はフィルム表面0.2mm2あたりの6.3nmを超える突起高さを持つ突起個数(個/mm2)を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面について、SRz/SPcが5.0以上である二軸配向ポリエステルフィルムであって、フィルムの一方の面ともう一方の面の静摩擦係数μsが0.10以上0.50以下である二軸配向ポリエステルフィルム。
このとき、SRzはフィルム表面の三次元十点平均粗さ(nm)、SPc(単位面積あたりの突起個数)はフィルム表面0.2mm2あたりの6.3nmを超える突起高さを持つ突起個数(個/mm2)を表す。
【請求項2】
前記SRzが1300nm以上2000nm以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記SPcが100個/mm2以上290個/mm2以下である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
SRz/SPcが5.0以上であるフィルム表面の三次元中心面平均粗さSRaが40nm以上70nm以下である請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記フィルムの厚みが2.0μm以上10.0μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
粒子組成の異なる3種以上の粒子を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
1種以上の有機粒子を含有する、請求項6に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
粒子含有量の和がフィルム全体に対して0.01質量%以上1.00質量%以下である請求項6または7に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】
転写フィルムに用いられる請求項1~8のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム搬送性に優れた摩擦係数を持ちながら転写性に優れる、二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン-2,6-ナフタレートなどを用いた二軸配向ポリエステルフィルムは、機械特性、耐熱性、寸法安定性、耐薬剤性、コストパフォーマンス性などに優れることから、その性能を活かして多くの用途にベースフィルムとして使用されている。その用途のひとつとして熱転写インクリボン等における転写用途が挙げられる。この熱転写インクリボンは、コストパフォーマンス性やメンテナンス性、操作性などに優れることからFAX、バーコード印刷といった分野に既に用いられている。
【0003】
こうした転写製品での鮮明性や濃度階調性などの要求レベルは年々高まっており、その素材であるポリエステルフィルムへ要求される品質および品位のレベルは高まってきている。例えば特許文献1には、ポリエステルフィルムの表面粗さを制御することで、印画物の特性を向上させるという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献の技術では、一定程度の品質および品位のレベルの向上が得られるが、加工途中における歩留まりが十分なものではなかった。フィルム製品の加工は、フィルムロールの状態から送り出し、加工し、加工済みフィルムとして巻き取る工程を経る場合が多いが、ベースフィルムの特性およびフィルムロールとしての品位によって各工程に影響を与える場合がある。具体的には、送り出し時の安定性、加工途中におけるフィルムの搬送性、加工後のフィルムの巻き取り易さである。これらに共通して重要となるのがフィルム同士のすべり性、ついてはフィルムの摩擦係数である。摩擦係数が低すぎるとフィルム搬送時の蛇行を生じ易く、摩擦係数が高すぎるとフィルム巻き取り時のエア抜け性が悪化し、いずれの場合も巻き取り後のフィルムロールとしての品位を低下させる。フィルムの摩擦係数に影響を及ぼす因子の一つがフィルムの表面粗さであり、一般で認識されている傾向として、フィルム表面が粗面であるほど摩擦係数が低くなり、平滑面であるほど摩擦係数が高くなる。したがって、フィルムロールとしての品位を保つため、更には後工程での加工性を確保するために、ベースフィルムの表面はある程度の粗面化が必要であり、ベースフィルムにはその最適化が要求される。
【0006】
一方で転写用フィルムにおいては、フィルム表面に存在する無数の突起によって転写性が阻害される場合があり、フィルム表面の突起数が少なく、平滑面である方が転写製品としての品質には有利となる。しかしながら上記に示した通り、フィルム加工の各工程における加工性確保のためベースフィルムはある程度の粗面化が必要であり、フィルム表面粗さと摩擦係数について転写用フィルムとして全てが有利となるような最適化は困難であった。
【0007】
本発明は上記のような状況に対し、フィルム表面の突起数を抑えながら適度な突起高さを持たせることで、フィルム搬送性に優れる摩擦係数を持たせたまま転写性を阻害しない、転写用フィルムに適した二軸配向ポリエステルフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)少なくとも一方の面について、SRz/SPcが5.0以上である二軸配向ポリエステルフィルムであって、フィルムの一方の面ともう一方の面の静摩擦係数μsが0.10以上0.50以下である二軸配向ポリエステルフィルム。
このとき、SRzはフィルム表面の三次元十点平均粗さ(nm)、SPc(単位面積あたりの突起個数)はフィルム表面0.2mm2あたりの6.3nmを超える突起高さを持つ突起個数(個/mm2)を表す。
(2)前記SRzが1300nm以上2000nm以下である(1)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(3)前記SPcが100個/mm2以上290個/mm2以下である(1)または(2)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(4)SRz/SPcが5.0以上であるフィルム表面の三次元中心面平均粗さSRaが40nm以上70nm以下である(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(5)前記フィルムの厚みが2.0μm以上10.0μm以下である(1)~(4)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(6)粒子組成の異なる3種以上の粒子を含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(7)1種以上の有機粒子を含有する、(6)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(8)粒子含有量の和がフィルム全体に対して0.01質量%以上1.00質量%以下である(6)または(7)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(9)転写フィルムに用いられる(1)~(8)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルム表面の突起数を抑えながら適度な突起高さを持たせることで、良好なフィルム搬送性と転写性を両立した二軸配向ポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いる二軸配向ポリエステルフィルムとは、延伸に伴う分子配向によって二軸方向に配向したポリエステルフィルムである。用いられるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン-2,6-ナフタレートが好ましい。これらはポリエステル共重合体であってもよいが、その繰り返し構造単位のうち、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレートもしくはエチレン-2,6-ナフタレートであることが好ましい。他のポリエステル共重合体成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p-キシレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、またはアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、ないしはトリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分やp-ヒドロキシエトキシ安息香酸などを採用することができる。また、上記のポリエステルに、該ポリエステルと反応性のないスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、あるいは該ポリエステルに不溶なポリアルキレングリコールや脂肪族ポリエステルなどのうち一種以上を、5%を超えない程度ならば共重合ないしブレンドしてもよい。
【0011】
本発明に用いられるポリエステルフィルムは、必要に応じて安定剤、着色剤、酸化防止剤、その他の添加剤等を含有してもよい。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、2.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは2.5μm以上5.0μm以下であることが好ましい。フィルムの厚みを前述の範囲以上とすることで、例えば熱転写リボン用途において搬送性を良好にすることができ、加工時にシワが発生するのを抑制することができる。一方、フィルムの厚みを前述の範囲以下とすることで、例えば熱転写リボン用途において印刷感度を良好にすることができる。フィルム厚みを上記の範囲とすることで、例えば熱転写リボンでの印画シワの発生を抑制でき、かつフィルムの転写性を良好とすることができる。
【0013】
本発明におけるポリエステルフィルムは、フィルム表面の三次元十点平均粗さ(SRz)と単位面積あたりの突起個数(SPc)から算出されるSRz/SPcが5.0以上である。SRz/SPcが5.0未満では、フィルムの転写性または加工時におけるフィルム搬送性のいずれかが不利になり、本発明の効果を得ることができない。また、SRz/SPcは、6.5以下であると、転写性、搬送性を良好にすることができる。このとき、三次元十点平均粗さ(SRz)(単位:nm)は、後述する測定方法により求められ、JIS-B0601(1994年)のRz値に相当する三次元粗さ計での測定値である。単位面積当たりの突起個数(SPc)は、フィルム表面0.2mm2あたりの6.3nmを超える突起高さを持つ突起個数(個/mm2)を表す。詳細な測定方法は後述する。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、前記SRz/SPcが5.0以上を満たすフィルム表面において、三次元十点平均粗さ(SRz)が、1300nm以上2000nm以下であることが好ましい。前記SRz/SPcが5.0以上を満たすフィルム表面の三次元十点平均粗さ(SRz)を2000nm以下とすることで、フィルム表面に存在する粗大な突起によってフィルムの転写性が阻害されるのを抑制する効果が得られる。また、三次元十点平均粗さ(SRz)が1300nm以上とすることで、フィルムをロールの状態に巻き取った際にフィルム同士が密着することを抑制し、フィルムロールから巻き出した際のフィルム搬送性の悪化を抑制する効果が得られる。更に好ましくは、三次元十点平均粗さ(SRz)が1300nm以上1800nm以下である。本発明のポリエステルフィルムにおいて、十点平均粗さ(SRz)が上記範囲を満たす場合は、転写性の阻害を抑えつつ良好なフィルム搬送性を維持する事ができる。
【0015】
また、本発明のポリエステルフィルムは、前記SRz/SPcが5.0以上を満たすフィルム表面において、単位面積あたりの突起個数(SPc)が100個/mm2以上290個/mm2以下であることが好ましく、100個/mm2以上275個/mm2以下であることがより好ましい。前記SRz/SPcが5.0以上を満たすフィルムの表面の単位面積あたりの突起個数(SPc)を100個/mm2以上とすることで、フィルムをロールの状態に巻き取った際にフィルム同士が密着することを抑制し、フィルムロールから巻き出した際のフィルム搬送性の悪化を抑制する効果が得られる。一方、突起個数(SPc)を290個/mm2以下とすることで、フィルム表面に存在する突起によってフィルムの転写性が阻害されるのを抑制することができる。
【0016】
また、本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの一方の面と反対面を重ね合わせて測定を行った静摩擦係数(μs)は0.10以上0.50以下である。静摩擦係数(μs)が0.50を超えるとフィルム加工時において良好なフィルム搬送性が得られず、静摩擦係数(μs)が0.10未満ではフィルム巻き取り時にフィルムが蛇行しやすく、巻き取り後のフィルムロールの品位が損なわれやすくなる。更に好ましくは、静摩擦係数(μs)が0.30以上0.50以下である。上記範囲を満たすフィルムとすると、フィルムの搬送性を良好としながら、フィルムをロールの状態に巻き取った際も品位を保つことができ、フィルムロールから巻きだした際の搬送性も良好とすることができる。
【0017】
このとき、SRz/SPcが5.0以上であるフィルム表面の三次元中心面平均粗さ(SRa)が40nm以上70nm以下であることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムにおいて、三次元中心面平均粗さ(SRa)が上記範囲を満たす場合は、より明確に、転写性の阻害を抑えつつ良好なフィルム搬送性を維持する事ができる。同様の観点から更に好ましくは、三次元中心面平均粗さ(SRa)が40nm以上60nm以下である。三次元中心面平均粗さ(SRa)(単位:nm)は、後述する測定方法により求められ、JIS-B0601(1994年)の中心線平均粗さ値に相当する三次元粗さ計での測定値である。
【0018】
本発明において、ポリエステルフィルムの前記SRz/SPcや静摩擦係数(μs)を上記の範囲とせしめる方法は特に限られるものでは無いが、例えばフィルムを構成するポリエステル樹脂に無機粒子および/または有機粒子を含有せしめる方法が挙げられ、特に二酸化ケイ素、アルミナ、炭酸カルシウム、カオリン、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子、フッ素樹脂粒子あるいはシリコン粒子などの無機ないし有機粒子のうち粒子組成の異なる3種以上の粒子を含有せしめる方法が好ましく挙げられる。このとき粒子組成の異なる3種以上の粒子を含有せしめるのは、フィルムのSRz、SPcならびに静摩擦係数(μs)について本発明で好ましいとする範囲を同時に満たすためである。粒子が単一の種類である場合は、フィルム内における粒子分散は均一化しやすいが、本発明で示すSRzの好ましい範囲を満たそうとした場合に静摩擦係数(μs)が0.50超となりやすく、本発明で示す好ましい範囲を同時に満たせなくなる。本発明は、フィルム内における粒子分散が適度に不均一となる状態を達成できた場合に高い効果を得ることができるが、粒子が2種類であるよりも、粒子組成の異なる3種以上の粒子を含有せしめることでよりフィルム内における粒子分散が適度に不均一となる状態を達成しやすくなる。このとき用いる粒子は、お互いの性質がより異なるもの同士である方が効果を得られやすく、含有させる粒子のうち1種以上は有機粒子であることが好ましい。
【0019】
このときのポリエステルフィルム中の粒子含有量の和は0.01~1.00質量%であることが好ましく、更に好ましくは0.20~0.50質量%である。粒子濃度を0.01質量%以上とするとフィルム表面の三次元十点平均粗さ(SRz)を前述の範囲以上とすることが容易となり、また、静摩擦係数(μs)を0.50以下とすることが容易となり、粒子濃度を1.00質量%以下とすると製膜安定性を良好とする効果が得られる。また、含有させる粒子の平均粒子径は各種の粒子それぞれにおいて、いずれも0.1~3.0μmであることが好ましい。平均粒子径を0.1μm以上とすることで、フィルム表面の三次元十点平均粗さ(SRz)を前述の範囲以上とすることが容易となる。また、三次元十点平均粗さ(SRz)を前述の範囲以上とするために、フィルムの粒子濃度を過度に多くする必要がないため、フィルムの製膜安定性を良好とすることができる。一方、平均粒子径を3.0μm以下とすることで、フィルム表面の三次元十点平均粗さ(SRz)を前述の範囲以下とすることが容易となる。なお、平均粒子径とは、粒子を溶融・溶解させない溶媒を用いて洗浄を行った後、該溶液に水を加え、遠心分離を2回繰り返すことによって得られた粒子を乾燥させたものについて、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばスペクトリス株式会社製マスターサイザー2000)にて粒度分布を測定し、その数平均を当該粒子の平均粒子径として測定したものである。
【0020】
上記観点から、平均粒子径が2.0~3.5μmの二酸化ケイ素粒子を0.25~0.35質量%、平均粒子径が0.9~1.3μmの炭酸カルシウム粒子を0.03~0.10質量%、および、平均粒子径が0.2~0.4μmの有機粒子を0.005~0.015質量%含有する、ことが特に好ましい態様である。
【0021】
これら粒子の添加方法としては、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを得るに際し、ポリエステル樹脂と粒子を、押出機等を用いて混練してもよいが、粒子をより均一に分散させるため、粒子をポリエステル樹脂にブレンドした原料とポリエステル樹脂とを押出機等を用いて混練する方法が望ましい。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムの構成は、単層フィルムに限らず、2層、3層、それ以上の複合フィルムの構成となっても構わない。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、搬送性と転写性に優れるため転写フィルム、特に熱転写インクリボン用に好適に用いることができる。
【0024】
以下に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法についての好ましい一態様を記載する。
【0025】
粒子を含有するポリエステル原料を溶融押出し、スリット状のダイを用いてフィルム状に成形した後、表面温度20~70℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させ、未延伸フィルムとする。続いて未延伸フィルムを80~130℃で長手方向(MD)に3.0~7.0倍延伸して、一軸配向フィルムを得る。このとき、多段階延伸をすることにより製膜性を損なわずに長手方向に強く配向したフィルムを得ることができる。特に、3段階での延伸が好ましく、1、2段目の延伸ロール温度を110℃~130℃で計2~4倍、3段目の延伸を110℃~130℃で2~3.5倍、なおかつ1、2段目よりも3段目が低温になるように延伸することで、本発明の物性・効果を満たすポリエステルフィルムを製造することが容易となる。その後、一軸配向フィルムをテンター内に導入し、100~130℃で予熱する。次に予熱したフィルムを幅方向(TD)に3.0~4.5倍に延伸して二軸配向フィルムとし、200~220℃で熱固定(ヒートセット、HSという場合がある)する。熱固定後、180~220℃で幅方向に2~8%収縮させてからジャンボロールとして巻き取った後、必要に応じたフィルム幅にてスリットを行い、紙または樹脂のコアに巻き付けてフィルムロールとする。なお、必ずしもここで示した製造方法に限定されるものではない。
【実施例0026】
以下に本実施例で用いた測定方法、評価方法を示す。
【0027】
(1)三次元十点平均粗さ(SRz)
株式会社小坂研究所製微細形状測定機サーフコーダET4000Aを用いて、ポリエステルフィルムの三次元十点平均粗さを測定した。本発明におけるSRz値は、JIS-B0601(1994年)のRz値に相当する3次元粗さ計での測定値である。測定方法は幅方向とし、カットオフ値0.25mm、測定長0.5mm、送りピッチ5μm、触針加重10mg、測定スピード100μm/s、測定本数80本とした。任意の箇所からサンプルを切り出し、当該測定を3サンプルについて行い、その3サンプルの測定の平均値からフィルムの十点平均粗さ(SRz)を求めた。
【0028】
(2)単位面積あたりの突起個数(SPc)
株式会社小坂研究所製微細形状測定機サーフコーダET4000Aを用いて、ポリエステルフィルムの表面0.2mm2あたりの6.3nmを超える突起高さを持つ表面突起個数(SPc)をカウントした。測定方向はフィルムの幅方向とし、カットオフ値0.25mm、測定長0.5mm、送りピッチ5μm、触針加重10mg、測定スピード100μm/s、測定本数80本とした。任意の箇所からサンプルを切り出し、当該測定を3サンプルについて行い、その3サンプルの測定の平均値からフィルムの表面突起個数(SPc)を求めた。
【0029】
(3)静摩擦係数(μs)
フィルムの一方の面とその反対面を重ね合わせた2枚のフィルムをガラス板の上に設置し、フィルム上に200gの重り(接触面積40cm2)を置く。下側のフィルムの一端(移動方向側)とガラスを固定し、上側のフィルムの一端(移動方向とは逆端)は検出器に固定した。ガラス板を速度2mm/secで5mm移動した時の静摩擦係数(μs)を以下の式より求めた。
μs=(スタート時の張力)/(荷重200g)。
【0030】
(4)三次元中心面平均粗さ(SRa)
株式会社小坂研究所製微細形状測定機サーフコーダET4000Aを用いて、ポリエステルフィルムの三次元中心面平均粗さを測定した。測定方法は幅方向とし、カットオフ値0.25mm、測定長0.5mm、送りピッチ5μm、触針加重10mg、測定スピード100μm/s、測定本数80本とした。任意の箇所からサンプルを切り出し、当該測定を3サンプルについて行い、その3サンプルの測定の平均値からフィルムの三次元中心面平均粗さ(SRa)を求めた。なお、三次元中心面平均粗さ(SRa)(単位:nm)は、JIS-B0601(1994年)の中心線平均粗さに相当する三次元粗さ計での測定値である。
【0031】
(5)ポリエステルフィルムの厚み(μm)
JIS C2151(2006年)電気用プラスチックフィルム試験方法のマイクロメーター法を用いて指定された方法でポリエステルフィルムの厚み(μm)を測定した。
【0032】
(6)フィルム搬送性
ベースフィルムのスリット工程において、下記の指標にて分類を行った。
【0033】
◎:搬送フィルムにシワによるスリット不合格発生が0.3%未満
〇:搬送フィルムのシワによるスリット不合格発生が0.3%以上1.0%未満
△:搬送フィルムのシワによるスリット不合格発生が1.0%以上2.0%未満
×:搬送フィルムのシワによるスリット不合格発生が2.0%以上。
【0034】
(7)転写性
本発明のポリエステルフィルムとして、幅方向500mm、長手方向40,000m長のロールを巻き出して、一方の面に下記組成(i)の塗布液を塗布量が0.3g/m2となるようにダイレクトグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥させて耐熱保護層を形成した。
【0035】
組成(i)
シリコーン樹脂:10質量部
トルエン:45質量部
メチルエチルケトン:45質量部
上記ポリエステルフィルムの耐熱保護層を形成したのとは反対側の面に下記組成(ii)塗布液を150℃で溶融撹拌し塗布量が2.0g/m2となるようにホットメルトコーターを用いて約130℃で塗布し乾燥させて易接着層を形成した。
【0036】
組成(ii)
カルナウバワックス (カルナバ1号、東洋アドレ社製):30質量部
パラフィンワックス(HNP-10、日本精蝋社製) :35質量部
エチレン酢酸ビニル共重合体(MB-11、住友化学社製):10質量部
この易接着層上に下記組成(iii)の塗布液を塗布量が0.5g/m2となるようにダイレクトグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥させて熱溶融性インク層を形成し、熱転写リボンを得た。
【0037】
組成(iii)
カルナウバワックス:10質量部
テルペンフェノール樹脂:30質量部
カーボンブラック:10質量部
トルエン:100質量部
上記にて得られた熱転写リボンを熱転写プリンター(ゼブラテクノロジーズ社製プリンター“Zebra”(登録商標) 140 Xi III)を用いて、エネルギーレベル28で印画を行い、印画後の熱転写リボンを目視確認にて欠損箇所数[個/100mm2]を評価し、下記の指標にて分類を行った。
◎:1.2未満 (合格、とても良好)
〇:1.2以上2.0未満(合格、良好)
△:2.0以上5.0未満(合格、実用可能)
×:5.0以上 (不合格、実用上問題あり)。
【0038】
続いて実施例に基づき、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
平均粒子径2.6μmの二酸化ケイ素粒子を含有したポリエチレンテレフタレートであるペレットAと、平均粒子径1.1μmの炭酸カルシウム粒子と平均粒子径0.3μmの架橋ポリスチレン粒子を含有したポリエチレンテレフタレートであるペレットBを、押出機中にて285℃で溶融させた。このとき押出機中における各粒子の含有量は、二酸化ケイ素粒子が0.29質量%、炭酸カルシウム粒子が0.07質量%、架橋ポリスチレン粒子が0.01質量%である。押出機中で混練したものを口金からシート状に溶融押し出しを行い、25℃の回転冷却ドラムに密着させて固化させ、未延伸フィルムを得る。加熱したロールの周速差を用いてフィルムの長手方向に123℃で1.1倍に延伸(1段目延伸)を行い、ついで長手方向に123℃で2.1倍に延伸、(2段目延伸)、更に116℃で2.7倍に延伸(3段目延伸)し、合計で6.2倍に延伸した。
【0040】
このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、110℃で幅方向に3.8倍に延伸し、さらに210℃の熱風を3秒間当て熱処理し、150℃で幅方向に3.0%弛緩させて、厚さ5.0μmのポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1~3に示す。
【0041】
(実施例2~4、比較例1~3)
実施例1における粒子種および混合比率を変更するほかは、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0042】
(実施例5)
実施例1におけるフィルム厚みを変更するほかは、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0043】
[評価結果のまとめ]
実施例1から実施例5は、フィルム搬送性および転写性評価でいずれも良好な結果を得ており、その両立を達成した。実施例1~2は特に良好な結果が得られた。
【0044】
比較例1~3は、フィルム搬送性または転写性の評価のいずれかで良好とは言えず、その両立は達成できていない。
【0045】
【0046】
【0047】