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特開2022-183084ジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排除するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183084
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排除するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20221201BHJP
   C07C 69/80 20060101ALI20221201BHJP
   C07C 69/82 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/80 A
C07C69/82 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022085050
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】21176570.6
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ディートマール グビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ クラウス ヒンスケン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クラフト
(72)【発明者】
【氏名】トマス シュナイデル
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC18
4H006BD10
4H006BD20
4H006BD81
4H006KA06
(57)【要約】
【課題】
C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排出するためのプロセスの提供である。
【解決手段】
当該調製は、1つ以上の反応器において、1つのC8~C11のアルコール又は2つ以上のC8~C11のアルコールの1つの混合物を用いて行われる。1つ以上の反応器において、1つのC8~C11のアルコール又は2つ以上のC8~C11のアルコールの1つの混合物を用いて行われる。反応中に生成する低沸点物質、例えばアルコールの水分解で得られるアルケンは、効率的なプロセスにより分離されるため、蓄積されることはない。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排出するためのプロセスであって、ここで、前記調製は、1つ以上の反応器において、1つのC8~C11のアルコール又は2つ以上のC8~C11のアルコールの1つの混合物を用いて行われ、ここで、前記ジアルキルテレフタレート又は前記ジアルキルフタレートの前記調製において、転化率が少なくとも90%になると、1又はそれ以上の反応器において、400~900mbarの絶対圧力範囲でわずかに減圧され、それにより、少なくとも未反応のアルコール及び反応副生成物を含む反応混合物の低沸点相が蒸留除去され、前記蒸留除去された低沸点相のうち、最初の部分は排出され、前記排出された部分の量は、前記蒸留除去された低沸点相の全量の0.05~8質量%である、プロセス。
【請求項2】
わずかな減圧は、転化率が少なくとも92%になると加えられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
わずかな減圧は、転化率が少なくとも95%になると加えられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
わずかな減圧は、所望の転化率に達してから、1時間以内に加えられる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
低沸点相の排出された部分の量は、蒸留除去された低沸点相の全量の0.1~4質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
反応副生成物は、用いられるアルコールを脱水することにより生成されるアルケンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
1又はそれ以上の反応器は蒸留カラムを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
蒸留除去された低沸点相のうち、最初の部分が排出された後に、未反応のアルコールを含む残りの低沸点相が蒸留除去される、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
残りの低沸点相を蒸留除去する間に、さらに減圧させる、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
減圧後の圧力は、30~300mbar絶対圧である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
蒸留除去された残りの低沸点相は、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製のためにその後の工程で用いられる、請求項8~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
ジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートは、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジ(2-プロピルヘプチル)フタレート(DPHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)ジイソノニルテレフタレート(DINT)及びジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(DOTP)からなる群より選択される請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
フタル酸若しくは無水フタル酸とイソノナノール(INA)のエステル化、又は、フタル酸ジメチル(DMT)とイソノナノールのトランスエステル化によるフタル酸ジイソノニル(DINP)の調製において、1つ以上の反応器における低沸点物質を排出するためのプロセスであって、
ここで、前記DINPの前記調製において、転化率が少なくとも90%になると、1又はそれ以上の反応器において、400~900mbarの絶対圧力範囲でわずかに減圧され、それにより、少なくとも未反応の前記イソノナノール及び反応副生成物を含む反応混合物の低沸点相が蒸留除去され、
蒸留除去された前記低沸点相のうち、最初の部分は排出され、前記排出された部分の量は、前記蒸留除去された低沸点相の全量の0.05~8質量%である、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C8~C11のアルキルラジカルを有するジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排出するためのプロセスに関し、当該調製は、1つ以上の反応器において、1つのC8~C11のアルコール又は2つ以上のC8~C11のアルコールの1つの混合物を用いて行われる。反応中に生成する低沸点物質、例えばアルコールから水を分解して得られるアルケンは、効率的なプロセスによって分離されるため、蓄積することがない。
【背景技術】
【0002】
ジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの製造は、長年にわたり、当技術分野で公知のプロセスを用いて行われてきた。特に技術的に重要なのは、テレフタル酸若しくはフタル酸、又はそれに対応する酸無水物と、1つの各アルコール又は複数のアルコールの1つの混合物との直接エステル化である。後者は、2つのエステル基が異なるアルキルラジカルを備えることができる混合エステルをもたらす。ジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートを調製する他の公知のプロセスは、ジメチルフタレート又はジメチルテレフタレートの各アルコールとのエステル交換反応でありうる。両方のプロセス、すなわちエステル化及びエステル交換反応、並びにそれに必要な条件は、例えば、特許文献1~4から、当業者に公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/029180号
【特許文献2】国際公開第2009/095126号
【特許文献3】欧州特許出願公開第3059222号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第3059223号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの調製において生成するのは、目的生成物だけではないことが多い。副生成物はまた、例えば、用いられるアルコールから水を分解することによってアルケンを形成することもできる。これらのアルケンは、変色や臭いの発生がおこる場合があり、望ましくない。当該副生成物は反応混合物中に蓄積され、生成物を分離する際に未反応のアルコールと共に蓄積されてしまう。反応混合物から分離されたアルコール、又は反応混合物から分離されたアルコール混合物は、特に経済的理由から、その後のエステル化又はエステル交換反応に再利用することができ、また再利用されるべきである。しかしながら、副生成物の濃度が高すぎる場合は、分離したアルコール又は分離したアルコール混合物を完全に廃棄することで、エステル化又はエステル交換反応に問題が生じないようにする必要がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、分離したアルコールや分離したアルコール混合物を大量に廃棄せずに、簡便な方法で、低沸点物質を排出することができるプロセスを提供することであった。さらに、大規模な装置がなくても、既存のプラントに簡便に導入することができるプロセスを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の基礎となる上記課題は、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排出するために本明細書に記載されたプロセスによって達成された。対応するプロセスは請求項1に記載されている。本発明によるプロセスの好ましい構成は、従属クレームにおいて提供される。
【0007】
したがって、本発明は、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製における低沸点物質を排出するためのプロセスを提供し、ここで、当該調製は、各々の場合、1つ以上の反応器において、1つのC8~C11のアルコール又は2つ以上のC8~C11のアルコールの1つの混合物を用いて行われる。
【0008】
ここで、当該ジアルキルテレフタレート又は当該ジアルキルフタレートの当該調製において、転化率が少なくとも90%になると、1又はそれ以上の反応器において、400~900mbarの絶対圧力範囲でわずかに減圧され、それにより、少なくとも未反応のアルコール及び反応副生成物を含む反応混合物の低沸点相が蒸留除去され、当該蒸留除去された低沸点相のうち、最初の部分は排出され、当該排出された部分の量は、当該蒸留除去された低沸点相の全量の0.05~8質量%、好ましくは0.1質量%~4質量%である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による当該プロセスの利点は、特別な調製や装置に関して特別な労力の必要がない、簡易な設計であることである。減圧後、最初に通過する部分を排出することは、既存のプラントで何ら問題なく行うことができる。そのため、反応混合物から分離した後、未反応アルコールを回収するために蒸留カラムを追加する必要がない。本発明によるプロセスでは、未反応アルコール又は未反応アルコール混合物の一部は、最初に通過する低沸点相にも存在し、明らかに同様に廃棄される。これは、副生成物濃度が高すぎる場合、追加の蒸留カラムや完全な低沸点相の廃棄に必要な装置構成を考慮する場合を考えれば、無視できるレベルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のプロセスは、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製を含む。これは、特に、テレフタル酸若しくはフタル酸若しくは無水フタル酸のエステル化、又はフタル酸ジメチル若しくはテレフタル酸ジメチルのエステル交換反応により行われる。どちらの反応も、1つのC8~C11アルコール又は2つ以上のC8~C11アルコールの混合物を用いて、対応するエステル又は混合エステルを生成する。
【0011】
テレフタル酸若しくはテレフタル酸無水物、又はフタル酸若しくはフタル酸無水物の1つのC8~C11アルコール又は2つ以上のC8~C11アルコールの混合物によるエステル化は、公知のプロセスであり、例えば、特許文献1又は2に既に記載されている。エステル化は通常、液相で行われる。当該プロセスでは、対応する酸又は対応する酸無水物を、適当な触媒の存在下で、各アルコール又は各アルコール混合物と反応させて、水を生成させる。エステル化の際に生成する水は、反応中に既に分離されていることが好ましい。反応温度は、通常、水の沸点より高いので、水又は水とアルコールの共沸混合物を蒸気の形で容易に分離することができる。好ましくは、本発明によるエステル化工程では、フタル酸又は無水フタル酸が用いられる。
【0012】
フタル酸ジメチル又はテレフタル酸ジメチルと1つのC8~C11アルコール又は2つ以上のC8~C11アルコールの混合物とのエステル交換反応も同様に公知のプロセスであり、例えば特許文献2に既に記載されている。エステル交換反応は通常、液相で行われる。当該プロセスでは、フタル酸ジメチル又はテレフタル酸ジメチルを、適当な触媒の存在下で、各アルコール又は各アルコール混合物と反応させる。これにより、フタル酸ジメチル又はテレフタル酸ジメチルのメトキシ基が、炭素数に関して用いるアルコール又はアルコール混合物のアルコールに対応するアルコキシ基で置換され、メタノールが生成される。エステル交換反応中に形成されたメタノールは、反応中に既に分離されていることが好ましい。反応温度は通常メタノールの沸点以上であるため、メタノールを蒸気の状態で容易に分離することができる。好ましくは、本発明によるエステル交換反応工程では、テレフタル酸ジメチルが用いられる。
【0013】
本発明によるエステル化又は本発明によるエステル交換反応において用いられるアルコールは、1つのC8~C11アルコール又は2つ以上のC8~C11アルコールの混合物である。具体的には、2-エチルヘキサノール、オクタノール、イソノナノール、ノナノール、イソデカノール、デカノール、2-プロピルヘプタノール、ウンデカノール、又はこれらのアルコールの2つの混合物があげられる。本発明の文脈では、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、2-プロピルヘプタノール、又はC9及びC11アルコールの混合物を用いることが好ましい。本発明によるエステル化又はエステル交換反応では、イソノナノール、2-プロピルヘプタノール又はイソデカノールを用いることが、特に好ましい。
【0014】
本発明によるエステル化又はエステル交換反応は好ましくは不連続に実施される。ここで好ましい非連続的な操作モードは、特にバッチ生産である。このようにして、反応器の容量によって制限された量が生成された後、反応を終了する。その後、反応器を空にした後、新たなバッチ生産を開始することができる。
【0015】
適当な反応器は、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの合成に用いることができる当業者に公知の反応器である。適当な反応器は、特に、蒸留カラムを含み、これを介して、生成した水又は生成したメタノール、かつ、反応後に未反応のアルコールも分離する。当該蒸留カラムは、好ましくは、本発明のプロセスの1又はそれ以上の反応器にしっかりと接続される。その後、当該反応器は、事実上、蒸留カラムの底(サンプ)に相当する。エステル化又はエステル交換反応が進行中であっても、一般的な反応温度により、水又はメタノールがすでに気相に移行し、蒸留カラムで蒸留除去される場合がある。その結果として、失われる液体の量は、用いるアルコール又は用いるアルコール混合物を供給することで補うことができる。
【0016】
C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製のための温度は、様々な要因、例えば実施される反応変種によるが、好ましくは150~260℃である。この温度範囲は、エステル化、トランスエステル化のいずれにも適している。エステル化及びエステル交換反応の際の圧力は、好ましくは、0.5~10barの絶対圧力範囲である。温度及び圧力は、好ましくは、生成した水又はメタノールが反応中でも蒸留除去できるように調整することが好ましい。
【0017】
反応の最後に、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートは、調製された化合物及び少なくとも未反応アルコール又は未反応アルコール混合物を含む中にも存在する。上記のように、エステル化又はエステル交換反応では、用いられたアルコール又はアルコール混合物よりも沸点が低い副生成物を生成することができる。最も重要な副生成物は、用いられたアルコールから水が分解して生成されるアルケンである。ここで用いられるアルコールでは、各アルケンの沸点は、アルケンを生成した各アルコールの沸点よりも常に低い。
【0018】
生成した副生成物は、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレート及び未反応のアルコールと反応溶液中に存在する。反応後、未反応のアルコールが生成した反応生成物から分離され、生成したC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートが粗生成物として残留する。したがって、生成した副生成物は、上記のように、一般に沸点が低いため、生成した反応生成物から、未反応のアルコールと共に分離される。したがって、粗生成物を生成するために分離される低沸点相は、少なくとも生成した未反応のアルコール及び副生成物を含む。
【0019】
未反応のアルコールや分離された低沸点相は、通常、その後のジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの調製に用いられるため、これらが分離されなかった場合、副生成物が蓄積されることになる。特にアルケンは反応性の高い分子であるため、蓄積され続けるとその後の生産に支障をきたすおそれがある。この場合、臭気や色調の劣化が問題となる。
【0020】
本発明による解決策は、低沸点相の一部を排出することであり、本発明の溶液を、400~900絶対mbar、好ましくは500~800絶対mbarでわずかに減圧することによって低沸点相の一部を排出する。ただし、いかなる減圧でもいいのではなく、ある閾値(この場合は反応の転化率)に達したときにのみかかる。転化率の少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、特に好ましくは少なくとも95%に到達した場合、特に当該転化率に到達してから1時間以内に、上記したように、400~900絶対mbar、好ましくは500~800絶対mbarの減圧が適用される。この目的のために反応中から転化率をモニターすることができる。あるいは、転化率ではなく、他の1つ又は複数のパラメータをモニターすることもでき、それによって、場合によっては事前に較正済みのパラメータによって、転化又はより一般的に、反応の進行について結論を導き出すことができる。例えば、反応温度又は反応混合物の温度を監視し、ある温度に達した後、必要であれば一定の時間が経過した後に減圧させることができる。また、ガスクロマトグラフィー、オンライン分析(例えば赤外分光法)、又は酸価に基づいて反応の進行状況を監視することも考えられる。また、所定の反応時間の後に、所望の減圧をかけることもできる。上記の解決策は、減圧中に反応が完全又は実質的に転化するまで継続する可能性を排除するものではないことに留意すべきである。
【0021】
所望の閾値に達するとすぐに、反応器が400~900mbarでわずかに減圧される。これは、公知の装置又は機械によって達成することができる。このような装置の例としては、反応器内で減圧するための(真空)ポンプがある。減圧時の温度は、反応温度に対応させることができる。また、転化率の閾値に達した後、一定時間経過後に減圧する場合には、反応温度よりも低温にすることもできる。
【0022】
わずかな減圧により、低沸点成分の少なくとも一部、すなわち低沸点副生成物が蒸発するものの、未反応のアルコール又は未反応のアルコール混合物の蒸発はごくわずかであり、それらは低沸点相として得られる。次に、この低沸点相を蒸留して除去する。低沸点副生成物は、通常、未反応のアルコールよりも沸点が低いため、わずかに減圧した後の低沸点相の最初の部分は、主に当該副生成物から構成される。したがって、低沸点相の最初の部分、すなわち、減圧後に最初に蒸留される低沸点相の部分は、排出されて廃棄される。低沸点相の排出量は、粗生成物の生成のために分離された蒸留された低沸点相全体の量に対して、0.05質量%~8質量%、好ましくは0.1質量%~4質量%である。また、排出の際に未反応のアルコールが失われる可能性も否定できないが、このプロセスの利点の観点から許容される。
【0023】
低沸点相のうち最初に通過する部分は、例えば適当なバルブを用いて、それほど複雑ではない装置を用いて排出することができる。その後、低沸点相の排出部分の量を適当な流量計で測定し、例えばバルブを閉じることによって、所望の量の排出を終了させることができる。排出された低沸点相は、排出後に脱水し、リサイクルしたり、熱利用したりすることができる。
【0024】
低沸点相のうち最初に通過する部分が排出された後、引き続き蒸留を行い、残りの低沸点相を留去して、粗生成物を調製する。蒸留中に通過する低沸点相は凝縮され、適当な容器に集められ、水分離器に導かれ、まだ存在する可能性のある水を分離する場合にのみ用いられる。
この時点で実質的に未反応のアルコールのみを含む液体の低沸点相を容器に貯蔵して、その後、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの調製のためのプロセスに用いることができるようにする。低沸点相の分離の際に、特に反応が完全に終了した後、減圧のため温度が下がる場合がある。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態では、低沸点相の最初の通過部分が排出された後、さらに減圧する。このようにして、未反応のアルコールが主成分となる低沸点相の分離を促進させることができる。好ましくは、30~300絶対mbar、好ましくは50~200絶対mbar絶対まで減圧する。上記の温度についても同様であり、すなわち、低沸点相を分離する場合、経時的に温度が低下することが好ましい。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態では、本発明による排出プロセスは、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジ(2-プロピルヘプチル)フタレート(DPHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジイソノニルテレフタレート(DINT)及びジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(DOTP)からなる群より選択されるジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレートの調製に用いられる。特に好ましい一実施形態では、当該プロセスは、ジイソノニルフタレート(DINP)の調製に用いられる。本発明は、フタル酸又は無水フタル酸をイソノナノール(INA)でエステル化するか、又はフタル酸ジメチルをイソノナノールでエステル交換することによる、ジイソノニルフタレート(DINP)の調製中に、1つ以上の反応器で低沸点物質を放出するプロセスを提供し、ここで、DINPの調製中に転化率が少なくとも90%になると、1又はそれ以上の反応器において、400~900mbarの絶対圧力範囲でわずかに減圧され、それにより、少なくとも未反応の前記イソノナノール及び反応副生成物を含む反応混合物の低沸点相が蒸留除去され、前記蒸留除去された低沸点相のうち、最初の部分は排出され、前記排出された部分の量は、前記蒸留除去された低沸点相の全量の0.05~8質量%、好ましくは0.1質量%~4質量%である。
【0027】
この場合の反応副生成物は、イソノナノールからの水の脱離によって生成するノネンであってよい。ノネンとイソノナノールは、十分に大きな蒸留カラムで容易に分離できるため、場合によっては、排出される低沸点相のアルコールの割合を低く抑えることができる。
【0028】
本発明のプロセスが用いられるC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートは、有利には、プラスチック又はプラスチック組成物中の可塑剤として、又は可塑剤組成物の成分として、塗料又はワニス中の添加剤、接着剤又は接着剤成分、シール化合物又は溶剤として、用いることができる。
【0029】
C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートはまた、他の可塑剤、特にいわゆる高速ゲル化剤との混合物で可塑剤として用いることができる。そのような他の可塑剤の例としては、炭素原子が8未満のアルキルラジカルを有するジアルキルテレフタレート又はジアルキルフタレート、トリアルキルトリメリテート又はグリコールベンゾエート、並びにクエン酸塩又はC8~C10のモノアルキルベンゾエートがあげられる。そして、C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートの比率は、好ましくは15~95質量%、特に好ましくは20~90質量%、さらに特に好ましくは25~85質量%であり、存在する全ての可塑剤の比率は100質量%まで加算される。C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレート、及び他の可塑剤から構成される上記組成物は、プラスチック及びプラスチック組成物、接着剤、シーラント、ワニス、塗料、プラスチックゾル、又はインクにおける可塑剤組成物として用いることができる。
【0030】
C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレートを含んでよいプラスチック組成物は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリレート、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアルキルメタクリレート(PAMA)、フッ素樹脂、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル(PVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、特にポリビニルブチラール(PVB)、ポリスチレンポリマー、特にポリスチレン(PS)、膨張性ポリスチレン(EPS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、スチレンから選択されるポリマーを含み得る。無水マレイン酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、ポリオレフィン、特にポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリエチレングリコール、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリスルフィド(PSu)、生体高分子、特にポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシル酪酸(PHB)、ポリヒドロキシル吉草酸(PHV)、ポリエステル、デンプン、セルロース及びセルロース誘導体、特にニトロセルロース(NC)、エチルセルロース(EC)、セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテート/ブチレート(CAB)、ゴム又はシリコーン、並びに上記の重合体又はそれらのモノマー単位の混合物又は共重合体があげられる。本発明による組成物は、好ましくは、PVC、又は、エチレン、プロピレン、ブタジエン、酢酸ビニル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メタクリレート、エステル基の酸素原子に結合した炭素原子が1~10個である分枝又は非分枝のアルコールのアルキルラジカルを有するアクリレートまたはメタクリレート、スチレン、アクリロニトリル、又は環状オレフィンのホモポリマー又は共重合体があげられる。
特にPVCを用いるのが好ましい。
【0031】
好ましくは、本発明によるプラスチック組成物中に存在するPVCのタイプは、懸濁PVC、バルクPVC、マイクロサスペンションPVC又はエマルションPVCである。本発明による組成物は、好ましくは、ポリマー100質量%に対して、本発明による可塑剤を5~200質量%、より好ましくは10~150質量%を含む。
【0032】
プラスチック組成物は、上記の成分に加えて、さらなる成分、特に、例えば、さらなる可塑剤、充填剤、顔料、安定剤、エポキシ化大豆油等の共安定剤、潤滑剤、発泡剤、キッカー、抗酸化剤、レオロジー添加剤、光安定剤又は殺生物剤を含んでもよい。
【0033】
C8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルテレフタレート又はC8~C11のアルキルラジカルを備えるジアルキルフタレート及び上記のポリマー材料からなる本発明によるプラスチック組成物は、プラスチック組成物、接着剤、シーラント、ラッカー、塗料、プラスチゾル、人工皮革、床材、床下保護材、布地コーティング、屋根用膜、壁紙又はインクとして、又はそれらの製造のために用いることができる。
【0034】
可塑剤組成物を用いて製造されるプラスチック製品としては、例えば、プロファイル、ガスケット、食品包装、フィルム、玩具、屋根用膜、人工皮革、床材、床下保護材、布地コーティング、屋根用膜、壁紙、ケーブル、及び電線被覆材があげられる。このグループの好ましい用途は、食品包装、玩具、医療用品、壁紙、屋根用膜、布地コーティング及び床材である。
【外国語明細書】