(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183073
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】固化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/16 20060101AFI20221201BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G21F9/16 V
G21F9/30 501V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084584
(22)【出願日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021089278
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】足立 栄希
(57)【要約】
【課題】 ジオポリマーの急結を防止し、収着分配係数を改善した固化体の製造方法。
【解決手段】 ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を湿潤状態に保持して養生し、湿潤固化体を得る工程と、
前記湿潤固化体に、放射線を照射する工程と
を含む、固化体の製造方法
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を湿潤状態に保持して養生し、湿潤固化体を得る工程と、
前記湿潤固化体に、放射線を照射する工程と
を含む、固化体の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤固化体が、前記混合物と比較した質量が85%より大きい固化体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射線を照射する工程が、0.5~20kGy/hの線量率で放射線を照射する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物を調製する工程が、前記ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーとを、Al/Siモル比が0.3~1となる組成比にて混合する、請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項5】
前記放射線を照射した湿潤固化体を加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項6】
前記混合物を調製する工程が、前記ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物に、放射性元素または金属元素をさらに混合する工程を含む、請求項1に記載の固化体の製造方法。
【請求項7】
前記放射線を照射する工程の後、または、前記放射線を照射した湿潤固化体を加熱する工程の後に、前記固化体を、セメント、モルタル、ジオポリマー、アスファルト、樹脂、または金属から選択される1以上の被覆体で被覆する工程をさらに含む、請求項6に記載の固化体の製造方法。
【請求項8】
ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物が固化され、放射線照射された固化体であって、収着分配係数が、少なくとも4.8m3/Kgである固化体。
【請求項9】
ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水と、放射性元素または金属元素とを含む混合物が固化され、放射線照射された固化体であって、脱着分配係数が、少なくとも4.8m3/Kgである廃棄体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化体の製造方法に関する。本発明は、特には、低レベル放射性廃棄物や排出規制がされている有毒物、特に、溶液、乾燥残渣、焼却灰、スラッジ、イオン交換樹脂等を固定可能な固化体、あるいはこれらが固定化された固化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の原子力発電所から発生する廃液、スラッジ、イオン交換樹脂の低レベル放射性廃棄物は、溶媒除去や焼却、溶融し減容してからドラム缶内でセメントやアスファルトと混練固化し廃棄体とした後、発電所内の貯蔵設備に一定期間保管してから、放射能レベルに応じて、浅地中埋設処分、あるいは、中深度処分を行うことになっている。埋設処分を行った後、300~400年間の管理期間を経て、処分地は一般的な土地利用が可能になる。
【0003】
放射能レベルが比較的低い廃棄体の浅地中埋設処分は事業化されており、200Lドラム缶で61万本相当の処分施設(六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター)が稼働している。平成28年度末、約68万本が原子力発電所に保管されており、発電所の貯蔵設備容量の約96万本以下ではある。しかし、今後、発電所の再稼働により低レベル放射性廃棄物が増加するため貯蔵設備容量は逼迫していく。また、平成30年11月時点で23基の原子力炉の廃止措置が決定しており、金属構造材やコンクリート等の減容不能な低レベル放射性元素も大量に発生することとなる。そのため、現在の埋設処分施設の容量も拡大していくと思われる。埋設処分施設からの放射性元素の環境への移行は、廃棄体、廃棄体周囲のセメント系充填材、充填材周囲の土壌の三重のバリアにより、抑制する設計になっている。埋設施設全体で廃棄可能な核種量は決まっており、核種毎に収着分配係数が設定されている。廃棄体自体からの放射性元素の溶出抑制性、すなわち、バリア性が高ければ、セメント系充填材や周辺土壌のバリア性が低くてもよいため、埋設施設全体としての余裕が生まれる。したがって、廃棄体自体のバリア性は高いことが望ましい。
【0004】
放射性廃棄物の固化材として認可されている高炉セメントやポルトランドセメントは、水と混練するとCa水和反応により硬化し固体となる。セメントは価格が安く固化装置が安価であるため、保管や輸送中の安全性から固化材として用いられている。しかし、セメント廃棄体は水暴露時にアルカリ金属が溶出しやすく、特にセシウムの閉じ込め性能は低い。そのため、廃棄体自体のバリア性は期待されておらず、従来の埋設施設は、セメント廃棄体周辺の充填材や土壌のバリア性により、放射性物質の環境への移行を抑制するように設計されている。
【0005】
近年、新しい固化材としてジオポリマーが検討されている(特許文献1、2、非特許文献1を参照)。ジオポリマーはアルミニウムとケイ素が酸素を介して三次元的につながった非晶質アルミノシリケートである。ジオポリマーは、メタカオリンやフライアッシュ(アルカリ活性フィラー)、水ガラス、苛性ソーダ/苛性カリ、水を混練することにより調製する。ジオポリマーは、セメントと比較して、特に、アルカリ/アルカリ土類イオンの収着分配係数が大きい。そのため、混練の際に、廃液、フィルタースラッジ、イオン交換樹脂等の放射性廃棄物を加えることで、廃棄物固化体とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-156671号公報
【特許文献2】特開2019-45453号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Geopolymer solidification technology approved by Czech / Slovak Nuclear Authority to Immobilise NPP resins and Sludge waste(WM2015 Conference, 15555, March 15-19, 2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
廃止措置により発生する金属構造材、運転中に発生する廃液やスラッジ、焼却可能な廃棄物やイオン交換樹脂を固化したセメント廃棄体はカチオンに対して収着分配係数が低いという問題があった。一方、ジオポリマーはカチオンに対して収着分配係数が大きいが、実運用での廃棄物固化体は大容量の容器で製造する必要があり、急結を避けるためアルカリ濃度を抑制する場合があった。そして、これにより、ジオポリマーの収着分配係数が低下する恐れがあった。
【0009】
固化体の製造において、急結を避け、かつ収着分配係数を低下させない製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、固化体の製造過程で所定の条件下にて放射線を照射することにより、収着分配係数を改善可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、一実施形態によれば、固化体の製造方法であって、
ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を湿潤状態に保持して養生し、湿潤固化体を得る工程と、
前記湿潤固化体に、放射線を照射する工程と
を含む。
【0011】
前記固化体の製造方法において、前記湿潤固化体が、前記混合物と比較した質量が85%より大きい固化体であることが好ましい。
【0012】
前記固化体の製造方法において、前記放射線を照射する工程が、5~20kGy/hの線量率で放射線を照射する工程を含むことが好ましい。
【0013】
前記固化体の製造方法において、前記混合物を調製する工程が、前記ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーとを、Al/Siモル比が0.3~1となる組成比にて混合することが好ましい。
【0014】
前記固化体の製造方法において、前記放射線を照射した湿潤固化体を加熱する工程をさらに含むことが好ましい。
【0015】
前記固化体の製造方法において、前記混合物を調製する工程が、前記ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物に、放射性元素または金属元素をさらに混合する工程を含むことが好ましい。
【0016】
前記混合物に、放射性元素または金属元素をさらに混合する工程を含む前記固化体の製造方法において、前記放射線を照射する工程の後、または、前記放射線を照射した湿潤固化体を加熱する工程の後に、前記固化体を、セメント、モルタル、ジオポリマー、アスファルト、樹脂、または金属から選択される1以上の被覆体で被覆する工程をさらに含むことが好ましい。
【0017】
本発明は、別の実施形態によれば、ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物が固化され、放射線照射された固化体であって、収着分配係数が、少なくとも4.8m3/Kgである固化体に関する。本発明は、さらに別の実施形態によれば、ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水と、放射性元素または金属元素とを含む混合物が固化され、放射線照射された廃棄体であって、脱着分配係数が、少なくとも4.8m3/Kgである廃棄体に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、混練時の硬化時間を延ばしたことにより収着分配係数が低下しても、放射線の照射により、製造後の固化体の収着分配係数もしくは廃棄体の脱着分配係数を改善することができる。これにより、急結を避けて固化体もしくは廃棄体を製造することができる。また、改善した収着分配係数または脱着分配係数により、埋設処分施設の設計に余裕が生まれるため、処分コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1~3及び比較例1における固化体の製造における、放射線の線量率と、収着分配係数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
[第1実施形態:固化体の製造方法]
本発明は第1実施形態によれば、固化体の製造方法に関する。本実施形態に係る製造方法により製造される固化体は、Al/Siモル比が0.3~1のアルミノケイ酸塩を主成分とした三次元網目構造を備える多孔質体と、任意選択的に当該多孔質体に固定化した放射性元素または金属元素とを含む。
【0022】
アルミノケイ酸塩を主成分とした多孔質体は、ジオポリマーともいわれ、主として水、ケイ酸アルカリ、アルカリ活性フィラーの重合生成物である。アルカリ活性フィラーとケイ酸アルカリを混合すると、シリコンとアルミニウムがケイ酸とテトラヒドロキソアルミン酸として溶解し、水酸基間で脱水縮合し重合する。重合が十分進行すると強度が発現し、多孔質体となる。本明細書においては、当該多孔質体を含み、任意選択的にその他の物質を含んで固化された物体を固化体と指称する。また、固化体のうち、特に放射性元素または毒性があり廃棄が規制される金属元素(以下、放射性元素等と指称する)が固定化されたものを廃棄体という。廃棄体は、放射性元素等を含む廃棄物を、製造時に多孔質体材料と共に混練することで、多孔質体内部に放射性元素等が固定化されたものである。廃棄体は、法律にしたがって所定の埋設処理施設に埋設することができる。一方、本実施形態は、放射性元素等を実質的に含まず、主として多孔質体からなる固化体の製造も意図している。放射性元素等を実質的に含まない固化体は、放射性元素等を含む放射性廃棄物または金属廃棄物と接触させることで、これらの廃棄物の収着材として用いることができる。
【0023】
本実施形態による固化体の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水と、任意選択的に放射性元素または金属元素とを含む混合物を調製する工程
(2)前記混合物を湿潤状態に保持して養生し、湿潤固化体を得る工程
(3)前記湿潤固化体に、放射線を照射する工程
【0024】
以下、放射性元素等を含まない固化体の製造方法と、廃棄体の製造方法にわけて、それぞれ説明する。
【0025】
[第1態様:放射性元素等を含まない固化体の製造方法]
(1)混合物を調製する工程
第1の工程は、固化体を構成する多孔質体の原料を混合し、混練して、混合物を調製する工程である。多孔質体(ジオポリマー)の材料は、水、ケイ酸アルカリ、アルカリ活性フィラーを含む。ケイ酸アルカリとしては、ケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス)を用いることができる。アルカリ活性フィラーとして、例えば、メタカオリンを主成分とした粉末を用いることができ、メタカオリン、フライアッシュや高炉スラグ、あるいはそれらの混合物でもよく、これらにさらに、メタケイ酸ナトリウムやシリカ粉末を加えてもよい。アルカリ活性フィラーは、非晶質性であることが好ましい。ここで、アルカリ活性フィラーが非晶質性であるとは、アルカリ活性フィラー中の非晶質成分が80質量%以上であることをいうものとする。非晶質成分の割合は、X線結晶回折法により得ることができる。アルカリ活性フィラー中の非晶質成分が85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。水は純水を用いることができる。これらに加えて、材料の溶解速度や重合速度調整のために、任意選択的な成分として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを添加してもよい。
【0026】
ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーとの混合比は、Al/Siモル比が0.3~1、好ましくは、0.5~0.9となるように適宜決定することができる。また、水は、混合物の濃度を調整する量で添加することができる。
【0027】
より具体的な手順としては、容器に水ガラスと、純水と、使用する場合には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムとを入れ、事前に混合する。次いで、この混合物にアルカリ活性フィラーを加えて混合する。この操作により、アルカリ活性フィラーは水ガラスと混合しスラリーとなる。容器は、本工程において、原料を均一に混練するために用いられ、かつ、場合により次工程にて継続的に用いて固化するまで形状を保持するために用いることができる。容器は、均一に混練する目的で、円筒形状など、角のない形状であることが好ましく、例えば、金属製、プラスチック製、セラミック製の容器を用いることができる。次工程にて継続的に使用し、固化体の型として用いる場合にはさらに、製造する固化体の形状およびサイズに適合するものであることが好ましい。本発明の目的に照らして、使用する容器は、好ましくは、急結が懸念される大容量の容器であり、例えば、10L以上、20L以上、50L以上、100L以上、150L以上、200L以上の容器であってよい。
【0028】
これらの材料を混合し、混合物を調製することにより、常温、常圧下にて硬化反応が開始する。硬化開始時間は水分量に比例し、アルカリ量に反比例するが、数~十数時間で硬化する。硬化開始時間とは、原料の混練開始後、固まり始めるまでの時間をいう。ここでいうアルカリ量とは、任意選択的な成分として使用されうる水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの量をいうものとする。なお、大容量の容器で固化体を作成する場合は、急結を防止するため、水分を増やしたり、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの量を少なくしたりして、硬化時間を適宜調整することができる。
【0029】
(2)養生し、湿潤固化体を得る工程
第1工程の後、得られた混合物を養生し、湿潤固化体を得る第2工程を実施する。第2工程は、混合物が乾燥しないように、水分の散逸を防ぐ態様にて実施する。具体的には、第1工程で得られた混合物を密閉容器に封入した状態にて第2工程を実施することができる。養生は、温度が一定の環境で実施する。室温で硬化して湿潤固化体を生成するように、原料の配合調整を行うことが好ましい。通常養生期間は28日間程度であるが、28日間以上であればよい。
【0030】
本工程により、水分を保持したままでジオポリマーの重合反応が進行し、三次元網目構造のアルミノケイ酸塩を主成分とし、水分を含む湿潤固化体が得られる。湿潤固化体とは、製造初期に含んでいた水が実質的に失われていない状態の固化体であって、固化体外部に連通した空隙中に実質的に水が含まれた状態に維持されている状態の固化体をいう。より具体的には、仕込み時の混合物の質量からの質量減少率が15%以下である固化体、すなわち仕込み時の混合物の質量と比較して、質量が85%より大きい固化体を湿潤固化体ということができる。連通空隙から水が失われ、含水量が仕込み比から計算される含水率を下回った固化体に対して、後述する放射線照射を行っても、収着分配係数が十分に改善されないおそれがある。仕込み比から計算される理論上の含水量の下限はおよそ20質量%である。一方、含水量の上限は、およそ50%程度とすることができる。50質量%を超える水が存在すると、固化しないおそれがあるためである。なお、固化体の含水量は、第1工程における混合物調製時の出発物質仕込み量から計算により得ることができる。
【0031】
第2工程により得られるこの湿潤固化体は非晶質性である。本発明において、廃棄体が非晶質性であるとは、X線結晶回折法により測定した場合に、非晶質成分が80質量%以上含まれていることをいうものとする。本発明に係る廃棄体は、より好ましくは、非晶質成分が85質量%以上、さらに好ましくは非晶質成分が90質量%以上、さらにまた好ましくは非晶質成分が95質量%以上含まれている。
【0032】
(3)放射線を照射する工程
次に、湿潤固化体に放射線を照射する。第2工程で得られた湿潤固化体は、脱型し、放射線照射のための容器に移すことが好ましい。第2工程で樹脂製の型を使用する場合、当該樹脂製の型を第3工程で引き続き使用すると、放射線照射により溶解し固化体に付着するおそれがある。照射のための容器は、放射線の照射により内容物の湿潤固化体に悪影響を与えない材料から構成することができる。例えば、ステンレス、アルミニウム、ガラス等であってよい。また、放射線の照射の工程における乾燥を防止するため、密閉可能な容器を用いることが好ましい。
【0033】
照射する放射線は、例えば、ガンマ線、またはβ線であってよく、これらの両方を照射することもできる。理論に拘束される意図はないが、ガンマ線とベータ線は、いずれも、第2工程において得られる湿潤固化体の構成分子に直接作用することができ、かつ、湿潤固化体に含まれる、重合されたジオポリマー周辺に存在しうる水に由来するヒドロキシラジカル等の活性種を生成して、間接的にジオポリマーに作用することができる。これらの放射線の作用により、ジオポリマーの収着分配係数を増大させることができ、放射性廃棄物の固定化に有利になると考えられる。
【0034】
放射線の一例であるガンマ線の照射線源は、特には限定されるものではないが、工業用ガンマ線源であってよく、典型的には、Co-60であってよい。ガンマ線の線量率は、0.5~20kGy/h程度であってよく、5~15kGy/h程度とすることが好ましい。線量率を5kGy/h以上と、比較的高くすることで、高い収着分配係数を実現することができ、有利である。また、線量は、50~2000kGy程度とすることができ、50~1000kGy程度とすることができ、100kGy~500kGy程度とすることが好ましい。照射時間の上限は特には限定されないが、湿潤固化体からの水分の蒸発が無い範囲で行うことが好ましい。放射線の別の例であるベータ線の照射線源も、特には限定されるものではない。また、ベータ線や他の放射線を照射する場合は、上記ガンマ線と同程度の線エネルギー付与(LET)が可能であるである線量とすることができる。
【0035】
放射線の照射工程により、収着分配係数が改善した固化体を得ることができる。放射性元素等を含まない固化体は、放射性元素等が漏出し得る環境において、これらを収着するために用いることができる。より具体的には、放射性元素等を含む固化体、すなわち廃棄体の埋設処理時に、複数の廃棄体の間に充填する緩衝材として使用することができる。固化体は、第1、第2工程で使用した型の仕様によるが、そのままの形状で用いることもできるし、固化体を粉末化して用いることができる。
【0036】
上記の工程1~3により、急結を防ぎ、収着分配係数が改善された固化体を得ることができる。本実施形態による製造方法により得られる固化体は収着分配係数Kd[m3/kg]により評価することができる。
【0037】
収着分配係数Kdは、「収着分配係数の測定方法-浅地中処分のバリア材を対象としたバッチ法の基本手順(AESJ-SC-F003:2002)」を参照して、収着試験を実施することにより得ることができる。より具体的には、固化体を0.5~5mmのサイズに粉砕し、固化体と純水の質量比が1:10となる比率で固化体を純水に1週間浸漬させ固化体成分を溶出させ、かつ、この溶液を0.1μmのフィルタでろ過した溶液である平衡水を用いて金属イオンの収着分配係数を評価する。金属イオン(プローブイオン)としては、ストロンチウム(Sr)を選択することが好ましい。この時の平衡水のpHは10~11なので、金属イオンは水酸化物になる傾向があるため溶解度が低く、高pHで溶解度が極端に低いイオンでは測定が困難になる。したがって、溶解度が大きいイオンでは吸着サイト数が不明なので濃度設定が難しいため、ストロンチウムを用いることが好適である。ストロンチウムの初期濃度は5ppmとすることができる。平衡水にSrCl2を添加した、5ppmのSrを含む溶液を、浸漬液という。
【0038】
次いで、固化体粉末を、固化体粉末と浸漬液の質量比が1:10となる比率で固化体を浸漬液に浸漬し、一定期間、ストロンチウムを収着する。粉末サイズは平衡水作成時と同様に0.5~5mmとし、浸漬期間は1週間とする。試験時の温度は、固化体の埋設を想定して、15~25℃の範囲でよいが、20℃一定とすることができる。試験雰囲気は不活性ガス中で行うことが好ましい。1週間の浸漬の後、溶液を0.45μmのフィルタでろ過し、0.45μmを超える粒子を除去する。そして、溶液中に残存するストロンチウム濃度を測定して、固化体へのストロンチウムの収着を評価する。より具体的には、収着分配係数K
dは、以下の式により得ることができる。
【数1】
式中、C
0は浸漬液中のSr初期濃度、C
Sは収着後の浸漬液中のSr濃度であり、Vは浸漬液体積(m
3)、mは粉末質量(kg)を表す。Srの濃度単位は、ppmとすることができるが、他の濃度単位であってもよい。このような収着試験により、本実施形態による製造方法により得られる固化体の特性を評価することができる。
【0039】
上記工程を実施することにより、ケイ酸アルカリと、アルカリ活性フィラーと、水とを含む混合物が固化され、放射線照射された固化体であって、収着分配係数が、少なくとも4.8m3/Kg、例えば、4.8~7.0m3/Kgである固化体を得ることができる。
【0040】
固化体に放射線を照射した後、任意選択的に、第4、第5工程として、以下の工程を実施し、固化体を乾燥して、高密度の固化体とすることができる。
(4)前記固形物を、100~200℃の第1加熱温度で加熱する工程
(5)加熱した固形物を、800~1000℃の第2加熱温度でさらに加熱する工程
【0041】
(4)100~200℃の第1加熱温度で加熱する工程
第4工程では、第3工程で得られた固形物を、100~250℃の第1加熱温度にて加熱する。第1加熱温度にて加熱する工程は、二段階で行ってもよく、この場合100~120℃で加熱する工程と、200~250℃で加熱する工程とを順次行ってもよい。固形物は細孔を持ち、100~120℃では十分に乾燥できない場合があるため、さらに200~250℃で加熱する工程を行うことが好ましい。乾燥は、通常、大気中の加熱炉で行ってもよく、不活性雰囲気の加熱炉で行ってもよい。
【0042】
より具体的な例としては、固形物を常温の加熱炉に投入し、常温から100~120℃まで、約1~4時間程度で昇温し、4~24時間程度維持することができる。次いで、100~120℃から200~250℃まで、約1~4時間で昇温し、4~24時間維持することができる。しかしながら、昇温並びに維持時間は一例であり、本発明はこのような昇温並びに維持時間に限定されるものではない。
【0043】
(5)800~1000℃の第2加熱温度でさらに加熱する工程
第4工程における加熱の終了後、固形物を炉内に保持したまま、かつ、第1加熱温度から温度を下げることなく、第5工程では、さらに800~1000℃の加熱温度まで昇温する。第1加熱温度から第2加熱温度までの昇温時間は8時間以内程度とすることが好ましく、4時間以内とすることがさらに好ましく、2時間程度とすることが最も好ましい。廃棄体が割れなければ、あるいは、割れてもよいなら2時間以下、例えば1時間程度で急加熱をしてもよい。なお、第1加熱温度から第2加熱温度までの昇温時間は8時間よりも長くてよい場合がある。第2加熱温度が800℃よりも低いと、冷却時に収縮が不十分となり密度が上がらないことあり、1000℃を超える温度にまで加熱すると固形物が溶解するおそれがある。800~1000℃の範囲内の所定の第2加熱温度まで昇温した後、加熱炉内で除熱することが好ましい。第2加熱温度まで昇温した後、第2加熱温度で1~2時間程度維持することもできる。
【0044】
以上の第4、第5の任意工程の操作を行い、室温まで戻すことにより、体積が50%近く減少し、高密度化した固化体が得られる。
【0045】
[第2態様:廃棄体の製造方法]
次に、固化体の中でも、特に放射性元素等を含む固化体である廃棄体の製造方法について説明する。廃棄体の製造方法は、第1工程において、ジオポリマーの原料となる水、ケイ酸アルカリ、アルカリ活性フィラーとともに、放射性元素または金属元素を含む混合物を調製する点において、第1態様とは異なっている。
【0046】
放射性元素または金属元素は、有毒性または危険性があり、所定の方法で処分することが望ましい元素である。例えば、法律に基づいて所定方法にて廃棄処分されるべき元素であって、一般的には、放射性元素または排出規制された非放射性の金属元素であってよい。放射性元素は、放射性核種を含む元素であってよく、金属及び非金属の放射性元素のいずれであってもよい。放射性元素としては、例えば、H-3、C-14、Cl-36、Ca-41、Co-60、Ni-63、Sr-90、Cs-137、Eu-152、Eu-154が挙げられるが、それらには限定されない。放射性金属元素以外の金属元素としては、例えば、毒性の高いCd、Pb、Hg、Cr、As、Sn、Be、Alが挙げられる。しかし、これら以外の金属元素、特に重金属元素も、多孔質体に固定化して廃棄する用途があり得、本態様において廃棄体とすることで、安全に廃棄することができる。放射性元素または金属元素を混合する際は、これらの元素と分離困難な、廃液やこれらの元素と化合物を生成している成分、フィルタースラッジ、イオン交換樹脂などを一緒に混合してもよい。第1工程において廃液を混合する場合には、廃液中の水分量を考慮して、続く第2工程の「湿潤状態」を保持する含水量を計算することができる。
【0047】
混合物を調製する際の放射性元素または金属元素の量は、廃棄体中の放射性元素または金属元素の含有量が、埋設施設毎に決められている濃度以下となるように混合することができる。この濃度は、例えば、例えば、Cs-137では3ppb程度である。
【0048】
廃棄体の製造方法において、第2、第3工程は、放射性元素等を含まない固化体の製造方法の第2、第3工程と同様に実施することができる。第2、第3工程を経て得られた廃棄体は、放射性元素等及び場合によりこれと分離困難な成分が含まれ、ジオポリマーからなる多孔質体に収着されている。そして、放射線の照射により、脱着分配係数が改善されている。なお、脱着分配係数の評価方法は、収着分配係数の評価方法と同様に行うことができる。
【0049】
次に、任意選択的な工程として、放射性元素等を含まない固化体の製造方法の第4、第5工程と同様に、第4、第5工程を行い、廃棄体を乾燥してもよい。第4工程は、第1態様の第4工程と同様に実施することができる。
【0050】
第5工程も第1態様の第5工程と同様に実施することができるが、特に、放射性元素や金属元素が第2加熱温度にて揮発しやすい元素である、Cs等である場合には、第2加熱温度まで昇温した後は、第2加熱温度で維持することなく加熱を止めることが好ましい。放射性元素等の揮発の問題がない場合には、第2加熱温度まで昇温した後、第2加熱温度で1~2時間程度維持することもできる。また、第5工程において、放射性元素等の揮発の問題がない場合には、第1加熱温度から第2加熱温度までの昇温時間は8時間よりも長くてよい場合がある。
【0051】
第4、第5工程を経た廃棄体からの元素溶出は検出限界以下となる。多孔質体の主成分であるアルミニウムとケイ素の溶脱は、焼成前と比べて10~1000倍以上小さくなり、廃棄体を構成する多孔質体の劣化が生じにくくなる。また、加熱前後での放射性元素または金属元素濃度は変わらない。第4、第5工程によれば、放射性元素や金属元素を揮発させることなく廃棄体を製造することができるため、本態様においては、第4、第5工程を行うことが特に好ましい場合がある。
【0052】
第2態様による廃棄体の製造方法によれば、第1~第3工程または第1~第5工程を実施して得られた固化体をさらに加工する第6工程を含んでもよい。第6工程では、固化体を、セメント、モルタル、ジオポリマー、アスファルト、樹脂、または金属から選択される1以上の被覆体にて被覆することができる。固化体の表面をさらに被覆することにより、廃棄体表面からの溶出や溶脱を防止することができる。
【0053】
被覆体としては、放射性廃棄物などの処理に通常使用されるセメント、モルタル、ジオポリマー、アスファルト、樹脂、または金属を用いることができる。ジオポリマーは、第1実施形態の多孔質体の材料として説明した組成と同様であってもよい。セメントとしては、例えば、ポルトランドセメントなどを用いることができる。樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン等の熱可塑性プラスチックなどを用いることができる。金属としては、炭素鋼やステンレス等の鉄系金属などを用いることができる。被覆体は、異なる材料から構成されるものを複数種組み合わせて用いることもでき、廃棄体に対して、二層、三層、あるいはそれ以上の複数層を備える構成にて設けることができる。被覆体は、第1実施形態による廃棄体の表面全体を被覆することが好ましい。被覆体の被覆厚さは、特には限定されず、また廃棄体の形状や寸法にもよるが、例えば、0.1~1cmであってよい。
【0054】
本発明の第2態様による固化体の製造方法によれば、放射性元素等を固定化した固化体、すなわち廃棄体を得ることができる。当該製造方法は、急結を防止することができ、かつ脱着分配係数が改善された廃棄体を製造することができるため、埋設処理において有利に用いられる。
【実施例0055】
以下に、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0056】
[実施例1~3、比較例1]
放射性元素等を含まない固化体を製造し、収着分配係数を評価した。ケイ酸アルカリとして含水量を調整したJIS 1号水ガラス(含水率50質量%、900g)、イオン交換水(144g)、水酸化ナトリウム(9g)を均一に混練した。そこにメタカオリン粉末(864g)を加え、5分間、ホバートミキサー(N-50、ホバートジャパン)で混練しスラリーを得た。スラリーを6つのプラモールド(φ50mmx100mm、ヒットワン)に分注し、封止フィルムで密封養生した。28日養生後、脱型し湿潤固化体とした。この時の含水率は仕込み量から計算すると31質量%であった。湿潤固化体は、質量測定後に体積3Lのステンレス密閉容器(アズワン)に入れ、輸送時の破損を防ぐため隙間を珪砂5号で充填した。この6本1セットを4つ作成した。
【0057】
湿潤固化体を入れたステンレス容器3つに、それぞれ、線量率1、5、10kGy/h(Co-60)で、100kGyのガンマ線を照射した(外注、ラジエ工業)。線量率1、5、10kGy/hの場合をそれぞれ、実施例1、2、3とした。ガンマ線を照射しなかった場合を、比較例1とした。照射前後の質量変化は、18本の平均で0.15%以下であった。このことから、照射中は湿潤状態が維持されていたことがわかる。
【0058】
照射後、または未照射の湿潤固化体は粉末化し、ストロンチウムをプローブイオンとして、先に記載の評価法により収着分配係数を測定した。粉末はステンレス篩を使い、0.5~5mmのサイズに調製した。純水2000gに、未照射の湿潤固化体粉末200gを浸漬し、密閉ポリ瓶で一週間、振とう速度100rpmで振とうし、0.1μmフィルタでろ過して、平衡水を得た。5ppmのSrを含んだ平衡水100gに湿潤固化体の粉末10gを浸漬し、密閉ポリ瓶で一週間、振とう速度100rpmで振とうした。振とう終了後、溶液を、0.45μmフィルタでろ過して、上澄み中のSrをICP発光分光分析装置(SPS3100、SII)で測定した。以下の表1、及び
図1に結果を示す。
図1に示すように、収着分配係数は、線量率に比例しており、近似直線の決定係数R
2=0.9996であった。水の放射線分解で生成する活性種の濃度は線量率に比例するため、分配係数増加は活性種濃度に比例すると考えられる。
【0059】
【0060】
[比較例2]
実施例1と同様にして作成した湿潤固化体を、20℃、30~40%RHで1~2か月乾燥させ、乾燥固化体とした。乾燥固化体の含水量は質量変化から17質量%と見積もった。14質量%の水が乾燥により失われたことになる。この乾燥固化体を体積3Lのステンレス密閉容器(アズワン)に入れ、輸送時の破損を防ぐため隙間に、珪砂5号を充填した。この6本1セットを2つ作成した。
【0061】
乾燥固化体を入れたステンレス容器2つは、線量率10kGy/h(Co-60)で、それぞれ、100kGy、1000kGyを照射した(外注、ラジエ工業)。照射前後の質量変化は、12本の平均で0.05%以下であったため、照射中も乾燥状態が維持されていた。
【0062】
照射後の乾燥固化体は粉末化し、ストロンチウムをプローブイオンとして、実施例1~3、比較例1と同じ方法で収着分配係数を測定した。照射線量を100kGyとした場合の乾燥固化体の収着分配係数は、ガンマ線未照射の湿潤固化体と概ね同じ値であり、乾燥固化体については、ガンマ線照射による収着分配係数の改善効果は見られなかった。また、照射線量を1000kGyとした場合の乾燥固化体の収着分配係数は、半減した。
本発明の方法により製造された固化体は収着分配係数が向上しており、廃棄体は脱着分配係数が向上している。そのため、低レベル放射性廃棄物や排出規制がされている金属廃棄物の処理において有利に用いることができる。