(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183085
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/42 20060101AFI20221201BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20221201BHJP
H01J 37/20 20060101ALN20221201BHJP
【FI】
G01N1/42
G01N1/28 F
H01J37/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085081
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】2028288
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(71)【出願人】
【識別番号】522206869
【氏名又は名称】ボルマンズ べヒール べー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Bormans Beheer B.V.
【住所又は居所原語表記】Sperwerlaan 15, 5613 ED Eindhoven, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボルマンズ バナーダス ヤコーブス マリー
(72)【発明者】
【氏名】マークス ローナルド アルトゥール
【テーマコード(参考)】
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AD32
2G052AD52
2G052EB08
2G052EB13
2G052GA33
2G052HC28
5C101AA04
5C101FF03
5C101FF05
5C101FF12
5C101FF16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する。
【解決手段】以下のステップを備える。a.2つの側面を有する平らなサンプルキャリア(以下キャリアと略す)の少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域にサンプル材料を適用するステップ。b.サンプル材料におけるすべての領域が極低温液体の表面下に位置するまで、サンプル材料を有するキャリアを、極低温液体を有する容器に鉛直に部分的に沈めるステップ。c.極低温液体の表面またはその直下のレベルから、極低温液体の少なくとも1つの流れを、容器内の極低温液体の表面またはその直下のキャリアの各側面におけるサンプル材料に向けることで、サンプル材料をガラス化するステップ。d.キャリアを136K以下の温度まで冷却するために、ガラス化されたサンプル材料を有するキャリアを、極低温液体に完全に沈めるステップ。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する方法であって、
a.2つの側面を有する平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域にサンプル材料を適用するステップと、
b.前記サンプル材料におけるすべての領域が極低温液体の表面下に位置するまで、前記サンプル材料を有する前記平らなサンプルキャリアを、前記極低温液体を有する容器に鉛直に部分的に沈めるステップと、
c.前記極低温液体の前記表面のレベルまたはその直下のレベルから、極低温液体の少なくとも1つの流れを、前記容器内の前記極低温液体の前記表面またはその直下の前記平らなサンプルキャリアの各側面における前記サンプル材料に向けることによって、前記サンプル材料をガラス化するステップと、
d.前記平らなサンプルキャリアを136K以下の温度まで冷却するために、前記ガラス化されたサンプル材料を有する前記平らなサンプルキャリアを、前記極低温液体に完全に沈めるステップと
を備える方法。
【請求項2】
少なくとも2つのノズルが、前記容器内の前記極低温液体の前記表面、または、前記容器内の前記極低温液体の前記表面から最大で10mm下に設けられ、
前記ノズルは、互いに反対側に配置され、
前記ノズルを出た極低温液体の前記流れは、前記平らなサンプルキャリアの各側面における前記サンプル材料に向けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2つのノズルが、互いに向き合って前記容器内に設けられ、
前記平らなサンプルキャリアは、前記ノズルの間に配置され、
前記ノズルを出た極低温液体の前記流れは、それぞれ、前記平らなサンプルキャリアの1つの側面における前記サンプル材料に向けられ、
各ノズルと前記平らなサンプルキャリアとの距離が、最大で5mmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1のノズルと前記平らなサンプルキャリアとの距離、および、第2のノズルと前記平らなサンプルキャリアとの距離の差が、0.1mm以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域への前記サンプル材料の適用の完了と、ガラス化との間の時間が、1秒未満、好ましくは100ms未満、より好ましくは10ms未満である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
極低温液体の少なくとも1つの流れの速度が、1~20m/sの範囲、好ましくは2~10m/sの範囲である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記流れの組み合わされた全体の流量が、10mL/min~2L/minの間にあり、好ましくは100mL/min~1L/minの間にある、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプル材料を適用する前に、前記平らなサンプルキャリアがプラズマに曝される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記平らなサンプルキャリアに前記サンプル材料を適用する少なくとも前に、前記平らなサンプルキャリアの温度が、前記平らなサンプルキャリアを囲んでいる気体の露点以上の温度に調整される、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルは、前記平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域にピンによって適用され、
前記ピンと前記平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域との間に水中でサンプル材料の毛細管橋が形成されるように、前記平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域に近接して前記ピンが位置する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域に、水中でサンプル材料の膜が10~2000nmの厚さで形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップの1つ以上、好ましくは前記ステップの全てが、密閉されたチャンバで実行される、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する装置であって、
2つの側面を有する平らなサンプルキャリアと、
前記サンプルキャリアを保持するためのグリッパを有する鉛直可動アームと、
前記グリッパ内の前記平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域にサンプル材料を適用する適用器と、
極低温液体および少なくとも2つのノズルを有する容器と
を備え、
前記平らなサンプルキャリアの前記サンプル材料をガラス化するために、前記鉛直可動アームによって前記容器内の前記極低温液体の表面またはその直下に位置する時に、少なくとも前記2つのノズルは、前記極低温液体の表面のレベルまたはその直下のレベルから、前記グリッパ内の前記平らなサンプルキャリアの各側面に極低温液体を流すものである、装置。
【請求項14】
2つのノズルが、互いに向き合って前記容器内に設けられ、
前記グリッパ内の前記平らなサンプルキャリアは、前記鉛直可動アームによって前記ノズルの間に位置決めされ、
各ノズルと前記平らなサンプルキャリアの1つの側面との距離が、最大で5mmである、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
第1のノズルと前記平らなサンプルキャリアの一方の側面との距離、および、第2のノズルと前記平らなサンプルキャリアの他方の側面との距離の差が、0.1mm以下である、請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
前記鉛直可動アームは、前記平らなサンプルキャリアを136K以下の温度まで冷却するために、前記サンプル材料のガラス化の後に、前記サンプルキャリアが前記極低温液体に完全に沈められるまで、前記平らなサンプルキャリアを保持している前記グリッパを鉛直に位置決めする、請求項13乃至15のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サンプルは、透過型電子顕微鏡(TEM)におけるイメージングまたは回折実験中の高分子化合物の(単一)粒子群であり得る。回折実験は、例えば、極低温条件下での単色荷電粒子または電離放射線による検査である。
【0003】
サンプルは、3つのステップを備える方法によって調製されることができる。第1のステップでは、サンプル材料を水に溶解して水溶液または分散液を形成する。第2のステップでは、サンプル材料を含む水溶液または分散液をTEMサンプルキャリアに適用する。TEMサンプルキャリアは、支持体、特に、薄箔で覆われたグリッドを備える。第2のステップの後、サンプルキャリアは、支持体の薄箔上において、サンプル材料を含む水溶液または分散液の薄膜における1つまたは複数の領域を有する。第3のステップでは、サンプル材料を含む水溶液または分散液の領域がガラス化される。ガラス化は、極低温液体を有する容器にサンプルキャリアを(部分的に)沈める、または、極低温液体の「噴霧」によってサンプル材料を急冷することで実行される。
【0004】
サンプルキャリアは、通常、標準的なTEMグリッド、すなわち直径約3.05mm、厚さ30μmの銅製支持グリッドからなるが、異なるタイプ(構造および寸法)であってもよい。サンプルキャリアは、グリッドのメッシュ間を埋めるために、通常、TEMの電子ビームを透過するカーボン(または他の材料)の薄箔をさらに有する。
【0005】
透過型電子顕微鏡では、サンプル材料は、超高真空の環境で電子ビームの使用により検査される。TEMは、電子ビームを発生させる電子源を備える。通常、電子ビームのエネルギーは、60~300keVの間である。そのビームは、サンプルを照射するように、偏向器およびレンズで操作される。サンプルは、通常、生体材料または半導体材料などの薄いサンプルであり、電子線を透過させる程度に厚さが十分に小さい。そのために、例えば、使用される厚さは、30nm(半導体材料または金属サンプル材料など多くの高Z原子を有するサンプル)~200nm(生体サンプル材料)であることが一般的だが、例えば1μmの厚さのサンプルが使用されてもよい。
【0006】
ビームは、サンプルを通過する際に、サンプルと互いに影響を与え合う。ある電子は妨害されずにサンプルを通過し、ある電子はX線量子を発生しながらサンプルで散乱され、ある電子はサンプルに吸収される。サンプルを通過した電子は、例えば、蛍光スクリーンなどのセンサー上に画像(プロジェクターレンズシステムによって拡大される)を形成するために使用される。蛍光スクリーンは、CCDセンサーまたはCMOSセンサーを使用したカメラシステムの一部でもよい。しかしながら、CMOSセンサーまたはCCDセンサー上に直接画像を形成することも知られている。そのようなセンサーは、通常、4000×4000ピクセルの画像を形成することが可能である。また、結晶学的情報を与える回折パターン、または、サンプル材料の電子エネルギー損失スペクトル若しくはエネルギー分散型X線マップの形成など、情報を得るための他の方法も知られている。
【0007】
生体サンプルを電子線で検査する場合、検査中にダメージが発生する。このダメージは、サンプル材料のおける局所的な加熱および化学結合の損傷によって引き起こされる。このダメージの影響は、室温よりも極低温の方がはるかに小さい。したがって、生物サンプル材料は、極低温で観察され得るクライオTEM(極低温透過型電子顕微鏡)で検査されることが好ましい。この明細書での極低温とは、非晶質氷が安定する氷のガラス転移温度以下の温度、つまり136K以下の温度である。この温度でなければ、形成された氷の結晶が生体細胞または組織にダメージを与えてしまう。また、サンプルをガラス化する過程は、TEMサンプルチャンバーの真空内に置かれた時に、「湿った」生体サンプル材料の脱水を防ぐ。
【0008】
液体窒素または液体ヘリウムのサンプル温度で使用するクライオ顕微鏡は、市販されていることが知られている。検査前のサンプル材料にダメージを与えないためには、生体細胞または組織内での氷の結晶化を避けなければならない。これは、サンプル材料を136K以下の温度まで極めて速く凍結させ、結晶性の氷の代わりにガラス化した氷(アモルファス氷とも称される)を形成することで実現される。
【0009】
電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプル材料を調製するいくつかの方法は、本技術分野で知られている。
【0010】
極低温でサンプル材料を調製するための第1のアプローチは、サンプル材料の適用後にサンプルキャリアを極低温液体にプランジングすることである。
【0011】
特許文献1(欧州特許出願公開第2381236号明細書)は、試料キャリア上のクライオTEM試料を調製する装置に関する。この装置は、プランジャーと、ブロッターと、極低温液体を保持するための容器とを備える。プランジャーは、試料キャリアを適用器の位置まで動かす。適用器の位置では、液体が適用(アプライング)され、試料キャリアが拭われ(ブロッティング)、試料キャリアが極低温液体にプランジングされる。装置は、それが示す、第1適用器を備えることを特徴とする。第1適用器は、第1保管カプセルを保持する。第1保管カプセルは、1つ以上の試料キャリアを保管するために設けられたものである。プランジャーには、試料キャリアを把持するためのグリッパが設けられている。装置は、第2適用器を備える。第2適用器は、第2保管カプセルを保持する。第2保管カプセルは、極低温で1つ以上の試料キャリアを保管する。装置は、第1保管カプセルから、適用器の位置およびブロッティングの位置を介して、第2保管カプセルまで、試料キャリアを自動的に動かすように構成されている。
【0012】
非特許文献1(Kasasらによる著作)には、サンプルグリッドのプランジ冷凍によるサンプルのガラス化の機構に関する詳細な分析が記載されている。
【0013】
非特許文献1は、特許文献2(米国特許第9865428号明細書)の第3欄に記載されている。
【0014】
先行技術を説明する
図1Bに、極低温液体へのサンプルのプランジングが示されている。特許文献2の
図1Bによれば、サンプルSは、「水平プランジング」技術の代わりに「鉛直プランジング」技術(特許文献2の
図1Aを参照)を用いてガラス化される。鉛直プランジングは、サンプルSが「フェイスオン」(特許文献2の第9欄を参照)ではなく「リニア」(鉛直方向)に冷却されるため、不満足な結果をもたらすと考えられている。鉛直プランジングでは、サンプルキャリアがプランジングされた時に、極低温液体の表面下でサンプルキャリアの平らな両側面の隣に隙間が形成されるので、極低温液体とサンプルとが直接接触することはない。このため、サンプルキャリア上のサンプルは、グリッドを周囲から中心に向かって冷却されることによって、間接的に冷却される。これは、非特許文献1の
図7で示されている。この方法では、ガラス層に氷の結晶が形成される。これらの氷の結晶は、サンプルにダメージを与え得る。
【0015】
特許文献2(米国特許第9865428号明細書)の
図2Aに示すサンプルは、「水平プランジング」の結果であり、クライオTEMを用いて比較的低倍率で撮影した場合、ほぼ均質で非特徴的な画像を示さない。その代わりに、まだらな暗い点のドットのような特徴がある。これらは、プランジング中に、上方に向く(極低温の表面から離れた)フィルムの側面に形成された表面的な氷の島である。これらの特徴があると、検査での視線が共通するサンプルの研究を妨げ、さらに、サンプルを研究するために使用される荷電粒子ビームに不要な散乱効果を生じさせる。
【0016】
極低温でサンプル材料を調製するための第2のアプローチは、サンプル材料をサンプルキャリアに適用した後、極低温液体を「噴霧」することによってサンプル材料を急速に冷却することである。
【0017】
特許文献2(米国特許第9865428号明細書)は、荷電粒子顕微鏡で研究するためのサンプルを調製する方法を開示している。それによって、サンプルは、極低温剤を用いて急速に冷却される。当該方法は、
極低温液体を送るための2つの導管を提供し、これらの導管のそれぞれはマウスピースに開口し、これらのマウスピースは隙間を介して互いに向き合うステップと、
前記隙間にサンプルを入れるステップと、
前記導管経由で極低温流体をポンプで送ってマウスピースから同時に流れるようにし、それによって2つの反対側から極低温流体にサンプルを一気に浸すステップと
を備える。
【0018】
特許文献2(米国特許第9865428号明細書)による「噴霧」方法の欠点は、極低温流体による冷却開始時のサンプルの環境が、相当な量の湿度を必要とする空気であることである。相当な量の湿度は、薄い水性サンプル層の蒸発を防ぐ。湿度の高いこの空気は、サンプルおよびサンプルキャリアとともに冷却され、ガラス化されたサンプルにある程度の結晶性の氷を付着させることになる。前述の通り、高品質のクライオ電子顕微鏡のサンプルを製造するためには、氷の結晶を避けなければならない。
【0019】
特許文献3(欧州特許第3475681号明細書)が開示するのは、極低温条件下でのイメージングまたは回折実験のためのサンプルを調製する方法および装置であって、
支持体上のフィルム、特に、支持体上のフィルムを有するグリッドなど、サンプルキャリアに、サンプルを適用するステップと、
支持体上のフィルム上でインキュベートされたサンプルから残留媒体(通常は液体)を取り除くステップと、
キャリア上のサンプルをガラス化するステップと
を備える。
サンプル上またはフィルムの中心に液体冷却剤を直接噴射することにより、5ms未満でサンプルがガラス化される。サンプルをガラス化した後、ガラス化されたサンプルの再加熱を防ぐために、サンプルキャリアの全体を極低温まで冷却する。次に、サンプルおよびキャリアは、イメージングの時まで極低温流体の中に保管される。
【0020】
特許文献3(欧州特許第3475681号明細書)によるサンプルの冷却速度はガラス化された氷を生成するのに十分な速さであるが、この方法の欠点は、サンプルの全体およびサンプルホルダー(サンプルキャリア)が瞬時に冷却されないことである。液体冷却剤の噴射を開始してから、サンプルキャリアの全体が極低温になるまでの200~300msの間に、サンプルの部分的な融解が起こるかもしれない。これは、サンプルの高分子化合物にダメージを与えるかもしれない結晶性の氷が、ガラス層中に生成し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2381236号明細書
【特許文献2】米国特許第9865428号明細書
【特許文献3】欧州特許第3475681号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】S. Kasas et al. "Vitrification of cryoelectron microscopy specimens revealed by high-speed photographic imaging", Journal of Microscopy, Vol. 211, Issue 1, 2003年7月, pp.48-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明による方法の発明者らは、先行技術に記載された方法が、電子顕微鏡用途のためのガラス化されたサンプル材料の調製において、満足のいく結果を示さないことを見出した。特に、ガラスサンプル層に結晶質の氷が含まれることは、生物学的構造にダメージを与える。さらに、氷の結晶は、電子ビームを散乱させ、イメージの質を著しく低下させる。
【0024】
本発明の目的は、前述の欠点を示さない、電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この目的のために、本発明による方法は、以下のステップを含むことを特徴とする。
a.2つの側面を有する平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの側面の少なくとも1つの領域にサンプル材料を適用するステップ。
b.サンプル材料におけるすべての領域が極低温液体の表面下に位置するまで、サンプル材料を有する平らなサンプルキャリアを、極低温液体を有する容器に鉛直に部分的に沈めるステップ。
c.極低温液体の表面のレベルまたはその直下のレベルから、極低温液体の少なくとも1つの流れを、容器内の極低温液体の表面またはその直下の平らなサンプルキャリアの各側面におけるサンプル材料に向けることによって、サンプル材料をガラス化するステップ。
d.平らなサンプルキャリアを136K以下の温度まで冷却するために、ガラス化されたサンプル材料を有する平らなサンプルキャリアを、極低温液体に完全に沈めるステップ。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る方法は、極低温液体の流れが、湿った空気をサンプル材料の環境から「押し出し」、極低温液体で置き換えるという利点を有する。
【0027】
さらなる利点は、サンプル材料をガラス化し、サンプルキャリアを冷却するために必要な時間が、先行技術に記載された方法と比較して短いことである。この短い時間により、ガラス層に形成され得る結晶質の氷の量が減少する。その結果、クライオ電子顕微鏡の画像における元のサンプル材料のより良い表像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】特許文献2(米国特許第9865428号明細書)に記載された先行技術による平らなサンプルキャリアの水平方向のプランジングを示す図である。
【
図1B】特許文献2(米国特許第9865428号明細書)に記載された先行技術による平らなサンプルキャリアの鉛直方向のプランジングを示す図である。
【
図2A】平らなサンプルキャリアのプランジング前の本発明に係る装置である。
【
図2B】平らなサンプルキャリアのプランジング中の本発明に係る装置である。
【
図2C】平らなサンプルキャリアのプランジング後の本発明に係る装置である。
【
図3A】平らなサンプルキャリアのプランジング前の本発明に係る第2の装置である。
【
図3B】平らなサンプルキャリアのプランジング中の本発明に係る第2の装置である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る方法は、電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する方法である。
【0030】
サンプル材料は、高分子化合物の(単一)粒子群であり得る。透過型電子顕微鏡でのイメージングまたは回折実験のために、サンプル材料は、2つの相当な側面を有する平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域にサンプル材料を適用される。本明細書において、適用とは、アプライ(apply)であり、塗布も含む。付着とは、デポジット(deposit)であり、置くことも含む。サンプル材料は、例えば、タンパク質、ウイルス、細胞、細胞成分、単細胞生物、細菌、ナノ粒子および結晶などの生物サンプルとすることができる。
【0031】
ガラス化の前に、サンプル材料は、2つの相当な側面を有する平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域に、薄い水性層として適用される。
【0032】
サンプル材料は、平らなサンプルキャリア上に適用される。「平らな」という用語は、サンプルキャリアが薄い形状を有することを意味する。2つの次元では、サンプルキャリアはどんな形状でもよく、例えば、長方形、三角形、円形である。しかしながら、第3の次元は、他の2つの次元よりもはるかに小さいサイズである。
【0033】
平らなサンプルキャリアは、2つの相当な側面を有する。その1つまたは2つの相当な側面の少なくとも1つの領域に、サンプルが適用され得る。
【0034】
平らなサンプルキャリアは、特に、メッシュ間に薄箔を有するグリッドである。グリッドは、通常、標準的なTEMグリッド、すなわち直径約3.05mm、厚さ30μmの銅製支持グリッドからなるが、異なるタイプ(構造および寸法)であってもよい。メッシュ間の薄箔は、グリッドとは対照的に、TEMの電子ビームを透過させる。薄箔は、例えば、カーボン箔、フォルムバール(Formvar)箔、または、フォルムバール(Formvar)箔とカーボン若しくは一酸化ケイ素との組み合わせである。AutoGrid(登録商標)と呼ばれる特定の実施形態では、グリッドとサンプル材料に損傷を与えることなく、自動グリッパによるサンプルの移送を容易にするために、3mmの銅グリッドの周りに頑丈なリングが追加される。
【0035】
特許文献3(欧州特許第3475681号明細書)では、サンプル粒子を水溶液または分散液に含ませ、その溶液または分散液を薄箔に滴下することによって、サンプル材料を平らなサンプルキャリアに適用する方法が説明されている。実施形態において、サンプル材料は、毛細管またはピンの使用によって、サンプルキャリアに適用、例えば印刷される。この方法は、ピン印刷と呼ばれ、他の公知のサンプルを付着する方法と比較して、キャリア表面上のサンプル材料の位置と、サンプル材料を含む水性層の幅および厚さとの両方を制御できるという利点がある。ピン印刷の時に、サンプル材料は、平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域に、適用器(例えば、固体ピン)によって適用される。ピンと平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域との間に、水中でサンプル材料の毛細管橋が作られるように、適用器は、平らなサンプルキャリアの領域に近接して位置する。厚さが10~2000nm、好ましくは30~200nmのサンプル材料の膜を水中で形成するために、適用器は、平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域の上を移動する。
【0036】
実施形態において、ピンまたは毛細管に水中のサンプル材料を供給するために、容器、例えばピペットが提供される。例えば、液滴またはメニスカスが容器から一時的に排出され、液滴またはメニスカスから、水中のサンプル材料がピンまたは毛細管によって取られる。十分な水中のサンプル材料が平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域に適用されるまで、1度または繰り返し、液滴またはメニスカスが容器に引き出される。水中のサンプル材料を有する容器は、将来の使用のために保管され得る。
【0037】
水中のサンプル材料は、好ましくはピン印刷によって適用される。なぜなら、ピン印刷は、平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域に、サブナノリットルの量のみの水中のサンプル材料を付着させることによって、サンプルの無駄を減らすからである。好ましくは、ガラス化される水中のサンプル材料の量のみが、平らなサンプルキャリアの特定の領域に付着する。このため、余剰な水中のサンプル材料をブロッティング(blotting)する必要がない。これは、水中のサンプル材料を付着させてからガラス化までの間に、水中のサンプル材料における層の厚さの管理を大幅に向上させる。
【0038】
代替的に、平らなサンプルキャリアは、MEMS技術(例えば、欧州特許第1803141号明細書を参照)の使用によって、半導体材料(例えば、Si、SiO2、SiNなど)から作られ得る。MEMS技術によって作られた平らなサンプルキャリアは、例えば、5×10mmの正方形であり、10~50nmの厚さの窓を含んでいる。MEMS技術は、懸濁された膜(suspended membrane)に温度センサーを組み込むことができる。
【0039】
サンプル材料を有する水溶液または懸濁液は、サンプルキャリアのメッシュ間の薄箔(グリッドの場合)または窓(半導体キャリアの場合)に、10~2000nm、好ましくは30~200nmの厚さの層で適用される。
【0040】
平らなサンプルキャリアは、少なくとも1つの相当な側面に、いくつかのサンプル材料を含むことができる。ピン印刷によって平らなサンプルキャリアに適用される時、異なるタイプのサンプル材料を有する水中の溶液の複数のパターンが、付着され得る。
【0041】
実施形態において、サンプル材料を適用する前に、平らなサンプルキャリアがプラズマに曝される。プラズマは、平らなサンプルキャリアを放電させて、平らなサンプルキャリアを親水性にし、その結果、平らなサンプルキャリアへのサンプル材料の実質的に均一な適用を容易にする。放電の代わりに、または放電に加えて、プラズマは平らなサンプルキャリアをクリーンにする。平らなサンプルキャリアにサンプル材料を適用する直前、例えば15分未満前に、好ましくは10分未満前に、平らなサンプルキャリアにプラズマを作用させることが好ましい。
【0042】
別の実施形態において、前段落で説明したプラズマを発生させるのに必要な電極の一方または両方を使用してもよく、高い直流電圧差が、一方として毛細管またはピンに、他方として平らなサンプルキャリアに印加される。これによって、平らなサンプルキャリアに向けてサンプル材料を噴霧する電界が作られる。
【0043】
別の実施形態において、平らなサンプルキャリアへのサンプル材料の少なくとも適用前に、好ましくは適用中および適用後に、平らなサンプルキャリアの温度は、平らなサンプルキャリアを囲んでいる気体の露点温度付近または露点温度以上、好ましくは10分の1度以上、例えば0.1から1.0度の範囲で、平らなサンプルキャリアを囲んでいる気体の露点温度以下またはそれ以上に調整される。一例として、露点温度は、平らなサンプルキャリアを囲んでいる気体の温度および湿度の測定値から算出される。平らなサンプルキャリアの温度も測定される。例えば、平らなサンプルキャリアに熱的に接触するペルチェ素子を制御するために、これら3つの測定値は、閉じたフィードバックループで使用される。したがって、水の交換、特に、サンプル材料と囲んでいる気体との間の蒸発が抑制または理想的には防止され、再現性が向上する。
【0044】
さらなる実施形態において、前記ステップの1つ以上、好ましくは全てのステップが、密閉されたチャンバで実行される。チャンバは、温度および湿度を制御するものであることが好ましい。
【0045】
サンプルを調製する過程でのステップbによれば、サンプル材料を有する平らなサンプルキャリアは、サンプル材料におけるすべての領域が極低温液体の表面下に位置するまで、極低温液体を有する容器に鉛直に部分的に沈められる。
【0046】
サンプルを調製する過程でのステップcによれば、極低温液体の表面のレベルまたはその直下のレベルから、極低温液体の少なくとも1つの流れを、容器内の極低温液体の表面またはその直下の平らなサンプルキャリアの相当な各側面におけるサンプル材料に向けることによって、サンプル材料はガラス化される。これは、水中のサンプル材料の膜をガラス化するのに必要な時間だけ少なくとも行われる。
【0047】
極低温液体の少なくとも1つの流れは、平らなサンプルキャリアの相当な各側面のサンプル材料に向けられる。このようにして、平らなサンプルキャリア上のサンプル材料は、より速くガラス化される。
【0048】
サンプルを調製する過程での最後のステップdによれば、136K以下の温度に平らなサンプルキャリアを冷却するために、ガラス化されたサンプル材料を有する平らなサンプルキャリアは、極低温液体に完全に沈められる。
【0049】
極低温液体は、136K以下の温度である極低温の液体である。
【0050】
極低温液体は、好ましくは4~150Kの範囲、好ましくは50~135Kの範囲、より好ましくは90~125Kの範囲の温度を有する。極低温液体は、例えば、液体エタン、プロパン、ヘリウム、酸素、窒素およびこれらの混合物であり得る。最も好ましくは、極低温液体は、液体エタンである。液体エタンは、99Kの温度を有することができ、最高の冷却速度を与える[Ravelli, R.B.G. et al. Automated cryo-EM sample preparation by pin-printing and jet vitrification
http://dx.doi.org/10.1101/651208 (2019)]。
【0051】
サンプル材料および平らなサンプルキャリアからの熱伝達のために、極低温液体が蒸発し始める可能性があるので、極低温液体は気相または蒸気相の量の極低温液体を含み得る。
【0052】
図2A~
図2Cに示す方法に従って、サンプル材料を有する平らなサンプルキャリアを鉛直の位置に沈めていく。ステップbに従って、サンプル材料のすべての領域が極低温液体の表面下に位置するまで、平らなサンプルキャリアは、容器内の極低温液体の表面下までもたらされる。ステップcに従って、極低温液体の表面のレベルまたはその直下のレベルから、極低温液体の少なくとも1つの流れを、容器内の極低温液体の表面またはその直下の平らなサンプルキャリア上のサンプル材料の相当な各側面に向けることによって、サンプル材料はガラス化される。
【0053】
好ましくは、平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域へのサンプル材料の適用の完了と、ガラス化との間の時間は、1秒未満、好ましくは100ms未満、より好ましくは10ms未満である。本発明によれば、容器内の極低温液体の表面またはその直下で平らなサンプルキャリアの相当な各側面のサンプル材料に極低温液体の少なくとも1つの流れが向けられるので、サンプル材料は急速にガラス化される。
【0054】
この理論に束縛されることなく、本発明者らによると、プランジ凍結法の冷却速度を制限してしまう問題は、平らなサンプルキャリアを極低温液体に沈めた後に、平らなサンプルキャリアの両側面に蒸気層が直接形成されることである。前記非特許文献1(Kasasらの著作)の
図7dおよび
図7fを参照されたい。この気体層は、平らなサンプルキャリア上のサンプル材料と極低温液体との間の断熱材となるので、サンプル材料の冷却速度が制限されてしまう。この気体の大部分は、沸点のちょうど上の温度の極低温液体からの蒸気である。加えて、サンプル付着チャンバ(露点温度)から平らなサンプルキャリアとともに、極低温液体を有する容器に移動した水蒸気もある。沸点のちょうど上の温度の極低温液体からの蒸気と、水蒸気とが混合すれば、サンプル材料に氷の結晶ができやすくなる。このため、サンプル材料にガラス質の氷のみを形成するために、沈んでいる平らなサンプルキャリアから混合の蒸気をできるだけ早く除去することが重要である。
【0055】
サンプル材料と極低温液体との間の極低温液体の蒸気層/水蒸気層を迅速に除去するために、本発明による方法は、この層における(水)分子の上方向の速度を加速させるために、沈んでいる平らなサンプルキャリアの周囲の極低温液体に対する局所圧力を増大させる。この目的のために、好ましくは、2つのノズルが、多くの極低温液体を有する容器の内側に、極低温液体の表面またはその直下に設置される(
図2Aを参照)。当該ノズルを介して、極低温液体の流れが平らなサンプルキャリア上のサンプル材料に向けられることになる。これにより、平らなサンプルキャリアが液体に沈められた瞬間に、平らなサンプルキャリア上のサンプル材料の周囲に発生した蒸気層が除去される(
図2Bを参照)。極低温液体の流れは、平らなサンプルキャリアを部分的に沈める際に、平らなサンプルキャリアが極低温液体の表面に衝突する瞬間から始まる非常に短い時間(<1秒)だけにする必要がある。
【0056】
好ましくは、少なくとも2つのノズルが、容器内の極低温液体の表面、または、容器内の極低温液体の表面から最大で10mm下に設けられる。ノズルは、互いに反対側に配置される。ノズルを出た極低温液体の流れは、平らなサンプルキャリアの相当な各側面におけるサンプル材料に向けられる。
【0057】
より好ましくは、ノズルは、極低温液体の表面、または、極低温液体の表面から最大で8mm下に配置され、最も好ましくは、極低温液体の表面、または、極低温液体の表面から最大で5mm下に配置される。
【0058】
好ましくは、少なくとも2つのノズルが、互いに向き合って容器内に設けられ、平らなサンプルキャリアはノズルの間に置かれ、ノズルを出た極低温液体の流れは、それぞれ、平らなサンプルキャリアの1つの側面におけるサンプル材料に向けられ、各ノズルと平らなサンプルキャリアとの距離が、最大で5mmである。各ノズルと平らなサンプルキャリアとの間の距離は、より好ましくて最大で2mmであり、最も好ましくて最大で1mmである。
【0059】
好ましくは、第1のノズルと平らなサンプルキャリアとの距離、および、第2のノズルと平らなサンプルキャリアとの距離は、ほぼ等しい。より好ましくは、第1のノズルと平らなサンプルキャリアとの距離、および、第2のノズルと平らなサンプルキャリアとの距離の差が、0.1mm以下である。
【0060】
好ましくは、極低温液体の少なくとも1つの流れの速度が、1~20m/sの範囲、好ましくは2~10m/sの範囲である
【0061】
好ましくは、流れの組み合わされた全体の流量が、10mL/min~2L/minの間にあり、より好ましくは100mL/min~1L/minの間にある。
【0062】
本発明は、また、電子顕微鏡における極低温条件下でのイメージングまたは極低温条件下での回折実験のためのサンプルを調製する装置であって、
2つの相当な側面を有する平らなサンプルキャリアと、
サンプルキャリアを保持するためのグリッパを有する鉛直可動アームと、
グリッパ内の平らなサンプルキャリアの少なくとも1つの相当な側面の少なくとも1つの領域にサンプル材料を適用する適用器と、
極低温液体および少なくとも2つのノズルを有する容器と
を備え、
平らなサンプルキャリアのサンプル材料をガラス化するために、鉛直可動アームによって容器内の極低温液体の表面またはその直下に位置する時に、少なくとも2つのノズルは、極低温液体の表面のレベルまたはその直下のレベルから、グリッパ内の平らなサンプルキャリアの各側面に極低温液体を流すものである。
【0063】
実施形態において、第1のノズルと平らなサンプルキャリアとの距離、および、第2のノズルと平らなサンプルキャリアとの距離の差が、0.1mm以下である。
【0064】
装置の実施形態において、2つのノズルが、互いに向き合って容器内に設けられ、グリッパ内の平らなサンプルキャリアは、鉛直可動アームによってノズルの間に位置決めされ、各ノズルと平らなサンプルキャリアの1つの相当な側面との距離が、最大で5mmである。
【0065】
装置の実施形態において、第1のノズルと平らなサンプルキャリアの一方の相当な側面との距離、および、第2のノズルと平らなサンプルキャリアの他方の相当な側面との距離の差が、0.1mm以下である。
【0066】
装置のさらなる実施形態において、可動アームは、平らなサンプルキャリアを136K以下の温度まで冷却するために、サンプル材料のガラス化の後に、サンプルキャリアが極低温液体中に完全に沈められるまで、平らなサンプルキャリアを保持しているグリッパを鉛直に位置決めする。
【0067】
本発明は、以下の図および実施例によってさらに説明される。以下の実施例は、例示的かつ説明的な性質のものであり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者には、自明であるか否かを問わず、本請求項によって定義される保護範囲内に入る多くの変形が考えられることは明らかであろう。
【実施例0068】
クライオ電子顕微鏡におけるサンプルを調製する方法は、次の文献に見られ得る。
【0069】
Passmore, L.A. & Russo, C.J. Sample Preparation for High-Resolution Cryo-EM. MethodsEnzymol 579, 51-86 (2016)
【0070】
これは、市販のVitrobot(登録商標)のプランジャー(FEI,現Thermo Fisher Scientific)を使用する標準的なガラス化の手順(Protocol 9,p.77-79)を含む。
[比較例A]
【0071】
【0072】
図1Aは、平らなサンプルキャリアSのサンプル材料を極低温にプランジ冷却する、より具体的には、前述した「水平プランジング」技術を使用するための先行技術に係る装置1の態様の概略正面図である。サンプルキャリアSは、通常(必ずしもそうではないが)、特許文献2(米国特許第9865428号)の
図1Dにさらに詳細に示されているようなタイプの複合構造を有する。以下の説明では、直交座標系XYZが使用される。示された装置1は、平らなサンプルキャリアSを端またはその近くで把持するために使用されて、平らなサンプルキャリアSを実質的に水平方向(XY平面に平行)に保持する、鉛直可動アーム3を備える。この鉛直可動アーム3は、平らなサンプルキャリアSを把持するグリッパ3aを有する。当該把持には、例えば、ピンセットの動作が使用される。所望により、平らなサンプルキャリアSは、グリッパ3aによってより容易に把持されるようにする小さな突出ラグ(lug;不図示)を有していてもよい。
【0073】
極低温剤7の上面9(比較的小さなメニスカス効果は別として、実質的に水平である)が露出するように、容器5(デュワー瓶など)は極低温剤7を少なくとも部分的に満たし得る。
【0074】
平らなサンプルキャリアSの前面Sfが下方向(Z方向に平行)を指しながら、鉛直可動アーム(のグリッパ3a)中/上の平らなサンプルキャリアSが極低温表面9の下にプランジングされるように、アーム3を容器5内まで動かすために、落下機構11a,11bが使用され得る。ここに示されているように、落下機構11a,11bは、Z方向に平行に、ロッド11bに沿って鉛直に上下(11cの両矢印で示される)し得るスライダ11aを備える。プランジングの時にスライダ11aの下方向の動作は、例えば、自由落下式、カタパルト式または電動式でもよい。示された機構の代替として、平らなサンプルキャリアSを極低温表面9の下に手動で浸すだけでもよい。
[比較例B]
【0075】
【0076】
図1Bによると、平らなサンプルキャリアSは、
図1Aについて前述したような「水平プランジング」技術の代わりに、「垂直プランジング」技術を使用してガラス化される。
図1Aで説明した方法は、プランジング技術を除いて踏襲されている。