(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183079
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】エレクトレットシート、圧電センサ、圧力検出システム及びエレクトレットシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 7/02 20060101AFI20221201BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20221201BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20221201BHJP
H01L 41/29 20130101ALI20221201BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01G7/02 D
H01G7/02 A
H01G7/02 E
H01L41/113
H01L41/047
H01L41/29
H01L41/193
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084819
(22)【出願日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021089404
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩造
(72)【発明者】
【氏名】廣野 優李
(72)【発明者】
【氏名】葛山 裕太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲裕
(72)【発明者】
【氏名】白坂 康之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 壯一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢尾 晃一
(57)【要約】
【課題】 本発明は、経時的な電荷の抜けが低減され、長期間に亘って優れた圧電性を維持することができるエレクトレットシートを提供する。
【解決手段】 本発明のエレクトレットシートは、合成樹脂を含有し且つ帯電された発泡シートを含み、上記発泡シートの第1の面の算術平均粗さRaが0.5~10μmであることを特徴とするので、経時的な電荷抜けが低減されており、優れた圧電性を長期間に亘って安定的に維持することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂を含有し且つ帯電された発泡シートを含み、上記発泡シートの第1の面の算術平均粗さRaが0.5~10μmであることを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
発泡シートの第1の面の最大高さRzが2~100μmであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
合成樹脂がポリオレフィン系樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項4】
発泡シートが独立気泡を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項5】
合成樹脂がポリプロピレン系樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項6】
発泡シートの発泡倍率が3.5~40倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項7】
発泡シートは、その表面に気泡断面が開口していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシートと、
上記エレクトレットシートの一方の面に積層されたシグナル電極と、
上記エレクトレットシートの他方の面に積層されたグランド電極とを含むことを特徴とする圧電センサ。
【請求項9】
請求項8に記載の圧電センサを備えていることを特徴とする圧力検出システム。
【請求項10】
生体信号を検出することを特徴とする請求項9に記載の圧力検出システム。
【請求項11】
合成樹脂を含有し且つ内部に気泡が形成された発泡シートの表面部を除去し、上記発泡シートの表面に気泡断面を開口させて、上記発泡シートにおける表面部の除去面の算術平均粗さRaを0.5~10μmとする工程と、
上記発泡シートを帯電させる工程とを含むことを特徴とするエレクトレットシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットシート、圧電センサ、圧力検出システム及びエレクトレットシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットシートは絶縁性の高分子材料に電荷を注入することにより、内部に永久帯電を付与した材料である。
【0003】
合成樹脂製の発泡シートは気泡を形成している気泡膜及びこの近傍部を帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すことが知られている。このような合成樹脂製の発泡シートを用いたエレクトレットシートは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサなどへの応用が提案されている。
【0004】
エレクトレットシートとしては、特許文献1に、平均厚みが90~150μm、発泡倍率が3.5~9倍及びゲル分率が30~50重量%である、帯電されているプロピレン系樹脂発泡シートを含み、上記プロピレン系樹脂発泡シートは、重量平均分子量が370000~420000であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の架橋体を60重量%以上含有する樹脂組成物を含有しているエレクトレットシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のエレクトレットシートは、発泡シートに注入した電荷が経時的に抜けてしまい、圧電性が低下しやすいという問題点を有している。
【0007】
本発明は、経時的な電荷の抜けが低減され、長期間に亘って優れた圧電性を維持することができるエレクトレットシート及びその製造方法、並びに、エレクトレットシートを用いた圧電センサ及び圧力検出システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエレクトレットシートは、合成樹脂を含有し且つ帯電された発泡シートを含み、上記発泡シートの第1の表面の算術平均粗さRaが0.5~10μmであることを特徴とする。
【0009】
本発明の圧電センサは、
上記エレクトレットシートと、
上記エレクトレットシートの一方の面に積層されたシグナル電極と、
上記エレクトレットシートの他方の面に積層されたグランド電極とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のエレクトレットシートの製造方法は、
合成樹脂を含有し且つ内部に気泡が形成された発泡シートの表面部を除去し、上記発泡シートの表面に気泡断面を開口させて、上記発泡シートにおける表面部の除去面の算術平均粗さRaを0.5~10μmとする工程と、
上記発泡シートを帯電させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエレクトレットシートは、同じ配合の合成樹脂を用いた場合でも経時的な電荷抜けが低減されており、優れた圧電性を長期間に亘って安定的に維持することができる。
【0012】
本発明のエレクトレットシートの製造方法によれば、発泡シートにおけるスキン層を含む表面部を除去することによって、気泡断面を発泡シート表面に開口させ、算術平均粗さRaが所定範囲内にあるエレクトレットシートを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】表面部を除去する前の発泡シートの断面を示した模式図である。
【
図2】表面部を除去した後の発泡シートの断面を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(エレクトレットシート)
エレクトレットシートは、合成樹脂を含有する発泡シートを含む。発泡シートが含有している合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、液晶樹脂などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を含むことがより好ましい。
【0015】
合成樹脂は絶縁性に優れていることが好ましく、合成樹脂としては、JIS K6911に準拠して印可電圧500Vにて電圧印可1分後の体積固有抵抗値(以下、単に「体積固有抵抗値」という)が1.0×1010Ω・m以上である合成樹脂が好ましい。
【0016】
合成樹脂の上記体積固有抵抗値は、エレクトレットシートがより優れた圧電性を有することから、1.0×1014Ω・m以上が好ましく、1.0×1016Ω・m以上がより好ましく、1.0×1017Ω・m以上がより好ましい。
【0017】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、又は、エチレン成分を50質量%を超えて含有するエチレンと少なくとも1種の炭素数が3~20のα―オレフィンとの共重合体を挙げることができる。エチレン単独重合体としては、高圧下でラジカル重合させた低密度ポリエチレン(LDPE)、中低圧で触媒存在下で重合させた中低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)などを挙げることができる。エチレンとα-オレフィンを共重合させることで直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を得ることができる。α―オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられ、炭素数が4~10のα-オレフィンが好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレン中におけるα-オレフィンの含有量は通常、1~15質量%である。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50質量%を超えて含有しておればよく、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数が20以下のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数が20以下のα-オレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよいが、ランダム共重合体が好ましい。ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体が好ましい。ポリオレフィン系樹脂中におけるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の含有量は、60~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、85~100質量%が特に好ましく、96~100質量%が最も好ましい。プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の含有量が上記範囲内であると、エレクトレットシートは、高温環境下においても高い圧電性を保持することができる。
【0019】
なお、プロピレンと共重合されるα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。
【0020】
発泡シートの第1の面の算術平均粗さRaは、0.5μm以上であり、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましい。第1の面の算術平均粗さRaが0.5μm以上であると、エレクトレットシートの体積抵抗値を上昇させて、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持することができる。
【0021】
発泡シートの第1の面の算術平均粗さRaは、10μm以下であり、8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、4μm以下がより好ましい。第1の面の算術平均粗さRaが10μm以下であると、エレクトレットシートの体積抵抗値を上昇させて、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持することができる。又、エレクトレットシートの厚みを薄く制御しつつ、厚み方向に存在する気泡の数を増やすことができ、エレクトレットシートの第1の面の面方向において、永久帯電された部分の電荷ムラの発生が抑制され、エレクトレットシートに圧力を加えた時に生じる電荷量を第1の面の面方向においてより均一にすることができる。
【0022】
発泡シートの第2の面の算術平均粗さRaは、特に限定されないが、10μm以下が好ましく、8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、4μm以下がより好ましい。第2の面の算術平均粗さRaが10μm以下であると、エレクトレットシートの体積抵抗値を上昇させて、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持することができる。又、エレクトレットシートの厚みを薄く制御しつつ、厚み方向に存在する気泡の数を増やすことができ、エレクトレットシートの第2の面の面方向において、永久帯電された部分の電荷ムラの発生が抑制され、エレクトレットシートに圧力を加えた時に生じる電荷量を第2の面の面方向においてより均一にすることができる。
【0023】
発泡シートの第2の面の算出平均粗さRaは、0.5μm未満であることが好ましい。発泡シートにおいて、第1の面の算術平均粗さを0.5μm以上とし、且つ、第2の面の算術平均粗さを0.5μm未満とすることで、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持しつつ、平面方向における永久帯電された部分のムラの発生が抑制され、圧力をかける部分によって出力される電荷量をより均一にすることができる。
【0024】
なお、発泡シートの表面の算術平均粗さRa及び後述する最大高さRzはそれぞれ、JIS B0601(2001)に準拠して5回測定し、得られた測定値の相加平均値を算術平均粗さRa及び後述する最大高さRzとした。
【0025】
本発明において、「発泡シートの最も大きな面積を有する面(主面)及び発泡シートの第1の面に対して発泡シートの厚み方向の反対側の面(主面に対向する面)のうちの何れかの一方の面」を「第1の面」とし、他方の面を「第2の面」とする。即ち、発泡シートの「主面」を「第1の面」としたときは、発泡シートの「主面に対向する面」を「第2の面」とする。発泡シートの「主面に対向する面」を「第1の面」としたときは、発泡シートの「主面」を「第2の面」とする。
【0026】
発泡シートの第1の面の最大高さRzは、5μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましく、7μm以上がより好ましく、8μm以上がより好ましく、9μm以上がより好ましく、10μm以上がより好ましく、18μm以上がより好ましい。第1の面の最大高さRzが5μm以上であると、エレクトレットシートの体積抵抗値を上昇させて、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持することができる。
【0027】
発泡シートの第1の面の最大高さRzは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下がより好ましい。第1の面の最大高さRzが100μm以下であると、エレクトレットシートの体積抵抗値を上昇させて、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持することができる。又、エレクトレットシートの厚みを薄く制御しつつ、厚み方向に存在する気泡の数を増やすことができ、エレクトレットシートの第1の面の面方向において、永久帯電された部分の電荷ムラの発生が抑制され、エレクトレットシートに圧力を加えた時に生じる電荷量を第1の面の面方向においてより均一にすることができる。
【0028】
発泡シートの第2の面の最大高さRzは、特に限定されないが、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下がより好ましい。第2の面の最大高さRzが100μm以下であると、エレクトレットシートの体積抵抗値を上昇させて、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持することができる。又、エレクトレットシートの厚みを薄く制御しつつ、厚み方向に存在する気泡の数を増やすことができ、エレクトレットシートの第2の面の面方向において、永久帯電された部分の電荷ムラの発生が抑制され、エレクトレットシートに圧力を加えた時に生じる電荷量を第2の面の面方向においてより均一にすることができる。
【0029】
更に、発泡シートの第2の面の最大高さRzは、5μm未満であることが特に好ましい。発泡シートにおいて、第1の面の最大高さRzを5μm以上とし、且つ、第2の面の最大高さRzを0.5μm未満とすることで、エレクトレットシートの経時的な電荷抜けを低減し、優れた圧電性を長期間に亘って維持しつつ、平面方向における永久帯電された部分のムラの発生が抑制され、圧力をかける部分によって出力される電荷量をより均一にすることができる。
【0030】
発泡シートの発泡倍率は、40倍以下が好ましく、30倍以下がより好ましく、25倍以下がより好ましく、20倍以下がより好ましく、15倍以下がより好ましい。発泡シートの発泡倍率が40倍以下であると、エレクトレットシートを用いた圧電センサをこの圧電センサに荷重が加わるような用途に使用する場合に、エレクトレットシートの使用に伴うヘタリが抑制され、圧電センサの測定精度を向上させることができる。又、発泡シートの発泡倍率が40倍以下であると、発泡シートに含まれる樹脂量が増加するため、永久帯電させることができる電荷量が増加し、圧電センサの出力を向上させることができる。よって、発泡シートの発泡倍率は、エレクトレットシートの帯電量(圧電センサの出力)と変形量(歪み量)とのバランスがよいので、3.5~40倍が好ましい。
【0031】
なお、発泡シートの発泡倍率は、下記の要領で測定された値をいう。発泡シートから一辺10cmの平面正方形状に切り出して試験片を作製する。発泡シートの厚みをISO1923(1981)「発泡プラスチック及びゴム一線寸法の測定方法」に準拠して測定する。試験片の任意の5カ所について厚みを測定し、5カ所の厚みの相加平均値を試験片の厚みとする。得られた試験片の厚みを用いて試験片の見掛け体積(cm3)を算出する。試験片の質量を電子天秤を用いて測定する。試験片の見掛け体積(cm3)を試験片の質量(g)で除した値を発泡シートの発泡倍率とする。なお、試験片の質量を測定するための電子天秤としては、例えば、アズワン社から商品名「校正分銅内蔵精密電子天秤」にて市販されている電子天秤が挙げられる。
【0032】
発泡シートは、電荷を保持する特性を向上するという観点から、貫通孔を含まないことが好ましく、独立気泡を含むことが好ましい。
【0033】
エレクトレットシートを構成している発泡シートは、第1の面の算術平均粗さRaが所定範囲となるように製造できればよく、汎用の要領で製造されればよい。例えば、合成樹脂を公知の要領で発泡させて発泡シートを製造し、発泡シートの表面部を除去することによって製造することができる。合成樹脂を公知の要領で発泡させて得られた発泡シートは、その表面部に未発泡又は殆ど発泡していないスキン層と呼ばれる薄い層が形成されている。発泡シートの第1の面に形成されたスキン層を含む表面部を除去することによって気泡断面を露出させて、第1の面の算術平均粗さRaを上述の範囲としたエレクトレットシートを製造することができる。発泡シートの表面部を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、発泡シートの表面部を切除する方法などが挙げられる。なお、発泡シートのスキン層を除去する装置としては、例えば、ニッピ機械社から商品名「NP-120RS」にて市販されている装置を用いることができる。
【0034】
発泡シート1は、その内部に多数の気泡11、11・・・を有している。発泡シート1は、その表面にスキン層12が形成されているので、気泡11は、発泡シート1の表面1aには開口(露出)していない(
図1参照)。
【0035】
そして、
図2に示したように、発泡シート1におけるスキン層12を含む表面部14を除去することによって、発泡シート内部に形成された気泡11の一部を発泡シートの表面に沿って切断し、気泡の断面11aを発泡シートの表面1aに開口(露出)させることにより、発泡シート1の第1の面1aの算術平均粗さRaを上述の範囲としたエレクトレットシートを製造することができる。なお、
図2では、発泡シートの第1の面に気泡断面を露出させた場合を図示したが、発泡シートの第1の面及び第2の面からスキン層12を含む表面部を除去することによって、発泡シートの第1の面及び第2の面に気泡断面を露出させてもよい。
【0036】
発泡シートからスキン層を含む表面部を切除してエレクトレットシートを製造する場合、発泡シートの算術平均粗さRa及び最大高さRzは、製造される発泡シートの平均気泡径を調整することによって制御することができる。発泡シートの平均気泡径を大きくすると、発泡シートの算術平均粗さRa及び最大高さRzを概ね大きくすることができる。
【0037】
発泡シートの気泡断面を露出させ、第1の面の算術平均粗さRaを所定範囲に調整することによって、発泡シートの第1の面と、この発泡シートの第1の面に積層させる電極(電極を固定剤を介して発泡シートの第1の面に積層させている場合は固定剤)との接触面積を低減させることによって、発泡シートの体積抵抗値を上昇させ、その結果、経時的な電荷抜けを生じにくくすることができ、エレクトレットシートの優れた圧電性を長期間に亘ってより効果的に維持することができる。
【0038】
又、エレクトレットシートの製造方法として、上述の発泡シートのスキン層を切除する方法に限定されず、発泡シートの表面を制御することによって、発泡シートの第1の面の算術平均粗さRaが所定範囲となるように制御してエレクトレットシートを製造してもよい。例えば、下記の(1)及び(2)の方法が挙げられる。
(1)発泡シートの表面を任意の研磨部材を用いて表面に凹凸を形成することによって、第1の面の算術平均粗さRaが所定範囲となるように制御してもよい。
(2)発泡シートの製造時の発泡途上において、発泡シートの表面が軟化している時に、発泡シートの表面に、凹凸を有する成形板を押圧することによって、得られる発泡シートの表面に凹凸形状を形成し、第1の面の算術平均粗さRaが所定範囲となるように制御してもよい。
【0039】
発泡シートの第1の面に沿って一軸延伸することが好ましい。発泡シートを一軸延伸することによって、より薄い発泡シートを得ることができる。発泡シートの厚みが薄いほど、発泡シートを帯電させてエレクトレットを得る時の電圧が低く制御でき、発泡シートの絶縁破壊を抑制できる。その結果、容易に永久帯電が起こりやすくなる。
【0040】
発泡シートの一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されないが、任意の厚みになるように延伸することが好ましい。発泡シートの一軸延伸の延伸倍率としては、例えば、1.1~10倍であり、2~8倍が好ましく、3~5倍がより好ましい。なお、発泡シートの一軸延伸倍率とは、一軸延伸方向において、一軸延伸後の長さを一軸延伸前の長さで除した値をいう。
【0041】
発泡シートの一軸延伸方法としては、特に限定されず、例えば、発泡シートを加熱して軟化状態とし、この軟化状態の発泡シートを公知の一軸延伸装置を用いて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0042】
発泡シートの厚みは特に限定されるものではない。発泡シートの厚みは、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がより好ましい。発泡シートの厚みが500μm以下であると、エレクトレット処理を施すときの電圧の絶対値を低下させることができ、同じ電圧でエレクトレット処理をした時、永久帯電を更に生じさせやすい。又、絶対値のより低い電圧でエレクトレット処理をすることができるため、発泡シートが含有する樹脂の絶縁破壊が抑制され、発泡シートを永久帯電させることが容易となる。したがって、エレクトレットシートは、経時的な電荷抜けが低減され、優れた圧電性を長期間にわたって安定的に維持することができる。
【0043】
発泡シートの厚みは、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、70μm以上がより好ましい。孔質シートの厚みが20μm以上であると、抗張力が増加し、切れたり破れたりといったハンドリング性の低下を抑制できる。特に、所望の厚みになるよう一軸延伸する場合、ハンドリング性が向上する。また、発泡シートが含む樹脂量が適度に増加するので、エレクトレット処理した時の帯電部分の不足が抑制され、圧電センサとして用いるときの出力が向上する。
【0044】
発泡シートを帯電させることによって発泡シートに圧電性を発現させてエレクトレットシートを製造することができる。なお、発泡シートからその表面部を除去する工程と、発泡シートを帯電させる工程は、これらの工程を行う順序は問われず、何れの工程を先に行ってもよいが、発泡シートからその表面部を除去する工程を先に行ってから、発泡シートを帯電させる工程を行うことが好ましい。
【0045】
発泡シートを帯電させる方法としては、特に限定されず、例えば、発泡シートに直流電解を加える方法などが挙げられる。
【0046】
発泡シートに直流電界を加える方法としては、特に限定されず、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1)発泡シートを一対の平板電極で挟持し、帯電させたい表面に接触させている平板電極を高圧直流電源に接続すると共に他方の平板電極をアースし、発泡シートに直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂に電荷を注入して発泡シートを帯電させる方法。
(2)発泡シートの第1の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、発泡シートの第2の面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設する。そして、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させて発泡シートを帯電させる方法。
【0047】
発泡シートに直流電界を加える時の直流処理電圧の絶対値は、5~40kVが好ましく、10~30kVがより好ましい。直流処理電圧を上記範囲に調整することによって、得られるエレクトレットシートにおける帯電量を多くすることができ、エレクトレットシートの出力を大きくすることができる。
【0048】
(圧電センサ)
エレクトレットシートの第1の面及び第2の面のうちの何れか一方の面にシグナル電極を積層又は積層一体化し且つ他方の面にグランド電極を積層し又は積層一体化することによって圧電センサが構成される。そして、グランド電極を基準電極としてシグナル電極の電位を測定することによって、エレクトレットシートにて発生した電位を測定することができる。
【0049】
エレクトレットシートを用いた圧電センサを使用することによって、生体信号を測定される者に負担をかけることなく、呼吸数、心拍数及び体動などの生体信号を容易に測定することができる。
【0050】
シグナル電極は、エレクトレットシートの第1の面に必要に応じて固定剤を介して積層一体化されていることが好ましい。同様に、グランド電極は、エレクトレットシートの第2の面に必要に応じて固定剤を介して積層一体化されていることが好ましい。なお、シグナル電極及びグランド電極としては、導電性を有しておれば、特に限定されず、例えば、銅箔、アルミニウム箔などの金属シート及び導電性膜などが挙げられる。
【0051】
シグナル電極及びグランド電極を導電性膜で構成する場合、導電性膜は、電気絶縁シート上に形成された上で、エレクトレットシート上に積層一体化されてもよいし、エレクトレットシートの表面に直接、形成されてもよい。電気絶縁シート又はエレクトレットシート上に導電性膜を形成する方法は、例えば、(1)電気絶縁シート又はエレクトレットシート上に、バインダー中に導電性微粒子を含有する導電ペーストを塗布、乾燥させて導電性膜を形成する方法、(2)電気絶縁シート又はエレクトレットシート上に、蒸着により導電性膜を形成する方法などが挙げられる。
【0052】
電気絶縁シートとしては、電気絶縁性を有しておれば、特に限定されず、例えば、ポリイミドシート、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシート、ポリ塩化ビニルシートなどが挙げられる。
【0053】
固定剤層を構成している固定剤は、反応系、溶剤系、水系及びホットメルト系の接着剤又は粘着剤などを用いることができる。エレクトレットシートの感度を維持する観点から、誘電率の低い固定剤が好ましい。
【実施例0054】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例及び比較例に用いられた原料を下記に示す。
(ポリプロピレン系樹脂)
・プロピレン-エチレンランダム共重合体(日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックEG7FTB」)
【0056】
(ポリエチレン系樹脂)
・低密度ポリエチレン(プライムポリマー社製 商品名「モアテック0238CN」)
【0057】
熱分解型発泡剤:アゾジカルボンアミド
銅害防止剤:メチルベンゾトリアゾール
酸化防止剤:テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン
架橋助剤:トリメチロールプロパントリメタクリレート
【0058】
(実施例1~10、12)
ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、熱分解型発泡剤、銅害防止剤、酸化防止剤及び架橋助剤をそれぞれ、表1に示した配合量にて押出機に供給して150℃で溶融混練し、Tダイからシート状に押出しながら予め定められた巻取り速度で巻取り、長尺状の発泡性樹脂シートを得た。
【0059】
上記発泡性樹脂シートに電子線を加速電圧300kVの条件下にて25kGy照射して発泡性樹脂シートを架橋した。発泡性樹脂シートを250℃に加熱して発泡性樹脂シートを発泡させて表1に示した厚みを有する第1発泡シートを得た。第1発泡シートは独立気泡を含んでいた。
【0060】
得られた第1発泡シートの第1の面及び第2の面の表面にはスキン層が全面的に形成されており、第1発泡シートの第1の面及び第2の面の表面には気泡は露出していなかった。第1発泡シートの第1の面からスキン層を含む表面部を第1の面に沿って全面的に除去して、第1発泡シートから、表1に示した厚みを有する第2発泡シートを得た。第2発泡シートの第1の面には、気泡断面が露出している一方、第2発泡シートの第2の面には全面的にスキン層が形成されていた。第2発泡シートの第1の面に露出した気泡断面は、第1の面に全体的に散在していた。
【0061】
第2発泡シートを130℃に加熱して軟化状態とし、第2発泡シートを自動一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC-18C6型」)を用いて、第2発泡シートを押出方向に直交する方向(幅方向)に延伸速度250mm/分にて表1に示した延伸倍率に一軸延伸した。表1に示した厚みを有する一軸延伸発泡シートを得た。
【0062】
得られた一軸延伸発泡シートに、帯電付与装置(シムコジャパン社製 商品名「ECM-30N」)を用いて、電圧-15kV、放電距離40mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電処理を行って一軸延伸発泡シートに電荷を注入して一軸延伸発泡シートを帯電させ、帯電された発泡シートを含むエレクトレットシートを得た。得られたエレクトレットシートを80℃で4時間に亘って養生した。
【0063】
(実施例11)
実施例2と同様の要領で第1発泡シートを得た。第1発泡シートの第1の面及び第2の面からスキン層を含む表面部を第1の面及び第2の面に沿って全面的に除去して、第1発泡シートから、表1に示した厚みを有する第2発泡シートを得た。第2発泡シートの第1の面及び第2の面には、気泡断面が露出していた。第2発泡シートの第1の面及び第2の面に露出した気泡断面はそれぞれ、第1の面及び第2の面に全体的に散在していた。
【0064】
第2発泡シートを実施例2と同様の要領で一軸延伸をして第1延伸発泡シートを作製した後、この第1延伸発泡シートに実施例2と同様の要領で電荷を注入して一軸延伸発泡シートを帯電させ、帯電された発泡シートを含むエレクトレットシートを得た。得られたエレクトレットシートを80℃で4時間に亘って養生した。
【0065】
(比較例1~5)
第1発泡シートの第1の面及び第2の面の表面に形成されたスキン層を除去しなかったこと以外は、実施例1~5と同様の要領で帯電された発泡シートを含むエレクトレットシートを得た。なお、比較例1~5の要領はそれぞれ、順に実施例1~5の要領に対応させた。
【0066】
得られたエレクトレットシートについて、第1の面及び第2の面の算術平均粗さRa及び最大高さRz、並びに、発泡シートの発泡倍率及び厚み(第1延伸発泡シートの厚みと同じであった)を上記の要領で測定し、その結果を表1及び表2に示した。
【0067】
得られたエレクトレットシートについて、体積抵抗値、初期圧電定数d33及び耐久圧電定数d33を下記の要領で測定し、その結果で表1及び表2に示した。
【0068】
(体積抵抗値)
エレクトレットシートの体積抵抗値は、JIS C2170(2004)「静電気電荷蓄積を防止する 固体平面材料の抵抗及び抵抗率試験方法」に準拠して測定した。具体的には、エレクトレットシートから一辺10cmの平面正方形状の試験片を切り出した。得られた試験片について、体積抵抗値の測定装置(エーディーシー社製 商品名「8340A」)を用いて電圧500V下で微少電流を測定することによって体積抵抗値を測定した。
【0069】
(初期圧電定数d33及び耐久圧電定数d33)
エレクトレットシートから一辺10cmの平面正方形状の試験片を切り出した。試験体に加振機を用いて、荷重Fが1N、動的荷重が1・5N、周波数が1Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(クーロン)をPiezo leader(リードテクノ社製)を用いて圧電定数d33(電荷量)を計測した。なお、圧電定数dijはj方向の荷重、i方向の電荷を意味し、d33はエレクトレットシートの厚み方向の荷重及び厚み方向の電荷となる。
【0070】
製造直後のエレクトレットシートについて、任意の5カ所の圧電定数d33を測定し、それらの相加平均値を初期圧電定数d33とした。
【0071】
次に、エレクトレットシートをアルミニウム箔で包み込んだ状態で50℃の恒温恒湿槽内に500時間放置した後、エレクトレットシートを23℃の恒温恒湿槽内に1時間放置して定常状態とした。このエレクトレットシートについて、任意の5カ所の圧電定数d33(電荷量)を測定し、それらの相加平均値を耐久圧電定数d33とした。
【0072】
得られた初期圧電定数d33及び耐久圧電定数d33を用いて下記式に基づいてd33保持率(%)を算出した。
d33保持率(%)=100×初期圧電定数d33/耐久圧電定数d33
【0073】
【0074】