(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183082
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ゼロ・サムシーケンスを用いた多相励起および多相走査
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20221201BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
G06F3/041 512
G06F3/044 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085038
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】17/331,389
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507364997
【氏名又は名称】サイプレス セミコンダクター コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Cypress Semiconductor Corporation
【住所又は居所原語表記】198 Champion Court, San Jose, CA 95134, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウォロディミル ビーデイ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリー マハリタ
(72)【発明者】
【氏名】イゴール クラヴェツ
(72)【発明者】
【氏名】ミハイロ クレホベスキー
(72)【発明者】
【氏名】イーホル ムジチューク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タッチパネルのためのゼロ・サムシーケンスを用いた多相励起及び多相走査の装置及び方法を提供する。
【解決手段】タッチパネルの多相走査に方法であって、複数の1の値、負の1の値および0の値を有するシーケンスを選択する。1の値は、同相駆動信号に対応し、負の1の値は、逆相駆動信号に対応し、0の値は、基準信号(例えば、基準電圧またはグラウンド)に対応し、シーケンスの和は、ゼロに等しい。第1の段において、送信器電極の第1のセットの各々に、シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを印加し、シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得し、回転されたシーケンスに従って信号のうちの1つを印加する。さらに、タッチパネル上でのオブジェクトの存在を検出するために、検知信号を受信する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同相駆動信号および逆相駆動信号を生成するステップと、
複数の1の値、負の1の値および0の値を有するシーケンスを選択ステップであって、前記1の値は、前記同相駆動信号に対応し、前記負の1の値は、前記逆相駆動信号に対応し、前記0の値は、基準信号に対応し、前記基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来するものであり、前記シーケンスの和は、ゼロに等しいステップと、
複数の走査段のうちの第1の段において、送信器電極の第1のセットの各々に、前記シーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを実質的に同時に印加するステップと、
前記シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得するステップと、
前記複数の走査段のうちの第2の段において、送信器電極の第2のセットの各々に、前記回転されたシーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを実質的に同時に印加するステップと、
タッチパネル上でのオブジェクトの存在を検出するために、受信器電極のセットから検知信号を受信ステップであって、前記検知信号は、前記受信器電極のセットに関連付けられた静電容量を表すステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記送信器電極と前記受信器電極とは、同じ電極であり、
前記検知信号は、前記受信器電極のセットの自己静電容量を表す、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記送信器電極と前記受信器電極とは、それぞれ異なる電極であり、
前記検知信号は、前記送信器電極と前記受信器電極との交差部の相互静電容量を表す、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
奇数個の送信器電極が存在する場合、前記シーケンスは、1つまたは複数の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記送信器電極の第1のセットおよび前記送信器電極の第2のセットは、共通の電極を含み、
前記第1の段および前記第2の段は、シーケンシャルであり、
前記方法は、ベースラインを形成するためにコモンモードレベルを整合させるために、分析的アンビギュイティ低減プロセスを実施するステップをさらに含む、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記分析的アンビギュイティ低減プロセスを実施するステップは、
前記シーケンスと、前記回転されたシーケンスと、を含む励起行列の疑似逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定するステップと、
前記逆畳み込み巡回行列および前記検知信号を使用して、逆畳み込みされたデータを計算するステップと、
前記逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得するステップと、
前記フィルタリングされたデータにおけるベースラインを補正するために、前記受信器電極のセットに沿って共通の値を復元するステップと、
直交コモンモードフィルタを適用して、前記受信器電極のセットに沿ってアーチファクトを除去して、前記タッチパネルの静電容量マップを取得するステップと、
を含む、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
同相駆動信号および逆相駆動信号を生成するステップと、
送信器電極のセットの各々に信号を印加するステップと、
複数の1の値、負の1の値および0の値を有するシーケンスを選択ステップであって、前記1の値は、前記同相駆動信号に対応し、前記負の1の値は、前記逆相駆動信号に対応し、前記0の値は、基準信号に対応し、前記基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来するものであり、前記シーケンスの和は、ゼロに等しいステップと、
複数の走査段のうちの第1の段において、受信器電極の第1のセットの各々で、前記シーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを実質的に同時に検知するステップと、
前記シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得するステップと、
前記複数の走査段のうちの第2の段において、受信器電極の第2のセットの各々で、前記回転されたシーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを実質的に同時に検知するステップと、
を含む方法。
【請求項8】
前記送信器電極と前記受信器電極とは、同じ電極であり、
前記検知信号は、前記受信器電極の第1のセットおよび第2のセットの自己静電容量を表す、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記送信器電極と前記受信器電極とは、それぞれ異なる電極であり、
前記検知信号は、前記送信器電極と前記受信器電極との交差部の相互静電容量を表す、
請求項7記載の方法。
【請求項10】
奇数個の受信器電極が存在する場合、前記シーケンスは、1つまたは複数の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含む、
請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記受信器電極の第1のセットおよび前記受信器電極の第2のセットは、共通の電極を含み、
前記第1の段および前記第2の段は、シーケンシャルであり、
前記方法は、ベースラインを形成するためにコモンモードレベルを整合させるために、分析的アンビギュイティ低減プロセスを実施するステップをさらに含む、
請求項7記載の方法。
【請求項12】
前記分析的アンビギュイティ低減プロセスを実施するステップは、
前記シーケンスと、前記回転されたシーケンスと、を含む励起行列の疑似逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定するステップと、
前記逆畳み込み巡回行列および前記検知信号を使用して、逆畳み込みされたデータを計算するステップと、
前記逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得するステップと、
前記ベースラインを補正するために、前記受信器電極の第1のセットおよび第2のセットに沿って共通の値を復元するステップと、
直交コモンモードフィルタを適用して、前記受信器電極の第1のセットおよび第2のセットに沿ってアーチファクトを除去して、タッチパネルの静電容量マップを取得するステップと、
を含む、
請求項11記載の方法。
【請求項13】
静電容量検知回路を含む装置であって、
前記静電容量検知回路は、複数の1の値、負の1の値および0の値を有するシーケンスを選択するように構成されており、前記1の値は、同相駆動信号に対応し、前記負の1の値は、逆相駆動信号に対応し、前記0の値は、基準信号に対応し、前記基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来するものであり、前記シーケンスの和は、ゼロに等しく、
前記静電容量検知回路は、第1の走査段において、タッチパネルの送信器電極の第1のセットの各々に、前記シーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを印加するように構成されており、
前記静電容量検知回路は、前記シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得するように構成されており、
前記静電容量検知回路は、前記第1の走査段に後続する第2の走査段において、前記タッチパネルの送信器電極の第2のセットの各々に、前記回転されたシーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを印加するように構成されており、
前記静電容量検知回路は、前記タッチパネル上でのオブジェクトの存在を検出するために、前記タッチパネルの受信器電極のセットから検知信号を受信するように構成されており、前記検知信号は、前記受信器電極のセットに関連付けられた静電容量を表す、
装置。
【請求項14】
前記静電容量検知回路は、
前記送信器電極の第1のセットおよび第2のセットと、前記受信器電極のセットと、に結合されるように構成された選択回路と、
前記同相駆動信号および前記逆相駆動信号を生成するための、前記選択回路に結合された信号発生器と、
前記基準信号を提供するための基準電位またはグラウンド電位と、
前記選択回路に結合された検知回路と、
前記検知回路に結合されたアナログ・デジタル変換器(ADC)回路と、
前記選択回路に結合された処理コアと、
を含む、
請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記装置は、
信号源と、
前記同相駆動信号を生成するための、前記信号源に結合された同相回路と、
前記逆相駆動信号を生成するための、前記信号源に結合された逆相回路と、
をさらに含み、
前記選択回路は、第1の段において、前記送信器電極の第1のセットに結合されるように構成されたマルチプレクサの第1のセットを含み、前記送信器電極の第1のセットの各々は、前記同相回路、前記逆相回路および前記基準電位または前記グラウンド電位に結合されており、
前記選択回路は、第2の段において、前記送信器電極の第2のセットに結合されるように構成されたマルチプレクサの第2のセットを含み、前記送信器電極の第2のセットの各々は、前記同相回路、前記逆相回路および前記基準電位または前記グラウンド電位に結合されており、前記第1のセットおよび前記第2のセットは、共通の電極を含む、
請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記処理コアは、さらに、
前記ADC回路から、前記検知信号に対応するデジタルデータを受信し、
前記シーケンスと、前記回転されたシーケンスと、を含む励起行列の疑似逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定し、
前記逆畳み込み巡回行列および前記デジタルデータを使用して、逆畳み込みされたデータを計算し、
前記逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得し、
前記フィルタリングされたデータにおけるベースラインを補正するために、前記受信器電極のセットに沿って共通の値を復元し、
直交コモンモードフィルタを適用して、前記受信器電極のセットに沿ってアーチファクトを除去して、前記タッチパネルの静電容量マップを取得する、
ためのものである、
請求項14記載の装置。
【請求項17】
静電容量検知回路を含む装置であって、
前記静電容量検知回路は、送信器電極のセットの各々に信号を印加するように構成されており、
前記静電容量検知回路は、複数の1の値、負の1の値および0の値を有するシーケンスを選択するように構成されており、前記1の値は、同相駆動信号に対応し、前記負の1の値は、逆相駆動信号に対応し、前記0の値は、基準信号に対応し、前記基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来するものであり、前記シーケンスの和は、ゼロに等しく、
前記静電容量検知回路は、複数の走査段のうちの第1の段において、受信器電極の第1のセットの各々で、前記シーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを検知するように構成されており、
前記静電容量検知回路は、前記シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得するように構成されており、
前記静電容量検知回路は、前記複数の走査段のうちの第2の段において、受信器電極の第2のセットの各々で、前記回転されたシーケンスに従って前記同相駆動信号、前記逆相駆動信号または前記基準信号のうちの1つを検知するように構成されている、
装置。
【請求項18】
前記静電容量検知回路は、
前記送信器電極のセットと、前記受信器電極の第1のセットおよび第2のセットと、に結合されるように構成された選択回路と、
前記同相駆動信号および前記逆相駆動信号を生成するための、前記選択回路に結合された信号発生器と、
前記基準信号を提供するための基準電位またはグラウンド電位と、
前記選択回路に結合された検知回路と、
前記検知回路に結合されたアナログ・デジタル変換器(ADC)回路と、
前記選択回路に結合された処理コアと、
を含む、
請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記装置は、
信号源と、
前記同相駆動信号を生成するための、前記信号源に結合された同相回路と、
前記逆相駆動信号を生成するための、前記信号源に結合された逆相回路と、
をさらに含み、
前記選択回路は、前記第1の段において、前記受信器電極の第1のセットに結合されるように構成されたマルチプレクサの第1のセットを含み、前記受信器電極の第1のセットの各々は、前記同相回路、前記逆相回路および前記基準電位または前記グラウンド電位に結合されており、
前記選択回路は、前記第2の段において、前記受信器電極の第2のセットに結合されるように構成されたマルチプレクサの第2のセットを含み、前記受信器電極の第2のセットの各々は、前記同相回路、前記逆相回路および前記基準電位または前記グラウンド電位に結合されており、前記第1のセットおよび前記第2のセットは、共通の電極を含む、
請求項18記載の装置。
【請求項20】
前記処理コアは、さらに、
前記ADC回路から、前記検知信号に対応するデジタルデータを受信し、
前記シーケンスと、前記回転されたシーケンスと、を含む励起行列の疑似逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定し、
前記逆畳み込み巡回行列および前記デジタルデータを使用して、逆畳み込みされたデータを計算し、
前記逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得し、
前記フィルタリングされたデータにおけるベースラインを補正するために、前記受信器電極の第1のセットおよび第2のセットに沿って共通の値を復元し、
直交コモンモードフィルタを適用して、前記受信器電極の第1のセットおよび第2のセットに沿ってアーチファクトを除去して、タッチパネルの静電容量マップを取得する、
ためのものである、
請求項18記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ユーザインターフェースデバイスの分野に関し、特に、タッチ検知装置のゼロ・サムシーケンスを用いた多相励起および多相走査に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートブックコンピュータ、携帯情報端末(PDA)および携帯電話機のようなコンピューティングデバイスは、ヒューマンインターフェースデバイス(HID)としても知られるユーザインターフェースデバイスを有する。比較的一般的になったユーザインターフェースデバイスの1つの種類は、タッチセンサパッド(一般的にタッチパッドとも呼ばれる)、タッチセンサスライダ、タッチセンサボタン、タッチセンサキーボード、タッチスクリーンおよびタッチパネルのようなタッチ検知装置である。
【0003】
基本的なノートブック型のタッチセンサパッドは、パーソナルコンピュータ(PC)のマウスの機能をエミュレートする。タッチセンサパッドは、典型的に、ビルトイン・ポータビリティのためにPCノートブック内に埋め込まれている。タッチセンサパッドは、指のような導電性のオブジェクトの位置を検出するセンサ素子の集合体を含む2つの定義された軸線を使用して、マウスのx/y運動を再現する。マウスの右/左ボタンのクリックは、タッチパッドの近傍に位置する2つの機械的なボタンによって、またはタッチセンサパッド自体のコマンドをタップすることによって再現可能である。タッチセンサパッドは、ディスプレイ上でのポインタの位置決めまたはアイテムの選択のような機能を実行するためのユーザインターフェースデバイスを提供する。
【0004】
比較的一般的になった別のユーザインターフェースデバイスは、タッチスクリーンである。タッチスクリーン、タッチパネルまたはタッチスクリーンパネルとしても知られるタッチスクリーンは、典型的には、圧力に敏感な(抵抗性)、電気的に敏感な(静電容量性)、音響的に敏感な(SAW-表面弾性波)または光に敏感な(赤外線)、ディスプレイのオーバーレイである。このようなオーバーレイの効果により、ディスプレイを入力装置として使用することが可能になり、ディスプレイのコンテンツと相互作用するための主要な入力装置としてのキーボードおよび/またはマウスが省略される。そのようなディスプレイは、コンピュータに取り付け可能であるか、または端末としてネットワークに取り付け可能である。タッチスクリーン技術には、光学イメージング、抵抗性、表面波、静電容量性、赤外線、分散信号および歪みゲージ技術のようないくつかの種類が存在する。タッチスクリーンは、小売店環境、販売時点情報管理(POS)システム、ATM、携帯電話機、ゲームコンソールおよびPDAにおいて身近になってきており、ここでは、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)を操作してデータを入力するために、スタイラスが使用されるときがある。
【0005】
一般的に、静電容量検知装置は、機械的なボタン、ノブおよび他の同様の機械的なユーザインターフェース制御の代わりに使用されることを意図している。静電容量検知装置は、複雑な機械的なスイッチおよびボタンを排除し、過酷な条件下での確実な動作を提供する。さらに、静電容量検知装置は、現代の顧客用途において広く使用されており、既存の製品に新しいユーザインターフェースオプションを提供する。静電容量タッチセンサ素子は、タッチ検知面のためにセンサアレイの形態で配置可能である。指のような導電性のオブジェクトがタッチ検知面に接触または近接すると、1つまたは複数の静電容量タッチセンサ素子の静電容量が変化する。この静電容量タッチセンサ素子の静電容量の変化を、電気回路によって測定することができる。1つの動作モードをサポートする電気回路は、静電容量タッチセンサ素子の測定された静電容量をデジタル値に変換する。
【0006】
静電容量検知回路には2つの主要な動作モード、すなわち自己静電容量検知モードと、相互静電容量検知モードと、が存在する。自己静電容量検知モードは、それぞれのセンサ素子が検知回路に対して1つの接続ワイヤしか必要としないので、単一電極検知モードとも呼ばれる。自己静電容量検知モードの場合には、センサ素子にタッチすると、指のタッチ容量がセンサ容量に追加されるので、センサ容量が増加する。相互静電容量検知モードでは、相互静電容量の変化が検出される。それぞれのセンサ素子は、少なくとも2つの電極を使用し、すなわち一方は、送信器(TX)電極(本明細書では送信器電極とも呼ばれる)であり、他方は、受信器(RX)電極である。指がセンサ素子にタッチまたは近接すると、指が電界の一部をグラウンド(例えば、シャーシまたはアース)に分流させるので、センサ素子の受信器と送信器との間の静電容量結合が低減される。
【0007】
本開示は、添付図面の図面において限定ではなく例示として図示されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態による静電容量検知装置の概略図である。
【
図2】一実施形態による、多相走査を用いて相互静電容量または自己静電容量を測定するための静電容量検知回路(CSC)を含む処理装置のブロック図である。
【
図3A】一実施形態による、
図2の静電容量検知回路のブロック図である。
【
図3B】一実施形態によるシーケンス生成回路のブロック図である。
【
図4A】一実施形態による静電容量検知装置の検知グリッドの概略図である。
【
図4B】一実施形態による静電容量検知装置の検知グリッドの概略図である。
【
図5A】各実施形態による、静電容量検知装置に関する電磁放出をそれぞれ励起シーケンスの和が1である場合と、0である場合と、で比較した図である。
【
図5B】各実施形態による、静電容量検知装置に関する電磁放出をそれぞれ励起シーケンスの和が1である場合と、0である場合と、で比較した図である。
【
図6】一実施形態による、
図4の静電容量検知装置の検知グリッドの概略図である。
【
図7】一実施形態による、第1の走査領域と、第2の走査領域と、オーバーラップ領域と、を有する静電容量検知装置の検知グリッドの概略図である。
【
図8】一実施形態による、静電容量検知装置800の検知グリッドのTX電極走査領域にわたるベースライン補正を示すグラフである。
【
図9】多相走査のための方法の一実施形態のフローチャートである。
【
図10】一実施形態による、静電容量検知タッチパネル上での指応答を再構成するための分析的アンビギュイティ低減方法のフローチャートである。
【
図11A】一実施形態による、ゼロ・サム励起シーケンスによって励起される8つの電極を用いた多相送信のための逆畳み込みされたデータを示す静電容量センサ行列である。
【
図11B】一実施形態による、コモンモードフィルタを適用することによって得られた、フィルタリングされたデータを示す静電容量センサ行列である。
【
図11C】一実施形態による、ベースラインを補正するためにRX電極のセットに沿ってコモンモード値を復元した後の、フィルタリングされたデータを示す静電容量センサ行列である。
【
図11D】一実施形態による、直交コモンモードフィルタを適用した後の、フィルタリングされたデータを示す静電容量センサ行列である。
【
図12A】一実施形態による、多相送信の3つの方法に関するノイズ低減係数とピーク放出との間の関係を比較したグラフである。
【
図12B】
図12Aにおいて説明された3つの方法に関するノイズ低減係数と平均放出との間の関係を比較したグラフである。
【
図13】一実施形態による、ゼロ・サム多相受信器1300を示す一連の概略図である。
【
図14】一実施形態による、ゼロ・サム多相受信を行った場合に受信した検知信号と、ゼロ・サム多相受信を行わない場合に受信した検知信号と、の間のノイズ比較を示すグラフである。
【
図15】一実施形態による、ゼロ・サム多相送信の方法のフローチャートである。
【
図16】一実施形態による、ゼロ・サム多相受信の方法のフローチャートである。
【
図17】Cypress Semiconductor Corporation社(カリフォルニア州サンノゼ)によって提供されているPSoC3(登録商標)の製品群において使用されているもののような、PSoC(登録商標)処理装置のコアアーキテクチャの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
消費者向け電子機器および自動車環境において使用されるタッチパネル(例えば、タッチスクリーン)は、例えば12.3インチを超える比較的大型のスクリーンサイズを利用することが増えている。それと同時に、このような大型のスクリーンサイズには、特に(例えば、約540kHz未満の周波数の)長波周波数帯域および(例えば、約530kHz~1700kHzの間の周波数の)中波周波数帯域において放射される電磁放出に関して、比較的厳格な仕様要件が課せられている。方形波励起を利用した既存の静電容量検知装置は、電流制限を超える電磁放出を放射する。さらに、静電容量検知装置の動作は、液晶ディスプレイ(LCD)スクリーンの動作、電気バラスト、ハンドヘルドトランシーバ、振幅変調(AM)ラジオおよび試験手順(電磁イミュニティ(EMI)暗室内および/または電磁両立性(EMC)暗室内での試験など)のようなソースからの外部のコモンモードノイズによって影響を受ける可能性がある。したがって、電磁放出の最小化と電磁イミュニティの向上とを実現しながら、励起および走査を実施する静電容量検知タッチパネルが必要とされている。
【0010】
電磁放出を低減するための従来技術は、周波数拡散(例えば、TX拡散器)および正弦波励起を含む。周波数拡散は、放出スペクトルにおける高調波のピークを低減(例えば、拡散)するための技術であるが、方形波励起信号を変調する。周波数拡散は、電磁放出を緩和するが、パネルが大型であって、かつ走査時間が少ない場合には検知周波数範囲を制限してしまい、電磁イミュニティの問題を引き起こす(例えば、信号対ノイズ比(SNR)を低下させ、LCDノイズに対するロバスト性が低下する)。高調波の幅が増大するにつれて、受信チャネルのノイズ伝達関数が増加し、これによって広帯域ノイズに対するシステムの脆弱性が増加する。正弦波励起の場合には、放出スペクトルにおいて単一の高調波だけが存在し、ノイズを最小化するために主高調波が周波数範囲内になるようにシステムを構成することができる。しかしながら、このことは、電力消費の増加、コストの増加および走査時間ならびに位相に対する要件の厳格化をもたらす可能性がある。さらに、正弦波励起は、方形波励起と比較して電磁放出を低減するわけではない。なぜなら、放射エネルギは類似しているが、主高調波に集中しているからである。さらに、周波数範囲が制限されているので、SNRが低下する。
【0011】
本明細書には、タッチパネルのためのゼロ・サムシーケンスを用いた多相励起および多相走査の装置および方法の種々の実施形態が記載されている。記載されている装置および方法によれば、十分に低い電磁放出および十分に高いSNRを有するタッチパネルが可能となる。特に、本明細書に記載されている方法によれば、電磁放出を低減するための多相送信と、外部のコモンモードノイズを抑制するための多相受信と、が可能となる。本明細書に記載されている方法は、(多相走査のような)ホワイトノイズの緩和をサポートし、相互静電容量検知および自己静電容量検知の両方に適用され、タッチパネルのマルチタッチ特性をサポートする。
【0012】
多相送信および多相受信の装置および方法が説明されている。多相送信とは、それぞれ異なる位相を有する励起信号によって複数の電極が同時に励起されるような電極励起方法を指す。多相受信とは、センサの数が受信器チャネルの数よりも多くなっているシステムのためのパネル走査技術を指す。一実施形態では、静電容量検知回路は、同相駆動信号および逆相駆動信号を生成し、複数の正の1の値、負の1の値および0の値を有するシーケンスを生成する。正の1の値は、同相駆動信号に対応し、負の1の値は、逆相駆動信号に対応し、0の値は、電圧電位またはグラウンド電位に由来する基準信号に対応する。シーケンスの和(例えば、シーケンスにおける正の1の値、負の1の値および0の値の各々の和)は、ゼロである。一実施形態では、静電容量検知回路は、複数の走査段のうちの第1の段において、送信器(TX)電極の第1のセットに、シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを印加する。静電容量検知回路は、シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得する。静電容量検知回路は、複数の走査段のうちの第2の段において、送信器(TX)電極の第2のセットに、回転されたシーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを印加する。静電容量検知回路は、タッチパネル上でのオブジェクトの存在を検出するために、受信器電極のセットから検知信号を受信する。検知信号は、受信器電極のセットに関連付けられた静電容量を表す。静電容量検知回路は、導電性のオブジェクトだけでなく、他のオブジェクト(タッチオブジェクトとも呼ばれる)を検出することも可能であることに留意すべきである。オブジェクトまたはタッチオブジェクトとは、相互静電容量検知技術のために電界を妨げて、受信器電極と送信器電極との間の結合を低減する任意のオブジェクトである。例えば、ユーザが手袋を着用した状態でタッチ表面にタッチすると、静電容量検知回路は、ユーザの指を導電性のオブジェクトとして検出しない可能性があるが、ユーザの指が依然として電界を妨げていて電極間の結合を低減しているので、静電容量検知回路は、それでもなおユーザの指を検出することが可能となっている。本明細書に記載されている実施形態は、以下で説明されるように3つ以上の送信器電極および受信器電極を有するタッチパネル上で使用可能であることにも留意すべきである。
【0013】
本明細書に記載されている実施形態は、電磁放出を低減し、かつ電磁イミュニティを改善するような多相TX技術および多相RX技術を提供し、これによって(例えば12.3インチを超える)大型のタッチスクリーンに静電容量検知を適用することが可能となる。この技術は、同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号に対応するシーケンスの和をゼロにし、これによって電磁放出を最小化するという要求に基づいている。さらに、この技術は、特異である(例えば、反転不可能である)励起行列の擬逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定することと、逆畳み込み巡回行列および検知信号(デジタルデータ)を使用して、逆畳み込みされたデータを計算することと、静電容量検知タッチスクリーン上でのタッチ信号を再構成することと、に基づいている。いくつかの場合には、この技術は、適切なフィルタリング技術(コモンモードフィルタリング、直交コモンモードフィルタリング、ニューラルネットワークベースのフィルタリング等)および/または後処理アルゴリズム(この場合には、フィルタリングを適用しなくてもよい可能性がある)を適用することに依拠している。本明細書に記載されている実施形態は、酸化インジウムスズ(ITO)ベースの設計を含む種々のタッチ検知装置において使用可能である。
【0014】
以下の説明は、本発明のいくつかの実施形態の良好な理解を提供するために、特定のシステム、コンポーネント、方法などの例のような多数の具体的な詳細を説明している。しかしながら、これらの具体的な詳細がなくても本発明の少なくともいくつかの実施形態を実施できることは、当業者には自明であろう。他の例では、本発明を不必要に曖昧にすることを避けるために、周知のコンポーネントまたは方法は、詳細には説明されていないか、または単純なブロック図の形態で提示されている。したがって、記載されている具体的な詳細は、単なる例示に過ぎない。特定の実装態様は、これらの例示的な詳細とは異なる場合もあるが、それでもなお本発明の思想および範囲内にあると考えてよい。
【0015】
明細書における「一実施形態」または「実施形態」への参照は、その実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する。本明細書中の種々異なる箇所における「一実施形態では」という表現の出現は、必ずしも全て同じ実施形態を指しているとは限らない。
【0016】
図1は、一実施形態による静電容量検知装置100の概略図である。静電容量検知装置100は、ゼロ・サム多相静電容量検知装置である。静電容量検知装置100は、相互静電容量または自己静電容量のような種々の静電容量検知モードをサポートするためのゼロ・サムシーケンスを用いた多相励起および多相走査の少なくとも1つの例を提供する。
図1は、検知電極の矩形アレイを有する検知グリッド102(例えば、検知パネルまたは静電容量行列)を有するタッチコントローラアーキテクチャを有する静電容量検知装置を示す。検知電極の矩形アレイは、整数M個のTX電極104と、整数N個のRX電極106と、を含むことができる。TXマルチプレクサ108およびRXマルチプレクサ110は、パネル電極を1つまたは複数の検知チャネルに接続することができ、同相駆動信号と、逆相駆動信号と、基準信号と、の間で信号を多重化することができる。
【0017】
静電容量検知装置100は、送信および受信の一方または両方が可能であってよい静電容量検知回路を含むことができる。いくつかの実施形態では、TX信号発生器112は、同相駆動信号および逆相駆動信号を生成することができ、同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号にそれぞれ対応する複数の正の1、負の1および0を有する励起シーケンスを選択することができる。励起シーケンスは、励起シーケンスの和がゼロになるように選択可能である。励起シーケンスがゼロの和を有する場合には、その励起シーケンスをゼロ・サム励起シーケンスと呼ぶことができる。TX信号発生器112は、第1の走査段において、TX電極104に、励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの少なくとも1つを同時に印加することができる。同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号は、励起シーケンスに従ってTX電極104に印加される。励起シーケンスは、励起シーケンスの和がゼロになるように選択可能である。励起シーケンスを回転させることができ、TX信号発生器112は、第2の走査段において、TX電極104に、回転された励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの少なくとも1つを同時に印加する。さらに、RX信号受信器114は、静電容量検知装置100のタッチパネル上でのオブジェクト(指または他の導電性のオブジェクトなど)の存在を検出するために、RX電極106から検知信号を受信することができる。検知信号は、RX電極106に関連付けられた静電容量を表す。
【0018】
いくつかの実施形態では、RX信号受信器114は、第1の走査段において、励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの少なくとも1つを検知することができる。RX信号受信器114は、これらの信号をRX電極106において実質的に同時に検知する。RX信号受信器114は、第2の走査段において、回転された励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの少なくとも1つを検知することができる。検知信号は、受信器電極106に関連付けられた静電容量を表すことができ、タッチパネル上のオブジェクトの存在を検出するために、RX信号受信器114によって受信可能である。
【0019】
図1に図示されているように、第1の走査段において、TX信号発生器112によって選択された励起シーケンス(例えば、励起パターン)は、{+1,-1,0,0,・・・,0}であり、これは、TXマルチプレクサ108によって多重化されるので、TX電極104(1)に同相駆動信号が印加され、TX電極104(2)に逆相駆動信号が印加され、TX電極104(3)~104(M)に基準信号が印加されたことを示す。励起シーケンスに対応する信号の各々は、TX電極に実質的に同時に印加可能である。第2の走査段において、励起シーケンスを回転(または循環)させることができ、これにより、回転された励起シーケンスは、{0,+1,-1,0,0,・・・,0}となる。換言すれば、TX電極104(M)に印加された「0」を、TX電極104(1)に印加されるようにシフトさせることができ、TX電極104(1)に印加された「1」を、TX電極104(2)に印加されるようにシフトさせることができ、以下同様である。それぞれの後続の走査段にも同様の回転を適用することができる。このような回転を、一般的に循環回転と呼ぶことができる。この回転は、シーケンサ(
図1には図示せず)によって生成可能である。
【0020】
それぞれの走査段における所与の励起シーケンスを使用して、励起行列(H)を確立することができる。励起行列Hは、TX電極104を励起させるための励起シーケンスのパターンを表すことができる。(例えば、行列乗算を介した)励起行列と指応答(x)(静電容量タッチスクリーンパネル上での指または導電性のオブジェクトの直接的な応答マップなど)との積は、例えば、RX電極106によって測定されてRX信号受信器114によって受信される検知信号のような、測定された信号(s)を返す。したがって、(例えば、行列乗算を介して)励起行列の逆数(H
-1)と、測定された信号(s)とを乗算することによって指応答を再構成することができる。このプロセスの追加的な詳細は、少なくとも
図6に関連してより詳細に説明されている。
【0021】
いくつかの実施形態では、それぞれの走査段における回転は、1以外の回数(または位置)のシフトであってよい。例えば、いくつかの実施形態では、TX電極104(M)に印加された「0」を、TX電極104(2)に印加されるようにシフトさせることができ、TX電極104(1)に印加された「1」を、TX電極104(3)に印加されるようにシフトさせることができ、以下同様である。シフトの回数は、1または2以外の数であってよいことに留意すべきである。他の実施形態では、シーケンサは、シフトのために種々異なるパターンを作成することができる。このような場合には、励起行列を、例えば機械学習アルゴリズムを介して決定することができる。
【0022】
図2は、一実施形態による、多相走査を用いて相互静電容量または自己静電容量を測定するための静電容量検知回路(CSC)202を含む処理装置200のブロック図である。処理装置200は、静電容量検知回路202と、CPUコア206と、1つまたは複数の通信インターフェース、例えばI2Cインターフェース208と、を含み、このI2Cインターフェース208は、I2Cブリッジ230を介してホスト処理装置240と通信することができる。代替的に、ホスト処理装置240と通信するために、他の種類の通信インターフェースを使用してもよい。他の実施形態では、静電容量検知回路202は、処理装置200と類似または非類似のコンポーネントを有する他の種類の処理装置において実装可能である。他の実施形態では、CPUコア206は、本開示の利益を有する当業者によって理解され得るように、I2C以外の他の通信装置およびプロトコルを使用してホスト処理装置240と通信することができる。いくつかの実施形態では、処理装置200は、I2Cブリッジ230を介してホスト処理装置240と通信しないが、他の周辺装置と通信してもよいし、または他の外部装置と通信しなくてもよい。
【0023】
この実施形態では、静電容量検知回路202は、静電容量検知装置100のセンサ素子の相互静電容量または自己静電容量を測定することができる。上述したように、静電容量検知装置100は、M個(行)のTX電極104と、N個(列)のRX電極106と、を有する。TX電極104とRX電極106とのそれぞれの交差部は、センサ素子を表す。静電容量検知回路202は、複数のTX信号(例えば、同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号)を励起シーケンスに従って駆動ライン210上に印加することによって相互静電容量を測定することができ、検知ライン220上で検知信号を受信することができる。静電容量検知回路202は、測定された静電容量を使用して、オブジェクトの存在と、オブジェクトの位置、オブジェクトの動き、速度および/または加速度とを検出することができる。一実施形態では、静電容量検知回路202は、相互静電容量または自己静電容量を測定し、これらをデジタル値に変換することができる。一実施形態では、静電容量検知回路202は、デジタル値を使用して単一のタッチおよび対応するシングルジェスチャを検出するように構成されている。他の実施形態では、静電容量検知回路202は、デジタル値を使用して複数のタッチおよび対応するマルチタッチジェスチャを検出するように構成されている。
【0024】
別の実施形態では、CPUコア206は、静電容量検知回路202から受信したデジタル値を処理して、オブジェクトの存在と、オブジェクトの速度、加速度および距離のようなオブジェクトの動きと、本開示の利益を有する当業者によって理解され得るシングルジェスチャおよびマルチタッチジェスチャとを検出することができる。CPUコア206は、静電容量検知回路202からローデータを受信し、そのローデータをデジタル値に変換する等のためにも使用可能である。別の実施形態では、CPUコア206は、処理のためにローデータをホスト処理装置240に送信することができる。
【0025】
一実施形態では、ホスト処理装置240は、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、他の種類のポータブルコンピュータ、携帯機器、セットトップボックス(STB)、携帯情報端末(PDA)、サーバ、ネットワークルータ、スイッチまたはブリッジ等のような1つまたは複数の機械の処理装置を表すことができる。一実施形態では、処理装置200は、
図17に関連して説明されるような、Cypress Semiconductor Corporation社(カリフォルニア州サンノゼ)によって提供されているPSoC(登録商標)処理装置である。代替的に、処理装置200は、本開示の利益を有する当業者によって理解され得る他の種類の処理装置であってよい。代替的に、静電容量検知回路202は、ホスト処理装置240に組み込まれている。さらに、ホスト処理装置240に関して単一の機械しか図示されていないが、「機械」という用語は、本明細書で論じられた方法論のうちのいずれか1つまたは複数を実施するための(1つまたは複数の)命令セットを個別にまたは共働して実行する複数の機械の任意の集合体を含むものであるとも解されるべきである。他の実施形態では、電子システムは、1つまたは複数のホスト処理装置240と、処理装置200と、静電容量検知回路202と、1つまたは複数の周辺装置と、を含むことができる。
【0026】
図3Aは、一実施形態による、
図2の静電容量検知回路202のブロック図である。静電容量検知回路202は、第1の信号源302と、第2のオプションの信号源304と、基準信号源303と、同相回路306と、逆相回路308と、選択回路310と、検知回路312と、アナログ・デジタル変換器(ADC)314と、を含む。同相回路306は、第1の信号源302から信号を受信して、静電容量検知装置100の1つまたは複数のTX電極に印加されるべき同相信号を生成することができる。逆相回路308は、信号源302から同じ信号を受信して、静電容量検知装置100の1つまたは複数のTX電極に印加されるべき逆相信号を生成することができる。基準信号源303は、グラウンド電位または他の電圧電位に由来することができる。
【0027】
静電容量検知回路202は、アナログドメインまたはデジタルドメインに実装可能である。一実施形態では、同相回路306は、+1の利得係数を有する増幅器307を有するアナログ回路である。増幅器307は、同相信号を生成するために使用可能である。この実施形態では、逆相回路308も、-1の利得係数を有する増幅器309を有するアナログ回路である。増幅器309は、逆相信号を生成するために使用される。別の実施形態では、オプションの信号源304を使用して、第1の信号の位相から既に外れた第2の信号を生成することができる。この実施形態では、逆相回路308は、-1の利得係数を有する増幅器を使用しなくてもよい。代替的に、少なくとも同相信号と、1つまたは複数の逆相信号と、基準信号と、を含む複数の信号を生成するために、3つ以上の信号源を使用することができる。これらの実施形態では、信号源302および304は、同相回路306および逆相回路308によって受信されるべきアナログ信号を生成する。信号源302および304は、1つまたは複数の周波数を有する1つまたは複数の搬送波信号を生成する受動コンポーネントであってよい。他の実施形態では、信号源302および304は、例えば処理装置200のCPUコア206によって外部から制御されるコンポーネントであってよい。同相回路306は、増幅器を含まなくてもよいが、本開示の利益を有する当業者によって理解され得るように、他のアナログ回路を使用して同相信号を生成することができることにも留意すべきである。
【0028】
別の実施形態では、同相回路306は、デジタル回路またはデジタル処理ロジックを含むことができ、このデジタル回路またはデジタル処理ロジックは、信号源302から第1の信号を受信し、例えばデジタルバッファなどを使用して同相信号を生成するように構成されている。この実施形態では、逆相回路308は、インバータを含み、このインバータは、信号源302から同じ信号を受信し、この信号を反転させて逆相信号を生成する。別の実施形態では、第2のオプションの信号源304を使用して第2の信号を生成することができ、この第2の信号を、上述したような逆相信号のために使用することができる。これらの実施形態では、信号源302および304は、同相回路306および逆相回路308によって受信されるべきデジタル信号を生成する。例えば、信号源302は、同相回路306および逆相回路308に印加されるべきデジタルシーケンス(例えば、疑似乱数シーケンス)を生成することができる。代替的に、信号源302は、変調されたデジタル信号を提供することができる。別の実施形態では、信号源302および304は、アナログ信号を生成し、同相回路306および逆相回路308は、アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換器を含む。上述したように、信号源302および304は、1つまたは複数の周波数を有する1つまたは複数の搬送波信号を生成する受動コンポーネントであってよい。他の実施形態では、信号源302および304は、例えば処理装置200のCPUコア206によって外部から制御されるコンポーネントであってよい。
【0029】
図示の実施形態では、選択回路310は、同相信号および逆相信号を受信して、静電容量検知装置100のTX電極に適切な信号を印加する。選択回路310は、例えば、CPUコア206から受信した1つまたは複数の制御信号318によって外部から制御可能である。例えば、CPUコア206上で位相変調関数選択ルーチンを実行することができ、このルーチンが、制御信号318を使用して選択回路310を制御する。代替的に、選択回路310を使用して、どのTX電極が同相信号を受信するか、どのTX電極が逆相信号を受信するか、および、どのTX電極が基準信号を受信するかを制御することができる。図示の実施形態では、3つの信号、すなわち1つの同相信号と、1つの逆相信号と、1つの基準信号と、が設けられている。他の実施形態では、3つ以上の信号、すなわち1つの同相信号と、複数の逆相信号と、1つまたは複数の基準信号と、を設けることができる。基準信号(0)は、同じ電位を有するコンデンサ(例えば、センサ)の両方のノードとして解釈可能であり、したがって、測定のために電流がRXチャネルに流れることはない。このことは、測定された同相信号または逆相信号(+1または-1)の場合なら当てはまり得るような、コンデンサを通って電流がRXチャネルに流れるというケースとは反対であり得る。
【0030】
一実施形態では、選択回路310は、1つまたは複数のマルチプレクサを含み、この1つまたは複数のマルチプレクサは、適切なTX電極のための適切な信号を選択するように制御可能である。一実施形態では、選択回路310は、同相信号を受信するためにTX電極のうちの交互の一方を選択し、逆相信号を受信するためにTX電極のうちの交互の他方を選択するように構成されている。代替的に、選択回路310は、本明細書に記載されている他のパターン(例えば、励起シーケンス)および本開示の利益を有する当業者によって理解され得る他のパターンで、TX電極を駆動することができる。
【0031】
図示の実施形態では、選択回路310は、検知回路312にも結合されている。検知回路312は、静電容量検知装置100のRX電極から検知信号を受信するように構成されている。検知信号は、ゼロ・サム励起シーケンスから結果的に生じる。検知信号は、パネル電極のそれぞれの交差部における相互静電容量または自己静電容量を表す。一実施形態では、検知回路312は、静電容量を測定するように構成されたアナログ回路、デジタル回路またはデジタル処理ロジックを含む。例えば、一実施形態では、検知回路312は、RX電極の各々に関連付けられた電流を測定するためのアナログ回路を含む。検知回路312は、デジタル値316に変換されるべき測定値をADC314に提供する。静電容量検知回路202は、上述したように、デジタル値をCPUコア206またはホスト処理装置240に提供する。
【0032】
一実施形態では、静電容量検知回路202は、位相変調関数選択を使用してTX電極104を駆動するように構成されている。例えば、非特異行列を形成するために、(励起行列(H)とも呼ばれる)位相行列(F)の係数を複数の手法で選択することができる。位相変調関数選択のために使用可能な複数の基準が存在する:
1)行列は、安定した線形解集合を取得するために明確に定義された(well-defined)行列でなければならない。
2)行列係数は、システムのフィルタリング特性を決定するので、最良のフィルタリング特性が得られるように行列を選択することができる。
3)「ノータッチ」での受信器入力電流を最小化することができる。
4)受信器が制限されたダイナミックレンジを有する場合には、複数の異なる走査段のために、一定に近い受信器電流を有することが望ましいであろう。
【0033】
図3Bは、一実施形態によるシーケンス生成回路350のブロック図である。シーケンス生成回路350は、プログラミング可能な分周器352と、シフトレジスタ354と、TX信号のバイナリ位相変化のために使用されるXORゲート356のアレイと、を含む。初期化フェーズにおいて、シーケンス(例えば、励起シーケンス)がシフトレジスタ354にロードされる。それぞれn回のサイクルごとにシフトレジスタ354のためのクロックパルスが生成され、シフトレジスタ354は、出力部においてシーケンスをシフトする。それぞれのレジスタ出力部は、第2のXORゲート入力部に接続されている。第1のXORゲート入力部には共通のクロック信号が印加される。レジスタ出力部の状態に応じて、XORゲートは、反転ありまたは反転なしのクロック信号を通過させて、それぞれ異なる多相出力信号を形成する。
【0034】
位相行列を充填するためには複数の手法が存在する。一実施形態では、選択関数は、+1,-1の疑似乱数シーケンスを使用し、行列を完全に充填するために複数の走査段中にこのシーケンスを回転させる。いくつかの実施形態では、シーケンスは、和がゼロになるように選択可能である。本明細書に例示する目的で含まれているこの実施形態では、
シーケンスは、-2の和を有する。例えば、M=10の場合に、以下のシーケンスを選択すると:
【数1】
F
Vシーケンスを循環回転させることによって、完全行列Fを充填することができる:
【数2】
逆行列は、以下のようになる:
【数3】
式(3)の逆行列を観察することにより、式(1)のシーケンスを循環回転させることによって形成された逆行列の興味深い特性を発見することができる。例えば、逆行列係数は、1つの行列の行または列を循環回転させることによって取得され、記憶のために最小の読み取り専用メモリ(ROM)領域しか必要としない。この行列を、CPUコア206またはホスト処理装置240による整数計算において実施されるように正規化することができる。F
Vシーケンスの和がゼロである場合には、行列Fは、特異であり、直接的に反転不可能であることに留意すべきである。しかしながら、本明細書に記載されるように、Fの疑似逆を取得することができる。
【0035】
FVは、それぞれ異なる動作フェーズを容易に区別することができるように選択可能である。位相変調シーケンスを使用することは、疑似乱数プロセスに近似しており、循環的なプロセス時間のシフトにより、最小の相互相関関数を有していて、かつ線形方程式(1)の安定した解を提供するような、位相変調シーケンスを取得することが可能となる。したがって、それぞれ異なる位相変調シーケンス間の相互相関係数は、自己相関関数のピークよりも格段に小さいものであるべきである。位相変調シーケンスの循環回転を使用する場合には、このシーケンスの自己相関関数は、最小のサイドピークと、大きい信号ピークと、を有するべきである。
【0036】
図4A~
図4Bは、一実施形態による静電容量検知装置400の検知グリッド402の概略図である。検知グリッド402および静電容量検知装置400は、
図1の検知グリッド102および静電容量検知装置100と同じまたは同様であってよい。図示されているように、静電容量検知装置400は、8つのTX電極404(1)~404(8)を有する。それぞれのTX電極404は、所与の励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号にそれぞれ対応する正の1の値、負の1の値または0の値を有することができる。励起シーケンスは、それぞれのTX電極にシーケンシャルに割り当てられた値を指すことができる。例えば、
図4Aでは、励起シーケンスは、{-1,+1,0,0,0,0,0,0}であり、その一方で、
図4Bでは、励起シーケンスは、{-1,+1,+1,-1,+1,-1,+1,-1}である。いずれの場合にも、励起シーケンスの和は、ゼロである。
【0037】
電磁放出を最小化するために、TX電極(104および404など)は、励起シーケンスの和がゼロになるように励起されるべきである。開放空間では、静電容量タッチパネルのそれぞれのTX電極は、同じ電力によって電磁波を放出することができる。したがって、同相駆動信号の励起が逆相駆動信号の励起を打ち消すようにTX電極を励起させることにより、結果的に電磁放出の最小化をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、電磁放出は、励起シーケンスの和の絶対値に比例することができ、したがって、励起シーケンスの和がゼロの場合に最小となる。励起シーケンスの和をゼロにすることは、
図4Aのように正の1、負の1および0の組み合わせによって達成可能であるか、または
図4Bのように正の1および負の1のみの組み合わせによって達成可能であることに留意すべきである。いくつかの場合には、使用される特定のシーケンスが、SNRおよび放射される放出に影響を与える可能性がある。静電容量検知装置は、整数個のTX電極を有することができ、励起シーケンスにおいて正の1、負の1および0の任意の適切な組み合わせを使用することができることにも留意すべきである。特に、いくつかの場合には、静電容量検知装置は、奇数個のTX電極を有することができ、それでもなおゼロの和を有する励起シーケンスを有することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、例えば、消費者向け電子機器または自動車用途における特定のハードウェア構成およびグラウンド位置(例えば、グラウンド電位または基準電位)に起因して、それぞれのTX電極ごとに電磁放出が同一でない可能性がある。この結果、たとえ励起シーケンスの和がゼロであっても、電磁放出が正確にゼロではないケースが生じる可能性がある。いくつかの実施形態では、最適な励起シーケンスは、ハードウェア構成と、グラウンドに対する特定のTX電極の位置とに依存する。特に自動車用途では、グラウンドは、下部のTX電極に近接したセンサの下方に位置することが多い。このような場合には、電磁放出を低減するための最適な構成は、同相駆動信号(例えば、正の1)によって励起される2つの上部の電極と、逆相駆動信号(例えば、負の1)によって励起される3つの下部の電極と、を有することができる。
【0039】
自動車用途では、上部のTX電極と下部のTX電極との間に小さな電磁放出勾配が存在する可能性がある。例えば、第1の走査段において、隣り合うTX電極同士は、実質的に同じ電磁力を放出することができるが、正確に同じ電磁力を放出するわけではない。これにより、隣り合うTX電極同士の間に小さな電磁放出勾配がもたらされる可能性があり、このことは、差分走査(例えば、2つの電極の走査)中における非常に低い電磁放出をもたらす可能性がある。しかしながら、別の走査段において、励起シーケンスが循環回転されていた場合には、(同相駆動信号によって励起された)上部のTX電極を(逆相駆動信号によって励起された)下部のTX電極によって差分的に走査することができ、これにより、大きな電磁放出勾配、ひいては強い電磁放出がもたらされる可能性がある。このような場合には、電磁放出を最小化するために、いくつかの走査、特に大きな勾配を有する走査を省略することができる。
【0040】
他の用途は、種々異なるハードウェア構成およびグラウンド位置を有することができ、したがって、(0の和を有する励起シーケンスを有する)全てのTX電極にわたって走査を実行することは、大きい電磁放出勾配の緩和をサポートして、電磁放出を最小化することができる。同様に、電磁放出をさらに低減するために、いくつかの走査を省略することができる。部分的な走査(例えば、いくつかのTX電極のみを走査すること)および特定のTX電極の励起(例えば、いくつかのTX電極のみを励起させること)は、本明細書でさらに説明されるようにアンビギュイティをもたらす可能性がある。
【0041】
図5A~
図5Bは、各実施形態による、静電容量検知装置に関する電磁放出をそれぞれ励起シーケンスの和が1である場合と、0である場合と、で比較した図である。
図5Aは、{+1,+1,+1,-1,+1,+1,-1,+1,-1,-1,-1}の励起シーケンスと、+1の和と、を有する静電容量検知装置を示す。グラフによって図示されているように、静電容量検知装置の電磁放出は、自動車用途のための所要の制限を超えている。
図5Bは、
図4Aのように{-1,+1,0,0,0,0,0,0,0,0,0}の励起シーケンスと、0の和と、を有する、
図4の静電容量検知装置400のような静電容量検知装置を示す。グラフによって図示されているように、静電容量検知装置の電磁放出は、自動車用途のための所要とされる制限内にある。
【0042】
図6は、一実施形態による、
図4の静電容量検知装置400の検知グリッド402の概略図である。
図6は、励起行列(H)601、指応答(x)603および測定された信号(s)605の記号を含む。例示的な一例として、
図6に例示されている励起シーケンスは、{+1,+1,+1,-1,+1,-1,-1,-1}であり、この励起シーケンスは、第1の走査段において、TX電極404に駆動信号を印加することに対応する。それぞれの後続の走査段ごとに、それぞれの回転が結果的に初期シーケンスをもたらすまで、励起シーケンスを循環的に回転させることができる。それぞれの後続の走査段は、励起行列Hに追加的な列を追加することができ、これにより、励起行列は、次元L×Mを有する行列となり、ここで、Mは、TX電極の数であり、Lは、回転の数である。いくつかの実施形態では、Lは、Mと同じであってよく、その結果、正方行列がもたらされるが、他の実施形態では、Lは、Mとは異なっていてよく、その結果、非正方行列がもたらされる。励起行列Hは、TX電極を励起させるための駆動信号(同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号)の励起パターンを表すことができる。指応答xは、電極マップに対応する行列であってよく、この場合、例えばユーザの指が静電容量検知タッチパネルと相互作用すると、いくつかの電極がタッチからの信号を受信することができる。指応答xは、M×Nの次元を有することができ、ここで、Nは、タッチに対応する検知信号を受信するRX電極の数に対応する。測定された信号sは、例えばRX電極の走査によって測定されるような、測定された検知信号に対応する行列であってよい。測定された信号sは、L×Nの次元を有することができる。測定された信号sは、励起行列Hに指応答xを乗算した結果:
H・x=s (4)
である。
【0043】
静電容量検知装置のために、ユーザが静電容量検知タッチパネルと相互作用できるように、指応答xを決定すべきである。励起行列Hは、事前に決定可能または事前に計算可能であり、したがって既知である。さらに、ユーザが静電容量検知タッチパネルと相互作用すると、検知信号を測定することができる(例えば、測定された信号sは、既知である)。反転により、指応答xを、
x=H-1・s (5)
のように決定することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、励起シーケンスの和がゼロではない(例えば、1または2である)場合に、励起行列Hを反転させることができ、指タッチxを再構成することができる。しかしながら、この場合には、比較的大きい電磁放出がもたらされる可能性がある。疑似逆行列H-1は、M×Lの次元を有することができる。
【0045】
励起シーケンスの和がゼロである場合には、電磁放出をより小さくすることができるが、励起行列Hは、特異であり(例えば、無限数の根を有する)、したがって反転不可能である。このような場合には、式(5)を部分解に絞ることができ、励起行列の適切な疑似逆行列を見つけることによって、タッチが存在する場合(であって、タッチが存在しない場合ではない、または全てのセンサが覆われている場合ではない)に、式(5)を解くことができる。一実施形態では、疑似逆行列は、ムーア・ペンローズの疑似逆行列である。他の実施形態では、疑似逆行列は、片側逆行列(右逆行列または左逆行列)、ボット・ダフィン逆行列、ドラジン逆行列または反射型一般逆行列のうちの1つであってよい。
【0046】
タッチの位置を見つけるために、分析的アンビギュイティ低減方法(プロセス)を適用することができる。分析的アンビギュイティ低減方法の1つの潜在的な欠点は、コモンモードレベルが失われる可能性があることである。しかしながら、それぞれのシーケンシャルな走査段が少なくとも1つの共通のTX電極を含んでいるような1つまたは複数の領域を走査することにより、コモンモードレベルを整合させて、ベースラインを形成することができる。分析的アンビギュイティ低減方法は、
図7に関連して以下で説明されている。
【0047】
図7は、一実施形態による、第1の走査領域701と、第2の走査領域703と、オーバーラップ領域705と、を有する静電容量検知装置700の検知グリッド702の概略図である。検知グリッド702および静電容量検知装置700は、
図1、
図4および
図7~
図8の検知グリッド102、402、702および802と静電容量検知装置100、400、700および800と同様であってよい。オーバーラップ領域705は、1つまたは複数のTX電極が、第1の走査段中の第1の走査と、第2の走査段中の第2の走査と、の両方に含まれているような領域を表す。
【0048】
1つのケース(
図7には図示せず)では、第1の走査段および第2の走査段は、共通の電極(例えば、第1の走査段および第2の走査段におけるTX電極のオーバーラップ)を含まない。例えば、第1の走査段において、TX電極704(1)~704(4)を、ゼロ・サム励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号によって同時に励起させることができる。第2の走査段において、TX電極704(5)~704(8)を、回転されたゼロ・サム励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号によって同時に励起させることができる。後続の走査段は、ゼロ・サム励起シーケンスのさらなる回転に従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号によって励起可能である。この場合、複数の走査段にわたるベースラインに対応するコモンモードレベルは、励起行列Hが特異であることに起因して失われる可能性があり、これにより不連続なベースラインがもたらされる。
【0049】
コモンモードレベルおよび連続したベースラインを回復するために、第1の走査段および第2の走査段は、少なくとも1つの共通のTX電極(例えば、第1の走査段および第2の走査段の両方におけるTX電極のオーバーラップ)を含むべきである。例えば、第1の走査段において、第1の走査領域701を含む第1の走査を実施することができる。第1の走査領域701は、TX電極704(1)~704(4)の第1のセットを含む。第1の走査段の後の(または第1の走査段に続く)第2の走査段において、第2の走査領域703を含む第2の走査を実施することができる。第2の走査領域703は、TX電極704(4)~704(7)の第2のセットを含む。TX電極の第1のセットおよびTX電極の第2のセットは、オーバーラップ領域705において共通のTX電極704(4)を有する。いくつかの実施形態では、オーバーラップ領域705は、単一の共通のTX電極を含む。いくつかの他の実施形態では、オーバーラップ領域705は、2つ以上の共通のTX電極を含むことができる。さらに、走査領域701および703は、
図7では4つのTX電極を含むものとして図示されているが、他の実施形態では、走査領域は、4つ未満または5つ以上のTX電極を含んでもよい。
図8に関連してより詳細に説明されるように、そのようなオーバーラップされた走査方法を使用して、コモンモードレベルを整合させて、連続したベースラインを形成することができる。
【0050】
図8は、一実施形態による、静電容量検知装置800の検知グリッド802のTX電極走査領域にわたるベースライン補正を示すグラフである。検知グリッド802および静電容量検知装置800は、
図1~
図7の検知グリッド102、402および702と静電容量検知装置100、400および700と同様であってよい。
【0051】
図8に図示されているように、第1の走査領域801を含む第1の走査は、TX電極804の第1のセットを含む。第1の走査の結果として生じる第1の検知信号は、第1のコモンモードレベルを有することができる。第1の走査に続いて実施される第2の走査は、TX電極804の第2のセットを含む第2の走査領域803を含む。第2の走査の結果として生じる第2の検知信号は、第1のコモンモードレベルとは異なる第2のコモンモードレベルを有することができる。一実施形態では、第1のコモンモードレベルを、ベースラインのための基準としてみなすことができる。換言すれば、RX電極806(1)~806(3)によってTX電極のオーバーラップ805上で測定されるコモンモードレベルは、それぞれs1={s11,s12,s13}であってよい。RX電極806(1)~806(3)によってTX電極のオーバーラップ805上で測定される第2のコモンモードレベルは、それぞれs2={s21,s22,s23}であってよい。第1のコモンモードレベルと第2のコモンモードレベルとの間の差分値を、ds12=s1-s2={s11-s21,s12-s22,s13-s23}として決定することができる。差分値ds12を、第2のコモンモードレベルに加算し、すなわち、s2+ds12={s21,s22,s23}+{s11-s21,s12-s22,s13-s23}={s11,s12,s13}とし、第2の走査領域803(例えば、TXスロット2)の測定から得られたデータに適用して、第1のコモンモードレベルに等しい、シフトされた第2のコモンモードレベルを達成することができ、これにより、第1の走査段と第2の走査段との間に連続したベースラインを確立することができる。後続の走査段に対して同様の動作を実施して、それぞれの走査段ごとに単一のコモンモードレベルを達成することができる。別の実施形態では、第2のコモンモードレベルに差分値を加算するのではなく、第1のコモンモードレベルから差分値を減算することができる。別の実施形態では、それぞれの走査段の間で、単一の共通モードレベル、ひいては連続したベースラインを達成するために、第1の共通モードレベルおよび第2の共通モードレベルを平均化することができる。
【0052】
図9は、多相走査のための方法の一実施形態のフローチャートである。いくつかの実施形態では、方法900を実施するために処理ロジックを使用することができる。処理ロジックは、ハードウェア、ソフトウェアまたはこれらの任意の組み合わせを含むことができる。一実施形態では、
図2の処理装置200が、方法900を実施する。別の実施形態では、
図2の静電容量検知回路202が、方法900を実施する。代替的に、方法900の動作の一部または全部を実施するために、他のコンポーネントを使用してよい。ブロック902において、処理ロジックは、テーブルからTXライン信号のためのゼロ・サム励起シーケンスを読み取り、信号発生パラメータをTX信号発生器にロードする。ブロック904において、処理ロジックは、ゼロ・サムTX信号シーケンスをTX電極に印加し、受信器電極からの1センサオーバーラップ応答を実質的に同時に検知する。ブロック906において、処理ロジックは、変換段が完了すると、受信した応答のアナログ・デジタル変換を実施する。変換結果は、データバッファに記憶される(ブロック908)。ブロック910において、回転の状態がチェックされる。ゼロ・サム励起シーケンスの全ての回転が完了すると、励起行列Hを決定することができる。励起シーケンスは、ゼロの和を有するので、励起行列Hは、特異である。このケースでは、ブロック912において、分析的アンビギュイティ低減方法(プロセス)が開始され、そして方法900が終了する。分析的アンビギュイティ低減方法は、
図10に関連してさらに説明されている。逆のケースでは、ブロック909において励起シーケンスが回転され、ブロック902~910が再び実施される。
【0053】
本発明の複数の実施形態のうちの他の実施形態では、実施フローを変更してもよいことに留意すべきである。例えば、本発明のいくつかの実施形態は、複数のアナログ・デジタル変換チャネルを使用することによってブロック902および904を並列に実施することができる。逆畳み込み手順には、考えられる種々の編成が存在する。分析的アンビギュイティ低減方法が複数回の反復を行う可能性があることを考慮すると、複数のステップに対する再編成が可能であり、個々の変換段の結果が供給されると、それぞれのステップを実施することが可能となる。分析的アンビギュイティ低減方法を、走査に並行して実施することができるので、この実装態様は、全体的な実行時間という点において利益を提供する。
【0054】
一実施形態では、処理ロジックは、同相駆動信号および逆相駆動信号を生成する。処理ロジックは、同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号にそれぞれ対応する複数の正の1の値、負の1の値および0の値を有するゼロ・サム励起シーケンスを選択する。基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来する。ゼロ・サム励起シーケンスは、ゼロに等しい和を有する。処理ロジックは、設定された数の走査段のうちの第1の走査段中に、TX電極の第1のセットの各々に、ゼロ・サム励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを実質的に同じ時間に(例えば、同時に)印加する。処理ロジックは、ゼロ・サム励起シーケンスを回転させて、回転されたゼロ・サム励起シーケンスを取得する。処理ロジックは、設定された数の走査段のうちの第2の走査段中に、TX電極の第2のセットの各々に、回転されたゼロ・サム励起シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを実質的に同じ時間に(例えば、同時に)印加する。処理ロジックは、タッチパネル上でのオブジェクトの存在を検出するために、RX電極のセットから検知信号を受信する。検知信号は、RX電極のセットに関連付けられた静電容量を表す。
【0055】
一実施形態では、TX電極とRX電極とは、同じ電極である。この場合には、検知信号は、RX電極のセットの自己静電容量を表す。別の実施形態では、TX電極とRX電極とは、それぞれ異なる電極である。この場合には、検知信号は、TX電極とRX電極との交差部の相互静電容量を表す。
【0056】
いくつかの実施形態では、奇数個のTX電極が存在し、ゼロ・サム励起シーケンスは、1つまたは複数の正の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含み、ゼロ・サム励起シーケンスの和は、ゼロになる(例えば、ゼロに等しい)。
【0057】
一実施形態では、処理ロジックが同相駆動信号または逆相駆動信号として搬送波信号を受信または生成する方法を実施するために、処理ロジックは、バイナリ位相変調を使用する。処理ロジックは、TX電極の第1のセットに、ゼロ・サム励起シーケンスに従って、搬送波信号または基準信号を印加する。
【0058】
別の実施形態では、処理ロジックは、TX電極のためのゼロ・サム励起シーケンスのパターンを選択し、このパターンに従ってTX電極の各々を、同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のいずれかによって駆動する。別の実施形態では、処理ロジックは、複数の「1」の値、「負の1」の値および「0」の値を有する疑似乱数シーケンスを選択する。「1」の値は、同相駆動信号に対応し、「負の1」の値は、逆相駆動信号に対応し、「0」の値は、基準信号に対応し、(ゼロの和を有する)疑似乱数シーケンス内の値の数は、TX電極の数に等しい。処理ロジックは、疑似乱数シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のいずれかをTX電極に印加する。1つの走査段においてこのことが実施されると、次いで、処理ロジックは、後続の走査段において疑似乱数シーケンスを回転させ、後続の走査段において回転された疑似乱数シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のいずれかをTX電極に印加する。
【0059】
一実施形態では、処理ロジックは、TX電極のうちの交互の一方に同相駆動信号を印加し、実質的に同時に、TX電極のうちの交互の他方に逆相駆動信号を印加する。代替的に、処理ロジックは、1つまたは複数の同相駆動信号と、1つまたは複数の逆相信号と、1つまたは複数の基準信号と、を本開示の利益を有する当業者によって理解され得る他のパターンでTX電極に印加することができる。
【0060】
本明細書に記載されている実施形態では、多相TX駆動方法(すなわち、多相走査)により、TX電圧を増加させることなくホワイトノイズおよび狭帯域ノイズに対するノイズ耐性を数倍も改善することが可能となる。多相走査は、液晶ディスプレイ(LCD)によって引き起こされるノイズに対して同じノイズ耐性の改善を提供することができる。このノイズの改善は、実質的に同時に駆動されるパネル送信器電極の個数であるMの増加に伴って向上することができ、約M1/2向上する。多相走査は、計算要件(それぞれの走査ごとにN*M2のMAC演算)が比較的高くなる可能性があることに留意すべきである。多相走査は、TX電極を実質的に同時に駆動することによって電力消費を低減することもでき、RX電極の電流を低減することもできる。特別な位相シーケンスおよび復号技術が使用される場合には、MAC演算は、実行のために加算演算および減算演算しか必要としない可能性もある。
【0061】
図9は、TX電極アレイに3つの信号が印加されることを説明しており、全てのRX電極を実質的に同時に検知することができることに留意すべきである。他の実施形態では、TX電極のうちの交互の一方に同相信号を印加し、TX電極のうちの交互の他方に逆相信号を印加するなど、種々異なる位相、振幅または周波数の信号を2つ以上のTX電極に実質的に同時に印加することができる。他の実施形態では、本開示の利益を有する当業者によって理解され得るように、2つ以上の受信器信号を実質的に同時にまたは順次に検知することができる。
【0062】
図10は、一実施形態による、静電容量検知タッチパネル上での指応答を再構成するための分析的アンビギュイティ低減方法1000のフローチャートである。方法1000は、ハードウェア、ファームウェアまたはこれらの任意の組み合わせを含む処理ロジックによって実施可能である。方法1000は、
図1の静電容量検知装置100によって実施可能である。別の実施形態では、方法1000は、
図2の処理装置200および/または静電容量検知回路202によって実施可能である。別の実施形態では、方法1000は、
図4または
図6~
図8の静電容量検知装置400、700または800によって実施可能である。
【0063】
図10に戻ると、
図9のブロック912において、分析的アンビギュイティ低減方法1000が開始する。方法1000は、逆畳み込み巡回行列を見つける処理ロジックによって開始する(ブロック1002)。逆畳み込み巡回行列H
-1は、ゼロの和を有するゼロ・サム励起シーケンスに起因して特異である、励起行列Hの疑似逆行列である。処理ロジックは、逆畳み込みされたデータを計算する(ブロック1004)。逆畳み込みされたデータとは、式(5)を使用して、例えばRX電極によって測定された測定信号sによって乗算された逆畳み込み巡回行列として、指応答xを計算することを指す。処理ロジックは、TX電極ライン上の逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得する(ブロック1006)。コモンモードフィルタは、2つ以上の電極に共通する可能性のある高周波ノイズを遮断することができるが、それでもなお所望の周波数の信号が通過することを可能にする。処理ロジックは、オーバーラップされた走査領域をマージすることによって、フィルタリングされたデータにおけるベースラインを補正する(ブロック1008)。第1の走査段は、第1の個数のTX電極を含む第1の領域にわたって走査し、第2の走査段は、第2の個数のTX電極を含む第2の領域にわたって走査する。いくつかの場合には、第1の領域にわたる第1の走査は、第1の領域からの検知信号のためのベースラインを設定する第1のコモンモードレベルを有することができる。第2の領域にわたる第2の走査は、第2の領域からの検知信号のためのベースラインを設定する第2のコモンモードレベルを有することができるが、第1のコモンモードレベルと第2のコモンモードレベルとは、同じでない場合があり、したがって、第1の領域のベースラインと第2の領域のベースラインとが異なる可能性があり、これによって2つの領域間のベースラインに不連続性が引き起こされる。この問題を解決するために、第1の領域と第2の領域とをオーバーラップさせて走査することができ、このことは、第1の領域と第2の領域とが共通のTX電極を共有することを意味する。第1のコモンモードレベルと第2のコモンモードレベルとの間の差として差分値を計算することができ、この差分値を第2のコモンモードレベルに加算して、連続したベースラインを達成することができる。必要に応じて、後続の走査段のために同様のステップを含めることができる。処理ロジックは、RX電極ラインに直交コモンモードフィルタを適用する(ブロック1010)。直交コモンモードフィルタは、コモンモードフィルタと同じであるが、TX電極ラインではなくRX電極ラインに適用される。方法1000は、終了する。
【0064】
図11Aは、一実施形態による、ゼロ・サム励起シーケンスによって励起される8つの電極を用いた多相送信のための逆畳み込みされたデータを示す静電容量センサ行列1100である。静電容量センサ行列1100は、逆畳み込みされたデータおよびLCDノイズの両方を示す。
図11Aは、
図10のブロック1004に対応する。
【0065】
図11Bは、一実施形態による、コモンモードフィルタを適用することによって得られた、フィルタリングされたデータを示す静電容量センサ行列1100である。コモンモードフィルタは、2つ以上の電極に共通する可能性のある高周波ノイズを遮断するが、それでもなお所望の周波数の信号が通過することを可能にする。
図11Bに図示されているように、コモンモードフィルタは、ゼロを読み取るために多数の値をフィルタリングする。
図11Bは、
図10のブロック1006に対応する。
【0066】
図11Cは、一実施形態による、ベースラインを補正するためにRX電極のセットに沿ってコモンモード値を復元した後の、フィルタリングされたデータを示す静電容量センサ行列1100である。
図11Cは、
図10のブロック1008に対応する。
【0067】
図11Dは、一実施形態による、直交コモンモードフィルタを適用した後の、フィルタリングされたデータを示す静電容量センサ行列1100である。直交コモンモードフィルタは、タッチパネルの静電容量マップを取得するためにRX電極のセットに沿ってアーチファクトを除去する。
図11Dは、
図10のブロック1010に対応する。
図11Dによって図示されているように、静電容量マップは、タッチパネル上での指タッチを明確にマッピングする。
【0068】
図12Aは、一実施形態による、多相送信の3つの方法に関するノイズ低減係数とピーク放出との間の関係を比較したグラフである。多相送信の3つの方法とは、以下の通りであり、すなわち、1)11個のTX電極と、1の和を有する励起シーケンスとを用いた多相送信を指しているMPTX11 Sum1、2)8つのTX電極と、ゼロの和を有する励起シーケンスとを用いた多相送信を指しているMPTX8 Sum0(これは、本明細書に記載されている方法である)、および3)2つの電極と、ゼロの和を有する励起シーケンスと、を用いた多相送信を指している差分MPTX Sum0である。比較的大きいノイズ低減係数は、比較的大きい望ましいSNRに対応する。上述したように、比較的低いピーク放出(電磁放出)が望ましい。放出は、基本周波数に関して測定されることに留意すべきである。
図12Aに図示されているように、MPTX11 Sum1は、最良のSNRを提供するが、最大のピーク放出も提供する。MPTX11 Sum1に関するピーク放出は、電磁放出制限を超えている。MPTX8 Sum0は、約2のノイズ低減係数と、約41dΒμV/mのピーク放出と、を提供する。2のノイズ低減係数は、例えばホワイトノイズが2分の1に減少することを意味するということに留意すべきである。差分MPTX Sum0は、最低のピーク放出を有するが、最小のノイズ低減係数も有し、したがって最低のSNRを有する。差分MPTX Sum0に関するSNRは、実際のタッチスクリーン用途のためには低すぎる可能性がある。したがって、本明細書に記載されているタッチパネルのためのゼロ・サム励起シーケンスを用いた多相励起および多相走査は、良好なSNRと、十分に低いピーク放出と、の両方を提供する。
【0069】
図12Bは、
図12Aにおいて説明された3つの方法に関するノイズ低減係数と平均放出との間の関係を比較したグラフである。ここでも、ゼロ・サム励起シーケンス(MPTX8 Sum0)を用いた多相励起および多相走査は、良好なSNRと、十分に低い平均放出と、の両方を提供する。
【0070】
図13は、一実施形態による、ゼロ・サム多相受信器1300を示す一連の概略図である。ゼロ・サム多相受信は、ゼロ・サム多相送信と同様の分析的アンビギュイティ低減方法を含む、同じまたは同様の着想を使用している。全てのセンサが覆われている場合には、タッチを検出することができないことに留意すべきである。
図13に図示されている実施形態では、4つの受信センサが設けられているが、他の実施形態では、より多くのセンサまたはより少ないセンサが設けられていてよい。
【0071】
ゼロ・サム多相受信器1301は、センサアレイを構成するコンデンサ1320によるタッチまたは静電容量に対応するゼロ・サム受信シーケンスを含むことができる。1301に示されている受信シーケンスは、{+1,+1,-1,-1}(ゼロの和を有する)であり、この受信シーケンスは、コンデンサ1320(1)からの同相信号、コンデンサ1320(2)からの同相信号、コンデンサ1320(3)からの逆相信号およびコンデンサ1320(4)からの逆相信号の受信に対応する。受信シーケンスに対応する信号は、ABusBライン1324およびABusAライン1325に送信可能であり、
図1のRX信号受信器114のようなRX信号受信器によって受信可能である。
【0072】
同様にして、ゼロ・サム多相受信器1303は、センサアレイを構成するコンデンサ1320によるタッチまたは静電容量に対応するゼロ・サム受信シーケンスを含む。示されている受信シーケンスは、{-1,+1,+1,-1}(ゼロの和を有する)であり、この受信シーケンスは、コンデンサ1320(1)からの逆相信号、コンデンサ1320(2)からの同相信号、コンデンサ1320(3)からの同相信号およびコンデンサ1320(4)からの逆相信号の受信に対応する。ゼロ・サム多相受信器1305は、{-1,+1,-1,+1}の受信シーケンスを有し、この受信シーケンスは、コンデンサ1320(1)からの逆相信号、コンデンサ1320(2)からの同相信号、コンデンサ1320(3)からの逆相信号およびコンデンサ1320(4)からの同相信号の受信に対応する。ゼロ・サム多相受信器1307は、{+1,-1,-1,+1}の受信シーケンスを有し、この受信シーケンスは、コンデンサ1320(1)からの同相信号、コンデンサ1320(2)からの逆相信号、コンデンサ1320(3)からの逆相信号およびコンデンサ1320(4)からの同相信号の受信に対応する。
【0073】
図14は、一実施形態による、ゼロ・サム多相受信を行った場合に受信した検知信号と、ゼロ・サム多相受信を行わない場合に受信した検知信号と、の間のノイズ比較を示すグラフである。1つのケースでは、外部のノイズ源が印加され、RX電極を介して検知信号が受信される。曲線1401の場合にはゼロ・サム多相受信が適用されておらず、曲線1403の場合にはゼロ・サム多相受信が適用されている。ゼロ・サム多相を適用する基本周波数では、受信によってノイズを約20分の1に低減することができ、これにより、優れた電磁耐性を発揮することができる。
【0074】
多相RXと多相TXとを一緒に組み合わせて使用してもよいし、または多相RXおよび多相TXのいずれかを別個に使用してもよいことは注目に値する。多相RXおよび多相TXは、両方とも、信号を再構成するために同様のアルゴリズム(例えば、分析的アンビギュイティ低減方法)を使用する。さらに、多相RXおよび多相TXの走査は、任意の順序で適用可能であり、この順序は、実装のフレキシビリティまたは最適化要求に基づいて選択可能である。多相TX/RX技術によれば、単一の測定チャネルのみを使用して、パネル走査時間に匹敵する同等の積分時間の理論値に到達することが可能となる。
【0075】
図15は、一実施形態による、ゼロ・サム多相送信の方法1500のフローチャートである。方法1500は、ハードウェア、ファームウェアまたはこれらの任意の組み合わせを含む処理ロジックによって実施可能である。方法1500は、
図1の静電容量検知装置100によって実施可能である。別の実施形態では、方法1500は、
図2の処理装置200および/または静電容量検知回路202によって実施可能である。別の実施形態では、方法1500は、
図4または
図6~
図8の静電容量検知装置400、700または800によって実施可能である。
【0076】
図15に戻って参照すると、方法1500は、同相駆動信号および逆相駆動信号を生成する処理ロジックによって開始する(ブロック1502)。処理ロジックは、シーケンスを選択する(ブロック1504)。シーケンスは、同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号にそれぞれ対応する複数の正の1の値、負の1の値および0の値を有することができる。基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来することができる。シーケンスの和は、ゼロである。処理ロジックは、シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの少なくとも1つを印加する。第1の走査段において、TX電極の第1のセットに、同相信号、逆相信号および基準信号が実質的に同時に印加される(ブロック1506)。処理ロジックは、シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得する(ブロック1508)。処理ロジックは、第2の走査段において、回転されたシーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの少なくとも1つを印加する(ブロック1510)。同相信号、逆相信号および基準信号は、TX電極の第2のセットに実質的に同時に印加される。処理ロジックは、RX電極のセットから検知信号を受信する(ステップ1512)。検知信号は、タッチパネル上でのオブジェクトの存在を検出するためのものであってよく、検知信号は、タッチパネルの受信器電極のセットに関連付けられた静電容量を表すことができる。方法1500は、終了する。
【0077】
いくつかの実施形態では、TX電極とRX電極とは、同じ電極であり、検知信号は、RX電極のセットに関連付けられた自己静電容量を表す。他の実施形態では、TX電極とRX電極とは、それぞれ異なる電極であり、検知信号は、TX電極とRX電極との間の交差部の相互静電容量を表す。
【0078】
いくつかの実施形態では、TX電極の数は、偶数であり、1つまたは複数の正の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含むシーケンスの和は、ゼロである。他の実施形態では、TX電極の数は、奇数であり、1つまたは複数の正の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含むシーケンスの和は、ゼロである。
【0079】
さらなる実施形態では、TX電極の第1のセットおよびTX電極の第2のセットは、特にオーバーラップされた走査のために、共通の電極を含む。第1の走査段および第2の走査段は、シーケンシャルであってよい。処理ロジックは、ベースラインを形成するために(例えば、TX電極の第1のセットとTX電極の第2のセットとの間の)コモンモードレベルを整合させるために、分析的アンビギュイティ低減方法を実施することができる。オーバーラップされた走査は、第1の走査段と第2の走査段との間に連続したベースラインを形成することを可能にすることができる。
【0080】
処理ロジックは、分析的アンビギュイティ低減方法を実施することができる。分析的アンビギュイティ低減方法は、
図10に関連して説明されている。処理ロジックは、少なくともシーケンスと、回転されたシーケンスと、を含む励起行列の疑似逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定する。シーケンスの和がゼロであって、かつ回転されたシーケンスの和がゼロであることに起因して励起行列が特異行列であることは、注目に値する。処理ロジックは、逆畳み込み巡回行列および検知信号を使用して、逆畳み込みされたデータを計算する。処理ロジックは、逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得することができる。処理ロジックは、フィルタリングされたデータにおけるベースラインを補正するために、RX電極のセットに沿って共通の値を復元することができる。ベースラインを補正することは、連続したベースラインを取得するために、第1の走査段と第2の走査段との間にコモンモード値を確立することを指すことができる。処理ロジックは、直交コモンモードフィルタを適用して、RX電極のセットに沿ってアーチファクトを除去して、タッチパネルの静電容量マップを取得することができる。静電容量マップとは、タッチパネル上での指(または他の導電性のオブジェクト)のタッチの直接画像を指す。
【0081】
図16は、一実施形態による、ゼロ・サム多相受信の方法1600のフローチャートである。方法1600は、ハードウェア、ファームウェアまたはこれらの任意の組み合わせを含む処理ロジックによって実施可能である。方法1600は、
図1の静電容量検知装置100によって実施可能である。別の実施形態では、方法1600は、
図2の処理装置200および/または静電容量検知回路202によって実施可能である。別の実施形態では、方法1600は、
図4または
図6~
図8の静電容量検知装置400、700または800によって実施可能である。
【0082】
図16に戻って参照すると、方法1600は、同相駆動信号および逆相駆動信号を生成する処理ロジックによって開始する(ブロック1602)。処理ロジックは、TX電極のセットのうちのそれぞれのTX電極に信号を印加する(ブロック1604)。処理ロジックは、シーケンスを選択する(ブロック1606)。シーケンスは、同相駆動信号、逆相駆動信号および基準信号にそれぞれ対応する複数の正の1の値、負の1の値および0の値を有することができる。基準信号は、電圧電位またはグラウンド電位に由来することができる。シーケンスの和は、ゼロである。処理ロジックは、走査段のセットのうちの第1の段において、受信器電極の第1のセットの各々で、シーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを実質的に同時に検知する。処理ロジックは、シーケンスを回転させて、回転されたシーケンスを取得する。処理ロジックは、走査段のセットのうちの第2の段において、受信器電極の第2のセットの各々で、回転されたシーケンスに従って同相駆動信号、逆相駆動信号または基準信号のうちの1つを実質的に同時に検知する。
【0083】
いくつかの実施形態では、TX電極とRX電極とは、同じ電極であり、検知信号は、RX電極の第1のセットおよび第2のセットに関連付けられた自己静電容量を表す。他の実施形態では、TX電極とRX電極とは、それぞれ異なる電極であり、検知信号は、TX電極とRX電極との間の交差部の相互静電容量を表す。
【0084】
いくつかの実施形態では、RX電極の数は、偶数であり、1つまたは複数の正の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含むシーケンスの和は、ゼロである。他の実施形態では、RX電極の数は、奇数であり、1つまたは複数の正の1の値と、1つまたは複数の負の1の値と、1つまたは複数の0の値と、を含むシーケンスの和は、ゼロである。
【0085】
さらなる実施形態では、RX電極の第1のセットおよびRX電極の第2のセットは、特にオーバーラップされた走査のために、共通の電極を含む。第1の走査段および第2の走査段は、シーケンシャルであってよい。処理ロジックは、ベースラインを形成するために(例えば、RX電極の第1のセットとRX電極の第2のセットとの間の)コモンモードレベルを整合させるために、分析的アンビギュイティ低減方法を実施することができる。オーバーラップされた走査は、第1の走査段と第2の走査段との間に連続したベースラインを形成することを可能にすることができる。
【0086】
処理ロジックは、分析的アンビギュイティ低減方法を実施することができる。分析的アンビギュイティ低減方法は、
図10に関連して説明されている。処理ロジックは、少なくともシーケンスと、回転されたシーケンスと、を含む励起行列の疑似逆行列である逆畳み込み巡回行列を決定する。シーケンスの和がゼロであって、かつ回転されたシーケンスの和がゼロであることに起因して励起行列が特異行列であることは、注目に値する。処理ロジックは、逆畳み込み巡回行列および検知信号(検知信号に対応するデジタルデータ)を使用して、逆畳み込みされたデータを計算する。処理ロジックは、逆畳み込みされたデータにコモンモードフィルタを適用して、フィルタリングされたデータを取得することができる。処理ロジックは、フィルタリングされたデータにおけるベースラインを補正するために、RX電極の第1のセットおよび第2のセットに沿って共通の値を復元することができる。ベースラインを補正することは、連続したベースラインを取得するために、第1の走査段と第2の走査段との間にコモンモード値を確立することを指すことができる。処理ロジックは、直交コモンモードフィルタを適用して、RX電極のセットに沿ってアーチファクトを除去して、タッチパネルの静電容量マップを取得することができる。静電容量マップとは、タッチパネル上での指(または他の導電性のオブジェクト)のタッチの直接画像を指す。
【0087】
図17は、Cypress Semiconductor Corporation社(カリフォルニア州サンノゼ)によって提供されているPSoC3(登録商標)の製品群において使用されているもののような、PSoC(登録商標)処理装置のコアアーキテクチャ1700の実施形態を示す。一実施形態では、コアアーキテクチャ1700は、マイクロコントローラ1702を含む。マイクロコントローラ1702は、CPU(中央処理装置)コア1704、フラッシュプログラムストレージ1706、DOC(デバッグオンチップ)1708、プリフェッチバッファ1710、プライベートSRAM(スタティックランダムアクセスメモリ)1712および特殊機能レジスタ1714を含む。一実施形態では、DOC1708、プリフェッチバッファ1710、プライベートSRAM1712および特殊機能レジスタ1714は、CPUコア1704に結合されており、その一方で、フラッシュプログラムストレージ1706は、プリフェッチバッファ1710に結合されている。
【0088】
コアアーキテクチャ1700は、ブリッジ1718とDMAコントローラ1720とを、含むCHub(コアハブ)1716を含むこともでき、このCHub1716は、バス1722を介してマイクロコントローラ1702に結合されている。CHub1716は、マイクロコントローラ1702ならびにその周辺機器およびメモリと、プログラマブルコア1724と、の間のプライマリデータおよび制御インターフェースを提供することができる。一実施形態では、
図3Aの静電容量検知回路202は、プログラマブルコア1724の一部のような、コアアーキテクチャ1700において実装可能である。CPUコア1704に負荷をかけることなくシステム要素間でデータを伝送するように、DMAコントローラ1720をプログラミングすることができる。種々の実施形態では、マイクロコントローラ1702およびCHub1716のこれらのサブコンポーネントの各々は、CPUコア1704のそれぞれの選択または種類によって異なっていてよい。CHub1716は、共有SRAM1726およびSPC(システムパフォーマンスコントローラ)1728にも結合可能である。プライベートSRAM1712は、ブリッジ1718を介してマイクロコントローラ1702によってアクセスされる共有SRAM1726からは独立している。CPUコア1704は、ブリッジ1718を経由することなくプライベートSRAM1712にアクセスし、これによって、ローカルでのレジスタおよびRAMのアクセスを、共有SRAM1726へのDMAのアクセスと同時に生じさせることが可能となる。本明細書ではSRAMとしてラベル付けされているが、これらのメモリモジュールは、種々の他の実施形態における多種多様な(揮発性または不揮発性の)メモリまたはデータストレージモジュールのうちの任意の適切な種類であってよい。
【0089】
種々の実施形態では、プログラマブルコア1724は、限定するわけではないが、デジタルロジックアレイ、デジタル周辺機器、アナログ処理チャネル、グローバルルーティングアナログ周辺機器、DMAコントローラ、SRAMならびに他の適切な種類のデータストレージ、IOポートおよび他の適切な種類のサブコンポーネントを含む、サブコンポーネント(図示せず)の種々の組み合わせを含むことができる。一実施形態では、プログラマブルコア1724は、マイクロコントローラ1702の外部のオフチップアクセスを拡張するための機構を提供するためのGPIO(汎用IO)およびEMIF(拡張メモリインターフェース)ブロック1730と、プログラマブルデジタルブロック1732と、プログラマブルアナログブロック1734と、特殊機能ブロック1736と、を含み、これらの各々は、1つまたは複数のサブコンポーネントの機能を実施するように構成されている。種々の実施形態では、特殊機能ブロック1736は、専用の(非プログラマブル)機能ブロックを含むことができ、かつ/またはUSB、水晶発振器ドライブ、JTAG等のような専用の機能ブロックへの1つまたは複数のインターフェースを含むことができる。
【0090】
プログラマブルデジタルブロック1732は、デジタルロジックブロックのアレイと、関連するルーティングと、を含むデジタルロジックアレイを含むことができる。一実施形態では、デジタルブロックアーキテクチャは、UDB(ユニバーサルデジタルブロック)から構成されている。例えば、それぞれのUDBは、CPLD機能と一緒にALUを含むことができる。
【0091】
種々の実施形態では、プログラマブルデジタルブロック1732の1つまたは複数のUDBは、限定するわけではないが、以下の機能、すなわち、基本I2Cスレーブ、I2Cマスタ、SPIマスタまたはSPIスレーブ、マルチワイヤ(例えば、3ワイヤ)SPIマスタまたはスレーブ(例えば、1つのピン上に多重化されたMISO/MOSI)、タイマおよびカウンタ(例えば、8ビットタイマまたはカウンタのペア、16ビットタイマまたはカウンタ、8ビットキャプチャタイマ等)、PWM(例えば、8ビットPWMのペア、1つの16ビットPWM、1つの8ビットデッドバンドPWM等)、レベルセンシティブI/Oインタラプトジェネレータ、直交エンコーダ、UART(例えば、半二重)、遅延線および複数のUDBにおいて実装可能な任意の他の適切な種類のデジタル機能またはデジタル機能の組み合わせ、のうちの1つまたは複数を含む、種々のデジタル機能を実施するように構成可能である。
【0092】
他の実施形態では、2つ以上のUDBのグループを使用して追加的な機能を実施することができる。限定ではなく例示を目的としているに過ぎないが、複数のUDBを使用して、以下の機能を実施することができる:ハードウェアアドレス検出をサポートすると共に、CPUコア(例えば、CPUコア1704)の介入なしで完全なトランザクションを処理する能力と、データストリーム内の任意のビットに対して強制クロックの伸縮を防止する能力と、をサポートするI2Cスレーブ;単一のブロックにおいてスレーブオプションを含むことができるI2Cマルチマスタ;任意の長さのPRSまたはCRC(最大32ビット);SDIO;SGPIO;(例えば、4倍のオーバーサンプリングを伴う最大32ビットを有し、かつコンフィギュレーション可能な閾値をサポートする)デジタル相関器;LINバスインターフェース;デルタシグマ変調器(例えば、差分出力ペアを有するD級オーディオDACのため);I2S(ステレオ);LDCドライブ制御(例えば、UDBは、LCDドライブブロックのタイミング制御を実施するため、かつディスプレイRAMのアドレス指定を提供するために使用可能である);全二重UART(例えば、1または2のストップビットおよびパリティを有する7ビット、8ビットまたは9ビットおよびRTS/CTSサポート);IRDA(送信または受信);キャプチャタイマ(例えば、16ビット等);デッドバンドPWM(例えば、16ビット等);SMbus(ソフトウェアにおけるCRCを有するSMbusパケットのフォーマットを含む);ブラシレスモータドライブ(例えば、6/12ステップの転流をサポートするため);自動ボーレート検出および生成(例えば、1200~115200ボーの標準レートに対するボーレートを自動的に決定し、検出後に、ボーレートを生成するために必要とされるクロックを生成する);および複数のUDBにおいて実装可能な任意の他の適切な種類のデジタル機能またはデジタル機能の組み合わせ。
【0093】
プログラマブルアナログブロック1734は、限定するわけではないが、比較器、ミキサ、PGA(プログラマブル利得増幅器)、TIA(トランスインピーダンス増幅器)、ADC(アナログ・デジタル変換器)、DAC(デジタル・アナログ変換器)、電圧基準、電流源、サンプル・ホールド回路および任意の他の適切な種類のアナログリソースを含む、アナログリソースを含むことができる。プログラマブルアナログブロック134は、限定するわけではないが、アナログルーティング、LCDドライブIOサポート、静電容量検知、電圧測定、モータ制御、電流・電圧変換、電圧・周波数変換、差分増幅、光測定、誘導性位置監視、フィルタリング、ボイスコイル駆動、磁気カード読み取り、音響ドップラー測定、エコーレンジング、モデム送信および受信エンコーディングまたは任意の他の適切な種類のアナログ機能を含む、種々のアナログ機能をサポートすることができる。
【0094】
上述した実施形態は、同相信号、逆相信号および基準信号を使用することに留意すべきである。これらの信号を生成するためにインバータまたは相補的な出力段を使用する場合には、同相および逆相を使用することができる。同相信号および逆相信号は、+1または-1のデータ符号としてADCによる測定を単純化するためにも使用可能である。しかしながら、他の実施形態では、別の異なる任意の位相信号を使用してよい。例えば、同相信号と、1つまたは複数の非同相(out-of-phase)信号と、を使用してよい。
【0095】
本明細書に記載されている本発明の実施形態は、種々の動作を含む。これらの動作は、ハードウェアコンポーネント、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせによって実施可能である。本明細書で使用される「~に結合されている」という用語は、直接的に結合されていること、または1つもしくは複数の介在コンポーネントを介して間接的に結合されていることを意味することができる。本明細書に記載されている種々のバスを介して提供されるいずれの信号も、他の信号と共に時間多重化可能であり、1つまたは複数の共通のバスを介して提供可能である。さらに、回路コンポーネント間またはブロック間の相互接続は、バスまたは単一信号線として示されている場合がある。バスの各々は、代替的に1つまたは複数の単一信号線であってよいし、単一信号線の各々は、代替的にバスであってよい。
【0096】
特定の実施形態は、コンピュータ可読媒体上に記憶された命令を含むことができるコンピュータプログラム製品として実装可能である。これらの命令は、上述した動作を実施するように汎用プロセッサまたは専用プロセッサをプログラミングするために使用可能である。コンピュータ可読媒体は、機械(例えば、コンピュータ)によって読み取り可能な形態(例えば、ソフトウェア、処理アプリケーション)で情報を記憶または送信するための任意の機構を含む。コンピュータ可読記憶媒体は、限定するわけではないが、磁気記憶媒体(例えば、フロッピーディスケット)、光学記憶媒体(例えば、CD-ROM)、磁気光学記憶媒体、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、消去可能なプログラマブルメモリ(例えば、EPROMおよびEEPROM)、フラッシュメモリ、または電子命令を記憶するために適した別の種類の媒体を含むことができる。コンピュータ可読伝送媒体は、限定するわけではないが、電気信号、光学信号、音響信号または他の形態の伝搬信号(例えば、搬送波、赤外線信号、デジタル信号等)または電子命令を伝送するために適した別の種類の媒体を含む。
【0097】
さらに、いくつかの実施形態は、コンピュータ可読媒体が2つ以上のコンピュータシステムによって記憶および/または実行されるような分散コンピューティング環境において実現可能である。さらに、コンピュータシステム間で転送される情報は、コンピュータシステム同士を接続する伝送媒体を介してプッシュ可能またはプル可能である。
【0098】
本明細書における方法の動作は、特定の順序で図示および説明されているが、特定の動作を逆の順序で実施することができるように、または特定の動作を少なくとも部分的に他の動作と同時に実施することができるように、それぞれの方法の動作の順序を変更してよい。別の実施形態では、複数の別個の動作の命令またはサブ動作は、間欠的および/または交互であってよい。
【0099】
前述した明細書では、本発明をその特定の例示的な実施形態に関連して説明してきた。しかしながら、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の比較的幅広い思想および範囲から逸脱することなく、それらの実施形態に対して種々の修正および変更を加えてよいことは明らかであろう。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく例示的な意味で考慮されるべきである。
【外国語明細書】